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特開2024-20609時計、計器、機械式ムーブメント、機械式ムーブメントまたは計器用の金属シャフト及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020609
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】時計、計器、機械式ムーブメント、機械式ムーブメントまたは計器用の金属シャフト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G04B 17/06 20060101AFI20240206BHJP
   G04B 15/14 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
G04B17/06 Z
G04B15/14 A
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023204552
(22)【出願日】2023-12-04
(62)【分割の表示】P 2021168340の分割
【原出願日】2017-02-20
(31)【優先権主張番号】16156588.2
(32)【優先日】2016-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】507276380
【氏名又は名称】オメガ・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ゴージェイ,ギョーム
(57)【要約】      (修正有)
【課題】金属部品を有する機械式時計または計測器を提供する。
【解決手段】機械式時計機構の部品の各々は、1.01未満の比透磁率を有する。また、ベリリウム銅5で構成されるとともに、ベリリウム銅に付与されてベリリウム銅の硬度を向上させる被膜6によって硬質化されているか、あるいは非磁性ステンレス鋼で構成された少なくとも1つのシャフト部品12,21,24,26,33,34,41と、非磁性ステンレス鋼で構成された竜頭部品と、コバルト、クロム、鉄、およびニッケルを主成分とする第1の合金で構成されるバネ、ブリッジ、ヒゲ持ち、および/またはトゥールビヨン部品と、第1の合金またはシリコンで構成されるガンギ車および/またはアンクル部品と、シリコンで構成されるテンプの渦巻バネ部品と、チタン合金で構成されるネジ部品とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.01未満の比透磁率を有する機械式ムーブメントまたは計器用の金属シャフトであ
って、
該シャフト(12、21、24、26、33、34、41)は、ベリリウム銅(5)で
作られ、該ベリリウム銅(5)の硬質化のための被膜が施されるか該被膜が前記ベリリウ
ム銅(5)に塗布される
金属シャフト。
【請求項2】
前記ベリリウム銅(5)は少なくとも0.2%の鉛を含む
請求項1に記載の金属シャフト。
【請求項3】
前記被膜(6)はニッケル層である
請求項1または2に記載の金属シャフト。
【請求項4】
前記ニッケル層は、10%以上のリンを有する
請求項3に記載の金属シャフト。
【請求項5】
前記ニッケル層は、化学ニッケル層である
請求項1~4のいずれか1項に記載の金属シャフト。
【請求項6】
前記被膜(6)は、アモルファス金属である
請求項1~5のいずれか1項に記載の金属シャフト。
【請求項7】
前記シャフトは、ピニオンシャフト(21、24、26、33)である
請求項1~6のいずれか1項に記載の金属シャフト。
【請求項8】
前記ピニオンシャフト(21、24、26、33)は、1つの材料ブロックから作られ
るピニオン(22)とシャフトを有する
請求項7に記載の金属シャフト。
【請求項9】
前記シャフト(12、21、24、26、32、33、41)は、バランスを回転可能
に支持するテン真(41)、アンクル(32)を回転可能に支持するアンクル真(34)
、駆動機構(1)を回転可能に支持する駆動シャフト(12)または巻き上げ機構を回転
可能に支持する巻真である
請求項1~8のいずれか1項に記載の金属シャフト。
【請求項10】
複数の金属部品を有する機械式ムーブメントであって、
前記機械式ムーブメントの各部品は1.01未満の比透磁率を有し、かつ前記機械式ム
ーブメントは請求項1に記載のシャフト(12、21、24、26、33、34、41)
を少なくとも1つ有する
機械式ムーブメント。
【請求項11】
前記シャフト(12、21、24、26、33、34、41)のベリリウム銅(5)は
少なくとも0.2%の鉛を含む
請求項2に記載の機械式ムーブメント。
【請求項12】
前記被膜(6)はニッケル層である請求項10または11に記載の機械式ムーブメント
【請求項13】
少なくとも一つの部品、特に、バネ、ガンギ車、アンクル、ヒゲ持ち受け及び/または
ツールビヨンは、コバルト、クロム、鉄及びニッケルを主成分とした合金で作られる
請求項10~12のいずれか1項に記載の機械式ムーブメント。
【請求項14】
少なくとも一部分が金属製である複数の個別部品を有する時計または計器であって、
すべての個別部品は1.01未満の比透磁率を有し、
前記時計または計器は、請求項1に記載のシャフトを少なくとも一つ有する
時計または計器。
【請求項15】
各部品が1.01未満の比透磁率を有する少なくとも一部分が金属製の機械式ムーブメ
ントの部品を製造することであって、前記機械式ムーブメントはシャフト(12、21、
24、26、33、34、41)を含む、製造すること、
前記個別部品を組み上げて機械式ムーブメントを製作すること
を含む機械式ムーブメントの製造方法であって、
前記シャフト(12、21、24、26、33、34、41)は、ベリリウム銅(5)
で作られ、該ベリリウム銅を硬質化する被膜が施されるか、該ベリリウム銅(5)に塗布
されること
を含む機械式ムーブメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気特性を有さない時計機構、時計、および計測装置、ならびにそれらを製
造するための方法およびシャフトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気が望ましくない、さらには危険を伴うような、特定の状況がある。例えば、爆発物
除去の分野では、弱い磁場であっても、十分に爆弾または地雷を起爆させる引き金となる
。従って、爆発物除去の分野で使用する非磁性用具の検査のためNATO規格STANA
G 2897では、全磁力が5nT(ナノテスラ)以下であることを要求している。
【0003】
先行技術による金属部品を用いた電気式または機械式の時計は、必ず磁気特性を有する
。デジタル時計またはクォーツ時計の電流は、このような状況で比較的高い磁場を発生し
、これにより強い磁気特性を形成する。一方、純粋に機械式の時計であっても、使用され
ている金属によって、必ず残留磁気を示し、それだけでも過度に強い磁気特性を形成する
。そのような残留磁気は、日常生活で受ける磁場に起因し、これが金属部品を磁化させる
ことにより、金属部品は、その後は磁場がなくても残留磁気を示す。このため、磁場の影
響を受ける状況では時計を装着することができない。
【0004】
しかしながら、時計業界では、機械式時計の動作に対する磁場の影響を軽減する問題に
のみ重点を置いているので、環境における時計の影響は、あまり知られていない問題であ
る。これまでに、STANAG 2897規格を満たす腕時計は知られていない。
【0005】
機械式時計の動作に対する磁場の影響を軽減する問題を解決するために、時計機構の可
動部品の一部に、1.01未満の比透磁率を有する非磁性材料を使用することが、特許文
献1で知られている。ところが、時計機構のすべての部品が非磁性であるわけではないの
で、そこで開示されているソリューションによって、磁場において時計の良好な機能性は
得られるものの、1.01超の透磁率を有する時計の残りの可動部品および/または非可
動部品が、磁場を離れた後に残留磁気を示すことは避けられない。特に、駆動シャフトに
非磁性材料を使用することについて、ソリューションは開示されていない。
【0006】
特許文献2は、プラスチック射出成形、青銅、またはベリリウム銅で構成される非磁性
の駆動シャフトについて開示している。これらの提案されている非磁性材料は、十分な精
度品質を実現するには、柔らかすぎる。
【0007】
また、非磁性の時計の問題を見過ごしていることに加えて、時計メーカは、時計業界で
知られている非磁性金属が、時計機構における加工性、摩耗、硬度、他の部品との相互作
用などのような様々な要件を満たすことができないため、金属製の時計機構を非磁性金属
のみで実現することは不可能であると考えている。これは、特に、駆動シャフトに使用さ
れる金属について言えることであるが、例えば圧延バネなどのような多様な小部品につい
ても言えることである。例えば、特許文献2で提案されているベリリウム銅は、駆動シャ
フトについて、スイス時計工業規格(NIHS)の多くを満たすには、柔らかすぎる。例
えば、NIHS 91-10規格(2016年改訂版)で規定されている衝撃によって、
駆動シャフトのピニオン(カナ)の歯は曲がる。また、時計機構の機構に作用する力は、
ベリリウム銅で構成された駆動シャフトには大きすぎるため、ピニオンのホゾおよび歯の
係合領域が短時間で摩耗し、NIHS規格が要求する精度を満たさなくなる。従って、こ
のような損耗によって、このような時計は、時計が磁場を受けるかどうかに関わりなく日
差30秒の精度が要求される非磁性の時計のためのNIHS 90-10規格(2003
年改訂版)を、極めて早急に満たさなくなる。このように、これまで、STANAG 2
897規格を満たすと同時にNIHS 91-10の耐衝撃性規格を満たし、かつ/また
は、非磁性の時計のためのNIHS 90-10のようないくつかの規格で要求される6
ヶ月使用後の精度を示す腕時計は知られていない。
【0008】
同様の問題は、例えば深度計、圧力計、速度計、または高度計のような他の計測器にお
いても生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】独国特許第1932257号明細書
【特許文献2】米国特許第3620005号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
よって、目的は、環境における影響が最小限である時計機構、時計、計測器、およびシ
ャフトを見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本目的は、その個々の部品がすべて1.01未満の比透磁率を有する、時計または計測
器によって達成される。
【0012】
本目的は、その個々の部品がすべて1.01未満の比透磁率を有する、時計機構によっ
て達成される。
【0013】
本目的は、時計機構用または計測器用の、1.01未満の比透磁率を有する特にピニオ
ンシャフトであるシャフトによって達成される。
【0014】
1.01未満の比透磁率を有する個々の部品のみを使用することによって、時計機構ま
たは時計または計測器の部品はいずれも、磁場において磁化不可能である。従って、この
ような時計機構は、強い磁場を受けた後であっても、残留磁気を示さない。このように、
環境における時計機構の影響は軽減される。
【0015】
さらなる効果的な実施形態は、従属請求項で規定している。
【0016】
例示的な一実施形態では、機械式時計機構、時計、または計測器は、ベリリウム銅で構
成されるとともにベリリウム銅の硬度を向上させる好ましくはニッケル層である被膜で硬
質化された少なくとも1つの部品を有する。この金属で構成される少なくとも1つの部品
は、好ましくは、他の部品を回転取り付けするためのシャフトである。この金属合金は、
非磁性であるとともに、時計機構の場合には複雑である時計のピニオンシャフトのような
シャフトの形状の切削加工またはフライス加工のために十分に軟質である。この材料を好
ましくはその後に非磁性被膜で硬質化することによって、第1に、シャフトの磁気特性が
損なわれることなく、第2に、時計機構の摩耗、摩擦、および精度の要件を満たすための
所要の硬度が実現される。時計製作では特にピニオンシャフト用としては知られていない
、この材料は、その非磁性、その良好な加工性、その硬度、を特徴とする。この金属合金
で構成されるシャフトおよびその他の部品は、上記の時計機構または計測器以外の時計機
構または計測器に用いることもできる。
【0017】
例示的な一実施形態では、時計機構の、時計の、または計測器の、少なくとも1つの部
品は、コバルト、クロム、鉄、およびニッケルを主成分とする合金で構成される。加工性
が劣るために時計製作では使用されていない、この材料は、その非磁性、および上記の部
品用としての優れた材料特性、を特徴とする。この合金で構成される少なくとも1つの部
品は、好ましくは、時計機構のバネ、ガンギ車、アンクル、ヒゲ持ち受け、特にトゥール
ビヨンケージブリッジであるブリッジ、および/またはトゥールビヨン(もしくはその部
品)のうちの1つ以上である。特に、トゥールビヨンのトゥールビヨンケージは、効果的
に、この合金で構成される。この合金で構成される、時計機構のバネ、ガンギ車、アンク
ル、ブリッジ(受け)、ヒゲ持ち、および/もしくはトゥールビヨン、または他の部品は
、上記の時計機構または計測器以外の時計機構または計測器に用いることもできる。
【0018】
例示的な一実施形態では、時計機構の、時計の、または計測器の、少なくとも1つの部
品は、非磁性のステンレス鋼で構成される。非磁性ステンレス鋼は、好ましくは10%超
、好ましくは15%超のクロムを含む。その少なくとも1つの部品は、例えば、時計機構
の巻真である。この材料は、耐錆性があるとともに、大きい力に耐えるという利点がある
。非磁性ステンレス鋼は、その加工性が劣るため、時計製作において通常は使用されてい
ない。
【0019】
例示的な一実施形態では、時計機構または計測器は、チタンで構成されたハウジングを
有する。
【0020】
例示的な一実施形態では、時計機構は、銅合金で構成された、特に7.5%のニッケル
と5%の錫を含む銅合金で構成された、少なくとも1つの歯車、および/または香箱を有
する。
【0021】
例示的な一実施形態では、時計機構は、真鍮で構成された、地板および少なくとも1つ
のブリッジを有する。
【0022】
本発明について、以下の図面を用いて、さらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、時計機構の例示的な実施形態の断面を示している。
図2図2は、図1の第1の拡大詳細図を示している。
図3図3は、図1の第2の拡大詳細図を示している。
図4図4は、駆動シャフトの例示的な実施形態の3次元図を示している。
図5図5は、駆動シャフトの例示的な実施形態の断面を示している。
図6図6は、テン真の例示的な実施形態の3次元図を示している。
図7図7は、テン真の例示的な実施形態の断面を示している。
図8図8は、ピニオンシャフトの例示的な実施形態の3次元図を示している。
図9図9は、ピニオンシャフトの例示的な実施形態の断面を示している。
図10図10は、アンクル真の例示的な実施形態の3次元図を示している。
図11図11は、アンクル真の例示的な実施形態の断面を示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、1.01未満の比透磁率を有する、またはその個々の部品が1.01未満の
比透磁率を有する、時計、時計機構、および時計機構用シャフトの製造が、いかに可能に
なったのかについて説明する。ここでは、個々の部品のすべてが1.0100未満の比透
磁率を有することまで実現する。比透磁率は、好ましくは、0.99~1.01の間また
は0.99~1.0100の間である。時計は、好ましくは、腕時計または懐中時計であ
るが、この時計機構は、他の時計に搭載されてもよい。以下で、非磁性の材料または部品
について言及する場合、それは、1.01未満、好ましくは1.0100未満の比透磁率
を有する材料または部品を意味する。
【0025】
時計機構は、ムーブメントおよびオプションの追加機構を有する。図1は、そのような
時計機構の例示的な実施形態の断面を示しており、図2および3は、図1の拡大詳細図を
示している。
【0026】
ムーブメントは、駆動機構1と、輪列2と、脱進機構3と、振動機構4と、を備える。
【0027】
駆動機構1は、時計機構の動作のためのエネルギーを蓄積し、従って、このエネルギー
を輪列2に伝えるために、輪列2に連結されている。駆動機構1は、この目的のために、
エネルギー蓄積器および巻き上げ機構を有する。エネルギー蓄積器は、好ましくは渦巻バ
ネの形態の、駆動バネ11であることが好ましい。駆動バネ11は、好ましくは、非磁性
材料であるNivaflex(登録商標)で構成される。この渦巻状の駆動バネ11は、
駆動シャフト(香箱真)12と、駆動シャフト12に回転可能に取り付けられた香箱13
と、の間に配置されることが好ましい。巻き上げ機構によって、駆動シャフト12を回転
させることができ、駆動バネ11を巻き上げることができる。巻き上げ機構は、好ましく
は、巻真を有し、さらに/または、自動巻き輪列および回転錘を備える自動巻き上げ機構
を有する。図1および図3に、駆動シャフト12を回転させる巻き上げ機構の歯車14を
示している。
【0028】
輪列2は、シャフト(真)、ピニオン(カナ)、歯車からなる組み合わせを含み、これ
により、駆動機構1の特に香箱13の周囲側面の輪歯車を、特定の伝達比で脱進機構3に
連結している。少なくとも1つのピニオンを有するシャフトの各々は、ピニオンシャフト
(カナ真)とも呼ばれる。好ましくは、ピニオンシャフトの少なくとも1つのピニオンお
よびシャフトは、1つの材料ブロックから切削加工、好ましくはフライス加工される一方
、歯車は、ピニオンシャフトまたはシャフトに回転一体に結合される。輪列2の入力ピニ
オンシャフト21は、そのピニオン22によって駆動機構1に連結される一方、輪列2の
出力シャフト26の歯車27は、脱進機構3に係合している。輪列2は、例えば、3つの
シャフト21、24、26と、それらのシャフト21,24,26に固定された3つの歯
車23、25、27と、を含む。しかしながら、より多数またはより少数のシャフトおよ
び歯車を有する、これより複雑または単純な輪列も可能である。
【0029】
脱進機構3は、輪列2と振動機構4との間に配置されており、これにより、輪列2は、
振動機構4によって予め決められた振動を経るたびに、所定の回転角で、回転を進める。
脱進機構3は、好ましくは、ガンギ車31と、例えばアンクルである脱進部32と、を有
する。ガンギ車31は、ガンギ真33に回転一体に固定されており、回転可能に取り付け
られているガンギ真33によって回転可能である。ガンギ真33のピニオンは、輪列2の
出力シャフト26の歯車27に連結されている。アンクル32は、アンクル真34に回転
一体に固定されており、回転可能に取り付けられているアンクル真34によって回転可能
である。アンクル32は、駆動バネ11によって生じるガンギ車31の回転を妨げるとと
もに、振動機構4の振動ごとに1回または2回、ガンギ車31または輪列2の所定の回転
角の回転を許すために、ガンギ車31を解放する。アンクル32には、ガンギ車31との
接触点に、好ましくは(合成)ルビーで構成された宝石の爪石が配置されることが好まし
い。しかしながら、爪石は、金属で構成することもでき、例えば、後述するPhynox
またはシリコンで構成することができる。また、爪石は、1つのブロックから、アンクル
32と一体に形成することもできる。脱進機構に応じて、アンクル32は、互いに対して
回転可能な複数の部品で構成することもでき、さらに/または、ガンギ車31も、互いに
対して回転可能な複数の部品で構成することができる。
【0030】
振動機構4は、一定のサイクル時間で振動し、振動ごとに1回または2回、脱進機構3
またはアンクル32を解放することで、輪列2またはガンギ車31に所定の回転を生じさ
せる。好ましくは、振動機構4は、回転可能に取り付けられたテン真41と、渦巻バネ(
図示せず)と、テン輪(図示せず)と、を有する。テン真41には、一般的に、振り石を
備えた振り座が形成されている。テン真41と振り座、または振り座と振り石、またはこ
れらの3つすべては、1つの材料ブロックから一体に形成することができる。しかしなが
ら、それらの3つすべての部品を、3つの材料ブロックから形成することも可能である。
例示的な一実施形態では、振り座は、後述する硬質化されたベリリウム銅、シリコン、後
述するDeclafor、後述するPhynoxまたはNivaflexで構成される。
Phynoxまたはシリコンで構成される振り座の場合、同じ材料ブロックから振り石を
形成することができる。振り石は、好ましくは(合成)ルビーである宝石、シリコン、ま
たは後述するPhynoxで構成される。テン輪は、例えば、後述するDeclafor
、後述する硬質化されたベリリウム銅、または黄銅で構成される。
【0031】
部品の回転取り付け用のものとして記載したシャフト(および記載していないシャフト
)は、好ましくは、硬質化された銅合金で構成される。その銅合金は、好ましくはベリリ
ウム銅である。ベリリウム銅は、好ましくは鉛を含む。銅合金は、好ましくは、1.8%
~2%のベリリウム(Be)、0.2%~0.6%の鉛(Pb)、1.1%未満の他の物
質、および残りの銅(Cu)で構成される。1.1%未満の他の物質は、好ましくは、コ
バルト(Co)とニッケル(Ni)の合計含有量が0.2%以上、コバルト(Co)とニ
ッケル(Ni)と鉄(Fe)の合計含有量が0.6%以下、かつ他の物質が0.5%以下
(合金の総重量に対する割合)である。合金の物質含有量に関する上記および下記の割合
は、特に明記されない限り、常に重量パーセントを意味する。この銅合金で構成される材
料ブロックから、所望のシャフトを切削加工し、好ましくは回転フライス加工する。低表
面粗度の表面品質を得るためには、切削工具としてダイヤモンドを用いることが好ましい
。この材料の硬度が、わずか約380HV(ビッカース硬さ)であることによって、この
材料は、機械加工が容易に可能であり、このことは、特に、ピニオンシャフトに形成され
るピニオンのような回転非対称要素にとって重要である。所望のシャフトを形成した後に
、好ましくは化学機械研磨工程である研磨工程を実施することが好ましい。銅合金で形成
されたシャフトは、その上に第2の材料(またはベリリウム銅とは異なる材料)で構成さ
れる非磁性層を施すことによって、硬質化される。この第2の材料は、好ましくは、(ガ
ラス状合金とも呼ばれる)アモルファス金属である。好ましくは、付与される被膜は、0
.5μm(マイクロメートル)よりも厚く、好ましくは2.5μmよりも厚く、好ましく
は5μmよりも厚く、好ましくは7μmよりも厚い。好ましくは、第2の材料で構成され
る硬質化層は、少なくとも、ホゾの領域、および/またはピニオンの歯の領域におけるピ
ニオンシャフトに施される。最も単純な場合では、シャフト全体を、第2の材料で構成さ
れた被膜で包囲する。第2の材料で被覆されたシャフトは、好ましくは、それらの部品ま
たは被膜をさらに硬質化するために、析出硬化(時効硬化)を施す。これは、一般的に、
熱処理によって行われる。非磁性層として、好ましくはニッケルを用いる。このような層
は、例えば、電気メッキおよび/または化学ニッケルメッキによって施すことができる。
ニッケル層は、時計業界では、磁性材料として知られており、非磁性材料としては使用さ
れていない。しかしながら、ニッケルを非磁性層として形成および付与することが可能で
ある。これは、例えば、アモルファスニッケル層によって実現することができる。追加的
または代替的に、非磁性層は、好ましくは10%超のリン含有量で、ニッケル層にリンを
含むことによって実現することもできる。追加的または代替的に、非磁性層は、化学ニッ
ケルメッキによって実現することもできる。このニッケル被膜によって、600HV超の
硬度、好ましくは700HV超の硬度、好ましくは800HV超の硬度を、実現すること
ができる。上記の銅合金で構成された成形シャフトに、厚さ3μmの化学ニッケルメッキ
を用いて、約900HVの硬度が得られる。このようにして製造されるシャフトは、被覆
前のシャフトの良好な成形性、時計機構が低摩耗かつ高精度で動作するために必要なシャ
フトの被覆後の硬度、シャフトの非磁気特性、という特徴を最適に兼ね備える。
【0032】
硬質化のために被膜が施されたベリリウム銅で構成された、駆動シャフト12(図4
よび5)、テン真41(図6および7)、中央のピニオンシャフト21(図8および9)
、アンクル真34(図10および11)の例を、図4~11に示している。この場合、そ
れぞれのシャフトのコア5は、ベリリウム銅で構成された1つの材料ブロックから、個々
の形状で形成される。そのコア5を、好ましくはニッケルの非磁性被膜6で、被覆する。
【0033】
他の例示的な一実施形態では、上記のシャフト(および記載していないシャフト)の少
なくとも1つを、ベリリウム銅以外の非磁性材料で構成するとともに、上記の硬質化のた
めの非磁性ニッケル被膜で被覆する。
【0034】
好ましくは、それらのシャフトの一部またはすべてに、好ましくは(合成)ルビーであ
る宝石が取り付けられる。それらのシャフトは、好ましくは、地板とブリッジとの間に回
転可能に取り付けられる。地板およびブリッジは、好ましくはCuZn38Pb2である
黄銅で構成されることが好ましい。その黄銅は、シャフトについて上記したような特にニ
ッケル被膜である被膜によって硬質化されるか、または金メッキによって保護されるか、
いずれかである。
【0035】
好ましくは、特に巻真である少なくとも1つのシャフト、および/または竜頭は、好ま
しくは非磁性ステンレス鋼で構成される。そのようなステンレス鋼は、極めて稀であると
ともに、加工が極めて難しいため、これまで時計業界では知られていない。そのようなス
テンレス鋼は、例えば、医療技術の分野で使用されている。好ましくは、そのような非磁
性ステンレス鋼は、10%超の、好ましくは15%超のクロム(Cr)含有量のものであ
る。一例は、ステンレス鋼X2CrNiMo 18-15-3(DIN(ドイツ工業規格
)略号)であり、これは、0.03%以下の炭素(C)、0.75%以下のシリコン(S
i)、2%以下のマンガン(Mn)、0.025%以下のリン(P)、0.003%以下
の硫黄(S)、17%~19%のクロム(Cr)、2.7%~3%のモリブデン(Mo)
、13%~15%のニッケル(Ni)、0.5%以下の銅(Cu)、0.1%以下の窒素
、および残りの鉄(Fe)で構成される。クロムを含むそのような非磁性ステンレス鋼の
別の例は、Biodur 108(UNS S29108)の商標名で知られるステンレス
鋼であり、これは、0.08%以下の炭素(C)、0.75%以下のシリコン(Si)、
21%~24%のマンガン(Mn)、0.03%以下のリン(P)、0.01%以下の硫
黄(S)、19%~23%のクロム(Cr)、0.5%~1.5%のモリブデン(Mo)
、0.1%以下のニッケル(Ni)、0.25%以下の銅(Cu)、0.9%以下の窒素
(N)、および残りの鉄(Fe)で構成される。
【0036】
アンクル、ガンギ車、および時計機構で使用されるバネは、(特に明記されない限り)
鉄、ニッケル、クロム、およびコバルト(好ましくは、さらにモリブデンおよびマンガン
)を主成分とする合金で構成される。好ましくは、この合金は、以下の元素で構成される
:39%~41%のコバルト(Co)、19%~21%のクロム(Cr)、15%~18
%のニッケル(Ni)、6.5%~7.5%のモリブデン(Mo)、1.5%~2.5%
のマンガン(Mn)、3%未満の他の物質、および残り含有量の鉄。好ましくは、3%未
満の他の物質は、0.15%未満の炭素(C)、1.2%未満のシリコン(Si)、0.
001%未満のベリリウム(Be)、0.015%未満のリン(P)、0.015%未満
の硫黄(S)を含む(合金の総重量に対する割合)。この材料は、Phynox(登録商
標)とも呼ばれる。好ましくは、この材料で成形される部品は、成形前、成形中、および
/または成形後に、この部品を硬質化するために、析出硬化(時効硬化)を施す。これに
より、非磁性材料を使用しているにも関わらず、500HV超の、特に約600HVの硬
度を実現することができる。好ましくは、部品は、硬質化の前に、例えばCNCフライス
盤によって粗成形を施し、硬質化の後に、微細成形を施す。成形および硬質化された部品
は、その後、さらに化学機械研磨を施すことが好ましい。
【0037】
アンクルおよびガンギ車は、代替的に、シリコンで構成することもできる。
【0038】
また、通常は鋼鉄製であるネジも、非磁性の時計では使用することができない。従って
、ネジは、チタン合金で構成される。例示的な一実施形態では、いわゆるグレード5チタ
ン合金(3.7165/DIN,TiAl6V4)を使用し、これは、チタンに加えて、
5.5%~6.75%のアルミニウム(Al)、3.5%~4.5%のバナジウム、2%
未満の他の物質で構成されている。好ましくは、2%未満の他の物質は、0.3%未満の
鉄(Fe)、0.2%未満の酸素(O)、0.05%未満の窒素(N)、0.08%未満
の炭素(C)、0.015%未満の水素(H)を含む(合金の総重量に対する割合)。好
ましくは、この材料で成形される部品は、成形前、成形中、および/または成形後に、こ
の部品を硬質化するために、析出硬化を施す。これにより、非磁性材料を使用しているに
も関わらず、250HV超の、特に約350HVの硬度を実現することができる。成形お
よび硬質化された部品は、その後、さらに化学機械研磨を施すことが好ましい。
【0039】
香箱、および輪列の歯車は、好ましくは、Declafor(登録商標)で、すなわち
ニッケルと錫を含む銅合金で構成され、これは、より具体的には、7.5%のニッケル(
Ni)、5%の錫(Sn)、1.85%未満の他の物質、および残りの銅(Cu)で構成
される銅合金である。1.85%未満の他の物質は、例えば、0.05%~0.3%のマ
ンガン(Mn)、0.5%以下の亜鉛(Zn)、0.5%以下の鉄(Fe)、0.03%
以下の鉛(Pb)、0.02%以下のリン(P)、および0.5%以下の他の物質を含む
。好ましくは、この材料で成形される部品は、成形前、成形中、および/または成形後に
、この部品を硬質化するために、析出硬化を施す。これにより、非磁性材料を使用してい
るにも関わらず、250HV超の、特に約320HVの硬度を実現することができる。成
形および硬質化された部品は、その後、さらに化学機械研磨および/または金メッキを施
すことが好ましい。
【0040】
記載の時計機構は、好ましくは、時計に搭載され、特に腕時計または懐中時計に搭載さ
れる。ケースおよび/またはリストバンドが金属材料で構成される場合には、この目的で
、例えば上記のようなチタン合金を用いることが好ましい。
【0041】
本明細書に記載の材料を用いて、STANAG 2897規格を満たすと同時にNIH
S 91-10の耐衝撃性規格を満たす腕時計を構築することができた。さらに、そのよ
うな時計は、10万ガウスの磁場で10分経過した後であっても、NIHS 90-10
規格で要求される日差30秒未満の精度を示すことが実証された。
【0042】
[産業上の利用可能性]
時計の例示的な実施形態について説明した。しかしながら、本発明は、歯車機構、歯車
装置、指針、シャフト、ピニオンシャフトのような機械的機能部品を有する他の任意の計
測器に同様に転用することができる。そのような計測器の例は、深度計、圧力計、速度計
、高度計である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2023-12-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.01未満の比透磁率を有する時計用または計器用の機械式ムーブメントの金属シャフトであって、
該金属シャフト(12、21、24、26、33、34、41)は、ベリリウム銅、コバルト及びニッケルを含む合金で作られ、該合金の硬質化のための非磁性被膜が施された
金属シャフト。
【請求項2】
前記合金は少なくとも0.2%の鉛を含む
請求項1に記載の金属シャフト。
【請求項3】
前記非磁性被膜はニッケル層である
請求項1または2に記載の金属シャフト。
【請求項4】
前記ニッケル層は、10%以上のリンを有する
請求項3に記載の金属シャフト。
【請求項5】
前記ニッケル層は、化学ニッケル層である
請求項に記載の金属シャフト。
【請求項6】
前記非磁性被膜は、アモルファス金属である
請求項1~5のいずれか1項に記載の金属シャフト。
【請求項7】
前記シャフトは、ピニオンシャフト(21、24、26、33)である
請求項1~6のいずれか1項に記載の金属シャフト。
【請求項8】
前記ピニオンシャフト(21、24、26、33)は、1つの材料ブロックから作られるピニオン(22)とシャフトを有する
請求項7に記載の金属シャフト。
【請求項9】
前記シャフト(12、21、24、26、32、33、41)は、バランスを回転可能に支持するテン真(41)、アンクル(32)を回転可能に支持するアンクル真(34)、駆動機構(1)を回転可能に支持する駆動シャフト(12)または巻き上げ機構を回転可能に支持する巻真である
請求項1~8のいずれか1項に記載の金属シャフト。
【請求項10】
複数の金属部品を有する機械式ムーブメントであって、
前記機械式ムーブメントの各部品は1.01未満の比透磁率を有し、かつ前記機械式ムーブメントは請求項1に記載のシャフトであってベリリウム銅、コバルト及びニッケルを含む合金で作られ、該合金の硬質化のための非磁性被膜が施されたシャフト(12、21、24、26、33、34、41)を少なくとも1つ有する
機械式ムーブメント。
【請求項11】
前記シャフト(12、21、24、26、33、34、41)の合金は少なくとも0.2%の鉛を含む
請求項10に記載の機械式ムーブメント。
【請求項12】
前記非磁性被膜はニッケル層である請求項10または11に記載の機械式ムーブメント。
【請求項13】
バネ、ガンギ車、アンクル、ヒゲ持ち受け及びツールビヨンのうち少なくとも一つの部品が、コバルト、クロム、鉄及びニッケルを主成分とした合金で作られる
請求項10~12のいずれか1項に記載の機械式ムーブメント。
【請求項14】
少なくとも一部分が金属製である複数の個別部品を有する時計または計器であって、
すべての個別部品は1.01未満の比透磁率を有し、
前記時計または計器は、請求項1に記載のシャフトであってベリリウム銅、コバルト及びニッケルをを含む合金で作られ、該合金の硬質化のための非磁性被膜が施されたシャフトを少なくとも一つ有する
時計または計器。
【請求項15】
各部品が1.01未満の比透磁率を有する少なくとも一部分が金属製の機械式ムーブメントの部品を製造することであって、
前記機械式ムーブメントは金属シャフト(12、21、24、26、33、34、41)を含む、製造すること、
前記機械式ムーブメントの部品を組み上げて機械式ムーブメントを製作すること
を含む機械式ムーブメントの製造方法であって、
前記金属シャフト(12、21、24、26、33、34、41)は、ベリリウム銅、コバルト及びニッケルを含む合金で作られ、該合金の硬質化のための非磁性被膜が施されること
を含む機械式ムーブメントの製造方法。
【外国語明細書】