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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020624
(43)【公開日】2024-02-14
(54)【発明の名称】輸液製品
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/08 20060101AFI20240206BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240206BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20240206BHJP
   A61K 31/7004 20060101ALI20240206BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20240206BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240206BHJP
   A61K 31/401 20060101ALI20240206BHJP
   A61K 31/405 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
A61K9/08
A61P13/12
A61P3/02
A61K31/7004
A61K31/198
A61K47/12
A61K31/401
A61K31/405
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023206505
(22)【出願日】2023-12-06
(62)【分割の表示】P 2023062816の分割
【原出願日】2019-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000149435
【氏名又は名称】株式会社大塚製薬工場
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】木内 保太
(72)【発明者】
【氏名】山中 美幸
(72)【発明者】
【氏名】林 ゆい
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 佑
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 拓磨
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、輸液バッグの一室に糖を高濃度で含有する低pHの液剤を収容していながら、当該液剤の変色が抑制された輸液製品を提供することである。
【解決手段】互いに隔離された第1室及び第2室を少なくとも含むマルチチャンバ輸液バッグと、前記第1室に収容された糖含有液剤と、前記第2室に収容されたアミノ酸含有液剤とを含み、前記糖含有液剤が50w/v%以上の糖を含み且つpH4以下である輸液製品において、前記糖含有液剤にクエン酸及びクエン酸の共役塩基を配合すると、輸液製品中の糖含有液剤の着色を抑制することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに隔離された第1室及び第2室を少なくとも含むマルチチャンバ輸液バッグと、前記第1室に収容された糖含有液剤と、前記第2室に収容されたアミノ酸含有液剤とを含み、
前記糖含有液剤が、50w/v%以上の糖と、クエン酸及びクエン塩の共役塩基とを含み、且つpH4以下である、輸液製品。
【請求項2】
前記糖含有液剤が、酢酸及び酢酸の共役塩基及び/又は乳酸及び乳酸の共役塩基を含まない、請求項1に記載の輸液製品。
【請求項3】
前記輸液製品を60℃で4週間保存した時の前記糖含有液剤の445nmにおける光透過率が、94%以上である、請求項1に記載の輸液製品。
【請求項4】
前記マルチチャンバ輸液バッグに収容された全ての液剤の混合液の滴定酸度が、5~15である、請求項1~3のいずれかに記載の輸液製品。
【請求項5】
前記マルチチャンバ輸液バッグに収容された全ての液剤の混合液のpHが、pH4~7である、請求項1~4いずれかに記載の輸液製品。
【請求項6】
前記糖含有液剤及び前記アミノ酸含有液剤がリンを含まない、請求項1~5のいずれかに記載の輸液製品。
【請求項7】
前記マルチチャンバ輸液バッグに収容された全ての液剤の混合液がカリウムを含まない、請求項1~6のいずれかに記載の輸液製品。
【請求項8】
前記マルチチャンバ輸液バッグに収容された全ての液剤の混合液が菌に汚染されてから24時間後の菌増殖数が、2倍以内である、請求項1~7のいずれかに記載の輸液製品。
【請求項9】
投与対象患者が腎不全患者である、請求項1~8のいずれかに記載の輸液製品。
【請求項10】
前記糖含有液剤に含まれる前記糖の含有量が、57.5w/v%以上である、請求項1~9のいずれかに記載の輸液製品。
【請求項11】
互いに隔離された第1室及び第2室を少なくとも含むマルチチャンバ輸液バッグと、前記第1室に収容された糖含有液剤と、前記第2室に収容されたアミノ酸含有液剤とを含み、前記糖含有液剤が50w/v%以上の糖を含み且つpH4以下である輸液製品において、
前記糖含有液剤にクエン酸及びクエン塩の共役塩基を配合することを含む、輸液製品中の糖含有液剤の着色抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸液製品に関する。より具体的には、本発明は、輸液バッグの一室に糖を高濃度で含有する低pHの液剤を収容していながら、当該液剤の変色が抑制されている輸液製品に関する。
【背景技術】
【0002】
患者の生命維持及び栄養維持を目的として、栄養素を含有する輸液製剤による経静脈投与が広く行われている。特に、電解質、水分、及びカロリー補給を目的とするブドウ糖加電解質輸液は、維持輸液製剤として有用性が高い。
【0003】
例えば、特許文献1には、電解質及び水の補給に加え、積極的なカロリー補給を目的とした維持輸液製剤として、ブドウ糖8.0~12.0w/v%と、所定濃度のナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、クロール、リン、及び酢酸イオンとを含み、クエン酸にてpHが4.0~6.0に調整されているブドウ糖加電解質輸液が開示されており、このブドウ糖加電解質輸液が製剤的に安定であることも開示されている。
【0004】
また、患者の生命維持及び栄養維持においては、糖及び電解質だけでなく、アミノ酸も同時に投与することも広く行われている。このような投与を行うために、非特許文献1に記載されるように、輸液バッグに、糖、アミノ酸及び電解質を含有する液剤を収容した輸液製剤が汎用されている。
【0005】
ここで、還元糖とアミノ酸とを液剤中に共存させるとメイラード反応により変性するため、用時連通可能な隔壁によって隔離された複数の収容室を有する輸液バッグを用い、還元糖とアミノ酸とを別々の収容室に収容することが一般的である。
【0006】
例えば、特許文献2には、隔離手段により2室が形成された容器の第1室にアミノ酸液、第2室に糖・電解質液が充填されている高カロリー輸液剤であり、混合後、窒素(N:単位はg)に対する非蛋白エネルギー(NPC:単位はkcal)の比率(NPC/N)が600~300であり、かつリンおよびカリウムを含有しないことを特徴とする腎疾患患者用高カロリー輸液剤が開示されており、この腎疾患患者用高カロリー輸液剤における糖・電解質液がL-乳酸を含有し、pHが4.0~5.0であることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6-172191号公報
【特許文献2】特開2004-107213号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】薬理と治療 24(10),2151(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
複数の収容室を有する輸液バックを含む輸液製品において、収容室それぞれに収容される液剤の組成は、用時調製される液剤混合物が所定の組成となるように設計される。例えば、収容室に収容される糖含有液剤は、用時調製時に他の収容室に収容された液剤との混合により希釈されることを計算して、より高濃度で調製される。本発明者は、複数の収容室を有する輸液バックを含む高カロリー輸液製品において、糖含有液剤が、糖を50w/v%以上の高濃度で含むように調製されると、保存後に着色が生じる課題に直面した。通常、糖を高濃度で含有する液剤の着色は、pHを低くすることにより抑制することができるといわれているが、糖の濃度が50w/v%以上という高濃度である場合は、pHを4以下の低pHに調整するために、特許文献2に記載される乳酸や、乳酸と同様に有機酸である酢酸を用いたとしても、保存後の着色抑制は十分ではなかった。
【0010】
そこで本発明の目的は、輸液バッグの一室に糖を高濃度で含有する低pHの液剤を収容していながら、当該液剤の変色がより一層抑制された輸液製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は鋭意検討の結果、驚くべきことに、クエン酸及びクエン酸の共役塩基が、上記液剤に対して特有の優れた変色抑制性を発揮することを見出した。本発明は、この知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0012】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 互いに隔離された第1室及び第2室を少なくとも含むマルチチャンバ輸液バッグと、前記第1室に収容された糖含有液剤と、前記第2室に収容されたアミノ酸含有液剤とを含み、
前記糖含有液剤が、50w/v%以上の糖と、クエン酸緩衝剤とを含み、且つpH4以下である、輸液製品。
項2. 前記糖含有液剤が、酢酸及び酢酸の共役塩基及び/又は乳酸及び乳酸の共役塩基を含まない、項1に記載の輸液製品。
項3. 前記輸液製品を60℃で4週間保存した時の前記糖含有液剤の445nmにおける光透過率が、94%以上である、請求項1に記載の輸液製品。
項4. 前記マルチチャンバ輸液バッグに収容された全ての液剤の混合液の滴定酸度が、5~15である、項1~3のいずれかに記載の輸液製品。
項5. 前記マルチチャンバ輸液バッグに収容された全ての液剤の混合液のpHが、pH4~7である、項1~4いずれかに記載の輸液製品。
項6. 前記マルチチャンバ輸液バッグに収容された全ての液剤の混合液がリンを含まない、項1~5のいずれかに記載の輸液製品。
項7. 前記マルチチャンバ輸液バッグに収容された全ての液剤の混合液がカリウムを含まない、項1~6のいずれかに記載の輸液製品。
項8. 前記マルチチャンバ輸液バッグに収容された全ての液剤の混合液が菌に汚染されてから24時間後の菌増殖数が、2倍以内である、項1~7のいずれかに記載の輸液製品。
項9. 投与対象患者が腎不全患者である、項1~8のいずれかに記載の輸液製品。
項10. 互いに隔離された第1室及び第2室を少なくとも含むマルチチャンバ輸液バッグと、前記第1室に収容された糖含有液剤と、前記第2室に収容されたアミノ酸含有液剤とを含み、前記糖含有液剤が50w/v%以上の糖を含み且つpH4以下である輸液製品において、
前記糖含有液剤にクエン酸及びクエン塩の共役塩基を配合することを含む、輸液製品中の糖含有液剤の着色抑制方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の輸液製品によれば、輸液バッグの一室に糖を高濃度で含有する低pHの液剤を収容していながら、当該液剤の変色を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】試験例1で得られた、輸液製品中の糖含有液剤(pH3.8)の着色抑制効果を示すグラフである。
図2】試験例1で得られた、輸液製品中の糖含有液剤(pH4.0)の着色抑制効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.輸液製品
本発明の輸液製品は、互いに隔離された第1室及び第2室を少なくとも含むマルチチャンバ輸液バッグと、前記第1室に収容された糖含有液剤と、前記第2室に収容されたアミノ酸含有液剤とを含み、前記糖含有液剤が、50w/v%以上の糖と、クエン酸及びクエン塩の共役塩基(以下において、「クエン酸緩衝剤」とも記載する。)とを含み、且つpH4以下であることを特徴とする。以下、本発明の輸液製品について詳細に説明する。
【0016】
1-1.マルチチャンバ輸液バッグ
マルチチャンバ輸液バッグは、互いに隔離された第1室及び第2室を少なくとも含む。第1室及び第2室は、連通可能な隔壁で隔離されていればよく、そのような隔壁としては、易剥離シール(イージーピールシール)により形成される隔壁、室間をクリップで挟むことにより形成される隔壁、開封可能な連通手段が設けられた隔壁が挙げられ。これらの隔壁の中でも、輸液バッグの工業的生産性及び連通作業の容易性の観点から、好ましくは易剥離シール(イージーピールシール)により形成される隔壁が挙げられる。マルチチャンバ輸液バッグに設けられるチャンバ(収容室)の数は2以上であればよく、例えば、2~4、好ましくは2~3が挙げられる。
【0017】
マルチチャンバ輸液バッグの材質としては、医療用容器等に慣用されている各種のガス透過性プラスチックを用いることができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、架橋エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・α-オレフィン共重合体、及びこれら樹脂のブレンド樹脂が挙げられる。また、マルチチャンバ輸液バッグは、これら樹脂で構成される層を複数積層した積層体で構成されていてもよい。
【0018】
1-2.糖含有液剤(第1室)
マルチチャンバ輸液バッグの第1室には、糖含有液剤が収容(充填)されている。糖含有液剤は、50w/v%以上の糖と、クエン酸緩衝剤とを含み、且つpH4以下に調整されている。好ましくは、糖含有液剤は、更に電解質及び/又はビタミンを含み、より好ましくは、更に電解質及びビタミンを含む。
【0019】
1-2-1.糖
糖含有液剤に配合される糖としては、生体への栄養補給を目的とする糖輸液に用いられているものを特に制限することなく用いることができる。糖含有液剤に配合される具体的な糖としては、ブドウ糖、フルクトース、マルトース等の還元糖、キシリトール、ソルビトール、グリセリン等の非還元糖等が挙げられる。これらの糖は1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの糖の中でも、血糖値管理等の点から、好ましくは還元糖が挙げられ、更に好ましくはブドウ糖が挙げられる。
【0020】
糖含有液剤における糖含有量は50w/v%以上である。糖を50w/v%以上の高濃度で含む糖含有液剤は、乳酸や酢酸を含ませることでpHを4以下の低pHとなるように調整しても、保存後の着色(黄変)を十分に抑制できないが、本発明の輸液製品においては、クエン酸緩衝剤を含ませることにより、保存後の着色が効果的に抑制されている。本発明の輸液製品における糖含有液剤は保存後の着色抑制効果に優れているため、より高い糖濃度であっても、効果的な着色抑制が可能である。このような観点から、糖含有液剤における好適な糖濃度の例として、52.5w/v%以上、好ましくは55w/v%以上、より好ましくは57.5w/v%以上、さらに好ましくは58w/v%以上が挙げられる。糖含有液剤における糖濃度の上限としては特に限定されないが、保存後の優れた着色抑制効果を得る観点から、例えば62.5w/v%以下、好ましくは60w/v%以下、より好ましくは59w/v%以下が挙げられる。
【0021】
本発明の輸液製品の糖含有液剤は、効果的に着色が抑制されていることから、本発明の輸液製品を60℃で4週間保存した時の糖含有液剤の445nmにおける光透過率は、94%以上、好ましくは95%以上と評価される。また、当該光透過率は、100%以下、好ましくは99%以下である。
【0022】
1-2-2.クエン酸緩衝剤
糖含有液剤には、クエン酸緩衝剤として、クエン酸及びクエン酸の共役塩基を含む。クエン酸緩衝剤は、糖含有液剤をpH4以下に調整するとともに、糖含有液剤の保存後における着色(黄変)を抑制する。上述のとおり、糖を50w/v%以上の高濃度で含む糖含有液剤は、乳酸や酢酸を含ませることでpHを4以下の低pHとなるように調整しても、保存後の着色(黄変)を十分に抑制できないが、本発明の輸液製品においては、糖含有液剤にクエン酸緩衝剤を含ませることによって、糖含有液剤の保存後の着色を充分に抑制することができる。
【0023】
クエン酸緩衝剤を構成するクエン酸の共役塩基としては、クエン酸の金属塩が挙げられ、クエン酸カリウム(クエン酸三カリウム)及びクエン酸ナトリウム(クエン酸三ナトリウム)が挙げられ、より好ましくはクエン酸ナトリウムが挙げられる。クエン酸の共役塩基はクエン酸と共に糖含有液剤のpH安定化剤として機能し、クエン酸は、pH調整剤としても機能する。糖含有液剤に添加されるクエン酸及びクエン酸の共役塩基は、いずれか一方又は両方が水和物の形態であってもよい。
【0024】
糖含有液剤におけるクエン酸緩衝剤の含有量としては、所望のpHに調整されることを前提として糖含有液剤の保存後における着色抑制効果を考慮して適宜決定することができるが、糖含有液剤の保存後における着色抑制効果をより良好に得る観点及び、pH4以下という低pHに調整されていながらも、マルチチャンバ輸液バッグに収容された全ての液剤を混合した時に、混合液の低pH化を回避する観点から、糖含有液剤におけるクエン酸緩衝剤の具体的な例としては、クエン酸ナトリウム量換算で、0.5~1.5g/L、好ましくは0.6~1.3g/L、より好ましくは0.7~1g/L、さらに好ましくは0.8~0.9g/Lが挙げられる。
【0025】
糖含有液剤において、糖とクエン酸緩衝剤との含有量比については、上述の各成分の含有量に応じて決まるが、糖含有液剤の保存後における着色抑制効果をより良好に得る観点から、糖100重量部当たりのクエン酸緩衝剤の含有量比は、クエン酸ナトリウム換算量で、好ましくは0.08重量部~0.28重量部、より好ましくは0.1~0.2重量部、さらに好ましくは0.12~0.17重量部が挙げられる。
【0026】
1-2-3.電解質
糖含有液剤には電解質を配合することができる。糖含有液剤に用いられる電解質としては、輸液分野で用いられる電解質を特に制限なく用いることができる。具体的には、電解質として、体液(例えば血液、細胞内液)に含まれる電解質(体液電解質)が挙げられ、より具体的には、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、亜鉛、塩素、カリウム、リン等が挙げられる。
【0027】
これらの中でも、糖含有液剤に用いられる電解質としては、好ましくはカルシウム、ナトリウム、マグネシウム、亜鉛、塩素が挙げられる。本発明の輸液製品を腎不全患者に対して適用する場合においては、カリウム及びリンの少なくともいずれかを含まないことが好ましく、カリウム及びリンの両方を含まないことがより好ましい。また、電解質の供給源である塩としては、糖含有液剤の保存後における着色抑制効果をより良好に得る観点から、対イオンとして酢酸イオン及び/又は乳酸イオンを含んでいないものであることが好ましく、酢酸イオン及び乳酸イオンを含んでいないものであることがより好ましい。
【0028】
カルシウム供給源としては、グルコン酸カルシウム、塩化カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、乳酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、酢酸カルシウム等のカルシウム塩が挙げられ、好ましくは、グルコン酸カルシウム、塩化カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、乳酸カルシウム、パントテン酸カルシウムが挙げられ、より好ましくは塩化カルシウムが挙げられる。これらのカルシウム供給源は1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのカルシウム供給源は、水和物であってもよい。
【0029】
ナトリウム供給源としては、塩化ナトリウム、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、グリセロリン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム等のナトリウム塩が挙げられ、好ましくは、塩化ナトリウム、乳酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウムが挙げられ、より好ましくは、塩化ナトリウム及びクエン酸ナトリウムが挙げられる。クエン酸ナトリウムは、クエン酸緩衝剤を構成する成分としても用いられる。これらのナトリウム供給源は1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのナトリウム供給源は、水和物であってもよい。
【0030】
マグネシウム供給源としては、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム等が挙げられる、好ましくは、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウムが挙げられ、より好ましくは塩化マグネシウムが挙げられる。これらのマグネシウム供給源は1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのマグネシウム供給源は、水和物であってもよい。
【0031】
亜鉛供給源としては、硫酸亜鉛、塩化亜鉛等が挙げられる、好ましくは塩化亜鉛が挙げられる。これらの亜鉛供給源は1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの亜鉛供給源は、水和物であってもよい。
【0032】
塩素供給源としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛、チアミン塩化物塩酸塩、ピリドキシン塩酸塩等が挙げられ、好ましくは、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛、チアミン塩化物塩酸塩、ピリドキシン塩酸塩が挙げられる。これらの塩素供給源は1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの塩素供給源は、水和物であってもよい。
【0033】
カリウム供給源としては、塩化カリウム、酢酸カリウム、クエン酸カリウム、グリセロリン酸カリウム、硫酸カリウム、乳酸カリウム等が挙げられ、好ましくは塩化カリウム、酢酸カリウム、クエン酸カリウム、硫酸カリウム、乳酸カリウムが挙げられ、より好ましくは塩化カリウム、クエン酸カリウム、硫酸カリウム、乳酸カリウムが挙げられる。これらのカリウム供給源は1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのカリウム供給源は、水和物であってもよい。
【0034】
リン供給源としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、グリセロリン酸ナトリウム、グリセロリン酸カリウム等が挙げられる。これらのリン供給源は1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
糖含有液剤への電解質の配合量は、マルチチャンバ輸液バッグに収容された全ての液剤の混合液の電解質の濃度が、後述の1-5に記載の電解質の濃度の範囲内となるように適宜決定する。
【0036】
1-2-4.ビタミン
糖含有液剤にはビタミンを配合することができる。糖含有液剤に用いられるビタミンとしては、輸液分野で用いられるビタミンを特に制限なく用いることができる。具体的には、ビタミンとしては、ビタミンB群、ビタミンC等の水溶性ビタミン;ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK等の脂溶性ビタミンが挙げられる。これらの中でも、糖含有液剤に用いられるビタミンとしては、好ましくはビタミンB群が挙げられる。
【0037】
ビタミンB群としては、ビタミンB1(チアミン)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6、ビタミンB12(シアノコバラミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ナイアシン)、ビタミンB7(ビオチン)、ビタミンB9(葉酸)等が挙げられる。これらの中でも、糖含有液剤に用いられるビタミンB群としては、好ましくは、ビタミンB1(チアミン)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6、ビタミンB12(シアノコバラミン)が挙げられる。本発明の輸液製品では、糖含有液剤の保存後の変色(黄変)が抑制されているため、糖含有液剤には、ビタミン自体が黄色を呈するビタミンB2を含んでいないことが好ましい。
【0038】
ビタミンB1としては、チアミン塩化物塩酸塩、チアミン硝酸塩、プロスルチアミン、オクトチアミン等が挙げられ、好ましくはチアミン塩化物塩酸塩が挙げられる。これらのビタミンB1は1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。ビタミンB1は、ビタミンB1自体の分解を回避する観点から、亜硫酸塩と共存させないことが好ましい。このため、本発明の輸液製品において、ビタミンB1と亜硫酸塩とはそれぞれ任意の異なる液剤中に分別配合し、隔離しておくことが好ましい。従って、糖含有液剤にビタミンB1を配合する場合は、糖含有液剤には亜硫酸塩を配合しないことが好ましい。糖含有液剤にビタミンB1を配合する場合の糖含有液剤における配合量としては、例えば8~18mg/L、好ましくは10~16mg/L、より好ましくは12~14mg/Lが挙げられる。
【0039】
ビタミンB5(パントテン酸)としては、パントテン酸又はそのカルシウム塩、パンテノール等が挙げられ、好ましくはパンテノールが挙げられる。これらのビタミンB5は1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。糖含有液剤にビタミンB5を配合する場合の糖含有液剤における配合量としては、例えば15~30mg/L、好ましくは20~25mg/L、より好ましくは22~25mg/Lが挙げられる。
【0040】
ビタミンB6としては、ピリドキシン、ピリドキシン塩酸塩等のピリドキシンの塩等が挙げられ、好ましくはピリドキシン塩酸塩が挙げられる。これらのビタミンB6は1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。ビタミンB6は、光に対する不安定化を回避する観点から、ビタミンB2とさせないことが好ましい。このため、本発明の輸液製品において、ビタミンB6とビタミンB2とはそれぞれ任意の異なる液剤中に分別配合し、隔離しておくことが好ましい。従って、糖含有液剤にビタミンB6を配合する場合は、糖含有液剤にはビタミンB2を配合しないことが好ましい。糖含有液剤にビタミンB6を配合する場合の糖含有液剤における配合量としては、例えば8~18mg/L、好ましくは10~16mg/L、より好ましくは12~14mg/Lが挙げら
れる。
【0041】
ビタミンB12としては、シアノコバラミン、酢酸ヒドロキソコバラミン、メチルコバラミン等が挙げられ、好ましくはシアノコバラミンが挙げられる。これらのビタミンB12は1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。糖含有液剤にビタミンB12を配合する場合の糖含有液剤における配合量としては、例えば3~15μg/L、好ましくは5~12μg/L、より好ましくは7~10μg/Lが挙げられる。
【0042】
糖含有液剤へのビタミンの配合量は、マルチチャンバ輸液バッグに収容された全ての液剤の混合液のビタミンの濃度が、後述の1-5に記載のビタミンの濃度の範囲内となるように適宜決定する。
【0043】
1-2-5.その他の成分
糖含有液剤には、上記以外の他の成分を適宜含有することができる。他の成分としては、溶媒、安定剤、pH調整剤等が挙げられる。通常、糖含有液剤には溶媒として水が含まれており、水としては、好ましくは注射用蒸留水が挙げられる。また、糖含有液剤には、糖含有液剤の保存後における着色抑制効果をより良好に得る観点から、酢酸緩衝剤(酢酸及び酢酸の共役塩基)及び/又は乳酸緩衝剤(乳酸及び乳酸の共役塩基)を含まないことが好ましく、酢酸緩衝剤(酢酸及び酢酸の共役塩基)及び乳酸緩衝剤(乳酸及び乳酸の共役塩基)を含まないことがより好ましい。酢酸緩衝剤を構成する酢酸の共役塩基としては、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム等の酢酸の金属塩が挙げられ、乳酸緩衝剤を構成する乳酸の共役塩基としては、L-乳酸カリウム、L-乳酸ナトリウム等のL-乳酸の金属塩が
挙げられる。
【0044】
1-2-6.pH
糖含有液剤は、pHが4以下に調整されている。なお、本発明において、pHは、20℃における測定温度である。糖を50w/v%以上の高濃度で含む糖含有液剤は、乳酸や酢酸を含ませることでpH4以下の低pHとなるように調製しても、保存後に着色(黄変)が生じるが、本発明の輸液製品においては、クエン酸緩衝剤を含むことにより、保存後の着色が効果的に抑制されている。このような保存後の優れた着色抑制効果に鑑みると、糖含有液剤における好適なpHの例として、3.9以下が挙げられ、好ましくは3.9未満が挙げられる。pHの下限としては特に限定されないが、本発明の輸液製品を腎不全患者にも投与する場合に滴定酸度を低く抑える観点から、例えば2.3以上、好ましくは3以上、より好ましくは3.5以上が挙げられる。なお、糖含有液剤を所定のpH4に調整するために用いられるpH調整剤としては特に限定されないが、好ましくは、クエン酸緩衝剤を構成するクエン酸を用いることができる。
【0045】
1-2-7.収容量
糖含有液剤の収容量としては、マルチチャンバ輸液バッグに収容された全ての液剤の混合液に対する比率で、たとえば20~80体積%、好ましくは40~70体積%、より好ましくは50~60体積%が挙げられる。
【0046】
1-3.アミノ酸含有液剤(第2室)
マルチチャンバ輸液バッグの第2室には、アミノ酸含有液剤が収容(充填)されている。アミノ酸含有液剤の組成は、アミノ酸が含まれていれば特に限定されない。好ましくは、アミノ酸含有液剤は、アミノ酸に加えて、電解質及び/又はビタミンを含み、より好ましくは、アミノ酸、電解質及びビタミンを含む。
【0047】
1-3-1.アミノ酸
アミノ酸含有液剤に用いられるアミノ酸としては、生体への栄養補給を目的とするアミノ酸輸液に配合されているものを特に制限することなく用いることができる。アミノ酸は、遊離アミノ酸の状態で用いられてもよいし、その薬学的に許容される塩、エステル体、N-アシル誘導体、ジペプチドの形態で用いられてもよい。
【0048】
遊離アミノ酸としては、必須アミノ酸及び非必須アミノ酸が挙げられる。必須アミノ酸としては、L-ロイシン、L-イソロイシン、L-バリン、L-リシン、L-トレオニン、L-トリプトファン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-ヒスチジンが挙げられる。非必須アミノ酸としては、L-システイン、L-チロシン、L-アルギニン、L-アラニン、L-プロリン、L-セリン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、グリシン等が挙げられ、好ましくは、L-システイン、L-チロシン、L-アルギニン、L-アラニン、L-プロリン、L-セリン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸が挙げられる。
【0049】
アミノ酸の塩としては、L-アルギニン塩酸塩、L-システイン塩酸塩、L-グルタミン酸塩酸塩、L-ヒスチジン塩酸塩、L-リシン塩酸塩などの無機酸塩;L-リシン酢酸塩、L-リシンリンゴ酸塩等(好ましくはL-リシン酢酸塩)の有機酸塩等が挙げられる。
【0050】
アミノ酸のエステル体としては、L-チロシンメチルエスエル、L-メチオニンメチルエスエル、L-メチオニンエチルエステル等が挙げられる。アミノ酸のN-アシル体としては、N-アセチル-L-システイン、N-アセチル-L-トリプトファン、N-アセチル-L-プロリン等が挙げられ、好ましくは、安定性の観点からN-アセチル-L-システインが挙げられる。アミノ酸のジペプチドとしては、L-チロシル-L-チロジン、L-アラニル-L-チロシン、L-アルギニル-L-チロシン、L-チロシル-L-アルギニン等が挙げられる。
【0051】
これらのアミノ酸種は、1種単独で用いてもよいが、栄養補給の観点からは、2種以上を組み合わせて用いることが好ましく、少なくとも全ての必須アミノ酸、その薬学的に許容される塩、エステル体、N-アシル誘導体、及び/又はジペプチドを用いることがより好ましい。また、本発明の輸液製品を腎不全患者に対して適用する場合においては、必須アミノ酸と非必須アミノ酸とを組み合わせて用いることがさらに好ましい。
【0052】
なお、アミノ酸は、遊離アミノ酸、その薬学的に許容される塩、エステル体、N-アシル誘導体、ジペプチドの中から1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
アミノ酸含有液剤の具体的な組成は、本発明の輸液製品の適用対象が腎不全患者であるか否かに関わらず、生体への栄養補給を目的とする観点から当業者が適宜決定することができる。また、本発明の輸液製品の適用対象が腎不全患者である場合においては、他の患者に適用する場合に比べて、例えば、L-ロイシン、L-イソロイシン、L-バリンといった分岐鎖を有するアミノ酸の配合量が高く、L-メチオニン及びL-フェニルアラニンの配合量が低く、さらにL-システインが配合されるように調製することができる。
【0054】
アミノ酸含有液剤において、必須アミノ酸と非必須アミノ酸とを組み合わせて用いる場合、非必須アミノ酸の遊離アミノ酸換算重量に対する必須アミノ酸の遊離アミノ酸換算重量の比(必須アミノ酸/非必須アミノ酸)としては、例えば1~5が挙げられる。腎不全患者に対する適切なアミノ酸補給の観点から、当該比としては、好ましくは2~4、より好ましくは2.4~3.8が挙げられる。
【0055】
アミノ酸含有液剤におけるアミノ酸の配合量は、具体的には、遊離アミノ酸換算量の総量で、例えば10~120g/L、好ましくは50~100g/L、より好ましくは60~80g/L、さらに好ましくは70~75g/Lが挙げられる。
【0056】
また、アミノ酸含有液剤に配合されるアミノ酸の組合せ及び配合割合の好ましい例としては、遊離アミノ酸換算で、以下の通りである。
L-ロイシン:2.5~33g/L、好ましくは5~18g/L、より好ましくは13~15g/L
L-イソロイシン:0~23g/L、好ましくは3~12g/L、より好ましくは8~10g/L
L-バリン:0.9~27g/L、好ましくは3~13g/L、より好ましくは9~11g/L
L-リシン:1.5~23g/L、好ましくは2~11g/L、より好ましくは2~8g/L
L-トレオニン:1~13g/L、好ましくは1.2~6g/L
L-トリプトファン:0.5~5g/L
L-メチオニン:0.7~13g/L、好ましくは1~5g/L、より好ましくは2~4g/L
L-フェニルアラニン:1~20g、好ましくは1.8~9g/L、より好ましくは4~6g/L
L-システイン:0.1~3g/L、好ましくは0.3~1.3g/L
L-チロジン:0.06~1.2g/L
L-アルギニン:1.5~23g/L、好ましくは2~11g/L
L-ヒスチジン:1~13g/L、好ましくは1.2~6g/L
L-アラニン:1~23g/L、好ましくは1~8g/L
L-プロリン:0.5~17g/L、好ましくは1.2~6g/L
L-セリン:0.5~10g/L、好ましくは1~5g/L
L-アスパラギン酸:0.1~7g/L、好ましくは0.12~1.8g/L
L-グルタミン酸:0.1~10g/L、好ましくは0.12~1.8g/L
【0057】
1-3-2.電解質
アミノ酸含有液剤には電解質を配合することができる。アミノ酸含有液剤に用いられる電解質としては、輸液分野で用いられる電解質を特に制限なく用いることができる。具体的には、電解質として、体液(例えば血液、細胞内液)に含まれる電解質(体液電解質)が挙げられ、より具体的には、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、亜鉛、塩素等が挙げられる。
【0058】
これらの中でも、アミノ酸含有液剤に用いられる電解質としては、好ましくはナトリウムが挙げられる。本発明の輸液製品を腎不全患者に対して適用する場合においては、カリウム及びリンの少なくともいずれかを含まないことが好ましく、カリウム及びリンの両方を含まないことがより好ましい。
【0059】
ナトリウム供給源としては、上述の糖含有液剤におけるナトリウム塩が挙げられるが、アミノ酸含有液剤に用いられるナトリウム供給源としては、乳酸ナトリウムが挙げられる。乳酸ナトリウムは、代謝性アシドーシス補正剤としても用いられる。
【0060】
アミノ酸含有液剤への電解質の配合量は、マルチチャンバ輸液バッグに収容された全ての液剤の混合液の電解質の濃度が、後述の1-5に記載の電解質の濃度の範囲内となるように適宜決定される。
【0061】
1-3-3.ビタミン
アミノ酸含有液剤にはビタミンを配合することができる。アミノ酸含有液剤に用いられるビタミンとしては、輸液分野で用いられるビタミンを特に制限なく用いることができる。具体的には、ビタミンとしては、ビタミンB群、ビタミンC等の水溶性ビタミン;ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK等の脂溶性ビタミンが挙げられる。これらの中でも、アミノ酸含有液剤に用いられるビタミンとしては、好ましくはビタミンB群が挙げられる。
【0062】
ビタミンB群としては、ビタミンB1(チアミン)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6、ビタミンB12(シアノコバラミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ナイアシン)、ビタミンB7(ビオチン)、ビタミンB9(葉酸)等が挙げられる。これらの中でも、アミノ酸含有液剤に用いられるビタミンB群としては、好ましくは、ビタミンB3(ナイアシン)、ビタミンB9(葉酸)が挙げられる。
【0063】
ビタミンB3(ナイアシン)としては、ニコチン酸アミドが挙げられる。アミノ酸含有液剤にビタミンB3を配合する場合のアミノ酸含有液剤における配合量としては、例えば70~100mg/L、好ましくは80~95mg/L、より好ましくは85~90mg/lが挙げられる。
【0064】
ビタミンB9(葉酸)は、ビタミンB9自体の不安定化を回避する観点から、ビタミンB2と共存させないことが好ましい。このため、本発明の輸液製品において、ビタミンB9とビタミンB2とはそれぞれ任意の異なる液剤中に分別配合し、隔離しておくことが好ましい。従って、アミノ酸含有液剤にビタミンB9を配合する場合は、アミノ酸含有液剤にはビタミンB2を配合しないことが好ましい。アミノ酸含有液剤にビタミンB9を配合する場合のアミノ酸含有液剤における配合量としては、例えば1~1.7mg/L、好ましくは1.2~1.5mg/Lが挙げられる。
【0065】
アミノ酸含有液剤へのビタミンの配合量としては、マルチチャンバ輸液バッグに収容された全ての液剤の混合液のビタミンの濃度が、後述の1-5に記載のビタミンの濃度の範囲内となるように配合する。
【0066】
1-3-4.その他の成分
アミノ酸含有液剤には、上記以外の他の成分を適宜含有することができる。他の成分としては、溶媒、安定剤、緩衝剤、pH調整剤等が挙げられる。通常、アミノ酸含有液剤には溶媒として水が含まれており、水としては、好ましくは注射用蒸留水が挙げられる。
【0067】
アミノ酸含有液剤には安定化剤を配合してもよい。安定化剤としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム等の亜硫酸塩が挙げられる。特にアミノ酸含有液剤にビタミンとしてビタミンB1が含まれていない場合は、亜硫酸塩がビタミンB1の分解を生じるリスクが無いため、亜硫酸塩を配合することが好ましい。
【0068】
1-3-5.pH
アミノ酸含有液剤のpHとしては、マルチチャンバ輸液バッグに収容された全ての液剤の混合液が所望のpHに調整されるよう、糖含有液のpHよりも高く調整されていれば特に限定されない。例えば、アミノ酸含有液剤のpHとしては、5~8、好ましくは6~7.5、より好ましくは6.5~7.5が挙げられる。なお、アミノ酸含有液剤に用いられるpH調整剤としては特に限定されないが、好ましくは、酢酸(氷酢酸の形態であってもよい)を用いることができる。
【0069】
1-3-6.収容量
アミノ酸含有液剤の収容量としては、マルチチャンバ輸液バッグに収容された全ての液剤の混合液に対する比率で、たとえば20~70体積%、好ましくは30~50体積%、より好ましくは40~50体積%が挙げられる。
【0070】
1-4.ビタミン含有液剤(第3室)
上述のように、本発明の輸液製品において、マルチチャンバ輸液バッグは、第1室及び第2室以外の他の収容室を有していてもよい。本発明の輸液製品のマルチチャンバ輸液バッグが他の収容室として第3室を有する場合、第3室には、ビタミン含有液剤を収容(充填)することができる。第3室は、第1室又は第2室の内部に収納されていてもよい。
【0071】
1-4-1.ビタミン
ビタミン含有液剤に用いられるビタミンとしては、輸液分野で用いられるビタミンを特に制限なく用いることができる。具体的には、ビタミンとしては、ビタミンB群、ビタミンC等の水溶性ビタミン;ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK等の脂溶性ビタミンが挙げられる。これらの中でも、ビタミン含有液剤に用いられるビタミンとしては少なくとも脂溶性ビタミンを含むことが好ましい。また、ビタミン含有液に用いられるビタミンとしては、水溶性ビタミンであるビタミンB群及び/又はビタミンCを含むことができ、好ましくはビタミンB群及びビタミンCを含むことができる。ビタミン含有液剤がビタミンB群を含む場合は、ビタミンB群として、好ましくはビタミンB2及びビタミンB7(ビオチン)が挙げられる。
【0072】
ビタミンB2としては、リボフラビン、リボフラビンリン酸エステルナトリウム、フラビンモノヌクレオチド等が挙げられ、好ましくはリボフラビンリン酸エステルナトリウムが挙げられる。これらのビタミンB2は1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。ビタミンB2は、ビタミンB9(葉酸)の不安化を回避する観点から、ビタミンB9(葉酸)と共存させないことが好ましい。このため、本発明の輸液製品において、ビタミンB9とビタミンB2とはそれぞれ任意の異なる液剤中に分別配合し、隔離しておくことが好ましい。従って、ビタミン含有液剤にビタミンB2を配合する場合は、ビタミン含有液剤にはビタミンB9を配合しないことが好ましい。ビタミン含有液剤にビタミンB2を配合する場合のビタミン含有液剤における配合量としては、例えば0.3~0.9mg/mL、好ましくは0.45~0.65mg/mLが挙げられる。
【0073】
ビタミン含有液剤にビタミンB7(ビオチン)を配合する場合のビタミン含有液剤における配合量としては、例えば6~9μg/mL、好ましくは7~8μg/mLが挙げられる。
【0074】
ビタミン含有液にビタミンC(アスコルビン酸)を配合する場合のビタミン含有液剤における配合量としては、例えば10~40mg/mL、好ましくは20~30mg/mLが挙げられる。
【0075】
ビタミンAとしては、レチノール及びそのエステル等、並びにそれらの油溶解物(ビタミンA油)が挙げられ、レチノールエステルとしては、パルミチン酸レチノール、酢酸レチノール等のレチノールエステルが挙げられる。ビタミン含有液剤にビタミンAを配合する場合のビタミン含有液剤における配合量としては、例えば200~600IU/mL、好ましくは350~450IU/mLが挙げられる。なお、IUはインターナショナル・ユニット(国際単位)であり、ビタミンA単位ともいう。
【0076】
ビタミンDとしては、ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)、ビタミンD3(コレカルシフェロール)及びそれらの活性型が挙げられ、好ましくはビタミンD3が挙げられる。これらのビタミンDは1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。ビタミン含有液剤にビタミンDを配合する場合のビタミン含有液剤における配合量としては、例えば0.2~1μg/mL、好ましくは0.4~0.8μg/mLが挙げられる。
【0077】
ビタミンEとしては、酢酸トコフェロール、コハク酸トコフェロールが挙げられ、好ましくは酢酸トコフェロールが挙げられる。これらのビタミンEは1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。ビタミン含有液剤にビタミンEを配合する場合のビタミン含有液剤における配合量としては、例えば0.5~2mg/mL、好ましくは1~1.5mg/mLが挙げられる。
【0078】
ビタミンKとしては、ビタミンKとしては、ビタミンK1(フィトナジオン)、ビタミンK2(メナテトレノン)、ビタミンK3(メナジオン)等が挙げられ、好ましくはビタミンK1が挙げられる。これらのビタミンKは1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。ビタミン含有液剤にビタミンKを配合する場合のビタミン含有液剤における配合量としては、例えば0.01~0.025mg/mL、好ましくは0.015~0.02mg/mLが挙げられる。
【0079】
ビタミン含有液剤へのビタミンの配合量は、マルチチャンバ輸液バッグに収容された全ての液剤の混合液のビタミンの濃度が、後述の1-5に記載のビタミンの濃度の範囲内となるように適宜決定する。
【0080】
1-4-2.その他の成分
ビタミン含有液剤には、ビタミン以外の他の成分を適宜含有することができる。他の成分としては、溶媒、安定剤、緩衝剤、pH調整剤等が挙げられる。通常、ビタミン含有液剤には溶媒として水が含まれており、水としては、好ましくは注射用蒸留水が挙げられる。
【0081】
ビタミン含有液剤には、脂溶性ビタミンを安定に可溶化させるため、可溶化剤を含むことが好ましい。可溶化剤としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の非イオン界面活性剤、及びポリエチレングリコールが挙げられ、好ましくはポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びポリエチレングリコールが挙げられる。ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、好ましくはポリソルベート80、ポリソルベート20等が挙げられる。ビタミン含有液剤にポリソルベート80を配合する場合のビタミン含有液剤における配合量としては、例えば3~15mg/mL、好ましくは5~8mg/mLが挙げられる。ビタミン含有液剤にポリソルベート20を配合する場合のビタミン含有液剤における配合量としては、例えば0.1~82mg/mL、好ましくは0.5~31.5mg/mLが挙げられる。ポリエチレングリコールとしては、マクロゴール200、マクロゴール300、マクロゴール400、マクロゴール600等が挙げられ、好ましくはマクロゴール400が挙げられる。ビタミン含有液剤にマクロゴール400を配合する場合のビタミン含有液剤における配合量としては、例えば1~20mg/mL、好ましくは5~15mg/mLが挙げられる。
【0082】
ビタミン含有液剤は、pH調整剤を用いてpHが調整されていることが好ましい。pH調整剤としては、特に限定されないが、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の塩基が挙げられ、好ましくは水酸化ナトリウムが挙げられる。ビタミン含有液剤における好適なpHの例としては、4~10、好ましくは6~8が挙げられる。
【0083】
1-4-3.収容量
ビタミン含有液剤の収容量としては、マルチチャンバ輸液バッグに収容された全ての液剤の混合液に対する比率で、たとえば0.3~1.5体積%、好ましくは0.5~1.0体積%が挙げられる。
【0084】
1-5.混合液(投与輸液)
本発明の輸液製品は、用時に、マルチチャンバ輸液バッグに収容された全ての液剤が混合され、調製された混合液が投与輸液として使用される。
【0085】
1-5-1.pH
本発明においては、マルチチャンバ輸液バッグに収容された全ての液剤が混合した時に、混合液を、アミノ酸含有液剤のpHに近いpHに制御することができる。当該混合液のpHとしては、4~7、好ましくは5~7、より好ましくは5.6~6.2が挙げられる。
【0086】
このように、本発明の輸液製品によって得られる混合液は、pHが中性付近である。通常、中性付近に調整された輸液は、菌増殖耐性が弱い。しかしながら、本発明の輸液製品によって得られる混合液は、中性付近に調整されたにも関わらず、優れた菌増殖耐性も有する。
【0087】
本発明の輸液製品によって得られる混合液の菌増殖耐性は、マルチチャンバ輸液バッグに収容された全ての液剤の混合液が菌に汚染されてから24時間後の菌増殖数が、2倍以内、好ましくは1.9倍以内、最も好ましくは1.8倍以内である。当該菌としては、TPN輸液製品を汚染する菌として知られている、カテーテル感染の主な原因菌である、カンジダ菌(例えば、Candida albicans ATCC2091)、表皮ブドウ球菌(例えば、Staphylococcus epidermidis ATCC12228)、セレウス菌(例えば、Bacillus cereus ATCC11778)、およびセラチア菌(例えば、serratia marcescens ATCC13880)からなる群より選ばれる菌が挙げられる。当該菌増殖数は、混合液に菌を添加し、24時間後に、平板表面塗抹法によって生菌数を測定することによって計測することができる。
【0088】
1-5-2.浸透圧比
本発明の輸液製品によって得られる混合液において、浸透圧比としては、例えば7~9.6、好ましくは7.4~9.4、より好ましくは7.6~9.2が挙げられる。ここで、浸透圧比とは、生理食塩水の浸透圧に対する比(すなわち、生理食塩水の浸透圧を1としたときの相対比)である。
【0089】
1-5-3.滴定酸度
本発明の輸液製品によって得られる混合液において、滴定酸度としては、例えば5~15、好ましくは6~12、より好ましくは7~9が挙げられる。
【0090】
1-5-4.熱量
本発明の輸液製品によって得られる混合液の熱量としては、糖、アミノ酸等の含有成分の含有量に応じて決定されるが、例えば1200~1700kcal/L、好ましくは1300~1600kcal/Lが挙げられる。
【0091】
1-5-5.他の成分
本発明の輸液製品によって得られる混合液を腎不全患者に対して投与する場合においては、当該混合液には、カリウム及びリンの少なくともいずれかを含まないことが好ましく、カリウム及びリンの両方を含まないことがより好ましい。
【0092】
1-5-6.組成例
本発明の輸液製品によって得られる混合液の組成として、以下の組成が挙げられる。
ブドウ糖 50~450g/L、
好ましくは、100~400g/L、
より好ましくは、300~350g/L
総アミノ酸(遊離アミノ酸換算量)
10~60g/L、
好ましくは、15~45g/L、
より好ましくは、20~40g/L、
さらに好ましくは、25~35g/L
ナトリウムイオン 10~160mEq/L、
好ましくは40~70mEq/L、
より好ましくは、45~65mEq/L、
さらに好ましくは、40~60mEq/L
マグネシウムイオン 1~40mEq/L、
好ましくは、2~20mEq/L、
より好ましくは、2~10mEq/L
カルシウムイオン 1~40mEq/L、
好ましくは、2~20mEq/L、
より好ましくは、2~10mEq/L
塩化物イオン 20~60mEq/L、
好ましくは、25~55mEq/L、
より好ましくは、30~50mEq/L
乳酸イオン 1~30mEq/L、
好ましくは、5~25mEq/L、
より好ましくは、10~20mEq/L
酢酸イオン 1~70mEq/L、
好ましくは、5~55mEq/L、
より好ましくは、10~30mEq/L
クエン酸イオン 1~25mEq/L、
好ましくは、5~15mEq/L、
亜鉛 2~200μmol/L、
好ましくは、10~50μmol/L、
より好ましくは、15~30μmol/L
ビタミンB1 0.4~30mg/L
好ましくは1~10mg/L
ビタミンB2 0.5~15mg/L
好ましくは1~10mg/L
ビタミンB6 0.5~20mg/L
好ましくは1~10mg/L
ビタミンB12 0.5~50μg/L、
好ましくは1~10μg/L
ニコチン酸類 5~80mg/L
好ましくは10~60mg/L
葉酸 0.05~1mg/L
好ましくは0.1~0.8mg/L
ビタミンC 12~400mg/L
好ましくは20~300mg/L
ビタミンA 400~6500IU/L
好ましくは800~4000IU/L
ビタミンD 0.5~10μg/L、
好ましくは1~6μg/L
ビタミンE 1~30mg/L、
好ましくは2.5~15mg/L
ビタミンK 0.01~10mg/L、
好ましくは0.03~5mg/L、
より好ましくは0.05~1mg/L
ビオチン 5~150μg/L、
好ましくは10~70μg/L
【0093】
1-6.輸液製品の製造方法
本発明の輸液製品の製造方法は、常法に従い、当業者によって適宜選択される。例えば、不活性ガス(例えば、二酸化炭素又は窒素)雰囲気下でマルチチャンバ輸液バッグへの第1室及び第2室を含む各室への液剤の収容(充填)を行い、施栓した後、加熱滅菌する方法が挙げられる。加熱滅菌の方法としては、高圧蒸気滅菌、熱水シャワー滅菌等が挙げられる。また加熱滅菌は、必要に応じて不活性ガス(例えば、二酸化炭素又は窒素)雰囲気中で行うこともできる。
【0094】
さらに、本発明の輸液製品は、変質、酸化等を確実に防止するために、マルチチャンバ輸液バッグを脱酸素剤と共に酸素バリア性外装袋で包装されることが好ましい。特に、マルチチャンバ輸液バッグとして隔壁が易剥離シールにより形成された輸液バッグを採用する場合には、本発明の輸液製品は、外圧により隔壁が連通しないように易剥離シール部分で折り畳まれた状態、例えば易剥離シール部分で二つ折りにされた状態で、外装袋で包装されていることが好ましい。また、本発明の輸液製品を包装する外装袋中に、不活性ガスを充填してもよい。
【0095】
1-7.用法・用量
本発明の輸液製品は、経口摂取困難で低蛋白血症又は低栄養状態にある患者、手術前後又は侵襲期の患者等に対し、栄養管理の目的で用いることができる。本発明の輸液製品は高濃度高カロリーの混合液(投与輸液)を調製するため、長期間経口摂取が出来ない場合、具体的には、1週間以上、特に10日以上の経口摂取ができない患者に対して用いられることが好ましい。さらに、本発明の輸液製品によって得られる混合液が、カリウム及びリンの少なくともいずれか、好ましくはカリウム及びリンの両方を含まない場合には、腎不全患者に対して好適に用いることができる。ここでいう腎不全とは、急性腎不全時及び慢性腎不全の両方を含む。
【0096】
本発明の輸液製品では、調製された混合液(投与輸液)を、いわゆる高カロリー輸液法にて、中心静脈内に投与することができる。すなわち、本発明の輸液製品は、中心静脈栄養(TPN)輸液製品である。心臓に近い中心静脈は太くて血流が多いため、高濃度の高カロリー輸液を投与しても瞬時に多量の血液で薄められ、血管や血球に対する影響を少なくすることができる。
【0097】
投与量としては、成人1日当たり500~1800mL、好ましくは800~1300mLが挙げられる。なお、投与量は、年齢、症状、体重に応じ、当業者によって適宜増減される。投与速度としては、上記の1日当たりの投与量を24時間かけて持続的に投与する程度であることが好ましい。
【0098】
2.輸液製品中の糖含有液剤の着色抑制方法
更に、本発明は輸液製品中の糖含有液剤の着色抑制方法を提供する。着色抑制とは、50w/v%以上の糖を含み且つpH4以下である糖含有液剤において、クエン酸緩衝剤を含まない場合に比べ(好ましくは酢酸緩衝剤及び/又は乳酸緩衝剤を含む場合に比べ)、クエン酸緩衝剤を含む場合において、着色(黄変)の程度が小さくなることをいう。着色抑制の評価は、例えば、当該糖含有液剤を60℃で4週間保存した後の445nmにおける光透過率を調べることによって評価することができる。保存後の光透過率が高いほど、着色が抑制されていると評価できる。当該保存後の光透過率としては、好ましくは94%以上、より好ましくは95%以上が挙げられる。また、当該光透過率は高いほど好ましいが、その上限としては、例えば100%以下、又は99%以下が挙げられる。
【0099】
具体的には、本発明の輸液製品中の糖含有液剤の着色抑制方法は、互いに隔離された第1室及び第2室を少なくとも含むマルチチャンバ輸液バッグと、前記第1室に収容された糖含有液剤と、前記第2室に収容されたアミノ酸含有液剤とを含み、前記糖含有液剤が50w/v%以上の糖を含み且つpH4以下である輸液製品において、前記糖含有液剤にクエン酸及びクエン酸の共役塩基を配合することを特徴とする。本発明の輸液製品中の糖含有液剤の着色抑制方法において、使用されるマルチチャンバ輸液バッグの構成、液剤成分の種類や配合量、輸液製品の使用方法等については、前記「1.輸液製品」の欄に記載の通りである。
【実施例0100】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0101】
試験例1
表1の組成を有する、pH3.8又はpH4.0(20℃でのpH。以下において、pHの測定温度は20℃である。)の糖含有液剤[クエン酸緩衝](調製例1)、糖含有液剤[酢酸緩衝](比較調製例1)、及び糖含有液剤[乳酸緩衝](比較調製例2)を調製した。なお、調製した糖含有液中の糖の含有量はいずれも58.4w/v%であった。
【0102】
【表1】
【0103】
表2に示すアミノ酸含有液剤を調製した。このアミノ酸含有液剤は、pHを6.9に調整した。
【0104】
【表2】
【0105】
表3に示すビタミン含有液剤を調製した。このビタミン含有液剤は、pHを6.5に調整した。
【0106】
【表3】
【0107】
表1に示す調製例1と、表2に示すアミノ酸含有液剤と、表3に示すビタミン含有液剤とを、易剥離シールにより形成される隔壁で互いに隔離された3つの収容室を有するマルチチャンバ輸液バッグの各室に、窒素雰囲気下で充填し、密封した後、常法に従い湿熱滅菌を行った。その後、容器を易剥離シール部で折り畳み、脱酸素剤と共に、遮光性バリアフィルムの外装袋に封入し、実施例1の輸液製品を作製した。同様に、比較調製例1又は比較調製例2の糖含有液剤と、表2に示すアミノ酸含有液剤と、表3に示すビタミン含有液剤とを、易剥離シールにより形成される隔壁で互いに隔離された3つの収容室を有するマルチチャンバ輸液バッグの各室に、窒素雰囲気下で充填し、密封した後、常法に従い湿熱滅菌を行った。その後、容器を易剥離シール部で折り畳み、脱酸素剤と共に、遮光性バリアフィルムの外装袋に封入し、それぞれ、比較例1又は比較例2の輸液製品を作製した。
【0108】
それぞれの輸液製品を60℃で保存した。保存前、保存後1週間経過時、保存後2週間経過時、及び保存後4週間経過時において、445nmでの光透過率(液剤厚み:10mm)を測定し、糖含有液剤の着色を評価した。(n=3)445nmでの光透過率は、黄色の着色を評価することができる。なお、いずれの段階においても、不溶物の発生が無いことを確認した。pHを3.8に調整した糖含有液剤の光透過率(%T)の推移を図1に、pHを4.0に調整した糖含有液剤の光透過率(%T)を図2に示す。
【0109】
図1及び図2に示すとおり、60℃4週間後における光透過率の低下は、比較例1の輸液製品における比較調製例1の糖含有液剤[酢酸緩衝]及び比較例2の輸液製品における比較調製例2の糖含有液剤[乳酸緩衝]に比べて、実施例1の輸液製品における調製例1の糖含有液剤[クエン酸緩衝]の方で明らかに抑制されていた。
【0110】
具体的には、pHを3.8に調整した糖含有液剤の60℃4週間後における光透過率は、比較例1の輸液製品における比較調製例1の糖含有液剤[酢酸緩衝](pH3.8)で92.3%、比較例2の輸液製品における比較調製例2の糖含有液剤[乳酸緩衝](pH3.8)で93.2%である一方、実施例1の輸液製品における調製例1の糖含有液剤[クエン酸緩衝](pH3.8)で96.3%であった。また、pHを4.0に調整した糖含有液剤の60℃4週間後における光透過率は、比較例1の輸液製品における比較調製例1の糖含有液剤[酢酸緩衝](pH4.0)で87.4%、比較例2の輸液製品における比較調製例2の糖含有液剤[乳酸緩衝](pH4.0)である一方、実施例1の輸液製品における調製例1の89.2%、糖含有液剤[クエン酸緩衝](pH4.0)で95.4%であった。
【0111】
従って、50w/v%以上の糖を含み且つpH4以下である糖含有液剤にクエン酸緩衝剤を配合することによって、保存後の着色を抑制できることが示された。
【0112】
試験例2
試験例1と同様にして実施例1の輸液製品を作製した。実施例1の輸液製品において、マルチチャンバ輸液バッグの一室を押圧することで隔壁を開通させることで、調製例1の糖含有液剤、アミノ酸含有液剤、及びビタミン含有液剤を混合し、混合液を得た。得られた混合液の組成、pH及び浸透圧比を表4に示す。
【0113】
【表4】
【0114】
カテーテル感染の主な原因菌である、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis ATCC12228)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus ATCC6538)、カンジダ菌(Candida albicans ATCC2091)、セレウス菌(Bacillus cereus ATCC11778)、セラチア菌(Serratia marcescens ATCC13880)を用い、混合液の菌汚染時の菌増殖耐性について調べた。具体的には、混合液に各菌を添加し、24時間後に、平板表面塗抹法によって生菌数(CFU/mL)を測定した。各菌を添加してから24時間後の増加率(各菌添加直後の生菌数を100%とした場合の比率)の結果を表5に示す。
【0115】
【表5】
【0116】
表5に示すとおり、混合液は2倍以上の菌増殖は認められなかった。本発明の輸液製品が高濃度高カロリーのTPN輸液製品であるにも関わらず、優れた菌増殖耐性を有することは予想外であった。
図1
図2