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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020668
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】金属塩析出型素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/161 20060101AFI20240207BHJP
   G02F 1/15 20190101ALI20240207BHJP
   G02F 1/155 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
G02F1/161
G02F1/15 508
G02F1/155
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020213611
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000148689
【氏名又は名称】株式会社村上開明堂
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100182006
【弁理士】
【氏名又は名称】湯本 譲司
(72)【発明者】
【氏名】持塚 多久男
【テーマコード(参考)】
2K101
【Fターム(参考)】
2K101AA23
2K101DA12
2K101DB03
2K101DC04
2K101DC63
2K101EB47
2K101EC02
2K101EC55
2K101EC57
2K101ED41
2K101EG52
2K101EJ11
2K101EK07
(57)【要約】
【課題】視界を良好にすることができる金属塩析出型素子を提供する。
【解決手段】一実施形態に係る金属塩析出型素子1は、膜状の第1電極11と、第1電極11に対向する膜状の第2電極12と、第1電極11及び第2電極12が互いに対向する積層方向に沿って、第1電極11及び第2電極12を挟む一対の透明基板20と、第1電極11及び第2電極12に挟まれて、第1電極11と第2電極12との間に空間Sを画成するスペーサ30と、第1電極11、第2電極12及びスペーサ30によって画成される空間Sに収容される電解液40と、を備え、第1電極11、第2電極12及びスペーサ30は透明である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜状の第1電極と、
前記第1電極に対向する膜状の第2電極と、
前記第1電極及び前記第2電極が互いに対向する積層方向に沿って、前記第1電極及び前記第2電極を挟む一対の透明基板と、
前記第1電極及び前記第2電極に挟まれて、前記第1電極と前記第2電極との間に空間を画成するスペーサと、
前記第1電極、前記第2電極及び前記スペーサによって画成される前記空間に収容される電解液と、
を備え、
前記第1電極、前記第2電極及び前記スペーサは透明である、
金属塩析出型素子。
【請求項2】
前記スペーサは、接着剤を介して前記第1電極及び前記第2電極のそれぞれに接着されており、
前記接着剤は透明である、
請求項1に記載の金属塩析出型素子。
【請求項3】
前記第1電極及び前記第2電極は外部電極に接続され、
前記第2電極と前記外部電極とを互いに接続する線状の電極を備え、
前記線状の電極は、前記外部電極から前記電解液及び前記スペーサを越えて前記第2電極まで延びている、
請求項1又は2に記載の金属塩析出型素子。
【請求項4】
前記線状の電極の太さは1.0mm以下である、
請求項3に記載の金属塩析出型素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属塩析出型素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2012-181389号公報には、鏡面表示モードを有するエレクトロクロミック表示装置が記載されている。エレクトロクロミック表示装置は、一対の透明な基板と、一対の基板の対向する面に形成される一対の透明電極と、一対の透明電極の間に挟持され、銀を含むエレクトロクロミック材料及びメディエータを含む電解質層とを有する。
【0003】
電解質層は、支持塩としての電解質を含むとともに、銀イオンを含むエレクトロクロミック材料及びメディエータを含む。エレクトロクロミック材料は酸化還元反応によって銀微粒子を析出、又は消失させ、これに基づく色の変化を生じさせ表示を行なうものである。銀を含むエレクトロクロミック材料としては、AgNO、AgClO、又はAgBr、が例示される。一対の透明電極は、それぞれ導電性を有する配線を介して電源に接続され、この電源のON、OFFにより電解質層への電圧の印加、及び印加の解除が制御される。
【0004】
エレクトロクロミック表示装置は、例えば電圧を印加した状態で反射状態又は黒状態を実現し、電圧を解除した状態で透過状態を実現する。エレクトロクロミック表示装置では、一対の透明電極間の距離をスペーサによって500μmにして、電解質層を一対の透明電極間に形成している。透明電極に-2.5Vを印加した場合では、エレクトロクロミック表示装置は十分な反射特性を有する。一方、透明電極に+2.5Vを印加した場合では、エレクトロクロミック表示装置は非常に低い反射率を示し、黒状態となる。また、透明電極に電圧を印加しない場合では、エレクトロクロミック表示装置は消色し、光透過状態となる。つまり、-2.5Vを印加した場合では、反射状態すなわち鏡状態が実現され、+2.5Vを印加した場合では黒状態が実現され、電圧を印加しない場合では光透過状態すなわち透明状態が実現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-181389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したエレクトロクロミック表示装置では、一対の透明電極間の距離は電解質層を囲むように配置されるスペーサによって定められる。一対の透明電極が向かい合う方向から見ると、電解質層を囲む有色のスペーサの枠が視認される。前述したエレクトロクロミック表示装置などの金属塩析出型素子では、視認されたときの視界を良好にすることが求められており、最近ではフレームレス構造が要求されている。
【0007】
本開示は、視界を良好にすることができる金属塩析出型素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一側面に係る金属塩析出型素子は、膜状の第1電極と、第1電極に対向する膜状の第2電極と、第1電極及び第2電極が互いに対向する積層方向に沿って、第1電極及び第2電極を挟む一対の透明基板と、第1電極及び第2電極に挟まれて、第1電極と第2電極との間に空間を画成するスペーサと、第1電極、第2電極及びスペーサによって画成される空間に収容される電解液と、を備え、第1電極、第2電極及びスペーサは透明である。
【0009】
この金属塩析出型素子では、電解液が透明な第1電極、透明な第2電極及び透明なスペーサによって画成される空間に収容されている。第1電極及び第2電極は、互いに対向しており、対向する積層方向に沿って一対の透明基板に挟まれている。第1電極及び第2電極に電圧が印加されず、電解液が透明である場合には、一対の透明基板、電解液、第1電極、第2電極及びスペーサが透明であるため、金属塩析出型素子が視認されたときにおける視界を良好にすることができる。第1電極及び第2電極に電圧が印加され、電解液が透明ではない場合には、不透明な電解液が透明な第1電極、透明な第2電極及び透明なスペーサによって画成される空間に収容される。この場合、不透明な電解液の周囲が透明であるため、金属塩析出型素子が視認されたときにおける視界を良好にすることができる。
【0010】
スペーサは、接着剤を介して第1電極及び第2電極のそれぞれに接着されていてもよく、接着剤は透明であってもよい。この場合、接着剤によってスペーサを第1電極及び第2電極のそれぞれに接着して第1電極及び第2電極にスペーサを固定することができる。接着剤が透明であることにより、接着剤が透明でない場合と比較して、接着剤を視認し難くすることができる。従って、金属塩析出型素子が視認されたときにおける視界を更に良好にすることができる。
【0011】
第1電極及び第2電極は外部電極に接続され、第2電極と外部電極とを互いに接続する線状の電極を備え、線状の電極は、外部電極から電解液及びスペーサを越えて第2電極まで延びていてもよい。第2電極と外部電極とを互いに接続する電極が線状であることにより、電極が線状でない場合と比較して、電極を視認し難くすることができる。よって、金属塩析出型素子が視認されたときにおける視界を更に良好にすることができる。
【0012】
線状の電極の太さは1.0mm以下であってもよい。電極の太さが1.0mm以下であることにより、線状の電極を更に視認し難くすることができる。よって、金属塩析出型素子が視認されたときにおける視界を更に良好にすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、視界を良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る金属塩析出型素子を模式的に示す断面図である。
図2】実施形態に係る金属塩析出型素子を模式的に示す正面図である。
図3】実施形態に係る金属塩析出型素子においてスペーサ及び接着剤を拡大して示す断面図である。
図4】(a)は金属塩析出型素子を適用したインナーミラーが透明状態であるときの模式図である。(b)は金属塩析出型素子を適用したインナーミラーが着色状態であるときの模式図である。(c)は金属塩析出型素子を適用したインナーミラーが反射状態であるときの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、図面を参照しながら本開示に係る金属塩析出型素子の実施形態について説明する。図面の説明において、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、図面は、理解の容易化のため、一部を簡略化又は誇張して描いている場合があり、寸法比率などは図面に記載のものに限定されない。
【0016】
図1に示されるように、本実施形態に係る金属塩析出型素子1は、膜状の第1電極11と、第1電極11に対向する膜状の第2電極12と、一対の透明基板20とを備える。一対の透明基板20は、第1電極11及び第2電極12が互いに対向する積層方向(Y方向)に沿って第1電極11及び第2電極12を挟む。
【0017】
第1電極11及び第2電極12のそれぞれは、例えば、透明な電極であって電極対を構成する。この場合、第1電極11及び第2電極12のそれぞれは、一対の透明基板20の互いに向かい合うそれぞれの面に形成された透明電極膜である。第1電極11及び第2電極12のそれぞれは、例えば、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)、FTO(F-doped TinOxide:フッ化ドープ酸化スズ)、酸化スズ及び酸化亜鉛の少なくとも何れかによって構成されている。第1電極11及び第2電極12がITO透明電極膜である場合、例えば、第1電極11及び第2電極12の表面抵抗値は10Ω/□である。
【0018】
一対の透明基板20は、例えば、矩形板状とされている。透明基板20は、透明なガラス製であってもよいし、透明な樹脂製であってもよい。一対の透明基板20は、例えば、第1基板21及び第2基板22によって構成される。第1基板21は、第1電極11が接触する第1内面21aと、Y方向において第1内面21aの反対側を向く第1外面21bとを有する。第2基板22は、第2電極12が接触する第2内面22aと、Y方向において第2内面22aの反対側を向く第2外面22bとを有する。この場合、第1内面21a及び第2内面22aは、一対の透明基板20の互いに向かい合うそれぞれの面である。例えば、第1内面21a、第2内面22a、第1外面21b及び第2外面22bは平滑面(平坦面であってもよい)とされている。平滑面とは、凹凸が無く滑らかな面であり、平面及び曲面を含む。平坦面とは、平面である。第1外面21b及び第2外面22bの少なくとも何れかには、反射防止膜が設けられていてもよい。
【0019】
Y方向から見たときに、第1基板21及び第2基板22の位置は互いにずれている。これにより、第1基板21は、Y方向と直交する方向(Z方向)の一方にはみ出した第1端部21cを有する。同様に、第2基板22は、Z方向の他方にはみ出した第2端部22cを有する。Y方向の一方から見ると、第1端部21cの第1内面21aに接触する第1電極11の部分(以後、第1電極露出部11aと記載する)が視認される。Y方向の他方から見ると、第2端部22cの第2内面22aに接触する第2電極12の部分(以後、第2電極露出部12aと記載する)が視認される。第1電極露出部11aは、Y方向において、第2電極12と向かい合わない。第2電極露出部12aは、Y方向において、第1電極11と向かい合わない。第1電極露出部11aと第2電極露出部12aとは、後述される電解液40及びスペーサ30を挟んで互いに斜向かいになる。すなわち、第1電極露出部11aは、Z方向及びY方向の双方に傾斜する方向に沿って第2電極露出部12aに対向している。
【0020】
金属塩析出型素子1は、第1電極11と第2電極12との間に空間Sを画成するスペーサ30と、空間Sに収容される電解液40とを備える。スペーサ30は、第1電極11及び第2電極12に挟まれる。空間Sは、第1電極11、第2電極12及びスペーサ30によって画成される。
【0021】
第1電極11及び第2電極12に挟まれるスペーサ30は、透明である。スペーサ30は、透明なガラス製であってもよいし、透明な樹脂製であってもよい。図2は、実施形態に係る金属塩析出型素子1の正面図である。図2に示される金属塩析出型素子1では、スペーサ30は、Y方向から見て、透明基板20の中央を含む領域に空間Sを画成するように配置される。Y方向から見て、例えば、空間Sは矩形状を呈する。一例として、Y方向から見たスペーサ30の形状は、X方向及びZ方向の双方(XZ平面)に沿って広がる枠状である。X方向はY方向及びZ方向の双方に直交する方向である。
【0022】
スペーサ30は、単一の部品によって構成されていてもよいし、複数の部品によって構成されていてもよい。一例として、スペーサ30は、複数の直方体状のガラス部材によって構成されてもよい。この場合、スペーサ30は、ガラス部材31、ガラス部材32、ガラス部材33及びガラス部材34によって構成される。ガラス部材31及びガラス部材32は、Z方向において空間Sを挟んで互いに対向する。ガラス部材33及びガラス部材34は、X方向において空間Sを挟んで互いに対向する。ガラス部材31、ガラス部材32、ガラス部材33及びガラス部材34は、Y方向から見て矩形状を呈する空間Sを画成する。すなわち、ガラス部材31、ガラス部材32、ガラス部材33及びガラス部材34は、Y方向から見て中央を含む領域に矩形状の孔が画成された枠を構成する。
【0023】
実施形態に係る金属塩析出型素子1は、Y方向から見て、中央部の矩形状の空間Sを囲む縁(スペーサ30が設けられる位置)が透明である。よって、金属塩析出型素子1は、フレームレスの金属塩析出型素子1を構成する。
【0024】
図1及び図2に示されるように、スペーサ30は、第1電極11と第2電極12との間に空間Sを画成する。スペーサ30と、第1電極11と、第2電極12との間に画成される空間Sには、電解液40が収容される。この電解液40は、透明状態から鏡状態に変化する金属塩析出型素子1の変化領域1aを構成する。変化領域1aとは、透明状態、着色状態及び鏡状態のいずれかに変化する金属塩析出型素子1の領域を示している。金属塩析出型素子1において、変化領域1aは、電解液40が収容された空間Sに設けられる。すなわち、金属塩析出型素子1は、Y方向から見て、中央を含む領域に変化領域1aが設けられたフレームレスの金属塩析出型素子を構成する。透明状態、着色状態及び鏡状態の詳細については後述する。
【0025】
電解液40は、例えば、メタノールを含む溶媒に銀イオン及び銅イオンの少なくともいずれかが含まれた液体である。一例として、電解液40は、炭酸プロピレン及びメタノールを溶媒として含むと共に、AgNO(硝酸銀)、CuCl(塩化第2銅)及びLiBr(臭化リチウム)を溶質として含む電解液40である。例えば、電解液40は、メタノールよりも高沸点の非水溶媒、及び当該非水溶媒よりも含有重量が少ないメタノールを含有していてもよい。電解液40は、メタノールよりも高沸点の当該非水溶液が炭酸プロピレンを最も含有重量が多い成分とするものであってもよい。
【0026】
例えば、電解液40に含まれている硝酸銀の重量は電解液40に含まれる塩化第2銅の重量よりも大きい。電解液40には増粘剤が添加されていてもよい。この増粘剤は、例えば、ポリプロピレン、ポリビニルブチラール又はポリメチルメタアクリレートなどのポリマーによって構成されていてもよい。
【0027】
第1電極11及び第2電極12は、外部電極Eに接続される。金属塩析出型素子1は、第2電極12と外部電極Eとを互いに接続する線状の電極50を備える。外部電極Eは、例えば、第1電極11及び第2電極12に電位差を発生させる直流電源である。第1電極11及び第2電極12のそれぞれは、外部電極Eと電気的に接続される。外部電極Eは、正電圧が生じる正電極E1と、負電圧が生じる負電極E2とを備える。例えば、外部電極Eの正電極E1は第1電極露出部11aに接続される。正電極E1は、第1電極露出部11aに沿ってX方向に延在すると共に第1電極露出部11aに接続される。例えば、X方向における正電極E1の長さ、及びX方向における第1電極露出部11aの長さは、空間SのX方向への長さ以上である。負電極E2は線状の電極50に接続される。線状の電極50は第2電極露出部12aに接続される。線状の電極50は、第2電極露出部12aに沿ってX方向に延在している。例えば、X方向における電極50の長さ、及びX方向における第2電極露出部12aの長さは、空間SのX方向への長さ以上である。
【0028】
線状の電極50は、外部電極Eから電解液40及びスペーサ30を越えて第2電極12まで延びている。すなわち、線状の電極50は、スペーサ30及び電解液40を迂回して第2電極12まで延びている。線状の電極50は、例えば、金属塩析出型素子1の表面に塗布される導電性の銀ペーストによって構成される。線状の電極50は、金属塩析出型素子1のX方向の端部に位置する面(以後、側面1bと記載する)に沿って延在するブリッジ部分50aを含んでいてもよい。側面1bは、例えば、スペーサ30とスペーサ30を挟む一対の透明基板20とによって構成される。ブリッジ部分50aは、側面1bに沿ってZ方向に延在している。線状の電極50は、ブリッジ部分50aにおいて電解液40及びスペーサ30を越えてもよい。ブリッジ部分50aは、負電極E2から第2電極露出部12aに向かって、電解液40及びスペーサ30を越えるように延びている。ブリッジ部分50aは、例えば、絶縁された側面1bに塗布される銀ペーストによって構成される。線状の電極50の太さは、例えば、0.5mm以上且つ1.0mm以下である。
【0029】
外部電極Eから電圧が印加される場合、第1電極11及び第2電極12の間には電位差が生じる。このとき、第1電極11及び第2電極12の一方が正極に設定され、他方が負極に設定される。本実施形態では、第1電極11が正極に設定され、第2電極12が負極に設定される。
【0030】
そして、正極に設定された第1電極11から負極に設定された第2電極12に向かって電場が生じる。電場の向きは、Y方向に略一致する。この電場によって、電解液40の金属陽イオン(例えばAg、Cu2+)が負極に設定された第2電極12に移動して還元される。
【0031】
その結果、第2電極12に、例えば、銀及び銅を含む析出層が形成されて光の反射率が高い反射面が形成された状態となる。すなわち、第1電極11及び第2電極12の間に電圧が印加されるときは、金属塩析出型素子1の変化領域1aは、光を反射する鏡状態に変化している。
【0032】
外部電極Eから電圧が印加されない場合、第1電極11及び第2電極12の間には電位差が生じない。すなわち、第1電極11及び第2電極12の間は無電位(フローティング電位)であるため、電解液40における金属陽イオン(例えばAg、Cu2+)及び陰イオン(例えばNO 、Cl)は分散した状態となっている。
【0033】
従って、電解液40はほぼ無色透明である。金属塩析出型素子1の変化領域1aでは、第1基板21及び第1電極11から電解液40を含めて第2電極12及び第2基板22に至るまで、金属塩析出型素子1の全体がほぼ無色透明となる。すなわち、第1電極11及び第2電極12の間に電圧が印加されないときは、金属塩析出型素子1の変化領域1aは、光を透過する透明状態である。
【0034】
金属塩析出型素子1の変化領域1aは、印加される電圧の大きさに反応して光の反射率が徐々に高くなる。つまり、金属塩析出型素子1の変化領域1aは、印加される電圧の大きさに応じて透明状態から鏡状態に徐々に変化する。
【0035】
図3に示されるように、スペーサ30は、接着剤35を介して第1電極11及び第2電極12のそれぞれに接着されている。接着剤35は、第1電極11とスペーサ30との間、及び第2電極12とスペーサ30との間、のそれぞれに塗布されている。本実施形態において、接着剤35は透明である。接着剤35は、例えば、透明なエポキシ系の接着剤である。Y方向における接着剤35のそれぞれの厚さは、例えば、50μmである(すなわち、Y方向における接着剤35の厚さは、第1電極11とスペーサ30との間の接着剤35と、第2電極12とスペーサ30との間の接着剤35とを合わせて、100μmである)。スペーサ30の厚さは、例えば、300μm以上且つ400μm以下である。従って、第1電極11及び第2電極12の間の距離は400μm以上且つ500μm以下である。
【0036】
図4(a)、図4(b)及び図4(c)は、金属塩析出型素子1を車載用のインナーミラー2として適用した例を示す模式図である。この例の場合、Y方向(金属塩析出型素子1の厚さ方向)から見て、金属塩析出型素子1の変化領域1aを囲むスペーサ30が透明であり、インナーミラー2は、フレームが透明なフレームレスのミラーを構成する。図4(a)は、金属塩析出型素子1を適用したインナーミラー2の変化領域1aが透明状態であるときの模式図を示す。この場合、Y方向から見て、金属塩析出型素子1の変化領域1a、及び変化領域1aを囲むスペーサ30の両方(金属塩析出型素子1の略全体)が透明である。よって、金属塩析出型素子1を介して、前方の視界を良好にすることができる。
【0037】
図4(b)は、金属塩析出型素子1を適用したインナーミラー2の変化領域1aが着色状態であるときの模式図を示す。この場合、Y方向から見て、金属塩析出型素子1の変化領域1aは、例えば、半透明な状態である。換言すれば、着色状態の変化領域1aでは、透明状態の変化領域1aと比べて、光の透過率が下げられている。これにより、例えば、太陽の西日などが自動車の内部に入る場合においても、金属塩析出型素子1の変化領域1aを介して信号を視認することで、信号などの点灯を確認することができる。また、変化領域1aを囲むスペーサ30が透明であるため、変化領域1aの周囲を介して視界を確保することができる。
【0038】
図4(c)は、金属塩析出型素子1を適用したインナーミラー2の変化領域1aが鏡状態であるときの模式図を示す。この場合、Y方向から見て、金属塩析出型素子1の変化領域1aは光を反射する。よって、金属塩析出型素子1の変化領域1aを介して、後方を視認することができる。また、変化領域1aを囲むスペーサ30が透明であるため、変化領域1aの周囲を介して視界を確保することができる。
【0039】
他に金属塩析出型素子1を適用する例として、金属塩析出型素子1を眼鏡に適用する場合が考えられる(不図示)。この眼鏡では、上部(例えば、装着者に装着された状態における眼鏡の上部)のみをフレーム有りにして、他(側部及び下部)をフレームレスにすることができる。この眼鏡は、金属塩析出型素子1の変化領域1aが着色状態に変化することで装着者の目を光線から保護することができる。また、この眼鏡は、上部以外(側部及び下部)がフレームレスであるため、装着者の視界を良好にすることができる。
【0040】
次に、本実施形態に係る金属塩析出型素子1から得られる作用効果について説明する。この金属塩析出型素子1では、電解液40が透明な第1電極11、透明な第2電極12及び透明なスペーサ30によって画成される空間Sに収容されている。第1電極11及び第2電極12は、互いに対向しており、対向する積層方向に沿って一対の透明基板20に挟まれている。第1電極11及び第2電極12に電圧が印加されず、電解液40が透明である場合には、一対の透明基板20、電解液40、第1電極11、第2電極12及びスペーサ30が透明であるため、金属塩析出型素子1が視認されたときにおける視界を良好にすることができる。第1電極11及び第2電極12に電圧が印加されて、電解液40が透明ではない場合には、不透明な電解液40が、透明な第1電極11、透明な第2電極12及び透明なスペーサ30に画成される空間Sに収容される。この場合、不透明な電解液40の周囲が透明であるため、金属塩析出型素子1が視認されたときにおける視界を良好にすることができる。また、金属塩析出型素子1が長方形の形状を呈する場合には、支点となる1つの辺を除いて、他の3つの辺を透明とすることができる。
【0041】
この金属塩析出型素子1では、接着剤35が透明であることにより、接着剤35が透明でない場合と比較して、接着剤35を視認し難くすることができるので、金属塩析出型素子1が視認されたときにおける視界を更に良好にすることができる。よって、金属塩析出型素子1が視認されたときにおける視界を更に良好にすることができる。
【0042】
この金属塩析出型素子1では、図2に示されるように、第2電極12と外部電極Eとを互いに接続する電極50が線状であることにより、電極50が線状でない場合と比較して、電極50を視認し難くすることができる。よって、金属塩析出型素子1が視認されたときにおける視界を更に良好にすることができる。この金属塩析出型素子1では、線状の電極50の太さが1.0mm以下であることにより、線状の電極50を更に視認し難くすることができる。よって、金属塩析出型素子1が視認されたときにおける視界を更に良好にすることができる。
【0043】
この金属塩析出型素子1では、線状の電極50は、金属塩析出型素子1の側面1bに沿うブリッジ部分50aにおいて、電解液40及びスペーサ30を越える。これにより、Y方向から見て、側面1bとブリッジ部分50aとが一つの辺における輪郭を形成することで、線状の電極50を更に視認し難くすることができる。よって、金属塩析出型素子1が視認されたときにおける視界を更に良好にすることができる。
【0044】
この金属塩析出型素子1では、線状の電極50のブリッジ部分50aが金属塩析出型素子1の側面1bに塗布された銀ペーストによって構成される。この場合、ブリッジ部分50aは金属塩析出型素子1の側面1bに沿って線状に延在する膜状の電極を構成する。ブリッジ部分50aは側面1bに沿う銀ペーストの薄膜であるため、この例において、線状の電極50を更に視認し難くすることができる。よって、金属塩析出型素子1が視認されたときにおける視界を更に良好にすることができる。
【0045】
この金属塩析出型素子1では、第1電極露出部11aに外部電極Eが接続され、第2電極露出部12aに線状の電極50が接続される。この場合、Y方向において、第1電極露出部11aは第2電極12と向かい合わないため、第1電極露出部11aへの外部電極Eの接続を容易に行うことができる。同様に、Y方向において、第2電極露出部12aは第1電極11と向かい合わないため、第2電極露出部12aへの電極50の接続を容易に行うことができる。
【0046】
この金属塩析出型素子1では、第1電極11及び第2電極12に挟まれるスペーサ30は、枠状に設けられたガラス部材によって構成される。この場合、ガラスビーズなどが混入された接着剤などをスペーサとして適用する場合と比べて、第1電極11と第2電極12との間の間隔を広く確保することができる。
【0047】
以上、本開示に係る金属塩析出型素子1の実施形態について説明した。しかしながら、本開示に係る金属塩析出型素子は、前述した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲において変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。すなわち、金属塩析出型素子の各部の構成は、上記の要旨を変更しない範囲において適宜変更可能である。
【0048】
例えば、前述した実施形態では、スペーサ30は、接着剤35を介して第1電極11及び第2電極12のそれぞれに接着され、接着剤35は、透明なエポキシ系の接着剤35である例について説明した。しかしながら、接着剤35は、例えばアクリル系など、エポキシ系以外の透明な接着剤35であってもよい。接着剤35は、ガラスビーズなどが混入されたものであってもよい。この場合、ガラスビーズなどを混入しない場合と比べて、Y方向における接着剤35の厚さを正確に確保することができる。
【0049】
また、スペーサ30は、第1電極11及び第2電極12のそれぞれに接着されていなくてもよく、第1電極11及び第2電極12のそれぞれに固定されていればよい。例えば、スペーサ30は、第1電極11及び第2電極12のそれぞれに設けられる凹凸部に嵌合されていてもよい。
【0050】
前述した実施形態では、電極50が線状の電極であって、線状の電極50が銀ペーストによって構成される例について説明した。しかしながら、電極は、例えば金属箔などの薄膜によって構成されていてもよいし、リード線などの線材によって構成されていてもよい。
【0051】
前述した実施形態では、金属塩析出型素子1が車載用のインナーミラー2として適用される例について説明した。しかしながら、金属塩析出型素子は、窓などの光を透過する部材の一部分として適用されてもよい。例えば、金属塩析出型素子は、フロントウィンドウの上部に適用されてもよい。金属塩析出型素子はフレームレスであるため、窓などの一部分として用いられても、視界を良好にすることができる。また、金属塩析出型素子は、窓などの一部分において、光の透過率を調整することが可能である。
【符号の説明】
【0052】
1…金属塩析出型素子、1a…変化領域、2…インナーミラー、11…第1電極、11a…第1電極露出部、12…第2電極、12a…第2電極露出部、20…透明基板、21…第1基板、21a…第1内面、21b…第1外面、21c…第1端部、22…第2基板、22a…第2内面、22b…第2外面、22c…第2端部、30…スペーサ、31,32,33,34…ガラス部材、35…接着剤、40…電解液、50…(線状の)電極、50a…ブリッジ部分、S…空間、E…外部電極。
図1
図2
図3
図4