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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020670
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】成長誘導部材及び組織再生器具
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/04 20130101AFI20240207BHJP
【FI】
A61F2/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020216035
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田澤 俊介
(72)【発明者】
【氏名】田中 泰周
(72)【発明者】
【氏名】入江 俊也
(72)【発明者】
【氏名】日比野 隼也
(72)【発明者】
【氏名】清川 致
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA15
4C097AA20
4C097CC02
4C097DD13
4C097EE19
4C097FF05
4C097FF17
(57)【要約】      (修正有)
【課題】部分的に損傷した組織の再生を誘導する成長誘導部材を提供する。
【解決手段】成長誘導部材10は、生分解性又は生体吸収性材料から形成され、損傷した組織の細胞の成長を誘導する成長誘導部材のユニットから構成され、複数のユニットが分離可能に結合される。組織再生器具は、生分解性又は生体吸収性材料から形成され、成長誘導部材が載置された組織の部位を被覆する被覆部材を備え、組織再生器具使用時における組織の延長方向の軸の周りに曲がる被覆部材の、組織の部位を覆う側の面の、面の曲がる方向に沿った略中央部に、成長誘導部材を接着し、組織再生器具の使用時における組織の延長方向における、成長誘導部材の略中央部が、被覆部材に接着されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性又は生体吸収性材料から形成され、損傷した組織の細胞の成長を誘導する成長誘導部材であって、
前記成長誘導部材のユニットから構成され、
複数の前記ユニットが分離可能に結合されたことを特徴とする成長誘導部材。
【請求項2】
前記成長誘導部材は、コラーゲン繊維束を含むことを特徴とする請求項1に記載の成長誘導部材。
【請求項3】
前記ユニットは、それぞれほぼ同じ量のコラーゲン繊維束を含むことを特徴とする請求項2に記載の成長誘導部材。
【請求項4】
前記成長誘導部材は、多孔体を含むことを特徴とする請求項1に記載の成長誘導部材。
【請求項5】
前記ユニットは、それぞれほぼ同じ量の多孔体を含むことを特徴とする請求項4に記載の成長誘導部材。
【請求項6】
前記ユニットを接着剤で結合したことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の成長誘導部材。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の成長誘導部材と、
生分解性又は生体吸収性の材料で形成され、前記成長誘導部材が載置された前記組織の部位を被覆する被覆部材と、
を備える組織再生器具。
【請求項8】
前記組織再生器具の使用時における前記組織の延長方向の軸の周りに曲がる前記被覆部材の、前記組織の部位を覆う側の面の、該面の曲がる方向に沿った略中央部に、前記成長誘導部材を接着し、
前記組織再生器具の使用時における前記組織の延長方向における、前記成長誘導部材の略中央部が、前記被覆部材に接着されていることを特徴とする請求項7に記載の組織再生器具。
【請求項9】
前記被覆部材は、長手方向に沿って、該長手方向の全長にわたるスリットが設けられた筒状体であることを特徴とする
請求項7又は8に記載の組織再生器具。
【請求項10】
前記筒状体は、前記生分解性又は生体吸収性の材料で形成された複数の層を含み、
前記複数の層のうち外側の層に比して内側の層における吸水時の収縮率が大きいことを特徴とする請求項9に記載の組織再生器具。
【請求項11】
前記筒状体は、前記生分解性又は生体吸収性の材料で形成された複数の層を含み、
前記複数の層のうち外側の層に比して内側の層における周方向の張力が大きいことを特徴とする請求項9に記載の組織再生器具。
【請求項12】
飽和吸水状態において、前記筒状体の内腔の断面積に対する、前記ユニットの長手方向に直交する方向の断面積の比率は、略25%であることを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1項に記載の組織再生器具。
【請求項13】
前記成長誘導部材は、3つの前記ユニットを含むことを特徴とする請求項12に記載の
組織再生器具。
【請求項14】
飽和吸水状態において、前記筒状体の内腔の断面積に対する、前記ユニットの長手方向に直交する方向の断面積の比率は、略20%であることを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1項に記載の組織再生器具。
【請求項15】
前記成長誘導部材は、4つの前記ユニットを含むことを特徴とする請求項14に記載の組織再生器具。
【請求項16】
前記被覆部材は、曲げくせのついたシート状被覆部材であることを特徴とする7又は8に記載の組織再生器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織の細胞の成長を誘導する成長誘導部材、及び、生体組織又は器官の再生に用いられる組織再生器具に関する。さらに、詳細には、病変等のために損傷又は切断したヒト組織又は器官、例えば、神経、血管等の成長を誘導する成長誘導部材及び、これらの組織又は器官を再生するための組織再生器具に関する。
【背景技術】
【0002】
事故や災害あるいは疾患により、ヒトの神経が損傷し、自己の回復力により損傷部を治癒できない場合には、知覚、感覚、運動能力等に障害が発生している。このような患者に対して、近年の顕微鏡下で損傷部位を接続する技術の発展にともない、切断された部位を接続する外科縫合手術が効果をあげている。
【0003】
しかしながら、欠損した領域が大きすぎる場合は上記接続による修復は不可能であり、ある程度の障害が発生してもその損傷部分の障害よりも重要度が低いと思われる他の部分から神経を採取し、損傷部位へ移植することが必要であった。このような場合、最初に発生した部位の障害よりも重要度が低いとはいえ、損傷を受けていない健常な他の部分の神経を採取するので、その部位には知覚、感覚、運動能力などの障害を発生させることになる。
自家神経移植の一例として、まず腓腹神経を採取し、損傷部分に該神経の移植を行うことが挙げられるが、通常、足首から足の甲部分の皮膚感覚等が消失することが問題であった。このため、他の部分(足首など)に支障を来すことなく、損傷部分の修復が可能な治療方法が切望されていた。
【0004】
これに対して、生体分解性材料又は生体吸収性材料で形成された管状体が、内腔に生体分解性材料又は生体吸収性材料で形成されたスポンジ状のマトリックス又は/及び直線状の神経誘導部材を備え、且つ、管状体の一方の端部に一定の空間部を設けた神経再生誘導管が提案された(特許文献1参照)。
【0005】
上述の神経再生誘導管は、切断された神経断端に接続することにより使用されるため、末梢神経等が完全に断裂した場合には有効であるが、部分的に損傷し、完全に断裂するのではなく残存する部分がある場合には適用することができなかった。
【0006】
そこで、末梢神経等が部分的に損傷した場合にも適用できる器具として、軸方向に沿って全長にわたるスリットが設けられ、生体吸収性高分子材料からなる筒状体を有する神経保護材が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4605985号公報
【特許文献2】WO2019/054407A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように全長にわたるスリットが設けられた筒状体を、部分的に損傷した神経等の再生に適用する場合には、神経等の成長を誘導して、その成長を補助する誘導部材を、神経等の欠損部位に応じた大きさで設ける必要がある。しかし、神経等が完全に断裂した場合に用いられる特許文献1に記載の神経再生誘導管に設けられる誘導部材は、神経等の断端
間に形成される空間を占めることができるように、内腔のほぼ全断面積にわたって充填されることを前提にしているため、部分的な損傷の大きさに応じた誘導部材を準備することが難しかった。
【0009】
本発明は、部分的に損傷した組織の再生を誘導する成長誘導部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するための本発明は、
生分解性又は生体吸収性材料から形成され、損傷した組織の細胞の成長を誘導する成長誘導部材であって、
前記成長誘導部材のユニットから構成され、
複数の前記ユニットが分離可能に結合されたことを特徴とする成長誘導部材。
【0011】
本発明に係る成長誘導部材は、成長誘導部材のユニットから構成され、複数のユニットが分離可能に結合されているので、部分的に損傷した組織の大きさに適した数のユニットを残し、他のユニットを分離することにより、損傷した組織の大きさに応じた成長誘導部材を得ることができる。このように、本発明によれば、部分的に損傷した組織の再生を誘導する成長誘導部材を提供することができる。
成長誘導部材のユニットは、例えば、接着剤等を用いて結合することにより、溶解等によって化学的に解除可能な態様で結合されていてもよい。また、成長誘導部材のユニットは、切り離し等によって物理的に解除可能な態様で結合されていてもよく、例えば、薄肉の連結部を介してユニットが結合されるような構造でもよい。
【0012】
また、本発明において、前記成長誘導部材は、コラーゲン繊維束を含むようにしてもよい。
【0013】
また、本発明において、それぞれほぼ同じ量のコラーゲン繊維束を含むようにしてもよい。
【0014】
このようにすれば、各ユニットに含まれるコラーゲン繊維束の量がほぼ同じなので、損傷した組織の大きさに応じて、適切なユニットの数を容易に把握することができる。
【0015】
また、本発明において、前記成長誘導部材は、多孔体を含むようにしてもよい。
ここで、多孔体は、スポンジを含むが、これに限られない。
【0016】
また、本発明において、前記ユニットは、それぞれほぼ同じ量の多孔体を含むようにしてもよい。
【0017】
このようにすれば、各ユニットに含まれる多孔体の量がほぼ同じなので、損傷した組織の大きさに応じて、適切なユニットの数を容易に把握することができる。
【0018】
また、本発明において、前記ユニットを接着剤で結合してもよい。
【0019】
接着剤として水溶性の接着剤を用いれば、成長誘導部材を準備する段階で、生理食塩水等で吸水させる際に、接着剤が容易に溶解し、ユニットを簡単に分離することができ、作業性に優れる。また、水溶性でない接着剤を用いて、ユニットを物理的に簡単に分離できるような態様で結合してもよい。
【0020】
また、本発明は、前記成長誘導部材と、
生分解性又は生体吸収性の材料で形成され、前記成長誘導部材が載置された前記組織の部位を被覆する被覆部材と、
を備える組織再生器具である。
【0021】
これによれば、組織や器官が完全に断裂したのではなく、部分的に損傷した場合に、損傷した部位の大きさに応じた数のユニットの成長誘導部材を用いることにより、組織や器官の再生に適した足場を提供することができる。また、被覆部材により組織又は器官を被覆し、縫合により閉じることにより、完全に断裂していなくとも、組織又は器官の損傷した部位を含む領域を、被覆部材によって覆うことができる。このように被覆部材により、周囲の組織等の侵入から保護し、組織又は器官の再生のための空間を確保することができる。
【0022】
また、本発明において、前記組織再生器具の使用時における前記組織の延長方向の軸の周りに曲がる前記被覆部材の、前記組織の部位を覆う側の面の、該面の曲がる方向に沿った略中央部に、前記成長誘導部材を接着し、前記組織再生器具の使用時における前記組織の延長方向における、前記成長誘導部材の略中央部が、前記被覆部材に接着されているようにしてもよい。
【0023】
これによれば、神経等の組織に損傷が発生した場合に、周囲の他の組織から保護するために当該損傷部位を含む部位を覆う被覆部材と、損傷した組織の成長を誘導する成長誘導部材とが、接着剤によって接着され、一体化されているので、組織再生器具を組織の損傷部位に適用する際の作業性が向上する。本発明では、成長誘導部材が、組織再生器具の使用時における組織の延長方向の軸の周りに曲がる被覆部材の、組織の部位を覆う側の面の、該面の曲がる方向に沿った略中央部に接着されている。このため、被覆部材の、組織の部位を覆う側の面の、該面の曲がる方向に沿った両端部の間から、損傷した部位を含む組織を導入する際に、両端部に対して、略中央部に成長誘導部材が配置されているので、成長誘導部材を、簡易かつ適切に、損傷した部位に配置することができる。また、本発明では、組織再生器具の使用時における組織の延長方向における、成長誘導部材の略中央部が、被覆部材に接着されているので、使用時における組織の延長方向のいずれの側からも成長誘導部材の余分な部分を切除することができるので、欠損部位の、組織の延長方向の長さに合わせて、簡便に成長誘導部材の長さを調整できる。
【0024】
また、本発明において、前記被覆部材は、長手方向に沿って、該長手方向の全長にわたるスリットが設けられた筒状体であることを特徴とする組織再生器具である。
【0025】
これによれば、筒状部材のスリットから、組織又は器官を内腔に導入し、縫合によりスリットを閉じることにより、完全に断裂していなくとも、組織又は器官の損傷した部位を含む領域を、筒状部材によって覆うことができる。このように筒状部材により、周囲の組織等の侵入から保護し、組織又は器官の再生のための空間を確保することができる。
【0026】
また、前記筒状体は、前記生分解性又は生体吸収性の材料で形成された複数の層を含み、前記複数の層のうち外側の層に比して内側の層における吸水時の収縮率が大きいようにしてもよい。
【0027】
これによれば、生分解性又は生体吸収性の材料で形成された複数の層を含む筒状体の、複数の層のうち外側の層に比して内側の層における吸水時の収縮率が大きいので、スリットを開く方向に作用する外側の層の吸水時の収縮率に比して、内側の層の吸水時の収縮率が大きいので、スリットの開きを抑制する方向に力が作用し、吸水時及び生体内の分解過程においても、スリットの開きが抑制される。
【0028】
また、前記筒状体は、前記生分解性又は生体吸収性の材料で形成された複数の層を含み、前記複数の層のうち外側の層に比して内側の層における周方向の張力が大きいようにしてもよい。
【0029】
これによれば、生分解性又は生体吸収性の材料で形成された複数の層を含む筒状体の、複数の層のうち外側の層に比して内側の層における周方向の張力が大きいので、吸水時及び生体内の分解過程に、スリットに対して、その開きを抑制する方向に力が作用し、スリットの開きが抑制される。
【0030】
また、本発明において、飽和吸水状態において、前記筒状体の内腔の断面積に対する、前記ユニットの長手方向に直交する方向の断面積の比率は、略25%であるようにしてもよい。
【0031】
これによれば、筒状体の内腔の断面積に対する、組織又は器官の損傷した部位の大きさに応じて、内腔の断面積の略25%のユニットを単位として、適切なユニットの数を選択することができる。
【0032】
また、本発明において、前記成長誘導部材は、3つの前記ユニットを含むようにしてもよい。
【0033】
このようにすれば、筒状体の内腔の断面積に対する、組織又は器官の損傷した部位の大きさに応じて、内腔の断面積の略25%、50%、75%の大きさの成長誘導部材を提供できる。
【0034】
また、本発明において、飽和吸水状態において、前記筒状体の内腔の断面積に対する、前記ユニットの長手方向に直交する方向の断面積の比率は、略20%であるようにしてもよい。
【0035】
これによれば、筒状体の内腔の断面積に対する、組織又は器官の損傷した部位の大きさに応じて、内腔の断面積の略20%のユニットを単位として、適切なユニットの数を選択することができる。
【0036】
また、本発明において、前記成長誘導部材は、4つの前記ユニットを含むようにしてもよい。
【0037】
このようにすれば、筒状体の内腔の断面積に対する、組織又は器官の損傷した部位の大きさに応じて、内腔の断面積の略20%、40、60%、80%の大きさの成長誘導部材を提供できる。
【0038】
また、本発明において、前記被覆部材は、曲げくせのついたシート状被覆部材であるようにしてもよい。
【0039】
これによれば、曲げくせのついたシート状被覆部材の、曲がる方向を含む面に直交する方向から見たとき、曲がる方向の両端部から略等しい距離の位置に成長誘導部材が接着される。このため、損傷した部位側から組織の部位を覆うように組織再生器具を導入する際に、成長誘導部材が損傷した部位に正対する位置に配置されているので、組織再生器具を損傷した部位に対して適切な位置関係となるように配置する作業を簡易に行うことができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、部分的に損傷した組織の再生を誘導する成長誘導部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1図1は、実施形態1に係る筒状体の外観斜視図である。
図2図2(A)~(C)は、実施形態1に係る筒状体の製造方法を説明する模式図である。
図3図3(A)及び(B)は、実施形態1に係る筒状体の各部の寸法を説明する模式図である。
図4図4は、実施形態1に係る筒状体の各部の寸法を説明する模式図である。
図5図5(A),(B)は、実施形態1に係るコラーゲン繊維束の製造方法を説明する図である。
図6図6は、実施形態1に係るコラーゲン繊維束の外観斜視図である。
図7図7(A)~(C)は、実施形態1に係るスポンジの製造方法を説明する図である。
図8図8(A)~(C)は、実施形態1に係る他のスポンジの製造方法を説明する図である。
図9図9は、実施形態1に係る他のスポンジの外観斜視図である。
図10図10(A)~(C)は、実施形態1に係る神経再生誘導管の使用方法を説明する図である。
図11図11は、実施形態2に係る神経再生誘導管を構成する筒状体へのコラーゲン繊維束の接着工程を説明する図である。
図12図12は、実施形態2に係る神経再生誘導管の全体構成図である。
図13図13(A),(B)は、実施形態2に係る神経再生誘導管の使用方法を説明する図である。
図14図14は、実施形態3に係る神経再生誘導シートを構成するシート状被覆部材へのコラーゲン繊維束の接着工程を説明する図である。
図15図15は、実施形態3に係る神経再生誘導シートの全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下に示す実施形態は本発明の実施形態の一例に過ぎず、本発明の構成を特に限定するものではない。
【0043】
(実施形態1)
実施形態1に係る組織再生器具である神経再生誘導管1について以下に説明する。神経再生誘導管1は、被覆部材である筒状体10と、後述する成長誘導部材であるコラーゲン繊維束30又はスポンジ40等とを含む。
【0044】
<筒状体>
図1に、本実施形態に係る組織再生器具である神経再生誘導管1を構成する筒状体10の外観を示す。
本実施形態に係る筒状体10は、外部に貫通する内腔11を長手方向(図1にLで示す)に有する構造体であり、略円筒形状をなす周壁部12を有する。また、本実施形態に係る筒状体10では、その長手方向の全長にわたってスリット13が形成されている。筒状体10を横断面で見たとき、スリット13によって、筒状体10の輪郭が切断されている。このため、筒状体10の周壁部12の、スリット13を介して対向する周方向端部14及び周方向端部15は、周壁部12の弾性変形により互いに離間可能となっている。また、本実施形態に係る筒状体10は、好ましくは、内径約0.05~10mm、外径約0.1~12mmであり、さらに好ましくは、内径約0.05~5mm、外径約0.1~6mmである。筒状体10の全長は、通常、約5~50mmである。
【0045】
本実施形態に係る神経再生誘導管1は、外傷等による末梢神経の欠損部に導入し、欠損部の両断端に連続性を持たせ、神経再生の誘導と機能再建に好適に用いられる。具体的には、神経に圧迫損傷が生じたり、神経に欠損はないものの部分断裂が生じたり、神経が部分断裂した部位に欠損が生じたりした場合に、本実施形態に係る神経再生誘導管1を適用することができる。生理食塩水等により吸水させたコラーゲン繊維束30又はスポンジを欠損部位の大きさに応じて適宜の個数のユニットに分離して載置し、同様に生理食塩水等により吸水させた筒状体10のスリット13を開き、周方向端部14と周方向端部15との間から、部分損傷が生じた部位を含む神経を内腔11へと導入し、縫合する。このようにして、筒状体10により部分損傷等が生じた部位に成長の足場が提供されるとともに、部分損傷等が生じた部位が覆われ、神経を再生するための空間が提供される。本実施形態に係る筒状体10は、2層以上に積層された多層構造を有し、複数の層のうち外側の層に比して内側の層における吸水時の収縮率が大きくなるように設計されており、スリット13の開きが抑制されるので、筒状体10の周方向端部14と周方向端部15を神経の一部とともに縫合する際の作業性が向上する。また、本実施形態に係る筒状体10は、2層以上に積層された多層構造を有し、複数の層のうち外側の層に比して内側の層における周方向の張力が大きくなるように設計することもできる。また、本実施形態に係る筒状体10は、2層以上に積層された多層構造を有し、複数の層のうち内側の層は、外側の層に比して、繊維を多く含むように設計することもできる。また、筒状体10及びコラーゲン繊維束30又はスポンジ40等は、生分解性又は生体吸収性材料により形成されるので、所定の時間の経過により、生体内で分解され、又は、代謝される。
【0046】
筒状体は、上述の円筒状に限らず、たとえば、角筒状、円錐台状、角錐台状などの形状を有してもよい。糸状物が筒状鋳型に巻き取られて筒状体は形成されるため、筒状体の横断面は、通常、凹みのない形状を有する。凹みのない形状とは、スリットを除き、その輪郭のどの部分をとっても、隣接する輪郭上の点の両側を結んだ直線より中心方向に落ち込んでいないような形状を意味する。例えば、円形、楕円形、卵形、扇形、弓形、または多角形(三角形、四角形、五角形、六角形、七角形、八角形など)などが挙げられる。
【0047】
本実施形態に係る筒状体を形成する生分解性材料又は生体吸収性材料としては、コラーゲン、ゼラチン等のタンパク質もしくはその誘導体、キチン、キトサン等の多糖類もしくはその誘導体、エラスチン等の生物由来の材料や、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ酪酸等の合成高分子材料が挙げられる。
【0048】
本実施形態に係るコラーゲンとしては、その由来は特に限定されないが、一般的には、牛、豚、鳥類、魚類、霊長類、兎、羊、鼠、ヒトなどがあげられる。また、コラーゲンはこれらの皮膚、腱、骨、軟骨、臓器などから公知の各種抽出方法により得られるものであるが、これらの特定の部位に限定されるものではない。さらに、本実施形態に用いられるコラーゲンのタイプについては、特定の分類可能な型に限定されるものではないが、取扱上の観点から、I、III、IV型が好適である。
【0049】
本実施形態に係る筒状体10の製造法について以下に詳述する。
本実施形態に係る筒状体10は、生分解性又は生体吸収性材料からなる糸状物を、例えば該糸状物を送り出す機構である糸分配器などを用いて、回転する筒状鋳型に多層になるように巻き付け、成形処理した後に、該鋳型を抜き取ることにより製造される。糸状物とは、一般的な糸のように、細長く柔軟性を有するものを意味する。糸状物の外径は、特に限定されるものではないが、通常、約5μm~1000μmが好適であり、約20~200μmが最適である。糸分配器は、生分解性糸状物を送り出すための機構であり、例えば円筒状もしくは角筒状などの鋳型の回転軸方向に一定速度で移動しながら糸状物を送り出す機能を有することが好ましい。ここでは、糸状物が、本発明の繊維材料に対応する。
【0050】
糸状物に対する成形処理とは、鋳型に巻き付けられた糸状物がそのままの形状を維持するための処理工程である。成形処理としては、鋳型に巻き取られた糸状物同士を接着剤で接着し形状を維持させる方法と、糸状物の物理化学的性質を変化させる方法がある。
前者の方法としては、例えば、デンプン、にかわ、フィブリン、ゼラチン、コラーゲン、キチン、キトサン等の天然物接着剤や、ポリアミド、ポリエステルなどの合成接着剤で、糸状物同士を接着する処理方法が挙げられる。具体的な操作としては、通常、溶液状の接着剤を鋳型に巻き付けられた糸状物に含浸させ、乾燥を行う。合成接着剤としては、生分解性および生体吸収性を有する脂肪族ポリエステル(例:ポリ乳酸)等の接着剤が好ましい。また、糸状物が溶解性の高い材料(例:コラーゲン、ゼラチン)からなる場合には、生分解性材料の溶液(例:コラーゲン水溶液)や単なる溶媒(水など)を鋳型に巻き取られた糸状物に含浸させることによって、糸状物が再溶解して糸状物同士が相溶化し、その後乾燥することによって、成形処理を行うことができる。さらに、あらかじめ生分解性材料の溶液や溶媒に濡らした糸状物を鋳型に巻き付けて、乾燥を行っても同様の成形処理が可能である。
後者の方法としては、架橋剤を用いたり、紫外線、電子線、放射線の照射や加熱によって、架橋処理を施し、糸状物の分子間で化学結合を形成させ、3次元網目構造を有する硬化した糸状物を形成させる方法が挙げられる。
また、これら2種類以上の成形処理を同じ糸状物に施してもよい。
加熱による架橋処理(熱架橋処理)を施す場合は、通常、約40~300℃で約0.5~50時間の処理が行われる。
【0051】
図2(A)~(C)は、本実施形態に係る筒状体10の製造方法を模式的に示す図である。
本実施形態では、コラーゲン製の糸状物によって筒状体10を形成する。図示しない糸分配器から送り出された糸状物を、円筒状の鋳型200に巻き付ける。
図1(A)は、鋳型200の周囲に形成された筒状体10の最内層101を示す。図1(A)~(C)は、筒状体10の多層構造を模式的に示しており、各層101~103の詳細構造は捨象している。実際には、各層101~103ともコラーゲン製の糸状物に対する成形処理を施すことにより形成されている。各層101~103を構成する糸状物の巻き方については特に限定されない。また、筒状体10の各層101~103は、鋳型200の外径方向に一重に巻き付けられた糸状物から形成されてもよいし、鋳型200の外径方向に複数回巻き付けられた糸状物から形成されてもよい。各層101~103における糸状物の巻き付け方は同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0052】
まず、鋳型200の外周に巻き付けた糸状物に対しては、コラーゲン水溶液を含浸させずに、熱架橋処理のみを施す。最内層101については、熱架橋処理を施すことにより、コラーゲン製の糸状物の繊維を不溶化する。最内層101は、コラーゲン水溶液の液量を調整し、糸状物の繊維が残存するようしてもよい。また、糸状物にコラーゲン水溶液を含浸させた後に、熱架橋処理を施してもよい。
このようにして、円筒状の鋳型200の外周に巻き付けた糸状物によって、筒状体10の最内層101を形成する。
【0053】
最内層101を形成した後に、最内層101の外周面にさらに糸状物を巻き付ける。このように巻き付けた糸状物にコラーゲン水溶液を含浸させることにより、糸状物を相溶化する。
そして、コラーゲン水溶液を含浸させた糸状物を乾燥させた後に、熱架橋処理を施すことにより、最内層101の外周側に図1(B)に示す中位層102を形成する。
【0054】
中位層102を形成した後に、中位層102の外周面にさらに糸状物を巻き付ける。こ
のように巻き付けた糸状物にコラーゲン水溶液を含浸させることにより、糸状物を相溶化する。
そして、コラーゲン水溶液を含浸させた糸状物を乾燥させた後に、熱架橋処理を施すことにより、中位層102の外周側に図1(C)に示す最外層103を形成する。
【0055】
次に、鋳型200の外周に形成された、最内層101、中位層102及び最外層103からなる円筒状の基礎部材100に対して中和処理を行う。上述のようにして製造された基礎部材100は、酸性又は塩基性下では水に溶けやすくなるため、中和処理を行い、水に溶けづらくすることにより、生体内での耐分解性を維持できるようにする。
【0056】
上述のように、円筒状の鋳型200の外周に形成された基礎部材100に対して中和処理を施した後に、円筒状の鋳型200を抜き取ることにより、円筒形の基礎部材100を得る。
そして、この円筒形の基礎部材100に対して、長手方向(図1に矢印Lで示す)、すなわち、円筒形の回転軸方向の全長にわたって、長手方向に沿ってスリット13を形成する。スリット13は、基礎部材100の周壁部12の一部を、長手方向の全長にわたって切断することにより形成する。
このように、円筒形の基礎部材100にスリット13を形成することにより、本実施形態に係る筒状体10を製造することができる。
【0057】
上述の実施形態では、筒状体10を最内層101、中位層102及び最外層103の3層から構成しているが、筒状体10の層構造はこれに限られない。筒状体10を内層と外層の2層から構成し、外層に比して内層に、糸状物の繊維がより多く残存するようにしてもよい。また、筒状体10は、複数の層から構成されていればよく、4層以上の層から構成されてもよい。外側の層に比して、糸状物の繊維が残存している層が内側に配置されていればよく、必ずしも最内層に最も繊維が残存している場合に限られない。外側から内側に向けて糸状物の繊維の残存量が多くなるようにしてもよいし、その場合でも、繊維の残存量が多い層の間に、繊維の残存量の少ない又は残存しない層が存在するように各層が配置されていてもよい。筒状体10は、外側よりも内側において、より糸状物の繊維が残存し、その結果、外側に比して内側の方が、張力が大きく、又は吸水時の収縮率が高くなるように各層を形成すればよい。
【0058】
(筒状体の実施例)
以下に、本発明の筒状体を実施例により詳細に説明するが、実施例の一例に過ぎず、本発明の構成を特に限定するものではない。
【0059】
まず、蒸留水を溶媒として5wt%のコラーゲン溶液を作成し、常法に準じて、シリンジから凝固槽中に、このコラーゲン溶液を押し出すことにより、コラーゲン繊維を作製する。
【0060】
コラーゲン繊維は、99.5%のエタノールを溶媒とする脱水槽を通過させた後に、円筒状の鋳型の外周に巻き付けられる。所定の回転速度で回転する鋳型の軸方向に対して、糸分配器を所定速度で移動させることにより、鋳型の外周にコラーゲン繊維を巻き付ける。鋳型の軸方向に対して、糸分配器を所定回数往復移動させることにより、コラーゲン繊維を径方向に所望の回数だけ重ねて巻きつけることができる。
【0061】
次に、鋳型の外周に巻き付けられたコラーゲン繊維に、コラーゲン水溶液を含浸させる。なお、実施形態で説明した最内層を形成する際には、コラーゲン水溶液を含浸させる工程は省略する。
【0062】
次に、鋳型の外周に巻き付けられたコラーゲン繊維に対して、熱架橋処理を行う。ここでは、約130℃で12時間加熱する。
【0063】
このようにして、鋳型の外周にコラーゲン繊維の一つの層を形成する。層の数に応じて、コラーゲン繊維の巻き付け、コラーゲン水溶液の含浸、熱架橋処理を繰り返す。
【0064】
そして、鋳型の外周に巻き付けられ、複数層をなすコラーゲン繊維に対して、7.0wt%の炭酸水素ナトリウム水溶液に浸漬することにより、中和処理を行う。
その後、鋳型の外周に巻き付けられ、複数層をなすコラーゲン繊維を清浄な水で洗浄する。
【0065】
その後、鋳型を抜き取り、コラーゲン繊維の複数層を含む円筒状の基礎部材を得る。
この基礎部材の、長手方向に沿って、長手方向の全長にわたるスリットを形成し、筒状体を作製する。
【0066】
このように作製された筒状体について乾燥時の内径(D)、スリットの開き(Wd)、乾燥時のスリット開きに対する内径の比D/Wd(%で表記)と、吸水時のスリットの開き(Ww)、開帳率D/Ww(%で表記)、乾燥時に対する吸水時のスリット開き具合の値を測定した。比較例として、コラーゲンからなる円筒状の基礎部材の長手方向に沿って長手方向の全長にわたるスリットを形成した筒状体についても、乾燥時の内径(D)、スリットの開き(Wd)、乾燥時のスリットの開きに対する内径の比D/Wd(%で表記)、吸水時のスリットの開き(Ww)、開帳率D/Ww(%で表記)の値を測定した。図3及び図4に、筒状体10と各部の寸法の関係を模式的に示す。図3(A)は、乾燥時の筒状体10を示し、図3(B)及び図4は、吸水時の筒状体10を示す。
【0067】
<測定方法>
以下に、開帳率を含め、実施例及び比較例に対して行った各特性の測定方法を説明する。
【0068】
まず、測定対象である筒状体について、長さ5mm程度の試験片を切り出す。
次に、マイクロスコープと、マイクロスコープによって取得された画像を投影又は表示する投影機やディスプレイ等を用いて、乾燥状態の試験片の内径について、X軸方向及びY軸方向の長さ、並びに、スリットの開き(Wd)を測定する。ここで、スリットの開き(Wd)は、図3(A)に示すように、スリット13を介して対向する周方向端部14及び15の内径側端部14a及び15aの間隔(図3(A)では、X座標の差分で与えられるX軸方向の距離)である。
【0069】
次に、X軸方向及びY軸方向の長さの平均を算出する。このようにして、乾燥状態における試験片の内径(D)の測定値を得る。図3(A)に示す座標軸は、説明のためにY軸はスリットを含む方向に設定しているが、実際には、互いに直交するX軸とY軸に対して試験片を適宜配置すればよい。このとき、スリットの開き(Wd)についても、スリットに沿って(図3(A)のZ軸方向)、試験片の複数個所で測定した値の平均値を、スリットの開き(Wd)の測定値としてもよい。
【0070】
次に、試験片を37℃の生理食塩水に約1時間浸漬し、十分に吸水、湿潤させる。
【0071】
次に、湿潤状態の試験片について、スリットの開き(Ww)を測定する。吸水時のスリットの開き(Ww)は、図3(B)及び図4に示すように、乾燥時と同様に、スリット13を介して対向する周方向端部14及び15の内径側端部14a及び15aの間隔である。また、図4に示すように、吸水時の筒状体10にあっては、周方向縁部16及び17が
互いに径方向に重なる場合がある。このように、筒状体10の周壁部12の一部が径方向に重なる場合には、周方向端部14の内径側端部14aに対して、周方向端部15の内径側端部15aは、X軸方向に対して、図3(B)とは反対側に位置することになるので、スリットの開き(Ww)を負の値として、符号を含めて定義することにする。
【0072】
このようにして測定した吸水時のスリットの開き(Ww)と乾燥時の内径(D)から、開帳率を(Ww/D)×100によって算出する。
また、吸水時のスリットの開き(Ww)と乾燥時のスリット部の開き(Wd)から、開き具合をWw/Wdによって算出する。
【0073】
【表1】

表1は、実施例であるW1,W2,W3,W4,W5,W6,W7及びW8に対する測定結果を示す。
【0074】
【表2】

表2は、比較例であるT1,T2及びT3に対する測定結果を示す。
比較例であるT1~T3の筒状体は、実施例の筒状体W1~W8と同様に、鋳型の外周にコラーゲン繊維を巻き付け、最内層、中位層、最外層の3層を形成した複数層を含む筒状体であるが、製造方法は実施例W1~W8とは異なる。具体的には、上述の実施例における最外層形成時の処理を比較例の最内層を構成するコラーゲン繊維に施し、実施例における中位層形成時の処理を比較例の中位層を構成するコラーゲン繊維に施し、実施例における最内層形成時の処理を比較例の最外層を構成するコラーゲン繊維に施している。このようにて製造された比較例T1~T3の筒状体にも長手方向の全長にわたるスリットを設けており、内側の層に比して外側の層における吸水時の収縮率が大きく、内側の層に比し
て外側の層における周方向の張力が大きく、また、外側の層は内側の層に比して、繊維を多く含む。
【0075】
表1に示すように、実施例の筒状体W1~W8では、開張率(Re)は、16%から90%となっており、0%~100%の範囲に含まれている。開張率は100%以下であれば、臨床で使用するには問題がない。スリットの開きが大きいと、生体内の分解過程で開く可能性があるため、開張率は50%以下、すなわち、0%~50%の範囲に含まれることが望ましく、0%であればさらに望ましい。
これに対して、表2に示すように、比較例の筒状体T1~T3では、開張率(Re)は、272%から310%であり、吸水時のスリットの開き(Wd)は乾燥時の内径(D)に比して3倍に近い大きさとなっており、筒状体のスリットが完全に開いた状態となっている。
このように、実施例では、比較例に比して、開張率(Re)が絶対値として小さく抑えられており、吸水時及び生体内の分解過程のスリットの開きを抑制することができる。
【0076】
ここでは、実施例として、吸水時のスリットの開きが正の値をとるものを示しているが、上述したように、吸水時のスリットの開きが負の値となり、開張率(Re)が負の値となる場合もある。筒状体の周方向縁部の重なりが大きい場合には、作業性が損なわれ、又は筒状体で覆われた神経等の組織が圧迫される可能性があるので、開張率(Re)は、-100%以上0%以下であることが望ましい。また、開張率(Re)は、-50%以上0%以下であることがより望ましく、0%であることがさらに望ましい。開張率(Re)が正の場合を含めて示すと、開張率(Re)は、-100%以上100%以下であることが望ましい。また、開張率(Re)は、-50%以上50%以下であることがより望ましく、0%であることがさらに望ましい。
【0077】
また、表1の最右欄には、実施例W1~W8について、乾燥時に対する吸水時のスリット開き具合(Rs)の測定値を示している。ここでは、Rs=Wd/Wwによって算出している。表2の最右欄にも、比較例T1~T3について、乾燥時に対する吸水時のスリット開き具合(Rs)の測定値を示している。実施例では、Rsの値は、0.7倍~16.3倍であるのに対して、比較例では、Rsの値は、35倍~189.8倍となっており、実施例の筒状体のRsは、比較例の筒状体に比して小さい。スリットの開き具合(Rs)は、20倍以下であることが望ましい。また、スリットの開き具合(Rs)は、3倍以下であることがより望ましく、0倍であることがさらに望ましい。
【0078】
ここでは、実施例として、吸水時のスリット開きが正の値をとるものを示しているが、吸水時のスリットの開きが負の値となり、スリットの開き具合(Rs)が負の値となる場合もある。筒状体の周方向縁部の重なりが大きい場合には、作業性が損なわれ、又は筒状体で覆われた神経等の組織が圧迫される可能性があるので、スリットの開き具合(Rs)は、-20倍以上0倍以下であることが望ましい。また、スリットの開き具合(Rs)は、-3倍以上0倍以下であることがより望ましく、0倍であることがさらに望ましい。スリットの開き具合(Rs)が正の場合を含めて示すと、スリットの開き具合(Rs)は、-20倍以上20倍以下であることが望ましい。また、スリットの開き具合(Rs)は、-3倍以上3倍以下であることがより望ましく、0倍であることがさらに望ましい。
このように、実施例では、比較例に比して、乾燥時に対する吸水時のスリット開き具合(Rs)が絶対として小さく抑えられており、吸水時及び生体内の分解過程のスリットの開きを抑制することができる。
【0079】
<成長誘導部材>
(コラーゲン繊維束)
筒状体10の内腔11には、生分解性又は生体吸収性材料からなる成長誘導部材を備え
る。この成長誘導部材は、損傷した組織の細胞が、長手方向へ成長するのを誘導する足場となる部材である。成長誘導部材の形態としては、例えば、繊維束、スポンジ、多孔体、並びに、織布、不織布及びシートなどの膜状物を変形又は細断したものが挙げられる。
【0080】
本実施形態に係る成長誘導部材を形成する生分解性材料又は生体吸収性材料としては、コラーゲン、ゼラチン等のタンパク質もしくはその誘導体、キチン、キトサン等の多糖類もしくはその誘導体、エラスチン等の生物由来の材料や、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ酪酸等の合成高分子材料が挙げられる。
【0081】
本実施形態に係るコラーゲンとしては、その由来は特に限定されないが、一般的には、牛、豚、鳥類、魚類、霊長類、兎、羊、鼠、ヒトなどがあげられる。また、コラーゲンはこれらの皮膚、腱、骨、軟骨、臓器などから公知の各種抽出方法により得られるものであるが、これらの特定の部位に限定されるものではない。さらに、本実施形態に用いられるコラーゲンのタイプについては、特定の分類可能な型に限定されるものではないが、取扱上の観点から、I、III、IV型が好適である。
【0082】
ここで、繊維束とは、複数の生分解性又は生体吸収性材料からなる糸状物から構成されたものをいう。また、糸状物とは、単糸及び縒糸の総称である。
【0083】
単糸は、例えば、湿式紡糸法、乾式紡糸法及び溶融紡糸法等で製造することができる。生分解性材料としてコラーゲンを用いる場合には、製造が容易であり、かつ製造コストが安価である湿式紡糸法が好ましい。コラーゲン単糸の直径は、通常、約1~1000μmであり、好ましくは約1~200μm、さらに好ましくは約1~50μmである。
【0084】
湿式紡糸法では、例えば、コラーゲンの水溶液を作製し、常法に準じて、シリンジから、凝固槽に押し出すことにより、コラーゲン単糸を作製する。凝固槽に押し出されたコラーゲン単糸は、脱水槽を通過させた後に、ボビンに巻き取られる。
【0085】
ボビンに巻き取られたコラーゲン単糸に対して、架橋剤を用い、または紫外線、電子線、放射線の照射や加熱によって、架橋処理を施す。これにより、糸状物の分子間で化学結合を形成させ、3次元網目構造を有する硬化した糸状物が形成される。
加熱による架橋処理(熱架橋処理)を施す場合は、通常、約40~300℃で約0.5~50時間の処理が行われる。
【0086】
次に、架橋処理が施されたコラーゲン単糸から、繊維束を形成する。例えば、少なくとも向かい合う2辺が平行な四角形の巻き枠の、この2辺に直交するように、ボビンから引き出されたコラーゲン単糸を、複数回巻取り、巻き取られたコラーゲン単糸を2辺付近で切断することにより、複数本のコラーゲン単糸から構成されるコラーゲン繊維束を形成することができる。
【0087】
コラーゲン繊維束を中和処理溶液に浸漬することにより、中和処理を行う。コラーゲン単糸は熱架橋処理されているため、コラーゲン繊維束を中和処理溶液に浸漬することにより、コラーゲン単糸の周囲が若干溶解する。中和処理溶液から引き上げたコラーゲン繊維束を乾燥することにより、隣接するコラーゲン単糸を接着することができる。
【0088】
このようにして形成されたコラーゲン繊維束31は、吸水時に筒状体10の内腔11の断面積の一部を満たす量のユニットから構成する。筒状体10の内径が例えば3mmであり、コラーゲン単糸3の外径が約50μmである場合に、飽和吸水状態で、筒状体10の内腔11の断面積の25%となる量のコラーゲン繊維束31を1ユニットとする。ここで、外径が約50μmのコラーゲン単糸3は、飽和吸水状態で外径が約200μmになると
すると、約220本の外径約50μmのコラーゲン単糸3から、コラーゲン繊維束31を構成すればよい。ここでは、飽和吸水状態における筒状体10の内腔11の断面積は、スリット13を閉じた場合の断面積を基準とする。
【0089】
飽和吸水状態で、筒状体10の内腔11の断面積に対する、1ユニットのコラーゲン繊維束31の断面積の比率は、上述の25%に限られず、10%、20%等の適宜の比率に設定してもよい。また、飽和吸水状態で、筒状体10の内腔11の断面積に対する、1ユニットのコラーゲン繊維束31の断面積の比率、筒状体10の内径、コラーゲン単糸3の外径に応じて、1ユニットのコラーゲン繊維束31を構成するコラーゲン単糸3の本数は適宜変更する。
【0090】
コラーゲン繊維束31は、複数のユニットを接着剤で結合したセットの形態で提供してもよい。例えば、1セットのコラーゲン繊維束30を、3ユニットのコラーゲン繊維束31,32,33から形成する。図5(A)に示す1ユニットのコラーゲン繊維束31に接着剤34を塗布し、図5(B)に示すように、1ユニットのコラーゲン繊維束32を矢印方向から結合する。同様に、コラーゲン繊維束32に接着剤を塗布し、1ユニットのコラーゲン繊維束33と結合する。これにより、図6に示すように、分離可能に結合された3ユニットのコラーゲン繊維束31,32,33から構成される1セットのコラーゲン繊維束30が作製される。接着剤34としては、生分解性高分子材料を用いることができる。ユニットへの分離を容易に行うためには、水溶性のコラーゲンを接着剤34として用いることが好ましい。
【0091】
1セットのコラーゲン繊維束30は、分離することなく1セットを全体として用いてもよいし、3ユニットのコラーゲン繊維束31,32,33に分離して用いてもよいし、1ユニットのコラーゲン繊維束31と2ユニットのコラーゲン繊維束32,33に分離して用いてもよい。1ユニットのコラーゲン繊維束33と2ユニットのコラーゲン繊維束31,32に分離することもできる。上述のように、飽和吸水状態で、1ユニットのコラーゲン繊維束31の断面積が、筒状体10の内腔11の断面積に対して25%であれば、1セットのコラーゲン繊維束30を全体として用いることにより、コラーゲン繊維束30、飽和吸水状態で、筒状体10の内腔11の断面積の75%を占有する成長誘導部材として用いることができる。また、1セットのコラーゲン繊維束30を構成する3ユニットのコラーゲン繊維束31,32,33のうち、例えば、1ユニットのコラーゲン繊維束31を分離し、2ユニットのコラーゲン繊維束32,33を用いることにより、飽和吸水状態で、筒状体10の内腔11の断面積の50%を占有する成長誘導部材として用いることができる。また、1セットのコラーゲン繊維束30のうち分離された1ユニットのコラーゲン繊維束31は、上述のように、飽和吸水状態で、1ユニットのコラーゲン繊維束31の断面積が、筒状体10の内腔11の断面積の25%を占有する成長誘導部材として用いることができる。このように、1セットのコラーゲン繊維束30を全体として又は分離して用いることにより、飽和吸水状態におけるコラーゲン繊維束の断面積を変更することができ、筒状体10の内腔11の断面積に対する比率も変更することができる。従って、1セットのコラーゲン繊維束30を、全体として、若しくは、2ユニット又は1ユニットのコラーゲン繊維束に分離して用いることにより、神経等の欠損部位の大きさ応じた成長誘導部材を準備することができる。また、1セットのコラーゲン繊維束30を分離して用いる場合にも、接着剤34で結合されたユニットを分離すればよいので、欠損部位の大きさに応じたコラーゲン繊維束を準備する際に、コラーゲン繊維束が多数のコラーゲン単糸にばらけることがなく、作業性が損なわれない。
【0092】
1セットのコラーゲン繊維束30を構成するユニットの数は、飽和吸水状態で、筒状体10の内腔11の断面積に対する、1ユニットのコラーゲン繊維束の断面積の比率に応じて、適宜設定することができる。例えば、飽和吸水状態で、筒状体の内腔の断面積に対す
る、1ユニットのコラーゲン繊維束の断面積の比率が20%である場合には、1セットを4ユニットのコラーゲン繊維束から構成する。このように1セットのコラーゲン繊維束を構成すれば、1セットの分離の仕方に応じて、飽和吸水状態で、筒状体10の内腔11の断面積に対する、1ユニットのコラーゲン繊維束の断面積の比率が20%、40%、60%、80%のコラーゲン繊維束として使用することができる。
【0093】
(スポンジ)
神経等の組織の成長を誘導する成長誘導部材としては、スポンジを用いることもできる。スポンジとは、均一又は不均一な大きさの空孔が連続又は不連続に分散した多孔体をいう。スポンジの空孔率は、神経等の細胞が成長可能な足場及び空間を保持するために、10~99%、好ましくは約50~99.9%、さらに好ましくは約80~99.9%である。
【0094】
スポンジの製造方法は、例えば、目的の形状に合わせて作製した型に、上述の生分解性材料又は生体吸収性材料の溶液を流し込み、自然乾燥、真空乾燥、凍結融解及び真空凍結乾燥等の方法により形成することができる。
【0095】
スポンジについてもコラーゲン繊維束と同様に、飽和吸水状態で、スポンジの断面積が、筒状体の内腔の断面積に対して25%となる大きさに形成したスポンジを1ユニットとする。そして、スポンジの形状は、特に限定されないが、筒状体の長手方向に沿った欠損部の長さに応じて切断して使用することを想定すると、円柱、四角柱等の柱形状が好ましい。
【0096】
以下、図7(A)に示すように、四角柱形状の1つのユニットのスポンジ41を例に説明する。スポンジ41は、複数のユニットのスポンジを接着剤で接合したセットの形態で提供してもよい。例えば、1セットのスポンジ40を、3つのユニットのスポンジ41,42,43から形成する。
1セットのスポンジ40を構成する3つのユニットのスポンジ41,42,43の結合方法は、特に限定されないが、分離する際の作業性の観点から、結合部の面積は小さい方が好ましい。図7(B)に示すように、1ユニットのスポンジ41の側面411の一部の領域に接着剤44を塗布し、1ユニットのスポンジ42を矢印方向から結合することにより、スポンジ41とスポンジ42間の結合部の面積を小さくすることができる。同様に、1ユニットのスポンジ42の側面の一部に接着剤を塗布し、1ユニットのスポンジ43を結合する。このようにして、図7(C)に示すように、1セットのスポンジ40を、分離可能に結合された3ユニットのスポンジ41,42,43から形成することができる。
【0097】
また、図8A)に示すように、1ユニットのスポンジ45の側面451に長手方向に側面451から突出するリブ452を設けている。図8(B)に示すように、スポンジ45のリブ452に接着剤44を塗布し、リブ452と、1ユニットのスポンジ46の、リブ462が設けられた側面461と反対側の側面463とを接着することにより、スポンジ45とスポンジ46とを結合する。同様に、スポンジ46のリブ462に接着剤462を塗布することにより、スポンジ46と、1つのユニットのスポンジ47とを結合する。このようにして、図8(C)に示すように、3つのユニットのスポンジ45,46,47から構成される1セットのスポンジ48が作製される。接着剤44としては、生分解性高分子材料を用いることができる。1セットのスポンジからユニットへの分割を容易に行うためには、水溶性のコラーゲンを接着剤として用いることが好ましい。また、図9に示すように、隣接するユニットのスポンジ491,492,493の間を連結する薄肉の連結部494,495を設け、3つのユニットのスポンジ491,492,493が結合された形態で1セットのスポンジ49を形成してもよい。
【0098】
図7(C)に示すスポンジ40を例に説明すると、1セットのスポンジ40は、分離することなく1セットを全体として用いてもよいし、3ユニットのスポンジ41,42,43に分離して用いてもよいし、1ユニットのスポンジ41と2ユニットのスポンジ42,43に分割して用いてもよい。1ユニットのスポンジ43と、2ユニットのスポンジ41,42に分割することもできる。上述のように、飽和吸水状態で、1ユニットのスポンジ41の断面積が、筒状体10の内腔11の断面積に対して25%であれば、1セットのスポンジ40を全体として用いることにより、スポンジ40は、飽和吸水状態で、筒状体10の内腔11の断面積の75%を占有する成長誘導部材として用いることができる。また、1セットを構成する3つのユニットのスポンジ41,42,43のうち、1ユニットのスポンジ41を分離し、2ユニットのスポンジ42,43が結合されたスポンジを用いることにより、飽和吸水状態で、筒状体10の内腔11の断面積の50%を占有する成長誘導部材として用いることができる。また、1セットのスポンジ40のうち分離された1ユニットのスポンジ41は、上述のように、飽和吸水状態で、1ユニットのスポンジ41の断面積が、筒状体10の内腔11の断面積の25%を占有する成長誘導部材として用いることができる。このように、1セットのスポンジ40を全体として又は分離して用いることにより、飽和吸水状態におけるスポンジの断面積を変更することができ、筒状体の内腔の断面積に対する比率も変更することができる。従って、1セットのスポンジを、全体として、若しくは、2ユニット又は1ユニットに分離して用いることにより、神経等の欠損部位の大きさ応じた成長誘導部材を準備することができる。また、1セットのスポンジを分離して用いる場合にも、接着剤で接合されたユニットを分離すればよいので、欠損部位の大きさに応じたスポンジを簡単な作業で準備することができる。
【0099】
リブ452等を有するユニットのスポンジ45,46,47から構成される1セットのスポンジ48についても同様に、1セットのスポンジ48を全体として用いてもよいし、3つのユニットのスポンジ45,46,47を、1又は2のユニットに分離して用いることもできる。このようなスポンジ48では、各ユニットのスポンジ45,46,47間が、側面全体に比して面積が小さいリブ452,462のみで結合されているので、容易に分離することができる。
【0100】
連結部494,495によって結合された、3つのユニットのスポンジ491,492,493から構成される1セットのスポンジ49についても同様に、1セットのスポンジ49を全体として用いてもよいし、3ユニットのスポンジ491,492,493を、1又は2のユニットに分離して用いることもできる。このようなスポンジ49では、各ユニットのスポンジ491,492,493間が連結部494,495によって結合されているので、容易に分離することができる。
【0101】
1セットのスポンジを構成するユニットの数は、飽和吸水状態で、筒状体10の内腔11の断面積に対する1ユニットのスポンジの断面積の比率に応じて、適宜設定することができる。例えば、飽和吸水状態で、筒状体10の内腔11の断面積に対する1ユニットのスポンジの断面積の比率が20%である場合には、1セットを4ユニットのスポンジから構成する。このように1セットのスポンジを構成すれば、1セットのスポンジの分離の仕方に応じて、飽和吸水状態で、筒状体10の内腔11の断面積に対するスポンジの断面積の比率が20%、40%、60%、80%のスポンジとして使用することができる。
【0102】
(変形例)
成長誘導部材として上述した1セットのコラーゲン繊維束30及び1セットのスポンジ40は、それぞれ同じ大きさのコラーゲン繊維束及びスポンジの複数のユニットから構成されているが、複数のユニットは、それぞれ異なる大きさのコラーゲン繊維束及びスポンジを含んでもよい。
【0103】
(成長誘導部材の実施例)
以下に、本発明の成長誘導部材を実施例により詳細に説明するが、実施例の一例に過ぎず、本発明の構成を特に限定するものではない。
【0104】
(コラーゲン繊維束)
まず、蒸留水を溶媒とする7wt%のコラーゲンの水溶液を作製し、常法に準じて、シリンジから、凝固槽に押し出すことにより、コラーゲン単糸を作製する。凝固槽に押し出されたコラーゲン単糸は、99.5%のエタノールを溶媒とする脱水槽を通過させた後に、ボビンに巻き取られる。
【0105】
次に、ボビンに巻き取られたコラーゲン単糸に対して、熱架橋処理を行う。例えば、132℃で12時間加熱する。この熱架橋処理により、コラーゲンが水難溶化される。
【0106】
ボビンから引き出されたコラーゲン単糸を巻き枠に巻き取り、切断することによって複数本のコラーゲン単糸から構成されるコラーゲン繊維束を形成する。
【0107】
コラーゲン繊維束を、7.0wt%の炭酸水素ナトリウム水溶液に30分間浸漬することにより中和処理を行う。中和処理を施したコラーゲン繊維束に対しては、6回、計約100分洗浄処理を行う。
【0108】
(スポンジ)
本実施例では、目的の形状に合わせて作製した型に、コラーゲンの水溶液を流し込み、真空凍結乾燥法により形成する。真空凍結乾燥法によれば、空孔を均一に形成することができる。真空凍結乾燥法の条件としては、製造の容易性の観点から、約0.05~30wt%の生分解性材料の溶液を、約0.08Torr以下の条件で行うことが好ましい。
【0109】
<神経再生誘導管>
図10(A)~(C)を参照して、本実施形態に係る組織再生器具としての神経再生誘導管1について説明する。本実施形態に係る神経再生誘導管1は、筒状体10と、コラーゲン繊維束30とを含む。コラーゲン繊維束30に替えて、スポンジ40を用いてもよい。
【0110】
図10(A)は、神経5が部分断裂し、長さL1の欠損部位51が生じている例を示す。この場合には、欠損部位51の長さL1に適合する長さとなるように1セットのコラーゲン繊維束30を切断する。そして、欠損部位51の大きさに合わせて、必要に応じて1セットのコラーゲン繊維束30を適宜の個数のユニットに分離する。図10(A)では、例として、分離されたコラーゲン繊維束30のうち、1つのユニットのコラーゲン繊維束30を分離し、2つのユニットのコラーゲン繊維束31,32を、欠損部位51に配置する。
【0111】
次に、図10(B)に示すように、コラーゲン繊維束31,32が配置された欠損部位51を含む神経5の部位を覆うように、筒状体10の周方向端部14及び周方向端部15の間に形成されたスリット13から、神経5を内腔11に導入する。
【0112】
次に、図10(C)に示すように、筒状体10の周方向縁部16及び周方向縁部17を神経5とともに、生分解性又は生体吸収性材料からなる縫合糸6によって縫合することによってスリット13を閉じる。また、筒状体10の周壁部12の軸方向縁部18及び軸方向縁部19を神経5とともに、縫合糸6によって縫合する。
【0113】
(実施形態2)
以下に、実施形態2に係る組織再生器具である神経再生誘導管について説明する。神経再生誘導管は、実施形態1と同様に、被覆部材である筒状体と、成長誘導部材であるコラーゲン繊維束又はスポンジ等を含んで構成される。実施形態1と共通の構成部材については、共通の符号を用いて詳細な説明を省略する。
【0114】
本実施形態に係る神経再生誘導管では、成長誘導部材であるコラーゲン繊維束又はスポンジが、予め筒状体に接着されている。
【0115】
図11(A)は、筒状体10にコラーゲン繊維束30を接着して神経再生誘導管1を製造する工程を模式的に示した図である。
【0116】
神経再生誘導管1の使用時には、筒状体10の内腔11に、欠損部位51を含む神経5が導入される(図13(A)参照)。このとき、筒状体10は、その長手方向が神経の延長方向に沿うように配置される。そして、外径方向に凸となるように曲がる(湾曲)する筒状体10の内周面121が、神経の外周面を、神経の延長方向の軸Axの周りに囲むように覆うこととなる。
【0117】
コラーゲン繊維束30は、筒状体10の内周面121の湾曲方向に沿った略中央部に位置する領域121aに接着される。筒状体10は略円筒形状であるため、内周面121の湾曲方向は、筒状体10の長手方向の軸を中心とする周方向である。図11(A)に示すように、筒状体10の一方の内径側端部14aから他方の内径側端部15aに至るまでの、内周面121に沿った周方向の距離をSLとしたとき、領域121aは、内径側端部14a(又は内径側端部15a)から内周面121に沿った周方向の距離がSL/2である位置の近傍に設定される。ここでは、コラーゲン繊維束30が接着された最内層101が、本発明の内側の層であり、最外層103が本発明の逆側の層に相当する。
【0118】
図11(B)は、コラーゲン繊維束30を、筒状体10への接着面301側から見た図である。使用時における神経の延長方向、すなわち、筒状体10の長手方向における、コラーゲン繊維束30の略中央部に接着剤71を塗布する。接着剤71としては、例えば5wt%の可溶性コラーゲンを用いることができるが、これに限られない。コラーゲン繊維束30は、コラーゲン繊維の方向が神経の延長方向に沿うように設置されるので、図11(B)では、接着剤71の塗布部分は、コラーゲン繊維束30の長手方向の略中央部でもある。すなわち、神経の延長方向におけるコラーゲン繊維束30の長さをLとしたとき、コラーゲン繊維束30の長手方向の一方の端部からの距離がL/2である位置の近傍に接着剤71を塗布する。図11(B)では、コラーゲン繊維束30の長手方向に直交する方向(短手方向)の全長にわたって接着剤71を塗布しているが、接着剤71を塗布する領域はこれに限られない。例えば、コラーゲン繊維束30のように3つのユニット31、32、33が分離可能に結合されている場合には、中央のユニット32のみに接着剤71を塗布するというように、コラーゲン繊維束30の短手方向の一部の領域に接着剤71を塗布するようにしてもよい。また、ここでは、接着剤71をコラーゲン繊維束30に塗布しているが、筒状体10の領域121aの長手方向の略中央部に接着剤を塗布してもよいし、コラーゲン繊維束30と筒状体10の両方に接着を塗布してもよい。
【0119】
このように、接着剤71を塗布したコラーゲン繊維束30を、筒状体10の内周面121の長手方向の略中央部に設定された領域121aに接着する。コラーゲン繊維束30を筒状体10に接着する際には、図11(A)に示すように、必要に応じてスリット13を開き、筒状体10の長手方向の端部から内腔11へとコラーゲン繊維束30を挿入し、筒状体10の内周面121の領域121aに配置し、接着する。コラーゲン繊維束30を筒状体10に接着する際には、スリット13を開き、周方向端部14及び周方向端部15の間から、開かれたスリット13を介して、コラーゲン繊維束30を筒状体10の内周面1
21の領域121aに配置して接着してもよい。
【0120】
このようにして、筒状体10にコラーゲン繊維束30を接着して形成された神経再生誘導管1全体の外観を図11に示す。コラーゲン繊維束30を、筒状体10の上述の位置に接着することにより、筒状体10の長手方向に延びる軸に直交する面で見たときに、コラーゲン繊維束30は、スリット13と軸対称な位置に配置されるので、スリット13を開いて、欠損部位51側から、神経5の部位を覆うように神経再生誘導管1を導入する際に、コラーゲン繊維束30を欠損部位51に対して適切な位置関係となるように配置する作業を簡易に行うことができる。
【0121】
図13(A)は、神経5が部分断裂し、長さL1の欠損部位51が生じている例を示す。使用時には、神経再生誘導管1を生理食塩水等により吸水させる。このとき、神経5の欠損部位51の長さに応じて、コラーゲン繊維束30の接着されていない部分を、長手方向のいずれか又は両側から、適宜切除して、コラーゲン繊維束30の長さを調整する。また、神経5の欠損部位51の大きさに応じて、1セットのコラーゲン繊維束30のうち余分なユニットを分離し除去することにより、コラーゲン繊維束30の大きさを調整する。コラーゲン繊維束30の長さ及び大きさの調整は、生理食塩水等により吸水させる前に行ってもよい。
【0122】
そして、神経再生誘導管1のスリット13を開き、周方向端部14と周方向端部15との間から神経5を内腔11に導入し、コラーゲン繊維束30を欠損部位51に配置するように、筒状体10によって神経5を覆う。
【0123】
次に、図13(B)に示すように、筒状体10の周方向縁部16及び周方向縁部17を神経5とともに、生分解性又は生体吸収性材料からなる縫合糸6によって縫合することによってスリット13を閉じる。また、筒状体10の周壁部12の軸方向縁部18及び軸方向縁部19を神経5とともに、縫合糸6によって縫合する。
【0124】
本実施形態では、複数の層を有する筒状体10を用いて神経再生誘導管1を構成しているが、複数の層に区分されず、単一の物性を有する筒状体を用いてもよい。
【0125】
(実施形態3)
以下に、実施形態3に係る組織再生器具である神経再生誘導シート2について説明する。実施形態1又は実施形態2と共通する構成については、共通の符号を用いて詳細な説明は省略する。
【0126】
神経再生誘導シート2は、シート状被覆部材20と成長誘導部材であるコラーゲン繊維束30又はスポンジ40等とを含む。
図14では、シート状被覆部材20にコラーゲン繊維束30を接着して神経再生誘導シート2を製造する工程を模式的に示す。
【0127】
シート状被覆部材20は、実施形態1に係る筒状体10と同様にコラーゲンから製造することができる。実施形態1について説明した製造方法によって得られた筒状体10を、スリット13から開き、湾曲面形状の型にプレス等することによって、曲げくせのついたシート状被覆部材20を製造することができる。シート状被覆部材20の製造方法は、これに限られない。シート状被覆部材として、筒状体10のように複数の層を有するものではなく、単一の物性を有する部材をシート状に加工したものを用いることができる。
【0128】
神経再生誘導シート2の使用時には、図13に示す神経再生誘導管1の場合と同様に、シート状被覆部材20の、凹状に曲がる(湾曲)する面221が、神経の外周面を、神経
の延長方向の軸Axの周りに囲むように覆う。使用時には、神経再生誘導管1の筒状体10と同様に、面221が内周側に位置することになるため、ここでは、面221を内周面と称する。シート状被覆部材20は、内周面221側が、より凹となるように曲げくせがついている。
【0129】
コラーゲン繊維束30は、シート状被覆部材20の内周面221の湾曲方向に沿った略中央部に位置する領域221aに接着される。図14に示すように、シート状被覆部材20の一方の内周側端部24aから他方の内周側端部25aに至るまでの、内周面221に沿った方向の距離をSLとしたとき、領域221aは、内周側端部24a(又は内周側端部25a)から内周面221の湾曲方向に沿った距離がSL/2である位置の近傍に設定される。
【0130】
本実施形態においても、コラーゲン繊維束30に対して塗布される接着剤71の位置関係は、図11(B)に示すようになる。すなわち、シート状被覆部材20への接着面301側から見たとき、コラーゲン繊維束30には、使用時における神経の延長方向、すなわち、シート状被覆部材20の湾曲方向を含む面に直交する方向における、コラーゲン繊維束30の略中央部に接着剤71を塗布する。コラーゲン繊維束30は、コラーゲン繊維の方向が神経の延長方向に沿うように設置されるので、図11(B)では、接着剤71の塗布部分は、コラーゲン繊維束30の長手方向の略中央部でもある。すなわち、神経の延長方向におけるコラーゲン繊維束30の長さをLとしたとき、コラーゲン繊維束30の長手方向の一方の端部からの距離がL/2である位置の近傍に接着剤71を塗布する。図11(B)では、コラーゲン繊維束30の長手方向に直交する方向(短手方向)の全長にわたって接着剤71を塗布しているが、接着剤71を塗布する領域はこれに限られない。例えば、コラーゲン繊維束30のように3つのユニット31、32、33が分離可能に結合されている場合には、中央のユニット32のみに接着剤71を塗布するというように、コラーゲン繊維束30の短手方向の一部の領域に接着剤71を塗布するようにしてもよい。また、ここでは、接着剤71をコラーゲン繊維束30に塗布しているが、筒状体10の領域121aの長手方向の略中央部に接着剤を塗布してもよいし、コラーゲン繊維束30と筒状体10の両方に接着を塗布してもよい。
【0131】
このように、接着剤71を塗布したコラーゲン繊維束30を、シート状被覆部材20の内周面221の長手方向の略中央部に設定された領域221aに接着する。
【0132】
このようにして、シート状被覆部材20にコラーゲン繊維束30を接着して形成された神経再生誘導シート2全体の外観を図15に示す。コラーゲン繊維束30を、シート状被覆部材20の上述の位置に接着することにより、シート状被覆部材20の湾曲方向Cを含む面に直交する方向Vから見たときに、コラーゲン繊維束30は、一方の湾曲方向端部24と他方の湾曲方向端部25との間に形成される開口部から導入される神経の欠損部位51に対して正対する位置に配置されるので、シート状被覆部材20によって、欠損部位51側から、神経5の部位を覆うように神経再生誘導シート2を導入する際に、神経再生誘導シート2を欠損部位51に対して適切な位置関係となるように配置する作業を簡易に行うことができる。
【0133】
神経再生誘導シート2は、図13(A)に示す神経再生誘導管1と同様に、湾曲方向端部24と湾曲方向端部25との間に形成される開口部から神経5を導入し、シート状被覆部材20の一方の湾曲方向縁部と他方の湾曲方向縁部を神経5とともに、生分解性又は生体吸収性材料からなる縫合糸によって縫合する。また、シート状被覆部材20の、神経5の延長方向の両端部も、神経5とともに、縫合糸6によって縫合する。
【0134】
神経再生誘導シート2は、実施形態1における筒状体10とコラーゲン繊維束30等の
ように、シート状被覆部材20にコラーゲン繊維束30等を予め接着することなく、別体として組み合わせることにより、神経再生誘導シート2を構成してもよい。
【符号の説明】
【0135】
1・・・神経再生誘導管
2・・・神経再生誘導シート
10・・筒状体
20・・シート状被覆部材
11・・内腔
13・・スリット
30・・コラーゲン繊維束(セット)
31,32,33・・コラーゲン繊維束(ユニット)
34・・接着剤
40,48,49・・スポンジ(セット)
41,42,43,45,46,47,491,492,493・スポンジ(ユニット)
44・・接着剤
71・・接着剤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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