(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020671
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】防カビ方法
(51)【国際特許分類】
A01N 31/02 20060101AFI20240207BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
A01N31/02
A01P3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020216175
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000136561
【氏名又は名称】株式会社フルヤ金属
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100173532
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 彰文
(72)【発明者】
【氏名】両角 直洋
(72)【発明者】
【氏名】石丸 武
(72)【発明者】
【氏名】及川 竜太
(72)【発明者】
【氏名】木元 彩月
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA03
4H011BB03
4H011DA20
4H011DB02
4H011DD05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】対象物に防カビ剤を直接接触または添加することなく、効果が長時間持続する防カビ方法を提供する。
【解決手段】エチレンおよびエタノールの少なくともいずれか1種と、炭素数1から30のアルカン、炭素数2から10のアルケン、炭素数2から5のアルキン、炭素数3から11のシクロアルカン、ヒドロキシル基を有し炭素数1または3から8の化合物、炭素数5または6のシクロアルケン、芳香族炭化水素、アルデヒド基を有する炭素数1から10の化合物、ケトン基を有する炭素数3または4の化合物、カルボキシ基を有する炭素数2から18の化合物、ニトロ基を有する炭素数1から6の化合物、エーテル結合を有する炭素数2から4の化合物、エステル結合を有する炭素数2から5の化合物、アミノ基を有する炭素数1から7の化合物、およびアンモニアからなる群から選ばれる少なくとも1種、および第4から12族に属する元素を含む触媒を用いる防カビ方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンおよびエタノールの少なくともいずれか1種と、炭素数1から30のアルカン、炭素数2から10のアルケン、炭素数2から5のアルキン、炭素数3から11のシクロアルカン、ヒドロキシル基を有し炭素数1または3から8の化合物、炭素数5または6のシクロアルケン、芳香族炭化水素、アルデヒド基を有する炭素数1から10の化合物、ケトン基を有する炭素数3または4の化合物、カルボキシ基を有する炭素数2から18の化合物、ニトロ基を有する炭素数1から6の化合物、エーテル結合を有する炭素数2から4の化合物、エステル結合を有する炭素数2から5の化合物、アミノ基を有する炭素数1から7の化合物、およびアンモニアからなる群から選ばれる少なくとも1種、および第4から12族に属する元素を含む触媒を用いる防カビ方法。
【請求項2】
前記カルボキシ基を有する炭素数が2から18の化合物が酢酸であり、アルデヒド基を有する炭素数1から10の化合物がアセトアルデヒドであり、エステル結合を有する炭素数2から5の化合物が酢酸エチルである請求項1に記載の防カビ方法。
【請求項3】
前記第4から12族に属する元素が貴金属である請求項1または2に記載の防カビ方法。
【請求項4】
前記貴金属が白金族金属である請求項3に記載の防カビ方法。
【請求項5】
前記白金族金属が白金である請求項4に記載の防カビ方法。
【請求項6】
前記エチレンおよびエタノールの少なくともいずれか1種の雰囲気下で行う請求項1から5のいずれか1項に記載の防カビ方法。
【請求項7】
前記エチレンおよびエタノールの少なくとも1種を防カビの対象物から発生させる請求項1から6のいずれか1項に記載の防カビ方法。
【請求項8】
前記エチレンおよびエタノールの少なくともいずれか1種が吸着した吸着剤から少なくともいずれか1種を発生させる請求項1から6のいずれか1項に記載の防カビ方法。
【請求項9】
前記エタノールをエタノールを含有する液から気化させる請求項1から6のいずれか1項に記載の防カビ方法。
【請求項10】
前記触媒が担体に白金族金属を担持した触媒である請求項5に記載の防カビ方法。
【請求項11】
前記担体がシリカ、アルミナ、アルミナ-シリカ、活性炭、ゼオライト、ジルコニア、マグネシア、ケイソウ土からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項10に記載の防カビ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカビの発生および成長を抑制する防カビ方法に関する。さらに詳細には本発明は特定のガスと触媒を用い、カビの発生および増殖を抑制する防カビ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界全体の食品ロスは可食部換算で約13億トン、日本の食品ロス量は年間で約643万トンと言われている。このような食品ロスが続くと環境への負荷が増大し、資源の枯渇などを起こす可能性がある。
【0003】
食品ロスの要因の一つとしてカビの発生があり、食品ロスを低減する一つの有効な手段としてカビの発生や増殖を抑制する防カビがある。
カビの増殖を防ぐために、従来、防カビ剤が用いられてきた。防カビ剤は、有機系と無機系に分けられる。例えば、有機系では、アルコール系、フェノール系、ハロゲン系、トリアジリン系、イソチアゾロン系、イミタゾール系の化合物が用いられている。無機系の防カビ剤として、銀、銅、亜鉛等の金属イオンをゼオライト・ガラス・シリカゲル・酸化チタン等に担持したものがあげられる。これらの防カビ剤は、防カビ対象物に接触または添加し、金属イオンが直接、カビに作用することで効果を示す。
一方、近年、消費者のナチュラル志向により保存料等の添加物が少ない食品が好まれる傾向にある。
【0004】
防カビ対象物に防カビ剤を接触させずに保存する方法として、鉄の酸化反応を利用して、密閉容器または包装体の酸素濃度を低下させる方法が知られている。多くのカビは、好気性であるため、酸素濃度が低いと繁殖することができないため、酸素濃度を低下させることで防カビ効果を発現させている。しかながら鉄が完全に酸化してしまうと脱酸素機能を失い、防カビの効果が失われる。
他の方法として、シリカゲルを用い、密閉容器または包装袋内を除湿して、カビの発生を抑制させる方法も知られている。しかしながらシリカゲルが水分の吸着飽和に達すると除湿効果が失われ、カビの発生を抑制できなくなる。
【0005】
植物や食品から発生する香りがカビの抑制に効果を発揮するという研究もなされている。植物や食品から発生する香り、特に精油がカビの抑制に効果を発揮するという研究が、近年多く報告されている。精油とは、植物から抽出された揮発性の油であり多くの揮発性化合物を含んでいる。
特許文献1には、抗菌・防カビ効果のあるコリアンダー、シソ、タイム、バジル等の精油成分をシートに塗布したシートが記載されている。精油成分がシートから揮発することにより、包装体の中に密閉された食品の防カビ効果が発現することが示されている。しかしながら精油成分の揮発が完了すると防カビ効果が持続されない可能性がある。
【0006】
非特許文献1には、精油の成分であるアルコール類、アルデヒド類、ケトン類、エステル類の効果を検証しているが、アルデヒド類も最も効果が高く、アルコール類、ケトン類、エステル類に関しても、菌の種類によっては効果を示すことが記載されている。
【0007】
【特許文献1】特許第6005335号公報
【非特許文献1】Pyler,Baking Science & Technology Vol I page 231,1988 ISB No‐929 0 05‐00‐7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって防カビの対象物に防カビ剤を直接、接触または添加することなく、さらに防カビの効果が長時間持続する防カビ方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は下記の態様を有する。
【0010】
[1]
エチレンおよびエタノールの少なくともいずれか1種と、炭素数1から30のアルカン、炭素数2から10のアルケン、炭素数2から5のアルキン、炭素数3から11のシクロアルカン、ヒドロキシル基を有し炭素数1または3から8の化合物、炭素数5または6のシクロアルケン、芳香族炭化水素、アルデヒド基を有する炭素数1から10の化合物、ケトン基を有する炭素数3または4の化合物、カルボキシ基を有する炭素数2から18の化合物、ニトロ基を有する炭素数1から6の化合物、エーテル結合を有する炭素数2から4の化合物、エステル結合を有する炭素数2から5の化合物、アミノ基を有する炭素数1から7の化合物、およびアンモニアからなる群から選ばれる少なくとも1種、および第4から12族に属する元素を含む触媒を用いる防カビ方法。
[2]
前記カルボキシ基を有する炭素数が2から18の化合物が酢酸であり、アルデヒド基を有する炭素数1から10の化合物がアセトアルデヒドであり、エステル結合を有する炭素数2から5の化合物が酢酸エチルである前記[1]に記載の防カビ方法。
[3]
前記第4から12族に属する元素が貴金属である前記[1]または[2]に記載の防カビ方法。
[4]
前記白金族金属が白金である前記[3]に記載の防カビ方法。
[5]
前記白金族金属が白金である前記[4]に記載の防カビ方法。
[6]
前記エチレンおよびエタノールの少なくともいずれか1種の雰囲気下で行う前記[1]から[5]のいずれかに記載の防カビ方法。
[7]
前記エチレンおよびエタノールの少なくとも1種を防カビの対象物から発生させる前記[1]から[6]のいずれかに記載の防カビ方法。
[8]
前記エチレンおよびエタノールの少なくともいずれか1種が吸着した吸着剤から少なくともいずれか1種を発生させる前記[1]から[6]のいずれかに記載の防カビ方法。
[9]
前記エタノールをエタノールを含有する液から気化させる前記[1]から[6]のいずれかに記載の防カビ方法。
[10]
前記触媒が担体に白金族金属を担持した触媒である前記[5]に記載の防カビ方法。
[11]
前記担体がシリカ、アルミナ、アルミナ-シリカ、活性炭、ゼオライト、ジルコニア、マグネシア、ケイソウ土からなる群から選ばれる少なくとも一種である前記[10]に記載の防カビ方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、防カビの対象物に防カビ剤を直接、接触または添加することなく、さらに防カビの効果が長時間持続する防カビ方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の防カビ方法(以下、「本方法」と称する場合がある。)はエチレンおよびエタノールの少なくともいずれか1種(以下、「第1化合物」とも記す。)と、炭素数1から30のアルカン、炭素数2から10のアルケン、炭素数2から5のアルキン、炭素数3から11のシクロアルカン、ヒドロキシル基を有し炭素数1または3から8の化合物、炭素数5または6のシクロアルケン、芳香族炭化水素、アルデヒド基を有する炭素数1から10の化合物、ケトン基を有する炭素数3または4の化合物、カルボキシ基を有する炭素数2から18の化合物、ニトロ基を有する炭素数1から6の化合物、エーテル結合を有する炭素数2から4の化合物、エステル結合を有する炭素数2から5の化合物、アミノ基を有する炭素数1から7の化合物、およびアンモニアからなる群から選ばれる少なくとも1種(以下、「第2化合物」とも記す。)、および第4から12族に属する元素を含む触媒を用い、対象物のカビの発生および増殖を抑制する方法である。対象物としてはカビが発生しやすい食品、例えば、食パン、ケーキ、ドーナツ、麺、もち等の加工食品や、みかん、ブドウ、イチゴ、サクランボ等の生鮮食品等、天井材、タイル、ガラス、壁紙、壁材、床等の建築資材、自動車インストルメントパネル、自動車用シート、自動車用天井材、自動車用ガラス等の自動車内装材、エアコン、空気清浄機用のフィルタ等の家電製品用部品、衣類、カーテン等の繊維製品、およびタンス、本棚等の家具等が挙げられる。
本発明の方法によれば、前記対象物からのカビの発生および増殖を長期に抑制することが可能となる。また本発明によれば、前記対象物と防カビ剤等を接触させずにカビの発生および増殖を抑制することができる。
【0013】
前記第1化合物はガス状で対象物および後述する触媒と共存することが好ましく、例えば、前記対象物をガス状の第1化合物の雰囲気または気流下に置くのが好ましい。ガス状の第1化合物はボンベ等から導入してもよいし、第1化合物を必要に応じて前記対象物または触媒の近くで発生させてもよい。ガス状の第1化合物の発生方法は、前記対象物から発生させる方法、または液体状態から気化させて発生させる方法等がある。対象物から発生させる場合、エチレンガスは、リンゴ、梨、アボカド、バナナ、桃、メロン、マインゴーなどの果実や、ネギ、ニラ、ナス、ピーマン、ヤマイモなどの野菜から発生させることができる。エタノールは、パン、しょうゆ、酢、ジュース、酒などの加工食品やみかん、びわ、ナッツ、ニンジンなどの青果物から発生させることができる。
エタノールを液体状態から気化させて発生させる場合は、エタノール溶液からエタノールの飽和蒸気圧に達するまでエタノールを気化させることができる。
【0014】
エタノールをゼオライトなどの吸着材に吸着させたエタノール吸着体からエタノールを発生させてもよい。エタノールガスを透過する小袋にエタノール吸着体をいれ、例えばエタノール吸着剤を加熱することによりエタノール吸着剤からエタノールを脱着させ、ガス状のエタノールを発生させることができる。吸着材としては多孔質の無機物や織布、紙、不織布等の繊維構造体が挙げられる。
これら吸着材にエタノールを滴下してしみこませて吸着剤にエタノールを吸着させることができる。
【0015】
エチレンの沸点はマイナス104℃と低いため、例えば、ゼオライトなどの吸着剤にエチレンを一度吸着させ、アルミ袋などのエチレンガスが透過しない袋にエチレンを吸着させたエチレン吸着剤を包装し、徐々にエチレンをゼオライトから脱着することでガス状のエチレンを発生させることができる。エチレンガスは、一旦はゼオライトに吸着するが徐々に脱離するため、使用する段階でアルミ袋に微細な穴をあけることで、エチレンガスをアルミ袋の中から発生させることができる。
【0016】
ガス状の第1化合物は、触媒と接触して、酸素や前記対象物が放出する他の有機化合物と反応して、前記第2化合物に変換される。結果的に、前記第1化合物から変換された第2化合物が対象物と共存し、カビの発生の抑制に効果が発揮されると考えられる。
エチレンおよびエタノールはいずれか一方が存在すればよく、両者が存在してもよい。また第2化合物は前記第1化合物から触媒により変換されたものであってもよいし、予め第2化合物を第1化合物または対象物と共存させてもよい。第1化合物と第2化合物が対象物と共存してもよい。
第1化合物は触媒により第2化合物に変換される場合、本方法は酸素が存在する雰囲気下で行うのが好ましく、空気中で行うのがより好ましい。
【0017】
第2化合物は炭素数1から30のアルカン、炭素数2から10のアルケン、炭素数2から5のアルキン、炭素数3から11のシクロアルカン、ヒドロキシル基を有し炭素数1または3から8の化合物、炭素数5または6のシクロアルケン、芳香族炭化水素、アルデヒド基を有する炭素数1から10の化合物、ケトン基を有する炭素数3または4の化合物、カルボキシ基を有する炭素数2から18の化合物、ニトロ基を有する炭素数1から6の化合物、エーテル結合を有する炭素数2から4の化合物、エステル結合を有する炭素数2から5の化合物、アミノ基を有する炭素数1から7の化合物、およびアンモニアからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
炭素数1から30のアルカンとは炭素が1から30個の飽和炭化水素であり、直鎖炭化水素でも分岐炭化水素でもいずれでもよい。
【0018】
炭素数2から10のアルケンとは炭素が2から10個で炭素間に二重結合を有する炭化水素化合物である。二重結合は1つでも複数あってもよく、その位置は末端でも末端以外でもよい。炭素数2から5のアルキンとは炭素が2から5個で炭素間に三重結合を有する炭化水素化合物である。三重結合は1つでも複数あってもよく、その位置は末端でも末端以外でもよい。
【0019】
炭素数3から11のシクロアルカンとは、炭素が3から11個の環状飽和炭化水素であり、シクロ環に置換基を有していても有していなくてもよい。化合物中のシクロ環は1つでも複数あってもよく、スピロ環でもよい。
【0020】
ヒドロキシル基を有し炭素数1または3から8の化合物としては、メタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、これらのジオール、トリオール等が挙げられる。
炭素数5または6のシクロアルケンとしては、炭素が5個または5個の環状の不飽和炭化水素であり、シクロペンテン、シクロヘキセン等が挙げられる。
芳香族炭化水素としては、芳香族性を有する環状の炭化水素であり、炭素の数は通常、6から24個である。
アルデヒド基を有する炭素数1から10の化合物とは、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ペンチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド等が挙げられる。
【0021】
ケトン基を有する炭素数3または4の化合物としては、アセトン、プロパノン、ブタノン、ペンタノン等が挙げられる。
カルボキシ基を有する炭素数2から18の化合物しては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等が挙げられる。
ニトロ基を有する炭素数1から6の化合物としては、ニトロメタン、ニトロエタン、ニトロプロパン等が挙げられる。
エーテル結合を有する炭素数2から4の化合物としては、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル等が挙げられる。
エステル結合を有する炭素数2から5の化合物としては、上記カルボキシ基を有する化合物のエステル化合物が挙げられる。
アミノ基を有する炭素数1から7の化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等が挙げられる。
【0022】
第2化合物はカルボキシ基、アルデヒド基またはエステル結合を有する化合物が好ましい。カルボキシ基を有し炭素数2から18化合物としては酢酸が好ましく、アルデヒド基を有する炭素数1から10の化合物としてはアセトアルデヒドが好ましく、エステル結合を有する炭素数2から5の化合物としては酢酸エチルが好ましい。
【0023】
本方法における触媒は、長周期表で第4から12族に属する元素を含む触媒である。
本方法で用いる触媒は、前記第1化合物と接触して、酸素または反応系内に存在する他のガス状の化合物と結合して、前記第2化合物に変換する機能を有する。長周期表で第4から12族に属する元素の二種以上を合金化して使用してもよく、ナノ合金を用いてもよい。ナノ合金の作成方法は、特に限定されるものではないが、ナノ合金化したい金属の前駆体を還元剤で原子に変えて、原子が自己凝集をして、粒成長する過程を保護剤で抑制して、ナノ合金粒子を得る方法が挙げられる。
【0024】
上記の触媒性能の観点から、白金族金属が好ましい。白金族金属は長周期表で第5および第6周期の第8、9、10族に位置する元素であり、具体的にはルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金である。白金族金属原子の最外殻にあるd電子が容易に酸素原子と反応するため、酸化反応に多く用いられることから、前記前記対象物と共存する第1化合物を第2化合物に変換しやすい。食品添加物に登録されているという観点から、白金が好ましい。
【0025】
前記触媒は固体触媒が好ましく、金属粒子を触媒として使用することが可能である。金属粒子の比表面積が増大することで、活性点が増加するため、金属粒子は粒径1nmから10nmのナノ粒子が好ましい。これら金属粒子をセラミック担体のような無機担体に担持させた触媒が好ましい。金属ナノ粒子をそのまま使用すると、ナノ粒子同士が凝集して、活性が低下する可能性があることから、金属ナノ粒子の凝集を防ぐため、担持触媒とすることが好ましい。
触媒における無機担体は、比表面積が大きいほど、吸着する金属粒子の量を多くでき、触媒性能を向上させることができるため、比表面積が大きいものが好ましい。無機担体としては、シリカ、アルミナ、アルミナ-シリカ、活性炭、ゼオライト、ジルコニア、マグネシア、ケイソウ土が挙げられる。
【0026】
マグネシアは、比表面積50から200m2,細孔直径が2nm以下のものが好ましい。アルミナは、γ型でありかつ、比表面積130から350m2が好ましい。酸化チタンは、アナターゼ型が好ましく、比表面積40から90m2、細孔直径2nmが好ましい。ジルコニアは、比表面積150から300m2が好ましい。ゼオライトは、比表面積が400から900m2であり、細孔径が0.4から1nmが好ましい。シリカは、多孔質シリカが好ましく。細孔径(細孔直径)が1から50nmであり、BET比表面積が300から2000m2/gでが好ましい。多孔質シリカの中でも、メソポーラスシリカが特に好ましい。メソポーラスシリカはシリカの一種であり、ハニカム状態の2から10nmの均一な規則性細孔と1000m2/g以上の比表面積を有する。メソポーラスシリカは、大きな比表面積および規則性細孔という特徴を有するため、メソポーラスシリカの細孔に分子が入ることで反応が促進されやすく、触媒担体として優れている。
【0027】
触媒の形状は、粉末状、ペレット状、また触媒膜をフィルム等に形成させた形状が挙げられる。粉末状、ペレット状の触媒を使用する場合、フィルムおよび不織布の包装体に粉末状またはペレット状の触媒を充填して使用するのが好ましい。
【0028】
触媒を樹脂と混合しフィルム状とした触媒膜で使用してもよい。または触媒を含有する分散液を調製し、支持体に塗布後、塗膜を乾燥し、支持体を除去して膜状とした触媒膜を使用してもよい。触媒膜は他のフィルムと積層してもよい。積層の方法は共押出等が挙げられる。樹脂としては、例えば、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル等、通常、フィルムに使用できる樹脂が例示できる。
【0029】
本方法の防カビの対象となるカビは、クロカビ、アオカビ、コウジカビ、ススカビ、ツチアオカビ、黒色酵母、アオカビが例示でき、これらのカビの発生または増殖を抑制できる。
本方法は、生鮮食品および加工食品などカビの抑制が必要な食品を入れる包装袋、箱、ケース、パレット、冷蔵庫、リーファーコンテナ、倉庫、ならびに浴室、トイレ、リビング、自動車の中等の生活空間で適用することができる。カビを抑制したい対象物を入れる空間内に前記防カビ対象物と触媒を設置し、前記第1化合物を前記対象物および触媒と共存させる。第1化合物を共存させる方法としては前記の方法が挙げられる。共存させた第1化合物が触媒に接触して、大気中の酸素または前記対象物から発生する酸素や他のガスと反応して、第2化合物が生成される。気体は、濃度が均一になるように拡散するため、触媒を配置しておけば共存する第1化合物は触媒と反応し第2化合物を生成する。生成した第2化合物は触媒から拡散し前記対象物の近傍へ拡散する。その結果、カビの発生、増殖が抑制されると考えられる。第2化合物の濃度は、前記対象物の近傍で1ppmから100ppmの範囲が好ましい。
第2化合物は予め共存させておいてもよい。
【0030】
カビを抑制したい対象物を入れる空間が大きい場合は、ファンまたは空調により発生する気体の流通下に触媒を設置し、第1化合物が触媒と接触した後、防カビ抑制対象物へ気流が流れるようにするのが好ましい。触媒としてはペレット状の触媒をフィルムまたは不織布などの包装体で包装して、例えばエアコンの吸い込み口や吹き出し口等の空気が流通しやすい場所に設置する方法や空間内の壁等の建築資材、家具または車載資材に触媒を膜状に塗布する方法、または室内のエアコンのフィルタに触媒を塗布する方法が挙げられる。予め第1化合物を吸着した吸着剤から蒸散させて空間内の第1化合物の濃度を上昇させ、空気の対流を利用して、触媒と第1化合物とを接触させて、空間内に第2化合物を発生させて空間内のカビを抑制させてもよい。
【0031】
以上、本発明について詳細に説明したが本発明はこれらの記載に限定されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。例えば、本方法は上記実施形態の構成において、他の任意の構成を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてよい。
【実施例0032】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例における防カビの評価を行った。
【0033】
(担体の成形)
粉末状のメソポーラスシリカ(太陽化学製 TMPS-4R)を押し出し成型機で直径約1.5mm、長さ約4mmペレット状に成型した。成形したペレットを80℃で24時間乾燥後、500から600℃で1時間焼成して、メソポーラスシリカペレットを得た。
【0034】
(触媒の合成)
上記で得られたメソポーラスシリカペレット成型体1gを50mLの水に懸濁させ、白金粒子の担持量が1質量%になるように塩化白金酸水溶液を滴下し、室温にて一晩放置した。その後、懸濁液を、エバポレータを用いてオイル温度約70℃にて加熱し、3kPaの減圧下で溶媒を揮発させ、懸濁液を濃縮した。濃縮後一晩乾燥した。得られた白金が担持したペレット成型体を60℃で16から18時間、真空乾燥させた。その後、窒素ガス300ml/minおよび水素ガスを300mL/minで流通させながら、100から200℃の温度となるように水素-窒素の混合ガス雰囲気下でペレットを2時間加熱した。その後、窒素ガスを水素ガスで置換し、水素雰囲気下でペレットを100℃から200℃で還元処理した。これにより、メソポーラスシリカペレットに白金粒子を担持した白金担持率が1wt%の白金担持ペソポーラスシリカ1を得た。
【0035】
(実施例)
以下の触媒1および触媒2を使用した。
触媒1:1gの市販のPt担持Al2O3(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製)Pt含有量は1wt%である。
触媒2:1gの上記方法により合成した白金担持ペソポーラスシリカ1
【0036】
ポテト・デキストロース寒天培地(PDA培地)にPenicillium janthinellumを添加して、25℃、7日間前培養させたカビを用意した。縦約10cm、横約5cm、厚さ約2cmの食パンの表面の三か所にエーゼを用いて前記培養したカビを接種した。カビを接種した食パンを容器1個あたり各3枚入れた。
ひとつの容器(容器1)に触媒1をネットに包み、カビ接種した食パンに接触しないように容器内1に設置し、蓋を閉めて密閉した。別の容器(容器2)には触媒2を同様にして設置した。
3つ目の容器(容器3)には触媒を設置せず前記方法と同様にしてカビを接種した食パンを3枚入れ、前記容器1および容器2とカビの発生程度を比較した。
1週間ごとに食パン表面上のカビの発生を目視観察した。結果を表1に示した。
【0037】
【0038】
(参考例)
試験方法
縦約10cm、横約10cm、厚さ約1cmの食パンをサンプリングバックに入れた。1つのサンプルバックには、不織布で触媒2を包装して、食パンに接触しないようにサンプリングバック内に設置した。別のサンプルバックには触媒を設置せずパンを入れて、蓋を閉めてサンプルバックを密閉した。
密閉後、サンプルバック内を脱気して、ドライエアーを10L充填して、室温で保管した。
上記処理の直後および5日後にサンプリングバック内のガスを採取、濃縮して、GC/MSで測定した。検出されたピークすべてを内部ライブラリーの自動検索機能を用いて定性処理した結果および各成分のトルエン換算値を表2に示した。
【0039】
【0040】
参考例から明らかなように、パンからはエタノールが発生しており、触媒がある場合はアセトアルデヒド等の第2化合物が認められた。一方、触媒がない場合はアセトアルデヒド等の第2化合物の顕著な増加は認められなかった。したがってエタノールがアセトアルデヒド等に触媒により変換されることが示される。実施例の結果からエタノールから変換されたガスが共存することにより防カビ効果が発現したと考えられる。
上記の結果から、本方法によれば防カビの対象物に防カビ剤を直接、接触または添加することなくカビの発生および増殖が抑えられ、さらに防カビの効果が長時間持続する。