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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020679
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】垂直離着陸航空機の電力供給システム
(51)【国際特許分類】
   B64C 29/00 20060101AFI20240207BHJP
   B64D 27/24 20240101ALI20240207BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
B64C29/00 A
B64D27/24
H02P27/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123032
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】吉村 介作
(72)【発明者】
【氏名】相澤 凡
(72)【発明者】
【氏名】内田 健太
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅士
(72)【発明者】
【氏名】塚本 宗紀
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA30
5H505BB06
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505HA07
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ17
5H505JJ28
5H505LL22
5H505LL41
5H505LL44
5H505MM06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】VTOLロータを備える垂直離着陸航空機の電力供給システムに関する。
【解決手段】垂直離着陸航空機の電力供給システム30のコントローラ(制御部64)は、翼(前翼、後翼)による揚力が発生した後に、VTOLロータ20の回転が停止し続けるようにモータ40に供給する電力を制御する停止制御を行い、停止制御中に、温度検出部(温度センサ58)によって検出されるいずれか1つのスイッチング素子の温度が温度閾値以上になることに応じて、停止制御を一時解除し、停止制御の一時解除後に停止制御を再開する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向の推力を発生させるVTOLロータと、
前記VTOLロータを回転させるモータと、
電源と、
複数のスイッチング素子によって前記電源から前記モータに多相交流の電力を供給するインバータ装置と、
複数の前記スイッチング素子を制御して前記モータに供給する電力を制御するコントローラと、
を備える垂直離着陸航空機の電力供給システムであって、
各々の前記スイッチング素子の温度を検出する温度検出部を更に備え、
前記コントローラは、
翼による揚力が発生した後に、前記VTOLロータの回転が停止し続けるように前記モータに供給する電力を制御する停止制御を行い、
前記停止制御中に、前記温度検出部によって検出されるいずれか1つの前記スイッチング素子の温度が温度閾値以上になることに応じて、前記停止制御を一時解除し、
前記停止制御の一時解除後に、前記停止制御を再開する、垂直離着陸航空機の電力供給システム。
【請求項2】
請求項1に記載の垂直離着陸航空機の電力供給システムであって、
前記コントローラは、前記モータに供給する電力を一時停止させることによって前記停止制御を一時解除する、垂直離着陸航空機の電力供給システム。
【請求項3】
請求項1に記載の垂直離着陸航空機の電力供給システムであって、
前記コントローラは、前記モータのトルクを、前記スイッチング素子の温度が前記温度閾値以上になる前よりも小さくすることによって前記停止制御を一時解除する、垂直離着陸航空機の電力供給システム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の垂直離着陸航空機の電力供給システムであって、
前記VTOLロータの回転角度を検出する角度検出部を更に備え、
前記コントローラは、前記停止制御の一時解除後に、前記角度検出部によって検出される回転角度が所定角度範囲内になることに応じて、前記停止制御を再開する、垂直離着陸航空機の電力供給システム。
【請求項5】
請求項1に記載の垂直離着陸航空機の電力供給システムであって、
前記VTOLロータの回転角度を検出する角度検出部を更に備え、
前記コントローラは、
前記停止制御の一時解除後に、前記VTOLロータを回転させるように、前記モータに電力を供給し、
前記角度検出部によって検出される回転角度が所定角度範囲内になることに応じて、前記停止制御を再開する、垂直離着陸航空機の電力供給システム。
【請求項6】
請求項5に記載の垂直離着陸航空機の電力供給システムであって、
前記コントローラは、前記VTOLロータの2つの回転方向のうち、前記VTOLロータの最新の回転角度から前記所定角度範囲までの角度が小さい回転方向に前記VTOLロータを回転させるように、前記モータに電力を供給する、垂直離着陸航空機の電力供給システム。
【請求項7】
請求項5に記載の垂直離着陸航空機の電力供給システムであって、
前記コントローラは、前記VTOLロータの2つの回転方向のうち、前記モータの消費電力が小さくなる回転方向に前記VTOLロータを回転させるように、前記モータに電力を供給する、垂直離着陸航空機の電力供給システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VTOLロータを備える垂直離着陸航空機の電力供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、垂直離着陸航空機、所謂VTOL機が開発されている。一部のタイプのVTOL機は、複数のVTOLロータと1以上のクルーズロータとを備える。VTOLロータは、鉛直方向の推力を発生させる。VTOLロータは、主にVTOL機の離着陸工程で使用される。クルーズロータは、水平方向の推力を発生させる。クルーズロータは、主にVTOL機の巡航工程で使用される。
【0003】
VTOLロータの各々のブレードは、VTOL機の巡航中に空気抵抗を受ける。つまり、VTOLロータは、VTOL機の巡航中に抗力を発生させる。VTOL機の巡航中には、VTOLロータに起因する抗力を小さくすることが好ましい。特許文献1には、VTOL機の巡航中に各々のVTOLロータの回転を停止させることで抗力を低減する技術が示される。この技術は、機械的な停止機構によってVTOLロータの回転を停止させる。しかし、機械的な停止機構は、VTOL機の重量増加を招く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特願2015-147574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コントローラが行う電力制御によってVTOLロータの回転を停止させることも可能である。VTOLロータは、モータの回転軸に連結される。モータと電源との間にはインバータ装置が介在する。コントローラは、インバータ装置のスイッチング素子を制御してモータに供給する電力を制御することによって、VTOLロータの回転を停止させることができる。この技術によれば、VTOL機の重量増加は発生しない。その一方で、この技術によると、一部のスイッチング素子に電力が集中するため、スイッチング素子が発熱する。これによりスイッチング素子が破損する虞がある。又は、スイッチング素子の寿命が短くなる虞がある。
【0006】
本発明は上述した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様は、鉛直方向の推力を発生させるVTOLロータと、前記VTOLロータを回転させるモータと、電源と、複数のスイッチング素子によって前記電源から前記モータに多相交流の電力を供給するインバータ装置と、複数の前記スイッチング素子を制御して前記モータに供給する電力を制御するコントローラと、を備える垂直離着陸航空機の電力供給システムであって、各々の前記スイッチング素子の温度を検出する温度検出部を更に備え、前記コントローラは、翼による揚力が発生した後に、前記VTOLロータの回転が停止し続けるように前記モータに供給する電力を制御する停止制御を行い、前記停止制御中に、前記温度検出部によって検出されるいずれか1つの前記スイッチング素子の温度が温度閾値以上になることに応じて、前記停止制御を一時解除し、前記停止制御の一時解除後に、前記停止制御を再開する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スイッチング素子の短寿命化や破損等、熱による諸問題を回避することができ、結果として、停止制御を実現又は維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、垂直離着陸航空機の上面図である。
図2図2は、垂直離着陸航空機の電力供給システムのブロック図である。
図3図3は、停止しているVTOLロータの上面図である。
図4図4は、第1実施形態の停止処理のフローチャートである。
図5図5Aは、モータによってVTOLロータに発生するトルクの時間変化を示すグラフである。図5Bは、モータの電気角の時間変化を示すグラフである。図5Cは、モータに流れる3相(U相、V相、W相)の電流の時間変化を示すグラフである。図5Dは、モータに流れる3相(U相、V相、W相)の電流を流すスイッチング素子の温度の時間変化を示すグラフである。
図6図6は、第2実施形態の停止処理のフローチャートである。
図7図7は、第3実施形態の停止処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[1 垂直離着陸航空機10の構成]
図1は、垂直離着陸航空機10の上面図である。以下では、垂直離着陸航空機10をVTOL機10とも称する。VTOL機10は、例えば電動垂直離着陸航空機、所謂eVTOL機である。VTOL機10は、胴体12と、前翼14と、後翼16と、2つのブーム18と、8つのVTOLロータ20と、2つのクルーズロータ22とを備える。
【0011】
図1で示されるVTOL機10は、本発明を使用する航空機の一例である。本発明は、前進に伴い固定翼による揚力が発生する状態で複数のVTOLロータ20を停止させる航空機の全般に使用可能である。
【0012】
前翼14は、胴体12の前部に接続される。後翼16は、胴体12の後部に接続される。前翼14及び後翼16は、VTOL機10の前方への移動に伴い揚力を発生させる。
【0013】
2つのブーム18のうちのブーム18Rは、胴体12の右方に配置される。2つのブーム18のうちのブーム18Lは、胴体12の左方に配置される。各々のブーム18は、前後方向に延びる。
【0014】
ブーム18Lには、後方に向かって順番に4つのモータ40(図2)が配置される。同様に、ブーム18Rには、後方に向かって順番に4つのモータ40が配置される。各々のモータ40の回転軸は、各々のモータ40に対応するVTOLロータ20に連結される。モータ40の回転軸とVTOLロータ20との間には1つ以上のギヤが介在されてもよい。VTOLロータ20の軸線は、鉛直方向と略平行である。又は、VTOLロータ20の軸線は、鉛直方向に対して所定角度傾いてもよい。各々のVTOLロータ20は、垂直方向の離陸工程、離陸及び上昇から巡航への移行工程、巡航から下降及び着陸への移行工程、垂直方向の着陸工程、及び、停止飛行工程で、鉛直方向の推力を発生させるように回転制御される。各々のVTOLロータ20は、プロペラの回転によって鉛直方向の推力を発生させる。
【0015】
胴体12には、左右に並ぶ2つのモータ40(図2)が配置される。各々のモータ40の回転軸は、各々のモータ40に対応するクルーズロータ22に連結される。モータ40の回転軸とクルーズロータ22との間には複数のギヤが介在されてもよい。クルーズロータ22の軸線は、水平方向と略平行である。各々のクルーズロータ22は、巡航工程、離陸及び上昇から巡航への移行工程、及び、巡航から下降及び着陸への移行工程で、水平方向の推力を発生させるように回転制御される。各々のクルーズロータ22は、プロペラの回転によって水平方向の推力を発生させる。
【0016】
[2 電力供給システム30の構成]
VTOL機10は、図2で示される電力供給システム30を有する。図2は、垂直離着陸航空機10の電力供給システム30のブロック図である。電力供給システム30は、蓄電装置32と、発電装置34と、コンバータ装置36と、インバータ装置38と、モータ40と、センサ群42と、制御装置44とを備える。図2において、実線の矢印は電力供給線を示し、破線は信号線を示す。なお、本明細書では発電装置34を備える電力供給システム30について説明するが、電力供給システム30は、発電装置34を備えなくてもよい。
【0017】
インバータ装置38とモータ40とは、1つのロータ(VTOLロータ20又はクルーズロータ22)に対して1つずつ設けられる。一方、蓄電装置32と発電装置34とコンバータ装置36とは、複数のロータ(VTOLロータ20又はクルーズロータ22)に対して1つずつ設けられる。言い換えると、蓄電装置32と発電装置34とコンバータ装置36とは、複数の電力供給システム30で共用される。例えば、互いにトルクを打ち消しあう一対のVTOLロータ20に対して、同じ蓄電装置32が設けられてもよい。
【0018】
蓄電装置32は、例えば高電圧のバッテリを有する。発電装置34は、発電機を有する。発電機の回転軸は、例えばガスタービンエンジンの回転軸に接続される。コンバータ装置36は、コンバータ回路を有する。1つの発電装置34に対して、1つのコンバータ装置36が設けられる。コンバータ回路の一次端子は、発電装置34に接続される。コンバータ回路の二次端子は、蓄電装置32とインバータ装置38とに接続される。コンバータ装置36は、発電装置34から出力される交流電力を直流電力に変換して、蓄電装置32とインバータ装置38とに出力することができる。また、コンバータ装置36は、発電装置34から出力される電力の電圧を変圧して、蓄電装置32とインバータ装置38とに出力することができる。
【0019】
インバータ装置38は、例えば三相のインバータ回路を有する。インバータ回路は、複数のスイッチング素子を有する。インバータ回路の一次端子は、蓄電装置32とコンバータ装置36とに接続される。インバータ回路の二次端子は、モータ40に接続される。インバータ装置38は、蓄電装置32とコンバータ装置36の少なくとも一方から出力される直流電力を交流電力に変換して、モータ40に出力することができる。
【0020】
モータ40は、例えば三相モータである。上述したように、モータ40の回転軸は、直接又は1つ以上のギヤを介して1つのロータ(VTOLロータ20又はクルーズロータ22)のハブに接続される。
【0021】
センサ群42は、VTOL機10が備えるセンサを含む。例えば、センサ群42は、複数の温度センサ58と1つの角度センサ60と複数の電流センサ62とを含む。温度センサ58は、インバータ装置38の1つのスイッチング素子に対して1つ設けられる。温度センサ58は、スイッチング素子の温度(スイッチ温度)を検出する。なお、温度センサ58の代わりに、後述する制御部64が電流値等に基づいて各々のスイッチ温度を推定してもよい。角度センサ60は、VTOLロータ20の回転角度を検出する。各々の電流センサ62は、モータ40に供給される1相の電流を検出する。各々のセンサは、検出した情報を示す信号を制御装置44に出力する。
【0022】
制御装置44は、電力供給システム30を制御する。制御装置44は、例えばVTOL機10のフライトコントローラであってもよいし、フライトコントローラによって管理されるスレーブコントローラであってもよい。制御装置44は、制御部64と、記憶部66と、ドライバ68とを有する。
【0023】
制御部64は、処理回路を有する。処理回路は、CPU等のプロセッサであってもよい。処理回路は、ASIC、FPGA等の集積回路であってもよい。プロセッサは、記憶部66に記憶されるプログラムを実行することによって各種の処理を実行可能である。複数の処理のうちの少なくとも一部が、ディスクリートデバイスを含む電子回路によって実行されてもよい。
【0024】
制御部64は、各々のモータ40を制御するために、ドライバ68に制御信号を出力する。これにより、制御部64は、各々のモータ40に電力を供給することができ、また、各々のモータ40に対する電力の供給を停止することができる。制御部64は、インバータ装置38を制御することによって、VTOLロータ20の回転を停止させることができる。VTOLロータ20の回転を停止させるために制御部64が行うインバータ装置38の制御を停止制御という。更に、制御部64は、VTOLロータ20の回転角度を所定角度に固定してもよい。また、制御部64は、インバータ装置38を制御することによって、モータ40のトルクを変化させることができる。
【0025】
記憶部66は、揮発性メモリと不揮発性メモリとを有する。揮発性メモリとしては、例えばRAM等が挙げられる。揮発性メモリは、プロセッサのワーキングメモリとして使用される。揮発性メモリは、処理又は演算に必要なデータ等を一時的に記憶する。不揮発性メモリとしては、例えばROM、フラッシュメモリ等が挙げられる。不揮発性メモリは、保存用のメモリとして使用される。不揮発性メモリは、プログラム、テーブル、マップ等を記憶する。記憶部66の少なくとも一部が、上述したようなプロセッサ、集積回路等に備えられてもよい。
【0026】
不揮発性メモリは、VTOLロータ20の回転角度の変化量と、モータ40の電気角の変化量との関係を記憶する。VTOLロータ20の回転角度の変化量と、モータ40の電気角の変化量とは、モータ40の磁極数に応じて決まる。また、VTOLロータ20とモータ40との間にギヤが介在する場合、VTOLロータ20の回転角度の変化量と、モータ40の電気角の変化量とは、ギヤ比に応じて決まる。
【0027】
ドライバ68は、ゲートドライバ回路を有する。ドライバ68は、制御部64から出力される制御信号に応じて、インバータ装置38のインバータ回路が有する各々のスイッチング素子にオンオフ信号を出力する。また、コンバータ装置36がスイッチング素子を有する場合、ドライバ68は、コンバータ装置36の各々のスイッチング素子にオンオフ信号を出力する。
【0028】
[3 停止制御におけるブレード70の状態]
図3は、停止しているVTOLロータ20の上面図である。図3で示されるように、制御部64は、1つのブレード70が前方に向かって概ね真っすぐ延びる状態でVTOLロータ20を停止させる。ブレード70が受ける空気抵抗は、ブレード70の形状、大きさ等によって変わる。本明細書では、図3で示される姿勢により、各々のブレード70が受ける空気抵抗の合計値は最小になるものと想定する。つまり、図3で示される姿勢により、VTOLロータ20に起因する抗力を最小にすることができる。
【0029】
なお、図3は、3つのブレード70を有するVTOLロータ20を示す。しかし、ブレード70の数は関係ない。ブレード70の数にかかわらず、1つのブレード70が前方に向かって概ね真っすぐ延びる状態でVTOLロータ20を停止させることによって、VTOLロータ20に起因する抗力を最小にすることができる。なお、前後方向に対するブレード70の角度が0°±a°以内であれば、抗力を最小にすることができる。a°は、ブレード70の形状等によって決まる。本明細書では、0°±a°の角度範囲を、「停止角度範囲」と称する。
【0030】
記憶部66は、ブレード70の角度が停止角度範囲になるようなVTOLロータ20の回転角度範囲を所定角度範囲として記憶する。制御部64は、VTOL機10の巡航状態において、VTOLロータ20の回転角度を所定角度範囲内で固定することが好ましい。
【0031】
[4 制御部64が行う停止処理]
[4-1 第1実施形態]
図4は、第1実施形態の停止処理のフローチャートである。制御部64は、VTOL機10が離陸工程から巡航工程に移行した後に、図4で示される処理を所定時間毎に実行する。例えば、VTOL機10が所定速度以上で前進している状態で、翼(前翼14及び後翼16)は十分な揚力を発生させる。このため、制御部64は、クルーズロータ22を動作させた後に、前進速度が所定速度以上になることに応じて、各々のVTOLロータ20の回転を停止させてもよい。
【0032】
ステップS1において、制御部64は、停止制御を行う。ここでは、制御部64は、VTOLロータ20を停止させるためにインバータ装置38を制御し、モータ40への電力供給を行う。蓄電装置32又は発電装置34は、適当な電力をインバータ装置38に供給する。インバータ装置38は、オンにされたスイッチング素子を通じてモータ40に電力を供給する。これにより、モータ40及びVTOLロータ20は停止状態を維持することができる。ステップS1の処理が終了すると、処理はステップS2に移行する。
【0033】
ステップS2において、制御部64は、各々の温度センサ58によって検出されるスイッチ温度と温度閾値とを比較する。温度閾値は、記憶部66に予め記憶される。いずれかのスイッチ温度が温度閾値以上である場合(ステップS2:YES)、処理はステップS3に移行する。一方、全てのスイッチ温度が温度閾値未満である場合(ステップS2:NO)、このタイミングでの停止処理は終了する。この場合、制御部64は、停止制御を継続する。結果として、モータ40及びVTOLロータ20は、停止状態を維持する。
【0034】
ステップS2からステップS3に移行すると、制御部64は、停止制御を一時解除する。例えば、制御部64は、インバータ装置38の各々のスイッチング素子をオフ状態にして、モータ40への電力供給を一時的に停止する。電力供給の停止時間は任意に設定可能である。なお、制御部64は、電力供給を停止させる代わりにモータ40のトルクを小さくしてもよい。ステップS3の処理が終了すると、処理はステップS4に移行する。
【0035】
ステップS4において、制御部64は、停止制御を再開する。ステップS3で電力を停止した場合には、制御部64は、VTOLロータ20を停止させるためにモータ40への電力供給を再開する。ステップS3でトルクを小さくした場合、制御部64は、トルクを大きくする。ステップS4の処理が終了すると、停止処理は一旦終了する。
【0036】
図5Aで示されるように、モータ40のトルクは、停止制御の一時解除によって一時的に低下し、停止制御の再開によって回復する。図5Bで示されるように、電気角(モータ40の電流の位相)は、停止制御の一時解除と再開とによって変化する。図5Cで示されるように、三相電流(U相、V相、W相)の各々の電流値は、停止制御の一時解除と再開とによって変化する。図5Dで示されるように、三相(U相、V相、W相)電流を流すスイッチング素子のうち、最も高温のスイッチング素子の温度は、停止制御の一時解除後に低下する。
【0037】
なお、図5Aでは、停止制御の一時解除によって、モータ40のトルクがゼロになっている。しかし、制御部64は、モータ40のトルクをゼロにしなくてもよい。例えば、制御部64は、VTOLロータ20のプロペラに作用する外力に対してモータ40のトルクが小さくなるように、モータ40を制御すればよい。
【0038】
第1実施形態においては、インバータ装置38の1つのスイッチング素子が温度閾値以上になると、ステップ3の処理が行われる。例えば、制御部64は、モータ40への電力供給を一時的に停止する。これにより、発熱したスイッチング素子がオフ状態にされる。すると、スイッチング素子の温度は低下する。又は、制御部64は、モータ40のトルクを小さくする。これにより、モータ40に供給される三相電流の位相が変わる。すると、発熱したスイッチング素子の通電状態が変わり、スイッチング素子の温度は低下する。このため、第1実施形態によれば、スイッチング素子の破損を防止することができる。第1実施形態によれば、結果として、スイッチング素子の寿命を延ばすことができる。
【0039】
[4-2 第2実施形態]
図6は、第2実施形態の停止処理のフローチャートである。第2実施形態は、第1実施形態の応用例である。図6で示されるステップS11~S13、ステップS15の処理は、図4で示されるステップS1~S4の処理と同じである。以下では、ステップS11~S13、ステップS15の説明を省略し、ステップS14の説明をする。
【0040】
ステップS13において、モータ40への電力供給が停止される。このため、VTOLロータ20にはモータ40によって付加されるトルクがなくなる。この状態で、VTOLロータ20は、外力によって回転し得る。
【0041】
ステップS14において、制御部64は、角度センサ60によって検出されるVTOLロータ20の回転角度が所定角度範囲内か否かを判定する。上述したように、所定角度範囲は、記憶部66に予め記憶される。VTOLロータ20の回転角度が所定角度範囲内となった場合(ステップS14:YES)、処理はステップS15に移行する。この場合、制御部64は、停止制御を再開する。一方、VTOLロータ20の回転角度が所定角度範囲内でない場合(ステップS14:NO)、制御部64はステップS14の判定を継続する。
【0042】
なお、ステップS14において、制御部64は、VTOLロータ20の回転角度が、停止角度範囲±b°の範囲内になった時点で、モータ40のトルクを徐々に大きくしてもよい。
【0043】
第2実施形態によれば、第1実施形態と同様に、スイッチング素子の破損を防止することができる。第2実施形態によれば、結果として、スイッチング素子の寿命を延ばすことができる。また、第2実施形態によれば、VTOLロータ20のいずれかのブレード70を停止角度範囲内で確実に停止させることができる。
【0044】
[4-3 第3実施形態]
図7は、第3実施形態の停止処理のフローチャートである。第3実施形態は、第2実施形態の応用例である。上述した第2実施形態では、外力がVTOLロータ20を回転させる。第3実施形態では、モータ40がVTOLロータ20を回転させる。図7で示されるステップS21~S24、ステップS26の処理は、図6で示されるステップS11~S15の処理と同じである。以下では、ステップS21~S24、ステップS26の説明を省略し、ステップS25の説明をする。
【0045】
ステップS24において、VTOLロータ20の回転角度が所定角度範囲内でない場合(ステップS24:NO)、処理はステップS25に移行する。ステップS25において、制御部64は、VTOLロータ20を回転させるためにモータ40への電力供給を行う。制御部64は、インバータ装置38の各々のスイッチング素子のオンオフを切り換えて、モータ40に電力を供給する。モータ40は、電力供給に応じて回転する。モータ40の回転に応じてVTOLロータ20は回転する。制御部64は、ステップS25の処理を、VTOLロータ20の回転角度が所定角度範囲内になるまで継続して行う(ステップS24:NO)。
【0046】
第3実施形態によれば、第1実施形態及び第2実施形態と同様に、スイッチング素子の破損を防止することができる。第3実施形態によれば、結果として、スイッチング素子の寿命を延ばすことができる。また、第3実施形態によれば、VTOLロータ20のいずれかのブレード70を停止角度範囲で確実に停止させることができる。また、第3実施形態によれば、VTOLロータ20のいずれかのブレード70を停止角度範囲まで迅速に回転移動させることができる。結果として、抗力を最小にすることができる。
【0047】
なお、制御部64は、ステップ25において、VTOLロータ20の回転方向を制御してもよい。モータ40は、正方向と逆方向との2方向に回転可能である。例えば、制御部64は、VTOLロータ20の最新の回転角度を取得する。制御部64は、正方向における最新の回転角度から所定角度範囲までの角度差と、逆方向における最新の回転角度から所定角度範囲までの角度差とを比較する。制御部64は、角度差が小さい方向を選択し、モータ40を回転させる。これにより、VTOLロータ20のいずれかのブレード70を停止角度範囲までより迅速に回転移動させることができる。結果として、抗力を最小にすることができる。
【0048】
第3実施形態は、変形が可能である。上述した実施形態では、制御部64は、VTOLロータ20の回転方向を回転角度で判定する。これに代わり、制御部64は、VTOLロータ20の回転方向をモータ40の消費電力で判定してもよい。例えば、制御部64は、各々の電流センサ62で検出される電流値に基づいて、VTOLロータ20を2方向に回転させる場合の各々の消費電力を算出する。制御部64は、モータ40の消費電力が小さくなる回転方向にVTOLロータ20を回転させるように、モータ40に電力を供給してもよい。
【0049】
[5 実施形態から得られる発明]
上記実施形態から把握しうる発明について、以下に記載する。
【0050】
本発明の態様は、鉛直方向の推力を発生させるVTOLロータ(20)と、前記VTOLロータを回転させるモータ(40)と、電源(32、34)と、複数のスイッチング素子によって前記電源から前記モータに多相交流の電力を供給するインバータ装置(38)と、複数の前記スイッチング素子を制御して前記モータに供給する電力を制御するコントローラ(64)と、を備える垂直離着陸航空機(10)の電力供給システム(30)であって、各々の前記スイッチング素子の温度を検出する温度検出部(58)を更に備え、前記コントローラは、翼(14、16)による揚力が発生した後に、前記VTOLロータの回転が停止し続けるように前記モータに供給する電力を制御する停止制御を行い、前記停止制御中に、前記温度検出部によって検出されるいずれか1つの前記スイッチング素子の温度が温度閾値以上になることに応じて、前記停止制御を一時解除し、前記停止制御の一時解除後に、前記停止制御を再開する。
【0051】
上記構成においては、停止制御が一時解除される。停止制御が解除されることによって、発熱したスイッチング素子の温度は低下する。従って、上記構成によれば、スイッチング素子の破損を防止することができる。上記構成によれば、結果として、発熱によるスイッチング素子の寿命を延ばすことができる。
【0052】
上記態様において、前記コントローラは、前記モータに供給する電力を一時停止させることによって前記停止制御を一時解除してもよい。
【0053】
上記構成によれば、発熱したスイッチング素子がオフにされることによって、発熱したスイッチング素子の温度は低下する。従って、上記構成によれば、スイッチング素子の破損を防止することができる。上記構成によれば、結果として、発熱によるスイッチング素子の寿命を延ばすことができる。
【0054】
上記態様において、前記コントローラは、前記モータのトルクを、前記スイッチング素子の温度が前記温度閾値以上になる前よりも小さくすることによって前記停止制御を一時解除してもよい。
【0055】
上記構成によれば、前記モータのトルクが小さくされることによって、外力とトルクとのつり合いが崩れる。これにより、モータが回転し、モータに供給される電流の位相が変わる。すると、発熱したスイッチング素子の温度は低下する。従って、上記構成によれば、スイッチング素子の破損を防止することができる。上記構成によれば、結果として、発熱によるスイッチング素子の寿命を延ばすことができる。
【0056】
上記態様において、前記VTOLロータの回転角度を検出する角度検出部(60)を更に備え、前記コントローラは、前記停止制御の一時解除後に、前記角度検出部によって検出される回転角度が所定角度範囲内になることに応じて、前記停止制御を再開してもよい。
【0057】
上記構成によれば、VTOLロータのいずれかのブレードを停止角度範囲で確実に停止させることができる。
【0058】
上記態様において前記VTOLロータの回転角度を検出する角度検出部を更に備え、前記コントローラは、前記停止制御の一時解除後に、前記VTOLロータを回転させるように、前記モータに電力を供給し、前記角度検出部によって検出される回転角度が所定角度範囲内になることに応じて、前記停止制御を再開してもよい。
【0059】
上記構成によれば、VTOLロータのいずれかのブレードを停止角度範囲で確実に停止させることができる。また、上記構成によれば、VTOLロータのいずれかのブレードを停止角度範囲まで迅速に回転移動させることができる。
【0060】
上記態様において、前記コントローラは、前記VTOLロータの2つの回転方向のうち、前記VTOLロータの最新の回転角度から前記所定角度範囲までの角度が小さい回転方向に前記VTOLロータを回転させるように、前記モータに電力を供給してもよい。
【0061】
上記構成によれば、VTOLロータのいずれかのブレードを停止角度範囲までより迅速に回転移動させることができる。
【0062】
上記態様において、前記コントローラは、前記VTOLロータの2つの回転方向のうち、前記モータの消費電力が小さくなる回転方向に前記VTOLロータを回転させるように、前記モータに電力を供給してもよい。
【0063】
なお、本発明は、上述した開示に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得る。
【符号の説明】
【0064】
10…VTOL機(垂直離着陸航空機) 14…前翼(翼)
16…後翼(翼) 20…VTOLロータ
30…電力供給システム 32…蓄電装置(電源)
34…発電装置(電源) 38…インバータ装置
40…モータ 58…温度センサ(温度検出部)
60…角度センサ(角度検出部) 64…制御部(コントローラ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7