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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020682
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】電動プレス装置
(51)【国際特許分類】
   B30B 15/14 20060101AFI20240207BHJP
   B30B 15/28 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
B30B15/14 B
B30B15/28 P
B30B15/28 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123038
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002244
【氏名又は名称】株式会社ジャノメ
(72)【発明者】
【氏名】比留間 健一郎
【テーマコード(参考)】
4E089
【Fターム(参考)】
4E089EA01
4E089EB02
4E089EC01
4E089ED02
4E089EE01
4E089EF08
4E089FA09
4E089FB05
4E089FC03
(57)【要約】
【課題】ワークやプレス環境の違いが生じた場合においても減速荷重率を適正化できラムの停止位置及び停止時の荷重のばらつきを低減することが可能な電動プレス装置を提供する。
【解決手段】ワークWに対して加圧作業を行うラム1と、ラム1にかかる荷重を検出する荷重検出部31と、目標停止荷重値LTを記憶する目標停止荷重記憶部15と、荷重検出部31が目標停止荷重値LTを検出したときにラム1を停止させる停止部21と、減速荷重率Rを記憶する減速荷重率記憶部16と、荷重検出部31が減速荷重率Rと目標停止荷重値LTとを乗算した荷重値を検出したときに、ラム1の速度を設定速度VLにまで減速させるように制御する速度制御部22と、目標停止荷重値LTでのラムの速度と、設定速度VLとの比較結果に基づいて、減速荷重率Rが適正であるか否かを判定する判定部23とを備える電動プレス装置である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに対して加圧作業を行うラムと、
前記ラムにかかる荷重を検出する荷重検出部と、
前記ラムの加圧作業を停止させる際の目標停止荷重値を記憶する目標停止荷重記憶部と、
前記目標停止荷重値に対する割合で示され、前記目標停止荷重値手前で前記ラムの減速を開始するときの減速荷重率を記憶する減速荷重率記憶部と、
前記荷重検出部が前記減速荷重率と前記目標停止荷重値とを乗算した荷重値を検出したときから、前記ラムの速度を設定速度にまで減速させるように制御する速度制御部と、
前記目標停止荷重値での前記ラムの速度と、前記設定速度との比較結果に基づいて、前記減速荷重率が適正であるか否かを判定する判定部と
を備える電動プレス装置。
【請求項2】
前記目標停止荷重値での前記ラムの速度が前記設定速度よりも大きい場合に、適正な前記減速荷重率を探索する探索部
を更に備える請求項1に記載の電動プレス装置。
【請求項3】
前記目標停止荷重値での前記ラムの速度が前記設定速度よりも大きい場合に、前記減速荷重率が適正でないことを報知する報知部
を更に備える請求項1又は2に記載の電動プレス装置。
【請求項4】
前記ラムの速度と前記ラムにかかる荷重の検出結果との関係を表す時系列データに基づいて、前記減速荷重率の設定値を入力可能な操作部
を更に備える請求項1又は2に記載の電動プレス装置。
【請求項5】
前記目標停止荷重値での前記ラムの速度を、前記ラムの速度と前記ラムにかかる荷重の検出結果との関係を表す時系列データに最小二乗法を適用して傾きを求めることにより算出することを含む請求項1又は2に記載の電動プレス装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動プレス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サーボモータ等の電動モータを駆動源としてラムを上下動させ、ラムで対象物をプレスする電動プレス装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-33563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動プレス装置においては、「荷重停止」といった駆動停止モードが設定される。「荷重停止」では、設定した「目標停止荷重値」を検出したところで駆動指令を止めるが、このとき、ラムが停止すべき位置からオーバーシュー卜してしまう現象が生じることがある。ラムはオーバーシュートした距離だけ先に進んで止まるため、それに応じて荷重も設定した「目標停止荷重値」をオーバーする。オーバーシュートの距離は、一般的に、ラムの駆動速度に依存し、駆動速度が高いほどオーバーシュー卜の距離が増える。
【0005】
このようなオーバーシュート現象を低減するために「減速開始荷重値」が検出された時点で、予め設定した値、または固定値である「設定速度VL」に減速して加圧を行う方法が用意されている。この方法は「減速開始荷重値」を直接指定するのではなく、「目標停止荷重値」に対する割合で表される「減速荷重率」を設定することによって「減速開始荷重値」の設定が行われる。即ち、「減速開始荷重値」は、「目標停止荷重値×減速荷重率」で表すことができる。
【0006】
本来は、「減速開始荷重値」の設定値、即ち、「目標停止荷重値×減速荷重率」が所定の設定値を満たす時点でラムを減速時の設定速度VLにまで速やかに減速できればよい。しかしながら、実際には、ラムを減速させるために、ある程度の時間がかかる。そのため、「減速荷重率」の設定値が妥当でない場合は、ラムの速度が減速時の設定速度VLに減速する前に「目標停止荷重値」に到達し、結果的に、駆動指令を止めるときのラムの速度がばらつく。このばらつきがオーバーシュートの距離のばらつきを招き、オーバーシュート荷重のばらつきとなり、結果的にいたずらにラムの停止位置及び荷重の値をばらつかせることとなる。
【0007】
また、作業時間を少なくし、オーバーシュートを低減するために設定される「減速荷重率」は、ワークやプレス環境の違いによってその適切な値が異なる。ある程度許容されるばらつきにとどまっている「減速荷重率」を設定して運転を行っていても、設備を追加したり、ワークの小さな変更を行ったりする場合には、ばらつきが大きくなり、許容範囲を超えてしまうことがある。減速荷重率の許容範囲を超えていることが確認されないまま、プレス運転がされてしまうことにより、ラムの停止位置及び荷重のばらつきが大きくなることもある。
【0008】
上記課題を鑑み、本発明は、ワークやプレス環境の違いが生じた場合においても、減速荷重率を適正化でき、ラムの停止位置及び停止時の荷重のばらつきを低減することが可能な電動プレス装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一実施態様によれば、ワークに対して加圧作業を行うラムと、ラムにかかる荷重を検出する荷重検出部と、ラムの目標停止荷重値を記憶する目標停止荷重記憶部と、目標停止荷重値に対する割合で示され、目標停止荷重値の手前でラムの減速を開始するときの減速荷重率を記憶する減速荷重率記憶部と、荷重検出部が、減速荷重率と目標停止荷重値とを乗算した荷重値を検出したときから、ラムの速度を設定速度にまで減速させるように制御する速度制御部と、目標停止荷重値でのラムの速度と、設定速度との比較結果に基づいて、減速荷重率が適正であるか否かを判定する判定部とを備える電動プレス装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ワークやプレス環境の違いが生じた場合においても、減速荷重率を適正化でき、ラムの停止位置及び停止時の荷重のばらつきを低減することが可能な電動プレス装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係る電動プレス装置の一例を示す斜視図である。
図2】本発明の実施の形態に係る電動プレス装置のメカ部分の構成を示す断面図である。
図3】本発明の実施の形態に係る電動プレス装置のコントローラ部分とその周辺部の構成例を示すブロック図である。
図4】減速荷重率が適正な場合のラムの荷重と速度の関係の例を表すグラフである。
図5】減速荷重率が適正でない場合のラムの荷重と速度の関係の例を表すグラフである。
図6】減速荷重率が適正でない場合のラムの荷重のばらつきの様子を表すグラフである。
図7】本発明の実施の形態に係る電動プレス装置の減速荷重率の算出方法の第1の例(自動設定方法)を示すフローチャートである。
図8図7のフローチャートに従って、終了条件δ=2と設定し、減速荷重率の算出を行った場合の結果の例を表すグラフである。
図9図7のフローチャートに従って、終了条件δ=4と設定し、減速荷重率の算出を行った場合の結果の例を表すグラフである。
図10】本発明の実施の形態に係る電動プレス装置の減速荷重率の算出方法の第2の例(半自動設定方法)を示すフローチャートである。
図11】式(1)に基づいてラムの速度を求めた場合のラムの荷重と速度との関係の例を示すグラフである。
図12】最小二乗法を用いてラムの速度を求めた場合のラムの荷重と速度との関係の例を表すグラフである。
図13】同一条件で複数回運転実行した場合における荷重と速度との関係の例を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載においては、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。なお、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0013】
<電動プレス装置の構造>
本発明の実施の形態に係る電動プレス装置は、図1及び図2に示すような本体メカ部分と、図3に示すようなコントローラ部分とを備える。本体メカ部分は、回転力をネジ機構にてプレス用のラム1の直線運転に変換する変換機構を備えている。変換機構は、例えば図2に示すように、直線運転によりワークW(被加工物)に対して所望の圧力を与えるプレス用のラム1と、ラム1に直線運転を与えるボール螺子2とを備え、これらがプレス装置の本体上部4の内部に設けられている。
【0014】
ラム1は、本体上部4の内部に設けられている。本体上部4内には、ラム1に動力を与える電動モータとしてのサーボモータ3も設けられている。サーボモータ3の駆動は、プーリ、ベルトを介してボール螺子2に伝達される。本体上部4は、本体上部4の下部に配置された支柱7に固定されており、支柱7はベース8に固定されている。ベース8はアルミニウムや鉄等の材料により構成されており、このベース8上にプレスの対象となるワークWが載置される。ガイド部6はラム1に隣接して軸方向に沿って延伸し、軸方向に沿ってラム1を案内するように構成されている。ベース8の端部には、ワークWのプレス動作開始時又は停止時等に操作者によって操作されるスイッチ9a、9bが接続されている。
【0015】
ラム1は、円筒状に形成された筒状本体の内部に軸方向に沿って中空状部が形成されており、中空状部にボール螺子2の螺子軸2aが挿入可能となっている。ラム1の筒状本体の軸長方向端部にはボール螺子2のナット体2bが固着されている。円筒状に形成された筒状本体の先端部には、起歪柱1bが装着自在となるように構成されている。起歪柱1bは、ワークWに当接して適宜の圧力を与えるものである。起歪柱1bには、歪みゲージが取り付け可能に配置されており、この歪みゲージによって、ワークWに与えられる荷重値が検出できるようになっている。
【0016】
図3は、図1及び図2の本体メカ部分を制御するコントローラ(制御機構)周辺の概略図である。コントローラは、プロセッサ(CPU)20を備える。プロセッサ20には、制御プログラム記憶部11と、表示部12と、操作部13と、一次記憶部14と、目標停止荷重記憶部15と、減速荷重率記憶部16とが接続されている。
【0017】
制御プログラム記憶部11は、プロセッサ20を制御する種々の制御プログラムを記憶する。表示部12は、ラム1の速度とラム1にかかる荷重の検出結果との関係性を示すような例えば図4図6に示すグラフ等の処理結果等を表示する。操作部13は、ラム1の運転動作条件やワークWのプレス処理に必要な各種パラメータ等を入力可能なマウス、キーボード等で構成される。一次記憶部14は、演算過程における一時的なデータを記憶可能なメモリ等で構成される。
【0018】
目標停止荷重記憶部15は、ラム1のプレス動作を停止させる際の目標荷重である目標停止荷重値(Load of Target)LT[N]を記憶する。減速荷重率記憶部16は、目標停止荷重値に対する割合(%)で示され、目標停止荷重値の手前でラム1の減速を開始するときの減速荷重率(Ratio)R[%]を記憶する。
【0019】
プロセッサ20は更に、起歪柱1bに接続された荷重検出部31、指令パルス発生装置32、サーボモータドライバ33、エンコーダ位置カウンタ35に接続されている。荷重検出部31は、起歪柱1bに取り付けられた歪みゲージの抵抗変化に対する信号を増幅し、A/D変換処理によってアナログ信号をデジタル信号に変換し、変換した信号をプロセッサ20へ出力する。指令パルス発生装置32は、プロセッサ20からの指令に基づいて、所望の駆動指令パルスを発生し、プロセッサ20を介して発生させた駆動指令パルス信号をサーボモータドライバ33に出力する。そして、サーボモータドライバ33の制御によって、サーボモータ3を駆動することにより、ラム1を上下に移動させる。
【0020】
サーボモータ3は、エンコーダ34に接続されている。エンコーダ34は、サーボモータの回転角度を検知するためのものであり、ラム1の位置を検出する位置検出部として機能する。エンコーダ34の情報は、フィードバック制御を行うために、サーボモータドライバ33に位置情報を与えている。また、エンコーダ34の位置情報は、エンコーダ位置カウンタ35を介してプロセッサ20に出力され、これによりラム1の位置が検出できる。
【0021】
プロセッサ20は、停止部21と、速度制御部22と、判定部23と、探索部24と、報知部25とを備える。停止部21は、荷重検出部31がラム1の加圧作業を停止させる際の目標停止荷重値LTを検出したときに、電動モータであるサーボモータ3を停止させるための制御信号をサーボモータ3へ出力してサーボモータ3を停止させることにより、ラム1を停止させる。速度制御部22は、ラム1の速度を制御し、荷重検出部31が減速荷重率Rと目標停止荷重値LTとを乗算した荷重値である減速開始荷重値を検出した場合に、目標停止荷重値LTでのラム1の速度を、予め設定した加圧速度(Velocity of Pressing)VP[mm/sec]よりも低速の設定速度 (Velocity of Low)VL[mm/sec]に減速させるように制御する。
【0022】
判定部23は、目標停止荷重値LTでのラム1の速度と、減速時の設定速度VLとを比較し、比較結果に基づいて、減速荷重率Rが適正であるか否か、即ち、速度制御部22によるラム1の減速が正しく行われているか否かを判定する。判定部23は、目標停止荷重値LTでのラム1の速度が、設定速度VL以下である場合には、減速荷重率Rが適正であると判定する。一方、目標停止荷重値LTでのラム1の速度が、減速時の設定速度VLよりも大きい場合には、判定部23は、減速荷重率Rが適正でないと判定する。
【0023】
減速荷重率Rが適正でない場合は、ラム1が停止すべき位置からオーバーシュー卜し、ラム1の停止位置及び停止時の荷重のばらつきが生じる。探索部24は、目標停止荷重値LTでのラム1の速度が、減速時の設定速度VLよりも大きい場合に、減速荷重率Rの値を段階的に変化させ、変化後の減速荷重率Rでラム1のプレス動作を運転実行するテストを行うことで、ラム1の停止位置手前での減速が正しく行われるための適正な減速荷重率Rを探索して見つけ出す。
【0024】
報知部25は、目標停止荷重値LTでのラム1の速度が設定速度VLよりも大きい場合に、減速荷重率Rが適正でないことを、例えば表示部12を介して操作者に報知する。これにより、操作者に対し、減速荷重率Rの適正化を促すことができるため、ワークWやプレス環境の違いが生じた場合においてもラム1の停止位置及び停止時の荷重のばらつきへの対応を早期に行うことができる。
【0025】
ラム1の運転動作時は、制御プログラム記憶部11に記憶された制御プログラムによりサーボモータドライバ33に駆動指令が与えられ、これにより、ラム1が速度(「加圧速度」ともいう)VPで駆動する。荷重検出部31が検出した荷重値が、減速荷重率Rと目標停止荷重値LTとを乗算した値である減速荷重値に到達した場合に、ラム1の速度VPが設定速度VLとなるように、減速を開始する。その後、荷重検出部31が検出した荷重値が目標停止荷重値LTとなったときに、停止部21が、サーボモータ3を停止させることにより、ラム1の駆動を停止させる。
【0026】
図4は、ラム1の減速及び停止が適切に行われている場合のラム1の荷重値(検出荷重)と速度との関係を表すグラフである。ここでは、設定条件として、ラム1の速度(加圧速度)VP=5mm/sec、減速時の設定速度VL=1mm/sec、目標停止荷重値LT=10000N、減速荷重率R=90%とした場合の例を示す。図4で示した例は、想定したとおりに、1mm/secに減速した状態で10,000Nに到達して停止している。図4の例では、妥当な減速荷重率Rを設定していると評価できる。
【0027】
これに対して、図5では、減速荷重率Rが妥当では無い例を示している。設定条件は図4の例と同じである。図5では、減速荷重率Rと目標停止荷重値LTとを乗算した9,000Nのときにラム1の速度の減速が開始されているが、減速時の設定速度VL=1mm/secになる前に目標停止荷重値10,000Nに到達してしまっている。実際には、図5では、ラム1を3mm/secに減速させたところで目標停止荷重値LTに到達してしまっている。ラム1の駆動を停止した際にはオーバーシュートが発生し、荷重値10,300Nで停止している。
【0028】
図5における問題は、単純にオーバーシュート荷重が大きくなっているといったことではない。ワークやプレス環境の違いにより、目標停止荷重値LTに到達した時の速度が変化するため、結果的にこれが加圧速度のばらつきを生じさせることがある。そして、加圧速度のばらつきがオーバーシュート距離のばらつきを発生させ、結局、荷重オーバーシュートのばらつきとして現れる。
【0029】
図6は、減速荷重率Rの設定が妥当でないために、オーバーシュートの荷重のばらつきが発生した場合の例を示している。図6のグラフでは3つの運転動作結果の例を記載している。実線は、図5の運転動作と同じ結果を示す。実線よりも上側の点線で示した例では、目標停止荷重値LT10,000Nを検出した時点でのラム1の速度が4mm/secと高い。このため、ラム1の停止時のオーバーシュート距離、オーバーシュート荷重ともに多くなり、荷重は約400Nオーバーしていることが分かる。また、実線の下側の一点鎖線で示した例では、目標停止荷重値LT10,000Nの時の速度は2mm/secと低くなっており、オーバーシュート荷重も少なく、200N程度に収まっている。
【0030】
図6において問題なのは、減速を9000Nで開始して速度が1mm/secまで落ちる前に目標停止荷重値LT10,000Nが得られてしまうために、荷重のオーバーシュートがばらついてしまうことである。
【0031】
図6のような現象が起こっている場合には、減速荷重率Rを下げることで不具合の改善が可能である。減速荷重率Rを下げ、例えばR=90%からR=80%に下げれば、減速が開始されるのは、10,000N×80%=8,000Nであり、9000Nの場合よりもラム1の停止位置より手前になる。これにより、目標停止荷重値LT=10,000Nに到達するまでの時間が長くなるため、目標停止荷重値LTにおいて減速時の設定速度VLである1mm/secに減速してから目標停止荷重値LTに到達させることができるようになる。
【0032】
減速荷重率Rの妥当性は、目標停止荷重値LT=10,000N到達する時のラム1の速度を確認することで判断することができる。即ち、目標停止荷重値LTに到達した時に、ラム1の速度が減速時の設定速度VL=1mm/secになっていれば、減速荷重率Rは妥当であるし、1mm/secより大きければ、減速荷重率Rは妥当ではないと判定できる。
【0033】
一般に、減速荷重率Rを小さくすれば、ラム1の停止時までに減速時の設定速度VLにラム1の速度を減速させることに対する確実性が上がる一方で、減速して駆動する距離が長くなるため、それだけ加圧時間が長くなり、タクト時間が長くなり、生産性が下がる。現状では、経験者による経験や勘に基づいて減速荷重率Rが設定されており、減速荷重率Rの適切な設定方法も確率されていない。
【0034】
減速荷重率Rを適切な値にするためのツールとして、例えば、時系列データを解析するPCアプリケーションソフトがある。時系列データとは、一定の時間間隔、例えば1msec間隔でサンプリングした位置と検出荷重の値の列である。PCアプリケーションソフトでは、段取り段階で試しに加圧加工作業を実施し、その時の時系列データを取り込み、これを位置-荷重グラフとして表示するといった機能を持っている。主に、判定機能・判定値の妥当性を検証することに使われる。ここで判定機能とは、位置範囲と上限荷重下限荷重を設定値として指定し、実際の加工作業での位置・荷重がこの判定枠内を通過するかどうかを検出し、判定枠から出てしまった場合にエラーを出力するといった機能である。
【0035】
しかしながら、このようなPCアプリケーションソフトは、減速荷重率Rの設定値の妥当性を検証する目的には使いづらい。そのため、結果的には表計算ソフトなどを使い、経験者がこの時系列データを元に妥当な値を見つける、といったことが行われてきた。
【0036】
一方、本発明の実施の形態に係る電動プレス装置によれば、目標停止荷重値LTでのラムの速度と、設定速度VLとの比較結果に基づいて、減速荷重率Rが適正であるか否かを判定する判定部23を備えることにより、ワークWやプレス環境の違いが生じた場合においても、減速荷重率Rを適正化でき、ラム1の停止位置及び停止時の荷重のばらつきを低減することが可能な電動プレス装置が提供できる。
【0037】
<探索部24による減速荷重率Rの自動探索方法>
具体的な減速荷重率Rの探索方法のアルゴリズムの例を図7のフローチャートで示す。このアルゴリズムは二分法的な考えに基づいている。ここでは、減速荷重率調整幅ΔR%だけ減速荷重率R%を増減し、減速荷重率調整幅ΔR%を半分にしていく手法を説明する。
【0038】
ステップ71で、探索部24が、減速荷重率調整幅ΔR[%]の初期値を設定する。初期値は例えば、マイナスの値、例えば-16[%]とすることができる。次に、ステップ72で、探索部24が、減速荷重率R[%]の初期値を設定する。初期値は例えば84[%]とすることができる。次に、ステップ73で、ステップ71及び72で設定された初期値で、ラム1のプレス処理の運転が実行される。ステップ74で、エンコーダ位置カウンタ35及び荷重検出部31によって検出されたラム1の位置及びラム1の荷重のデータから、探索部24が、ラム1の荷重が目標停止荷重値LTに到達する時のラム1の速度を算出する。
【0039】
ステップ75で、判定部73が、ラム1の速度の算出速度が設定速度VLよりも大きいか否かを判断する。ラム1の速度の算出速度が設定速度VLよりも大きいならば、判定部73は、この減速荷重率Rは妥当な値では無いと判定し、ステップ76へ進む。ステップ76で、探索部24が、減速荷重率RがR+ΔRとなるように減速荷重率Rを更新して、ステップ73に戻る。上述の通り、ΔRはマイナスの値が入っている。ここでは、減速荷重率調整幅ΔRの幅で妥当な値になる点まで、減速荷重率Rを段階的に下げていくことになる。
【0040】
ステップ75で、ラム1の速度の算出速度が設定速度VL以下である場合には、ラム1の減速が適切に行われており、減速荷重率Rとしては妥当な値になっていることを示す。この場合はステップ77へ進む。ステップ77では、探索部24が、減速荷重率調整幅ΔRを1/2とし、且つプラスの値になるように設定する。
【0041】
ステップ78で、探索部24が、減速荷重率RがR+ΔRとなるように減速荷重率Rを更新して、ステップ79へ進み、更新後の減速荷重率Rでラム1のプレス処理の運転が実行される。ステップ80で、エンコーダ位置カウンタ35及び荷重検出部31によって検出されたラム1の位置及びラム1の荷重のデータから、探索部24が、ラム1の荷重が目標停止荷重値LTに到達する時のラム1の速度を算出する。
【0042】
ステップ81で、判定部73が、ラム1の速度の算出速度が設定速度VLよりも大きいか否かを判断する。ラム1の速度の算出速度が設定速度VLよりも大きいならば、判定部73は、この減速荷重率Rは妥当な値では無い(不適当)と判定し、ステップ82へ進む。ステップ82で、減速荷重率調整幅ΔRを半分にしてマイナスにする。ステップ83で、判定部73が、減速荷重率調整幅ΔRの絶対値が、予め設定された終了条件幅δより小さいか否かを判定する。減速荷重率調整幅ΔRの絶対値が終了条件幅δより小さくない場合には、ステップ73に戻る。減速荷重率調整幅ΔRの絶対値が終了条件幅δより小さい場合には、ステップ84に戻る。終了条件幅δ[%]は、予め設定された終了時のΔRの値であり、ΔRの絶対値がδより小さくなったら、ステップ84へ進む。次に、ステップ84で減速荷重率Rは不適当な値であるため、1つ手前の妥当な値に戻す。ここではΔRが半分でマイナスになっているため、2倍して加算することで減速荷重率Rは妥当な値に設定し直し、ステップ87へ進み、終了する。
【0043】
一方、ラム1の速度の算出速度が設定速度VLよりも大きくない場合は、この減速荷重率Rは妥当である(適当)と判定し、ステップ85に進む。ステップ85では、探索部24が、減速荷重率調整幅ΔRを半分にしてプラスにする。ステップ86では、判定部73が、減速荷重率調整幅ΔRの絶対値の大きさが終了条件幅δより小さくない否かを判定する。減速荷重率調整幅ΔRの絶対値の大きさが終了条件幅δより小さくない場合は、ステップ78へ戻る。減速荷重率調整幅ΔRの絶対値の大きさが終了条件幅δより小さい場合は、ステップ87へ進み、終了する。
【0044】
図8は、図7に示すフローチャートにおいて、終了条件幅δを2とした場合の減速荷重率Rの自動探索結果を示す表である。No.1では、初期状態R=84、ΔR=-16とした時、運転結果が不適当だったため、ステップ76で減速荷重率Rの値をR+ΔRに更新した結果、減速荷重率Rを76%に更新する。No.2で、減速荷重率R=68[%]での実行では妥当だったとすれば、ステップ77、ステップ78によりΔR及びRを更新する。No.3で、ΔRは正の数値8となり、減速荷重率R=76%となっている。この条件で運転した結果が妥当だとすれば、ステップ85、ステップ78で値を更新する。ここで、ステップ86終了条件幅δ=2とΔR=8の絶対値を比較して、まだ終了条件を満たしていない。No.4で、ΔR=4、減速荷重率R=80%で運転が不適当だとすれば、ステップ82、ステップ78で値を更新する。No.5で、ΔR=-2、速荷重率R=78%で運転が妥当だとすれば、ステップ85でΔRを半分にしたところで、ステップ86の終了条件が満たされて、ステップ87で終了した。図8の例では、No.6が終了した時に、減速荷重率R=78%となった。
【0045】
図9は、図7に示すフローチャートにおいて、終了条件幅δを4とした場合の減速荷重率の自動探索結果を示す表である。こちらは、No.4の運転結果が不適当の時に終了となるため、ステップ84で値を戻して、減速荷重率R=76%で終了となった。
【0046】
本発明の実施の形態に係る電動プレス装置によれば、探索部24が、所定の条件における適切な減速荷重率Rを、例えば図7のフローチャートに基づいて決定し、決定後の減速荷重率Rでプレス処理の運転実行テストを繰り返すことで、適正な減速荷重率Rを探索することができる。これにより、ワークやプレス環境の違いが生じた場合においてもラム1の停止位置及び停止時の荷重のばらつきを低減することが可能な電動プレス装置が提供できる。
【0047】
<報知部25を利用した減速荷重率Rの半自動探索方法>
図10は、減速荷重率Rの探索方法の変形例を示すフローチャートである。ステップ90でスタート後、ステップ91で、操作者が操作部13を介して減速荷重率Rを入力し設定する。ステップ92でラム1のプレス処理の運転実行が行われる。この運転の起動も操作者が行ってもよい。ステップ93で判定部23が目標停止荷重値LTでのラム1の速度を算出する。ステップ94では、判定部23が、目標停止荷重値LTでのラム1の算出速度と、設定速度VLとを比較し、算出速度が設定速度VLより大きい場合は、判定部23は、減速荷重率Rが不適当であると判定し、ステップ95に進み、報知部25が、表示部12を介して操作者に、減速荷重率Rが不適当であることを報知し、ステップ91に戻る。一方、算出速度が設定速度VL以下である場合は、判定部23は、減速荷重率Rが適当であると判定し、ステップ96で、報知部25が、表示部12を介して操作者に減速荷重率Rが適当であることを報知させ、ステップ91に戻る。
【0048】
なお、ステップ95では、報知部25が、表示部12を介して操作者に、減速荷重率Rが不適当であることを報知する以外に、例えば図4図5等に示すような、ラム1の速度とラム1にかかる荷重(検出荷重)との関係を表す時系列データのグラフを表示させるようにしてもよい。操作者は、グラフの表示結果を参照することにより、ステップ91で入力する減速荷重率Rの値を調整することができるため、より速やかに適切な減速荷重率Rの値を得ることができる。
【0049】
なお、図7のステップ74、ステップ80及び図10のステップ93で算出される目標停止荷重値LTでのラム1の算出速度は、以下の算出方法により算出することができる。
【0050】
一定時間間隔で観測したラム1の位置から速度を算出することができる。例えば、一定の時間Tcで、位置P1、P2、・・・の位置情報が検出されたとする。この時、ラム1の瞬時速度V2、V3、VNは、式(1)で表される:
V2=(P2-P1)/Tc
V3=(P3-P2)/Tc
VN=(PN-P(N-1))/Tc ・・・式(1)
【0051】
図11に、式(1)に基づいて求めた速度と検出荷重との関係をプロットしたグラフを示す。ここでは、ラム1の加圧速度VPは5mm/sec、減速時の設定速度VLは1mm/secで設定している。
【0052】
式(1)に示すような単純な差分を取った速度の算出方法では、図11に示すように値がふらついてしまう。実際には、速度がふらついているのではなく、計算上そう見えるといった現象であり、ラム1の位置の量子化に伴う誤差が影響していると考えられる。或いは、サンプリング時間間隔Tcが完全には一定ではないために、このような計算上のふらつきが発生してしまう。ちなみに、図11のサンプリング時間間隔Tcは5msecである。
【0053】
最小二乗法による直線回帰の傾きとして速度を算出したものを図12のグラフに示す。図12では、比較的速度の値が安定していることが判る。図12では、目標停止荷重値10,000Nの時点では、速度は1mm/secにまで下がりきっておらず、2mm/sec程度となっていることが判る。
【0054】
ラム1の速度を算出するために、式(1)のような2点に基づく算出方法ではなく、式(2)に示すようなm個のデータ個数(ここではm=6とした)を使い、このm個のデータが直線上に載っていると仮定し、この直線の傾きを最小二乗法により求めることもできる。算出式を、以下の式(2)に示す。
【0055】
【数1】
(ここで、Tkは時刻、Pkは位置、mはデータ個数(図12ではm=6)を示す)
【0056】
サンプリング時間間隔Tcが5msecであるため、m=6の場合は5msec×(6-1)=25msecとなり、6点が直線に乗る。データ個数mは固定としても良いが、速度が遅くなると移動量が減る為に個数が少ないと誤差が大きくなってしまう。一方、mを大きくしすぎると、直線に乗っているという仮定自体が間違ってくる。また、mが大きいと速度が変動した時の追従性が悪くなる。
【0057】
速度に応じて、データ個数mは可変としてもよい。まず式(1)で概算としての速度を算出し、その速度に応じてデータ個数mを決定し、式(2)により直線の傾きを算出することにより、ラム1の速度が算出できる。
【0058】
図13には、同じ条件で複数回(3回)運転実行した時の荷重-速度グラフを示す。同じ条件であっても、ワークのばらつきなどでグラフ結果は変化する。図7のフローで示した、自動で減速荷重率を探す場合、実際にはステップ73、ステップ79での運転実行した結果、判断するための算出速度がばらつくことがある。そのため、減速荷重率Rが「妥当」だと判断するのに、複数回(例えば10回といった回数)、減速荷重率Rを変えずに運転実行して、全て妥当な場合にのみ妥当判断をする、といった処理も必要となる。不適当と判断する方は、1回発生すればそれだけで判断して良い。これにより、確実に妥当となる減速荷重率R[%]を求めることができる。
【0059】
本発明は上記の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではなく種々の変形が可能である。例えば本発明の実施の形態では「荷重停止」について説明したが、荷重の変化量、特に荷重の単位距離当たりの変化量を監視して、ある設定値を超えたところで停止する「荷重傾斜停止」処理についても、本発明と同様に考えることができる。即ち、設定した荷重傾斜値の割合を設定してこれを超えたところで減速するといった機能において、上述の実施形態を応用することにより、妥当な「減速荷重傾斜率」を自動的に算出することができる。
【符号の説明】
【0060】
1…ラム
1b…起歪柱
2…ボール螺子
2a…螺子軸
2b…ナット体
3…サーボモータ
6…ガイド部
7…支柱
8…ベース
9a、9b…スイッチ
10…ケーシング
11…制御プログラム記憶部
12…表示部
13…操作部
14…一次記憶部
15…目標停止荷重記憶部
16…減速荷重率記憶部
20…プロセッサ
21…停止部
22…速度制御部
23…判定部
24…探索部
25…報知部
31…荷重検出部
32…指令パルス発生装置
33…サーボモータドライバ
34…エンコーダ
35…エンコーダ位置カウンタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13