IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JFEスチール株式会社の特許一覧

特開2024-20697非対称フランジ部を有するプレス成形品の製造方法
<>
  • 特開-非対称フランジ部を有するプレス成形品の製造方法 図1
  • 特開-非対称フランジ部を有するプレス成形品の製造方法 図2
  • 特開-非対称フランジ部を有するプレス成形品の製造方法 図3
  • 特開-非対称フランジ部を有するプレス成形品の製造方法 図4
  • 特開-非対称フランジ部を有するプレス成形品の製造方法 図5
  • 特開-非対称フランジ部を有するプレス成形品の製造方法 図6
  • 特開-非対称フランジ部を有するプレス成形品の製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020697
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】非対称フランジ部を有するプレス成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/26 20060101AFI20240207BHJP
   B21D 22/20 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
B21D22/26 C
B21D22/20 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123066
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】飛田 隼佑
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA05
4E137BA01
4E137BB01
4E137BC01
4E137CA09
4E137CA21
4E137CA26
4E137EA01
4E137GA03
4E137GA15
4E137GB03
(57)【要約】
【課題】本来の目標形状から形状を変えることなく、一対のフランジ部の形状が幅方向左右非対称であるプレス成形品の離型後の捩れを防止できる非対称フランジ部を有するプレス成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る非対称フランジ部を有するプレス成形品の製造方法は、天板部3と、天板部3に連続する一対の縦壁部5と、縦壁部5に連続する一対のフランジ部7を備え、一対のフランジ部7の形状が幅方向左右非対称であるプレス成形品1を目標形状として製造する方法であって、目標形状を展開した展開ブランクのフランジ相当部19aよりも幅広のフランジ相当部11aを少なくとも一部に有するブランク11を作製するブランク作製工程と、作製されたブランク11を用いてフランジ部15が目標形状よりも幅広の中間品13をプレス成形するプレス成形工程と、中間品13における幅広のフランジ部15をトリミングして目標形状とするトリミング工程とを備えたことを特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天板部と、該天板部の幅方向両側に連続する一対の縦壁部と、該縦壁部に連続する一対のフランジ部を備えたハット断面形状であり、前記一対のフランジ部の形状が非対称であるプレス成形品を目標形状として製造する非対称フランジ部を有するプレス成形品の製造方法であって、
前記目標形状を展開した展開ブランクのフランジ相当部よりも幅広のフランジ相当部を少なくとも一部に有するブランクを作製するブランク作製工程と、
作製された前記ブランクを用いて、天板部と縦壁部が前記目標形状と同じで、フランジ部が前記目標形状よりも幅広のハット断面形状の中間品をプレス成形するプレス成形工程と、
前記中間品における前記幅広のフランジ部をトリミングして、前記目標形状とするトリミング工程とを備えたことを特徴とする非対称フランジ部を有するプレス成形品の製造方法。
【請求項2】
天板部と、該天板部の幅方向両側に連続する一対の縦壁部と、該縦壁部に連続する一対のフランジ部を備えたハット断面形状であり、前記一対のフランジ部に形成されたビード形状部の形状又は配置が非対称であるプレス成形品を目標形状として製造する非対称フランジ部を有するプレス成形品の製造方法であって、
前記目標形状を展開した展開ブランクのフランジ相当部よりも幅広のフランジ相当部を少なくとも一部に有するブランクを、前記幅広のフランジ相当部に形状又は配置が非対称である前記ビード形状部に相当する部位が含まれるように作製するブランク作製工程と、
作製された前記ブランクを用いて、天板部と縦壁部が前記目標形状と同じで、フランジ部が前記目標形状よりも幅広で、該フランジ部にビード形状部が形成されたハット断面形状の中間品をプレス成形するプレス成形工程と、
前記中間品における前記幅広のフランジ部をトリミングして、前記目標形状とするトリミング工程とを備えたことを特徴とする非対称フランジ部を有するプレス成形品の製造方法。
【請求項3】
前記ブランクを、引張強度が590MPa級以上の鋼板とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の非対称フランジ部を有するプレス成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天板部と、天板部の幅方向両側に連続する一対の縦壁部と、縦壁部に連続する一対のフランジ部を備えたハット断面形状のプレス成形品の製造方法に関する。特に、前記一対のフランジ部の形状が非対称であるプレス成形品を製造する非対称フランジ部を有するプレス成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の衝突安全性基準の厳格化により、車体の衝突安全性の向上が進む中で、二酸化炭素排出規制を受けて、燃費向上やEV化のために車体の軽量化も必要とされている。これら車体の衝突安全性向上と軽量化を両立させるために、車体構造部品への590MPa級以上の高強度鋼板(ハイテン材とも称する)の適用が進んでいる。
ハイテン材は強度が高くプレス成形後の残留応力が大きくなるので、離型後のスプリングバックが課題となっていた。特に、長尺のプレス成形品の場合は、捩れのスプリングバックが生じやすく、離型後のプレス成形品の形状が目標形状から乖離し、問題となっていた。
【0003】
捩れのスプリングバックが課題となる自動車部品としては、例えばバンパー部品等のように、天板部と、天板部に連続する一対の縦壁部と、縦壁部に連続する一対のフランジ部を備えたハット断面形状の部品が挙げられる。このようなハット断面形状の長尺な部品において、例えば、フランジ部に付与したビード形状部の形状または配置が非対称であるなどの一対のフランジ部の形状が非対称である場合、離型後のプレス成形品には捩れのスプリングバックが生じやすかった。
【0004】
そこで従来では、特許文献1のように、目標形状のフランジ部に余肉ビードを付与して、プレス成形品の残留応力を平準化することにより、離型後の捩れを抑制する方法が開示されている。
また、特許文献2のように、パンチ肩部又はダイ肩部にフィレット部を形成して、プレス成形時の引張応力を緩和することにより、離型後の捩れを抑制する方法も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-255117号公報
【特許文献2】特開2009-202189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のプレス成形方法によって成形されたプレス成形品は、フランジ部に捩れ防止のためのビードが形成されるため、本来の目標形状とは異なるものであった。また、ビードが形成されることによって、フランジ部の形状がプレス成形品の幅方向の左右で非対称になるので、これを起因とする新たな捩れが生じやすいという問題もあった。
【0007】
また、特許文献2に記載のプレス成形方法によって成形されたプレス成形品も、パンチ肩部やダイ肩部にフィレット部が設けられるため、本来の目標形状とは異なるものであった。さらに、このようなプレス成形品を車体に組み入れた後、該車体の衝突などによってプレス成形品に圧縮応力が加わると、フィレット部を起点としてプレス成形品が折れ曲がりやすくなり、剛性や耐衝突特性に問題があった。
【0008】
本発明は、係る課題を解決するためになされたものであり、本来の目標形状から形状を変えることなく、一対のフランジ部の形状が非対称であるプレス成形品の離型後の捩れを防止できる非対称フランジ部を有するプレス成形品の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る非対称フランジ部を有するプレス成形品の製造方法は、天板部と、該天板部の幅方向両側に連続する一対の縦壁部と、該縦壁部に連続する一対のフランジ部を備えたハット断面形状であり、前記一対のフランジ部の形状が非対称であるプレス成形品を目標形状として製造する方法であって、前記目標形状を展開した展開ブランクのフランジ相当部よりも幅広のフランジ相当部を少なくとも一部に有するブランクを作製するブランク作製工程と、作製された前記ブランクを用いて、天板部と縦壁部が前記目標形状と同じで、フランジ部が前記目標形状よりも幅広のハット断面形状の中間品をプレス成形するプレス成形工程と、前記中間品における前記幅広のフランジ部をトリミングして、前記目標形状とするトリミング工程とを備えたことを特徴とするものである。
【0010】
(2)また、本発明に係る非対称フランジ部を有するプレス成形品の製造方法は、天板部と、該天板部の幅方向両側に連続する一対の縦壁部と、該縦壁部に連続する一対のフランジ部を備えたハット断面形状であり、前記一対のフランジ部に形成されたビード形状部の形状又は配置が非対称であるプレス成形品を目標形状として製造する方法であって、前記目標形状を展開した展開ブランクのフランジ相当部よりも幅広のフランジ相当部を少なくとも一部に有するブランクを、前記幅広のフランジ相当部に形状又は配置が非対称である前記ビード形状部に相当する部位が含まれるように作製するブランク作製工程と、作製された前記ブランクを用いて、天板部と縦壁部が前記目標形状と同じで、フランジ部が前記目標形状よりも幅広で、該フランジ部にビード形状部が形成されたハット断面形状の中間品をプレス成形するプレス成形工程と、前記中間品における前記幅広のフランジ部をトリミングして、前記目標形状とするトリミング工程とを備えたことを特徴とするものである。
【0011】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記ブランクを、引張強度が590MPa級以上の鋼板とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、一対のフランジ部の形状が非対称であるプレス成形品の製造において、本来の目標形状から形状を変えることなく、離型後の捩れを防止することができる。
その結果、ハイテン材を用いても、安定して良好な形状のプレス成形品を得ることができて、プレス成形後のプレス成形品の形状矯正やプレス成形時の金型修正を削減し、プレス成形品の生産能率向上や歩留まり向上に大きく寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態にかかる非対称フランジ部を有するプレス成形品の製造方法の説明図である。
図2】実施の形態における目標形状を示す図であり、図2(a)は斜視図、図2(b)は上面図、図2(c)は側面図である。
図3図3(a)はプレス成形工程後の中間品の長手方向応力を示す図であり、図3(b)はトリミング工程後のプレス成形品の長手方向応力を示す図である。
図4】実施の形態における離型後のプレス成形品のプレス成形方向の変位を示す図である。
図5】従来のブランク形状を示す図である。
図6】従来例における離型後のプレス成形品のプレス成形方向の変位を示す図である。
図7】従来例におけるプレス成形品の長手方向応力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施の形態に係る非対称フランジ部を有するプレス成形品の製造方法について、図2の目標形状を例に説明する。
図2に示すプレス成形品1は、天板部3と、天板部3の幅方向両側に連続する一対の縦壁部5と、縦壁部5に連続する一対のフランジ部7を備えたハット断面形状である。
【0015】
図2(b)に示すように、プレス成形品1の一対のフランジ部7には幅方向左右非対象に配置されたビード形状部9が形成されており、一対のフランジ部7の形状は非対称になっている。
図2のハット断面形状のプレス成形品1を従来の方法で製造すると、プレス成形後の離型時にスプリングバックして捩れが生じやすい。この点について以下に説明する。
【0016】
図5に従来の方法に用いるブランクの形状を示す。図5に示すブランク19は、図2のプレス成形品1を展開した展開ブランクと同じ形状のものを金属板から打ち抜くなどして作製される。
従来のブランク19は、目標形状を展開した形状であるので、図5に示すように、プレス成形品1の一対のフランジ部7に相当する一対のフランジ相当部19aの形状が幅方向左右非対称となっている。
【0017】
このようなブランク19を目標形状に成形した場合のFEM解析結果を図6に示す。
図6は1180MPa級材からなるブランク19を目標形状にプレス成形し、離型した後のプレス成形品1の形状を上面視したものである。ここで、プレス成形品1の長手方向をX方向、幅方向をY方向、プレス成形方向をZ方向とする。
【0018】
プレス成形方向(Z方向)の変位を図中濃淡で示す。ここで、プレス成形方向(Z方向)の変位とは、天板部長手方向中央部を固定点として離型後のプレス成形品1と目標形状を比較し、プレス成形品1の各部位が目標形状に対して紙面手前方向へどのくらい変位しているか示すものであり、変位の大きさを濃淡で示している。
また、プレス成形品1の4つの角部における変位を図中に数値で示した。このZ方向の変位が幅方向左右で大きく異なる場合、当該部位に捩れが生じていることを示す。
以下、プレス成形品1における長手方向中央(破線参照)から紙面左側半分の部位と紙面右側半分の部位とにわけて、形状の特徴及びそれぞれの端部に生じる捩れについて説明する。
【0019】
まず、プレス成形品1における長手方向中央(破線)から紙面左側半分の部位は、一対のフランジ部7に形成されたビード形状部9の配置が対称になっている。そして、紙面左上の角部のZ方向変位は12.6mm、紙面左下の角部のZ方向変位は12.3mmであり、二つの角部のZ方向変位がほぼ同じである。したがって、プレス成形品1の紙面左側の端部では、ほぼ捩れが生じていないことがわかる。
【0020】
一方、プレス成形品1における長手方向中央(破線)から紙面右側半分の部位は、一対のフランジ部に形成されたビード形状部9の配置が幅方向左右非対称になっている。そして、紙面右上の角部のZ方向変位は9.6mm、紙面右下の角部のZ方向変位は13.9mmであり、4.3mmの差が生じている。したがって、プレス成形品1の紙面右側の端部では、ねじれ量4.3mmの捩れが生じていることがわかる。
【0021】
上記のような捩れが生じる理由について、図7を用いて説明する。
図7は、図5のブランク19をプレス成形したときの成形下死点における応力を示したものである。なお、図7に示す応力は、長手方向(X方向)の圧縮応力であり、板厚方向の平均を求めたものである。
【0022】
図7の破線で囲んだ部分(ビード形状部9が幅方向左右非対称に配置された部分)を比較すると、応力分布が非対称であることがわかる。このように、成形下死点においてフランジ部7の応力分布が幅方向の左右で異なることにより、離型後のプレス成形品1に捩れが生じる原因となる。
【0023】
そこで発明者は鋭意検討した結果、従来のブランク形状におけるフランジ相当部の外側に幅広の余肉部を設けたブランクを用いて中間品をプレス成形すると応力分布がフランジ部の幅方向左右の端部側に広がることを知見した。さらに、該中間品から幅広の余肉部をトリミングすることで幅方向左右で異なる応力分布の部位を除去できて、上述した捩れを抑制できることを知見した。本実施の形態に係る非対称フランジ部を有するプレス成形品の製造方法は、かかる知見に基づくものである。
なお、本発明が対象とする捩れを生じやすいプレス成形品には、図2のような側面視湾曲部品の他、例えば、上面視湾曲部品、左右で異なる凹凸形状のフランジ部を有する部品などがある。
【0024】
本実施の形態は、図2に示したような非対称にビード形状部9が形成された一対のフランジ部7を有するプレス成形品1を目標形状として製造する方法であって、ブランク作製工程と、プレス成形工程と、トリミング工程とを備えている。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0025】
<ブランク作製工程>
ブランク作製工程は、金属板からの打ち抜きなどによって、図1(a)に示すようなブランク11を作製する工程である。
本実施の形態のブランク11は、目標形状を展開した展開形状のフランジ相当部(従来のブランク19のフランジ相当部19aに相当)の外側に余肉部を設けた形状となっている。したがって、ブランク11は、従来のブランク19(図5参照)のフランジ相当部19aよりも幅広のフランジ相当部11aを有している。
【0026】
図1(a)には、ブランク11の一対のフランジ相当部11aをそれぞれ20mmずつ幅広にした場合のブランク形状と、40mmずつ幅広にした場合のブランク形状を図示した。
なお、ブランク11のフランジ相当部11aは全長に亘って幅広である必要はない。図1(a)のように、目標形状のフランジ部7における幅方向左右非対称のビード形状部9が形成される部位を含む部分が幅広になっていればよい。
【0027】
また、図1(a)のブランク11は、フランジ相当部11aの幅広げ量を同じにしてフランジ相当部11aの幅方向左右の形状をほぼ対称にしたものであるが、本発明はこの限りではなく、フランジ相当部11aの形状が非対称なものでもよい。
もっとも、一対のフランジ相当部11aの幅を同じにすることで、後述する中間品13のプレス成形時に天板部3や縦壁部5に応力の偏りが生じにくくなるので好ましい。
【0028】
<プレス成形工程>
プレス成形工程は、ブランク作製工程で作製されたブランク11を用いて、図1(b)に示すような中間品13をプレス成形する工程である。なお、図1(b)には、フランジ相当部11aを40mm幅広にしたブランク11を用いた場合の例を示した。
【0029】
中間品13は、天板部3と縦壁部5が目標形状(図2参照)と同じで、フランジ部15が目標形状のフランジ部7よりも幅広なハット断面形状であり、フランジ部15には目標形状のビード形状部9に対応したビード形状部17が形成されている。図1(b)において、目標形状と同一形状である部位には同一の符号を付している。
【0030】
<トリミング工程>
トリミング工程は、図1(c)に示すように、中間品13における幅広のフランジ部15をトリミングする工程である。具体的には、ブランク作製工程で説明した余肉部分を除去することにより、目標形状(プレス成形品1)とする。
【0031】
図3に、プレス成形工程後の成形下死点における中間品13の応力分布及びトリミング工程後のプレス成形品1の残留応力分布をFEM解析して求めた結果を示す。図3に示す応力は、図7と同様に長手方向(X方向)の圧縮応力であり、板厚方向の平均を求めたものである。
【0032】
図3(a)は、プレス成形工程で中間品13をプレス成形した成形下死点での応力分布を示している。図3(a)に示すように、幅広のフランジ部15に生じる圧縮応力は、フランジ部15の紙面右側および幅方向端部寄りに集中していることがわかる。また、一対のフランジ部15を比較すると、応力分布が対称ではない。
【0033】
図3(b)は、図3(a)の中間品13をトリミングした後のプレス成形品1の残留応力分布を示している。図3(b)に示すように、中間品13のフランジ部15を目標形状にトリミングすると、圧縮応力が集中していた部位が除去されて、プレス成形品1のフランジ部7に生じる圧縮残留応力が低減することがわかる。さらに、その残留応力分布はほぼ対称になっている。
【0034】
本実施の形態で製造したプレス成形品1のプレス成形方向(Z方向)の変位を図4に示す。
図4図6と同様に、長手方向中央部を固定点として離型後のプレス成形品1と目標形状を比較し、プレス成形品1の各部位が目標形状に対して紙面手前方向へどのくらい変位しているかを濃淡で示している。
図6の従来例と同様に、プレス成形品1における長手方向中央(破線参照)から紙面左側半分と紙面右側半分とにわけて、それぞれの端部に生じた捩れの大きさを説明する。
【0035】
プレス成形品1における長手方向中央(破線)から紙面左側半分の部位では、紙面左上の角部のZ方向変位は10.6mm、紙面左下の角部のZ方向変位は11.6mmであり、二つの角部のZ方向変位はほぼ同じであった。したがって、本実施の形態で製造したプレス成形品1の紙面左側の端部では、従来例と同様にほぼ捩れが生じなかった。
【0036】
また、プレス成形品1における長手方向中央(破線)から紙面右側半分の部位では、紙面右上の角部のZ方向変位は16.4mm、紙面右下の角部のZ方向変位は16.3mmとなっており、二つの角部のZ方向変位がほぼ同じになった。したがって、従来例(図6)では4.3mmの捩れが生じていたプレス成形品1の紙面右側端部に関しても、捩れが著しく低減してスプリングバックが抑制され、形状が良好になったことがわかる。
【0037】
以上のように、本実施の形態によれば、一対のフランジ部7の形状が幅方向左右非対称であるプレス成形品1を製造するに際し、離型後に長手方向端部に生じる捩れを低減できる。
【0038】
上記実施の形態で目標形状としたプレス成形品1は、一対のフランジ部7に同じ形のビード形状部9が幅方向左右非対称に配置され、フランジ部7の形状が幅方向左右非対称になっているものであったが、本発明が対象とするプレス成形品の形状はこの限りではない。
例えば、プレス成形品の一方のフランジ部7に形成されたビード形状部9の形状が他方のフランジ部7に形成されたビード形状部9の形状と異なるものでもよい。ビード形状部9の形状が異なる場合にも、一対のフランジ部7は形状が幅方向左右非対称となってプレス成形品に捩れが生じやすくなるので、本発明は有効である。
【0039】
さらに言えば、ビード形状部の有無に関わらず、天板部と、一対の縦壁部と、一対のフランジ部を備えたハット断面形状であって、一対のフランジ部の形状が幅方向左右非対称であるプレス成形品を目標形状として製造する場合に、本発明は有効である。
【0040】
なお、上述したように本実施の形態は、幅広のフランジ部15を有する中間品13をプレス成形し、フランジ部15をトリミングして目標形状を得るものであった。このトリミングの際、応力のバランスが変わるため天板部3の応力(引張応力)が相対的に大きくなって上反りが生じる場合がある。
【0041】
図4の本実施の形態のプレス成形品1の場合、紙面左上の角部のZ方向変位と紙面右上の角部のZ方向変位を比較するとその差は5.8mmであった。また、紙面左下の角部のZ方向変位と紙面右下の角部のZ方向変位を比較するとその差は4.7mmであった。
一方、図6の従来例の場合、紙面左上の角部のZ方向変位と紙面右上の角部のZ方向変位を比較するとその差は3.0mmであった。また、紙面左下の角部のZ方向変位と紙面右下の角部のZ方向変位を比較するとその差は1.6mmであった。
【0042】
上記のように、図4の本実施の形態のプレス成形品1では、紙面左側の端部のZ方向変位と紙面右側の端部のZ方向変位の差が従来例よりも大きくなった。
このような天板部3の応力(引張応力)による上反りを抑制するには、例えば、天板部3の曲率半径を目標形状より小さくした金型を用いてプレス成形するとよい。
【実施例0043】
本発明におけるプレス成形品の捩れ防止効果を確認したので、以下に説明する。
本実施例では、図2のプレス成形品1を目標形状として、実施の形態で説明した幅方向左右非対称のフランジ部を有するプレス成形品を製造した。
本実施例のブランクには、引張強度が590MPa級、980MPa級、1180MPa級の3種類の鋼板(いずれも板厚1.8mm)を使用した。
【0044】
従来例では、目標形状を展開した展開ブランク(図5参照)をプレス成形して目標形状のプレス成形品を製造した。
発明例では、従来例のブランクのフランジ相当部よりも幅広のフランジ相当部を有するブランクを作製し、ブランクを中間品にプレス成形し、中間品のフランジ部をトリミングして目標形状のプレス成形品を製造した。また、発明例では、ブランクのフランジ相当部の幅広げ量を20mmとした場合と、40mmとした場合についてそれぞれ実施した。
上記従来例及び発明例におけるプレス成形品の捩れ量を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示す捩れ量は、プレス成形品の右端部の捩れ量を示している。具体的には図4図6のプレス成形品1における紙面右側の端部の捩れ量であり、紙面右上の角部のZ方向変位と紙面右下の角部のZ方向変位の差を求めた値である。
なお、上記Z方向変位とは実施の形態で説明したとおり、天板部の長手方向中央部を固定点として離型後のプレス成形品と目標形状を比較したときのプレス成形方向の変位である。
【0047】
No.1からNo.3はブランクに590MPa級材を用いた例である。
従来例であるNo.1は、目標形状を展開した展開ブランクを目標形状にプレス成形したものであり、捩れ量は1.7mmであった。
【0048】
これに対し、発明例であるNo.2は、ブランクのフランジ相当部を、目標形状を展開した展開ブランクにおけるフランジ相当部よりも片側20mmずつ幅広にしたものであり、該ブランクを用いて製造したプレス成形品の捩れ量は0.6mmであった。No.2はNo.1よりも捩れ量が低減し、良好であった。
また、発明例であるNo.3は、ブランクのフランジ相当部を、目標形状を展開した展開ブランクにおけるフランジ相当部よりも片側40mmずつ幅広にしたものであり、該ブランクを用いて製造したプレス成形品の捩れ量は0.4mmであった。No.2よりも幅広げ量を大きくしたNo.3は、捩れ量がより低減しさらに良好であった。
【0049】
No.4からNo.6はブランクに980MPa級材を用いた例である。
従来例であるNo.4は、目標形状を展開した展開ブランクを目標形状にプレス成形したものであり、捩れ量は3.2mmであった。
【0050】
これに対し、発明例であるNo.5は、ブランクのフランジ相当部を、目標形状を展開した展開ブランクにおけるフランジ相当部よりも片側20mmずつ幅広にしたものであり、該ブランクを用いて製造したプレス成形品の捩れ量は0.4mmであった。No.5はNo.4よりも捩れ量が低減し、良好であった。
また、発明例であるNo.6は、ブランクのフランジ相当部を、目標形状を展開した展開ブランクにおけるフランジ相当部よりも片側40mmずつ幅広にしたものであり、該ブランクを用いて製造したプレス成形品の捩れ量は0.3mmであった。No.5よりも幅広げ量を大きくしたNo.6は、捩れ量がより低減しさらに良好であった。
【0051】
No.7からNo.9はブランクに1180MPa級材を用いた例である。
従来例であるNo.7は、目標形状を展開した展開ブランクを目標形状にプレス成形したものであり、捩れ量は4.3mmであった。
【0052】
これに対し、発明例であるNo.8は、ブランクのフランジ相当部を、目標形状を展開した展開ブランクにおけるフランジ相当部よりも片側20mmずつ幅広にしたものであり、該ブランクを用いて製造したプレス成形品の捩れ量は0.5mmであった。No.8はNo.7よりも捩れ量が低減し、良好であった。
また、発明例であるNo.9は、ブランクのフランジ相当部を、目標形状を展開した展開ブランクにおけるフランジ相当部よりも片側40mmずつ幅広にしたものであり、該ブランクを用いて製造したプレス成形品の捩れ量は0.1mmであった。No.8よりも幅広げ量を大きくしたNo.9は、捩れ量がより低減しさらに良好であった。
【0053】
上記実施例に示されるように、本発明は、引張強度が590MPa級以上の鋼板をブランクに用いた場合にも十分なねじれ抑制効果を得ることができる。
【0054】
以上から、本発明方法は、プレス成形後のスプリングバックによるプレス成形品の捩れを防止するのに有効であることが確認された。
【符号の説明】
【0055】
1 プレス成形品
3 天板部
5 縦壁部
7 フランジ部
9 ビード形状部
11 ブランク
11a フランジ相当部
13 中間品
15 フランジ部
17 ビード形状部
19 ブランク(従来例)
19a フランジ相当部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7