(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020706
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】水中音発生システム、水中音発生方法およびこの水中音発生システム・方法を用いた魚類等の行動制御方法
(51)【国際特許分類】
A01M 29/18 20110101AFI20240207BHJP
A01K 79/00 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
A01M29/18
A01K79/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123088
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕一
(72)【発明者】
【氏名】田村 勇一朗
【テーマコード(参考)】
2B105
2B121
【Fターム(参考)】
2B105LA19
2B105LA21
2B121AA06
2B121DA51
2B121EA30
2B121FA13
(57)【要約】
【課題】より大きな水中音の発生が可能で効率的に魚類の行動を制御できる水中音発生システム、水中音発生方法およびこの水中音発生システム・方法を用いた、魚類等の行動制御方法を提供する。
【解決手段】この水中音発生システム10は、所定水域において魚類またはクジラ等の海棲哺乳類の行動を制御するため水中音を発生させるために、空気を圧縮する空気圧縮装置11と、空気圧縮装置による圧縮空気を用いて水中音を発生させる水中音発生装置12と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定水域において魚類または海棲哺乳類の行動を制御するため水中音を発生させるために、空気を圧縮する空気圧縮装置と、前記空気圧縮装置による圧縮空気を用いて水中音を発生させる水中音発生装置と、を備える水中音発生システム。
【請求項2】
前記空気圧縮装置から前記圧縮空気を前記水中音発生装置に供給するためのエアホースと、前記水中音発生装置を制御する制御装置と、を備える請求項1に記載の水中音発生システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記水中音の発生間隔を制御し、前記発生間隔を20秒~10分の間に設定し制御する請求項2に記載の水中音発生システム。
【請求項4】
前記水中音の周波数が3~300Hzの範囲内を中心とする請求項1に記載の水中音発生システム。
【請求項5】
前記水中音の音源音圧が180~230dBの範囲内である請求項1に記載の水中音発生システム。
【請求項6】
前記水中音発生装置は前記圧縮空気を用いた爆発性音源または爆縮性音源から構成される請求項1に記載の水中音発生システム。
【請求項7】
前記制御装置は、前記水中音の音源音圧が段階的に増加するように前記水中音発生装置を制御する請求項2に記載の水中音発生システム。
【請求項8】
前記水中音発生装置を複数備え、前記複数の水中音発生装置により複数の位置から前記水中音を発生させるようにした請求項1に記載の水中音発生システム。
【請求項9】
所定水域において魚類または海棲哺乳類の行動を制御するために圧縮空気を用いて水中音を発生させる、水中音発生方法。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれかに記載の水中音発生システムまたは請求項9に記載の水中音発生方法を用いて水中音を発生させ、対象水域において魚類または海棲哺乳類が前記水中音から遠ざかるようにして前記魚類または前記海棲哺乳類の行動を制御する、魚類または海棲哺乳類の行動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類またはクジラ等の海棲哺乳類の行動を制御するため水中音を発生させる水中音発生システム、水中音発生方法およびこの水中音発生システム・方法を用いた魚類またはクジラ等の海棲哺乳類の行動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
杭打設や発破等の水中工事により発生する水中音が周辺に伝播し、魚類等の水中生物に対する影響が懸念される場合がある。水中騒音の水中生物への影響について、イルカ・クジラ・魚類等の可聴周波数(影響のある周波数)(非特許文献1)や、魚類については、
図9のように損傷を受けるレベル(220dB以上)や忌諱行動を示す威嚇レベル(140~160dB)等があることが報告されている(非特許文献2)。
【0003】
特許文献1は、水中生物を誘導するため、送波器(スピーカ)に出力させる音を取得する音取得部と、水中において音場を形成する範囲を決定し、送波器に対して、決定した範囲に、音取得部が取得した音を出力させる音場形成制御部とを備える音場制御装置を開示する(要約、請求項4、
図1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開公報WO2019/229981
【特許文献2】実開平1-119431号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】赤松友成・木村里子・市川光太郎「水中生物音響学-声で探る行動と生態-」コロナ社(2019年1月)
【非特許文献2】日本埋立浚渫協会「港湾工事環境保全技術マニュアル Doctor of the Sea(改訂第3版)」(2015年)
【非特許文献3】国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「着床式洋上風力発電導入ガイドブック(最終版)」(2018年3月)https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101085.html
【非特許文献4】畠山良己ほか「水中音の魚類に及ぼす影響」日本水産資源保護協会(1997年)
【非特許文献5】「海洋音響の基礎と応用」海洋音響学会(平成16年4月)173~177頁
【非特許文献6】Sercel-Toulon社 MARINE SOURCES カタログ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
洋上風力発電施設等で使用される鋼管からなる杭を水底に打設する際に発生する作業音は、発電施設の大規模化により鋼管が大口径になるほどその音圧レベルが大きくなるため(非特許文献3)、魚の損傷レベルの220dBを超過する音が発生することが予想される。このため、杭打設地点等から魚類等を遠ざけるように魚類等の行動を制御できる技術が求められている。
【0007】
本出願人は、先に、特願2021-114055において、杭打設等の水中工事の実施の際にその水域において水中作業音発生源から魚類を遠ざけて水中作業音による魚類への影響を緩和するために水中音を出力する水中音発生システムを提案した。水中音は距離とともに低下するため、音源音圧を上げる程、影響範囲は広くなる。このため、水中音を利用して魚を特定の場所から遠ざけたい場合、音源音圧を上げることにより、少ない音源配置で効率的な対策が可能である。特許文献1は送波器としてスピーカーを用いるが、一般的な水中スピーカーでは音源音圧180dB以上の音を出すことが困難である。
【0008】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、より大きな水中音の発生が可能で効率的に魚類またはクジラ等の海棲哺乳類の行動を制御できる水中音発生システム、水中音発生方法およびこの水中音発生システム・方法を用いた、魚類等の行動制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための水中音発生システムは、所定水域において魚類またはクジラ等の海棲哺乳類の行動を制御するため水中音を発生させるために、空気を圧縮する空気圧縮装置と、前記空気圧縮装置による圧縮空気を用いて水中音を発生させる水中音発生装置と、を備える。
【0010】
この水中音発生システムによれば、圧縮空気を用いて水中音を発生させるので、より大きな水中音の発生が可能である。かかる水中音を忌避し水中音から遠ざかるように魚類等が行動するので、効率的に魚類等の行動を制御できる。
【0011】
上記水中音発生システムにおいて、前記空気圧縮装置から前記圧縮空気を前記水中音発生装置に供給するためのエアホースと、前記水中音発生装置を制御する制御装置と、を備えることが好ましい。
【0012】
また、前記制御装置は前記水中音の発生間隔を制御し、前記発生間隔を20秒~10分の間に設定し制御することが好ましい。
【0013】
また、前記水中音の周波数が好ましくは3~300Hzの範囲内を中心とし、さらに好ましくは50~300Hzの範囲内を中心とする。また、前記水中音の音源音圧が180~230dBの範囲内であることが好ましい。
【0014】
また、前記水中音発生装置は前記圧縮空気を用いた爆発性音源または爆縮性音源から構成されることが好ましい。爆発性音源は、圧縮空気を瞬時に水中に放出することで衝撃音を水中に発生させるものであり、爆縮性音源は、圧縮空気により水を水中に放出した後に生成されるキャビティが急激に収縮(爆縮)する際に生じる引きの波による音波を水中に発生させるものである。
【0015】
また、前記制御装置は、前記水中音の音源音圧が段階的に増加するように前記水中音発生装置を制御することで、音源近傍に存在する魚類等から順に音源から遠ざけるようにして魚類等の行動を制御可能である。
【0016】
また、前記水中音発生装置を複数備え、前記複数の水中音発生装置により複数の位置から前記水中音を発生させることが好ましい。これにより、より広範囲に魚類等の行動を制御可能である。
【0017】
上記目的を達成するための水中音発生方法は、所定水域において魚類またはクジラ等の海棲哺乳類の行動を制御するために圧縮空気を用いて水中音を発生させるものである。
【0018】
この水中音発生方法によれば、圧縮空気を用いて水中音を発生させるので、より大きな水中音の発生が可能である。かかる水中音を忌避し水中音から遠ざかるように魚類等が行動するので、効率的に魚類等の行動を制御できる。
【0019】
上記目的を達成するための魚類またはクジラ等の海棲哺乳類の行動制御方法は、上述の水中音発生システム・方法を用いて水中音を発生させ、対象水域において魚類または可聴周波数が魚類と重なるクジラ等の海棲哺乳類が前記水中音から遠ざかるようにして前記魚類または前記クジラ等の海棲哺乳類の行動を制御するものである。
【0020】
この魚類またはクジラ等の海棲哺乳類の行動制御方法によれば、圧縮空気を用いてより大きな水中音の発生が可能であり、かかる水中音を忌避し水中音から遠ざかるように魚類等が行動するので、効率的に魚類等の行動を制御できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、より大きな水中音の発生が可能で効率的に魚類等の行動を制御できる水中音発生システム、水中音発生方法およびこの水中音発生システム・方法を用いた魚類等の行動制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施形態による水中音発生システムの概略的構成を示す図である。
【
図2】
図1の水中音発生装置を爆発性音源から構成した場合の発生音の音域の周波数の例を示すグラフである(非特許文献6の13頁参照)。
【
図3】複数種類の魚類の聴覚閾値を示すグラフである。
【
図4】
図1の水中音発生システムをSEP船に搭載し、水中音発生装置から水中音を発生させた場合の所定の距離毎の音圧分布を概略的に示す上面図である。
【
図5】
図1の水中音発生システムをSEP船とシステム搭載船にそれぞれ搭載し、2台の水中音発生装置から水中音を発生させた場合の所定の距離毎の音圧分布を概略的に示す上面図である。
【
図6】本実施形態の水中音発生システムの水中音発生装置の音源音圧が200dBである場合の音圧分布を示す上面図(a)および音源音圧180dBの水中スピーカーを用いた場合のスピーカーの配置と音圧分布を示す上面図(b)である。
【
図7】
図1の水中音発生装置の爆発性音源の構成例を概略的に示す図(a)(b)である(非特許文献5の
図14.5参照)。
【
図8】
図1の水中音発生装置を構成可能な爆縮性音源の構成例を概略的に示す図(a)~(d)である(非特許文献5の
図14.7参照)。
【
図9】水中音の音圧レベル(a)と魚類の反応(b)を示す図である(非特許文献2参照)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。
図1は本実施形態による水中音発生システムの概略的構成を示す図である。
【0024】
図1のように、水中音発生システム10は、空気を圧縮する空気圧縮装置であるコンプレッサー11と、コンプレッサー11からの圧縮空気を水中に瞬時に吐出させることで水中音を発生させる水中音発生装置12と、コンプレッサー11から圧縮空気を水中音発生装置12に供給するためのエアホース15と、電気ケーブル16により接続されて水中音発生装置12を制御するようにパーソナルコンピュータから構成される制御装置13と、コンプレッサー11を制御するコントロール装置14と、を備える。なお、
図1の破線のように制御装置13とコントロール装置14とが連携するように構成することができる。
【0025】
水中音発生装置12は、たとえば、コンプレッサー11から圧入された高圧の圧縮空気を瞬時に水中に放出することで衝撃波である水中音を発生させる爆発性音源から構成され、その水中音の音源音圧は、180~230dBの範囲内であり、200以上220dB未満の範囲内が好ましい。水中音発生装置12の爆発性音源によれば、一般的な水中スピーカーの最大で180dB程度である音源音圧よりも大きな音圧の水中音を発生させることができる。
図9のように、音圧220dB以上は魚類に損傷を与える音圧レベルであり、水中音の音圧が220dB未満であれば、音源である水中音発生装置12の近傍に魚類がいた場合でも損傷を与える可能性が小さくなる。200以上220dB未満の範囲内の音源音圧であると魚類に損傷を与える可能性が低く、かつ、水中音が距離とともに減衰しても魚類が忌諱する威嚇レベルの水中音とすることができる。
【0026】
水中音発生装置12が圧縮空気を用いた爆発性音源から構成された場合、その発生音の音域の周波数の例を
図2に示すが、周波数3~300Hzの音を発生することができる。また、
図3に魚類の聴覚閾値を示すが、魚類の可聴周波数は50~300Hzを中心とし、魚の種類によって多少の違いがあるが周波数50~300Hz程度の音は低い音圧から聴くことができ、水中音発生装置12から発生させる周波数3~300Hzの水中音は魚類の可聴周波数内にある。
【0027】
水中音発生装置12を構成可能な爆発性音源の構成例を
図7(a)(b)に示す。
図7(a)(b)の爆発性音源12Aは、第1チャンバー21と、第2チャンバー22と、第2チャンバー22を開閉するように上下移動するピストン23と、
図1の制御装置13により制御されて第1チャンバー21を開閉するソレノイドバルブ24と、第1チャンバー21に設けられ
図1のエアホース15に連結された圧縮空気供給部25と、第1チャンバー21と第2チャンバー22との間に形成された開口部26と、を備える。
図7(a)のように、
図1のコンプレッサー11からコントロール装置14の制御により高圧の圧縮空気が第1チャンバー21と第2チャンバー22に供給され、次に、ピストン23を下方に第2チャンバー22に押し付け第2チャンバー22を閉じるように第1チャンバー21内の圧力が大きく設定され、次に、
図7(b)のように、ソレノイドバルブ24が開制御されて圧縮空気がピストン23を急速に上方に押し上げ、第2チャンバー22内の圧縮空気が開口部26から高速で水中に吐出され、音響パルス(衝撃音)が生成され比較的音圧の高い音波が発生する。その後、制御装置13によるソレノイドバルブ24の閉制御とともにコントロール装置14によりコンプレッサー11が作動し圧縮空気を第1,第2チャンバー21,22に供給し、同様の圧縮空気の水中吐出による音波発生を繰り返すことができる。
【0028】
図7(a)(b)のような爆発性音源は、海底地層探査のために海底に向けて音波を発生させる音源として公知である(非特許文献5)。かかる爆発性音源は音源音圧が230dB程度以上の音を発生させるのに対し、本実施形態の水中音発生装置12は230dB以下の音を発生させる。また、海底地層探査用爆発性音源は15秒間隔程度で音を発生させるのに対し、本実施形態の水中音発生装置12は、20秒~10分、好ましくは1~5分の間隔である。なお、水中音発生装置12を構成する爆発性音源として、たとえば、Sercel-Toulon社から販売のG.GUN 380(商品名)を用いることができる(非特許文献6)。
【0029】
水中音発生装置12からの水中音は、圧縮空気を利用するので断続的に発生するが、断続的な水中音を連続的に発生させ、その連続的な水中音を所定間隔で発生させることが好ましい。すなわち、水中音の発生間隔は、対象とする魚等の遊泳速度、対象地の地形(岩礁等遮蔽効果のある物の存在やその物までの距離)を勘案して、20秒~10分に設定することが好ましい。水中音の発生間隔は、一定間隔でも規則的に変化させてもランダムに変化させてもよい。これらの水中音の発生間隔は、制御装置13で設定し、システム作動中に制御することができる。水中音の発生間隔は、
図7のソレノイドバルブ24の制御タイミングを
図1の制御装置13で設定し制御できる。
【0030】
図1の水中音発生システム10によれば、コンプレッサー11による圧縮空気を利用して所定水域において水中音発生装置12から魚類の忌諱する比較的大きな水中音を発生させることで、魚類等を特定の施設や対象物から遠ざけ避難させるようにして魚類の行動を制御することができる。
【0031】
図1の水中音発生装置12は水中に設置されるが、かかる設置手段として、水中音発生装置12を特定の施設の岸壁や柱からの吊り下げ・固定、水面に配置したブイ等からの吊り下げ、海底に配置したブロックやアングルへの固定、杭打設用のSEP船等からの垂下、コンプレッサー11を含む水中音発生システム10を搭載した船からの垂下や曳航などがある。なお、水中音発生システム10のコンプレッサー11、制御装置13およびコントロール装置14は、陸上や船上に配置される。
【0032】
図4は、
図1の水中音発生システム10をSEP船に搭載し、水中音発生装置12から水中音を発生させた場合の所定の距離毎の音圧分布を概略的に示す上面図である。
図4のように、SEP船により水中に配置した水中音発生装置12から水中音が音源音圧200dBで球面拡散した場合、水中音の音圧は、距離10mで180dBに減衰し、距離100mで160dBに減衰し、距離1000mで魚類に対する威嚇レベルである140dBに減衰するので、水中音発生装置12の位置を水中工事の杭打設位置とすると、杭打設位置を中心とした半径r1(=1000m)の範囲内の水域50において魚類を忌避し水中音の発生地点から遠ざかるように魚類の行動を制御できる。なお、水中音発生装置12は、1台または複数台であってよく、上記設置手段を単独または水平方向に間隔をおいて複数組み合わせて設置する。また、水中音発生システム10をSEP船に搭載せず、SEP船近傍に位置する他の船舶に搭載するようにしてもよい。
【0033】
水中音発生装置12を複数台配置する場合は水中音の分布状況をもとに水中音発生装置の位置を設定することが好ましい。
図5は、
図1の水中音発生システム10をSEP船とシステム搭載船にそれぞれ搭載し、2台の水中音発生装置12から水中音を発生させた場合の所定の距離毎の音圧分布を概略的に示す上面図である。
図5のように、
図4と同様にSEP船に配置した水中音発生装置12を中心とした半径r1(=1000m)の範囲内の水域50において魚類を忌避させるとともに、別の水中音発生装置12を搭載したシステム搭載船を、水域50の外側でSEP船を中心として水域50を包囲するように移動させ、水中音発生装置12を稼働させることで、半径r2(=1000m)の範囲内の水域51の外側へと魚類をさらに遠方に忌避させ避難させることができる。このように、たとえば、大口径の杭打設時に音源音圧が大きくなる場合、SEP船搭載の水中音発生システムで付近の魚類を避難させた後、別の船に搭載した水中音発生システムでさらに遠方に避難させることができ、魚類の行動の制御範囲をより広域に拡げることができる。
【0034】
図6により、本実施形態の水中音発生システム10の水中音発生装置12の音源音圧が200dBであることによる効果を音源音圧180dBの水中スピーカーと比べて説明する。
図6(a)は、
図4と同様に、水中音発生装置12から水中音を音源音圧200dBで発生させた場合、距離100mで160dBに減衰し、水中音発生装置12から距離100m離れた水域49の範囲内で音圧160dBを1台の水中音発生装置12で実現できるのに対し、
図6(b)のように、水中スピーカー40で音源音圧180dBの水中音を発生させた場合、距離10mで160dBに減衰するので、距離100m内で160dBに減衰するには、多数の水中スピーカー40を水域49内に配置する必要があり、コストが嵩む。より大きい音源音圧の水中音を発生可能な水中音発生システム10によれば、水中音発生装置12の1台あたりのカバー面積が広く、水中スピーカー40と比較して水中音発生装置12の設置地点数を少なくすることができ、効率的に特定の地点から魚類を遠ざけて避難させるように魚類の行動を制御でき、また、装置のメンテナンスの負担を低減することができる。
【0035】
また、水中音発生システム10によれば、水中音の発生開始時に、低いレベルから徐々音圧レベルを上げるソフトスタートにより、音源近傍に存在する魚類等から順に音源から遠ざけることができ、音源近傍に存在する魚類等への影響を確実に避けることができる。なお、水中音発生装置12として爆発性音源を用いる場合、当初の爆発性音源のチャンバー内の圧縮空気量を、たとえば、1/2や1/3に調整し、低圧の状態で吐出させることで発生音圧を下げ、順次より高圧の状態で吐出させるようにして発生音圧を徐々に上げることができる。
【0036】
また、水中工事が杭打設等の場合、水中音発生作業工程の10分以上前~水中音の発生作業工程開始時まで水中音を連続的に発生させる(昼休憩や発生工程中断後も同様)。また、特定の場所への魚類の侵入を防止したい場合には、防止を希望する期間連続して(水中音の発生は断続的だが) 水中音発生システム10を作動させる。
【0037】
なお、水中音発生システム10を連続的に作動させる場合、機材のメンテナンス時や故障時にも魚の忌諱効果を維持させる場合には、水中音発生システム10のコンプレッサー11と水中音発生装置12を2系統以上用意し、2台の場合は1台ずつ交互に作動させ水中音を発生させるようにしてもよい。
【0038】
また、水中音発生システム10を水中音の発生間隔や音源音圧を予め設定した条件で稼働させることができるが、長期間・長時間連続運転する場合等には、
図1の水中音発生装置12の制御装置13と、コンプレッサー11のコントロール装置14とを連携させることで、たとえば、制御装置13の制御信号に基づいてコントロール装置14で圧縮空気の圧力の設定を変えることができる。
【0039】
また、複数台の水中音発生装置の設置場所は同じ場所でも別の場所でもよいが、必要に応じて水中音発生間隔を調整することが好ましい。たとえば、2台の水中音発生装置を使用し、2分間隔での水中音発生が適していると判断した場合、(1)4分間隔/台で設定し、タイミングをズラして交互に水中音を発生させるようにし、2台により2分間隔で発生させる。1台停止時には発生間隔を変更し、1台で2分間隔とする。(2)2分間隔/台で設定し、タイミングは任意で、2台運転時は2分間隔以下となるが、1台運転時に必要な発生間隔を維持できる。また、発生音の間隔調整以外でも互いに異なる発生間隔、たとえば4分間隔と3分間隔のように設定して用いてもよい。
【0040】
なお、水中に空気を送る装置として、水中音の抑制のため等に使用されるエアバブルカーテンが公知であるが(特許文献2参照)、発生する水中音は、音圧が小さく、魚類対策に有効な100~200Hzの周波数帯も少なく、本実施形態の水中音発生システムとは大きく異なる。過去に実施した実験での測定例によれば、かかるエアバブルによる最大音圧レベルは120dB程度であった。
【0041】
図1の水中音発生装置12は爆縮性音源から構成されてもよく、かかる爆縮性音源の構成例について
図8を参照して説明する。
図8(a)~(d)のように、爆縮性音源12Bは、
図1のエアホース15に連結され高圧の圧縮空気が上部に満たされるチャンバー31と、チャンバー31の下部内を上下移動可能なピストン32と、チャンバー31の上部と下部とを仕切る弁座35と、
図1の制御装置13により制御されて弁座35を開閉するソレノイドバルブ33と、を備え、ピストン32の下方のチャンバー31の下部内は水で満たされている。
図8(a)のように、
図1のコンプレッサー11からコントロール装置14の制御により高圧の圧縮空気がチャンバー31の上部に供給され、次に、
図8(b)のように、ソレノイドバルブ33が開制御されてチャンバー31の上部の圧縮空気がピストン32を急激に押し下げることでチャンバー31の下部内の水が開口部34を通して高速な水流となって水中に放出され、次に、
図8(c)のように、水の放出後に水中にキャビティ(空洞)36が生成され、次に、
図8(d)のように、キャビティ36が急激に収縮し爆縮する際に生じる引きの波により比較的音圧の高い音波が発生する。その後、コントロール装置14によりコンプレッサー11が作動し圧縮空気をチャンバー31内に供給するとともに制御装置13によりソレノイドバルブ33が閉制御され、
図8(a)の状態に戻り、同様のキャビティ36の爆縮による音波発生を繰り返すことができる。
【0042】
爆縮性音源12Bは、周波数30~300Hzの音を発生し、一般的な水中スピーカーの最大で180dB程度である音源音圧よりも大きな音圧の水中音を発生させることができる。また、
図8(a)のチャンバー31の上部の圧縮空気の圧力を調整することで、
図7と同様に音源音圧を調整することができる。また、水中音の発生間隔は、
図8のソレノイドバルブ33の制御タイミングを
図1の制御装置13で設定し制御できる。なお、
図8(a)~(d)のような爆縮性音源は、海底地層探査のために海底に向けて音波を発生させる音源として公知である(非特許文献5)。
【0043】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、本実施形態の水中音発生システムによれば、50~300Hzに可聴周波数をもつ水中生物であれば、魚類以外(たとえば、アザラシ(50Hz~)、アシカ(60Hz~))にも適用可能である。
【0044】
また、
図7(a)(b)の爆発性音源および
図8(a)~(d)の爆縮性音源は、それぞれ一例を示すものであって、所定の周波数・所定の音源音圧の水中音を発生可能であれば、他の構成の爆発性音源・爆縮性音源であってもよいことはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、圧縮空気の利用によってより大きな水中音を発生させることで所定水域において効率的に魚類等の行動を制御できるので、特定の位置から魚類等を忌避することができ、たとえば、杭打設等の水中工事の施工前に魚類等を水中音発生源から予め遠ざけ避難させることができ、水中工事による魚類等への悪影響を効率的に回避できる。
【符号の説明】
【0046】
10 水中音発生システム
11 コンプレッサー(空気圧縮装置)
12 水中音発生装置
12A 爆発性音源
12B 爆縮性音源
13 制御装置
14 コントロール装置
15 エアホース
16 電気ケーブル
40 水中スピーカー