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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020737
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】排水処理装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 21/26 20060101AFI20240207BHJP
   B01D 21/02 20060101ALI20240207BHJP
   B01D 21/24 20060101ALI20240207BHJP
   C02F 1/38 20230101ALI20240207BHJP
   B04C 5/04 20060101ALI20240207BHJP
   B04C 5/28 20060101ALI20240207BHJP
   B01D 47/06 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
B01D21/26
B01D21/02 F
B01D21/24 H
C02F1/38
B04C5/04
B04C5/28
B01D47/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123151
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】592141053
【氏名又は名称】明和工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000844
【氏名又は名称】弁理士法人クレイア特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】呉人 真珠
(72)【発明者】
【氏名】安達 康治
(72)【発明者】
【氏名】東 健吾
【テーマコード(参考)】
4D032
4D037
4D053
【Fターム(参考)】
4D032AC09
4D037AA11
4D037AA15
4D037AB02
4D037BA28
4D037CA06
4D053AA03
4D053AB04
4D053BA01
4D053BA04
4D053BB02
4D053BC01
4D053BD04
4D053CA08
4D053CB01
4D053CG01
4D053DA02
(57)【要約】
【課題】穀物粉塵などの、比重が水の比重に近く、かつ、剪断されやすい有機固体粒子を含んだ排水を処理し、有機固体粒子を除去することのできる、処理能力が高い可搬型の排水処理装置を提供する。
【解決手段】可搬型の排水処理装置100であって、液体サイクロン装置10と、液体サイクロン装置から排出される混濁液中の有機固体粒子を沈降分離する沈降分離装置20と、を備え、液体サイクロン装置10は、液体サイクロン11と、液体サイクロン11に排水を注入する加圧ポンプ16と、を備え、液体サイクロン11は、円筒部と、円筒部の下方から漸次縮径する円錐部とからなる本体と、排水導入管12と、混濁液排出管14と、清浄液排出管13と、を有し、沈降分離装置20は、複数の傾斜管21と、下部に配置され、混濁液排出管に接続された混濁液タンク22と、上部に配置された清浄液エリア23とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可搬型の排水処理装置であって、
有機固体粒子を含む排水を混濁液と清浄液とに分離する液体サイクロン装置と、
前記液体サイクロン装置から排出される混濁液中の前記有機固体粒子を沈降分離する沈降分離装置と、を備え、
前記液体サイクロン装置は、液体サイクロンと、前記液体サイクロンに排水を注入する加圧ポンプと、を備え、
前記液体サイクロンは、円筒部と、前記円筒部の下方から漸次縮径する円錐部とからなる本体と、前記円筒部に連接した排水導入管と、前記円錐部の下方を開口してなる混濁液排出管と、前記円筒部の上面中央を開口してなる清浄液排出管と、前記排水導入管に導入される排水の圧力を計測する圧力計測器と、を有し、
前記沈降分離装置は、複数の傾斜管と、前記傾斜管の下部に配置され、前記混濁液排出管に接続された混濁液タンクと、前記傾斜管の上部に配置された清浄液エリアとを備える、排水処理装置。
【請求項2】
前記液体サイクロンは、比重が1.2以上、1.7以下の前記有機固体粒子を濃縮して混濁液として排出し、かつ、前記有機固体粒子の剪断を抑制するように構成され、
前記排水導入管の流量に対する前記混濁液排出管の流量の比は、前記沈降分離装置に導入される混濁液の流量が許容される範囲で、前記混濁液排出管から排出される前記有機固体粒子の量が最大となるように設定される、請求項1に記載の排水処理装置。
【請求項3】
前記液体サイクロンは、比重が1.2以上1.7以下の前記有機固体粒子を濃縮可能であり、前記排水導入管に導入される液の流速が2m/秒以上10m/秒以下であり、前記排水導入管の内径が11mm以上18mm以下であり、前記円筒部の内径が70mm以上103mm以下である、請求項1に記載の排水処理装置。
【請求項4】
前記排水導入管の流量に対する前記混濁液排出管の流量の比は0.3以上、0.5以下である、請求項2に記載の排水処理装置。
【請求項5】
前記混濁液タンクの内部にチェーンコンベアをさらに備え、
前記チェーンコンベアによって前記傾斜管から沈降し堆積した前記有機固体粒子を排出する、請求項4に記載の排水処理装置。
【請求項6】
前記チェーンコンベアは排水処理中、間欠運転される、請求項5に記載の排水処理装置。
【請求項7】
前記液体サイクロン装置は複数の前記液体サイクロンが並列接続して構成され、
複数の前記液体サイクロンはそれぞれ個別に前記排水導入管における排水の流入量を調整することができる、請求項6に記載の排水処理装置。
【請求項8】
湿式集塵装置から排出された前記有機固体粒子を含む排水を処理する、請求項1から7のいずれか1項に記載の排水処理装置。
【請求項9】
穀物粉塵などの有機固体粒子を含んだ気流を装置内に形成された水膜を通過させることにより、前記有機固体粒子を水に捕集させて回収し、前記気流を清浄空気として排気する湿式集塵装置であって、
除塵室と、
前記有機固体粒子を捕集した水を回収する水槽と、
排水中の前記有機固体粒子を除去する請求項1から7のいずれか1項に記載の排水処理装置と、を備え、
前記水槽の排水が前記排水処理装置に導入され、
前記液体サイクロンの前記清浄液排出管と前記清浄液エリアとの排水が前記水槽へ戻される、湿式集塵装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式集塵装置などから排出される排水から穀物粉塵等の有機固形粒子を除去する排水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2010-069364号公報)には、原水から分離した不純物の処理水への再混入を防止して分離性能をすることができる固液分離器が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載の固液分離器は、供給される原水を不純物と処理水とに分離する固液分離器であって、回収対象の不純物を含む原水が流入すると、この原水を内部で旋回して原水に含まれる不純物を沈降させる液体サイクロンと、供給される原水が液体サイクロンの内部で旋回するように液体サイクロンの上方に接続され、液体サイクロンに原水を供給する流入管と、液体サイクロンの下方に接続され、沈降した不純物を液体サイクロンから排出する排出口を有する接続部と、接続部を介して液体サイクロンと接続され、液体サイクロンから排出された不純物を回収する不純物回収部と、排出口付近に設けられ、不純物回収部で回収した不純物が液体サイクロンへ再混入する流れを防止する障害物と、液体サイクロンの上部に接続され、原水から不純物が分離された後の処理水を液体サイクロンから排出する流出管と、を備える。
【0004】
特許文献2(特開2002-126788号公報)には、 ろ過装置の前段にハイドロサイクロンを設けて固形物負荷を軽減させ、繊維ろ材を用いたろ過装置で雨天時等の高濁度の原水に対処できる装置が開示されている。
【0005】
特許文献2に記載の懸濁液の処理装置は、 取水槽に設置した圧送ポンプをハイドロサイクロンに接続し、このハイドロサイクロンで原水中の懸濁粒子を旋回分離させ、ハイドロサイクロンから抜出した分離水に凝集剤を添加して残存する微細粒子を凝集させた後、繊維ろ材を用いたろ過装置に供給し、ろ材層を形成した繊維ろ材で凝集させたフロックを捕捉させ、固液分離を行なった処理水を取出す。
【0006】
特許文献3(特開2017-060922号公報)には、液体サイクロンから回収した分離液から固形物を専用の脱水装置を追加することなく容易に回収することができる固液分離装置が開示されている。
【0007】
特許文献3に記載の固液分離装置は、 固形物を含む懸濁液から固形物を分離する固液分離装置であって、懸濁液から遠心分離により固形物濃度の高い分離液と固形物濃度の低い排液とに分離する液体サイクロンと、液体サイクロンへ懸濁液を給液するポンプと、液体サイクロンより排出された分離液が供給される回収容器と、回収容器に圧縮エアーを供給する圧縮エアー供給手段と、回収容器下部に設けた通水性部材とを備えており、回収容器内に分離液を回収した状態で、圧縮エアーの供給により、分離液から通水性部材を通して水を強制的に排除し、分離液中の固形物を脱水ケーキとして回収する。
【0008】
特許文献4(特開平09-150012号公報)には、本来の沈降分離作業に支障を及ぼすことなく、しかもキャリーオーバー(原水中に含まれる懸濁粒子が傾斜管で補足されずに流れと同伴して上昇する現象)を有効に抑制するために、沈殿槽内の液体の流動条件に適応した適正な条件で阻流板を設置した沈殿槽を有する沈降分離装置が記載されている。
【0009】
特許文献4に記載の沈降分離装置は、 沈殿槽内に設置した傾斜板または傾斜管内を流通する懸濁粒子を含む被処理液体から該懸濁粒子を両者の比重差を利用して沈降分離する沈降分離装置において、任意の液体流量と任意の液体温度の下でキャリーオーバーが発生する直前の沈殿槽内の最大流速である臨界流速との関係から決定したキャリーオーバーを抑制することができる条件の阻流板が上記傾斜板または傾斜管上部に設置されている沈殿槽を有する。
【0010】
特許文献5(特開2014-002050号公報)には、浄水プロセス中の処理水の凝集状態を迅速かつ正確に検知可能な凝集状態検知装置が開示されている。
【0011】
特許文献5の凝集状態検知装置は、アルミニウムを含有する凝集剤が添加された凝集沈殿処理水中のフロックをフロックの粒径によって分級する凝集沈殿分離手段と、凝集沈殿分離手段で得られた分級処理水にアルミニウム計測用試薬および緩衝液を添加する添加手段と、分級処理水とアルミニウム計測用試薬と緩衝液とを混合する混合手段と、混合手段によって混合された反応液の吸光度を測定する吸光度計と、吸光度計で測定された反応液の吸光度を反応液内のアルミニウム濃度に変換する変換手段と、を備え、凝集沈殿分離手段は、下部に凝集沈殿処理水の流入口と、上部に分級処理水の流出口と、が設けられた円筒形の管を、重力方向に対して傾斜して設置した傾斜管である。
【0012】
非特許文献1(液体サイクロンの分離径制御に関する研究)には、標準型液体サイクロン21と実験用液体サイクロンにおける、ブローダウンの比率(B.D.)をパラメータとした粒径と部分分離効率(液体サイクロンに入力された粒子のうちのブローダウン側の出口から出力された粒子の割合)との関係のグラフが記載されている。
【0013】
非特許文献1によれば、標準型液体サイクロンの場合、ブローダウンの比率10%~30%において、少なくとも粒径20μm以上ではほとんどの粒子がブローダウン側の出口から出力されている。なお、この場合の条件は、入力流量380l/h、Inlet管Φ6mm、ブローアップ管Φ8mmである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2010-069364号公報
【特許文献2】特開2002-126788号公報
【特許文献3】特開2017-060922号公報
【特許文献4】特開平09-150012号公報
【特許文献5】特開2014-002050号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】一色勇治他著「液体サイクロンの分離径制御に関する研究」粉体工学会誌 34号(1997年発行)P.690-696
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従来、湿式集塵装置などから排出される排水は、そのまま自然の川等に放水されることが一般的であったが、近年水質管理の観点から湿式集塵装置の排水を浄化処理する試みがされている。湿式集塵装置の排水処理装置としては、一般に濾過フィルタを用いるもの、薬品による化学処理を行うものなどが知られている。
しかしながら、濾過フィルタは、運転時間が長くなるにつれて目詰まりが多くなり処理能力が低下するうえ、交換頻度が多く装置を停止する必要があり、さらに交換コストが高くなるという問題があった。また、薬品による化学処理は、大量の薬品を使用する必要がありコストがかかるうえ、薬品によっては中和が必要で自然の川等にそのまま放水できないという問題があった。
一方で、大規模な下水処理施設においては、沈降曹に傾斜管を設けて排水を処理する方法が知られている。しかしながら、湿式集塵装置が使用される現場は通常田畑の近くであり、大規模な下水処理施設に隣接した場所には設置されない。
【0017】
液体サイクロンを用いて液体と固体とを分離する方法が知られている。先行技術文献に示すように、液体サイクロンはサイクロンに入力され、回転する液体の遠心力によって固体粒子をサイクロンの周壁に堆積させ、沈降させるもので、構造が簡単で処理量が多く、また設置面積が小さく、ポンプ以外の動力を必要としないなどの多くの利点を持っている。
しかし、本発明の主な用途である、湿式集塵装置から排出される、穀物粉塵などの有機固体粒子を含む排水の処理の場合、有機固体粒子の比重が1.2以上、1.7以下と水の比重に近く、有機固体粒子を含む水を液体サイクロンに入力した場合、上記非特許文献1に記載のように有機固体粒子を混濁液排出管側に完全に分離することができない。
また、有機固体粒子を含む排水中には、穀物粉塵などの、遠心力によって細かく剪断されやすい有機固体粒子が多く含まれ、遠心力などの条件によっては剪断されて粒径がさらに小さくなり除去が困難になるとの課題がある。
【0018】
一方、傾斜管は重力による液体中の固体粒子の沈降を利用し、沈降した固体粒子を傾斜管の管壁に堆積させ、さらに、傾斜管の傾斜角度を安息角(固体粒子が滑り出さない限界の角度)より大きくすることによって管壁に堆積した固体粒子を下方に排出するものである。
傾斜管による固体粒子の除去では有機固体粒子が細かく剪断されることはないが、沈降する粒子の粒径が液体の流速の平方根に比例するため、必要な粒径の、水に比重が近い粒子を沈降するためには流速が制限され、処理量を増やすことが困難であるとの課題がある。
【0019】
特許文献1に記載の発明の固液分離器は、強い遠心力を得るために旋回流を高速にした場合の課題の1つである、高速の流れによって、一度分離した不純物が巻き上がり処理水に再混入することを防ぐために、回収した不純物が液体サイクロンへ再混入する流れを防止する障害物を備えた固液分離器である。
しかし、特許文献1に記載の固液分離器では、強い遠心力および障害物との衝突によって剪断されやすい穀物粉塵などの有機固体粒子が細かく剪断されてしまう可能性がある。
【0020】
特許文献2に記載の懸濁液の処理装置は、ろ過装置の前段にハイドロサイクロンを設けて5ミクロン以上の懸濁粒子を50~60%程度分離すると記載されており、粒径の小さな粒子に対して非特許文献1の標準型液体サイクロン(後述)と同等以上の分離能力を備えており、強い遠心力が働いていると思われる。
また、特許文献2に記載の処理装置は液体サイクロンの清浄液排出管側の排出水をさらにろ過するものであり、排水中の有機固体粒子を除去することはできない。
【0021】
特許文献3に記載の固液分離装置では、液体サイクロンを用いて遠心分離により分離した固形物濃度の高い分離液を、下部に通水性部材を設けた回収容器に供給し、圧縮エアーの供給により分離液から水分を強制的に排除し、分離液中の固形物を脱水ケーキとして回収する。
特許文献3に記載の固液分離装置は主として珪藻土などの固形物を含んだ混濁液の固液分離装置である。珪藻土は比重が2.1程度と大きいため、液体サイクロンで比較的容易に分離できるが、本発明の対象としている穀物粉塵などの有機固体粒子の場合十分な分離ができない可能性がある。
また、特許文献3に記載の固液分離装置では、液体サイクロンで固形物濃度の高い分離液を分離する工程と、回収容器内から固形物を脱水ケーキとして回収する工程とを交互に実行する必要があり、排水処理装置として利用する場合には、排水処理の連続運転ができないとの課題もある。
【0022】
特許文献4に記載の沈降分離装置では、原水が沈降分離装置の各管状通路を通って斜め上向きに分流し、その間に懸濁粒子と結合したフロックは沈殿し、上記傾斜角度αが沈殿物質の安息角より大きい角度とされているため、沈殿物質は管の底面上を液体の流れと反対方向に滑り落ちて傾斜管沈降分離装置の流入端のところで排出されて汚泥集合タンクの下部に集積され、集積された沈殿物質は周期的にあるいは連続的にそこから除去される
特許文献3の解決しようとする課題は、懸濁粒子が傾斜管で補足されずに流れと同伴して上昇するキャリーオーバー現象の抑制であって、このために特許文献3では阻流板が傾斜管上部に設置されている。このキャリーオーバーは沈殿槽内にある水の温度と沈殿槽内に流入する水の温度との差が大きい場合に発生する現象であり、沈殿槽(混濁液タンク)の容量が小さい場合には問題にはならない。また、傾斜管を用いた沈降分離装置では遠心力などの強い力が働くことはないので、固体粒子が細かく剪断されることもない。
しかし、傾斜管を用いた沈降分離装置では、沈降することのできる粒子の粒径が液体の流速の平方根に比例するため、必要な粒径の粒子を沈降するための流速が限定され、処理量を増やすことが困難であるとの課題がある。
【0023】
特許文献5の凝集状態検知装置にも、下部に凝集沈殿処理水の流入口と、上部に分級処理水の流出口と、が設けられた円筒形の管を、重力方向に対して傾斜して設置した傾斜管が用いられている。特許文献5には、さらに、D:傾斜管の内径、L:傾斜管の長さ:、θ:傾斜管の水平面に対する角度、M:流量(傾斜管に対する凝集沈殿処理水の供給流量)、d:フロックの粒径、ρs:フロックの密度、ρ:液体の密度としたとき、粒径dの粒子を沈降するための傾斜管の長さLが下記式によって計算されることが記載されている。
上記式によって、傾斜管の形状が一定の場合に、粒径dの2乗と粒子の密度と液体の密度との差との積が流量Mと比例関係にあることが分かる。したがって傾斜管のみで排水中のスラッジを除去する場合、各傾斜管の流量が限定されるため、排水処理装置の処理量を増やすためには傾斜管の数を増やすことが必要になり、その結果排水処理装置の容積および重量が増加する。したがって、容積および重量が限定される可搬型の排水処理装置においては、傾斜管のみで排水処理装置を構成することは困難である。
【0024】
本発明の主な目的は、湿式集塵装置などから排出される穀物粉塵などの、比重が水の比重に近く、かつ、剪断されやすい有機固体粒子を含んだ排水を処理し、有機固体粒子を除去することのできる、処理能力が高い可搬型の排水処理装置を提供することにある。
本発明の他の目的は、穀物粉塵などの有機固体粒子を含んだ気流を装置内に形成された水膜を通過させることにより、有機固体粒子を水に捕集させて回収し、気流を清浄空気として排気する除塵室を備えた集塵装置に排水処理装置を組み合わせて、洗浄水のリサイクルが可能で連続運転できる、湿式集塵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
(1)
一局面に従う排水処理装置は、可搬型の排水処理装置であって、有機固体粒子を含む排水を混濁液と清浄液とに分離する液体サイクロン装置と、液体サイクロン装置から排出される混濁液中の有機固体粒子を沈降分離する沈降分離装置と、を備え、液体サイクロン装置は、液体サイクロンと、液体サイクロンに排水を注入する加圧ポンプと、を備え、液体サイクロンは、円筒部と、円筒部の下方から漸次縮径する円錐部とからなる本体と、円筒部に連接した排水導入管と、円錐部の下方を開口してなる混濁液排出管と、円筒部の上面中央を開口してなる清浄液排出管と、排水導入管に導入される排水の圧力を計測する圧力計測器と、を有し、沈降分離装置は、複数の傾斜管と、傾斜管の下部に配置され、混濁液排出管に接続された混濁液タンクと、傾斜管の上部に配置された清浄液エリアとを備える。
【0026】
従来、固体粒子を含む排水の処理は、液体サイクロンを用いたもの、フィルタを用いたもの、薬品による化学処理を行うもの、傾斜管を用いた沈降分離装置などが使用されていた。
このうち、液体サイクロンは入力された液体を回転し、回転する液体の遠心力によって液体中の固体粒子を液体サイクロンの周壁に堆積させ、沈降させるもので、構造が簡単で処理量が多く、また設置面積が小さく、ポンプ以外の動力を必要としないなどの多くの利点を持っている。
しかし、穀物粉塵などの比重が水の比重に近い有機固体粒子を含む排水を処理する場合には、液体サイクロンでは十分な有機固体粒子の分離が困難であり、また、遠心力によって細かく剪断されやすい有機固体粒子が排水中に多く含まれるため、有機固体粒子が剪断されて粒径が小さくなり、有機固体粒子を分離できなくなるとの課題がある。
一方、傾斜管を用いた沈降分離装置は重力によって液体中の固体粒子を傾斜管の管壁に沈降させ、管壁に沈降した固体粒子を管壁に沿って下方に排出するものであり、遠心力などの力を加えることがないため、有機固体粒子が剪断されることはない。
しかし、傾斜管を用いた沈降分離装置では、沈降する粒子の粒径と、粒子の比重と液体の比重との差との積が液体の流速の平方根に比例するため、必要な粒径の、比重が水の比重に近い粒子を沈降するための流速が制限され、処理量を増やすことが困難であるとの課題がある。したがって、排水を浄化するための傾斜管は、装置が大型化するという問題があり、大規模な浄水施設等では使用されるものの、小型で可搬型の排水処理装置には通常使用されない。
一局面に従う排水処理装置では、液体サイクロン装置と沈降分離装置とを組み合わせ、液体サイクロン装置で濃縮されて排出される混濁液中の固体粒子を沈降分離装置で沈降分離することによって、沈降分離装置に含まれる傾斜管の容積を少なくし、有機固体粒子の剪断を防ぐことができ、かつ可搬型で排水処理効率の高い排水処理装置を実現している。
また、小型であるため、湿式集塵装置に設備として付属することができる。また、可搬型であるため、既存の設置された湿式集塵装置に容易に追加することができ、必要に応じて交換等をすることもできる。
【0027】
この場合、液体サイクロンの混濁液排出管から排出される混濁液が傾斜管の下部に配置された混濁液タンクを経由して傾斜管内を上昇し、この過程で混濁液の中の固体粒子が沈降して傾斜管の管壁に堆積し、さらに管壁を下方に滑り落ちて混濁液タンクの底に堆積する。
一方、固体粒子が沈降した排水は清浄液エリアに流入し、ポンプによって連続的にまたは断続的に排出され、液体サイクロンの清浄液排出管から排出される排水と合わせて排水処理装置から排出される。
また、液体サイクロンの稼働に当たっては排水導入管から導入される流速ないし流量の管理が重要である。このため、液体サイクロンの排水導入管には排水の圧力を計測する圧力計測器が備えられている。
【0028】
(2)
第2の発明にかかる排水処理装置は、一局面に従う排水処理装置において、液体サイクロンは、比重が1.2以上、1.7以下の有機固体粒子を濃縮して混濁液として排出し、かつ、有機固体粒子の剪断を抑制するように構成され、排水導入管の流量に対する混濁液排出管の流量の比は、沈降分離装置に導入される混濁液の流量が許容される範囲で、混濁液排出管から排出される前記有機固体粒子の量が最大となるように設定されてもよい。
【0029】
液体サイクロン装置では、サイクロンの中で回転する液体の遠心力を増加させると、液体中のより多くの固体粒子がサイクロンの周壁に堆積、沈降し、混濁液排出管から排出され、混濁液中の有機固体粒子の濃度が増加する。
しかし、本発明の対象である穀物粉塵などの排水処理の場合、排水に含まれる有機固体粒子の比重は1.2以上、1.7以下である。この値は例えば珪藻土、砂粒子などの比重2.0~2.1と比べて小さく、有機固体粒子を混濁液排出管側に完全に分離することができない。一方、有機固体粒子は遠心力をかけすぎると剪断されてそれぞれの粒径が小さくなり、分離できなくなる。
第2の発明にかかる排水処理装置では、有機固体粒子の剪断が抑制できる範囲で、濁液排出口から排出される有機固体粒子を最大限濃縮するために、液体サイクロンの円筒部の内径、排水導入管から導入される液体の流速など、遠心力に関連するパラメータを調整するとともに、清浄液排出管の内径と混濁液排出管の内径との比を調整し、排水導入管の流量に対する混濁液排出管の流量の比を、沈降分離装置に導入される混濁液の流量が許容される範囲で、混濁液排出管から排出される有機固体粒子の量が最大となるようにしている。
【0030】
(3)
第3の発明にかかる排水処理装置は、一局面または第2の発明にかかる排水処理装置において、液体サイクロンは、比重が1.2以上1.7以下の有機固体粒子を濃縮可能であり、排水導入管に導入される液の流速が2m/秒以上10m/秒以下であり、排水導入管の内径が11mm以上18mm以下であり、円筒部の内径が70mm以上103mm以下であってもよい。
【0031】
これにより、籾殻など脆くて比重が水に近い有機個体粒子が投入された場合も、確実に分離しつつ剪断されにくい排水処理装置とすることができる。したがって、より効率的かつ処理能力の高い排水処理装置とすることができる。
【0032】
(4)
第3の発明にかかる排水処理装置は、一局面から第3のいずれかの発明にかかる排水処理装置において、排水導入管の流量に対する混濁液排出管の流量の比は0.3以上、0.5以下であってもよい。
【0033】
比重が水に近く、かつ、剪断されやすい有機固体粒子を液体サイクロンに導入する場合、有機固体粒子のすべてを混濁液排出管側に排出することはできない。しかし、排水導入管の流量に対する混濁液排出管の流量の比を大きくすることによって、混濁液排出管から排出される前記有機固体粒子の量を多くすることはできる。一方で、混濁液排出管の流量の比を大きくすると、沈降分離装置に導入される混濁液の流量が増加する。
傾斜管における、傾斜管の長さをL、傾斜管への入力流量をM、排水の粘度をμ、重力加速度をg、フロックの密度をρs、排水の密度をρ、沈降することのできる最小の有機固体粒子の粒径をd、傾斜管の水平面に対する角度をθ、傾斜管の内径をDとしたとき、下記数式1が成立する(特許文献5明細書段落[0035]参照)。
【数1】
すなわち、傾斜管において、所定の粒径dの有機固体粒子を沈降させるためには、傾斜管への入力流量を上記数式1で決定されるMより多くすることはできない。したがって、沈降分離装置に導入される排水の量が多くなると、傾斜管の数を増加させることが必要になる。
このため、第4の発明にかかる排水処理装置の液体サイクロンでは、排水導入管の流量に対する混濁液排出管の流量の比を0.3以上、0.5以下に設定している。
【0034】
(5)
第5の発明にかかる排水処理装置は、一局面から第4のいずれかの発明にかかる排水処理装置において、混濁液タンクの内部にチェーンコンベアをさらに備え、チェーンコンベアによって傾斜管から沈降堆積した有機固体粒子を排出してもよい。
【0035】
この場合、管壁を下方に滑り落ちた有機固体粒子を水槽底面に堆積させ、断続的にチェーンコンベアを稼働して水槽底面に堆積した有機固体粒子を掻き出すことによって、排水処理装置の連続運転が可能となる。
【0036】
(6)
第6の発明にかかる排水処理装置は、第5の発明にかかる排水処理装置において、チェーンコンベアは排水処理中、間欠運転されてもよい。
【0037】
チェーンコンベアを連続運転した場合、混濁液タンク中に乱流が発生し、有機固体粒子が混濁液タンク中に巻き上げられる。
第6の発明にかかる排水処理装置では、チェーンコンベアを間欠運転とすることによって、チェーンコンベアの運転による有機固体粒子の巻き上げを最小限に抑えている。
また、チェーンコンベアの間欠運転には、混濁液タンク中の水流の変化により傾斜管壁に堆積した有機固体粒子が落下し、傾斜管の閉塞を防止するとの効果も得られる。
【0038】
(7)
第7の発明にかかる排水処理装置は、一局面から第6のいずれかの発明にかかる排水処理装置において、液体サイクロン装置は複数の液体サイクロンが並列接続して構成され、複数の液体サイクロンはそれぞれ個別に排水導入管における排水の流入量を調整することができてもよい。
【0039】
液体サイクロン装置では、流量によって遠心力が変化し、排水に含まれる有機固体粒子の剪断の有無などの特性に大きく影響するため、1つの液体サイクロンに導入する排水の流量を変更することは困難である。
このため、第7の発明にかかる排水処理装置では、液体サイクロン装置に複数の液体サイクロンを備え、稼働するサイクロンの数で排水処理装置の処理能力を調整している。
また、液体サイクロンはわずかな形状の相違などによって有機固体粒子の除去率などの特性が変化するため、特性を最適化するために流量を個別に調整できることが望ましい。
【0040】
(8)
第8の発明にかかる排水処理装置は、一局面から第7の発明にかかる排水処理装置において、排水処理装置は、湿式集塵装置から排出された有機固体粒子を含む排水を処理してもよい。
【0041】
湿式集塵装置は、穀物乾燥調製施設などで、穀物粉塵などの有機固体粒子を含んだ気流を装置内に形成された水膜を通過させることにより、有機固体粒子を水に捕集させて回収し、気流を清浄空気として排気する装置である。このため、湿式集塵装置においては、穀物粉塵などの有機固体粒子が多く含まれる排水が発生する。この排水を従来の液体サイクロンを用いた排水処理装置に導入した場合、十分な有機固体粒子の分離ができず、また、穀物粉塵などの有機固体粒子が細かな粒子に剪断され、有機固体粒子の除去が困難になる。
第8の発明にかかる排水処理装置では、液体サイクロン装置を、排水中の有機固体粒子を濃縮して混濁液として排出し、かつ、有機固体粒子の剪断を抑制するように構成することによって、穀物粉塵などの有機固体粒子が細かな粒子に剪断されることを防止するとともに、排水中の有機固体粒子を濃縮して混濁液として排出することによって、混濁液が導入される沈降分離装置の効率を向上させており、湿式集塵装置用の排水処理装置として好適である。
【0042】
(9)
他の局面に従う湿式集塵装置は、穀物粉塵などの有機固体粒子を含んだ気流を装置内に形成された水膜を通過させることにより、有機固体粒子を水に捕集させて回収し、気流を清浄空気として排気する装置であって、除塵室と、有機固体粒子を捕集した水を回収する水槽と、排水中の有機固体粒子を除去する一局面から第7の発明にかかる排水処理装置と、を備え、水槽の排水が排水処理装置に導入され、液体サイクロンの清浄液排出管と清浄液エリアとの排水が水槽へ戻される。
【0043】
従来の湿式集塵装置では、有機固体粒子を捕集した水を貯水する水槽で穀物粉塵などの有機固体粒子の沈降を行い、沈降、堆積した有機固体粒子の排出を行っていた。この場合、排水中の有機固体粒子の沈降速度が遅いため、洗浄水のリサイクルが困難であるとの課題があった。
これに対して水槽に傾斜管を設置すると、有機固体粒子の沈降速度を向上させることはできるが、それでも排水中の有機固体粒子の除去能力は十分とは言えなかった。
他の局面に従う湿式集塵装置は、水槽中の排水をまず液体サイクロンに導入し、排水中の有機固体粒子の濃度を高くしてから傾斜管を通すことによって、排水中の有機固体粒子の除去の効率を向上させたものである。
この場合、液体サイクロンの清浄液排出管と清浄液エリアとの排水を水槽に戻すことにより、湿式集塵装置での洗浄水のリサイクルが可能となる。
また、湿式集塵装置に投入される穀物の種類等によって、排水中の有機個体粒子の濃度および粒径が大きく異なる場合がある。そのような場合も、水槽と排水処理装置とで洗浄水を循環させることで、清浄水の清浄度を均一かつ低く抑えることができる。
また、洗浄水のリサイクルを行わず、液体サイクロンの清浄液排出管と清浄液エリアとの排水をそのまま下水等に廃棄した場合でも、排水中の有機固体粒子の濃度を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】第1の実施形態の排水処理装置の一例を示す模式図である。
図2】液体サイクロンの模式的側面図である。
図3】傾斜管の管の模式的断面図である。
図4】UF流量比率とUF側の粒子濃度および粒子数との関係を示すグラフである。
図5】排水処理装置と水槽とを組み合わせた循環運転時の構成の一例を示す模式図である。
図6】排水処理装置と水槽とを組み合わせた循環運転時の水槽中の有機固体粒子濃度の時間変化を示すグラフである。
図7】実施例および比較例の、原液の流速、液体サイクロンの形状と、UF流量比率、UF濃縮倍率、およびUF排出比率との関係を示す表である。
図8】UF流量比率とUF濃縮倍率、UF排出比率との関係を示すグラフである。
図9】Du/Do比とUF流量比率との関係を示すグラフである。
図10】第2の実施形態の排水処理装置を備えた湿式集塵装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。以下の説明においては、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。以下に、本発明を詳細に説明する。
【0046】
[第1の実施形態の排水処理装置100]
図1は第1の実施形態の排水処理装置100の構成を示す模式図であり、図2は液体サイクロン11の模式的断面図であり、図3は傾斜管21の模式的断面図である。
図1において、排水処理装置100は液体サイクロン装置10と沈降分離装置20とで構成されている。第1の実施形態の排水処理装置100は、液体サイクロン装置10で排水中の有機固体粒子を濃縮し、濃縮された排水中の有機固体粒子を沈降分離装置20で沈降、分離するものである。
また、排水処理装置100は可搬型であり、例えば浄水場の処理装置のように大規模な施設ではないため、排水処理装置100の体積の多くの部分を占める沈降分離装置20の体積を圧縮するように構成されている。
【0047】
(液体サイクロン装置10)
液体サイクロン装置10は並列接続された複数の液体サイクロン11とそれぞれの液体サイクロン11に排水を加圧して導入する加圧ポンプ16とを備える。加圧ポンプ16がそれぞれの液体サイクロン11に接続されているのは、それぞれの液体サイクロン11の流入量を個別に調整するためである。
図2に示すように、液体サイクロン11は、円筒部17と円筒部17の下方から開き角θ1で漸次縮径する円錐部18とからなる本体と、円筒部17に連接した排水導入管12と円錐部下方を開口してなる混濁液排出管14と、円筒部17上面中央を開口してなる清浄液排出管13と、排水導入管12に導入される排水の圧力を計測する圧力計測器15と、を有する。圧力計測器15はそれぞれの液体サイクロン11の流入量のモニターとして用いられる。
有機固体粒子を含む排水は、加圧ポンプ16で加圧されて液体サイクロン11に導入され、液体サイクロン11内部で回転し、回転する液体の遠心力によって液体中の固体粒子を液体サイクロン11の周壁に堆積させ、沈降させる。そして沈降した固体粒子を多く含む排水は混濁液排出管14から排出され、固体粒子の少ない排水が清浄液排出管13から排出される。
【0048】
液体サイクロン11は、入力された液体を回転し、回転する液体の遠心力によって液体中の固体粒子を液体サイクロン11の周壁に堆積させ、沈降させるもので、構造が簡単で処理量が多く、また設置面積が小さく、ポンプ以外の動力を必要としないなどの多くの利点を持っている。
しかし、穀物粉塵などの比重が水の比重に近い有機固体粒子を含む排水を処理する場合には、液体サイクロン11では十分な有機固体粒子の分離が困難であり、また、遠心力によって細かく剪断されやすい有機固体粒子が排水中に多く含まれるため、有機固体粒子が剪断されて粒径が小さくなり、有機固体粒子を分離できなくなるとの課題がある。
本発明では湿式集塵装置200などから排出される穀物粉塵などの有機固体粒子の除去を目的としており、これらの有機固体粒子は比重が1.2以上、1.7以下と水に近いため、完全な有機固体粒子の分離は困難である。また、液体サイクロン11で完全に分離しようとすると有機固体粒子が剪断される恐れもある。
【0049】
液体サイクロン11に導入される排水の流速が大きくなると有機個体粒子が剪断されやすくなり、液体サイクロン11内の液に加わる遠心力が大きくなると、その影響が大きくなる。
液体サイクロン11に導入される原液(排水)の流速の上限値は、10m/秒以下が好ましく、8m/秒以下がより好ましく、6m/秒以下がさらに好ましい。また下限値は2m/秒以上が好ましく、3m/秒以上がより好ましく、4m/秒以上がさらに好ましい。
また、液体サイクロン11の円筒部17の内径(内径の最大値)は、36mm以上296mm以下が好ましく、50mm以上191mm以下がより好ましく、70mm以上103mm以下がさらに好ましい。
これにより、比重が水に近い有機個体粒子を効果的に分離しつつ、脆い有機固体粒子が剪断されるのを防止することができる。
【0050】
一方、比重が水に近く、かつ、剪断されやすい有機固体粒子を液体サイクロン11に導入する場合、排水導入管12の流量に対する混濁液排出管14の流量の比を調整することも重要である。比重が水に近く、かつ、剪断されやすい有機固体粒子を液体サイクロン11に導入する場合、有機固体粒子のすべてを混濁液排出管14側に排出することはできない。しかし、排水導入管12の流量に対する混濁液排出管14の流量の比を大きくすることによって、混濁液排出管14から排出される有機固体粒子の量を多くすることはできる。ただし、混濁液排出管14の流量の比を大きくすると、沈降分離装置20に導入される混濁液の流量が増加することにつながる。
この場合、排水導入管12の流量に対する混濁液排出管14の流量の比(UF流量比率)としては、20%以上50%以下が好ましく、30%以上45%以下がより好ましく、35%以上40%以下がさらに好ましい。
【0051】
(沈降分離装置20)
図1を参照すると、沈降分離装置20は、傾斜管21、混濁液タンク22、清浄液エリア23、チェーンコンベア30を備えている。液体サイクロン装置10の混濁液排出管14から排出された排水は混濁液シュートを介して混濁液タンク22に入り、傾斜管21をさかのぼって清浄液エリア23に入る。
図3に示すように、傾斜管21は内径Φp、傾きθp、高さHpの管の集合体である。傾斜管21中の有機固体粒子は最大で距離h(=φp/cos(θp))だけ沈降すれば傾斜管21の壁面に到達して堆積し、ある程度堆積量が多くなると壁面を滑り落ちて傾斜管21の下に落下する。
この場合、傾斜管21の長さはL=Hp/sin(θp)となるので、傾斜管21への入力流量をM、排水の粘度をμ、重力加速度をg、有機固体粒子の比重をs、排水の密度をρ、沈降することのできる最小の有機固体粒子の粒径をdとしたとき、特許文献5明細書段落[0035]に記載の数式1は、下記数式2となる。
【数2】
すなわち、傾斜管21において、所定の粒径dの有機固体粒子を沈降させるためには、傾斜管21への入力流量を上記数式2で決定されるMより多くすることはできない。したがって、沈降分離装置20に導入される排水の量が多くなると、傾斜管21の管の数を増加させることが必要になる。
一方、本発明の排水処理装置100は可搬式であり、沈降分離装置20の体積は限定されることから、傾斜管21の管の数も限定される。したがって、沈降分離装置20の入力流量も限定されることから、本発明の排水処理装置100ではまず、液体サイクロン装置10で排水中の有機固体粒子の濃度を圧縮してから沈降分離装置20に導入することにより、単位体積当たりの処理能力を向上させている。
【0052】
この場合、傾斜管21の管の傾斜角は45°以上70°以下が好ましく、60°が最も好ましい。また、傾斜管21の管のサイズは、ハニカム構造の場合、直径が40mm以上80mm以下が好ましく、50mm以上60mm以下がより好ましい。これにより、目詰まりがおきにくくかつ効率よく有機固体粒子を沈降させることができる。
また、傾斜管21の管の本数は、485本以上905本以下が好ましく、604本以上724本以下がより好ましい。そして傾斜管21全体の容積は、0.9m以上1.7m以下が好ましく、1.1m以上1.4m以下がより好ましい。これにより、液体サイクロン11と連携した場合に有機固体粒子を十分に沈降させることができるとともに、小型で可搬型の排水処理装置とすることができる。
【0053】
沈降分離装置20では、混濁液タンク22の底面にチェーンコンベア30が設置されている。傾斜管21から落下した有機固体粒子のかたまりはこのチェーンコンベア30に堆積する。チェーンコンベア30に堆積した有機固体粒子のかたまりは、チェーンコンベア30を間欠運転することによって、汚泥タンク40に排出する。
チェーンコンベア30を連続運転ではなく間欠運転とするのは、チェーンコンベア30を連続運転した場合、混濁液タンク22中に乱流が発生し、有機固体粒子が混濁液タンク22中に巻き上げられるためである。
一方で、チェーンコンベア30の間欠運転には、混濁液タンク22中の水流の変化により傾斜管21の管壁に堆積した有機固体粒子が傾斜管21から落下し、傾斜管21の閉塞を防止するとの効果も得られる。間欠運転を行う頻度としては、60分間に3分以上10分以下の頻度で行うことが好ましく、5分以上8分以下の頻度で行うことがより好ましい。
【0054】
清浄液エリア23には清浄液エリア排出管24およびフロート付き水中ポンプ25が設けられており、清浄液エリア23の水位が所定の高さになるとフロート付き水中ポンプ25が稼働して清浄液エリア23の水が排出される。
【0055】
(実施例1)
円筒部の内径が97.6mm、円筒部の長さが97.6mm、円錐部の長さが220mmで、清浄液排出管13の口径が37.1mm、混濁液排出管14の口径が28.4mm、円錐部18の開き角θ1が17.4度の液体サイクロン11に、いろいろな濃度の有機固体粒子を含む排水を導入し、混濁液排出管中の有機固体粒子の濃度と原液中の有機固体粒子の濃度との比(UF濃縮倍率ともいう)を調べた。加圧ポンプ16の周波数は55Hz、原液流量は79l/m、原液流速は5.6m/s、混濁液排出管14の流量と原液流量との比(UF流量比率ともいう)は38%であった。なお、UFはUnderflowの略である。また、清浄液排出管13側のことはOF(Overflow)ともいう。
図4に原液中の有機固体粒子の濃度とUF圧縮倍率との関係のグラフを示した。本発明の主たる対象である湿式集塵装置200の排水の場合、湿式集塵装置200の用途などによって、排水中の有機固体粒子の濃度が大幅に異なる。そこで、約300SSmg/lから1600SSmg/lまでの幅広い範囲の濃度の排水を排水処理装置100に導入し、UF濃縮倍率を確認した。なお、図4の有機固体粒子の濃度は粒径41μm以上の粒子の濃度である。
UF濃縮倍率は1.5から2.1の範囲にあり、安定して濃縮できていることが分かる。UF濃縮倍率の平均値は1.71である。また、この場合、原液の有機固体粒子のうち、UF側に排出される有機固体粒子の割合(UF排出比率ともいう)は、平均で0.38×1.71=0.64、すなわち原液中の64%の有機固体粒子がUF側に排出された。そして、この64%の有機固体粒子は沈降分離装置20で沈降分離され、チェーンコンベア30を間欠運転することにより、汚泥タンク40に排出される。
【0056】
図5に、水槽240の排水を排水処理装置100で循環運転する場合の構成、図6にはその場合の有機固体粒子濃度の変化を示す。水槽240の排水は排水導入口19から排水処理装置100に導入され、清浄液排出管13と清浄液エリア排出管24から排出される排水が水槽240に戻される。
図6からわかるように、水槽240の排水を循環運転して排水処理した場合には41μm以上の粒子の濃度は60分で約1/3になった。一方、10μmから41μmの粒子の濃度はほとんど変化しない。これは、本実施例においては41μm以上の粒子が液体サイクロン11で剪断されて41μm以下の複数の粒子に分割されないこと、および41μm以下の粒子は沈降分離装置20で除去されないことを意味している。なお沈降分離装置20では数式2に記載のように入力流量によって沈降できる粒子の粒径が変化するため、除去すべき有機固体粒子の粒径に合わせて入力流量を調整することが好ましい。
【0057】
(実施例2)
液体サイクロン11の円錐部18の開き角θ1が20.5度に変更になった以外は実施例1と同一の液体サイクロン11を使用してUF濃縮倍率とUF排出比率を測定した。原液流速も実施例1と同じ5.6m/sである。
実施例2を実施例1と比較すると、UF流量比率は実施例1と同じ38%であったが、UF濃縮倍率は1.65倍とやや低下し、その結果UF排出比率も63%とやや低下した。この結果より、開き角θ1は20.5度より17.4度の方がわずかではあるがUF濃縮倍率、UF排出比率を高くでき、好ましい。
【0058】
(実施例3)
液体サイクロン11の形状は実施例1と同じであるが、加圧ポンプ16の周波数を55Hzから60Hzに変更して駆動力を高め、原液流速を7m/sとした。
実施例3を実施例1と比較すると、原液流速の増加に伴い、UF流量比率が33%とやや低下し、その結果UF濃縮倍率は1.89倍とやや増加したが、UF側に排出される有機固体粒子の割合であるUF排出比率は62%とやや低下した。
【0059】
(比較例1)
液体サイクロンの混濁液排出管14の口径を23.9mmに変更し、UF流量比率を28%まで低下させた。
比較例1を実施例1と比較すると、UF流量比率の低下に伴い、UF濃縮倍率は1.94倍まで増加したが、UF流量が少ないため、UF側に排出される有機固体粒子の割合であるUF排出比率は55%と低下した。
【0060】
(比較例2)
比較例2は清浄液排出管13の口径を19.4mm、混濁液排出管14の口径を11.4mmとし、実施例1に対して、UF側とOF側との口径の比率を大きくしたものである。この場合、UF流量比率が13%と大幅に低下し、UF濃縮倍率は3.54倍まで増加したが、UF流量が少ないため、UF側に排出される有機固体粒子の割合であるUF排出比率は46%と低下した。
【0061】
図7に実施例および比較例の、原液の流速、液体サイクロン11の形状と、UF流量比率、UF濃縮倍率、およびUF排出比率との関係を示した。また、図8には、UF流量比率とUF濃縮倍率、UF排出比率との関係のグラフを示した。UF流量比率を低くした方がUF濃縮倍率は高くなるが、UF側の流量が少なくなるため、UF排出比率は低くなった。一方、UF流量比率を高くするとUF排出比率は高くなるが、UF側の流量が多くなるため、液体サイクロン装置10に接続される沈降分離装置20の入力流量が多くなった。
したがって、UF流量比率の適正範囲としては、20%以上50%以下が好ましく、30%以上50%以下がより好ましく、35%以上40%以下がさらに好ましい。
【0062】
UF流量比率は、基本的には混濁液排出管14と清浄液排出管13との口径の比率(Du/Do比ともいう)に依存し、混濁液排出管14を小さくするとUF流量比率が低下する。図9に、Du/Do比とUF流量比率との関係を示した。UF流量比率の適正範囲を30%以上とした場合、Du/Do比としては約0.75以上とすることが好ましい。ただし、原液の流速を速くするとUF流量比率はやや低下する(図7の実施例1と実施例3を参照)ので、実際のUF流量比率を確認することがより好ましい。
【0063】
本実施形態では、Du/Do比を調整することによってUF流量比率を適正な値に設定することで、液体サイクロン装置10の混濁液排出管14中の有機固体粒子濃度を高めるとともに沈降分離装置20への入力流量を絞り、より高効率で可搬が可能な小型の排水処理装置100を実現した。
【0064】
[第2の実施形態の湿式集塵装置200]
図10は第2の実施形態の、排水処理装置100を備えた湿式集塵装置200の一例を示す模式図である。
湿式集塵装置200は、第1の実施形態の排水処理装置100と除塵室210と水槽240とを備えている。除塵室210は水シャワー220を備え、水シャワーポンプ230により加圧された排水をガス入口260からの大量の塵埃を含んだ空気にぶつけて塵埃を排水中に捕集させて、濾過板250で大きな塵埃を取り除いた後、水槽240に戻す。そして、ガス入口260から入る有機固体粒子を含んだ気流を清浄空気としてガス出口270から排気する。
一方で、排水処理装置100は水槽240の水を排水導入口19から取りこみ、液体サイクロン11の清浄液排出管13と沈降分離装置20の清浄液エリア排出管24との出力を水槽240に戻す。なお、水槽240にも汚泥排出用チェーンコンベヤ(図示せず)が設置されている。
【0065】
そして、第2の実施形態の湿式集塵装置200では、除塵室210で取り込んだ塵埃(有機固体粒子)を含む排水を液体サイクロン11で濃縮し、濃縮された排水中の塵埃を沈降分離装置20で沈降分離し、沈降分離した有機固体粒子のかたまりをチェーンコンベア30を間欠運転して汚泥タンク40に排出することにより、水槽240中の塵埃の濃度を低く抑え、湿式集塵装置200の集塵能力を長時間保持することができる。
また、水槽240中の塵埃の濃度を低く抑えることにより、水槽240中の排水の匂いや泡も抑制することができる。
【0066】
本実施形態においては、排水処理装置100が「排水処理装置」に相当し、液体サイクロン装置10が「液体サイクロン装置」に相当し、沈降分離装置20が「沈降分離装置」に相当し、液体サイクロン11が「液体サイクロン」に相当し、加圧ポンプ16が「加圧ポンプ」に相当し、円筒部17が「円筒部」に相当し、円錐部18が「円錐部」に相当し、排水導入管12が「排水導入管」に相当し、混濁液排出管14が「混濁液排出管」に相当し、清浄液排出管13が「清浄液排出管」に相当し、圧力計測器15が「圧力計測器」に相当し、傾斜管21が「傾斜管」に相当し、混濁液タンク22が「混濁液タンク」に相当し、清浄液エリア23が「清浄液エリア」に相当し、チェーンコンベア30が「チェーンコンベア」に相当し、湿式集塵装置200が「湿式集塵装置」に相当し、除塵室210が「除塵室」に相当し、水槽240が「水槽」に相当する。
【0067】
本発明の好ましい一実施形態は上記の通りであるが、本発明はそれだけに制限されない。本発明の精神と範囲から逸脱することのない様々な実施形態が他になされることは理解されよう。さらに、本実施形態において、本発明の構成による作用および効果を述べているが、これら作用および効果は、一例であり、本発明を限定するものではない。
【符合の説明】
【0068】
10 液体サイクロン装置
11 液体サイクロン
12 排水導入管
13 清浄液排出管
14 混濁液排出管
15 圧力計測器
16 加圧ポンプ
17 円筒部
18 円錐部
19 排水導入口
20 沈降分離装置
21 傾斜管
22 混濁液タンク
23 清浄液エリア
24 清浄液エリア排出管
25 フロート付き水中ポンプ
26 混濁液シュート
30 チェーンコンベア
40 汚泥タンク
100 排水処理装置
200 湿式集塵装置
210 除塵室
220 水シャワー
230 水シャワー用ポンプ
240 水槽
250 濾過板
260 ガス入口
270 ガス出口

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10