IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NTN株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ころ軸受 図1
  • 特開-ころ軸受 図2
  • 特開-ころ軸受 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020764
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】ころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/46 20060101AFI20240207BHJP
【FI】
F16C33/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123189
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100127340
【弁理士】
【氏名又は名称】飛永 充啓
(72)【発明者】
【氏名】前田 剛
(72)【発明者】
【氏名】宮本 尚郁
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA13
3J701AA24
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA34
3J701BA44
3J701BA49
3J701CA06
3J701CA07
3J701DA14
3J701EA31
3J701EA36
3J701EA37
3J701FA04
3J701XB03
3J701XB24
(57)【要約】
【課題】外方に軌道面を有する内方部材が回転しかつ内方に軌道面を有する外方部材が静止する条件で使用されたときの昇温を抑えつつ、転動体案内形の保持器が有する隣り合う柱の落ち止め部同士の間にころを挿入し易くする。
【解決手段】保持器40を案内するころ30と落ち止め部44上で接触可能な柱41とし、そのころ30の中心軸Oに直交する仮想平面内で考えて、ころ30と柱41との接触点Pから中心軸Oまでを結ぶ第一仮想直線L1と、径方向に直交しかつ中心軸Oを通る第二仮想直線L2とが成す接触角θを20°~24°とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外方に軌道面を有する内方部材と、内方に軌道面を有する外方部材と、前記内方部材と前記外方部材との間に介在する複数のころと、これら複数のころを保持する転動体案内形の保持器とを備え、
前記保持器が、周方向に均等間隔に配置された複数の柱を有し、周方向に隣り合う前記柱同士の間に前記ころが配置されており、前記柱同士の間から保持器外径側への前記ころの脱出を阻止する落ち止め部を有するころ軸受において、
前記柱が、前記保持器を案内する前記ころと前記落ち止め部上で接触可能な形状であり、
前記柱との接触によって前記保持器を案内する前記ころの中心軸に直交する仮想平面内で考えて、当該ころと当該柱の落ち止め部との接触点から当該ころの中心軸までを結ぶ第一仮想直線と、ころの中心軸を通る径方向の直線に直交しかつ当該ころの中心軸を通る第二仮想直線との成す角度である接触角が20°以上24°以下に設定されていることを特徴とするころ軸受。
【請求項2】
前記隣り合う柱のうち、前記仮想平面内で前記ころの中心軸よりも保持器内径側に位置する内端部同士の間の距離が、前記ころの直径よりも大きく設けられている請求項1に記載のころ軸受。
【請求項3】
前記隣り合う柱のうち、前記仮想平面内で前記ころの中心軸よりも保持器内径側に位置する内端部同士の間の距離が、前記ころの直径よりも小さく設けられている請求項1に記載のころ軸受。
【請求項4】
前記内方部材が、当該内方部材の軌道面に対して軸方向一方側で径方向に突出した第一の鍔と、当該内方部材の軌道面に対して軸方向他方側で径方向に突出した第二の鍔とを一体に有し、
前記保持器が、前記複数の柱の軸方向一方側に連続する第一のリングと、前記複数の柱の軸方向他方側に連続する第二のリングとを一体に有する請求項1から3のいずれか1項に記載のころ軸受。
【請求項5】
前記保持器が射出成形によって形成されている請求項1から3のいずれか1項に記載のころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ころ軸受に関し、特に、転動体案内形の保持器を備えるものに関する。
【背景技術】
【0002】
ころ軸受は、一般に、外径に軌道面を有する内方部材と、内径に軌道面を有する外方部材と、内方部材と外方部材との間に介在する複数のころと、これら複数のころを保持する保持器とを備える。保持器は、周方向に均等間隔に配置された複数の柱を有する。ころは、周方向に隣り合う対の柱同士の間に配置されている。対の柱同士の間からころが脱落しないようにするため、その脱落を阻止する落ち止め部が各柱に形成されている。保持器は、ポケットすきまの範囲内で複数のころに対して径方向に自由に動き得る。軸受回転中に振れ回る保持器を径方向に案内する形式として、一般に、内方部材又は外方部材を構成する軌道輪と保持器との接触で保持器を径方向に案内する軌道輪案内形の保持器、又は、ころと柱との接触で保持器を径方向に案内する転動体案内形の保持器が採用されている。
【0003】
工作機械の主軸を支持する用途のような高速回転用途のころ軸受の場合、軌道輪案内形の保持器を採用すると、軌道輪と保持器の接触による発熱や、軌道輪と保持器の案内面で潤滑剤の排出性を悪化させる懸念がある。これを避けるため、高速回転用途のころ軸受においては転動体案内形の保持器が採用されている。
【0004】
転動体案内形の保持器において、保持器を案内するころと柱との接触部の位置は、ころの中心軸よりも保持器内径側又は保持器外径側の位置となる。ころ軸受の内方部材が回転し、外方部材が静止する使用条件の場合、保持器を案内するころと柱との接触部の位置をころの中心軸よりも保持器内径側の位置に設定すると、ころと柱との接触部で摩擦力が大きくなり、発熱量が多くなることが知られている(特許文献1)。
【0005】
また、保持器を案内するころと柱との接触部の位置が僅かに変化することにより、その接触部で生じる摩擦力がころの自転を阻害し、ころがくさび効果で柱に食い付く現象が起こり、ころ軸受の温度上昇を招くことが知られている。その食い付き現象を起こりにくくする対策として、保持器を案内するころと柱の接触角を25°以上35°以下に設定することが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-274437号公報
【特許文献2】特開2006-242284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に開示されたころ軸受は、ころの中心軸よりも保持器内径側の位置において保持器を案内するころと柱の接触を許容しているので、内方部材が高速回転し外方部材が静止する使用条件のときに前述の接触部での摩擦力が特に大きく、昇温し易い点で不利なものである。
【0008】
上述の背景に鑑み、この発明が解決しようとする課題は、外方に軌道面を有する内方部材が回転しかつ内方に軌道面を有する外方部材が静止する条件で使用されたときの昇温を抑えつつ、転動体案内形の保持器が有する隣り合う柱の落ち止め部同士の間にころを挿入し易くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を達成するため、この発明は、外方に軌道面を有する内方部材と、内方に軌道面を有する外方部材と、前記内方部材と前記外方部材との間に介在する複数のころと、これら複数のころを保持する転動体案内形の保持器とを備え、前記保持器が、周方向に均等間隔に配置された複数の柱を有し、周方向に隣り合う前記柱同士の間に前記ころが配置されており、前記柱同士の間から保持器外径側への前記ころの脱出を阻止する落ち止め部を有するころ軸受において、前記柱が、前記保持器を案内する前記ころと前記落ち止め部上で接触可能な形状であり、前記柱との接触によって前記保持器を案内する前記ころの中心軸に直交する仮想平面内で考えて、当該ころと当該柱の落ち止め部との接触点から当該ころの中心軸までを結ぶ第一仮想直線と、ころの中心軸を通る径方向の直線に直交しかつ当該ころの中心軸を通る第二仮想直線との成す角度である接触角が20°以上24°以下に設定されている、という第一の構成を採用した。
【0010】
上記第一の構成によれば、保持器を案内するころの中心軸よりも保持器外径側に位置する落ち止め部上で当該ころと接触可能な柱であるので、外方に軌道面(内方部材の軌道面)を有する内方部材が回転しかつ内方に軌道面(外方部材の軌道面)を有する外方部材が静止する条件で使用されたとき、ころと柱との接触部でころより柱に作用する力が保持器の回転に寄与する方向に作用することになる。このため、ころと柱との接触部での摩擦力を小さくして発熱量を抑えることができる。また、保持器を案内するころと柱との接触部での接触角が20°以上であれば、食い付き現象が防止されるので、ころ軸受の昇温を抑えることができる。その接触角が24°以下であれば、隣り合う柱の落ち止め部同士の間の距離がころの直径に比して小さくなり過ぎず、ころを隣り合う柱の落ち止め部同士の間に保持器外径側から挿入し易くなる。
【0011】
上記第一の構成において、前記隣り合う柱のうち、前記仮想平面内で前記ころの中心軸よりも保持器内径側に位置する内端部同士の間の距離が、前記ころの直径よりも大きく設けられている、という第二の構成を採用することができる。この第二の構成によると、隣り合う柱の内端部同士の間の距離がころの直径よりも小さい場合に比して、潤滑剤がころと隣り合う柱同士の間を通り抜け易くなるので、攪拌抵抗を抑えてころ軸受の昇温を抑えることができる。
【0012】
また、上記第一の構成において、前記隣り合う柱のうち、前記仮想平面内で前記ころの中心軸よりも保持器内径側に位置する内端部同士の間の距離が、前記ころの直径よりも小さく設けられている、という第三の構成を採用することができる。この第三の構成によると、攪拌抵抗の抑制には不利となるが、柱の強度を高くし易い利点がある。
【0013】
上記第一の構成から第三の構成のいずれか一つの構成において、前記内方部材が、当該内方部材の軌道面に対して軸方向一方側で径方向に突出した第一の鍔と、当該内方部材の軌道面に対して軸方向他方側で径方向に突出した第二の鍔とを一体に有し、前記保持器が、前記複数の柱の軸方向一方側に連続する第一のリングと、前記複数の柱の軸方向他方側に連続する第二のリングとを一体に有する、という第四の構成を採用することができる。この第四の構成にすると、保持器及び内方部材をそれぞれ単一部材で構成して安価にしつつ、内方部材、保持器及び複数のころをアセンブリにすることができる。
【0014】
上記第一の構成から第四の構成のいずれか一つの構成において、前記保持器が射出成形によって形成されている、という第五の構成を採用することができる。前述のように接触角として20°~24°の許容角度範囲があるため、柱の落ち止め部を削り出し加工する程の精度管理が不要である。したがって、第五の構成のように保持器を射出成形品とすることで、もみ抜き保持器に比して軽量化でき高速性能が向上し、保持器の製造コストを抑えることができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明は、上記第一の構成の採用により、外方に軌道面を有する内方部材が回転しかつ内方に軌道面を有する外方部材が静止する条件で使用されたときの昇温を抑えつつ、転動体案内形の保持器が有する対の柱の落ち止め部同士の間にころを挿入し易くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この発明の一例としての第一実施形態に係るころ軸受を示す断面図
図2図1のI-I断面図
図3】この発明の第二実施形態に係る柱を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明の第一実施形態に係るころ軸受を添付図面の図1図2に基づいて説明する。
【0018】
図1図2に示すこのころ軸受は、外方に軌道面(内方部材の軌道面)11を有する内方部材10と、内方に軌道面(外方部材の軌道面)21を有する外方部材20と、内方部材10の軌道面11と外方部材20の軌道面21との間に介在する複数のころ30と、これら複数のころ30を保持する保持器40とを備える。
【0019】
ここで、図1は、保持器40及びころ30の中心軸に直交する仮想平面内の断面を示す。また、図2は、内方部材10、外方部材20及び保持器40の各中心軸(図示省略)を同軸に配置した状態を示す。以下、その同軸の中心軸に沿った方向のことを「軸方向」といい、その中心軸に直角な方向のことを「径方向」といい、その中心軸を中心とした円周に沿った方向のことを「周方向」という。
【0020】
内方部材10は、その外周において軌道面11に対して軸方向一方側で径方向に突出した第一の鍔12と、軌道面11に対して軸方向他方側で径方向に突出した第二の鍔13とを一体に有する単体の軌道輪として構成されている。外方部材20は、その内周において軌道面21を有する単体の軌道輪として構成されている。内外の軌道面11,21は、それぞれ周方向に延びる円筒面状に形成されている。外方部材20は、この内周において軌道面21よりも径方向に突出する部位を有さず、このころ軸受は、内方部材10、保持器40及び複数のころ30のアセンブリに対して外方部材20を軸方向に分離可能な分離形ころ軸受になっている。
【0021】
内方部材10は、軸Sに取り付けられている。外方部材20は、軸Sに対して静止するハウジングHに取り付けられている。内方部材10は、軸Sと一体に回転する。外方部材20は、ハウジングHによって径方向に支持される。軸Sとして、例えば、工作機械の主軸が挙げられる。このような高速回転用途のころ軸受の潤滑方式として、例えば、オイルエア潤滑、オイルミスト潤滑又はジェット潤滑が挙げられる。
【0022】
ころ30は、内外の軌道面11,21に対して転がる転動面31を有する。転動面31は、円筒面状に形成されている。
【0023】
保持器40は、周方向に均等間隔に配置された複数の柱41と、複数の柱41の軸方向一方側に連続する第一のリング42と、複数の柱41の軸方向他方側に連続する第二のリング43とを一体に有する単体の環状体として構成されている。保持器40の全体は、周方向に複数回の回転対称性をもった形状になっている。
【0024】
周方向に隣り合う対の柱41同士の間にころ30が配置されている。ころ30を保持器40に収容する空間であるポケットは、対の柱41と、第一のリング42と、第二のリング43とでかご形に形成されている。
【0025】
保持器40の全体は、射出成形によって繋ぎ目なく形成されている。保持器40を形成する材料として、合成樹脂が採用されている。ここで、合成樹脂は、ポリアミド(PA)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等のポリマーを主成分とした組成物のことをいい、ガラス繊維、カーボン繊維、改質剤等の適宜の副成分を含むものであってもよい。
【0026】
図2に示すように、対の柱41は、この対の柱41同士の間から保持器外径側へのころ30の脱出を阻止する落ち止め部44を有する。落ち止め部44は、柱41のうち、複数のころ30の中心軸Oを含む仮想筒面Cよりも保持器外径側の位置にある。対の柱41の落ち止め部44同士の間の距離Loは、ころ30の直径Dwよりも小さい。
【0027】
ここで、保持器外径側とは、保持器40の中心軸に直交する仮想平面内で、保持器40と同軸かつ保持器40に外接する仮想円(外接円)と、保持器40と同軸かつ保持器40に内接する仮想円(内接円)とを考えたとき、その外接円に径方向に接近する方のことをいい、これとは逆に、その内接円に径方向に接近する方のことを保持器内径側という。
【0028】
落ち止め部44は、ころ30に対して周方向及び径方向に接触可能な湾曲面状のポケット面44aと、当該ポケット面44aの保持器外径側の端eに比してころ30から周方向に遠ざかる端面44bとを有する。
【0029】
柱41は、この周方向両側に一対の落ち止め部44を有し、これら一対の落ち止め部44は、個々の柱41の周方向中央を通る径方向断面に対して、互いに周方向に対称配置で成形されている。保持器40の射出成形に際し、対の柱41のうちの互いに周方向に対向する表面部分を成形する金型は、対の柱41同士の間から保持器外径側へ無理抜きされている。
【0030】
ころ30は、対の柱41の落ち止め部44同士の間に保持器外径側から押し込まれ、この落ち止め部44同士の間に強制的に通されることによって、内方部材10の両鍔12,13同士の間へ挿入されている。複数のころ30を相異なる対の柱41同士の間に前述のように挿入することによって、内方部材10と保持器40と複数のころ30とがアセンブリに組み立てられている。
【0031】
柱41の端面44bは、ポケット面44aの保持器外径側の端eから平坦面状に延び、さらに平坦面状からテーパ面状に延びている。この端面44bのテーパ面状部分は、ころ30を対の柱41の落ち止め部44同士の間に保持器外径側から押し込み易くするためのものである。
【0032】
また、柱41は、この周方向両側の落ち止め部44同士の間で軸方向に延びる溝45を有する。溝45は、保持器40の外周に開放しており、その溝底は、ポケット面44aの保持器外径側の端eよりも保持器内径側に位置している。この溝45も、ころ30を対の柱41の落ち止め部44同士の間に保持器外径側から押し込み易くするためのものである。溝45の溝底は、ポケット面44aの保持器外径側の端eよりも保持器外径側に位置していてもよい。
【0033】
また、落ち止め部44のうち、端面44bを有する外端部分は、第一のリング42及び第二のリング43の夫々から軸方向に離れた突出部になっている。この落ち止め部44の外端部分と両リング42,43間の軸方向断絶も、ころ30を対の柱41の落ち止め部44同士の間に保持器外径側から押し込み易くするためのものである。
【0034】
対の柱41、第一のリング42及び第二のリング43と、ころ30との間にポケットすきまが設定されている。保持器40は、対の柱41ところ30との間に設定されたポケットすきまの範囲内において複数のころ30に対して径方向に自由に動き得る。
【0035】
保持器40は、ころ30によって径方向に案内される転動体案内形になっている。すなわち、保持器40と内方部材10との間の径方向すきま、並びに保持器40と外方部材20との間の径方向すきまは、前述のポケットすきまに基づく保持器40の自由な径方向の移動量よりも大きく設定されている。保持器40が内方部材10及び外方部材20に対して径方向に移動した際、保持器40が内方部材10又は外方部材20と径方向に接触する前の段階で、ころ30の転動面31と柱41の落ち止め部44との接触によって保持器40が径方向に案内される。
【0036】
ここで、図2は、内方部材10の回転中に保持器40が径方向に最も移動し、同図の中央のころ30の中心軸Oが当該保持器40の移動方向Aとは周方向に180°反対側の位置にあり、柱41の落ち止め部44と移動方向Aに接触するころ30が保持器40を案内する状態を示している。
【0037】
対の柱41のうち、ころ30の中心軸Oに直交する仮想平面内でころ30の中心軸Oよりも保持器内径側に位置する内端部46同士の間の距離Liは、ころ30の直径Dwよりも大きく設けられている。ころ30と柱41の内端部46との間の隙間は、ころ30とポケット面44aとの間で規定されたポケットすきまよりも大きい。すなわち、柱41は、保持器40を案内するころ30と落ち止め部44のポケット面44a上で接触可能な形状である。
【0038】
内方部材10の回転中、ころ軸受の負荷圏において保持器40を駆動するころ30と柱41の落ち止め部44との接触部は、当該ころ30の中心軸Oよりも保持器外径側の位置にある。このため、駆動するころ30より保持器40に働く力は、保持器40を駆動しないころ30(非駆動のころ30)を軌道面11に押し付け、静止する軌道面21に押し付けないように作用する。非駆動のころ30は、軌道面11に押し付けられることによって積極的に自転を始める。或いは、軌道面11に押し付けられることで非駆動のころ30の自転にブレーキがかかったとしても、回転する軌道面11と一緒に(正規に転がる場合よりも2倍程度の速度で)公転しようとする。いずれにせよ、非駆動のころ30と柱41の落ち止め部44との接触部での摩擦力は保持器40の回転に寄与する方向に働く。
【0039】
なお、保持器を案内するころと柱とがころの中心軸よりも保持器内径側で接触する場合、保持器を駆動するころから柱に作用する力は、静止する外方部材の軌道面に非駆動のころを押し付けるように作用する。このため、非駆動のころの自転にブレーキが強くかかり、保持器の回転とは逆方向のブレーキ力が非駆動のころから柱に作用して、ころと柱との接触部での摩擦力が大きくなってしまう。
【0040】
柱41の落ち止め部44との接触によって保持器40を案内するころ30の中心軸Oに直交する仮想平面内で考えて、当該ころ30と当該柱41の落ち止め部44との接触点Pから当該ころ30の中心軸Oまでを結ぶ第一仮想直線L1と、径方向に直交しかつ当該ころ30の中心軸Oを通る第二仮想直線L2との成す角度である接触角θは、所定の角度範囲に設定されている。
【0041】
接触点Pで生じる摩擦力は、接触角θが大きい程、小さくなり、接触角θが小さい程、大きくなる。したがって、接触角θを小さく設定する程、接触点Pで生じる摩擦力が増大してころ30の自転が阻害され、ころ30が柱41のポケット面44aに食い付く現象が起こり易くなる。そこで、接触角θの最小値は、20°に設定されている。これにより、接触点Pで生じる摩擦力が過大にならず、ころ30の自転が阻害されにくくなるので、食い付き現象が防止される。
【0042】
なお、内方部材10が回転すると共に、ころ30が内外の軌道面11,21間で自転しながら公転する通常時、ころ30と柱41の落ち止め部44との接触部における潤滑モードは、混合潤滑状態(摩擦係数0.005~0.1)又は流体潤滑状態(摩擦係数0.001~0.005)となる。高速回転用途で特に希薄な潤滑環境の場合、その接触部へのオイル供給が不足して潤滑モードが境界潤滑状態(摩擦係数0.1~0.3)になる可能性があり、境界潤滑状態の接触部では特に摩擦力が大きくなって食い付き現象が発生し易くなる。したがって、境界潤滑状態(摩擦係数0.3)のときに当該接触部での摩擦力によってころ30の自転が止まることのないように接触角θの最小値を設定しておけば、食い付き現象を効果的に防止することが可能である。
【0043】
一方、接触角θの最大値を大きく設定し過ぎると、対の柱41の落ち止め部44同士の間の距離Loがころ30の直径Dwに比して小さくなり過ぎるので、ころ30を前述のように保持器外径側から対の柱41の落ち止め部44同士の間に強制的に挿入する工程を実施することが非常に困難となる。そこで、接触角θの最大値は、24°に設定されている。これにより、対の柱41の落ち止め部44同士の間の距離Loが小さくなり過ぎず、ころ30を対の柱41の落ち止め部44同士の間に保持器外径側から挿入する工程を現実的に行える程度に容易化することが可能になる。
【0044】
なお、接触角θが24°になるときの接触点Pの位置は、柱41のポケット面44aの保持器外径側の端e(ポケット面44aと端面44bとの境界になる変曲点)上に設定されていることが好ましい。このようにすると、柱41の端面44bを省いてポケット面44aを保持器外径側へ延長した場合に比して、対の柱41の落ち止め部44同士の間の距離Loを比較的大きくすると共に端面44bを形成して、ころ30を対の柱41の落ち止め部44同士の間に挿入し易くするのに有利である。
【0045】
図1図2に示すこのころ軸受は、上述のように、外方に軌道面11を有する内方部材10と、内方に軌道面21を有する外方部材20と、内方部材10と外方部材20との間に介在する複数のころ30と、これら複数のころ30を保持する転動体案内形の保持器40とを備え、保持器40が周方向に均等間隔に配置された複数の柱41を有し、周方向に隣り合う柱41(対の柱41)同士の間にころ30が配置されており、その隣り合う柱41同士の間から保持器外径側へのころ30の脱出を阻止する落ち止め部44を有するものである。
【0046】
特に、このころ軸受は、柱41が保持器40を案内するころ30と落ち止め部44上で接触可能な形状であることにより、内方部材10が回転しかつ外方部材20が静止する条件で使用されたとき、ころ30と柱41との接触部でころ30より柱41に作用する力が保持器40の回転に寄与する方向に作用することになるので、ころの中心軸よりも保持器内径側で保持器を案内する場合に比して、ころ30と柱41の接触部での摩擦力を比較的小さくして発熱量を抑えることができる。
【0047】
さらに、このころ軸受は、柱41との接触によって保持器40を案内するころ30の中心軸Oに直交する仮想平面内で考えて、当該ころ30と当該柱41の接触点Pから当該ころ30の中心軸Oまでを結ぶ第一仮想直線L1と、径方向に直交しかつ当該ころ30の中心軸Oを通る第二仮想直線L2との成す角度である接触角θが20°以上に設定されていることにより、落ち止め部44へのころ30の食い付き現象が防止されるので、この点からも、内方部材10が回転しかつ外方部材20が静止する条件で使用されたときのころ軸受の昇温を抑えることができる。
【0048】
さらに、このころ軸受は、接触角θが24°以下に設定されていることにより、隣り合う柱41(対の柱41)の落ち止め部44同士の間の距離Loがころ30の直径Dwに比して小さくなり過ぎないため、隣り合う柱41(対の柱41)の落ち止め部44同士の間にころ30を保持器外径側から挿入し易くすることができる。
【0049】
このように、このころ軸受は、外方に軌道面11を有する内方部材10が回転しかつ内方に軌道面21を有する外方部材20が静止する条件で使用されたときの昇温を抑えつつ、転動体案内形の保持器40が有する隣り合う柱41(対の柱41)の落ち止め部44同士の間にころ30を挿入し易くするこができる。
【0050】
また、このころ軸受は、隣り合う柱41(対の柱41)のうち、前述の仮想平面内でころ30の中心軸Oよりも保持器内径側に位置する内端部46同士の間の距離Liがころ30の直径Dwよりも大きく設けられていることにより、当該距離Liがころ30の直径Dwよりも小さい場合に比して、軸受回転中、潤滑剤がころ30の転動面31と隣り合う柱41(対の柱41)同士の間を保持器内径側から保持器外径側へ通り抜け易くなるので、攪拌抵抗を抑えてころ軸受の昇温を抑えることができる。
【0051】
また、このころ軸受は、内方部材10が軌道面11に対して軸方向一方側で径方向に突出した第一の鍔12と、当該軌道面11に対して軸方向他方側で径方向に突出した第二の鍔13とを一体に有し、保持器40が複数の柱41の軸方向一方側に連続する第一のリング42と、複数の柱41の軸方向他方側に連続する第二のリング43とを一体に有することにより、ころ30の押し込み工程を無くすためにリングや鍔を別付け品に構成する場合に比して、保持器40及び内方部材10をそれぞれ単一部材で構成して安価にしつつ、内方部材10、保持器40及び複数のころ30をアセンブリにすることができる。
【0052】
また、このころ軸受は、保持器40が合成樹脂の射出成形によって形成されていることにより、もみ抜き保持器に比して軽量化され、高速性能が向上することに加え、保持器の製造コストを抑えることができる。
【0053】
この発明の第二実施形態を図3に示す。なお、以下では、第一実施形態との相違点を述べるに留める。
【0054】
第二実施形態に係る柱50は、第一実施形態よりも保持器内径側に延長されており、周方向に隣り合う柱50のうち、ころ30の中心軸Oに直交する仮想平面内で当該中心軸Oよりも保持器内径側に位置する内端部51同士の間の距離Liは、ころ30の直径よりも小さく設けられている。ころ30が柱50の内端部51と接触できない点は第一実施形態と同じであるが、柱50の内端部51ところ30との間の距離Liが第一実施形態よりも狭くなるので、ころ軸受の回転中、潤滑剤がころ30と隣り合う柱50同士の間を保持器内径側から保持器外径側へ比較的に通り抜けにくくなる。したがって、第二実施形態に係るころ軸受は、潤滑剤の攪拌抵抗を抑制することには不利となるが、柱50の断面積を増やして柱50の強度を高くし易い利点がある。
【0055】
今回開示された各実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0056】
10 内方部材
11 軌道面(内方部材の軌道面)
12 第一の鍔
13 第二の鍔
20 外方部材
21 軌道面(外方部材の軌道面)
30 ころ
40 保持器
41,50 柱
42 第一のリング
43 第二のリング
44 落ち止め部
46,51 内端部
図1
図2
図3