(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020765
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】熱交換素子用シート
(51)【国際特許分類】
B01D 69/12 20060101AFI20240207BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240207BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20240207BHJP
B01D 71/48 20060101ALI20240207BHJP
B01D 71/56 20060101ALI20240207BHJP
F24F 7/08 20060101ALI20240207BHJP
F28F 21/06 20060101ALI20240207BHJP
F28F 3/00 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
B01D69/12
B01D69/10
B01D69/02
B01D71/48
B01D71/56
F24F7/08 101A
F28F21/06
F28F3/00 301Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123193
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】新崎 盛昭
(72)【発明者】
【氏名】西岡 和也
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006MA03
4D006MA06
4D006MA31
4D006MC22
4D006MC23X
4D006MC28
4D006MC48X
4D006MC49
4D006MC53X
4D006MC54X
4D006MC58
4D006NA21
4D006NA45
(57)【要約】
【課題】
本発明は、生産性に優れるとともに、耐水性・気体遮蔽性・水蒸気透過性を有する熱交換素子用シートを提供することを課題とする。
【解決手段】
本名発明は、透湿度が190g/m2/hr以上で、水浸漬前後での重量減量率が1%以下である熱可塑性エラストマーを主成分とするA層と、多孔質層であるB層とを有する、熱交換素子用シートである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
A層とB層とを有し、
前記A層は、熱可塑性エラストマーを主成分とする層であり、
前記熱可塑性エラストマーの透湿度は、190g/m2/hr以上であり、
前記熱可塑性エラストマーの水浸漬前後での重量減量率は、1%以下であり、
前記B層は、多孔質層である、熱交換素子用シート。
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマーが、ポリエステルエラストマーである、請求項1に記載の熱交換素子用シート。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマーが、ポリアミドエラストマーである、請求項1に記載の熱交換素子用シート。
【請求項4】
前記B層が、前記熱可塑性エラストマーを含む、請求項1~3のいずれかに記載の熱交換素子用シート。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の熱交換素子用シートの製造方法であり、
a層およびb層を有する積層体を、2倍以上7倍以下に1軸延伸する工程Iと、
前記工程Iにより得られた延伸後の積層体を、熱固定する工程IIとを備え、
前記a層は、熱可塑性エラストマーを主成分とする層であり、
前記熱可塑性エラストマーの透湿度は、190g/m2/hr以上であり、
前記熱可塑性エラストマーの水浸漬前後での重量減量率は、1%以下であり、
前記b層は、ポリオレフィンおよび充填剤を含有する層である、熱交換素子用シートの製造方法。
【請求項6】
前記b層が、前記熱可塑性エラストマーを含む、請求項5に記載の熱交換素子用シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換素子用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器は、住宅・建築物の換気設備の省エネルギー部材として注目されている。熱交換器は、室内と室外からの空気流路、熱交換素子、送風機からなる。この熱交換素子内にて、室内から室外へ排気される空気の「温度」と「湿度」を、室外から室内へ供給される空気に移行させ、室内に戻す構造となっている。熱交換素子の構成は、熱交換素子用シートとコルゲートシートから形成される。その中でも熱交換素子用シートは、熱交換素子の温度交換効率、湿度交換効率、有効換気量率を高めるために熱伝達性、透湿度、気体遮蔽性が求められており、その性能を高める検討が行われている。
【0003】
ここで、熱交換素子用シートとしては、多孔性基材や多孔性シートの片面に、気体遮蔽性を有し水蒸気を透過させ得る親水性樹脂膜を形成したもの(特許文献1参照)が知られている。特許文献1では親水性樹脂膜として非イオン性ポリウレタン-ポリエーテを有する膜を多孔質基材上に設けているが、ポリウレタン-ポリエーテルが水溶性であり、親水性樹脂膜に付着した結露水等に溶け出る問題があるため、ポリウレタン-ポリエーテルを架橋して耐水性を向上させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された熱交換素子用シートは、多孔質基材上に親水性樹脂膜を設けるのにコーティングを行っており、その製造工程において、ポリウレタン-ポリエーテルを溶剤に溶解する工程を伴う。さらに架橋工程では十分に架橋反応を進行させるために時間を要する。以上のことから、特許文献1に記載の熱交換素子用シートの製造方法は、生産性に劣るという課題がある。
【0006】
よって、前記の課題に鑑み、本発明は、生産性に優れるとともに、耐水性、気体遮蔽性および水蒸気透過性を有する熱交換素子用シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、下記の構成からなる。
(1)A層とB層とを有し、前記A層は、熱可塑性エラストマーを主成分とする層であり、前記熱可塑性エラストマーの透湿度は、190g/m2/hr以上であり、前記熱可塑性エラストマーの水浸漬前後での重量減量率は、1%以下であり、前記B層は、多孔質層である、熱交換素子用シートである、
好ましくは、(2)前記熱可塑性エラストマーが、ポリエステルエラストマーである(1)の熱交換素子用シートであり、
好ましくは、(3)前記熱可塑性エラストマーが、ポリアミドエラストマーである(1)の熱交換素子用シートであり、
好ましくは、(4)前記B層が、前記熱可塑性エラストマーを含む(1)~(3)のいずれかの熱交換素子用シートである。
【0008】
また、(5)(1)~(4)のいずれかの熱交換素子用シートの製造方法は、a層およびb層を有する積層体を、2倍以上7倍以下に1軸延伸する工程Iと、前記工程Iにより得られた延伸後の積層体を、熱固定する工程IIとを備え、前記a層は、熱可塑性エラストマーを主成分とする層であり、前記熱可塑性エラストマーの透湿度は、190g/m2/hr以上であり、前記熱可塑性エラストマーの水浸漬前後での重量減量率は、1%以下であり、前記b層は、ポリオレフィンおよび充填剤を含有する層である、熱交換素子用シートの製造方法であることが好ましく、
好ましくは、(6)前記b層が、前記熱可塑性エラストマーを含む(5)の熱交換素子用シートの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、生産性に優れるとともに、耐水性、気体遮蔽性および水蒸気透過性を有する熱交換素子用シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の熱交換素子用シートについて、詳細を説明する。本発明の熱交換素子用シートは、A層とB層とを有する。また、A層は、熱可塑性エラストマーを主成分とする層であり、熱可塑性エラストマーの透湿度は、190g/m2/hr以上であり、さらに、記熱可塑性エラストマーの水浸漬前後での重量減量率は、1%以下である。また、B層は、多孔質層である。
【0011】
このような構成を有する本発明の熱交換素子用熱交換シートは、A層の主成分である熱可塑性エラストマーが、透湿度が190g/m2/hr以上であり、また、B層が多孔質層であるため水蒸気透過性を有する。また、A層の主成分である熱可塑性エラストマーが、水浸漬前後での重量減少率が1%以下であるため、耐水性を有している。以上のことから、熱交換素子用シートの耐水性を優れたものとするのに、前記のような親水性樹脂を架橋する工程を要さず、生産性に優れる。さらに、A層の主成分が熱可塑性エラストマーであるため、A層の主成分となる熱可塑性エラストマーの原料を押出機で加熱し、溶融して口金から吐出して、B層に相当する多孔質材料と押出ラミネートすることにより、熱可塑性エラストマーを主成分とするA層と多孔質材料であるB層を有する熱交換素子用シートとすることができる。この場合、前記の親水性樹脂を溶剤に溶解する工程を必要としないため、生産性に優れたものとなる。また、層Aは、実質的に無孔の層であるため、熱交換素子用シートは、気体遮蔽性を有する。
【0012】
以上のことから、本発明の熱交換素子用シートにおいては、生産性に優れるとともに、耐水性、気体遮蔽性および水蒸気透過性を有する。
【0013】
(熱可塑性エラストマー)
まず、本発明の熱交換素子用シートが有するA層の主成分である熱可塑性エラストマーについて説明する。ここで、熱可塑性エラストマーとは、ハードセグメント相とソフトセグメント相を有することにより、25℃でゴム弾性を有する一方で、一般的な熱可塑性の成形温度領域である100℃~300℃の温度領域ではハードセグメント相に流動性が発現することにより、一般の熱可塑性樹脂と同様の成形加工が可能となる高分子量体のことを指す。また、主成分とは、A層を構成する樹脂の全体を100質量%とした際に、含有量が50質量%を超える成分のことを指すが。A層における熱可塑性エラストマーの好ましい含有量は、後述する熱交換素子用シートの透湿度の観点から、A層を構成する樹脂の全体100質量%に対して、100%質量であることが好ましい。
【0014】
本発明のA層の主成分として用いることができる熱可塑性エラストマーとしては、後述する透湿度を有するものであれば特に制限はないが、例えば、ポリエステル系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、スチレン系エラストマー、およびポリアクリル系エラストマーなどを単独、又は複数組み合わせて用いることができる。中でも後述する透湿性を有するという観点から、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、または、これらの混合物であることが好ましい。
【0015】
透湿性を有するポリウレタン系エラストマーとしては、例えば、短鎖グリコールとジイソシアネートによりなるハードセグメント相と、脂肪族ポリエーテルよりなるソフトセグメント相とを有するブロックポリマーを挙げることができる。このようなポリウレタン系エラストマーとしては、例えば、BASF社製“エラストラン”(登録商標)のOP85A10MHグレード等が挙げられる。
【0016】
透湿性を有するポリエステル系エラストマーとしては、例えば、芳香族ポリエステルをハードセグメント相とし、脂肪族ポリエーテルをソフトセグメント相とするブロック共重合体を挙げることができ、ハンドリング性と後述する透湿性の両立の観点から、ソフトセグメント相の脂肪族ポリエーテルがポリプロピレングリコールであるものが好ましい。このようなポリエステル系エラストマーとしては、例えば、東レ・デュポン社製の“ハイトレル”(登録商標)のG3548やHTR8206グレード等が挙げられる。
【0017】
透湿性を有するポリアミド系エラストマーとしては、例えば、6-ナイロンをハードセグメント相とし、脂肪族ポリエーテルをソフトセグメント相とするブロック共重合体や、12-ナイロンをハードセグメント相とし脂肪族ポリエーテルをソフトセグメント相とするブロック共重合体が挙げられる。このようなポリアミド系エラストマーとしては、例えば、アルケマ社製の“PEBAX”(登録商標)のMV1074、MV1041、MV3000、MH1657グレード等が挙げられる。
【0018】
(熱可塑性エラストマーの透湿度)
本発明の熱交換素子用シートのA層の主成分である熱可塑性エラストマーは、その透湿度が190g/m2/hr以上である。熱可塑性エラストマーの透湿度は、熱交換素子用シートの透湿度と相関がある。さらに、熱交換素子用シートの透湿性は、その熱交換素子用シートを熱交換素子に用いたときに、その熱交換素子の湿度交換効率と相関がある。すなわち、熱交換素子用シートの透湿性が高くなればなるほど、それを用いた熱交換素子の湿度交換効率が高くなる。そのため熱可塑性エラストマーの透湿度も高いほうが好ましく、220g/m2/hr以上が好ましい。熱可塑性エラストマーの透湿度は前記の適切な種類の熱可塑性エラストマーを選択することで、調整することができる。
【0019】
(熱可塑性エラストマーの水浸漬前後での重量減少率)
本発明の熱交換素子用シートのA層の主成分である熱可塑性エラストマーは、その水浸漬前後での重量変化率が1%以下である。このような熱可塑性エラストマーを主成分とすることにより、A層が実質的に水に不溶となり本発明の熱交換素子用シートを熱交換素子に用いた際に、結露水等でA層の成分が溶出してしまう現象を抑制することができる。熱可塑性エラストマーの水浸漬前後での重量減少率は、適切な種類の熱可塑性エラストマーを選択することで調整することができる。
【0020】
(A層の厚さ)
本発明の熱交換素子用シートのA層の厚さは、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下であり、一方、好ましくは1μm以上である。A層の厚さを5μm以下とすることで熱交換素子用シートの熱および湿度の交換効率を向上させることができる。またA層の厚さを1μm以上とすることにより、A層中のピンホール等の欠陥の発生を抑制でき、気体遮蔽性により優れる熱交換素子用シートとすることができる。
【0021】
(多孔質層)
続いて、本発明の熱交換素子用シートが有するB層を構成する多孔質層について説明する。多孔質層は微細な貫通孔を多数有し、そのため通気性や透湿性を有している。高湿度環境での強度低下が少ないことや薄膜化しやすいことから多孔質層の原料としては高分子樹脂が好適に用いられる。多孔質層を構成する高分子樹脂としてはポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、フッ素系樹脂などいずれでも構わないが、生産コスト、入手し易さなどの観点からポリオレフィンが好ましい。前記ポリオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチルペンテン-1、3-メチル-1-ブテン、などの単独重合体や、これらの単量体成分からなる群から選ばれる少なくとも2種の共重合体などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0022】
また、本発明の熱交換素子用シートが有するB層を構成する多孔質層は、更に、前記熱可塑性エラストマーを含むことが好ましい。多孔質層が前記熱可塑性エラストマーを含んでいることにより、本発明の熱交換素子用シートにおいてA層とB層の密着性が向上し、結果として、A層とB層の剥離の発生が抑制される。多孔質層が前記熱可塑性エラストマーを含有する場合、その含有量は、前記の透湿度とのバランスの観点から多孔質層の樹脂の全体100質量%に対して、5質量~20%質量が好ましく、5~15質量%がより好ましい。
【0023】
また、本発明の熱交換素子用シートのB層を構成する多孔質層は、本発明の効果を損なわない範囲において、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、中和剤、帯電防止剤や有機粒子からなる滑剤、さらにはブロッキング防止剤や充填剤などの各種添加剤を含有していてもよい。
【0024】
本発明の熱交換素子用シートのB層を構成する多孔質層の厚さ、すなわちB層の厚さは、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下であり、一方、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上である。多孔質層の厚さを50μm以下とすることで熱交換素子用シートの熱および湿度の交換効率を向上させることができる。また、多孔質層の厚さを2μm以上としてコシを持たせることにより、その多孔質層を用いた熱交換素子用シートのハンドリング性を向上でき、熱交換素子用シートの生産性がより優れたものとなる。
【0025】
本発明の熱交換素子用シートが有するB層を構成する多孔質層の空孔率は、多孔質層の透湿性が向上し、結果的に熱交換素子用シートの透湿度も向上するという観点から、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上である一方、空孔率が大きくなりすぎると強度低下が起こり、熱交換素子用シートとした際のハンドリング性が悪化するという観点から、好ましくは70%以下、より好ましくは50%以下である。
【0026】
(熱交換素子用シートの製造方法)
続いて、本発明の熱交換素子用シートを製造する方法について具体的に説明するが、本発明の熱交換素子用シートの製造方法は下記のものに限定されるものではない。本発明の熱交換素子用シートの製造方法として押出ラミネートを行う場合、まず透湿度が190g/m2/hrであり、かつ、水浸漬前後での重量減量率が1%以下である熱可塑性エラストマーの原料を押出機に投入して、この熱可塑性エラストマーの融点または軟化点以上の温度に加熱し、溶融した後に、口金からフィルム状に吐出するとともに、別途準備した多孔質材料とラミネートすることにより、本発明の熱交換素子用シートを得ることができる。この時、A層とB層の密着性を向上させる観点から、あらかじめ多孔質材料にコロナ処理、プラズマ処理等の表面活性化処理を行ってもよい。
【0027】
上記の製造方法において、本発明のA層の厚さを、上述した好ましい範囲である1μm以上、5μm以下としようとした場合に、熱可塑性エラストマーの溶融物を押出機の口金からフィルム状に吐出し得られるフィルムの厚さも同様の厚さとする必要があるが、このフィルムが薄すぎるためハンドリングが難しい場合がある。そのような場合は2台の押出機を用いて、上記の熱可塑性エラストマー原料と、上記の熱可塑性エラストマー原料と相溶性の低い原料(以下、相溶性の低い原料と称することがある)を共押出して、それぞれの原料を主成分とする層を有する積層体として口金から吐出して、上記の相溶性の低い原料を主成分とする層の厚さ分だけ、積層体の全体の厚さを、かさ増ししてもよい。こうして得られた積層体を、別途準備した多孔質材料と、左記の積層体における前記熱可塑性エラストマー原料を主成分とする層が接するように押出ラミネートした後、前記熱可塑性エラストマー原料と相溶性の低い原料を主成分とする層を剥離除去することで、本発明の熱交換素子用シートを得ることができる。
【0028】
この場合、上記の積層体における前記熱可塑性エラストマー原料と相溶性の低い原料を主成分とする層の厚みは、ハンドリング性と原料コストの観点から10μm以上が好ましい、一方で、50μm以下が好ましい。
【0029】
また、本発明の熱交換素子用シートは、B層がポリオレフィンと充填剤を含む組成物を延伸することによって得られる多孔質層である場合、次のような方法でも製造することができる。すなわち、2台の押出機を用いて、一方の押出機には透湿度が190g/m2/hr以上で、水浸漬前後での重量減量率が1%以下である熱可塑性エラストマーの原料を投入するとともに、もう一方の押出機にはポリオレフィンと充填剤を投入して、それらを一つの口金から共押出することで、透湿度が190g/m2/hr以上で、水浸漬前後での重量減量率が1%以下である熱可塑性エラストマーを主成分とするa層と、ポリオレフィンと充填剤を有するb層からなる積層体を得た後、その積層体を2~7倍に1軸延伸して、さらに熱固定する。このような工程を有することで、a層とb層をそれぞれ、本発明の熱交換素子用シートが有するA層とB層にすることができ、本発明の熱交換素子用シートを得ることができる。
【0030】
上記の製造方法における充填剤の種類は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、酸化亜鉛、マイカ、タルク、カオリン、クレー、及びモンモリロナイト等を用いることができるが、コストや後述する多孔質化の観点から、炭酸カルシウムを用いることが好ましい。また、b層に含まれる充填剤の含有量は、B層の空孔率を前記の好ましい範囲とする観点から、b層またはB層に含まれる樹脂の全体100質量部に対して、50質量部以上である一方、150質量部以下であることが好ましい。
【0031】
また、上記の充填剤の平均粒径は、B層の空孔率を前記の好ましい範囲とする観点から、1μm以上である一方、空孔形成が促進されすぎると熱交換素子用シートの強度が低下してしまう観点から10.0μm以下であることが好ましい。
【0032】
上記の製造方法における延伸の工程では、a層とb層を有する積層体を2倍以上7倍以下に1軸延伸する。このような態様とすることにより、延伸時にb層中のポリオレフィンと充填剤の界面剥離が起こり、結果としてb層中に空孔が形成され、結果的にb層を多孔質層であるB層とすることができる。延伸倍率は、空孔を形成する観点から、3倍以上が好ましい一方、機械的強度を維持する観点から5倍以下が好ましい。
【0033】
延伸の工程における温度は、本発明の積層体を構成する樹脂等に応じて適宜調整することができるが、本発明のA層が熱可塑性エラストマーを主成分である樹脂組成であり、一般的に熱可塑性エラストマーは25℃でゴム弾性を発現することを考慮すると、25℃近傍での延伸が好ましく、具体的には、延伸温度を20℃以上40℃以下とすることが好ましい。なお、ここで延伸温度とは、後述するロールの周速差を利用した延伸方式を採用している場合は、延伸区間を形成するロールのうち、繰り出し側に最も近い位置に配置されたロールの表面温度をいう。
【0034】
また、1軸延伸の方式は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、公知の方法から適宜最適な方法を選択することができるが、ロールの周速差を利用することで搬送方向に延伸を行う縦1軸延伸が汎用性の面で好ましい。この延伸方式を用いる場合、本発明の効果を損なわない限り、延伸区間が1箇所である1段延伸、延伸区間が複数箇所である多段延伸のいずれを採用してもよい。なお、多段延伸を採用する場合の延伸倍率は、全ステップにおける延伸倍率の合計を延伸倍率とする。
【0035】
上記の製造方法では、延伸で形成されたB層の空孔が、延伸後の残留応力による収縮で消失してしまうことを抑制するために、積層体の熱固定を行う。熱固定の温度は残留応力を除去する観点から、延伸温度以上が好ましい一方、過剰に高温とすると積層体の融解による搬送ロールへの粘着やフィルム切れが起こる観点から、B層の主成分の融点-20℃以下であることが好ましい。
【0036】
また、上記の製造方法において、b層は、熱可塑性エラストマーを含むものであることが好ましい。b層が熱可塑性エラストマーを含むことで、B層も熱可塑性エラストマーを含むこととなる。そうすると、上述のとおり、本発明の熱交換素子用シートにおけるA層とB層との接着性がより優れたものとなり、A層とB層の剥離の発生を抑制することができる。
【0037】
熱処理は、本発明の効果を損なわない限り、加熱ロール伝いに行っても、テンター等のオーブンで行ってもよい。熱処理温度とは、加熱ロール伝いに熱処理を行う場合は加熱ロールの表面温度をいい、オーブンで行う場合はオーブンの室温をいう。
【実施例0038】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0039】
[測定および評価方法]
(1)A層およびB層の組成の分析方法
赤外分光測定と核磁気共鳴測定により、得られた構造情報を元にA層およびB層の組成を分析した。赤外分光測定は、具体的には、フーリエ変換赤外分光光度計「IR Prestige-21(株式会社島津製作所製)を用いてA層側およびB層側のそれぞれの赤外吸収スペクトルを測定し、観測された吸収ピークからそれぞれの層の組成に関する情報を採取した。赤外分光測定の測定条件は以下の通りである。
【0040】
・ユニット: ATR法ユニット(MIRacleA)
・測定波数: 400~4000cm-1
・積算回数: 20回
また核磁気共鳴測定に際しては、熱交換素子用シートに対してコールドスプレーを30秒以上噴射して、熱可塑性エラストマーの脆化が起こる温度域まで冷却してA層とB層の相関密着力を弱めてからA層とB層を剥離した後、それぞれを測定溶媒である重溶媒に溶解し核磁気共鳴測定を行った。核磁気共鳴測定の測定条件は以下の通りである。
【0041】
・装置:日本電子株式会社製 AL-400
・重溶媒:測定成分が熱可塑性エラストマーである場合は、重水素化クロロホルムを用いた。また測定成分がポリオレフィンである場合には重水素化オルトジクロロベンゼンを用いた。
【0042】
・積算回数:128回
(2)熱可塑性エラストマーの透湿度
JIS L1099(2012)に基づきA1法(カップ法)により測定した。具体的には、まず熱可塑性エラストマーを加熱・溶融して熱プレスすることにより、厚さ10μmで10cm角サイズのフィルム状の試験片を作製した。続いて直径60mmで深さ25mmの透湿度測定用カップに水分測定用塩化カルシウム(和光純薬工業製)を充填し、その上から試験片を設置して温度40℃、湿度90%RHに設定した恒温恒湿槽内に静置し、1時間後および2時間後の試験片、塩化カルシウム、カップを併せた重量(それぞれT1(g)、T2(g)とする)を測定し、下記式により透湿度を求め、5枚の平均値を透湿度(g/m2/hr)とした。
【0043】
透湿度(g/m2/hr)=(T2-T1)/0.002827
なお、熱交換素子用シートにおける熱可塑性エラストマーの透湿度を確認する場合は、クロロホルムやテトラヒドロフラン等の、熱可塑性エラストマーのみを溶解可能な有機溶剤を用いて、熱交換素子用シートをソックスレー抽出法にかけ、熱可塑性エラストマーを溶解した有機溶媒を得た後、有機溶媒を加熱除去して熱可塑性エラストマーを分離し、得られた熱可塑性エラストマーの透湿度を評価した。
【0044】
(3)熱交換素子用シートの透湿度
JIS Z0208(1976)に基づきカップ法により測定した。具体的には、熱交換素子用シートをカットして10cm角サイズの試験片とした以外は、(1)熱可塑性エラストマーの透湿度と同様にして水分測定用塩化カルシウム(和光純薬工業製)を充填した透湿度測定用カップに試験片を設置して重量(T0(g)とする)を測定した後、温度20℃、湿度65%RHに設定した恒温恒湿槽内に静置し、5時間後の試験片、塩化カルシウム、カップを併せた重量(それぞれT5(g)とする)を測定し、下記式により透湿度を求め、5枚の平均値を透湿度(g/m2/hr)とした。
【0045】
透湿度(g/m2/hr)=(T5-T0)/0.002827/5
熱交換素子用シートの透湿度は、50g/m2/hr以上であれば、熱交換素子とした際に実用的な湿度交換効率を有するものとすることができる。
【0046】
(4)熱可塑性エラストマーの水浸漬前後での重量減少率
熱可塑性エラストマーの原料の試験片を50℃に調整したオーブンで24時間乾燥させた後、デシケーターに投入し、室温まで冷却し、冷却後の試験片の重量(T1)を測定した。続いて、その試験片を20℃の蒸留水に24時間浸漬した後、取り出し、再び50℃に調整したオーブンで24時間乾燥させた後、デシケーターに投入し、室温まで冷却し、冷却後の試験片の重量(T2)を測定した。得られたT1とT2を用いて、下記式により、水浸漬前後での重量減少率を算出した。
重量減少率(%)=(T1-T2)/T1×100
なお、熱交換素子用シートにおける熱可塑性エラストマーの水浸漬前後での重量減少率を確認する場合は、クロロホルムやテトラヒドロフラン等の、熱可塑性エラストマーのみを溶解可能な有機溶剤を用いて、熱交換素子用シートをソックスレー抽出法にかけ、熱可塑性エラストマーを溶解した有機溶媒を得た後、有機溶媒を加熱除去して熱可塑性エラストマーを分離し、得られた熱可塑性エラストマーの水浸漬前後での重量減少率を評価した。
【0047】
(5)熱交換素子用シートの気体遮蔽性
熱交換素子用シートの気体遮蔽性はJIS P8117(1998)透気度(ガーレ試験機法)に基づき、透気度として測定した。具体的には100mm角サイズにカットした試験片(熱交換素子用シート)5枚を温度20℃、湿度65%RHで24hr放置後、同温湿度の環境下で、各試験片についてガーレ式デンソメータ(型式G-B3C、(株)東洋精機製作所)で、空気100mlが通過する時間を測定し、5枚の平均値を透気度(秒/100ml)とした。なお、熱交換素子用シートは、熱交換素子用シートを介して室内から室外へ排気される空気の「温度」と「湿度」を、室外から室内へ供給される空気に移行させ、室内に戻すという役割を担っている観点から、高い気体遮蔽性が必要とされており、その観点から熱交換素子用シートの気体遮蔽性(すなわち、透気度)は、40000秒/100mlより大きい値を満足とすることが好ましい。
【0048】
(6)熱交換素子用シート、A層およびB層の厚さ
ウルトラミクロトームを用いて熱交換素子用シートの長手方向-厚み方向の断面出しを行った。続いて走査型電子顕微鏡((株)日立ハイテクノロジーズ社製 S-3400N)を用いて倍率500倍~1,500倍でえら得た断面の写真を撮影し、顕微鏡の測長機能を用いて熱交換素子用シートのA層及びB層の厚さを測定した。測定は、観察箇所を変えて10回行い、A層およびB層について得られた値の平均値をそれぞれA層およびB層の厚さ(μm)とした。
【0049】
(7)B層の空孔率
電子顕微鏡で熱交換素子用シートの断面観察を行うとともに、画像解析においてB層における空孔部分とB層の空孔以外の部分を2値化する方法により空孔率を求めた。具体的には、以下の手順で空孔率を求めた。先ず、「(6)熱交換素子用シート、A層およびB層の厚さ」の項で記載した方法と同様に長手方向-厚み方向の断面出しを行い、走査型電子顕微鏡を用いて倍率1,000倍で観察、断面写真を得た。続いて、画像解析ソフトImageJ(1.47V)(アメリカ国立衛生研究所)を利用して、断面写真を8ビット画像として読み込み、自動二値化処理を行い、空孔部分と非空孔部分とを色分けした。得られた画像より、各層について空孔部分と非空孔部分のピクセル数の和に対する空孔部分のピクセル数の割合を計算し、B層の空孔率(%)を算出した。なお、測定は3回行い、得られた値の平均値をB層の空孔率(%)とした。
【0050】
(8)A層とB層の剥離強度
恒温槽を備えたオリエンテック社製“TENSILON”(登録商標)UCT-100を用いて、温度23℃の環境下でA層とB層の剥離強度(gf/15mm)を測定した。
【0051】
具体的には、熱交換素子用シートのA層側にセロハン粘着テープ(商品名:“セロテープ”(登録商標)LP-15、ニチバン(株)製)を貼りつけ、150mm(長手方向)×15mm(幅方向)の短冊状に切り出し、片方のチャックにセロテープおよびA層、他方のチャックにB層をセットし、引張速度200mm/分で、剥離試験を行った。剥離力曲線において、剥離開始後の上限値と下限値を読み取りその平均値(A)を算出した。同様の測定を3回行い、得られた3つの平均値(A)の平均値を、A層とB層の剥離強度とした。A層とB層の密着が強固であり、A層を剥離評価できない場合は、A層とB層の剥離強度が200gf/15mm以上であるとみなした。
【0052】
(9)充填剤の平均粒径
JIS Z8825(2013)に基づき測定した。具体的には、日機装(株)製マイクロトラックMT3300を用いて、充填剤の粒度分布をレーザー回折散乱法により測定し、得られた粒度分布曲線における体積累計50%の粒径を平均粒径とした。
【0053】
(10)B層の主成分の融点
B層の主成分となる原料から試料5mgを採取し、示差走査熱量分析装置DSCII型(Seiko Instrument(株)製)を用いて、20℃から250℃まで昇温速度20℃/分で昇温し昇温過程において観測される融解ピークの値を融点として読み取った。なお融解ピークが複数観測された場合は、最も高い温度を融点とした。
【0054】
(実施例1)
スクリュー径60mm、シリンダ温度250℃の単軸押出機にA層の主成分となる熱可塑性エラストマー原料として、ポリエステル系エラストマー(商品名:“ハイトレル”(登録商標)HTR8206、東レ・デュポン(株)製)を投入するとともに、もう一台のスクリュー径60mm、シリンダ温度230℃の単軸押出機にポリプロピレン(商品名:“ノーブレン”(登録商標)AD571、住友化学(株)製)を投入し、この2種類の溶融混練組成物をギアポンプを用いて吐出比がポリエステル系エラストマー組成物/ポリプロピレン組成物=1/5となるようにしフィードブロックにて積層・合流させた。次いで幅400mm、リップ間隙1mmの温度を230℃に設定したTダイ口金よりフィルム状に吐出させ、別途準備したポリエチレン製多孔質フィルム(厚さ12μm、空孔率43%、250W/m2/minでのコロナ処理により表面を活性化したもの)と押出ラミネートすることにより、ポリプロピレンを主成分とする層/ポリエステル系エラストマーを主成分とする層/ポリエチレン製多孔質フィルムからなる多孔質層の3層構成を有する積層体を得た。この積層体の各層の厚さはそれぞれ10μm/3μm/12μmであった。次いで、この積層体からポリプロピレンを主成分とする層を剥離することにより、ポリエステル系エラストマーを主成分とする層と、多孔質層を有する熱交換素子用シートを得た。得られた熱交換素子用シートの物性を表1に示す。
【0055】
(実施例2)
A層の主成分となる熱可塑性エラストマー原料として、ポリウレタン系エラストマー(商品名:“エラストラン”(登録商標)OP85A10MHグレード、BASF(株)社製)を用い、ポリウレタン系エラストマーを投入する押出機のシリンダ温度を230℃とした以外は、実施例1と同様の方法で熱交換素子用シートを作製した。作製の過程で得られたポリプロピレンを主成分とする層/ポリウレタン系エラストマーを主成分とする層/ポリエチレン製多孔質フィルムからなる多孔質層の3層構成を有する積層体の各層の厚さは、それぞれ10μm/3μm/12μmであった。得られた熱交換素子用シートの物性を表1に示す。
【0056】
(実施例3)
A層の主成分となる熱可塑性エラストマー原料として、ポリアミド系エラストマー(商品名:“PEBAX”(登録商標)MH1657,アルケマ(株)製)を用い、実施例1と同様の方法で熱交換素子用シートを作製した。作製の過程で得られたポリプロピレンを主成分とする層/ポリアミド系エラストマーを主成分とする層/ポリエチレン製多孔質フィルムからなる多孔質層の3層構成を有する積層体の各層の厚さは、それぞれ10μm/3μm/12μmであった。得られた熱交換素子用シートの物性を表1に示す。
【0057】
(実施例4)
A層の主成分となる熱可塑性エラストマー原料として、ポリエステル系エラストマー(商品名:“ハイトレル”(登録商標)G3548、東レ・デュポン(株)製)を用い、ポリエステル系エラストマーを投入する押出機のシリンダ温度を230℃とした以外は、実施例1と同様の方法で熱交換素子用シートを作製した。作製の過程で得られたポリプロピレンを主成分とする層/ポリエステル系エラストマーを主成分とする層/ポリエチレン製多孔質フィルムからなる多孔質層の3層構成を有する積層体の各層の厚さは、それぞれ10μm/3μm/12μmであった。得られた熱交換素子用シートの物性を表1に示す。
【0058】
(比較例1)
A層の主成分となる熱可塑性エラストマー原料として、芳香族ポリエステルとポリテトラメチレングリコールのブロック共重合体であるポリエステル系エラストマー(商品名:“ハイトレル”(登録商標)3046、東レ・デュポン(株)社製)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で熱交換素子用シートを作製した。作製の過程で得られたポリプロピレンを主成分とする層/ポリエステル系エラストマーを主成分とする層/ポリエチレン製多孔質フィルムからなる多孔質層の3層構成を有する積層体の各層の厚さは、それぞれ10μm/3μm/12μmであった。得られた熱交換素子用シートの物性を表1に示す。
【0059】
(比較例2)
A層の主成分となる熱可塑性エラストマー原料として、ポリウレタン系エラストマー(商品名:“エラストラン”(登録商標)ET885FGグレード、BASF(株)社製)を用い、ポリウレタン系エラストマーを投入する押出機のシリンダ温度を230℃とした以外は、を用いた以外は、実施例1と同様の方法で熱交換素子用シートを作製した。作製の過程で得られたポリプロピレンを主成分とする層/ポリウレタン系エラストマーを主成分とする層/ポリエチレン製多孔質フィルムからなる多孔質層の3層構成を有する積層体の各層の厚さは、それぞれ10μm/3μm/12μmであった。得られた熱交換素子用シートの物性を表1に示す。
【0060】
(実施例5)
ポリオレフィンとして低密度ポリエチレン(商品名:“スミカセン”(登録商標)F200、住友化学(株)製)100質量部と充填材として炭酸カルシウム(商品名:“ソフトン” (登録商標)1800、平均粒径2.8μm、備北粉化(株)製)を低密度ポリエチレン全100質量部に対して65質量部をシリンダ温度190℃のスクリュー径44mmの真空ベント付二軸押出機に供給して溶融混練し、均質化した後にペレット化して低密度ポリエチレン・炭酸カルシウムの組成物を得た。この組成物のペレットを、回転式ドラム型真空乾燥機を用いて、温度100℃で5時間真空乾燥した。真空乾燥した組成物のペレットをシリンダ温度230℃、スクリュー径60mmの単軸押出機に投入するとともに、もう一台のスクリュー径60mm、シリンダ温度250℃の単軸押出機に熱可塑性エラストマー原料として、ポリエステル系エラストマー(商品名:“ハイトレル”(登録商標)HTR8206、東レ・デュポン(株)製)を投入し、この2種類の溶融混練組成物をギアポンプを用いて吐出比:ポリエステル系エラストマー組成物/低密度ポリエチレン・炭酸カルシウム組成物=1/10でフィードブロックにて積層するように合流させた。
【0061】
次いで幅400mm、リップ間隙1mmの温度を230℃に設定したTダイ口金よりフィルム状に吐出させて10℃に冷却したキャストドラム上で冷却固化することにより、ポリエステル系エラストマーを主成分とするa層と、ポリオレフィンと充填材を有するb層からなる積層体を得た。この積層体の各層の厚さは表2の通りであった。
【0062】
続いて、この積層体をロール式延伸機にて延伸区間の入り側ロールと出側ロールの周速を変化させることで、延伸温度25℃で長手方向に3倍に延伸した。さらに延伸後の収縮が起こらないように、延伸出側ロールと同じ周速の80℃に加熱したロール上で1秒間熱処理した後、冷却ロール上で冷却することにより、a層とb層をそれぞれ、透湿性の熱可塑性エラストマーを主成分とするA層と多孔質層であるB層として、A層とB層を有する熱交換素子用シートを得た。得られたフィルムの物性及び評価結果を表2に示す。
【0063】
(実施例6)
実施例5においてb層原料の樹脂成分を低密度ポリエチレン(商品名:“スミカセン”(登録商標)F200、住友化学(株)製)90質量%、ポリエステル系エラストマー(商品名:“ハイトレル”(登録商標)HTR8206、東レ・デュポン(株)製)10質量%とするとともに、充填材として炭酸カルシウム(商品名:“ソフトン” (登録商標)1800、平均粒径2.8μm、備北粉化(株)製)を樹脂全100質量部に対して65質量部とした以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル系エラストマーを主成分とするa層と、ポリエチレンと充填材および前記のポリエステル系エラストマーを有するb層からなる積層体を得るとともに、実施例4と同様の方法で延伸・熱固定を行い、a層とb層をそれぞれ、透湿性の熱可塑性エラストマーを主成分とするA層と多孔質層であるB層として、A層とB層を有する熱交換素子用シートを得た。得られたフィルムの物性及び評価結果を表2に示す。
【0064】
実施例に記載の通り、本発明の熱交換素子用熱交換シートのA層の主成分である、熱可塑性エラストマーは、水浸漬前後での重量減少率が1%以下であるため、耐水性を有しており、従って特許文献1のような親水性樹脂を架橋する工程を要さず、生産性に優れる。
【0065】
さらにA層の主成分が熱可塑性エラストマーであるため、A層の主成分となる熱可塑性エラストマー原料を押出機で加熱・溶融して口金から吐出することで多孔質層であるB層上に、A層を形成することが可能であり、この場合、特許文献1のように親水性樹脂を溶剤に溶解する工程を必要としないため、生産性に優れたものとなる。
【0066】
以上のことから、本発明の熱交換素子用シートにおいては、生産性に優れるとともに、耐水性・気体遮蔽性・水蒸気透過性を有するものとすることができるのである。
【0067】
【0068】