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  • 特開-積層造形方法 図1
  • 特開-積層造形方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020768
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】積層造形方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 10/366 20210101AFI20240207BHJP
   B22F 10/36 20210101ALI20240207BHJP
   B22F 9/08 20060101ALI20240207BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240207BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240207BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20240207BHJP
【FI】
B22F10/366
B22F10/36
B22F9/08 A
B33Y10/00
B33Y70/00
B22F1/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123197
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000231855
【氏名又は名称】日本鋳造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099944
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 宏志
(72)【発明者】
【氏名】蓮見 侑士
(72)【発明者】
【氏名】半田 卓雄
(72)【発明者】
【氏名】大山 伸幸
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA02
4K017BA03
4K017BA04
4K017BA06
4K017CA07
4K017FA17
4K018AA07
4K018AA24
4K018AA40
4K018BB04
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
4K018KA63
(57)【要約】
【課題】粉末の性状にかかわらず高密度の造形体を製造することができる積層造形方法を提供する。
【解決手段】粉末をレーザーにより溶融させて積層造形する積層造形方法は、粉末の真密度ρ(g/cm)と嵩密度ρ´(g/cm)の比ρ/ρ´と、粉末の融点および比熱に依存する材料係数Aとを用いた以下の(1)式の造形条件で積層造形を行う。
0.5A(ρ/ρ´)≦P/(v×d×h)≦1.5A(ρ/ρ´) …(1)
ただし、P:レーザー出力(W)、v:レーザー走査速度(mm/s)、d:レーザー走査ピッチ(mm)、h:積層ピッチ(mm)である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末をレーザーにより溶融させて積層造形する積層造形方法であって、
粉末の真密度ρ(g/cm)と嵩密度ρ´(g/cm)の比ρ/ρ´と、前記粉末の融点および比熱に依存する材料係数Aとを用いた以下の(1)式の造形条件で積層造形を行うことを特徴とする積層造形方法。
0.5A(ρ/ρ´)≦P/(v×d×h)≦1.5A(ρ/ρ´) …(1)
ただし、P:レーザー出力(W)、v:レーザー走査速度(mm/s)、d:レーザー走査ピッチ(mm)、h:積層ピッチ(mm)である。
【請求項2】
前記粉末の粒子の直径が0.2mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の積層造形方法。
【請求項3】
前記粉末は、水アトマイズ法で製造された粉末であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の積層造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、粉末第1層を目標表面に分与した後、その部分にレーザービームを選択的に照射し、エネルギーを与えて焼結させ、粉末第1層上に粉末第2層を分与して、同様にレーザービームを照射して焼結させ、このような操作を必要な回数だけ連続的に行って積層造形する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平1-502890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたような積層造形技術では、用いる粉末の性状によっては、与えられた積層造形条件で高密度の造形体を得ることが困難になる場合がある。
【0005】
本発明は、粉末の性状にかかわらず高密度の造形体を製造することができる積層造形方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、粉末の性状にかかわらず高密度の造形体を製造することができる積層造形方法を得るべく検討を重ねた。その結果、粉末の真密度と嵩密度との比に応じて造形条件を決定することが有効なことを見出した。
【0007】
本発明はこのような知見に基づいて完成されたものであり、以下の手段を提供する。
【0008】
(1)粉末をレーザーにより溶融させて積層造形する積層造形方法であって、
粉末の真密度ρ(g/cm)と嵩密度ρ´(g/cm)の比ρ/ρ´と、前記粉末の融点および比熱に依存する材料係数Aとを用いた以下の(1)式の造形条件で積層造形を行うことを特徴とする積層造形方法。
0.5A(ρ/ρ´)≦P/(v×d×h)≦1.5A(ρ/ρ´) …(1)
ただし、P:レーザー出力(W)、v:レーザー走査速度(mm/s)、d:レーザー走査ピッチ(mm)、h:積層ピッチ(mm)である。
【0009】
(2)前記粉末の粒子の直径が0.2mm以下であることを特徴とする(1)に記載の積層造形方法。
【0010】
(3)前記粉末は、水アトマイズ法で製造された粉末であることを特徴とする(1)または(2)に記載の積層造形方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、粉末の性状にかかわらず高密度の造形体を製造することができる積層造形方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ガスアトマイズ粉末により形成された粉末の粒形状を示す写真である。
図2】水アトマイズ粉末により形成された粉末の粒形状を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態においては、粉末を積層造形することにより所望の形状の造形体を形成する。積層造形を行うための粉末としては、形成しようとする部材に応じて適宜の材料を選択する。典型的には、粉末として金属粉末を用いて造形体を形成することができる。金属粉末としては、例えば、鉄基合金、Ni基合金、Cr基合金等を挙げることができる。
【0014】
積層造形は、粉末第1層を目標表面に形成した後、その部分にレーザーを選択的に照射し、エネルギーを与えて溶融させ、溶融した第1層上に粉末第2層を形成して、同様にレーザーを照射して溶融させ、このような操作を必要な回数だけ連続的に行い造形体を形成する。
【0015】
このときの造形条件としては、レーザー出力P(W)、レーザー走査速度v(mm/s)、レーザー走査ピッチd(mm)、積層ピッチh(mm)を挙げることができる。レーザー出力Pを大きくすることにより粉末に供給されるエネルギーは大きくなる。このとき、実際に単位体積の粉末に供給されるエネルギーは、P/(v×d×h)となる。
【0016】
粉末に関しては、積層造形には、従来から、一般的にガスアトマイズ粉末が用いられてきた。ガスアトマイズ粉末は、溶融した金属を滴下し、滴下した溶融金属にノズルから不活性ガス(例えばArガス)を吹き付けて噴霧することにより粉末を形成するものであり、粉末の粒形状は、図1に示すように、球形に近いものとなる。
【0017】
一方、より安価に製造可能な粉末としては、水アトマイズ粉末が知られている。水アトマイズ粉末は、滴下した溶融金属に水を吹き付けて噴霧することにより粉末を形成するものである。しかし、水アトマイズ粉末の粒形状は、図2に示すように、ガスアトマイズ粉末とは異なり、いびつな形状である。このような水アトマイズ粉末を用いて積層造形する場合には、ガスアトマイズ粉末を用いて積層造形する際の造形条件で積層造形しても、得られた造形体の密度は低いものとなってしまう。
【0018】
このように水アトマイズ粉末を用いた積層造形により高密度の造形体が得られない原因を検討した結果、水アトマイズ粉末では、粉末形状がいびつであるため、粉末の嵩密度がガスアトマイズ粉末より低いことに起因しているとの結論を得た。
【0019】
すなわち、粉末を用いて積層造形を行う場合には、粉末の真密度ρ(g/cm)と嵩密度ρ´(g/cm)の比ρ/ρ´が積層造形の際の重要なパラメータとなり、ρ/ρ´が大きいほど、つまりρ´が小さいほど積層造形の際に必要なエネルギーが大きくなる。また、単位体積当たりの粉末を溶融するに必要なエネルギーは、粉末の融点および比熱によって異なるため、粉末の融点および比熱に依存する係数である材料係数Aによっても変化する。材料係数Aは、比熱c(J/kg/K)、融点m(K)、融解熱q(kJ/mol)分子量MW(g/mol)吸収率a、熱伝導率λ(W/m/K)とした場合に、例えば、以下の式で算出することができる。ただし、材料係数Aは、以下の式に限定されない。
A=a(5.2×(c×m/ρ/10+q×ρ/MW)+1.3λ)
【0020】
そして、単位体積あたりの粉末に供給されるエネルギーであるP/(v×d×h)の値と、真密度と嵩密度の比ρ/ρ´および単位体積当たりの粉末を溶融するに必要なエネルギーに関係する材料係数Aとが、以下の(1)式の関係を満たすことにより、積層造形して得られた造形体の密度が真密度の95%以上の高密度となる。
0.5A(ρ/ρ´)≦P/(v×d×h)≦1.5A(ρ/ρ´) …(1)
【0021】
上記(1)式において、P/(v×d×h)が0.5A(ρ/ρ´)未満になると粉末が十分に溶融せず、P/(v×d×h)が1.5A(ρ/ρ´)を超えると粉末に与えられるエネルギーが過剰となり、いずれも真密度の95%以上の高密度が得られない。P/(v×d×h)の値を上記(1)式の範囲内とすることにより、所望の溶融状態となり、造形体の密度を真密度の95%以上とすることができる。
【0022】
本発明において、粉末の粒子の直径が0.2mm以下であることが好ましい。これにより、粉末の敷設性が良好となり、造形不良が発生しにくくなる。
【0023】
上記(1)式を満たすように積層造形を行うことにより、粉末の形状を問わず高密度の造形体を得ることができ、従来、高密度の積層造形を行うことが困難であった水アトマイズ法で製造された粉末の場合でも、高密度の積層造形体を得ることができる。
【実施例0024】
次に、実施例について説明する。
ここでは、粉末材料としてFe-Ni系合金(真密度8.10g/cm)と、Cr-Fe系合金(真密度7.20g・cm)とを用い、これらについてガスアトマイズ粉末および水アトマイズ粉末を作製して、種々の造形条件で積層造形を行い、造形体の密度を求めた。その際の粉末条件、造形条件、造形体の密度を表1に示す。造形条件としては、上記式(1)に示したレーザー出力P(W)、レーザー走査速度v(mm/s)、レーザー走査ピッチd(mm)、積層ピッチh(mm)を用いた。また、粉末の融点および比熱に依存する材料係数Aとしては、上述したように、比熱c(J/kg/K)、融点m(K)、融解熱q(kJ/mol)分子量MW(g/mol)吸収率a、熱伝導率λ(W/m/K)とした場合に、以下の式で算出されるものを用いた。
A=a(5.2×(c×m/ρ/10+q×ρ/MW)+1.3λ)
【0025】
表1中、No.1~12は粉末材料としてFe-Ni系合金を用いたものであり、No.13~24は粉末材料としてCr-Fe合金を用いたものである。また、No.1~6、13~18はガスアトマイズ粉末を用いたものであり、No.7~12、19~24は水アトマイズ粉末を用いたものである。No.1~24のうち、No.1~3、7~9、13~15、19~21は、上記(1)式を満たす本発明例であり、No.4~6、10~12、16~18、22~24は、上記(1)式を満たさない比較例である。
【0026】
表1に示すように、本発明例であるNo.1~3、7~9、13~15、19~21は、式(1)を満たしているため、粉末材料および粉末製造手法にかかわらず、造形体の密度が真密度ρの95%以上の所望の高密度となった。
【0027】
これに対し、比較例であるNo.4~6、10~12、16~18、22~24は、式(1)を満たさないため、粉末材料および粉末製造手法にかかわらず、造形体の密度が真密度ρの95%未満となった。
【0028】
【表1】
図1
図2