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  • 特開-放射線計測システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020779
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】放射線計測システム
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/16 20060101AFI20240207BHJP
   A61B 6/10 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
G01T1/16 A
A61B6/10 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123220
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(74)【代理人】
【識別番号】100222324
【弁理士】
【氏名又は名称】西野 千明
(72)【発明者】
【氏名】林 裕晃
(72)【発明者】
【氏名】淺原 孝
(72)【発明者】
【氏名】前田 達哉
(72)【発明者】
【氏名】小林 大空
【テーマコード(参考)】
2G188
4C093
【Fターム(参考)】
2G188BB02
2G188BB18
2G188BB19
2G188DD09
2G188EE29
4C093AA30
4C093CA33
4C093CA37
4C093FC17
(57)【要約】
【課題】放射線の広範囲の入射角変化に対しても精度よく入射角度を推定でき、さらに、絶対線量の計測が可能な放射線計測システムの提供を目的とする。
【解決手段】放射線の入射角依存性増大フィルターを有するフィルター付き放射線検出器と、前記入射角依存性増大フィルターを有していない放射線検出器との組み合せからなることを特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線の入射角依存性増大フィルターを有するフィルター付き放射線検出器と、前記入射角依存性増大フィルターを有していない放射線検出器との組み合せからなることを特徴とする放射線計測システム。
【請求項2】
前記フィルター付き放射線検出器を左右に2つ配置し、その間に前記放射線検出器を配置したことを特徴とする請求項1記載の放射線計測システム。
【請求項3】
前記左右の2つのフィルター付き放射線検出器は前記放射線検出器の配置面に対して、内側方向に所定の傾斜角を有するように配置してあることを特徴とする請求項2記載の放射線計測システム。
【請求項4】
さらにウエアラブルカメラを組み合せてあることを特徴とする請求項3記載の放射線計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線の線量を計測する計測システムに関し、特に放射線源からの放射線の入射角に依存する放射線線量の補正が可能な放射線線量計測システムに係る。
【背景技術】
【0002】
例えば、医療用X線を使用している分野では、低侵襲の医療として術中透視技術(IVR:Interventional radiology)が採用され、X線透視下での手術を可能にしている。
しかし、患者の近傍に立つ医師は、毎日のように散乱X線によって被曝するため、蓄積された被曝量を適切に管理されなければならない。
ところが、医師が術中に立つ位置はその手技ごとに大きく異なり、さらに、放射線被曝線量計の検出部に対して放射線の入射方向が変わると計測値が変化する(入射角依存性)という技術的課題があるため、絶対線量の計測は難しい。
【0003】
そこで本発明者らは、先に放射線の入射方向を特定する機能を有し、これによる入射方向の情報を利用して放射線の絶対量の計測に有用な放射線線量計を提案している(特許文献1)。
本発明は、上記発明に対して、より広い視野に対しても精度よく絶対線量の計測を可能にした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-67650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、放射線の広範囲の入射角変化に対しても精度よく入射角度を推定でき、さらに、絶対線量の計測が可能な放射線計測システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る放射線計測システムは、放射線の入射角依存性増大フィルターを有するフィルター付き放射線検出器と、前記入射角依存性増大フィルターを有していない放射線検出器との組み合せからなることを特徴とする。
本発明において、フィルター付き放射線検出器とは、放射線検出器の入射角依存性が左右非対称的に誇張されるフィルターを有しているものをいう。
このようなフィルターとしては、例えば断面形状が略三角形形状等、断面の厚みが徐変するものが例として挙げられる。
これに対して、本発明において単に放射線検出器と表現した場合はフィルターを有していないか、フィルターを有していても均一の厚みや均一の放射線透過性を有しているものをいう。
【0007】
このようにすると、フィルター付き放射線検出器における検出部の出力f(およびf)と、フィルターを有していない放射線検出器における検出部の出力fとの比は角度の関数になるので、ある放射線源から放出された放射線の放射線検出器に対する入射角を解析することができる。
【0008】
本発明は、フィルター付き放射線検出器を左右に2つ配置し、その間に前記放射線検出器を配置したものが例として挙げられ、左右の2つのフィルター付き放射線検出器は前記放射線検出器の配置面に対して、内側方向に所定の傾斜角を有するように配置してあるのが好ましい。
この所定の傾斜角は、30~60°の範囲が好ましい。
このようにすると、左右に配置したフィルター付き放射線検出器による入射角依存性が誇張された検出部の出力f,fと、その間に配置したフィルターを有していない放射線検出器の出力fと3つの値を用いて、放射線の入射角情報を解析できるので、特許文献1よりも広い視野の範囲で解析ができる。
【0009】
本発明において、ウエアラブルカメラを組み合せてあってもよい。
このようにすると、放射線検出器による放射線の入射方向の情報と医師が身につけたウエアラブルカメラの撮像情報により、医師が行う手技と被曝量の関係も解析することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明における放射線計測システムは、フィルター付き放射線検出器と通常の放射線検出器とを組み合せたことで、放射線の入射角を検出する精度が向上し、左右に配置したフィルター付き放射線検出器と、その間に配置した放射線検出器の少なくとも3つの検出器を組み合せると、放射線の検出角度範囲が広くなり、放射線線量の絶対量の算出精度に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る放射線計測システムの構成例を示す。
図2】本発明の解析アルゴリズムを示す。
図3】シミュレーションによる解析結果を示す。
図4】X線透視装置を使った実験方法を示す。
図5】実験結果を示す。
図6】(a)は解析した入射角度を示し、(b)は解析した絶対線量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る放射線計測システムの構成例及び実証結果を、以下図に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0013】
図1に、本発明に係る放射線計測システムの構成例を模式的に示す。
本実施例は、中央部にフィルターを有していない放射線検出手段C(放射線検出器C)を配置し、その左右に放射線の入射角依存性増大フィルターを有する放射線検出手段A(フィルター付き放射線検出器A)と、放射線検出手段B(フィルター付き放射線検出器B)を配置した例になっている。
以下のフィルターを有していない放射線検出手段Cを単に放射線検出手段Cという。
左右の放射線検出手段Aと放射線検出手段Bは、中央部に配置した放射線検出手段Cの検出面に対して、それぞれ内側方向に傾斜角θ,θだけ傾けて配置することで、放射源からの放射線の入射角の検出範囲が広くなるようになっている。
【0014】
放射線検出手段A,Bは、開口部を有する例えば鉛製等の筐体でシールド部13,23を形成し、その内部に放射線の検出部12,22を配置してある。
シールド部13,23の開口部には、放射線の入射角依存性を増大させる(誇張された角度依存性)フィルターA(11)と、フィルターB(21)を装着してある。
フィルターA(11)は、中央部側の方が厚みの大きい断面形状直角三角形のフィルターになっていて、フィルターB(21)も中央部側の方が厚みの大きい断面形状直角三角形のフィルターになっている。
これらに対して、中央部に配置した放射線検出手段Cは、シールド性の筐体内に放射線の検出部32を有するが、フィルターは取り付けられていない。
図1では、放射線源としてX線を示した例になっているが、放射線はX線に限定されない。
放射線源からの検出器に向けての放射線の入射角を角度θで表現する。
また、検出部32にて検出される出力を出力f,放射線検出手段Aの検出部12にて検出される出力を出力f,放射線検出手段Bの検出部22にて検出される出力を出力fと表現する。
【0015】
上記のような構成にした放射線計測システムの解析アルゴリズムを図2に示す。
図1に示した放射線検出手段A,B,Cにおける検出器で測定した出力f,f,fは、放射線の入射角に対しての角度依存性が異なることから、f/f,f/f値は、放射線の入射角の角度θの関数となる。
そこで、解析量f/f,f/fと角度θとの関係性は、あらかじめシミュレーションや実験によって決定し、データベース化しておく。
このデータベースを用いて、角度θの算出を実行するための角度θの算出手段と、検出器の角度依存性を補正するための補正係数の算出手段とを有する。
ここで補正係数は、フィルターを有していない検出手段Cに対して定義され、事前にシミュレーションや実験によって決定されている。
これらの手段を用いて出力fの角度依存性を補正することで、放射線の絶対線量が算出される。
【0016】
シミュレーションによる実証を行ったので、図3に基づいて説明する。
解析条件を図3(a)に示す。
X線の入射の角度θを-120~+120°の範囲で可変する。
放射線検出手段Aと放射線検出手段Bとの傾斜角は45°に設定する。
そのときの出力変化を図3(b)に示す。
図3(b)の結果から、フィルターを有していない放射線検出手段Cによる出力fは、左右の放射線検出手段Aの出力f,放射線検出手段Bの出力fよりも相対的に大きく、-80°から+80°の広い範囲で検出されている。
放射線検出手段Aは、-90°から0°の範囲をカバーし、放射線検出手段Bは、0°~90°の範囲をカバーしていることが分かる。
【0017】
次に、図4に示すような装置を用いて実証実験を実施したので、説明する。
X線透視装置の術台の下からX線が放射される術台の上に、患者を想定した散乱材を置き、手前に術者を想定し、右側の拡大写真に示すように中央部の放射線検出手段Cの左右に内側傾斜角45°傾けて、フィルター付きの放射線検出手段A,Bを配置した。
これにより得られた実験結果を図5に示す。
図3に示したシミュレーション結果と同様の結果が得られていることが分かる。
【0018】
これらの実験結果から、図2のアルゴリズムにて解析した入射角度結果を図6(a)に示す。
可変した放射線の入射角度に対して、解析した入射角度が線形性を有していることが分かる。
絶対線量の算出手段にて解析した絶対線量を図6(b)に示す。
図6(b)中「Analyzed absolute dose」は、本発明に係る放射線計測システムによる絶対線量を示し、「Original dose」は一般に市販されている線量計による線量を比較例として示す。
【0019】
図6(b)から術者が患者の近傍に立ち、いろいろな角度から被曝した場合にも、その絶対線量が算出されるので、蓄積された被曝量の管理が容易になり、その精度も向上する。
また、術者がこのような線量計とともにウエアブルカメラを身につけていると、どのような方向から入射する放射線によって被曝しているかも解析することができ、被曝線量低減に直接的,間接的に役立つとともに、医師の教育や放射線遮蔽手段の検討等、多くの応用に結びつけることができる。
【符号の説明】
【0020】
11 フィルターA
12 検出部
13 シールド部
21 フィルターB
22 検出部
23 シールド部
32 検出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6