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特開2024-20781圧延機の自動板厚制御方法、および、圧延機の自動板厚制御装置
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  • 特開-圧延機の自動板厚制御方法、および、圧延機の自動板厚制御装置 図1
  • 特開-圧延機の自動板厚制御方法、および、圧延機の自動板厚制御装置 図2
  • 特開-圧延機の自動板厚制御方法、および、圧延機の自動板厚制御装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020781
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】圧延機の自動板厚制御方法、および、圧延機の自動板厚制御装置
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/18 20060101AFI20240207BHJP
【FI】
B21B37/18 110B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123224
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】片山 裕之
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆広
【テーマコード(参考)】
4E124
【Fターム(参考)】
4E124AA07
4E124CC03
4E124EE02
4E124EE05
4E124GG03
(57)【要約】
【課題】圧延ロールの隙間の制御のタイミングを精度良く設定する。
【解決手段】自動板厚制御方法は、検出された入側板厚偏差ΔHを三角関数a sin xに近似して、入側振幅値aを求める。自動板厚制御方法は、検出された出側板厚偏差Δhを三角関数c sin(x-β)に近似して、出側振幅値cおよび出側位相遅れβを求める。自動板厚制御方法は、圧延ロール11・11の隙間Sの大きさを三角関数b sin(x-α)と仮定した場合の圧下位置位相遅れαを求める。自動板厚制御方法は、算出した圧下位置位相遅れαを時間遅れである遅延時間偏差Tに換算し、所定制御遅延時間TDから、遅延時間偏差Tを減算したタイミングに基づいて、隙間Sを圧下装置51によって制御する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延材を圧延する圧延ロールの隙間を圧下装置によって制御する圧延機の自動板厚制御方法であって、
圧延前の前記圧延材の板厚の偏差である入側板厚偏差を検出し、
圧延後の前記圧延材の板厚の偏差である出側板厚偏差を検出し、
検出された前記入側板厚偏差を、周波数分析により三角関数a sin xに近似して、入側振幅値aを求め、
前記入側板厚偏差が検出された前記圧延材の部位に相当する部位で検出された前記出側板厚偏差を、周波数分析により三角関数c sin(x-β)に近似して、出側振幅値cおよび出側位相遅れβを求め、
前記圧延ロールの前記隙間の大きさを三角関数b sin(x-α)と仮定した場合の関係式(A)により、前記隙間の位置における圧下位置位相遅れαを求め、
a sin x - b sin(x-α) = c sin(x-β) ・・・(A)
算出した前記圧下位置位相遅れαを、時間遅れである遅延時間偏差に換算し、
前記圧延材の所定部位が前記入側板厚偏差の検出位置を通った時から前記所定部位が前記隙間の位置に到達する時までの時間に基づいて設定される所定制御遅延時間から、前記遅延時間偏差を減算したタイミングに基づいて、前記隙間を前記圧下装置によって制御する、
圧延機の自動板厚制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の圧延機の自動板厚制御方法であって、
前記入側板厚偏差を周波数分析により三角関数a sin xに近似するにあたって、最大振幅の周波数成分を使用する、
圧延機の自動板厚制御方法。
【請求項3】
圧延材を圧延する圧延ロールの隙間を制御する圧下装置に指令を出力するコントローラを備え、
前記コントローラは、
圧延前の前記圧延材の板厚の偏差である入側板厚偏差の検出結果を取得し、
圧延後の前記圧延材の板厚の偏差である出側板厚偏差の検出結果を取得し、
検出された前記入側板厚偏差を、周波数分析により三角関数a sin xに近似して、入側振幅値aを求め、
前記入側板厚偏差が検出された前記圧延材の部位に相当する部位で検出された前記出側板厚偏差を、周波数分析により三角関数c sin(x-β)に近似して、出側振幅値cおよび出側位相遅れβを求め、
前記圧延ロールの前記隙間の大きさを三角関数b sin(x-α)と仮定した場合の関係式(A)により、前記隙間の位置における圧下位置位相遅れαを求め、
a sin x - b sin(x-α) = c sin(x-β) ・・・(A)
算出した前記圧下位置位相遅れαを、時間遅れである遅延時間偏差に換算し、
前記圧延材の所定部位が前記入側板厚偏差の検出位置を通った時から前記所定部位が前記隙間の位置に到達する時までの時間に基づいて設定される所定制御遅延時間から、前記遅延時間偏差を減算したタイミングに基づいて、前記隙間を前記圧下装置によって制御する、
圧延機の自動板厚制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の圧延機の自動板厚制御装置であって、
前記コントローラは、
前記入側板厚偏差を周波数分析により三角関数a sin xに近似するにあたって、最大振幅の周波数成分を使用する、
圧延機の自動板厚制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延材の板厚を制御する、圧延機の自動板厚制御方法、および、圧延機の自動板厚制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に、圧延機により圧延材を圧延する技術が記載されている。同文献に記載の技術では、圧延前の圧延材の板厚の偏差(入側板厚偏差)に基づいて、圧延機の圧延ロールの隙間が制御されることで、圧延材の板厚が制御される。同文献に記載の技術では、入側板厚偏差を検出してから隙間を制御するまでの遅延時間が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-135777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
同文献に記載の技術では、入側板厚偏差が周波数成分ごとに分解され、周波数成分ごとに位相遅れが算出され、算出された位相遅れに基づいて遅延時間が算出される。周波数と位相遅れとの関係は、過去の圧延実績やコンピュータシミュレーションなどから予め求められる(特許文献1の[0026]、図3参照)。そのため、機器の特性変化などにより、遅延時間に誤差が生じるおそれがある。そのため、遅延時間が適切なタイミングにならず、圧延材の板厚の精度が不十分になるおそれがある。そのため、圧延ロールの隙間の制御のタイミングを精度良く設定できることが望まれる。
【0005】
そこで、本発明は、圧延ロールの隙間の制御のタイミングを精度良く設定することができる、圧延機の自動板厚制御方法、および、圧延機の自動板厚制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
圧延機の自動板厚制御方法は、圧延材を圧延する圧延ロールの隙間を圧下装置によって制御する方法である。自動板厚制御方法は、圧延前の前記圧延材の板厚の偏差である入側板厚偏差を検出し、圧延後の前記圧延材の板厚の偏差である出側板厚偏差を検出する。自動板厚制御方法は、検出された前記入側板厚偏差を、周波数分析により三角関数a sin xに近似して、入側振幅値aを求める。自動板厚制御方法は、前記入側板厚偏差が検出された前記圧延材の部位に相当する部位で検出された前記出側板厚偏差を、周波数分析により三角関数c sin(x-β)に近似して、出側振幅値cおよび出側位相遅れβを求める。自動板厚制御方法は、前記圧延ロールの前記隙間の大きさを三角関数b sin(x-α)と仮定した場合の関係式(A)により、前記隙間の位置における圧下位置位相遅れαを求める。
a sin x - b sin(x-α) = c sin(x-β) ・・・(A)
自動板厚制御方法は、算出した前記圧下位置位相遅れαを、時間遅れである遅延時間偏差に換算する。所定制御遅延時間は、前記圧延材の所定部位が前記入側板厚偏差の検出位置を通った時から前記所定部位が前記隙間の位置に到達する時までの時間に基づいて設定される。自動板厚制御方法は、自動板厚制御方法は、前記所定制御遅延時間から、前記遅延時間偏差を減算したタイミングに基づいて、前記隙間を前記圧下装置によって制御する。
【0007】
圧延機の自動板厚制御装置は、圧延材を圧延する圧延ロールの隙間を制御する圧下装置に指令を出力するコントローラを備える。前記コントローラは、圧延前の前記圧延材の板厚の偏差である入側板厚偏差の検出結果を取得し、圧延後の前記圧延材の板厚の偏差である出側板厚偏差の検出結果を取得する。前記コントローラは、検出された前記入側板厚偏差を、周波数分析により三角関数a sin xに近似して、入側振幅値aを求める。前記コントローラは、前記入側板厚偏差が検出された前記圧延材の部位に相当する部位で検出された前記出側板厚偏差を、周波数分析により三角関数c sin(x-β)に近似して、出側振幅値cおよび出側位相遅れβを求める。前記コントローラは、前記圧延ロールの前記隙間の大きさを三角関数b sin(x-α)と仮定した場合の関係式(A)により、前記隙間の位置における圧下位置位相遅れαを求める。
a sin x - b sin(x-α) = c sin(x-β) ・・・(A)
前記コントローラは、算出した前記圧下位置位相遅れαを、時間遅れである遅延時間偏差に換算する。所定制御遅延時間は、前記圧延材の所定部位が前記入側板厚偏差の検出位置を通った時から前記所定部位が前記隙間の位置に到達する時までの時間に基づいて設定される。前記コントローラは、前記所定制御遅延時間から、前記遅延時間偏差を減算したタイミングに基づいて、前記隙間を前記圧下装置によって制御する。
【発明の効果】
【0008】
上記の圧延機の自動板厚制御方法、および、圧延機の自動板厚制御装置のそれぞれは、圧延ロールの隙間の制御のタイミングを精度良く設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】圧延設備1を示すブロック図である。
図2図1に示す圧延設備1の作動のフローチャートである。
図3図1に示す制御タイミング判断手段63が近似または仮定する三角関数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1図3を参照して、圧延設備1(自動板厚制御装置)について説明する。
【0011】
圧延設備1は、図1に示すように、圧延材Rを圧延機10で圧延する設備である。圧延設備1で圧延される圧延材Rは、板状である。圧延材Rは、例えば金属であり、具体的には例えば、鋼、合金鋼(ステンレス鋼など)、特殊鋼、アルミニウム、チタン、銅などである。圧延設備1は、圧延機10と、テンションリール20と、入側板厚検出部31と、出側板厚検出部32と、入側速度検出部41と、出側速度検出部42と、圧下装置51と、コントローラ60と、を備える。
【0012】
圧延機10は、圧延材Rを圧延する装置である。圧延機10は、圧延材Rを冷間圧延してもよく、熱間圧延してもよい。圧延機10は、複数のロール(円柱状または円筒状の部材)を備える。圧延機10は、圧延ロール11と、バックアップロール13と、を備える。
【0013】
圧延ロール11は、圧延材Rに接触し、圧延材Rを圧延するロール(ワークロール)である。2つの圧延ロール11・11は、圧延材Rの厚さ方向の両側から圧延材Rを挟むように配置される。2つの圧延ロール11・11は、互いに隙間S(ロールギャップ)をあけて配置される。2つの圧延ロール11・11の隙間Sの位置を、圧下位置P11とする。圧下位置P11は、圧延ロール11・11が圧延材Rに圧延荷重をかける(圧下する)位置である。
【0014】
バックアップロール13は、圧延ロール11を支持する。バックアップロール13は、圧延ロール11に対して圧延材Rとは反対側(後側)から圧延ロール11を支持する。バックアップロール13の数は様々に設定される。図1に示す例では、1つのバックアップロール13が、1つの圧延ロール11を支持する。この例では、合計4つのロールが、圧延機10に設けられる(圧延機10は4段圧延機である)。また、複数のバックアップロール13が、1つの圧延ロール11を支持してもよい。また、圧延ロール11を支持するバックアップロール13を、このバックアップロール13とは別のバックアップロール13が支持してもよい。例えば、圧延機10はクラスタ圧延機でもよく、12段や20段などのクラスタ圧延機でもよい。
【0015】
テンションリール20は、圧延材Rの巻き取り、および巻き戻し(繰り出し)を行う。テンションリール20は、2つ設けられる。2つのテンションリール20は、圧延機10の両側(後述する入側および出側)に設けられ、第1テンションリール21と、第2テンションリール22と、を備える。例えば、圧延材Rは、第1テンションリール21と第2テンションリール22との間で往復する。この場合、圧延設備1は、リバースタイプ(リバース圧延を行う設備)でもよい。図1に示す例では、圧延材Rは、第1テンションリール21から繰り出され、圧延機10で圧延され、第2テンションリール22に巻き取られる。その後、圧延材Rは、第2テンションリール22から繰り出され、圧延機10で圧延され、第1テンションリール21に巻き取られる。なお、圧延材Rは、第1テンションリール21から第2テンションリール22に一方の向き(一方向)にのみ移動してもよい。圧延設備1は、リバースタイプでなくてもよい。
【0016】
以下では、圧延材Rがある向き(所定の向き)(図1に示す例では右)に移動している状態について説明する。圧延材Rの移動方向において、圧延機10に対して上流側を入側とし、圧延機10に対して下流側を出側とする。なお、圧延材Rが上記「所定の向き」に移動する場合に対して、圧延材Rが上記「所定の向き」とは逆向き(図1では左)に移動する場合は、入側と出側とが互いに逆になる。具体的には例えば、圧延材Rが所定の向きに移動するときに入側板厚検出部31として使われたセンサは、圧延材Rが所定の向きとは逆向きに移動するときに出側板厚検出部32として使われる。また、コントローラ60で行われる制御についても、圧延材Rが所定の向きに移動する場合と、圧延材Rが所定の向きとは逆向きに移動する場合とで、入側と出側とが互いに逆になる。
【0017】
入側板厚検出部31は、圧延前の(入側の)圧延材Rの板厚を検出する。入側板厚検出部31は、圧延材Rの板厚を検出するセンサ(入側板厚計、入側厚み計)である。入側板厚検出部31は、入側の圧延材Rの板厚の偏差(入側板厚偏差ΔH(後述))を検出するために設けられる。入側板厚検出部31は、圧延材Rの板厚を、非接触により検出してもよく、圧延材Rに接触することで検出してもよい(出側板厚検出部32も同様)。
【0018】
出側板厚検出部32は、圧延後の(出側の)圧延材Rの板厚を検出する。出側板厚検出部32は、圧延材Rの板厚を検出するセンサ(出側板厚計、出側厚み計)である。出側速度検出部42は、出側の圧延材Rの板厚の偏差(出側板厚偏差Δh(後述))を検出するために設けられる。圧延材Rが圧延機10で圧延されるので、出側板厚検出部32による板厚の検出結果は、入側板厚検出部31による板厚の検出結果よりも小さくなる。
【0019】
入側速度検出部41は、圧延前の(入側の)圧延材Rの速度(入側速度V)を検出する。入側速度検出部41は、圧延機10に入る圧延材Rの移動速度を検出する。入側速度検出部41は、圧延材Rの速度を、非接触により検出してもよく、圧延材Rに接触することで検出してもよい(出側速度検出部42も同様)。入側速度検出部41は、例えば圧延材Rに接触するロール(速度検出ロール)などである(出側速度検出部42も同様)。
【0020】
出側速度検出部42は、圧延後の(出側の)圧延材Rの速度(出側速度v)を検出する。出側速度検出部42は、圧延機10から出た圧延材Rの移動速度を検出する。圧延材Rが圧延機10で圧延されるので、出側速度検出部42の検出結果(出側速度v)は、入側速度検出部41の検出結果(入側速度V)よりも速くなる。
【0021】
圧下装置51は、圧延ロール11・11の隙間S(ロール隙間値)を制御(調整)する。圧下装置51(圧下制御装置)は、隙間Sを制御することで、圧延材Rに作用する圧延荷重を制御する。具体的には例えば、圧下装置51は、油圧シリンダ、油圧シリンダを制御する弁(例えばサーボ弁)、および、油圧シリンダの伸縮に伴って圧延ロール11を移動させるウェッジ機構など(それぞれ図示なし)を備える。
【0022】
コントローラ60は、圧下装置51を制御する。コントローラ60は、信号の入出力、情報の記憶、演算(判断、算出など)などを行うコンピュータである。コントローラ60の各機能は、記憶部(図示なし)に記憶されたプログラムを、演算部(図示なし)で実行することで実現される。コントローラ60は、入側板厚検出部31、出側板厚検出部32、入側速度検出部41、および出側速度検出部42の検出結果を取得する(読み取る)。コントローラ60は、隙間Sを自動制御することで、圧延材Rの板厚を自動制御する。コントローラ60は、板厚制御手段61と、制御タイミング判断手段63と、を備える。
【0023】
板厚制御手段61は、圧延材Rの板厚を制御する(板厚制御コントローラである)。板厚制御手段61は、操作量ΔSを算出する。操作量ΔSは、隙間Sの指令(信号、指令値)であり、圧延材Rの板厚の指令である。板厚制御手段61は、操作量ΔSを圧下装置51に出力する。板厚制御手段61は、制御タイミング判断手段63に判断されたタイミングに基づいて、操作量ΔSを出力する(詳細は後述)。板厚制御手段61は、圧延機10で圧延された後の(出側の)圧延材Rの板厚の偏差(出側板厚偏差Δh)が、できるだけゼロに近づくように、隙間Sを制御し、圧延材Rの板厚を制御する。板厚制御手段61は、様々な制御方式により圧延材Rの板厚を制御できる。具体的には例えば、板厚制御手段61は、フィードフォワード板厚制御(予測制御)を行ってもよく、マスフロー板厚制御を行ってもよい。
【0024】
制御タイミング判断手段63は、隙間Sの制御のタイミングを判断(算出)する。具体的には、制御タイミング判断手段63は、板厚制御手段61から圧下装置51への操作量ΔSの出力のタイミングを判断する。さらに具体的には、制御タイミング判断手段63は、後述する遅延時間(TD-T)を算出する(詳細は後述)。
【0025】
(作動)
自動板厚制御方法は、以下のように行われる。圧延設備1は(主にコントローラ60は)、以下のように作動するように構成される。圧延設備1の作動の概要(自動板厚制御方法の概要)は、次の通りである。以下では、図2に示すフローチャートの各ステップについては、図2を参照して説明する。図1に示す圧延設備1(例えば入側板厚検出部31)は、入側板厚偏差ΔHを検出する(ステップS1)。制御タイミング判断手段63は、入側板厚偏差ΔHの入側振幅値a(図3参照)を求める(ステップS2)。圧延設備1(例えば出側板厚検出部32)は、出側板厚偏差Δhを検出する(ステップS3)。制御タイミング判断手段63は、出側板厚偏差Δhの出側振幅値c(図3参照)と出側位相遅れβ(図3参照)を求める(ステップS4)。制御タイミング判断手段63は、圧下位置位相遅れα(図3参照)を求め、圧下位置位相遅れαを遅延時間偏差Tに換算し(ステップS5)、遅延時間(TD-T)を決定する(ステップS6)。そして、板厚制御手段61は、決定された遅延時間(TD-T)に基づいて圧延ロール11・11の隙間Sを制御する(ステップS7)。コントローラ60は、演算終了まで、これらの処理を繰り返す(ステップS8)。圧延設備1の作動の詳細(自動板厚制御方法の詳細)は、以下の通りである。
【0026】
ステップS1では、圧延設備1は、入側板厚偏差ΔHを検出する。入側板厚偏差ΔHは、圧延前の圧延材Rの板厚の偏差である。具体的には、入側板厚偏差ΔHは、時間変化する板厚を示す波形の情報などである(出側板厚偏差Δhも同様)。入側板厚偏差ΔHの検出の具体例は、次の通りである。入側板厚検出部31は、入側の圧延材Rの板厚を検出する。コントローラ60は、入側板厚検出部31の検出結果(板厚)を読み込む(取得する)。そして、コントローラ60は、読み込んだ板厚に基づいて、入側板厚偏差ΔHを算出する(取得する)。なお、コントローラ60による値の算出は、コントローラ60による値の「取得」に含まれる。
【0027】
ステップS2では、制御タイミング判断手段63は、検出された入側板厚偏差ΔHを、周波数分析により三角関数a sin x(図3参照)に近似して、入側振幅値a(図3参照)を求める。さらに詳しくは、制御タイミング判断手段63は、入側板厚偏差ΔHを周波数分析(周波数解析)して、複数の周波数成分に分解する。制御タイミング判断手段63は、複数の周波数成分から、所定の周波数成分を選択(使用)する。三角関数a sin x(図3参照)のxは、x=2πftで表される。ここで、fは、複数の周波数成分から選択される周波数成分の周波数(Hz)である。tは、時間(例えば秒)である。制御タイミング判断手段63は、複数の周波数成分のうち、最大振幅の周波数成分を選択(使用)することが好ましい。また、複数の周波数成分から選択される周波数成分は、1つでもよく、2つ以上(複数)でもよい。複数の周波数成分から選択される周波数成分が2つ以上の場合は、制御タイミング判断手段63は、振幅が大きい周波数成分から順に(最大振幅の周波数、2番目に振幅が大きい周波数、・・・というように)選択することが好ましい。以下では、主に、1つの周波数成分が選択される場合について説明する。
【0028】
ステップS3では、圧延設備1は、出側板厚偏差Δhを検出する。出側板厚偏差Δhは、圧延後の圧延材Rの板厚の偏差である。出側板厚偏差Δhの検出の具体例は、上記の入側板厚偏差ΔHの検出の具体例と同様である(但し、入側板厚検出部31を出側板厚検出部32に読み替えるなど、入側を出側に読み替える)。
【0029】
ステップS4では、制御タイミング判断手段63は、入側板厚偏差ΔHが検出された圧延材Rの部位(位置、部分)に相当する部位で検出された出側板厚偏差Δhを、周波数分析により三角関数c sin(x-β)(図3参照)に近似する。
【0030】
上記「入側板厚偏差ΔHが検出された圧延材Rの部位(位置、部分)に相当する部位」は、入側板厚偏差ΔHが検出された圧延材Rの部位と同じ部位(同一部位)、または略同じ部位(略同一部位)である。例えば、コントローラ60は、圧延材Rの入側検出部位の位置をトラッキング(追従)することで、入側板厚偏差ΔHの検出位置を通過した後の圧延材Rの入側検出部位の位置を把握する。具体的には、圧延材Rのある部位(「入側検出部位」という)が入側板厚偏差ΔHの(入側板厚検出部31の)検出位置にある時に、入側板厚偏差ΔHが検出される(ステップS1)。コントローラ60は、移動する入側検出部位の位置をトラッキングする。この入側検出部位が、出側板厚偏差Δhの(出側板厚検出部32の)検出位置に到達する。この時に、出側板厚偏差Δhが検出される(ステップS3)。そして、制御タイミング判断手段63が、検出された出側板厚偏差Δhを三角関数に近似する(ステップS4)。
【0031】
このステップS4では、制御タイミング判断手段63は、出側板厚偏差Δhを周波数分析により、複数の周波数成分に分解する。制御タイミング判断手段63は、複数の周波数成分から、所定の周波数成分を選択する。このとき、制御タイミング判断手段63は、複数の周波数成分のうち、ステップS2において入側板厚偏差ΔHを三角関数に近似した際に使用した周波数成分を使用する。三角関数c sin(x-β)のxは、x=2πftで表される。fは、ステップS2で選択された周波数成分の周波数(Hz)である。tは、時間(例えば秒)である。入側板厚偏差ΔHを近似した三角関数a sin xの値が0となる入側検出部位と同一部位(または略同一部位)が、出側板厚偏差Δhの検出位置にある時を、t=0とする。
【0032】
このステップS4では、制御タイミング判断手段63は、出側板厚偏差Δhを三角関数c sin(x-β)(図3参照)に近似して、出側振幅値c(図3参照)および出側位相遅れβ(図3参照)を求める。図3に示すように、出側位相遅れβは、入側板厚偏差ΔHを近似した三角関数a sin xに対する、出側板厚偏差Δhを近似した三角関数c sin(x-β)の位相遅れである。出側位相遅れβがゼロであれば、図1に示す操作量ΔSの出力タイミング(隙間Sの制御のタイミング)が適切なタイミングであり、後述する圧下位置位相遅れα(図3参照)が適切(例えば最適)である。一方、出側位相遅れβ(図3参照)がゼロでないときは、操作量ΔSの出力タイミングが、適切なタイミングからずれており、圧下位置位相遅れαが適切(例えば最適)ではない。そこで、制御タイミング判断手段63は、次のステップS5において、適切な圧下位置位相遅れαを計算し、操作量ΔSの出力タイミングを適切な値にする。
【0033】
ステップS5では、制御タイミング判断手段63は、圧下位置位相遅れα(図3参照)を求める。さらに詳しくは、制御タイミング判断手段63は、図3に示す入側振幅値a、出側振幅値c、および出側位相遅れβに基づいて、圧下位置位相遅れαを求める。圧下位置位相遅れαの求め方の詳細は、後述する。
【0034】
このステップS5では、図1に示す制御タイミング判断手段63は、算出した圧下位置位相遅れα(図3参照)に基づいて遅延時間偏差Tを求める。制御タイミング判断手段63は、位相遅れ(角度)である圧下位置位相遅れαを、時間遅れ(例えば秒)である遅延時間偏差Tに換算する。具体的には、遅延時間偏差Tは、T=α/(2πf)により求められる。ここで、fは、ステップS2において入側板厚偏差ΔHを周波数分析により三角関数a sin xに近似する際に使用した周波数成分の周波数である。
【0035】
なお、ステップS2において、入側板厚偏差ΔHを周波数分析して得られた複数の周波数成分から、複数の周波数成分が選択される場合がある。この場合、制御タイミング判断手段63は、選択した複数の周波数成分ごとに圧下位置位相遅れαを求め、求めた圧下位置位相遅れαごとに、「周波数成分ごとの遅延時間偏差T’」を求める。そして、制御タイミング判断手段63は、周波数成分ごとの遅延時間偏差T’を総合的に評価した結果を、遅延時間偏差Tとしてもよい。
【0036】
ステップS6では、制御タイミング判断手段63は、操作量ΔSの圧下装置51への出力タイミングを求める。具体的には、制御タイミング判断手段63は、遅延時間(TD-T)を求める。遅延時間は、圧延材Rのある部位(所定部位)が入側板厚偏差ΔHの検出位置を通った時から、板厚制御手段61が操作量ΔS(所定部位を圧延ロール11で圧下するための指令)を圧下装置51に出力するまでの時間である。
【0037】
制御タイミング判断手段63は、遅延時間を、所定制御遅延時間TDから遅延時間偏差Tを減算した値(TD-T)とする。所定制御遅延時間TDは、圧延材Rのある部位(所定部位)が入側板厚偏差ΔHの検出位置を通った時から、この所定部位が圧下位置P11(隙間Sの位置)に到達する時までの時間(またはこの時間に基づいて設定される時間)である。遅延時間を所定制御遅延時間TDとした場合には、次の問題がある。板厚制御手段61による板厚の制御には、遅れがある。さらに詳しくは、板厚制御手段61が圧下装置51に操作量ΔSを送信してから、この操作量ΔSに基づいて圧延ロール11が実際に移動するまでには、遅れがある。そのため、遅延時間を所定制御遅延時間TDとした場合には、隙間Sの制御のタイミングが、適切なタイミングよりも遅れる。この遅れは、圧下位置位相遅れα分の時間である。
【0038】
そこで、制御タイミング判断手段63は、所定制御遅延時間TDから遅延時間偏差Tを減算した時間を、遅延時間(TD-T)とする。例えば、所定制御遅延時間TDをベース遅延時間とすると、制御タイミング判断手段63は、遅延時間を、ベース遅延時間(所定制御遅延時間TD)から、遅延時間(TD-T)に補正(修正)する。制御タイミング判断手段63は、隙間Sの制御のタイミングを、ベース遅延時間(所定制御遅延時間TD)に対して遅延時間偏差Tだけ早くする。そして、制御タイミング判断手段63は、板厚制御手段61に、遅延時間(TD-T)を送信する。なお、遅延時間偏差Tの値は、正負両方の値を取りうる。例えば、所定制御遅延時間TDの算出方法などによっては、遅延時間を所定制御遅延時間TDとした場合の隙間Sの制御のタイミングが、適切なタイミングよりも早くなる場合がある。この場合には、隙間Sの制御のタイミングを、所定制御遅延時間TDに対して遅らせる必要がある。このような場合には、遅延時間偏差Tの値は、負の値になり得る。
【0039】
遅延時間偏差Tは、実データ(検出値)である入側板厚偏差ΔHおよび出側板厚偏差Δhに基づいて、リアルタイム(または略リアルタイム)に求められる。よって、例えば遅延時間偏差Tが予め記憶されている場合など、実データに基づかずに遅延時間偏差Tが設定される場合に比べ、遅延時間(TD-T)を精度良く求めることができ、操作量ΔSの適切な出力タイミングを得ることができる。
【0040】
ステップS7では、圧延設備1は、遅延時間(TD-T)(所定制御遅延時間TDから遅延時間偏差Tを減算したタイミング)に基づいて、圧下装置51によって隙間Sを制御する。さらに詳しくは、板厚制御手段61は、遅延時間(TD-T)に基づくタイミングで、圧下装置51に操作量ΔSを出力する。圧下装置51は、操作量ΔSに応じて、圧延ロール11の隙間Sを制御する。
【0041】
コントローラ60は、所定のサンプリング周期ごとに制御を行う。そこで、ステップS7では、コントローラ60は、コントローラ60は、時間の情報である遅延時間(TD-T)を、サンプリング回数ΔKの情報に変換してもよい。例えば、コントローラ60は、次の式により遅延時間(TD-T)をサンプリング回数ΔKに変換する。
ΔK=(TD-T)・V/Ls
ここで、Vは、入側速度検出部41に検出された入側速度(例えばm/秒)である。Lsは、サンプリング長さ(例えばm)である。サンプリング長さLsは、コントローラ60がサンプリング回数1回分の制御を行う時間(1サンプリング周期)において、入側の圧延材Rが移動する長さ(単位制御長さ)である。
【0042】
ステップS8では、コントローラ60は、演算を続行するか否かを判定する。演算を続行する場合(ステップS8でYESの場合)、コントローラ60は、フローをステップ1に戻し、演算を続ける。演算を終了する場合(ステップS8でNOの場合)、コントローラ60は、演算を終了する。例えば、所定量の圧延材Rの圧延が完了した場合などに、コントローラ60は演算を終了してもよい。
【0043】
(ステップS5の詳細)
上記のように、ステップS5では、制御タイミング判断手段63は、入側振幅値a(図3参照)、出側振幅値c(図3参照)、および出側位相遅れβ(図3参照)に基づいて、圧下位置位相遅れα(図3参照)を求める。具体的には、圧延ロール11・11の隙間Sの大きさを三角関数b sin(x-α)(図3参照)と仮定する。制御タイミング判断手段63は、下記の関係式(A)により、圧下位置P11(隙間Sの位置)における圧下位置位相遅れαを求める。
a sin x - b sin(x-α) = c sin(x-β) ・・・(A)
【0044】
ここで、三角関数b sin(x-α)に仮定した「圧延ロール11・11の隙間Sの大きさ」(ロール隙間値)は、隙間Sを制御するための操作量ΔSではなく、実際の圧延ロール11・11の隙間Sの大きさ(ロールギャップ位置実績)である。また、この三角関数b sin(x-α)への仮定は、圧下位置位相遅れαを求めるための(隙間Sの制御のタイミングを求めるための)仮定である。板厚制御手段61は、隙間Sの大きさをb sin(x-α)となるように制御する必要はない。上記のように、板厚制御手段61は、例えばフィードフォワード板厚制御やマスフロー板厚制御などによって隙間Sを制御する。
【0045】
圧下位置位相遅れαの算出の詳細は、次の通りである。位相の相違する正弦関数を合成する下記の式(1)が知られている。この式を、入側板厚偏差ΔHに対する、隙間Sの位相遅れの計算に応用することができる。
【0046】
【数1】
【0047】
式(1)、式(1-1)、および式(1-2)において、αに-α、bに-b、βに-βをそれぞれ代入すると、次式が得られる。
【0048】
【数2】
【0049】
なお、式(2)は、上記の式(A)である。式(A)のa sin x(図3参照)は、入側板厚偏差ΔHを三角関数に近似した成分である。式(A)のc sin(x-β)は、出側板厚偏差Δhを三角関数に近似した成分である(図3参照)。式(A)のb sin(x-α)(図3参照)は、隙間Sの大きさを三角算数と仮定した場合の、隙間Sに対応する成分である。
【0050】
式(2-1)および式(2-2)において、a、c、βは、検出(測定)可能な既知の値である。具体的には、aは入側板厚検出部31により検出され、cおよびβは出側板厚検出部32により検出される。一方、式(2-1)および式(2-2)において、bおよびαは未知数である。2つの式(式(2-1)、式(2-2))に、2つの未知数があるため、2つの式に既知のa、b、βを代入し、連立方程式を解けば、圧下位置位相遅れαが求まる。
【0051】
上記の式(A)は、正弦(sin)関数で表しているが、この関数を変形して余弦(cos)関数で表してもよい。本発明において、正弦関数に近似や仮定することと、余弦関数に近似や仮定することとは、表現が異なるのみで、内容は等しい。
【0052】
(第1の発明の効果)
図1に示す圧延機10の自動板厚制御方法による効果は、次の通りである。自動板厚制御方法は、圧延材Rを圧延する圧延ロール11・11の隙間Sを圧下装置51によって制御する方法である。
【0053】
[構成1-1]自動板厚制御方法は、圧延前の圧延材Rの板厚の偏差である入側板厚偏差ΔHを検出する。自動板厚制御方法は、圧延後の圧延材Rの板厚の偏差である出側板厚偏差Δhを検出する。自動板厚制御方法は、検出された入側板厚偏差ΔHを、周波数分析により三角関数a sin x(図3参照)に近似して、入側振幅値a(図3参照)を求める。自動板厚制御方法は、入側板厚偏差ΔHが検出された圧延材Rの部位に相当する部位で検出された出側板厚偏差Δhを、周波数分析により三角関数c sin(x-β)(図3参照)に近似して、出側振幅値c(図3参照)および出側位相遅れβ(図3参照)を求める。自動板厚制御方法は、圧延ロール11・11の隙間Sの大きさを三角関数b sin(x-α)(図3参照)と仮定した場合の関係式(A)により、隙間Sの位置における圧下位置位相遅れα(図3参照)を求める。
a sin x - b sin(x-α) = c sin(x-β) ・・・(A)
自動板厚制御方法は、算出した圧下位置位相遅れα(図3参照)を、時間遅れである遅延時間偏差Tに換算する。なお、関係式(A)は余弦関数で表現してもよい。
【0054】
[構成1-2]所定制御遅延時間TDは、圧延材Rの所定部位が入側板厚偏差ΔHの検出位置を通った時から、この所定部位が隙間Sの位置に到達する時までの時間に基づいて設定される。自動板厚制御方法は、所定制御遅延時間TDから、遅延時間偏差Tを減算したタイミングに基づいて、隙間Sを圧下装置51によって制御する。
【0055】
上記[構成1-1]では、遅延時間偏差Tは、検出された入側板厚偏差ΔH(実データ)および検出された出側板厚偏差Δh(実データ)に基づいて求められる。そして、上記[構成1-2]では、所定制御遅延時間TDから、遅延時間偏差Tを減算したタイミングに基づいて、隙間Sが制御される。よって、例えば予め記憶されたタイミングに基づいて隙間Sが制御される場合に比べ、遅延時間(TD-T)を精度良く設定することができる。よって、圧延ロール11・11の隙間Sの制御のタイミングを精度良く設定することができる。その結果、圧延機10に圧延される圧延材Rの板厚の精度を向上させることができる。
【0056】
(第2の発明の効果)
[構成2]自動板厚制御方法は、入側板厚偏差ΔHを周波数分析により三角関数a sin x(図3参照)に近似するにあたって、最大振幅の周波数成分を使用する。
【0057】
上記[構成2]により、隙間Sの制御のタイミングを、より簡単な演算で精度良く設定することができる。
【0058】
(第3の発明の効果)
圧延設備1(圧延機10の自動板厚制御装置)による効果は、次の通りである。自動板厚制御装置は、コントローラ60を備える。コントローラ60は、圧延材Rを圧延する圧延ロール11・11の隙間Sを制御する圧下装置51に指令を出力する。
【0059】
[構成3-1]コントローラ60は、圧延前の圧延材Rの板厚の偏差である入側板厚偏差ΔHの検出結果を取得する。コントローラ60は、圧延後の圧延材Rの板厚の偏差である出側板厚偏差Δhの検出結果を取得する。コントローラ60は、検出された入側板厚偏差ΔHを、周波数分析により三角関数a sin x(図3参照)に近似して、入側振幅値a(図3参照)を求める。コントローラ60は、入側板厚偏差ΔHが検出された圧延材Rの部位に相当する部位で検出された出側板厚偏差Δhを、周波数分析により三角関数c sin(x-β)(図3参照)に近似して、出側振幅値c(図3参照)および出側位相遅れβ(図3参照)を求める。コントローラ60は、圧延ロール11・11の隙間Sの大きさを三角関数b sin(x-α)(図3参照)と仮定した場合の関係式(A)により、隙間Sの位置における圧下位置位相遅れα(図3参照)を求める。
a sin x - b sin(x-α) = c sin(x-β) ・・・(A)
コントローラ60は、算出した圧下位置位相遅れα(図3参照)を、時間遅れである遅延時間偏差Tに換算する。なお、関係式(A)は余弦関数で表現してもよい。
【0060】
[構成3-2]所定制御遅延時間TDは、圧延材Rの所定部位が入側板厚偏差ΔHの検出位置を通った時から、この所定部位が隙間Sの位置に到達する時までの時間に基づいて設定される。コントローラ60は、所定制御遅延時間TDから、遅延時間偏差Tを減算したタイミングに基づいて、隙間Sを圧下装置51によって制御する。
【0061】
上記[構成3-1]では、遅延時間偏差Tは、検出された入側板厚偏差ΔH(実データ)および検出された出側板厚偏差Δh(実データ)に基づいて求められる。そして、上記[構成3-2]では、所定制御遅延時間TDから、遅延時間偏差Tを減算したタイミングに基づいて、隙間Sが制御される。よって、例えば予め記憶されたタイミングに基づいて隙間Sが制御される場合に比べ、遅延時間(TD-T)を精度良く設定することができる。よって、圧延ロール11・11の隙間Sの制御のタイミングを精度良く設定することができる。その結果、圧延機10に圧延される圧延材Rの板厚の精度を向上させることができる。
【0062】
(第4の発明の効果)
[構成4]コントローラ60は、入側板厚偏差ΔHを周波数分析により三角関数a sin x(図3参照)に近似するにあたって、最大振幅の周波数成分を使用する。
【0063】
上記[構成4]により、隙間Sの制御のタイミングを、より簡単な演算で精度良く設定することができる。
【0064】
(変形例)
上記実施形態は様々に変形されてもよい。例えば、上記実施形態の構成要素の数が変更されてもよく、構成要素の一部が設けられなくてもよい。例えば、上記実施形態の変形例どうしが様々に組み合わされてもよい。例えば、図1に示す各構成要素の接続は変更されてもよい。例えば、構成要素の配置は変更されてもよい。例えば、構成要素の包含関係は様々に変更されてもよい。例えば、ある上位の構成要素に含まれる下位の構成要素として説明したものが、この上位の構成要素に含まれなくてもよく、他の構成要素に含まれてもよい。例えば、互いに異なる複数の部材や部分として説明したものが、一つの部材や部分とされてもよい。例えば、一つの部材や部分として説明したものが、互いに異なる複数の部材や部分に分けて設けられてもよい。例えば、図2に示すフローチャートのステップの順序が変更されてもよく、ステップの一部が行われなくてもよい。例えば、各構成要素は、各特徴(作用機能、配置、形状、作動など)の一部のみを有してもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 圧延設備(自動板厚制御装置)
10 圧延機
11 圧延ロール
51 圧下装置
60 コントローラ
a 入側振幅値
c 出側振幅値
R 圧延材
S 隙間
T 遅延時間偏差
TD 所定制御遅延時間
α 圧下位置位相遅れ
β 出側位相遅れ
ΔH 入側板厚偏差
Δh 出側板厚偏差
図1
図2
図3