IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人慶應義塾の特許一覧

<>
  • 特開-筋萎縮の治療剤 図1
  • 特開-筋萎縮の治療剤 図2
  • 特開-筋萎縮の治療剤 図3
  • 特開-筋萎縮の治療剤 図4
  • 特開-筋萎縮の治療剤 図5
  • 特開-筋萎縮の治療剤 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020797
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】筋萎縮の治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/20 20060101AFI20240207BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240207BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
A61K38/20
A61P21/00
A61K45/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123254
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】高橋 慶行
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 航太
(72)【発明者】
【氏名】辻 収彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 雅也
(72)【発明者】
【氏名】依田 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】堀内 圭輔
【テーマコード(参考)】
4C084
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA17
4C084BA44
4C084DA12
4C084NA14
4C084ZA94
(57)【要約】
【課題】筋萎縮の予防、症状の改善等の治療を有効に行うことのできる筋萎縮の治療剤を提供する。
【解決手段】IL-33、またはIL-33受容体のアゴニストもしくはリガンドを含有する、筋萎縮の治療剤である。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
IL-33、またはIL-33受容体のアゴニストもしくはリガンドを有効成分として含有する、筋萎縮の治療剤。
【請求項2】
前記IL-33受容体がST2である、請求項1に記載の筋萎縮の治療剤。
【請求項3】
前記筋萎縮は、筋組織において前記IL-33受容体の発現量が増加している、請求項1に記載の筋萎縮の治療剤。
【請求項4】
前記筋萎縮が、廃用性筋萎縮症である、請求項1に記載の筋萎縮の治療剤。
【請求項5】
前記有効成分に含まれる前記IL-33、またはIL-33受容体のアゴニストもしくはリガンドの含有割合が、80質量%以上、90質量%以上、または100質量%である、請求項1に筋萎縮の治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋萎縮症等の治療や予防等に用いる、筋萎縮の治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
筋肉組織には、外的要因や酷使による筋損傷、筋肉に関連する病的状態が生じることがある。筋肉はもともと再生能力に優れた組織であり、通常、これらの筋損傷や病的状態に置かれた後は、筋肉の幹細胞などの働きで筋再生、筋肥大を起こす。
【0003】
しかしながら対象の加齢、慢性的な病的状態、またこれらに伴う長期臥床などの状態では、充分または正常に筋再生、筋肥大が起こらず、その結果、筋萎縮や筋変性を起こす。筋萎縮や筋変性にともなう筋力低下は、対象の活動性、QOLの低下と関連している。すなわち、この筋萎縮、筋変性を防ぐことできれば、QOLの低下を防ぐことができると考えられる。特に、近年は高齢者における廃用性筋萎縮症が増加しており、超高齢化社会を迎えたわが国において、その対策は喫緊の課題といえる。
【0004】
筋萎縮を防ぐ手段としては、運動療法での効果は多く報告されているが、内服、注射での実用的な薬はまだ確立していない。また、筋萎縮において起こっていることをより解明できれば、筋萎縮を予防、改善させる治療に役立てることができると考えられる。
【0005】
筋肉内の主な細胞の働きについて、細胞の再生、肥大は衛星細胞、satellite cellが担っていることが知られている。衛星細胞は筋繊維の周囲にある幹細胞で、基底膜に局在しており、普段は休止状態で、筋損傷や運動により活性化し、自身の増殖や筋芽細胞へ分化する。一方で損傷や疾患などの影響で筋肉が脂肪変性、線維化をきたす。その原因については、Fibro-adipogenic-progenitors(FAPs)という間葉系前駆細胞が報告されている。またFAPSから分泌される因子を補うことで加齢した衛星細胞の機能が回復することや、FAPSを抑制したモデルで、衛星細胞の減少、筋繊維の萎縮がみられるという報告がされている。
【0006】
ここで、特許文献1には、特定のペプチドまたはその塩を有効成分として含有する骨格筋の損傷修復促進剤が開示されている。この技術では、本発明の骨格筋の損傷修復促進剤は、骨格筋の損傷部位において筋衛星細胞の活性化および/または分化を促進しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2018/230535号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の技術では、筋衛星細胞の活性化および/または分化を促進し、骨格筋の損傷、すなわち筋断裂、筋萎縮または筋変性を修復することができる旨が開示されている。しかしながら、この技術は、特定配列のペプチドが血管新生作用およびコラーゲン産生促進作用を有し、これらの作用でもって、骨および筋肉の組織を活性化させるものである。間葉系前駆細胞FAPsの機序、すなわち筋萎縮に関する特定の因子を解明し、特異的に筋萎縮の治療や予防を行うものではない。
【0009】
筋萎縮における機序、特に間葉系前駆細胞FAPsの作用を解明することで、筋萎縮の予防、改善などの治療、および、実用的な治療薬の確立に大きく寄与することができ、これらの解明や治療薬は強く求められている。
【0010】
本発明はこのような背景に基づいてなされたものであり、その目的は、筋萎縮の予防、症状の改善等の治療を有効に行うことのできる筋萎縮の治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下の態様を含む。
[1]IL-33、またはIL-33受容体のアゴニストもしくはリガンドを有効成分として含有する、筋萎縮の治療剤。
【0012】
[2]前記IL-33受容体がST2である、[1]に記載の筋萎縮の治療剤。
【0013】
[3]前記筋萎縮は、筋組織において前記IL-33受容体の発現量が増加している、[1]または[2]に記載の筋萎縮の治療剤。
【0014】
[4]前記筋萎縮が、廃用性筋萎縮症である、[1]~[3]のいずれか1に記載の筋萎縮の治療剤。
【0015】
[5]前記有効成分中に含まれる、前記IL-33、またはIL-33受容体のアゴニストもしくはリガンドの含有割合が、80質量%以上、90質量%以上、または100質量%である、[1]~[4]のいずれか1に記載の筋萎縮の治療剤。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、筋萎縮の予防、症状の改善等の治療を有効に行うことのできる筋萎縮の治療剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施例におけるFACS解析による細胞数の変化を示すグラフ図である。
図2】本実施例におけるTA(前脛骨筋)の断面から筋繊維断面積(CSA)を測定したグラフ図である。
図3】本実施例におけるFAPsからのRNA抽出の概略図である。
図4】本実施例におけるRNA-seqおよびqPCRによる発現量の解析結果を示すグラフ図である。
図5】本実施例における若齢マウスのIL-33およびST2投与群のCSAの結果を示すグラフ図である。
図6】本実施例における老齢マウスのIL-33およびST2投与群のCSAの結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る筋萎縮の治療剤について、実施形態を示して説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
[筋萎縮の治療剤]
本実施形態の筋萎縮の治療剤は、IL-33、またはIL-33受容体のアゴニストもしくはリガンドを有効成分として含有する。
【0020】
IL-33(インターロイキン33)は、インターロイキン1ファミリーに属する蛋白質である。インターロイキン1は、免疫の調節や炎症などにおける働きが知られているファミリーである。このうちIL-33は、IL-1ファミリーの受容体であるST2に特異的なリガンドであることが知られる。従来、IL-33によりST2が刺激されるとNF-κBおよびMAPKシグナル伝達経路が誘導されることが知られている。
IL-33は核因子及び炎症性サイトカインとしての機能を果たす二重機能タンパク質であり、核局在化及びヘテロクロマチンとの関連は、N末端ドメインによって媒介され、IL-33をNF-κB錯体のp65サブユニットの新規の転写調節因子として作用させる。C末端ドメインは、ST2受容体と結合し、かつ極性Th2細胞及びILC2細胞からの2型サイトカイン(例えばIL-5及びIL-13)の産生を活性化するとされる。
【0021】
IL-33により、気道や関節炎の炎症が上昇することから、IL-33はこれらの部位の炎症に関連すると考えられている。IL-33は、心筋に対しては保護作用があることも知られている。
【0022】
本実施形態の筋萎縮の治療剤の有効成分は、IL-33受容体のアゴニストもしくはリガンドでもあり得る。ここでIL-33受容体は、生体内でIL-33を受容し得る蛋白質成分を広く指す。
前記IL-33受容体は、特にST2であることが好ましい。ST2は、IL1RL1(インターロイキン1レセプターライク1)としても知られる、IL1受容体ファミリーの一種である。
【0023】
前記IL-33受容体のアゴニストもしくはリガンドは、ヒトやマウス、ラットなど種々の動物由来のIL-33リコンビナント蛋白質や、IL-33受容体のアゴニストもしくはリガンドとして作用しうるあらゆる物質を含む。
【0024】
本実施形態のIL-33、または、IL-33受容体のアゴニストもしくはリガンドは、これらの物質が化学修飾されたものでもよく、またこれらの物質と相同性を有する蛋白質であってもよい。さらに具体的には、後述するIL-33受容体と結合する活性を有する構造であることが好ましく、その範囲内で、適宜上述の物質の構造をもとに変更を加えることができる。
【0025】
本発明者らは、後述する実施例のように、IL-33の投与により筋萎縮が抑制されることを見出した。したがって、IL-33、またはIL-33と同様に、IL-33受容体と結合するアゴニストまたはリガンドは、筋萎縮の治療剤として、症状改善や予防を含む処置に用いることができる。
【0026】
筋萎縮の治療剤が用いる筋萎縮は、筋肉組織の萎縮を広く指す。筋萎縮としては、具体的には、傷病などによる筋肉の損傷、または、傷病や病的状態もしくはその治療経過に伴う筋肉組織の劣化・退行が生じ、その後、筋再生や筋肥大による回復が行われずまたは不十分により、筋肉が萎縮するものを指す。また、筋肉組織の萎縮が起こり得る各種疾病を指す。
筋再生や筋肥大による回復が行われずまたは不十分となる原因としては、遺伝や神経系統の傷病によるものや、加齢によるものが挙げられる。
筋萎縮は、サルコペニア(不動性の筋萎縮症)によるものであることも好ましい。サルコペニアは特に加齢による筋肉量の減少を指すことがあり、ヒトでは65歳以上で起こるものを指すことがある。
【0027】
前記筋萎縮は、筋組織において前記IL-33受容体の発現量が増加している状態であることも好ましい。
【0028】
前記筋萎縮は、筋萎縮症によるものであることも好ましい。筋萎縮症は、筋萎縮の症状、またはその症状を示す疾病を指す。筋萎縮症には、前述したように遺伝性や神経系統の傷病その他の要因により筋萎縮の症状を示す場合や、筋肉の長期の不使用による筋萎縮症が挙げられる。
【0029】
また、前記筋萎縮症は、廃用性筋萎縮症であることも好ましい。廃用性筋萎縮症は、筋肉を長期間使用しないことで生じる筋肉組織の萎縮である。筋肉を長期間使用しない原因としては傷病やその治療経過、加齢による行動頻度の低下などが挙げられる。
【0030】
前記有効成分に含まれる前記IL-33、またはIL-33受容体のアゴニストもしくはリガンドの含有割合が、80質量%以上、90質量%以上、または100質量%であることも好ましい。
本実施形態の筋萎縮の治療剤は、前記IL-33、またはIL-33受容体のアゴニストもしくはリガンド以外の成分も含むことができるが、前記IL-33、またはIL-33受容体のアゴニストもしくはリガンドのみを有効成分とする(単剤)でも効果を発揮することができる。
【0031】
[医薬組成物]
本実施形態の筋萎縮の治療剤は、筋萎縮の治療に好適に用いられる。すなわち、本実施形態の筋萎縮の治療剤に含まれる有効成分、または前記筋萎縮の治療剤は、筋萎縮の治療に使用される医薬組成物ということもできる。
また、筋萎縮の治療剤にその他の成分を含む医薬組成物とすることもできる。筋萎縮の治療のための医薬組成物は、その他、従来知られる医薬組成物が含有する各種の成分を適宜含んでいても良い。
【0032】
本実施形態の医薬組成物の形態は、特に限定されず、例えば、溶液、ゾル又はゲル等の分散体、粉末状とすることができる。前記医薬組成物は、例えば、錠剤、カプセル剤、エリキシル剤等の形態で経口的に、あるいは、注腸剤等の形態で非経口的に投与することができる。
【0033】
薬学的に許容される担体としては、通常医薬組成物の製剤に用いられるものを特に制限なく用いることができる。より具体的には、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴム等の結合剤;デンプン、結晶性セルロース等の賦形剤;アルギン酸等の膨化剤;水、エタノール、グリセリン等の溶剤等が挙げられる。
【0034】
医薬組成物は添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤;ショ糖、乳糖、サッカリン、マルチトール等の甘味剤;ペパーミント、アカモノ油等の香味剤;ベンジルアルコール、フェノール等の安定剤;リン酸塩、酢酸ナトリウム等の緩衝剤;安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等の溶解補助剤;酸化防止剤;防腐剤等が挙げられる。
【0035】
医薬組成物は、上述したプロテアソーム阻害剤、上述した薬学的に許容される担体及び添加剤を適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。
【0036】
医薬組成物の投与量は、患者の症状、体重、年齢、性別等によって異なり、一概には決定できないが、皮下投与の場合には、例えば、1日あたり、0.000001mg/kg体重~10mg/kg体重、好ましくは例えば0.00001~1mg/kg体重、より好ましくは0.0005~0.01mg/kg体重の有効成分を投与することが適切であると考えられる。
【0037】
(本実施形態の効果)
本実施形態の筋萎縮の治療剤によれば、筋萎縮の予防、症状の改善等の治療を有効に行うことができる。
【0038】
本発明者らは、実施例に示すように、FAPsが関与する骨格筋萎縮の分子機構の解明を試みた。具体的には、マウスを用いて、下肢固定モデルや、加齢モデルでの解析を行った。
【0039】
フローサイトメトリーにて骨格筋内のFAPsを単離し,遺伝子発現プロファイルをRNA-seqにて解析した。その結果、下肢固定モデルにおいては、骨格内IL-33の遺伝子と、その下流に位置するST2遺伝子の発現が有意に上昇することが明らかとなった。ST2蛋白質は、IL-33蛋白質の受容体である。一方、IL-33遺伝子の発現上昇は老年マウスでは抑制されており、加齢による廃用性筋萎縮の悪化に寄与していることが示唆された。
そこで、IL-33蛋白質および、その阻害剤として機能する可溶型のST2の蛋白質をマウスに投与し、筋萎縮に対する作用を検討したところ,可溶型のST2蛋白質を投与した若年・老年マウスでは筋萎縮が悪化する一方、IL-33蛋白質を投与した老年マウスでは筋萎縮の抑制が観察された。
【0040】
これらのその結果より、FAPsにおけるIL-33遺伝子シグナルは、筋萎縮を負に制御する(筋萎縮を抑制させる)ことが明らかとなった。また、老齢マウスではこのシグナルが低下しているため,廃用に伴う筋萎縮が過度に進行するものと考えられた。このことから、IL-33遺伝子は高齢者における廃用性筋萎縮症に対する有用な治療標的であることが示唆された。
【0041】
[筋萎縮の治療方法]
本実施形態の筋萎縮の治療剤は、前記有効成分を患者に有効量投与することを含む筋萎縮の治療方法に用いることができる。
【0042】
筋萎縮の治療方法は、前記筋萎縮の対象を治療する方法の他、筋萎縮を予防する方法、筋肉に関連する疾患の予後の処置方法などを広く含む。患者としては、人間、その他の動物のうち、前述した筋萎縮の対象、予防または予後の処置を行う対象を広く含む。
【0043】
治療対象となる動物としては、哺乳動物であることが好ましい。哺乳動物としては、例えば、ヒト、サル、マーモセット、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、シカ、アルパカ、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、モルモット、ラット、またはマウス等が挙げられる。中でも、ヒトが好ましい。
【0044】
前記有効成分を投与する有効量は、例えば、前述の医薬組成物としての投与量を目安に選ぶことができる。すなわち、有効量は患者の症状、体重、年齢、性別等によって異なり、一概には決定できないが、皮下投与の場合には、例えば、1日あたり、0.000001mg/kg体重~10mg/kg体重、好ましくは例えば0.00001~1mg/kg体重、より好ましくは0.0005~0.01mg/kg体重の有効成分を投与することが適切であると考えられる。
【0045】
[本実施形態の他の側面]
本実施形態の他の側面は、筋萎縮の治療における使用のためのIL-33、またはIL-33受容体のアゴニストもしくはリガンドを含む前記有効成分である。
また、本実施形態の他の側面は、筋萎縮の治療剤を製造するためのIL-33、またはIL-33受容体のアゴニストもしくはリガンドを含む前記有効成分の使用である。
前記有効成分の構成及び使用方法としては、上述したものから選択できる。
【実施例0046】
以下、実施例を示す。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0047】
[筋組織からの単細胞の単離]
下肢固定モデルマウスの作成は、マウスの下肢をワイヤーで固定することにより行った。下肢固定モデルマウスは、3日または2週間固定したものを準備した。その後、各下肢固定モデルマウスから下肢筋を採取し、血管などの組織を除去、組織を切断基材(鋏などの手動等)でミンスした。37℃下で計70分間、酵素(コラゲナーゼType2)処理を行い、赤血球可溶化バッファーにて赤血球を除去、その後の洗浄を行い、細胞試料を得た。
【0048】
ついで、前記細胞試料を細胞数1×10~3×10/溶液100μlの条件で抗体により染色した。抗体はFITC-CD31、FITC-CD45、PE-Pdgfra、PE/Cy7-Sca1、biotin-SM/C2.6(色素-抗原)を用い、FACS解析を行った。FACSのゲーティングでは死細胞除去、血球・内皮細胞除去、ダブレット除去の操作を順次行った。SM/C.2.6で単離した衛星細胞と、PdgfraとSca1で染色したFAPsを分離し、FAPsを中心に解析した。
【0049】
図1に、細胞数の変化の結果を示した。図1(a)にcell/weight FAPS(PDGFRα+、Sca-1+)、図1(b)にcell/weight SCsを示した。それぞれ♂♀混合、N=3-6、*=p<0.05である。横軸のNはコントロール(非固定)、3Dは3日固定、2Wは2週間固定の下肢固定モデルマウスを指す。また、8W、50W、80Wは、それぞれマウスの週齢であり、8週齢は若いマウスのサンプル、50週齢および80週齢は老齢のマウスのサンプルとした。
【0050】
図の結果より、下肢固定の週に応じてFAPsが増加し、Nと2Wでは有意差があるという結果がみられた。下肢固定によって筋萎縮が生じるので、筋萎縮に応じて、幹細胞の重量当たりの数が増加するという結果が得られた。また、若齢、老齢とも、筋萎縮により増加していた。また、加齢により数が減少しているという結果が得られた。
【0051】
[筋線維断面積測定]
前記と同様にNはコントロール(非固定)、3Dは3日固定、2Wは2週間固定の下肢固定モデルマウスを準備し、TA(前脛骨筋)を採取して凍結した。TAの近位端から2 mm遠位で10μmの断面の切片を作成した。ラミニンにより線維周囲を染色し、蛍光顕微鏡で撮影し画像解析ソフトフェア(Image J)にて断面に含まれる筋繊維断面積(CSA)を測定した。測定範囲は100-10000μmとした。
【0052】
図2に、TA(前脛骨筋)の断面から測定した、筋繊維の断面積のヒストグラムを示す。固定日数が大きいほど筋繊維の断面積が減少することが確認できる。すなわち、固定日数により筋萎縮が生じていることが確認できた。
【0053】
[FAPsからのRNA抽出]
前記組織から抽出した細胞を用いて、FAPsからのRNA抽出を行った。
図3(a)は解析の概略を示す。若齢(8W)、老齢(80W)の、それぞれnormal(非固定)、2Wは2週間固定の下肢固定モデルマウスを準備し、FAPsからRNAを抽出し、次世代RNAシークエンスにて解析した。
図3(b)は解析結果の概略を示す。Normalと2Wの間で、Log2で2以上(すなわち、4倍量以上)の変化を起こしているRNAを抽出すると、8Wのマウスについて611種、80Wのマウスについて985種のRNAが変化していた。8Wと80Wのマウスについて変化が重複しているRNA、すなわち若齢、老齢とも、筋萎縮により発現量が増加するRNAは、205種であった。
このうち、筋萎縮により増加しているRNAには、IL-33レセプターであるST2が含まれていた。
【0054】
IL-33およびST2の発現量について、TPMlog2変換の条件でRNA-seqを用いて解析した。
図4(a)に、IL-33について、図4(b)にIL1rL1(ST2)についてRNA-seqによる発現量の解析結果を示す。IL-33、ST2のいずれも、3Dにおいて発現量が上昇し、2WでもNormalに比べると上昇している。また、若齢(8W)、老齢(80W)の比較では、ST2は両方上昇しているが、IL-33は若齢の上昇がより大きかった。
【0055】
また、IL-33およびST2の発現量について、採取したTAからRNAを抽出し、cDNAを合成した後、Applied Biosystems 7300の機器でqPCRを用いて解析した。
図4(c)に、IL-33およびST2について、qPCRによる発現量の解析結果を示す。固定日数が3D~2Wの筋萎縮が起こっているマウスにおいて、有意差(N=2)をもって発現量の上昇が確認できた。
これらの結果から、IL-33およびその受容体であるST2は筋萎縮に強くかかわっていることが示唆された。
【0056】
[下肢固定モデルマウスへの薬剤投与試験]
筋萎縮のモデルである下肢固定モデルマウスに対して、IL-33およびST2を投与し、その影響を調べた。
IL-33投与群:recombinant IL-33 2μg/PBS100μl/回
sST2投与群:recombinant sST2 5μg/PBS100μl/回
Negative control群:PBS100μl
となるよう投与した。ここでsST2は可溶型としたST2を指し、血中などでIL-33をトラップすることでIL-33のアンタゴニストとして働くタンパク質である。
それぞれの群、また若齢(8W)と老齢(80W)の下肢固定モデルマウスに対して、週2回、上記の投与を行い、2週間(合計4回投与)の後、sacrificeした。
評価方法としてはTA(前脛骨筋)のCSA(筋線維断面積)測定を行った。
【0057】
図5(a)に若齢マウスのIL-33投与群のCSAの結果のグラフ図を示す。図5(b)に若齢マウスのST2投与群のCSAの結果グラフ図を示す。図はTA(前脛骨筋)の断面から測定した、筋繊維の断面積のヒストグラムである。筋繊維面積で100μm毎の区切りで分類し、区切りごとの線維数の全体に対する割合を表す(NC: negative control N=3, IL-33, ST2投与群 N=4)。
全体的に、下肢固定によりいずれもCSAが減少することが確認できる。ここで、コントロール(NC)と投与群との比較については、若齢マウスではIL-33投与による効果は見られず、ST2投与では減少傾向にあるという結果となった。
【0058】
図6(a)に老齢マウスのIL-33投与群のCSAの結果のグラフ図を示す。図6(b)に老齢マウスのST2投与群のCSAの結果グラフ図を示す。上記同様、図はTA(前脛骨筋)の断面から測定した、筋繊維の断面積のヒストグラムである。筋繊維面積で100μm毎の区切りで分類し、区切りごとの線維数の全体に対する割合を表す(NC: negative control N=3, IL33, ST2投与群 N=4)。
全体的に、下肢固定によりいずれもCSAが減少することが確認できる。ここで、2週間固定を行い(2W)PBSのみ投与したネガティブコントロールと、IL-33、ST2投与群との比較については、老齢マウスではIL-33投与による筋萎縮の予防効果が、ST2投与では筋萎縮が増悪するという効果がみられた。
【0059】
これらの結果から、若齢マウスではIL-33投与による効果は見られず、ST2投与では筋萎縮傾向がみられた。一方、老齢マウスではIL-33投与で萎縮の予防効果、sST2投与で萎縮の増悪を示唆された。ST2はIL-33の受容体であり、IL-33の阻害剤としても機能している。
これらの相互の関係から、加齢によるIL-33シグナルの低下が筋萎縮の増悪につながる可能性が示唆された。
IL-33、または類似の活性を持つ物質(例えばST2のリガンド、アゴニスト)は、外傷後や内科疾患での不動による筋萎縮予防への応用が考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、筋萎縮の予防、症状の改善等の治療を有効に行うことのできる筋萎縮の治療剤が得られる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6