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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020807
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】歯科用硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/851 20200101AFI20240207BHJP
   A61K 6/831 20200101ALI20240207BHJP
【FI】
A61K6/851
A61K6/831
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123272
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】593225172
【氏名又は名称】ネオ製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100175075
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 康子
(72)【発明者】
【氏名】小澤 雅宏
(72)【発明者】
【氏名】中山 隆博
(72)【発明者】
【氏名】御子柴 俊介
(72)【発明者】
【氏名】宮原 陽介
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089BA14
4C089BC20
4C089BE08
(57)【要約】
【課題】ポルトランドセメントの特性を維持しつつ、ヨードホルムの添加によりX線造影性と殺菌性を向上し、かつヨードホルムの分解による組成物の変色を抑えた歯科用硬化性組成物を提供する。
【解決手段】ポルトランドセメント、ヨードホルム、及び変色抑制剤として多価アルコールを含む歯科用硬化性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメント、ヨードホルム、及び変色抑制剤として多価アルコールを含む歯科用硬化性組成物。
【請求項2】
多価アルコールの配合割合が、歯科用硬化性組成物の総重量に対して0.01~15重量%である、請求項1に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項3】
多価アルコールの配合割合が、歯科用硬化性組成物の総重量に対して0.3~9重量%である、請求項2に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項4】
ポルトランドセメント配合割合が、歯科用硬化性組成物の総重量に対して50~90重量%である、請求項1に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項5】
ヨードホルムの配合割合が、歯科用硬化性組成物の総重量に対して10~50重量%である、請求項1に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項6】
多価アルコールが、常温で液体の2価または3価アルコールである、請求項1~5のいずれか一項に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項7】
多価アルコールが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール400、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール400、ポリプロピレングリコール1000、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、及びブチレングリコールから選ばれる一以上である、請求項6に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項8】
多価アルコールが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ブチレングリコール、ジグリセリン、及びポリグリセリンから選ばれる一以上である、請求項7に記載の歯科用硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用硬化性組成物に関する。詳しくは、ポルトランドセメント、ヨードホルム、及び変色抑制剤として多価アルコールを含む歯科用硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、MTA(Mineral Trioxide Aggregate:ミネラル三酸化物)の名称で用いられている歯科用硬化性組成物は、ポルトランドセメントを主成分とする歯科用セメントである。これらは、水と混和することで水和反応により硬化し、得られた硬化体は、優れた硬組織形成能、生体親和性、殺菌性(強アルカリ:pH12)、高い辺縁封鎖性、高い機械的強度、並びにX線造影性を示す。そのため、アペキシフィケーション、パルプキャッピング、歯髄切断法、根管充填、歯根穿孔修復、歯の修復など多岐にわたって歯科処置に用いられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポルトランドセメント粉末及び無機微粉末を含有する歯科用セメント組成物が記載されている。また、特許文献2には、ポルトランドセメント粉末に、造影剤粉末、及び粉末状混和剤を含有する粉末状歯科用セメント組成物が記載されている。
【0004】
一般に、歯科処置において、歯の中に適用された歯科材料は外から目視できず、歯科用X線診断装置で撮影することで治療過程を確認している。ポルトランドセメント単独ではX線造影性が乏しいため、市販のMTAには造影剤として酸化ビスマスまたは酸化ジルコニウムなどが含まれている。これらの造影剤の欠点の1つに、抗菌性がないことが挙げられる。一方、抗菌性を有する造影剤にはヨードホルムがあり、ポルトランドセメントに混合することにより、市販のMTAと同等のX線造影性が得られ、さらに酸化ビスマスや酸化ジルコニウムにはない効果として、ポルトランドセメントに歯科処置において有効な殺菌性を付与することができる。歯科材料へのヨードホルム配合は、カルビタールやビタペックス(ネオ製薬工業社製)で実用化されているが、ポルトランドセメントに、ヨードホルムを混合すると、ポルトランドセメントのアルカリ成分によりヨードホルムが徐々に分解され、生成したヨウ素により歯科用硬化性組成物の変色が起こるという問題があり、実用化されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6368206号
【特許文献2】特許第6209655号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ポルトランドセメントの特性を維持しつつ、ヨードホルムの添加によりX線造影性と殺菌性を向上し、かつヨードホルムの分解による組成物の変色を抑えた歯科用硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、以下の[1]~[8]である。
[1]ポルトランドセメント、ヨードホルム、及び変色抑制剤として多価アルコールを含む歯科用硬化性組成物。
[2]多価アルコールの配合割合が、歯科用硬化性組成物の総重量に対して0.01~15重量%である、[1]に記載の歯科用硬化性組成物。
[3]多価アルコールの配合割合が、歯科用硬化性組成物の総重量に対して0.3~9重量%である、[2]に記載の歯科用硬化性組成物。
[4]ポルトランドセメント配合割合が、歯科用硬化性組成物の総重量に対して50~90重量%である、[1]~[3]のいずれかに記載の歯科用硬化性組成物。
[5]ヨードホルムの配合割合が、歯科用硬化性組成物の総重量に対して10~50重量%である、[1]~[4]のいずれかに記載の歯科用硬化性組成物。
[6]多価アルコールが、常温で液体の2価または3価アルコールである、[1]~[5]のいずれかに記載の歯科用硬化性組成物。
[7]多価アルコールが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール400、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール400、ポリプロピレングリコール1000、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、及びブチレングリコールから選ばれる一以上である、[6]に記載の歯科用硬化性組成物。
[8]多価アルコールが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ブチレングリコール、ジグリセリン、及びポリグリセリンから選ばれる一以上である、[7]に記載の歯科用硬化性組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、ポルトランドセメントの特性を維持しつつ、ヨードホルムの添加によりX線造影性と殺菌性を向上し、かつヨードホルムの分解による組成物の変色を抑えた歯科用硬化性組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。本明細書において、「%」は「重量%」を示すものとする。
【0010】
本発明の歯科用硬化性組成物は、ポルトランドセメント、ヨードホルム、及び変色抑制剤として多価アルコールを含む。
【0011】
本発明において使用するポルトランドセメントは、主としてケイ酸三カルシウム(3CaO・SiO2)、ケイ酸二カルシウム(2CaO・SiO2)、アルミン酸カルシウム(3CaO・Al2O3)、硫酸カルシウム(CaSO4)から構成されている。ポルトランドセメントとしては、例えば、歯科用ポルトランドセメントを用いることができる。本発明において、歯科用硬化性組成物におけるポルトランドセメントの配合割合は、特に限定されないが、歯科用硬化性組成物の総重量に対して50~90%、または60~80%とすることができる。
【0012】
本発明において使用するヨードホルムの配合割合は、特に限定されないが、歯科用硬化性組成物における総重量に対して10~50%、または20~40%とすることができる。このような割合でヨードホルムを含有することにより、歯科用硬化性組成物を硬化して得られる硬化体として必要なX線造影性と、機械的強度(圧縮強さ)を担保することができる。
【0013】
本発明の歯科用硬化性組成物は、変色抑制剤として多価アルコールを含む。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、及びマンニトールを挙げることができる。
【0014】
本発明で用いる多価アルコールは、変色抑制効果の点から、常温で液体の、2価または3価の多価アルコールを使用することが好ましく、このような多価アルコールとして、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール400、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール400、ポリプロピレングリコール1000、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、及びブチレングリコールを挙げることができる。これらのうち、変色抑制の観点から、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、及びブチレングリコール、またはエチレングリコール、ジエチレングリコール、及びプロピレングリコールが好ましい。
【0015】
本発明の歯科用硬化性組成物において、多価アルコールの配合割合は、特に限定されないが、例えば、歯科用硬化性組成物の総重量に対して0.01~15%、0.3~9%、または1~4%とすることができる。このような配合割合で多価アルコールを含むことにより、歯科用硬化性組成物を硬化して得られる硬化体として必要な機械的強度(圧縮強さ)を担保することができる。
【0016】
本発明の歯科用硬化性組成物は、ポルトランドセメント、ヨードホルム、及び多価アルコールの他、増粘剤などの公知の添加剤をさらに含んでも良い。
【0017】
また、本発明の歯科用硬化性組成物は、各粉末成分を混合したものに多価アルコールを分散することにより製造することができ、歯科処置に用いる際に水と混和する。
【実施例0018】
以下に具体的な実施形態を挙げて本発明を説明するが、本発明はその実施形態に限定されるものではなく、それらにおける様々な変更及び改変が当業者によって、添付の特許請求の範囲に規定される本発明の範囲または趣旨から逸脱することなく実行され得ることが理解される。
【0019】
実施例1~20、及び比較例1
多価アルコールによる変色抑制、多価アルコールの配合量による変色抑制、及びヨードホルムの配合量に対する多価アルコールによる変色抑制について、実験A~Cにより評価した。各例に用いた組成物の組成、及び結果を表1に示す。
【0020】
<実験A:多価アルコールによる変色抑制>
ポルトランドセメント69%、ヨードホルム30%、常温で液体の多価アルコール1%を含む歯科用硬化性組成物を製造し、80℃で5時間放置後に色差計(日本電色工業社製)にて色差ΔE00を測定した。ΔE00の値が小さいほど変色が抑制されていることを示す。
【0021】
<実験B:多価アルコールの配合量による変色抑制>
多価アルコールとしてプロピレングリコールを用い、配合量を変化させて変色抑制効果を評価した。歯科用硬化性組成物の製造及びΔE00の測定は、実験Aと同様にして行った。
【0022】
<実験C:ヨードホルムの配合量と多価アルコールによる変色抑制>
プロピレングリコール1%に対し、ポルトランドセメント49~89%、ヨードホルム10~50%を含む歯科用硬化性組成物を製造し、実験Aと同様に変色抑制効果を評価した。
【0023】
【表1】
【0024】
実施例21~25
<実験D-1:プロピレングリコール含有硬化体の機械的強度(圧縮強さ)>
歯科用硬化性組成物を水と混合(練和)して硬化体を作製して、機械的強度を評価して市販品との比較を行い、本発明の組成物が、変色抑制効果を有するだけでなく、歯科材料として必要な機械的強度(圧縮強さ)を有していることを確認した。
【0025】
ポルトランドセメント75~80%、ヨードホルム20%、プロピレングリコール0~5%を含む歯科用硬化性組成物を製造し、JIS T 6609-1:2005の附属書D(規定)圧縮強さ試験方法を参考に以下の操作手順で試験を行った。
作製した歯科用硬化性組成物と水を練和して金型(4φ×6mm)に充填し、37℃97%RH下で24時間放置により硬化体を作製した。この硬化体の直径を0.001mmの精度まで測定し、万能試験機(製品名:オートグラフ、島津製作所社製)で、クロスヘッドスピード0.75mm/minで硬化体が破壊するまで荷重を加えた。圧縮強さは次の式より求めた。
k=4F/πd
k:圧縮強さ(MPa)、F:最大荷重(N)、d:硬体の直径(mm)
【0026】
プロピレングリコールは歯科用硬化性組成物全体の1~4%以下で、同様の歯科処置に使用される歯科用硬化性組成物であるプロルートMTA(デンツプライ社製)と同等の70MPa以上の圧縮強さが確認された。
【0027】
【表2】
【0028】
実施例26、及び参考例1
<実験D-2:プロピレングリコール含有硬化体の特性>
歯科用硬化性組成物の機械的強度、寸法変化率、pH、X線造影性、及び硬化時間を評価し、本発明の組成物が、変色抑制効果を有するだけでなく、市販の歯科材料と同等の特性を有していることを確認した。
【0029】
実施例26として、ポルトランドセメント67.9%、ヨードホルム30%、プロピレングリコール1%、公知の増粘剤1.1%を含む歯科用硬化性組成物を製造した。また、参考例1として、プロルートMTA(デンツプライ社製)を歯科用硬化性組成物として用いた。各評価の結果は表3に示す。
【0030】
<機械的強度(圧縮強さ)>
実施例26、及び参考例1の歯科用硬化性組成物と水を練和し、実施例21と同様の方法により、圧縮強さを測定した。ただし、37℃97%RH下での放置時間を24時間から1週間に変更して硬化体を作製した。
【0031】
<寸法変化率>
実施例26、及び参考例1の歯科用硬化性組成物と水を練和して金型(4φ×6mm)に充填し、37℃97%RH下で1週間放置して硬化体を作製した。この硬化体の高さを0.001mmの精度まで測定し、Lとし、次に、硬化体を精製水に浸漬して37℃で30日間放置した。放置後の硬化体の高さを0.001mmの精度まで測定し、L30として、次の式より寸法変化率を求めた。
寸法変化率(%)=(L30-L)/L×100
【0032】
<pH>
実施例26、及び参考例1の歯科用硬化性組成物と水を練和して金型(4φ×6mm)に充填し、37℃97%RH下で24時間放置により硬化体を作製した。この硬化体を40mL精製水に浸漬して37℃で1週間放置後にpHメーター及び電極(ともに堀場製作所社製)を用いてpHを測定した。
【0033】
<X線造影性>
実施例26、及び参考例1の歯科用硬化性組成物と水を練和してステンレス製リング(内径10φ×1mm)に充填し、試験片とする。X線機器(ソフテックス社製)を用いて、試験片とアルミニウムステップ板を同時に撮影した後、得られた試験片画像からアルミニウム板の厚さ相当値を求め、これをX線造影性とした。
【0034】
<硬化時間>
JIS T 6522を基に以下の操作手順で試験を行った。実施例26、及び参考例1の歯科用硬化性組成物と水を練和してステンレス製リング(内径10φ×2mm)に充填し、37℃97%RH下で放置した。一定の時間間隔でビカー針(2φ、100g)を練和物の水平面に垂直に下ろし、ビカー針の痕跡を確認し、痕跡が残らなくなるまでこの操作を行った。練和終了から痕跡が残らなくなるまでの時間を硬化時間とした。
【0035】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明により、ポルトランドセメントの特性を維持しつつ、ヨードホルムの添加によりX線造影性と殺菌性を向上し、かつヨードホルムの分解による組成物の変色を抑えた歯科用硬化性組成物を提供することが可能となる。