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特開2024-20833特性推定装置、推定モデル生成装置、特性推定方法、推定モデル生成方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020833
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】特性推定装置、推定モデル生成装置、特性推定方法、推定モデル生成方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/204 20190101AFI20240207BHJP
   G01N 23/04 20180101ALI20240207BHJP
   G06Q 50/04 20120101ALI20240207BHJP
   G01N 23/2251 20180101ALI20240207BHJP
【FI】
G01N33/204
G01N23/04
G06Q50/04
G01N23/2251
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123312
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】林 宏太郎
(72)【発明者】
【氏名】笹尾 和宏
(72)【発明者】
【氏名】岡澤 健介
【テーマコード(参考)】
2G001
2G055
5L049
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA07
2G001BA11
2G001BA15
2G001CA01
2G001CA03
2G055AA03
2G055BA05
2G055BA14
2G055BA15
2G055EA08
5L049CC03
(57)【要約】
【課題】鉄鋼材料の特性を推定する。
【解決手段】鉄鋼材料の特徴を表す鋼材情報を取得する鋼材情報取得部と、前記鉄鋼材料の使用条件を取得する使用条件取得部と、前記鋼材情報及び使用条件を入力として、前記鉄鋼材料の特性に係る値を出力するように学習させた推定モデルに、前記鋼材情報取得部により取得された鋼材情報及び前記使用条件取得部により取得された使用条件を入力することで、前記鉄鋼材料の特性に係る値を推定する推定部と、を備える鉄鋼材料の特性推定装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼材料の特徴を表す鋼材情報を取得する鋼材情報取得部と、
前記鉄鋼材料の使用条件を取得する使用条件取得部と、
前記鋼材情報及び使用条件を入力として、前記鉄鋼材料の特性に係る値を出力するように学習させた推定モデルに、前記鋼材情報取得部により取得された鋼材情報及び前記使用条件取得部により取得された使用条件を入力することで、前記鉄鋼材料の特性に係る値を推定する推定部と、
を備える鉄鋼材料の特性推定装置。
【請求項2】
前記鋼材情報取得部は、前記鉄鋼材料の組織に関する情報である組織情報を取得し、
前記使用条件取得部は、前記鉄鋼材料に対して行われた加工の条件である加工条件を取得し、
前記推定部は、鉄鋼材料の組織情報及び加工条件を入力として、鉄鋼材料の機械的特性に係る値を出力するように学習させた推定モデルに、前記鋼材情報取得部により取得された組織情報及び前記使用条件取得部により取得された加工条件を入力することで、前記鉄鋼材料の機械的特性に係る値を推定する、
を備える請求項1に記載の鉄鋼材料の特性推定装置。
【請求項3】
前記鋼材情報取得部は、前記組織情報として前記鉄鋼材料の画像から抽出された特徴量を取得する、
請求項2に記載の鉄鋼材料の特性推定装置。
【請求項4】
前記特徴量は、前記鉄鋼材料を異なる倍率で撮像した複数の画像から抽出された特徴量である、
請求項3に記載の鉄鋼材料の特性推定装置。
【請求項5】
前記加工条件は、前記鉄鋼材料の熱処理に関する条件である、
請求項2に記載の鉄鋼材料の特性推定装置。
【請求項6】
前記加工条件は、熱処理の温度を含む、
請求項5に記載の鉄鋼材料の特性推定装置。
【請求項7】
前記加工条件は、熱処理後の冷却条件を含む、
請求項5に記載の鉄鋼材料の特性推定装置。
【請求項8】
前記加工条件は、熱処理後の時効条件を含む、
請求項5に記載の鉄鋼材料の特性推定装置。
【請求項9】
鉄鋼材料の組織情報及び加工条件を入力サンプルとし、前記鉄鋼材料の機械的特性に係る値を出力サンプルとするデータセットを取得するデータセット取得部と、
前記データセットを用いて、鉄鋼材料の組織情報及び加工条件から鉄鋼材料の機械的特性に係る値を求める推定モデルのパラメータを更新する、推定モデル更新部と、
パラメータが更新された前記推定モデルを出力する、推定モデル出力部と、
を備える推定モデル生成装置。
【請求項10】
鉄鋼材料の組織に関する情報である組織情報を取得する材料組織情報取得ステップと、
前記鉄鋼材料に対して行われた加工の条件である加工条件を取得する加工条件取得ステップと、
鉄鋼材料の組織情報及び加工条件を入力として、鉄鋼材料の機械的特性に係る値を出力するように学習させた推定モデルに、前記材料組織情報取得ステップにより取得された組織情報及び前記加工条件取得ステップにより取得された加工条件を入力することで、前記鉄鋼材料の機械的特性に係る値を推定する推定ステップと、
を有する鉄鋼材料の特性推定方法。
【請求項11】
鉄鋼材料の組織情報及び加工条件を入力サンプルとし、前記鉄鋼材料の機械的特性に係る値を出力サンプルとするデータセットを取得するデータセット取得ステップと、
前記データセットを用いて、鉄鋼材料の組織情報及び加工条件から鉄鋼材料の機械的特性に係る値を求める推定モデルのパラメータを更新する、推定モデル更新ステップと、
パラメータが更新された前記推定モデルを出力する、推定モデル出力ステップと、
を有する推定モデル生成方法。
【請求項12】
コンピュータに請求項10に記載の方法を実行させるためのプログラム。
【請求項13】
コンピュータに請求項11に記載の方法を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特性推定装置、推定モデル生成装置、特性推定方法、推定モデル生成方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼材料の強度及び伸びなどの特性は、鋼板を使用して製品を設計する上で重要な特性である。例えば、鉄鋼材料の特性を予測する手法として、特許文献1では、画像解析と機械学習により、引張強度を予測する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6747391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、鉄鋼材料の寸法や時間などの制約から、鉄鋼材料の試験片を採取し試験を行うことが難しいことがある。
本発明の目的は、上述した課題を解決する鉄鋼材料の特性推定装置、鉄鋼材料の特性推定モデル生成装置、鉄鋼材料の特性推定方法、鉄鋼材料の特性推定モデル生成方法、およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、鉄鋼材料の組織に関する情報である組織情報を取得する材料組織情報取得部と、前記鉄鋼材料に対して行われた加工の条件である加工条件を取得する加工条件取得部と、鉄鋼材料の組織情報及び加工条件を入力として、鉄鋼材料の機械的特性に係る値を出力するように学習させた推定モデルに、前記材料組織情報取得部により取得された組織情報及び前記加工条件取得部により取得された加工条件を入力することで、前記鉄鋼材料の機械的特性に係る値を推定する推定部と、を備える鉄鋼材料の特性推定装置である。
【0006】
本発明の一態様は、鉄鋼材料の組織情報及び加工条件を入力サンプルとし、前記鉄鋼材料の機械的特性に係る値を出力サンプルとするデータセットを取得するデータセット取得部と、前記データセットを用いて、鉄鋼材料の組織情報及び加工条件から鉄鋼材料の機械的特性に係る値を求める推定モデルのパラメータを更新する、推定モデル更新部と、パラメータが更新された前記推定モデルを出力する、推定モデル出力部と、を備える推定モデル生成装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、鉄鋼材料の特性を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施形態に係る特性推定装置1の構成を示す図である。
図2】第1の実施形態に係る特性推定装置1の動作を示すフローチャートである。
図3】第1の実施形態に係る推定モデル生成装置2の構成を示す図である。
図4】第1の実施形態に係る推定モデル生成装置2の動作を示すフローチャートである。
図5】各推定モデルによる推定結果の平均絶対誤差を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
《特性推定装置の構成》
図1は、第1の実施形態に係る特性推定装置1の構成を示す図である。
特性推定装置1は、鋼材情報取得部10、使用条件取得部12、記憶部14、推定部16、推定結果出力部18を備える。特性推定装置1は、鋼材情報及び使用条件に基づいて、鉄鋼材料の特性を推定する。
【0010】
鋼材情報取得部10は、鉄鋼材料の特徴を表す鋼材情報を取得する。鋼材情報は、例えば、鉄鋼材料の組織に関する情報(組織情報)を取得する。鋼材情報は、例えば鉄鋼材料の化学組成に関する情報である。組織情報は、例えば鉄鋼材料の金属組織分率に関する情報である。
【0011】
組織情報は、鉄鋼材料の組織に関する画像から抽出された特徴量であってもよい。鉄鋼材料の組織に関する画像は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の電子顕微鏡を用いて撮影された鉄鋼材料の組織写真である。より具体的には、鉄鋼材料の画像は、例えば、鉄鋼材料から適当な寸法の試験片を切り出して、その断面を研磨・腐食させたものを電子顕微鏡で拡大し撮影した画像(写真)である。鉄鋼材料の組織に関する画像は、EBSDやEPMAのマッピング画像など、材料の結晶構造、組成、方位などの情報を示す画像であってもよい。
【0012】
また、組織情報は、異なる倍率で撮像された鉄鋼材料の複数の組織写真から抽出された特徴量であってもよい。倍率は例えば、500~1500倍及び3000倍~10000倍である。500~1500倍の画像は鉄鋼材料のベイナイトとマルテンサイトの組織分率を示し、抽出された特徴量はベイナイトとマルテンサイトの組織分率に関する情報を含む。3000倍~10000倍の画像は鉄鋼材料のベイナイトラス間のセメンタイトと焼き戻しマルテンサイトラス内部のセメンタイトを示し、抽出された特徴量はベイナイトラス間のセメンタイトと焼き戻しマルテンサイトラス内部のセメンタイトに関する情報を含む。
【0013】
抽出された特徴量は、鉄鋼材料の組織に関する画像を入力として当該画像の特徴量を抽出する特徴量抽出モデルに鉄鋼材料の組織に関する画像を入力することで出力される。特徴量抽出モデルは、例えばデータセットを用いてオートコンバータなどにより学習されたモデルである。
【0014】
使用条件取得部12は、鉄鋼材料の使用条件を取得する。鉄鋼材料の使用条件は、例えば、鉄鋼材料に対して行われた加工の条件に関する情報(加工条件情報)である。加工条件は例えば加工の種類である。加工の種類は例えば熱処理、溶接、プレス、圧延である。加工条件とは例えば熱処理の条件である。熱処理の条件は、例えば熱処理の温度、熱処理後の冷却条件、熱処理後の時効条件である。熱処理の温度は例えば、熱間加工温度である。熱処理後の冷却条件は例えば熱間加工後の中間空冷温度である。熱処理後の時効条件は例えば熱間加工後の時効温度である。熱処理の条件は、鉄鋼材料の転位密度や微細析出物の大きさなど、画像から抽出するのが難しい特徴を示す。鉄鋼材料の使用条件が加工条件情報であるとき、組織情報は、加工後の鉄鋼材料の組織に関する画像から抽出された特徴量又は加工前の鉄鋼材料の組織に関する画像から抽出された特徴量である。
【0015】
例えば、熱処理の温度は熱処理時にベイナイトとマルテンサイトの転位が生じるため、ベイナイトとマルテンサイトの転位密度に関する情報を含むが、ベイナイトとマルテンサイトの転位密度に関する情報は画像に表れにくく、画像から抽出した特徴量には含まれにくい。
【0016】
また、熱処理後の冷却条件は冷却時にTi系、Nb系炭化物及びV系炭化物が析出するため、鉄鋼材料のTi系及びNb系炭化物のサイズ分布に関する情報を含む。Ti系及びNb系炭化物のサイズ分布は当該鉄鋼材料の割れ伝播に影響するため、熱処理後の冷却条件は鉄鋼材料の機械的特性に関する情報を含む。
【0017】
また、熱処理後の時効条件は、鉄鋼材料のマルテンサイトの微細析出物体積率や内部応力に関する情報を含む。微細析出物体積率に関する情報は、微細であるため組織情報を得るために撮像される画像から得ることができない。マルテンサイトの微細析出物体積率や内部応力は当該鉄鋼材料の割れの発生に影響するため、熱処理後の時効条件は鉄鋼材料の機械的特性に関する情報を含む。
【0018】
記憶部14は、推定モデルを記憶する。推定モデルは、鋼材情報取得部10により取得された鋼材情報及び使用条件取得部12により取得された使用条件を入力として、鉄鋼材料の特性に係る値の推定値を出力するモデルである。鉄鋼材料の特性に係る値は、例えば、鉄鋼材料の機械的特性に係る値である。鉄鋼材料の機械的特性に係る値は、例えば鉄鋼材料の耐割れ特性、強度特性、伸び特性である。
【0019】
推定部16は、記憶部14に記憶される推定モデルに、鋼材情報取得部10により取得された鋼材情報及び使用条件取得部12により取得された使用条件を入力することで、推定モデルに鉄鋼材料の特性に係る値の推定値を出力させる。
【0020】
推定結果出力部18は、推定部16による推定結果を外部に出力する。推定結果は、例えばディスプレイなどに出力され、ディスプレイに表示される。
【0021】
《特性推定装置の動作》
図2は、第1の実施形態に係る特性推定装置1の動作を示すフローチャートである。
作業者は、特性推定装置1の機能を実行する前に、特性推定装置1が鋼材情報及び使用条件情報を取得できるようにしておく、作業者は、特性推定装置1に特性推定機能の実行指示を入力する。特性推定装置1が特性推定機能を実行すると、鋼材情報取得部10が、鋼材情報を取得する(ステップS101)。使用条件取得部12が、使用条件情報を取得する(ステップS102)。推定部16が鋼材情報及び使用条件情報に基づき鉄鋼材料の特性に係る値を推定する(ステップS103)。推定結果出力部18が、推定部16により推定された結果を出力する(ステップS104)。
【0022】
《推定モデル生成装置の構成》
図3は、第1の実施形態に係る推定モデル生成装置2の構成を示す図である。推定モデル生成装置2は、データセット取得部20、推定モデル更新部22、推定モデル出力部24とを備える。推定モデル生成装置2は、特性推定装置1の記憶部14に記憶される推定モデルを生成する。
【0023】
データセット取得部20は、鋼材情報、使用条件情報を入力サンプルとし、鉄鋼材料の特性に係る値を出力サンプルとするデータセットを取得する。データセットは例えば1つの鉄鋼材料に対応する鋼材情報、使用条件情報及び特性に係る値が結び付けられたデータセットである。
【0024】
推定モデル更新部22は、データセット取得部20により取得されるデータセットを用いて、鋼材情報及び使用条件情報から特性に係る値を求める推定モデルのパラメータを更新する。推定モデル更新部22は、複数のデータセットを用いて複数回推定モデルのパラメータを更新してもよい。例えば、推定モデル更新部22は、バギングやブースティングと呼ばれる手法により特徴量、硬さに係る値及び機械的特性に係る値から複数の決定木を作成し、複数の決定木から解を得る推定モデルを作成する。なお、他の実施形態に係る推定モデルは、ニューラルネットワークモデルなどの他の機械学習モデルであってもよい。
【0025】
推定モデル出力部24は、推定モデル更新部22によりパラメータが更新された推定モデルを出力する。推定モデル出力部24は、推定モデルを例えば特性推定装置1に出力する。推定モデルは特性推定装置1に入力され、記憶部14に記憶される。
【0026】
《推定モデル生成装置の動作》
図4は、第1の実施形態に係る推定モデル生成装置2の動作を示すフローチャートである。
データセット取得部20が、データセットを取得する(ステップS201)。推定モデル更新部22が、推定モデルを更新する(ステップS202)。推定モデル出力部24が、推定モデルを出力する(ステップS203)。
【0027】
このようにして推定モデル生成装置2により生成された推定モデルに、特性推定装置1は鉄鋼材料の鋼材情報及び使用条件情報を入力することで、鉄鋼材料の特性を推定する。例えば鉄鋼材料の画像から抽出される鋼材情報に含まれる組織情報は、鉄鋼材料のマルテンサイトやベイナイトなどの組織の体積率や分布の特徴を示すと考えられ、機械的特性と関連する。使用条件情報に含まれる加工条件情報は、鉄鋼材料の組織情報から得られず、画像から抽出した特徴量から得ることが難しい。一方で、加工条件情報は加工時に加工条件を記録するなどにより容易に取得することができる。また、加工条件情報は鉄鋼材料の転位密度や微細析出物の大きさに関連すると考えられ、機械的特性と関連する。本実施形態における推定モデルには、鋼材情報と使用条件による特徴を反映させることができ、鉄鋼材料の機械的特性をより精度よく推定することができる。
【0028】
〈実験例〉
以下において、推定モデルの評価実験について説明する。
本実験において使用した鉄鋼材料における鉄及び不純物を除く元素の質量パーセントは、C:0.06%~0.12%、Si:0.2%~1.0%、Mn:1.8%~2.4%、P:0.007%~0.018%、S:0.0005%~0.0022%、sol.Al:0.022%~0.043%、Ti:0.03%~0.15%、Nb:0~0.05%であった。また、鉄鋼材料に対して行われた加工は、熱処理であり、開始温度が800℃~1000℃、熱処理後の放冷時間が0.5秒~10秒、熱処理後の時効温度が50℃~300℃の範囲で行った。その後、鉄鋼材料から画像を取得するための試験片(組織観察用試験片)と対割れ試験値を測定するための試験片(対割れ用試験片)を作製した。
【0029】
組織観察用試験片をナイタールで腐食させ、腐食した試料断面を1000倍及び5000倍の倍率でSEMにより撮像することで、鉄鋼材料の画像を取得した。また、対割れ用試験片に直径10mmの円孔を作製し、円孔を円錐ポンチで拡げ、円孔縁が割れるときの円孔の直径を測定した。対割れ試験値tはt=100×(d-d)/dと算出した。ここでdは円孔縁が割れるときの円孔の直径であり、dは最初に作製した円孔の直径(10mm)である。
【0030】
本実験において5種類の推定モデルを生成した。推定モデルの生成には、24セットのデータセットを使用した。データセットは、鉄鋼材料の1000倍画像、5000倍画像、対割れ試験値、加工条件が結び付けられたデータセットである。データセットの中でどのデータを使用して推定モデルを生成するかは推定モデルの種類により異なる。加工条件情報として熱処理の温度として熱間加工温度、熱処理後の冷却条件として熱間加工後の中間空冷温度、熱処理後の時効条件として熱間加工後の時効温度を使用した。
【0031】
推定モデルAは、画像から抽出された1000個の特徴量を入力として、対割れ試験値を出力する推定モデルである。推定モデルBは、加工条件として熱間加工温度、熱間加工後の中間空冷温度、熱処理後の時効条件の3個の特徴量を入力として、対割れ試験値を出力する推定モデルである。推定モデルCは、画像から抽出された1000個の特徴量及び加工条件として熱間加工温度、熱間加工後の中間空冷温度、熱処理後の時効条件の3個の特徴量の計1003個の特徴量を入力として、対割れ試験値を出力する推定モデルである。推定モデルDは、画像から抽出された1000個の特徴量及び加工条件として熱間加工温度の1個の特徴量の計1001個の特徴量を入力として、対割れ試験値を出力する推定モデルである。推定モデルEは、推定モデルCと同様に、画像から抽出された1000個の特徴量及び加工条件として熱間加工温度、熱間加工後の中間空冷温度、熱処理後の時効条件の3個の特徴量の計1003個の特徴量を入力として、対割れ試験値を出力する推定モデルであるが、使用する画像が推定モデルCと異なる。
【0032】
以下、画像から1000個の特徴量を抽出する特徴量抽出モデルである推定モデルAについて説明する。初めに1000倍及び5000倍の倍率で撮像した2枚の画像からそれぞれ縦224ピクセル、横224ピクセルの15枚の画像をランダムに抽出する。その後、抽出した各15枚の画像に対して回転や反転操作によりデータ拡張を行い、倍率ごと900枚の画像を生成した。
【0033】
その後、倍率ごと900枚の画像の計1800枚の画像を入力サンプルとし、対割れ試験値を出力サンプルとするデータセットを使用して、特徴量抽出モデル及び推定モデルAのパラメータを更新した。推定モデルAは畳み込み層を3層有する畳み込みニューラルネットワークモデルであり、畳み込み層の最終層により抽出される特徴量の数は1000個である。
【0034】
推定モデルBの生成においては、当該鉄鋼材料加工時に記録された加工条件情報としての熱間加工温度、熱間加工後の中間空冷温度、熱間加工後の時効温度を入力サンプルとし、対割れ試験値を出力サンプルとするデータセットを使用して、推定モデルBのパラメータを更新した。推定モデルBは、入力変数3つ、隠れ層1つのニューラルネットワークモデルである。
【0035】
推定モデルCの生成においては、推定モデルAにより抽出される特徴量1000個に加え加工条件情報として熱間加工温度、熱間加工後の中間空冷温度、熱間加工後の時効温度を入力サンプルとし、対割れ試験値を出力サンプルとするデータセットを使用して、推定モデルCのパラメータを更新した。
【0036】
推定モデルDは、推定モデルAにより抽出される特徴量1000個に加え加工条件情報として熱間加工温度を入力サンプルとし、対割れ試験値を出力サンプルとするデータセットを使用して、推定モデルDのパラメータを更新した。
【0037】
推定モデルEの生成においては、初めに1000倍の倍率で撮像した2枚の画像からそれぞれ縦224ピクセル、横224ピクセルの15枚の画像のランダムに抽出する。その後、抽出した各15枚の画像に対して回転や反転操作によりデータ拡張を行い、900枚の画像を生成した。
【0038】
推定モデルEは畳み込み層を3層有する畳み込みニューラルネットワークモデルであり、畳み込み層の最終層により抽出される特徴量の数は1000個である。
【0039】
推定モデルを生成した後、5つのデータセットを使用して、各推定モデルの推定性能を評価した。推定性能の評価には、データセットに含まれる測定された対割れ試験値と推定された対割れ試験値との差である絶対誤差の平均値(平均絶対誤差)を使用した。図5が各推定モデルによる推定結果の平均絶対誤差を示す図である。説明変数として加工条件を含む推定モデルCの方が、推定モデルAよりも平均絶対誤差が小さく、より正確に対割れ試験値を推定することができた。また、説明変数として鉄鋼材料の画像つまり鉄鋼材料の組織情報を含む推定モデルCの方が、推定モデルBよりも平均絶対誤差が小さく、より正確に対割れ試験値を推定することができた。また、推定モデルDは、加工条件として熱間加工温度のみを使用して生成したが、推定モデルA及びBよりも平均絶対誤差が小さく、加工条件の情報量が少ない場合であっても正確に対割れ試験値を推定することができた。また、推定モデルEは使用した画像は少なく、推定モデルCよりは平均絶対誤差が大きいが、推定モデルA及びBよりも平均絶対誤差が小さく、より正確に対割れ試験値を推定することができた。
【0040】
〈他の実施形態〉
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【0041】
鋼材情報として、組織情報以外にも、平均化学組成、マクロな外観画像、溶接部の残留応力、めっきや表面塗膜の種類や厚みであってもよい。
加工条件として鉄鋼材料の熱処理に関する条件について説明したが、これに限られない。例えば加工条件として鉄鋼材料の溶接条件、プレス条件又は圧延条件が含まれていてもよい。溶接条件は例えば溶接電流の大きさである。プレス条件は例えば荷重の大きさである。圧延条件は例えば圧延時の温度である。
推定される特性としては、上記に挙げた鋼材特性と使用条件に応じて、機械特性の他に、疲労寿命、耐食性であってもよい。
【0042】
上述した実施形態における特性推定装置1及び推定モデル生成装置2の一部又は全部をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記録装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものを含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。また、特性推定装置1及び推定モデル生成装置2の一部または全部は、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 特性推定装置、10 鋼材情報取得部、12 使用条件取得部、14 記憶部、16 推定部、18 推定結果出力部、2 推定モデル生成装置、20 データセット取得部、22 推定モデル更新部、24 推定モデル出力部
図1
図2
図3
図4
図5