(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020836
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】トングレールの製造方法
(51)【国際特許分類】
E01B 7/02 20060101AFI20240207BHJP
【FI】
E01B7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123319
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】三輪 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】藤川 浩理
(57)【要約】
【課題】交換周期を伸ばすことができるトングレールの製造方法を提供する。
【解決手段】本開示は、鉄道の分岐器を構成する基本レールの側面に接触するように構成されたトングレールの製造方法である。トングレールの製造方法は、トングレールの形状を決定する工程を備える。決定する工程では、トングレールの頂面の幅を、分岐器における鉄道車両の車輪の横動遊間が、分岐器に接続される一般軌道における車輪の横動遊間以上となる大きさとする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道の分岐器を構成する基本レールの側面に接触するように構成されたトングレールの製造方法であって、
前記トングレールの形状を決定する工程を備え、
前記決定する工程では、前記トングレールの頂面の幅を、前記分岐器における鉄道車両の車輪の横動遊間が、前記分岐器に接続される一般軌道における前記車輪の横動遊間以上となる大きさとする、トングレールの製造方法。
【請求項2】
前記トングレールは、
前記基本レールの側面に接触するように構成された第1面と、
前記基本レールの幅方向において前記第1面の反対側に設けられた第2面と、
を有し、
前記決定する工程では、前記第2面を前記トングレールの頂面から連続する平面とする、請求項1に記載のトングレールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トングレールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の分岐路は、基本レールと、転轍機によって操作されるトングレールとによって構成される(特許文献1参照)。トングレールは、軌道の切り替えに伴って基本レールと接触する位置と、基本レールから離れた位置とに移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トングレールには、鉄道車両の車輪との接触により摩耗が発生する。そのため、トングレールは一定の周期で交換が必要である。トングレールの交換周期を伸ばすには、トングレールの頂部の幅を大きくすることが考えられるが、トングレールの安易な形状変更は車両の安全走行に影響を及ぼす。
【0005】
本開示の一局面は、交換周期を伸ばすことができるトングレールの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、鉄道の分岐器を構成する基本レールの側面に接触するように構成されたトングレールの製造方法である。トングレールの製造方法は、トングレールの形状を決定する工程を備える。決定する工程では、トングレールの頂面の幅を、分岐器における鉄道車両の車輪の横動遊間が、分岐器に接続される一般軌道における車輪の横動遊間以上となる大きさとする。
【0007】
このような構成によれば、安全走行への影響を避けつつ、トングレールの頂部の幅を最大化することができる。なお、例えば、特許第2554987号、特開2007-169997号公報、「分岐器の構造と保守」(佐藤泰生著、第2版、平成23年6月10日、p38-41)、「分岐器とEJ」(北方常治著、昭和48年8月30日、p84-91)等に開示されるように、これまでのトングレールの設計思想では横動遊間を用いる着想は存在しない。
【0008】
本開示の一態様では、トングレールは、基本レールの側面に接触するように構成された第1面と、基本レールの幅方向において第1面の反対側に設けられた第2面と、を有してもよい。決定する工程では、第2面をトングレールの頂面から連続する平面としてもよい。このような構成によれば、トングレールの成形コストが低減できると共に、トングレールの頂部における応力集中を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1Aは、実施形態における基本レール及びトングレールの模式的な平面図であり、
図1Bは、
図1Aのトングレールの模式的な側面図である。
【
図3】
図3は、実施形態におけるトングレールの製造方法を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、鉄道車両の車輪の中心軸を含む仮想面における模式的な部分断面図である。
【
図5】
図5は、基本レール、トングレール及びフランジを示す模式的な部分断面図である。
【
図6】
図6は、フランジのトングレールに対する左右変位を示す模式的な断面図である。
【
図7】
図7は、フランジの対向基本レールに対する左右変位を示す模式的な断面図である。
【
図8】
図8は、
図2Bとは異なる実施形態におけるトングレールの模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
本実施形態のトングレールの製造方法は、
図1A及び
図1Bに示すトングレール20を得る目的で実施される。
【0011】
<トングレール>
トングレール20は、鉄道の軌道における分岐器に設けられる。分岐器は、軌道を分岐させる構造物である。分岐路は、基本レール10と、トングレール20と、転轍機(図示省略)とを備える。
【0012】
基本レール10は、分岐器において固定されたレールである。
図1Aでは、1つの基本レール10のみが図示されているが、分岐器は、この基本レール10と対となる対向基本レールを有する。
【0013】
トングレール20は、基本レール10に対し移動可能なレールである。
図1Aでは、1つのトングレール20のみが図示されているが、分岐器は、このトングレール20と対となる対向トングレールを有する。
【0014】
トングレール20は、基本レール10にレール幅方向内側から接触するように構成された連結端20Aを有する。トングレール20は、転轍機によって連結端20Aが基本レール10に接触する位置と、連結端20Aが基本レール10から離れた位置とに移動する。トングレール20の高さは、連結端20Aから離れるにつれて大きくなる。
【0015】
図2Aに示すように、トングレール20は、第1面21と、第2面22と、頂面23とを有する。
【0016】
第1面21は、トングレール20のレール幅方向外側の側面を構成している。第1面21は、基本レール10の側面11に接触するように構成されている。第1面21は、下方に向かうに連れてレール幅方向外側に向かうように傾斜した平面である。基本レール10の側面11は、基本レール10のトングレール20が接触する部位に設けられた傾斜面である。側面11は、第1面21と平行な平面である。
【0017】
第1面21は、頂面23の幅方向内側の端から基本レール10の側面11の下方まで延伸している。第1面21の水平方向に対する第1傾斜角度Θ1は、例えば約72°である。なお、第1面21は、必ずしも水平方向に対し傾斜している必要はなく、鉛直面であってもよい。
【0018】
第2面22は、トングレール20のレール幅方向内側の側面を構成している。第2面22は、基本レール10の幅方向(つまりレール幅方向)において第1面21の反対側に設けられている。第2面22は、下方に向かうに連れてレール幅方向内側に向かう(つまり基本レール10から離れる)ように傾斜した平面である。
【0019】
第2面22は、頂面23の幅方向内側の端から鉄道車両の車輪(つまりフランジ)の下端が通過する位置よりも下方まで延伸している。第2面22の水平方向に対する第2傾斜角度Θ2は、例えば、79°以上81°以下である。
【0020】
頂面23は、トングレール20の最上面を構成している。頂面23は、水平方向と略平行な平面である。
【0021】
トングレール20の幅(つまり、第1面21と第2面22との水平方向の距離)は、頂面23から下方に向かって大きくなっている。また、
図1Aに示すように、頂面23の幅は、連結端20Aから離れるに連れて大きくなっている。
【0022】
<トングレールの製造方法>
本実施形態のトングレールの製造方法は、
図3に示すように、決定工程S10と、成形工程S20とを備える。
【0023】
<決定工程>
本工程では、トングレール20の形状を決定する。具体的には、トングレール20の断面形状に含まれる第2面22及び頂面23の形状を決定する。
【0024】
第2面22の形状決定では、
図4に示す鉄道車両の車輪101が有するフランジ102Bの形状を用いる。車輪101は、円環状のリム部102と、リム部102の内側に配置された円盤状の板部103とを備える。リム部102は、踏面102Aと、フランジ102Bとを有する。
【0025】
図5に示すように、踏面102Aは、基本レール10の最上面に接触する。フランジ102Bは、トングレール20における頂面23と第2面22との連結部(つまり頂面23の内縁)に接触する。フランジ102Bのトングレール20との接触部Pは、摩耗によって削られる。
【0026】
接触部Pの水平方向に対する第3傾斜角度φは、摩耗によって一定の範囲に収斂する。第3傾斜角度φは、フランジ102Bの内側の面(つまりレールとの対向面)のうち
図5において直線と見なせる部分の水平方向に対する角度である。フランジ102Bの内側の面に直線と見なせる部分が複数含まれる場合には、これらの部分の水平方向に対する角度のうち、最も大きいものを第3傾斜角度φとする。第3傾斜角度φは、例えば73°である。
【0027】
本工程では、接触部Pの水平方向に対する傾斜角度φに基づいて、第2面22の水平方向に対する第2傾斜角度Θ2を決定する。すなわち、第2傾斜角度Θ2を第3傾斜角度φの最大値以上としつつ、できるだけ第3傾斜角度φの最大値に近づけた(つまり小さくした)値とする。具体的には、本工程では、第2面22の水平方向に対する第2傾斜角度Θ2を73°以上81°以下とする。
【0028】
また、本工程では、第2面22を頂面23から連続する平面として設計する。さらに、本工程では、頂面23の幅を、分岐器における鉄道車両の車輪の横動遊間が、分岐器に接続される一般軌道における車輪の横動遊間以上となる大きさとする。
【0029】
横動遊間は、鉄道車両の直線静止状態における、フランジとレールとの間の水平方向の隙間の大きさである。分岐器における横動遊間は、
図6に示す鉄道車両の一方の車輪101におけるフランジ102Bのトングレール20に対する左右変位D1と、
図7に示す他方の車輪101におけるフランジ102Bの対向基本レール30に対する左右変位D2との和である。なお、対向トングレール40は、対向基本レール30の内側に配置されている。
【0030】
左右変位D1,D2は、車輪101とレールとの接触幾何学を用いて求められる(例えば、「鉄道車両のダイナミクスとモデリング」(日本機械学会、初版、2017年12月1日、p38-47)参照)。
【0031】
一般軌道における横動遊間は、鉄道車両の左右1対の車輪それぞれにおけるフランジの一般軌道を構成するレールに対する左右変位の和である。一般軌道における左右変位は、分岐器における左右変位と同様の手順で求められる。
【0032】
<成形工程>
本工程では、トングレール用の鋼材を、常法の切削等によって決定工程S10で決定した形状に成形する。これにより、トングレール20が得られる。
【0033】
[1-2.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)トングレール20の頂面23の幅を、分岐器における鉄道車両の車輪の横動遊間が、分岐器に接続される一般軌道における車輪の横動遊間以上となる大きさとすることで、安全走行への影響を避けつつ、トングレール20の頂部の幅を最大化することができる。
【0034】
(1b)第2面22をトングレール20の頂面23から連続する平面とすることで、トングレール20の成形コストが低減できると共に、トングレール20の頂部における応力集中を抑制できる。
【0035】
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0036】
(2a)上記実施形態のトングレールの製造方法において、
図8に示すように、トングレール20の第1面21と頂面23との間に鉛直方向と略平行な第1鉛直面24を設けてもよい。また、第2面22と頂面23との間に鉛直方向と略平行な第2鉛直面25を設けてもよい。すなわち、トングレール20は、頂部のレール幅方向内側及び/又は外側に段差を有してもよい。
【0037】
(2b)上記実施形態のトングレールの製造方法において、必ずしもフランジのトングレールとの接触部の水平方向に対する傾斜角度に基づいて第2面の傾斜角度を決定しなくてもよい。
【0038】
(2c)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0039】
10…基本レール、11…側面、20…トングレール、20A…連結端、
21…第1面、22…第2面、23…頂面、24…第1鉛直面、
25…第2鉛直面、30…対向基本レール、40…対向トングレール、101…車輪、
102…リム部、102A…踏面、102B…フランジ、103…板部。