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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020854
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/336 20060101AFI20240207BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20240207BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20240207BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
H01L29/78 658A
H01L29/78 652T
H01L29/78 652C
H01L29/78 652F
H01L21/265 601A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123354
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大川 峰司
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 健太
(57)【要約】
【課題】 GaN系半導体基板内におけるマグネシウムの拡散距離を制御する。
【解決手段】 半導体装置の製造方法であって、GaN系半導体基板に不活性元素または電子線を注入する工程と、前記GaN系半導体基板にマグネシウムを注入する工程と、前記GaN系半導体基板を熱処理する工程を有する。不活性元素または電子線を注入する前記工程における最も深い注入深さD1(nm)からDref=D1+140nmの数式により算出される基準深さDrefが、マグネシウムを注入する前記工程における最も深い注入深さD2(nm)よりも深い。前記熱処理の後に、前記基準深さDrefの位置でマグネシウム濃度が所定減少率で深い側に向かうほど減少している。前記所定減少率が、深さ300nmあたりにマグネシウム濃度が1/10となる減少率よりも小さい。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置の製造方法であって、
GaN系半導体基板(12)に不活性元素または電子線を注入する工程と、
前記GaN系半導体基板にマグネシウムを注入する工程と、
不活性元素または電子線を注入する前記工程とマグネシウムを注入する前記工程の実施後に、前記GaN系半導体基板を熱処理する工程、
を有し、
前記GaN系半導体基板の表面において、不活性元素または電子線の注入範囲である第1注入範囲(Rn)とマグネシウムの注入範囲である第2注入範囲(Rmg)とが重複しており、
不活性元素または電子線を注入する前記工程における最も深い注入深さD1(nm)からDref=D1+140nmの数式により算出される基準深さDrefが、マグネシウムを注入する前記工程における最も深い注入深さD2(nm)よりも深く、
前記熱処理の後に、前記第1注入範囲と前記第2注入範囲が重複する範囲内の深さ方向におけるマグネシウム濃度の分布において、前記基準深さDrefの位置でマグネシウム濃度が所定減少率で深い側に向かうほど減少しており、
前記所定減少率が、深さ300nmあたりにマグネシウム濃度が1/10となる減少率よりも小さい、
製造方法。
【請求項2】
不活性元素または電子線を注入する前記工程では、前記GaN系半導体基板にN、Ga、Ar、H、Heの少なくとも1つを注入する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記表面において、前記第2注入範囲が前記第1注入範囲に含まれており、
不活性元素または電子線を注入する前記工程におけるドーズ量DS1、前記第1注入範囲の面積S1、マグネシウムを注入する前記工程におけるドーズ量DS2、及び、前記第2注入範囲の面積S2が、DS1・S1>DS2・S2の関係を満たす、
請求項1または2の製造方法。
【請求項4】
前記熱処理における熱処理温度が1300℃以上である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理の後に、前記表面のうちの前記第2注入範囲の外部であって前記第1注入範囲の内部の範囲がチャネル領域(24a)となるようにゲート電極(42)を形成する工程をさらに有する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記チャネル領域内のマグネシウム濃度が、マグネシウムを注入する前記工程でマグネシウムが注入された領域内のマグネシウム濃度の10%以上である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記熱処理の後に、マグネシウムを注入する前記工程でマグネシウムが注入された領域(24mg)を除去してその下部のp型領域を露出させる工程と、
露出させた前記p型領域がチャネル領域となるようにゲート電極(42)を形成する工程、
をさらに有する請求項1または2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、半導体装置の製造方法に関する。
【0002】
特許文献1には、GaN系半導体基板内にp型半導体層を形成する技術が開示されている。この技術では、GaN系半導体基板にマグネシウムを注入した後にGaN系半導体基板を熱処理する。熱処理を実施すると、GaN系半導体基板の内部でマグネシウムが活性化する。その結果、GaN系半導体基板の内部にp型半導体層が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-155468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マグネシウムを活性化するための熱処理において、GaN系半導体基板の内部でマグネシウムが拡散する。マグネシウムの拡散距離は熱処理条件等によって大きく変化するため、マグネシウムの拡散距離を制御することは難しい。このため、特許文献1の製造方法では、p型半導体層の形状を制御することが困難であった。本明細書では、GaN系半導体基板内におけるマグネシウムの拡散距離を従来よりも正確に制御する技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
半導体装置の製造方法であって、GaN系半導体基板に不活性元素または電子線を注入する工程と、前記GaN系半導体基板にマグネシウムを注入する工程と、不活性元素または電子線を注入する前記工程とマグネシウムを注入する前記工程の実施後に前記GaN系半導体基板を熱処理する工程、を有する。前記GaN系半導体基板の表面において、不活性元素または電子線の注入範囲である第1注入範囲とマグネシウムの注入範囲である第2注入範囲とが重複している。不活性元素または電子線を注入する前記工程における最も深い注入深さD1(nm)からDref=D1+140nmの数式により算出される基準深さDrefが、マグネシウムを注入する前記工程における最も深い注入深さD2(nm)よりも深い。前記熱処理の後に、前記第1注入範囲と前記第2注入範囲が重複する範囲内の深さ方向におけるマグネシウム濃度の分布において、前記基準深さDrefの位置でマグネシウム濃度が所定減少率で深い側に向かうほど減少している。前記所定減少率が、深さ300nmあたりにマグネシウム濃度が1/10となる減少率よりも小さい。
【0006】
なお、GaN系半導体基板に不活性元素または電子線を注入する工程と、GaN系半導体基板にマグネシウムを注入する工程は、いずれを先に実施してもよい。
また、GaN系半導体基板は、GaN(すなわち、窒化ガリウム)を主成分とする半導体基板を意味する。例えば、GaN系半導体基板は、GaN、AlGaN、InGaN、AlInGaN等によって構成されていてもよい。
また、上記減少率が小さいことは、より急激な割合でマグネシウム濃度が減少することを意味する。言い換えると、上記減少率が小さいことは、より急な傾きでマグネシウム濃度が減少することを意味する。例えば、300nmあたりにマグネシウム濃度が1/20となる減少率は、300nmあたりにマグネシウム濃度が1/10となる減少率よりも小さい。なお、上記減少率は、深さをD(nm)とし、マグネシウムの濃度をP(cm-3)とし、底を10とする濃度Pの対数値をlog10Pとしたときに、dD/dlog10Pにより表すことができる。すなわち、上記減少率は、深さDを対数値log10Pで微分した値である。すなわち、「前記所定減少率が、深さ300nmあたりにマグネシウム濃度が1/10となる減少率よりも小さい」は、dD/dlog10P<300であることを意味する。
また、上記不活性元素は、GaN系半導体基板に注入されたときにアクセプタとしてもドナーとして機能しない元素を意味する。
【0007】
GaN系半導体基板に不活性元素または電子線を注入する工程(以下、第1注入工程という)では、その注入領域内に結晶欠陥が形成される。結晶欠陥は不活性元素または電子線が注入された深さとその周辺に形成される。GaN系半導体基板においては、第1注入工程における最も深い注入深さD1に対して、Dref=D1+140nmとなる基準深さDrefよりも深い位置まで結晶欠陥が形成される。基準深さDrefでは、深い側に向かうほど結晶欠陥密度が急速に減少している。GaN系半導体基板にマグネシウムを注入する工程(以下、第2注入工程という)では、基準深さDrefよりも浅い範囲にマグネシウムが注入される。第1注入工程と第2注入工程の実施後にGaN系半導体基板を熱処理すると、GaN系半導体基板内でマグネシウムが拡散する。このとき、第1注入工程で結晶欠陥が形成された領域(すなわち、基準深さDrefよりも浅い領域)ではマグネシウムが速く拡散する。他方、結晶欠陥が形成された領域と結晶欠陥が形成されていない領域の界面ではマグネシウムの拡散が抑制される。このため、熱処理工程において結晶欠陥が形成されている領域内で十分にマグネシウムを拡散させると、マグネシウムの拡散領域の端部を基準深さDrefの位置近傍に制御することができる。この場合、基準深さDrefの位置でマグネシウム濃度が非常に小さい減少率で深い側に向かうほど減少している分布が得られる。より具体的には、基準深さDrefの位置におけるマグネシウム濃度の減少率が、深さ300nmあたりにマグネシウム濃度が1/10となる減少率よりも小さい減少率となる。以上に説明したように、この製造方法によれば、マグネシウムの拡散領域の端部を基準深さDrefの位置近傍に制御することができ、マグネシウムの拡散距離のばらつきを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】半導体装置10の断面図。
図2】ドリフト層形成工程の説明図。
図3】N注入工程の説明図。
図4】深さ方向におけるN濃度分布を示すグラフ。
図5】実施例1のMg注入工程の説明図。
図6】GaN系半導体基板を上から見たときのMg注入範囲とN注入範囲の平面図。
図7】実施例1の熱処理工程の説明図。
図8】熱処理工程前のMg濃度分布を示すグラフ。
図9】熱処理工程後のMg濃度分布を示すグラフ。
図10】ゲート絶縁膜とゲート電極の形成工程の説明図。
図11】熱処理温度を変更したときのMg濃度分布を示すグラフ。
図12】実施例2のMg注入工程の説明図。
図13】実施例2の熱処理工程の説明図。
図14】実施例2のMg注入領域を除去する工程の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書が開示する一例の製造方法では、不活性元素または電子線を注入する前記工程では、前記GaN系半導体基板にN、Ga、Ar、H、Heの少なくとも1つを注入してもよい。
【0010】
本明細書が開示する一例の製造方法では、前記表面において、前記第2注入範囲が前記第1注入範囲に含まれていてもよい。不活性元素または電子線を注入する前記工程におけるドーズ量DS1、前記第1注入範囲の面積S1、マグネシウムを注入する前記工程におけるドーズ量DS2、及び、前記第2注入範囲の面積S2が、DS1・S1>DS2・S2の関係を満たしてもよい。
【0011】
本明細書が開示する一例の製造方法では、前記熱処理における熱処理温度が1300℃以上であってもよい。
【0012】
この構成によれば、第1注入工程における注入領域の界面によるMgの拡散抑制効果をより確実に得ることができる。
【0013】
本明細書が開示する一例の製造方法では、前記熱処理の後に、前記表面のうちの前記第2注入範囲の外部であって前記第1注入範囲の内部の範囲がチャネル領域となるようにゲート電極を形成する工程をさらに有していてもよい。
【0014】
なお、チャネル領域は、ゲート電極にゲート閾値以上の電位が印加されたときに反転層(すなわち、チャネル)が形成される半導体領域を意味する。この構成によれば、結晶欠陥が少ない領域をチャネル領域とすることができ、チャネル抵抗を低減することができる。
【0015】
本明細書が開示する一例の製造方法では、前記チャネル領域内のマグネシウム濃度が、マグネシウムを注入する前記工程でマグネシウムが注入された領域内のマグネシウム濃度の10%以上であってもよい。
【0016】
本明細書が開示する一例の製造方法では、前記熱処理の後に、マグネシウムを注入する前記工程でマグネシウムが注入された領域を除去してその下部のp型領域を露出させる工程と、露出させた前記p型領域がチャネル領域となるようにゲート電極を形成する工程、をさらに有していてもよい。
【0017】
この構成によれば、結晶欠陥が少ない領域をチャネル領域とすることができ、チャネル抵抗を低減することができる。
【0018】
図1は、実施例の製造方法により製造される半導体装置10を示している。半導体装置10は、GaN系半導体基板12を有している。GaN系半導体基板12の内部に、ドレイン層20、ドリフト層22、複数のボディ層24、及び、複数のソース層26が設けられている。ドレイン層20は、n型層であり、GaN系半導体基板12の下面12bを含む範囲に配置されている。ドリフト層22は、ドレイン層20よりもn型不純物濃度が低いn型層である。ドリフト層22は、ドレイン層20の上部に配置されている。複数のボディ層24は、p型層であり、ドリフト層22の上部に配置されている。各ボディ層24は、GaN系半導体基板12の上面12aを部分的に含む範囲に配置されている。各ボディ層24は間隔を空けて配置されている。以下では、各ボディ層24の間の間隔部を窓部23という。窓部23には、ドリフト層22が配置されている。窓部23内で、ドリフト層22は上面12aまで伸びている。各ソース層26は、n型層であり、対応するボディ層24の内部に配置されている。各ソース層26は、上面12aを部分的に含む範囲に配置されている。各ソース層26は、対応するボディ層24によってドリフト層22から分離されている。
【0019】
GaN系半導体基板12の上部には、ゲート絶縁膜40、ゲート電極42、層間絶縁膜44、及び、ソース電極46が設けられている。ゲート絶縁膜40は、1つのソース層26の上面から他のソース層26の上面まで伸びている。ゲート絶縁膜40は、2つのソース層26の間において、ボディ層24の上面と窓部23内のドリフト層22の上面を覆っている。ゲート電極42は、ゲート絶縁膜40の上部に配置されている。ゲート電極42は、ゲート絶縁膜40を介して、ソース層26、ボディ層24、及び、窓部23内のドリフト層22に対向している。層間絶縁膜44は、ゲート電極42を覆っている。ソース電極46は、層間絶縁膜44とGaN系半導体基板12の上面12aを覆っている。ソース電極46は、各ソース層26と各ボディ層24に電気的に接続されている。
【0020】
GaN系半導体基板12の下部には、ドレイン電極48が設けられている。ドレイン電極48は、ドレイン層20と電気的に接続されている。
【0021】
半導体装置10の使用時には、ドレイン電極48にソース電極46よりも高い電位が印加される。ゲート電極42にゲート閾値以上の電位を印加すると、ゲート絶縁膜40の下部のボディ層24(すなわち、窓部23とソース層26の間のボディ層24の表層部)にチャネルが形成される。以下では、ボディ層24のうちのチャネルが形成される部分を、チャネル領域24aという。チャネル領域24aにチャネルが形成されると、ソース層26から、チャネル、ドリフト層22を介してドレイン層20へ電子が流れ、半導体装置10がオンする。
【0022】
次に、半導体装置10の製造方法について説明する。最初に、従来の半導体装置10の製造方法について説明する。
【0023】
(従来の製造方法)
半導体装置10は、ドレイン層20によって構成されているGaN系半導体基板から製造される。まず、図2に示すように、ドレイン層20上にドリフト層22をエピタキシャル成長させる。次に、ドリフト層22の表層部にMg(すなわち、マグネシウム)を注入する。次に、GaN系半導体基板12を熱処理し、GaN系半導体基板12内でMgを拡散させるとともに活性化させる。MgはGaN系半導体基板12内でp型不純物として機能するので、Mgが拡散した範囲内にp型のボディ層24が形成される。その後、従来公知の方法によって、図1のように、ソース層26、ゲート絶縁膜40、ゲート電極42、層間絶縁膜44、ソース電極46、及び、ドレイン電極48を形成する。これにより、半導体装置10が完成する。
【0024】
従来の製造方法では、熱処理工程におけるMgの拡散距離を制御することが難しい。これにより、以下の問題が生じる。
【0025】
Mgの拡散距離が長いほど、ボディ層24が厚くなり、窓部23の縦方向の長さが長くなる。窓部23の縦方向の長さが長くなると、窓部23の抵抗が大きくなり、半導体装置10のオン抵抗が大きくなる。したがって、Mgの拡散距離のばらつきが大きいと、窓部23の抵抗のばらつきが大きくなり、半導体装置10のオン抵抗のばらつきが大きくなる。
【0026】
また、Mgの拡散距離が長い場合には、ボディ層24よりも下側まで拡散した少量のMgがドリフト層22とドレイン層20の界面に偏析する場合がある。ドリフト層22とドレイン層20の界面にMgの偏析層が形成されると、半導体装置10のオン抵抗が高くなる。したがって、Mgの拡散距離のばらつきが大きいと、偏析層の影響によって半導体装置10のオン抵抗のばらつきが大きくなる。
【0027】
また、Mgの拡散距離が長いほど、ボディ層24の表層部におけるp型不純物濃度が低くなり、チャネル領域24aのp型不純物濃度が低くなる。チャネル領域24aのp型不純物濃度が低いと、ゲート閾値(すなわち、チャネルを形成するために必要なゲート電位)が低くなる。したがって、Mgの拡散距離のばらつきが大きいと、ゲート閾値のばらつきが大きくなる。
【0028】
以上の通り、従来の製造方法ではMgの拡散距離を制御することが難しく、その結果、半導体装置10のオン抵抗及びゲート閾値のばらつきが大きくなる。
【0029】
(実施例1の製造方法)
実施例1の製造方法でも、図2に示すように、ドレイン層20上にドリフト層22をエピタキシャル成長させる。次に、N注入工程を実施する。N注入工程では、図3に示すように、GaN系半導体基板12の上面12aにN(すなわち、窒素)をイオン注入する。ここでは、図示しないマスクを用いてNの注入範囲を限定する。以下では、上面12aのうちのNの注入範囲を、注入範囲Rnという。ここでは、上面12aのうちのボディ層24を形成する予定の範囲にNをイオン注入する。また、上面12aのうちの窓部23を形成する予定の範囲にはNをイオン注入しない。本実施例では、Nの注入エネルギーEnを変更しながら複数回Nをイオン注入することで、ボディ層24に対応する深さ範囲全体にNをイオン注入する。このようにGaN系半導体基板12にNを注入することで、GaN系半導体基板12内にN注入領域24nを形成する。GaN系半導体基板12にNを注入すると、その注入領域に結晶欠陥が形成される。したがって、N注入領域24nは、N注入工程によって結晶欠陥が形成された領域である。なお、GaN系半導体基板12においては、チャネルングをしない条件(例えば、チルト角7°、ツイスト角15°)において、Nを注入するときの加速エネルギーEn(keV)とNの注入深さDn(nm)は、下記の数式の関係を満たす。
Dn=-4.03×10-4En+1.41En-13.8
なお、注入深さDnは、Nが停止する平均の深さである。GaN系半導体基板12に注入エネルギーEnで注入されたNは、注入深さDnを中心にその周辺に分布する。
【0030】
図4のグラフGは、N注入工程においてGaN系半導体基板12に注入されたNの濃度分布を示している。図4の横軸は注入深さを示しており、原点は上面12aの位置を示している。なお、GaN系半導体基板12自体がNを有しているので、注入されたNの濃度分布であるグラフGを実測することは困難である。グラフGは、N注入工程における注入エネルギーEnに基づいて算出したものである。また、上述したように、GaN系半導体基板12にNが注入されると、GaN系半導体基板12内に結晶欠陥が形成される。グラフGは、N注入工程においてGaN系半導体基板中に形成された結晶欠陥の分布に対応する。
【0031】
上述したように、N注入工程では注入エネルギーEnを変更しながら複数回Nをイオン注入する。このため、GaN系半導体基板12の表層部では、Nが比較的高い濃度で比較的均一な濃度で分布している。また、図4の深さD1は、N注入工程における最も深い注入深さを示している。また、図4の基準深さDrefは、Dref=D1+140nmの数式により算出した深さである。図4に示すように、基準深さDrefの位置では、Nの濃度が深い側に向かうに従って急激に減少している。すなわち、基準深さDrefでは、結晶欠陥の密度が深い側に向かうに従って急激に減少している。このように、N注入工程における最も深い注入深さD1からNの濃度が急速に減少している基準深さDrefを算出することが可能である。図3では、基準深さDrefの位置を、N注入領域24nの下端として示している。
【0032】
次に、Mg注入工程を実施する。Mg注入工程では、図5に示すように、GaN系半導体基板12の上面12aにMgをイオン注入する。ここでは、図示しないマスクを用いてMgの注入範囲を限定する。以下では、上面12aのうちのMgの注入範囲を、注入範囲Rmgという。ここでは、図6に示すように、上面12aにおいて、Nの注入範囲RnとMgの注入範囲Rmgが重複するようにMgをイオン注入する。本実施例では、注入範囲Rmgは注入範囲Rnよりも小さく、注入範囲Rmgが注入範囲Rnに含まれている。ここでは、Mgの注入深さを変更しながら複数回Mgをイオン注入してもよいし、一定の深さにMgをイオン注入してもよい。このようにGaN系半導体基板12にMgを注入することで、GaN系半導体基板12内にMg注入領域24mgを形成する。図5に示すように、ここでは、基準深さDrefよりも浅い位置にMgをイオン注入する。以下では、Mg注入工程における最も深い注入深さを、注入深さD2という。図5に示すように、注入深さD2は、基準深さDrefよりも浅い。
【0033】
なお、N注入工程におけるNの注入量は、Mg注入工程におけるMgの注入量以上とすることができる。なお、Nの注入量は、N注入工程におけるドーズ量DS1とN注入工程における注入範囲Rnの面積S1との積により表すことができる。また、Mgの注入量は、Mg注入工程におけるドーズ量DS2とMg注入工程における注入範囲Rmgの面積S2との積により表すことができる。すなわち、DS1・S1>DS2・S2の関係を満たすようにN及びMgの注入量を調節することができる。
【0034】
N注入工程とMg注入工程の実施後に、熱処理工程を実施する。本実施例では、GaN系半導体基板12を1300℃以上の温度で熱処理する。GaN系半導体基板12を熱処理すると、GaN系半導体基板12の内部でMgが拡散するとともに活性化する。すなわち、Mg注入領域24mg内のMgがその周辺に拡散する。N注入領域24n内ではMgが拡散し易い。また、N注入領域24nとNが注入されていない領域の界面ではMgの拡散が抑制される。このため、図7に示すように、N注入領域24n内に、p型のボディ層24が形成される。
【0035】
図8、9は、図7の直線A-Aの位置におけるMgの濃度分布を示している。すなわち、図8、9は、N注入範囲RnとMg注入範囲Rmgとが重複している位置から深さ方向に測定したMgの濃度分布を示している。図8は熱処理工程前の分布を示しており、図9は熱処理工程後の分布を示している。図8、9のグラフA~Cは、実施例1の製造方法を実施した場合のMgの濃度分布を示している。図8、9のグラフGは、N注入工程で注入されたNの濃度分布を示している。すなわち、図8、9のグラフGは、図4のグラフGと等しい。図8、9のグラフDは、比較例として、N注入工程を行わない場合のMgの濃度分布を示している。グラフA~Dは、実験により実測した値である。上述したように、グラフGは、N注入工程における注入エネルギーEnに基づいて算出したグラフである。
【0036】
図8に示すように、グラフAは、Mg注入工程において表層部の狭い範囲に高濃度でMgが注入された場合を示している。グラフBは、Mg注入工程においてグラフAよりも広い範囲にグラフAよりも低い濃度でMgが注入された場合を示している。グラフCは、Mg注入工程においてグラフBよりもさらに広い範囲にグラフBよりもさらに低い濃度でMgが注入された場合を示している。また、図8に示すように、熱処理工程前においては、グラフCとグラフDは略等しい。
【0037】
図9に示すように、熱処理工程の実施後においては、グラフA~Cのいずれでも、GaN系半導体基板12の表層部ではMg濃度が比較的均一に分布している。グラフA~Cの間で、表層部のMg濃度は略等しい。このことから、N注入領域24n内ではMgが十分に拡散していることが分かる。基準深さDrefの近傍では深い側ほどMg濃度が低くなるようにMg濃度が急激に減少している。図9の破線Xは、深さ300nmあたりにMg濃度が1/10となる減少率(すなわち、深さDとMg濃度PがdD/dlog10P=300nmとなる減少率)を表している。グラフA~Cのいずれでも、基準深さDrefの位置において、破線Xよりも急な傾きでMg濃度が減少している。すなわち、グラフA~Cのいずれでも、基準深さDrefの位置において、深さ300nmあたりにMg濃度が1/10となる減少率よりも小さい減少率(すなわち、dD/dlog10P<300nmとなる減少率)でMg濃度が減少している。他方、グラフDでは、表層部におけるMg濃度がグラフA~Cよりも低い。また、グラフDでは、基準深さDrefに相当する位置において、Mg濃度が減少する傾きが破線Xよりも緩やかである。すなわち、グラフDでは、減少率dD/dlog10Pが300nmよりも大きい。このため、基準深さDrefよりも深い範囲では、グラフDではグラフA~CよりもMg濃度が高くなっている。すなわち、グラフDでは、グラフA~Cよりも深い位置までMgが拡散している。グラフA~CとグラフDを比較することで明らかなように、N注入工程を実施した場合には、基準深さDrefの位置(すなわち、N注入領域24nの境界の位置)でMgの拡散が抑制される。このように、N注入工程とMg注入工程の実施後に熱処理工程を実施すると、基準深さDrefの近傍においてそれより深い領域へのMgの拡散を抑制することができる。
【0038】
以上に説明したように、N注入工程とMg注入工程を実施した後に熱処理工程を実施すると、N注入領域24nとNが注入されていない領域との界面においてMgの拡散が抑制される。したがって、N注入工程における注入範囲Rnと注入深さDnを制御することで、Mgの拡散範囲を制御でき、ボディ層24の形成範囲を正確に制御できる。
【0039】
次に、図10に示すように、イオン注入によってソース層26を形成する。次に、ソース層26と窓部23の間のボディ層24の表面を覆うようにゲート絶縁膜40を形成する。次に、ゲート絶縁膜40の上部にゲート電極42を形成する。このようにゲート絶縁膜40とゲート電極42を形成することで、ソース層26と窓部23の間のボディ層24の表層部がチャネル領域24aとなる。図10において、Mg注入領域24mgの外側のボディ層24は、Mg注入領域24mgから拡散したMgによって形成されたボディ層24である。Mg注入領域24mgはMgがイオン注入されるときに形成された結晶欠陥を多く含んでいる。他方、Mg注入領域24mgの外側のボディ層24に存在する結晶欠陥は、Mg注入領域24mgよりも少ない。Mg注入領域24mgの外側のボディ層24をチャネル領域24aとすることで、チャネル領域24a内の結晶欠陥を少なくすることができる。チャネル領域24a内の結晶欠陥を少なくすることで、チャネル抵抗を低下させることができる。なお、ここでは、Mg注入領域24mg内のMg濃度の10%以上の濃度を有する部分をチャネル領域24aとすることができる。これにより、好適なスイッチングを実現できる。
【0040】
その後、層間絶縁膜44、ソース電極46、及び、ドレイン電極48を形成することで、図1に示す半導体装置10が完成する。
【0041】
以上に説明したように、実施例1の製造方法によれば、Mgの拡散距離を正確に制御でき、ボディ層24の形成範囲を正確に制御できる。このため、窓部23の縦方向の長さのばらつきを低減でき、半導体装置10のオン抵抗のばらつきを低減できる。また、Mgがドリフト層22とドレイン層20の界面まで拡散することを防止できるので、偏析層の影響によるオン抵抗のばらつきを抑制できる。また、Mgの拡散距離を正確に制御できるので、チャネル領域24aのMg濃度を正確に制御できる。これにより、半導体装置10のゲート閾値のばらつきを抑制できる。
【0042】
なお、N注入工程とMg注入工程の実施後に熱処理工程を実施する場合であっても、熱処理工程における温度または時間が不十分であると、Mgの拡散距離を正確に制御することはできない場合がある。例えば、熱処理工程が不十分な場合には、Mgが基準深さDrefの位置まで十分に拡散せず、N注入領域24nの界面におけるMgの拡散抑制効果が得られない。例えば、図11は、N注入工程とMg注入工程の実施後に熱処理温度を変更しながら熱処理工程を実施したときの濃度分布を示している。図11に示すように、熱処理温度Tが1300℃、1350℃、1460℃の場合には、Mgを基準深さDrefまで十分に拡散させることができる。すなわち、これらの場合、基準深さDrefの位置において、破線Xよりも急な傾きでMg濃度が減少している。これに対し、熱処理温度Tが1250℃の場合には、基準深さDrefまでMgを十分に拡散させることができない。このため、この場合、基準深さDrefにおけるMg濃度の傾きが破線Xよりも緩やかとなっている。すなわち、この場合、N注入領域24nの界面におけるMgの拡散抑制効果が得られない。このため、N注入領域24nの界面におけるMgの拡散抑制効果を得るために、熱処理工程では、GaN系半導体基板12を1300℃以上かつ融点未満の温度で熱処理することができる。
【0043】
(実施例2)
実施例2の製造方法では、実施例1の製造方法と同様にしてN注入工程を実施した後に、図12に示すようにMg注入工程を実施する。ここでは、Nの注入範囲内であって実施例1(すなわち、図5)よりも広い範囲にMgを注入する。次に、実施例1と同様にして熱処理工程を実施し、図13に示すようにN注入領域24n内にボディ層24を形成する。次に、GaN系半導体基板12の上面12aをエッチングすることによって、図14に示すように、Mg注入範囲24mgを除去し、Mg注入領域24mgの下部のボディ層24を露出させる。次に、実施例1と同様にして、ソース層26、ゲート絶縁膜40、ゲート電極42、層間絶縁膜44、ソース電極46、及び、ドレイン電極48を形成する。これにより、半導体装置10が完成する。
【0044】
実施例2の製造方法では、Mg注入領域24mgの除去により露出したボディ層24がチャネル領域24aとなるようにゲート絶縁膜40とゲート電極42を形成する。実施例2の製造方法によれば、Mg注入領域24mgの外側のボディ層24をチャネル領域24aとすることができ、チャネル領域24a内の結晶欠陥を少なくすることができる。したがって、チャネル抵抗を低下させることができる。
【0045】
なお、上述した実施例1、2では、GaN系半導体基板12に不活性元素としてNを注入した。しかしながら、不活性元素として、N、Ga、Ar、H、Heの少なくとも1つを注入してもよい。また、不活性元素に代えて、GaN系半導体基板12に電子線を注入(すなわち、照射)してもよい。
【0046】
また、上述した実施例1、2では、不活性元素の注入工程の実施後にMg注入工程を実施したが。Mg注入工程の実施後に不活性元素の注入工程を実施してもよい。
【0047】
また、上述した実施例1、2では、Mg注入範囲Rmgが不活性元素の注入範囲に含まれていた。しかしながら、Mg注入範囲Rmgと不活性元素の注入範囲が少なくとも部分的に重複していれば、Mg注入範囲Rmgが不活性元素の注入範囲の外側まで分布していてもよい。このような構成でも、不活性元素の注入領域内ではMgの拡散距離を制御できる。
【0048】
上記の注入範囲Rnは第1注入範囲の一例であり、上記の注入範囲Rmgは第2注入範囲の一例である。
【0049】
以下に、本願明細書に開示の技術が有する構成を列記する。
(構成1)
半導体装置の製造方法であって、
GaN系半導体基板に不活性元素または電子線を注入する工程と、
前記GaN系半導体基板にマグネシウムを注入する工程と、
不活性元素または電子線を注入する前記工程とマグネシウムを注入する前記工程の実施後に、前記GaN系半導体基板を熱処理する工程、
を有し、
前記GaN系半導体基板の表面において、不活性元素または電子線の注入範囲である第1注入範囲とマグネシウムの注入範囲である第2注入範囲とが重複しており、
不活性元素または電子線を注入する前記工程における最も深い注入深さD1(nm)からDref=D1+140nmの数式により算出される基準深さDrefが、マグネシウムを注入する前記工程における最も深い注入深さD2(nm)よりも深く、
前記熱処理の後に、前記第1注入範囲と前記第2注入範囲が重複する範囲内の深さ方向におけるマグネシウム濃度の分布において、前記基準深さDrefの位置でマグネシウム濃度が所定減少率で深い側に向かうほど減少しており、
前記所定減少率が、深さ300nmあたりにマグネシウム濃度が1/10となる減少率よりも小さい、
製造方法。
(構成2)
不活性元素または電子線を注入する前記工程では、前記GaN系半導体基板にN、Ga、Ar、H、Heの少なくとも1つを注入する、構成1に記載の製造方法。
(構成3)
前記表面において、前記第2注入範囲が前記第1注入範囲に含まれており、
不活性元素または電子線を注入する前記工程におけるドーズ量DS1、前記第1注入範囲の面積S1、マグネシウムを注入する前記工程におけるドーズ量DS2、及び、前記第2注入範囲の面積S2が、DS1・S1>DS2・S2の関係を満たす、
構成1または2の製造方法。
(構成4)
前記熱処理における熱処理温度が1300℃以上である、構成1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
(構成5)
前記熱処理の後に、前記表面のうちの前記第2注入範囲の外部であって前記第1注入範囲の内部の範囲がチャネル領域となるようにゲート電極を形成する工程をさらに有する、構成1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
(構成6)
前記チャネル領域内のマグネシウム濃度が、マグネシウムを注入する前記工程でマグネシウムが注入された領域内のマグネシウム濃度の10%以上である、構成5に記載の製造方法。
(構成7)
前記熱処理の後に、マグネシウムを注入する前記工程でマグネシウムが注入された領域を除去してその下部のp型領域を露出させる工程と、
露出させた前記p型領域がチャネル領域となるようにゲート電極を形成する工程、
をさらに有する構成1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【0050】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0051】
12:GaN系半導体基板、22:ドリフト層、24:ボディ層、24a:チャネル領域、24n:N注入領域、24mg:Mg注入領域、26:ソース層、40:ゲート絶縁膜、42:ゲート電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14