(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020859
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】状態検出装置及び状態検出方法
(51)【国際特許分類】
B61L 25/06 20060101AFI20240207BHJP
B61L 19/06 20060101ALI20240207BHJP
E01B 7/00 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
B61L25/06 A
B61L19/06
E01B7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123370
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000001292
【氏名又は名称】株式会社京三製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】金子 亮
(72)【発明者】
【氏名】戸羽 拓馬
【テーマコード(参考)】
2D056
【Fターム(参考)】
2D056AB03
(57)【要約】
【課題】モータの駆動力をクラッチを介して伝達することで動作する転てつ機の状態変化の検出を、簡易でありながら精度良く行える技術の提供。
【解決手段】状態検出装置1は、モータへの給電制御をすることで当該モータの駆動力をクラッチを介して内部機構および外部機構に順に作用させて転換動作を行う転てつ機3の転換動作中のトルク相当値の時系列データを算出し、算出した時系列データのうち、モータ始動期の後であり外部機構の作動前の所定の安定期間のデータ部分に基づいて当該時系列データを補正し、補正後の時系列データに基づいて転てつ機3の状態変化を判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータへの給電制御をすることで当該モータの駆動力をクラッチを介して内部機構および外部機構に順に作用させて転換動作を行う転てつ機の前記転換動作中のトルク相当値又はモータ電流(以下包括・代表して「トルク相当値」と称する。)の時系列データを算出するトルク相当値算出手段と、
前記時系列データのうち、モータ始動期の後であり前記外部機構の作動前の所定の安定期間のデータ部分に基づいて、当該時系列データを補正する補正手段と、
前記補正後の時系列データに基づいて、前記転てつ機の状態変化を判定する判定手段と、
を備える状態検出装置。
【請求項2】
前記補正手段は、前記時系列データ全体についてトルク相当値を増加又は減少させる補正を行う、
請求項1に記載の状態検出装置。
【請求項3】
前記補正手段は、前記時系列データの前記安定期間のデータ部分と、所定の基準時系列データの前記安定期間のデータ部分との差異に基づいて、前記時系列データ全体についてトルク相当値を増加又は減少させる補正を行い、
前記判定手段は、前記補正後の時系列データと前記基準時系列データとを比較して前記判定を行う、
請求項1に記載の状態検出装置。
【請求項4】
前記判定手段は、前記補正後の時系列データにおける前記モータ始動期の前記トルク相当値、及び/又は、前記外部機構の作動期間の前記トルク相当値、に基づいて前記転てつ機の状態変化を判定する、
請求項1~3の何れか一項に記載の状態検出装置。
【請求項5】
前記判定手段は、前記補正後の時系列データのうちの前記外部機構の作動期間における前記トルク相当値の平均値及び最大値を少なくとも変数に含むマハラノビス距離を用いて前記判定を行う、
請求項1~3の何れか一項に記載の状態検出装置。
【請求項6】
モータへの給電制御をすることで当該モータの駆動力をクラッチを介して内部機構および外部機構に順に作用させて転換動作を行う転てつ機の前記転換動作中のトルク相当値又はモータ電流(以下包括・代表して「トルク相当値」と称する。)の時系列データを算出することと、
前記時系列データのうち、モータ始動期の後であり前記外部機構の作動前の所定の安定期間のデータ部分に基づいて、当該時系列データを補正することと、
前記補正後の時系列データに基づいて、前記転てつ機の状態変化を判定することと、
を含む状態検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転てつ機の状態変化を検出する状態検出装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道設備の一つである転てつ機の異常につながる何らかの状態変化を検出する様々な手法が提案されている。例えば、転てつ機の転換動作に係るモータ電流波形を正常な状態での転てつ機のモータ電流波形である標準波形と比較することで、転てつ機の異常予兆の有無を判定する手法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
転てつ機は、モータが発生する回転動力をモータ軸に直結されたクラッチを介して動作かんに伝達して直動運動をさせることで、トングレールを定位/反位に転換させる転換動作を行う。トングレールと床板との間の摩擦抵抗の増加や異物介在等による転換動作時の負荷の変化(増加)が生じると、モータ電圧やモータ電流が変化する。この変化を検出することで、転てつ機の状態変化(負荷変化)を判定することができる。
【0005】
ところで、転てつ機の転換動作時のトルクは、転てつ機が有するモータ及びクラッチの温度特性に影響されて変動する。特に、使用されることが多いマグネットクラッチには、高温時にはクラッチが弱くなり、低温時にはクラッチが強くなるといった特性がある。このため、負荷が一定であっても、気温が低い冬場にはトルクが増加し、気温が高い夏場にはトルクが減少するといった傾向がある。トルクの変動は、転換動作時のモータ電圧やモータ電流の変動となって現れ、これは、転てつ機の状態変化の検出精度を低下させることにつながる。従って、転てつ機の状態変化の検出精度の向上のためには、モータ及びクラッチの温度特性の影響を取り除く必要がある。
【0006】
そこで、転てつ機が設置された周囲温度(環境温度)に基づいて補償する手法が考えられる。しかしながら、転てつ機は屋外に設置されることが通常であり、日照や通風といった設置場所の環境要因によって、周囲温度とモータ及びクラッチが収容されるケース内部との温度差が生じやすい。また、環境要因の似た設置場所であっても、ケース内部に収容されたモータ及びクラッチの温度は、転換負荷や転換頻度などの違いによって転てつ機ごとに異なり得る。このため、転てつ機の周囲温度をケース内部に収容されたモータ及びクラッチの実際の温度として扱うことは、検出精度の向上には不充分である。従って、転てつ機のケース内部に収容されているモータ及びクラッチの温度を直接に計測するために、ケース内に熱電対等の温度計を設けることが考えられるが、線路に設置されている多数の転てつ機それぞれに温度計を取り付けるのは手間であり、コスト増となるため、現実的ではない。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、モータの駆動力をクラッチを介して伝達することで動作する転てつ機の状態変化の検出を、簡易でありながら精度良く行える技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための第1の発明は、
モータへの給電制御をすることで当該モータの駆動力をクラッチを介して内部機構および外部機構に順に作用させて転換動作を行う転てつ機の前記転換動作中のトルク相当値又はモータ電流(以下包括・代表して「トルク相当値」と称する。)の時系列データを算出するトルク相当値算出手段(例えば、
図11のトルク相当値算出部202)と、
前記時系列データのうち、モータ始動期の後であり前記外部機構の作動前の所定の安定期間のデータ部分に基づいて、当該時系列データを補正する補正手段(例えば、
図11の補正部204)と、
前記補正後の時系列データに基づいて、前記転てつ機の状態変化を判定する判定手段(例えば、
図11の判定部206)と、
を備える状態検出装置である。
【0009】
他の発明として、
モータへの給電制御をすることで当該モータの駆動力をクラッチを介して内部機構および外部機構に順に作用させて転換動作を行う転てつ機の前記転換動作中のトルク相当値又はモータ電流(以下包括・代表して「トルク相当値」と称する。)の時系列データを算出することと、
前記時系列データのうち、モータ始動期の後であり前記外部機構の作動前の所定の安定期間のデータ部分に基づいて、当該時系列データを補正することと、
前記補正後の時系列データに基づいて、前記転てつ機の状態変化を判定することと、
を含む状態検出方法を構成してもよい。
【0010】
第1の発明等によれば、モータの駆動力をクラッチを介して伝達することで動作する転てつ機の状態変化の検出を、簡易でありながらも精度良く行うことができる。つまり、モータが動作を開始してトルクが大きく変動するモータ始動期の後である安定期間は、モータの駆動力を内部機構のみに作用させている期間であるから、トルク相当値の時系列データのうちの安定期間のデータ部分は、外部負荷の影響を受けておらず、モータ及びクラッチの温度特性の影響のみを受けているといえる。このため、トルク相当値の時系列データのうちの安定期間のデータ部分に基づくことで、モータ及びクラッチの温度特性の影響を取り除くための補正を当該時系列データに施すことができる。そして、転てつ機の転換動作中に生じた何らかの状態変化は、モータのトルクの変化として現れるから、補正後のトルク相当値の時系列データに基づくことで、転てつ機の状態変化を精度良く検出することができる。モータ電流についても同様である。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、
前記補正手段は、前記時系列データ全体についてトルク相当値を増加又は減少させる補正を行う、
状態検出装置である。
【0012】
第2の発明によれば、モータ及びクラッチの温度特性は、転換動作中に一律に影響していると考えられるから、時系列データ全体についてトルク相当値を増加又は減少させることで、適切な補正を行うことができる。
【0013】
第3の発明は、第1の発明において、
前記補正手段は、前記時系列データの前記安定期間のデータ部分と、所定の基準時系列データの前記安定期間のデータ部分との差異に基づいて、前記時系列データ全体についてトルク相当値を増加又は減少させる補正を行い、
前記判定手段は、前記補正後の時系列データと前記基準時系列データとを比較して前記判定を行う、
状態検出装置である。
【0014】
第3の発明によれば、モータ及びクラッチの温度特性は、転換動作中に一律に影響していると考えられるから、算出した時系列データの安定期間のデータ部分と所定の基準時系列データの安定期間のデータ部分との差異に基づいて、時系列データ全体についてトルク相当値を増加又は減少させることで、適切な補正を行うことができる。例えば、ある基準温度のときの転換動作に係るトルク相当値の時系列データを基準時系列データとすることで、異なる温度のときの転換動作に係るトルク相当値の時系列データを、基準温度での時系列データに補正することができる。そして、補正後の時系列データをその基準時系列データと比較することで、転てつ機の状態変化の検出を精度良く行うことができる。
【0015】
第4の発明は、第1~第3の何れかの発明において、
前記判定手段は、前記補正後の時系列データにおける前記モータ始動期の前記トルク相当値、及び/又は、前記外部機構の作動期間の前記トルク相当値、に基づいて前記転てつ機の状態変化を判定する、
状態検出装置である。
【0016】
第4の発明によれば、モータ始動期は、モータが動作を開始してトルクが大きく変動する期間であるためモータの状態変化が大きく現れ得る期間であり、作動期間は、モータ駆動力が外部機構に作用させて外部機構が作動する期間であるため外部負荷の影響が大きく現れている期間である。このため、モータ始動期及び/又は作動期間のトルク相当値に基づくことで、転てつ機の状態変化を適切に判定することが可能である。
【0017】
第5の発明は、第1~第3の何れかの発明において、
前記判定手段は、前記補正後の時系列データのうちの前記外部機構の作動期間における前記トルク相当値の平均値及び最大値を少なくとも変数に含むマハラノビス距離を用いて前記判定を行う、
状態検出装置である。
【0018】
第5の発明によれば、転てつ機の状態変化の判定を、補正後の時系列データのうちの外部機構の作動期間におけるトルク相当値の平均値及び最大値を少なくとも変数に含むマハラノビス距離を用いて行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図4】誘導モータの一次側のインピーダンスの説明図。
【
図5】転換動作に係るトルク相当値の時系列データ(転換波形)の一例。
【
図7】評価試験の結果であるトルク相当値の温度特性の一例。
【
図8】トルク相当値の時系列データの補正の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものではない。また、図面の記載において、同一要素には同一符号を付す。
【0021】
[全体構成]
図1は、本実施形態の状態検出装置1の適用例である。状態検出装置1は、転てつ機3の状態変化を検出する装置であり、転てつ機3に対応付けられた端末装置5と通信ネットワークNを介して通信可能に接続されている。
【0022】
転てつ機3は、駆動源として誘導モータを備え、当該誘導モータへの給電制御をすることで、トングレールを定位又は反位に転換する転換動作をする。つまり、転てつ機3は、停止状態から、誘導モータへ電力を供給して回転動作させることで、当該誘導モータの駆動力をマグネットクラッチを介して内部機構及び外部機構に順に作用させて転換動作を行った後に、誘導モータへの電力供給を停止して回転動作を停止させることで、再び停止状態となる。
【0023】
端末装置5は、対応する転てつ機3の内部や併設されている器具箱内に設置される。端末装置5は、対応する転てつ機3の誘導モータのモータ電圧及びモータ電流であるモータ駆動情報を取得する。具体的には、転てつ機3の転換動作中に、例えば50ミリ秒の所定間隔で電圧センサにより測定されるモータ電圧及び電流センサにより測定されるモータ電流を入力・サンプリングし、A/D変換してデジタル値として取得する。つまり、モータ駆動情報は、モータ電圧及びモータ電流の時系列データである。転てつ機3の転換動作の開始及び終了は、例えばモータ電流が所定の閾値以上であるか否かや、外部装置からの転換指令などによって判断できる。そして、端末装置5は、取得した1回の転換動作に係るモータ駆動情報を状態検出装置1へ送信(出力)する。
【0024】
状態検出装置1は、駅構内や指令所などに設置されるが、クラウドシステム上で実現されるとしてもよい。更には、営業列車や保守車両等に搭載される車上装置として実現されるとしてもよい。状態検出装置1は、端末装置5から受信した転てつ機3の転換動作に係るモータ駆動情報を用いて、対応する転てつ機3の状態変化を検出する。
【0025】
[転てつ機の構成]
図2は、転てつ機3の内部機構の構成例を示す上面図であって、ケース10の上蓋を外して内部が見える状態としている。
図2によれば、転てつ機3は、筐体である開閉式のケース10内に、回路制御器32と、制御リレー34と、外部端子板36と、減速機構部20と、転換鎖錠機構部22とを備える。電源や外部装置(例えば、連動装置等)との信号に必要なケーブル類は外部端子板36に集約された後、ケーブル束38としてケース10から纏めて引き出される。
【0026】
また、転てつ機3は、ケース10を貫通してスライド自在に設けられた動作かん16及び鎖錠かん18を備えるとともに、ケース10内に、鎖錠かん18との交差方向にスライド自在に設けられた鎖錠かん18に係合するロックピース24(24a,24b)を備える。動作かん16には転てつ棒を介して分岐器のトングレールが連結され、鎖錠かん18には接続かんを介してトングレールの先端部が連結される。
【0027】
また、転てつ機3は、誘導モータ12及びマグネットクラッチ13を有するモータ部10aを備えている。連動装置から転換指令信号を受信すると、制御リレー34を介して誘導モータ12に電力が供給され、誘導モータ12により発生された回転動力は、ケース10の側部を貫通する駆動軸14に直結されたマグネットクラッチ13を介して減速機構部20に伝達され、減速機構部20で適切なトルクに変換されて転換鎖錠機構部22に伝達される。減速機構部20は、誘導モータ12の駆動力を受ける歯車群であり、誘導モータ12の駆動軸14に取り付けられたピニオンギア20a、これに噛み合うベベルギア20b、その回転軸に取り付けられた第1減速ギア20c、これに噛み合う中間ギア20d、その回転軸に設けられた第2減速ギア20e、これに噛み合う最終歯車である転換ギア20f、を有する。
【0028】
転換鎖錠機構部22は、減速機構部20で減速された回転動力を動作かん16の直動運動に変換するとともに、鎖錠かん18の鎖錠・解錠を行う機構部である。転換鎖錠機構部22による転換は、転換ギア20fの下面に突設された転換ローラ22aと、動作かん16の移動方向と交差する方向に動作かん16に刻設された転換カム溝22bとの係合により実現される。すなわち、誘導モータ12の回転方向によって転換ローラ22aの動作方向が時計回り/反時計回りに移動し、転換ローラ22aに係合する転換カム溝22bによって、動作かん16を
図2中の左方向/右方向へスライド移動させることができる。動作かん16は、転てつ棒を介して分岐器のスイッチアジャスタに連結されているので、動作かん16を
図2中の左方向/右方向へスライド移動させることで、分岐器を定位/反位に転換動作させることができる。動作かん16のスライド移動によってトングレールが移動されると、そのトングレールにフロントロッド及び接続かんを介して連結されている鎖錠かん18がその長手方向のトングレールの定位と反位に対応する位置に移動される。
【0029】
また、鎖錠は、転換ローラ22aと、転換ローラ22aに係合する鎖錠カム溝が上面に刻設された第1鎖錠プレート22c及び第2鎖錠プレート22dとによって実現される。第1鎖錠プレート22cには、鎖錠かん18に向けてロックピース24aが延設され、第2鎖錠プレート22dには、鎖錠かん18に向けてロックピース24bが延設されている。転換ローラ22aが時計回り/反時計回りに移動することで、第1鎖錠プレート22c及び第2鎖錠プレート22dの一方が、鎖錠かん18から離れる方向にスライド移動され、他方が鎖錠かん18に近づく方向にスライド移動される。これにより、ロックピース24a,24bの一方が鎖錠かん18から抜けるようにスライド移動され、他方が鎖錠かん18に接近して嵌合するようにスライド移動される。
【0030】
鎖錠かん18は、接続かんを介して分岐器のトングレールの先端部に連結されている。従って、分岐器の定位/反位の転換に応じて、鎖錠かん18は
図2中の左方向/右方向へスライド移動されることになる。そして、ロックピース24a,24bのどちらかが鎖錠かん18と嵌合することで、転換後のトングレールが鎖錠されることになる。
【0031】
[転てつ機の状態変化の検出]
状態検出装置1による転てつ機3の状態変化の検出について説明する。
【0032】
(A)トルク相当値
転てつ機3の状態変化の検出に際しては、先ず、転てつ機3の1回の転換動作に係るモータ駆動情報であるモータ電圧及びモータ電流の時系列データに基づき、トルク相当値の時系列データを算出する。トルク相当値は、誘導モータ12のトルクに相当する値である。本実施形態では、モータ駆動情報であるモータ電圧V
1及びモータ電流I
1から、次式(1)に従ってトルク相当値kを算出する。
【数1】
【0033】
式(1)において、「R1」は、誘導モータ12の一次側(モータ結線側:固定子)の抵抗(実数成分)であり、「ω」は、誘導モータ12に供給される交流電力の角周波数である。このトルク相当値kは、後述するように、誘導モータ12の相互インダクタンスMに基づく値であり、本実施形態では、相互インダクタンスMの逆数(1/M)である。そして、算出した転てつ機3の1回の転換動作に係るトルク相当値の時系列データに基づいて、当該転てつ機3の状態変化を検出する。
【0034】
図3は、誘導モータ12の等価回路図である。
図3に示すように、誘導モータ12は、変圧器と同等の等価回路として表現することができる。この等価回路において、一次側(モータ結線側:固定子)に電源ACから交流の駆動電力が供給され、二次側(回転子)に負荷である転てつ機3が接続される。二次側(回転子)に流れる誘導電流I
2は、負荷トルクに応じた値となる。転てつ機3が正常である状態、つまり誘導モータ12の負荷が変化しない状態において、誘導モータ12のモータ電圧V
1(一次側の電圧)が変化した場合を考える。この場合、二次側(回転子)の誘導電流I
2を変化させないために、誘導モータ12にすべり(モータすべり)sが生じて負荷抵抗R
2が変化する。モータすべりは、一次側と二次側との電磁結合の変化、つまり相互インダクタンスMの変化となり、この相互インダクタンスMの変化は、一次側のモータ電流I
1の変化を引き起こす。
【0035】
図4は、誘導モータ12の一次側のインピーダンスを複素平面で示した図である。横軸が実軸、縦軸が虚軸である。実数成分R
1と、虚数成分Mωとの合成インピーダンスが、一次側のインピーダンスとなる。そして、一次側の電圧(モータ電圧)V
1及び電流(モータ電流)I
1と、その合成インピーダンスとの間で、次式(2)が成り立つ。
【数2】
【0036】
この式(2)を変形すると、式(1)となる。つまり、相互インダクタンスMの逆数である式(1)が、トルク相当値kである。言い換えれば、トルク相当値kは、誘導モータ12の相互インダクタンスMに基づく値である。
【0037】
(B)トルク相当値の時系列データ(転換波形)
図5は、転てつ機3の1回の転換動作に係る誘導モータ12のトルク相当値の時系列データの一例であり、離散値であるトルク相当値を連続する波形(以下、「転換波形」という)として模式的に示している。
図5において、横軸は時間であり、転換動作の開始時点(誘導モータ12の起動時点)を「0秒」としている。縦軸はトルク相当値である。また、転てつ機3は正常な状態である。
【0038】
転てつ機3の転換動作は、停止状態において鎖錠機構を解錠する解錠期間と、動作かん16を直動動作させてトングレールを定位/反位に転換させるストローク期間と、鎖錠機構を鎖錠する鎖錠期間との3つの期間に分けられる。解錠期間は、誘導モータ12の駆動力をマグネットクラッチ13を介して、ケース10の内部に収容された減速機構部20や転換鎖錠機構部22等の転てつ機3の内部機構に作用させる期間であり、動作かん16が動作する前の期間である。解錠期間は、更に、誘導モータ12に電力の供給が開始されて単位時間当たりの回転数が増加するモータ始動期と、単位時間当たりの回転数が安定する安定期(安定期間)とに分けられる。ストローク期間は、誘導モータ12の駆動力をマグネットクラッチ13を介して、動作かん16や鎖錠かん18等の外部機構にも作用させる期間である。例えば、転換動作が開始して約1.5秒後から約2.0秒後までの期間が安定期であり、約2.0秒の経過時点がストローク期間の開始時点となる。また、トルク相当値が急激に低下してゼロとなる時点が転換動作の終了時点である。
【0039】
(C)温度特性
ところで、転てつ機3が有する誘導モータ12及びマグネットクラッチ13には温度特性があり、この温度特性によって当該転てつ機3の転換動作時のトルク(トルク相当値)が変動する。
【0040】
図6は、誘導モータ12及びマグネットクラッチ13の温度特性を評価するための評価試験を説明する図である。
図6に示すように、評価試験は、モータ部10aをケース10より取り外し、動作かん16に代わる外部機構としてパウダーブレーキを接続して構成した装置によって行った。また、モータ電圧Vを一定(50Hzの交流105V)として、トルク計測センサによって計測されるトルクが一定となるように負荷であるパウダーブレーキを制御し、そのときのモータ部10aの温度を熱電対によって計測するとともに、モータ電流Iを電流センサによって計測した。そして、モータ電圧V及びモータ電流Iから、式(1)に従ってトルク相当値を算出した。
【0041】
図7は、試験結果を示す図であり、横軸をモータ部10aの温度(モータ部温度)、縦軸をトルク相当値として試験結果をプロットした図である。この試験結果によれば、負荷が一定であってもモータ部温度が高くなるに従ってトルク相当値が減少するといった温度特性があることがわかる。また、その温度特性(モータ部温度とトルク相当値との関係)は非線形である。なお、この試験において生じたモータ部温度の変化(上昇)は、主にモータ駆動時の自己発熱によるものである。
【0042】
(D)トルク相当値の時系列データ(転換波形)の補正
このように、転てつ機3には、モータ部温度によってトルク相当値(トルク)が変動するといった温度特性があるため、トルク相当値の時系列データ(転換波形)に対して温度による変動を取り除く補正を行った後に、補正後のトルク相当値の時系列データに基づいて、転てつ機3の状態変化の判定を行う。トルク相当値の時系列データ(転換波形)の補正は、時系列データのうち、モータ始動期の後であり外部機構の作動前の所定の安定期間である安定期のデータ部分と、所定の基準時系列データの安定期間のデータ部分との差異に基づいて、時系列データ全体についてトルク相当値を増加又は減少させるように行う。
【0043】
図8は、トルク相当値の時系列データ(転換波形)の補正を説明する図である。
図8の例では、周囲温度が異なる2回分の転換動作に係るトルク相当値の時系列データ(転換波形)として、相対的に周囲温度が高い“夏場”の時系列データと、周囲温度が低い“冬場”の時系列データとの2種類を取得した。周囲温度の高低は、転てつ機3が有する誘導モータ12及びマグネットクラッチ13の温度の高低に影響を与えると考えられるからである。そして、“夏場”の時系列データを基準時系列データとし、“冬場”の時系列データを補正対象の時系列データ(補正前時系列データ)として、補正前時系列データを補正した後の時系列データを補正後時系列データとして示している。また、上側には、各時系列データ(転換波形)の全体を示し、下側に、縦軸(トルク相当値)について拡大した各時系列データ(転換波形)の一部を示している。なお、この2種類の時系列データは同じ転てつ機3についての時系列データであり、当該転てつ機3は正常な状態である。
【0044】
この2種類の時系列データを比較すると、周囲温度が低い“冬場”の時系列データ(補正前時系列データ)のほうが、周囲温度が高い“夏場”の時系列データ(基準時系列データ)に比較して、全体的にトルク相当値が大きいとともに、転換時間が短い。これは、周囲温度が低くなるに従って転てつ機3が有する誘導モータ12及びマグネットクラッチ13の温度が低下することによりトルク相当値が増加するといった温度特性によるものと推察される。
【0045】
時系列データの具体的な補正としては、補正前時系列データ(“冬場”のトルク相当値の時系列データ)及び基準時系列データ(“夏場”のトルク相当値の時系列データ)のそれぞれについて、安定期のトルク相当値の平均値を求める。そして、そのトルク相当値の平均値の差異だけ、補正前時系列データについてトルク相当値を一律に増加又は減少させることで補正する。
図8の例では、補正前時系列データ(“冬場”のトルク相当値の時系列データ)のほうが、基準時系列データ(“夏場”のトルク相当値の時系列データ)よりも、全体的にトルク相当値が大きいため、補正前時系列データについてトルク相当値を一律に減少させるように補正している。
【0046】
トルク相当値の時系列データのうち、安定期のデータ部分に基づいて補正を行うのは、安定期は、誘導モータ12の駆動力を転てつ機3の内部機構に作用させる期間であり、外力の作用を受けていない期間だからである。従って、安定期のトルク相当値は理論的には一定となるはずであり、安定期のトルク相当値が異なれば、それは温度特性の影響によるものと推察されるからである。
【0047】
(E)状態変化の判定
このように転てつ機3が正常であるときの転換動作に係るトルク相当値の時系列データである基準時系列データを用いて補正したトルク相当値の時系列データ(補正後時系列データ)を、当該基準時系列データと比較することで、転てつ機3が有する誘導モータ12及びマグネットクラッチ13の温度特性の影響を取り除いた精度の高い状態変化の判定を行うことができる。これは、基準時系列データを用いた補正とは、転てつ機3が有する誘導モータ12及びマグネットクラッチ13の温度が基準時系列データとは異なる補正前時系列データに対して、当該温度の違いによるトルク相当値の変動を取り除いて、基準温度での時系列データに変換することに相当するからである。
【0048】
転てつ機3が有するケース10内に収容される誘導モータ12及びマグネットクラッチ13の温度は、日照や通風といった当該転てつ機3の設置場所の環境要因のほか、転換負荷や転換頻度などの違いによって転てつ機3ごとに異なり得るから、その温度特性による影響も転てつ機3毎に異なり得る。本実施形態のように、基準時系列データを用いることで、転てつ機3毎に、誘導モータ12及びマグネットクラッチ13の温度特性の影響を取り除く適切な補正を時系列データに施すことができ、その結果、転てつ機3の状態変化を精度良く検出することができる。
【0049】
転てつ機3において、異物混入や潤滑油不足によるトングレールと床板との間の摩擦抵抗の増加といった転てつ機3の異常による負荷の変化(上昇)は、動作かんを直動運動させて、トングレールを定位/反位に転換させるストローク期間や、トングレールを基本レールに密着させる鎖錠期間において、誘導モータ12のトルクの変化として現れる。このため、転てつ機3の状態変化の判定は、補正後時系列データのうち、誘導モータ12の駆動力を外部機構に作用させる期間であるストローク期間及び鎖錠期間のデータ部分を、基準時系列データと比較することが望ましい。
【0050】
図9,
図10は、補正後時系列データに基づく転てつ機3の状態変化の判定結果の一例である。
図9は、ある転てつ機3についての判定結果を示し、
図10は、
図9とは別の転てつ機3についての判定結果を示している。転換動作1回に係る判定結果を1つのプロットで示している。転てつ機3それぞれについての状態変化の判定は、“夏場”から“冬場”にかけての約半年の判定期間に亘って取得した多数回の転換動作毎のトルク相当値の時系列データ(補正前時系列データ)を基準時系列データとの差異に基づいて補正し、補正後のトルク相当値の時系列データ(補正後時系列データ)を当該基準時系列データと比較することで行った。基準時系列データは、転てつ機3の負荷が正常な状態であって、誘導モータ12及びマグネットクラッチ13の温度が相対的に高い“夏場”のある日のトルク相当値の時系列データとした。また、状態変化の判定結果を把握し易くするため、何れも、誘導モータ12及びマグネットクラッチ13の温度特性の影響が比較的大きい転てつ機3を選定した。また、時間経過に伴う負荷の変化(つまり、判定すべき状態変化)が、相対的に、
図9の転てつ機3は小さく、
図10の転てつ機3は大きいものとした。
【0051】
そして、
図9,
図10の何れについても、補正後の時系列データと基準時系列データとの比較(すなわち判定)は、双方の時系列データ間の近似度合いを表す指標となるマハラノビス距離を算出することで行った。マハラノビス距離は、補正後時系列データ及び基準時系列データそれぞれについて、ストローク期間及び鎖錠期間のトルク相当値の平均値及び最大値を求め、この2変数について算出した。ストローク期間及び鎖錠期間は、誘導モータ12の駆動力を外部機構に作用させる期間であるマハラノビス距離が小さいほど、双方の時系列データが“近似している”、つまり、転てつ機3の負荷変化が小さい正常な状態であることを表す。なお、マハラノビス距離を算出するための変数に、モータ始動期のトルク相当値の最大値を含めるようにしてもよい。
【0052】
図9,
図10に示す状態変化の判定結果は、横軸を“夏場”から“冬場”にかけての約半年の判定期間における転換動作を行った日時(転換日時)、縦軸をマハラノビス距離として、各転換動作について、補正前時系列データ及び補正後時系列データそれぞれと、基準時系列データとのマハラノビス距離をプロットした図である。
【0053】
なお、
図10の転てつ機3については、定期保守として、判定期間中に複数回のメンテナンス(トングレールと床板との間の摩擦抵抗を減少させるための給油作業)が行われており、そのメンテナンスタイミングを縦長の破線の楕円形で示している。
図10の転てつ機3は時間経過に伴う負荷の変化が大きいため、短期間でマハラノビス距離が増加しているが、メンテナンスによって負荷が減少されてマハラノビス距離が小さくなっていることがわかる。
【0054】
図9,
図10の何れの転てつ機3についても、補正前時系列データについて大まかに見ると、判定期間の前半である“夏場”に比較して後半である“冬場”のほうがマハラノビス距離が大きくなっている。また、補正後時系列データについて大まかに見ると、“夏場”の時系列データを基準時系列データとしていることから、判定期間の後半である“冬場”においてマハラノビス距離が小さくなっている。補正によって誘導モータ12及びマグネットクラッチ13の温度特性の影響が取り除かれたことから、補正前時系列データにおける“冬場”のマハラノビス距離の上昇は、誘導モータ12及びマグネットクラッチ13の温度特性の影響であると推察される。
【0055】
[機能構成]
図11は、状態検出装置1の機能構成の一例を示す図である。
図11によれば、状態検出装置1は、操作部102と、表示部104と、通信部106と、処理部200と、記憶部300とを備え、一種のコンピュータシステムとして構成することができる。
【0056】
操作部102は、例えばボタンスイッチやタッチパネル、キーボード等の入力装置で実現され、なされた操作に応じた操作信号を処理部200に出力する。表示部104は、例えばLCD(Liquid Crystal Display)やタッチパネル等の表示装置で実現され、処理部200からの表示信号に応じた各種表示を行う。通信部106は、有線又は無線の通信装置で実現され、通信ネットワークNを介して端末装置5といった外部装置との通信を行う。
【0057】
処理部200は、例えばCPU(Central Processing Unit)等の演算装置で実現され、記憶部300に記憶されたプログラムやデータ等に基づいて、状態検出装置1を構成する各部への指示やデータ転送を行い状態検出装置1の全体制御を行う。また、処理部200は、本実施形態に係る機能部として、トルク相当値算出部202、補正部204、判定部206、を有する。但し、これらの機能部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等によってそれぞれ独立した演算回路として構成することも可能である。
【0058】
トルク相当値算出部202は、モータへの給電制御をすることで当該モータの駆動力をクラッチを介して内部機構および外部機構に順に作用させて転換動作を行う転てつ機3の転換動作中のトルク相当値の時系列データを算出する。
【0059】
具体的には、端末装置5から取得した転てつ機3の1回の転換動作に係るモータ駆動情報であるモータ電圧及びモータ電流の時系列データから、式(1)に従って、転換動作に係るトルク相当値の時系列データを算出する(
図3~
図5参照)。
【0060】
補正部204は、トルク相当値の時系列データのうち、モータ始動期の後であり外部機構の作動前の所定の安定期間のデータ部分に基づいて、当該時系列データを補正する。また、補正部204は、補正を、時系列データの安定期間のデータ部分と、所定の基準時系列データの安定期間のデータ部分との差異に基づいて、時系列データ全体についてトルク相当値を増加又は減少させるように行う。
【0061】
具体的には、補正対象の時系列データ及び基準時系列データのそれぞれについて、安定期のトルク相当値の平均値を求め、そのトルク相当値の平均値の差異だけ、補正対象の時系列データについてトルク相当値を一律に増加又は減少させることで補正する(
図8参照)。
【0062】
判定部206は、補正部204による補正後の時系列データに基づいて転てつ機3の状態変化を判定する。また、補正後の時系列データと基準時系列データとを比較して判定を行う。また、補正後の時系列データにおけるモータ始動期のトルク相当値、及び/又は、外部機構の作動期間のトルク相当値、に基づいて転てつ機3の状態変化を判定する。また、補正後の時系列データのうちの外部機構の作動期間におけるトルク相当値の平均値及び最大値を少なくとも変数に含むマハラノビス距離を用いて判定を行う。
【0063】
具体的には、補正後のトルク相当値の時系列データ及び基準時系列データそれぞれについて、外部機構の作動期間であるストローク期間及び鎖錠期間におけるトルク相当値の平均値及び最大値を求め、その平均値及び最大値を変数として、補正前の時系列データと基準時系列データとのマハラノビス距離を求める。そして、そのマハラノビス距離が所定の閾値以上であるか否かによって、転てつ機3の状態変化の有無を判定する(
図9,
図10参照)。
【0064】
記憶部300は、ハードディスクやROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置で実現され、処理部200が状態検出装置1を統合的に制御するためのプログラムやデータ等を記憶している。また、記憶部300は処理部200の作業領域として用いられ、処理部200が各種プログラムに従って実行した演算結果や、操作部102や通信部106を介した入力データ等が一時的に格納される。本実施形態では、記憶部300には、転てつ機管理データ310が記憶される。
【0065】
図12は、転てつ機管理データ310の一例を示す図である。
図12によれば、転てつ機管理データ310は、転てつ機3毎に、対応する転てつ機3の転てつ機IDに対応付けて、転換動作毎の転換データと、基準転換データとを格納している。
【0066】
転換データは、当該転てつ機3の端末装置5から取得したモータ駆動情報と、補正前時系列データと、補正後時系列データと、転換方向と、転換時間と、補正後時系列データにおけるストローク期間及び鎖錠期間のトルク相当値の最大値及び平均値である最大トルク相当値及び平均トルク相当値と、状態変化判定結果とを含む。補正前時系列データは、トルク相当値算出部202により、モータ駆動情報に基づいて算出された転換動作中のトルク相当値の時系列データである。補正後時系列データは、補正部204による補正前時系列データの補正後の時系列データである。状態変化判定結果は、判定部206による補正後時系列データに基づく当該転てつ機3の状態変化の判定結果である。
【0067】
基準転換データは、当該転てつ機3が正常であるときの転換動作に係るデータであり、時系列データの補正に用いる基準時系列データと、転換方向と、転換時間と、基準時系列データにおけるストローク期間及び鎖錠期間のトルク相当値の最大値及び平均値である基準最大トルク相当値及び基準平均トルク相当値とを含む。
【0068】
[処理の流れ]
図13は、状態検出装置1が行う状態検出処理の流れの一例を示すフローチャートである。この処理は、転てつ機3の1回の転換動作に係る処理である。
【0069】
先ず、端末装置5から、転てつ機3の1回の転換動作に係るモータ電圧及びモータ電流の時系列データであるモータ駆動情報を取得する(ステップS1)。すると、トルク相当値算出部202が、取得されたモータ駆動情報に基づき、式(1)に従って、トルク相当値の時系列データを算出する(ステップS3)。
【0070】
次いで、補正部204が、算出されたトルク相当値の時系列データ(補正前時系列データ)を、基準時系列データを用いて補正する。すなわち、補正前時系列データ及び基準時系列データそれぞれの安定期におけるトルク相当値の平均値を算出し、その平均値の差異だけ、補正前時系列データについてトルク相当値を一律に増加又は減少させることで補正する(ステップS5)。
【0071】
続いて、判定部206が、補正後の時系列データ(補正後時系列データ)に基づいて、当該転てつ機3の状態変化を判定する。すなわち、補正後時系列データ及び基準時系列データそれぞれについて、ストローク期間及び鎖錠期間におけるトルク相当値の最大値及び平均値を算出し(ステップS7)、その最大値及び平均値を変数とする補正後時系列データと基準時系列データとのマハラノビス距離を算出する(ステップS9)。そして、算出したマハラノビス距離が所定の閾値以上ならば(ステップS11:YES)、状態変化有りと判定し(ステップS13)、マハラノビス距離が閾値未満ならば(ステップS11:NO)、状態変化無しと判定する(ステップS15)。以上の処理を行うと、状態検出処理は終了となる。
【0072】
[作用効果]
本実施形態によれば、誘導モータ12の駆動力をマグネットクラッチ13を介して伝達することで動作する転てつ機3の状態変化の検出を、簡易でありながら精度良く行うことができる。つまり、誘導モータ12が動作を開始してトルクが大きく変動するモータ始動期の後である安定期は、誘導モータ12の駆動力を内部機構のみに作用させている期間であるから、トルク相当値の時系列データのうちの安定期のデータ部分は、外部負荷の影響を受けておらず、誘導モータ12及びマグネットクラッチ13の温度特性の影響のみを受けているといえる。このため、トルク相当値の時系列データのうちの安定期のデータ部分に基づくことで、誘導モータ12及びマグネットクラッチ13の温度特性の影響を取り除くための補正を当該時系列データに施すことができる。そして、転てつ機3の転換動作中に生じた何らかの状態変化は、誘導モータ12のトルクの変化として表れるから、補正後のトルク相当値の時系列データに基づくことで、転てつ機3の状態変化を精度良く検出することができる。
【0073】
[変形例]
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0074】
(A)トルク相当値
上述の実施形態では、誘導モータ12のトルク相当値を相互インダクタンスMの逆数としたが(式(1)参照)、相互インダクタンスMそのものをトルク相当値としてもよい。また、誘導モータ12のモータ特性(モータ電圧・モータ電流に対するトルクの関係)が既知であれば、そのモータ特性に基づくトルクとトルク相当値とを対比することで、トルク相当値を実トルク値に変換して用いることにしてもよい。
【0075】
(B)モータ電流
また、モータ電圧の変動が小さい場合には、トルク相当値に代えてモータ電流を用いることにしてもよい。つまり、モータ駆動情報に含まれるモータ電流の時系列データを補正前時系列データとし、基準時系列データとのマハラノビス距離を、モータ始動期のモータ電流の最大値や、ストローク期間及び鎖錠期間のモータ電流の平均値及び最大値を変数として求めるようにすればよい。
【0076】
(C)状態変化の判定
また、上述の実施形態では、補正後時系列データに基づく転てつ機3の状態変化(負荷変化)の判定を、補正後時系列データと基準時系列データとのマハラノビス距離を用いるとしたが、他の方法によってもよい。例えば、トルク相当値の時系列データを転換波形の画像とみなして、補正後時系列データと基準時系列データとの類似度を求めるようにしてもよい。
【0077】
(D)状態検出装置1の構成
また、トルク相当値の算出を、端末装置5が行うようにしてもよい。つまり、状態検出装置1が有するトルク相当値算出部202の機能を端末装置5が有するとし、当該端末装置5を含めて状態検出装置を構成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1…状態検出装置
200…処理部
202…トルク相当値算出部
204…補正部
206…判定部
300…記憶部
310…転てつ機管理データ
3…転てつ機
12…誘導モータ
13…マグネットクラッチ
5…端末装置