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特開2024-20867結晶性高分子の結晶化高次構造モデルの生成方法、結晶性高分子の結晶化高次構造モデル生成システム、結晶性高分子の結晶化高次構造モデル生成性プログラム、ならびに結晶性高分子の物性および/または特性を予測する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020867
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】結晶性高分子の結晶化高次構造モデルの生成方法、結晶性高分子の結晶化高次構造モデル生成システム、結晶性高分子の結晶化高次構造モデル生成性プログラム、ならびに結晶性高分子の物性および/または特性を予測する方法
(51)【国際特許分類】
   G16C 20/30 20190101AFI20240207BHJP
   G01N 33/44 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
G16C20/30
G01N33/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123383
(22)【出願日】2022-08-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度(令和元年度、2019年度)、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/プラスチックの高度資源循環を実現するマテリアルリサイクルプロセスの研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】八尾 滋
(72)【発明者】
【氏名】アルターフ モハマド フセイン
(57)【要約】
【課題】結晶性高分子の結晶化高次構造を精度よく再現できる、結晶性高分子の結晶化高次構造モデルの生成方法を提供する。
【解決手段】基本セル内に、解析対象の結晶性高分子の一本鎖ラメラ構造を複数配置し、一本鎖ラメラ構造を複数含む多高分子構造モデルを設定するステップ(A)と、多高分子構造モデルを用いて、分子動力学計算を行い、多高分子構造モデルを平衡化するステップ(B)と、平衡化された多高分子構造モデルを用いて、結晶性高分子の融点以上の温度T1の溶融過程の分子動力学計算を行い、溶融状態モデルを生成するステップ(C)と、生成した溶融状態モデルを用いて、T1から結晶性高分子の融点よりも低い温度T2まで冷却し、結晶化させる結晶化過程の分子動力学計算を行い、結晶化高次構造モデルを生成するステップ(D)と、を有する、結晶性高分子の結晶化高次構造モデルの生成方法。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本セル内に、解析対象の結晶性高分子の一本鎖ラメラ構造を複数配置し、前記一本鎖ラメラ構造を複数含む多高分子構造モデルを設定するステップ(A)と、
前記ステップ(A)で設定した多高分子構造モデルを用いて、分子動力学計算を行い、前記多高分子構造モデルを平衡化するステップ(B)と、
前記ステップ(B)で平衡化された多高分子構造モデルを用いて、前記結晶性高分子の融点以上である第一の設定温度の溶融過程の分子動力学計算を行い、溶融状態モデルを生成するステップ(C)と、
前記ステップ(C)で生成した溶融状態モデルを用いて、前記第一の設定温度から、前記結晶性高分子の融点よりも低い温度である第二の設定温度まで冷却し、結晶化させる結晶化過程の分子動力学計算を行い、結晶化高次構造モデルを生成するステップ(D)と、
を有する、結晶性高分子の結晶化高次構造モデルの生成方法。
【請求項2】
前記第一の設定温度が400K以上であり、
前記第二の設定温度が300~350Kの間の温度であり、
前記ステップ(D)において、少なくとも400Kから前記第二の設定温度までは冷却速度を5K/ns以下として分子動力学計算を行い、さらに、前記第二の設定温度を保った条件で5ns以上分子動力学計算を行う、請求項1に記載の結晶性高分子の結晶化高次構造モデルの生成方法。
【請求項3】
前記ステップ(B)が、周期境界条件で、NPTアンサンブルを適用して、前記結晶性高分子の融点より低い温度で、分子動力学計算を行うステップ(B1)を有し、
前記ステップ(C)が、周期境界条件で、NPTアンサンブルを適用して、前記第一の設定温度で、分子動力学計算を行うステップ(C1)を有し、
前記ステップ(D)が、周期境界条件で、NPTアンサンブルを適用して、前記第一の設定温度から、前記第二の設定温度まで降温しながら分子動力学計算を行うステップ(D1)と、前記ステップ(D1)の後に、周期境界条件で、NPTアンサンブルを適用して、前記第二の設定温度を保った条件で分子動力学計算を行うステップ(D2)とを有する、請求項1または2に記載の結晶性高分子の結晶化高次構造モデルの生成方法。
【請求項4】
前記ステップ(B)において、前記ステップ(B1)の前に、周期境界条件で、分子力学計算、NVEアンサンブルを適用した分子動力学計算、およびNVTアンサンブルを適用した分子動力学計算からなる群から選択される1以上を行い、
前記ステップ(C)において、前記ステップ(C1)の前に、周期境界条件で、NVTを適用した分子動力学計算および/またはNVEアンサンブルを適用した分子動力学計算を行う、請求項3に記載の結晶性高分子の結晶化高次構造モデルの生成方法。
【請求項5】
前記ステップ(A)の前に、
前記結晶化高分子の折りたたまれていない一本鎖構造モデルを用いて、前記結晶性高分子の融点より低い温度で分子動力学計算を行い、一本鎖ラメラ構造モデルを生成するステップ(a)を有する、請求項1または2に記載の結晶性高分子の結晶化高次構造モデルの生成方法。
【請求項6】
前記結晶性高分子が、ポリエチレンである、請求項1または2に記載の結晶性高分子の結晶化高次構造モデルの生成方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載の結晶性高分子の結晶化高次構造モデルの生成方法で生成した高次構造モデルに変形を与えたときの挙動をシミュレーションして、前記結晶性高分子の物性および/または特性を予測する方法。
【請求項8】
基本セル内に、解析対象の結晶性高分子の一本鎖ラメラ構造が複数配置された多高分子構造モデルを設定する設定部と、
前記多高分子構造モデルを用いて、分子動力学計算を行い、前記多高分子構造モデルを平衡化する第一の計算実行部と、
平衡化された多高分子構造モデルを用いて、前記結晶性高分子の融点以上である第一の設定温度の溶融過程の分子動力学計算を行い、溶融状態モデルを生成する第二の計算実行部と、
生成した溶融状態モデルを用いて、前記第一の設定温度から、前記結晶性高分子の融点よりも低い温度である第二の設定温度まで冷却し、結晶化させる結晶化過程の分子動力学計算を行い、結晶化高次構造モデルを生成する第三の計算実行部と、
を有する、結晶性高分子の結晶化高次構造モデル生成システム。
【請求項9】
コンピューターを、
基本セル内に、解析対象の結晶性高分子の一本鎖ラメラ構造が複数配置された多高分子構造モデルを設定する設定部と、
前記多高分子構造モデルを用いて、分子動力学計算を行い、前記多高分子構造モデルを平衡化する第一の計算実行部と、
平衡化された多高分子構造モデルを用いて、前記結晶性高分子の融点以上である第一の設定温度の溶融過程の分子動力学計算を行い、溶融状態モデルを生成する第二の計算実行部と、
生成した溶融状態モデルを用いて、前記第一の設定温度から、前記結晶性高分子の融点よりも低い温度である第二の設定温度まで冷却し、結晶化させる結晶化過程の分子動力学計算を行い、結晶化高次構造モデルを生成する第三の計算実行部として機能させるための結晶性高分子の結晶化高次構造モデル生成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性高分子の結晶化高次構造モデルの生成方法に関するものである。また、結晶化高次構造モデルの生成に用いられる、結晶性高分子の結晶化高次構造モデル生成システムおよび結晶性高分子の結晶化高次構造モデル生成性プログラムに関するものである。また、結晶化高次構造モデルを用いて結晶性高分子の物性および/または特性を予測する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
結晶性高分子の力学特性はその生成過程のせん断履歴や熱履歴により変化するメソ領域での内部構造と関連性のあることが明らかになっている(例えば、非特許文献1~5など)。しかし、そのメソ領域の構造を構築している高分子鎖が具体的にどのようなコンフォメーション変化を起こしているかを実際に検証することは難しく、具体的なプロセス設計は、研究者による仮説と推察に依存しているのが現状である。そのため、実験点数が非常に多くなるだけでなく、精度にも課題があった。
【0003】
このような課題に対しては、コンピューターを用いた分子シミュレーション手法が非常に有利に適用できることは、指摘されてきた。一方で、結晶性高分子のメソ領域の結晶構造を再現できる計算アルゴリズムが存在しておらず、結晶性高分子は分子シミュレーションができない、ということが通念となっていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】“Thermal process-dependence of the mechanical properties and inner structures of pre-consumer recycled polypropylene”,Aya Tominaga,Hiroshi Sekiguchi,Ryoko Nakano,Shigeru Yao,Eiichi Takatori,Proceedings of PPS-30,AIP Conf. Proc.1664,150011-1-150011-4(2015)
【非特許文献2】“Relationship between the long period and the mechanical properties of recycled polypropylene”,Aya Tominaga,Hiroshi Sekiguchi,Ryoko Nakano,Shigeru Yao,Eiichi Takatori,Nihon Reoroji Gakkaishi,45(5),287-290(2017)
【非特許文献3】“Investigation of Degradation Mechanism from Shear Deformation and the Relationship with Mechanical Properties, Lamellar Size, and Morphology of High-Density Polyethylene”,Haruka Kaneyasu,Patchiya Phanthong,Hikaru Okubo,Shigeru Yao,Appl.Sci.,11,8436(2021)
【非特許文献4】“Effects of a Twin-Screw Extruder Equipped with a Molten Resin Reservoir on the Mechanical Properties and Microstructure of Recycled Waste Plastic Polyethylene Pellet Moldings”,Hikaru Okubo,Haruka Kaneyasu,Tetsuya Kimura,Patchiya Phanthong,Shigeru Yao,Polymers,13(7),(2021)
【非特許文献5】“Development of Tensile Properties and Crystalline Conformation of Recycled Polypropylene by Re-Extrusion Using a Twin-Screw Extruder with an Additional Molten Resin Reservoir Unit”,Patchiya Phanthong,Yusuke Miyoshi,Shigeru Yao,Appl.Sci.2021,11(2736),1707(2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シミュレーションを利用して結晶性高分子の物性等を精度よく予測するためには、結晶性高分子の結晶化高次構造(メソ領域の結晶構造)を再現できる計算アルゴリズムが必要である。
そこで、本発明の目的は、結晶性高分子の結晶化高次構造を精度よく再現できる、結晶性高分子の結晶化高次構造モデルの生成方法を提供することである。
また、本発明の目的は、結晶化高次構造モデルの生成に用いられる、結晶性高分子の結晶化高次構造モデル生成システムおよび結晶性高分子の結晶化高次構造モデル生成性プログラムを提供することである。
また、本発明の目的は、結晶性高分子の結晶化高次構造モデルを用いて結晶性高分子の物性および/または特性を予測する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 基本セル内に、解析対象の結晶性高分子の一本鎖ラメラ構造を複数配置し、前記一本鎖ラメラ構造を複数含む多高分子構造モデルを設定するステップ(A)と、前記ステップ(A)で設定した多高分子構造モデルを用いて、分子動力学計算を行い、前記多高分子構造モデルを平衡化するステップ(B)と、前記ステップ(B)で平衡化された多高分子構造モデルを用いて、前記結晶性高分子の融点以上である第一の設定温度の溶融過程の分子動力学計算を行い、溶融状態モデルを生成するステップ(C)と、前記ステップ(C)で生成した溶融状態モデルを用いて、前記第一の設定温度から、前記結晶性高分子の融点よりも低い温度である第二の設定温度まで冷却し、結晶化させる結晶化過程の分子動力学計算を行い、結晶化高次構造モデルを生成するステップ(D)と、を有する、結晶性高分子の結晶化高次構造モデルの生成方法。
<2> 前記第一の設定温度が400K以上であり、前記第二の設定温度が300~350Kの間の温度であり、前記ステップ(D)において、少なくとも400Kから前記第二の設定温度までは冷却速度を5K/ns以下として分子動力学計算を行い、さらに、前記第二の設定温度を保った条件で5ns以上分子動力学計算を行う、前記<1>に記載の結晶性高分子の結晶化高次構造モデルの生成方法。
<3> 前記ステップ(B)が、周期境界条件で、NPTアンサンブルを適用して、前記結晶性高分子の融点より低い温度で、分子動力学計算を行うステップ(B1)を有し、前記ステップ(C)が、周期境界条件で、NPTアンサンブルを適用して、前記第一の設定温度で、分子動力学計算を行うステップ(C1)を有し、前記ステップ(D)が、周期境界条件で、NPTアンサンブルを適用して、前記第一の設定温度から、前記第二の設定温度まで降温しながら分子動力学計算を行うステップ(D1)と、前記ステップ(D1)の後に、周期境界条件で、NPTアンサンブルを適用して、前記第二の設定温度を保った条件で分子動力学計算を行うステップ(D2)とを有する、前記<1>または<2>に記載の結晶性高分子の結晶化高次構造モデルの生成方法。
<4> 前記ステップ(B)において、前記ステップ(B1)の前に、周期境界条件で、分子力学計算、NVEアンサンブルを適用した分子動力学計算、およびNVTアンサンブルを適用した分子動力学計算からなる群から選択される1以上を行い、前記ステップ(C)において、前記ステップ(C1)の前に、周期境界条件で、NVTを適用した分子動力学計算および/またはNVEアンサンブルを適用した分子動力学計算を行う、前記<3>に記載の結晶性高分子の結晶化高次構造モデルの生成方法。
<5> 前記ステップ(A)の前に、前記結晶化高分子の折りたたまれていない一本鎖構造モデルを用いて、前記結晶性高分子の融点より低い温度で分子動力学計算を行い、一本鎖ラメラ構造モデルを生成するステップ(a)を有する、前記<1>から<4>のいずれかに記載の結晶性高分子の結晶化高次構造モデルの生成方法。
<6> 前記結晶性高分子が、ポリエチレンである、前記<1>から<5>のいずれかに記載の結晶性高分子の結晶化高次構造モデルの生成方法。
<7> 前記<1>から<6>のいずれかに記載の結晶性高分子の結晶化高次構造モデルの生成方法で生成した高次構造モデルに変形を与えたときの挙動をシミュレーションして、前記結晶性高分子の物性および/または特性を予測する方法。
<8> 基本セル内に、解析対象の結晶性高分子の一本鎖ラメラ構造が複数配置された多高分子構造モデルを設定する設定部と、前記多高分子構造モデルを用いて、分子動力学計算を行い、前記多高分子構造モデルを平衡化する第一の計算実行部と、平衡化された多高分子構造モデルを用いて、前記結晶性高分子の融点以上である第一の設定温度の溶融過程の分子動力学計算を行い、溶融状態モデルを生成する第二の計算実行部と、生成した溶融状態モデルを用いて、前記第一の設定温度から、前記結晶性高分子の融点よりも低い温度である第二の設定温度まで冷却し、結晶化させる結晶化過程の分子動力学計算を行い、結晶化高次構造モデルを生成する第三の計算実行部と、を有する、結晶性高分子の結晶化高次構造モデル生成システム。
<9> コンピューターを、基本セル内に、解析対象の結晶性高分子の一本鎖ラメラ構造が複数配置された多高分子構造モデルを設定する設定部と、前記多高分子構造モデルを用いて、分子動力学計算を行い、前記多高分子構造モデルを平衡化する第一の計算実行部と、平衡化された多高分子構造モデルを用いて、前記結晶性高分子の融点以上である第一の設定温度の溶融過程の分子動力学計算を行い、溶融状態モデルを生成する第二の計算実行部と、生成した溶融状態モデルを用いて、前記第一の設定温度から、前記結晶性高分子の融点よりも低い温度である第二の設定温度まで冷却し、結晶化させる結晶化過程の分子動力学計算を行い、結晶化高次構造モデルを生成する第三の計算実行部として機能させるための結晶性高分子の結晶化高次構造モデル生成プログラム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、結晶性高分子の結晶化高次構造を精度よく再現できる、結晶性高分子の結晶化高次構造モデルの生成方法が提供される。
また、結晶化高次構造モデルの生成に用いられる、結晶性高分子の結晶化高次構造モデル生成システムおよび結晶性高分子の結晶化高次構造モデル生成プログラムが提供される。
また、結晶性高分子の結晶化高次構造モデルを用いて結晶性高分子の物性および/または特性を予測する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の結晶化高次構造モデルの生成方法の一例を示すフロー図である。
図2】本発明の結晶化高次構造モデルの生成方法の一例を示すフロー図である。
図3】本発明の結晶化高次構造モデルの生成方法の一例を示すフロー図である。
図4】本発明の結晶化高次構造モデルの生成方法のステップ(b)の一例を示すフロー図である。
図5】ステップ(a)の一例を示すフロー図である。
図6】本発明の結晶化高次構造モデルの生成方法で生成した結晶化高次構造モデルを用いて、結晶化高次構造モデルに変形を与えたときの挙動(応答)をシミュレーションする方法の一例を示すフローである。
図7】本発明の結晶性高分子の結晶化高次構造モデル生成システムの模式図である。
図8】実施例1で作成したHDPEの一本鎖構造モデルを示す図である。
図9】実施例1で生成した一本鎖ラメラ構造モデルを示す図である。
図10】実施例1で用いた多高分子構造モデルを示す図である。
図11】実施例1のステップ(B)を説明するための図である。
図12】実施例1のステップ(C)、(D)および一軸伸長変形の過程の計算条件を示す図である。
図13】実施例1で生成した溶融状態のモデルを示す図である。
図14】実施例1で生成した結晶性高分子の結晶化高次構造モデルを示す図である。
図15】実施例2で生成した結晶化高次構造モデルを示す図である。
図16】実施例2で生成した溶融状態モデルの一本の分子鎖についての拡大図である。
図17】実施例2で生成した結晶化高次構造モデルの一本の分子鎖についての拡大図である。
図18】実施例3で特性予測に用いた結晶化高次構造モデルを示す図である。
図19】実施例3の応力-ひずみ曲線の予測結果を示す図である。
図20】実施例4で特性予測に用いた結晶化高次構造モデルを示す図である。
図21】実施例4の応力-ひずみ曲線の予測結果を示す図である。
図22】実施例4の変形の挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0011】
<結晶性高分子の高次構造モデルの生成方法>
本発明は、基本セル内に、解析対象の結晶性高分子の一本鎖ラメラ構造を複数配置し、前記一本鎖ラメラ構造を複数含む多高分子構造モデルを設定するステップ(A)と、前記ステップ(A)で設定した多高分子構造モデルを用いて、分子動力学計算を行い、前記多高分子構造モデルを平衡化するステップ(B)と、前記ステップ(B)で平衡化された多高分子構造モデルを用いて、前記結晶性高分子の融点以上である第一の設定温度の溶融過程の分子動力学計算を行い、溶融状態モデルを生成するステップ(C)と、前記ステップ(C)で生成した溶融状態モデルを用いて、前記第一の設定温度から、前記結晶性高分子の融点よりも低い温度である第二の設定温度まで冷却し、結晶化させる結晶化過程の分子動力学計算を行い、結晶化高次構造モデルを生成するステップ(D)と、を有する、結晶性高分子の高次構造モデルの生成方法(以下、「本発明の結晶化高次構造モデルの生成方法」と記載する場合がある。)に関するものである。
【0012】
本発明の結晶化高次構造モデルの生成方法の特徴の一つは、シミュレーションに用いる多高分子構造モデルの設定のために、ラメラ構造の状態の一本鎖を用いることである。本発明者らは、基本セル内に結晶性高分子の一本鎖ラメラ構造を複数配置した多高分子構造モデルを用い、これを平衡化し、次いで、溶融過程および結晶化過程の分子動力学計算を行うことで、結晶化高次構造を精度よく再現できることを発見した。
【0013】
<結晶性高分子の結晶化高次構造モデル生成システム>
本発明は、基本セル内に、解析対象の結晶性高分子の一本鎖ラメラ構造が複数配置された多高分子構造モデルを設定する設定部と、前記多高分子構造モデルを用いて、分子動力学計算を行い、前記多高分子構造モデルを平衡化する第一の計算実行部と、平衡化された多高分子構造モデルを用いて、前記結晶性高分子の融点以上である第一の設定温度の溶融過程の分子動力学計算を行い、溶融状態モデルを生成する第二の計算実行部と、生成した溶融状態モデルを用いて、前記第一の設定温度から、前記結晶性高分子の融点よりも低い温度である第二の設定温度まで冷却し、結晶化させる結晶化過程の分子動力学計算を行い、結晶化高次構造モデルを生成する第三の計算実行部と、を有する、結晶性高分子の結晶化高次構造モデル生成システム(以下、「本発明のシステム」と記載する場合がある。)に関するものである。
【0014】
<結晶性高分子の結晶化高次構造モデル生成プログラム>
本発明は、コンピューターを、基本セル内に、解析対象の結晶性高分子の一本鎖ラメラ構造が複数配置された多高分子構造モデルを設定する設定部と、前記多高分子構造モデルを用いて、分子動力学計算を行い、前記多高分子構造モデルを平衡化する第一の計算実行部と、平衡化された多高分子構造モデルを用いて、前記結晶性高分子の融点以上である第一の設定温度の溶融過程の分子動力学計算を行い、溶融状態モデルを生成する第二の計算実行部と、生成した溶融状態モデルを用いて、前記第一の設定温度から、前記結晶性高分子の融点よりも低い温度である第二の設定温度まで冷却し、結晶化させる結晶化過程の分子動力学計算を行い、結晶化高次構造モデルを生成する第三の計算実行部として機能させるための結晶性高分子の結晶化高次構造モデル生成プログラム(以下、「本発明のプログラム」と記載する場合がある。)に関するものである。
【0015】
本発明のシステムは、コンピューターを、本発明のシステムにかかる各処理部として機能させる本発明のプログラムを実行することで実現できる。また、本発明のシステムやプログラムを用いて、本発明の結晶化高次構造モデルの生成方法を実行することができる。
【0016】
図1~4は、本発明の結晶化高次構造モデルの生成方法のフロー図である。本発明の結晶化高次構造モデルの生成方法は、コンピューターを用いた、結晶化高次構造モデルの生成方法であり、コンピューターが、ステップ(A)~ステップ(D)を実行することで、結晶化高次構造モデルを生成する方法である。以下、図1~4に基づいて、本発明の結晶性高分子の結晶化高次構造モデルの生成方法について説明する。
【0017】
[実施の形態1]
図1に示す本発明の結晶性高分子の結晶化高次構造モデルの生成方法は、解析対象の結晶性高分子の一本鎖ラメラ構造を複数含む多高分子構造モデルを設定するステップ(A)と、多高分子構造モデルを平衡化するステップ(B)と、溶融状態モデルを生成するステップ(C)と、結晶化高次構造モデルを生成するステップ(D)と、を有する。
【0018】
[ステップ(A)]
ステップ(A)は、基本セル内に、解析対象の結晶性高分子の一本鎖ラメラ構造を複数配置し、前記一本鎖ラメラ構造を複数含む多高分子構造モデルを設定するステップである。
【0019】
解析の対象となる結晶性高分子としては、ポリエチレン等が挙げられる。ポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖型低密度ポリエチレンなどが含まれる。なお、その種類にもよるが、ポリエチレンの融点は、370K~420K程度である。
【0020】
結晶性高分子の一本鎖ラメラ構造は、結晶性高分子の一本の分子鎖が複数回折りたたまれた構造である。一本鎖ラメラ構造の主鎖ユニット(ポリエチレンの場合、CH2)の数は100以上である。例えば、主鎖ユニット(CH2)は、100~5000(重合度DP=50~2500)である。図9は、一本鎖ラメラ構造モデルの一例であり、一本(一分子)のポリエチレンのラメラ構造を示している。
【0021】
多高分子構造モデルは、一本鎖ラメラ構造を複数含む構造である。多高分子構造モデルは、一本鎖ラメラ構造を少なくとも2個有する。多高分子構造モデルを構成する一本鎖ラメラ構造の数は多いほど計算精度が向上し好ましいが、シミュレーション時間や計算負荷が大きくなるため、計算機の能力等に応じて、その数は適宜設定すればよい。モデル化の手法は特に限定されず、ユナイテッドアトムモデルや、全原子モデルなどが用いられる。
【0022】
図10は、多高分子構造モデルの一例である。この多高分子構造モデルは、ポリエチレンの一本鎖ラメラ構造2個を、互いに所定の間隔を離した状態で、互いの分子鎖軸が略同一方向となるようにして、その分子鎖軸方向(図10ではZ方向)に1列に並べた配置であるが、これに限定されるものではない。
【0023】
例えば、多高分子構造モデルは、基本セル内のX軸方向、Y軸方向またはZ軸方向に、一本鎖ラメラ構造を3個以上配置させたものとしてもよい。また、基本セル内のX軸方向およびY軸方向に、一本鎖ラメラ構造をそれぞれ2個以上配置させたり、基本セル内のX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向に、一本鎖ラメラ構造をそれぞれ2個以上配置させたものとしてもよい。
【0024】
また、一本鎖ラメラ構造は、それぞれの分子鎖軸が略同一方向となるように配置させる必要はなく、それぞれの分子鎖軸は異なる方向を向いていてもよい。一本鎖ラメラ構造間は、その構造の一部が重なるように配置させてもよく、互いに所定の間隔を離して配置させてもよい。結晶化高次構造を再現するために、その構造の一部が接触する状態または互いに重なった状態で配置することが好ましいが、必須ではない。
【0025】
多高分子構造は、複数の一本鎖ラメラ構造の各原子の原子情報や、座標などを含むパラメータ、基本セルの形状や大きさなどのパラメータなどで定義できる。基本セルは、実際にシミュレーションが実行される領域であり、一般的に、立方体または直方体で定義する。基本セルの大きさは、一本鎖ラメラ構造の数や大きさに対応して定義され、例えば、複数の一本鎖ラメラ構造の密度が0.6~0.85となるように定義される。
【0026】
一本鎖ラメラ構造は新規である場合は、折りたたまれていない(すなわち、ランダムコイル状の)一本鎖構造モデルを用いて生成することができる。一本鎖ラメラ構造の生成は、公知のポリエチレンの一本鎖のラメラ構造(折りたたみ構造)を生成させる計算方法などを参考にして行うことができる。また、既存である場合は、既存データの一本鎖ラメラ構造のデータを用いて、多高分子構造モデルを設定してよい。
【0027】
[ステップ(B)]
ステップ(B)は、多高分子構造モデルを用いて、分子動力学計算を行い、多高分子構造モデルを平衡化するステップである。
【0028】
分子動力学計算は、ニュートンの運動方程式に基づき、各原子の位置や速度などを微小時間刻み(例えば、0.1~2fs)で逐次的に求めるシミュレーションである。分子動力学計算は、既知の分子動力学シミュレーションソフトなどを用いてコンピューターで実行することができる。シミュレーションに適用されるアンサンブルは、例えば、NVEアンサンブル(粒子(原子)の数N、体積V、エネルギーEが一定)、NVTアンサンブル(粒子の数N、体積V、温度Tが一定)、NPTアンサンブル(粒子の数N、圧力P、温度Tが一定)等である。
【0029】
ステップ(B)は、周期境界条件を課して、結晶性高分子の融点より低い温度T0(例えば、100~380K、好ましくは290~310K、より好ましくは300K)で、少なくともNPTアンサンブルを適用して、分子動力学計算を行うものとすることができる。また、ステップ(B)では、NPTアンサンブルでのシミュレーションに加えて、構造最適化計算(エネルギー極小化計算)や、NVEアンサンブルを適用した分子動力学計算、NVTアンサンブルを適用した分子動力学計算などを行ってよい。
【0030】
ステップ(B)において、ステップ(A)で設定した多高分子構造モデルをそのまま用いてNPTアンサンブルを適用して分子動力学計算を行う場合、異常終了(計算落ち)が起こる場合がある。そのため、構造のひずみ等を取り除き、分子動力学計算を行うことが好ましい。例えば、計算の安定性や精度を上げるために、NPTアンサンブルの前に、分子力学計算、NVEアンサンブルを適用した分子動力学計算、およびNVTアンサンブルを適用した分子動力学計算からなる群から選択される1以上を行うことが好ましい。
【0031】
[ステップ(C)]
ステップ(C)は、ステップ(B)で平衡化された多高分子構造モデルを用いて、結晶性高分子の融点(Tm)以上である第一の設定温度(T1)の溶融過程の分子動力学計算を行い、溶融状態モデルを生成するステップである。結晶性高分子の融点(Tm)以上の第一の設定温度(T1)で分子動力学計算を行うことで、解析対象の結晶性高分子の溶融状態が再現される。
【0032】
第一の設定温度(T1)は、解析対象の結晶性高分子の融点(Tm)以上の温度が定義され、400K以上であり、450K以上の温度が好ましい。第一の設定温度(T1)は、Tm+20℃以上や、Tm+30℃以上、Tm+40℃以上などの温度に設定できる。第一の設定温度(T1)の上限は、特に限定されず、例えば、2000K以下や、1500K以下、1000K以下など、適宜設定できる。
【0033】
ステップ(C)は、周期境界条件を課して、第一の設定温度(T1)で、少なくともNPTアンサンブルを適用して、分子動力学計算を行うものとできる。また、NPTアンサンブルでのシミュレーションに加えて、NVEアンサンブルを適用した分子動力学計算および/またはNVTアンサンブルを適用した分子動力学計算を行うものとしてもよい。NPTアンサンブルの前に、NVEアンサンブルを適用した分子動力学計算および/またはNVTアンサンブルを適用した分子動力学計算を行うことで、計算の安定性や精度が向上する。
【0034】
[ステップ(D)]
ステップ(D)は、ステップ(C)で生成した溶融状態モデルを用いて、第一の設定温度(T1)から、結晶性高分子の融点(Tm)よりも低い温度である第二の設定温度(T2)まで冷却し、結晶化させる結晶化過程の分子動力学計算を行い、結晶化高次構造モデルを生成するステップである。
【0035】
ステップ(D)における第一の設定温度(T1)は、ステップ(C)の第一の設定温度(T1)と同じ温度である。
【0036】
第二の設定温度(T2)は、解析対象の結晶化高分子の融点(Tm)よりも低い温度である。第二の設定温度(T2)は、300~350Kの間の温度であることが好ましい。
【0037】
ステップ(D)では、第一の設定温度から第二の設定温度まで所定の冷却速度で冷却しながら、分子動力学計算を行う。例えば、0.1~50Kや、0.5~30K、1~15K、1~5K、6~12Kなど所定の温度間隔で段階的に降温しながら、分子動力学計算を行うものとすることができる。
【0038】
ステップ(D)は、少なくとも400Kから第二の設定温度(T2)までは冷却速度を5K/ns以下として分子動力学計算を行い、さらに、第二の設定温度(T2)を保ったまま5ns以上分子動力学計算を行うことが好ましい。400Kから第二の設定温度(T2)までの冷却段階およびその後の等温結晶化段階は、結晶性高分子の結晶のメソ領域の構造に大きく影響を与える。そのため、400Kから第二の設定温度(T2)までの冷却段階の冷却速度を速くしすぎると、メソ領域の構造の再現精度が低いものとなる。また、等温結晶化段階の計算時間が短すぎると、メソ領域の構造の再現精度が低いものとなる。400Kから第二の設定温度(T2)までの冷却段階の冷却速度を5K/ns以下とし、次いで、第二の設定温度(T2)で5ns以上分子動力学計算を実行することで、結晶化高次構造(メソ領域の構造)を非常に精度よく構築することができる。結晶性高分子の結晶のメソ領域の構造の構築精度をより向上させるためには、ステップ(D)は、少なくとも400Kから第二の設定温度(T2)までは冷却速度を5K/ns以下として分子動力学計算を行い、さらに、第二の設定温度(T2)を保ったまま500ns以上分子動力学計算を行うことがより好ましい。
【0039】
第一の設定温度(T1)が、400K以上である場合、第一の設定温度(T1)から第二の設定温度(T2)までの冷却速度は一定としても良いが、第一の設定温度(T1)から400Kまでの冷却速度は、5K/nsより大きくすることが好ましい。例えば、第一の設定温度(T1)から400Kまでの冷却速度を、5K/ns超15K/ns以下とし、400Kから第二の設定温度(T2)までの冷却速度を1K/ns以上5K/ns以下とすることができる。このように、第一の設定温度(T1)から400Kまでの冷却速度を、5K/nsより大きくすることで、全体の計算時間を短縮しつつ、結晶性高分子の結晶のメソ領域の構造を精度よく構築することができる。
【0040】
なお、ステップ(A)~ステップ(D)は、市販のソフトなどを用いて実行することができる。例えば、ステップ(A)は、Material Studio(登録商標)のVisualizer等の分子モデルの構築ができるソフトを用いて実行することができる。また、ステップ(B)~ステップ(D)は、Forcite module/Universal Forcefieldや、LAMMPS/Paul-Yoon-Smith/Rutledge(PYS/R)等の分子動力学シミュレーションができるソフトを用いて実行することができる。
【0041】
[実施の形態2]
図2は、図1に示す結晶性高分子の結晶化高次構造モデルの生成方法のステップ(B)~ステップ(D)をより詳細に説明するためのフロー図の一例である。ステップ(A)は、上記のとおりである。
【0042】
図2において、ステップ(B)は、周期境界条件で、NVEアンサンブルを適用して分子動力学計算を行うステップ(B1-1)と、周期境界条件で、NVTアンサンブルを適用して分子動力学計算を行うステップ(B1-2)と、周期境界条件で、NPTアンサンブルを適用して分子動力学計算を行うステップ(B1)を有する。このように、NPTアンサンブルを適用して分子動力学計算を行う前に、NVEおよびNVTを適用して分子動力学計算を行うことで、異常終了(計算落ち)しにくくなる。
【0043】
ステップ(B1-1)では、コンピューターが、ステップ(A)で設定した多高分子構造モデルについて、粒子数、体積およびエネルギーを一定にして、構造が緩和された安定状態となるまで、分子動力学計算を実行する。例えば、粒子、体積およびエネルギーを一定にして、0.5~2fsの間隔で、50~200ps分子動力学計算を実行するものとできる。
【0044】
次いで、ステップ(B1-2)では、コンピューターが、ステップ(B1-1)で生成したモデルについて、粒子数、体積および温度T0を一定に維持して、構造が緩和された安定状態となるまで分子動力学計算を実行する。温度T0は、上記の通り、結晶性高分子の融点よりも低い温度であり、例えば、100~380Kとすることができ、290~310Kが好ましく、300Kがより好ましい。例えば、粒子、体積および温度(T0=290~310K)を一定にして、0.5~2fsの間隔で、50~200ps分子動力学計算を実行するものとできる。
【0045】
次いで、ステップ(B1)では、コンピューターが、ステップ(B1-2)で生成したモデルについて、粒子数、圧力および温度T0を一定に維持して、構造が緩和された安定状態となるまで分子動力学計算を実行し、平衡化された多高分子構造モデルを生成する。温度T0は、ステップ(B1-2)と同じである。例えば、粒子、圧力(P=1atm)および温度(T0=290~310K)を一定にして、0.5~2fsの間隔で、50~200ps分子動力学計算を実行するものとできる。
【0046】
図2において、ステップ(C)は、周期境界条件で、第一の設定温度(T1)で、NVTアンサンブルを適用して分子動力学計算を行うステップ(C0)と、周期境界条件で、第一の設定温度(T1)で、NPTアンサンブルを適用して分子動力学計算を行うステップ(C1)を有する。
【0047】
ステップ(C0)では、コンピューターが、ステップ(B)で平衡化した多高分子構造モデルについて、粒子数、体積および温度T1を一定に維持して、分子動力学計算を実行する。例えば、粒子数、体積および温度(T1=450~510K)を一定に維持して、0.5~2fsの間隔で、0.5~1.5ns分子動力学計算を実行する。
【0048】
次いで、ステップ(C1)では、コンピューターが、ステップ(C0)で生成したモデルについて、粒子数、圧力および温度T1を一定に維持して分子動力学計算を実行し、溶融状態モデルを生成する。例えば、粒子数、圧力(P=1atm)および温度(T1=450~510K)を一定に維持して、0.5~2fsの間隔で、1~15ns分子動力学計算を実行する。また、ステップ(C1)の計算時間が短すぎると溶融状態の再現の精度が低下する傾向にある。一方で、ある一定の計算時間からは溶融状態の構造変化が小さい。そのため、分子動力学計算(シミュレーション)は、5~10ns実行することが好ましい。
【0049】
図2において、ステップ(D)は、周期境界条件で、第一の設定温度(T1)から、第二の設定温度(T2)まで降温しながら、NPTアンサンブルを適用して分子動力学計算を行うステップ(D1)と、ステップ(D1)の後に、周期境界条件で、前記第二の設定温度(T2)を保った条件で、NPTアンサンブルを適用して分子動力学計算を行うステップ(D2)とを有する。
【0050】
ステップ(D1)では、コンピューターが、ステップ(C)で生成した溶融状態モデルについて、第一の設定温度(T1)から、第二の設定温度(T2)まで、所定の冷却速度で降温する過程を、NPTアンサンブルを適用して分子動力学計算を実行する。
【0051】
例えば、第一の設定温度(T1=450~510K)から第二の設定温度(T2=300~350K)まで、冷却速度2~5K/nsで降温させ、各温度Tx1において、粒子数および圧力(P=1atm)を一定にして、0.5~2fsの時間間隔で、1ns分子動力学計算を実行する。
【0052】
また、冷却速度は、一定とせずに、段階的に変更してもよい。例えば、第一の設定温度(T1=450~510K)から400Kまで、冷却速度6~12K/nsで降温させ、各温度Tx1において、粒子数および圧力(P=1atm)を一定にして、0.5~2fsの時間間隔で、1ns分子動力学計算を実行する。次いで、400Kから第二の設定温度(T2=300~350K)まで、冷却速度2~5K/nsで降温させ、各温度Tx1において、粒子数および圧力(P=1atm)を一定にして、0.5~2fsの時間間隔で、1ns分子動力学計算を実行する。
【0053】
次いで、ステップ(D2)では、コンピューターが、ステップ(D1)で生成したモデルについて、第二の設定温度(T2)で、NPTを適用して分子動力学計算を実行する。例えば、粒子数、圧力(P=1atm)および温度(T2)を一定として、0.5~2fsで、500ns~1500ns分子動力学計算を実行する。
【0054】
[実施の形態3]
図3は、図1に示す結晶化高次構造モデルの生成方法のステップ(B)~ステップ(D)をより詳細に説明するためのフロー図の別の例である。図3に示す結晶化高次構造モデルの生成方法は、ステップ(B)以外は、図2に示す結晶化高次構造モデルの生成方法と同じである。
【0055】
図3において、ステップ(B)は、周期境界条件で、構造最適化計算を行うステップ(B1-0)と、周期境界条件で、NVTアンサンブルを適用して分子動力学計算を行うステップ(B1-2)と、周期境界条件で、NPTアンサンブルを適用して分子動力学計算を行うステップ(B1)を有する。このように、ステップ(A)で設定した多高分子構造モデルについて、構造最適化計算を行い、構造のひずみ等を取り除いて、分子動力学計算による平衡化を行うことで、異常終了が起こりにくい。
【0056】
ステップ(B1-0)では、コンピューターが、ステップ(A)で設定した多高分子構造モデルについて、構造最適化計算(エネルギー極小化計算)を行う。
【0057】
次いで、コンピューターが、ステップ(B1-0)で生成したモデルを用いてステップ(B1-2)を実行し、さらに、コンピューターが、ステップ(B1-2)で生成したモデルを用いて、ステップ(B1)を実行する。ステップ(B1-2)は、ステップ(B1-1)で生成したモデルの代わりに、ステップ(B1-0)で生成したモデルについて分子動力学計算を行うこと以外は、図2のステップ(B1-2)と同様である。ステップ(B1)は図2のステップ(B1)と同様である。
【0058】
[実施の形態4]
図4に示す結晶性高分子の結晶化高次構造モデルの生成方法は、解析対象の結晶化高分子の折りたたまれていない一本鎖構造モデルを用いて、結晶性高分子の融点より低い温度(T3)で分子動力学計算を行い、一本鎖ラメラ構造モデルを生成するステップ(a)と、ステップ(a)で生成した一本鎖ラメラ構造を用いて、多高分子構造モデルを設定するステップ(A)と、多高分子構造モデルを平衡化するステップ(B)と、溶融状態モデルを生成するステップ(C)と、結晶化高次構造モデルを生成するステップ(D)と、を有する。
【0059】
図4に示す本発明の初期構造モデルの生成方法は、ステップ(A)の前に、多高分子構造モデルを生成するステップ(a)を有すること以外は、図1に示すモデルの生成方法と同様である。
【0060】
[ステップ(a)]
図5は、ステップ(a)の一例を示すフロー図である。図5に示すステップ(a)は、解析対象の結晶化高分子の折りたたまれていない一本鎖構造モデルを作成するステップ(a1)と、一本鎖構造モデルを用いて、分子動力学計算により一本鎖ラメラ構造モデルを生成するステップ(a2)と、を有する。
【0061】
ステップ(a1)では、解析対象の結晶性高分子の折りたたまれていない一本鎖構造モデルを作成する。一本鎖構造モデルの主鎖ユニット(ポリエチレンやポリプロピレンの場合、CH2)の数は100以上(例えば、100~5000)である。モデル化の手法は特に限定されず、ユナイテッドアトムモデルや全原子モデルなどが用いられる。
【0062】
ステップ(a2)では、ステップ(a1)で作成した一本鎖構造モデルを用いて、分子動力学計算により一本鎖ラメラ構造モデルを生成する。ステップ(a2)では、結晶化させラメラ構造を生成させるために、少なくとも解析対象の結晶高分子の融点より低い温度(T3)で分子動力学計算を実行する必要がある。例えば、コンピューターが、温度T3(例えば、100~400K、好ましくは、290~310K、より好ましくは300K)で、NVTアンサンブルやNPTアンサンブルを適用して分子動力学計算し、一本鎖ラメラ構造モデルを生成する。
【0063】
このステップ(a1)およびステップ(a2)は、多高分子構造モデルを構築する一本鎖ラメラ構造の数に対応する回数実行される。例えば、ステップ(a)で、基本セル内に、2個の一本鎖ラメラ構造を配置した多高分子構造モデルを設定する場合、ステップ(a1)およびステップ(a2)を2回行う。
【0064】
ステップ(a1)およびステップ(a2)を所定の回数実行し、生成した複数の一本鎖ラメラ構造モデルを基本セル内の所望の位置に配置し、ステップ(A)では多高分子構造モデルが設定される。用いる一本鎖ラメラ構造モデルは2個以上である。
【0065】
なお、ステップ(a1)、(a2)は、市販のソフトなどを用いて実行することができる。例えば、ステップ(a1)は、Enhanced Monte carlo(EMC)等の分子モデルの構築ができるソフトを用いて実行することができる。ステップ(a2)は、Forcite module/Universal Forcefieldや、LAMMPS/Dreiding等の分子動力学シミュレーションができるソフトを用いて実行することができる。
【0066】
なお、図5に示すフロー図では、ステップ(a1)およびステップ(a2)を、多高分子構造モデルを構築する一本鎖ラメラ構造の数に対応する回数実行するが、ステップ(a1)およびステップ(a2)を1回行い、保存された同一の一本鎖ラメラ構造モデルを必要な数だけ読み出して用いてもよい。
【0067】
[実施の形態5]
図6は、本発明の結晶化高次構造モデルの生成方法で生成した結晶化高次構造モデルを用いて、結晶化高次構造モデルに変形を与えたときの挙動(応答)をシミュレーションする方法のフロー図の一例である。
【0068】
結晶化高次構造モデルに変形を与えたときの挙動(応答)をシミュレーションすることで、解析対象の結晶性高分子の物性および/または特性を予測したり、解析したりすることができる。シミュレーションにより予測できる結晶性高分子の物性や特性としては、結晶化のメカニズムや、結晶化度、結晶化速度、結晶あるいは結晶間の分子構造や分子の数(メソ構造)、熱履歴のメソ構造に与える影響、熱履歴の力学特性に与える影響、力学履歴・変形履歴のメソ構造に与える影響、変形履歴の力学特性に与える影響などが挙げられる。
【0069】
図6に示すように、結晶性高分子の挙動は分子動力学計算によりシミュレーションすることができる。例えば、結晶化高次構造モデルを配置した基本セルに、引張、圧縮、せん断などの変形を加えながら、分子動力学計算を行うことで、これらの変形に対する結晶性高分子の挙動をシミュレーションすることができる。これにより、力学特性や変形履歴が与える影響を予測や解析することができる。
【0070】
[実施の形態6]
次に、図7に基づいて、本発明の結晶化高次構造モデルの生成方法を実行できる、本発明のシステムについて説明する。
【0071】
図7は、本発明のシステムの模式図である。図7に示すシステム1は、処理部110と、入力部120と、出力部130とを含む。処理部110は、入力部120および出力部130に電気的に接続されている。
【0072】
入力部120は、ユーザーが、各種高分子構造や計算条件(境界条件やアンサンブル等)などの情報を処理部110に入力するための手段である。入力部120としては、キーボードやマウスなどを用いることができる。
【0073】
処理部110は、設定部10と計算実行部20と記憶部30とを含む。例えば、CPUが、分子構築や分子計算(シミュレーション)の実行プログラムを実行することで、設定部10や計算実行部20の各部として機能する。また、ハードディスク装置、光磁気ディスク装置、フラッシュメモリ及びCD-ROMなどの読み出しのみが可能な記録媒体である不揮発性のメモリや、RAM(Random Access Memory)のような読み出し及び書き込みが可能な記録媒体である揮発性のメモリが適宜組み合わせられて、記憶部30として機能する。
【0074】
設定部10は、入力部120を介して入力された情報を取得し、入力された情報や記憶部30に予め記憶された情報に基づいて、各種設定を行い、記憶部30に記憶させるための手段である。設定部10は、モデル設定部12と、条件設定部14を有する。
【0075】
モデル設定部12は、多高分子構造モデルや折りたたまれていない一本鎖構造モデルなどの材料モデルの設定を実行し、記憶部30に記憶させる。モデル設定部12によりステップ(A)やステップ(a)を行うことができる。
【0076】
例えば、ステップ(A)では、モデル設定部12が、入力部120より入力された情報(基本セルの形状や大きさ、一分子鎖ラメラ構造の各原子の原子情報や、座標などを含むパラメータなど)を取得し、これらの情報に基づいて、基本セル内に、解析対象の結晶性高分子の一本鎖ラメラ構造が複数配置された多高分子構造モデルを設定する。設定された多高分子構造モデルは記憶部30に記憶される。
【0077】
条件設定部14は、取得した境界条件、アンサンブル、圧力、温度などの情報に基づいて、各種計算条件を設定し、記憶部30に記憶させる。条件設定部14により、ステップ(B)~ステップ(D)の計算条件(計算実行部20での計算のための計算条件)や、結晶性高分子の物性や特性をシミュレーションするための条件を設定することができる。ステップ(B)~ステップ(D)の各計算条件は、まとめて設定してもよいし、ステップごとに、計算条件を入力し、条件設定部14により条件を設定してもよい。
【0078】
計算実行部20は、記憶部30に記憶された材料モデルや計算条件などに基づいて、計算(シミュレーション)を実行し、計算結果を取得し、記憶部30に記憶させる手段である。計算実行部20は、第一の計算実行部22、第二の計算実行部24、第三の計算実行部26を有する。
【0079】
第一の計算実行部22は、条件設定部14によりあらかじめ記憶部30に記憶されたステップ(B)の計算条件に基づいて、多高分子構造モデルを用いて、分子動力学計算を実行し、多高分子構造モデルを平衡化する。第一の計算実行部22によりステップ(B)を行うことができる。
【0080】
例えば、図2に示す結晶化高分子モデルの生成方法のステップ(B)を例とすると、入力部120より、モデル設定部12で設定した多高分子構造モデルを用いて、初めにNVEアンサンブル、次いでNVTアンサンブル、最後にNPTアンサンブルの順で分子動力学計算を実行し、多高分子構造モデルを平衡化するように計算条件(b)を入力する。条件設定部14が、入力された計算条件(b)を取得し、記憶部30に記憶させる。ステップ(B)では、第一の計算実行部22は、記憶部30に記憶された計算条件(b)に基づいて、分子動力学計算を実行し、多高分子構造モデルを平衡化する。平衡化された多高分子構造モデルは記憶部30に記憶される。
【0081】
また、図2に示す結晶化高分子モデルの生成方法のステップ(B)は、計算条件ごとに実行してもよい。例えば、モデル設定部12で設定した多高分子構造モデルを用いて、NVEアンサンブルで分子動力学計算を実行するように計算条件(b1-1)を設定し、第一の計算実行部22が、計算条件(b1-1)に基づいて分子動力学計算を実行する。次いで、計算条件(b1-1)の計算により生成したモデルについて、NVTアンサンブルで分子動力学計算を実行するように計算条件(b1-2)を設定し、第一の計算実行部22が、計算条件(b1-2)に基づいて分子動力学計算を実行する。次いで、計算条件(b1-2)の計算により生成したモデルについて、NPTアンサンブルで分子動力学計算を実行するように計算条件(b1-3)を設定し、第一の計算実行部22が、計算条件(b1-3)に基づいて分子動力学計算を実行する。
【0082】
第二の計算実行部24は、記憶部30に記憶されたステップ(C)の計算条件に基づいて、平衡化された多高分子構造モデルを用いて、結晶性高分子の融点以上である第一の設定温度T1の溶融過程の分子動力学計算を行い、溶融状態モデルを生成する。第二の計算実行部24によりステップ(C)を行うことができる。
【0083】
例えば、図2に示す結晶化高分子モデルの生成方法のステップ(C)を例とすると、入力部120より、第一の計算実行部22で生成した平衡化された多高分子構造モデルを用いて、第一の設定温度T1における溶融過程を、初めにNVTアンサンブル、次いでNPTアンサンブルの順で分子動力学計算を実行するように計算条件(c)を入力する。条件設定部14が、入力された計算条件(c)を取得し、記憶部30に記憶させる。ステップ(C)では、第二の計算実行部24は、記憶部30に記憶された計算条件(c)に基づいて、分子動力学計算を実行し、溶融状態モデルを生成する。生成した溶融状態モデルは記憶部30に記憶される。また、ステップ(B)と同様に、ステップ(C)は、計算条件ごとに実行してもよい。
【0084】
第三の計算実行部26は、記憶部30に記憶されたステップ(D)の計算条件に基づいて、生成した溶融状態モデルを用いて、第一の設定温度から、結晶性高分子の融点よりも低い温度である第二の設定温度まで冷却し、結晶化させる結晶化過程の分子動力学計算を行い、結晶化高次構造モデルを生成する。第三の計算実行部26によりステップ(D)を行うことができる。
【0085】
例えば、図2に示す結晶化高分子モデルの生成方法のステップ(D)を例とすると、入力部120より、第一の設定温度(T1)から第二の設定温度(T2)までの降温過程を、NPTアンサンブルで分子動力学計算を実行し、次いで、第二の設定温度(T2)を維持し、NPTアンサンブルで分子動力学計算を実行するように計算条件(d)を入力する。条件設定部14が、入力された計算条件(d)を取得し、記憶部30に記憶させる。ステップ(D)では、第三の計算実行部26は、記憶部30に記憶された計算条件(d)に基づいて、分子動力学計算を実行し、結晶化高次構造モデルを生成する。また、ステップ(B)と同様に、ステップ(D)は、計算条件ごとに実行してもよい。
【0086】
計算実行部20は、結晶化高分子の折りたたまれていない一本鎖構造モデルを用いて、一本鎖ラメラ構造モデルを生成する第四の計算実行部(図示せず)を有してもよい。例えば、モデル設定部12が、取得した情報(各原子の原子情報や、座標、結合情報などを含むパラメータなど)に基づいて、折りたたまれていない一本鎖構造モデルを設定し、記憶部30に記憶させる。また、条件設定部14が、ステップ(a2)の計算条件を設定し、記憶部30に記憶させる。第四の計算実行部は、設定されたステップ(a2)の計算条件に基づいて、分子動力学計算を実行し、一本鎖ラメラ構造モデルを生成する。
【0087】
計算実行部20は、生成した結晶性高分子の結晶化高次構造モデルに変形を与えたときの挙動を計算する第五の計算実行部(図示せず)を有してもよい。第五の計算実行部は、条件設定部14が設定した条件に基づいて、第三の計算実行部26で生成された結晶化高次構造モデルに、引張や圧縮、せん断などの応力を与えたときの応答をシミュレーションする。第五の計算実行部を有するシステム1を用いることで、結晶化高次構造モデルを用いて、結晶性高分子の物性や特性を予測することができる。
【0088】
記憶部30は、一本鎖ラメラ構造モデルや多高分子構造モデル、各ステップで生成したモデルなどの材料モデルや、計算条件、分子構築や分子計算(シミュレーション)を実行するプログラムなどが格納されている。
【0089】
出力部130は、生成された結晶性高分子の結晶化高次構造モデルやこれに変形を与えたときの挙動(解析結果)を表示する手段である。出力部130としては、ディスプレイなどを用いることができる。
【0090】
なお、図7に示すシステム1は、一つのコンピューターに、設定部10および計算実行部20の各部と記憶部30が実装されているが、これらの各部は、複数のコンピューターやクラウドに分散させて実装してもよい。
【実施例0091】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0092】
[実施例1]:2鎖の例
(1)一本鎖構造モデルの作成および一本鎖ラメラ構造モデルの生成(ステップ(a))
Enhanced Monte carlo(EMC)を用いて、ユナイテッドアトムモデルでHDPEの一本鎖構造モデル(C1000、DP(重合度)=500、末端CH2)を作成した。次いで、LAMMPS/Dreidingを用いて、作成したHDPEの一本鎖構造モデルの300Kでの分子動力学計算(MD計算)を実行し、複数回折りたたまれたラメラ構造を有する一本鎖ラメラ構造モデルを生成した。
上記手順で、2個の一本鎖ラメラ構造モデルを生成した。図8に、作成したHDPEの一本鎖構造モデルを、図9に、生成した2個の一本鎖ラメラ構造モデルを示す。
【0093】
(2)多高分子構造モデルの作成(ステップ(A))
Material Studio Visualizerを用いて、基本セル内に、2個の一本鎖ラメラ構造を初期配置し、多高分子構造モデルを作成した。具体的には、生成した複数の一本鎖ラメラ構造モデルを用い、それぞれの一本鎖ラメラ構造の分子鎖軸方向をZ軸方向とし、2個の一本鎖ラメラ構造をZ軸方向に1列となるように互いに離して配置し、多高分子構造モデルを作成した。図10に、作成した多高分子構造モデルを示す。
【0094】
(3)結晶化高次構造モデルの生成
多高分子構造モデルを用いて、LAMMPS/Paul-Yoon-Smith/Rutledgeで結晶化高次構造モデルを生成した。
【0095】
(3-1)多高分子構造モデルの平衡化(ステップ(B))
図11に示す通り、まず、多高分子構造モデルについて、周期境界条件を設定し、NVEアンサンブル(300K)で100ps、MD計算を実行した。次いで、周期境界条件、NVTアンサンブル(300K)で100ps、MD計算を実行した。更に、周期境界条件、NPTアンサンブル(300K)で100ps、MD計算を実行し、平衡化した多高分子構造モデルを生成した。
【0096】
(3-2)溶融状態モデルの生成(ステップ(C))
LAMMPSを用いて、図12に示す条件で、上記(3-1)で生成した平衡化した多高分子構造モデルのMD計算を実行した。まず、NVTアンサンブル(450K)で1ns、MD計算を実行し、NVPアンサンブル(450K)で10ns、MD計算を実行し、溶融状態のモデルを生成した。
【0097】
(3-3)結晶化高次構造モデルの生成(ステップ(D))
次いで、450Kから400Kまで10K/1nsで降温させ、400Kから300Kまでは5K/1nsで降温させ、NPTアンサンブルでMD計算を実行した。さらに、300Kで500ns保持する過程を、NPTアンサンブルでMD計算を実行し、結晶性高分子の結晶化高次構造のモデルを生成した。
【0098】
図13に、ステップ(C)で生成した溶融状態のモデルを示す。図14に、ステップ(D)で生成した結晶性高分子の結晶化高次構造モデルを示す。
【0099】
[比較例]
ユナイテッドアトムモデルでHDPEの折りたたまれていない一本鎖構造モデル(C1000、DP(重合度)=500、末端CH2)を作成した。この一本鎖構造モデルをそのまま用いて、基本セル内に配置して、ステップ(B)~ステップ(D)を実行しようとしたところ、結晶の高次構造を生じさせることができなかった。
【0100】
[実施例2]:10鎖の例
(1)一本鎖ラメラ構造モデルの生成
上記(1)と同様にして、10個のHDPEの一本鎖ラメラ構造モデルを準備した。
【0101】
(2)多高分子構造モデルの作成
Material Studio Visualizerを用いて、基本セル内に、10個の一本鎖ラメラ構造を初期配置し、多高分子構造モデルを作成した。それぞれの一本鎖ラメラ構造の分子鎖軸方向をZ軸方向とし、一本鎖ラメラ構造がZ軸方向に2個、X軸方向に5個となるように配置し、多高分子構造モデルを作成した。
【0102】
(3)結晶化高次構造モデルの生成
上記(3)と同様にして、10本鎖からなる結晶化高次構造のモデルを生成した。
【0103】
図15に、生成した結晶性高分子の結晶化高次構造モデルを示す。また、図16に、溶融状態モデル(溶融状態)の一本の分子鎖についての拡大図を示し、図17に、結晶化高次構造モデル(結晶状態)の一本の分子鎖についての拡大図を示す。
【0104】
図14図15図17に示すように、生成した結晶化高次構造モデルは、メゾ領域まで分子構造が精度よく構築されていることがわかる。例えば、図17から、(a)テール、(b)ループ、(c)ブリッジの構造が構築されていることがわかる。
【0105】
[実施例3]:結晶性高分子の特性予測(1)
基本セル内の一本鎖ラメラ構造を5個(ZX平面)×2層(Y軸方向)で配置した、多高分子構造モデルを用いて、実施例1と同様にして、結晶化高次構造モデルを生成した。図18に生成した結晶化高次構造モデルを示す。
【0106】
LAMMPSを用いて、図12に示す条件で、生成した結晶化高次構造モデルのY軸方向への一軸伸長変形の過程をMD計算して、応力-ひずみ特性を算出した。結果を図19に示す。
【0107】
[実施例4]:結晶性高分子の特性予測(2)
基本セル内の一本鎖ラメラ構造を5個(XY平面)×3層(Z軸方向)で配置した、多高分子構造モデルを用いて、実施例1と同様にして、結晶化高次構造モデルを生成した。図20に生成した結晶化高次構造モデルを示す。
【0108】
LAMMPSを用いて、図12に示す条件で、生成した結晶化高次構造モデルのZ軸方向への一軸伸長変形の過程をMD計算して、応力-ひずみ特性を算出した。結果を図21図22に示す。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明によれば、結晶性高分子の結晶化高次構造が精度よく再現された、結晶化高次構造モデルを生成できる。このモデルを用いることで、力学特性などを精度よく予測することができるため、本発明は、プロセス設計などに分野において有用である。
【符号の説明】
【0110】
1 本発明のシステム
10 設定部
12 モデル設定部
14 条件設定部
20 計算実行部
22 第一の計算実行部
24 第二の計算実行部
26 第三の計算実行部
30 記憶部
110 処理部
120 入力部
130 出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22