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特開2024-20874ジアルキル亜鉛の製造方法およびジアルキル亜鉛
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020874
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】ジアルキル亜鉛の製造方法およびジアルキル亜鉛
(51)【国際特許分類】
   C07F 3/06 20060101AFI20240207BHJP
【FI】
C07F3/06 CSP
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123402
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】住田 渉
(72)【発明者】
【氏名】橋元 祐一郎
【テーマコード(参考)】
4H048
【Fターム(参考)】
4H048AA01
4H048AA02
4H048AB91
4H048AC90
4H048BA09
4H048BA32
4H048VA67
4H048VB10
(57)【要約】
【課題】反応原料としてハロゲン含有化合物を使用することなくジアルキル亜鉛を製造することができる、ジアルキル亜鉛の新たな製造方法を提供すること。
【解決手段】式1で表されるジアルキル亜鉛と式2で表されるトリアルキルアルミニウムとを混合することにより、式1で表されるジアルキル亜鉛が有するアルキル基の少なくとも1つが、式2で表されるトリアルキルアルミニウムが有するアルキル基とアルキル交換することによって生成されたジアルキル亜鉛を得ることを含む、ジアルキル亜鉛の製造方法。式1中、2つ存在するRは、それぞれ独立にアルキル基を表し、式2中、3つ存在するRIIは、それぞれ独立にアルキル基を表す。式1中のRで表される2つのアルキル基の少なくとも1つは、式2中のRIIで表される3つのアルキル基の少なくとも1つと異なるアルキル基である。
式1:R Zn
式2:RII Al
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式1で表されるジアルキル亜鉛と下記式2で表されるトリアルキルアルミニウムとを混合することにより、式1で表されるジアルキル亜鉛が有する2つのアルキル基の少なくとも1つが、式2で表されるトリアルキルアルミニウムが有するアルキル基とアルキル交換することによって生成されたジアルキル亜鉛を得ることを含む、ジアルキル亜鉛の製造方法。
式1:R Zn
式2:RII Al
(式1中、2つ存在するRは、それぞれ独立にアルキル基を表し、式2中、3つ存在するRIIは、それぞれ独立にアルキル基を表す。式1中のRで表される2つのアルキル基の少なくとも1つは、式2中のRIIで表される3つのアルキル基の少なくとも1つと異なるアルキル基である。)
【請求項2】
式1中、2つ存在するRは、それぞれ独立に炭素数1以上12以下のアルキル基を表し、
式2中、3つ存在するRIIは、それぞれ独立に炭素数1以上12以下のアルキル基を表し、
式1中のRで表される2つのアルキル基の少なくとも1つは、式2中のRIIで表される3つのアルキル基の少なくとも1つと異なるアルキル基である、請求項1に記載のジアルキル亜鉛の製造方法。
【請求項3】
式1で表されるジアルキル亜鉛はジエチル亜鉛である、請求項2に記載のジアルキル亜鉛の製造方法。
【請求項4】
式2で表されるトリアルキルアルミニウムはトリメチルアルミニウムであり、
前記アルキル交換によって生成されたジアルキル亜鉛はジメチル亜鉛を含む、請求項3に記載のジアルキル亜鉛の製造方法。
【請求項5】
式2で表されるトリアルキルアルミニウムはトリイソブチルアルミニウムであり、
前記アルキル交換によって生成されたジアルキル亜鉛はジイソブチル亜鉛を含む、請求項3に記載のジアルキル亜鉛の製造方法。
【請求項6】
前記混合において、式1で表されるジアルキル亜鉛1.0モルに対して、0.6モル以上5.0モル以下の式2で表されるトリアルキルアルミニウムを混合する、請求項1~5のいずれか1項に記載のジアルキル亜鉛の製造方法。
【請求項7】
前記混合により得られた反応混合物を蒸留することによって、前記アルキル交換によって生成されたジアルキル亜鉛を含む留分を得ることを更に含む、請求項1に記載のジアルキル亜鉛の製造方法。
【請求項8】
前記留分は、前記アルキル交換によって生成されたジメチル亜鉛を含む留分である、請求項7に記載のジアルキル亜鉛の製造方法。
【請求項9】
式1で表されるジアルキル亜鉛はジエチル亜鉛である、請求項8に記載のジアルキル亜鉛の製造方法。
【請求項10】
前記混合において、式1で表されるジアルキル亜鉛1.0モルに対して、0.6モル以上5.0モル以下の式2で表されるトリアルキルアルミニウムを混合し、
前記混合により得られた反応混合物を蒸留することによって、前記アルキル交換によって生成されたジアルキル亜鉛を含む留分を得ることを更に含む、請求項1に記載のジアルキル亜鉛の製造方法。
【請求項11】
前記留分は、前記アルキル交換によって生成されたジメチル亜鉛を含む留分である、請求項10に記載のジアルキル亜鉛の製造方法。
【請求項12】
式1で表されるジアルキル亜鉛はジエチル亜鉛である、請求項11に記載のジアルキル亜鉛の製造方法。
【請求項13】
塩素成分、臭素成分およびヨウ素成分からなる群から選ばれるハロゲン成分の合計含有量が、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子からなる群から選ばれるハロゲン原子の質量換算の合計含有量として100ppm未満であるジアルキル亜鉛。
【請求項14】
前記ジアルキル亜鉛はジメチル亜鉛である、請求項13に記載のジアルキル亜鉛。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアルキル亜鉛の製造方法およびジアルキル亜鉛に関する。
【背景技術】
【0002】
ジアルキル亜鉛は、アルキル化反応等の有機反応剤、半導体等の電子工業用製造原料等として利用されている。
【0003】
ジアルキル亜鉛の中で、例えばジメチル亜鉛の合成方法としては、ハロゲン化メチルおよび金属亜鉛を原料とした方法(特許文献1および2参照)、グリニャール試薬およびハロゲン化金属を原料とした方法(特許文献3参照)、トリメチルアルミニウムおよび塩化亜鉛を原料とした方法(特許文献4~8参照)、ジメチルアルミニウムクロライドおよびジエチル亜鉛を原料とした方法(特許文献9参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭46-7092号公報
【特許文献2】特開昭60-237091号公報
【特許文献3】特表平10-505355号公報
【特許文献4】特開昭62-116586号公報
【特許文献5】特開平4-221389号公報
【特許文献6】特開平4-224584号公報
【特許文献7】特開2009-263322号公報
【特許文献8】特開2013-49647号公報
【特許文献9】特開平2-180888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特に、電子工業用途においては、ジアルキル亜鉛中に塩素成分等のハロゲン成分が含まれていると、電子工業製品の性能に影響し得る。そのため、ハロゲン成分の少ないジアルキル亜鉛が求められている。しかし、従来のジアルキル亜鉛の製造方法は、ハロゲン化亜鉛またはジアルキルアルミニウムハライド等のハロゲン化物を原料としており、ハロゲン成分を低減するためには、反応後に生成したジアルキル亜鉛とハロゲン成分を分離しなければならなかった。この点に関し、特許文献9(特開平2-180888号公報)の実施例2では、ジメチルアルミニウムクロライドおよびジエチル亜鉛を加熱し、得られた混合物からジメチル亜鉛を蒸留的に取り出すことによって、ジメチル亜鉛を得ている。しかし、ジメチル亜鉛の沸点が46℃であるのに対し、メチル基と塩化物イオンの交換反応によって生じるメチルジンククロライドの沸点は67℃であり、原料として用いられるジエチル亜鉛の沸点は117℃、ジメチルアルミニウムクロライドの沸点は126℃である。したがって、加熱後に得られた混合物からハロゲン成分が少ないジメチル亜鉛を得るためには、高い精度の分離方法が要求される。それゆえ、特許文献9(特開平2-180888号公報)の実施例2において蒸留後に回収された生成物には、塩素成分が0.09質量%(即ち900ppm)残存していた(特許文献9(特開平2-180888号公報)の実施例2に記載の湿式分析結果参照)。
【0006】
以上に鑑みると、反応原料としてハロゲン含有化合物を使用することなくジアルキル亜鉛を製造できることが、ハロゲン成分の含有量が少ないジアルキル亜鉛を提供するうえで望ましい。
【0007】
本発明の一態様は、反応原料としてハロゲン含有化合物を使用することなくジアルキル亜鉛を製造することができる、ジアルキル亜鉛の新たな製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、ジアルキル亜鉛とトリアルキルアルミニウムとのアルキル交換反応によって、反応原料としてハロゲン含有化合物を使用することなくジアルキル亜鉛を製造できることを新たに見出した。
【0009】
即ち、本発明の一態様は、以下の通りである。
[1]下記式1で表されるジアルキル亜鉛と下記式2で表されるトリアルキルアルミニウムとを混合することにより、式1で表されるジアルキル亜鉛が有するアルキル基の少なくとも1つが、式2で表されるトリアルキルアルミニウムが有するアルキル基とアルキル交換することによって生成されたジアルキル亜鉛を得ることを含む、ジアルキル亜鉛の製造方法。
式1:R Zn
式2:RII Al
(式1中、2つ存在するRは、それぞれ独立にアルキル基を表し、式2中、3つ存在するRIIは、それぞれ独立にアルキル基を表す。式1中のRで表される2つのアルキル基の少なくとも1つは、式2中のRIIで表される3つのアルキル基の少なくとも1つと異なるアルキル基である。)
[2]式1中、2つ存在するRは、それぞれ独立に炭素数1以上12以下のアルキル基を表し、
式2中、3つ存在するRIIは、それぞれ独立に炭素数1以上12以下のアルキル基を表し、
式1中のRで表される2つのアルキル基の少なくとも1つは、式2中のRIIで表される3つのアルキル基の少なくとも1つと異なるアルキル基である、[1]に記載のジアルキル亜鉛の製造方法。
[3]式1で表されるジアルキル亜鉛はジエチル亜鉛である、[1]または[2]に記載のジアルキル亜鉛の製造方法。
[4]式2で表されるトリアルキルアルミニウムはトリメチルアルミニウムであり、
上記アルキル交換によって生成されたジアルキル亜鉛はジメチル亜鉛を含む、[1]~[3]のいずれかに記載のジアルキル亜鉛の製造方法。
[5]式2で表されるトリアルキルアルミニウムはトリイソブチルアルミニウムであり、
上記アルキル交換によって生成されたジアルキル亜鉛はジイソブチル亜鉛を含む、[1]~[3]のいずれかに記載のジアルキル亜鉛の製造方法。
[6]上記混合において、式1で表されるジアルキル亜鉛1.0モルに対して、0.6モル以上5.0モル以下の式2で表されるトリアルキルアルミニウムを混合する、[1]~[5]のいずれかに記載のジアルキル亜鉛の製造方法。
[7]上記混合により得られた反応混合物を蒸留することによって、上記アルキル交換によって生成されたジアルキル亜鉛を含む留分を得ることを更に含む、[1]~[4]のいずれかに記載のジアルキル亜鉛の製造方法。
[8]上記留分は、上記アルキル交換によって生成されたジメチル亜鉛を含む留分である、[7]に記載のジアルキル亜鉛の製造方法。
[9]式1で表されるジアルキル亜鉛はジエチル亜鉛である、[8]に記載のジアルキル亜鉛の製造方法。
[10]上記混合において、式1で表されるジアルキル亜鉛1.0モルに対して、0.6モル以上5.0モル以下の式2で表されるトリアルキルアルミニウムを混合し、
上記混合により得られた反応混合物を蒸留することによって、上記アルキル交換によって生成されたジアルキル亜鉛を含む留分を得ることを更に含む、[1]~[4]のいずれかに記載のジアルキル亜鉛の製造方法。
[11]上記留分は、上記アルキル交換によって生成されたジメチル亜鉛を含む留分である、[10]に記載のジアルキル亜鉛の製造方法。
[12]式1で表されるジアルキル亜鉛はジエチル亜鉛である、[11]に記載のジアルキル亜鉛の製造方法。
[13]塩素成分、臭素成分およびヨウ素成分からなる群から選ばれるハロゲン成分の合計含有量が、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子からなる群から選ばれるハロゲン原子の質量換算の合計含有量として100ppm(parts per million)未満であるジアルキル亜鉛。
[14]上記ジアルキル亜鉛はジメチル亜鉛である、[13]に記載のジアルキル亜鉛。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、反応原料としてハロゲン含有化合物を使用することなくジアルキル亜鉛を製造することができる、ジアルキル亜鉛の新たな製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[ジアルキル亜鉛の製造方法]
本発明の一態様は、下記式1で表されるジアルキル亜鉛と下記式2で表されるトリアルキルアルミニウムを混合することにより、式1で表されるジアルキル亜鉛が有するアルキル基の少なくとも1つが、式2で表されるトリアルキルアルミニウムが有するアルキル基とアルキル交換することによって生成されたジアルキル亜鉛を得ることを含む、ジアルキル亜鉛の製造方法に関する。
【0012】
式1:R Zn
式2:RII Al
(式1中、2つ存在するRは、それぞれ独立にアルキル基を表し、式2中、3つ存在するRIIは、それぞれ独立にアルキル基を表す。式1中のRで表される2つのアルキル基の少なくとも1つは、式2中のRIIで表される3つのアルキル基の少なくとも1つと異なるアルキル基である。)
【0013】
上記製造方法では、ジアルキル亜鉛とトリアルキルアルミニウムとのアルキル交換反応によって、ジアルキル亜鉛を製造することができる。したがって、上記製造方法によれば、反応原料としてハロゲン含有化合物を使用することなく、ジアルキル亜鉛を製造することが可能になる。更に、かかる製造方法によれば、ハロゲン成分の含有量が少ないジアルキル亜鉛を製造することができる。なお、本発明および本明細書において、「反応原料としてハロゲン含有化合物を使用することなく」については、反応原料に不純物としてハロゲン含有化合物が含まれることは許容されるものとする。
以下、上記製造方法について、更に詳細に説明する。
【0014】
<反応原料>
上記製造方法における反応原料は、式1で表されるジアルキル亜鉛および式2で表されるトリアルキルアルミニウムである。式1および式2について、以下に詳述する。
式1:R Zn
式2:RII Al
(式1中、2つ存在するRは、それぞれ独立にアルキル基を表し、式2中、3つ存在するRIIは、それぞれ独立にアルキル基を表す。式1中のRで表される2つのアルキル基の少なくとも1つは、式2中のRIIで表される3つのアルキル基の少なくとも1つと異なるアルキル基である。)
【0015】
(ジアルキル亜鉛)
上記式1中、2つ存在するRは、それぞれ独立にアルキル基を表す。ただし、式1中のRで表される2つのアルキル基の少なくとも1つは、式2中のRIIで表される3つのアルキル基の少なくとも1つと異なるアルキル基である。一形態では、式1中のRで表される2つのアルキル基の1つのみが、式2中のRIIで表される3つのアルキル基の少なくとも1つと異なるアルキル基である。他の一形態では、式1中のRで表される2つのアルキル基の両方が、式2中のRIIで表される3つのアルキル基の少なくとも1つと異なるアルキル基である。式1中に2つ存在するRは、一形態では同じアルキル基であり、他の一形態では異なるアルキル基である。本発明および本明細書において、アルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐を有していてもよく、環状であってもよい。また、本発明および本明細書において、アルキル基は、無置換であってもよく、置換基を有していてもよい。置換基を有するアルキル基について、「炭素数」とは、置換基を含まない部分の炭素数をいうものとする。一形態では、本発明および本明細書におけるアルキル基は、無置換アルキル基であることができる。
【0016】
で表されるアルキル基は、炭素数1以上12以下のアルキル基であることが好ましく、炭素数1以上8以下のアルキル基であることがより好ましい。Rで表されるアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられ、メチル基およびエチル基が好ましく、エチル基がより好ましい。式1で表されるジアルキル亜鉛の好ましい具体例としては、ジエチル亜鉛を挙げることができる。
【0017】
(トリアルキルアルミニウム)
上記式2中、3つ存在するRIIは、それぞれ独立にアルキル基を表す。式2中に3つ存在するRIIは、一形態では3つすべてが同じアルキル基であり、他の一形態では3つのうちの2つが同じアルキル基であり他の1つが異なるアルキル基であり、また他の一形態では3つのアルキル基がそれぞれ異なるアルキル基である。RIIで表されるアルキル基は、炭素数1以上12以下のアルキル基であることが好ましく、炭素数1以上8以下のアルキル基であることがより好ましい。RIIで表されるアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられ、メチル基、エチル基およびi-ブチル基が好ましく、メチル基が更に好ましい。式2で表されるトリアルキルアルミニウムの好ましい具体例としてはトリメチルアルミニウムおよびトリイソブチルアルミニウムを挙げることができ、トリメチルアルミニウムがより好ましい。
【0018】
反応原料として使用する式1で表されるジアルキル亜鉛と式2で表されるトリアルキルアルミニウムとの組み合わせは、反応原料のアルキル交換反応によって生成すべき目的のジアルキル亜鉛の種類に応じて決定すればよい。一形態では、式1で表されるジアルキル亜鉛としてジエチル亜鉛を使用し、且つ、式2中のRIIで表される3つのアルキル基がそれぞれ独立に炭素数1以上12以下のアルキル基であるトリアルキルアルミニウムを使用することができる。反応原料の組み合わせの具体例としては、ジエチル亜鉛とトリメチルアルミニウムとの組み合わせ、ジエチル亜鉛とトリイソブチルアルミニウムとの組み合わせ等を挙げることができる。また、一形態では、式2中に3つ存在するRIIがすべて同じアルキル基であり、式1中に2つ存在するRが同じアルキル基であって且つ式2中のRIIで表されるアルキル基とは異なるアルキル基である。
【0019】
<反応原料の混合(工程(1))>
上記製造方法では、式1で表されるジアルキル亜鉛と下記式2で表されるトリアルキルアルミニウムとを混合することにより、式1で表されるジアルキル亜鉛が有するアルキル基の少なくとも1つが、式2で表されるトリアルキルアルミニウムが有するアルキル基とアルキル交換することによって生成されたジアルキル亜鉛を得る。上記混合を行う工程を、「工程(1)」と呼ぶ。
【0020】
工程(1)では、式1で表されるジアルキル亜鉛と式2で表されるトリアルキルアルミニウムとを混合する。無溶媒で混合してもよく、混合時に溶媒を用いてもよい。溶媒を用いる場合には、ジアルキル亜鉛およびトリアルキルアルミニウムに対する反応性が低いという観点から、炭化水素溶媒およびエーテル溶媒からなる群から選ばれる1種以上の溶媒が好ましい。溶媒は、1種のみ使用してもよく、2種以上の溶媒を任意の割合で混合して使用してもよい。式1で表されるジアルキル亜鉛と式2で表されるトリアルキルアルミニウムについては、それぞれ市販品または公知の方法で製造された製品を使用でき、炭化水素溶媒および/またはエーテル溶媒によって溶液とした製品も使用できる。また、反応原料のジアルキル亜鉛および/またはトリアルキルアルミニウムを炭化水素溶媒およびエーテル溶媒からなる群から選ばれる1種以上の溶媒で希釈し、希釈液を混合してもよい。炭化水素溶媒は、芳香族炭化水素溶媒であってもよく、脂肪族炭化水素溶媒であってもよく、具体例としては、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン、n-トリデカン、n-テトラデカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等を挙げることができる。エーテル溶媒の具体例としては、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル等を挙げることができる。
【0021】
工程(1)では、式1で表されるジアルキル亜鉛が有するアルキル基の少なくとも1つが、式2で表されるトリアルキルアルミニウムが有するアルキル基とアルキル交換することによって生成されたジアルキル亜鉛を得る。詳しくは、ジアルキル亜鉛およびトリアルキルアルミニウムの混合比によって、反応式(A)~(C)に示すアルキル交換反応の1つ以上が進行すると考えられる。
反応式(A):R Zn+2RII Al→RII Zn+2RII Al
反応式(B):R Zn+RII Al→RII Zn+R IIAl
反応式(C):3R Zn+2RII Al→3RII Zn+2R Al
【0022】
反応混合物中では、上記反応式(A)~(C)の反応が協奏的に進行すると推察される。また、反応混合物中で反応原料、生成物および副生成物の間で更にアルキル交換反応が起こることによって、反応混合物は、R Zn、RIIZn、RII Zn、RII Al、RII Al、R IIAlおよびR Alの複雑な平衡混合物になると考えられる。
【0023】
工程(1)において目的のジアルキル亜鉛は、式1中の2つのアルキル基の両方が、式2中のアルキル基とアルキル交換した生成物であることが好ましい。ジアルキル亜鉛に対してトリアルキルアルミニウムが過剰になるほど、反応混合物中での平衡移動により目的のジアルキル亜鉛の生成量が多くなる。この点から、反応原料の混合比については、ジアルキル亜鉛1モルに対して、トリアルキルアルミニウム0.6モル以上5.0モル以下が好ましく、トリアルキルアルミニウム1.0モル以上2.0モル以下がより好ましい。
【0024】
工程(1)における反応原料の混合方法としては、例えば、撹拌せずにジアルキル亜鉛またはトリアルキルアルミニウムのどちらかの反応原料を入れたガラス製容器にもう一方の反応原料を加える方法、更にこのガラス製容器を作業者の手で振り混ぜる等して振り混ぜて撹拌する方法、反応原料および撹拌子を入れたフラスコをマグネチックスターラーにて撹拌する方法、撹拌装置付きオートクレーブを用いる方法等が挙げられる。撹拌装置を用いる場合、撹拌翼としては一般的なものを用いることができ、例えば、プロペラ、タービン、ファウドラー、マックスブレンド、フルゾーン等が挙げられる。また、工程(1)において反応装置を用いる場合、反応装置は、特に限定されず、例えば、縦型の反応装置でもよく、横型の反応装置でもよい。ジアルキル亜鉛とトリアルキルアルミニウムとを混合すると、反応が直ちに進行するため、無撹拌または軽く振り混ぜる方法でも反応は進行する。撹拌を行う場合の撹拌時間に特に制限はなく、例えば0.01秒以上3時間以下が好ましい。
【0025】
反応容器内または反応装置内の雰囲気は、空気中に含まれる水分がジアルキル亜鉛と反応するため、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
【0026】
ジアルキル亜鉛およびトリアルキルアルミニウムを混合する際の反応混合物の温度(「混合温度」とも記載する。)としては、反応系中の物質が液体の状態で存在できる温度が好ましい。例えば、ジエチル亜鉛およびトリメチルアルミニウムを混合する場合、トリメチルアルミニウムの融点が15℃、生成物のジメチル亜鉛の沸点が46℃であることから、15℃以上46℃以下が好ましい。
【0027】
反応圧力は、特に制限はなく、例えば常圧が好ましい。
【0028】
上記混合によって、式1で表されるジアルキル亜鉛が有する2つのアルキル基の少なくとも1つが、式2で表されるトリアルキルアルミニウムが有するアルキル基とアルキル交換することによって生成されたジアルキル亜鉛を得ることができ、式1で表されるジアルキル亜鉛が有する2つのアルキル基の両方が、式2で表されるトリアルキルアルミニウムが有するアルキル基とアルキル交換することによって生成されたジアルキル亜鉛を得ることもできる。例えば、ジエチル亜鉛とトリメチルアルミニウムとを混合することによって、ジメチル亜鉛を含む反応混合物を得ることができる。ジエチル亜鉛とトリイソブチル亜鉛とを混合することによって、ジイソブチル亜鉛を含む反応混合物を得ることができる。上記製造方法によって製造されるジアルキル亜鉛を「式3:RIII Zn」で表すと、式3中、2つ存在するRIIIは、それぞれ独立にアルキル基である。式3中に2つ存在するRIIIは、同じアルキル基または異なるアルキル基であり、同じアルキル基であることが好ましい。RIIIで表されるアルキル基は、炭素数1以上12以下のアルキル基であることが好ましく、炭素数1以上8以下のアルキル基であることがより好ましい。RIIIで表されるアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられ、メチル基、エチル基およびi-ブチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。式3で表されるジアルキル亜鉛の好ましい具体例としては、ジメチル亜鉛およびジイソブチル亜鉛を挙げることができ、ジメチル亜鉛がより好ましい。
【0029】
<反応混合物の蒸留(工程(2))>
上記製造方法の一形態では、工程(1)によって得られた反応混合物を蒸留することによって、上記アルキル交換によって生成されたジアルキル亜鉛を含む留分を得ることができる。上記蒸留を行う工程を、「工程(2)」と呼ぶ。
【0030】
工程(2)において使用する蒸留装置としては、単蒸留装置、または分離性能を向上させるために蒸留塔に充填物を使用した装置が好ましい。充填物を使用する場合、充填物としては、市販品または公知の方法で製造された製品を使用でき、規則充填物、不規則充填物のいずれも使用できる。理論段数は多いほどよいが、工業的に有利な高さが選択される。蒸留塔としては、理論段数が4段以上20段以下の蒸留塔が好ましい。
【0031】
蒸留装置内は、空気中に含まれる水分がジアルキル亜鉛と反応するため、蒸留開始前に、予め窒素、アルゴン等の不活性ガスにて置換しておくことが好ましい。
【0032】
蒸留する際の温度は、目的のジアルキル亜鉛の種類および装置の減圧度に応じて設定することができ、35℃以上120℃以下が好ましい。蒸留する際の圧力は、常圧および減圧のいずれかが好ましい。
【0033】
蒸留によって複数種の留分を得る場合、それら留分の中で、目的のジアルキル亜鉛を最も多く含む留分を「主留分」と呼び、その他の留分を「副留分」と呼ぶと、副留分には、通常、未反応の反応原料および/または副生成物が多く含まれる。副留分は、分離困難な混合物として回収される場合もあるが、次のバッチの原料として利用してもよい。主留分については、例えば、目的のジアルキル亜鉛がジメチル亜鉛の場合、ジメチル亜鉛の沸点は46℃であるため、主留分は、通常、蒸留において最初に留出する留分である。
【0034】
工程(2)における蒸留缶に残存する反応混合物は、工程(1)と同様にR Zn、RIIZn、RII Zn、RII Al、RII Al、R IIAlおよびR Alの複雑な平衡混合物であると考えられ、低沸点成分が留出するにしたがって高沸点成分の割合が多くなる。その結果、ル・シャトリエの法則により平衡が移動して低沸点成分が新たに生成し、工程(1)で生成した量よりも工程(2)における生成物量が多くなる場合もあり得ると考えられる。
【0035】
以上説明した製造方法では、反応原料としてハロゲン含有化合物を使用することなくジアルキル亜鉛を製造することができる。したがって、上記製造方法によれば、ハロゲン成分の含有量が少ないジアルキル亜鉛を得ることができる。
【0036】
[ジアルキル亜鉛]
本発明の一態様は、塩素成分、臭素成分およびヨウ素成分からなる群から選ばれるハロゲン成分の合計含有量が、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子からなる群から選ばれるハロゲン原子の質量換算の合計含有量として100ppm未満であるジアルキル亜鉛に関する。上記合計含有量が100ppm未満とは、後述の実施例の項に記載の定量方法による定量分析の検出限界未満であることを意味する。このようにハロゲン成分の合計含有量が少ないジアルキル亜鉛によれば、ジアルキル亜鉛を電子工業用途等に使用する場合に電子工業製品の性能への影響を低減できるため好ましい。
【0037】
上記ジアルキル亜鉛は、先に記載した本発明の一態様にかかる製造方法によって製造することができる。ただし、上記製造方法によって製造されたものに限定されず、ハロゲン成分の合計含有量が上記範囲内のジアルキル亜鉛であれば、本発明の一態様にかかるジアルキル亜鉛に包含される。
【0038】
上記ジアルキル亜鉛に関して、「ハロゲン成分」は、塩素成分、臭素成分およびヨウ素成分からなる群から選ばれるハロゲン成分であり、詳しくは、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子からなる群から選ばれるハロゲン原子を含有する成分である。上記ジアルキル亜鉛が、上記製造方法によって得られたジアルキル亜鉛である場合、ハロゲン成分は、反応原料のジアルキル亜鉛に不純物として含有されるアルキルジンクハライド由来、または、反応原料のトリアルキルアルミニウムに不純物として含有されるジアルキルアルミニウムハライド由来および/もしくはアルキルアルミニウムジハライド由来である。
【0039】
上記ジアルキル亜鉛の詳細については、式3で表されるジアルキル亜鉛に関する先の記載を参照できる。
【実施例0040】
以下、本発明を、実施例に基づいて更に詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に示す実施形態に限定されるものではない。以下に記載の「室温」とは、20℃以上30℃以下である。以下に記載の各種工程は、常圧下で実施した。また、以下に記載の「ハロゲン成分」は、塩素成分、臭素成分およびヨウ素成分からなる群から選択されるハロゲン成分である。
【0041】
[分析方法]
後掲の表1に記載の分析結果は、以下の分析方法によって得られた結果である。
【0042】
<反応液の組成および反応原料のジアルキル亜鉛から目的のジアルキル亜鉛への転化率>
工程(1)によって得られた反応液を重テトラヒドロフランで希釈した後、日本電子製NMR(核磁気共鳴)装置JNM-ECA500にてプロトンNMRを測定した。得られたNMRスペクトルより、反応液の組成を同定するとともに、反応原料のジアルキル亜鉛から目的のジアルキル亜鉛(後掲の表1中、「Zn生成物」)への転化率を算出した。
【0043】
<蒸留主留分の留出液の成分分析>
(分析試料の調製)
ジアルキル亜鉛を有機溶媒にて希釈した溶液を硫酸水溶液中に滴下して、ジアルキル亜鉛の加水分解液とした。有機溶媒による希釈は、炭化水素成分の分析においては、流動パラフィンで約4倍に希釈し、金属成分およびハロゲン成分の分析においては、キシレンで約30倍に希釈した。
【0044】
(分析方法1(亜鉛成分))
蒸留主留分の留出液中に含まれる亜鉛成分については、上記加水分解液の水層に含まれる亜鉛イオンを京都電子工業製電位差自動滴定装置AT-610にて滴定して、亜鉛原子の質量換算の含有量(単位:質量%)を算出した。
【0045】
(分析方法2(アルミニウム成分))
蒸留主留分の留出液中に含まれるアルミニウム成分については、上記加水分解液の水層をパーキンエルマー製ICP-AES(誘導結合高周波プラズマ発行分光分析)装置OPTIMA7300DVにて測定して、アルミニウム原子の質量換算の含有量(単位:質量%)を算出した。
【0046】
(分析方法3(ハロゲン成分))
蒸留主留分の留出液中に含まれるハロゲン成分については、上記加水分解液の水層を硝酸銀水溶液にて懸濁させて、濃度既知の懸濁液と目視で比較することによって、または上記加水分解液の水層を0.05M硝酸銀水溶液にて滴定することによって、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子からなる群から選ばれるハロゲン原子の質量換算の含有量(単位:ppm)を求めた。本分析方法では、硝酸銀水溶液を使用するため、留出液にハロゲン成分が含まれる場合には、ハロゲン成分に含まれる塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子からなる群から選ばれるハロゲン原子と銀とが難溶性の塩を形成することによって懸濁が生じる。本分析方法による分析でハロゲン成分が検出されなかった場合、ハロゲン成分の合計含有量は本分析方法の検出限界の100ppm未満と判定する。
【0047】
(分析方法4(炭化水素成分))
蒸留主留分の留出液中に含まれる炭化水素成分については、上記分析試料調製の際の加水分解で発生したガスを捕集し、島津製作所製ガスクロマトグラフGC-8Aにて測定してガス組成から定性分析および定量分析を行い、後掲の表1に示す定量結果(単位:mol%)を得た。
【0048】
後掲の表1中、「Zn基質」は、反応原料として使用した亜鉛含有化合物を示し、「Al基質」は、反応原料として使用したアルミニウム含有化合物を示す。「Zn:Al」は、反応原料として使用したZn基質とAl基質との混合比(モル比)を示す。
【0049】
[実施例1]
窒素置換を行ったガラス製容器において、ジエチル亜鉛(東ソー・ファインケム(株)製)2.94gをトルエン16.00gで希釈した(A)液を調製した。
窒素置換を行った別のガラス製容器において、トリメチルアルミニウム(東ソー・ファインケム(株)製)2.94gをトルエン11.59gで希釈した(B)液を調製した。
窒素置換を行った更に別のガラス製容器において、ジエチル亜鉛を0.32g(2.6mmol)含む(A)液2.06gとトリメチルアルミニウムを0.37g(5.2mmol、ジエチル亜鉛に対してモル基準で2当量)含む(B)液1.84gとを、室温下、無撹拌で混合した。先に記載した分析方法による分析の結果、得られた反応液は、ジメチル亜鉛、エチルメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、トリメチルアルミニウム、エチルジメチルアルミニウム、ジエチルメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、および溶媒の混合物であることが推察された。また、反応原料のジエチル亜鉛から目的のジメチル亜鉛への転化率を求めた。
以上の実施例1の詳細を表1に示す。
【0050】
[実施例2]
トリメチルアルミニウムをジエチル亜鉛に対してモル基準で1当量としたこと以外は実施例1と同様に行った。詳細を表1に示す。
【0051】
[実施例3]
ジエチル亜鉛およびトリメチルアルミニウムを希釈する溶媒をn-ドデカンに変え、(A)液と(B)液とを混合した際に5秒間軽く振り混ぜて撹拌したこと以外は実施例1と同様に行った。詳細を表1に示す。
【0052】
[実施例4]
トリメチルアルミニウムをジエチル亜鉛に対してモル基準で1当量としたこと以外は実施例3と同様に行った。詳細を表1に示す。
【0053】
[実施例5]
トリメチルアルミニウムをジエチル亜鉛に対してモル基準で2/3当量としたこと以外は実施例3と同様に行った。詳細を表1に示す。
【0054】
[実施例6]
<工程(1)>
窒素置換を行ったSUS(Stainless Used Steel)製撹拌機付き1Lオートクレーブにジエチル亜鉛(東ソー・ファインケム(株)製)185g(1.49mol)およびトリメチルアルミニウム(東ソー・ファインケム(株)製)214g(2.96mol、ジエチル亜鉛に対してモル基準で2当量)を混合し室温で30分間撹拌した。先に記載した分析方法による分析の結果、得られた反応液は、ジメチル亜鉛、エチルメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、トリメチルアルミニウム、エチルジメチルアルミニウム、ジエチルメチルアルミニウムおよびトリエチルアルミニウムの混合物であることが推察された。また、反応原料のジエチル亜鉛から目的のジメチル亜鉛への転化率を求めた。結果を表1に示す。
【0055】
<工程(2)>
続いて工程(1)で得られた反応液393gをオートクレーブに接続されたSUS製蒸留塔により、65kPaA、80℃~110℃の条件で単蒸留を行った。主留分として、最初に留出した留分112.10gを回収した。先に記載した分析方法によって、主留分の成分を分析した。結果を表1に示す。表1中、「蒸留収率」は、主留分について算出された収率である。得られた主留分において炭化水素成分がほぼメタンであることとAlと比べてZnが多量に含まれていることから、ジメチル亜鉛が主留分中の主成分であることが確認できる。また、本分析方法による分析ではハロゲン成分は検出されなかったため、ハロゲン成分の合計含有量は本分析方法の検出限界の100ppm未満と判定した。
【0056】
[実施例7]
窒素置換を行ったガラス製容器に、ジエチル亜鉛(東ソー・ファインケム(株)製)0.81g(6.6mmol)およびトリイソブチルアルミニウム(東ソー・ファインケム(株)製)2.13g(10.7mmol、ジエチル亜鉛に対してモル基準で1.7当量)を室温で混合し、5秒間軽く振り混ぜて撹拌した。先に記載した分析方法による分析の結果、得られた反応液は、ジイソブチル亜鉛、イソブチルエチル亜鉛、ジエチル亜鉛、トリイソブチルアルミニウム、ジイソブチルエチルアルミニウム、イソブチルジエチルアルミニウムおよびトリエチルアルミニウムの混合物であることが推察された。また、反応原料のジエチル亜鉛から目的のジイソブチル亜鉛への転化率を求めた。
以上の実施例7の詳細を表1に示す。
【0057】
[比較例1]
特許文献9(特開平2-180888号公報)を参考に、トリメチルアルミニウムの代わりにジメチルアルミニウムクロライドを混合させたこと以外は実施例1と同様に行った。得られた反応液は、ジメチル亜鉛、エチルメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、トリメチルアルミニウム、エチルジメチルアルミニウム、ジエチルメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、また、これらの化合物の少なくとも1つのアルキル基が塩化物イオンで置換された化合物、および溶媒の混合物であることが推察された。詳細を表1に示す。
【0058】
[比較例2]
特許文献9(特開平2-180888号公報)を参考に、トリメチルアルミニウムの代わりにジメチルアルミニウムクロライドを混合させたこと以外は実施例2と同様に行った。先に記載した分析方法による分析の結果、得られた反応液は、ジメチル亜鉛、エチルメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、トリメチルアルミニウム、エチルジメチルアルミニウム、ジエチルメチルアルミニウムおよびトリエチルアルミニウム、これらの化合物の少なくとも1つのアルキル基が塩化物イオンで置換された化合物、ならびに溶媒の混合物であることが推察された。詳細を表1に示す。
【0059】
[比較例3]
特許文献4~8(特開昭62-116586号公報、特開平4-221389号公報、特開平4-224584号公報、特開2009-263322号公報および特開2013-49647号公報)を参考に、ジエチル亜鉛の代わりに塩化亜鉛を使用し、塩化亜鉛に対してモル基準で1.7当量のトリメチルアルミニウムを混合させたこと以外は実施例1と同様に行った。先に記載した分析方法による分析の結果、得られた反応混合物のうち液分は、ジメチル亜鉛、メチルジンククロライド、トリメチルアルミニウム、ジメチルアルミニウムクロライド、メチルアルミニウムジクロライド、および溶媒の混合物であることが推察された。詳細を表1に示す。
【0060】
[比較例4]
トリメチルアルミニウムの代わりにジメチルアルミニウムクロライドを混合させたこと以外は実施例6と同様に行った。
先に記載した分析方法による分析の結果、工程(1)で得られた反応液は、ジメチル亜鉛、エチルメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、トリメチルアルミニウム、エチルジメチルアルミニウム、ジエチルメチルアルミニウムおよびトリエチルアルミニウム、ならびにこれらの化合物の少なくとも1つのアルキル基が塩化物イオンで置換された化合物の混合物であることが推察された。
工程(2)で得られた主留分において炭化水素成分がほぼメタンであることとAlと比べてZnが多量に含まれていることから、ジメチル亜鉛が主留分中の主成分であることが確認できる。
また、主留分にハロゲン成分が検出された。比較例4において主留分にハロゲン成分が検出された理由は、原料のジメチルアルミニウムクロライドのほかに、アルキル基と塩化物イオンの交換反応によって生成したメチルジンククロライド、エチルジンククロライド等が主留分に混入しているためと考えられる。メチルジンククロライドの沸点は67℃であり、ジメチル亜鉛の沸点(46℃)に近いため、主留分中のハロゲン成分は、特に、メチルジンククロライドを多く含むと推察される。
詳細を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1に示す結果から、実施例1~7では、反応原料としてハロゲン含有化合物を使用することなく、目的のジアルキル亜鉛が得られたことが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、ジアルキル亜鉛に関する技術分野において有用である。