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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020892
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】地上子
(51)【国際特許分類】
   B61L 23/14 20060101AFI20240207BHJP
【FI】
B61L23/14 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123431
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(72)【発明者】
【氏名】飯田 幸司
(72)【発明者】
【氏名】豊田 明久
【テーマコード(参考)】
5H161
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161CC03
5H161CC05
5H161DD12
5H161DD41
5H161EE04
5H161EE07
5H161FF01
(57)【要約】
【課題】周波数の異なる複数のATS信号に対する受信レベルの低下を抑えて信号対雑音比を改善できる地上子を提供する。
【解決手段】地上子1は、列車から送信されるATS信号を受信可能な受信コイル2を含む。受信コイル2は、0の字状に巻かれた第1コイル部21と、第1コイル部21と同じ巻き方向で第1コイル部21よりも小さな0の字状に連続して巻かれた第2コイル部22と、を有している。第1および第2コイル部21,22は、上下方向に重ねて配置され、かつ、各々の中心が列車の進行方向Dtと直交する方向にずらして配置されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車から送信されるATS信号を受信可能な受信コイルを含む地上子であって、
前記受信コイルは、0の字状に巻かれた第1コイル部と、該第1コイル部と同じ巻き方向で前記第1コイル部よりも小さな0の字状に連続して巻かれた第2コイル部と、を有し、
前記第1および第2コイル部は、上下方向に重ねて配置され、かつ、各々の中心が前記列車の進行方向と直交する方向にずらして配置されている、地上子。
【請求項2】
前記第2コイル部のコイル面は、前記第1コイル部のコイル面の1/2の面積を有し、
前記第2コイル部は、平面視で、前記第1コイル部の内側、かつ、前記第1コイル部における前記列車の進行方向と直交する方向の中心を通る中心線の片側に配置されている、請求項1に記載の地上子。
【請求項3】
前記第2コイル部は、前記第1コイル部の下方側に配置されており、
前記受信コイルは、前記第1コイル部の下方側、かつ、前記中心線に対して前記第2コイル部とは反対側に配置され、前記第1コイル部を支持する支持部を有し、該支持部によって前記第1および第2コイル部の各コイル面が略水平に保持されている、請求項2に記載の地上子。
【請求項4】
前記第2コイル部は、前記第1コイル部の上方側に配置されている、請求項2に記載の地上子。
【請求項5】
前記受信コイルは、前記列車から情報波として送信されるATS-S信号と、該ATS-S信号とは周波数が異なり、前記列車から電力波として送信されるATS-P信号と、を受信可能に構成されている、請求項1に記載の地上子。
【請求項6】
前記受信コイルで受信された前記ATS信号の受信状態を示す信号を踏切用列車検知装置に出力可能に構成されている、請求項1に記載の地上子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車から送信されるATS信号を受信可能な受信コイルを含む地上子に関し、特に、ATS信号を利用した列車検知に用いられる地上子に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、踏切道に設置された踏切警報機や踏切遮断機等を自動的に制御するために列車を検知する方式として、車軸によるレール短絡を利用した軌道回路による連続制御方式と、踏切制御子による点制御方式が一般に使用されている。踏切制御子には、レールを電流帰還回路の一部に使用した発振式と、高出力・高短絡電流の送受信式(H形)とがある。また、軌道回路や踏切制御子による列車検知のバックアップとして、列車に設置されたATS車上装置から送信されるATS信号(常時発振信号)を受けて列車を検知する方式も知られている。
【0003】
列車からのATS信号を地上側で受信するために使用される地上子は、元来、ATS車上装置の車上子から情報波として送信される周波数が103kHzのATS-S信号を受信するために、該車上子の送信コイルの形状に合わせて0の字状に巻かれた受信コイルを有していた。そして、車上子から地上子用電力波として送信される周波数が245kHzのATS-P信号が登場すると、ATS-S信号およびATS-P信号を地上子で受信するために、該地上子の受信コイルは、ATS-P信号に対応した送信コイルの形状に合わせて8の字状になるように巻かれていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-343456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のような8の字状に巻かれた受信コイルを有する従来の地上子は、ATS-P信号を効率よく受信できるものの、ATS-S信号については、元来の0の字状に巻かれた受信コイルを有する地上子と比較すると受信レベルの低下が生じていた。このような従来の地上子により受信されるATS信号を利用して列車を検知する踏切バックアップ装置等では、列車からのATS信号とは別に、地上子の故障を検知するための照査信号が受信コイルに常時送信されている場合がある。この場合、該照査信号のレベルをATS-S信号の低下した受信レベルに合わせて調整する必要があり、元来の0の字状に巻かれた受信コイルの場合と比較して信号対雑音比(SN比)が悪化してしまい、帰線ノイズ等への対策が困難になるという課題があった。
【0006】
本発明は上記の点に着目してなされたもので、周波数の異なる複数のATS信号に対する受信レベルの低下を抑えて信号対雑音比を改善できる地上子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明の一態様は、列車から送信されるATS信号を受信可能な受信コイルを含む地上子を提供する。この地上子における前記受信コイルは、0の字状に巻かれた第1コイル部と、該第1コイル部と同じ巻き方向で前記第1コイル部よりも小さな0の字状に連続して巻かれた第2コイル部と、を有し、前記第1および第2コイル部は、上下方向に重ねて配置され、かつ、各々の中心が前記列車の進行方向と直交する方向にずらして配置されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る地上子によれば、周波数の異なる複数のATS信号に対して良好な受信レベルを実現することができ、信号対雑音比の改善を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る地上子の概略構成を示す図である。
図2】上記実施形態における受信コイルおよび照査コイルを組みつけた状態を上方側から見た平面図である。
図3】上記実施形態におけるATS-P信号の受信時の動作を説明するための概念図である。
図4】上記実施形態におけるATS-S信号の受信時の動作を説明するための概念図である。
図5】上記実施形態に関連する変形例の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る地上子の概略構成を示す図である。また、図2は、図1の地上子における受信コイルおよび照査コイルを組みつけた状態を上方側から見た平面図である。なお、以下で説明する各図面において、矢印Dt方向は、地上子の上方を通過する列車の進行方向を示している。また、矢印D1方向は、地上子における列車の進行方向Dtと平行な方向(前後方向)を示している。さらに、矢印D2方向は、地上子における列車の進行方向Dtと直交する方向(幅方向)を示している。加えて、矢印D3方向は、地上子における前後方向D1および幅方向D2のそれぞれと直交する方向(上下方向)を示している。
【0011】
図1および図2において、本実施形態による地上子1は、例えば、受信コイル2と、照査コイル3と、支持部4と、を含んでいる。受信コイル2は、列車(図示せず)から送信される周波数の異なる複数のATS信号を受信可能に構成されている。照査コイル3は、地上子1における断線等の故障を検知するための照査信号を受信コイル2に向けて送信するように構成されている。支持部4は、受信コイル2の後述する第1コイル部21と第2コイル部22の段差に対応して設けられており、第1コイル部21を下方側から支持している。
【0012】
地上子1は、受信コイル2で受信されたATS信号の受信状態を示す信号を踏切用列車検知装置(図示せず)に出力可能に構成されている。つまり、本実施形態による地上子1は、ATS信号を利用した踏切用列車検知装置の地上子として使用されている。踏切用列車検知装置は、踏切道に設置された踏切警報機や踏切遮断機等を自動的に制御するために、軌道回路や踏切制御子による列車検知のバックアップとして、踏切道に接近する列車および/または踏切道を通過した列車を、ATS信号を利用して検知する装置(踏切バックアップ装置)である。
【0013】
地上子1の受信コイル2は、0の字状に巻かれた第1コイル部21と、第1コイル部21と同じ巻き方向Dwで第1コイル部21よりも小さな0の字状に連続して巻かれた第2コイル部22と、を有している。第1および第2コイル部21,22は、上下方向D3に重ねて配置され、かつ、各々の中心が列車の進行方向Dtと直交する方向(幅方向D2)にずらして配置されている。
【0014】
第1コイル部21の始端には、接続端子T1が設けられている。第1コイル部21の終端には、第2コイル部22の始端が接続されている。第2コイル部22の終端には、接続端子T2が設けられている。つまり、受信コイル2は、0の字状で大きさの異なる2つのコイル部21,22が形成されるように1本の電線が一方向に巻かれており、該電線の両端に接続端子T1,T2が設けられている。
【0015】
具体的に、第1コイル部21は、接続端子T1から幅方向D2の外方(図1および図2において右方)に向かって引出部分21Aが延びている。引出部分21Aの先端(右端)には、右側部分21Bが続いている。右側部分21Bは、引出部分21Aの先端から前後方向D1に曲がり前方に向かって延びている。右側部分21Bの前端には、前側部分21Cが続いている。前側部分21Cは、右側部分21Bの前端から幅方向D2に曲がり左方に向かって所定の長さL1(幅)で延びている。前側部分21Cの左端には、左側部分21Dが続いている。左側部分21Dは、前側部分21Cの左端から前後方向D1に曲がり後方に向かって所定の長さL2(奥行)で延びている。左側部分21Dの後端には、後側部分21Eが続いている。
【0016】
第1コイル部21の後側部分21Eは、左側部分21Dの後端から幅方向D2に曲がり右方に向かって所定の長さL1で延びている。後側部分21Eの右端には右側部分21Fが続いている。右側部分21Fは、後側部分21Eの右端から前後方向D1に曲がり前方に向かって所定の長さL2で延び、前述した引出部分21Aに続く右側部分21Bの下側に重なるように配置されている。以降、上記と同様にして、1本の電線の各部分が、上方側から下方側を見て左回り(反時計回り)に繰り返し巻かれる。
【0017】
これにより、所定の巻き数N1(図1の例ではN1=4)で、矩形の各角部分を丸めた概ね0の字状の形状を有する第1コイル部21が形成される。第1コイル部21の巻き数N1、形状、および電線の材料については、上述したような元来の地上子においてATS-S信号を受信するために0の字状に巻かれた受信コイルの巻き数、形状、および電線の材料と同じになるように設定するのがよい。
【0018】
第1コイル部21の終端(N1周目の右側部分の前端)には、第2コイル部22の始端となる前側部分22Aが続いている。第2コイル部22の前側部分22Aは、第1コイル部21の終端から幅方向D2に曲がり左方に向かって所定の長さL3(幅)で延びている。第2コイル部22の幅は、第1コイル部21の幅よりも短くなるように設定されている(L1>L3)。本実施形態では、第2コイル部22の幅が第1コイル部21の幅の半分の長さに設定されている(L1=2×L3)。第2コイル部22の前側部分22Aの左端には、左側部分22Bが続いている。左側部分22Bは、前側部分22Aの左端から前後方向D1に曲がり後方に向かって所定の長さL4(奥行)で延びている。第2コイル部22の奥行は、第1コイル部21の奥行と揃うように設定されている(L2=L4)。左側部分22Bの後端には、後側部分22Cが続いている。
【0019】
第2コイル部22の後側部分22Cは、左側部分22Bの後端から幅方向D2に曲がり右方に向かって所定の長さL3で延びている。後側部分22Cの右端には右側部分22Dが続いている。右側部分22Dは、後側部分22Cの右端から前後方向D1に曲がり前方に向かって所定の長さL4で延び、前述した第1コイル部21のN1周目の右側部分の下側に重なるように配置されている。以降、上記と同様にして、第1コイル部21から連続する1本の電線の各部分が、上方側から下方側を見て左回り(反時計回り)に繰り返し巻かれる。
【0020】
これにより、所定の巻き数N2(図1の例ではN2=3)で、矩形の各角部分を丸めた概ね0の字状の形状を有する第2コイル部22が形成される。第2コイル部22のN2周目の右側部分の前端には、幅方向D2の左方に向かって延びる引出部分22Eが続いている。引出部分22Eの先端(左端)には、接続端子T2が設けられている。第2コイル部22の巻き数N2、および電線の材料については、上述したような従来の地上子においてATS-P信号を受信するために8の字状に巻かれた受信コイルの巻き数、および電線の材料と同じになるように設定するのがよい。また、第2コイル部22の0の字状の形状については、従来の地上子おける受信コイルの「8の字」の半分の形状に合わせるようにするのがよい。
【0021】
上記のようにして形成された受信コイル2の第1および第2コイル部21,22は、上下方向D3に重ねて配置され、かつ、各々の中心が列車の進行方向Dtと直交する方向(幅方向D2)にずらして配置されている。本実施形態において、第2コイル部22のコイル面の面積A2(∝L3×L4)は、第1コイル部21のコイル面の面積A1(∝L1×L2)の1/2になっている(A2=A1/2)。また、第2コイル部22は、上下方向D3から見た平面視で、第1コイル部21の内側、かつ、第1コイル部21における列車の進行方向Dtと直交する方向(幅方向D2)の中心を通る中心線CLの片側に配置されている。換言すると、本実施形態による地上子1の受信コイル2では、列車の進行方向Dtに直交する方向の長さ(幅)L1,L2の比が2:1であり、かつ、列車の進行方向Dtに平行な方向の長さ(奥行)L2,L4が共通である、大きさの異なる0の字状に連続して巻かれた第1および第2コイル部21,22が、幅方向D2の一端部分を揃えて上下方向D3に重ねて配置されている。
【0022】
上記のような受信コイル2の上方側には、故障検知用の照査信号を受信コイル2に向けて送信する照査コイル3が重ねて設けられている。照査コイル3は、受信コイル2の第1コイル部21と概ね同じ大きさの0の字状に巻かれている。図1には、1回巻きの照査コイル3の例が図示されている。照査コイル3の両端には、接続端子T3,T4が設けられている。接続端子T3,T4には、所定の周波数および振幅を有する照査信号を生成するための駆動信号が与えられる。
【0023】
本実施形態による地上子1において、上下方向D3に重ねて配置される受信コイル2(第1および第2コイル部21,22)と照査コイル3とは、図2に示すように、各々のコイルの周回方向に間隔を空けて配置された複数の結束バンド5などによって束ねられている。また、受信コイル2の接続端子T1,T2、および照査コイル3の接続端子T3,T4は、近接する位置に纏められている。1つに束ねられた受信コイル2および照査コイル3の周回方向には、接続端子T1~T4に対応する部分から反時計回りに少し離れた位置にビニルテープ6が貼られている。該ビニルテープ6は、受信コイル2の巻き方向Dw(ここでは、反時計回りの方向)を外部から識別可能にしている。
【0024】
上記のように照査コイル3が上方に束ねられた受信コイル2の下面部には、第1コイル部21の下面左側部分と第2コイル部22の下面との間に段差が生じる。そこで、この段差に対応した高さを有する支持部4が、第1コイル部21の下面左側部分に設けられている(図1)。本実施形態では、例えば、ゴム板等を用いた3つの弾性部材41,42,43により支持部4が構成されている。
【0025】
弾性部材41は、第1コイル部21の下面左側部分のうちで、第1コイル部21の前側部分21Cに対応する箇所に当接するように配置されている。弾性部材42は、第1コイル部21の下面左側部分のうちで、第1コイル部21の左側部分21Dに対応する箇所に当接するように配置されている。弾性部材43は、第1コイル部21の下面左側部分のうちで、第1コイル部21の後側部分21Eに対応する箇所に当接するように配置されている。このような支持部4を設けることにより、地上子1の設置時に、1つに束ねられた受信コイル2および照査コイル3における各々のコイル面が略水平な状態に保持されるようになる。
【0026】
次に、本実施形態による地上子1の動作について詳しく説明する。
本実施形態では、上記のような構成の地上子1が、ATS信号を利用した踏切用列車検知装置(踏切バックアップ装置)の地上子として使用される。この場合、地上子1は、列車の進行方向Dtにおいて踏切道の手前の所定位置、および/または踏切道の先の所定位置に設置される。地上子1では、照査コイル3から常時送信される照査信号が受信コイル2で受信される。受信コイル2による照査信号の受信状態を示す信号は踏切用列車検知装置に出力され、該踏切用列車検知装置では、照査信号の受信レベルに基づいて、地上子1を含めた装置内での断線等の故障が検知される。
【0027】
上記のような照査信号による故障検知と並行して、列車が地上子1の上方を通過する際には、該列車から送信されるATS信号が地上子1の受信コイル2で受信される。このとき、地上子1の受信コイル2では、列車に設置されているATS車上装置(図示せず)の種類に応じて周波数の異なる複数のATS信号が受信され得る。本実施形態では、ATS車上装置の車上子から情報波として送信される周波数が103kHzのATS-S信号と、地上子用電力波として送信される周波数が245kHzのATS-P信号とが、地上子1の受信コイル2で受信される場合を想定して、各々の受信動作の違いを図3および図4を参照しながら具体的に説明する。
【0028】
図3は、地上子1におけるATS-P信号の受信時の動作を説明するための概念図である。
図3に示すように、ATS-P信号を送信するために8の字状に巻かれた送信コイル7を有する車上子が列車に設けられている。該列車が地上子1の上方を通過する際には、8の字状の送信コイル7における列車の進行方向Dtに直交する方向の中心が、地上子1の受信コイル2の中心線CL上を概ね通るように、送信コイル7と受信コイル2の相対的な位置関係が決められている。
【0029】
このような位置関係において、送信コイル7から送信されるATS-P信号は、受信コイル2の第1および第2コイル部21,22によって受信される。このとき、第2コイル部22の0の字状の形状は、前述したように従来の地上子おけるATS-P信号を受信するための受信コイルの「8の字」の半分の形状に合わせられている。このため、ATS-P信号の受信時、第2コイル部22では、従来の8の字状に巻かれた受信コイルで得られていた磁束の半分程度の磁束が得られることになり、該磁束によって第2コイル部22に誘起される電流も従来の半分程度となる。一方、第1コイル部21では、ATS-P信号の受信時に打ち消し合う磁束が得られるので電流は誘起されない。したがって、受信コイル2におけるATS-P信号の受信レベルは、従来の8の字状に巻かれた受信コイルにおけるATS-P信号の受信レベルの半分程度に低下(-6dB)するようになる。
【0030】
ただし、ATS-P信号は、元々、地上子に電力を供給する目的で列車から送信される信号である。地上子用電力波としてのATS-P信号の送信パワーは、情報波としてのATS-S信号の送信パワーに比べて顕著に大きい。このため、従来の8の字状に巻かれた受信コイルにおいて、ATS-P信号の受信レベルはATS-S信号の受信レベルと比較して10dB程度高い。したがって、本実施形態の受信コイル2におけるATS-P信号の受信レベルが半分程度に低下しても、次に図4を参照して説明するように従来よりも増加するATS-S信号の受信レベルを下回ることはないので、踏切用列車検知装置に使用される地上子1の受信コイル2として問題はない。
【0031】
図4は、地上子1におけるATS-S信号の受信時の動作を説明するための概念図である。
図4に示すように、ATS-S信号を送信するために0の字状に巻かれた送信コイル8を有する車上子が列車に設けられている。送信コイル8は、0の字状のコイルが2つ、列車の進行方向Dtに直交する方向にずらして配置されている。当該列車が地上子1の上方を通過する際には、送信コイル8が、地上子1の受信コイル2の中心線CLに対して左右のいずれかにずれた位置を通るように、送信コイル8と受信コイル2の相対的な位置関係が決められている。
【0032】
このような位置関係において、送信コイル8から送信されるATS-S信号は、受信コイル2の第1および第2コイル部21,22によって受信される。このとき、第1コイル部21の0の字状の形状は、前述したように元来の地上子おけるATS-S信号を受信するための受信コイルの0の字状の形状に合わせられている。このため、第1コイル部21では、元来の0の字状に巻かれた受信コイルの場合と同様に、ATS-S信号を効率良く受信することができる。これに加えて、ATS-S信号の受信時に第1コイル部21で得られる磁束の半分が第2コイル部22を通過するので、該磁束によって第2コイル部22に誘起される電流分、受信コイル2の全体を流れる電流が増えるようになる。したがって、受信コイル2におけるATS-S信号の受信レベルは、元来の0の字状に巻かれた受信コイルにおけるATS-S信号の受信レベルよりも増加する。このような受信コイル2におけるATS-S信号の受信レベルは、従来の8の字状に巻かれた受信コイルでATS-S信号を受信した場合の受信レベルと比較すると、+8~10dB程度の増加が期待できる。
【0033】
従来の8の字状に巻かれた受信コイルを使用してATS-S信号およびATS-P信号の双方を受信する地上子では、ATS-S信号の受信レベルの低下に合わせて、照査信号のレベルが-10dB程度調整されていた。そこで、従来の8の字状に巻かれた受信コイルに代えて、本実施形態による受信コイル2を使用することによって、当該地上子1における照査信号のレベルを、元来の0の字状に巻かれた受信コイルを使用した地上子における照査信号のレベル相当まで増加させることができる。
【0034】
上述したように本実施形態による地上子1では、受信コイル2が、0の字状に巻かれた第1コイル部21と、第1コイル部21と同じ巻き方向で第1コイル部21よりも小さな0の字状に連続して巻かれた第2コイル部22と、を有しており、第1および第2コイル部21,22が、上下方向に重ねて配置され、かつ、各々の中心が列車の進行方向Dtと直交する方向にずらして配置されている。これにより、ATS-S信号およびATS-P信号などのような周波数の異なる複数のATS信号を共通の受信コイル2で受信する際の受信レベルの低下を抑えることができるので、照査信号のレベルを高く維持して信号対雑音比の改善を図ることが可能になる。このような本実施形態による地上子1が踏切用列車検知装置に使用されるようにすれば、従来の8の字状に巻かれた受信コイルでの課題であった帰線ノイズへの対策を実現することも可能になる。よって、踏切道に接近する列車および/または踏切道を通過した列車を、ATS信号を利用して確実に検知することができるようになる。
【0035】
また、本実施形態による地上子1では、第2コイル部22のコイル面が、第1コイル部21のコイル面の1/2の面積を有しており、第2コイル部22が、平面視で、第1コイル部21の内側、かつ、第1コイル部21における幅方向D2の中心を通る中心線CLの片側に配置されている。これにより、周波数の異なる複数のATS信号を効率良く受信できるようになるので、信号対雑音比を更に改善することが可能になる。
【0036】
加えて、本実施形態による地上子1では、第2コイル部22が、第1コイル部21の下方側に配置されており、受信コイル2が、第1コイル部21の下方側、かつ、幅方向D2の中心を通る中心線CLに対して第2コイル部22とは反対側に配置され、第1コイル部21を支持する支持部4を有し、該支持部4によって第1および第2コイル部21,22の各コイル面が略水平に保持されている。これにより、列車から送信されるATS信号の受信時に、第1および第2コイル部21,22の各コイル面を通過する磁束が最大化されるので、ATS信号の受信レベルの低下を効果的に抑えることができる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について述べたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。例えば、上述した実施形態では、受信コイル2の第2コイル部22が第1コイル部21の下方側に配置される構成例を説明したが、図5の変形例に示すように、受信コイル2’の第2コイル部22’が第1コイル部21’の上方側に配置されるようにしてもよい。このような第1および第2コイル部21’,22’の配置では、上述した実施形態における支持部4を省略することができる。これにより、地上子1の構成の簡略化および低コスト化が可能になる。
【符号の説明】
【0038】
1…地上子、2,2’…受信コイル、3…照査コイル、4…支持部、7,8…送信コイル、21,21’…第1コイル部、22,22’…第2コイル部、A1,A2…コイル面の面積、CL…中心線、Dt…列車の進行方向、Dw…巻き方向、T1~T4…接続端子
図1
図2
図3
図4
図5