IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サッポロビール株式会社の特許一覧

特開2024-20900飲料、飲料の製造方法、及び、飲料の香味向上方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020900
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】飲料、飲料の製造方法、及び、飲料の香味向上方法
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/04 20190101AFI20240207BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20240207BHJP
   A23L 2/60 20060101ALI20240207BHJP
   A23L 2/56 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
C12G3/04
A23L2/00 B
A23L2/60
A23L2/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123449
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】永安 弘樹
【テーマコード(参考)】
4B115
4B117
【Fターム(参考)】
4B115LG02
4B115LH11
4B117LC03
4B117LK01
4B117LK08
4B117LK14
4B117LL02
(57)【要約】
【課題】味の厚みと果汁様の複雑味とが増強した飲料、飲料の製造方法、及び、飲料の香味向上方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係る飲料は、甘味料の含有量がショ糖換算で3.00w/v%以下であり、酸度が0.10w/v%以上である飲料であって、グルタミン酸の含有量が5ppm以上である。本発明に係る飲料の香味向上方法は、甘味料の含有量がショ糖換算で3.00w/v%以下であり、酸度が0.10w/v%以上である飲料の味の厚みと果汁様の複雑味とを増強させる香味向上方法であって、前記飲料のグルタミン酸の含有量を5ppm以上とする工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
甘味料の含有量がショ糖換算で3.00w/v%以下であり、酸度が0.10w/v%以上である飲料であって、
グルタミン酸の含有量が5ppm以上である飲料。
【請求項2】
コハク酸を含有する請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
梅テイストである請求項1又は請求項2に記載の飲料。
【請求項4】
アルコール度数が1~12v/v%である請求項1又は請求項2に記載の飲料。
【請求項5】
pHが2.5以上である請求項1又は請求項2に記載の飲料。
【請求項6】
ナトリウムの含有量が1.00mg/100mL以上である請求項1又は請求項2に記載の飲料。
【請求項7】
甘味料の含有量をショ糖換算で3.00w/v%以下とし、酸度を0.10w/v%以上とし、グルタミン酸の含有量を5ppm以上とする工程を含む飲料の製造方法。
【請求項8】
甘味料の含有量がショ糖換算で3.00w/v%以下であり、酸度が0.10w/v%以上である飲料の味の厚みと果汁様の複雑味とを増強させる香味向上方法であって、
前記飲料のグルタミン酸の含有量を5ppm以上とする工程を含む飲料の香味向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料、飲料の製造方法、及び、飲料の香味向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の健康志向の高まりに伴い、消費者の健康を考慮した飲料やその製造方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、pHが6.5以上であり、硬度100~3150mg/Lであり、かつ、炭酸ガス濃度が6.0~10.0g/Lである、無糖炭酸飲料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-103945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に係る発明は、健康志向の高まりとともに注目されるようになった無糖炭酸飲料について、炭酸飲料としての満足感を維持しつつ、喉への強い刺激がない食感を付与することを目的としている。
【0006】
一方、本発明者は、無糖飲料などの甘みを抑えた飲料(甘味料の含有量がショ糖換算で所定値以下の飲料)の香味について検討を行ったところ、「味の厚み」の乏しさが目立つことから、この点について改善の余地があると考えた。
また、甘みを抑えた飲料の中でも酸味を呈する飲料(酸度が所定値以上の飲料)に関し、「果汁様の複雑味」(果汁を想起させる複雑味)が感じられるような特徴のある香味にすることができれば、当該飲料の商品価値を高めることができるのではないかと本発明者は考えた。
【0007】
そこで、本発明は、味の厚みと果汁様の複雑味とが増強した飲料、飲料の製造方法、及び、飲料の香味向上方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、以下の手段により解決することができる。
(1)甘味料の含有量がショ糖換算で3.00w/v%以下であり、酸度が0.10w/v%以上である飲料であって、グルタミン酸の含有量が5ppm以上である飲料。
(2)コハク酸を含有する前記1に記載の飲料。
(3)梅テイストである前記1又は前記2に記載の飲料。
(4)アルコール度数が1~12v/v%である前記1から前記3のいずれか1つに記載の飲料。
(5)pHが2.5以上である前記1から前記4のいずれか1つに記載の飲料。
(6)ナトリウムの含有量が1.00mg/100mL以上である前記1から前記5のいずれか1つに記載の飲料。
(7)甘味料の含有量をショ糖換算で3.00w/v%以下とし、酸度を0.10w/v%以上とし、グルタミン酸の含有量を5ppm以上とする工程を含む飲料の製造方法。
(8)甘味料の含有量がショ糖換算で3.00w/v%以下であり、酸度が0.10w/v%以上である飲料の味の厚みと果汁様の複雑味とを増強させる香味向上方法であって、前記飲料のグルタミン酸の含有量を5ppm以上とする工程を含む飲料の香味向上方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る飲料は、味の厚みと果汁様の複雑味とが増強している。
本発明に係る飲料の製造方法は、味の厚みと果汁様の複雑味とが増強した飲料を製造することができる。
本発明に係る飲料の香味向上方法は、甘味料の含有量が所定値以下であって酸度が所定値以上の飲料について、味の厚みと果汁様の複雑味とを増強することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る飲料、飲料の製造方法、及び、飲料の香味向上方法を実施するための形態(本実施形態)について説明する。
【0011】
[飲料]
本実施形態に係る飲料は、甘味料の含有量がショ糖換算で所定値以下であり、酸度が所定値以上である飲料であって、グルタミン酸の含有量が所定値以上である。また、本実施形態に係る飲料は、コハク酸やイノシン酸を含有してもよい。
そして、本実施形態に係る飲料は、アルコールを含有するアルコール飲料であってもよく、特定の種類の飲料に限定されないものの、例えば、チューハイテイスト飲料が挙げられる。そして、このチューハイテイスト飲料とは、チューハイのような味わいを呈する飲料、つまり、チューハイの香味が感じられるように香味設計された飲料である。なお、チューハイの香味には、サワーやカクテルといった香味も含まれる。
また、本実施形態に係る飲料は、アルコール度数が1v/v%未満であるノンアルコール飲料であってもよく、特定の種類の飲料に限定されないものの、例えば、アルコールテイスト飲料、炭酸飲料、果汁飲料などが挙げられる。
そして、本実施形態に係る飲料は、果汁様の複雑味が増強される飲料であることから、果実テイストの飲料(各種果実の香味が感じられるように香味設計された飲料)に適用するのが好ましく、ナトリウムの塩味を生かせるとともにグルタミン酸の香味との相性もよい梅テイストの飲料(梅干しテイストの飲料も含み、梅や梅干しの香味が感じられるように香味設計された飲料)に適用するのがより好ましい。
【0012】
(甘味料)
本実施形態に係る飲料は、甘味料の含有量がショ糖換算で所定値以下となっている。
そして、本発明者は、飲料における甘味料の含有量(ショ糖換算値)が低い場合に、味の厚みが乏しいことを確認している。
甘味料の含有量(ショ糖換算値)は、3.00w/v%以下が好ましく、2.50w/v%以下、2.00w/v%以下、1.50w/v%以下、1.00w/v%以下、0.50w/v%以下、0.30w/v%以下、0.20w/v%以下、0.10w/v%以下がより好ましい。甘味料の含有量がショ糖換算で所定値以下であることによって、甘味料が少なく消費者の健康を配慮した飲料となるとともに、本発明の課題(味の厚みが乏しい)が明確となる。
また、甘味料の含有量はショ糖換算で0.00w/v%(つまり、甘味料不使用)であってもよい。
【0013】
甘味料は、例えば、果糖ぶどう糖液糖、ぶどう糖果糖液糖といった異性化液糖や、果糖(フルクトース)、ブドウ糖(グルコース)、ガラクトースといった単糖類、ショ糖(スクロース)、マルトース、ラクトースといった二糖類、アセスルファムK、ネオテーム、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームといった高甘味度甘味料、さらには、オリゴ糖、糖アルコールなどが含まれる。なお、果糖ぶどう糖液糖とは、「異性化液糖及び砂糖混合異性化液糖」(JAS0208:2019)に規定されているとおりであって、果糖含有率が50%以上90%未満のものである。
ショ糖換算の甘味料の含有量とは、飲料中の甘味料の含有量をショ糖の含有量に換算したものである。具体的には、ショ糖換算の甘味料の含有量は、「甘味料の含有量」に対して「甘味料の甘味度/ショ糖の甘味度(100)」を乗じることにより算出することができる。例えば、マルトースを1.0w/v%含有する飲料の場合、マルトースの濃度「1.0w/v%」に「33/100」(=マルトースの甘味度/ショ糖の甘味度)を乗じた「0.33w/v%」がショ糖換算の甘味料の含有量となる。
なお、各甘味料の甘味度については、例えば、果糖ぶどう糖液糖:100、ぶどう糖果糖液糖:80、果糖:150、ブドウ糖:75、ラクトース:16、ガラクトース:32、マルトース:33、ショ糖:100、アセスルファムK:20000、スクラロース:60000、ネオテーム:1000000、サッカリンナトリウム:50000、ステビア:25000という値を用いればよい。また、オリゴ糖の甘味度については、フラクトオリゴ糖:45、ガラクトオリゴ糖:20、キシロオリゴ糖:45、乳果オリゴ糖:60、ラフィノース:20、イソマルトオリゴ糖:30、大豆オリゴ糖:70という値を用い、糖アルコールの甘味度については、ソルビトール:65、マンニトール:60、マルチトール:85、キシリトール:60、還元パラチノース:45、エリスリトール:75という値を用いればよい。また、飲料中の甘味料の含有量については、高速液体クロマトグラフ(HPLC)を用いて測定することができる。
【0014】
(酸度)
本実施形態に係る飲料は、酸度が所定値以上となっている。
そして、本発明者は、酸度が所定値以上であって酸味を呈する飲料に対して、後記するグルタミン酸を含有させることで、本発明の効果(特に、果汁様の複雑味の増強効果)を発揮できることを見出した。
酸度は、0.10w/v%以上が好ましく、0.20w/v%以上、0.25w/v%以上、0.30w/v%以上、0.33w/v%以上、0.35w/v%以上がより好ましい。酸度が所定値以上であることによって、後記するグルタミン酸に基づく本発明の効果(特に、果汁様の複雑味の増強効果)をしっかりと発揮させることができる。
酸度は、5.00w/v%以下が好ましく、3.00w/v%以下、2.00w/v%以下、1.00w/v%以下、0.80w/v%以下、0.50w/v%以下がより好ましい。酸度が所定値以下であることによって、飲料としての香味のバランスをより良くすることができる。
【0015】
なお、本明細書における酸度(クエン酸換算の酸度:クエン酸相当量として換算した酸度の値)は、果実飲料の日本農林規格(令和元年6月27日農林水産省告示第475号)に定められた方法で求めることができる。具体的には、飲料を水酸化ナトリウム溶液(0.1mol/L)で中和滴定し、中和滴定において必要となった水酸化ナトリウム溶液の「滴定量(ml)」、滴定に使用した飲料の「重量(g)」、「0.0064」(0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液1mLに相当するクエン酸の重量(g))という定数などを用いて算出すればよい。
また、酸度は、後記の酸味料などの含有量によって調整することができる。
【0016】
(グルタミン酸)
グルタミン酸(glutamic acid)とは、化学式CNOで表されるアミノ酸の一つである。
そして、本発明者は、甘味料の含有量が所定値以下であって酸度が所定値以上である飲料に対して、グルタミン酸を含有させることによって、「味の厚み」と「果汁様の複雑味」とを増強させることを見出した。
なお、グルタミン酸は、グルタミン酸ナトリウムなどの塩の状態で飲料に添加してよい。また、本明細書において、グルタミン酸とは、厳密には、L-グルタミン酸である。
【0017】
グルタミン酸の含有量は、5ppm以上が好ましく、7ppm以上、9ppm以上、10ppm以上、20ppm以上、40ppm以上、50ppm以上、80ppm以上、100ppm以上、120ppm以上、130ppm以上、131ppm以上がより好ましい。グルタミン酸の含有量が所定値以上であることによって、飲料の味の厚みと果汁様の複雑味とを増強させることができる。
グルタミン酸の含有量は、800ppm以下が好ましく、700ppm以下、600ppm以下、500ppm以下、435ppm以下、400ppm以下、300ppm以下、250ppm以下、218ppm以下、200ppm以下がより好ましい。グルタミン酸の含有量が所定値以下であることによって、後味に残るアミノ酸特有のあと残りや、収斂味、後味の悪さが強くなる結果、総合評価(香味評価)が悪くなってしまうといった事態を回避することができる。
なお、本明細書において、「ppm」という単位は「mg/L」と同義である。
【0018】
飲料のグルタミン酸の含有量は、例えば、高速液体クロマトグラフ(HPLC)によって測定することができる。
【0019】
(コハク酸)
コハク酸(succinic acid)とは、化学式Cで表されるカルボン酸の一種であり、ブタン二酸とも呼ばれる。
そして、本発明者は、グルタミン酸を含有する飲料に対して、コハク酸をさらに含有させることによって、味の厚みの増強効果を強めることができることを見出した。
【0020】
コハク酸の含有量は、1ppm以上が好ましく、5ppm以上、8ppm以上、10ppm以上、30ppm以上、50ppm以上、80ppm以上、100ppm以上がより好ましい。コハク酸の含有量が所定値以上であることによって、飲料の味の厚みをさらに増強させることができる。
コハク酸の含有量は、800ppm以下が好ましく、600ppm以下、500ppm以下、300ppm以下、250ppm以下、200ppm以下、150ppm以下がより好ましい。コハク酸の含有量が所定値以下であることによって、コハク酸の収斂味に基づく果汁様の複雑味の低下を回避することができる。
【0021】
飲料のコハク酸の含有量は、例えば、高速液体クロマトグラフ(HPLC)によって測定することができる。
【0022】
(イノシン酸)
イノシン酸(inosinic acid)とは、化学式C1013Pで表されるプリンヌクレオチドの一種であり、イノシン一リン酸とも呼ばれる。
そして、本発明者は、グルタミン酸(及び、コハク酸)を含有する飲料に対して、イノシン酸をさらに含有させることによって、味の厚みの増強効果を強めることができることを見出した。
なお、イノシン酸は、イノシン酸ナトリウムなどの塩の状態で飲料に添加してよい。また、本明細書において、イノシン酸とは、厳密には、5´-イノシン酸である。
【0023】
イノシン酸の含有量は、1ppm以上が好ましく、5ppm以上、8ppm以上、9ppm以上がより好ましい。イノシン酸の含有量が所定値以上であることによって、飲料の味の厚みをさらに増強させることができる。
イノシン酸の含有量の上限は特に限定されないものの、500ppm以下が好ましく、300ppm以下、200ppm以下、100ppm以下、50ppm以下、20ppm以下がより好ましい。
【0024】
飲料のイノシン酸の含有量は、例えば、高速液体クロマトグラフ(HPLC)によって測定することができる。
【0025】
(ナトリウム)
本実施形態に係る飲料のナトリウムの含有量は、以下のとおりである。
ナトリウムの含有量は、1.00mg/100mL以上であり、2.00mg/100mL以上、5.00mg/100mL以上、10.00mg/100mL以上、20.00mg/100mL以上、23.00mg/100mL以上、25.00mg/100mL以上、25.50mg/100mL以上がより好ましい。ナトリウムの含有量が所定値以上であることによって、グルタミン酸に基づく各効果(味の厚みの増強効果、果汁様の複雑味の増強効果)をしっかりと発揮させることができる。
ナトリウムの含有量の上限は特に限定されないものの、80.00mg/100mL以下が好ましく、50.00mg/100mL以下、40.00mg/100mL以下、37.23mg/100mL以下がより好ましい。
なお、飲料のナトリウムの含有量は、例えば、高速液体クロマトグラフ(HPLC)によって測定することができる。
【0026】
(pH)
本実施形態に係る飲料のpHは、以下のとおりである。
pHは、1.5以上が好ましく、2.0以上、2.5以上、2.6以上、2.8以上、3.0以上、3.1以上がより好ましい。pHが所定値以上であることによって、グルタミン酸に基づく各効果(味の厚みの増強効果、果汁様の複雑味の増強効果)をしっかりと発揮させることができる。
pHの上限は特に限定されないものの、食品衛生の観点から、4.0以下が好ましく、3.5以下、3.4以下がより好ましい。
なお、飲料のpHは、市販のpH測定器によって測定することができる。
【0027】
(アルコール)
本実施形態に係る飲料は、アルコールを含有してもよい。
アルコールは飲用することができるアルコールであればよく、本発明の効果が阻害されない範囲であれば、種類、製法、原料などに限定されることがないが、ウイスキー、ブランデー、スピリッツ類(例えばジン、ウォッカ、ラム等のスピリッツ、及び、原料用アルコール等)、リキュール類、焼酎等、さらには清酒、果実酒、ビール等の醸造酒を使用することができ、これらの中でも、特に、蒸留酒であるウォッカ、原料用アルコールのうちの1種以上が好ましい。
なお、本明細書においてアルコールとは、特に明記しない限り、エタノールのことをいう。
【0028】
(アルコール度数)
本実施形態に係る飲料がノンアルコール飲料の場合、アルコール度数は、1v/v%未満であれば特に制限されず、例えば、0.00v/v%以上1v/v%未満であってよい。
また、本実施形態に係る飲料がノンアルコール飲料の場合、アルコール度数は、例えば、0.95v/v%以下、0.9v/v%以下、0.85v/v%以下、0.8v/v%以下、0.7v/v%以下、0.6v/v%以下、0.5v/v%以下、0.4v/v%以下、0.3v/v%以下、0.2v/v%以下、0.1v/v%以下、0.05v/v%以下、0.01v/v%以下、0.005v/v%以下、0.005v/v%未満、又は0.004v/v%以下であってよい。
一方、本実施形態に係る飲料がアルコール飲料の場合、アルコール度数は、1.0v/v%以上であるのが好ましく、3.0v/v%以上、4.0v/v%以上、5.2v/v%以上であるのがより好ましい。また、アルコール度数は、12.0v/v%以下であるのが好ましく、10.0v/v%以下、9.0v/v%以下、8.0v/v%以下、7.0v/v%以下であるのがより好ましい。
本実施形態に係る飲料のアルコール度数は、例えば、国税庁所定分析法(訓令)3清酒3-4アルコール分(振動式密度計・ガスクロマトグラフ分析法)に基づいて測定することができる。
【0029】
(発泡性)
本実施形態に係る飲料は、炭酸ガスを含有する発泡性のもの、つまり、炭酸飲料であるのが好ましい。ここで、本実施形態における発泡性とは、20℃におけるガス圧(全圧)が0.5kg/cm以上であることをいい、1.0kg/cm以上が好ましく、1.5kg/cm以上、2.0kg/cm以上、2.4kg/cm以上がより好ましく、また、5.0kg/cm以下が好ましく、4.0kg/cm以下、3.5kg/cm以下、3.0kg/cm以下がより好ましい。
【0030】
(その他)
本実施形態に係る飲料は、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で飲料として通常配合される酸化防止剤、香料、酸味料、塩類、食物繊維など(以下、適宜「添加剤」という)を含有していてもよいし、当然、含有しなくてもよい。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどを用いることができる。酸味料としては、例えば、クエン酸、アジピン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸、DL-リンゴ酸ナトリウム、リン酸などを用いることができる。塩類としては、例えば、食塩、酸性りん酸カリウム、酸性りん酸カルシウム、りん酸アンモニウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウムなどを用いることができる。食物繊維としては、例えば、難消化性デキストリン、ペクチン、ポリデキストロース、グアーガム分解物などを用いることができる。
そして、前記した各原料は、一般に市販されているものを使用することができる。
【0031】
本実施形態に係る飲料は、仮に、チューハイテイスト飲料やフルーツテイスト飲料とする場合、フルーツフレーバー(フルーツ様の香りを付与するフレーバー)、果汁(果実を搾った汁)、果実エキス(果実又は果汁から水やアルコールなどを用いて当該果実の有効成分を抽出した抽出物)を含有させることもできる。そして、果汁としては、例えば、濃縮果汁、還元果汁、ストレート果汁といった各種果汁、果実ピューレ(火を通した果実あるいは生の果実をすりつぶしたり裏ごししたりした半液体状のもの)、これらの希釈液、濃縮液、混合液などを用いることができる。
果汁の由来となる果実(および、果実フレーバーや果実エキスの果実種)は、柑橘類果実である、レモン、ライム、ミカン、オレンジ、グレープフルーツ、ユズ、シークワーサー等や、バラ科果実である、梅、リンゴ、イチゴ、桃、さくらんぼ(黄桃)等、これら以外にも、ぶどう、プラム、ざくろ、ブルーベリー、カシス、クランベリー、マキベリー、アップル、マンゴー、パイナップル、キウイ、梨等といった従来公知の果実も挙げることができる。
なお、本発明の各効果は、フレーバー・果汁・果実エキスの香味タイプや香味の強弱から直接的な影響は受けず、少なくとも、当該効果が消失してしまうといったことはないと考えることから、フレーバーなどによる香味タイプは前記のとおり多様であってもよく、含有量についても特に限定されない。
【0032】
本実施形態に係る飲料が果汁を含有する場合、果汁の含有量は、例えば、1%以上、2%以上、3%以上であり、10%以下、8%以下、5%以下である。
なお、果汁の含有量は、「含有量(果汁率換算)%(詳細には、w/w%)」=「飲料100g中への果汁配合量(g)」×「濃縮倍率」/100g×100により算出することができる。ここで、「濃縮倍率」(ストレート果汁を100%としたときの果汁の相対的濃縮倍率)を算出するにあたり、JAS規格に準ずるものとする。詳細には、JAS規格の糖用屈折計示度の基準(°Bx)又は酸度の基準(%)に基づいて算出することができ、例えば、酸度が7%の梅果汁を用いた場合、果実飲料の日本農林規格(令和元年6月27日農林水産省告示第475号)の別表4によると梅の基準酸度は3.5%であるから、この梅果汁は、2倍濃縮の梅果汁となる。
【0033】
(容器詰め飲料)
本実施形態に係る飲料は、各種容器に入れて提供することができる。各種容器に飲料を詰めることにより、長期間の保管による品質の劣化を好適に防止することができる。
なお、容器は密閉できるものであればよく、金属製(アルミニウム製又はスチール製など)のいわゆる缶容器・樽容器を適用することができる。また、容器は、ガラス容器、ペットボトル容器、紙容器、パウチ容器などを適用することもできる。容器の容量は特に限定されるものではなく、現在流通しているどのようなものも適用することができる。なお、気体、水分および光線を完全に遮断し、長期間常温で安定した品質を保つことが可能な点から、金属製の容器を適用することが好ましい。
【0034】
以上説明したように、本実施形態に係る飲料は、味の厚みと果汁様の複雑味とが増強している。
【0035】
[飲料の製造方法]
次に、本実施形態に係る飲料の製造方法を説明する。
本実施形態に係る飲料の製造方法は、混合工程と、後処理工程と、を含む。
【0036】
混合工程では、混合タンクに、水、グルタミン酸、コハク酸、イノシン酸、酸味料、アルコール、添加剤などを適宜投入して混合後液を製造する。
この混合工程において、甘味料の含有量、酸度、グルタミン酸の含有量などが前記した所定範囲内となるように各原料を混合し、調整すればよい。
【0037】
そして、後処理工程では、例えば、ろ過、殺菌、炭酸ガスの付加、容器への充填などの処理を必要に応じて選択的に行う。
なお、後処理工程のろ過処理は、一般的なフィルター又はストレーナーによって行うことができる。また、後処理工程の殺菌処理は、処理速度等の観点から、プレート殺菌によって行うのが好ましいが、同様の処理を行うことができるのであればこれに限定されることなく適用可能である。また、後処理工程の充填処理は、飲料品の製造において通常行われる程度にクリーン度を保ったクリーンルームにおいて充填するのが好ましい。そして、後処理工程での各処理の順序は特に限定されない。
【0038】
なお、混合工程及び後処理工程において行われる各処理は、RTD飲料(Ready To Drink)などを製造するために一般的に用いられている設備によって行うことができる。
【0039】
以上説明したように、本実施形態に係る飲料の製造方法によると、味の厚みと果汁様の複雑味とが増強した飲料を製造することができる。
【0040】
[アルコール飲料の香味向上方法]
次に、本実施形態に係る飲料の香味向上方法を説明する。
本実施形態に係る飲料の香味向上方法は、甘味料の含有量がショ糖換算で所定値以下であり、酸度が所定値以上である飲料の味の厚みと果汁様の複雑味とを増強させる香味向上方法であって、グルタミン酸の含有量を所定値以上とする方法である。
なお、各成分の含有量等については、前記した「飲料」において説明した値と同じである。
【0041】
以上説明したように、本実施形態に係る飲料の香味向上方法によると、飲料の味の厚みと果汁様の複雑味とを増強させることができる。
【実施例0042】
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して、本発明について説明する。
【0043】
[サンプルの準備]
表1~5の各サンプルは、表に示す量となるように、ウォッカ、果糖ぶどう糖液糖、クエン酸(無水)、クエン酸三ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、コハク酸、炭酸水、純水を適宜配合してサンプルを準備した。また、表4の一部のサンプルのみ、梅フレーバー、イノシン酸ナトリウムを含有させた。
なお、表1~5の各サンプルの20℃におけるガス圧(全圧)は2.4kg/cmとした。そして、表のpHは、クエン酸三ナトリウムによって調整した。また、表1~5の各サンプルは、甘味料として果糖ぶどう糖液糖しか使用していないとともに、果糖ぶどう糖液糖の甘味度とショ糖の甘味度が同じであることから、各サンプルの甘味料の含有量(ショ糖換算値)は、果糖ぶどう糖液糖の含有量と同じ値となる。
【0044】
[試験内容]
前記の方法により製造した各サンプルについて、訓練された識別能力のあるパネル5名が下記評価基準に則って「無糖における味の厚み」、「果汁を想起させる複雑味」、「後味に残るアミノ酸特有のあと残り」、「収斂味、後味の悪さ」、「総合評価」について、1~5点の5段階評価で独立点数付けし、その平均値を算出した。
なお、全ての評価は、サンプルを飲んで評価した。
【0045】
(味の厚み:評価基準)
味の厚み(表では「無糖における味の厚み」と示す)の評価は、サンプル1-1の3点を基準(表5の各サンプルのみサンプル5-1の3点を基準)とし、「味の厚みを感じない」場合を1点、「味の厚みを強く感じる」場合を5点と評価した。そして、味の厚みについては、点数が高いほど増強されており、好ましいと判断できる。
【0046】
ここで、「味の厚み」とは、具体的には、サンプルを飲んでいる際中に感じる味のボリュームである。
なお、「無糖」とは、厳密には、糖類の含有量が0.5g/100mL未満の飲料を指すものの、本明細書では、「甘さを抑えた飲料」(甘味料の含有量が低い飲料)というニュアンスで使用している。
【0047】
(果汁様の複雑味:評価基準)
果汁様の複雑味(表では「果汁を想起させる複雑味」と示す)の評価は、サンプル1-1の3点を基準(表5の各サンプルのみサンプル5-1の3点を基準)とし、「果汁を想起させる複雑味が弱い」場合を1点、「果汁を想起させる複雑味が強い」場合を5点と評価した。そして、果汁様の複雑味については、点数が高いほど増強されており、好ましいと判断できる。
【0048】
ここで、「果汁様の複雑味」とは、具体的には、単調な酸味とは異なり、果汁全般が奏するようなフレッシュかつフルーティな香味を想起させるような複雑な香味である。
【0049】
(後味に残るアミノ酸特有のあと残り:評価基準)
後味に残るアミノ酸特有のあと残りの評価は、サンプル1-1の1点を基準(表5の各サンプルのみサンプル5-1の1点を基準)とし、「後味に残るアミノ酸特有のあと残りが弱い」場合を1点、「後味に残るアミノ酸特有のあと残りが強い」場合を5点と評価した。そして、後味に残るアミノ酸特有のあと残りについては、点数が低いほど好ましいと判断できる。
【0050】
ここで、「後味に残るアミノ酸特有のあと残り」とは、具体的には、サンプルを飲んだ後に口腔内に残る出汁のような香味であり、飲料には適さないネガティブな香味である。
【0051】
(収斂味、後味の悪さ:評価基準)
収斂味、後味の悪さの評価は、サンプル1-1の1点を基準(表5の各サンプルのみサンプル5-1の1点を基準)とし、「収斂味が弱く、後味は悪くない」場合を1点、「収斂味が強く、後味が悪い」場合を5点と評価した。そして、収斂味、後味の悪さについては、点数が低いほど好ましいと判断できる。
【0052】
ここで、「収斂味、後味の悪さ」とは、具体的には、前記した「アミノ酸特有のあと残り」(出汁のような香味)とは異なり、収斂味に基づいた後味の悪さを評価している。
【0053】
(総合評価:評価基準)
総合評価については、基準点を設けず、「飲料としての総合評価が悪い」場合を1点、「飲料としての総合評価が良い」場合を5点と評価した。
【0054】
ここで、「飲料としての総合評価」は、飲料としての香味のバランスで評価しており、例えば、特定成分に基づく香味が強く感じられることで香味のバランスが崩れている場合は、悪いとの評価となる。
【0055】
表に、各サンプルの含有量等を示すとともに、各評価の結果を示す。なお、表に示す各成分の数値および指標は、最終製品における含有量および指標である。
また、表中の「グルタミン酸」の含有量は、添加したグルタミン酸ナトリウムの量と各分子量(グルタミン酸ナトリウムの分子量とグルタミン酸の分子量)に基づいて算出した値である。また、表中の「イノシン酸」の含有量も、添加したイノシン酸ナトリウムの量と各分子量(イノシン酸ナトリウムの分子量とイノシン酸の分子量)に基づいて算出した値である。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
(結果の検討)
表1は、グルタミン酸の含有量を変化させた結果を示す。
表1のサンプル1-1~1-5の結果から、グルタミン酸の含有量が増えるにしたがって、「味の厚み」と「果汁様の複雑味」の点数が上昇することが確認できた。
しかしながら、グルタミン酸の含有量が増え過ぎると、「後味に残るアミノ酸特有のあと残り」と「収斂味、後味の悪さ」の点数が上昇してしまい、「総合評価」も若干低下してしまうことも確認できた。ただ、「総合評価」の点数が大幅に低下していないサンプルについては、「後味に残るアミノ酸特有のあと残り」や「収斂味、後味の悪さ」の点数の上昇は許容できる範囲であることも確認できた。
そして、全ての評価を考慮すると、サンプル1-1~1-5の中でも、サンプル1-2~1-5(特に、サンプル1-3~1-4)について好ましい結果が得られた。
【0062】
表2は、pH、及び、ナトリウムの含有量を変化させた結果を示す。
表2のサンプル2-1~2-3の結果から、pHやナトリウムの含有量が所定の範囲内であれば、本発明の各効果(味の厚みの増強効果、果汁様の複雑味の増強効果)を発揮できることが確認できた。
そして、pHやナトリウムの含有量が上昇するにしたがい、各効果がしっかりと発揮されることも確認できた。
【0063】
表3は、グルタミン酸を含有させた状態でコハク酸の含有量を変化させた結果を示す。
表3のサンプル3-1~3-4の結果から、コハク酸の含有量が増加するにしたがって「味の厚み」の点数が上昇することが確認できた。
しかしながら、コハク酸の含有量が増え過ぎると、コハク酸の収斂味の影響で「果汁様の複雑味」と「後味に残るアミノ酸特有のあと残り」と「収斂味、後味の悪さ」の点数が上昇してしまい、「総合評価」も若干低下してしまうことも確認できた。
【0064】
表4は、グルタミン酸とコハク酸を含有させた状態で梅フレーバーとイノシン酸の含有量を変化させた結果を示す。
表4のサンプル4-1、4-2とサンプル4-3、4-4とを、それぞれ比較すると、梅フレーバーの添加によって、「味の厚み」と「果汁様の複雑味」の点数が増加する結果となった。ただ、梅フレーバーが無くとも、十分に各効果(味の厚みの増強効果、果汁様の複雑味の増強効果)は発揮されていることも確認できた。
表4のサンプル4-1、4-3を比較すると、イノシン酸の添加によって「味の厚み」の点数が増加する結果となった。つまり、イノシン酸に基づいて、グルタミン酸が奏する効果(味の厚みの増強効果)を強めることができることが確認できた。
【0065】
表5は、アルコール度数が0.0v/v%の飲料について本発明の効果を確認した結果である。
表5のサンプル5-1~5-3の結果から、ノンアルコール飲料であっても、アルコール飲料と同様の効果が得られることが確認できた。
つまり、表5の結果から、本発明は、アルコール度数に大きな影響を受けず、ノンアルコール飲料であろうとアルコール飲料であろうと様々な飲料において所望の各効果(味の厚みの増強効果、果汁様の複雑味の増強効果)が発揮されることがわかった。