(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020939
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】電動式直動アクチュエータおよび電動ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
F16H 25/20 20060101AFI20240207BHJP
F16H 19/02 20060101ALI20240207BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20240207BHJP
F16D 65/18 20060101ALI20240207BHJP
F16D 121/24 20120101ALN20240207BHJP
F16D 125/50 20120101ALN20240207BHJP
F16D 125/40 20120101ALN20240207BHJP
【FI】
F16H25/20 D
F16H19/02 P
B60T13/74 G
F16D65/18
F16D121:24
F16D125:50
F16D125:40
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123508
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】山崎 達也
【テーマコード(参考)】
3D048
3J058
3J062
【Fターム(参考)】
3D048BB33
3D048CC49
3D048HH18
3D048HH58
3J058AA43
3J058AA48
3J058AA53
3J058AA63
3J058AA78
3J058AA87
3J058BA51
3J058CC62
3J058FA06
3J062AA01
3J062AB16
3J062AB24
3J062AC07
3J062BA15
3J062BA19
3J062CA13
3J062CA14
3J062CD03
3J062CD23
3J062CD58
(57)【要約】
【課題】遊星ローラの自転および公転が安定した電動式直動アクチュエータ及び電動ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】直動変換機構が、電動モータの回転が入力されるサンローラと、前記サンローラの外周に転がり接触する複数の遊星ローラと、前記複数の遊星ローラを自転可能かつ公転可能に保持するキャリアとを含む回転部材、前記複数の遊星ローラを囲むように配置されたアウタリングを含む直動部材、および、前記遊星ローラの外周面および前記アウタリングの内周面にそれぞれ形成された周方向係合部、を有し、前記周方向係合部同士の係合によって、前記遊星ローラの回転を前記アウタリングの軸方向の直線運動に変換する遊星ローラねじ機構であり、アウタリングの溝の斜面に遊星ローラに固定した弾性部材を接触させて、2つの周方向係合部を介して遊星ローラに軸方向で軸方向荷重を負荷させる。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータによってサンローラの軸の周りに回転可能かつ前記軸の方向に移動不能とした回転部材の回転運動を、前記軸の周りに回転不能かつ前記軸の方向に移動可能とした直動部材の直線運動に変換する直動変換機構を備えた電動式直動アクチュエータであって、
前記直動変換機構が、
前記電動モータの回転が入力される前記サンローラと、前記サンローラの外周に転がり接触する複数の遊星ローラと、前記複数の遊星ローラを自転可能かつ公転可能に保持するキャリアとを含む前記回転部材、
前記複数の遊星ローラを囲むように配置されたアウタリングを含む前記直動部材、および、
前記遊星ローラの外周面および前記アウタリングの内周面にそれぞれ形成された周方向係合部、
を有し、前記周方向係合部同士の係合によって、前記遊星ローラの回転を前記アウタリングの前記軸の方向の直線運動に変換する遊星ローラねじ機構であり、
前記アウタリングの溝の斜面に前記遊星ローラに固定した弾性部材を接触させて、2つの前記周方向係合部を介して前記遊星ローラに前記軸の方向で前記弾性部材からの軸方向荷重を負荷させる、
電動式直動アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1に記載の電動式直動アクチュエータであって、
前記アウタリングからの軸方向荷重が作用した際に前記遊星ローラが接触する前記アウタリングの前記溝の斜面と同じ側の斜面において、前記弾性部材を前記アウタリングに接触させた、電動式直動アクチュエータ。
【請求項3】
請求項1に記載の電動式直動アクチュエータであって、
前記アウタリングからの軸方向荷重が作用した際に前記遊星ローラが接触する前記アウタリングの前記溝の斜面と異なる側の斜面において、前記弾性部材を前記アウタリングに接触させた、電動式直動アクチュエータ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の電動式直動アクチュエータであって、
2つの前記周方向係合部における前記遊星ローラと前記アウタリングとの接触部の前記軸に対する半径と、前記弾性部材と前記アウタリングとの接触部の前記軸に対する半径とを一致させた、電動式直動アクチュエータ。
【請求項5】
車輪と一体に回転するブレーキディスクと、前記ブレーキディスクを挟んで前記軸の方向で対向する一対のブレーキパッドと、一対の前記ブレーキパッドの少なくとも一方を前記軸の方向に直線駆動する請求項1~3のいずれか一項に記載の電動式直動アクチュエータと、を具備した電動ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの回転運動を直線運動に変換する電動式直動アクチュエータおよびこの電動式直動アクチュエータを用いた電動ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータによって軸周りに回転する回転部材の回転運動を、直動部材の軸方向の直線運動に変換する直動変換機構を備えた電動式直動アクチュエータとして、例えば特許文献1に示すものがある。
【0003】
この電動式直動アクチュエータは、例えば電動ブレーキ装置に採用される。この電動ブレーキ装置は、電動モータのモータロータの一方向への回転運動を、直動部材に含まれるアウタリングの軸方向の一方(以下、この一方を前方という。)への直線運動に変換し、このアウタリングに設けられた押圧部材によって、車輪と一体に回転するブレーキディスクにブレーキパッドを押し付けることで制動力を得る。その一方で、電動モータのモータロータの回転方向を他方向へ反転させて、アウタリングを軸方向(後述のサンローラの回転軸)の他方(以下、この他方を後方という。)へと逆に移動することによって制動力を解除する。なお特許文献1では、遊星ローラねじ機構を含みつつ、固定部材および直動部材に規制手段を各々設けて直動部材の直線動を規制し、過度な負荷が回避された直動機構を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
遊星ローラねじ機構は、少なくとも電動モータの回転が入力されるサンローラと、サンローラの外周に転がり接触する複数の遊星ローラと、遊星ローラを自転可能且つ公転可能に支持するキャリアとを含む前記回転部材、少なくとも遊星ローラを囲むように配置されたアウタリングを含む前記直動部材、および、遊星ローラの外周面およびアウタリングの内周面にそれぞれ形成された例えばリード角が互いに異なる円周溝や螺旋凸条等に含まれる周方向係合部とを有し、周方向係合部の係合によって遊星ローラの回転をアウタリングの軸方向の直線運動に変換している。尚、遊星ローラは、キャリアに設けた径方向の長孔に挿入されてキャリアに対し回転不能で径方向に移動可能に支持されたローラ軸たる支持ピンと、軸受とによって、キャリアに対し回転支持されている。遊星ローラおよびアウタリングの各周方向係合部は、それぞれの溝幅が溝底側から溝縁側に広がるように傾斜した斜面であり、アウタリングから遊星ローラに軸方向荷重が作用している場合、その周方向係合部の傾斜によって該荷重は軸方向に直交する方向に分力されて、遊星ローラはサンローラに押し付けられ、サンローラから遊星ローラへのトルク伝達に必要なサンローラに直交する法線力を得ている。すなわち、この法線力により、サンローラの回転が遊星ローラへ伝達される。他方、アウタリングから遊星ローラに軸方向荷重が作用していない場合、上記支持ピン両端に設けた弾性リングの内径方向に収縮する力によって、遊星ローラとサンローラとの間の一定の滑り防止効果を有するような、遊星ローラに対するサンローラからの法線力を与えている。
【0006】
ここで、互いの周方向係合部の間は、バックラッシュ等で若干の隙間を有していることから、アウタリングから遊星ローラに軸方向荷重が作用していない場合には、上記弾性リングによる法線力しか存在しないことがあり、この程度の法線力では遊星ローラを支持する軸受の回転抵抗等の影響によって遊星ローラの自転および公転が安定しないことが起こりえた。具体的には、遊星ローラの回転を支持する軸受の回転抵抗が若干増加したりすると、弾性リングによる法線力程度では、遊星ローラはキャリアに対し自転せずサンローラと一体となって回転する場合があった。遊星ローラねじ機構の減速比(サンローラの回転に対するアウタリングの軸方向移動量)は遊星ローラの自転および公転に依存しており、これらの間の関係が安定しないと、モータの回転量からアウタリングの軸方向位置を推定することや制御することが困難になる。電動ブレーキにはパッドクリアランスを任意に変更できる等の利点があるが、アウタリングの軸方向位置が推定および/または制御できないとパッドクリアランスが十分に確保できずにブレーキの引きずりトルクが増大したり、そこでパッドクリアランスを大きくとりすぎたりすると制動応答性が悪化する課題があった。特許文献1では、直動部材の直線動を規制して直動機構の過度な負荷を回避しうるが、上記のような課題、解決手段等について記載がない。
【0007】
そこで本発明は、遊星ローラの自転および公転が安定した電動式直動アクチュエータ及び電動ブレーキ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る電動式直動アクチュエータにおいては、
電動モータによってサンローラの軸の周りに回転可能かつ前記軸の方向に移動不能とした回転部材の回転運動を、前記軸の周りに回転不能かつ前記軸の方向に移動可能とした直動部材の直線運動に変換する直動変換機構を備えた電動式直動アクチュエータであって、
前記直動変換機構が、
前記電動モータの回転が入力される前記サンローラと、前記サンローラの外周に転がり接触する複数の遊星ローラと、前記複数の遊星ローラを自転可能かつ公転可能に保持するキャリアとを含む前記回転部材、
前記複数の遊星ローラを囲むように配置されたアウタリングを含む前記直動部材、および、
前記遊星ローラの外周面および前記アウタリングの内周面にそれぞれ形成された周方向係合部、
を有し、前記周方向係合部同士の係合によって、前記遊星ローラの回転を前記アウタリングの前記軸の方向の直線運動に変換する遊星ローラねじ機構であり、
前記アウタリングの溝の斜面に前記遊星ローラに固定した弾性部材を接触させて、2つの前記周方向係合部を介して前記遊星ローラに前記軸の方向で前記弾性部材からの軸方向荷重を負荷させている。
【0009】
上記の本発明の構成によると、前記アウタリングの溝の斜面に前記遊星ローラに固定した弾性部材を接触させて、2つの前記周方向係合部を介して前記遊星ローラに前記軸の方向で前記弾性部材からの軸方向荷重を負荷させることで、前記周方向係合部の傾斜面等によって軸方向荷重は前記軸の方向に直交する方向に分力されるので、上述のような若干の隙間が存在する構成においてアウタリングから遊星ローラに軸方向荷重が作用していない場合でも、アウタリングから遊星ローラに接触力(軸方向荷重)が与えられる。よって、この軸方向荷重の分力によりサンローラに直交する上記法線力が例えば常に発生し、遊星ローラがサンローラに対して公転しつつ安定して自転するようにできる。なお、遊星ローラとアウタリングとの上記接触力は、少なくとも遊星ローラの自転を支持する軸受の回転抵抗に打ち勝つ程度の力であればよい。上記のように遊星ローラが安定して自転および公転することで、モータ回転量からアウタリングの軸方向位置を推定することの精度および制動制御の精度を向上させることができる。
【0010】
具体的な実現例として、前記アウタリングからの軸方向荷重が作用した際に前記遊星ローラが接触する前記アウタリングの前記溝の斜面と同じ側の斜面において、前記弾性部材を前記アウタリングに接触させてもよい。また、前記アウタリングからの軸方向荷重が作用した際に前記遊星ローラが接触する前記アウタリングの前記溝の斜面と異なる側の斜面において、前記弾性部材を前記アウタリングに接触させてもよい。後者の場合、前記アウタリングからの軸方向荷重の有無に関わらず、前記弾性部材と前記アウタリングの溝の斜面との接触状態、および、周方向係合部同士の係合状態たとえば前記遊星ローラと前記アウタリングとの接触状態はほぼ変わらない。すなわち、前記遊星ローラと前記アウタリングとが接触する側の変更が生じず、前記遊星ローラと前記アウタリングとの間のガタつきを抑制することが出来る。
【0011】
2つの前記周方向係合部における前記遊星ローラと前記アウタリングとの接触部の前記軸に対する半径と、前記弾性部材と前記アウタリングとの接触部の前記軸に対する半径とを一致させてもよい。この場合、2つの前記周方向係合部における前記遊星ローラと前記アウタリングとの接触部の前記軸に対する半径と、前記弾性部材と前記アウタリングとの接触部の前記軸に対する半径とを(略)一致させることで、両接触部の滑りを小さくし効率低下を抑制することが出来る。
【0012】
本発明に係る電動ブレーキ装置においては、
車輪と一体に回転するブレーキディスクと、前記ブレーキディスクを挟んで軸方向に対向する一対のブレーキパッドと、一対の前記ブレーキパッドの少なくとも一方を軸方向に直線駆動する上記構成のいずれかの電動式直動アクチュエータと、を具備する。
【0013】
上記構成の本発明の電動ブレーキ装置は、上で述べてきた効果を奏する電動式直動アクチュエータを具備するので、遊星ローラがサンローラに対して公転しつつ安定して自転するようにでき、モータ回転量からアウタリングの軸方向位置を推定することの精度および制動制御の精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る電動式直動アクチュエータおよび電動ブレーキ装置は、遊星ローラの自転および公転を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る一実施形態の電動ブレーキ装置の断面図。
【
図2】減速機構側から見た上記電動ブレーキ装置の側面図。
【
図3】電動モータが接続された上記電動ブレーキ装置に採用される電動式直動アクチュエータの断面図。
【
図4】上記電動式直動アクチュエータに採用される直動変換機構の断面図。
【
図7】上記直動変換機構の制動力発揮状態を示す部分断面図。
【
図8】上記直動変換機構に採用される遊星ローラねじ機構の拡大図。
【
図9】上記遊星ローラねじ機構でアウタリングからの軸方向荷重が作用している状態での弾性部材、遊星ローラおよびアウタリングの接触状態を示す拡大図。
【
図10】上記遊星ローラねじ機構でアウタリングからの軸方向荷重が作用していない状態での弾性部材、遊星ローラおよびアウタリングの接触状態を示す拡大図。
【
図11】上記遊星ローラねじ機構で弾性部材、遊星ローラおよびアウタリングの別の接触状態を示す拡大図。
【
図12】上記遊星ローラねじ機構で使用される弾性部材の、(A)側面図と、(B)正面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る一実施形態の電動ブレーキ装置10および電動式直動アクチュータ14の一実施形態を、図面を用いて説明する。
【0017】
図1に示すように、この電動ブレーキ装置10は、車輪(図示せず)と一体に回転するブレーキディスク11と、ブレーキディスク11を挟んで軸方向(後述のサンローラ27の回転軸方向。以下同じ。)に対向する一対のブレーキパッド12、13と、この一対のブレーキパッドの少なくとも一方(ブレーキパッド13)を軸方向に直線駆動する電動式直動アクチュエータ14を主要な構成要素とし、電動モータ15(
図3)から伝達する動力で
図1のブレーキパッド12、13をブレーキディスク11に押さえ付けることにより制動力を発生させる。なお、以下においては、軸方向において電動式直動アクチュエータ14から見てブレーキパッド12、13の方向(
図1の左方向)を前、それと逆方向(
図1の右方向)を後という。
【0018】
この電動ブレーキ装置10は、ブレーキディスク11を間にして軸方向に対向する一対の対向部16、17を、不図示の上記車輪の回転軸に対するブレーキディスク11の外径側に位置するブリッジ18で連結したキャリパボディ19を有する。ブレーキパッド12、13は、キャリパボディ19の一方の対向部16とブレーキディスク11との間、および、他方の対向部17とブレーキディスク11との間に、それぞれバックプレート20、21を介して設けられている。ブレーキパッド13単体、または、ブレーキパッド12、13は、キャリパボディ19に取り付けられたパッドピン(図示せず)やキャリパブラケット22に設けられたスライド部(図示せず)等の必要な部材を使用して、ブレーキディスク11の軸方向に案内される。
【0019】
図2に示すように、キャリパボディ19は、車輪を支持する車体側(固定側)のナックル(図示せず)に固定されたキャリパブラケット22に取り付けたスライドピン23で、軸方向に移動可能に支持されている。本実施形態では、ブレーキパッド13が軸方向前方に移動してブレーキディスク11に押さえ付けられたときに、ブレーキディスク11から受ける反力によってキャリパボディ19が軸方向後方に移動し、このキャリパボディ19の移動によって、反対側のブレーキパッド12もブレーキディスク11に押さえ付けられるようになっている。
【0020】
図1、
図3等に示すように、キャリパボディ19の一方の対向部17は、軸方向の前後両端が開口した円筒状のキャリパハウジング17Aと、キャリパハウジング17Aの軸方向後端において径方向内向きに設けられたキャリパフランジ17Bとからなる。
【0021】
キャリパハウジング17A内には、電動式直動アクチュエータ14に含まれる直動変換機構24が組み込まれている。直動変換機構24は、電動モータ15によって軸周りに回転可能かつ軸方向に移動不能とした回転部材25の回転運動を、軸周りに回転不能かつ軸方向に移動可能とした直動部材26の直線運動に変換する機能を有している。
【0022】
図4、
図5等に示すように、直動変換機構24は、少なくとも電動モータ15の回転が入力されるサンローラ27と、サンローラ27の外周に転がり接触する複数の遊星ローラ28と、複数の遊星ローラ28を自転可能かつ公転可能に保持するキャリア29とを含む前記回転部材、少なくとも複数の遊星ローラ28をその内側に囲むように配置された筒状のアウタリング30を含む前記直動部材、および、遊星ローラ28の外周面およびアウタリング30の内周面にそれぞれ形成された周方向係合部31、32とを有する遊星ローラねじ機構である。さらに直動変換機構24は、遊星ローラ28とアウタリング30にそれぞれ形成された上記周方向係合部31、32同士の係合によって、回転部材25の軸周りの回転すなわち本実施形態では遊星ローラ28の回転を、直動部材26の軸方向の直線運動すなわち本実施形態ではアウタリング30の軸方向の直線運動に変換する遊星ローラねじ機構である。なお、本実施形態では、サンローラ27は直円柱状であり、複数(4つ)の遊星ローラ28は周方向に等間隔で配置されている。
【0023】
図3に示すように、キャリパハウジング17Aの軸方向後方の端部開口を覆うように設けられたカバー34A、フランジ34B内に減速機構33が収容されており、フランジ34Bには、電動モータ15が取り付けられている。減速機構33は、電動モータ15のモータロータのロータ軸15Aの回転をサンローラ27に減速して伝達する。
【0024】
図2に示すように、減速機構33は、電動モータ15のロータ軸15Aと一体に軸周りに回転する第一ギア33Aと、第一ギア33Aと噛み合う第二ギア33Bと、第二ギア33Bと噛み合いサンローラ27とともに回転する第三ギア33Cとを有する。電動モータ15の回転は、これらの複数のギア33A、33B、33Cを介して順次減速されながらサンローラ27に伝達される。
【0025】
遊星ローラ28の外周面に形成された周方向係合部31は、この遊星ローラ28の円周方向に沿って延びる複数の円周溝(以下、周方向係合部31と同じ符号を付する。)の斜面である。また、アウタリング30の内周面に形成された周方向係合部32は、このアウタリング30の円周方向に対して斜めに延びる、遊星ローラ28に形成された円周溝31と係合する螺旋凸条(以下、周方向係合部32と同じ符号を付する。)の斜面である。すなわち、円周溝31と螺旋凸条32のリード角は互いに異なっており、両者が噛み合った状態で遊星ローラ28が回転すると、アウタリング30は遊星ローラ28に対し軸方向に相対移動する。この実施形態では遊星ローラ28の外周にリード角が0度の円周溝31を設けたが、円周溝31の代わりに、螺旋凸条32と異なるリード角の螺旋溝としてもよい。
【0026】
図4に示すように、遊星ローラねじ機構の遊星ローラ28の周方向係合部31およびアウタリング30の周方向係合部32は、本実施形態ではリード角が互いに異なり、溝底から溝縁側に向けて、すなわち周方向係合部31では遊星ローラ28の溝底から外径部に向けて、周方向係合部32ではアウタリング30の溝底から内径部に向けて、溝幅が広がるように傾斜し、各々台形状の輪郭を有する。
図8に示すように、アウタリング30から遊星ローラ28に軸方向荷重が作用していると、周方向係合部では、斜面で従来接触部61において互いに接触し、当該箇所以外は接触が無く隙間SPが空いている。ここで、アウタリング30から遊星ローラ28に軸方向荷重Fが作用している場合、遊星ローラ28は従来接触部61からの、上記斜面に対する法線方向の荷重(印加荷重)F1の分力(径方向荷重)F2によって、サンローラ27に押し付けられ、その結果サンローラ27から遊星ローラ28へのトルク伝達に必要な法線力を得ている。
【0027】
他方、アウタリング30から遊星ローラ28に軸方向荷重Fが作用していない場合、支持ピン両端に設けた後述の弾性リング37の縮径する力によって、遊星ローラ28はサンローラ27に押し付けられている。しかし、アウタリング30から遊星ローラ28に軸方向荷重が作用していない場合、遊星ローラ28を支持する各軸受の回転抵抗等の影響によって、遊星ローラ28がキャリヤ29に対し自転せず、サンローラ27と一体となって公転することがあった。すなわち、軸受(軸受36、40)の回転抵抗の僅かな変化で自転および公転の関係が変動していた。遊星ローラねじ機構の減速比(サンローラの回転に対するアウタリングの軸方向移動量)は遊星ローラ28の自転および公転の関係に依存しおり、その関係が安定しないとモータ15の回転量からアウタリング30の軸方向位置の推定および軸方向位置の制御が困難になる。電動ブレーキにはパッドクリアランスを任意に変更できる等の利点があるが、アウタリングの軸方向位置が制御できないとパッドクリアランスが十分に確保できずにブレーキの引きずりトルクが増大したり、パッドクリアランスが大きくなりすぎると制動応答性の悪化の原因となる。こうした点に対する対応については、後で詳述する。
【0028】
図4等に示すように、遊星ローラ28の軸心には挿通孔が形成されており、この挿通孔にローラ軸35が挿通されている。このローラ軸35によって、遊星ローラ28は、その軸周りに自転する。挿通孔の内面には、ローラ軸35との間に介在するすべり軸受36が設けられている。このすべり軸受36によって、遊星ローラ28がローラ軸35周りにスムーズに自転するようになっているが、一定の回転抵抗等が存在する。
【0029】
各ローラ軸35の両端部には、周方向に間隔をおいて配置された全ての遊星ローラ28のローラ軸35に外接するように、弾性リング37が掛け渡されている。これは、弾性リング37の内径方向に収縮する力によって各遊星ローラ28がサンローラ27の外周に押し付けられることにより、遊星ローラ28に対し、遊星ローラ28とサンローラ27との間の法線力が与えられることから、遊星ローラ28とサンローラ27との間の一定の滑り防止を目的として設けられている。
【0030】
キャリア29は、遊星ローラ28を軸方向前方から保持する前側キャリアプレート29A、遊星ローラ28を軸方向後方から保持する後側キャリアプレート29B、および、両キャリアプレート29A、29Bを連結するためのローラ軸35とは異なる複数の連結棒29Cから構成される。両キャリアプレート29A、29Bは、いずれも外形が円板状であり、各キャリアプレート29A、29Bとサンローラ27との間には、すべり軸受38が設けられている。また、前側キャリアプレート29Aの軸方向前方には、キャリア29の軸方向前方への移動を規制する止め輪39が設けられている。
【0031】
図6に示すように、両キャリアプレート29A、29Bには、その中央にサンローラ27を挿通する貫通孔が形成されるとともに、径方向に延びる複数の長孔が形成されており、遊星ローラ28のローラ軸35は、この長孔によって、サンローラ27の径方向に移動可能に保持されている。このキャリア29は、遊星ローラ28の公転に伴って、サンローラ27の軸周りに回転する。
【0032】
図4等に示すように、遊星ローラ28の軸方向後端部と後側キャリアプレート29Bの間には、スラスト軸受40が設けられている。このスラスト軸受40によって、遊星ローラ28がローラ軸35周りにスムーズに自転するようになっているが、一定の回転抵抗等が存在する。
【0033】
アウタリング30の軸方向前方の開口端部には、押圧部材41が設けられている。この押圧部材41は、円板状の円板部41Aと、円板部41Aの外周縁から軸方向後方に起立する環状のフランジ部41Bを有し、このフランジ部41Bの先端に形成された小径部の外周が、アウタリング30の内周に嵌め込まれている。
【0034】
後側キャリアプレート29Bの軸方向後方には、スペーサ44が設けられている。このスペーサ44は、後側キャリアプレート29Bと一体にサンローラ27の軸周りに回転する。
【0035】
スペーサ44の軸方向後方には、スラスト軸受45を介して荷重センサ46が設けられている。この荷重センサ46は、制動時においてブレーキパッド13からアウタリング30に対して作用した反力を、遊星ローラ28、スラスト軸受40、後側キャリアプレート29B、スペーサ44、および、スラスト軸受45を介して受け、キャリパフランジ17Bを介してキャリパボディ19に伝えることによって、その制動力を検出する機能を有する。荷重センサ46とサンローラ27の間には軸受47が設けられており、両者は相対回転可能となっている。また、荷重センサ46の軸方向前端には止め輪48が設けられており、この止め輪48によって、荷重センサ46が軸方向前方に移動しないよう位置決めしている。
【0036】
押圧部材41のアウタリング30への嵌め込み部の端部には、周溝49が形成される。この周溝49にブーツ50の小径側端部を嵌め込むとともに、キャリパハウジング17Aの内周に形成された周溝51にブーツ50の大径側端部を嵌め込む。このようにすると、電動式直動アクチュエータ14の内部機構と外部がブーツ50によって隔離され、アウタリング30の外面とキャリパハウジング17Aの内面の摺動面間に、泥水等の異物が入り込むのを確実に防止することができる。
【0037】
図1に示すように、押圧部材41の軸方向前面には、回り止め溝41Cが形成されている。また、バックプレート21の軸方向後面には、この回り止め溝41Cの溝端部に係合する回り止め突起21Aが形成されている。この回り止め突起21Aが回り止め溝41Cの溝端部に係合することにより、押圧部材41(アウタリング30)がキャリパハウジング17Aに対して回り止めされる。
【0038】
次に、この電動式直動アクチュエータ14の動作について説明する。電動モータ15を駆動して、サンローラ27を軸周りの一方向に回転すると、遊星ローラ28が自転しながら公転する。このとき、螺旋凸条32のリード角と円周溝31のリード角の差によってアウタリング30と遊星ローラ28が軸方向に相対移動するが、遊星ローラ28はキャリア29とともに、荷重センサ46および止め輪39によって軸方向の移動が規制されているので、遊星ローラ28は軸方向に移動せず、
図7に示すように、アウタリング30と押圧部材41が同図中の△だけ軸方向前方に移動する。これにより、押圧部材41によって軸方向前方に押圧されたブレーキパッド13がブレーキディスク11に押し付けられて制動力が発揮される。
【0039】
上で述べた遊星ローラ28の自転および公転の関係を安定させる点への対応について説明する。遊星ローラ28の自転および公転の関係を安定させるには、アウタリング30から遊星ローラ28に軸方向荷重F(
図8)が作用していない状態でも、軸受(軸受36、40)の回転抵抗等に打ち勝つだけの接触力がアウタリング30から遊星ローラ28に例えば常に与えられればよい。これにより、上記法線力が常に発生し、遊星ローラ28がサンローラ27に対して公転しつつ安定して自転するようにできる。
【0040】
図9~
図12に、本実施形態における、上述のアウタリング30から遊星ローラ28に上記軸受の回転抵抗に打ち勝つ接触力が常に与えられる例を示す。
図9~11は、遊星ローラ28に固定した後述の弾性部材77がアウタリング30の溝65の斜面(溝斜面)65aに接点77aで接触している状態を示す。なお本実施形態では、アウタリング30の溝65と遊星ローラ28の外径部69である突条とが係合し、アウタリング30の内径部63である突条と遊星ローラ28の溝67とが係合することで、周方向係合部31、32が係合している。この構成により、アウタリング30からの軸方向荷重F(
図8)すなわちブレーキパッド13からの軸方向荷重Fが負荷されていなくても、このブレーキパッド13からの軸方向荷重Fに代えて、周方向係合部31、32を介して遊星ローラ28に軸Cの方向で弾性部材77からの軸方向荷重F’を負荷させることができる。すなわち本実施形態では、
図9等の弾性部材77の外周付近が、軸C方向に例えば曲面状に反っており(
図12)、
図9では弾性部材77を接点77aで溝斜面65aに接触することで遊星ローラ28に軸方向に荷重が加わり、弾性部材77が固定されている遊星ローラ28に軸方向荷重F’が負荷される。この結果、ブレーキパッド13からの軸方向荷重F(
図8)と同様に、
図9等の各周方向係合部の係合面たる傾斜面(溝斜面65a等)によって軸方向荷重F’は軸C方向に直交する方向に分力されて、遊星ローラ28は該分力によりサンローラ27に押し付けられ、サンローラ27から遊星ローラ28へのトルク伝達に必要な(サンローラ27に直交する)法線力が得られる。
【0041】
ここで本実施形態は、周方向係合部31、32における遊星ローラ28とアウタリング30との接触部(従来接触部61)の軸Cに対する半径と、弾性部材77とアウタリング30との接触部77aの軸Cに対する半径(二点鎖線L)とを一致させている。なお両半径の一致には、完全一致だけでなく、所定の差が含まれる略一致も含むものとする。この両半径を(略)一致させることで、それぞれの接触部(従来接触部61、接触部77a)での滑り成分が低減され、効率低下を抑制することができる。
【0042】
図9、
図10は、軸方向荷重Fが作用した際に遊星ローラ28がアウタリング30と接触するのと同じ溝斜面側の接点77aで、アウタリング30の溝斜面65bと、遊星ローラ28に固定した弾性部材77とを接触させる例を示している。
図9は軸方向荷重Fが作用している状態(有負荷時)を示しており、この際、従来と同様に、遊星ローラ28とアウタリング30との間に隙間SP(
図8)が存在する一方で、従来接触部61で遊星ローラ28とアウタリング30とが接触している。
図10は軸方向荷重Fが作用していない状態(無負荷時)を示しており、この際、遊星ローラ28とアウタリング30との間に従来とは異なる側に隙間SPが存在する一方で、軸方向荷重F’により従来接触部61とは異なる他方接触部61Aで遊星ローラ28とアウタリング30とが接触している。上述のように、軸方向荷重Fが作用していない状態でも、軸方向荷重F’により他方接触部61Aで遊星ローラ28とアウタリング30の溝斜面65bとが接触することで、サンローラ27に直交する法線力が生じている。
【0043】
図11は、別の例として、軸方向荷重Fが作用した際に遊星ローラ28がアウタリング30と接触するのと反対側の溝斜面側の接点77Aaで、遊星ローラ28に固定した弾性部材77Aを接触させる例を示している。この場合、軸方向荷重Fの有無に関わらず、接点77Aaでの弾性部材77Aとアウタリングの溝斜面65bとの接触状態、および、従来接触部61での遊星ローラ28とアウタリング30との接触状態はほぼ変わらない。すなわち本実施形態では、アウタリング30からの軸方向荷重Fが作用していなくても弾性部材77Aからの軸方向荷重F’が作用するので、
図9および
図10の例のような遊星ローラ28とアウタリング30とが接触する側の変更が生じることがなく、遊星ローラ28とアウタリング30との間のガタつきを抑制することが出来る。よって、アウタリング30の軸方向位置の推定及び制御精度を向上させることが出来る。
【0044】
弾性部材77は、上述のように外周付近が軸C方向に曲面状(該外周付近が縦断面において曲線となっているような形状)に反っている(
図12)。この弾性部材77の曲面状に反った外周付近は、溝斜面65aに接点77aで接触しうるように構成されているが、弾性部材77が溝斜面65aと力を及ぼし合うような曲率となっている。なお、弾性部材77の外径は遊星ローラ28の外径よりも小さくなっており、弾性部材77の外径部分がサンローラ27に接触しないようになっている。この形状によって、弾性部材77とアウタリング30との接触状態が安定し、弾性部材77がサンローラ27と干渉することも防ぐことが出来る。なお、弾性部材77は、溶接や接着、圧入嵌合、加締め等の方法を用いて遊星ローラに固定することが出来る。弾性部材77は、金属や樹脂等の材料を採用できる。また、弾性部材77は、弾性部材77が溝斜面65aと力を及ぼし合うような構成であれば、上記のような外周付近が曲面状に反った形状に限られず、例えば平円板状でもよく、さらに縦断面において軸Cに直交する部分と所定の半径の位置から折れ曲がって直線状に外周へ向けて延びる部分とを有するような形状等であってもよい。以上のことは、弾性部材77Aについても同様である。
【0045】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0046】
10 電動ブレーキ装置
11 ブレーキディスク
12、13 ブレーキパッド
14 電動式直動アクチュエータ
15 電動モータ
24 直動変換機構
25 回転部材
26 直動部材
27 サンローラ
28 遊星ローラ
29 キャリア
30 アウタリング
31 周方向係合部(円周溝)
32 周方向係合部(螺旋凸条)
61 従来接触部
63 (アウタリングの)内径部
65 (アウタリングの)溝
65a、65b(アウタリングの)溝斜面
67 (遊星ローラの)溝
69 (遊星ローラの)外径部
77、77A弾性部材
77a、77Aa接点