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特開2024-20949走行用磁気誘導体及び自走移動体システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020949
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】走行用磁気誘導体及び自走移動体システム
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/43 20240101AFI20240207BHJP
   B61B 13/00 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
G05D1/02 A
B61B13/00 N
B61B13/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123525
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100087985
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 宏司
(72)【発明者】
【氏名】岩井 彬
(72)【発明者】
【氏名】藤田 隼也
【テーマコード(参考)】
3D101
5H301
【Fターム(参考)】
3D101BA02
3D101BB03
5H301BB05
5H301CC02
5H301CC05
5H301FF04
5H301FF26
5H301FF27
(57)【要約】
【課題】走行路の変更等をする際に、コーティング材を走行路面から剥がす手間が生じる。その一方で、コーティング材を省略して磁気テープのみにすると、自走移動体の車輪等で磁気テープが損傷しやすくなる。
【解決手段】走行用磁気誘導体40は、自走移動体20の走行路30上に設置され、自走移動体20の走行を案内する。走行用磁気誘導体40は、保護板41と、着磁材43と、を備える。保護板41の材質は、非磁性金属又はポリエステルである。保護板41は、第1主面に対して窪んだ穴42を有する。着磁材43は、磁性材である。着磁材43は、保護板41の穴42の内部に位置している。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自走移動体の走行路面上に設置され、前記自走移動体の走行路を案内するための走行用磁気誘導体であって、
非磁性材料製の保護板と、磁性材製の着磁材と、を備え、
前記保護板は、前記走行路面上に設置したときに露出する主面である第1主面と、当該第1主面に対して窪んだ穴を有し、
前記着磁材は、前記穴の内部に位置している
走行用磁気誘導体。
【請求項2】
前記着磁材は、前記第1主面に対して前記穴の外側に突出していない
請求項1に記載の走行用磁気誘導体。
【請求項3】
前記穴は、前記第1主面及び前記第1主面とは反対の第2主面の双方において開口する貫通穴であり、
前記第2主面に張り付けられ、且つ前記穴の前記第2主面側の開口を塞ぐ、カバー層をさらに備える
請求項1又は請求項2に記載の走行用磁気誘導体。
【請求項4】
前記保護板の厚さは、1mm以上1.5mm以下である
請求項1又は請求項2に記載の走行用磁気誘導体。
【請求項5】
自走移動体の走行路面上に設置され、前記自走移動体の走行路を案内するための走行用磁気誘導体と、
前記走行用磁気誘導体の磁気を検出して、前記走行用磁気誘導体に沿って走行する自走移動体と、
を備え、
前記自走移動体は、走行用の車輪を有し、
前記走行用磁気誘導体は、非磁性材料製の保護板と、磁性材製の着磁材と、を備え、
前記保護板は、前記走行路面上に設置したときに露出する主面である第1主面と、前記第1主面に対して窪んだ穴を有し、
前記着磁材は、前記穴の内部に位置しており、
前記第1主面に直交する方向で平面視したときに前記穴の開口縁上の2点を結んだ線分のうち、最も長い前記線分を第1仮想線とし、
前記第1仮想線の長さを「L」、前記第1主面と前記着磁材における前記第1主面側の表面との段差の幅を「WS」、前記車輪の半径を「r」とし、
前記第1主面に直交し且つ前記第1仮想線の中央点を通る第2仮想線上の特定点を中心とし、前記特定点を中心とする半径rの円が前記第1仮想線の両端を通過していると仮定した状態で、前記第1仮想線の一端及び前記特定点を通る第3仮想線と前記第2仮想線とが成す鋭角を「θ」としたとき、
L≦2r
且つWS≧r-(r×cosθ)
の関係を満たす
自走移動体システム。
【請求項6】
走行路面上に設置された磁気テープ、をさらに備え、
前記自走移動体は、前記車輪の回転軸が延びる方向に一対の前記車輪を有し、
前記磁気テープ及び前記走行用磁気誘導体は、前記走行路に沿って線状に延びており、
前記走行路は、複数に分岐した分岐点を有し、
一対の前記車輪の間隔を車輪幅としたとき、
前記走行用磁気誘導体は、前記走行路上の前記分岐点を中心として、前記車輪幅の長さを半径とする円の範囲内に位置している
請求項5に記載の自走移動体システム。
【請求項7】
走行路面上に設置された磁気テープ、をさらに備え、
前記自走移動体は、前記車輪の回転軸が延びる方向に一対の前記車輪を有し、
前記磁気テープ及び前記走行用磁気誘導体は、前記走行路に沿って線状に延びており、
前記走行路は、途中に屈曲した箇所を有し、
前記走行用磁気誘導体は、前記走行路上の屈曲した箇所に位置している
請求項5に記載の自走移動体システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行用磁気誘導体及び自走移動体システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の走行式磁気誘導体は、自走移動体の走行路に沿って設定される。この走行用磁気誘導体は、磁気テープと、コーティング材と、を備えている。磁気テープは、帯状である。また、磁気テープは、上下に貫通する複数の貫通穴を有している。コーティング材はエポキシ樹脂である。コーティング材は磁気テープを被覆している。また、コーティング材は、貫通穴に充填されている。コーティング材は、自走移動体の車輪等による押圧から磁気テープを保護している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-61387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたような走行用磁気誘導体において、コーティング材の材質は、接着剤としても利用されるエポキシ樹脂である。このことから、コーティング材は、走行路面に対して強く接着している。そのため、走行路の変更等をする際に、コーティング材を走行路面から剥がす手間が生じる。その一方で、コーティング材を省略して磁気テープのみにすると、自走移動体の車輪等で磁気テープが損傷しやすくなる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は、自走移動体の走行路面上に設置され、前記自走移動体の走行路を案内するための走行用磁気誘導体であって、非磁性材料製の保護板と、磁性材製の着磁材と、を備え、前記保護板は、前記走行路面上に設置したときに露出する主面である第1主面と、当該第1主面に対して窪んだ穴を有し、前記着磁材は、前記穴の内部に位置している走行用磁気誘導体。
【0006】
また、自走移動体の走行路面上に設置され、前記自走移動体の走行路を案内するための走行用磁気誘導体と、前記走行用磁気誘導体の磁気を検出して、前記走行用磁気誘導体に沿って走行する自走移動体と、を備え、前記自走移動体は、走行用の車輪を有し、前記走行用磁気誘導体は、非磁性材料製の保護板と、磁性材製の着磁材と、を備え、前記保護板は、前記走行路面上に設置したときに露出する主面である第1主面と、前記第1主面に対して窪んだ穴を有し、前記着磁材は、前記穴の内部に位置しており、前記第1主面に直交する方向で平面視したときに前記穴の開口縁上の2点を結んだ線分のうち、最も長い前記線分を第1仮想線とし、前記第1仮想線の長さを「L」、前記第1主面と前記着磁材における前記第1主面側の表面との段差の幅を「WS」、前記車輪の半径を「r」とし、前記第1主面に直交し且つ前記第1仮想線の中央点を通る第2仮想線上の特定点を中心とし、前記特定点を中心とする半径rの円が前記第1仮想線の両端を通過していると仮定した状態で、前記第1仮想線の一端及び前記特定点を通る第3仮想線と前記第2仮想線とが成す鋭角を「θ」としたとき、L≦2r且つWS≧r-(r×cosθ)の関係を満たす自走移動体システム。
【発明の効果】
【0007】
上記構成によれば、保護板によって着磁材を損傷などから保護できる。そして、保護板自身の材質は、着磁材を嵌め込むための穴が形成可能な非磁性材であれば問わない。つまり、走行路面に対する強い接着力を有する材質に限られない。そのため、保護板の材質として、走行路面に対する接着力を持たない材質、又は、走行路面に対する位置ずれを防げる程度の弱い接着力の材質等、所望の材質を選択できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】自走移動体及び走行路を説明する説明図である。
図2】自走移動体システムの電気的構成の概略図である。
図3】自走移動体システムの上面図である。
図4】自走移動体システムの上面図である。
図5】自走移動体システムの上面図である。
図6】走行用磁気誘導体の部分上面図である。
図7図6における7‐7線に沿う断面図である。
図8】変更例における走行用磁気誘導体の断面図である。
図9】変更例における走行用磁気誘導体の断面図である。
図10】変更例における走行用磁気誘導体の部分上面図である。
図11】変更例における走行用磁気誘導体の部分上面図である。
図12】変更例における走行用磁気誘導体の部分上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<走行用磁気誘導体及び自走移動体システムの一実施形態>
以下、磁気誘導自走移動体システムの一実施形態を、図面を参照して説明する。図1及び図3に示すように、自走移動体システム10は、自走移動体20と、複数の磁気テープ32と、複数の走行用磁気誘導体40と、を備えている。なお、図面は、理解を容易にするために構成要素を拡大して示している場合がある。構成要素の寸法比率は実際のものと、又は別の図面中のものと異なる場合がある。
【0010】
(自走移動体について)
先ず、自走移動体20について説明する。図1に示すように、自走移動体20は、ボディ21と、4つの車輪22と、を備えている。また、図2に示すように、自走移動体20は、バッテリ24と、磁気センサ25と、制御装置26と、電動モータ23とを備える。自走移動体20は、例えば、器具、商品、人間などを搬送するための車両である。
【0011】
ボディ21は、例えば略直方体の外形である。ボディ21は、バッテリ24、制御装置26、電動モータ23、及びこれらの関連機器などを格納している。なお、ボディ21は、荷物等を載せるための荷台、荷物を載せたり降ろしたりするためのアームを有していることもある。
【0012】
図1に示すように、4つの車輪22は、一対の前輪22Fと、一対の後輪22Rと、に分けられる。各前輪22Fは、図示しない車軸を介してボディ21の底面に連結している。また、各前輪22Fは、向きが変更可能になっている。すなわち、各前輪22Fは、操舵輪である。各後輪22Rは、図示しない車軸を介してボディ21の底面に連結している。一対の後輪22Rの間隔、すなわち一対の後輪22Rの車輪幅WRは、一対の前輪22Fの車輪幅WRと同一である。また、4つの車輪22の半径rは、全て同一である。
【0013】
図2に示すように、電動モータ23は、前輪22Fが連結している車軸を介して、前輪22Fにトルクを付与する。すなわち、自走移動体20は、前輪駆動する車両である。なお、図2では、車軸等の図示を省略して、電動モータ23と車輪22との関係を模式的に図示している。
【0014】
バッテリ24は、充電及び交換が可能な電池である。バッテリ24は、例えばリチウムイオン電池である。バッテリ24は、磁気センサ25、制御装置26、電動モータ23及び関連する電子機器に電力を供給する。
【0015】
磁気センサ25は、ボディ21の外面のうち、2つの前輪22Fの間の中央に位置している。磁気センサ25は、磁場の大きさ及び方向を検出する。また、磁気センサ25は、検出結果を電気信号に変換して、制御装置26に出力する。
【0016】
制御装置26は、自走移動体20の走行ルートを予め記憶している。走行ルートは、製造時の初期設定及び外部からの入力等により定められる。なお、上記の走行ルートとは、後述する走行路30の地図的情報のほか、右左折する条件等の走行パターン等を含む。
【0017】
また、制御装置26は、一対の前輪22F及び電動モータ23等を制御対象としている。制御装置26は、一対の前輪22Fの舵角及び電動モータ23の回転数を制御することにより、自走移動体20の走行を制御する。具体的には、制御装置26は、磁気センサ25からの電気信号に基づいて、磁場が最も大きい方向且つ走行ルートに従う方向に向かって、前輪22Fの舵角を制御する。また、制御装置26は、走行ルート上を予め定められた速度で走行するように電動モータ23の回転数を制御する。なお、走行ルート上の速度は、箇所毎に異なる速度が定められていてもよいし、一定時間速度がゼロになる箇所が定められていてもよい。
【0018】
(自走移動体の走行路について)
次に、自走移動体20の走行路30について説明する。
図1に示すように、走行路30は、工場、倉庫の床面など、自走移動体20の走行路面上に設定された自走移動体20の通り道である。走行路30は、線状に延びている。図3及び図4に示すように、走行路30は、分岐点31において複数に分岐している。具体的には、図3に示す箇所では、自走移動体20の進行方向に向かって、分岐点31で3つに分岐している。図4に示す箇所では、自走移動体20の進行方向に向かって、分岐点31で2つに分岐している。また、図5に示すように、走行路30は、途中で屈曲している。具体的には、図5に示す箇所では、走行路30は、自走移動体20の進行方向に対して、約70度屈曲している。
【0019】
磁気テープ32及び走行用磁気誘導体40は、図3図5に示すように、走行路面のうちの走行路30上に敷設されている。すなわち、磁気テープ32及び走行用磁気誘導体40は、走行路30に沿って線状に延びている。ここで、図3及び図4に示すように、走行路30上の分岐点31を中心とした車輪幅WRを半径とする円Cを仮定する。各走行用磁気誘導体40の一部又は全部は、当該円Cの範囲内に存在している。換言すると、走行用磁気誘導体40の一部は、円Cの範囲外に存在していてもよい。また、走行用磁気誘導体40は、円Cの範囲内の走行路30上に敷き詰められている。なお、隣り合う走行用磁気誘導体40の間に、多少の間隔が生じていてもよい。
【0020】
また、図5に示すように、走行用磁気誘導体40は、走行路30上の屈曲した箇所に存在している。なお、屈曲した箇所とは、2つの直線状の走行路30が交差する箇所である。したがって、屈曲した箇所とは、2つの直線が交差して角を形成する箇所だけでなく、2つの直線を滑らかに繋ぐ湾曲した箇所も含む。また、走行用磁気誘導体40は、直線状の走行路30の一部にも存在している。具体的には、走行用磁気誘導体40は、直線状の走行路30のうち、屈曲した箇所に隣接する部分にも存在している。そして、磁気テープ32は、走行用磁気誘導体40が設置されている上記箇所を除き、走行路30の全域に敷設されている。
【0021】
磁気テープ32の形状は、帯状である。例えば、磁気テープ32の厚さは約1mmである。磁気テープ32の材質は、磁性材である異方性フェライトと、バインダである塩素化ポリエチレン系ポリマーアロイ及びニトリルゴム系コーポリマの混合物である。また、磁気テープ32は、磁気を帯びている。
【0022】
(走行用磁気誘導体について)
走行用磁気誘導体40の詳細について説明する。図6及び図7に示すように、走行用磁気誘導体40は、保護板41と、複数の着磁材43と、カバー層44と、を備えている。なお、各図面では、複数の着磁材43のうちの一部にのみ符号を付している。
【0023】
保護板41は、平面視したときに長方形状の外形を有する板である。保護板41の短辺の寸法は、磁気テープ32の幅と同一である。また、保護板41は、非磁性金属製である。具体的には、保護板41の材質はステンレス鋼である。
【0024】
保護板41は、第1主面及び第1主面とは反対側の面である第2主面を有する。なお、主面とは、板材の外面のうち、最も面積の大きい面及びその反対側の面である。また、保護板41の厚さTBは、1mm以上1.5mm以下である。具体的には、厚さTBは、1.2mmである。
【0025】
保護板41は、第1主面に対して窪んだ複数の穴42を有する。本実施形態において、当該穴42は、第1主面及び第2主面の双方において開口している。つまり、穴42は、貫通穴である。
【0026】
穴42の形状は、保護板41の第1主面に直交する方向での平面視で正方形である。複数の穴42は、マトリクス状に並んでいる。具体的には、6つの穴42が、保護板41の長手方向に並んでいる。また、3つの穴42が、保護板41の短手方向に並んでいる。したがって、保護板41は、合計18個の穴42を有している。
【0027】
カバー層44は、合成樹脂製のフィルムである。カバー層44の厚み以外の寸法は、保護板41の寸法と同一である。カバー層44は両面に粘着性を有している。つまり、カバー層44は、いわゆる両面テープである。カバー層44は、保護板41の第2主面に貼り付けられている。そして、カバー層44は、貫通穴である穴42の第2主面側の開口を塞いでいる。なお、カバー層44の、第2主面とは反対側の粘着面により、走行用磁気誘導体40は走行路30の床面等に固定される。
【0028】
着磁材43の材質は、磁性材である。すなわち、磁性材である異方性フェライトと、バインダである塩素化ポリエチレン系ポリマーアロイ及びニトリルゴム系コーポリマの混合物である。そして、着磁材43は、磁気を帯びている。
【0029】
着磁材43の形状は、正方形板状である。着磁材43の正方形の一辺の長さは、保護板41の穴42の正方形の一辺の長さと同一である。着磁材43は、穴42の内部に位置する。具体的には、着磁材43は、穴42の内部に嵌め込まれている。また、着磁材43は、カバー層44に接触している。したがって、着磁材43は、カバー層44の粘着力により、当該カバー層44に接着している。
【0030】
ここで、長さL及び角θを、次のように定義する。先ず、図6に示すように、第1主面に直交する方向で平面視したとき、穴42の開口縁上の2点を結んだ線分のうち、最も長い線分を第1仮想線IL1とする。つまり、第1仮想線IL1は、正方形の対角線である。そして、長さLを、第1仮想線IL1の長さとする。次に、図7に示すように、第1主面に直交し且つ第1仮想線IL1の中央点を通る第2仮想線IL2上の特定点Pを中心とする円22Cを仮想する。このとき、特定点Pを中心とする半径rの円22Cが第1仮想線IL1の両端を通過していると仮定する。なお、上記円22Cは、車輪22の厚みが十分に小さい、例えば無限小であると仮定し、且つ、車輪22が第1仮想線IL1上で穴42に嵌ったときの、車輪22の外径円である。そして、第1仮想線IL1の一端及び特定点Pを通る第3仮想線IL3と第2仮想線IL2とが成す鋭角を角θとする。また、段差の幅WSを、保護板41の第1主面と、着磁材43における第1主面側の表面との段差の幅と定義する。このとき、長さL及び段差の幅WSは、以下の関係を満たす。
【0031】
L≦2r…(式1)
WS≧r-(r×COSθ)…(式2)
なお、(式1)は、穴42の最大寸法が車輪22の直径以下であることを示すものである。また、(式2)は、段差の幅WSが穴42に対する車輪22の最大落ち込み深さ以上であることを示すものである。
【0032】
(走行用磁気誘導体の製造方法について)
走行用磁気誘導体40の製造方法を説明する。
先ず、保護板41を作製する。板状のステンレス鋼を長方形状にカットすることで、保護板41の外形を成形する。さらに当該保護板41を切削加工することで、貫通孔である穴42を形成する。
【0033】
次に、着磁材43を作製する。異方性フェライト、塩素化ポリエチレン系ポリマーアロイ及びニトリルゴム系コーポリマを同一容器内に投入する。容器内を混合することで、磁性材及びバインダの混合物を作製する。当該混合物をローラーにより延伸することにより、板状にする。板状の混合物に着磁処理を行うことで磁気を持たせ、着磁体にする。当該着磁体を穴42と同一の大きさに切り分けて、着磁材43を得る。
【0034】
次に、カバー層44を作製する。両面テープを、保護板41の第1主面及び第2主面と同一の大きさにカットする。
最後に、走行用磁気誘導体40を組立てる。先ず、保護板41の第2主面にカバー層44を張り付ける。そして、穴42に着磁材43を嵌め込むことで、カバー層44に着磁材43を固定する。
【0035】
(実施形態の効果について)
(1)保護板41によって着磁材43を損傷などから保護できる。そして、保護板41自身の材質は、着磁材43を嵌め込むための穴が形成可能な非磁性材であれば問わない。つまり、走行路面に対する強い接着力を有する材質に限られない。そのため、保護板41の材質として、走行路面に対する接着力を持たない材質、又は、走行路面に対する位置ずれを防げる程度の弱い接着力の材質等、所望の材質を選択できる。
【0036】
なお、上記実施形態では、カバー層44が粘着性を有している。しかし、保護板41により着磁材43が保持、保護されているので、カバー層44の材質及び粘着力の強さに制限がない。したがって、カバー層44の粘着力を、状況に合わせた好適なものに設計できる。
【0037】
(2)本実施形態によれば、着磁材43が穴42の外側に突出していない。そのため、自走移動体20が走行する際に、着磁材43が摩耗することを抑制できる。
(3)本記実施形態によれば、穴42が貫通孔であることから、簡便に保護板41を成形できる。また、カバー層44が保護板41の穴42の底面として機能する。したがって、走行用磁気誘導体40を持ち運んだり保管したりする際に、穴42の内部の着磁材43が脱落することを防げる。
【0038】
(4)本記実施形態によれば、保護板41の厚さTBは、1mm以上1.5mm以下である。この程度の厚さであれば、自走移動体20の走行の妨げとなる可能性は低い。
(5)本記実施形態によれば、上記の(式1)及び(式2)を満たすことにより、自走移動体20の車輪22が走行用磁気誘導体40の第1主面上を通過した場合において、車輪22は穴42の内部に落輪せず、且つ着磁材43に接触する可能性が低い。したがって、自走移動体20の車輪22が着磁材43を摩耗させることを防げる。
【0039】
(6)本記実施形態によれば、線状に配置された磁気テープ32及び走行用磁気誘導体40のうち、自走移動体20の車輪22が乗り上げる可能性が高い走行路30の分岐点31の近傍に、走行用磁気誘導体40が配置されている。したがって、自走移動体20の車輪22が磁気テープ32を損傷させることを防げる。
【0040】
(7)本記実施形態によれば、線状に配置された磁気テープ32及び走行用磁気誘導体40のうち、自走移動体20の車輪22が乗り上げる可能性が高い走行路30の屈曲した箇所に、走行用磁気誘導体40が配置されている。したがって、自走移動体20の車輪22が磁気テープ32を損傷させることを防げる。
【0041】
<その他の実施形態>
上記実施形態は以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で組み合わせて実施することができる。
【0042】
・上記実施形態において、自走移動体20は、ボディ21に搬送物を積載する搬送車両でなくてもよく、搬送物を牽引する牽引車両でもよい。
・上記実施形態において、ボディ21の形状は問わない。自走移動体20の用途などに応じて適宜設計すればよい。
【0043】
・上記実施形態において、ボディ21の動力はバッテリ24及び電動モータ23でなくてもよく、例えば内燃機関等でもよい。
・上記実施形態において、バッテリ24、制御装置26、電動モータ23、及びこれらの関連機器は、必ずしもボディ21の内部に格納されている必要はない。
【0044】
・上記実施形態において、自走移動体20が有する車輪22は、1組の対をなしていなくてもよい。また自走移動体20が有する車輪22は3つ以下でもよいし、5つ以上あってもよい。
【0045】
・上記実施形態において、車輪22は、操舵輪でなくてもよい。すなわち、車輪22は車軸に連結されてなく、他の車輪22の向きに拘束されずに自由に向きを変えられる自在輪であってもよい。なお、車輪22を自在輪とした場合、操舵輪及び駆動輪に比較して車輪幅WRを小さく設計しやすい。その一方で、車輪幅WRが小さいと、車輪22が磁気テープ32に接触して、磁気テープ32の損傷の原因となりやすい。そのため、自走移動体20が自在輪を備えている自走移動体システム10は、走行用磁気誘導体40を設置するシステムとして、特に好適である。
【0046】
・一対の車輪22の車輪幅WRは、他の一対の車輪22の車輪幅WRと異なっていてもよい。その場合、走行路30上の分岐点31を中心とした車輪幅WRを半径とする円Cの範囲は、最も大きい車輪幅WRの値を採用して走行用磁気誘導体40を設置する。
【0047】
・上記実施形態において、電動モータ23は、前輪22Fに代えて又は加えて、後輪22Rにトルクを付与してもよい。
・上記実施形態において、電動モータ23は2つ以上あってもよい。例えば、1対の前輪22Fのそれぞれに独立して電動モータ23を備えていてもよい。その場合、例えば制御装置26は、各前輪22Fをそれぞれ独立して舵角及び回転数を制御してもよい。
【0048】
・上記実施形態において、磁気センサ25のボディ21における設置箇所は、磁気テープ32及び走行用磁気誘導体40の磁気を検知できる箇所であればよい。例えば、ボディ21の後輪近傍に設置されていてもよい。
【0049】
・上記実施形態において、走行ルートは、予め制御装置26に記憶されていなくてもよい。その場合、例えばボディ21は外部機器との無線通信手段を備え、当該無線通信により自走移動体20の動作がリアルタイムに操作されてもよい。
【0050】
・走行路30の分岐の仕方は、上記実施形態の例に限られない。例えば、分岐点31で4つ以上の走行路30に分岐していてもよい。
・走行路30の屈曲の方向及び角度は、上記実施形態の例に限らない。例えば、U字型に屈曲している箇所があってもよい。
【0051】
・走行用磁気誘導体40は、車輪幅WRを半径とする円Cの範囲内において敷き詰められていなくてもよい。例えば、予め車輪22の走行軌跡が分かっているならば、車輪22の軌跡上且つ磁気テープ32が押圧される箇所のみに走行用磁気誘導体40を設置してもよい。なお、走行路面上に設置された複数の走行用磁気誘導体40の間に隙間があってもよいが、走行用磁気誘導体40同士の間隔が大きい場合、隣り合う走行用磁気誘導体40の間に、磁気テープ32等を適宜設置すればよい。
【0052】
・走行用磁気誘導体40は、車輪幅WRを半径とする円Cの範囲外に設置されていてもよい。例えば工場等において、自走移動体20以外の車両の通行路に磁気テープ32が存在する場合、その箇所において磁気テープ32が押圧され摩耗しやすい。そのため、当該箇所に走行用磁気誘導体40を設置することで磁気テープ32を摩耗から保護できる。
【0053】
・磁気テープ32及び着磁材43の材質である磁性材は、上記実施形態の例に限られない。例えば、アルニコ磁石やサマリウムコバルト磁石などでもよい。
・上記実施形態において、走行用磁気誘導体40の短辺の寸法は、磁気テープ32の幅と異なっていてもよい。
【0054】
・上記実施形態において、保護板41の外形は、長方形状に限られない。例えば、円形や三角形であってもよいし、走行路30の屈曲に合わせて屈曲した形状でもよい。
・上記実施形態において、保護板41の材質は、着磁材43を保護できる強度を有するものであれば非磁性金属製に限られず、ポリエステルでもよい。保護板41の材質は、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートでもよい。
【0055】
・保護板41の厚さTBは、1mm未満でもよいし、1.5mmより大きくてもよい。車輪22の半径rとの兼ね合いで、自走移動体20の走行の妨げにならない程度の厚さTBを採用すればよい。
【0056】
図8に示すように、穴42は、保護板41の第1主面側のみ開口していてもよい。すなわち、穴42は第1主面に対して窪んだ形状であってもよい。その場合、保護板41の第2主面は床面等に接着する手段をもたなくてもよいし、両面テープを貼付することで床面等に固定してもよい。
【0057】
図9に示すように、走行用磁気誘導体40は、カバー層44を備えなくてもよい。その場合、着磁材43は穴42に嵌め込まれて固定されている。また、例えば、穴42の内面と着磁材43との間に接着剤を介在させて、両者を固定してもよい。
【0058】
・上記実施形態において、穴42及び着磁材43の形状は、保護板41の第1主面に直交する方向での平面視で正方形でなくてもよい。例えば、図10に示すように、穴42及び着磁材43の平面視形状は、円形や三角形でもよい。また、図示は省略するが、穴42及び着磁材43の平面視形状は、長方形等でもよい。さらに、図10に示すように、1つの保護板41において、穴42の形状及び寸法は統一されなくてもよい。
【0059】
・上記実施形態において、保護板41における穴42の数や配置箇所は任意である。例えば、図11に示すように、穴42は保護板41に1列だけ並んでいてもよい。つまり、穴42はマトリクス状に並んでいなくてもよい。
【0060】
・カバー層44の材質、寸法、及び形状は、上記実施形態の例に限られない。例えば、カバー層44として、保護板41よりも短手方向の寸法が大きい薄板状のステンレス鋼を、保護板41にビス等で固定してもよい。
【0061】
・上記実施形態において、着磁材43は、穴42に位置すればよいため、穴42と同一の形状に限らない。例えば、図12に示すように、正方形の穴42に円形の着磁材43が嵌め込まれていてもよい。また、図12に示すように、1つの保護板41において、着磁材43の形状や寸法は統一されていなくてもよい。
【0062】
・上記実施形態において図12に示すように、着磁材43はすべての穴42の内部に存在しなくてもよい。つまり、一部の穴42の内部が空隙であってもよい。
・走行用磁気誘導体40の製造方法は、上記実施形態の例に限られない。例えば、保護板41、着磁材43及びカバー層44を作製する順序は、この順番でなくてもよい。
【0063】
<付記>
上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(1)
自走移動体の走行路面上に設置され、前記自走移動体の走行路を案内するための走行用磁気誘導体であって、
非磁性材料製の保護板と、磁性材製の着磁材と、を備え、
前記保護板は、前記走行路面上に設置したときに露出する主面である第1主面と、当該第1主面に対して窪んだ穴を有し、
前記着磁材は、前記穴の内部に位置している走行用磁気誘導体。
【0064】
(2)
前記着磁材は、前記第1主面に対して前記穴の外側に突出していない(1)に記載の走行用磁気誘導体。
【0065】
(3)
前記穴は、前記第1主面及び前記第1主面とは反対の第2主面の双方において開口する貫通穴であり、
前記第2主面に張り付けられ、且つ前記穴の前記第2主面側の開口を塞ぐ、カバー層をさらに備える(1)又は(2)に記載の走行用磁気誘導体。
【0066】
(4)
前記保護板の厚さは、1mm以上1.5mm以下である(1)~(3)に記載の走行用磁気誘導体。
【0067】
(5)
自走移動体の走行路面上に設置され、前記自走移動体の走行路を案内するための走行用磁気誘導体と、
前記走行用磁気誘導体の磁気を検出して、前記走行用磁気誘導体に沿って走行する自走移動体と、
を備え、
前記自走移動体は、走行用の車輪を有し、
前記走行用磁気誘導体は、非磁性材料製の保護板と、磁性材製の着磁材と、を備え、
前記保護板は、前記走行路面上に設置したときに露出する主面である第1主面と、前記第1主面に対して窪んだ穴を有し、
前記着磁材は、前記穴の内部に位置しており、
前記第1主面に直交する方向で平面視したときに前記穴の開口縁上の2点を結んだ線分のうち、最も長い前記線分を第1仮想線とし、
前記第1仮想線の長さを「L」、前記第1主面と前記着磁材における前記第1主面側の表面との段差の幅を「WS」、前記車輪の半径を「r」とし、
前記第1主面に直交し且つ前記第1仮想線の中央点を通る第2仮想線上の特定点を中心とし、前記特定点を中心とする半径rの円が前記第1仮想線の両端を通過していると仮定した状態で、前記第1仮想線の一端及び前記特定点を通る第3仮想線と前記第2仮想線とが成す鋭角を「θ」としたとき、
L≦2r
且つWS≧r-(r×cosθ)
の関係を満たす自走移動体システム。
【0068】
(6)
走行路面上に設置された磁気テープ、をさらに備え、
前記自走移動体は、前記車輪の回転軸が延びる方向に一対の前記車輪を有し、
前記磁気テープ及び前記走行用磁気誘導体は、前記走行路に沿って線状に延びており、
前記走行路は、複数に分岐した分岐点を有し、
一対の前記車輪の間隔を車輪幅としたとき、
前記走行用磁気誘導体は、前記走行路上の前記分岐点を中心として、前記車輪幅の長さを半径とする円の範囲内に位置している(5)に記載の自走移動体システム。
【0069】
(7)
走行路面上に設置された磁気テープ、をさらに備え、
前記自走移動体は、前記回転軸が延びる方向に一対の前記車輪を有し、
前記磁気テープ及び前記走行用磁気誘導体は、前記走行路に沿って線状に延びており、
前記走行路は、途中に屈曲した箇所を有し、
前記走行用磁気誘導体は、前記走行路上の屈曲した箇所に位置している(5)又は(6)に記載の自走移動体システム。
【符号の説明】
【0070】
10…自走移動体システム
20…自走移動体
22…車輪
30…走行路
31…分岐点
32…磁気テープ
40…走行用磁気誘導体
41…保護板
42…穴
43…着磁材
44…カバー層
r…半径
θ…角度
L…長さ
TB…厚さ
WS…幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12