(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020964
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】セラミック製置物
(51)【国際特許分類】
B01J 35/39 20240101AFI20240207BHJP
A61L 9/00 20060101ALI20240207BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
B01J35/02 J
A61L9/00 C
A61L9/01 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123542
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】501095576
【氏名又は名称】株式会社大慶
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 義久
【テーマコード(参考)】
4C180
4G169
【Fターム(参考)】
4C180AA02
4C180BB08
4C180CC03
4C180CC12
4C180DD04
4C180EA34X
4C180EB22Y
4C180EB46Y
4C180HH15
4C180HH19
4G169AA03
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA13A
4G169BA48A
4G169BC29A
4G169CA10
4G169CA11
4G169CA17
4G169DA05
4G169EA08
4G169HA02
4G169HB01
4G169HC02
4G169HC29
4G169HE03
4G169HF02
4G169HF03
(57)【要約】
【課題】 金属イオン担持酸化チタン粒子からなる光触媒を利用しつつ、セラミック製置物の表面に吹き付けた場合でも、光触媒が容易に剥がれないようにすること及び空気浄化能力の大きいセラミック製置物を提供すること。
【解決手段】
ランプシェードとして機能するセラミック製の基体2と、基体2を載置でき中央に光源3を設けた基体載置皿4からなるセラミック製ランプ1であって、基体2の下部側面には直径3mm程度の吸気口5が多数設けられ、上部には直径3mm程度の排気口6が一つ設けられ、基体2の内面には上下方向に縞状の溝7が設けられ、溝7を含む内面全部に対して、金属イオン担持酸化チタン粒子からなる光触媒を含む塗膜が形成されている。
塗膜は、光源3からの光を受けることによって、空気中に含まれる有害化学物質を水や二酸化炭素に分解するので、基体2の内面全体が光触媒反応表面として機能する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
露出結晶面のうち酸化反応面に遷移金属イオンが面選択的に担持されている金属イオン担持酸化チタン粒子からなる光触媒を含む塗膜が形成され、空気と接触する光触媒反応表面を有するセラミック製の基体を備えており、
前記塗膜は、前記光触媒とバインダーとニカワ又はゼラチンとを配合したものである
ことを特徴とするセラミック製置物。
【請求項2】
前記光触媒反応表面は、縞状、格子状又は所定形状の溝を有している
ことを特徴とする請求項1に記載のセラミック製置物。
【請求項3】
前記基体は、下部に吸気口、上部に排気口を設けたランプシェードであり、
前記基体の内面に前記光触媒反応表面が設けられているとともに、
前記基体の内部に可視光を放射する光源が設けられ、ランプとして機能する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のセラミック製置物。
【請求項4】
前記基体は表面側に装飾を施した装飾体であり、
前記基体の裏面側に前記光触媒反応表面が設けられている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のセラミック製置物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に可視光応答型の酸化チタン粒子からなる光触媒粉末を含有する塗料を塗布し、通常の生活空間における光源を効率よく利用して、有害化学物質を分解し室内の空気を浄化することができるセラミック製置物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二酸化チタンの微粉末を薄膜とした光触媒を基体表面に形成し、紫外線照射時の高い酸化力を有機化合物等の分解に利用した各種の浄化装置が開発されている。
しかし、従来の光触媒は、紫外線領域の波長による励起で有機化合物等を分解しているため、一般的な光源からの紫外光照射では特性的に不十分であり、紫外ランプを使用する場合には、コスト高となる上に人体に害を及ぼす危険性がある等の問題を有していた。
そして、特許文献1(特開2004-663号公報)には、二酸化チタンの薄膜からなる光触媒(2)を担持した基体(1)と、可視光及び波長360~400nmの紫外線を放射する発光ダイオード(3)とを備えているセラミック等の材料で形成されている置物形の空気浄化装置が記載されている(特に、段落0045~0046及び
図3を参照)。
また、特許文献2(特開2009-134961号公報)には、通常の可視光光源を使用することにより光触媒が励起され、電気スタンドの設置された屋内の脱臭、汚れ物質を分解する効果を得ることができるシェードであって、シェードの内面及び外面の少なくとも一部に、可視光応答型酸化タングステン光触媒粉末を具備する塗料が塗布される点、シェードの素材には、樹脂、繊維、セラミック、和紙等を使用できる点が記載されている(特に、段落0007~0009及び
図1を参照)。
【0003】
しかし、特許文献1の空気浄化装置は、二酸化チタンの薄膜からなる光触媒(2)を利用しつつ、発光ダイオード(3)から放射される近紫外線を有効に利用するものであり(段落0014を参照)、特許文献2のシェードは、二酸化チタン粒子からなる光触媒粉末とは異なる、可視光応答型酸化タングステン光触媒粉末を具備する塗料を使用するものであって、塗料を入手することが容易ではない。
そこで、本発明者は、酸化チタン粒子からなる光触媒でありながら、通常の生活空間における光源下でも高い触媒活性を発揮することができる金属イオン担持酸化チタン粒子が開発されていることを知り(特許文献3:特許第5591683号公報)、特許権者の許諾を受けた上で、この金属イオン担持酸化チタン粒子からなる光触媒を利用したセラミック製置物の開発に着手した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-663号公報
【特許文献2】特開2009-134961号公報
【特許文献3】特許第5591683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、この金属イオン担持酸化チタン粒子からなる光触媒を、陶磁器等からなるセラミック製置物の表面に吹き付けた場合、耐久性が非常に短く布などで拭くとすぐに剥がれてしまうという難点があった。また、通常のセラミック製置物の表面に、この光触媒を吹き付けた場合は、広い部屋の空気を浄化しきれない可能性があることに気づいた。
本発明は、このような問題点を解決しようとするものであり、金属イオン担持酸化チタン粒子からなる光触媒を利用しつつ、セラミック製置物の表面に吹き付けた場合でも、その表面から光触媒を剥がれにくくすることが第1の課題である。
また、通常のセラミック製置物とみかけ上の大きさは変わらなくても、通常のセラミック製置物に金属イオン担持酸化チタン粒子からなる光触媒を吹き付けたものよりも、空気浄化能力の大きいセラミック製置物を提供することが第2の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明のセラミック製置物は、
露出結晶面のうち酸化反応面に遷移金属イオンが面選択的に担持されている金属イオン担持酸化チタン粒子からなる光触媒を含む塗膜が形成され、空気と接触する光触媒反応表面を有するセラミック製の基体を備えており、
前記塗膜は、前記光触媒とバインダーとニカワ又はゼラチンとを配合したものであることを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1記載のセラミック製置物において、
前記光触媒反応表面は、縞状、格子状又は所定形状の溝を有していることを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載のセラミック製置物において、
前記基体は、下部に吸気口、上部に排気口を設けたランプシェードであり、
前記基体の内面に前記光触媒反応表面が設けられているとともに、
前記基体の内部に可視光を放射する光源が設けられ、ランプとして機能することを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項1又は2記載のセラミック製置物において、
前記基体は表面側に装飾を施した装飾体であり、
前記基体の裏面側に前記光触媒反応表面が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明のセラミック製置物は、金属イオン担持酸化チタン粒子からなる光触媒を含む塗膜が形成され、空気と接触する光触媒反応表面を有するセラミック製の基体を備えており、塗膜は光触媒とバインダーとニカワ又はゼラチンとを配合したものとなっているため、光触媒反応表面に形成されている光触媒を含む塗膜の耐久性及び接着性が向上し、布などで拭いても光触媒反応表面から光触媒を剥がれにくくすることができる。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、請求項1に係る発明のセラミック製置物による効果に加えて、光触媒反応表面は縞状、格子状又は所定形状の溝を有しているので、光触媒反応表面の表面積を拡大でき、溝の無い光触媒反応表面に光触媒を含む塗膜を形成した場合よりも空気浄化能力の大きいセラミック製置物を提供することができる。
【0012】
請求項3に係る発明によれば、請求項1又は2に係る発明のセラミック製置物による効果に加えて、基体が下部に吸気口、上部に排気口を設けたランプシェードであり、基体の内面に光触媒反応表面が設けられているとともに、基体の内部に可視光を放射する光源が設けられているので、空気浄化能力のあるランプを提供することができる。
【0013】
請求項4に係る発明によれば、請求項1又は2に係る発明のセラミック製置物による効果に加えて、基体が表面側に装飾を施した装飾体であり、基体の裏面側に光触媒反応表面が設けられているので、通常の室内照明の下で空気浄化能力を発揮するセラミック製装飾体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1に係るセラミック製ランプの断面図。
【
図3】光触媒反応表面に設ける溝の効果確認に使用した磁器製の板の写真。
【
図4】光触媒反応表面に設ける溝の効果確認で得られた結果のグラフ。
【
図5】実施例2に係るセラミック製ランプの断面図。
【
図6】実施例3に係るセラミック製装飾体を裏側からみた斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施例によって本発明の実施形態を説明する。
【実施例0016】
図1は実施例1に係るセラミック製ランプの断面図、
図2は実施例1に係るセラミック製ランプの写真である。
図1及び
図2に示すとおり、実施例1に係るセラミック製ランプ1は、ランプシェードとして機能するセラミック製の基体2と、基体2を載置でき中央に光源3を設けた基体載置皿4からなる。
基体2は、二酸化ケイ素(SiO
2)を10~40重量%、酸化カルシウム(CaO)を15~30重量%、五酸化二リン(P
2O
5)を8~20重量%、アルミナ(Al
2O
3)を7~20重量%、酸化カリウム(K
2O)を1~4重量%、酸化ナトリウム(Na
2O)を0.1~1重量%配合した陶磁器原料を成型した後、焼成して製造された磁器製である。
基体2の下部側面には直径3mm程度の丸い吸気口5が多数設けられ、上部には直径3mm程度の丸い排気口6が一つ設けられており、吸気口5から入った空気が光源3の熱で上昇し、排気口6から排出され周囲の空気が循環する様になっている。
また、基体2の高さは約12cm、下部の直径は約10cmであり、内面には
図2に示すように、上下方向に縞状の溝7が設けられ、溝7を含む内面全部に対して、特許文献3(特許第5591683号公報)に記載されている金属イオン担持酸化チタン粒子からなる光触媒を含む塗膜が形成されている。
そして、この塗膜が光源3からの光を受けることによって、空気中に含まれる有害化学物質を水や二酸化炭素に分解することができるので、基体2の内面全体が光触媒反応表面として機能する。
さらに、基体2の溝7が設けられている部分は薄いため、光源3から発せられた光が良く透過し、逆に基体2の溝7がない部分は厚いため、光源3から発せられた光が少しだけ透過する。それ故、レリーフ模様が浮き上がり、美しく見栄えのよいランプとなる。
【0017】
光源3は、波長400~600nmの波長域から選択した波長(一つでも良いし複数でも良い)の光を放射するLEDランプである。そして、実施例1で利用する光触媒は、特許文献3の段落0051に記載されているように、紫外線域から可視光線域までの広い波長範囲に応答性を有し、太陽光や白熱灯、蛍光灯等の通常の生活空間における光を吸収して、高い触媒活性を発揮することができるため、室内などの低照度環境でも高いガス分解性能や抗菌作用を示し、人体に害を及ぼす危険性のない可視光を放射するLEDランプを用いるにもかかわらず十分な空気浄化能力のあるランプを提供することができる。
また、基体載置皿4は、基体2を載置可能な円形状の平坦部8、平坦部8の中央に設けられた光源3、平坦部8の周囲を囲む鍔部9及び底面に設けた3つ以上の脚部10を有しており、平坦部8には光源3へ電力を供給する電源コード11を通す穴(図示せず)が設けてあり、電源コード11は平坦部8の穴を通過して電源プラグ12に接続されている。
【0018】
金属イオン担持酸化チタン粒子は、酸化チタン粒子が有している露出結晶面のうちの酸化反応面に遷移金属イオンが面選択的に担持されているものであり、基体2の内面に形成される塗膜は、アルコール系の溶媒に、その金属イオン担持酸化チタン粒子と、バインダーとしての四フッ化エチレン系樹脂と、ニカワ又はゼラチンとを配合した塗料を吹き付けた後、溶媒を蒸発させることによって形成される。
なお、塗料中における溶媒の配合率は20~70%、金属イオン担持酸化チタン粒子の配合率は1~10%、四フッ化エチレン系樹脂の配合率は2~50%、ニカワ又はゼラチンの配合率は10~50%である。そして、溶媒を蒸発させた後における金属イオン担持酸化チタン粒子及び四フッ化エチレン系樹脂に対するニカワ又はゼラチンの重量比は、0.5倍~3倍の範囲から選択すると良い。
【0019】
図3は、光触媒反応表面に設ける溝の効果確認に使用した磁器製の板の写真である。
この板の縦横の長さ及び厚さは5cm×5cm×1cmであり、表面には8mm間隔で幅2mm、深さ1.5mmの格子状の溝が設けられている。また、この板以外に同じ材質及び大きさで表面に溝の無い磁器製の板を用意した。
そして、以下では、前者の板を溝板、後者の板を平板と呼ぶこととする。
図4は、光触媒反応表面に設ける溝の効果確認で得られた結果のグラフである。
図4(A)は、表面に上記の光触媒を含む塗膜を形成した平板(#1)及び溝板(#2)を、容積125cc、当初アセトアルデヒド濃度が500ppmの閉鎖空間に封入し、時間経過に伴って変化していくアセトアルデヒド濃度を計測した結果のグラフであり、
図4(B)は、同じ閉鎖空間において二酸化炭素濃度を計測した結果を示すグラフである。
図4(A)から分かるように、平板(#1)を封入した閉鎖空間においては、9時間後及び24時間後のアセトアルデヒド濃度が、それぞれ416ppm及び344ppmであったのに対して、溝板(#2)を封入した閉鎖空間においては、9時間後及び24時間後のアセトアルデヒド濃度が、それぞれ337ppm及び191ppmであった。
また、
図4(B)から分かるように、平板(#1)を封入した閉鎖空間においては、9時間後及び24時間後の二酸化炭素濃度が、それぞれ14ppm及び36ppmであったのに対して、溝板(#2)を封入した閉鎖空間においては、9時間後及び24時間後の二酸化炭素濃度が、それぞれ89ppm及び152ppmであった。
これらの結果から見て、溝板(#2)は平板(#1)と比べて約2倍のアセトアルデヒド濃度低減効果があり、約4倍の二酸化炭素変換能力があることが分かる。