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特開2024-20970アンテナ劣化判断装置及びアンテナ劣化判断プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020970
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】アンテナ劣化判断装置及びアンテナ劣化判断プログラム
(51)【国際特許分類】
   H01Q 3/08 20060101AFI20240207BHJP
【FI】
H01Q3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123548
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】東 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】前田 敏行
【テーマコード(参考)】
5J021
【Fターム(参考)】
5J021AA01
5J021AB07
5J021BA01
5J021DA02
5J021DA04
5J021FA13
5J021GA02
5J021HA09
5J021JA10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】回転機構の劣化発生の判断を遅らせないために、主観的な閾値設定を行なわず客観的な判断基準に基づいて、劣化発生とランダムな振動環境の時間変化とを区別するアンテナ装置の回転機構のアンテナ劣化判断装置を提供する。
【解決手段】アンテナ方向制御システムSにおいて、アンテナ劣化判断装置は、アンテナ装置Aの回転機構の駆動につれて回転される測定用振動センサMから、アンテナ装置Aの振動特性の情報を取得する測定用振動情報取得部1と、アンテナ装置Aの回転機構の駆動によらず固定される基準点振動センサRから、アンテナ装置Aの振動特性の情報を取得する基準点振動情報取得部4と、測定用振動情報取得部1が情報を取得したアンテナ装置Aの振動特性と、基準点振動情報取得部4が情報を取得したアンテナ装置Aの振動特性と、の間の比率に基づいて、アンテナ装置Aの回転機構の劣化状況を判断する回転機構劣化判断部5と、を備える。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナ装置の回転機構の駆動につれて回転される測定用振動センサから、前記アンテナ装置の振動特性の情報を取得する測定用振動情報取得部と、
前記アンテナ装置の回転機構の駆動によらず固定される基準点振動センサから、前記アンテナ装置の振動特性の情報を取得する基準点振動情報取得部と、
前記測定用振動情報取得部が情報を取得した前記アンテナ装置の振動特性と、前記基準点振動情報取得部が情報を取得した前記アンテナ装置の振動特性と、の間の比率に基づいて、前記アンテナ装置の回転機構の劣化状況を判断する回転機構劣化判断部と、
を備えることを特徴とするアンテナ劣化判断装置。
【請求項2】
前記回転機構劣化判断部は、前記測定用振動情報取得部が情報を取得した前記アンテナ装置の振動特性と、前記基準点振動情報取得部が情報を取得した前記アンテナ装置の振動特性と、の間の比率が、前記アンテナ装置の回転機構の劣化発生前に予め測定された比率と異なるようになったときに、前記アンテナ装置の回転機構の劣化発生を判断する
ことを特徴とする、請求項1に記載のアンテナ劣化判断装置。
【請求項3】
前記測定用振動情報取得部及び前記基準点振動情報取得部は、前記測定用振動センサ及び前記基準点振動センサから、前記アンテナ装置の振動強度の情報を取得し、
前記回転機構劣化判断部は、前記基準点振動情報取得部が情報を取得した前記アンテナ装置の振動強度に対する、前記測定用振動情報取得部が情報を取得した前記アンテナ装置の振動強度の比率が、前記アンテナ装置の回転機構の劣化発生前に予め測定された比率より小さくなったときに、前記アンテナ装置の回転機構の劣化発生を判断する
ことを特徴とする、請求項2に記載のアンテナ劣化判断装置。
【請求項4】
前記測定用振動情報取得部及び前記基準点振動情報取得部は、前記測定用振動センサ及び前記基準点振動センサから、前記アンテナ装置の振動周波数の情報を取得し、
前記回転機構劣化判断部は、前記基準点振動情報取得部が情報を取得した前記アンテナ装置の振動周波数に対する、前記測定用振動情報取得部が情報を取得した前記アンテナ装置の振動周波数の比率が、前記アンテナ装置の回転機構の劣化発生前に予め測定された比率より小さくなったときに、前記アンテナ装置の回転機構の劣化発生を判断する
ことを特徴とする、請求項2又は3に記載のアンテナ劣化判断装置。
【請求項5】
請求項1に記載のアンテナ劣化判断装置が備える各処理部が行なう各処理ステップを、コンピュータに実行させるためのアンテナ劣化判断プログラム。
【請求項6】
請求項1に記載のアンテナ劣化判断装置と、前記アンテナ装置と、前記測定用振動センサと、前記基準点振動センサと、を備えることを特徴とするアンテナ劣化判断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アンテナ装置の回転機構の劣化状況を判断する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶等の振動下のようにランダムな振動下において、船舶等に搭載された衛星通信装置等について、アンテナ方向を制御する技術が、特許文献1等に開示されている。
【0003】
従来技術のアンテナ装置の構成を図1に示す。アンテナ装置Aは、船舶Vに搭載され、方位方向軸、仰角方向軸、クロス仰角方向軸及び測定用振動センサMを備える。測定用振動センサMは、加速度センサ等であり、アンテナ装置Aの振動特性(強度又は周波数等)を高精度に測定するために、アンテナ装置Aの先端部に設置される。
【0004】
従来技術のアンテナ方向制御システムの構成を図2に示す。アンテナ方向制御システムSは、アンテナ装置A及びアンテナ方向制御装置Cを備える。アンテナ方向制御装置Cは、測定用振動情報取得部1、アンテナ方向制御部2及び回転機構劣化予想部3を備える。
【0005】
測定用振動情報取得部1は、測定用振動センサMから、アンテナ装置Aの振動特性(強度又は周波数等)の情報を取得する。アンテナ方向制御部2は、測定用振動情報取得部1が情報を取得したアンテナ装置Aの振動特性(強度又は周波数等)と、船舶Vの位置情報と、通信衛星の位置情報と、に基づいて、アンテナ装置Aのアンテナ方向を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-060285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸又はクロス仰角方向軸について、ベアリングの劣化又は駆動ベルトの緩み等の経年劣化が発生することがあり得る。そこで、測定用振動センサMを用いて、本来の目的と異なるものの、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸又はクロス仰角方向軸の劣化状況の可能性を予想することが考えられる。
【0008】
従来技術のアンテナ劣化予想処理の具体例を図3、4に示す。回転機構劣化予想部3は、測定用振動情報取得部1が情報を取得したアンテナ装置Aの振動特性に基づいて、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸又はクロス仰角方向軸の劣化状況の可能性を予想する。
【0009】
図3では、回転機構劣化予想部3は、測定用振動情報取得部1が情報を取得したアンテナ装置Aの振動強度について、強度閾値を超えた累積時間が時間閾値を超えないときに、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸及びクロス仰角方向軸の劣化未発生を判断する。一方で、回転機構劣化予想部3は、測定用振動情報取得部1が情報を取得したアンテナ装置Aの振動強度について、強度閾値を超えた累積時間が時間閾値を超えたときに、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸又はクロス仰角方向軸の劣化発生の可能性を予想する。
【0010】
しかし、回転機構劣化予想部3は、測定用振動情報取得部1が情報を取得したアンテナ装置Aの振動強度について、強度閾値及び時間閾値を適切に設定しなければ、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸又はクロス仰角方向軸の劣化発生の可能性の予想を遅らせ得る。
【0011】
図4では、回転機構劣化予想部3は、測定用振動情報取得部1が情報を取得したアンテナ装置Aの振動強度について、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸及びクロス仰角方向軸の劣化発生前に予め測定された振動強度より小さくなったときに、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸又はクロス仰角方向軸の劣化発生の可能性を予想する。あるいは、回転機構劣化予想部3は、測定用振動情報取得部1が情報を取得したアンテナ装置Aの振動周波数について、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸及びクロス仰角方向軸の劣化発生前に予め測定された振動周波数より低くなったときに、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸又はクロス仰角方向軸の劣化発生の可能性を予想する。
【0012】
つまり、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸又はクロス仰角方向軸の劣化発生時には、アンテナ装置Aの基台から測定用振動センサMへの振動伝達経路が、劣化位置では遮断されるため、測定用振動情報取得部1が情報を取得したアンテナ装置Aの振動強度が、より小さくなると考えられる。そして、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸又はクロス仰角方向軸の劣化発生時には、アンテナ装置Aの基台から測定用振動センサMへの振動伝達経路が、実効的には剛性を下げるため、測定用振動情報取得部1が情報を取得したアンテナ装置Aの振動周波数が、より低くなると考えられる。
【0013】
しかし、回転機構劣化予想部3は、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸又はクロス仰角方向軸の劣化発生の可能性と、船舶Vの振動環境の時間変化(強度が小さくなる変化又は周波数が低くなる変化等)と、を区別することができないため、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸又はクロス仰角方向軸の劣化発生の可能性の予想を遅らせ得る。
【0014】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、アンテナ装置の回転機構の劣化発生の判断を遅らせないために、主観的な閾値設定を行なわず客観的な判断基準に基づいて、アンテナ装置の回転機構の劣化発生とランダムな振動環境の時間変化とを区別することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するために、アンテナ装置の回転機構の駆動につれて回転される測定用振動センサのみならず、アンテナ装置の回転機構の駆動によらず固定される基準点振動センサを設置する。ここで、アンテナ装置の回転機構の劣化発生時にも、アンテナ装置の基台から基準点振動センサへの振動伝達経路が、劣化位置を含まないとともに、実効的には剛性を変えないため、基準点振動センサから情報を取得したアンテナ装置の振動特性が、変わらないと考えられる(振動環境は同一条件)。そこで、測定用振動センサから情報を取得したアンテナ装置の振動特性と、基準点振動センサから情報を取得したアンテナ装置の振動特性と、の間の比率に基づいて、アンテナ装置の回転機構の劣化状況を判断する。
【0016】
具体的には、本開示は、アンテナ装置の回転機構の駆動につれて回転される測定用振動センサから、前記アンテナ装置の振動特性の情報を取得する測定用振動情報取得部と、前記アンテナ装置の回転機構の駆動によらず固定される基準点振動センサから、前記アンテナ装置の振動特性の情報を取得する基準点振動情報取得部と、前記測定用振動情報取得部が情報を取得した前記アンテナ装置の振動特性と、前記基準点振動情報取得部が情報を取得した前記アンテナ装置の振動特性と、の間の比率に基づいて、前記アンテナ装置の回転機構の劣化状況を判断する回転機構劣化判断部と、を備えることを特徴とするアンテナ劣化判断装置である。
【0017】
この構成によれば、アンテナ装置の回転機構の劣化発生の判断を遅らせないために、基準点振動センサから情報を取得したアンテナ装置の振動特性を客観的基準として、測定点振動センサから情報を取得したアンテナ装置の振動特性に基づいて、アンテナ装置の回転機構の劣化発生とランダムな振動環境の時間変化とを区別することができる。
【0018】
また、本開示は、前記回転機構劣化判断部は、前記測定用振動情報取得部が情報を取得した前記アンテナ装置の振動特性と、前記基準点振動情報取得部が情報を取得した前記アンテナ装置の振動特性と、の間の比率が、前記アンテナ装置の回転機構の劣化発生前に予め測定された比率と異なるようになったときに、前記アンテナ装置の回転機構の劣化発生を判断することを特徴とするアンテナ劣化判断装置である。
【0019】
この構成によれば、測定点振動センサから情報を取得したアンテナ装置の振動特性と、基準点振動センサから情報を取得したアンテナ装置の振動特性と、の間の比率について、(1)アンテナ装置の回転機構の劣化発生前に予め測定された比率と異なるようになったときに、アンテナ装置の回転機構の劣化発生を判断することができ、(2)アンテナ装置の回転機構の劣化発生前に予め測定された比率と等しいままであったときに、ランダムな振動環境の時間変化を判断することができ、(1)と(2)とを区別することができる。
【0020】
また、本開示は、前記測定用振動情報取得部及び前記基準点振動情報取得部は、前記測定用振動センサ及び前記基準点振動センサから、前記アンテナ装置の振動強度の情報を取得し、前記回転機構劣化判断部は、前記基準点振動情報取得部が情報を取得した前記アンテナ装置の振動強度に対する、前記測定用振動情報取得部が情報を取得した前記アンテナ装置の振動強度の比率が、前記アンテナ装置の回転機構の劣化発生前に予め測定された比率より小さくなったときに、前記アンテナ装置の回転機構の劣化発生を判断することを特徴とするアンテナ劣化判断装置である。
【0021】
この構成によれば、アンテナ装置の回転機構の劣化発生の判断を遅らせないために、基準点振動センサから情報を取得したアンテナ装置の振動強度を客観的基準として、測定点振動センサから情報を取得したアンテナ装置の振動強度に基づいて、アンテナ装置の回転機構の劣化発生とランダムな振動環境の時間変化とを区別することができる。
【0022】
また、本開示は、前記測定用振動情報取得部及び前記基準点振動情報取得部は、前記測定用振動センサ及び前記基準点振動センサから、前記アンテナ装置の振動周波数の情報を取得し、前記回転機構劣化判断部は、前記基準点振動情報取得部が情報を取得した前記アンテナ装置の振動周波数に対する、前記測定用振動情報取得部が情報を取得した前記アンテナ装置の振動周波数の比率が、前記アンテナ装置の回転機構の劣化発生前に予め測定された比率より小さくなったときに、前記アンテナ装置の回転機構の劣化発生を判断することを特徴とするアンテナ劣化判断装置である。
【0023】
この構成によれば、アンテナ装置の回転機構の劣化発生の判断を遅らせないために、基準点振動センサから情報を取得したアンテナ装置の振動周波数を客観的基準として、測定点振動センサから情報を取得したアンテナ装置の振動周波数に基づいて、アンテナ装置の回転機構の劣化発生とランダムな振動環境の時間変化とを区別することができる。
【0024】
また、本開示は、以上に記載のアンテナ劣化判断装置が備える各処理部が行なう各処理ステップを、コンピュータに実行させるためのアンテナ劣化判断プログラムである。
【0025】
この構成によれば、以上に記載の効果を有するプログラムを提供することができる。
【0026】
また、本開示は、以上に記載のアンテナ劣化判断装置と、前記アンテナ装置と、前記測定用振動センサと、前記基準点振動センサと、を備えることを特徴とするアンテナ劣化判断システムである。
【0027】
この構成によれば、以上に記載の効果を有するシステムを提供することができる。
【0028】
なお、上記各開示の発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0029】
このように、本開示は、アンテナ装置の回転機構の劣化発生の判断を遅らせないために、主観的な閾値設定を行なわず客観的な判断基準に基づいて、アンテナ装置の回転機構の劣化発生とランダムな振動環境の時間変化とを区別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】従来技術のアンテナ装置の構成を示す図である。
図2】従来技術のアンテナ方向制御システムの構成を示す図である。
図3】従来技術のアンテナ劣化予想処理の具体例を示す図である。
図4】従来技術のアンテナ劣化予想処理の具体例を示す図である。
図5】本開示のアンテナ装置の構成を示す図である。
図6】本開示のアンテナ方向制御システムの構成を示す図である。
図7】本開示のアンテナ劣化判断処理の手順を示す図である。
図8】本開示のアンテナ劣化判断処理の具体例を示す図である。
図9】本開示のアンテナ劣化判断処理の具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0032】
(本開示のアンテナ劣化判断処理の手順)
本開示のアンテナ装置の構成を図5に示す。アンテナ装置Aは、船舶Vに搭載され、方位方向軸、仰角方向軸、クロス仰角方向軸、測定用振動センサM及び基準点振動センサRを備える。測定用振動センサMは、加速度センサ等であり、アンテナ装置Aの振動特性(強度又は周波数等)を高精度に測定するために、アンテナ装置Aの先端部に設置される。基準点振動センサRは、加速度センサ等であり、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸及びクロス仰角方向軸の駆動によらず固定されるように、アンテナ装置Aの基台近傍に設置される。基準点振動センサRは、アンテナ装置Aの方位方向軸の駆動機構の下側に設置されることが望ましいが、アンテナ装置Aの基台近傍に設置されるならば、アンテナ装置Aの方位方向軸の駆動機構の上側に設置されることもあり得る。
【0033】
本開示のアンテナ方向制御システムの構成を図6に示す。アンテナ方向制御システムSは、アンテナ装置A及びアンテナ方向制御装置Cを備える。アンテナ方向制御装置Cは、測定用振動情報取得部1、基準点振動情報取得部4、アンテナ方向制御部2及び回転機構劣化判断部5を備える。アンテナ方向制御装置Cは、図7に示すアンテナ劣化判断プログラムをコンピュータにインストールすることにより、実現することができる。
【0034】
本開示のアンテナ劣化判断処理の手順を図7に示す。測定用振動情報取得部1は、測定用振動センサMから、アンテナ装置Aの振動特性(強度又は周波数等)の情報を取得する(ステップS1)。基準点振動情報取得部4は、基準点振動センサRから、アンテナ装置Aの振動特性(強度又は周波数等)の情報を取得する(ステップS2)。
【0035】
アンテナ方向制御部2は、測定用振動情報取得部1が情報を取得したアンテナ装置Aの振動特性(強度又は周波数等)と、船舶Vの位置情報と、通信衛星の位置情報と、に基づいて、アンテナ装置Aのアンテナ方向を制御する(従来技術とほぼ同様)。ところで、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸又はクロス仰角方向軸について、ベアリングの劣化又は駆動ベルトの緩み等の経年劣化が発生することがあり得る。
【0036】
回転機構劣化判断部5は、測定用振動情報取得部1が情報を取得したアンテナ装置Aの振動特性(強度又は周波数等)と、基準点振動情報取得部4が情報を取得したアンテナ装置Aの振動特性(強度又は周波数等)と、の間の比率に基づいて、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸又はクロス仰角方向軸の劣化状況を判断する(ステップS3~)。
【0037】
まず、回転機構劣化判断部5は、測定用振動情報取得部1が情報を取得したアンテナ装置Aの振動特性(強度又は周波数等)と、基準点振動情報取得部4が情報を取得したアンテナ装置Aの振動特性(強度又は周波数等)と、の間の比率を算出する(ステップS3)。
【0038】
そして、回転機構劣化判断部5は、ステップS3で算出した比率が、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸及びクロス仰角方向軸の劣化発生前に予め測定された比率と異なるようになったときに(ステップS4、NO)、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸又はクロス仰角方向軸の劣化発生を判断する(ステップS5)。
【0039】
一方で、回転機構劣化判断部5は、ステップS3で算出した比率が、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸及びクロス仰角方向軸の劣化発生前に予め測定された比率と等しいままであったときに(ステップS4、YES)、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸及びクロス仰角方向軸の劣化未発生を判断する(ステップS6)。
【0040】
つまり、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸又はクロス仰角方向軸の劣化発生時には、アンテナ装置Aの基台から測定用振動センサMへの振動伝達経路が、劣化位置では遮断されるため、測定用振動情報取得部1が情報を取得したアンテナ装置Aの振動強度が、より小さくなる(振動環境は同一条件)。そして、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸又はクロス仰角方向軸の劣化発生時には、アンテナ装置Aの基台から測定用振動センサMへの振動伝達経路が、実効的には剛性を下げるため、測定用振動情報取得部1が情報を取得したアンテナ装置Aの振動周波数が、より低くなる(振動環境は同一条件)。
【0041】
一方で、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸又はクロス仰角方向軸の劣化発生時にも、アンテナ装置Aの基台から基準点振動センサRへの振動伝達経路が、劣化位置を含まないため、基準点振動情報取得部4が情報を取得したアンテナ装置Aの振動強度が、変わらない(振動環境は同一条件)。そして、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸又はクロス仰角方向軸の劣化発生時にも、アンテナ装置Aの基台から基準点振動センサRへの振動伝達経路が、実効的には剛性を変えないため、基準点振動情報取得部4が情報を取得したアンテナ装置Aの振動周波数が、変わらない(振動環境は同一条件)。
【0042】
このように、アンテナ装置Aの回転機構の劣化発生の判断を遅らせないために、基準点振動センサRから情報を取得したアンテナ装置Aの振動特性を客観的基準として、測定点振動センサMから情報を取得したアンテナ装置Aの振動特性に基づいて、アンテナ装置Aの回転機構の劣化発生と船舶Vの振動環境の時間変化とを区別することができる。
【0043】
そして、測定点振動センサMから情報を取得したアンテナ装置Aの振動特性と、基準点振動センサRから情報を取得したアンテナ装置Aの振動特性と、の間の比率について、(1)アンテナ装置Aの回転機構の劣化発生前に予め測定された比率と異なるようになったときに、アンテナ装置Aの回転機構の劣化発生を判断することができ、(2)アンテナ装置Aの回転機構の劣化発生前に予め測定された比率と等しいままであったときに、船舶Vの振動環境の時間変化を判断することができ、(1)と(2)とを区別することができる。
【0044】
(本開示のアンテナ劣化判断処理の具体例)
本開示のアンテナ劣化判断処理の具体例を図8、9に示す。図8では、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸又はクロス仰角方向軸の劣化発生を判断している。図9では、船舶Vの振動環境の時間変化を判断している。つまり、両者の場合を区別している。
【0045】
図8、9の左上欄及び右上欄では、測定用振動情報取得部1は、測定用振動センサMから、アンテナ装置Aの振動強度及び振動周波数の情報を取得する(ステップS1)。図8、9の左下欄及び右下欄では、基準点振動情報取得部4は、基準点振動センサRから、アンテナ装置Aの振動強度及び振動周波数の情報を取得する(ステップS2)。
【0046】
図8、9では、回転機構劣化判断部5は、基準点振動情報取得部4が情報を取得したアンテナ装置Aの振動強度及び振動周波数に対する、測定用振動情報取得部1が情報を取得したアンテナ装置Aの振動強度及び振動周波数の比率を算出する(ステップS3)。
【0047】
図8、9の左上欄及び左下欄では、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸及びクロス仰角方向軸の劣化発生前において、ステップS3で算出された振動強度の比率は、3倍であり、ステップS3で算出された振動周波数の比率は、1倍であった。
【0048】
図8の右上欄及び右下欄では、現時点において、ステップS3で算出された振動強度の比率は、2倍であり、ステップS3で算出された振動周波数の比率は、0.5倍であった。つまり、現時点において、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸及びクロス仰角方向軸の劣化発生前と比べて、ステップS3で算出された振動強度の比率は、小さくなっており、ステップS3で算出された振動周波数の比率は、小さくなっている(ステップS4、NO)。よって、回転機構劣化判断部5は、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸又はクロス仰角方向軸の劣化発生を判断する(ステップS5)。
【0049】
図9の右上欄及び右下欄では、現時点において、ステップS3で算出された振動強度の比率は、3倍であり、ステップS3で算出された振動周波数の比率は、1倍であった。つまり、現時点において、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸及びクロス仰角方向軸の劣化発生前と比べて、ステップS3で算出された振動強度の比率は、等しくなっており、ステップS3で算出された振動周波数の比率は、等しくなっている(ステップS4、YES)。しかし、現時点において、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸及びクロス仰角方向軸の劣化発生前と比べて、ステップS1、S2で測定された振動強度は、小さくなっており、ステップS1、S2で測定された振動周波数は、低くなっている。よって、回転機構劣化判断部5は、船舶Vの振動環境の時間変化を判断する(ステップS6)。
【0050】
このように、アンテナ装置Aの回転機構の劣化発生の判断を遅らせないために、基準点振動センサRから情報を取得したアンテナ装置Aの振動強度を客観的基準として、測定点振動センサMから情報を取得したアンテナ装置Aの振動強度に基づいて、アンテナ装置Aの回転機構の劣化発生と船舶Vの振動環境の時間変化とを区別することができる。
【0051】
そして、アンテナ装置Aの回転機構の劣化発生の判断を遅らせないために、基準点振動センサRから情報を取得したアンテナ装置Aの振動周波数を客観的基準として、測定点振動センサMから情報を取得したアンテナ装置Aの振動周波数に基づいて、アンテナ装置Aの回転機構の劣化発生と船舶Vの振動環境の時間変化とを区別することができる。
【0052】
(変形例のアンテナ劣化判断処理の具体例)
本実施形態では、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸又はクロス仰角方向軸の劣化発生時には、アンテナ装置Aの基台から測定用振動センサMへの振動伝達経路が、劣化位置では遮断されるため、測定用振動情報取得部1が情報を取得したアンテナ装置Aの振動強度が、より小さくなっていた(船舶Vの振動環境は同一条件)。
【0053】
変形例として、アンテナ装置Aの方位方向軸、仰角方向軸又はクロス仰角方向軸の劣化発生時には、アンテナ装置Aの基台から測定用振動センサMへの振動伝達経路が、印加振動周波数と等しい固有振動周波数を有し、測定用振動情報取得部1が情報を取得したアンテナ装置Aの振動強度が、より大きくなってもよい(船舶Vの振動環境は同一条件)。
【0054】
本実施形態では、船舶Vのようにランダムな振動下において、船舶Vに搭載されたアンテナ装置Aについて、回転機構の劣化状況を判断していた。変形例として、工事現場のようにランダムな振動下において、アーム構造を有するショベルカーについて、回転機構の劣化状況を判断してもよい。あるいは、高層建築のようにランダムな振動下において、高層建築に搭載されたアンテナ装置について、回転機構の劣化状況を判断してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本開示のアンテナ劣化判断装置及びアンテナ劣化判断プログラムは、アンテナ装置又はショベルカー等の回転機構の劣化発生の判断を遅らせないために、主観的な閾値設定を行なわず客観的な判断基準に基づいて、アンテナ装置又はショベルカー等の回転機構の劣化発生とランダムな振動環境の時間変化とを区別することができる。
【符号の説明】
【0056】
V:船舶
A:アンテナ装置
M:測定用振動センサ
R:基準点振動センサ
S:アンテナ方向制御システム
C:アンテナ方向制御装置
1:測定用振動情報取得部
2:アンテナ方向制御部
3:回転機構劣化予想部
4:基準点振動情報取得部
5:回転機構劣化判断部
図1
図2
図3
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図5
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図8
図9