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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020991
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】ヘッドレスト
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/888 20180101AFI20240207BHJP
   B60N 2/42 20060101ALI20240207BHJP
   A47C 7/38 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
B60N2/888
B60N2/42
A47C7/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123592
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富田 直
(72)【発明者】
【氏名】小山 真
(72)【発明者】
【氏名】嶋貫 研人
(72)【発明者】
【氏名】梅本 和彦
(72)【発明者】
【氏名】西垣 英一
(72)【発明者】
【氏名】中川 稔章
(72)【発明者】
【氏名】筒井 正和
(72)【発明者】
【氏名】江村 陽平
(72)【発明者】
【氏名】茅野 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏和
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 芳信
【テーマコード(参考)】
3B084
3B087
【Fターム(参考)】
3B084DA02
3B084DB14
3B087CD03
3B087DC05
(57)【要約】
【課題】初期段階の小さな衝撃のエネルギーを効果的に吸収でき、且つ大きな外力であっても効果的にエネルギー吸収可能なヘッドレストを得る。
【解決手段】ヘッドレスト84は、負のポアソン比を有し外力により圧縮される圧縮基体108と、一対の板状とされて圧縮基体108を挟み込み外力により板厚方向に弾性的に湾曲する弾性板体106と、弾性板体106の一方に対し弾性板体106の幅方向の両側で固定されているヘッドレストフレーム86と、を有する。外力が相対的に小さい状態では弾性板体106の湾曲を主として衝撃のエネルギーを吸収し、外力が相対的に大きい状態では圧縮基体108の圧縮を主として衝撃のエネルギーを吸収する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負のポアソン比を有し外力により圧縮される圧縮基体と、
一対の板状とされて前記圧縮基体を挟み込み前記外力により板厚方向に弾性的に湾曲する弾性板体と、
前記弾性板体の一方に対し前記弾性板体の幅方向の両側で固定されているヘッドレストフレームと、
を有する、ヘッドレスト。
【請求項2】
前記圧縮基体は、シート材が所定の折位置で折り曲げられていることで圧縮可能な状態とされている請求項1に記載のヘッドレスト。
【請求項3】
前記圧縮基体を前記圧縮可能な状態よりも薄い状態で保持する保持部材と、
前記圧縮基体を前記圧縮可能な状態へ付勢する付勢部材と、
加速度を検知する検知部材と、
前記検知部材によって検知された前記加速度が所定値を超えている場合に前記保持部材による前記圧縮基体の保持を解除する解除部材と、
を有する請求項2に記載のヘッドレスト。
【請求項4】
前記弾性板体の一方は、ヘッドレスト前後方向と前記弾性板体により圧縮基体を挟み込んでいる方向とが一致する向きで前記ヘッドレストフレームに固定されている、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のヘッドレスト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヘッドレストに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、背当て上部のヘッドレスト部分の内部に設けられた空洞部と、発泡樹脂により形成されると共に空洞部の後方に配設され、座席の後方から加わるヘッドレスト部分への衝撃により崩壊して衝撃を吸収する衝撃吸収部材とを備える、乗物用座席のヘッドレスト構造が記載されている。
【0003】
特許文献2には、ヘッドレストフレームおよびロック側およびフリー側ヘッドレスト・スティが、所定の太さの長いパイプからの連続折り曲げ加工であり、衝撃エネルギー吸収フレームが、衝撃荷重で変形可能な所定の太さのロッド、ワイヤ、パイプなどを用い、衝撃荷重受けバーのそのフリー側ヘッドレスト・スティ側端に前下り傾斜で連続的に折り曲げられて前方に伸び、そのヘッドレストフレームのその左右の上端よりも上方にその衝撃荷重受けバーを突き出させてその支持アームでそのヘッドレストフレームのそのフリー側ヘッドレスト・スティ側に固定的に取り付けられる、自動車シートに用いるヘッドレストが記載されている。
【0004】
特許文献3には、車両用座席のシートバックの上端部に昇降可能に連結されるヘッドレストと、ヘッドレストのステー部材と、ステー部材のストレート部と、ストレート部の下端に所定の隙間を介して下方に対向配置される衝撃エネルギー吸収部材と、を備え、ヘッドレストへの後方から衝撃荷重によるストレート部の下方への押下げを衝撃エネルギー吸収部材の変形によって吸収する、車両用ヘッドレストへの衝撃吸収構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-86745号公報
【特許文献2】特開2012-232607号公報
【特許文献3】特開2020-45006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術では、発泡樹脂により形成される衝撃吸収部材を用いて衝撃を吸収する構造であるが、衝撃のエネルギーを吸収するための十分な荷重を得るには、発泡樹脂の発泡率を下げる必要があり、重量増を招く。
【0007】
引用文献2及び引用文献3に記載の技術では、衝撃のエネルギーを、エネルギー吸収部材の変形により吸収する構造である。このような構造においても、衝撃のエネルギーを吸収するための十分な荷重を得るには、エネルギー吸収部材を高剛性化する必要があり、重量増を招く。
【0008】
特に、車両等の乗物に搭載されているヘッドレストにおいては、乗員がヘッドレストに衝突した場合のエネルギー吸収を、限られたスペースで成すことが望まれる。
【0009】
また、エネルギー吸収部材の変形により衝撃のエネルギーを吸収する構造において、衝撃が作用した初期ではエネルギー吸収部材が弾性変形し、弾性域を超えた段階では、エネルギー吸収部材の塑性変形により衝撃のエネルギーを吸収することがある。この場合において、衝突初期の弾性域における荷重の立ち上がり、すなわちエネルギー吸収部材の変形量に対する荷重の大きさを抑制しつつ、衝撃のエネルギーを吸収することが望ましい。しかしながら、衝突初期における荷重の立ち上がりを抑制しつつ、塑性変形によりエネルギー吸収するための崩壊荷重を大きく確保し、エネルギー吸収することは難しい。
【0010】
本願の目的は、大型化を抑制しつつ、衝撃の初期段階の荷重の立ち上がりを小さくし、且つ効果的に衝撃のエネルギーを吸収可能なヘッドレストを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第一態様のヘッドレストは、負のポアソン比を有し外力により圧縮される圧縮基体と、 一対の板状とされて前記圧縮基体を挟み込み前記外力により板厚方向に弾性的に湾曲する弾性板体と、前記弾性板体の一方に対し前記弾性板体の幅方向の両側で固定されているヘッドレストフレームと、を有する。
【0012】
このヘッドレストでは、圧縮基体が一対の弾性板体によって挟み込まれている。圧縮基体は、負のポアソン比を有しており、外力が作用すると、この外力の方向に圧縮され、さらに、外力と直交する方向にも圧縮されることで、衝撃のエネルギーを吸収する。また、一対の弾性板体は、外力により板厚方向に湾曲することで、衝撃のエネルギーを吸収する。
【0013】
そして、このヘッドレストでは、ヘッドレストフレームが、弾性板体の一方に対し弾性板体の幅方向の両側で固定されている。弾性板体の他方に外力が作用すると、一対の弾性板体が弾性変形し、且つ、圧縮基体が圧縮され、これらによって衝撃のエネルギーが吸収される。特に、たとえば外力が相対的に小さい状態では弾性板体の湾曲を主としてエネルギー吸収し、外力が相対的に大きい状態では、圧縮基体の圧縮を主としてエネルギー吸収するように、弾性板体及び圧縮基体の物性を設定できる。これにより、外力が作用する初期段階の小さな外力に対して荷重の立ち上がりを抑制し、且つ大きな外力であっても効果的に衝撃のエネルギーを吸収可能である。
【0014】
しかも、負のポアソン比を有する圧縮基体を用いており、外力による衝撃のエネルギーを吸収するために、発泡樹脂の発泡率を下げたり、エネルギー吸収部材を高剛性化したりする必要がないため、ヘッドレストの大型化を抑制できる。
【0015】
第二態様では、第一態様において、前記圧縮基体は、シート材を所定の折位置で折り曲げられていることで圧縮可能な状態とされている。
【0016】
圧縮基体は、シート材を折り曲げて構成できるので、構造の簡素化及び低コスト化を図ることが可能である。
【0017】
第三態様では、第二態様において、前記圧縮基体を前記圧縮可能な状態よりも薄い状態で保持する保持部材と、前記圧縮基体を前記圧縮可能な状態へ付勢する付勢部材と、加速度を検知する検知部材と、前記検知部材によって検知された前記加速度が所定値を超えている場合に前記保持部材による前記圧縮基体の保持を解除する解除部材と、を有する。
【0018】
保持部材により、圧縮基体を、圧縮可能な状態よりも薄い状態で保持するので、エネルギー吸収体の配置場所の制限が少なくなる。
【0019】
検知部材によって検知された加速度が所定値を超えている場合には、解除部材は、保持部材による圧縮基体の保持を解除する。これにより、圧縮基体は、付勢部材の付勢力を受け、外力で圧縮可能な状態を実現できる。
【0020】
第四態様では、第一から第三のいずれか一態様において、前記弾性板体の一方は、ヘッドレスト前後方向と前記弾性板体により圧縮基体を挟み込んでいる方向とが一致する向きで前記ヘッドレストフレームに固定されている。
【0021】
したがって、ヘッドレスト前後方向に外力が作用した場合、この外力により、圧縮基体を効果的に圧縮することができる。
【発明の効果】
【0022】
本願では、大型化を抑制しつつ、初期段階の小さな衝撃のエネルギーを効果的に吸収でき、且つ大きな外力であっても効果的にエネルギー吸収可能なヘッドレストを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は第一実施形態ヘッドレストを備えた車両及びシートを示す概略図である。
図2図2は第一実施形態のヘッドレストの内部構造を示す斜視図である。
図3図3は第一実施形態のエネルギー吸収体を示す正面図である。
図4図4は第一実施形態のエネルギー吸収体の圧縮構造体を示す斜視図である。
図5図5は第一実施形態のエネルギー吸収体を示す側面図である。
図6A図6Aは第一実施形態のエネルギー吸収体の圧縮基体を構成するシート材を積層状態で示す斜視図である。
図6B図6Bは第一実施形態のエネルギー吸収体の圧縮基体を半折状態で示す斜視図である。
図7A図7Aは第一実施形態のエネルギー吸収体の圧縮基体を構成するシート材を示す平面図である。
図7B図7Bは第一実施形態のエネルギー吸収体の圧縮基体を構成するシート材を示す平面Bである。
図7C図7Cは第一実施形態のエネルギー吸収体の圧縮基体を構成するシート材を折った状態で部分的に拡大して示す斜視図である。
図8A図8Aは第一実施形態のエネルギー吸収体の圧縮構造体を分解して正面側から示す斜視図である。
図8B図8Bは第一実施形態のエネルギー吸収体の圧縮構造体を正面側から示す斜視図である。
図9A図9Aは第一実施形態のエネルギー吸収体に外力が作用した状態を示す説明図である。
図9B図9Bは第一実施形態のエネルギー吸収体に外力が作用した状態を示す説明図である。
図9C図9Cは第一実施形態のエネルギー吸収体に外力が作用した状態を示す説明図である。
図9D図9Dは第一実施形態のエネルギー吸収体に外力が作用した状態を示す説明図である。
図10図10は板状の部材に外力が作用し湾曲した場合の変位と荷重の関係を定性的に示すグラフである。
図11図11は第一実施形態、第一実施形態の変形例、第一~第三比較例の各エネルギー吸収体に外力が作用した場合の変位と荷重の関係を示すグラフである。
図12図12は第一実施形態の変形例のエネルギー吸収体を示す正面図である。
図13図13は第一比較例のエネルギー吸収体を示す正面図である。
図14図14は第二比較例のエネルギー吸収体を示す正面図である。
図15図15は第三比較例のエネルギー吸収体を示す正面図である。
図16A図16Aは第一実施形態のヘッドレストに頭部が当たった状態を示す側面図である。
図16B図16Bは第一実施形態のヘッドレストに頭部が当たった状態を示す平面図である。
図16C図16Cは第一実施形態のヘッドレストに頭部が当たって弾性板体が変形した状態を示す平面図である。
図17A図17Aは第一実施形態のヘッドレストに頭部が当たって圧縮構造体が圧縮された状態を示す側面図である。
図17B図17Bは第一実施形態のヘッドレストに頭部が当たって圧縮構造体が圧縮された状態を示す平面図である。
図17C図17Cは第一実施形態のヘッドレストに頭部が当たって圧縮構造体が図17Bの状態からさらに圧縮された状態を示す側面図である。
図18図18は、第一実施形態及び第一比較例において、頭部の位置と頭部に加わる荷重の大きさの関係を示すグラフである。
図19A図19Aは第二実施形態のエネルギー吸収体の圧縮構造体を半折状態で示す斜視図である。
図19B図19Bは第二実施形態のエネルギー吸収体の圧縮構造体を半折状態で示す側面である。
図20A図20Aは第二実施形態のエネルギー吸収体の圧縮構造体を全折状態で示す斜視図である。
図20B図20Bは第二実施形態のエネルギー吸収体の圧縮構造体を全折状態で示す側面図である。
図21図21は第三実施形態のエネルギー吸収体を圧縮基体の半折状態で示す側面図である。
図22図22は第三実施形態のエネルギー吸収体を圧縮基体の半折状態から全折状態へ変化する途中の状態で示す側面図である。
図23図23は第三実施形態のエネルギー吸収体を全折状態で示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して第一実施形態のヘッドレスト84と、このヘッドレスト84に備えられるエネルギー吸収体102について説明する。
【0025】
図1には、車両80が示されている。この車両80では、車両前後方向に複数のシート82が配置されている。そして、それぞれのシート82に、本願の開示の技術のヘッドレスト84が適用されている。以下において、シート82の前方向、右方向及び上方向を矢印FR、矢印RH及び矢印UPでそれぞれ示す。シート82のこれらの方向は、車両80における車両前後方向、車両幅方向及び車両上下方向と一致している。
【0026】
なお、車両80は、本開示の技術のヘッドレストが提供される乗物の一例である。本開示の技術のヘッドレストを適用する対象としては、車両80のような自動車の他、鉄道車両、航空機、船舶等、特に限定されない。
【0027】
図2に示すように、ヘッドレスト84は、ヘッドレスト84の骨格を成すヘッドレストフレーム86を有している。図2に示す例では、ヘッドレストフレーム86は、フレーム上部86Uの幅方向両側から下方に延在される左右のフレーム側部86Sを有している。そして、フレーム上部86Uの下方で、且つ後方側の位置に、エネルギー吸収体102が配置されている。
【0028】
図3にも示すように、エネルギー吸収体102は、圧縮構造体104と、この圧縮構造体104を挟み込む一対の弾性板体106を有している。以下において、弾性板体106が圧縮構造体104を挟み込んでいる方向をエネルギー吸収体102の厚み方向とし、矢印Tで示す。また、エネルギー吸収体102の幅方向を矢印Wで、奥行方向を矢印Dでそれぞれ示す。ただし、これらの方向は説明の便宜上の方向であり、実際のエネルギー吸収体102の使用時における方向を制限するものではない。
【0029】
エネルギー吸収体102の厚み方向は、エネルギー吸収体102に作用した外力より変形し、衝撃のエネルギーをこの変形により吸収する方向である。本実施形態では、エネルギー吸収体102は、厚み方向がシート82の前後方向と概ね一致する向きで、ヘッドレストフレーム86に取り付けられている。
【0030】
図4及び図5にも示すように、圧縮構造体104は、1層又は複数層の圧縮基体108を有している。図3図5に示す例では、圧縮基体108は4層であり、図面における上から1層目及び3層目の圧縮基体108Aと、上から2層目及び4層目の圧縮基体108Bとで形状が異なっている。圧縮基体108Aと圧縮基体108Bとは、図4及び図8Bに示すように積層した状態で、相互の接触面積を広く確保することができるように、互いに異なる構造とされているが、物性としての本質的な相違はない。
【0031】
圧縮基体108A及び圧縮基体108Bは、それぞれ、図6Aに示すように、長方形のシート状に形成されたシート材110A及びシート材110Bによって構成されている。
【0032】
図7Aに示すように、シート材110Aは、区画線D1及び区画線D2によって複数の単位セル112に区画されている。そして、それぞれの単位セル112は、さらに、横方向の中央線CL1及び縦方向の中心線CL2によって、4つの部分114に分けられている。
【0033】
単位セル112には、中央線CL1に対し所定の傾斜角αで傾斜する山折線MF1及び谷折線VF1が形成されている。ここで、部分114のさらに中央に位置する四分線CL2を想定すると、この四分線CL2の位置では、山折線MF1及び谷折線VF1によって隔てられた部分がそれぞれm、l、mの長さを有している。山折線MF1及び谷折線VF1は、中心線CL1及び中心線CL2に対し対称に形成されている。山折線MF1及び谷折線VF1は、本開示の技術に係る「折位置」の一例である。
【0034】
また、中央線CL1についても、山折線MF2の部分と谷折線VF2の部分とに分けられている。山折線MF2及び谷折線VF2も、本開示の技術に係る「折位置」の一例である。
【0035】
シート材110Aでは、単位セル112において、山折線MF1及び山折線MF2による山折りと、谷折線VF1及び谷折線VF2による谷折りと、を所定の折角度βで施すことで、図7Cに示す立体的なセル構造116が得られる。なお、図7Cは、図7Aの単位セル112において斜線を施した部分を取り出して示している。
【0036】
また、図7Bに示すように、シート材110Bは、区画線D1及び区画線D2によって複数の単位セル112に区画され、それぞれの単位セル112には、山折線MF1及び山折線MF2と、谷折線VF1及び谷折線VF2と、が形成されている。ただし、シート材110Bでは、シート材110A(図7A参照)に対し、山折線MF1と谷折線VF1の傾斜方向が反対であり、且つ山折線MF1と谷折線VF1の位置が入れ替わっている。
【0037】
シート材110Bでは、単位セル112において、山折線MF1及び山折線MF2による山折りと、谷折線VF1及び谷折線VF2による谷折りと、を所定の折角度βで施すことで、立体的なセル構造が得られる。シート材110Bから得られるセル構造は、図7Cに示す立体的なセル構造116に対し対称である。
【0038】
このようなシート材110A及びシート材110Bを折り曲げて圧縮基体108A及び圧縮基体108Bを形成する方法は、圧縮基体108を製造する方法の一つである。シート材110A及びシート材110Bを折り曲げて圧縮基体108を構成でき、圧縮基体108の構造の簡素化を図ると共に、低コストで圧縮基体108を製造できる。
【0039】
図8Aに示すように、シート材110Aから形成される圧縮基体108Aには、図8Aにおける上部分108AUと下部分108ALとが交互に表れている。また、シート材110Bから形成される圧縮基体108Bには、下部分108BLと上部分108BUとが交互に表れている。圧縮構造体104では、このような形状の圧縮基体108Aと圧縮基体108Bとを厚み方向に交互に積層することで構成されている。そして、圧縮基体108A及び圧縮基体108Bを積層することにより、圧縮構造体104は、中空部分118を有する立体的な構造となっている。
【0040】
図8Bに示すように、圧縮構造体104では、圧縮基体108Aと圧縮基体108Bとが交互に積層された状態で、圧縮基体108Aの下部分108ALと、圧縮基体108Bの上部分108AUとが接触し、圧縮基体108Bの下部分108BLと圧縮基体108Aの上部分108AUとが接触している。
【0041】
なお、シート材110A及びシート材110Bは、図4に示す全折状態で積層されて圧縮構造体104を構成してもよいが、たとえば、図6Bに示すように、それぞれのシート材110A及びシート材110Bにおいて、山折線MF1及び山折線MF2による山折りと、谷折線VF1及び谷折線VF2による谷折りと、を完全に織り込まない状態(後述する半折状態)として、積層しておいてもよい。この場合は、たとえば、所定の設置位置に設置した状態で、山折線MF1及び山折線MF2による山折りと、谷折線VF1及び谷折線VF2による谷折りと、をさらに施して、図4に示す全折状態とすればよい。
【0042】
このような構造とされた圧縮構造体104は、厚み方向の変形に対し負のポアソン比を有する部材である。ここで、圧縮構造体104に上下方向に応力が作用した場合の、上下方向のひずみをε、幅方向のひずみをε、奥行方向のひずみをεとする。幅方向のポアソン比νは、
ν=-(ε/ε
と定義され、奥行方向のポアソン比ν
ν=-(ε/ε
と定義される。
【0043】
本実施形態の圧縮構造体104では、幅方向及び奥行方向の両方向において、ポアソン比として負の値を有している。したがって、圧縮構造体104は、上下方向に作用した外力(衝撃)によって上下方向に圧縮されると幅方向及び奥行方向にも圧縮される、というオーセチックな挙動を示す。そして、圧縮構造体104は、上下方向に作用した外力によってこのような変形挙動を示すことで、上下方向の応力の増加に伴って内部が凝縮されて幾何剛性が大きくなりつつ、衝撃のエネルギーを吸収する。これに対し、ポアソン比が正の値を有する部材では、上下方向への圧縮に伴って、幅方向及び奥行方向には伸びるため、内部が凝縮される効果は少なく、衝撃のエネルギーを吸収する点で不利な面がある。
【0044】
図3に示すように、圧縮構造体104は、一対の弾性板体106で挟み込まれている。以下、図3における上側の弾性板体106を弾性上板106Uとし、下側の弾性板体106を弾性下板106Lとして適宜区別する。なお、図3における上下方向は、説明の便宜のための方向である。すなわち、実際にエネルギー吸収体102がヘッドレスト84に適用される場合の上下方向は、図3における上下方向とは異なる。
【0045】
弾性下板106Lは、図3に示す例では、圧縮構造体104と略等しい幅を有している。弾性下板106Lにおいて、幅方向の両側部分は、ヘッドレストフレーム86のフレーム側部86Sに固定される部分である。換言すれば、弾性下板106Lの幅方向の中央部分はヘッドレストフレーム86によって支持されていない。したがって、弾性下板106Lは、幅方向の中央部分に下向きの力を受けると、矢印B方向(図3における下方向)に凸となる向きで板厚方向に弾性的に湾曲する。
【0046】
弾性上板106Uは、図3に示す例では、圧縮構造体104と略等しい幅を有している。弾性上板106Uとしては、圧縮構造体104よりも広い幅を有していてもよく、要するに、上方から作用した外力によって下に凸となる向きで板厚方向に湾曲しつつ、圧縮構造体104の図3における上面に荷重を作用させることができればよい。
【0047】
本実施形態のエネルギー吸収体102では、図3に示すように、衝突体100によって厚み方向の外力(衝撃)が弾性上板106Uの中央部分に作用した場合、外力の値が相対的に小さい段階と、外力の値が相対的に大きい段階と、で異なる変形状態をとるように、弾性板体106及び圧縮構造体104の構造が設定されている。
【0048】
具体的には、外力の値が相対的に小さい状態では、弾性上板106U、圧縮構造体104及び弾性下板106Lが全体として図3における下に凸に湾曲する。ただし、圧縮構造体104は上記したオーセチックな挙動を示すので、この段階における幾何剛性は相対的に低い。したがって、この段階では、衝撃のエネルギーは、主に弾性板体106の湾曲によって吸収される。換言すれば、外力が作用した初期段階において、相対的に小さな外力であっても弾性上板106U及び弾性下板106Lがエネルギー吸収の抵抗とならず湾曲するように、弾性上板106U及び弾性下板106Lの曲げ弾性率が設定されている。
【0049】
そして、外力の値が大きくなるに従って、弾性上板106U、圧縮構造体104及び弾性下板106Lがさらに下に凸に湾曲し、圧縮構造体104も湾曲しつつ上下に圧縮されていく。
【0050】
外力がより大きい状態になると、弾性上板106U及び弾性下板106Lの弾性力が大きくなり、次第に湾曲しづらくなる。そして、圧縮構造体104は厚み方向に圧縮される。これにより、衝撃のエネルギーは、主に圧縮構造体104の圧縮によって吸収される。実際上は、衝撃のエネルギーを吸収する割合は、弾性板体106の湾曲から、圧縮構造体104の圧縮へと連続的に移っていく。すなわち、衝撃のエネルギーの吸収を主に弾性板体106の湾曲で成す段階と、その後に、主に圧縮構造体104の圧縮で成す段階と、が存在している。これら2つの段階を隔てる外力の境界値(閾値)は、たとえば、想定される外力の大きさに対応させて、弾性板体106の形状や圧縮構造体104の構造等を調整することで任意に設定可能である。
【0051】
なお、図3では、弾性上板106U及び弾性下板106Lが圧縮構造体104に接触した状態で挟み込んでいるが、弾性上板106U及び弾性下板106Lのいずれか一方又は両方が圧縮構造体104から離隔して配置されていてもよい。たとえば、弾性上板106U及び弾性下板106Lの両方が圧縮構造体104から離隔した構造であっても、外力が作用した状態で、この外力によって弾性上板106Uが圧縮構造体104に向けて移動して接触し、圧縮構造体104が弾性下板106Lに向けて移動することで、圧縮構造体104を弾性上板106U及び弾性下板106Lで挟み込む構造が実現されるようになっていればよい。
【0052】
次に、第一実施形態の作用を説明する。
【0053】
図9A図9Dには、第一実施形態のエネルギー吸収体102に、上方から衝突体100が衝突した場合の変形状態をシミュレーションした結果が順に示されている。図9A図9Dにおいて、上側の図がエネルギー吸収体102を正面視した状態、下側の図がエネルギー吸収体102を側面視した状態である。
【0054】
弾性上板106Uの変位は、図9Aが10mm、図9Bが20mm、図9Cが30mm、図9Dが40mmである。この「変位」とは、弾性板体106の幅方向中央において、湾曲前の状態からの下方への変位長である。
【0055】
図9Aに示すように、変位が10mmの段階では、弾性上板106U及び弾性下板106Lが下に凸に湾曲している。圧縮構造体104は、上下方向にわずかに圧縮されており、且つ、全体としては湾曲している。そして、圧縮構造体104は上記したようにオーセチックな挙動を示すので、この段階では、衝撃のエネルギーは主として弾性板体106の湾曲を主として吸収される。
【0056】
図9Bに示すように、変位が20mmの段階では、図9Aに示す状態と比較して、弾性上板106U及び弾性下板106Lはさらに湾曲し、圧縮構造体104は上下方向に圧縮されている。したがって、衝撃のエネルギーは、弾性上板106U及び弾性下板106Lの湾曲によって吸収される部分もあるが、圧縮構造体104の圧縮によって吸収される割合が高くなっている。
【0057】
図9Cに示すように、変位が30mmの段階では、図9Bに示す状態と比較して、弾性上板106U及び弾性下板106Lはさらに湾曲し、圧縮構造体104が上下方向にさらに圧縮されている。この段階では、衝撃のエネルギーは、主として圧縮構造体104の圧縮により吸収される。
【0058】
図9Dに示すように、変位が40mmの段階では、図9Cに示す状態と比較して、圧縮構造体104が上下方向にさらに圧縮されている。この段階では、圧縮構造体104が衝撃のエネルギーを吸収する割合が、図9Cに示す状態よりもさらに高くなっている。
【0059】
ここで、図10には、一般的な板状の部材が、外力によって弾性的に湾曲し衝撃のエネルギーを吸収する場合の、変位と荷重の関係の一例が定性的に示されている。図10のグラフの横軸は、本実施形態として図9A図9Dに示した場合と同様に、板状の部材の中央における湾曲前の位置からの変位である。
【0060】
図10に二点鎖線で示すように、所定の臨界点P1までは、対象としている板状の部材は弾性的な挙動を示すので、変位と荷重はおおむね比例する。そして、臨界点P1を超えると、変位の増加に対し荷重が増加する割合が小さくなる。このような変形特性を有する板状部材において、より効果的にエネルギー吸収するためには、たとえば板厚を厚くする等によって、弾性定数(曲げ弾性率)を大きくすることが考えられる。しかし、図10に一点鎖線及び二点鎖線で示すように、単に曲げ弾性率を大きくすると、変位が臨界点P1に達するまでの範囲において、荷重の立ち上がりが急激になり、衝突体100に対し板状部材から、より大きな力が作用してしまう。
【0061】
図11には、第一実施形態のエネルギー吸収体102と、第一実施形態の変形例のエネルギー吸収体、さらに、第一~第三比較例のエネルギー吸収体における、変位と荷重の関係の一例が示されている。
【0062】
図11に示すグラフにおいて、曲線L11が第一実施形態のエネルギー吸収体102に対応しており、曲線L12が、第一実施形態の変形例のエネルギー吸収体152に対応している。
【0063】
この変形例のエネルギー吸収体152は、図12に示すように、第一実施形態のエネルギー吸収体102と比較して、圧縮構造体104を構成しているシート材110A及びシート材110Bの厚み(板厚)が1.5倍であるが、これ以外の点では第一実施形態のエネルギー吸収体102と同一の構造である。なお、シート材110A及びシート材110Bの厚みをこのように厚くしても、圧縮基体108の形状を大きく変更する必要はない。
【0064】
また、図11に示すグラフにおいて、曲線C11は第一比較例のエネルギー吸収体52に、曲線C12は第二比較例のエネルギー吸収体62に、曲線C13は第三比較例のエネルギー吸収体72に、それぞれ対応している。
【0065】
第一比較例のエネルギー吸収体52は、図13に示すように、圧縮構造体104(図3参照)を有することなく、1枚の弾性板体106のみで構成されている。第一比較例の弾性板体106は、第一実施形態の弾性板体106に対し、板厚が調整されている。
【0066】
第二比較例のエネルギー吸収体62は、図14に示すように、第一実施形態のエネルギー吸収体102と同構造の圧縮構造体104、弾性上板106U及び弾性下板106Lを有しているが、弾性下板106Lが湾曲しない構造である。なお、弾性板体106が湾曲しない構造は、たとえば、弾性下板106Lの厚みを厚くすることでも実現可能であるが、図14に示した例では、弾性下板106Lの下面側を全体にわたって支持部材120で支持することで実現している。
【0067】
第三比較例のエネルギー吸収体72は、図15に示すように、第一実施形態の変形例のエネルギー吸収体152と同構造の圧縮構造体104、弾性上板106U及び弾性下板106Lを有しているが、弾性下板106Lの下面側を全体にわたって支持部材120で支持することで、第二比較例のエネルギー吸収体62と同様に、弾性下板106Lが湾曲しない構造である。
【0068】
第一比較例のエネルギー吸収体52では、変位が概ね5mmに達するまでの範囲で、荷重が急激に大きくなっている。すなわち、衝突体100の衝突の初期段階で、エネルギー吸収体52から衝突体100に大きな力を作用させてしまう。
【0069】
第二比較例のエネルギー吸収体62では、弾性下板106Lが湾曲しないので、外力のエネルギーを、弾性上板106Uの湾曲と、圧縮構造体104の中央部分における局所的な圧縮によって吸収している。しかしながら、弾性上板106Uの湾曲の程度は、第一実施形態と比較して第二比較例の方が小さい。そして、変位が概ね10mmに達するまでの範囲で、変位の増加に伴い荷重が急激に大きくなっている。
【0070】
第三比較例のエネルギー吸収体72では、圧縮構造体104の厚みが第二比較例の1.5倍であることで、変位が概ね10mmに達するまでの範囲で、第二比較例よりもさらに荷重が急激に大きくなっている。
【0071】
このように、第二比較例のエネルギー吸収体62及び第三比較例のエネルギー吸収体72の両方においても、衝突体100の衝突の初期段階で、衝突体100に大きな力を作用させるおそれがある。
【0072】
これに対し、第一実施形態のエネルギー吸収体102では、変位が15mmに達するまでの範囲における荷重が、第一~第三比較例のいずれのエネルギー吸収体よりも小さい。すなわち、衝突体100の衝突の初期段階で、エネルギー吸収体102から衝突体100に大きな力を作用させない。そして、変位が概ね15mmから40mmまでの範囲では、変位の増加に伴って荷重が徐々に増加しており、効果的に衝撃のエネルギーを吸収できていることが分かる。
【0073】
さらに、第一実施形態の変形例のエネルギー吸収体152では、変位が15mmに達するまでの範囲における荷重が、第一~第三比較例のいずれのエネルギー吸収体よりも小さい。すなわち、衝突体100の衝突の初期段階で、衝突体100に大きな反力を作用させない点は、第一実施形態のエネルギー吸収体102と同様であり、さらに、変位が概ね15mmから40mmまでの範囲では、変位の増加に伴う荷重の値が、第一実施形態よりも大きい。すなわち、第一実施形態の変形例のエネルギー吸収体152では、さらに効果的に衝撃のエネルギーを吸収できることが分かる。
【0074】
このように、第一実施形態のエネルギー吸収体102、及び第一実施形態の変形例のエネルギー吸収体152では、外力が作用する初期段階の小さな外力に対して効果的にエネルギー吸収でき、且つ大きな外力であっても効果的にエネルギー吸収可能である。
【0075】
特に、圧縮構造体104は、複数の圧縮基体108が積層されて構成されているので、たとえば単層の圧縮基体108によって圧縮構造体104が構成された場合と比較して、複数の圧縮基体108の圧縮により効果的にエネルギー吸収できる。
【0076】
そして、図1及び図2に示すように、第一実施形態のヘッドレスト84では、上記の構造とされたエネルギー吸収体102が、ヘッドレストフレーム86に取り付けられている。エネルギー吸収体102は、厚み方向がヘッドレスト84の前後方向に沿う向きで取り付けられている。
【0077】
ここで、図16Aには、第一実施形態のヘッドレスト84に、車両後方から着座者PSが衝突した状態が模式的に示されている。また、図18には、ヘッドレスト84に着座者PSが衝突した場合の、頭部の位置と、頭部に加わる荷重との関係が示されている。図18のグラフの横軸の「頭部の位置」は、着座者PSが正規の位置に着座している場合の頭部の位置を基準とし、この基準から車両前方側への頭部の移動量である。図18における実線は、第一実施形態のエネルギー吸収体102を適用したヘッドレスト84の場合である。これに対し、図18における二点鎖線は、図13に示した第一比較例のエネルギー吸収体52を適用したヘッドレストの場合である。
【0078】
図16B及び図16Cに示すように、衝突の初期では、弾性板体106は弾性的に湾曲しており、圧縮構造体104も弾性板体106と同様に湾曲しているが、厚み方向には実質的に圧縮されていないか、又は圧縮の程度は僅かである。
【0079】
ここで、図18のグラフにおいて一点鎖線Aで囲った範囲に着目すると、図16Aに示したように、頭部の位置が500mmに近づくに従って、第一実施形態及び第一比較例の両方において、頭部に加わる荷重は急激に大きくなる。この場合、第一実施形態よりも第一比較例の方が、頭部に加わる荷重の極大値は大きい。
【0080】
頭部が車両前方側へ移動すると、図17Bに示すように、圧縮構造体104が厚み方向に圧縮され、これによって衝撃のエネルギーが吸収される。圧縮構造体104は、前述したように負のポアソン比を有しているので、厚み方向への圧縮により、厚み方向と直交する方向にも圧縮され、効果的にエネルギー吸収できる。
【0081】
ここで、図18において一点鎖線Bで囲った範囲に着目する。第一比較例では、頭部の位置が540mmに達する直前において、頭部に加わる荷重が極大値に達している。これに対し、第一実施形態では、同様に頭部の位置が540mmに達する直前において頭部に加わる荷重が極大値となっているが、この極大値は第一比較例よりも小さい。
【0082】
頭部が車両前方側へさらに移動すると、頭部はヘッドレストフレーム86に接触する直前まで移動する。したがって、この段階では、ヘッドレストフレーム86への頭部の衝突を避けることが望まれる。
【0083】
ここで、図18において一点鎖線Cで囲った範囲に着目する。第一比較例では、頭部の位置が570mm程度となった状態で、頭部に加わる荷重が極大値となっている。第一実施形態では、頭部の位置が580mmを越えた状態で、頭部に加わる荷重が極大値となっている。そして、一点鎖線Cで囲った範囲では、第一実施形態と第一比較例とで、頭部に加わる荷重の極大値は同程度である。
【0084】
そして、図18に示すグラフの頭部の位置の範囲で、頭部に加わる荷重の最大値は、第一比較例の場合に対し、第一実施形態の場合は小さくなっていることが分かる。このように、第一実施形態では、第一比較例よりも、衝撃のエネルギーを吸収する場合の、頭部に加わる荷重の最大値を小さくできることが分かる。
【0085】
次に、第二実施形態について説明する。第二実施形態において、第一実施形態と同様の要素、部材等については同一符号を付して、詳細な説明を省略する。また、以下の各実施形態では、エネルギー吸収体の構造が第一実施形態と異なっているが、ヘッドレストの全体的な構造は第一実施形態と同様であるので、ヘッドレストの図示を省略する。
【0086】
図19A及び図19Bに示すように、第二実施形態のエネルギー吸収体202では、第一実施形態のエネルギー吸収体102と同様の圧縮構造体104を有している。また、図19A及び図19Bでは図示を省略しているが、圧縮構造体104の上下には弾性上板106U及び弾性下板106L(図3参照)が配置されている。
【0087】
ただし、第二実施形態では、シート材110A及びシート材110Bが、図4に示すような立体構造を成す前段階、すなわち、山折線MF1及び谷折線VF1(図7A及び図7B参照)による折り角度が、所定の角度βに達しない状態で積層されている。
【0088】
以下、シート材110A及びシート材110Bにおいて、図19A及び図19Bに示す状態を、説明の便宜上「半折状態」という。半折状態にあるシート材110A及びシート材110Bの厚みは、圧縮基体108A及び圧縮基体108Bの厚みよりは薄い。
【0089】
そして、第二実施形態では、図19Bに示すように、シート材110A及びシート材110Bに、複数のバネ204が備えられている。これらのバネ204の弾性によって、シート材110A及びシート材110Bに対し、図20A及び図20Bに示す全折状態へ変形するような力が作用するようになっている。なお、バネ204は、シート材110A及びシート材110Bが全折状態となった場合に自然長となるように、その長さが設定されている。バネ204は付勢部材の一例である。
【0090】
さらに第二実施形態では、図19Bに示すように、ピン206、解除部材208及び加速度センサ210を有している。ピン206は、シート材110A及びシート材110Bの所定位置で、バネ204の弾性力に抗して半折状態が維持されるように、シート材110A及びシート材110Bを保持している。
【0091】
加速度センサ210は、たとえば、ヘッドレスト84、シート82又は車両80に取り付けらえており、ヘッドレスト84に作用した加速度を検知する。実質的に、ヘッドレスト84は車両80の走行に伴い車両80と一体で移動するので、車両80に加速度センサ210が取り付けられていても、ヘッドレスト84に作用した加速度を検知できる。
【0092】
加速度センサ210が検知した加速度が所定値を超えると、解除部材208がピン206による保持を解除する。ピン206は、本開示の技術に係る「保持部材」の一例であり、加速度センサ210は、本開示の技術に係る「検知部材」の一例である。解除部材208は、本開示の技術に係る「解除部材」の一例である。
【0093】
このような構成とされた第二実施形態では、ピン206によって、シート材110A及びシート材110Bが半折状態に維持される。半折状態では、全折状態と比較してシート材110A及びシート材110Bが薄いので、エネルギー吸収体202を小型化できる。
【0094】
たとえば、ヘッドレスト84との関係において、エネルギー吸収体を配置するスペースが狭い場合でも、小型化されたエネルギー吸収体202であれば配置でき、配置場所の制限が少なくなる。
【0095】
そして、加速度センサ210によって検知した加速度が所定値を超えている場合は、解除部材208がピン206によるシート材110A及びシート材110Bの保持を解除する。バネ204の弾性力によってシート材110A及びシート材110Bは全折状態、すなわち圧縮基体108A及び圧縮基体108Bを構成した状態となるので、以降は第一実施形態のエネルギー吸収体102と同様に、外力が作用する初期段階の小さな外力に対して効果的にエネルギー吸収でき、且つ大きな外力であっても効果的に衝撃のエネルギーを吸収可能である。
【0096】
第二実施形態において、バネ204は、シート材110A及びシート材110Bが全折状態となった場合に自然長となるように長さが設定されている。このため、シート材110A及びシート材110Bの全折状態において、外力が作用した場合の圧縮によるエネルギー吸収に対し、バネ204の弾性の影響が及ばない、もしくは影響が小さいようになっている。
【0097】
次に、第三実施形態について説明する。第三実施形態においても、第一実施形態又は第二実施形態と同様の要素、部材等については同一符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0098】
第三実施形態のエネルギー吸収体302では、袋部材304、排気装置306及び加速度センサ210を有している。袋部材304は薄膜によって袋状に形成され、内部に空気が封入されることで、袋状に膨らんだ状態を維持している。このように膨らんだ袋部材304の内部には、半折状態のシート材110A又はシート材110Bが収容されている。図21図23では袋部材304にシート材110Aが収容された状態を示しているが、シート材110Bが収容されている構造でも同様である。
【0099】
シート材110Aの一部には接着部110Cが設定されており、接着剤等によって袋部材304の内面に接着されている。
【0100】
袋部材304の一部には排気口304Vが形成されている。排気装置306は排気口304Vに設けられており、袋部材304から空気を排出することができる装置である。
【0101】
シート材110Aは、山折線MF1及び谷折線VF1(図7A参照)における弾性によって、半折状態から全折状態への応力が作用している。しかしながら、図21に示すように、袋部材304の内部に収容された状態では、シート材110Aの一部が袋部材304に当たることで、袋部材304からシート材110Aに対し、半折状態に保持する力が作用しており、全折状態への変形が阻止されている。
【0102】
そして、第三実施形態では、加速度センサ210が検知した加速度が所定値を超えていると、排気装置306が駆動され、図22に示すように、袋部材304の内部の空気が排出される。そして、図23に示すように、袋部材304がシート材110Aに密着した状態となる。この状態では、袋部材304からシート材110Aに対し半折状態に保持する力が作用しなくなる。その結果、図23に示すように、シート材110Aは全折状態に展開される。
【0103】
このような構成とされた第三実施形態では、袋部材304か排気していない状態では、袋部材304によってシート材110Aが半折状態に維持されるので、エネルギー吸収体302の小型化を図ることができる。
【0104】
そして、加速度センサ210が検知した加速度が所定値を超えている場合は、排気装置306が袋部材304の内部の空気を排出する。これにより、シート材110A及びシート材110Bは全折状態、すなわち圧縮基体108A及び圧縮基体108Bを構成した状態に展開される。以降は第一実施形態のエネルギー吸収体102と同様に、外力が作用する初期段階の小さな外力に対して効果的に衝撃のエネルギーを吸収でき、且つ大きな外力であっても効果的に衝撃のエネルギーを吸収可能である。
【0105】
第三実施形態において、図21図23では1枚のシート材110Aを示しているが、複数枚のシート材110A又はシート材110Bが、それぞれ1枚ずつ袋部材304に収容されると共に、厚み方向に積層された構造としてもよい。
【符号の説明】
【0106】
80 車両
82 シート
84 ヘッドレスト
86 ヘッドレストフレーム
100 衝突体
102 エネルギー吸収体
104 圧縮構造体
106 弾性板体
108 圧縮基体
110A、110B シート材
120 支持部材
152 エネルギー吸収体
202 エネルギー吸収体
204 バネ
206 ピン
208 解除部材
210 加速度センサ
302 エネルギー吸収体
304 袋部材
304V 排気口
306 排気装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図9D
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図16C
図17A
図17B
図17C
図18
図19A
図19B
図20A
図20B
図21
図22
図23