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特開2024-20993異音検知システム及び異音検知プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020993
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】異音検知システム及び異音検知プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01H 17/00 20060101AFI20240207BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20240207BHJP
【FI】
G01H17/00 Z
G01M99/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123594
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆誠
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
【Fターム(参考)】
2G024AD01
2G024CA13
2G024FA01
2G024FA06
2G024FA11
2G064AA01
2G064AA11
2G064AB02
2G064AB13
2G064AB15
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC43
2G064DD02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】環境的な条件による影響を低減させ、より高精度に異音の検知を行うことができる異音検知システム及び異音検知プログラムを得る。
【解決手段】異音検知システム1は、対象物が設けられている環境における音を検出するマイク80Aと、上記環境における予め定められた種類の環境条件を示す環境情報を検出する環境センサ80Bと、検出した環境情報を用いて、対象物からの異音を検知する際に用いる閾値を調整する調整部11Cと、調整部11Cによって調整された閾値を用いて、異音を検知する検知部11Dと、を備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物が設けられている環境における音を検出する第1検出部と、
前記環境における予め定められた種類の環境条件を示す環境情報を検出する第2検出部と、
前記第2検出部によって検出された環境情報を用いて、前記対象物からの異音を検知する際に用いる閾値を調整する調整部と、
前記調整部によって調整された閾値を用いて、前記異音を検知する検知部と、
を備えた異音検知システム。
【請求項2】
前記閾値は、前記対象物が正常である場合に前記第1検出部によって検出された音を示す正常音信号、及び前記対象物が異常である場合に前記第1検出部によって検出された音を示す異常音信号の各々をフーリエ変換して得られた信号を入力情報とし、前記閾値を示す閾値情報を出力情報として予め機械学習された閾値推定モデルを用いて導出されたものである、
請求項1に記載の異音検知システム。
【請求項3】
前記環境情報は、天候に関する天候情報及び環境値に関する環境値情報の少なくとも一方を含む、
請求項1又は請求項2に記載の異音検知システム。
【請求項4】
前記天候情報は、天気を示す天気情報を含み、前記環境値情報は、風速、風向、及び湿度の少なくとも1つを含む、
請求項3に記載の異音検知システム。
【請求項5】
対象物が設けられている環境における音を検出する第1検出部と、前記環境における予め定められた種類の環境条件を示す環境情報を検出する第2検出部と、を備えた異音検知システムにおいて実行される異音検知プログラムであって、
前記第2検出部によって検出された環境情報を用いて、前記対象物からの異音を検知する際に用いる閾値を調整し、
調整した閾値を用いて、前記異音を検知する、
処理をコンピュータに実行させるための異音検知プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異音検知システム及び異音検知プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスエンジン、ガスタービン等のエネルギー設備は、生成されるエネルギーを常時使用できることが求められるため、その点検は欠かせないものとなっている。
【0003】
従来、以上のようなエネルギー設備等の対象物に対する点検を、現場へ赴くことなく行うための技術として、マイクロフォンによって得られた音を用いる技術があった。この技術によれば、対象物が遠隔地にある場合であっても、いつでも点検を行うことができ、更には、コンピュータによって異常の検知も自動的に行うことができるため、その利便性は著しく高い。
【0004】
このように、音を用いて対象物の点検、更には異常を検知するために適用することのできる従来の技術として、以下に示す技術があった。
【0005】
特許文献1には、対象機器から収音される音に定常音だけでなく突発音などの外乱音が含まれる場合でも、収音された音に異音が含まれるか否かの識別精度を向上し、対象機器の異常の有無を適切に検知することを目的とした異音判定装置が開示されている。
【0006】
この異音判定装置は、対象機器から発せられる音を収音するマイクに接続される入力部と、前記対象機器から発せられる音の所定期間分の音データを記憶するメモリと、前記所定期間分の音データを用い、前記所定期間より短い1フレーム期間ごとに前記1フレーム期間の音データに対応する音が定常音あるいは突発音であるかを判定するプロセッサと、を備え、前記メモリは、学習モード中に前記定常音と判定された1以上の前記1フレーム期間の音データの中から少なくとも1つの定常音を正常音として記憶し、前記プロセッサは、前記学習モード時と異なる運用モード中に前記定常音と判定された前記1フレーム期間の音データと前記メモリに記憶された前記正常音の音データとの比較に応じて、前記対象機器から発せられる音に異音が含まれるか否かを識別する。
【0007】
また、特許文献2には、異音の検知能力を低下させることなく、センサの種類やセッティング条件を変更する際の補正手順の作業コストを低減することを目的とした異音検知装置が開示されている。
【0008】
この異音検知装置は、被検知対象の動作音から異音を検知する異音検知装置において、前記被検知対象の動作状態を示す状態情報を参照し、前記被検知対象の動作が、前記被検知対象の正常動作と異常動作の違いに由来する動作音の差異がない時間区間である不変区間における動作であるか否か判定を行う不変区間判定部と、前記不変区間判定部が不変区間における動作であると判定した場合に、前記被検知対象の前記不変区間における動作音を観測した観測信号から、前記被検知対象の前記不変区間外の時間区間における観測信号を補正するための補正用パラメータを生成する補正用パラメータ生成部と、を備える。
【0009】
また、この異音検知装置は、前記不変区間判定部が不変区間外の時間区間における動作であると判定した場合に、前記不変区間外の時間区間における前記被検知対象の観測信号および前記補正用パラメータ生成部が生成した補正用パラメータに基づいて、前記不変区間外の時間区間における前記被検知対象の動作音の特徴量を抽出する特徴抽出部と、前記特徴抽出部が抽出した特徴量に基づいて前記被検知対象に異音が発生しているか否か判定を行う異音判定部と、を備える。
【0010】
更に、特許文献3には、被診断装置の動作時の音や振動等の計測対象を計測して故障等の異常を特定する際に、容易にその特定を行うことができるようにすることを目的とした異常診断用装置が開示されている。
【0011】
この異常診断用装置は、異常の有無を診断される被診断装置の動作時における計測対象を時間経過と共に計測する計測手段と、前記被診断装置の所定の動作状態を示す同期情報に基づいて、前記計測手段により得られた計測データを前記被診断装置の動作と時間的に同期させた状態で取り扱う制御手段と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2020-183904号公報
【特許文献2】特許第5925397号
【特許文献3】特開2019-110392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
通常、屋外及び屋内の別に関わらず、音には、風や天候等といった環境的な条件に応じたノイズが重畳されることが一般的であり、異音の発生を高精度に検知するためには、当該環境的な条件も考慮する必要がある。
【0014】
これに対し、特許文献1~特許文献3に記載される従来技術は、何れも環境的な条件については考慮されておらず、必ずしも精度よく異音を検知することができるとは限らない、という問題点があった。
【0015】
本発明は、以上の事情に鑑みて成されたものであり、環境的な条件による影響を低減させ、より高精度に異音の検知を行うことができる異音検知システム及び異音検知プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1に記載の異音検知システムは、対象物が設けられている環境における音を検出する第1検出部と、前記環境における予め定められた種類の環境条件を示す環境情報を検出する第2検出部と、前記第2検出部によって検出された環境情報を用いて、前記対象物からの異音を検知する際に用いる閾値を調整する調整部と、前記調整部によって調整された閾値を用いて、前記異音を検知する検知部と、を備える。
【0017】
請求項1に記載の異音検知システムによれば、対象物が設けられている環境における音を検出する一方、上記環境における予め定められた種類の環境条件を示す環境情報を検出し、検出した環境情報を用いて、対象物からの異音を検知する際に用いる閾値を調整し、調整した閾値を用いて、異音を検知することで、環境的な条件による影響を低減させ、より高精度に異音の検知を行うことができる。
【0018】
請求項2に記載の異音検知システムは、請求項1に記載の異音検知システムであって、前記閾値が、前記対象物が正常である場合に前記第1検出部によって検出された音を示す正常音信号、及び前記対象物が異常である場合に前記第1検出部によって検出された音を示す異常音信号の各々をフーリエ変換して得られた信号を入力情報とし、前記閾値を示す閾値情報を出力情報として予め機械学習された閾値推定モデルを用いて導出されたものである。
【0019】
請求項2に記載の異音検知システムによれば、閾値を、対象物が正常である場合に検出した音を示す正常音信号、及び対象物が異常である場合に検出した音を示す異常音信号の各々をフーリエ変換して得られた信号を入力情報とし、当該閾値を示す閾値情報を出力情報として予め機械学習された閾値推定モデルを用いて導出されたものとすることで、当該閾値推定モデルを用いない場合に比較して、より高精度に異音の検知を行うことができる。
【0020】
請求項3に記載の異音検知システムは、請求項1又は請求項2に記載の異音検知システムであって、前記環境情報が、天候に関する天候情報及び環境値に関する環境値情報の少なくとも一方を含む。
【0021】
請求項3に記載の異音検知システムによれば、環境情報を、天候に関する天候情報及び環境値に関する環境値情報の少なくとも一方を含むものとすることで、含めた情報に応じて閾値を調整することができる。
【0022】
請求項4に記載の異音検知システムは、請求項3に記載の異音検知システムであって、前記天候情報が、天気を示す天気情報を含み、前記環境値情報が、風速、風向、及び湿度の少なくとも1つを含む。
【0023】
請求項4に記載の異音検知システムによれば、天候情報を、天気を示す天気情報を含み、前記環境値情報を、風速、風向、及び湿度の少なくとも1つを含むものとすることで、含めた情報に応じて閾値を調整することができる。
【0024】
請求項5に記載の異音検知プログラムは、対象物が設けられている環境における音を検出する第1検出部と、前記環境における予め定められた種類の環境条件を示す環境情報を検出する第2検出部と、を備えた異音検知システムにおいて実行される異音検知プログラムであって、前記第2検出部によって検出された環境情報を用いて、前記対象物からの異音を検知する際に用いる閾値を調整し、調整した閾値を用いて、前記異音を検知する、処理をコンピュータに実行させる。
【0025】
請求項5に記載の異音検知プログラムによれば、対象物が設けられている環境における音を検出する一方、上記環境における予め定められた種類の環境条件を示す環境情報を検出し、検出した環境情報を用いて、対象物からの異音を検知する際に用いる閾値を調整し、調整した閾値を用いて、異音を検知することで、環境的な条件による影響を低減させ、より高精度に異音の検知を行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明によれば、環境的な条件による影響を低減させ、より高精度に異音の検知を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】実施形態に係る異音検知システムの全体的な構成の一例を示すブロック図である。
図2】実施形態に係る異音検知装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図3】実施形態に係る異音検知装置の、閾値推定モデルの学習時における機能的な構成の一例を示すブロック図である。
図4】実施形態に係る異音検知装置の、閾値推定モデルの運用時における機能的な構成の一例を示すブロック図である。
図5】実施形態に係る学習用信号データベースの構成の一例を示す模式図である。
図6】実施形態に係る学習処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図7】実施形態に係る異音検知処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図8】実施形態に係る異常提示画面の構成の一例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態例を詳細に説明する。なお、本実施形態では、本発明の対象物として、エネルギー供給会社が保有する、ガスエンジン、ガスタービン等といったエネルギー設備を適用した場合について説明するが、これに限るものではない。例えば、空調設備、水道設備等の他の設備や、スーパーコンピュータ等の情報処理装置等、異常の発生の検知対象となる物であれば、如何なる物も本発明の対象物として適用し得る。
【0029】
まず、図1を参照して、本実施形態に係る異音検知システム1の構成を説明する。図1は、本実施形態に係る異音検知システム1の全体的な構成の一例を示すブロック図である。
【0030】
図1に示すように、本実施形態に係る異音検知システム1は、本システムの中心的な役割を担う異音検知装置10を含む。また、本実施形態に係る異音検知システム1は、各種データベースを蓄積する情報蓄積装置30と、各種気象情報を蓄積する気象情報サーバ90と、を含む。
【0031】
また、本実施形態に係る異音検知システム1は、異音検知システム1が管理対象としている複数のエネルギー供給会社70が各々保有するエネルギー設備80に各々対応して設けられたマイクロフォン(以下、「マイク」という。)80A、及び環境センサ80Bを含む。
【0032】
本実施形態に係るマイク80Aは、対象物(本実施形態では、エネルギー設備80)が設けられている環境における音を検出するものであって、当該対象物からの異音を検知するために用いられる。従って、本実施形態に係るマイク80Aは、対象物から生じ得ると想定される異音を検知可能な感度を有するものが用いられる。
【0033】
本実施形態では、単一のマイク80Aにより、対応するエネルギー設備80から発せられる音を一方向から集音するものとされているが、これに限るものではない。例えば、マイク80Aを複数用意することで、当該複数のマイク80Aにより、対応するエネルギー設備80から発せられる音をくまなく集音する形態としてもよい。なお、本実施形態では、マイク80Aとして、指向性マイクを適用しているが、これに限るものではなく、無指向性マイクをマイク80Aとして適用する形態としてもよい。
【0034】
また、本実施形態に係る環境センサ80Bは、環境値に関する環境値情報を検出するためのものであり、対応するエネルギー供給会社70の敷地内における、対応するエネルギー設備80の近傍に設けられている。本実施形態に係る環境センサ80Bは、環境値情報として風速を計測するものとされているが、これに限るものではない。例えば、風速に加えて、風向、及び湿度のうちの少なくとも1つを環境値情報として計測するものを環境センサ80Bとして適用する形態としてもよい。
【0035】
一方、本実施形態に係る気象情報サーバ90は、異音検知システム1が検出対象としている環境情報のうち、環境センサ80Bでは計測できない、天候に関する天候情報(本実施形態では、天気を示す天気情報)を逐次蓄積するサーバである。なお、気象情報サーバ90によって記憶される天候情報は、気象庁、ウェザーニュース等によって公開されている情報から得ることができる。
【0036】
また、本実施形態に係る情報蓄積装置30は不揮発性の記憶部32を備えている。記憶部32はHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等によって実現される。記憶媒体としての記憶部32には、学習用信号データベース32Aが記憶されている。学習用信号データベース32Aについては、詳細を後述する。
【0037】
異音検知装置10と、情報蓄積装置30と、各エネルギー供給会社70に設けられたマイク80A及び環境センサ80Bと、気象情報サーバ90とは、ネットワークNを介して接続されている。異音検知装置10は、情報蓄積装置30、マイク80A、環境センサ80B、及び気象情報サーバ90とネットワークNを介して相互に通信可能とされている。なお、本実施形態では、ネットワークNとしてインターネット、電話回線等の公共の通信回線を適用しているが、この形態に限定されるものではない。ネットワークNとして、例えば、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)等の企業内の通信回線を適用してもよく、これらの企業内の通信回線及び公共の通信回線を組み合わせて適用してもよい。また、本実施形態では、ネットワークNとして有線の通信回線を適用しているが、この形態に限定されるものではなく、無線の通信回線を適用してもよく、有線及び無線の各通信回線を組み合わせて適用してもよい。
【0038】
なお、本実施形態に係る異音検知装置10、情報蓄積装置30、及び気象情報サーバ90の例としては、パーソナル・コンピュータ及びサーバコンピュータ等の各種情報処理装置が挙げられる。
【0039】
次に、図2を参照して、本実施形態に係る異音検知装置10のハードウェア構成を説明する。図2は、本実施形態に係る異音検知装置10のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0040】
本実施形態に係る異音検知装置10は、CPU(Central Processing Unit)11、一時記憶領域としてのメモリ12、不揮発性の記憶部13、キーボードとマウス等の入力部14、液晶ディスプレイ等の表示部15、媒体読み書き装置(R/W)16及び通信インタフェース(I/F)部18を備えている。CPU11、メモリ12、記憶部13、入力部14、表示部15、媒体読み書き装置16及び通信I/F部18はバスBを介して互いに接続されている。媒体読み書き装置16は、記録媒体17に書き込まれている情報の読み出し及び記録媒体17への情報の書き込みを行う。
【0041】
記憶部13はHDD、SSD、フラッシュメモリ等によって実現される。記憶媒体としての記憶部13には、学習プログラム13A及び異音検知プログラム13Bが記憶されている。これらの各プログラムは、当該各プログラムが書き込まれた記録媒体17が媒体読み書き装置16にセットされ、媒体読み書き装置16が記録媒体17からの上記各プログラムの読み出しを行うことで、記憶部13へ記憶(インストール)される。CPU11は、学習プログラム13A及び異音検知プログラム13Bの各プログラムを記憶部13から順次読み出してメモリ12に展開し、当該各プログラムが有するプロセスを順次実行する。
【0042】
また、記憶部13には、対象物からの異音を検知する際に用いる閾値を推定する閾値推定モデル13Cが記憶される。
【0043】
本実施形態に係る閾値推定モデル13Cは、予め定められた基準となる環境条件(以下、「基準環境条件」という。)において、対象物が正常である場合にマイク80Aによって検出された音を示す正常音信号をフーリエ変換して得られた信号が入力情報とされている。また、本実施形態に係る閾値推定モデル13Cは、基準環境条件において、対象物が異常である場合にマイク80Aによって検出された音を示す異常音信号をフーリエ変換して得られた信号も入力情報とされている。また、本実施形態に係る閾値推定モデル13Cは、上記閾値を示す閾値情報が出力情報とされている。そして、本実施形態に係る閾値推定モデル13Cは、これらの入力情報及び出力情報を用いて予め機械学習されたものとされている。
【0044】
なお、本実施形態では、上記基準環境条件として、晴天であり、かつ、風速が5(m/s)である、との条件を適用しているが、これに限るものでないことは言うまでもない。また、本実施形態では、閾値推定モデル13Cを、エネルギー設備80の各々に対応して1つずつ構築しているが、これに限るものではない。例えば、エネルギー設備80の各々に対応し、かつ、対象とする異音の種類の各々毎に対応して1つずつ閾値推定モデル13Cを構築する形態としてもよい。
【0045】
本実施形態に係る閾値推定モデル13Cは、RNN(Recurrent Neural Network、回帰型ニューラルネットワーク)を用いたAI(Artificial Intelligence、人工知能)によるモデルとされているが、これに限るものではない。例えば、多層パーセプトロンを用いたAIによるモデル等といったRNN以外のAI等の他の機械学習モデルを閾値推定モデル13Cとして適用する形態としてもよい。
【0046】
次に、図3を参照して、本実施形態に係る異音検知装置10の、閾値推定モデル13Cの学習時における機能的な構成について説明する。図3は、本実施形態に係る異音検知装置10の、閾値推定モデル13Cの学習時における機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【0047】
図3に示すように、閾値推定モデル13Cの学習時における異音検知装置10は、信号処理部11A及び学習部11Bを含む。異音検知装置10のCPU11が学習プログラム13Aを実行することで、信号処理部11A及び学習部11Bとして機能する。
【0048】
本実施形態に係る信号処理部11Aは、上述した正常音信号及び異常音信号(以下、「学習用信号」と総称する。)に対してフーリエ変換を行う信号処理(以下、単に「信号処理」)を行う。なお、本実施形態では、学習用信号を、マイク80Aによって予め得られて登録された正常音信号及び異常音信号を、後述する学習用信号データベース32A(図5も参照。)から読み出すことにより取得する。但し、この形態に限るものではなく、インターネット等において公開されている正常音信号及び異常音信号を、ネットワークN等を介して取得する形態としてもよい。
【0049】
そして、本実施形態に係る学習部11Bは、信号処理部11Aによって信号処理された学習用信号を入力情報とし、上述した閾値情報を出力情報として閾値推定モデル13Cの機械学習を行う。なお、本実施形態では、閾値情報も、後述する学習用信号データベース32Aから読み出すことにより取得するが、これに限るものでないことは言うまでもない。
【0050】
次に、図4を参照して、本実施形態に係る異音検知装置10の、閾値推定モデル13Cの運用時における機能的な構成について説明する。図4は、本実施形態に係る異音検知装置10の、閾値推定モデル13Cの運用時における機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【0051】
図4に示すように、閾値推定モデル13Cの運用時における異音検知装置10は、学習時において適用したものと同様の信号処理部11Aに加えて、調整部11C及び検知部11Dを含む。異音検知装置10のCPU11が異音検知プログラム13Bを実行することで、信号処理部11A、調整部11C、及び検知部11Dとして機能する。
【0052】
本実施形態に係る信号処理部11Aは、マイク80Aによって検出した音声信号に対して上述した信号処理を行う。この信号処理部11Aによる信号処理後の音声信号が、機械学習済みの閾値推定モデル13Cに入力される。これに応じて、閾値推定モデル13Cからは上述した閾値情報が出力される。
【0053】
そこで、本実施形態に係る調整部11Cは、閾値推定モデル13Cから出力された閾値情報が示す閾値を、環境センサ80B及び気象情報サーバ90から取得された環境情報を用いて調整する。
【0054】
本実施形態に係る調整部11Cでは、風速が基準環境条件として適用した風速(本実施形態では、5(m/s))より大きい場合、風速が大きくなるほど閾値を大きくする調整を行う。これに対し、本実施形態に係る調整部11Cでは、風速が基準環境条件として適用した風速より小さい場合、風速が小さくなるほど閾値を小さくする調整を行う。
【0055】
そして、本実施形態に係る調整部11Cでは、天気が雨、みぞれ、あられ、雹、雷等の音を伴うものである場合には、風速に基づく調整後の閾値に対して、更に、天気の種類によって予め定められた値だけ加算する。
【0056】
なお、これらの閾値の調整で加減する各種値は、当該値を適用することで、閾値が対応する環境条件に応じて調整されるものとして、実際の設備や、当該設備の設計仕様を用いたコンピュータ・シミュレーション等によって予め得られた値を適用している。但し、この形態に限るものではなく、例えば、上記各種値を、異音検知装置10に要求される異常の検出の精度等に応じて、ユーザに入力させる形態としてもよい。また、閾値の調整方法は以上の方法に限るものではなく、例えば、天気の影響を加味することなく、風速の影響のみを加味して調整する形態としてもよい。
【0057】
そして、本実施形態に係る検知部11Dは、調整部11Cによって調整された閾値を用いて、異音を検知する。なお、本実施形態では、検知部11Dによる検知結果を、表示部15による表示によって提示しているが、これに限るものではない。例えば、画像形成装置による印刷による提示や、音声再生装置による音声による提示を、検知部11Dによる検知結果の提示として適用する形態としてもよい。
【0058】
次に、図5を参照して、本実施形態に係る学習用信号データベース32Aについて説明する。図5は、本実施形態に係る学習用信号データベース32Aの構成の一例を示す模式図である。
【0059】
図5に示すように、本実施形態に係る学習用信号データベース32Aは、設備ID(Identification)、正常音信号、異常音信号、及び閾値の各情報が関連付けられて記憶される。
【0060】
上記設備IDは、異音検知システム1が管理対象としているエネルギー設備80の各々を識別するために、エネルギー設備80の各々毎に異なるものとして予め付与された情報である。また、上記正常音信号、上記異常音信号、及び上記閾値は、各々、上述した正常音信号、異常音信号、及び閾値そのものを示す情報である。
【0061】
なお、本実施形態では、上記閾値情報として、対応する正常音信号が示す音と、対応する異常音信号が示す音とを区分することができる値として、人によって指定された値を適用しているが、これに限るものではない。例えば、対応する正常音信号の所定期間当たりの平均レベルと、対応する異常音信号の当該所定期間当たりの平均レベルとの中央値を、上記閾値情報として自動的に適用する形態としてもよい。
【0062】
次に、図6図8を参照して、本実施形態に係る異音検知装置10の作用を説明する。まず、図6を参照して、学習処理を実行する場合の異音検知装置10の作用を説明する。図6は、本実施形態に係る学習処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、ここでは、錯綜を回避するために、学習処理に必要とされる量の情報が登録された学習用信号データベース32Aが予め構築済みである場合について説明する。
【0063】
異音検知装置10のユーザ等により、入力部14を介して学習処理の実行を指示する指示入力が行われた場合に、異音検知装置10のCPU11が学習プログラム13Aを実行することにより、図6に示す学習処理が実行される。
【0064】
図6のステップ100で、CPU11は、異音検知システム1が管理対象としている何れかのエネルギー設備80(以下、「処理対象設備」という。)について、1組分の正常音信号、異常音信号、及び閾値の各情報(以下、「処理対象情報」という。)を学習用信号データベース32Aから読み出す。ステップ102で、CPU11は、読み出した正常音信号及び異常音信号に対して上述した信号処理を行う。
【0065】
ステップ104で、CPU11は、信号処理を経た正常音信号及び異常音信号を入力情報とし、読み出した閾値を示す情報を出力情報(正解情報)として、閾値推定モデル13Cを機械学習する。
【0066】
ステップ106で、CPU11は、学習用信号データベース32Aに記憶されている全ての情報についてステップ104による機械学習が終了したか否かを判定し、否定判定となった場合はステップ100に戻る一方、肯定判定となった場合はステップ108に移行する。なお、ステップ100~ステップ106の処理を繰り返し実行する際に、CPU11は、それまでに処理対象としなかった情報を処理対象情報とする。
【0067】
ステップ108で、CPU11は、全てのエネルギー設備80についてステップ100~ステップ106の処理が終了したか否かを判定し、否定判定となった場合はステップ100に戻る一方、肯定判定となった場合は本学習処理を終了する。なお、ステップ100~ステップ108の処理を繰り返し実行する際に、CPU11は、それまでに処理対象としなかったエネルギー設備80を処理対象設備とする。
【0068】
以上の学習処理により、閾値推定モデル13Cが学習されることになる。
【0069】
次に、図7図8を参照して、異音検知処理を実行する場合の異音検知装置10の作用を説明する。図7は、本実施形態に係る異音検知処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0070】
予め定められたタイミング(本実施形態では、毎日の1時間刻みのタイミング)で、異音検知装置10のCPU11が異音検知プログラム13Bを実行することにより、図7に示す異音検知処理が実行される。なお、ここでは、閾値推定モデル13Cの学習が終了している場合について説明する。
【0071】
図7のステップ200で、CPU11は、異音検知システム1が管理対象としている何れかのエネルギー設備80(処理対象設備)について、マイク80Aからリアルタイムで取得される音声信号であり、上述した信号処理を経た音声信号(以下、「処理対象音声信号」という。)の、対応する閾値推定モデル13Cへの入力を開始する。
【0072】
ステップ202で、CPU11は、処理対象音声信号の入力に応じて閾値推定モデル13Cから出力された閾値情報を取得し、ステップ204で、CPU11は、この時点における環境情報を、対応する環境センサ80B、及び気象情報サーバ90から取得する。
【0073】
ステップ206で、CPU11は、取得した環境情報を用いて、閾値推定モデル13Cから取得した閾値情報が示す閾値を上述したように調整する。
【0074】
ステップ208で、CPU11は、処理対象音声信号と、調整後の閾値とを比較することで、異音が発生しているか否かを判定し、否定判定となった場合はステップ214に移行する一方、肯定判定となった場合はステップ210に移行する。
【0075】
ステップ210で、CPU11は、予め定められた構成とされた異常提示画面を表示するように表示部15を制御し、ステップ212で、CPU11は、所定情報が入力されるまで待機する。
【0076】
図8には、本実施形態に係る異常提示画面の一例が示されている。図8に示すように、本実施形態に係る異常提示画面では、対象とする設備に異常が生じている可能性がある旨を示すメッセージが表示されると共に、対象とする設備を示す情報、及び異音が発生している旨が表示される。従って、ユーザは、異常提示画面を参照することで、これらの情報を把握することができる。
【0077】
一例として図8に示す異常提示画面が表示部15に表示されると、ユーザは、表示内容を確認した後、入力部14を介して終了ボタン15Aを指定する。これに応じて、ステップ212が肯定判定となって、ステップ214に移行する。
【0078】
ステップ214で、CPU11は、予め定められた終了タイミングが到来したか否かを判定し、否定判定となった場合はステップ202に戻る一方、肯定判定となった場合はステップ216に移行する。なお、本実施形態では、上記終了タイミングとして、1分間毎のタイミングを適用しているが、これに限るものでないことは言うまでもない。
【0079】
ステップ216で、CPU11は、ステップ200の処理で開始した、対応する閾値推定モデル13Cへの処理対象音声信号の入力を終了する。ステップ218で、CPU11は、全てのエネルギー設備80についてステップ200~ステップ216の処理が終了したか否かを判定し、否定判定となった場合はステップ200に戻る一方、肯定判定となった場合は本異音検知処理を終了する。なお、ステップ200~ステップ218の処理を繰り返し実行する際に、CPU11は、それまでに処理対象としなかったエネルギー設備80を処理対象設備とする。
【0080】
以上説明したように、本実施形態によれば、対象物が設けられている環境における音を検出する一方、上記環境における予め定められた種類の環境条件を示す環境情報を検出し、検出した環境情報を用いて、対象物からの異音を検知する際に用いる閾値を調整し、調整した閾値を用いて、異音を検知している。従って、環境的な条件による影響を低減させ、より高精度に異音の検知を行うことができる。
【0081】
また、本実施形態によれば、閾値を、対象物が正常である場合に検出した音を示す正常音信号、及び対象物が異常である場合に検出した音を示す異常音信号の各々をフーリエ変換して得られた信号を入力情報とし、当該閾値を示す閾値情報を出力情報として予め機械学習された閾値推定モデルを用いて導出されたものとしている。従って、閾値推定モデルを用いない場合に比較して、より高精度に異音の検知を行うことができる。
【0082】
また、本実施形態によれば、環境情報を、天候に関する天候情報及び環境値に関する環境値情報の少なくとも一方を含むものとしている。従って、含めた情報に応じて閾値を調整することができる。
【0083】
さらに、本実施形態によれば、天候情報を、天気を示す天気情報を含み、環境値情報を、風速、風向、及び湿度の少なくとも1つを含むものとしている。従って、含めた情報に応じて閾値を調整することができる。
【0084】
なお、上記実施形態では、環境情報における天候情報及び環境値情報を、気象情報サーバ90及び環境センサ80Bから取得する場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、インターネット等において公開されている情報から天候情報及び環境値情報を取得する形態としてもよい。
【0085】
また、上記実施形態では、AIを用いて調整部11Cによる調整前の閾値を導出する場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、回帰分析等の統計的手法を用いて閾値を導出する形態としてもよいし、基準環境条件における閾値を、対応するエネルギー設備80の各々毎にユーザが設定する形態としてもよい。
【0086】
また、上記実施形態では、閾値推定モデル13Cを用いて調整部11Cによる調整前の閾値を導出する場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、閾値推定モデル13Cを用いて調整後の閾値を導出する形態としてもよい。この場合、想定し得る環境条件毎に閾値推定モデル13Cを構築し、実際の環境条件に合致するか、又は最も近い環境条件に対応する閾値推定モデル13Cを用いて調整後の閾値を導出する形態を例示することができる。
【0087】
また、上記実施形態において、例えば、信号処理部11A、学習部11B、調整部11C、及び検知部11Dの各処理を実行する処理部(processing unit)のハードウェア的な構造としては、次に示す各種のプロセッサ(processor)を用いることができる。上記各種のプロセッサには、前述したように、ソフトウェア(プログラム)を実行して処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPUに加えて、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が含まれる。
【0088】
処理部は、これらの各種のプロセッサのうちの1つで構成されてもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGAの組み合わせや、CPUとFPGAとの組み合わせ)で構成されてもよい。また、処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。
【0089】
処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、クライアント及びサーバ等のコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)等に代表されるように、処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサの1つ以上を用いて構成される。
【0090】
更に、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造としては、より具体的には、半導体素子などの回路素子を組み合わせた電気回路(circuitry)を用いることができる。
【符号の説明】
【0091】
1 異音検知システム
10 異音検知装置
11 CPU
11A 信号処理部
11B 学習部
11C 調整部
11D 検知部
12 メモリ
13 記憶部
13A 学習プログラム
13B 異音検知プログラム
13C 閾値推定モデル
14 入力部
15 表示部
16 媒体読み書き装置
17 記録媒体
18 通信I/F部
30 情報蓄積装置
32 記憶部
32A 学習用信号データベース
70 エネルギー供給会社
80 エネルギー設備
80A マイク
80B 環境センサ
90 気象情報サーバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8