(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020997
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】スライド式切換弁
(51)【国際特許分類】
F16K 27/04 20060101AFI20240207BHJP
F16K 11/065 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
F16K27/04
F16K11/065 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123607
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】中野 誠一
(72)【発明者】
【氏名】笠井 宣
【テーマコード(参考)】
3H051
3H067
【Fターム(参考)】
3H051AA03
3H051BB10
3H051CC11
3H051DD07
3H051FF15
3H067AA15
3H067CC60
3H067DD05
3H067DD12
3H067DD32
3H067EA24
3H067EB12
3H067EC13
3H067FF11
3H067GG23
3H067GG24
(57)【要約】
【課題】本発明は、樹脂製の弁本体と、弁本体とスリーブとを接続する金属製の部材と、の密着強度を向上させ、弁本体内部の気密性を確保しやすいスライド式切換弁を得ることを目的とする。
【解決手段】スライド式切換弁100は、円筒状の弁本体1と、弁本体1の軸線L方向一端側に配置される金属製円筒状のスリーブ51と、スリーブ51の開口端縁と弁本体1の開口端縁とを接続する接続部2と、を備えている。接続部2は、弁本体1に対して軸線L方向にインサート成形された円筒状のインサート部21Aを備えている。インサート部21Aの周面には、軸線L方向に向かって接続部2が抜ける力に抗する力が加わる方向に、弁本体1の樹脂内部と接触する第一接触部S1と、弁本体1の径方向Xに向かって弁本体1の樹脂内部と接触する第二接触部S2と、が設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の弁本体と、前記弁本体の軸線方向一端側に配置される金属製円筒状のスリーブと、前記スリーブの開口端縁と前記弁本体の開口端縁とを接続する接続部と、を備え、
前記接続部は、前記弁本体に対して軸線方向にインサート成形された円筒状のインサート部を備え、
前記インサート部の周面には、前記軸線方向に向かって前記接続部が抜ける力に抗する力が加わる方向に、前記弁本体の樹脂内部と接触する第一接触部と、前記弁本体の径方向に向かって前記弁本体の樹脂内部と接触する第二接触部と、が設けられていることを特徴とするスライド式切換弁。
【請求項2】
前記インサート部の周面には、前記弁本体の周方向に向かって前記弁本体の樹脂内部と接触する第三接触部がさらに設けられていることを特徴とする請求項1に記載のスライド式切換弁。
【請求項3】
前記インサート部の周面には、凹部が形成され、
前記第一接触部は、前記凹部の側面のうち、前記軸線方向を向く横面であり、
前記第三接触部は、前記凹部の側面のうち、前記周方向を向く縦面であることを特徴とする請求項2に記載のスライド式切換弁。
【請求項4】
前記インサート部の周面には、凸部が形成され、
前記第一接触部は、前記凸部の側面のうち、前記軸線方向を向く横面であり、
前記第三接触部は、前記凸部の側面のうち、前記周方向を向く縦面であることを特徴とする請求項2に記載のスライド式切換弁。
【請求項5】
前記インサート部の周面には、貫通孔が形成され、
前記第一接触部は、前記貫通孔の内周面のうち、前記軸線方向を向く横面であり、
前記第三接触部は、前記貫通孔の内周面のうち、前記周方向を向く縦面であることを特徴とする請求項2に記載のスライド式切換弁。
【請求項6】
前記インサート部の周面には、凹部、凸部、および貫通孔のうち少なくとも1つが設けられ、
前記インサート部に設けられた前記凹部、前記凸部、および前記貫通孔の少なくとも1つによって、前記第一接触部および前記第三接触部が構成されていることを特徴とする請求項2に記載のスライド式切換弁。
【請求項7】
前記第一接触部および前記第二接触部は、前記弁本体の周方向に等間隔をあけて複数設けられていることを特徴とする請求項1に記載のスライド式切換弁。
【請求項8】
前記第一接触部および前記第三接触部は、前記周方向に等間隔をあけて複数設けられていることを特徴とする請求項6に記載のスライド式切換弁。
【請求項9】
前記第一接触部の前記周方向における最大の長さの総和は、前記インサート部の前記周方向の長さの1/2未満であることを特徴とする請求項7又は8に記載のスライド式切換弁。
【請求項10】
前記インサート部は、前記軸線方向に延びる第一インサート部と、前記第一インサート部の前記軸線方向の一端部に連続して前記径方向の外側に延びる第二インサート部と、を備え、
前記接続部は、前記インサート部と、前記第二インサート部に連続して前記径方向の外側に延び前記弁本体から露出する連結部と、前記連結部の外端縁に連続し前記弁本体の側面に沿って前記軸線方向に延び、内面が前記弁本体の内部を向く板部と、を備えていることを特徴とする請求項1又は6に記載のスライド式切換弁。
【請求項11】
前記インサート部には、前記径方向に折り曲がる折返し部が設けられ、
前記第一接触部および前記第二接触部と、前記折返し部と、は、前記軸線方向の異なる位置に配置されていることを特徴とする請求項1又は6に記載のスライド式切換弁。
【請求項12】
前記インサート部の周面には、凹凸状の粗面が形成されていることを特徴とする請求項1又は6に記載のスライド式切換弁。
【請求項13】
前記接続部は、前記スリーブに接続される円筒状の上蓋と、
前記上蓋に接続される下蓋と、を備え、
前記下蓋は、前記インサート部と、前記連結部と、前記板部と、を備え、
前記上蓋と前記下蓋とは、前記上蓋の前記軸線方向の一端部と、前記板部の前記軸線方向の一端部とを溶接固定した部分を溶接部として一体となっていることを特徴とする請求項10に記載のスライド式切換弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライド式切換弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷凍サイクルなどにおいて用いられるスライド式切換弁として、流体の流路を切り換える四方弁が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の四方弁には、内部に弁室を構成する円筒状の弁箱(以下、弁本体という)と、弁本体の開口端縁に固定される平面視円形の接続板と、接続板を介して固定される非磁性のスリーブと、が設けられており、スリーブの外周には、コイルと磁性材のヨークとが設けられて駆動部の一部が構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載されたようなスライド式切換弁では、弁本体を樹脂材料で成形する一方、スリーブおよび接続板を金属で形成することがある。この場合、接続板をインサート成形によって弁本体に固定し、この接続板を介して弁本体とスリーブとを接続することが考えられる。しかしながら、弁本体内部は、高圧の冷媒によって外部よりも高圧となっているため、圧力差によって弁本体の内面には外方に向かって力が加わる。この力が作用する方向によっては、接続板と弁本体の樹脂内部とが互いに接触する接触面が剥離してしまうおそれがあった。したがって、樹脂部品である弁本体と、金属部品である接続板と、の密着性を確保することが難しく、弁本体内部の気密性を保つことが難しい。
【0005】
本発明の目的は、樹脂製の弁本体と、弁本体とスリーブとを接続する金属製の部材と、の密着強度を向上させ、弁本体内部の気密性を確保しやすいスライド式切換弁を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決し目的を達成するために、本発明のスライド式切換弁は、円筒状の弁本体と、前記弁本体の軸線方向一端側に配置される金属製円筒状のスリーブと、前記スリーブの開口端縁と前記弁本体の開口端縁とを接続する接続部と、を備え、前記接続部は、前記弁本体に対して軸線方向にインサート成形された円筒状のインサート部を備え、前記インサート部の周面には、前記軸線方向に向かって前記接続部が抜ける力に抗する力が加わる方向に、前記弁本体の樹脂内部と接触する第一接触部と、前記弁本体の径方向に向かって前記弁本体の樹脂内部と接触する第二接触部と、が設けられていることを特徴とする。
【0007】
このような本発明によれば、弁本体には、軸線方向にインサート成形された円筒状のインサート部が設けられ、インサート部には、第一接触部と、第二接触部と、が設けられている。インサート部は、軸線方向にインサート成形されていることにより、弁本体の樹脂内部との接触面積を、軸線方向に大きくすることができる。そして、第一接触部と、第二接触部と、により、軸線方向に向かって接続部が抜ける力に抗する力が加わる方向、および弁本体の径方向のいずれにおいても、インサート部は弁本体の樹脂内部と接触でき、その接触面において、化学的結合力や微細な凹凸によって生じる機械的引っかかり効果(以下、アンカー効果ともいう)が低減してしまうことを抑制することができる。このため、弁本体の内外の圧力差により、弁本体の内面に対して外方に向かって力が加わった際の、上記接触面の剥離を防止することができる。したがって、樹脂製の弁本体と、弁本体とスリーブとを接続する金属製の部材と、の密着強度を向上させ、弁本体内部の気密性を確保しやすいスライド式切換弁を得ることができる。
【0008】
また、この際、前記インサート部の周面には、前記弁本体の周方向に向かって前記弁本体の樹脂内部と接触する第三接触部がさらに設けられていることが好ましい。このような構成によれば、第三接触部により、弁本体の周方向においても、インサート部は弁本体の樹脂内部と接触できるので、その接触面における上述のアンカー効果が低減してしまうことを、さらに抑制することができる。
【0009】
また、前記インサート部の周面には、凹部が形成され、前記第一接触部は、前記凹部の側面のうち、前記軸線方向を向く横面であり、前記第三接触部は、前記凹部の側面のうち、前記周方向を向く縦面であってもよい。このような構成によれば、インサート部の周面に、例えば、プレス成形等により凹部を形成するなどして、容易に第一接触部および第三接触部を設け、インサート部と弁本体の樹脂内部との接触面積を増大させることができる。そして、このような凹部を設けた場合、凹部の底面は、上述の第二接触部とすることができるので、凹部を形成しても、インサート部において第二接触部の面積が小さくなることを抑制することができる。すなわち、第二接触部の面積を維持しつつ、インサート部と弁本体の樹脂内部との接触面積を、軸線方向および周方向に増大させることができる。
【0010】
また、前記インサート部の周面には、凸部が形成され、前記第一接触部は、前記凸部の側面のうち、前記軸線方向を向く横面であり、前記第三接触部は、前記凸部の側面のうち、前記周方向を向く縦面であってもよい。このような構成によれば、インサート部の周面に、例えば、プレス成形等により凸部を形成するなどして、容易に第一接触部および第三接触部を設け、インサート部と弁本体の樹脂内部との接触面積を増大させることができる。そして、このような凸部を設けた場合、凸部の頂面は、上述の第二接触部とすることができるので、凸部を形成しても、インサート部において第二接触部の面積が小さくなることを抑制することができる。すなわち、第二接触部の面積を維持しつつ、インサート部と弁本体の樹脂内部との接触面積を、軸線方向および周方向に増大させることができる。
【0011】
また、前記インサート部の周面には、貫通孔が形成され、前記第一接触部は、前記貫通孔の内周面のうち、前記軸線方向を向く横面であり、前記第三接触部は、前記貫通孔の内周面のうち、前記周方向を向く縦面であってもよい。このような構成によれば、インサート部の周面に、孔あけ加工等により貫通孔を形成するなどして、容易に第一接触部および第三接触部を設け、インサート部と弁本体の樹脂内部との接触面積を、軸線方向および周方向に増大させることができる。
【0012】
また、前記インサート部の周面には、凹部、凸部、および貫通孔のうち少なくとも1つが設けられ、前記インサート部に設けられた前記凹部、前記凸部、および前記貫通孔の少なくとも1つによって、前記第一接触部および前記第三接触部が構成されていてもよい。このような構成によれば、凹部、凸部、および貫通孔のうち少なくとも1つをインサート部の周面に設け、このインサート部に設けられた凹部、凸部、および貫通孔の少なくとも1つにより、第一接触部および第三接触部を構成することができる。
【0013】
また、前記第一接触部および前記第二接触部は、前記弁本体の周方向に等間隔をあけて複数設けられていることが好ましい。このような構成によれば、上述のように弁本体の内面に対して加わる力を、円筒状のインサート部の周方向に等間隔をあけて複数設けられた第一接触部および第二接触部で受けることができるので、当該力を均等に分散させることができる。このため、特定の箇所に応力等が集中することで、弁本体と接続部とが剥離することを防止することができる。
【0014】
また、前記第一接触部および前記第三接触部は、前記周方向に等間隔をあけて複数設けられていることが好ましい。このような構成によれば、上述のように弁本体の内面に対して加わる力を、円筒状のインサート部の周方向に等間隔をあけて複数設けられた第一接触部および第三接触部で受けることができるので、当該力を均等に分散させることができる。このため、特定の箇所に応力等が集中することで、弁本体と接続部とが剥離することを防止することができる。
【0015】
また、前記第一接触部の前記周方向における最大の長さの総和は、前記インサート部の前記周方向の長さの1/2未満であることが好ましい。このような構成によれば、第一接触部の周方向における最大の長さの総和が、インサート部の周方向の長さの1/2未満に抑えられるので、インサート部の体積を確保することができ、第一接触部を設けたことによるインサート部の強度低下を抑制することができる。
【0016】
また、前記インサート部は、前記軸線方向に延びる第一インサート部と、前記第一インサート部の前記軸線方向の一端部に連続して前記径方向の外側に延びる第二インサート部と、を備え、前記接続部は、前記インサート部と、前記第二インサート部に連続して前記径方向の外側に延び前記弁本体から露出する連結部と、前記連結部の外端縁に連続し前記弁本体の側面に沿って前記軸線方向に延び、内面が前記弁本体の内部を向く板部と、を備えていることが好ましい。このような構成によれば、弁本体の内面に対して加わる上述の力を、弁本体から露出した連結部と、板部と、によって、受けることができる。すなわち、前記外端縁を板部が変形する起点にすることができる。このため、当該力が、インサート部にまで及ぶことを防止することができ、これによってインサート部と弁本体の樹脂内部との接触面が剥離することを防止することができる。したがって、弁本体と接続部の密着性をより向上させることができる。
【0017】
また、前記インサート部には、前記径方向に折り曲がる折返し部が設けられ、前記第一接触部および前記第二接触部と、前記折返し部と、は、前記軸線方向の異なる位置に配置されていることが好ましい。このような構成によれば、軸線方向の異なる位置に配置される折返し部と第一接触部および第二接触部とで、上述のように弁本体の内面に対して加わる力を、受けることができるので、当該力を分散させることができる。このため、特定の箇所に応力等が集中することで、弁本体と接続部とが剥離することを防止することができる。
【0018】
また、前記インサート部の周面には、凹凸状の粗面が形成されていることが好ましい。このような構成によれば、インサート部の周面に形成された粗面の隙間に弁本体の樹脂が入り込むことにより、弁本体と接続部との接触面積を増大させることができるので、弁本体と接続部の密着性を向上させることができる。
【0019】
また、前記接続部は、前記スリーブに接続される円筒状の上蓋と、前記上蓋に接続される下蓋と、を備え、前記下蓋は、前記インサート部と、前記連結部と、前記板部と、を備え、前記上蓋と前記下蓋とは、前記上蓋の前記軸線方向の一端部と、前記板部の前記軸線方向の一端部とを溶接固定した部分を溶接部として一体となっていることが好ましい。このような構成によれば、上蓋と下蓋は、上蓋の軸線方向の一端部と板部の軸線方向の一端部とを溶接固定して一体となっている。すなわち、弁本体に埋設されるインサート部ではない板部と上蓋の端部とで溶接部を構成することになるので、溶接固定時の溶接熱の影響を、接続部のうち弁本体に埋設される部分に及びにくくすることができる。したがって、溶接熱による弁本体の膨張や収縮等を抑制でき、これによって弁本体と接続部との剥離を抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、樹脂製の弁本体と、弁本体とスリーブとを接続する金属製の部材と、の密着強度を向上させ、弁本体内部の気密性を確保しやすいスライド式切換弁を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係るスライド式切換弁を流路切換弁として用いた冷凍サイクルシステムの、冷房時の状態を示す概略図。
【
図2】前記冷凍サイクルシステムの、暖房時の状態を示す概略図。
【
図7】(A)は、接続部の側面図であり、(B)は、
図7(A)のD-D線矢視断面図。
【
図8】(A)~(C)は、第二実施形態における接続部のバリエーションを示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を
図1~7に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態に係るスライド式切換弁100は、冷凍サイクルなどにおいて圧縮機200、室外熱交換器300、室内熱交換器500と、接続され、これらの機器に流れる冷媒の流路を切り換える切換弁である。スライド式切換弁100は、円筒状の弁本体1と、弁本体1の開口端縁に固定される接続部2と、弁本体1内に固定される弁座部3と、弁本体1の内部にて軸線L方向にスライド自在に設けられる弁体4と、弁体4をスライド駆動する駆動部5と、を備えている。
【0023】
なお、本実施形態の説明では、弁本体1の軸線L方向において後述する駆動部5のスリーブ51のある側を軸線L方向一方側とし、軸線L方向一方側の反対側を軸線L方向他方側とする。また、軸線L方向一方側は、一方側L1と記す場合があり、軸線L方向他方側は、他方側L2と記す場合がある。また、軸線L方向に直交する方向を径方向とし、軸線Lまわりの方向を周方向とする。径方向は、径方向Xと記す場合があり、周方向は、周方向Yと記す場合がある。
【0024】
図1に示すように、弁本体1は、円形の底壁10と、底壁10の周縁部から一方側L1に延びる側壁11と、を備え、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等を材料として樹脂成形により有底筒状(すなわち、円筒状)に形成されている。弁本体1の内部は、弁室1aを構成している。底壁10には、弁室1aの内外に連通するDポート1dが形成されている。Dポート1dは、軸線L方向に延びるD接続流路1d1、後述するD連通路6d、およびD継手管1d2を介して圧縮機200の吐出孔と連通している。
【0025】
側壁11には、弁室1aの内外に連通する複数の流路として、E接続流路1e、S接続流路1s、C接続流路1cが、一方側L1からこの順に軸線L方向に沿って形成されている。E接続流路1eは、後述するE切換ポート3eとE連通路6e、およびE継手管1e1を介して、室内熱交換器500(蒸発器または凝縮器)に連通している。S接続流路1sは、後述するSポート3sとS連通路6s、およびS継手管1s1を介して圧縮機200の吸入孔と連通している。C接続流路1cは、後述するC切換ポート3cとC連通路6c、およびC継手管1c1を介して、室外熱交換器300(凝縮器または蒸発器)と連通している。
【0026】
なお、本実施形態では、E接続流路1eは、E切換ポート3e、E連通路6e、およびE継手管1e1を介して室内熱交換器500に接続され、室内熱交換器500と連通し、C接続流路1cは、C切換ポート3c、C連通路6c、およびC継手管1c1を介して室外熱交換器300に接続され、室外熱交換器300と連通しているが、E接続流路1eおよびC接続流路1cの接続先は、逆になっていてもよい。すなわち、E接続流路1eと室外熱交換器300とを接続させ、C接続流路1cと室内熱交換器500とを接続させてもよい。
【0027】
接続部2は、弁本体1と後述するスリーブ51とを接続する金属製の部材であり、インサート成形により弁本体1の一方側L1の開口端縁に固定されている。接続部2は、略円筒状の上蓋20と、上蓋20に接続される略円筒状の下蓋21と、を備えている。上蓋20の一方側L1の開口端縁は、スリーブ51の他方側L2の開口端縁に溶接固定されている。上蓋20の他方側L2の開口端縁は、径方向Xに向かって拡径して形成されている。
【0028】
下蓋21は、弁本体1に対して軸線L方向にインサート成形された(すなわち、弁本体1に埋設された)インサート部21Aと、インサート部21Aに連続して径方向X外側に延び、弁本体1から露出する連結部21Bと、連結部21Bの外端縁に連続し、弁本体1の側面に沿って軸線L方向に延び、内面が弁本体1の内部を向く板部21Cと、インサート部21Aの他方側L2の端部に形成された折返し部21Dと、を備えている。
【0029】
図4に示すように、上蓋20と下蓋21とは、上蓋20の他方側L2の開口端縁(上蓋20の軸線L方向の一端部)と、下蓋21の板部21Cの一方側L1の開口端縁(板部21Cの軸線L方向の一端部)と、を溶接固定した部分を溶接部Wとして、一体となっている。
【0030】
このように形成された弁本体1および接続部2は、
図1および2に示すように、ハウジング6に収容されている。ハウジング6は、中心部に軸線Lと同軸でかつ弁本体1の外径よりも大きな内径を有する収容孔6aを備えており、この収容孔6aに弁本体1および接続部2が軸線L方向に挿入されている。ハウジング6の底壁には、上述のDポート1dおよびD接続流路1d1に連通するD連通路6dが形成されている。D連通路6dには、D継手管1d2が設置されている。ハウジング6の側壁には、上述のE接続流路1e、S接続流路1s、C接続流路1cにそれぞれ連通する複数の連通路として、E連通路6e、S連通路6s、C連通路6cが、一方側L1からこの順に軸線L方向に沿って形成されている。各連通路6e、6s、6cの連通先は上述のとおりであるため、その説明は省略する。
【0031】
なお、
図1、2において、符号Gは、弁本体1の外周壁および収容孔6aの内周壁のいずれかに、所定間隔で軸線L方向の複数の位置に形成された溝部であり、符号7は、溝部Gに配置されたОリング等のシール部材である。また、符号8は、上蓋20に当接して弁本体1が一方側L1に移動するのを規制する止め輪である。
【0032】
弁座部3は、
図3に示すように、弁本体1の側壁のうち、E接続流路1e、S接続流路1s、およびC接続流路1cが形成された側壁に設置される部材である。この弁座部3は、薄型金属板で形成され、インサート成形や接着、溶着等により弁本体1の側壁に固定されている。弁座部3の板面には、E接続流路1eに連通するE切換ポート3e、S接続流路1sに連通するSポート3s、C接続流路1cに連通するC切換ポート3cがそれぞれ板厚方向に貫通して形成されている。弁座部3の板面のうち、径方向X内側を向く面は、弁体4の後述するシール部40bと摺接するシール面30を構成している。
【0033】
弁体4は、主にポリフェニレンサルファイド(PPS)等の樹脂製であり、弁本体1の内部にて軸線L方向にスライド自在に設けられている。この弁体4は、上述のDポート1d、E切換ポート3e、Sポート3s、およびC切換ポート3cの連通状態を切り換えるように構成されており、本実施形態では、弁座部3のシール面30に摺接する弁体本体40を備えて構成されている。この弁体本体40は、シール面30に向かって開口する椀状に形成され、その内部は流体の流路となる椀状凹部40aを構成している。弁体本体40の開口端縁は、シール面30に摺接するシール部40bとなっており、その軸線L方向の寸法および幅寸法は、E切換ポート3e、Sポート3s、およびC切換ポート3cのうち、隣り合う2つ分のポートを覆える大きさに設定されている。
【0034】
弁体本体40の一方側L1の端部には、一方側L1に突出し、径方向Xにおいて弁座部3のある側と反対側に開口するフック部41が形成されている。フック部41は、弁体4を駆動部5に接続するための部分であり、駆動部5の後述する雌ねじ部材58の2本の連結腕部58bで径方向Xから挟まれた状態で、フック形状の部分に配置される固定ピン58cと、連結腕部58bおよびフック部41を周方向Yに囲んで締め付ける金属製のクリップ58dと、によって、駆動部5に固定されている。
【0035】
弁体本体40の他方側L2の端部には、Dポート1dに向かって軸線L方向に突出するストッパ42が形成されている。このストッパ42は、その突出端部が弁本体1の底壁10における弁室1a側の面10aと当接することで弁体本体40の他方側L2への移動を規制している。
【0036】
弁体本体40の頂部の先端面と、弁本体1の内周面との間には、弁体4を弁座部3側に付勢する付勢部材43が設置されている。付勢部材43は、例えば、りん青銅当の金属製の材料を用いてプレス加工等により形成された板ばねである。この付勢部材43に付勢されることで、弁体本体40のシール部40bがシール面30に押し付けられ、弁漏れが抑制されている。
【0037】
駆動部5は、弁体4をスライド駆動する部分であり、ステッピングモータ50と、ステッピングモータ50の回転を直線運動に変換して弁体4に伝達する直動機構54と、を備えている。
図1に示すように、ステッピングモータ50は、上蓋20の一方側L1の開口端縁に固定され(弁本体1の軸線L方向一端側に配置され)、駆動部5内を密閉するスリーブ51と、スリーブ51に内蔵される電磁ロータ52と、電磁ロータ52の外周をスリーブ51を挟んで周方向Yに囲む電磁コイル53と、を備えている。スリーブ51は、薄板状の金属材料を用いて有底筒状に形成されており、中心軸が軸線Lと同軸になるようにかつ、開口端縁が他方側L2を向くように配置され、その開口端縁が上蓋20の一方側L1の開口端縁に溶接固定されている。
【0038】
直動機構54は、スリーブ51の一方側L1の内部に配置される軸受部材55と、上蓋20の内周壁に固定されるガイド部材56と、電磁ロータ52の中心に固定された駆動軸としての雄ねじ57と、雄ねじ57の外周面に形成された雄ねじ部57aに螺合する雌ねじ部58a1を有する雌ねじ部材58と、を備えている。すなわち、直動機構54は、互いに螺合する雄ねじ部57aおよび雌ねじ部58a1を有したねじ送り機構として構成されている。
【0039】
軸受部材55は、雄ねじ57を軸線L方向に回転可能に支持する部材であり、円柱状に形成されている。この軸受部材55は、中心軸が弁本体1の軸線Lと同軸になるようにスリーブ51に挿入されている。軸受部材55において雄ねじ57の軸心位置である中心には、他方側L2に向かって開口する第一軸受孔55aが形成されている。第一軸受孔55aには、雄ねじ57の一方側L1の端部が嵌挿されている。
【0040】
ガイド部材56は、有底筒状に形成され、先端部が一方側L1に位置し、底部が他方側L2に位置するように上蓋20の内周壁に固定されている。ガイド部材56は、中心軸が弁本体1の軸線Lと同軸となるように配置されており、この配置によって、上述のスリーブ51、軸受部材55、およびガイド部材56は、いずれも中心軸が弁本体1の軸線Lと同軸となるように配置されている。ガイド部材56の中心には、第一軸受孔55aと軸線L方向に対向する第二軸受孔56aが形成されている。第二軸受孔56aには、雄ねじ57の他方側L2の端部が嵌挿されている。
【0041】
ガイド部材56の底壁において第二軸受孔56aの周囲には、後述する雌ねじ部材58の連結腕部58bを軸線L方向に進退可能に挿通させる一対のガイド孔(不図示)が形成されている。このガイド孔は、雌ねじ部材58を、軸線Lまわりに回転不能かつ軸線L方向に進退ガイドする、軸線L方向に貫通した孔である。
【0042】
雄ねじ57は、電磁ロータ52の中心部に固定され、軸線L方向に延び、電磁ロータ52と一体に軸線Lまわりに回転するように構成されている。上述のとおり、雄ねじ57の外周面には、雄ねじ部57aが形成されている。また、雄ねじ57の一方側L1の端部は、第一軸受孔55aに嵌挿され、雄ねじ57の他方側L2の端部は、第二軸受孔56aに嵌挿されており、これにより、雄ねじ57は、軸線Lまわりに回転できるように軸支されている。
【0043】
雌ねじ部材58は、ガイド部材56内に収容されてその外周壁がガイド部材56の内周壁に摺接する円柱状の基端部58aと、基端部58aから他方側L2に延び、上述のガイド孔を通って弁室1a内に延びる2本の連結腕部58bと、を備えている。基端部58aは、中心軸がガイド部材56の中心軸と同軸になっている。基端部58aの中心には、軸線Lに沿って雌ねじ部58a1が形成されている。雌ねじ部58a1は、雄ねじ部57aに螺合し、雄ねじ57の回転に伴って中心軸と同軸で軸線L方向に進退可能となっている。連結腕部58bは、基端部58aの周縁部の一部からガイド孔を通ってそれぞれ弁室1aまで延びている。各連結腕部58bの先端部は、板面が互いに対向しており、その互いに板面が対向する先端部には、当該板面を共に板厚方向に貫く固定ピン58cが固定されている。
【0044】
このような構成では、ステッピングモータ50の駆動により雄ねじ57が軸線Lまわりに回転すると、その回転に伴って、雌ねじ部材58が軸線L方向に移動する。これにより、雌ねじ部材58の連結腕部58bに固定された弁体4も、雌ねじ部材58の移動に伴って軸線L方向に移動する。このため、例えば、
図1に示す状態では、弁体本体40の椀状凹部40aによってE切換ポート3eとSポート3sとが連通し、弁体本体40の外部でDポート1dとC切換ポート3cとが連通しているが、この状態から弁体本体40が他方側L2に移動し、
図2に示す状態となると、弁体本体40の椀状凹部40aによってC切換ポート3cとSポート3sとが連通し、弁体本体40の外部でDポート1dとE切換ポート3eと、が連通することとなる。
【0045】
次に、スライド式切換弁100を流路切換弁に用いた冷凍サイクルシステムについて説明する。
図1、2は実施形態の冷凍サイクルシステムを示す図であり、空気調和機の冷凍サイクルシステムの例である。空気調和機は、圧縮機200、室外熱交換器300(凝縮器または蒸発器)、膨張弁400、室内熱交換器500(蒸発器または凝縮器)、流路切換弁としてのスライド式切換弁100を有しており、これらの各要素は、それぞれ導管によって図示のように接続され、ヒートポンプ式の冷凍サイクルシステムを構成している。
【0046】
冷凍サイクルシステムの流路は、スライド式切換弁100の弁体4を上記説明のように駆動させることで、冷房運転および暖房運転の2通りの流路に切換えられるようになっている。
図1に示す冷房運転時には、スライド式切換弁100において弁体4が一方側L1に移動し、弁体本体40によりSポート3sがE切換ポート3eに接続され、Dポート1dがC切換ポート3cに接続される。そして、図に矢印で示すように、圧縮機200で圧縮された流体としての冷媒がスライド式切換弁100のDポート1dに流入してC切換ポート3cから室外熱交換器300に流入し、室外熱交換器300から流出する冷媒が、膨張弁400に流入する。そして、この膨張弁400で冷媒が膨張され、室内熱交換器500に供給される。室内熱交換器500から流出する冷媒は、スライド式切換弁100でE切換ポート3eからSポート3sに流れ、Sポート3sから圧縮機200へ循環される。
【0047】
図2の暖房運転時には、スライド式切換弁100において弁体4が他方側L2に移動し、弁体本体40によりSポート3sがC切換ポート3cに接続され、Dポート1dがE切換ポート3eに接続される。そして、図に矢印で示すように、圧縮機200で圧縮された冷媒がスライド式切換弁100のDポート1dに流入してE切換ポート3eから室内熱交換器500に流入し、室内熱交換器500から流出する冷媒が、膨張弁400に流入する。そして、この膨張弁400で冷媒が膨張され、室外熱交換器300に供給される。室外熱交換器300から流出する冷媒は、スライド式切換弁100でC切換ポート3cからSポート3sに流れ、Sポート3sから圧縮機200へ循環される。
【0048】
なお、図示は省略するが、上述のように、E接続流路1eと室外熱交換器300とを接続させ、C接続流路1cと室内熱交換器500とを接続させていた場合は、弁体4の位置と、冷房運転および暖房運転の関係が本実施形態とは逆になる。すなわち、スライド式切換弁100において弁体4が一方側L1に移動し、弁体本体40によりSポート3sがE切換ポート3eに接続され、Dポート1dがC切換ポート3cに接続された状態では、冷媒が、圧縮機200、C切換ポート3c、室内熱交換器500、膨張弁400、室外熱交換器300、E切換ポート3e、Sポート3s、圧縮機200の順に流れ、暖房運転となる。反対に、スライド式切換弁100において弁体4が他方側L2に移動し、弁体本体40によりSポート3sがC切換ポート3cに接続され、Dポート1dがE切換ポート3eに接続された状態では、冷媒が、圧縮機200、E切換ポート3e、室外熱交換器300、膨張弁400、室内熱交換器500、C切換ポート3c、Sポート3S、圧縮機200の順に流れ、冷房運転となる。
【0049】
このようなスライド式切換弁100では、Dポート1dを介して弁室1a内に高圧の冷媒が流入することで、弁室1a内が非常に高圧となり、弁室1a内外に圧力差が生じやすい。このため、弁本体1の内面には、外方に向かって力が加わりやすく、当該力が作用する向きによっては、材質の異なる弁本体1(樹脂)と接続部2(金属)との接合部にせん断力等が働き、剥離が生じるなど、その気密性を保持することが難しくなっている。そこで、本実施形態では、下蓋21に、当該気密性を確保するための構造が設けられている。この構造を含め、下蓋21の詳細な構造について説明する。
【0050】
下蓋21は、弁本体1に対して軸線L方向にインサート成形されて固定されており、上述のように、インサート部21A、連結部21B、板部21C、折返し部21Dを備えている。インサート部21Aは、詳細には、
図4に示すように、弁本体1の樹脂内部で軸線L方向に延びる第一インサート部21A1と、弁本体1の樹脂内部で第一インサート部21A1の一方側L1の端部(軸線L方向の一端部)に連続して径方向X外側に延びる第二インサート部21A2と、を備えている。連結部21Bは、第二インサート部21A2に連続して径方向X外側に延び弁本体1から露出している。板部21Cは、連結部21Bの外端縁に連続し弁本体1の側面に沿って軸線L方向に延び内面が弁本体1の内部を向いて形成されている。この構成により、
図4に示すように、下蓋21は、その縦断面の形状が、クランク状となり、一方側L1と他方側L2とで径方向Xに段違いとなっている。そして、第一インサート部21A1の径方向X(外側および内側)を向く面と、第二インサート部の軸線L方向(一方側L1および他方側L2)を向く面と、連結部21Bの内周面(すなわち、一方側L1を向く面)と、板部21Cの内周面(すなわち、径方向X内側を向く面)と、は、インサート成形によって弁本体1と接触している。これにより、弁本体1と接触部2の接触面積が増大することで、弁本体1と接触部2の密着性が向上する。
【0051】
第二インサート部21A2の一方側L1を向く面は、弁本体1の内外の圧力差により、接続部2に対して、軸線L方向一方側L1に向かう力(軸線L方向に向かって接続部2が抜ける力)が加わった場合に、当該力を受ける面であり、軸線L方向に略直交して延在することで、接続部2が抜ける力に抗する力が加わる方向に弁本体1の樹脂内部と接触する第一接触部S1を構成している。すなわち、接続部2の軸線L方向において、スリーブ51のある側に向かう面と、弁本体1の軸線L方向において、スリーブ51のある側と反対側に向かう面と、が接触している。なお、本実施形態では、第一接触部S1は、軸線L方向に略直交して延在する面で構成されているが、第一接触部S1の構成は、これに限られない。例えば、第一接触部S1は、軸線L方向に対して傾斜するように交差して延在する面で構成してもよいし、面に限らず、軸線L方向に対して交差する線または点を備える突起などで第一接触部S1を構成してもよい。いずれの構成についても、軸線L方向一方側L1に向かう力(軸線L方向に向かって接続部2が抜ける力)が加わった場合に、当該力を受ける構造を有して弁本体1の樹脂内部と接触していればよい。
【0052】
また、第一インサート部21A1の周面の径方向X内側を向く面および径方向X外側を向く面は、弁本体1の径方向Xに向かって弁本体1の樹脂内部と接触する第二接触部S2を構成している。この第二接触部S2は、弁本体1の内外の圧力差により、接続部2に対して、径方向Xに向かう力(例えば、接続部2と弁本体1の樹脂内部との接触面を径方向Xに剥離する力)が加わった場合に、当該力を受ける面であり、径方向Xに直交して延在している。第二接触部S2についても、第一接触部S1と同様にその構成は限定されない。すなわち、第二接触部S2は、径方向Xに対して傾斜するように交差して延在する面で構成してもよいし、面に限らず、径方向Xに対して交差する線または点を備える突起などで構成してもよい。いずれの構成についても、径方向Xに向かう力が加わった場合に、当該力を受ける構造を有して弁本体1の樹脂内部と接触していればよい。
【0053】
このような構成では、第一接触部S1と第二接触部S2とにより、軸線L方向および径方向Xのいずれについても弁本体1と接続部2との接触面積が十分に確保されるので、その接触面において上述のアンカー効果が低減してしまうことを抑制することができる。このため、弁室1a内の圧力が弁室1a外の圧力よりも上昇した場合に、弁本体1の内面に対して外方に力が加わり、接続部2に対して、軸線L方向や径方向に当該力が作用したとしても、下蓋21は変形しにくく、弁本体1の樹脂内部との接触面にせん断力等の力が生じにくくなっている。
【0054】
また、インサート部21Aの周面には、
図5に示すように、凹凸状の粗面21aが形成されている。粗面21aは、例えば、エッチング、メッキ、蒸着、スパッタリング等の手法を用いて、微細な凹み部21a1、または突起部21a2を設けることで形成されている。凹み部21a1の深さ、または突起部21a2の高さs1は、約10nm~100μmに設定されている。この粗面21aが形成された部分では、凹み部21a1、または突起部21a2の隙間に弁本体1の樹脂が入り込むことにより、弁本体1と接続部2との接触面積が増大するため、弁本体1と接続部2の密着性が向上することとなる。なお、
図5では、第一インサート部21A1の径方向X外側を向く面に形成された粗面21aを示しているが、粗面21aの形成される位置は、これに限らず、インサート部21Aの周面であればどこでもよい。
【0055】
また、インサート部21Aの周面には、
図4に示すように、板厚方向に貫通する貫通孔21bが、貫通形成されている。貫通孔21bは、
図7(A)に示すように、インサート部21Aの側面視で略円形に形成されている。貫通孔21bの内周面のうち、一方側L1を向く横面21b1は、上述の第二インサート部21A2の一方側L1を向く面と同様に、第一接触部S1を構成している。そして、貫通孔21bの内周面のうち、周方向Yを向く縦面21b2は、弁本体1の周方向Yに向かって弁本体1の樹脂内部と接触する第三接触部S3を構成している。このように、貫通孔21bが形成されることで、インサート部21Aにおいて、
図6に示すように、軸線L方向を向く面(
図6では横面21b1(第一接触部S1)のみだが、貫通孔21bの他方側L2を向く面も)の面積が増大する。またインサート部21Aにおいて、周方向Yを向く面(縦面21b2(第三接触部S3))の面積が増大する。これにより、インサート部21Aと弁本体1の樹脂内部との接触面積が、軸線L方向および、周方向Yに増大し、弁本体1と接続部2の密着性が向上する。
【0056】
貫通孔21bの内径寸法s2は、
図7(B)に示すように、インサート部21Aの板厚s3よりも大きく設定されている。これにより、貫通孔21bの内周面と弁本体1の樹脂内部との接触は、インサート部21Aの板厚s3よりも大きな内径寸法s2の範囲で、十分に確保されている。
【0057】
なお、本実施形態では、貫通孔21bは、
図6に示すように、弁本体1の周方向に等間隔をあけて4個形成されている。すなわち、第一接触部S1、および第三接触部S3は、弁本体1の周方向Yに等間隔をあけて複数設けられている。また、これにより、貫通孔21bの形成によって一部が周方向Yに区切られた第二接触部S2が、弁本体1の周方向Yに等間隔をあけて複数設けられていることとなる。このため、弁本体1の内面や接続部2の内面に対して加わる力は、円筒状のインサート部21Aの周方向に等間隔をあけて複数設けられた第一接触部S1や第二接触部S2、または第三接触部S3で受けることができるようになっている。そして、第一接触部S1は、その周方向における最大の長さs4の総和が、インサート部21Aの周方向Yの長さs5の1/2未満になるように設定されている。
【0058】
折返し部21Dは、
図7(B)に示すように、第一インサート部21A1の他方側L2の端部を径方向X内側に折り曲げて形成されている。すなわち、折返し部21Dは、第一接触部S1および第二接触部S2と、軸線L方向の異なる位置に配置されている。なお、折返し部21Dの折り曲げ方向は、径方向X内側に限らず、径方向X外側でもよい。すなわち、折返し部21Dは、インサート部21Aの他方側L2の端部を、径方向Xいずれかの方向に折り曲げることで形成することができる。
【0059】
以上、本実施形態によれば、弁本体1には、軸線L方向にインサート成形された円筒状のインサート部21Aが設けられ、インサート部21Aには、第一接触部S1と、第二接触部S2と、が設けられている。インサート部21Aは、軸線L方向にインサート成形されていることにより、弁本体1の樹脂内部との接触面積を、軸線L方向に大きくすることができる。そして、第一接触部S1と、第二接触部S2と、により、軸線L方向に向かって接続部2が抜ける力に抗する力が加わる方向、および弁本体1の径方向Xのいずれにおいても、インサート部21Aは弁本体1の樹脂内部と接触でき、その接触面において、上述のアンカー効果が低減してしまうことを抑制することができる。このため、弁本体1の内外の圧力差により、弁本体1の内面に対して外方に向かって力が加わった際の、上記接触面の剥離を防止することができる。したがって、樹脂製の弁本体1と、接続部2(弁本体1とスリーブ51とを接続する金属製の部材)と、の密着強度を向上させ、弁本体1内部の気密性を確保しやすいスライド式切換弁100を得ることができる。
【0060】
また、第三接触部S3により、弁本体1の周方向Yにおいても、インサート部21Aは弁本体1の樹脂内部と接触できるので、その接触面における上述のアンカー効果が低減してしまうことを、さらに抑制することができる。
【0061】
また、本実施形態では、貫通孔21bの横面21b1と縦面21b2とで第一接触部S1と第三接触部S3とを構成できるので、インサート部21Aの周面に、孔あけ加工等により貫通孔21bを形成するなどして、容易に第一接触部S1および第三接触部S3を設け、インサート部21Aと弁本体1の樹脂内部との接触面積を、軸線L方向および周方向Yに増大させることができる。
【0062】
また、上述のように弁本体1の内面に対して加わる力を、円筒状のインサート部21Aの周方向Yに等間隔をあけて複数設けられた第一接触部S1や第二接触部S2、または第三接触部S3で受けることができるので、当該力を均等に分散させることができる。このため、特定の箇所に応力等が集中することで、弁本体1と接続部2とが剥離することを防止することができる。
【0063】
また、第一接触部S1の周方向における最大の長さs4の総和が、インサート部21Aの周方向の長さs5の1/2未満に抑えられるので、インサート部21Aの体積を十分に確保することができ、第一接触部S1を設けたことによるインサート部21Aの強度低下を抑制することができる。
【0064】
また、下蓋21を、インサート部21A、連結部21B、および板部21Cで構成したことで、弁本体1の内面に対して加わる上述の力を、弁本体1から露出した連結部21Bと、板部21Cと、によって、受けることができる。すなわち、連結部21Bの外端縁を板部21Cが変形する起点にすることができる。このため、当該力が、インサート部21Aにまで及ぶことを防止することができ、これによってインサート部21Aと弁本体1の樹脂内部との接触面が剥離することを防止することができる。したがって、弁本体1と接続部2の密着性をより向上させることができる。
【0065】
また、軸線L方向の異なる位置に配置される折返し部21Dと第一接触部S1および第二接触部S2とで、上述のように弁本体1の内面に対して加わる力を、受けることができるので、当該力を分散させることができる。このため、特定の箇所に応力等が集中することで、弁本体1と接続部2とが剥離することを防止することができる。
【0066】
また、インサート部21Aの周面には、粗面21aを形成した。この粗面21aの部分では、凹み部21a1、または突起部21a2の隙間に弁本体1の樹脂が入り込むことにより、弁本体1と接続部2との接触面積が増大するため、弁本体1と接続部2の密着性を向上させることができる。
【0067】
また、上蓋20と下蓋21は、上蓋20の他方側L2の端部(軸線L方向の一端部)と板部21Cの一方側L1の端部(軸線L方向の一端部)とを溶接固定して一体となっている。すなわち、弁本体1に埋設されるインサート部21Aではない板部21Cと上蓋20の端部とで溶接部Wを構成することになるので、溶接固定時の溶接熱の影響を、接続部2のうち弁本体1に埋設される部分に及びにくくすることができる。したがって、溶接熱による弁本体1の膨張や収縮等を抑制でき、これによって弁本体1と接続部2との剥離を抑制することができる。
【0068】
そして、このように、樹脂製の弁本体1と、接続部2(弁本体1とスリーブ51とを接続する金属製の部材)と、の密着強度を向上させ、弁本体1内部の気密性を確保しやすいスライド式切換弁100を流路切換弁に用いることができるので、当該流路切換弁を用いた冷凍サイクルシステムを構成することができる。
【0069】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【0070】
図8(A)~(C)は、第二実施形態における接続部2のバリエーションを示した縦断面図である。この第二実施形態では、貫通孔21bの代わりに、凸部21c、凹部21d、または凸部21cと凹部21dの両方、を形成した点が、上述の実施形態と異なっている。
図8(A)に示すように、凸部21cは、インサート部21Aの周面(本実施形態では、第一インサート部21A1の径方向X外側を向く面)に径方向X外側に向かって突出して形成されている。凸部21cの側面のうち、一方側L1を向く横面21c1は、上述の第二インサート部21A2の一方側L1を向く面と同様に、第一接触部S1を構成している。また、凸部21cの外面のうち、凸部21cの頂面21c2、すなわち径方向X外側を向く面は、第一インサート部21A1の径方向X内側を向く面および径方向X外側を向く面と同様に、第二接触部S2を構成している。そして、凸部21cの側面のうち、周方向Yを向く縦面(不図示)は、弁本体1の周方向Yに向かって弁本体1の樹脂内部と接触する第三接触部S3を構成している。このような構成によれば、インサート部21Aの周面に、例えば、プレス成形等により凸部21cを形成するなどして、容易に第一接触部S1および第三接触部S3を設けることができる。
【0071】
そして、凸部21cが形成されることで、インサート部21Aにおいて、軸線L方向を向く面(横面21c1(第一接触部S1)および、凸部21cの他方側L2を向く面)の面積が増大する。また、インサート部21Aにおいて、周方向Yを向く縦面の面積が増大する。そして、上述の貫通孔21bを形成する構成では、インサート部21Aを板厚方向に貫通する分、第二接触部S2の面積が小さくなるが、本実施形態では、凸部21cの頂面21c2は、上述のように第二接触部S2を構成しているため、凸部21cの形成により第二接触部S2の面積が小さくなることは抑制され、第二接触部S2の面積は維持される。すなわち、凸部21cの形成により、第二接触部S2の面積を維持しつつ、インサート部21Aと弁本体1の樹脂内部との接触面積を、軸線L方向および周方向Yに増大させることができる。これにより、弁本体1と接続部2の接触面積を、貫通孔21bを形成する構成よりも増大させ、弁本体1と接続部2の密着性をさらに向上することができる。
【0072】
図8(B)に示すように、凹部21dは、インサート部21Aの周面(本実施形態では、第一インサート部21A1の径方向X内側を向く面)に径方向X外側に向かって凹んで形成されている。凹部21dの側面のうち、一方側L1を向く横面21d1は、上述の第二インサート部21A2の一方側L1を向く面と同様に、第一接触部S1を構成している。また、凹部21dの底面21d2、すなわち径方向X内側を向く面は、第一インサート部21A1の径方向X内側を向く面および径方向X外側を向く面と同様に、第二接触部S2を構成している。そして、凹部21dの側面のうち、周方向Yを向く縦面21d3は、弁本体1の周方向Yに向かって弁本体1の樹脂内部と接触する第三接触部S3を構成している。このような構成によれば、インサート部21Aの周面に、例えば、プレス成形等により凹部21dを形成するなどして、容易に第一接触部S1および第三接触部S3を設けることができる。
【0073】
そして、凹部21dが形成されることで、インサート部21Aにおいて、軸線L方向を向く面(横面21d1(第一接触部S1)および、凹部21dの他方側L2を向く面)の面積が増大する。また、インサート部21Aにおいて、周方向Yを向く縦面21d3の面積が増大する。そして、凹部21dの底面21d2は、上述のように第二接触部S2を構成しているため、凹部21dの形成により第二接触部S2の面積が小さくなることは抑制され、第二接触部S2の面積は維持される。すなわち、凹部21dの形成により、第二接触部S2の面積を維持しつつ、インサート部21Aと弁本体1の樹脂内部との接触面積を、軸線L方向および周方向Yに増大させることができる。これにより、弁本体1と接続部2の接触面積を、貫通孔21bを形成する構成よりも増大させ、弁本体1と接続部2の密着性をさらに向上することができる。
【0074】
なお、
図8(C)に示すように、凸部21cおよび凹部21dの両方を、インサート部21Aの周面に形成してもよい。この際、凸部21cと凹部21dの配置は、
図8(A)や
図8(B)と逆になっていてもよい。すなわち、凸部21cをインサート部21Aの径方向X内側を向く面に形成し、凹部21dをインサート部21Aの径方向X外側を向く面に形成してもよい。また、凸部21cおよび凹部21dを複数配置し、その配置ごとに凸部21cと凹部21dの配置を、インサート部21Aの径方向X内側を向く面と径方向X外側を向く面とで入れ替えてもよい。
【0075】
また、凸部21c、凹部21d、および上述の貫通孔21bを、組み合わせて全てインサート部21Aに形成することも可能である。すなわち、インサート部21Aの周面には、凸部21c、凹部21d、および貫通孔21bのうち少なくとも1つが設けられ、インサート部21Aに設けられた凸部21c、凹部21d、および貫通孔21bのうち少なくとも1つによって、第一接触部S1や第三接触部S3を構成することとしてもよい。このような構成によれば、凸部21c、凹部21d、および貫通孔21bのうち少なくとも1つをインサート部21Aの周面に設け、このインサート部21Aに設けられた凸部21c、凹部21d、および貫通孔21bの少なくとも1つにより、第一接触部S1および第三接触部S3を構成することができる。
【0076】
図9は、第三実施形態における接続部2の縦断面図である。第三実施形態では、折返し部21Dや貫通孔21b、凸部21c、および凹部21dを省略した点が、他の実施形態と異なっている。すなわち、この実施形態では、第一接触部S1を、上述の実施形態のように貫通孔21bの横面21b1や、凸部21cの横面21c1や、凹部21dの横面21d1によっても構成するのではなく、第二インサート部21A2の一方側L1を向く面で構成している。このような構成によれば、第一接触部S1と第二接触部S2とにより、軸線L方向および径方向Xに対して弁本体1と接続部2との接触面積が確保される。
【0077】
このため、弁室1a内の圧力が弁室1a外の圧力よりも上昇した場合に、弁本体1の内面に対して外方に力が加わり、接続部2に対して、軸線L方向や径方向Xに当該力が作用したとしても、下蓋21は変形しにくく、弁本体1の樹脂内部との接触面にせん断力等の力を生じにくくさせることができる。このため、弁本体1の内外の圧力差により、弁本体1の内面に対して外方に向かって力が加わった際の、上記接触面の剥離を防止することができる。したがって、樹脂製の弁本体1と、弁本体1と接続部2(スリーブ51とを接続する金属製の部材)と、の密着強度を向上させ、弁本体1内部の気密性を確保しやすいスライド式切換弁100を得ることができる。
【符号の説明】
【0078】
L 軸線
L1 一方側(一端側)
S1 第一接触部
S2 第二接触部
X 径方向
1 弁本体
2 接続部
21A インサート部
51 スリーブ
100 スライド式切換弁