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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020998
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】スライド式切換弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 27/04 20060101AFI20240207BHJP
   F16K 11/065 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
F16K27/04
F16K11/065 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123608
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】中野 誠一
(72)【発明者】
【氏名】笠井 宣
【テーマコード(参考)】
3H051
3H067
【Fターム(参考)】
3H051AA03
3H051BB10
3H051CC11
3H051DD07
3H051FF15
3H067AA15
3H067CC60
3H067DD05
3H067DD12
3H067DD32
3H067EA24
3H067EB12
3H067EC13
3H067FF11
3H067GG23
3H067GG24
(57)【要約】
【課題】樹脂製の弁本体と、弁本体とスリーブとを接続する金属製の部材と、の密着強度を向上させるとともに、弁本体内部の気密性を確保しやすいスライド式切換弁を得ることを目的とする。
【解決手段】スライド式切換弁100は、弁本体1と、弁本体1にインサート成形により設けられる接続部2と、を備える。弁本体1の内部には、弁室1aが設けられ、弁本体1の外部には、外部空間S1が設けられ、外部空間S1には、高圧と低圧とが切り換わる第二空間S2が設けられている。スライド式切換弁100には、接続部2の内面および外面と弁本体1の樹脂内部とが互いに接触する接触面に剥離が起き、仮想連通路14が形成された場合に、仮想連通路14を介して弁室1aから第二空間S2に流体が流入することを規制するシール部材13が設けられており、シール部材13は、弁室1aと第二空間S2との間に配置されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製円筒状の弁本体と、前記弁本体の軸線方向一端側にインサート成形により設けられる金属製筒状のインサート部材と、を備えるスライド式切換弁であって、
前記弁本体の内部には、高圧の第一空間が設けられ、
前記弁本体の外部には、前記弁本体の径方向外側を囲む境界面によって区画される外部空間が設けられ、
前記外部空間には、高圧と低圧とが切り換わる第二空間が設けられ、
前記インサート部材は、前記弁本体から露出した露出部の一部の内面が前記第一空間に位置し、前記露出部の一部の外面が前記外部空間に位置しており、
前記インサート部材の内面および外面と、前記弁本体の樹脂内部と、が互いに接触する接触面に剥離が起き、一端が前記第一空間に開口する仮想連通路が形成された場合に、前記仮想連通路を介して前記第一空間から前記第二空間に流体が流入することを規制するシール部材が設けられ、
前記シール部材は、前記第一空間と前記第二空間との間に配置されていることを特徴とするスライド式切換弁。
【請求項2】
前記仮想連通路は、一端側である仮想入口が前記第一空間に位置し、他端側である仮想出口が前記外部空間に位置し、
前記シール部材は、前記弁本体の外面と、前記境界面と、に当接し、前記インサート部材の前記露出部と前記第二空間との間に、前記仮想出口が位置する第三空間を区画していることを特徴とする請求項1に記載のスライド式切換弁。
【請求項3】
前記シール部材は、前記インサート部材を周方向に囲む位置に配置されていることを特徴とする請求項2に記載のスライド式切換弁。
【請求項4】
前記弁本体の外面における、前記インサート部材を周方向に囲む部分は、前記境界面に向かって突出する仕切部を構成し、
前記仕切部には、前記境界面に向かって開口する溝部が設けられ、
前記シール部材は、前記溝部の底面と、前記境界面と、に当接して設けられていることを特徴とする請求項3に記載のスライド式切換弁。
【請求項5】
前記インサート部材の前記露出部には、前記第一空間と前記第三空間とを連通する貫通孔が設けられていることを特徴とする請求項2~4のいずれか一項に記載のスライド式切換弁。
【請求項6】
前記弁本体には、前記第一空間において前記インサート部材の内面と対向する対向面が設けられ、
前記シール部材は、前記インサート部材の内面と前記対向面と、の間に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のスライド式切換弁。
【請求項7】
前記仮想連通路は、一端側である仮想入口が前記第一空間に位置し、他端側である仮想出口が前記外部空間に位置し、
前記弁本体の外面における、前記インサート部材を周方向に囲む部分は、前記境界面に向かって突出する仕切部を構成し、
前記シール部材は、前記仕切部と、前記インサート部材の前記露出部の外面と、に当接して設けられていることを特徴とする請求項1に記載のスライド式切換弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライド式切換弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷凍サイクルなどにおいて用いられるスライド式切換弁として、流体の流路を切り換える四方弁や、パイロット型電磁流路切換弁などが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献1に記載の四方弁には、内部に弁室を構成する円筒状の弁箱(以下、弁本体という)と、弁本体の開口端縁に固定される平面視円形の接続板と、接続板を介して固定される非磁性のスリーブと、が設けられており、スリーブの外周には、コイルと磁性材のヨークとが設けられて駆動部の一部が構成されている。
【0003】
特許文献2に記載のパイロット型電磁流路切換弁は、内部に主弁室を有する円筒状の主弁ハウジング(以下、弁本体という)と、主弁ハウジングを収容する弁装置受入孔が形成された圧縮機ハウジング(以下、ハウジングという)と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-208224号公報
【特許文献2】特開2007-23891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1、2に記載されたようなスライド式切換弁では、弁本体を樹脂材料で成形する一方、スリーブおよび接続板を金属で形成することがある。この場合、接続板をインサート成形によって弁本体に固定し、この接続板を介して弁本体とスリーブとを接続することが考えられる。しかしながら、弁本体内部は、高圧の冷媒によって外部よりも高圧となっているため、圧力差によって弁本体の内面には外方に向かって力が加わる。この力が作用する方向によっては、接続板と弁本体の樹脂内部とが互いに接触する接触面が剥離してしまうおそれがあった。したがって、樹脂部品である弁本体と、金属部品である接続板と、の密着性を確保することが難しく、弁本体内部の気密性を保つことが難しい。
【0006】
また、特許文献2に記載されたような構成では、弁本体とハウジングとの間に低圧の流路と高圧の流路のいずれにも連通する空間が生じており、これによって、弁本体外部の圧力が低圧、高圧間で変動するため、上述の圧力差が変動しやすい。このため、弁本体の内面には外方に向かって一定ではない力が繰り返し加わることとなり、より一層、接続板と弁本体とが剥離してしまうおそれが高まることとなる。また、例えば、接続板と弁本体とが剥離し、一部に弁本体内外に連通する部分が生じると、その部分に高圧の流体が侵入することで接続板と弁本体との剥離が進行し、弁本体と接続板との密着性を確保することが更に難しくなる。
【0007】
本発明の目的は、樹脂製の弁本体と、弁本体とスリーブとを接続する金属製の部材と、の密着強度を向上させるとともに、弁本体内部の気密性を確保しやすいスライド式切換弁を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決し目的を達成するために、本発明のスライド式切換弁は、樹脂製円筒状の弁本体と、前記弁本体の軸線方向一端側にインサート成形により設けられる金属製筒状のインサート部材と、を備えるスライド式切換弁であって、前記弁本体の内部には、高圧の第一空間が設けられ、前記弁本体の外部には、前記弁本体の径方向外側を囲む境界面によって区画される外部空間が設けられ、前記外部空間には、高圧と低圧とが切り換わる第二空間が設けられ、前記インサート部材は、前記弁本体から露出した露出部の一部の内面が前記第一空間に位置し、前記露出部の一部の外面が前記外部空間に位置しており、前記インサート部材の内面および外面と、前記弁本体の樹脂内部と、が互いに接触する接触面に剥離が起き、一端が前記第一空間に開口する仮想連通路が形成された場合に、前記仮想連通路を介して前記第一空間から前記第二空間に流体が流入することを規制するシール部材が設けられ、前記シール部材は、前記第一空間と前記第二空間との間に配置されていることを特徴とする。
【0009】
このような本発明によれば、弁本体内外の圧力差を原因として、弁本体とインサート部材との接触面に剥離が起き、仮想連通路が形成された場合でも、仮想連通路を介して第一空間から第二空間に流体が流入することを、シール部材により規制することができる。このため、接触面における剥離部分に侵入する冷媒の増加を抑制し、剥離部分の拡大を抑制することができる。このため、接触面の剥離が進行しやすい従来の構成と比較して、当該接触面における密着強度を向上させることができる。また、上述のとおり、仮想連通路が形成されても、第一空間から第二空間に流体が流入することをシール部材により規制することができるので、弁本体内部の気密性を確保することができる。したがって、樹脂製の弁本体と、弁本体とスリーブとを接続する金属製の部材と、の密着強度を向上させるとともに、弁本体内部の気密性を確保しやすいスライド式切換弁を得ることができる。
【0010】
前記仮想連通路は、一端側である仮想入口が前記第一空間に位置し、他端側である仮想出口が前記外部空間に位置し、前記シール部材は、前記弁本体の外面と、前記境界面と、に当接し、前記インサート部材の前記露出部と前記第二空間との間に、前記仮想出口が位置する第三空間を区画していることが好ましい。このような構成によれば、シール部材によって、インサート部材の露出部と第二空間との間に仮想連通路の仮想出口が位置する第三空間を区画するとともに、第一空間から第二空間に流体が流入することを規制することができるので、第一空間から第二空間に向かう流体を第三空間に留めることができる。このため、上述のシール部材の作用、効果に加えて、より一層、第一空間と第二空間との連通をさせにくくすることができる。したがって、接触面の剥離部分に侵入する冷媒の増加を抑制し、剥離部分の拡大を抑制し、弁本体とインサート部材との密着性の低下を抑制することができる。
【0011】
また、前記シール部材は、前記インサート部材を周方向に囲む位置に配置されていることが好ましい。このような構成によれば、弁本体の内面に対して、例えば径方向外方に力が加わったとしても、シール部材によってその力を受けることができるので、同方向にインサート部材、および、インサート部材と一体の弁本体が変形することが、シール部材によって抑えられる。このため、上述の剥離や剥離に伴う仮想連通路の形成を抑制し、樹脂製の弁本体と、弁本体とスリーブとを接続する金属製の部材と、の密着強度を向上させることができる。
【0012】
また、前記弁本体の外面における、前記インサート部材を周方向に囲む部分は、前記境界面に向かって突出する仕切部を構成し、前記仕切部には、前記境界面に向かって開口する溝部が設けられ、前記シール部材は、前記溝部の底面と、前記境界面と、に当接して設けられていることが好ましい。このような構成によれば、仕切部に設けられた溝部にシール部材を設置することで、このシール部材を、インサート部材を周方向に囲む位置に位置決めすることができる。このため、弁本体の内面に対して、例えば径方向外方に力が加わったとしても、その力を、シール部材によって安定して受けることができる。また、仕切部は、境界面に向かって突出していることから、弁本体の内面に対して、例えば径方向外方に力が加わり、弁本体が同方向に変形しようとした場合、シール部材に加え、仕切部でもこの力を受けることができる。したがって、インサート部材と弁本体の変形をさらに抑制し、上述の剥離や剥離に伴う仮想連通路の形成をさらに抑制することができる。
【0013】
また、前記インサート部材の前記露出部には、前記第一空間と前記第三空間とを連通する貫通孔が設けられていることが好ましい。このような構成によれば、例えば、第三空間に溜まった冷媒が温度変化により急激に膨張した場合に、当該冷媒を貫通孔を介して第一空間に流入させることができる。このため、第三空間内の圧力が意図せず変化することで、仕切部、弁本体、またはインサート部材が破壊されることを抑制することができる。
【0014】
また、前記弁本体には、前記第一空間において前記インサート部材の内面と対向する対向面が設けられ、前記シール部材は、前記インサート部材の内面と前記対向面と、の間に配置されていてもよい。このような構成によれば、インサート部材の内面と対向面との間から、仮想連通路を介して、第二空間に移動しようとする流体の流れをシール部材により規制することができる。
【0015】
また、前記仮想連通路は、一端側である仮想入口が前記第一空間に位置し、他端側である仮想出口が前記外部空間に位置し、前記弁本体の外面における、前記インサート部材を周方向に囲む部分は、前記境界面に向かって突出する仕切部を構成し、前記シール部材は、前記仕切部と、前記インサート部材の前記露出部の外面と、に当接して設けられていてもよい。この構成によれば、シール部材が仕切部とインサート部材の露出部の外面とに当接して設けられているので、第一空間から第二空間に流体が流入することを、仮想出口に近い位置で、シール部材により規制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、樹脂製の弁本体と、弁本体とスリーブとを接続する金属製の部材と、の密着強度を向上させるとともに、弁本体内部の気密性を確保しやすいスライド式切換弁を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係るスライド式切換弁を流路切換弁として用いた冷凍サイクルシステムの、冷房時の状態を示す概略図。
図2】前記冷凍サイクルシステムの、暖房時の状態を示す概略図。
図3】第一実施形態におけるスライド式切換弁の縦断面図。
図4図3の領域Aにおける要部拡大図。
図5】第一実施形態の変形例におけるスライド式切換弁の要部拡大図。
図6】第二実施形態におけるスライド式切換弁の縦断面図。
図7図6の領域Bにおける要部拡大図。
図8】第二実施形態の変形例におけるスライド式切換弁の要部拡大図。
図9】第三実施形態におけるスライド式切換弁の縦断面図。
図10図9の領域Cにおける要部拡大図。
図11】第三実施形態の変形例におけるスライド式切換弁の要部拡大図。
図12】従来のスライド式切換弁の縦断面図。
図13図12の領域Dにおける要部拡大図。
図14】従来のスライド式切換弁の縦断面図。
図15図14の領域Eにおける要部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の第一実施形態を図1~4に基づいて説明する。図1に示すように、本実施形態に係るスライド式切換弁100は、冷凍サイクルなどにおいて圧縮機200、室外熱交換器300、室内熱交換器500と、接続され、これらの機器に流れる冷媒(流体)の流路を切り換える切換弁である。スライド式切換弁100は、樹脂製円筒状の弁本体1と、弁本体1にインサート成形により設けられる接続部2(インサート部材)と、弁本体1内に固定される弁座部3と、弁本体1の内部にて軸線L方向にスライド自在に設けられる弁体4と、弁体4をスライド駆動する駆動部5と、を備えている。
【0019】
なお、本実施形態の説明では、弁本体1の軸線L方向において駆動部5のある側を軸線L方向一方側とし、軸線L方向一方側の反対側を軸線L方向他方側とする。また、軸線L方向一方側は、一方側L1と記す場合があり、軸線L方向他方側は、他方側L2と記す場合がある。また、軸線L方向に直交する方向を径方向とし、軸線Lまわりの方向を周方向とする。径方向は、径方向Xと記す場合があり、周方向は、周方向Yと記す場合がある。
【0020】
図1、2に示すように、弁本体1は、円形の底壁10と、底壁10の周縁部から一方側L1に延びる側壁11と、を備え、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の樹脂を材料として樹脂成形により有底筒状(すなわち、円筒状)に形成されている。弁本体1の内部は、弁室1aを構成している。底壁10には、弁室1aの内外に連通するDポート1dが形成されている。Dポート1dは、軸線L方向に延びるD接続流路1d1、後述するD連通路6d、およびD継手管1d2を介して圧縮機200の吐出孔と連通している。弁室1a内には、Dポート1dを介して、圧縮機200によって圧縮された高圧の冷媒が流入するため、弁室1aは、弁本体1外部よりも高圧の第一空間を構成している。
【0021】
側壁11には、弁室1aの内外に連通する複数の流路として、E接続流路1e、S接続流路1s、C接続流路1cが、一方側L1からこの順に軸線L方向に沿って形成されている。E接続流路1eは、後述するE切換ポート3eとE連通路6e、およびE継手管1e1を介して、室内熱交換器500(蒸発器または凝縮器)に連通している。S接続流路1sは、後述するSポート3sとS連通路6s、およびS継手管1s1を介して圧縮機200の吸入孔と連通している。C接続流路1cは、後述するC切換ポート3cとC連通路6c、およびC継手管1c1を介して、室外熱交換器300(凝縮器または蒸発器)と連通している。側壁11の一方側L1の端部外周面は、弁室1aにおいて後述する下蓋21の板部21B2の内周面と径方向Xに対向する対向面11aを構成している。
【0022】
なお、本実施形態では、E接続流路1eは、E切換ポート3e、E連通路6e、およびE継手管1e1を介して室内熱交換器500に接続され、室内熱交換器500と連通し、C接続流路1cは、C切換ポート3c、C連通路6c、およびC継手管1c1を介して室外熱交換器300に接続され、室外熱交換器300と連通しているが、E接続流路1eおよびC接続流路1cの接続先は、逆になっていてもよい。すなわち、E接続流路1eと室外熱交換器300とを接続させ、C接続流路1cと室内熱交換器500とを接続させてもよい。
【0023】
接続部2は、弁本体1と後述するスリーブ51とを接続する金属製筒状の部材であり、インサート成形により弁本体1の一方側L1(弁本体1の軸線L方向一端側)の開口端縁に固定されている。接続部2は、略円筒状の上蓋20と、上蓋20に接続される略円筒状の下蓋21と、を備えている。上蓋20の一方側L1の開口端縁は、スリーブ51の他方側L2の開口端縁に溶接固定されている。上蓋20の他方側L2の開口端縁は、径方向Xに向かって拡径して形成されている。
【0024】
下蓋21は、弁本体1の一方側L1(軸線L方向一端側)にインサート成形により設けられる金属製筒状の部材である。下蓋21は、図3に示すように、弁本体1に対して軸線L方向にインサート成形された(すなわち、弁本体1の樹脂内部に埋設された)インサート部21Aと、インサート部21Aに連続し弁本体1から露出した露出部21Bと、を備えている。インサート部21Aは、弁本体1の樹脂内部で軸線L方向に延びる第一インサート部21A1と、弁本体1の樹脂内部で第一インサート部21A1の一方側L1の端部(軸線L方向の一端部)に連続して径方向X外側に延びる第二インサート部21A2と、を備えている。
【0025】
第一インサート部21A1の他方側L2の端部には、第一インサート部21A1を径方向X内側に折り曲げて形成された折返し部21Cが設けられている。なお、折返し部21Cの折り曲げ方向は、径方向X内側に限らず、径方向X外側でもよい。すなわち、折返し部21Cは、インサート部21Aを、径方向Xいずれかの方向に折り曲げることで形成することができる。
【0026】
露出部21Bは、第二インサート部21A2に連続して径方向X外側に延び、弁本体1から露出する連結部21B1と、連結部21B1の外端縁に連続し、弁本体1の側面に沿って軸線L方向に延び、内面が弁本体1の内部を向く板部21B2と、を備えている。連結部21B1には、軸線L方向(板厚方向)に貫通する貫通孔21Dが形成されている。この貫通孔21Dは、弁室1aと後述する第三空間S3とを連通する孔である。板部21B2の径方向X内側を向く面(すなわち、露出部21Bの一部の内面)は、弁室1aに位置し、板部21B2の径方向X外側を向く面(すなわち、露出部21Bの一部の外面)は、後述する外部空間S1に位置している。
【0027】
このように形成された弁本体1および接続部2は、ハウジング6に収容されている。ハウジング6は、中心部に軸線Lと同軸でかつ弁本体1の外径よりも大きな内径を有する収容孔6aを備えており、この収容孔6aに弁本体1および接続部2が、軸線L方向に挿入されている。収容孔6aの一方側L1には、弁本体1の上蓋20に当接する止め輪7が固定されており、この止め輪7によって弁本体1がハウジング6から抜け出すことが防止されている。
【0028】
ハウジング6の底壁には、上述のDポート1dおよびD接続流路1d1に連通するD連通路6dが形成されている。D連通路6dには、D継手管1d2が設置されている。ハウジング6の側壁には、上述のE接続流路1e、S接続流路1s、C接続流路1cにそれぞれ連通する複数の連通路として、E連通路6e、S連通路6s、C連通路6cが、一方側L1からこの順に軸線L方向に沿って形成されている。各連通路6e、6s、6cの連通先は上述のとおりであるため、その説明は省略する。
【0029】
上述のとおり、収容孔6aは、弁本体1の外径よりも大きな内径を有していることから、弁本体1の外部には、弁本体1の径方向X外側を囲む収容孔6aの内周面6a1(境界面)によって区画された外部空間S1が設けられている。図3に示すように、弁本体1の外周面と収容孔6aの内周面6a1との間には、Oリング8が設置されている。このOリング8は、外部空間S1を軸線L方向に隣接する複数の空間に区画しており、これによって、外部空間S1には、E連通路6e、S連通路6s、およびC連通路6cと、それぞれ連通するように区画された複数の第二空間S2が設けられている。なお、後述する弁体4の駆動によって、E連通路6e、S連通路6s、C連通路6cの連通状態は切り換わり、このE連通路6e、S連通路6s、C連通路6cに流れる冷媒の圧力は変動することから、第二空間S2は、高圧と低圧とが切り換わる空間となっている。
【0030】
図3に示すように、弁本体1の外周面(外面)において、E連通路6eよりも一方側L1の位置で、かつ下蓋21の露出部21Bよりも他方側L2の位置、すなわち、弁本体1の外周面においてインサート部21Aを周方向Yに囲む位置(インサート部21Aと径方向Xに隣り合う位置)には、内周面6a1に向かって突出する仕切部12が周方向Y全周に亘って形成されている。すなわち、弁本体1の外面における、接続部2を周方向に囲む部分は、内周面6a1に向かって突出する仕切部12を構成している。図4に示すように、仕切部12には、内周面6a1に向かって開口する環状溝12a(溝部)が形成されている。環状溝12aには、Oリング等の部材で構成されたシール部材13が設置されている。すなわち、シール部材13は、接続部2を周方向Yに囲む位置に配置されている。
【0031】
シール部材13は、径方向X外側の端部が内周面6a1に当接し、径方向X内側の端部が環状溝12aの底面に当接しており、これによって下蓋21の露出部21Bと第二空間S2との間に、後述の仮想出口14bが位置する第三空間S3を区画している。なお、上述のように、仕切部12は、弁本体1の外面の一部であるので、シール部材13は、弁本体1の外面と、内周面6a1と、に当接し、露出部21Bと第二空間S2との間に、仮想出口14bが位置する第三空間S3を区画していることとなる。この構成により、第二空間S2と第三空間S3との間では、シール部材13を境に、冷媒の移動が規制されている。なお、第三空間S3は、上述のシール部材13の位置により、E連通路6e、S連通路6s、およびC連通路6cのいずれとも連通することはないので、第二空間S2と異なり、高圧と低圧とが切り換わりにくい空間となっている。
【0032】
なお、本実施形態では、上述のように、仕切部12の環状溝12aにシール部材13を配置していた。しかしながら、図示はしないが、仕切部12は、省略することも可能である。この場合、例えば、シール部材13の配置はそのままに、その幅寸法や径寸法を調整し、シール部材13の径方向X内側端部を、仕切部12のない弁本体1の外周面に当接させ、シール部材の径方向X外側の端部を収容孔6aの内周面6a1に当接させるとよい。
【0033】
弁座部3は、図3に示すように、弁本体1の側壁のうち、E接続流路1e、S接続流路1s、およびC接続流路1cが形成された側壁に設置される部材である。この弁座部3は、薄型金属板で形成され、インサート成形や接着、溶着等により弁本体1の側壁に固定されている。弁座部3の板面には、E接続流路1eに連通するE切換ポート3e、S接続流路1sに連通するSポート3s、C接続流路1cに連通するC切換ポート3cがそれぞれ板厚方向に貫通して形成されている。弁座部3の板面のうち、径方向X内側を向く面は、弁体4の後述するシール部40bと摺接するシール面30を構成している。
【0034】
弁体4は、主にポリフェニレンサルファイド(PPS)等の樹脂製であり、弁本体1の内部にて軸線L方向にスライド自在に設けられている。この弁体4は、上述のDポート1d、E切換ポート3e、Sポート3s、およびC切換ポート3cの連通状態を切り換えるように構成されており、本実施形態では、弁座部3のシール面30に摺接する弁体本体40を備えて構成されている。この弁体本体40は、シール面30に向かって開口する椀状に形成され、その内部は冷媒の流路となる椀状凹部40aを構成している。弁体本体40の開口端縁は、シール面30に摺接するシール部40bとなっており、その軸線L方向の寸法および幅寸法は、E切換ポート3e、Sポート3s、およびC切換ポート3cのうち、隣り合う2つ分のポートを覆える大きさに設定されている。
【0035】
弁体本体40の一方側L1の端部には、一方側L1に突出し、径方向Xにおいて弁座部3のある側と反対側に開口するフック部41が形成されている。フック部41は、弁体4を駆動部5に接続するための部分であり、駆動部5の後述する雌ねじ部材58の2本の連結腕部58bで径方向Xから挟まれた状態で、フック形状の部分に配置される固定ピン58cと、連結腕部58bおよびフック部41を周方向Yに囲んで締め付ける金属製のクリップ58dと、によって、駆動部5に固定されている。
【0036】
弁体本体40の他方側L2の端部には、Dポート1dに向かって軸線L方向に突出するストッパ42が形成されている。このストッパ42は、その突出端部が弁本体1の底壁10における弁室1a側の面10aと当接することで弁体本体40の他方側L2への移動を規制している。
【0037】
弁体本体40の頂部の先端面と、弁本体1の内周面との間には、弁体4を弁座部3側に付勢する付勢部材43が設置されている。付勢部材43は、例えば、りん青銅当の金属製の材料を用いてプレス加工等により形成された板ばねである。この付勢部材43に付勢されることで、弁体本体40のシール部40bがシール面30に押し付けられ、弁漏れが抑制されている。
【0038】
駆動部5は、弁体4をスライド駆動する部分であり、ステッピングモータ50と、ステッピングモータ50の回転を直線運動に変換して弁体4に伝達する直動機構54と、を備えている。図3に示すように、ステッピングモータ50は、上蓋20の一方側L1の開口端縁に固定され(弁本体1の軸線L方向一端側に配置され)、駆動部5内を密閉するスリーブ51と、スリーブ51に内蔵される電磁ロータ52と、電磁ロータ52の外周をスリーブ51を挟んで周方向Yに囲む電磁コイル53と、を備えている。スリーブ51は、薄板状の金属材料を用いて有底筒状に形成されており、中心軸が軸線Lと同軸になるようにかつ、開口端縁が他方側L2を向くように配置され、その開口端縁が上蓋20の一方側L1の開口端縁に溶接固定されている。
【0039】
直動機構54は、スリーブ51の一方側L1の内部に配置される軸受部材55と、上蓋20の内周壁に固定されるガイド部材56と、電磁ロータ52の中心に固定された駆動軸としての雄ねじ57と、雄ねじ57の外周面に形成された雄ねじ部57aに螺合する雌ねじ部58a1を有する雌ねじ部材58と、を備えている。すなわち、直動機構54は、互いに螺合する雄ねじ部57aおよび雌ねじ部58a1を有したねじ送り機構として構成されている。
【0040】
軸受部材55は、雄ねじ57を軸線L方向に回転可能に支持する部材であり、円柱状に形成されている。この軸受部材55は、中心軸が弁本体1の軸線Lと同軸になるようにスリーブ51に挿入されている。軸受部材55において雄ねじ57の軸心位置である中心には、他方側L2に向かって開口する第一軸受孔55aが形成されている。第一軸受孔55aには、雄ねじ57の一方側L1の端部が嵌挿されている。
【0041】
ガイド部材56は、有底筒状に形成され、先端部が一方側L1に位置し、底部が他方側L2に位置するように上蓋20の内周壁に固定されている。ガイド部材56は、中心軸が弁本体1の軸線Lと同軸となるように配置されており、この配置によって、上述のスリーブ51、軸受部材55、およびガイド部材56は、いずれも中心軸が弁本体1の軸線Lと同軸となるように配置されている。ガイド部材56の中心には、第一軸受孔55aと軸線L方向に対向する第二軸受孔56aが形成されている。第二軸受孔56aには、雄ねじ57の他方側L2の端部が嵌挿されている。
【0042】
ガイド部材56の底壁において第二軸受孔56aの周囲には、後述する雌ねじ部材58の連結腕部58bを軸線L方向に進退可能に挿通させる一対のガイド孔(不図示)が形成されている。このガイド孔は、雌ねじ部材58を、軸線Lまわりに回転不能かつ軸線L方向に進退ガイドする、軸線L方向に貫通した孔である。
【0043】
雄ねじ57は、電磁ロータ52の中心部に固定され、軸線L方向に延び、電磁ロータ52と一体に軸線Lまわりに回転するように構成されている。上述のとおり、雄ねじ57の外周面には、雄ねじ部57aが形成されている。また、雄ねじ57の一方側L1の端部は、第一軸受孔55aに嵌挿され、雄ねじ57の他方側L2の端部は、第二軸受孔56aに嵌挿されており、これにより、雄ねじ57は、軸線Lまわりに回転できるように軸支されている。
【0044】
雌ねじ部材58は、ガイド部材56内に収容されてその外周壁がガイド部材56の内周壁に摺接する円柱状の基端部58aと、基端部58aから他方側L2に延び、上述のガイド孔を通って弁室1a内に延びる2本の連結腕部58bと、を備えている。基端部58aは、中心軸がガイド部材56の中心軸と同軸になっている。基端部58aの中心には、軸線Lに沿って雌ねじ部58a1が形成されている。雌ねじ部58a1は、雄ねじ部57aに螺合し、雄ねじ57の回転に伴って中心軸と同軸で軸線L方向に進退可能となっている。連結腕部58bは、基端部58aの周縁部の一部からガイド孔を通ってそれぞれ弁室1aまで延びている。各連結腕部58bの先端部は、板面が互いに対向しており、その互いに板面が対向する先端部には、当該板面を共に板厚方向に貫く固定ピン58cが固定されている。
【0045】
このような構成では、ステッピングモータ50の駆動により雄ねじ57が軸線Lまわりに回転すると、その回転に伴って、雌ねじ部材58が軸線L方向に移動する。これにより、雌ねじ部材58の連結腕部58bに固定された弁体4も、雌ねじ部材58の移動に伴って軸線L方向に移動する。このため、例えば、図1に示す状態では、弁体本体40の椀状凹部40aによってE切換ポート3eとSポート3sとが連通し、弁体本体40の外部でDポート1dとC切換ポート3cとが連通しているが、この状態から弁体本体40が他方側L2に移動し、図2に示す状態となると、弁体本体40の椀状凹部40aによってC切換ポート3cとSポート3sとが連通し、弁体本体40の外部でDポート1dとE切換ポート3eと、が連通することとなる。
【0046】
次に、スライド式切換弁100を流路切換弁に用いた冷凍サイクルシステムについて説明する。図1、2は実施形態の冷凍サイクルシステムを示す図であり、空気調和機の冷凍サイクルシステムの例である。空気調和機は、圧縮機200、室外熱交換器300(凝縮器または蒸発器)、膨張弁400、室内熱交換器500(蒸発器または凝縮器)、流路切換弁としてのスライド式切換弁100を有しており、これらの各要素は、それぞれ導管によって図示のように接続され、ヒートポンプ式の冷凍サイクルシステムを構成している。
【0047】
冷凍サイクルシステムの流路は、スライド式切換弁100の弁体4を上記説明のように駆動させることで、冷房運転および暖房運転の2通りの流路に切換えられるようになっている。図1に示す冷房運転時には、スライド式切換弁100において弁体4が一方側L1に移動し、弁体本体40によりSポート3sがE切換ポート3eに接続され、Dポート1dがC切換ポート3cに接続される。そして、図に矢印で示すように、圧縮機200で圧縮された流体としての冷媒がスライド式切換弁100のDポート1dに流入してC切換ポート3cから室外熱交換器300に流入し、室外熱交換器300から流出する冷媒が、膨張弁400に流入する。そして、この膨張弁400で冷媒が膨張され、室内熱交換器500に供給される。室内熱交換器500から流出する冷媒は、スライド式切換弁100でE切換ポート3eからSポート3sに流れ、Sポート3sから圧縮機200へ循環される。
【0048】
図2の暖房運転時には、スライド式切換弁100において弁体4が他方側L2に移動し、弁体本体40によりSポート3sがC切換ポート3cに接続され、Dポート1dがE切換ポート3eに接続される。そして、図に矢印で示すように、圧縮機200で圧縮された冷媒がスライド式切換弁100のDポート1dに流入してE切換ポート3eから室内熱交換器500に流入し、室内熱交換器500から流出する冷媒が、膨張弁400に流入する。そして、この膨張弁400で冷媒が膨張され、室外熱交換器300に供給される。室外熱交換器300から流出する冷媒は、スライド式切換弁100でC切換ポート3cからSポート3sに流れ、Sポート3sから圧縮機200へ循環される。
【0049】
なお、図示は省略するが、上述のように、E接続流路1eと室外熱交換器300とを接続させ、C接続流路1cと室内熱交換器500とを接続させていた場合は、弁体4の位置と、冷房運転および暖房運転の関係が本実施形態とは逆になる。すなわち、スライド式切換弁100において弁体4が一方側L1に移動し、弁体本体40によりSポート3sがE切換ポート3eに接続され、Dポート1dがC切換ポート3cに接続された状態では、冷媒が、圧縮機200、C切換ポート3c、室内熱交換器500、膨張弁400、室外熱交換器300、E切換ポート3e、Sポート3s、圧縮機200の順に流れ、暖房運転となる。反対に、スライド式切換弁100において弁体4が他方側L2に移動し、弁体本体40によりSポート3sがC切換ポート3cに接続され、Dポート1dがE切換ポート3eに接続された状態では、冷媒が、圧縮機200、E切換ポート3e、室外熱交換器300、膨張弁400、室内熱交換器500、C切換ポート3c、Sポート3S、圧縮機200の順に流れ、冷房運転となる。
【0050】
このようなスライド式切換弁100では、Dポート1dを介して弁室1a内に高圧の冷媒が流入することで、弁室1a内、すなわち第一空間内が非常に高圧となり、弁本体1の内外に圧力差が生じやすい。このため、弁本体1の内面には、外方に向かって力が加わりやすく、当該力が作用する向きによっては、材質の異なる弁本体1(樹脂)と、接続部2(金属)との接合部にせん断力等が働くことがある。このため、弁本体1の樹脂内部と接続部2の気密性を確保することが難しい。
【0051】
また、上述のように、E切換ポート3e、Sポート3s、およびC切換ポート3cは、その連通状態が切り換わるため、E切換ポート3e、Sポート3s、およびC切換ポート3cに連通する第二空間S2内の圧力が変化しやすい。このため、弁本体1内外の圧力差は変化しやすく、弁本体1と、接続部2との接合部には、上述のせん断力等の力であって、一定ではない力が断続的に作用することがある。これらの理由から、図12図15に示す従来のスライド式切換弁101、102では、下蓋22(図12、13に図示)、23(図14、15に図示)の内面および外面と、弁本体1A(図12、13に図示)、1B(図14、15に図示)の樹脂内部と、が互いに接触する接触面に剥離が生じる可能性があった。また、一旦剥離が生じると、その部分に冷媒が侵入することで剥離が進行し、図13、15に仮想線で示すように、入口が弁室1A1、1B1に位置する連通路が形成される可能性があった。
【0052】
ここで、当該連通路を仮想連通路14とし、仮想連通路14の一端側である入口を仮想入口14a、仮想連通路14の他端側である出口を仮想出口14bとすると、図13、15では、仮想入口14aが弁室1A1、1B1、すなわち第一空間に開口し、仮想出口14bが第二空間S2(外部空間S1)に開口している。このため、仮想連通路14が形成された場合、仮想連通路14を介して第一空間と第二空間S2とが連通することとなる。
【0053】
これに対し、本実施形態では、図4に示すように、インサート部21Aを周方向Yに囲む位置に仕切部12が形成され、その仕切部12の環状溝12aにシール部材13が設置されている、すなわち、仕切部12およびシール部材13は、接続部2を周方向Yに囲む位置に位置している。このため、弁本体1内面に対して例えば径方向X外方に力が加わったとしても、シール部材13によってその力を受けることができるので、同方向に弁本体1内面や下蓋21が変形することがシール部材13によって抑えられる。これにより、上述の剥離や剥離に伴う仮想連通路14の形成が起こりにくい。さらに、この構成では、仕切部12は、内周面6a1に向かって突出し、内周面6a1に向かって開口する環状溝12aにシール部材13を設置させる構造上、上述のように弁本体1内面に対して径方向X外方に力が加わり、同方向に弁本体1等が変形しようとした際に、その突出端部が内周面6a1に当接する場合がある。その場合、当該力をシール部材13に加えて、仕切部12でも受けることができるので、径方向X外方に弁本体1内面や下蓋21が変形することがより抑制され、これにより、上述の剥離や剥離に伴う仮想連通路14の形成が抑制される。
【0054】
また、仮に下蓋21内面および外面と、弁本体1の樹脂内部と、が互いに接触する接触面に剥離が起き、仮想連通路14が形成された場合には、仮想連通路14は、その仮想入口14aが弁室1aに位置し、仮想出口14bが第三空間S3に位置していることで、冷媒は、弁室1aから第三空間S3に移動可能となる。しかしながら、仮想連通路14を通って弁室1aから第三空間S3に冷媒が移動したとしても、その冷媒は、シール部材13によって、第二空間S2への移動が規制されることとなる。すなわち、弁室1aと第二空間S2との間に配置されたシール部材13は、仮想連通路14を介して弁室1aから第二空間S2に冷媒が流入することを規制している。この構成によれば、そもそも仮想連通路14が生じにくく、例え仮想連通路14が生じたとしても、弁室1aから流出する冷媒は、高圧、低圧の切り換わる第二空間S2まで到達せずに、高圧、低圧の切り換わりにくい第三空間S3に留まることとなる。このため、下蓋21付近では、弁本体1内外の圧力差が変化しにくくなり、上述のせん断力等の力であって、一定ではない力が断続的に作用することが抑制される。
【0055】
また、上述のとおり、連結部21B1には、貫通孔21Dが形成されているので、例えば、第三空間S3に溜まった冷媒が温度変化により急激に膨張した場合には、当該冷媒は、貫通孔21Dを介して弁室1aに移動することとなるため、第三空間S3内の圧力が意図せず変化したとしても、仕切部12、弁本体1、または下蓋21が圧力変化の影響を受けて破壊されることは抑制される。
【0056】
以上、本実施形態によれば、弁本体1内外の圧力差を原因として、弁本体1と接続部2(インサート部材)の接触面に剥離が起き、仮想連通路14が形成された場合でも、仮想連通路14を介して弁室1a(第一空間)から第二空間S2に冷媒が流入することを、シール部材13により規制することができる。このため、接触面における剥離部分に侵入する冷媒の増加を抑制し、剥離部分の拡大を抑制することができる。このため、接触面の剥離が進行しやすい従来の構成と比較して、当該接触面における密着強度を向上させることができる。また、上述のとおり、仮想連通路14が形成されても、弁室1aから第二空間S2に流体が流入することをシール部材13により規制することができるので、弁本体1内部の気密性を確保することができる。したがって、樹脂製の弁本体1と、接続部2(弁本体とスリーブとを接続する金属製の部材)と、の密着強度を向上させるとともに、弁本体1内部の気密性を確保しやすいスライド式切換弁100を得ることができる。
【0057】
また、本実施形態では、シール部材13によって、接続部2の露出部21Bと第二空間S2との間に仮想出口14bが位置する第三空間S3を区画するとともに、弁室1aから第二空間S2に流体が流入することを規制することができるので、弁室1aから第二空間S2に向かう流体を第三空間S3に留めることができる。このため、上述のシール部材13の作用、効果に加えて、より一層、弁室1aと第二空間S2との連通をさせにくくすることができる。したがって、接触面の剥離部分に侵入する冷媒の増加を抑制し、剥離部分の拡大を抑制し、弁本体1と接続部2との密着性の低下を抑制することができる。
【0058】
また、上述のとおり、シール部材13は、接続部2を周方向Yに囲む位置に配置されているので、弁本体1内面に対して、例えば径方向X外方に力が加わったとしても、シール部材13によってその力を受けることができ、同方向に接続部2、および、接続部2と一体の弁本体1が変形することが、シール部材13によって抑えられる。このため、上述の剥離や剥離に伴う仮想連通路14の形成を抑制し、樹脂製の弁本体1と、接続部2と、の密着強度を向上させることができる。
【0059】
また、仕切部12に設けられた環状溝12aにシール部材13を設置することで、このシール部材13を、接続部2を周方向に囲む部分に位置決めすることができる。このため、弁本体1内面に対して、例えば径方向X外方に力が加わったとしても、その力を、シール部材13によって安定して受けることができる。また、仕切部12は、内周面6a1に向かって突出していることから、弁本体1の内面に対して、例えば径方向X外方に力が加わり、弁本体1が同方向に変形しようとした場合、シール部材13に加え、仕切部12でもこの力を受けることができる。したがって、接続部2と弁本体1の変形をさらに抑制し、上述の剥離や剥離に伴う仮想連通路14の形成をさらに抑制することができる。
【0060】
また、接続部2の露出部21Bには、弁室1aと第三空間S3とを連通する貫通孔21Dが設けられているので、例えば、第三空間S3に溜まった冷媒が温度変化により急激に膨張した場合に、当該冷媒を貫通孔21Dを介して弁室1aに流入させることができる。このため、第三空間S3内の圧力が意図せず変化することで、仕切部12、弁本体1、または接続部2が破壊されることを抑制することができる。
【0061】
そして、このように、樹脂製の弁本体1と、接続部2(弁本体1とスリーブ51とを接続する金属製の部材)と、の密着強度を向上させるとともに、弁本体1内部の気密性を確保しやすいスライド式切換弁100を流路切換弁に用いることができるので、当該流路切換弁を用いた、冷凍サイクルシステムを構成することができる。
【0062】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【0063】
図5は、第一実施形態の変形例におけるスライド式切換弁100の要部拡大図である。
この変形例では、連結部21B1の貫通孔21Dを省略した点が、上述の第一実施形態とは異なっている。この構成によれば、上述の第一実施形態の作用、効果に加えて、接続部2の加工にかかる工数を低減することができ、スライド式切換弁100の作製コストを低減することができる。
【0064】
次に、本発明に係るスライド式切換弁100の第二実施形態および第二実施形態の変形例について説明する。図6は、第二実施形態におけるスライド式切換弁100の縦断面図である。図7は、図6の領域Bにおける要部拡大図である。図8は、第二実施形態の変形例におけるスライド式切換弁100の要部拡大図である。
【0065】
第二実施形態では、仕切部12および環状溝12aを省略した点と、シール部材13の配置が上述の第一実施形態および変形例と異なっている。図6に示すように、シール部材13は、板部21B2の内面(インサート部材の内面)と、対向面11aと、の間に配置されている。この構成によれば、図7に示すように、仮に仮想連通路14が形成されたとしても、弁室1aから第二空間S2に向かおうとする冷媒を、シール部材13によって、仮想入口14a(すなわち、上述の接触面の、剥離の起点となり得る位置)に到達させないようにすることができる。これにより、弁室1aから第二空間S2に冷媒が移動することを規制することができる。このように、接続部2(インサート部材)の内面と対向面11aとの間から、仮想連通路14を介して、第二空間S2に移動しようとする冷媒の流れをシール部材13により規制することができる。
【0066】
第二実施形態の変形例では、図8に示すように、シール部材13を、Oリングではなく、接着剤で構成している点が第二実施形態と異なっている。この構成についても、第二実施形態の作用、効果と同様に、接続部2の内面と対向面11aとの間から、仮想連通路14を介して、第二空間S2に移動しようとする冷媒の流れをシール部材13により規制することができる。なお、シール部材13の構成は、Oリングや接着剤に限らず、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の樹脂で成形されたパッキンや、ガスケット等、弾性を有する封止材でシール部材13を構成してもよい。
【0067】
次に、本発明に係るスライド式切換弁100の第三実施形態および第三実施形態の変形例について説明する。図9は、第三実施形態におけるスライド式切換弁100の縦断面図である。図10は、図9の領域Cにおける要部拡大図である。図11は、第三実施形態の変形例におけるスライド式切換弁100の要部拡大図である。第三実施形態では、第一インサート部21A1および第二インサート部21A2の構成、仕切部12の形状、およびシール部材13の配置が、上述の実施形態および変形例と異なっている。
【0068】
図9に示すように、第一インサート部21A1および第二インサート部21A2は、外部空間S1を向く面が弁本体1外部に露出している。仕切部12は、E連通路6eよりも一方側L1の位置で、かつ下蓋21の露出部21Bよりも他方側L2の位置、すなわち、弁本体1の外周面においてインサート部21Aを周方向Yに囲む位置(インサート部21Aと径方向Xに隣り合う位置)に、周方向Y全周に亘って形成されている。図10に示すように、この仕切部12は、弁本体1の外周面から径方向X外側に突出する突出部12bと、突出部12bの突出端部から弁本体1の外周面に沿って一方側L1に延びるサポート部12cと、を備えている。突出部12bの一方側L1を向く面は、連結部21B1および第二インサート部21A2の他方側L2を向く面と軸線L方向に対向している。サポート部12cの径方向X外側を向く面は、収容孔6aの内周面6a1と径方向Xに隙間をあけて対向している。サポート部12cの径方向X内側を向く面は、第一インサート部21A1の径方向X外側を向く面と、径方向Xに対向している。
【0069】
そして、シール部材13は、一方側L1の端部が連結部21B1および第二インサート部21A2の他方側L2を向く面に当接し、他方側L2の端部が突出部12bの一方側L1を向く面に当接し、それぞれの面から軸線L方向に押されて圧縮された状態で、弁室1aから第二空間S2に冷媒が流入することを規制している。すなわち、シール部材13は、仕切部12と、接続部2の露出部21Bの外面と、に当接して設けられている。
【0070】
この構成によれば、シール部材13が仕切部12と接続部2の露出部21Bの外面とに当接して設けられているので、弁室1aから第二空間S2に冷媒が流入することを、仮想出口14bに近い位置で、シール部材13により規制することができる。また、この際、連結部21B1および第二インサート部21A2と、突出部12bと、でシール部材13を軸線L方向に圧縮することで、当該規制の状態とすることができる。また、シール部材13と、収容孔6aの内周面6a1との間には、サポート部12cが配置されており、サポート部12cと、第一インサート部21A1と、の間にシール部材13が位置している。ここで、サポート部12cを有さない構成では、高圧の弁室1aの影響で、シール部材13に径方向X外方に向かう力が加わった場合、シール部材13は、同方向に変位することがある。そうすると、図10に示すように、連結部21B1の外端縁はR形状を有していることから、上述のシール部材13の圧縮力のうち他方側L2に向かう力が小さくなり、気密性が低下することがある。しかしながら、本実施形態では、サポート部12cを設けたことで、径方向X外方に変位しようとするシール部材13を、当該サポート部12cで規制することができる。これにより、連結部21B1の外端縁のR形状の影響を受けてシール部材13の圧縮力が低下することが抑制され、当該圧縮力の低下による気密性の低下を抑制することができる。したがって、弁室1aから第二空間S2に冷媒が流入することを規制した状態を、シール部材13によって安定して維持することができる。
【0071】
第三実施形態の変形例では、図11に示すように、仕切部12のサポート部12cを省略した点が、第三実施形態と異なっている。この構成によれば、仕切部12の加工にかかる工数を低減することができ、スライド式切換弁100の作製コストを低減することができる。
【符号の説明】
【0072】
L 軸線
S1 外部空間
S2 第二空間
X 径方向
1 弁本体
1a 弁室(第一空間)
2 接続部(インサート部材)
6a1 内周面(境界面)
13 シール部材
14 仮想連通路
21B 露出部
100 スライド式切換弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15