(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024020999
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法、及び情報処理プログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20240207BHJP
G05B 13/04 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
G05B23/02 P
G05B13/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123616
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 敏嗣
【テーマコード(参考)】
3C223
5H004
【Fターム(参考)】
3C223AA01
3C223FF24
3C223FF47
5H004GA30
5H004GB01
5H004KC48
(57)【要約】
【課題】得られたデータがシステム同定に適しているか否かを、簡易に判定する。
【解決手段】情報処理装置100は、システム同定をするための同定用データセットを用いて、パラメータ推定値の事後分布として推定し、パラメータ推定値の事後分布の分散に基づく評価と、パラメータ推定値を用いた場合の出力追従精度の評価と、を行い、評価部の評価結果に基づいて、同定用データセットの抽出区間をシステム同定に使用する際の適正を判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
システム同定をするための同定用データセットを用いて、パラメータ推定値の事後分布として推定する推定部と、
前記パラメータ推定値の事後分布の分散に基づく評価と、前記パラメータ推定値を用いた場合の出力追従精度の評価と、を行う評価部と、
前記評価部の評価結果に基づいて、前記同定用データセットの抽出区間をシステム同定に使用する際の適正を判定する、判定部と、
を有することを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記推定部は、前記同定用データセットを用いて、ベイズ推定に基づいてパラメータ推定値の事後分布を推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記評価部は、前記パラメータ推定値の事後分布について、二乗和誤差を用いて、前記パラメータ推定値を用いた場合の出力追従精度の評価を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記評価部は、前記パラメータ推定値が、比較対象の異なる時系列における前記パラメータ推定値の事後分布の所定の範囲に含まれるかどうかの、パラメータ推定値変動の評価を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記判定部は、前記パラメータ推定値の事後分布の分散に基づく評価と、前記パラメータ推定値を用いた場合の出力追従精度の評価と、前記パラメータ推定値変動の評価と、の評価結果が所定の条件を満たす場合に、前記同定用データセットの抽出区間をシステム同定に使用する際の適正を判定する、
ことを特徴とする請求項4に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記判定部が所定の条件に合致すると判定した場合に、前記パラメータ推定値の事後分布の平均値を用いて、モデルのパラメータを更新する、更新部を更に有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項7】
システム同定をするための同定用データセットを用いて、パラメータ推定値の事後分布として推定する工程と、
前記パラメータ推定値の事後分布の分散に基づく評価と、前記パラメータ推定値を用いた場合の出力追従精度の評価と、を行う工程と、
評価部の評価結果に基づいて、前記同定用データセットの抽出区間をシステム同定に使用する際の適正を判定する、工程と、
を含むことを特徴とする情報処理方法。
【請求項8】
システム同定をするための同定用データセットを用いて、パラメータ推定値の事後分布として推定する手順と、
前記パラメータ推定値の事後分布の分散に基づく評価と、前記パラメータ推定値を用いた場合の出力追従精度の評価と、を行う手順と、
評価部の評価結果に基づいて、前記同定用データセットの抽出区間をシステム同定に使用する際の適正を判定する、手順と、
を実行させることを特徴とする情報処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理方法、及び情報処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数のデータ間の関係及び現象について解明や、予測や、制御をする時に、該当するシステムを数理モデルとして記述する場合がある。例えば、空調の負荷予測は線形回帰モデルで記述し、プロセスの一次遅れ系はゲイン及び時定数を用いた伝達関数モデルで記述する。そして、数理モデルの記述はパラメータθの推定に帰着することから、パラメータθを推定する必要がある。そこで、推定方法の一つとして、パラメータθが与えられた状態で出力推定値と出力実測値の二乗誤差が、最も小さくなるようなパラメータθを探索する手法である最小二乗法が知られている。
【0003】
前述した数理モデルのパラメータの真値は、プロセスの経年変化や使用環境の変化等により逐次変化し、問題となる場合がある。例えば、パラメータ真値の変化に対応せず、最初に得られたパラメータに基づいて制御器等を設計し続けると、望ましい制御性能を発揮できず予測不能な挙動を示す可能性がある。そのため、システム同定(「プロセス制御において、制御対象の特性解析や制御器設計のために、入出力データ間のゲインや時定数といった応答特性を特徴づけるパラメータを推定すること」と定義し、以降は単に「システム同定」と表記)を逐次行い、パラメータを定期的に更新する必要がある。
【0004】
なお、パラメータを更新する際、逐次得られる入出力データに基づいて、システム同定を繰り返す方法が知られている。しかし、実際には、逐次得られる入出力データの全てが使用できるわけではなく、例えば、入出力特性が明確に表れているといったシステム同定に適しているデータと、ノイズの影響等が大きいといったシステム同定に適さないデータが存在する。そして、前述のシステム同定に適さないデータに基づいて、最小二乗法等を用いたパラメータ推定を行うと、誤推定を引き起こす可能性がある。そこで、前述の誤推定を排除するため、得られたモデルの妥当性を評価し、判断する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術では、得られたデータ自体がシステム同定に適しているか否かを、簡易に判定できない場合があった。
【0007】
例えば、システム同定に適していないデータが得られた場合、従来技術では、データではなくモデルが誤っていると判定してしまう場合があった。そのため、システム同定に適したデータを入力することが前提となることから、システム同定に適したデータか否かを判断するために、深い知見と高度な技術が必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、上記の課題を解決し目的を達成するために、本発明の情報処理装置は、システム同定をするための同定用データセット(入力と出力をともに含むシステム同定に用いるデータのことで、以降は単に「同定用データセット」と表記)を用いて、パラメータ推定値の事後分布として推定する推定部と、前記パラメータ推定値の事後分布の分散に基づく評価と、前記パラメータ推定値を用いた場合の出力追従精度の評価と、を行う評価部と、前記評価部の評価結果に基づいて、前記同定用データセットの抽出区間をシステム同定に使用する際の適正を判定する、判定部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、得られたデータがシステム同定に適しているか否かを、簡易に判定できる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態に係る情報処理方法の概要の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る情報処理装置の装置構成の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る情報処理手順についてのフローチャートである。
【
図4】
図4は、実施形態に係る抽出区間ごとの出力推定値の追従精度についてのグラフの一例を示す図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る抽出区間ごとの事後分散の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係るシステム同定に適した同定用データセットを用いた場合の出力推定値の追従精度の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、実施形態に係るシステム同定に適さない同定用データセットを用いた場合の出力推定値の追従精度の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、実施形態に係るパラメータの妥当性について二乗和誤差(SSE)を用いて比較したグラフの一例を示す図である。
【
図9】
図9は、実施形態に係るパラメータ推定値の変動範囲の評価一例を示す図である。
【
図10】
図10は、実施形態に係る変形例1の入力と、外乱と、出力実測値のグラフの一例を示す図である。
【
図11】
図11は、実施形態に係る変形例1の誤推定の影響を受けるグラフの一例を示す図である。
【
図12】
図12は、実施形態に係る変形例1の誤推定の影響を回避するグラフの一例を示す図である。
【
図13】
図13は、実施形態に係る変形例2の入力と、出力実測値と、パラメータ変動のグラフの一例を示す図である。
【
図14】
図14は、実施形態に係る変形例2のシステム同定に適した区間でのパラメータ推定値更新についての一例を示す図である。
【
図15】
図15は、情報処理装置の機能を実現するコンピュータの一例を示すハードウェア構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、実施の形態(以降、「実施形態」)について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、各実施形態において共通する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する。また、この実施形態の説明は、本発明に係る情報処理装置、情報処理方法及び情報処理プログラムを限定するものではない。また、本実施形態にて説明する数値や情報等は、記載した内容に限定するものではなく、以降の項目において全て同様とする。
【0012】
〔1.情報処理方法の概要〕
本発明における情報処理装置100は、モデルを構築するための同定用データセットに基づいて、ベイズ推定を用いてパラメータ推定値の事後分布として推定し、パラメータ推定値の事後分布の分散に基づく評価(以降、単に「事後分散の評価」)と、パラメータ推定値を用いた場合の出力追従精度の評価(以降、単に「出力追従精度の評価」と表記)と、パラメータ推定値変動の評価と、を行う。そして、情報処理装置100は、前述の評価結果に基づいて、同定用データセットを取得するたびに、同定用データセット及び同定用データセットの取得区間をシステム同定に使用する際の適正を、自動的に判定する。
【0013】
〔1-1.情報処理の一例〕
まず、本発明における情報処理装置100の情報処理方法の概要を、
図1を用いて説明する。
図1では、入力uにより出力実測値yが得られるシステム10を例に説明を行う。なお、システム10は、2入力1出力であることを前提とする。さらに、入出力データ間の応答特性を特徴づけるパラメータとして以下の式(1)を持つこととし、以降は、上記したパラメータを「パラメータ 式(1)」と表記する。なお、以降の項目で情報処理装置100が扱うデータやパラメータは、記載する内容に限定されるものではない。
【0014】
【0015】
まず、情報処理装置100は、同定用データセットを収集する(
図1の(1)参照)。続いて、情報処理装置100は、収集した同定用データセットに基づいて、ベイズ推定を用いてパラメータ推定値である以下の式(2)を推定する(
図1の(2)参照)。なお、以降は、パラメータ推定値を「パラメータ推定値 式(2)」と表記する。
【0016】
【0017】
次に、情報処理装置100は、前述したパラメータ推定値 式(2)の妥当性を評価するために、パラメータ推定値 式(2)の事後分布を用いて、評価を行う。まず、情報処理装置100は、事後分散の評価として、入出力特性を記述するモデルのパラメータ事後分散を推定し、事後分散の評価を実施する(
図1の(3)参照)。事後分散の評価では、情報処理装置100が、パラメータ推定値の優劣を評価できない同定用データセットの取得区間での同定用データセットの取得を排除するために、事後分散の値を算出し、入力uの変動時に出力実測値yが有意に変動するかどうか、について判定する。
【0018】
次に、情報処理装置100は、パラメータ推定値 式(2)を用いた時の出力追従精度の評価を実施する(
図1の(4)参照)。出力追従精度の評価では、情報処理装置100が、推定精度の良いパラメータ推定値 式(2)の算出に適さない同定用データセットの排除するために、二乗和誤差(以降、「SSE:Sum of Squared Error」)を算出する。そして、情報処理装置100は、SSEを用いて、パラメータ推定値 式(2)に基づいて算出する出力推定値である以下の式(3)が、出力実測値yに追従しているかどうか、について判定する。なお、以降は出力推定値を「出力推定値 式(3)」と表記する。
【0019】
【0020】
次に、情報処理装置100は、パラメータ推定値変動の評価を実施する(
図1の(5)参照)。パラメータ推定値変動の評価では、情報処理装置100は、事後分散の評価及び出力追従精度の評価の基準を満たすにも関わらず、パラメータ真値から乖離したパラメータ推定値 式(2)を算出する同定用データセットを排除するため、パラメータ推定値 式(2)が変動許容範囲内に含まれるかどうかを評価し、パラメータ推定値 式(2)の値やオーダーの妥当性を判定する。
【0021】
そして、情報処理装置100は、事後分散の評価と、出力追従精度の評価と、パラメータ推定値変動の評価において、それぞれが後述する所定の基準を満たす場合に、システム同定に適する同定用データセット及び同定用データセットの取得区間であると、判断する(
図1の(6)参照)。そして、情報処理装置100は、判断結果に基づいてパラメータ推定値 式(2)の平均値等を算出し、モデルのパラメータを更新する。
【0022】
なお、
図1の事例では、事後分散の評価(3)、出力追従精度の評価(4)、パラメータ推定値変動の評価(5)、という順番で説明を行ったが、前述の順番に限定されるものではなく、順番を適宜組み替えて実施して良い。
【0023】
〔2.情報処理装置の構成〕
次に、実施形態に係る情報処理装置100の構成について、
図2を用いて説明する。
図2に示すように、情報処理装置100は、通信部110と、記憶部120と、制御部130と、を有する。なお、
図2に図示していないが、情報処理装置100は、各種操作を受け付ける入力部(例えば、タッチパネルや、キーボードや、マウス等)を備えても良い。
【0024】
(通信部110)
通信部110は、NIC(Network Interface Card)等によって実現される。そして、通信部110は、必要に応じてネットワークと有線又は無線で接続され、双方向に情報の送受信を行うことができる。
【0025】
(記憶部120)
記憶部120は、同定用データセット記憶部121と、パラメータ記憶部122と、を有する。なお、記憶部120は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、又は、ハードディスク、光ディスク等の記憶装置によって実現される。
【0026】
(同定用データセット記憶部121)
同定用データセット記憶部121は、情報処理装置100がシステム同定を行うために収集する、同定用データセットを記憶する。なお、同定用データセット記憶部121が記憶する情報は、前述した同定用データセットに限定されるものではなく、その他の同定用データセットになり得る情報を記憶して良い。
【0027】
(パラメータ記憶部122)
パラメータ記憶部122は、情報処理装置100がシステム同定により算出するパラメータを記憶する。なお、パラメータ記憶部122が記憶する情報は、前述した、システム同定により算出されるパラメータに限定されるものではなく、その他のパラメータになり得る情報を記憶して良い。
【0028】
(制御部130)
制御部130は、収集部131と、推定部132と、評価部133と、判定部134と、更新部135と、を有する。なお、制御部130は、プロセッサ(Processor)や、MPU(Micro Processing Unit)や、CPU(Central Processing Unit)等が、記憶部120に記憶されている各種プログラムについて、RAMを作業領域として実行することにより、実現される。また、制御部130は、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のIC(Integrated Circuit)により実現される。
【0029】
(収集部131)
収集部131は、情報処理装置100がシステム同定を行うために用いる情報である同定用データセットを収集する。
【0030】
(推定部132)
推定部132は、システム同定をするための同定用データセットを用いて、ベイズ推定に基づいて、パラメータ推定値 式(2)の事後分布を推定する。
【0031】
前述のベイズ推定は、推定結果を点として得る従来手法の最小二乗法と異なり、推定結果を分布として得ることができる手法である。さらに、ベイズ推定は、事前知識(
図1ではパラメータ 式(1)に関する情報)を反映した分布(以降、「事前分布」)を、観測されたデータに基づいて修正することで新たに分布(以降、「事後分布」)を得る手法である。そして、前述のベイズ推定によって得られた事後分布は、点として得られる最小二乗法に基づいた推定結果と比べて、分散や取り得る値の範囲や分布の広がり等の情報量が多い。そのため、情報処理装置100は、事後分布を用いることで信頼性を評価可能な推定結果を算出する。
【0032】
また、補足すると、一般的にベイズ推定は、事前分布を以下の式(4)と、観測されたデータを以下の式(5)と、事後分布を以下の式(6)とした時に、以下の式(7)で表記できる。
【0033】
【0034】
なお、推定部132は、推定方法にベイズ推定を用いると説明したが、その他パラメータ分布の推定に使用できる推定方法であれば、使用して良い。
【0035】
(評価部133)
評価部133は、パラメータ推定値の事後分布の分散に基づく評価と、パラメータ推定値を用いた場合の出力追従精度の評価と、パラメータ推定値変動の評価と、を行う。評価部133の詳細な機能については、後述の「3-1.事後分散の評価の詳細」と、「3-2.出力追従精度の評価の詳細」と、「3-3.パラメータ推定値変動の評価の詳細」と、という項目で、それぞれ詳細に説明する。なお、評価部133は、前述した評価方法以外の評価を行って良く、さらに、事後分布に限らず確率分布であれば、その他の情報を用いても良い。
【0036】
(判定部134)
判定部134は、評価部133の評価結果に基づいて、同定用データセットの抽出区間をシステム同定に使用する際の適正を判定する。さらに、判定部134は、パラメータ推定値の事後分布の分散に基づく評価(事後分散の評価)と、パラメータ推定値 式(2)を用いた場合の出力追従精度の評価(出力追従精度の評価)と、パラメータ推定値変動の評価と、の評価結果が所定の条件を満たす場合に、同定用データセットの抽出区間をシステム同定に使用する際の適正を判定する。
【0037】
具体的には、判定部134は、同定用データセットの抽出区間をシステム同定に使用する際、事後分散の評価と、出力追従精度の評価と、パラメータ推定値変動の評価と、の評価結果が所定の条件を満たす場合に、対象の同定用データセット及び同定用データセットの抽出区間がシステム同定に適すると判定する。他方、前述の条件を満たさない場合は、判定部134は、対象の同定用データセット及び同定用データセットの抽出区間がシステム同定に適さないと判定する。
【0038】
なお、前述の所定の条件とは、本実施形態の一例では、事後分散の値が基準値以下で、SSEの値が基準値未満で、パラメータ推定値 式(2)が後述の変動許容範囲内に存在する場合である、と定義する。ただし、当該所定の条件は前述した組み合わせに限定されるものではなく、情報処理装置100は、入出力データ間の応答特性に応じた条件を設定できる。例えば、判定部134が判定するのは、事後分散の値とSSEの値の両方もしくはどちらか一方が基準値以下で、という条件のみとしても良い。
【0039】
(更新部135)
更新部135は、判定部134が所定の条件に合致すると判定した場合に、パラメータ推定値 式(2)の事後分布の平均値を用いて、モデルのパラメータを更新する。なお、事後分布の平均値のみならず、最頻値や中央値等のその他の代表統計量を用いてもよい。さらに、更新部135は、前述の判定部134の判定結果に基づき更新するだけでなく、例えば、管理者の指示等に基づいて、必要に応じてパラメータの更新を行って良い。
【0040】
〔3.情報処理の手順〕
次に、実施形態に係る情報処理装置100の情報処理手順を説明する。
図3は、実施形態に係る情報処理の手順についての一例を示すフローチャートである。
【0041】
まず、収集部131が、同定用データセットを収集する(工程S101)。続いて、推定部132が、同定用データセットに基づいて、ベイズ推定を用いてパラメータ推定値 式(2)の事後分布を推定する(工程S102)。次に、評価部133が、事後分散の評価を実施し、事後分散の値を算出する(工程S103)。続けて、判定部134が、評価部133が算出した事後分散の値が、基準値以下の場合には、次の工程に進む判定をする(工程S104のYes)。他方、事後分散の値が基準値を超える場合には、判定部134は、システム同定に適さない同定用データセットの取得区間と判定し、工程が終了する(工程S104のNo及び工程S105)。
【0042】
次に、評価部133が、パラメータ推定値 式(2)に基づいて出力追従精度の評価を実施し、SSEを算出する(工程S106)。続けて、判定部134は、評価部133が算出したSSEの値が基準値未満の場合には、次の工程に進む判定をする(工程S107のYes)。他方、SSEの値が基準値以上の場合には、判定部134は、システム同定に適さない同定用データセットと判定し、工程が終了する(工程S107のNo及び工程S105)。
【0043】
次に、評価部133が、パラメータ推定値 式(2)に基づいて、パラメータ推定値変動の評価を実施する(工程S108)。続けて、判定部134が、評価部133が実施するパラメータ推定値変動の評価において、パラメータ推定値 式(2)が変動許容範囲に存在する場合には、工程S104及び工程S107の判定結果も併せて、システム同定に適した同定用データセットと判定する(工程S109のYes及びS110)。他方、パラメータ推定値 式(2)が変動許容範囲に存在しない場合には、判定部134は、システム同定に適さない同定用データセットと判定し、工程が終了する(工程S109のNo及び工程S105)。
【0044】
なお、
図3のフローチャートでは、事後分散の評価(工程S103)、出力追従精度の評価(工程S106)、パラメータ推定値変動の評価(工程S108)、という順番で説明を行ったが、前述の順番に限定されるものではなく、順番を適宜組み替えて実施して良い。また、各評価における判定の条件についても、適宜変更して良い。
【0045】
〔3-1.事後分散の評価の詳細〕
続いて、以下の項目において「事後分散の評価」と、「出力追従精度の評価」と、「パラメータ推定値変動の評価」と、の詳細を説明する。まず、事後分散の評価について説明する。評価部133は、F検定等を用いて、パラメータ推定値 式(2)の事後分散に基づく評価を行う。
【0046】
事後分散の評価において、評価部133は、「パラメータ推定値 式(2)の優劣を評価できない同定用データセットの取得区間」、言い換えると「異なるパラメータ推定値 式(2)を与えても出力実測値yに対する出力推定値 式(3)の追従精度に、差が表れない同定用データセットの取得区間」であるかどうかを、判定部134が判定するための事後分散を算出する。
【0047】
補足すると、上記の同定用データセットの取得区間は、情報処理装置100がパラメータの真値に近いパラメータ推定値 式(2)の候補値を絞り込むことができないため、システム同定に適していない。他方、「異なるパラメータ 式(1)を与えた場合、出力実測値yに対する出力推定値 式(3)の追従精度に大きな差が生じる」場合には、出力推定値 式(3)の出力実測値yに対する追従精度が良くなるようなパラメータ推定値 式(2)を絞り込むことが容易であることから、システム同定に適した同定用データセットの取得区間であると言える。
【0048】
そして、上記のパラメータ推定値 式(2)の候補値の絞り込み具合は、ベイズの定理に基づいて事後分散の大小として判定できる。具体的には、以下の式(8)で表され、式(8)から、式(9)と式(10)は比例関係にある。したがって、パラメータ 式(1)の値を変えても式(9)に差が生じない場合、式(10)が広い分布となっている。つまり、事後分散が大きくなる。
【0049】
【0050】
そして、事後分散は推定結果に対する確信度を表しており、該事後分散の広がりの性質に基づいて、情報処理装置100は、得られた同定用データセットがシステム同定に適しているかどうかの判定を、以降に記載する手順によって実施する。なお、各パラメータについて、次の通り定義し、以降は同様の表記を用いる。前回のシステム同定時に得られたパラメータを以下の式(11)で表記する「パラメータ 式(11)」とし、パラメータ 式(11)の事後分散を以下の式(12)で表記する「事後分散 式(12)」とし、新たに得られたパラメータを以下の式(13)で表記する「パラメータ 式(13)」とし、式(13)の事後分散を以下の式(14)で表記する「事後分散 式(14)」とする。
【0051】
【0052】
まず、評価部133は、事後分散 式(12)と事後分散 式(14)の比較を、F検定等を用いて行う。続いて、判定部134は、事後分散 式(12) ≧ 事後分散 式(14)が成立した場合に、事後分散の評価の観点において、同定用データセットの取得区間が、システム同定に適していると判定する。
【0053】
さらに、事後分散の評価について
図4及び5を用いて、更に説明を行う。まず、
図4は、同定用データセットの取得区間ごとに、パラメータ推定値 式(2)であるGain(ゲイン)の値とTau(時定数)の値を設定した場合の、SSEの値の算出及び出力実測値yと出力推定値 式(3)をグラフにプロットした図である。なお、
図4に記載の情報処理装置100が扱う数値及びグラフはあくまで一例であり、
図4に記載の情報に限定されるものではない。
【0054】
まず、区間1では、Gainの値を〔-0.1,0.8〕及びTauの値を〔9.0,25.0〕とした場合にはグラフ21が、Gainの値を〔0.5,-3500〕及びTauの値を〔1.0,2500000〕とした場合にはグラフ22が、それぞれ出力される。グラフ21において、出力推定値 式(3)を表すプロット21aは、出力実測値yを表すプロット21bを追従しており、SSEの値は「50」である。
【0055】
他方、グラフ22において、出力推定値 式(3)を表すプロット22aは、出力実測値yを表すプロット22bを追従しておらず、SSEの値は「1500」である。前述した内容から、区間1においては、適したGainの値とTauの値を設定することで、出力推定値 式(3)は出力実測値yを追従するため、システム同定に適した同定用データセットの取得区間であると言える。
【0056】
次に、区間2においては、区間1と同様に、Gainの値を〔-0.1,0.8〕及びTauの値を〔9.0,25.0〕とした場合にはグラフ23が、Gainの値を〔0.5,-3500〕及びTauの値を〔1.0,2500000〕とした場合にはグラフ24が、それぞれ出力される。まず、グラフ23おいて、出力推定値 式(3)を表すプロット23aは出力実測値yを表すプロット23bを追従しておらず、SSEの値は「250」である。
【0057】
他方、グラフ24において、出力推定値 式(3)を表すプロット24aは出力実測値yを表すプロット24bを追従しておらず、SSEの値は「200」である。前述した内容から、区間2においては、適したGainの値とTauの値を設定しても、適さないGainの値とTauの値を設定しても、出力推定値 式(3)の出力実測値yに対する追従精度に大きな差が生じないため、システム同定には適さない同定用データセットの取得区間であると言える。
【0058】
さらに、
図5を用いて、事後分散の比較について説明を行う。
図5は、
図4で示した各区間の事後分散の比較したグラフである。まず、評価部133は、ベイズ推定を用いることで、
図5に示すように分布を持った事後分散を推定する。そして、評価部133が、前回の区間の事後分散31は「分散:0.5」と、区間1の事後分散32は「分散0.2」と、区間2の事後分散33は「分散:1.0」と、いう結果を算出する。
【0059】
そして、判定部134は、「前回の区間の事後分散31 ≧ 区間1の事後分散32」という結果に基づいて、区間1がシステム同定に適した同定用データセットの取得区間であると判定する。他方、区間2については「区間2の事後分散33 ≧ 前回の区間の事後分散31」であるため、判定部134は、システム同定に適さない取得区間であると判定する。
【0060】
〔3-2.出力追従精度の評価の詳細〕
次に、出力追従精度の評価について説明する。評価部133は、パラメータ推定値 式(2)の事後分布について、二乗和誤差を用いて、パラメータ推定値 式(2)を用いた場合の出力追従精度の評価を行う。
【0061】
出力追従精度の評価において、評価部133は、「出力推定値 式(3)の推定精度の良いパラメータ推定値 式(2)を算出できない同定用データセット」、言い換えると「出力推定値 式(3)の出力実測値yに対する追従精度が悪いパラメータ推定値 式(2)を算出する同定用データセット」であるかどうかを、判定部134が判定するための、SSEの値を算出する。SSEの値が小さければ、追従精度が良いと言い換えることができるため、追従精度の指標としてSSEを用いることができる。
【0062】
出力実測値yを精度良く追従する出力推定値 式(3)を算出することが前提であるため、前述の「出力推定値 式(3)の出力実測値yに対する追従精度が悪いパラメータ推定値 式(2)を算出する同定用データセット」は、システム同定に適していない。そこで、判定部134は、出力実測値yと出力推定値 式(3)の追従精度について、SSEを算出し比較することで、判定を行う。
【0063】
なお、本実施形態においては、SSEを用いた評価を前提に説明するがSSEに限定されるわけではなく、例えば、平均絶対誤差(以下、「MAE:Mean Absolute Error」)や平均二乗誤差(以下、「MSE:Mean Squared Error」)を用いて、出力追従精度の評価を行うことができる。
【0064】
次に、評価部133が行う、出力追従精度の評価の手順について説明する。なお、出力追従精度の評価に用いるパラメータについて、次の通り定義し、以降は同様の表記を用いる。パラメータ 式(11)を用いた場合の出力推定値を以下の式(15)で表記する「出力推定値 式(15)」とし、出力推定値 式(15)と出力実測値yのSSEを以下の式(16)で表記する「SSE 式(16)」とし、パラメータ 式(13)を用いた場合の出力推定値を以下の式(17)で表記する「出力推定値 式(17)」とし、出力推定値 式(17)と出力実測値yのSSEを以下の式(18)で表記する「SSE 式(18)」とする。
【0065】
【0066】
まず、評価部133は、SSE 式(16)と、SSE 式(18)とを、それぞれ算出する。続いて、判定部134は、SSE 式(16)とSSE 式(18)の大小関係を確認し、SSE 式(16) > SSE 式(18)であれば、パラメータ 式(13)、すなわちパラメータ 式(13)を算出するために用いた同定用データセットが、システム同定に適していると判定する。
【0067】
続いて、
図6及び
図7を用いて、出力追従精度の評価について更に説明を行う。
図6及び
図7は、パラメータ推定値 式(2)であるGainの値とTauの値を設定した場合に、SSEの値を算出し、出力実測値yと出力推定値 式(3)をグラフにプロットした図である。まず、
図6では、Gainの値を〔-0.1,0.8〕及びTauの値を〔9.0,25.0〕とした場合にはグラフ41が出力される。グラフ41において、出力推定値 式(3)を表すプロット41aは、出力実測値yを表すプロット41bを追従しており、SSEの値は「50」である。
【0068】
他方、
図7では、Gainの値を〔0.5,-3500〕及びTauの値を〔1.0,2500000〕とした場合にはグラフ42が出力される。グラフ42において、出力推定値 式(3)を表すプロット42aは、出力実測値yを表すプロット42bを追従しておらず、のSSEの値は「1500」である。
【0069】
上記の結果に基づいて、判定部134は、グラフ41のパラメータ推定値 式(2)、すなわちパラメータ推定値 式(2)を算出するために用いた同定用データセットが、システム同定に適していると判定する。
【0070】
〔3-3.パラメータ推定値変動の評価の手順〕
次に、評価部133が行うパラメータ推定値変動の評価について、説明する。評価部133は、パラメータ推定値 式(2)が、比較対象の異なる時系列におけるパラメータ推定値の事後分布の、所定の範囲に含まれるかどうかのパラメータ推定値変動の評価を行う。パラメータ推定値変動の評価は、前述した「事後分散の評価」及び「出力追従精度の評価」で排除されなかった、システム同定に不適切なパラメータ推定値 式(2)を算出する同定用データセットを排除することを目的とする。
【0071】
具体的に対象となるのは、「事後分散」と「SSE」が共に基準値を下回るが、パラメータ推定値 式(2)が真値と乖離した値として得られる場合である。そこで、判定部134は、「事後分散の評価」及び「出力追従精度の評価」における判定基準に偶然合致するが、システム同定には不適切なパラメータ推定値 式(2)を算出する同定用データセットを除外するために、予めパラメータ推定値 式(2)の基準範囲として、以下に定義する「変動許容幅」を設定する。そして、判定部134は、設定した変動許容幅から外れるパラメータ推定値 式(2)、すなわちパラメータ推定値 式(2)を算出するために用いた同定用データセットについて、システム同定に不適切であると判定する。
【0072】
次に、パラメータ推定値変動の評価についての手順を説明する。まず、各パラメータについて、次の通り定義し、以降は同様の表記を用いる。パラメータ 式(11)の事後標準偏差を以下の式(19)で表記する「事後標準偏差 式(19)」とし、パラメータの変動許容幅を以下の式(20)で表記する「変動許容幅 式(20)」とする。
【0073】
【0074】
まず、判定部134は、事後標準偏差 式(19)を用いて、許容変動幅 式(20)を設定する。続いて、判定部134は、パラメータ 式(13)が、許容変動幅 式(20)の範囲内であればパラメータ推定値変動の評価の観点において、パラメータ推定値 式(2)、すなわちパラメータ推定値 式(2)を算出するために用いた同定用データセットが、システム同定に適していると判定する。なお、変動許容幅 式(20)に記述するαはハイパーパラメータであり、本発明を適用するデータに応じてあらかじめ設定する。
【0075】
続いて、パラメータ推定値変動の評価について
図8及び
図9を用いて、更に説明をする。まず、
図8は、同定用データセットの取得区間ごとに、パラメータ推定値 式(2)であるGainの値とTauの値を設定した場合のSSEの値を算出し、出力実測値yと出力推定値 式(3)をグラフにプロットした図である。
【0076】
まず、区間1では、Gainの値を〔-0.1,0.8〕及びTauの値を〔9.0,25.0〕とした場合にはグラフ51が、出力される。そして、グラフ51において、出力推定値 式(3)を表すプロット51aは、出力実測値yを表すプロット51bを追従しており、SSEの値は「50」である。
【0077】
他方、区間3においては、Gainの値を〔0.4,2.30〕及びTauの値を〔4.0,15.0〕とした場合にはグラフ52が出力される。グラフ52において、出力推定値 式(3)を表すプロット52aは出力実測値yを表すプロット52bを、追従しており、SSEの値は「60」である。
【0078】
前述した、
図8で示される区間1及び区間3に対しての「事後分散の評価」と「出力追従精度の評価」においては、判定部134は、区間1及び区間3で得られるパラメータ推定値 式(2)を算出する同定用データセットは、どちらもシステム同定に適していると判定する。しかしながら、
図9で、前回更新時に得られたパラメータ 式(11)の事後標準偏差 式(19)を算出し、該事後標準偏差 式(19)を用いて設定する変動許容幅 式(20)に基づいて比較を行うと、区間1で得られるパラメータ 式(13)は変動許容幅 式(20)の範囲内に存在しており、区間3で得られるパラメータ 式(13)は変動許容幅 式(20)の範囲外に存在している、したがって、判定部134は、区間1で得られるパラメータ推定値 式(2)、すなわち区間1で得られるパラメータ推定値 式(2)を算出するために用いた同定用データセットがシステム同定に適すると判定する。
【0079】
〔4.変形例〕
次に、本実施形態の変形例について説明を行う。
【0080】
〔4-1.変形例1:誤推定の回避〕
まず、
図10から12を用いて、情報処理装置100が、パラメータ推定値 式(2)の誤推定を回避する例を説明する。
図10では、変形例1の前提条件として、3入力としての入力uと、意図しない入力である外乱dと、1出力として出力実測値yと、を示す。なお、
図10では、区間Bは出力実測値yが外乱dの影響を受けた値となっており、本来の入力uに起因する出力実測値yではなく、外乱dの影響を受けた出力実測値yとなる。そのため、該領域でパラメータを推定すると、誤推定を引き起こす場合がある。
【0081】
次に、
図11は、
図10の入力条件において、従来技術にてパラメータ推定を行った場合の出力実測値y及び出力推定値 式(3)のプロットと、パラメータ推定値の変動を表している。まず、外乱dの影響を受けていない区間A及び区間Cにおける出力推定値 式(3)のプロット62は、出力実測値yのプロット63を精度良く追従しており、パラメータ推定値 式(2)については、パラメータ真値64と、パラメータ推定値の更新値65が、一致していることから、区間A及びCにおけるパラメータ推定値 式(2)、すなわちパラメータ推定値 式(2)を算出するために用いた入力u及び出力実測値yの取得区間が、システム同定に適していると言える。
【0082】
他方、区間Bにおいては、パラメータ真値64と、パラメータ推定値の更新値65が乖離していることから、区間Bにおいて推定されるパラメータ推定値 式(2)、すなわちパラメータ推定値 式(2)を算出するために用いた入力u及び出力実測値yの取得区間は、システム同定に適していないと言える。
【0083】
続いて、
図12は、情報処理装置100が出力する、出力実測値y及び出力推定値 式(3)のプロットと、パラメータ推定値の変動を表している。
図12においては、まず、外乱dの影響を受けていない区間A及び区間Cでは、本手法の事後分散の評価、出力推定値の追従精度の評価、パラメータ推定値変動の評価のいずれも基準を満たしている。したがって、判定部134は、本手法により区間A及び区間Cのデータセットがシステム同定に適していると判定する。実際、
図12では、区間A及び区間Cにおける出力推定値 式(3)のプロット62は出力実測値yのプロット63を精度良く追従しており、パラメータ推定値 式(2)については、パラメータ真値64と、パラメータ推定値の更新値65が、一致していることから、区間A及びCにおけるパラメータ推定値 式(2)、すなわちパラメータ推定値 式(2)を算出するために用いた入力u及び出力実測値yの取得区間は、
図11同様にシステム同定に適していると言える。
【0084】
他方、区間Bについては外乱dの影響を受けており、本手法の事後分散の評価及びパラメータ推定値変動の評価で基準を満たさないため、システム同定に不適切な入力u及び出力実測値yの取得範囲であると判定部134が判定し、更新部135は、パラメータの更新を行わない。その結果、区間Bにおいて、パラメータ真値64と、パラメータ推定値の更新値65が全ての区間において一致しており、情報処理装置100は、区間Bでのパラメータ推定値 式(2)の誤推定を回避する。
【0085】
〔4-2.変形例2:所定の条件に合致するデータ区間でのパラメータの更新〕
次に、
図13及び
図14を用いて、本発明の情報処理装置100が、所定の条件に合致する入力u及び出力実測値yの取得区間で、パラメータを更新する例を説明する。まず、
図13では、変形例2の前提条件として、1入力としての入力uと、1出力として出力実測値yと、パラメータ 式(1)の変動と、を示す。そして、区間Eにて入力uと、パラメータ 式(1)が変動していることから、システム同定に適した区間Fでパラメータの更新が行われるのが望ましい。
【0086】
次に、
図14は、
図13の条件に基づいて、出力実測値yと出力推定値 式(3)のプロット及びパラメータ真値69とパラメータ推定値の更新値70の変動を表している。まず、区間Eにおいてパラメータ 式(1)が変動しているが、本手法の事後分散の評価で基準を満たさないため、判定部134は、区間Eがシステム同定に適していないと判定する。その結果、区間Eを含む取得区間は、システム同定に適さないことになる。したがって、更新部135は、この取得区間から得られるパラメータ推定値 式(2)では更新しない。その結果、出力実測値yのプロット67と出力推定値 式(3)のプロット68では、パラメータ 式(1)が変動していることから、追従精度が低下する。しかし、区間Fにて、本手法の事後分散の評価、出力推定値の追従精度の評価、パラメータ推定値変動の評価のいずれも基準を満たしているため、情報処理装置100は、当該区間F及びパラメータ推定値 式(2)がシステム同定に適していると判定し、パラメータ推定値の更新値70がパラメータ真値69と同水準の値になるように更新する。その結果、区間F以降では、追従精度が区間Dと同水準となる。
【0087】
〔5.効果〕
従来技術では、システム同定に適している同定用データセットを、テストモード等でプロセスを稼働させ収集する必要があり、時間や金銭面でのコストが大きいことが問題となる場合があった。さらに、予め得られた同定用データセットの取得区間において、入力uが変動している時に、出力実測値yが有意に変動しているかどうかを目視等で判断し、必要に応じて入力uのデータの切り出し等の加工を行う必要があった。また、前述の入力uが変動している時に、出力実測値yが有意な変動を目視等で判断できたとしても、同定用データセットや同定用データセットの取得区間がシステム同定に適しているかどうか判断するためには、実際に最小二乗法を用いてパラメータ推定を行い、得られるパラメータ推定値について評価を行う必要があった。
【0088】
加えて、前述のシステム同定に適しているかの判断をするための評価は、最小二乗法により得られたパラメータ推定値を、パラメータ推定に関する深い知見と技術を持つエンジニア等が、「パラメータ推定値を用いることで得られる出力推定値が出力実測値に追従しているかどうか」や、「パラメータ推定値の値についてオーダーが経験的に妥当かどうか」等を確認する必要があった。
【0089】
しかしながら、前述してきたように、情報処理装置100は、同定用データセットに基づいて、ベイズ推定を用いてパラメータ推定値の事後分布を推定し、パラメータ推定値の事後分布の分散に基づく評価と、出力追従精度の評価と、パラメータ推定値変動の評価を行い、同定用データセットや同定用データセットの取得区間がシステム同定に使用する際の適正を判定する。従って、情報処理装置100は、パラメータ推定に関する深い知見と技術が無くても、得られた同定用データセットや同定用データセットの取得区間をシステム同定に使用する際の適正を、同定用データセットを取得する度に、システマチックに判定する。
【0090】
上記により、情報処理装置100は、パラメータ推定値から同定用データセットが使用に適する同定用データセットの取得区間であるかについて、自動的に判定するため、システム同定に不適切な同定用データセットや同定用データセットの取得区間を排除できる、という効果を提供する。
【0091】
また、情報処理装置100は、パラメータ推定値の精度が所定の基準を満たさない同定用データセットであるかについて、自動的に判定するため、システム同定に不適切な同定用データセットを排除できる、という効果を提供する。
【0092】
さらに、情報処理装置100は、事後分散の評価及び出力追従精度の評価において所定の条件を満たすが、真値ではないパラメータ推定値であるかについて、自動的に判定するため、システム同定に不適切な同定用データセットを排除できる、という効果を提供する。
【0093】
さらに、本発明は、上記のように自動的かつシステマチックにシステム同定に不適切なデータセットを排除する機能を備えており、パラメータ推定に関する深い知見と技術を備えていないエンジニア等でも比較的低コストで精度の高いシステム同定を実現できる、という効果を奏するものとなっている。
【0094】
〔6.ハードウェア構成〕
前述した、実施形態に係る情報処理装置100は、例えば、
図15に示すような構成のコンピュータ1000によって実現される。
図15は、情報処理装置100の機能を実現するコンピュータの一例を示すハードウェア構成図である。コンピュータ1000は、CPU1100、RAM1200、ROM1300、補助記憶装置1400、通信I/F(インタフェース)1500、入出力I/F(インタフェース)1600が、バス1800により接続された形態を有する。
【0095】
CPU1100は、ROM1300又は補助記憶装置1400に格納されたプログラムに基づいて動作し、各部の制御を行う。ROM1300は、コンピュータ1000の起動時にCPU1100によって実行されるブートプログラムや、コンピュータ1000のハードウェアに依存するプログラム等を格納する。
【0096】
補助記憶装置1400は、CPU1100によって実行されるプログラム、及び、係るプログラムによって使用されるデータ等を格納する。通信I/F1500は、所定の通信網を介して他の機器からデータを受信してCPU1100へ送り、CPU1100が生成したデータを所定の通信網を介して他の機器へ送信する。CPU1100は、入出力I/F1600を介して、ディスプレイやプリンタ等の出力装置、及び、キーボードやマウス等の入出力装置1700を制御する。CPU1100は、入出力I/F1600を介して、入出力装置1700からデータを取得する。また、CPU1100は、生成したデータについて入出力I/F1600を介して入出力装置1700へ出力する。
【0097】
例えば、コンピュータ1000が本実施形態に係る情報処理装置100として機能する場合、コンピュータ1000のCPU1100は、RAM1200上にロードされたプログラムを実行することにより、制御部130の機能を実現する。
【0098】
〔7.その他〕
前述の実施形態及び変形例において説明した各処理のうち、自動的に行われるものとして説明した処理の全部又は一部を手動的に行うこともでき、あるいは、手動的に行われるものとして説明した処理の全部又は一部を公知の方法で自動的に行うこともできる。この他、上記文書中や図面中で示した処理手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。例えば、各図に示した各種情報は、図示した情報に限られない。
【0099】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の通り構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況等に応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。
【0100】
前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述してきた実施形態及び変形例は、処理内容を矛盾させない範囲で適宜組み合わせることが可能である。
【0101】
また、前述してきた「部(section、module、unit)」は、「手段」や「回路」等に読み替えることができる。例えば、制御部は、制御手段や制御回路に読み替えることができる。
【0102】
以上、本発明の実施形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、発明の開示の欄に記載の態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。
【符号の説明】
【0103】
10 システム
100 情報処理装置
110 通信部
120 記憶部
121 同定用データセット記憶部
122 パラメータ記憶部
130 制御部
131 収集部
132 推定部
133 評価部
134 判定部
135 更新部
1000 コンピュータ
1100 CPU
1200 RAM
1300 ROM
1400 補助記憶装置
1500 通信I/F
1600 入出力I/F
1700 入出力装置
1800 バス