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特開2024-21008師管転流の制御場所決定方法、農作物の生産方法、生きた植物に使用される造影剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021008
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】師管転流の制御場所決定方法、農作物の生産方法、生きた植物に使用される造影剤
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/06 20060101AFI20240207BHJP
【FI】
A01G7/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123629
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】尹 永根
(72)【発明者】
【氏名】三好 悠太
(72)【発明者】
【氏名】鈴井 伸郎
(72)【発明者】
【氏名】河地 有木
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、師管転流の制御場所決定方法、農作物の生産方法、生きた植物に使用される造影剤を提供することである。
【解決手段】上記課題を解決するために、本発明の師管転流の制御場所決定方法は、生きた植物の師管の画像情報に基づいて、植物の目的場所に向かう師管転流が増量するように、茎を流れる師管転流の一部又は全部を制御する場所を決定することを特徴とする。また、本発明の農作物の生産方法は、植物の茎の道管の一部又は全部を残した状態で、師管転流制御手段が、師管転流を抑制又は停止し、植物の目的場所に向かう師管転流を制御することを特徴とする。さらに、生きた植物の師管の画像情報の撮影のために使用される造影剤であって、金属と疑似養分を含むことを特徴とする、生きた植物に使用される造影剤。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生きた植物の師管の画像情報に基づいて、植物の目的場所に向かう師管転流が増量するように、茎を流れる師管転流の一部又は全部を制御する場所を決定することを特徴とする、師管転流の制御場所決定方法。
【請求項2】
植物の茎の道管の一部又は全部を残した状態で、師管転流制御手段が、師管転流を抑制又は停止し、植物の目的場所に向かう師管転流を制御することを特徴とする、農作物の生産方法。
【請求項3】
前記師管転流制御手段は、切り込みであることを特徴とする、請求項2に記載の農作物の生産方法。
【請求項4】
前記師管転流制御手段は、冷却手段であることを特徴とする、請求項2に記載の農作物の生産方法。
【請求項5】
前記冷却手段の冷却温度は、0℃以上20℃以下であることを特徴とする、請求項4に記載の植物の生産方法。
【請求項6】
前記師管転流制御手段により制御される植物の場所は、植物の茎の節部の近傍であることを特徴とする、請求項2に記載の農産物の生産方法。
【請求項7】
前記師管転流制御手段により制御される植物の場所は、植物の主軸上の節部の下側近傍であることを特徴とする、請求項6記載に記載の農産物の生産方法。
【請求項8】
前記師管転流制御手段により制御される植物の場所は、植物の目的場所となる側軸の直上葉の節部の上側近傍かつ主軸上であることを特徴とする、請求項6に記載の農産物の生産方法。
【請求項9】
金属と疑似養分を含むことを特徴とする、生きた植物に使用される造影剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、師管転流の制御場所決定方法に関するものである。また、本発明は、農作物の生産方法に関するものである。また、本発明は、生きた植物に使用される造影剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
農作物の生産では、農作物の収穫量を増やすため葉で作られた光合成産物を果柄などの収穫部位へ効率よく移行、蓄積させることが重要である。
【0003】
従来の農作物の栽培管理方法では、余分な葉や新芽または果柄を摘み取る整枝作業を行い、葉で生産された光合成産物の需要箇所と需要量を調整し、収穫部位がより多く生産できるように管理することが行われている。また、植物の生育環境(温度管理、光の供給量や施肥量等)を調節することで、光合成産物を多く生産させるような栽培管理が行われている。
【0004】
特許文献1には、植物の道管又は師管に採取管を接続し、植物の中の植物体液を採取して、採取した植物体液を調整して植物の内部に戻すことが記載されており、収穫部位である果実の肥大化の調節や裂果の発生を防ぐこと、水分や養分(成長ホルモンなど)の量をコントロールすることが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、植物の収穫部位や葉を袋やカバーで覆い、収穫部位や葉の周辺部分に対して温度管理等を行い、育成環境を整えることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5848423号公報
【特許文献2】特開2006-246879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の農作物の栽培管理方法である整枝作業では、光合成産物の葉から収穫部位への転流は植物任せであるため、生産者がこれを制御することは困難である。つまり、整枝(せいし)作業や植物の生育環境を整えて光合成産物をより多く生産させることができても、生産された光合成産物が収穫部位へ供給されるように人為的に制御することはできない。
また、特許文献1では、植物体液を採取、調整し、植物の内部に戻すことで、植物の成長をコントロールしようとするものであるが、植物の内部に戻した植物体液の流れについは、植物任せであり人為的に効率よく収穫部位へ光合成産物が蓄積されるように制御することはできていない。
さらに特許文献2も同様に、収穫部位の周辺部分の環境を整えた場合であっても、葉で生産された光合成産物が効率よく収穫部位に蓄積されるかは植物任せであり、また、同様に葉の周辺部分の環境を整えた場合であっても、葉で生産された光合成産物が効率よく収穫部位に蓄積されるかは植物任せである。
よって、収穫部位に効率よく光合成産物が蓄積されるように、葉で生産された光合成産物の流れ(師管転流)を制御することが求められている。
【0008】
そこで本発明の課題は、植物の目的場所(例えば収穫部位)に効率よく光合成産物が蓄積されるように植物の師管転流を制御するための師管転流の制御場所決定方法を提供することである。また、本発明の課題は、植物の目的場所(例えば収穫部位)に効率よく光合成産物が蓄積されるように植物の師管転流を制御する農作物の生産方法を提供することである。また、本発明の課題は、生きた植物に使用される造影剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、植物の目的場所に効率よく光合成産物が蓄積されるように、師管転流を制御する場所を特定することにより本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の師管転流の制御場所決定方法である。また、本発明は、以下の農作物の生産方法である。また、本発明は、以下の生きた植物に使用される造影剤である。
【0010】
上記課題を解決するための師管転流の制御場所決定方法は、生きた植物の師管の画像情報に基づいて、植物の目的場所に向かう師管転流が増量するように、茎を流れる師管転流の一部又は全部を制御する場所を決定することを特徴とする。
この師管転流の制御場所決定方法によれば、生きた植物の師管の画像情報から、植物の師管の構造と師管の内部を流れる光合成産物の方向を特定でき、葉で生産された光合成産物が、効率よく植物の目的場所に、移行、蓄積させる制御を行うことができる制御場所を決定することができる効果がある。
【0011】
上記課題を解決するための農作物の生産方法は、植物の茎の道管の一部又は全部を残した状態で、師管転流制御手段が、師管転流を抑制又は停止し、植物の目的場所に向かうように師管転流を制御することを特徴とする。
この農作物の生産方法によれば、葉で生産された光合成産物が、師管転流制御手段により植物の目的場所に向かうように師管転流を制御できることから、効率よく農産物の目的箇所を生産できる効果がある。
【0012】
さらに、本発明の農作物の生産方法の一実施態様としては、師管転流制御手段は、切り込みであることを特徴とする。
本発明の農作物の生産方法によれば、刃物で切り込みを入れることで、師管転流制御手段とすることができることから、作業が簡単であるという効果がある。
【0013】
さらに、本発明の農作物の生産方法の一実施態様としては、師管転流制御手段は、冷却手段であることを特徴とする。
本発明の農作物の生産方法によれば、師管転流制御部の冷却を容易に停止できることから、可逆的な師管転流の制御が容易にできる効果がある。
【0014】
さらに、本発明の農作物の生産方法の一実施態様としては、冷却手段の冷却温度は、0℃以上20℃以下であることを特徴とする。
本発明の農作物の生産方法によれば、植物に損傷を与えない範囲で師管転流の制御を行うことができる効果がある。
【0015】
さらに、本発明の農作物の生産方法の一実施態様としては、師管転流制御手段により制御される植物の場所は、植物の茎の節部の近傍であることを特徴とする。
本発明の農作物の生産方法によれば、植物の茎の節部の近傍に師管が集まる傾向があることから、師管転流制御手段により制御される場所として好適であり、光合成産物を農産物の目的箇所に効率よく蓄積させることができる。
【0016】
さらに、本発明の農作物の生産方法の一実施態様としては、師管転流制御手段により制御される植物の場所は、植物の主軸上の節部の下側近傍であることを特徴とする。
本発明の農作物の生産方法によれば、師管転流制御部の上側の節部から分岐する側軸への師管転流が多くなる効果がある。
【0017】
さらに、本発明の農作物の生産方法の一実施態様としては、師管転流制御手段により制御される植物の場所は、植物の目的場所となる側軸の直上葉の節部の上側近傍かつ主軸上であることを特徴とする。
本発明の農作物の生産方法によれば、植物の目的場所となる側軸に光合成産物が流れやすくなる効果がある。
【0018】
上記課題を解決するための生きた植物に使用される造影剤は、金属と疑似養分を含むことを特徴とする。
この生きた植物に使用される造影剤によれば、疑似養分を含むことから、造影剤を植物に取り込ませるために作成した維管束の切断面が閉じにくくなり、多くの金属と疑似養分を植物に取り込ませることができる効果がある。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、植物の目的場所に効率よく光合成産物が蓄積されるように植物の師管転流を制御するための師管転流の制御場所決定方法を提供することができる。
また、本発明によれば、植物の目的場所に効率よく光合成産物が蓄積されるように植物の師管転流を制御する農作物の生産方法を提供することができる。
また、本発明によれば、生きた植物に使用される造影剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1の実施態様に係る師管転流制御手段を適用した農産物の生産方法の植物の状態示す概略説明図である。
図2】本発明の第1の実施態様に係る農産物の生産方法の適用可能な植物を示す概略説明図である。
図3】本発明の第1の実施態様に係る師管転流制御手段を適用していない状態における植物の状態を示す概略説明図である。
図4】本発明の第1の実施態様に係る師管転流制御部を示す植物の概略説明図である。
図5】本発明の第1の実施態様に係る造影剤を植物に吸収させる状態を示す植物の概略説明図である。
図6】本発明の第1の実施態様に係る師管転流の制御場所決定手段示す植物の概略説明図である。
図7】本発明の第2の実施態様に係る師管転流制御手段を適用した農産物の生産方法の植物の状態を示す概略説明図である。
図8】本発明の実施態様に係る師管転流の制御場所決定方法に使用される画像情報であり、(A)は第1の実施態様を適用した状態の師管転流の方向を示す画像情報の一例である。(B)は第2の実施態様を適用した状態の師管転流の方向を示す画像情報の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の師管転流の制御場所決定方法、農作物の生産方法及び生きた植物に使用される造影剤に係る実施形態を詳細に説明する。
本発明の師管転流の制御場所決定方法は、生きた植物の師管の画像情報(X線CTイメージング画像及びRIイメージング動画像)に基づいて、植物の目的場所(例えば、光合成産物の蓄積箇所である果柄)に向かう師管転流が増量するように、茎を流れる師管転流の一部又は全部を制御する場所を決定することを特徴とするものである。
そして、この師管転流の制御場所決定方法により決定された制御場所を師管転流制御手段で制御することで、植物の一部分の師管転流を抑制又は停止する。これにより、植物の目的場所に向かう師管転流が多くなるように制御することで、農作物の生産効率を向上させる生産方法とすることができる。
また、本発明の師管転流の制御場所決定方法は、生きた植物の師管の画像情報に基づくものであるが、生きた植物に使用される造影剤は、金属と疑似養分を含むものである。疑似養分を含むことにより、造影剤を取り込ませるために作成した維管束の切断箇所が修復されることを抑制し、長時間植物の内部に金属を取り込ませることで、鮮明な画像とすることができるものである。
【0022】
なお、実施形態に記載する本発明の師管転流の制御場所決定方法、農作物の生産方法及び生きた植物に使用される造影剤については、本発明を説明するために例示したに過ぎず、これに制限されるものではない。
【0023】
[第1の実施態様]
(農産物の生産方法)
図1及び図2を参照し、最初に本発明の第1の実施態様の農作物の生産方法について説明する。
図1に示す農産物の生産方法は、予め、生きた植物1の師管の画像情報5に基づいて、植物の目的場所2(光合成産物蓄積部20である果柄など)に向かう師管転流が増量するように、師管転流を制御する場所(師管転流制御部3)が決定された状態である。本発明の農産物の生産方法は、植物1と、師管転流制御部3と、師管転流制御手段4を備える。
【0024】
(植物)
本発明の植物1は、師管及び道管を有する維管束10をもつ植物であれば適用可能であり、被子植物が挙げられる。また、植物1は、草本植物、木本植物のいずれでもよく、例えば、イチゴ、メロン、スイカ、トマト、ナス、オクラ、カボチャ、コメ、麦などの草本植物からなる農作物、柿、桃、林檎、葡萄、枇杷、オレンジ、ミカンなどの木本植物からなる農作物、カーネーション、バラ、菊、胡蝶蘭などの草本植物からなる観賞用植物などが挙げられる。
【0025】
植物1としては、農作物が好ましく、農作物は、果柄のような光合成産物蓄積部20が食用であることがより好ましい。師管転流の流量と果柄の肥大量や糖度との間には正の相関関係が存在することが知られていることから、光合成産物蓄積部20に多くの光合成産物が供給されるように、師管転流を制御することで、食用の農作物の肥大化や糖度を向上させることができる。
【0026】
本発明で適用可能な植物1は、図2に示すように、根11、主軸12、側軸13を備え、主軸12から分岐した側軸13の根元部分を節部14とし、節部14と節部14の間の主軸部分を節間部15とする。側軸13には葉及び又は光合成産物蓄積部20である果柄を備えた状態である。また、根11とは反対の方向にある主軸12の先端部分が植物の生長点16である。なお、主軸12と側軸13を含めたものが、茎17に該当する。
【0027】
(師管転流制御部)
師管転流制御部3としては、植物1の中の茎17の部分が該当し、特に主軸12であれば、葉のついた複数の側軸13で生産された光合成産物が集められていることから、効率よく師管転流を制御する場所として好適である。師管転流制御部3は、主軸12の節間部15の中央部分でもよいが、主軸12の節部14の近傍であることが好ましい。
【0028】
発明者らは、師管転流に関する研究課程において、師管の中の光合成産物の流れである師管転流を制御することで、植物1の成長を制御することに着目した。その結果、節間部15は、維管束10が上下方向に螺旋状に配置されていることから、師管の場所を特定しにくいが、主軸12の節部14の近傍には、側軸13に集合するように維管束10が配置されていることから、植物1の外観で維管束10の場所を予測しやすいため、師管転流制御部3として好適であることを見いだした。そして、主軸12の節部14の近傍に後述する師管転流制御手段4である切断部41(切り込み)を設けることで、師管転流を制御することができることを確認し、本発明を完成させた。
【0029】
図3に示すように、師管転流制御部3で師管転流を制御する前(切り込みを作成する前)は、例えば、根11の方向に多くの光合成産物が流れ、光合成産物蓄積部20の師管転流の量が少ないが、図1に示すように、師管転流制御部3で師管転流を制御すること(切り込みを作成した後)で、植物の目的場所2(光合成産物蓄積部20)に光合成産物が多く供給されるようになる。
なお、図1~3では、地面から立ち上がるように成長する植物1を例示したが、本発明は、地表を這うように成長する植物1にも適用可能である。また、植物1についての上下方向は、生長点16の側が上側に該当し、根11の側が下側に該当する。
【0030】
師管転流制御部3は、主軸12の節部14の上側または下側の近傍のどちらか一方に設ければよい。言い換えると、師管転流制御部3は、主軸12上の節部14の真上部分又は真下部分である。
植物1の種類や成長時期等によって、師管転流制御部3の場所は異なるが、光合成産物蓄積部20を有する側軸13の節部14の近傍に師管転流制御部3を設ける場合、主軸12上における節部14の下側の近傍を師管転流制御部3とすることが好ましい。言い換えると、師管転流制御手段4により制御される植物1の場所は、植物1の主軸12上の節部14の下側近傍であることが好ましい。主軸12上における節部14の下側の近傍に師管転流制御部3を設けることで、師管転流制御部3の上側の節部14から分岐する側軸13への師管転流が多くなる効果がある。
光合成産物蓄積部20を有する側軸13の節部14の下側近傍に切断部41を作成することで光合成産物蓄積部20への師管転流が増加する傾向があることを発明者らは確認しているためである。
なお、図1~2では、植物1対して師管転流制御部3が一か所設けられた場合を例示したが、複数ある節部14のそれぞれに師管転流制御部3が設けられてもよい。また、一の節部14の上側の近傍に師管転流制御部3を設け、他の節部14の下側の近傍に師管転流制御部3を設ける等、複数の師管転流制御部3を組み合わせて設置してもよい。
【0031】
また、図4に示すように、光合成産物蓄積部20を有する側軸13Aの隣り合う上側かつ側軸13Aとは反対の側(図4の右側)に延びる側軸13B(直上葉)の節部14Bの近傍に師管転流制御部3を設定する場合、主軸12上かつ節部14Bの上側近傍に設定することが好ましい。言い換えると、師管転流制御手段4により制御される植物1の場所は、植物の目的場所2となる側軸13Aの直上葉の節部14Bの上側近傍かつ主軸12上とすることが好ましい。
上述したように、植物1により師管転流の方向は異なるが、直上葉の節部14Bの上側近傍かつ主軸12上に切断部41を設けることで、植物の目的場所2となる側軸13Aに光合成産物が流れやすくなる効果を得られる傾向があることを、発明者らは確認しているためである。
【0032】
(師管転流制御手段)
図1を参照し、師管転流制御手段4について説明する。師管転流制御手段4は、師管転流制御部3の維管束10の中の師管の流れを抑制又は停止させる手段であれば特に限定されない。本実施の態様では、師管転流制御手段4は、師管を切断する手段が該当し、主軸12に設けられた切断部41の場合で説明する。
切断部41は、主軸12に切り込みが設けられた状態であり、従来の余分な葉や新芽または果柄を摘み取る整枝作業のように、主軸12や側軸13の全てを除去するものではない。言い換えると、主軸12や側軸13の中の複数の維管束10の全てを切断するものではなく、道管の一部又は全部を残しつつ、師管の一部又は全部を切断することで、切断部41の設けられた師管の中を流れる光合成産物の流れを抑制又は停止させる。
切断部41の切り込みの幅や深さは、主軸12の太さによって異なり、師管を切断できる幅と深さであればよいが、例えば、切り込みの幅は10mm程度であり、深さは2mm~3mmが例示できる。
切断部41の切り込みは、主軸12上の節部14の上側又は下側の近傍かつ側軸13の側から主軸12の中心に向かって切断される。
【0033】
切断部41は、主軸12に切り込みを設けることができれば、方法や用いられる道具は限定されないが、剃刀やナイフのような刃物を使用することが、入手しやすく好適である。また、刃物を使用する場合、殺菌剤や植物を成長させる成長ホルモン剤が塗布されていることが好ましい。切断部41から感染症となることを抑制し、植物1が枯れてしまうことを抑制できる。
本実施の態様では、師管転流制御手段4は、主軸12上の節部14の近傍に切り込みを設けることであることから、作業が簡単という効果がある。
【0034】
[師管転流の制御場所決定方法]
次に、図6を参照し、師管転流の制御場所決定方法について説明する。師管転流制御部3の決定方法は、生きた植物1の師管の画像情報5に基づいて行なわれるものである。画像情報5は、2種の情報が該当し、植物1の維管束10の構造が可視化された情報と、時間経過とともに植物1の師管転流の方向を特定(師管の中を流れる成分が到達した場所と量を特定)できる情報とが該当する。
【0035】
具体的には、植物1の維管束10の構造が可視化された情報としては、X線CTイメージング画像51が該当する。なお、本発明で使用されるX線CTイメージング画像51は、植物1の保有する代謝機能を失わない状態で撮影された画像が使用される。
また、時間経過とともに植物1の師管転流の方向を特定できる情報としては、RIイメージング動画像52が該当する。
【0036】
(X線CTイメージング画像)
X線CTイメージング画像51は、植物1の維管束10を可視化するものであり、その構造及び配置を把握することができる情報である。本発明では、撮影装置などは従来の装置で行われるが、使用される造影剤6に特徴を有する。
【0037】
[造影剤]
造影剤6は、X線CTイメージング画像51を鮮明にするために使用されるものである。造影剤6は金属61と疑似養分62を含む溶液が使用される。造影剤6は、植物1の維管束10の内部に投入されればどのような方法でもよいが、例えば、植物1の維管束10を切断し、その切断部分から造影剤6を吸収させることで、植物1の内部に取り込ませる方法が例示できる。植物1の維管束10の切断部分としては、作業のしやすさを考慮して、葉の葉脈を切断することが例示でき、その切断面が容器に入れられた造影剤6の中に常時浸された状態を維持するようにすることで、造影剤6を植物1に投入することができる。
【0038】
<造影剤の金属>
使用される造影剤6の金属61としては、植物1に取り込まれた際に、植物1を枯らすような影響を与えないものであればよい。造影剤6の金属61としては、植物1の育成に使用されないバリウム又はその塩が例示でき、植物1の育成に使用される銅、亜鉛、鉄又はこれらの塩が例示できる。
植物の育成に使用されない造影剤6の金属61を使用する場合、植物1の育成に使用されないことから、維管束10の撮影を鮮明に行える効果がある。
また、植物1の育成に使用される造影剤6の金属61を使用した場合、植物1が金属61を吸収しやすいことから、植物1の育成に使用されない金属61を使用する場合よりも、植物に造影剤6を吸収させる時間を短縮できる効果がある。
【0039】
造影剤6における金属61の濃度は、100mM(mol/dm)以下~0.1mM(mol/dm)以上が適用可能である。造影剤6における金属61の濃度が、100mMを超える場合、植物1が枯れる虞が高くなる。また、金属61が多すぎることによりX線CTイメージング画像51を撮影した際、維管束10が太く撮影されて植物1の維管束10全体の構造の把握が難しくなる。また、金属61の濃度が、0.1mM未満であると、X線CTイメージング画像51で撮影した際に維管束10が細く撮影され、植物1の維管束10全体の構造の把握が難しくなる。
【0040】
金属61の濃度の上限値としては、好ましくは100mM以下、より好ましくは10mM以下、さらに好ましくは1.0mM以下、さらにより好ましくは0.1mM以下である。また、金属61の濃度の下限値としては、好ましくは0.01mM以上、より好ましくは0.1mM以上、さらに好ましくは1.0mM以上、さらにより好ましくは10mM以上である。
これらの範囲であれば、植物1を枯らす虞がなく、また、X線CTイメージング画像51による維管束10の構造が鮮明に把握できることから好ましい。
【0041】
<造影剤の疑似養分>
疑似養分62は、造影剤6を植物1に吸収させる際に作成された維管束10の切断部分を閉じさせないようにするための役割を果たす。また、疑似養分62を含むことにより、植物1が造影剤6を吸収する量を増やすことができ、長距離の維管束10を測定することができる効果もある。
疑似養分62は、植物1の内部に流れる液体に含まれる成分であればよく、具体的には、ショ糖が該当する。
【0042】
造影剤6における疑似養分62の濃度は、測定対象の植物1の師管内を流れる一般的なショ糖の濃度であれば、適用可能であるが、0mM(mol/dm)以上~500mM(mol/dm)以下が適用可能である。造影剤6における疑似養分62の濃度が、500mMを超える場合、植物1が枯れる虞が高くなる。また、0mM(mol/dm)とは、疑似養分62を含まない場合であり、疑似養分62が無い場合であっても、植物1に造影剤6(金属61のみ)を吸収させ、植物1の生きた状態の植物の維管束10構造をX線CTイメージング画像51として撮影することは可能である。
【0043】
疑似養分62の濃度の上限値としては、好ましくは300mM以下、より好ましくは100mM以下、さらに好ましくは50mM以下、さらにより好ましくは10mM以下である。また、疑似養分62の濃度の下限値としては、好ましくは0.0mMを超え、より好ましくは1.0mM以上、さらに好ましくは5.0mM以上、さらにより好ましくは10mM以上である。
これらの範囲であれば、植物1を枯らす虞がなく、また、造影剤6を植物1に吸収させるために作成された維管束10の切断部分を閉じさせないようにするための役割を果たす観点から好ましい。
【0044】
(RIイメージング動画像)
RIイメージング動画像52は、植物1の師管転流を測定し、その流れを把握する目的で行われ、維管束10の師管内の流れの方向が、時間の経過とともに特定することができるものであれば、特に限定されない。RIイメージング動画像52としては、例えば、放射性同位体を植物1に取り込ませ、その移動先であることが想定される器官や組織の組成部分を時系列で動画像として撮影し記録する場合が例示できる。
【0045】
(師管転流の制御場所の決定手順)
次に、師管転流の制御場所を決定するための手順(方法)について説明する。
まず、植物1に対し、師管転流制御手段4による師管転流の制御を行わない状態(図3の状態)で、造影剤6を植物1に吸収させてX線CTイメージング画像51を撮影し、維管束組織の茎内における配置図(透視画像)を取得する。
次に、X線CTイメージング画像51から、維管束10の構造を特定し、切断部41を設ける場所を任意に設定する。
そして、師管転流制御手段4を適用する前後のRIイメージング動画像52を撮影し、植物の目的場所2(果柄を備えた側軸等)に師管転流が多く流れているか否かを比較確認することで、師管転流の制御場所(師管転流制御部3)を決定することができる。
【0046】
以上のような、作業を師管転流の制御場所を特定しようとする植物1に行ない、その植物1の師管転流制御部3を決定することができる。決定された師管転流の制御場所の情報は、同じ種類の植物の異なる株でも同様に適用が可能である。よって、本発明は、師管転流の制御場所を決定する者と、植物を育成する者とが同一の者でなくてもよく、師管転流の制御場所を決定する者が、植物の師管転流制御部3を決定し、その決定された師管転流制御部3の情報が植物を育成する者に提供されてもよい。例えば、本発明の師管転流の制御場所の決定方法で決定された師管転流制御部3の情報の記録された記録媒体が作成され、その記録媒体が植物を育成する者に提供される。そして、植物を育成する者が、その記録媒体の情報に基づいて、自身の所有する異なる株の植物に対し、師管転流制御部3を決定し、師管転流制御手段4を用いることで、本発明の農産物の生産方法を使用してもよい。
記録媒体は、紙媒体やハードディスクのような記憶装置が例示でき、記憶装置の場合、師管転流制御部3の情報は、コンピューターやスマートフォンのような情報端末の表示装置に表示させる制御プログラムとして記憶装置に記憶されてもよい。
【0047】
[第2の実施態様]
図7を参照し、本発明の第2の実施態様の農産物の生産方法について説明する。第2の実施態様の植物1の農産物の生産方法は、師管転流制御手段7が第1の実施態様の農産物の生産方法と相違する。なお、第2の実施態様の農産物の生産方法において、本発明の第1の実施態様の農産物の生産方法と同じ構成については、同じ符号を付し説明を省略する。
【0048】
(師管転流制御手段)
本実施の態様の師管転流制御手段7は、師管の中の液体が流れにくくする(流れを抑制する)方法が適用される。具体的には、コールドガードリング法(冷却手段71)が用いられる。師管は生きた細胞であり、師管を外気温よりも低温となるように冷却することで師管の中の液体が流れにくくなる。この現象を利用して、師管転流を制御する。なお、冷却温度は、植物1に損傷を与えない温度かつ、周囲の外気よりも低温であれば適用可能である。例えば、冷却温度としては、植物1の種類、育成状態により異なるが、0℃以上~20℃以下が適用可能である。なお、冷却コストを低減する観点から、栽培時の温度に近い20℃以下が好ましい。さらに好ましくは、師管転流の抑制効果がより認められかつ外気温に近い温度4℃以上~10℃以下が好ましい。
【0049】
コールドガードリング法の手段は、師管転流制御部3を冷却することができれば、その方法や装置はどのようなものであってもよいが、例えば、装置としては、チューブを師管転流制御部3の主軸12の全周を覆うように螺旋状に巻き付け、巻き付けたチューブ内に冷却液を循環させるような装置を用いたり、電気を流すことにより吸熱反応を起こすことができる半導体熱電素子(ベルチェ素子)を用いて師管転流制御部3を冷却できるように設置する装置を用いたりすることができる。
これらの冷却装置であれば、冷却液の循環を停止させたり、半導体熱電素子に電気を供給することを停止させたりすることで、師管転流制御部3の冷却を容易に停止できることから、可逆的な師管転流の制御が容易にできる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の師管転流の制御場所決定方法、農作物の生産方法、生きた植物に使用される造影剤は、光合成産物の供給場所(植物の育成箇所)を人為的に制御するために使用されるものである。例えば、農作物の果柄の肥大量や糖度を向上させる目的で使用したり、観賞用植物の花の蕾部分の成長を制御したりする場合等に適用が可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 植物
2 植物の目的場所
3 師管転流制御部
4 師管転流制御手段
5 画像情報
6 造影剤
7 師管転流制御手段
10 維管束
11 根
12 主軸
13 側軸
14 節部
15 節間部
16 生長点
17 茎
20 光合成産物蓄積部
41 切断部
51 X線CTイメージング画像
52 RIイメージング動画像
61 金属
62 疑似養分
71 冷却手段

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8