(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021013
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】シートサスペンション機構
(51)【国際特許分類】
B60N 2/54 20060101AFI20240207BHJP
【FI】
B60N2/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123635
(22)【出願日】2022-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】594176202
【氏名又は名称】株式会社デルタツーリング
(74)【代理人】
【識別番号】100101742
【弁理士】
【氏名又は名称】麦島 隆
(72)【発明者】
【氏名】藤田 悦則
(72)【発明者】
【氏名】小倉 由美
(72)【発明者】
【氏名】巻田 聡一
(72)【発明者】
【氏名】福田 順
(72)【発明者】
【氏名】増野 将大
(72)【発明者】
【氏名】小島 重行
(72)【発明者】
【氏名】西田 篤史
(72)【発明者】
【氏名】杉本 栄治
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087DD02
3B087DD13
3B087DD17
3B087DE10
(57)【要約】
【課題】振動吸収特性、衝撃吸収特性を向上させる。
【解決手段】本発明のシートサスペンション機構1は、シート側フレーム20及びベースフレーム10間に中間フレーム30を介在させてリンク機構40によりシート側フレーム20及びベースフレーム10を並進運動可能に支持すると共に、リンク機構40の回転運動を、中間フレーム30及びこの中間フレーム30に支持されるコンビネーションスプリング50を含む質量体の略水平方向の運動にも変換させている。これにより、リンク機構40の回転運動がシート側フレーム20のベースフレーム10に対する並進運動に干渉することがなく、振動吸収特性、衝撃吸収特性を向上させることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体構造とシートとの間に配置されるシートサスペンション機構であって、
前記車体構造側に配置されるベースフレームと、
前記シート側に配置されるシート側フレームと、
前記ベースフレーム及び前記シート側フレーム間に配置される中間フレームと、
前記シート側フレーム及び前記ベースフレームの上下方向への相対変位に伴って前記中間フレームを略水平方向に変位させつつ、前記シート側フレームを前記ベースフレームに対して上下方向に並進運動可能に支持するリンク機構と、
前記中間フレームに支持される正のばね特性を有する第1の正特性ばねと、所定の変位範囲で負のばね特性を有する磁気ばねとの組合せからなり、前記中間フレームの略水平方向への運動に伴って所定のばね力を発揮するコンビネーションスプリングと、
正のばね特性を有し、前記コンビネーションスプリングに対して直列の位置関係で配設される第2の正特性ばねと、
前記シート側フレームの平衡点に対応する位置を含む所定の範囲において減衰力が所定以下であり、前記所定の範囲を超えると前記減衰力が増大し、さらに所定以上の変位量で前記減衰力が最大となる摩擦ダンパーと
を備え、
前記コンビネーションスプリング及び前記第2の正特性ばねを組み合わせた荷重-変位特性が、前記シート側フレームの平衡点を含む所定の範囲でばね定数が最も低く、前記所定の範囲を超えるとばね定数が高くなり、さらに所定以上の変位量でばね定数がさらに高くなる複数の変曲点を有する特性を有し、
入力振動の周波数及び振幅に応じ、主として、直列の位置関係で配設された前記コンビネーションスプリング及び前記第2の正特性ばねを組み合わせたばね力により除振する機能と、主として、前記摩擦ダンパーの減衰力で減衰する機能を有し、
かつ、
前記リンク機構の回転運動に伴い、前記中間フレーム及び前記コンビネーションスプリングを含む質量体の前記略水平方向へ運動する
ことを特徴とするシートサスペンション機構。
【請求項2】
前記リンク機構は、前側リンク及び後側リンクを有して構成され、
前記前側リンク及び前記後側リンクは、それぞれ、
一端が前記中間フレームに軸支されていると共に、他端が前記ベースフレームに軸支される下側リンクと、
一端が前記中間フレームに軸支されると共に、他端が前記シート側フレームに軸支される上側リンクと
を有し、
前記下側リンク及び前記上側リンクの各一端が、略水平方向に円弧を描く運動軌跡となり、前記下側リンク及び前記上側リンクの各他端が、上下方向に延びる直線に沿って変位する運動軌跡となる請求項1記載のシートサスペンション機構。
【請求項3】
前記第1の正特性ばねが、前記中間フレームの前後に掛け渡されたガイド軸回りに支持された圧縮コイルスプリングからなり、
前記磁気ばねが、互いの磁界内を相対移動する2組の磁石を有し、一方の組の磁石が前記中間フレームに支持されており、
かつ、
上部が前記シート側フレームに軸支され、下部に、前記圧縮スプリングの他端を押圧可能な押圧部材が設けられていると共に、前記2組の磁石のうちの他方の組の磁石が支持されるスプリング用リンク
を有する請求項1記載のシートサスペンション機構。
【請求項4】
前記第2の正特性ばねが、前記ベースフレーム及び前記シート側フレームの少なくとも一方と、前記前側リンク及び前記後側リンクを構成のいずれかとの軸部に配設され、前記前側リンク又は前記後側リンクの回転運動に伴ってねじりトルクを発生するトーションバーである請求項1記載のシートサスペンション機構。
【請求項5】
前記摩擦ダンパーは、
相対的に移動可能に設けられた第1部材及び第2部材と、
前記第1部材及び第2部材の一方に設けられた立体布帛と、
前記第1部材及び第2部材の他方に設けられ、前記第1部材及び第2部材の相対移動時に前記立体布帛を圧縮すると共に、前記第1部材及び第2部材の相対位置により前記立体布帛の圧縮量を変化させ、その圧縮量に応じた減衰力を発生させる圧縮部材と
を有する請求項1記載のシートサスペンション機構。
【請求項6】
前記第1部材及び第2部材の相対位置が、前記シート側フレームの平衡点に対応する位置を含む所定の範囲に位置する場合に、前記所定の範囲を超えた範囲よりも圧縮量が小さく、前記減衰力が所定以下となるように設けられている請求項5記載のシートサスペンション機構。
【請求項7】
前記第1部材は、前記第2部材を構成するケース内を直線方向に移動可能であり、
前記立体布帛が、前記第1部材の外周に取り付けられ、
前記圧縮部材が、前記ケース内に、前記第1部材の移動方向の外周囲に位置するように設けられ、前記立体布帛が接することで前記立体布帛を圧縮する板状体から形成され、前記第1部材が挿入される方向から奥行き方向に向かって順に、高圧縮部、圧縮量変化部、低圧縮部、圧縮量変化部、高圧縮部の部位を有する請求項5記載のシートサスペンション機構。
【請求項8】
前記立体布帛は、前記第1部材の長手方向中心を挟んだ2つの面に設けられ、前記圧縮部材を構成する板状体が、前記2つの面に対向して2枚設けられている請求項7記載のシートサスペンション機構。
【請求項9】
前記圧縮部材を構成する板状体がばね鋼から形成されている請求項7記載のシートサスペンション機構。
【請求項10】
前記立体布帛が三次元立体編物である請求項5記載のシートサスペンション機構。
【請求項11】
非線形特性を有するばね要素を有して構成され、
前記ベースフレームと前記中間フレームの各対向面の少なくとも一方、並びに、前記シート側フレームと前記中間フレームの各対向面の少なくとも一方にそれぞれ固定され、前記中間フレームへの前記ベースフレーム又は前記シート側フレームの接近に伴って圧縮されると共に、前記中間フレームの略水平方向への運動に伴って摺動抵抗力を発揮し、上加速度を低下させるストッパー部材
をさらに有する請求項1記載のシートサスペンション機構。
【請求項12】
前記ストッパー部材が、前記ベースフレーム及び前記シート側フレームに対向する、前記中間フレームの両面にそれぞれ設けられている請求項11記載のシートサスペンション機構。
【請求項13】
前記ストッパー部材が、前記ばね要素としての三次元立体編物と、前記三次元立体編物を前記各対向面に固定するための面ファスナーとを有して構成される請求項11記載のシートサスペンション機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物のシートの支持に用いられるシートサスペンション機構に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、ベースフレームに対して上下動可能に設けられるシート側フレームを磁気ばねとトーションバーとにより弾性的に支持したシートサスペンション機構が開示されている。このシートサスペンション機構は、荷重-変位特性において、変位量の増加に伴って荷重(復元力)が増加する「正のばね特性(その時のばね定数を「正のばね定数」という)」を有するトーションバーと、荷重-変位特性において、トーションバーと同様の正のばね特性を示すだけでなく、所定の変位範囲において、変位量の増加に拘わらず荷重(復元力)が減少するすなわち逆方向に復元力が作用する「負のばね特性(その時のばね定数を「負のばね定数」という)」を示す磁気ばねとを併用し、所定の変位範囲において、両者を重畳した系全体の変位量に対する荷重値がほぼ一定となる定荷重の特性、すなわち、その変位範囲におけるばね定数が略ゼロとなる特性を有している。
【0003】
特許文献1,2のシートサスペンション機構は、所定の周波数及び振幅の通常振動に対しては、上記の磁気ばねとトーションバーを用いた構成により、両者を重畳したばね定数が略ゼロになる定荷重領域でこれらの振動を吸収し、衝撃性振動によるエネルギーはシート側フレーム及びベースフレーム間に掛け渡したダンパーによって吸収する構成となっている。
【0004】
しかし、土工機械の運転席の場合、大きな凹凸のある路面を走行する機会が多いため、振幅のより大きな衝撃性振動への対策を重視する必要がある。この点に鑑み、特許文献3では、ばね-ダンパー付きサスペンション部を複数積層された構造のシートサスペンション機構を提案している。しかし、特許文献3のシートサスペンション機構は、各層において、ばね機構とダンパー機構を備えている。そのため、高い振動吸収特性及び衝撃吸収特性を発揮できるという特徴を有しているが、構造が複雑で、重量が嵩み、軽量化の点で改良の余地がある。
【0005】
そこで、本発明者は、特許文献4として、トーションバー、磁気ばねに加え、フリープレイ領域を有する2本のダンパーをベースフレーム及びシート側フレーム間に取り付け角度を異ならせて取り付けることにより、40mmのストロークでありながら土工機械用の振動吸収、衝撃吸収の要件を満たすシートサスペンション機構を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-179719号公報
【特許文献2】特開2010-179720号公報
【特許文献3】特開2019-48489号公報
【特許文献4】特開2019-202749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のシートサスペンション機構は、いずれもベースフレーム及びシート側フレーム間に配設されるリンク機構により、4節回転連鎖機構として、並進運動と回転自由度を持つように筐体が設計されている。入力振動に対するシート側フレームの相対的な変位量が小さい場合には線形振動とみなすことができるが、変位量が大きくなると、リンク機構の回転運動が並進運動に干渉し、それに起因する振動が発生するという問題がある。また、特許文献4では、次述するようにフリープレイ領域の位置合わせを精度よく行うことができない場合もあり、そのことが、リンク機構の回転運動に起因する振動を除去しきれない要因となる場合もある。
【0008】
特許文献4で提案されているフリープレイ領域を有するダンパーは、 外筒内で軸方向に摺動可能であると共に、周壁にオリフィスが形成された可動内筒が配設され、さらに、その可動内筒内に、摩擦力を発生する線状部材が巻回されたピストンが配設され、可動内筒内を含む外筒内には粘性液体(低稠度グリース)が充填されたものである。よって、ピストンが可動内筒と共に移動する際には、ほとんど減衰力が作用せず、ピストンが可動内筒内を相対移動する場合に、可動内筒との粘性摩擦及び粘性液体がオリフィスを通過する際の粘性抵抗によって高い減衰力を発揮する。
【0009】
しかしながら、このダンパーにおいて、減衰力がほとんど作用しないフリープレイ領域は、ピストンが可動内筒と共に移動する範囲、すなわち、可動内筒が外筒に対して独立して移動する範囲である。一方、シートサスペンション機構において高い減衰力が機能しないように設定したい範囲は平衡点付近である。従って、シートサスペンション機構の上下ストロークの範囲の中の平衡点付近において、ダンパーの上記フリープレイ領域が対応するように設定する必要がある。しかしながら、可動内筒が外筒に対して独立して移動すると共に、可動内筒とピストンとの位置関係も一定ではなく、外筒とピストンの相対位置を所定の位置に初期設定したとしても、可動内筒の位置は規制できず、フリープレイ領域に突入する開始点を常に特定位置とすることはできない。そのため、サスペンション機構に入力される振動によっては、フリープレイ領域が、サスペンション機構の平衡点付近に対応しない場合がある。
【0010】
本発明は、上記の点に鑑みなされたものであり、リンク機構における回転運動が並進運動に干渉することにより生じる振動を抑制できると共に、高周波域の微小振動から所定以上の振幅を伴う低周波域の衝撃性振動まで対応でき、特に土工機械に求められる振動吸収及び衝撃吸収の要件を満足することができるシートサスペンション機構を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明のシートサスペンション機構は、
車体構造とシートとの間に配置されるシートサスペンション機構であって、
前記車体構造側に配置されるベースフレームと、
前記シート側に配置されるシート側フレームと、
前記ベースフレーム及び前記シート側フレーム間に配置される中間フレームと、
前記シート側フレーム及び前記ベースフレームの上下方向への相対変位に伴って前記中間フレームを略水平方向に変位させつつ、前記シート側フレームを前記ベースフレームに対して上下方向に並進運動可能に支持するリンク機構と、
前記中間フレームに支持される正のばね特性を有する第1の正特性ばねと、所定の変位範囲で負のばね特性を有する磁気ばねとの組合せからなり、前記中間フレームの略水平方向への運動に伴って所定のばね力を発揮するコンビネーションスプリングと、
正のばね特性を有し、前記コンビネーションスプリングに対して直列の位置関係で配設される第2の正特性ばねと、
前記シート側フレームの平衡点に対応する位置を含む所定の範囲において減衰力が所定以下であり、前記所定の範囲を超えると前記減衰力が増大し、さらに所定以上の変位量で前記減衰力が最大となる摩擦ダンパーと
を備え、
前記コンビネーションスプリング及び前記第2の正特性ばねを組み合わせた荷重-変位特性が、前記シート側フレームの平衡点を含む所定の範囲でばね定数が最も低く、前記所定の範囲を超えるとばね定数が高くなり、さらに所定以上の変位量でばね定数がさらに高くなる複数の変曲点を有する特性を有し、
入力振動の周波数及び振幅に応じ、主として、直列の位置関係で配設された前記コンビネーションスプリング及び前記第2の正特性ばねを組み合わせたばね力により除振する機能と、主として、前記摩擦ダンパーの減衰力で減衰する機能を有し、
かつ、
前記リンク機構の回転運動に伴い、前記中間フレーム及び前記コンビネーションスプリングを含む質量体の前記略水平方向へ運動する
ことを特徴とする。
【0012】
前記リンク機構は、前側リンク及び後側リンクを有して構成され、
前記前側リンク及び前記後側リンクは、それぞれ、
一端が前記中間フレームに軸支されていると共に、他端が前記ベースフレームに軸支される下側リンクと、
一端が前記中間フレームに軸支されると共に、他端が前記シート側フレームに軸支される上側リンクと
を有し、
前記下側リンク及び前記上側リンクの各一端が、略水平方向に円弧を描く運動軌跡となり、前記下側リンク及び前記上側リンクの各他端が、上下方向に延びる直線に沿って変位する運動軌跡となる構成であることが好ましい。
【0013】
前記第1の正特性ばねが、前記中間フレームの前後に掛け渡されたガイド軸回りに支持された圧縮コイルスプリングからなり、
前記磁気ばねが、互いの磁界内を相対移動する2組の磁石を有し、一方の組の磁石が前記中間フレームに支持されており、
かつ、
上部が前記シート側フレームに軸支され、下部に、前記圧縮スプリングの他端を押圧可能な押圧部材が設けられていると共に、前記2組の磁石のうちの他方の組の磁石が支持されるスプリング用リンク
を有する構成であることが好ましい。
【0014】
前記第2の正特性ばねが、前記ベースフレーム及び前記シート側フレームの少なくとも一方と、前記前側リンク及び前記後側リンクを構成のいずれかとの軸部に配設され、前記前側リンク又は前記後側リンクの回転運動に伴ってねじりトルクを発生するトーションバーであることが好ましい。
【0015】
前記摩擦ダンパーは、
相対的に移動可能に設けられた第1部材及び第2部材と、
前記第1部材及び第2部材の一方に設けられた立体布帛と、
前記第1部材及び第2部材の他方に設けられ、前記第1部材及び第2部材の相対移動時に前記立体布帛を圧縮すると共に、前記第1部材及び第2部材の相対位置により前記立体布帛の圧縮量を変化させ、その圧縮量に応じた減衰力を発生させる圧縮部材と
を有することが好ましい。
【0016】
前記第1部材及び第2部材の相対位置が、前記シート側フレームの平衡点に対応する位置を含む所定の範囲に位置する場合に、前記所定の範囲を超えた範囲よりも圧縮量が小さく、前記減衰力が所定以下となるように設けられていることが好ましい。
前記第1部材は、前記第2部材を構成するケース内を直線方向に移動可能であり、
前記立体布帛が、前記第1部材の外周に取り付けられ、
前記圧縮部材が、前記ケース内に、前記第1部材の移動方向の外周囲に位置するように設けられ、前記立体布帛が接することで前記立体布帛を圧縮する板状体から形成され、前記第1部材が挿入される方向から奥行き方向に向かって順に、高圧縮部、圧縮量変化部、低圧縮部、圧縮量変化部、高圧縮部の部位を有することが好ましい。
【0017】
前記立体布帛は、前記第1部材の長手方向中心を挟んだ2つの面に設けられ、前記圧縮部材を構成する板状体が、前記2つの面に対向して2枚設けられていることが好ましい。
前記圧縮部材を構成する板状体がばね鋼から形成されていることが好ましい。
前記立体布帛が三次元立体編物であることが好ましい。
【0018】
非線形特性を有するばね要素を有して構成され、
前記ベースフレームと前記中間フレームの各対向面の少なくとも一方、並びに、前記シート側フレームと前記中間フレームの各対向面の少なくとも一方にそれぞれ固定され、前記中間フレームへの前記ベースフレーム又は前記シート側フレームの接近に伴って圧縮されると共に、前記中間フレームの略水平方向への運動に伴って摺動抵抗力を発揮し、上加速度を低下させるストッパー部材
をさらに有することが好ましい。
【0019】
前記ストッパー部材が、前記ベースフレーム及び前記シート側フレームに対向する、前記中間フレームの両面にそれぞれ設けられていることが好ましい。
前記ストッパー部材が、前記ばね要素としての三次元立体編物と、前記三次元立体編物を前記各対向面に固定するための面ファスナーとを有して構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のシートサスペンション機構は、シート側フレーム及びベースフレーム間に中間フレームを介在させてリンク機構によりシート側フレーム及びベースフレームを並進運動可能に支持すると共に、リンク機構の回転運動を、中間フレーム及びこの中間フレームに支持されるコンビネーションスプリングを含む質量体の略水平方向の運動にも変換させている。これにより、リンク機構の回転運動がシート側フレームのベースフレームに対する並進運動に干渉することがなく、振動吸収特性、衝撃吸収特性を向上させることができる。
【0021】
また、本発明のシートサスペンション機構は、ばね機構として、中間フレームに支持される第1の正特性ばねと磁気ばねとの組合せからなるコンビネーションスプリングと、このコンビネーションスプリングに直列に配設される第2の正特性ばねとを有している。この構成が固有振動数の低減に寄与し、共振点をより低周波側として振動吸収特性等の向上に貢献できる。
【0022】
また、ダンパーとして、シート側フレームの平衡点に対応する位置を含む所定の範囲において減衰力が所定以下であり、この所定の範囲を超えると減衰力が増大し、さらに所定以上の変位量で前記減衰力が最大となる摩擦ダンパーを備えている。その結果、高周波域の入力振動は、摩擦ダンパーは減衰力が所定以下の範囲が対応するため、主に、コンビネーションスプリング及び第2の正特性ばねを組み合わせた荷重-変位特性においてばね定数の最も低い範囲が対応して除振でき、所定以上の振幅を伴う低周波域の入力振動に対しては、主に、摩擦ダンパーの減衰力が最大の範囲が対応して減衰する。そして、それらの中間の入力振動に対しては、摩擦ダンパーの減衰力が増大していく範囲で減衰しつつ、ばね機構の荷重-変位特性が複数の変曲点を有するため、その範囲では、ばね定数が若干上昇する。これにより、中間の入力振動を効率よく除振できる。
【0023】
従って、本発明のシートサスペンション機構は、高周波の微小振動から低周波の大振幅まで対応でき、特に、土工機械用として適している。また、摩擦ダンパーは、第1部材及び第2部材の相対位置により減衰力が小さい所定の範囲に位置合わせでき、従来の可動内筒を用いたダンパーと比較して、中立位置の設定を正確かつ容易に行うことができる。そのため、位置合わせが不十分であることに起因する除振性能の悪化も抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の一の実施形態に係るシートサスペンション機構を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、上記実施形態に係るシートサスペンション機構の平面図である。
【
図3】
図3は、上記実施形態に係るシートサスペンション機構の側面図である。
【
図4】
図4は、上記実施形態のシートサスペンション機構の断面図であり、コンビネーションスプリング及び摩擦ダンパーの構成を示す図である。
【
図5】
図5は、シート側フレームの一部を省略して示した上記実施形態のシートサスペンション機構の斜視図である。
【
図8】
図8(a)は、
図3のC-C線断面図であり、
図8(b)は、
図8(a)のA部拡大図であり、
図8(c)は、スプリング用リンクを第2パイプ(又は第1パイプ)に一体化した状態の斜視図である。
【
図9】
図9(a)は、磁気ばねを構成する外側磁石と内側磁石の位置関係を模式的に示した斜視図であり、
図9(b)は、図の上から順に、中立位置、中立位置に対して±10mmの位置、中立位置に対して±20mmの位置における外側磁石と内側磁石により形成される磁界を示した図であり、
図9(c)は、磁気ばねの荷重-変位特性を示した図である。
【
図11】
図11(a)~(c)は、三次元立体編物の一例を示し、
図11(a)は断面図、
図11(b)は一方のグランド編地の平面図、
図11(c)は他方のグランド編地の平面図である。
【
図12】
図12(a)は、三次元立体編物の幅方向断面から見て、連結糸がX型に編み込まれている様子を示した模式図であり、
図12(b)は、同じ三次元立体編物をロール方向(長手方向)側から見て連結糸がI型に編み込まれている様子を示した模式図である。
【
図13】
図13(a)は、実験例のシートサスペンション機構の摩擦ダンパーで用いた三次元立体編物の荷重-変位特性を示した図であり、
図13(b)は、実験例で用いた摩擦ダンパー70の減衰力と変位の関係を示すリサージュ図形である。
【
図14】
図14(a)~(c)は、上死点、中立位置及び下死点におけるベースフレーム、シート側フレーム、中間フレーム及びリンク機構の動きを説明するための図である。
【
図15】
図15は、中間フレーム、リンク機構及びスプリング用リンクの運動軌跡を示した図である。
【
図16】
図16(a)~(c)は、上死点、中立位置、及び下死点における圧縮コイルスプリングとスプリング用リンクの動きを説明するための図である。
【
図17】
図17(a)~(c)は、上死点、中立位置、及び下死点における磁気ばねを構成する外側磁石と内側磁石の動き、並びに、スプリング用リンクの動きを説明するための図である。
【
図18】
図18(a)~(c)は、上死点、中立位置、及び下死点における摩擦ダンパーを構成する第1部材、第2部材及び立体布帛の位置、並びに、圧縮部材によって圧縮される立体布帛の状態を説明するための図である。
【
図19】
図19は、中間フレームにストッパー部材を設けた態様を説明するための図である。
【
図20】
図20(a)~(e)は、ストッパー部材の作用を説明するための図である。
【
図21】
図21は、ストッパー部材に用いた三次元立体編物の荷重-変位特性を示す図である。
【
図22】
図20(a)~(e)に示したストッパー部材の各変位量に対応する位置における摺動摩擦力と圧縮力の関係を示した図である。
【
図23】
図23は、コンビネーションスプリング及び第2の正特性ばねを組み合わせた荷重-変位特性及び摩擦ダンパーのリサージュ図形に、
図20(a)~(e)に示したストッパー部材の各変位量に対応する位置を示した図である。
【
図24】
図24(a)は、実験例で用いたトーションバーの荷重-変位特性を示した図であり、
図24(b)は、実験例で用いた圧縮コイルスプリングの荷重-変位特性を示した図である。
【
図25】
図25は、実験例で用いたコンビネーションスプリング(圧縮コイルスプリング+磁気ばね)とトーションバーとを組み合わせた荷重-変位特性を示した図である。
【
図26】
図26(a),(b)は、衝撃性振動実験で使用したピップバースト波の加速度とパワースペクトルを示した図である。
【
図27】
図27(a)は、実験例における周波数応答の実験結果を示し、
図27(b)は、実験例における時刻歴応答の実験結果を示した図である。
【
図28】
図28は、比較例1のシートサスペンション機構の荷重-変位特性を示した図である。
【
図29】
図29(a)は、比較例1の周波数応答の実験結果を示した図であり、
図29(b)は、比較例1の時刻歴応答の実験結果を示した図でる。
【
図30】
図30(a)は、シミュレーションモデルを用いて求めた周波数応答を示した図であり、
図30(b)は、比較例2の振動実験の結果を示した図である。
【
図31】
図31は、比較例2で用いた摩擦ダンパーのリサージュ図形である。
【
図32】
図32は、シミュレーションモデルを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面に示した実施形態に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。
図1~
図5は、本実施形態に係るシートサスペンション機構1の全体構成を示した図である。このシートサスペンション機構1は、乗用車、トラック、バス、フォークリフト等の乗物用のシートを支持するが、振幅の大きな衝撃性振動が入力される機会の多い土工機械の運転席のシート用として適している。
図1に示したように、シートサスペンション機構1は、車体構造側(フロア側)に支持されるベースフレーム10と、シート側に取り付けられ、ベースフレーム10の上方に配置されるシート側フレーム20と、ベースフレーム10及びシート側フレーム20間に配置される中間フレーム30とを有して構成される。
【0026】
ベースフレーム10は、平面視で略方形に形成され、前後に所定間隔をおいて配置された前部フレーム11及び後部フレーム12、前部フレーム11及び後部フレーム12の一端同士及び他端同士をそれぞれ前後に一対のサイドフレーム13,13を有している。シート側フレーム20もベースフレーム10と同様であり、平面視で略方形に形成され、前部フレーム21、後部フレーム22、左右一対ののサイドフレーム23,23を有している。中間フレーム30もベースフレーム10及びシート側フレーム20と同様であり、平面視で略方形に形成され、前部フレーム31、後部フレーム32、左右一対のサイドフレーム33,33を有している。
【0027】
車体構造側から上方に向かって順に、ベースフレーム10、中間フレーム30及びシート側フレーム20と配置されるが、これらはリンク機構40により連係されている。リンク機構40は、前部フレーム11,21,31寄りに設けられ、左右一対配設される前側リンク41と、後部フレーム12,22,32寄りに設けられ、左右一対配設される後側リンク42とを有している。
【0028】
前側リンク41は、下側リンク411及び上側リンク412を有して構成される。下側リンク411は、一端411aが中間フレーム30に軸支され、他端411bがベースフレーム10に軸支される(
図3参照)。下側リンク411は、2枚のリンク板4111,4111を備えている(
図5参照)。
【0029】
ここで、各サイドフレーム13,23,33は、左右のそれぞれにおいて、所定間隔をおいて平行に配置された外側サイドフレーム131,231,331と内側サイドフレーム132,232,332を備えている。中間フレーム30の外側サイドフレーム331と内側サイドフレーム332との間に軸部材333が掛け渡されており、下側リンク411の一端411a(2枚のリンク板4111,4111の各一端)が、それぞれ外側サイドフレーム331寄り及び内側サイドフレーム332寄りに位置するように、軸部材333に軸支される。
【0030】
下側リンク411の他端411b(2枚のリンク板4111,4111の各他端)は、それぞれ、ベースフレーム10に軸支される。この時、
図3に示したように、側面視で、下側リンク411の他端411b(2枚のリンク板4111,4111の各他端)が、下側リンク411の一端411a(2枚のリンク板4111,4111の各一端)よりも前方に位置するように係合される。
【0031】
前側リンク41の上側リンク412は、一端412aが中間フレーム30に軸支され、他端412bがシート側フレーム20に軸支される。上側リンク412は、下側リンク411と同様に、それぞれ外側サイドフレーム331寄り及び内側サイドフレーム332寄りに位置する2枚のリンク板4121,4121を備え、その一端412a(2枚のリンク板4121,4121の各一端)が、下側リンク411の一端411aと共に、軸部材333に軸支される。
【0032】
上側リンク412の他端412b(2枚のリンク板4121,4121の各他端)は、それぞれ、シート側フレーム20に軸支されるが、
図3に示したように、側面視で、上側リンク412の他端412b(2枚のリンク板4121,4121の各他端)が、上側リンク412の一端412a(2枚のリンク板4121,4121の各一端)よりも前方に位置するように係合される。具体的には、シート側フレーム20の外側サイドフレーム231と内側サイドフレーム232との間に軸部材233が掛け渡されており、この軸部材233に上側リンク412の他端412b(2枚のリンク板4121,4121の各他端)が軸支される(
図2及び
図5参照)。
【0033】
なお、下側リンク411の他端411b(2枚のリンク板4111,4111の各他端)のベースフレーム10への軸支位置と、上側リンク412の他端412b(2枚のリンク板4121,4121の各他端)の軸支位置である軸部材233の中心とは、上下方向に延びる同一直線上に設定される(
図14及び
図15参照)。よって、下側リンク411及び上側リンク412は、各一端411a,412aが軸支される軸部材333を中心とし、軸部材333よりも側面視で前方に位置する、下側リンク411及び上側リンク412の各他端411b,412bを開き側の端部とするV字状に配置される。
【0034】
後側リンク42は、下側リンク421及び上側リンク422を有して構成される。下側リンク421は、一端421aが中間フレーム30に軸支され、他端421bがベースフレーム10に軸支される。下側リンク421は、2枚のリンク板4211,4211を備えており、下側リンク421の一端421a(2枚のリンク板4211,4211の各一端)が、それぞれ外側サイドフレーム331寄り及び内側サイドフレーム332寄りに位置するように、軸部材334に軸支される。
【0035】
下側リンク421の他端421b(2枚のリンク板4211,4211の各他端)は、それぞれ、ベースフレーム10に軸支される。この時、
図3に示したように、側面視で、下側リンク421の他端421b(2枚のリンク板4211,4211の各他端)が、下側リンク421の一端421a(2枚のリンク板4211,4211の各一端)よりも前方に位置するように係合される。
【0036】
後側リンク42の上側リンク422は、一端422aが中間フレーム30に軸支され、他端422bがシート側フレーム20に軸支される。上側リンク422は、下側リンク421と同様に、それぞれ外側サイドフレーム331寄り及び内側サイドフレーム332寄りに位置する2枚のリンク板4221,4221を備え、その一端422a(2枚のリンク板4221,4221の各一端)が、下側リンク421の一端421aと共に、軸部材334に軸支される。
【0037】
上側リンク422の他端422b(2枚のリンク板4221,4221の各他端)は、それぞれ、シート側フレーム20に軸支されるが、
図3に示したように、側面視で、上側リンク422の他端422b(2枚のリンク板4221,4221の各他端)が、上側リンク422の一端422a(2枚のリンク板4221,4221の各一端)よりも前方に位置するように係合される。具体的には、シート側フレーム20の外側サイドフレーム231と内側サイドフレーム232との間に軸部材234が掛け渡されており(
図2及び
図5参照)、この軸部材234に上側リンク422の他端422b(2枚のリンク板4221,4221の各他端)が軸支される。
【0038】
なお、下側リンク421の他端421b(2枚のリンク板4211,4211の各他端)のベースフレーム10への軸支位置と、上側リンク422の他端422b(2枚のリンク板4221,4221の各他端)の軸支位置である軸部材234の中心とは、上下方向に延びる同一直線上に設定される(
図14及び
図15参照)。よって、下側リンク421及び上側リンク422は、各一端421a,422aが軸支される軸部材334を中心とし、軸部材334よりも側面視で前方に位置する、下側リンク421及び上側リンク422の各他端421b,422bを開き側の端部とするV字状に配置される。
【0039】
前側リンク41及び後側リンク42は、上記のように構成され、いずれも、後方寄りに配置される軸部材333,334を中心として、前方寄りに配置される(前側リンク41の)下側リンク411及び上側リンク412の各他端411b,412b、並びに、(後側リンク42の)下側リンク421及び上側リンク422の各他端421b,422bが、それぞれ上下方向に同一直線上に設定されている。よって、シート側フレーム20がベースフレーム10に対して相対変位に伴って前側リンク41及び後側リンク42が回転運動を行う際、
図14及び
図15に示すように、前側リンク41の各他端411b,412b、並びに、後側リンク42の各他端421b,422bは、上下方向に一直線上に変位する運動軌跡となる。これにより、シート側フレーム20は、ベースフレーム10に対して垂直方向に並進運動する。
【0040】
前側リンク41及び後側リンク42の同じ方向への回転運動に対し、前側リンク41の各他端411b,412b、並びに、後側リンク42の各他端421b,412bの運動軌跡が上下方向に一直線上であるため、中間フレーム30に軸支されている、前側リンク41の各一端411a,412a、並びに、後側リンク42の各一端421a,422aは、
図15に示すように、略水平方向に円弧を描く軌道で変位する。具体的には、中間フレーム30が中立位置より下方に変位すると斜め下後方に円弧状に変位し、上方に変位すると斜め上前方に円弧状に変位する。
【0041】
本実施形態によれば、
図14及び
図15の運動軌跡に示したように、シート側フレーム20は、ベースフレーム10に対して垂直方向に並進運動するため、後述のトーションバー61,62により付勢される前側リンク41及び後側リンク42の回転力が、中間フレーム30及びこの中間フレーム30に支持される後述のコンビネーションスプリング50を含む質量体の略水平方向に円弧を描くような運動に変換される。これにより、リンク機構40の回転運動がシート側フレーム20のベースフレーム10に対する並進運動に干渉することがなく、振動吸収特性、衝撃吸収特性を向上させることができる。
【0042】
中間フレーム30には、コンビネーションスプリング50が支持される。コンビネーションスプリング50は、第1の正特性ばね510と磁気ばね520との組み合わせから構成される。第1の正特性ばね510は、本実施形態では2本の圧縮コイルスプリング511,511から構成される。中間フレーム30には、前後方向の中間位置より後部フレーム32寄りに、本実施形態では、側面視で、後側リンク42の各他端421b,422b同士を上下方向に結んだ直線上付近に、左右一対のサイドフレーム33,33間に掛け渡されて固定された断面略コ字状の取り付けブラケット(請求項で定義した「押圧部材」)34が配設されている。この取り付けブラケット34と前部フレーム31との間に、平面視で左右方向に所定間隔をおいて2本のガイド軸35,35が掛け渡されており、このガイド軸35,35回りに圧縮コイルスプリング511,511が支持されている。具体的には、ガイド軸35,35の前部フレーム31寄りに第1スプリング受け部材35a,35aが設けられ、取り付けブラケット34寄りに第2スプリング受け部材35b,35bが設けられ、各圧縮コイルスプリング511,511は、ガイド軸35,35回りにおいて、第1スプリング部材35a及び第2スプリング部材35b間に配置される(
図5及び
図7参照)。また、第2スプリング受け部材35b,35bは、両方を取り囲む大きさを有する略方形の取り付けフレーム36の内面に溶接され、ガイド軸35,35に沿って移動可能になっている。
【0043】
ここで、左右一対配設される後側リンク42,42の左右の下側リンク421,421の各他端421b,421bは、
図8(a)に示したように、それらの間に掛け渡された第1支軸14に回転可能に支持されているが、第1支軸14における、ベースフレーム10の左右一対の内側サイドフレーム132,132間には、第1パイプ15が第1支軸14に対して回転可能に配設されている。同様に、後側リンク42,42の左右の上側リンク422,422の各他端422b,422bは、それらの間に掛け渡された第2支軸24に回転可能に支持されているが、第2支軸24における、シート側フレーム20の左右一対の内側サイドフレーム232,232間には、第2パイプ25が第2支軸24に対して回転可能に配設されている。
【0044】
上記の取り付けフレーム36の各側部36a,36aには、
図2、
図3及び
図5に示したように、スプリング用リンク37,37が設けられる。それぞれ2枚のリンク板371,372をV字状に組み合わせてなり、2枚のリンク板371,372の重なり合った一端部371a,372aを取り付けフレーム36の各側部36a,36aに軸支し、一方のリンク板371の他端部371bを第1パイプ15に溶接して固定し、他方のリンク板372の他端部372bを第2パイプ25に溶接して固定している(
図8(a),(c)参照)。
【0045】
スプリング用リンク37,37が溶接されている第1パイプ15及び第2パイプ25は、後側リンク42の下側リンク421の他端部421b及び上側リンク422の他端部422bと軸心を共通にしているため、その運動軌跡は、
図15に示したように、上下方向に一直線上となる。一方、スプリング用リンク37,37の2枚のリンク板371,372の一端部371a,372aは、
図15に示したように、中間フレーム30が中立位置より下方に変位すると斜め下前方に円弧状に変位し、上方に変位すると斜め上後方に円弧状に変位する。すなわち、前側リンク41の各一端411a,412a、並びに、後側リンク42の各一端421a,422aの運動軌跡とは逆方向に変位する。
【0046】
これにより、取り付けフレーム36に溶接されている第2スプリング受け部材35b,35bは、スプリング用リンク37,37の一端部371a,372aの運動軌跡と同様に、シート側フレーム20が相対的に上から下に変位すると、前方に変位する。一方、中間フレーム30自体は、前側リンク41及び後側リンク42の運動軌跡により、シートフレーム20が相対的に上から下に変位すると、後方に変位し、これに伴って、中間フレーム30の前部フレーム31に取り付けられた第1スプリング部材35a,35aも相対的に後方に変位する。よって、シートフレーム20が相対的に上から下に変位していくと、圧縮コイルスプリング511,511は、
図16(s)~(c)の符号L1,L2,L3で示したように圧縮されていく。
【0047】
磁気ばね520は、互いの磁界内を相対移動する2組の磁石を有し、いずれか一方の組の磁石が中間フレーム30に支持され、いずれか他方の組の磁石が上記の取り付けブラケット(押圧部材)34に支持されている。本実施形態では、
図5及び
図9に示したように、2組の磁石のうちの一方は、略角筒状のケース521内に所定間隔をおいて対向配置された2個外側磁石522,522を有して構成され、この2個の外側磁石522,522間を、2組の磁石うちの他方である内側磁石523が相対移動する。内側磁石523は、内側磁石支持フレーム524に支持されている。ケース521は、取り付けフレーム36において、2つの第2スプリング受け部材35b,35bの間に固定されている。内側磁石支持フレーム524は、断面略コ字状の取り付けブラケット34において、2本のガイド軸35,35の間に固定される。また、2個の外側磁石522,522は、
図9(a)に示したように、内側磁石523の相対移動方向に沿って異極が着磁されており、
図9(b)に示したように、中立位置(符号a)において、内側磁石523が外側磁石522,522によっていずれの方向にも付勢されない位置となっている。
図9(b)においては、中立位置a、、中立位置aに対して±10mmの位置(符号b)、±20mmの位置(符号c)における磁界を示しており、
図9(c)では、a.b.c各点における荷重-変位特性を示している。
【0048】
磁気ばね520は、ケース521が取り付けフレーム36に固定されているため、スプリング用リンク37,37の一端部371a,372aの運動軌跡に従って、中間フレーム30が中立位置より下方に変位していくと前方に移動し(
図17(b)の位置から
図17(c)の位置へと移動)、上方に変位すると後方に移動する(
図17(b)の位置から
図17(a)の位置へと移動)。内側磁石523は、内側磁石支持フレーム524を介して取り付けブラケット34に固定されているため、ケース521が前後に移動することにより、外側磁石522,522が内側磁石523に対して前後に相対的に移動し、これにより、外側磁石522,522及び内側磁石523間の磁界が変化し、ばね力が生じる。
【0049】
図2、
図3、
図6及び
図7に示したように、左右一対配設される前側リンク41,41の左右の下側リンク411,411の各他端411b,411b間には、第1トーションバー61が掛け渡されており、左右の上側リンク412,412の各他端412b,412b間には、第2トーションバー62が掛け渡されている。第1トーションバー61及び第2トーションバー62は、下側リンク411,411及び上側リンク412,412の回転運動によってそれぞれねじられ、所定の弾性力を発揮する。本実施形態では、この第1トーションバー61及び第2トーションバー62が正のばね特性を有する第2の正特性ばね60を構成する。ここで、上記のコンビネーションスプリング50と第2の正特性ばね60である第1トーションバー61及び第2トーションバー62は、シート側フレーム20、中間フレーム30、ベースフレーム10に、それぞれ上記の位置関係で配置されるため、ばね要素の配置としては直列配列になる。直列配列となるため、それらを組み合わせた合成ばね定数は各ばね要素のばね定数よりも低下する。このため、高周波、微振動に対する除振性能が高くなる。
【0050】
本実施形態のシートサスペンション機構1は、所定以上の振幅を備えた低周波の振動(衝撃力)を減衰するダンパーとして、
図1、
図2及び
図6に示したように、摩擦ダンパー70を備えている。摩擦ダンパー70は、
図10(a),(b)に示したように、相対的に移動可能に設けられた第1部材710及び第2部材720を有している。本実施形態では、第2部材720が略筒状に形成され、その内部を第1部材710が相対移動する構成となっており、
図6に示したように、第2部材720がベースフレーム10に固定され、第1部材710がシート側フレーム20に固定されている。本実施形態では、シート側フレーム20は、上記のリンク機構40により、ベースフレーム10に対して、垂直方向に並進運動可能に支持されているため、第1部材710及び第2部材720がシートサスペンション機構1の上下方向に相対移動する。
【0051】
第2部材720は、略筒状のケース721を備えている。ケース721は、具体的には、横断面で略長方形をなす略筒状に形成され、一方の対向する2面が平坦面721a,721aとなっている。ケース721の内部には、圧縮部材722,722が配設されている。圧縮部材722,722は、板状体から形成され、ケース721の平坦面721a,721aの内方に、対向して2枚配設されている。なお、圧縮部材722,722を構成する板状体は好ましくはばね鋼から形成される。第1部材710は、ケース721の軸方向に沿って、一端721b及び他端721c間で往復動するが、対向する圧縮部材722,722間の空間が、第1部材710の移動空間725となる。
【0052】
移動空間725は、一端721b側から、圧縮部材722,722同士が略平行で両者間の対向間隔が最も狭い第1移動空間725a、圧縮部材722,722間の対向間隔が徐々に広がるテーパー状となっている第2移動空間725b、圧縮部材722,722同士が略平行で両者間の間隔が最も広い第3移動空間725c、圧縮部材722,722間の対向間隔が徐々に狭まる逆テーパー状となっている第4移動空間725d、第1移動空間725aと同様に、圧縮部材722,722同士が略平行で両者間の対向間隔が最も狭い第5移動空間725eを有して構成される。
【0053】
第1部材710及び第2部材720の一方には立体布帛730が設けられるが、本実施形態では、第2部材720に圧縮部材722,722を設けたため、第1部材710に立体布帛730が取り付けられる。第1部材710は、平坦な板状部材から形成されており、立体布帛730は、この第1部材710の中途に形成した貫通孔712を介して、長手方向中心を挟んだ2つの面711,711に積層され、さらに該第1部材710の先端面713を被覆させて固定している。これにより、立体布帛730は、第1部材710の2つの面711,711の外方に膨出するように取り付けられている。
【0054】
2枚の圧縮部材722,722により形成される上記の空間は、第3移動空間725cに立体布帛730が位置している際には、立体布帛730を大きく圧縮せず、第1移動空間725a及び第5移動空間725eに位置している際に、立体布帛730を最も圧縮する大きさとなっている。よって、圧縮部材722,722により形成される空間は、立体布帛730の圧縮量の観点からは、第1移動空間725a及び第5移動空間725eは、圧縮量が最も大きい高圧縮部となり高い減衰力を発揮する区間となり、第2移動空間725b及び第4移動空間725dは移動に伴って圧縮量が変化していく圧縮量変化部となって、移動方向によって減衰力が変化する区間となり、第3移動空間725cは圧縮量が最も小さい低圧縮部となって減衰力がほとんど作用しない区間となる。
【0055】
立体布帛730としては、三次元的に構成された織物、編物若しくは不織布等から選択される。中でも、圧縮方向及び面方向共に適度な剛性と弾性を有する三次元立体編物100を用いることがより好ましい(
図11及び
図12参照)。三次元立体編物100は、互いに離間して配置された一対のグランド編地110,120同士を連結糸130で結合することにより形成されている。グランド編地110,120を形成するグランド糸の太さ等は、立体編地に必要な腰の強さを具備させることができると共に、編成作業が困難にならない範囲のものが選択される。また、グランド糸としてはモノフィラメントを用いることも可能であるが、風合い及び表面感触の柔らかさ等の観点からマルチフィラメントを用いることもできる。連結糸130は、マルチフィラメント糸を用いることも可能であるが、このような所望の弾性を得られやすいことからモノフィラメント糸を用いることが好ましい。
【0056】
グランド編地110,120を形成するグランド糸又は連結糸130の素材としては、種々のものを用いることができるが、例えば、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、レーヨン等の合成繊維や再生繊維、ウール、絹、綿等の天然繊維が挙げられる。上記素材は単独で用いてもよいし、これらを任意に併用することもできる。好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などに代表される熱可塑性ポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン66などに代表されるポリアミド系繊維、ポリエチレン、ポリプロピレンなどに代表されるポリオレフィン系繊維、あるいはこれらの繊維を2種類以上組み合わせたものである。なお、ポリエステル系繊維はリサイクル性に優れていると共に、耐熱性に優れていることからより好ましい。
【0057】
連結糸130の配設の仕方(パイル組織)は限定されるものではないが、三次元立体編物100の編成後、その幅方向から見た際に、
図12(a)のようにX型に編み込まれ、ロール方向(長手方向)からは
図12(b)のようにI型に編み込まれた構成とすることができる。
【0058】
なお、三次元立体編物100は、生機のままでは、形状が固定されておらず、収縮や伸張が生じているため、製造の最終段階で、ヒートセットと呼ばれる加工が施され、140℃前後の熱によって形状、厚さが固定される。摩擦ダンパー70は、第1部材710及び第2部材720間の運動により摩擦熱が生じるため、連結糸を構成しているモノフィラメントの温度が上記のヒートセット温度の近傍まで上昇する。これにより、モノフィラメントに復元力が作用し、三次元立体編物100の厚さが復元する。従って、従来の粘性減衰型のダンパーと比較して連続作動による減衰力の低下を小さくすることができる。
【0059】
図13(a)は、後述の実験例のシートサスペンション機構1で採用した摩擦ダンパー70において、幅55mmの第1部材710に立体布帛730として取り付けた旭化成アドバンス(株)製、製品番号:AKE70044(幅38mm、長さ110mm(第1部材710の貫通孔712を介して折り返されて各面711,711に積層される範囲を含む全長)、無負荷時の厚さ7mm)の三次元立体編物の荷重-変位特性(直径30mmの円形加圧板で加圧)を示した図である。また、
図13(b)は、当該摩擦ダンパー70の減衰力と変位の関係を示すリサージュ図形である。この摩擦ダンパー70は、減衰力が実質的に作用しない上記の第3移動空間725c内における、立体布帛730付きの第1部材710の相対的な移動可能距離(空走距離)が5mmに設定されている。よって、0mmを中心とした5mmの範囲では、減衰力が0に近く、実質的に減衰力が作用しないが、立体布帛730付きの第1部材710がその範囲を超えて第2移動空間725b及び第4移動区間725d内を相対移動している場合には、減衰力が徐々に増加する区間となり、第1移動空間725a及び第5移動空間725eの範囲に立体布帛730付きの第1部材710が位置している場合には、立体布帛730の圧縮量が最大となり、25mm以上及び-25mm以下で減衰力が非常に高くなっている。また、25~28mm付近及び-25~-28mm付近では減衰力の増減がなく、その間は、第1部材710が立体布帛730を介して第2部材720と一体化され、すなわち剛体となり、シート側フレーム20のベースフレーム10に対する運動を止め、大振幅の衝撃性振動の衝撃力を受け止めて吸収できることを示している。
【0060】
摩擦ダンパー70は、第1部材710が中立位置から端位置(すなわち下端位置又は上端位置)に向かう方向では、立体布帛730が、圧縮部材722,722間の間隔が最も狭い第1移動空間725a及び第5移動空間725eにそれぞれ突入し(
図18(a)又は(c)参照)、摩擦係数が増大してくさび効果を発揮する。このくさび効果により、摩擦ダンパー70は実質的に剛体となる。この実質的に剛体となる特性により、加速度が作用しない時間帯が一時的に生じ、中立位置から端位置に向かう方向では端位置における減衰力が急上昇する(
図13(b)参照)。逆方向に向かう際には、第2移動空間725b及び第4移動空間725dを形成している圧縮部材722,722のテーパーが広がっていく方向となるため速やかに中立位置に復帰することができる。よって、本実施形態で用いた摩擦ダンパー70は、上死点及び下死点で効率的に運動を止め、また運動を再開させることができる。
【0061】
また、本実施形態の摩擦ダンパー70は、第1部材710及び第2部材720の相対位置を調整すれば中立位置に設定できるため、
図18(b)に示した減衰力がほとんど作用しない領域の開始位置を所定位置に容易に設定できる。
【0062】
本実施形態によれば、着座時の中立位置(平衡点)において、摩擦ダンパー70の中立位置(
図18(b)の位置)が対応し、磁気ばね520もその中立位置(
図17(b)の位置)が対応するようにセットする。なお、本実施形態では、着座時においてこれらが中立位置にセットされるよう、体重調整用のダイヤル80を設けている。ダイヤル80を回すことにより、トーションバー61,62のねじり量が調整され、シート側フレーム20を中立位置にセットできる。これにより、摩擦ダンパー70及び磁気ばね520が上記の中立位置にセットされる。
【0063】
高周波域の小振幅の振動が入力された場合には、摩擦ダンパー70は、中立位置を中心として約5mmの空走区間が対応しているため、減衰力が実質的に作用しない。一方、磁気ばね520は、中立位置を中心とした所定の範囲(
図9(c)の2つのb点間の範囲)では、負のばね特性が作用するため、2本の圧縮コイルスプリング511,511から構成される第1の正特性ばね510及び2本のトーションバー61,62から構成される第2の正特性ばね60の各特性が組み合わされたばね定数は、ばね定数が所定以下の実質的にゼロの領域となる。しかも、コンビネーションスプリング50と第2の正特性ばね60とは直列配列の位置関係となっており、両者の合成ばね定数はさらに抑制される。その結果、高周波の小振幅の振動に対しては摩擦ダンパー70の減衰力がほとんど作用せず、コンビネーションスプリング50と第2の正特性ばね60のばね特性により除振される。
【0064】
また、低周波で大振幅の衝撃性振動が入力された際には、摩擦ダンパー70を構成する立体布帛730付きの第1部材710は、第2部材720の第2移動空間725b及び第4移動空間725dにより減衰力が増大していき、遂には、第1移動空間725a及び第5移動空間725eの至って第1部材710が立体布帛730を介して第2部材720と一体となり最も高い減衰力が発揮される(
図18(a),(c)参照)。これにより、低周波で大振幅の衝撃性振動にも対応できる。
【0065】
また、シート側フレーム20及びベースフレーム10間に中間フレーム30を介在させてリンク機構40によりシート側フレーム20は、
図14(a)~(c)に示したように、ベースフレーム10に対して垂直方向に並進運動する。そして、リンク機構40の回転エネルギーは、
図15に示したように、中間フレーム30及びコンビネーションスプリング50を含む質量体の略水平方向(略円弧状に変位しながらの水平方向への変位)の運動に変換させている。これにより、リンク機構40の回転運動がシート側フレーム20のベースフレーム10に対する垂直方向の並進運動に干渉することがなくなる。後述の実験例で示したように、2~3Hzの周波数域でのリンク機構40の回転運動に起因する振動が吸収され、振動吸収特性、衝撃吸収特性をより向上させることができる。
【0066】
ここで、シート側フレーム20が上下運動すると、下死点においては
図14(a)に示したように、ベースフレーム10と中間フレーム30、並びに、シート側フレーム20と中間フレーム30がそれぞれ接近し、やがて接触する。金属製の各フレームが直接接触し合う場合には接触時に異音が発生したり、接触時の加速度によっては着座者に衝撃を感じさせたりする。そこで、このような異音や衝撃を抑制するため、ベースフレーム10と中間フレーム30の各対向面の少なくとも一方、並びに、シート側フレーム20と中間フレーム30の各対向面の少なくとも一方には、ばね要素を有するストッパー部材90を設けることが好ましい。
【0067】
本実施形態では、
図19に示したように、中間フレーム30において、ベースフレーム10との対向面30aとシート側フレーム20との対向面30bにストッパー部材90を配設している。また、各対向面30a,30bにおいて、中間フレーム30の前端付近及び後端付近にそれぞれ設けている。中間フレーム30が、ベースフレーム10及びシート側フレーム20に並進運動するため、接触時に傾きが生じず平行に接触するように両端付近に配設したものである。
【0068】
ストッパー部材90を構成するばね要素は、非線形特性を有するものが用いられる。本実施形態では、
図13(a)に示したような非線形の荷重-変位特性を有する三次元立体編物91を用いている。三次元立体編物91は、圧縮されるとグランド編地110,120の網目の変形や連結糸130が倒れるように変形し、上下方向の力を受けるだけでなく、中間フレーム30の略水平方向への動きに対して摺動摩擦力が発生し、中間フレーム30の相対的な上下及び略水平方向への運動を停止させるのに適している。
【0069】
ストッパー部材90を構成するばね要素としては、この三次元立体編物91に加え、三次元立体編物91を中間フレーム30に固定するための面ファスナー92を有している。面ファスナー92は、取り付け面が接着により中間フレーム30に固定され、そのフック部92aに三次元立体編物91に係合されて両者は一体化される。
【0070】
図20(a)~(e)は、
図19のA部の拡大図であるが、この図を用いてその作用をさらに詳述する。まず、
図20(a)に示したシート側フレーム20が中間フレーム30及びストッパー部材90から離間した状態(case(1))から、
図20(b)に示したように、シート側フレーム20が中間フレーム30に接触し始める状態となる(case(2))。これにより、三次元立体編物91は圧縮されていき、連結糸130がたわんでいく。シート側フレーム20が中間フレーム30にさらに接近すると三次元立体編物91は
図20(c)のcase(3)、
図20(d)のcase(4)に示したようにさらにたわんでいく。
図20(b)~(d)のcase(2)~(4)は、三次元立体編物91が2mm,4mm,6mm圧縮されたポイントであり、おおよそ中振幅から大振幅の振動が入力された場合の圧縮量で、この範囲では、
図21の荷重-変位特性に示したように、ほぼ線形に力が変化していく。具体的には、
図22に示したように、シート側フレーム20(又はベースフレーム10)から入力される圧縮力は9N,19N、25Nと増加し、シート側フレーム20(又はベースフレーム10)から入力される摺動方向の力(摺動摩擦力)も、1.8N,3.8N,5Nと増加する。
【0071】
一方、
図20(e)に示したように、三次元立体編物91がほぼ完全に押しつぶされ、面ファスナー92も押圧された状態となると、三次元立体編物91は非線形特性を有しているため、
図21及び
図22に示したように、
図20(d)から2mm押圧されただけで、圧縮力が130Nと急上昇し、これに伴って水平方向に作用する摺動摩擦力が65Nと急激に上昇する。摺動摩擦力の急上昇は、
図20(e)に白抜きの太い矢印で示したように、大振幅入力に対して各フレームの運動を停止させる力として作用する。また、本実施形態では、三次元立体編物91を、中間フレーム30に接着固定した面ファスナー92に係合しているため、三次元立体編物91と面ファスナー92のフック部との間の係合力が作用し、さらには接着剤の粘性力も作用し、これらも摺動方向への抵抗力となる。
【0072】
図23は、シートサスペンション機構1におけるコンビネーションスプリング50及び第2の正特性ばね60を組み合わせた荷重-変位特性と摩擦ダンパー70のリサージュ図形を示したものであり、減衰力が最大となる範囲に至ると、ストッパー部材90が変位するcase(2)~(5)に至り、下死点付近において、ストッパー部材90の摺動摩擦力が大きく作用することがわかる。
【0073】
(実験例)
(シートサスペンション機構1の構成)
図1~
図8等に示した上記実施形態のシートサスペンション機構1について振動実験を行った。シート側フレーム20のベースフレーム10に対する最大ストロークは60mmである。
図24(a)は、本実験で用いたトーションバー61,62のそれぞれについて単体の荷重-変位特性を示しており、各トーションバー61,62として、ほぼ同じ荷重-変位特性を有するものを用いている。各トーションバー61,62のばね定数は1093Nmm/degであった。
【0074】
図24(b)は、圧縮コイルスプリング511,511のそれぞれについて単体の荷重-変位特性を示しており、各圧縮コイルスプリング511,511として、ほぼ同じ荷重-変位特性を有するものを用いている。
【0075】
磁気ばね520としては、上記の
図9(c)に示した荷重-変位特性を有するものを用いた。すなわち、中立位置aに対し、±10mmのストローク(
図9(c)の2つのb点間の範囲)において、負のばね特性を有し、その範囲を超えると正のばね特性を有するものである。
【0076】
磁気ばね520の中立位置aを中心として±10mmの範囲における圧縮コイルスプリング511,511を組み合わせた水平方向の振動に対するばね定数は、中立位置aに対し、±10mmのストロークにおいて15.8N/mmとなり、摩擦ダンパー70の減衰力が大きく作用するシート側フレーム20のストロークで50~60mmに相当する範囲では39.0N/mmとなる
【0077】
シート側フレーム20の中立位置において、磁気ばね520の中立位置aが相当するように位置合わせし、それにトーションバー61,62、圧縮コイルスプリング511,511を組み合わせて測定した荷重-変位特性が
図25である。
図25に示したように、40mm付近、50mm付近において勾配が変化するといった複数の変曲点を有しており、5次関数の近似式で示される特性を備えている。なお、
図25は、実測値と、
図32で示したシミュレーションモデルを用いて求めた分析値とを示しているが、両者はほぼ一致している。具体的には、まず変位量25~40mmにおいて荷重値がほとんど変化しないばねゼロ領域が形成されている。よって、この実験例のばね系の組み合わせの場合、着座時の中立位置を30~35mm付近に設定すると、高周波の微振動を効率的に除振できる。30mmを中立位置とした場合、その鉛直方向±5mmの範囲では、1.5N/mmのばね定数となる。鉛直方向40~50mmの範囲ではそれよりもばね定数が高くなり、摩擦ダンパー70の減衰力が大きく作用する鉛直方向50~60mmではばね定数が4.8N/mmとなって、底付きを抑制する。
【0078】
摩擦ダンパー70は、
図10(a),(b)に示したものであり、空走区間である第3移動空間725cの空走量が5mmで、
図13(b)に示した特性を有している。立体布帛730を構成する三次元立体編物は、上記の旭化成アドバンス(株)製、製品番号:AKE70044であり、その荷重-変位特性は
図13(a)に示したとおりである。
【0079】
(周波数応答及び時刻歴応答の測定)
シートサスペンション機構1に自動車用シートを搭載し、被験者が着座した状態で行った。被験者は身長171cm、体重65kgであった。ピーク間距離の振幅を20mm(20mmp-p)とし、周波数1.0Hz、1.5Hz、2.0Hz、2.5Hz、3.0Hz、4.0Hz、5.0Hzで行った。
【0080】
時刻歴応答に関しては、
図26(a),(b)に示す加速度振幅が±0.75G、周波数が2.0Hzで、バースト波のエンベロープの立ち上がりと下がりに傾斜をつけた「the five pips(ピップバースト波)」を用いて衝撃性振動実験を行った。なお、加振機は、株式会社デルタツーリング製の6軸加振機を用いた。
その結果、周波数応答に関しては、
図27(a)に示したように、共振周波数1.5Hzで共振ピークのゲインが1.35となり、低周波域と高周波域の両方で高い制振性能を示した。
時刻歴応答に関しては、
図27(b)に示したように、入力加速度を超えることはなく、ほぼ±0.6G以内に収まっていた。よって、ボトミングとバウンシングによって生じる乗り心地の悪化を抑制与できることがわかった。
【0081】
(比較例1)
磁気ばね520を組み込まなかったことを除いて実験例と同じ構造のシートサスペンション機構について、実験例と同様の条件で、周波数応答と時刻歴応答について測定した。荷重-変位特性は、
図28に示したとおりであり、3次関数で近似される特性となり、実験例のようにばね定数が実質的にゼロとなる領域を有していない。
周波数応答は、
図29(a)に示したように、共振周波数1.5Hzでゲインが1.48となり、また、時刻歴応答では、
図29(b)に示したように、±0.75G付近かそれを超える場合もあった。よって、実験例の磁気ばね520は入力振動の制御への貢献度が高いと言える。
【0082】
(比較例2)
図32に示したシミュレーションモデルを用いて、摩擦ダンパー70における空走区間である第3移動空間725c内の移動距離を0mm、10mm、20mmと設定した場合における振幅20mmp-pの正弦波入力の影響についてシミュレーションした。その結果が、
図30(a)であり、空走区間20mmの設定では、2.5Hz近傍のゲインが突出していた。
【0083】
一方、摩擦ダンパーとして、空走区間である第3移動空間725cの移動距離が25mmとなるように設定したものを、シートサスペンション機構1に、実験例の空走区間5mmの摩擦ダンパ-70に代えて組み込み実験例1と同様の条件で振動実験を行った。なお、空走区間25mmの摩擦ダンパーのリサージュ図形は
図31に示したとおりである。
図30(b)が振動実験の結果であり、1.5Hz付近の共振ピークの振動伝達率は約1.0であるものの、3Hz近傍で振動伝達率が急激に高くなっていることがわかる。
【0084】
これに対し、実験例の空走区間5mmの摩擦ダンパー70を用いた場合には、
図27(a)に示したように、1.5Hzで振動伝達率が1.35となっているが、2.2Hzで1.0、2.5Hzで0.8となり、2~3Hz付近での振動伝達率の悪化を抑制できている。
【0085】
なお、摩擦ダンパー70の第1部材710及び第2部材720が相対的に2Hzで運動した場合、等価粘性減衰係数は656Ns/mとなるが、摩擦ダンパー70における立体布帛730付きの第1部材710が第5移動空間725eとなっているときのばね特性は、上記のように4.8N/mmである(
図25参照)。また、被験者の体重は65kgであり、これらより減衰比を求めると約0.59となる。よって、摩擦ダンパー70として必要な減衰比は0.6以上であり、実験例の空走区間5mmの摩擦ダンパー70はその条件を満たしている。
【0086】
また、上記の2~3Hzの振動伝達率の悪化は、リンク機構40の回転運動も起因しているが、本実施形態の中間フレーム30及びコンビネーションスプリング50は、シート側フレーム20がベースフレーム10に対して垂直方向に並進運動する際に、略水平方向に円弧を描きながら運動する(
図14及び
図15参照)。これにより、リンク機構40の回転運動に起因する振動が吸収される。
【0087】
本実施形態のシートサスペンション機構1は、
図27(a)に示すように、3Hzの振動伝達率が0.59となっており、
図27(b)に示すように、時刻歴応答でも入力を下回る結果となっている。よって、本実施形態のシートサスペンション機構1は、全ストローク60mmという薄型でありながら、共振ピーク:2.0未満、S.E.A.T値:0.6未満(入力波の励振周波数3Hz)であり、ISO 7096:2000に基づくJIS A 8304:2001「土工機械-運転員の座席の振動評価試験」で規定されている入力スペクトルクラスEM7「コンパクトダンパ」用の規格を満足するものであり、土工機械用として適している。
【符号の説明】
【0088】
1 シートサスペンション機構
10 ベースフレーム
20 シート側フレーム
30 中間フレーム
40 リンク機構
41 前側リンク
42 後側リンク
50 コンビネーションスプリング
510 第1の正特性ばね
511 圧縮コイルスプリング
520 磁気ばね
60 第2の正特性ばね
61,62 トーションバー
70 摩擦ダンパー
710 第1部材
720 第2部材
730 立体布帛
100 三次元立体編物