(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021043
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】金ナノプレートの合成方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/24 20060101AFI20240207BHJP
B82Y 5/00 20110101ALI20240207BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20240207BHJP
B22F 1/00 20220101ALN20240207BHJP
B22F 1/054 20220101ALN20240207BHJP
B22F 1/06 20220101ALN20240207BHJP
【FI】
B22F9/24 E
B82Y5/00
B82Y40/00
B22F1/00 K
B22F1/054
B22F1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084800
(22)【出願日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2022123146
(32)【優先日】2022-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.発行日:令和5年5月8日 発行物:化学とマイクロ・ナノシステム学会 第47回研究会 講演要項集
(71)【出願人】
【識別番号】599141227
【氏名又は名称】学校法人関東学院
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】柳生 裕聖
(72)【発明者】
【氏名】浜本 真央
(72)【発明者】
【氏名】木村 朝陽
(72)【発明者】
【氏名】本間 英夫
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA03
4K017BA02
4K017CA03
4K017CA07
4K017CA08
4K017DA01
4K017DA07
4K017DA09
4K017FB07
4K018AA02
4K018BA01
4K018BB01
4K018BB05
4K018BD04
4K018KA33
4K018KA70
(57)【要約】
【課題】本件発明は、常温・常圧の状態で、青い透過色を呈する金ナノプレートを安定して合成ができ、金ナノプレート合成の成功率、及び収率を向上させる金ナノプレートの合成方法の提供を目的とする。
【解決手段】この目的を達成するため、金イオン含有溶液に2種類の還元剤を用いて金ナノプレートを合成する方法であって、2種類の還元剤と、保護剤とをそれぞれ別々に含有した各溶液を調製する工程と、2種類の還元剤の配合を最適化した溶液と金イオンと保護剤を含有した溶液をそれぞれ調製する工程と、調整した溶液を混合し、静置することで金ナノプレートを合成する工程とを含むことを特徴とする製造方法を採用する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金イオン含有溶液に2種類の還元剤を用いて金ナノプレートを合成する方法であって、以下の工程1から工程6を含むことを特徴とする金ナノプレートの合成方法。
工程1:イオン交換水とクエン酸三ナトリウムとを混合し、クエン酸三ナトリウム濃度50mM以上150mM以下の第1還元剤水溶液を調製する。
工程2:イオン交換水とタンニン酸とを混合し、タンニン酸濃度2mM以上10mM以下の第2還元剤水溶液を調製する。
工程3:保護剤として、金の結晶面の(111)面に選択的に吸着するカチオン系界面活性剤と、イオン交換水とを混合し、保護剤含有濃度5mM以上15mM以下の保護剤含有溶液を調製する。
工程4:第1還元剤水溶液と、第2還元剤水溶液と、イオン交換水とを混合することで、クエン酸濃度1mM以上5mM以下と、タンニン酸濃度0.1mM以上5mM以下となる溶液Aを調製する。
工程5:モル濃度10mM以上40mM以下の塩化金酸水溶液に撹拌しながら保護材含有溶液を添加することで、塩化金酸濃度0.1mM以上10mM以下と、保護剤含有濃度1mM以上15mM以下となる溶液Bを調製する。
工程6:溶液Aまたは溶液Bのいずれか一方を撹拌しながら、他方の溶液を添加し、混合を行い、常温・常圧の状態で静置することで金ナノプレートを合成する。
【請求項2】
前記工程1では、2g以上3g以下のクエン酸三ナトリウムと、50mL以上200mL以下のイオン交換水とを混合することで第1還元剤水溶液を調製する請求項1に記載の金ナノプレートの合成方法。
【請求項3】
前記工程2では、0.5g以上1.5g以下のタンニン酸と、50mL以上150mL以下のイオン交換水とを混合することで第2還元剤水溶液を調製する請求項1に記載の金ナノプレートの合成方法。
【請求項4】
前記工程3では、保護剤として、金の結晶面の(111)面に選択的に吸着するカチオン系界面活性剤0.01g以上0.02g以下と、4mL以上6mL以下のイオン交換水とを混合することで保護剤含有溶液を調製する請求項1に記載の金ナノプレートの合成方法。
【請求項5】
前記工程4では、120μL以上130μL以下の第1還元剤水溶液と、0.1mL以上0.3mL以下の第2還元剤水溶液と、7mL以上8mL以下のイオン交換水とを混合して溶液Aを調製する請求項1に記載の金ナノプレートの合成方法。
【請求項6】
前記工程5では、0.1mL以上0.3mL以下の塩化金酸水溶液をスターラで撹拌しながら、3.0mL以上5.0mL以下の保護剤含有溶液を添加して溶液Bを調製する請求項1に記載の金ナノプレートの合成方法。
【請求項7】
前記工程6では、溶液Aをスターラで撹拌しながら、溶液Bを添加し、10分以上混合を行い、各組成の金に対するモル比がクエン酸1.5以上2.6以下、CTAB6.0以上8.0以下、タンニン酸0.1以上1.0以下となる混合溶液を調製し、24時間以上常温・常圧の状態で静置する請求項1に記載の金ナノプレートの合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、金イオン含有溶液に2種類の還元剤を用いることで金ナノプレートを合成する金ナノプレートの合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金ナノ粒子は優れた安定性や生体適合性などの理由から、バイオセンサーや触媒、治療薬、導電材料などとして多くの分野で利用されている。
【0003】
金ナノ粒子の局面プレズモン共鳴(Localized Surface Plasmon Resonance:LSPR)由来の光吸収は、インフルエンザ検査、妊娠検査、アレルギー検査などのイムノクロマト法による抗原検査に利用されている。金ナノ粒子である金ナノプレートの合成方法として、液相還元法による合成方法、常温・常圧の状態で静置する合成方法などがある。これらの検査薬において病原体である抗原検査を高感度化するためには、金ナノ粒子の光吸収ピークの先鋭化が必要となる。三角形平板状の金ナノプレートは、平板の辺の長さに起因する吸収ピークと板の厚さに起因する吸収ピークが存在するため、青色を呈し、鋭利な吸収ピークを示す。
【0004】
例えば特許文献1では、バイオセンサーに用いる金ナノプレートとして、当該文献の懸濁液Aは、50mMのヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(CTAC)水溶液を撹拌し、50mMの塩化金酸水溶液と、10mMのヨウ化ナトリウム水溶液と、100mMのL-アスコルビン酸水溶液とを添加、30秒間撹拌し、金ナノプレート種粒子懸濁液の10倍希釈溶液を添加し、撹拌する方法を採用し、得られた懸濁液をインキュベーター(30℃)内で12時間静置することで金ナノプレートを合成する金ナノプレートの合成方法が開示されている。
【0005】
また、非特許文献1の実験Aは、90℃に保たれた容器に、100mMのクエン酸三ナトリウムと、1.25mMの塩化金酸と、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)とを添加し、混合することで金ナノプレートを合成する金ナノプレートの合成方法が開示されている。
【0006】
非特許文献2では、がんの光温熱療法に適した金ナノプレートとして、pH7.4のトリス緩衝生理食塩水と、0.5mMの四塩化金酸(HAuCl4)と、0.18mMのB3ペプチドとを室温で混合し、静置することで、常温・常圧で金ナノプレートを合成する合成方法も開示されている。
【0007】
球状の金ナノ粒子の合成では、クエン酸による加熱還元により平均粒子径が数十nmの金ナノ粒子が合成できる。さらに、クエン酸とタンニン酸を還元剤として用いることにより、粒子径が減少することがわかっており、粒子径は反応初期に生成される核の数に依存し、タンニン酸は核を生成する反応初期において、金イオンを還元する。よって、タンニン酸の添加量を増加させると多くの核が生成される。さらにクエン酸は核が生成した後に、核の周りにシェルを形成する役割の還元剤として作用する。
【0008】
金ナノプレートの合成では、最初に核の形成が必要である。そのためシード法では、あらかじめ合成した粒子径が数nmの金ナノ粒子を核として用い、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(以下、単に「CTAB」と称する。)と、クエン酸とを添加して、CTABにより金の結晶の(111)面を保護しながら、クエン酸により(100)面、または(110)面にシェルを形成することで金ナノプレートを合成できる。また、クエン酸により加熱還元する方法は加熱により核の形成が必要であるが、厳密に温度制御しなければ、核のサイズを制御できないため、辺長が数十~数百nmで青い透過色の金ナノプレートを合成することが困難である。
【0009】
これらの方法で得られる金ナノプレートは、赤色、マゼンタ、紫色、紺色、青色、シアン、又は、薄水色の色調を呈する懸濁液となる。イムノクロマト法による抗原検査で、青色を呈する金ナノプレートと結合した抗体(以下、単に金ナノプレート抗体複合体と称する。)をコンジャクションパッドに使用して用い、メンブレンのテストライン上に、あらかじめテストライン上に塗布した抗体、抗原、金ナノプレート抗体複合体が結合したサンドイッチ構造の複合体が形成されることにより、テストライン上に青いラインを示すが、赤色にしか調製できない球状金ナノ粒子を使用した場合と比較して、顕著に検出ラインの視認性を向上することができるため、赤い透過色よりも青い透過色が良いと開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】D.V.Ravi Kumar, et al., Synthesis of triangular gold nanoplates: Role of bromide ion and temperature (2013), Vol. 422, pp.181-190
【非特許文献2】Masayoshi T, et al., Synthesis of near-infrared absorbing triangular Au nanoplates using biomineralisation peptides (2021), Vol. 131, pp. 519-531
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、青い透過色を呈する金ナノプレートは安定して合成ができなかった。そのため、青い透過色を呈する金ナノプレートの安定的な合成方法が求められている。また、青い透過色を呈する金ナノプレートの合成に成功した場合、収率(金ナノプレートの数/溶液中の全粒子数)が低いという問題を抱えている。
【0013】
本件発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、還元剤の配合を最適化することによって、常温・常圧の状態で、青い透過色を呈する金ナノプレートを合成し、金ナノプレート合成の成功率、及び収率を向上させる金ナノプレートの合成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この課題を解決するために、鋭意研究の結果、以下の発明に想到した。
【0015】
金イオン含有溶液に2種類の還元剤を用いて金ナノプレートを合成する方法であって、以下の工程1から工程6を含むことを特徴とする。
工程1:イオン交換水とクエン酸三ナトリウムとを混合し、クエン酸三ナトリウム濃度50mM以上150mM以下の第1還元剤水溶液を調製する。
工程2:イオン交換水とタンニン酸とを混合し、タンニン酸濃度2mM以上10mM以下の第2還元剤水溶液を調製する。
工程3:保護剤として、金の結晶面の(111)面に選択的に吸着するカチオン系界面活性剤と、イオン交換水とを混合し、保護剤含有濃度5mM以上15mM以下の保護剤含有溶液を調製する。
工程4:第1還元剤水溶液と、第2還元剤水溶液と、イオン交換水とを混合することで、クエン酸濃度1mM以上5mM以下、タンニン酸濃度0.1mM以上5mM以下の溶液Aを調製する。
工程5:モル濃度10mM以上40mM以下の塩化金酸水溶液に撹拌しながら保護材含有溶液を添加することで、塩化金酸濃度0.1mM以上10mM以下、保護剤含有濃度1mM以上15mM以下の溶液Bを調製する。
工程6:溶液Aまたは溶液Bのいずれか一方を撹拌しながら、他方の溶液を添加し、混合を行い、常温・常圧の状態で静置することで金ナノプレートを合成する。
【0016】
そして、前記工程1では、2g以上3g以下のクエン酸三ナトリウムと、50mL以上200mL以下のイオン交換水とを混合することで第1還元剤水溶液を調製することが好ましい。
【0017】
また、前記工程2では、0.5g以上1.5g以下のタンニン酸と、50mL以上150mL以下のイオン交換水とを混合することで第2還元剤水溶液を調製することが好ましい。
【0018】
前記工程3では、金の結晶面の(111)面に選択的に吸着するカチオン系界面活性剤0.01g以上0.02g以下と、4mL以上6mL以下のイオン交換水とを混合することで保護剤含有溶液を調製することが好ましい。
【0019】
前記工程4では、120μL以上130μL以下の第1還元剤水溶液と、0.1mL以上0.3mL以下の第2還元剤水溶液と、7mL以上8mL以下のイオン交換水とを混合して溶液Aを調製することが好ましい。
【0020】
前記工程5では、0.1mL以上0.3mL以下の塩化金酸水溶液をスターラで撹拌しながら、3.0mL以上5.0mL以下の保護剤含有溶液を添加して溶液Bを調製するのが好ましい。
【0021】
前記工程6では、溶液Aをスターラで撹拌しながら、溶液Bを添加し、10分以上混合を行い、各組成の金に対するモル比がクエン酸1.5以上2.6以下、CTAB6.0以上8.0以下、タンニン酸0.1以上1.0以下となる混合溶液を調製し、24時間以上常温・常圧の状態で静置することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本件発明に係る金ナノプレートの合成方法は、還元剤としてクエン酸三ナトリウムと、タンニン酸との2種類を用いる。この2種類の還元剤の配合を最適化することによって、適切な速度で還元するための加熱が必要なくなった。そして、当該金ナノプレートの合成方法では、溶液の精密な温度制御が必要なく、常温・常圧で24時間以上静置するだけで青い透過色を呈する金ナノプレートの合成が行なえる。かつ、従来よりも、成功率及び収率が向上する金ナノプレートの合成方法である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施例1における金ナノプレートのTEM写真の図である。
【
図2】実施例2における金ナノプレートのTEM写真の図である。
【
図3】実施例3における金ナノプレートのTEM写真の図である。
【
図4】実施例4における金ナノプレートのTEM写真の図である。
【
図5】比較例における金ナノプレートのTEM写真の図である。
【
図6】比較例における複数回金ナノプレートを合成したときの吸光度スペクトルの図である。
【
図7】各攪拌時間におけるにおける金ナノプレートのTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本件発明に係る金ナノプレートの合成方法について説明する。
【0025】
1.金ナノプレート合成の実施形態
本件発明に用いられる金イオンは、塩化金酸四水和物である。また、2種類の還元剤は、クエン酸三ナトリウムと、タンニン酸とを用いる。保護剤として金の結晶面の(111)面に選択的に吸着するカチオン系界面活性剤とを混合させる。特に保護剤には、CTABを用いるとより好ましい。通常、塩化金酸と、クエン酸三ナトリウムと、タンニン酸とを加熱しながら混合すると、タンニン酸が還元剤、クエン酸三ナトリウムが分散剤として働き、金ナノ粒子が合成される。しかしながら、当該合成方法では、非加熱で、2種類の還元剤の配合を最適化し、金イオンと、保護剤とを混合する。その結果、常温・常圧で静置することで金ナノプレートの合成ができる。本件発明において、保護剤が金の結晶面の(111)面を保護し、還元剤のタンニン酸が核を形成し、クエン酸が(100)面、または(110)面にシェルを形成することにより、金ナノプレートが形成されるが、還元剤溶液であるタンニン酸の添加量とクエン酸の添加量が最適化することにより、安定して青い透過色を呈する金ナノプレートを得ることが可能となる。以下、各工程に関して説明する。
【0026】
1-1.工程1
本件発明に係る第1還元剤水溶液は、イオン交換水とクエン酸三ナトリウムとを混合し、クエン酸三ナトリウム濃度50mM以上150mM以下であることが好ましい。クエン酸三ナトリウム濃度が50mM未満の場合には、金イオンを十分に還元することができず、金ナノプレートの平均辺長が短くなる。一方、クエン酸三ナトリウム濃度が150mMより高いと、未反応の還元剤が多く残ってしまい、金ナノプレートの平均辺長が長くなる。その結果、青い透過色を呈する金ナノプレートの合成が困難になるため好ましくない。
【0027】
さらに、本件発明に係る第1還元剤水溶液は、クエン酸三ナトリウム濃度90mM以上110mM以下であることがより好ましい。本件発明の合成方法では、2種類の還元剤を用いて、還元を行うため、他方の還元剤との配合の最適化を考慮した結果、より安定的な金ナノプレートの合成の成功率、及び高い収率を得ることができるからである。
【0028】
1-2.工程2
本件発明に係る第2還元剤水溶液は、イオン交換水とタンニン酸とを混合し、タンニン酸濃度2mM以上10mM以下であることが好ましい。金ナノプレートの合成には、あらかじめ合成した金ナノ粒子を核として用いるため、最初に核の形成が必要である。その核を形成する役割を担う還元剤として、タンニン酸を用いる。タンニン酸濃度が2mM未満の場合には、金イオンをの還元を十分に行えず、金ナノプレートの平均辺長が短くなる。一方、タンニン酸濃度が10mMより高いと、金ナノプレートの平均辺長が長くなる。その結果、青い透過色を呈する金ナノプレートの合成が困難になるため好ましくない。
【0029】
さらに、本件発明に係る第2還元剤水溶液は、タンニン酸のモル濃度5.88mMであることがより好ましい。本件発明の合成方法では、2種類の還元剤を用いて、還元を行うため、他方の還元剤と配合の最適化を考慮した結果、より安定的な金ナノプレートの合成の成功率、及び高い収率を得ることができるからである。
【0030】
1-3.工程3
本件発明に係る保護剤含有水溶液は、CTABと、イオン交換水とを混合し、保護剤含有濃度5mM以上15mM以下であることが好ましい。保護剤含有濃度5mM未満の場合には、金の結晶面の(111)面への保護剤の吸着量が少なくなるため、金の凝集が起こり、収率が低くなる場合があり好ましくない。一方、保護剤含有濃度15mMより高いと、保護剤の臭素に置換される塩化金酸の塩素イオンが多くなり、臭化金酸が安定化するため反応速度が遅くなる場合があり好ましくない。
【0031】
1-4.工程4
本件発明に係る溶液Aは、100μL以上150μL以下の還元剤水溶液1と、0.2mL以上0.3mL以下の還元剤水溶液2と、5mL以上10mL以下のイオン交換水とを混合し、クエン酸濃度1.0mM以上2.0mM以下、タンニン酸濃度0.1mM以上1.0mM以下の溶液Aを調整することが好ましい。クエン酸濃度が10mM未満の場合には、十分に還元を行えず、金ナノプレートの合成が困難となる。一方、クエン酸濃度が2.0mMより高いと、合成された金ナノプレートの平均辺長が長くなり、青い透過色を呈する金ナノプレートの合成が困難になる。また、タンニン酸濃度が0.1mM未満の場合には、十分に金イオンを還元できず、赤い透過色を呈する金ナノプレートが合成され好ましくない。一方、タンニン酸濃度が1.0mMより高いと、還元剤が残ってしまい、合成された金ナノプレートの平均辺長が長くなり、青い透過色を呈する金ナノプレートの合成が困難になるので好ましくない。
【0032】
さらに、本件発明に係る溶液Aは、116μL以上140μL以下の還元剤水溶液1と、0.18mL以上0.22mL以下の第2還元剤水溶液とを混合する。その混合溶液に7.4mL以上7.6mL以下のイオン交換水を添加し、クエン酸濃度1.5mM以上1.7mM以下、タンニン酸濃度0.13mM以上0.17mM以下の溶液Aを調製するのがより好ましい。その結果、金イオンを適切に還元することができ、より青い透過色を呈した金ナノプレートを得られるからである。
【0033】
1-5.工程5
本件発明に係る溶液Bは、はじめに、イオン交換水と塩化金酸四水和物を混合し、塩化金酸濃度20mM以上40mM以下の塩化金酸水溶液を調製するのが好ましい。次に、0.1mL以上0.3mL以下の塩化金酸水溶液と3.0mL以上6.0mL以下の保護剤含有水溶液を混合することで、塩化金酸濃度0.1mM以上10mM以下と、保護剤含有濃度1mM以上15mM以下となる溶液Bを調製することが好ましい。塩化金酸濃度が20mM未満の場合には、金イオンに対して還元剤及び保護剤が多くなり、球状の金ナノ粒子が多く生成されるため好ましくない。一方、塩化金酸濃度が40mMより高い場合、タンニン酸により生成された核の凝集が発生するため金ナノプレートの平均辺長が長くなり、青い透過色を呈する金ナノプレートの合成が困難になるため好ましくない。
【0034】
さらに、本件発明に係る溶液Bは、イオン交換水と塩化金酸四水和物を混合し、塩化金酸濃度26mM33mM以下以上の塩化金酸水溶液を調製するのがより好ましい。次に、0.18mM以上0.24mL以下の塩化金酸水溶液と4.3mL以上5.3mL以下の保護剤含有水溶液を混合することで、塩化金酸濃度1.05mM以上1.45mM以下と、保護剤含有濃度7.86mM以上9.66mM以下となる溶液Bを調製することがより好ましい。
【0035】
1-6.工程6
本件発明に係る金ナノプレートの合成方法は、溶液Aまたは溶液Bのいずれか一方を撹拌しながら、他方の溶液を添加し、10分以上で混合を行い、混合溶液中の金に対するモル比(混合溶液中の還元剤または保護剤のモル数/混合溶液中の塩化金酸のモル数)がクエン酸1.5以上2.6以下、CTAB6.0以上8.0以下、タンニン酸0.1以上1.0以下となる混合溶液を調製する。そして、常温・常圧の状態で24時間以上静置することが好ましい。また、溶液Aをスターラで撹拌しながら、溶液Bを添加し、10分間混合を行い、混合溶液中の金に対するモル比がクエン酸1.8以上2.3以下、CATB6.9以上7.3以下、タンニン酸0.15以上0.2以下の混合溶液を調製し、常温・常圧の状態で3日間静置するのがより好ましい。さらに、3日間静置後に還元剤や保護剤が残っている場合、還元が進行し金ナノプレートの平均辺長が長くなってしまうため、遠心分離や濾過により還元剤や保護材を除去するのが好ましい。また、収率を向上させる目的で遠心分離や濾過を行うのも好ましい。上述のモル比で混合溶液を調製し、3日間静置することで、金イオンを適切に還元でき、より青い透過色を呈する金ナノプレートを合成することができる。
【0036】
1-7.青い透過色を呈する金ナノプレートの合成条件
本件発明の実施形態に記載の各水溶液の濃度は、目安濃度であり、青い透過色を呈する金ナノプレートの合成条件は、金に対する還元剤と保護材のモル比で決まると考える。このモル比が最適値を外れると青い透過色を呈する金ナノプレートを合成するのが困難になる傾向となり好ましくない。最適な金に対するモル比は、第1還元剤水溶液が0.188、第2還元剤水溶液が2.06、保護材含有水溶液が7.03であることが特に好ましい。
【実施例0037】
実施例1は、以下の工程で金に対する保護材のモル比を7.0に固定して、金ナノプレートを合成した。
工程1:クエン酸三ナトリウム濃度100mMの第1還元剤水溶液を調整した。
工程2:タンニン酸濃度5.88mMの第2還元剤水溶液を調整した。
工程3:保護剤としてCTABを用いて、保護剤含有濃度9.15mMの保護剤含有水溶 液を調整した。
工程4:第2還元剤水溶液の添加量を0.2mLとして、クエン酸三ナトリウム濃度1. 64mM、タンニン酸濃度0.15mMの溶液Aを調整した。
工程5:塩化金酸水溶液に保護材含有水溶液を加え、回転数1500rpmで10分間撹拌しながら、塩化金酸濃度0.12mM、保護剤含有濃度8.76mMの溶液Bを調整した。
工程6:溶液Aをスターラで撹拌しながら、溶液Bを添加し、回転数700rpmで10分間混合を行い、常温・常圧の状態で3日間静置した。
工程4において、第2還元剤水溶液の添加量を0.1mLとして、クエン酸三ナトリウム濃度1.66mM、タンニン酸濃度80mMの溶液Aを調整し、その他工程では、実施例1と同様の工程で金ナノプレートを合成した。