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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021043
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】金ナノプレートの合成方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/24 20060101AFI20240207BHJP
   B82Y 5/00 20110101ALI20240207BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20240207BHJP
   B22F 1/00 20220101ALN20240207BHJP
   B22F 1/054 20220101ALN20240207BHJP
   B22F 1/06 20220101ALN20240207BHJP
【FI】
B22F9/24 E
B82Y5/00
B82Y40/00
B22F1/00 K
B22F1/054
B22F1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084800
(22)【出願日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2022123146
(32)【優先日】2022-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.発行日:令和5年5月8日 発行物:化学とマイクロ・ナノシステム学会 第47回研究会 講演要項集
(71)【出願人】
【識別番号】599141227
【氏名又は名称】学校法人関東学院
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】柳生 裕聖
(72)【発明者】
【氏名】浜本 真央
(72)【発明者】
【氏名】木村 朝陽
(72)【発明者】
【氏名】本間 英夫
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA03
4K017BA02
4K017CA03
4K017CA07
4K017CA08
4K017DA01
4K017DA07
4K017DA09
4K017FB07
4K018AA02
4K018BA01
4K018BB01
4K018BB05
4K018BD04
4K018KA33
4K018KA70
(57)【要約】
【課題】本件発明は、常温・常圧の状態で、青い透過色を呈する金ナノプレートを安定して合成ができ、金ナノプレート合成の成功率、及び収率を向上させる金ナノプレートの合成方法の提供を目的とする。
【解決手段】この目的を達成するため、金イオン含有溶液に2種類の還元剤を用いて金ナノプレートを合成する方法であって、2種類の還元剤と、保護剤とをそれぞれ別々に含有した各溶液を調製する工程と、2種類の還元剤の配合を最適化した溶液と金イオンと保護剤を含有した溶液をそれぞれ調製する工程と、調整した溶液を混合し、静置することで金ナノプレートを合成する工程とを含むことを特徴とする製造方法を採用する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金イオン含有溶液に2種類の還元剤を用いて金ナノプレートを合成する方法であって、以下の工程1から工程6を含むことを特徴とする金ナノプレートの合成方法。
工程1:イオン交換水とクエン酸三ナトリウムとを混合し、クエン酸三ナトリウム濃度50mM以上150mM以下の第1還元剤水溶液を調製する。
工程2:イオン交換水とタンニン酸とを混合し、タンニン酸濃度2mM以上10mM以下の第2還元剤水溶液を調製する。
工程3:保護剤として、金の結晶面の(111)面に選択的に吸着するカチオン系界面活性剤と、イオン交換水とを混合し、保護剤含有濃度5mM以上15mM以下の保護剤含有溶液を調製する。
工程4:第1還元剤水溶液と、第2還元剤水溶液と、イオン交換水とを混合することで、クエン酸濃度1mM以上5mM以下と、タンニン酸濃度0.1mM以上5mM以下となる溶液Aを調製する。
工程5:モル濃度10mM以上40mM以下の塩化金酸水溶液に撹拌しながら保護材含有溶液を添加することで、塩化金酸濃度0.1mM以上10mM以下と、保護剤含有濃度1mM以上15mM以下となる溶液Bを調製する。
工程6:溶液Aまたは溶液Bのいずれか一方を撹拌しながら、他方の溶液を添加し、混合を行い、常温・常圧の状態で静置することで金ナノプレートを合成する。
【請求項2】
前記工程1では、2g以上3g以下のクエン酸三ナトリウムと、50mL以上200mL以下のイオン交換水とを混合することで第1還元剤水溶液を調製する請求項1に記載の金ナノプレートの合成方法。
【請求項3】
前記工程2では、0.5g以上1.5g以下のタンニン酸と、50mL以上150mL以下のイオン交換水とを混合することで第2還元剤水溶液を調製する請求項1に記載の金ナノプレートの合成方法。
【請求項4】
前記工程3では、保護剤として、金の結晶面の(111)面に選択的に吸着するカチオン系界面活性剤0.01g以上0.02g以下と、4mL以上6mL以下のイオン交換水とを混合することで保護剤含有溶液を調製する請求項1に記載の金ナノプレートの合成方法。
【請求項5】
前記工程4では、120μL以上130μL以下の第1還元剤水溶液と、0.1mL以上0.3mL以下の第2還元剤水溶液と、7mL以上8mL以下のイオン交換水とを混合して溶液Aを調製する請求項1に記載の金ナノプレートの合成方法。
【請求項6】
前記工程5では、0.1mL以上0.3mL以下の塩化金酸水溶液をスターラで撹拌しながら、3.0mL以上5.0mL以下の保護剤含有溶液を添加して溶液Bを調製する請求項1に記載の金ナノプレートの合成方法。
【請求項7】
前記工程6では、溶液Aをスターラで撹拌しながら、溶液Bを添加し、10分以上混合を行い、各組成の金に対するモル比がクエン酸1.5以上2.6以下、CTAB6.0以上8.0以下、タンニン酸0.1以上1.0以下となる混合溶液を調製し、24時間以上常温・常圧の状態で静置する請求項1に記載の金ナノプレートの合成方法。




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、金イオン含有溶液に2種類の還元剤を用いることで金ナノプレートを合成する金ナノプレートの合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金ナノ粒子は優れた安定性や生体適合性などの理由から、バイオセンサーや触媒、治療薬、導電材料などとして多くの分野で利用されている。
【0003】
金ナノ粒子の局面プレズモン共鳴(Localized Surface Plasmon Resonance:LSPR)由来の光吸収は、インフルエンザ検査、妊娠検査、アレルギー検査などのイムノクロマト法による抗原検査に利用されている。金ナノ粒子である金ナノプレートの合成方法として、液相還元法による合成方法、常温・常圧の状態で静置する合成方法などがある。これらの検査薬において病原体である抗原検査を高感度化するためには、金ナノ粒子の光吸収ピークの先鋭化が必要となる。三角形平板状の金ナノプレートは、平板の辺の長さに起因する吸収ピークと板の厚さに起因する吸収ピークが存在するため、青色を呈し、鋭利な吸収ピークを示す。
【0004】
例えば特許文献1では、バイオセンサーに用いる金ナノプレートとして、当該文献の懸濁液Aは、50mMのヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(CTAC)水溶液を撹拌し、50mMの塩化金酸水溶液と、10mMのヨウ化ナトリウム水溶液と、100mMのL-アスコルビン酸水溶液とを添加、30秒間撹拌し、金ナノプレート種粒子懸濁液の10倍希釈溶液を添加し、撹拌する方法を採用し、得られた懸濁液をインキュベーター(30℃)内で12時間静置することで金ナノプレートを合成する金ナノプレートの合成方法が開示されている。
【0005】
また、非特許文献1の実験Aは、90℃に保たれた容器に、100mMのクエン酸三ナトリウムと、1.25mMの塩化金酸と、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)とを添加し、混合することで金ナノプレートを合成する金ナノプレートの合成方法が開示されている。
【0006】
非特許文献2では、がんの光温熱療法に適した金ナノプレートとして、pH7.4のトリス緩衝生理食塩水と、0.5mMの四塩化金酸(HAuCl)と、0.18mMのB3ペプチドとを室温で混合し、静置することで、常温・常圧で金ナノプレートを合成する合成方法も開示されている。
【0007】
球状の金ナノ粒子の合成では、クエン酸による加熱還元により平均粒子径が数十nmの金ナノ粒子が合成できる。さらに、クエン酸とタンニン酸を還元剤として用いることにより、粒子径が減少することがわかっており、粒子径は反応初期に生成される核の数に依存し、タンニン酸は核を生成する反応初期において、金イオンを還元する。よって、タンニン酸の添加量を増加させると多くの核が生成される。さらにクエン酸は核が生成した後に、核の周りにシェルを形成する役割の還元剤として作用する。
【0008】
金ナノプレートの合成では、最初に核の形成が必要である。そのためシード法では、あらかじめ合成した粒子径が数nmの金ナノ粒子を核として用い、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(以下、単に「CTAB」と称する。)と、クエン酸とを添加して、CTABにより金の結晶の(111)面を保護しながら、クエン酸により(100)面、または(110)面にシェルを形成することで金ナノプレートを合成できる。また、クエン酸により加熱還元する方法は加熱により核の形成が必要であるが、厳密に温度制御しなければ、核のサイズを制御できないため、辺長が数十~数百nmで青い透過色の金ナノプレートを合成することが困難である。
【0009】
これらの方法で得られる金ナノプレートは、赤色、マゼンタ、紫色、紺色、青色、シアン、又は、薄水色の色調を呈する懸濁液となる。イムノクロマト法による抗原検査で、青色を呈する金ナノプレートと結合した抗体(以下、単に金ナノプレート抗体複合体と称する。)をコンジャクションパッドに使用して用い、メンブレンのテストライン上に、あらかじめテストライン上に塗布した抗体、抗原、金ナノプレート抗体複合体が結合したサンドイッチ構造の複合体が形成されることにより、テストライン上に青いラインを示すが、赤色にしか調製できない球状金ナノ粒子を使用した場合と比較して、顕著に検出ラインの視認性を向上することができるため、赤い透過色よりも青い透過色が良いと開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】再表2017/154989号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】D.V.Ravi Kumar, et al., Synthesis of triangular gold nanoplates: Role of bromide ion and temperature (2013), Vol. 422, pp.181-190
【非特許文献2】Masayoshi T, et al., Synthesis of near-infrared absorbing triangular Au nanoplates using biomineralisation peptides (2021), Vol. 131, pp. 519-531
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、青い透過色を呈する金ナノプレートは安定して合成ができなかった。そのため、青い透過色を呈する金ナノプレートの安定的な合成方法が求められている。また、青い透過色を呈する金ナノプレートの合成に成功した場合、収率(金ナノプレートの数/溶液中の全粒子数)が低いという問題を抱えている。
【0013】
本件発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、還元剤の配合を最適化することによって、常温・常圧の状態で、青い透過色を呈する金ナノプレートを合成し、金ナノプレート合成の成功率、及び収率を向上させる金ナノプレートの合成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この課題を解決するために、鋭意研究の結果、以下の発明に想到した。
【0015】
金イオン含有溶液に2種類の還元剤を用いて金ナノプレートを合成する方法であって、以下の工程1から工程6を含むことを特徴とする。
工程1:イオン交換水とクエン酸三ナトリウムとを混合し、クエン酸三ナトリウム濃度50mM以上150mM以下の第1還元剤水溶液を調製する。
工程2:イオン交換水とタンニン酸とを混合し、タンニン酸濃度2mM以上10mM以下の第2還元剤水溶液を調製する。
工程3:保護剤として、金の結晶面の(111)面に選択的に吸着するカチオン系界面活性剤と、イオン交換水とを混合し、保護剤含有濃度5mM以上15mM以下の保護剤含有溶液を調製する。
工程4:第1還元剤水溶液と、第2還元剤水溶液と、イオン交換水とを混合することで、クエン酸濃度1mM以上5mM以下、タンニン酸濃度0.1mM以上5mM以下の溶液Aを調製する。
工程5:モル濃度10mM以上40mM以下の塩化金酸水溶液に撹拌しながら保護材含有溶液を添加することで、塩化金酸濃度0.1mM以上10mM以下、保護剤含有濃度1mM以上15mM以下の溶液Bを調製する。
工程6:溶液Aまたは溶液Bのいずれか一方を撹拌しながら、他方の溶液を添加し、混合を行い、常温・常圧の状態で静置することで金ナノプレートを合成する。
【0016】
そして、前記工程1では、2g以上3g以下のクエン酸三ナトリウムと、50mL以上200mL以下のイオン交換水とを混合することで第1還元剤水溶液を調製することが好ましい。
【0017】
また、前記工程2では、0.5g以上1.5g以下のタンニン酸と、50mL以上150mL以下のイオン交換水とを混合することで第2還元剤水溶液を調製することが好ましい。
【0018】
前記工程3では、金の結晶面の(111)面に選択的に吸着するカチオン系界面活性剤0.01g以上0.02g以下と、4mL以上6mL以下のイオン交換水とを混合することで保護剤含有溶液を調製することが好ましい。
【0019】
前記工程4では、120μL以上130μL以下の第1還元剤水溶液と、0.1mL以上0.3mL以下の第2還元剤水溶液と、7mL以上8mL以下のイオン交換水とを混合して溶液Aを調製することが好ましい。
【0020】
前記工程5では、0.1mL以上0.3mL以下の塩化金酸水溶液をスターラで撹拌しながら、3.0mL以上5.0mL以下の保護剤含有溶液を添加して溶液Bを調製するのが好ましい。
【0021】
前記工程6では、溶液Aをスターラで撹拌しながら、溶液Bを添加し、10分以上混合を行い、各組成の金に対するモル比がクエン酸1.5以上2.6以下、CTAB6.0以上8.0以下、タンニン酸0.1以上1.0以下となる混合溶液を調製し、24時間以上常温・常圧の状態で静置することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本件発明に係る金ナノプレートの合成方法は、還元剤としてクエン酸三ナトリウムと、タンニン酸との2種類を用いる。この2種類の還元剤の配合を最適化することによって、適切な速度で還元するための加熱が必要なくなった。そして、当該金ナノプレートの合成方法では、溶液の精密な温度制御が必要なく、常温・常圧で24時間以上静置するだけで青い透過色を呈する金ナノプレートの合成が行なえる。かつ、従来よりも、成功率及び収率が向上する金ナノプレートの合成方法である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例1における金ナノプレートのTEM写真の図である。
図2】実施例2における金ナノプレートのTEM写真の図である。
図3】実施例3における金ナノプレートのTEM写真の図である。
図4】実施例4における金ナノプレートのTEM写真の図である。
図5】比較例における金ナノプレートのTEM写真の図である。
図6】比較例における複数回金ナノプレートを合成したときの吸光度スペクトルの図である。
図7】各攪拌時間におけるにおける金ナノプレートのTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本件発明に係る金ナノプレートの合成方法について説明する。
【0025】
1.金ナノプレート合成の実施形態
本件発明に用いられる金イオンは、塩化金酸四水和物である。また、2種類の還元剤は、クエン酸三ナトリウムと、タンニン酸とを用いる。保護剤として金の結晶面の(111)面に選択的に吸着するカチオン系界面活性剤とを混合させる。特に保護剤には、CTABを用いるとより好ましい。通常、塩化金酸と、クエン酸三ナトリウムと、タンニン酸とを加熱しながら混合すると、タンニン酸が還元剤、クエン酸三ナトリウムが分散剤として働き、金ナノ粒子が合成される。しかしながら、当該合成方法では、非加熱で、2種類の還元剤の配合を最適化し、金イオンと、保護剤とを混合する。その結果、常温・常圧で静置することで金ナノプレートの合成ができる。本件発明において、保護剤が金の結晶面の(111)面を保護し、還元剤のタンニン酸が核を形成し、クエン酸が(100)面、または(110)面にシェルを形成することにより、金ナノプレートが形成されるが、還元剤溶液であるタンニン酸の添加量とクエン酸の添加量が最適化することにより、安定して青い透過色を呈する金ナノプレートを得ることが可能となる。以下、各工程に関して説明する。
【0026】
1-1.工程1
本件発明に係る第1還元剤水溶液は、イオン交換水とクエン酸三ナトリウムとを混合し、クエン酸三ナトリウム濃度50mM以上150mM以下であることが好ましい。クエン酸三ナトリウム濃度が50mM未満の場合には、金イオンを十分に還元することができず、金ナノプレートの平均辺長が短くなる。一方、クエン酸三ナトリウム濃度が150mMより高いと、未反応の還元剤が多く残ってしまい、金ナノプレートの平均辺長が長くなる。その結果、青い透過色を呈する金ナノプレートの合成が困難になるため好ましくない。
【0027】
さらに、本件発明に係る第1還元剤水溶液は、クエン酸三ナトリウム濃度90mM以上110mM以下であることがより好ましい。本件発明の合成方法では、2種類の還元剤を用いて、還元を行うため、他方の還元剤との配合の最適化を考慮した結果、より安定的な金ナノプレートの合成の成功率、及び高い収率を得ることができるからである。
【0028】
1-2.工程2
本件発明に係る第2還元剤水溶液は、イオン交換水とタンニン酸とを混合し、タンニン酸濃度2mM以上10mM以下であることが好ましい。金ナノプレートの合成には、あらかじめ合成した金ナノ粒子を核として用いるため、最初に核の形成が必要である。その核を形成する役割を担う還元剤として、タンニン酸を用いる。タンニン酸濃度が2mM未満の場合には、金イオンをの還元を十分に行えず、金ナノプレートの平均辺長が短くなる。一方、タンニン酸濃度が10mMより高いと、金ナノプレートの平均辺長が長くなる。その結果、青い透過色を呈する金ナノプレートの合成が困難になるため好ましくない。
【0029】
さらに、本件発明に係る第2還元剤水溶液は、タンニン酸のモル濃度5.88mMであることがより好ましい。本件発明の合成方法では、2種類の還元剤を用いて、還元を行うため、他方の還元剤と配合の最適化を考慮した結果、より安定的な金ナノプレートの合成の成功率、及び高い収率を得ることができるからである。
【0030】
1-3.工程3
本件発明に係る保護剤含有水溶液は、CTABと、イオン交換水とを混合し、保護剤含有濃度5mM以上15mM以下であることが好ましい。保護剤含有濃度5mM未満の場合には、金の結晶面の(111)面への保護剤の吸着量が少なくなるため、金の凝集が起こり、収率が低くなる場合があり好ましくない。一方、保護剤含有濃度15mMより高いと、保護剤の臭素に置換される塩化金酸の塩素イオンが多くなり、臭化金酸が安定化するため反応速度が遅くなる場合があり好ましくない。
【0031】
1-4.工程4
本件発明に係る溶液Aは、100μL以上150μL以下の還元剤水溶液1と、0.2mL以上0.3mL以下の還元剤水溶液2と、5mL以上10mL以下のイオン交換水とを混合し、クエン酸濃度1.0mM以上2.0mM以下、タンニン酸濃度0.1mM以上1.0mM以下の溶液Aを調整することが好ましい。クエン酸濃度が10mM未満の場合には、十分に還元を行えず、金ナノプレートの合成が困難となる。一方、クエン酸濃度が2.0mMより高いと、合成された金ナノプレートの平均辺長が長くなり、青い透過色を呈する金ナノプレートの合成が困難になる。また、タンニン酸濃度が0.1mM未満の場合には、十分に金イオンを還元できず、赤い透過色を呈する金ナノプレートが合成され好ましくない。一方、タンニン酸濃度が1.0mMより高いと、還元剤が残ってしまい、合成された金ナノプレートの平均辺長が長くなり、青い透過色を呈する金ナノプレートの合成が困難になるので好ましくない。
【0032】
さらに、本件発明に係る溶液Aは、116μL以上140μL以下の還元剤水溶液1と、0.18mL以上0.22mL以下の第2還元剤水溶液とを混合する。その混合溶液に7.4mL以上7.6mL以下のイオン交換水を添加し、クエン酸濃度1.5mM以上1.7mM以下、タンニン酸濃度0.13mM以上0.17mM以下の溶液Aを調製するのがより好ましい。その結果、金イオンを適切に還元することができ、より青い透過色を呈した金ナノプレートを得られるからである。
【0033】
1-5.工程5
本件発明に係る溶液Bは、はじめに、イオン交換水と塩化金酸四水和物を混合し、塩化金酸濃度20mM以上40mM以下の塩化金酸水溶液を調製するのが好ましい。次に、0.1mL以上0.3mL以下の塩化金酸水溶液と3.0mL以上6.0mL以下の保護剤含有水溶液を混合することで、塩化金酸濃度0.1mM以上10mM以下と、保護剤含有濃度1mM以上15mM以下となる溶液Bを調製することが好ましい。塩化金酸濃度が20mM未満の場合には、金イオンに対して還元剤及び保護剤が多くなり、球状の金ナノ粒子が多く生成されるため好ましくない。一方、塩化金酸濃度が40mMより高い場合、タンニン酸により生成された核の凝集が発生するため金ナノプレートの平均辺長が長くなり、青い透過色を呈する金ナノプレートの合成が困難になるため好ましくない。
【0034】
さらに、本件発明に係る溶液Bは、イオン交換水と塩化金酸四水和物を混合し、塩化金酸濃度26mM33mM以下以上の塩化金酸水溶液を調製するのがより好ましい。次に、0.18mM以上0.24mL以下の塩化金酸水溶液と4.3mL以上5.3mL以下の保護剤含有水溶液を混合することで、塩化金酸濃度1.05mM以上1.45mM以下と、保護剤含有濃度7.86mM以上9.66mM以下となる溶液Bを調製することがより好ましい。
【0035】
1-6.工程6
本件発明に係る金ナノプレートの合成方法は、溶液Aまたは溶液Bのいずれか一方を撹拌しながら、他方の溶液を添加し、10分以上で混合を行い、混合溶液中の金に対するモル比(混合溶液中の還元剤または保護剤のモル数/混合溶液中の塩化金酸のモル数)がクエン酸1.5以上2.6以下、CTAB6.0以上8.0以下、タンニン酸0.1以上1.0以下となる混合溶液を調製する。そして、常温・常圧の状態で24時間以上静置することが好ましい。また、溶液Aをスターラで撹拌しながら、溶液Bを添加し、10分間混合を行い、混合溶液中の金に対するモル比がクエン酸1.8以上2.3以下、CATB6.9以上7.3以下、タンニン酸0.15以上0.2以下の混合溶液を調製し、常温・常圧の状態で3日間静置するのがより好ましい。さらに、3日間静置後に還元剤や保護剤が残っている場合、還元が進行し金ナノプレートの平均辺長が長くなってしまうため、遠心分離や濾過により還元剤や保護材を除去するのが好ましい。また、収率を向上させる目的で遠心分離や濾過を行うのも好ましい。上述のモル比で混合溶液を調製し、3日間静置することで、金イオンを適切に還元でき、より青い透過色を呈する金ナノプレートを合成することができる。
【0036】
1-7.青い透過色を呈する金ナノプレートの合成条件
本件発明の実施形態に記載の各水溶液の濃度は、目安濃度であり、青い透過色を呈する金ナノプレートの合成条件は、金に対する還元剤と保護材のモル比で決まると考える。このモル比が最適値を外れると青い透過色を呈する金ナノプレートを合成するのが困難になる傾向となり好ましくない。最適な金に対するモル比は、第1還元剤水溶液が0.188、第2還元剤水溶液が2.06、保護材含有水溶液が7.03であることが特に好ましい。
【実施例0037】
実施例1は、以下の工程で金に対する保護材のモル比を7.0に固定して、金ナノプレートを合成した。
工程1:クエン酸三ナトリウム濃度100mMの第1還元剤水溶液を調整した。
工程2:タンニン酸濃度5.88mMの第2還元剤水溶液を調整した。
工程3:保護剤としてCTABを用いて、保護剤含有濃度9.15mMの保護剤含有水溶 液を調整した。
工程4:第2還元剤水溶液の添加量を0.2mLとして、クエン酸三ナトリウム濃度1. 64mM、タンニン酸濃度0.15mMの溶液Aを調整した。
工程5:塩化金酸水溶液に保護材含有水溶液を加え、回転数1500rpmで10分間撹拌しながら、塩化金酸濃度0.12mM、保護剤含有濃度8.76mMの溶液Bを調整した。
工程6:溶液Aをスターラで撹拌しながら、溶液Bを添加し、回転数700rpmで10分間混合を行い、常温・常圧の状態で3日間静置した。
【実施例0038】
工程4において、第2還元剤水溶液の添加量を0.1mLとして、クエン酸三ナトリウム濃度1.66mM、タンニン酸濃度80mMの溶液Aを調整し、その他工程では、実施例1と同様の工程で金ナノプレートを合成した。
【実施例0039】
工程4において、第2還元剤水溶液の添加量を0.3mLとして、クエン酸三ナトリウム濃度1.62mM、タンニン酸濃度220mMの溶液Aを調整し、その他工程では、実施例1と同様の工程で金ナノプレートを合成した。
【実施例0040】
工程4において、第2還元剤水溶液の添加量を0.5mLとして、クエン酸三ナトリウム濃度1.58mM、タンニン酸濃度360mMの溶液Aを調整し、その他工程では、実施例1と同様の工程で金ナノプレートを合成した。
【実施例0041】
工程6において、撹拌時間を20分、30分、60分として、溶液Aをスターラで撹拌しながら、溶液Bを添加し、回転数700rpmで混合を行い、常温・常圧の状態で3日間静置し、その他工程では、実施例1と同様の工程で各撹拌時間での金ナノプレートを合成した。
【実施例0042】
工程4において、第2還元剤水溶液の添加量を0.1mLとして、クエン酸三ナトリウム濃度1.66mM、タンニン酸濃度80mMの溶液Aを調整し、工程6において、撹拌時間を20分、30分、60分として、溶液Aをスターラで撹拌しながら、溶液Bを添加し、回転数700rpmで混合を行い、常温・常圧の状態で3日間静置し、その他工程では、実施例1と同様の工程で各撹拌時間での金ナノプレートを合成した。
【実施例0043】
工程4において、第2還元剤水溶液の添加量を0.3mLとして、クエン酸三ナトリウム濃度1.66mM、タンニン酸濃度80mMの溶液Aを調整し、工程6において、撹拌時間を20分、30分、60分として、溶液Aをスターラで撹拌しながら、溶液Bを添加し、回転数700rpmで混合を行い、常温・常圧の状態で3日間静置し、その他工程では、実施例1と同様の工程で各撹拌時間での金ナノプレートを合成した。
【比較例】
【0044】
比較例は、以下の工程で金ナノプレートを合成した。
工程1:2.59gのクエン酸三ナトリウムに、100mLのイオン交換水を加えてモル濃度100mMの還元剤水溶液を調整した。
工程2:128μLの還元剤水溶液に、75mLのイオン交換水を加えてモル濃度1.68mMの溶液Aを調整した。
工程3:1gの塩化金酸に、81.5mLのイオン交換水を加えてモル濃度29.8mMの塩化金酸水溶液を調整した。
工程4:50mLの塩化金酸水溶液(1.25mM)をスターラで撹拌しながら、0.16gのCTABを添加して溶液Bを調整した。
工程5:中央口に環流管を取り付けた二口フラスコに、22.5mLの溶液Aと、15.0mLの溶液Bとを投入し、ホットスターラの回転数を1500rpmで設定し、温度を48℃、58℃、68℃、96℃でそれぞれ60分間加熱撹拌を行い金ナノプレートの合成を行った。
【0045】
〔評価〕
実施例1から実施例7は、スターラー(アズワン、RS-1AN)を用いて撹拌を行い混合溶液を混合した。また、比較例は、ホットスターラー(アズワン、RSH-1DN)を用いて加熱及び撹拌を行った。なお、加熱中に溶液の蒸発を防ぐために、ホットスターラー上に設置したフラスコに環流管を接続し、熱電対(アズワン、DS-2010-150)で、フラスコ内の溶液の温度制御を行った。また、実施例及び比較例における各溶液は、塩化金酸四水和物(富士フィルム和光純薬、077-00931、99%)と、クエン酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬、203-13605、99%)と、タンニン酸(富士フィルム和光純薬、201-06332)と、CTAB(シグマアルドリッチ、H5882-100G、98%以上)と、イオン交換水(純水:伝導率1μs/cm以下)とを使用した。
【0046】
A.金ナノプレートの評価
実施例1から実施例4、及び比較例で合成した金ナノプレートを確認するため、得られた金ナノプレートのTEM写真を図1から図5に示す。図1から図5に示すTEM写真から、金ナノプレートの平均辺長と、標準偏差と、収率と、青い透過色を呈する金ナノプレートの成功率とを求め、その結果を次の表1に示す。これらの結果より、金ナノプレートの合成の成功率、及び収率の向上を評価した。
【0047】
図1から図5に示す結果より、加熱が必要な比較例では安定して青い透過色を呈する金ナノプレートの合成が困難だった。実施例1から実施例4では、非加熱により金ナノプレートを合成することに成功している。また、実施例1は、青い透過色を呈する金ナノプレートを合成することができている。これは、溶液の精密な温度管理が不要になったため、金ナノプレートの合成の成功率が向上したことを示す。
【0048】
次に、表1に示す結果より、実施例4は収率が24.8%となり、比較例は青い透過色を呈する金ナノプレートの合成に成功した場合、収率が29.7%になっている。しかし、実施例1から実施例3は収率が40%以上となっており、特に実施例1は、より青い透過色を呈する金ナノプレートを合成できている。さらに、比較例は20回合成を行い、青い透過色を呈する金ナノプレートを合成できたのが2回であり、成功率は10%と低くなっている。しかし、特に青い透過色を呈する金ナノプレートを合成できた実施例1は、同じ条件、同じ配合で3回合成を行い、全て青い透過色を呈する金ナノプレートを合成でき、成功率は100%になっている。これは、2種類の還元剤の配合を最適化したことにより、適切に金イオンを還元することが可能になり、金ナノプレートの成功率及び収率が向上したことを示す。
【0049】
【表1】

B.金ナノプレートの再現性評価
実施例1から実施例2、及び比較例で提示の方法で、金ナノプレートを複数回合成し、実施例の結果を表2、比較例の吸光度スペクトルを図6に示す。図6及び表2に示す結果より、三角形金ナノプレートの再現性を評価した。
【0050】
図6に示す結果より、加熱による金ナノプレートの合成は、同じ溶液及び同じ条件で、20回金ナノプレートの合成を行った。20回中15回は無色透明の金ナノプレートが作成され、濃い青の透過色を呈する金ナノプレートが1回、薄い青の透過色を呈する金ナノプレートが1回のみ得られ、残りの3回は赤または赤紫の透過色を呈する金ナノプレートが得られた。そのうち濃い青、薄い青の透過色を呈する金ナノプレートは、波長900nmと吸収ピーク波長に吸光度の差が0.5以上あるため、三角形平板状金ナノプレートが合成されていることがわかる。これは、加熱による金ナノプレートの合成は、安定して三角形平板状金ナノプレートを合成できないことを示す。
【0051】
次に、表2に示す結果より、実施例1及び実施例2は、同じ溶液及び同じ条件で、3回金ナノプレートの合成を行い、全ての合成で、波長900nmと吸収ピーク波長の吸光度の差が0.5以上あるという結果になった。つまり、これは、2種類の還元剤の配合を最適化したことにより、適切に金イオンを還元することが可能になり、三角形平板状金ナノプレートを安定して合成できていることを示す。
【0052】
【表2】

C.撹拌時間による評価
実施例5から実施例7で撹拌時間を変更し合成された金ナノプレート、合成された金ナノプレートを評価した結果を表2から表4に示す。また、各撹拌時間ごとのTEM写真を図7に示す。図7に示すTEM写真から、各撹拌時間ごとの平均辺長、標準偏差、変動係数、収率を求め、その結果を表3から表7に示す。表3から表7、及び図7に示す結果より、三角形平板状金ナノプレートの合成に最適な撹拌時間を評価した。
【0053】
表3に示す結果より、実施例6の撹拌時間60分と、実施例5及び実施例7の全ての撹拌時間で合成した場合は、ピーク波長が590nm~700nmの範囲内で合成できていることがわかる。また、表4に示す結果より、実施例7の撹拌時間10分以外の全ての合成では、波長900nmと吸収ピーク波長の吸光度の差が0.5以上あるという結果になった。さらに、図7および、表5から表7に示す結果より、20分以降までは、撹拌時間が増加すると、平均辺長が減少していく、30分以降は、平均辺長は増加または一定のままであることが示されている。また、変動係数は、撹拌時間が増加すると減少するが、実施例7に関しては、30分以降は増加することがわかる。これらの結果から、撹拌時間は10分以上60分以下で行うが好ましいことを示す。
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
【表5】
【0057】
【表6】
【0058】
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0059】
本件発明によれば、金イオン含有溶液に、配合を最適化した2種類の還元剤と、保護剤とを混合し、常温・常圧の状態で金ナノプレートを合成できる。そして、当該金ナノプレートの合成方法は、加熱を必要としないため、溶液の精密な温度管理が必要ない。このことから、金ナノプレートの合成の成功率、及び収率も向上され、より容易にかつ、安定してバイオセンサーとして利用するのに好適な、青い透過色を呈する金ナノプレートの合成として好適である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7