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特開2024-21045プリプレグ、繊維強化複合材料、繊維強化複合材料製管状体、ゴルフクラブシャフトおよび釣り竿
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021045
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】プリプレグ、繊維強化複合材料、繊維強化複合材料製管状体、ゴルフクラブシャフトおよび釣り竿
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/24 20060101AFI20240207BHJP
   C08G 59/44 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
C08J5/24 CFC
C08G59/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104742
(22)【出願日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2022123192
(32)【優先日】2022-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】恩村 康之
(72)【発明者】
【氏名】平野 公則
(72)【発明者】
【氏名】佐野 健太郎
【テーマコード(参考)】
4F072
4J036
【Fターム(参考)】
4F072AA07
4F072AB10
4F072AB22
4F072AD25
4F072AD42
4F072AE01
4F072AF30
4F072AG03
4F072AH04
4F072AH21
4F072AL05
4J036AB03
4J036AC02
4J036AD08
4J036AE05
4J036AF06
4J036AF08
4J036AH01
4J036AH02
4J036AH06
4J036AH07
4J036AH13
4J036AH17
4J036DC31
4J036FA10
4J036FA12
4J036FB12
4J036JA11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】機械特性と耐候性が共に優れ、繊維強化複合材料とした時の非繊維方向強度にも優れるプリプレグ、該プリプレグを用いた繊維強化複合材料、及び釣り竿等を提供する。
【解決手段】強化繊維と樹脂組成物とを含むプリプレグであって、該樹脂組成物は、下記構成要素[A]~[C]を含み、下記条件(1)~(4)を満たす、プリプレグ。[A]エポキシ樹脂[B]ジシアンジアミド[C]沸点が130℃以上、かつ、分子量mが50以上250以下の化合物。
(1)[A]として[A1]オキサゾリドン型エポキシ樹脂を、10~40質量部含む。(2)[A]として[A2]ノボラック型エポキシ樹脂を、20~50質量部含む。(3)[A]として[A3]グリシジルアミン型エポキシ樹脂を、含まないか、10質量部以下含む。
(4)[B]の活性水素のモル数(H)と、エポキシ基のモル数(E)の比(H/E)が、0.65≦H/E≦0.90である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維と樹脂組成物とを含むプリプレグであって、該樹脂組成物は、下記構成要素[A]~[C]を含み、かつ、下記条件(1)~(4)を満たす、プリプレグ。
[A]:エポキシ樹脂
[B]:ジシアンジアミド
[C]:沸点が130℃以上、かつ、分子量mが50以上250以下の化合物であって、分子内にエポキシ基を有さず、かつエポキシ樹脂の硬化能を有さない化合物
(1):構成要素[A]として[A1]オキサゾリドン型エポキシ樹脂を、全エポキシ樹脂100質量部に対し、10~40質量部含む。
(2):構成要素[A]として[A2]ノボラック型エポキシ樹脂を、全エポキシ樹脂100質量部に対し、20~50質量部含む。
(3):構成要素[A]として[A3]グリシジルアミン型エポキシ樹脂を含まないか、含んだとしても全エポキシ樹脂100質量部に対し、10質量部以下である。
(4):構成要素[B]の活性水素のモル数(H)と、エポキシ樹脂組成物全体に含まれるエポキシ基のモル数(E)の比(H/E)が、0.65≦H/E≦0.90である。
【請求項2】
構成要素[A]として[A4]分子中にエポキシ基を3個以上有する脂肪族エポキシ樹脂を、全エポキシ樹脂100質量部に対し、10~40質量部含む、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
前記[A3]を含まないか、含んだとしても全エポキシ樹脂100質量部に対し、1質量部以下である、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項4】
構成要素[D]フェノキシ樹脂を含む、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のプリプレグを硬化させてなる、繊維強化複合材料。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載のプリプレグを成形してなる、繊維強化複合材料製管状体。
【請求項7】
請求項6に記載の繊維強化複合材料製管状体を用いてなる、ゴルフクラブシャフト。
【請求項8】
請求項6に記載の繊維強化複合材料製管状体を用いてなる、釣り竿。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空宇宙用途、一般産業用途およびスポーツ用途などの繊維強化複合材料に好適に用いられる、プリプレグ、繊維強化複合材料、繊維強化複合材料製管状体に関するものであり、また、該繊維強化複合材料製管状体を用いてなるゴルフクラブシャフト、釣り竿に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やアラミド繊維などを強化繊維として用いた繊維強化複合材料は、その高い比強度、比弾性率を利用して、航空機や自動車などの構造材料や、テニスラケット、ゴルフクラブシャフト、釣り竿、自転車、筐体などのスポーツ、一般産業用途などに広く利用されている。この繊維強化複合材料に用いられる樹脂組成物としては、耐熱性や生産性の観点から主に熱硬化性樹脂が用いられ、中でも強化繊維との接着性などの力学特性の観点からエポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0003】
近年、さらなる軽量化が求められるゴルフクラブシャフト、釣り竿、自転車等の用途へ繊維強化複合材料を適用するには各種物性の向上が求められるようになってきた。例えば、ゴルフクラブシャフトや釣り竿等の管状体において優れた曲げ強度を発現させるためには、用いる繊維強化複合材料に高い繊維方向強度および非繊維方向強度が必要となるが、それらはマトリックス樹脂として用いるエポキシ樹脂自体の強度や弾性率が大きく影響する。さらに、繊維強化複合材料表面をクリア塗装することによって強化繊維のクロス目等を意匠として用いる場合も増えている。そのため、マトリックス樹脂として用いられるエポキシ樹脂には、硬化物が優れた機械特性を示すことに加え、繊維強化複合材料を長期間屋外で使用しても変色しにくいように、硬化物の耐候性についても重要視されるようになってきた。
【0004】
特許文献1には、機械特性向上の観点から、硬化剤として用いるジシアンジアミドが溶け残って欠陥となるのを低減するために、ジシアンジアミドとの間に所定の溶解性を示す添加剤を配合し、樹脂強度の向上を図る手法が検討されている。また、特許文献2では、優れた機械特性を有する複合材料が得られることから、ビスフェノールF型エポキシ樹脂とノボラック型エポキシ樹脂、オキサゾリドン型エポキシ樹脂を配合した組成が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/181402号公報
【特許文献2】特開2001-302766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の技術を用いた場合、樹脂強度の向上効果が得られるが、耐候性について何ら考慮されておらず、優れた耐候性が安定的に得られるものではなかった。特許文献2では、樹脂硬化物の強度や弾性率が低く、繊維強化複合材料において必ずしも優れた機械特性が得られるものではなかった。また、特許文献2についても同様に耐候性について何ら考慮されていなかった。さらに、樹脂強度の向上効果が得られる特許文献1の技術と特許文献2を単に組み合わせたとしても、樹脂硬化物の強度や弾性率が不足しており、繊維強化複合材料の機械特性と耐候性の両立は困難であった。
【0007】
そこで本発明は、強度や弾性率といった機械特性と、耐候性が共に優れ、かつ繊維強化複合材料とした時の非繊維方向強度にも優れるプリプレグ、ならびに該プリプレグを用いた繊維強化複合材料、繊維強化複合材料製管状体、ゴルフクラブシャフト、釣り竿を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、かかる課題を解決するために次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明のプリプレグは、以下1~4の通りである。
1. 強化繊維と樹脂組成物とを含むプリプレグであって、該樹脂組成物は、下記構成要素[A]~[C]を含み、かつ、下記条件(1)~(4)を満たす、プリプレグ。
[A]:エポキシ樹脂
[B]:ジシアンジアミド
[C]:沸点が130℃以上、かつ、分子量mが50以上250以下の化合物であって、分子内にエポキシ基を有さず、かつエポキシ樹脂の硬化能を有さない化合物
(1):構成要素[A]として[A1]オキサゾリドン型エポキシ樹脂を、全エポキシ樹脂100質量部に対し、10~40質量部含む。
(2):構成要素[A]として[A2]ノボラック型エポキシ樹脂を、全エポキシ樹脂100質量部に対し、20~50質量部含む。
(3):構成要素[A]として[A3]グリシジルアミン型エポキシ樹脂を含まないか、含んだとしても全エポキシ樹脂100質量部に対し、10質量部以下である。
(4):構成要素[B]の活性水素のモル数(H)と、エポキシ樹脂組成物全体に含まれるエポキシ基のモル数(E)の比(H/E)が、0.65≦H/E≦0.90である。
2.構成要素[A]として[A4]分子中にエポキシ基を3個以上有する脂肪族エポキシ樹脂を、全エポキシ樹脂100質量部に対し、10~40質量部含む、上記1に記載のプリプレグ。
3. 前記[A3]を含まないか、含んだとしても全エポキシ樹脂100質量部に対し、1質量部以下である、上記1または2に記載のプリプレグ。
4. 構成要素[D]フェノキシ樹脂を含む、上記1~3のいずれかに記載のプリプレグ。
また、本発明の繊維強化複合材料および当該材料からなる成形品は、以下の通りである。
5. 上記1~4のいずれかに記載のプリプレグを硬化させてなる、繊維強化複合材料。
6. 上記1~4のいずれかに記載のプリプレグを成形してなる、繊維強化複合材料製管状体。
7. 上記6に記載の繊維強化複合材料製管状体を用いてなる、ゴルフクラブシャフト。
8. 上記6に記載の繊維強化複合材料製管状体を用いてなる、釣り竿。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、強度や弾性率といった機械特性と、耐候性が共に優れ、かつ繊維強化複合材料とした時の非繊維方向強度にも優れるプリプレグ、ならびに該プリプレグを用いた繊維強化複合材料、繊維強化複合材料製管状体、ゴルフクラブシャフト、釣り竿が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明のプリプレグは、樹脂組成物と強化繊維とを含む。樹脂組成物と強化繊維とからなることが好ましい。樹脂組成物としてエポキシ樹脂組成物が用いられ、構成要素[A]~[C]を必須成分として含む。なお本発明において「構成要素」とは組成物に含まれる化合物を意味する。
【0012】
本発明における構成要素[A]は、樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂である。構成要素[A]が1分子中にエポキシ基が2個以上のエポキシ樹脂である場合、樹脂組成物を加熱硬化して得られる硬化物のガラス転移温度が高くなり、耐熱性が高くなるため好ましい。本発明のエポキシ樹脂組成物や繊維強化複合材料の耐熱性や力学特性に著しい悪影響を及ぼさない範囲で、1分子中にエポキシ基が1個のエポキシ樹脂を配合してもよい。これらのエポキシ樹脂は単独で用いてもよいし、適宜配合して用いてもよい。
【0013】
かかるエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型、オキサゾリドン型、イソシアヌル酸型、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、ジシクロペンタジエン型、ジアミノジフェニルメタン型、ジアミノジフェニルスルホン型、アミノフェノール型、メタキシレンジアミン型、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン型、ヒダントイン型、ソルビトール型、グリセロール型、トリメチロールプロパン型、ペンタエリスリトール型、トリスヒドロキシフェニルメタン型およびテトラフェニロールエタン型等のエポキシ樹脂が挙げられる。
【0014】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”825、828、834、1001、1002、1003、1003F、1004、1004AF、1005F、1006FS、1007、1009、1010(以上、三菱ケミカル(株)製)、“EPICLON(登録商標)”850(DIC(株)製)、“エポトート(登録商標)”YD-128(日鉄ケミカル&マテリアル(株)製)、および“D.E.R. (登録商標)”-331、332(以上、ダウ・ケミカル(株)製)などが挙げられる。
【0015】
ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、“アラルダイト(登録商標)”GY282(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、“jER(登録商標)”806、807、4005P、4007P、4010P(以上、三菱ケミカル(株)製)、“EPICLON(登録商標)”830(DIC(株)製)および“エポトート(登録商標)”YD-170(日鉄ケミカル&マテリアル(株)製)などが挙げられる。
【0016】
本発明において条件(1)を満たすためには、構成要素[A]として[A1]オキサゾリドン型エポキシ樹脂を含む必要がある。[A1]を含むことにより、樹脂硬化物の耐候性を損ねることなく、優れた機械特性を得ることができ、また、マトリックス樹脂と炭素繊維との接着性が向上することから、非繊維方向強度の高い繊維強化複合材料が得られる。
【0017】
樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂100質量部に対し、[A1]を10~40質量部含むことが必要である。下限については15質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがさらに好ましい。上限については35質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがさらに好ましい。[A1]の含有量が、上記下限値以上であれば繊維強化複合材料の非繊維方向強度が優れ、上記上限値以下であれば樹脂硬化物の樹脂弾性率が損なわれることがない。つまり、[A1]をこの範囲で含むことにより、耐候性と機械特性のバランスが良好となる。
【0018】
[A1]の市販品としては、AER4152、AER4151(以上、旭化成イーマテリアルズ(株)製)、“D.E.R. (登録商標)”852、858(以上、ダウ・ケミカル(株)製)、TSR-400(DIC(株)製)、ACR1348(ADEKA(株)製)等を使用することができる。
【0019】
また、本発明において条件(2)を満たすためには、構成要素[A]として[A2]ノボラック型エポキシ樹脂を含む必要がある。[A2]を含むことにより、樹脂硬化物の耐候性を損ねることなく、樹脂強度や樹脂弾性率が高くなり、優れた耐候性と機械特性を有する繊維強化複合材料が得られる。
【0020】
樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂100質量部に対し、[A2]を20~50質量部含むことが必要である。下限については25質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であることがさらに好ましい。上限については45質量部以下であることが好ましく、40質量部以下であることがさらに好ましい。[A2]をこの範囲で含むことにより、樹脂硬化物の耐候性と機械特性のバランスが良好となる。
【0021】
また、樹脂強度や樹脂弾性率などの物性のバランスを良いものとするため、ノボラック型エポキシ樹脂は、その軟化点が、下限については50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがさらに好ましい。上記軟化点は、上限については、120℃以下であることが好ましく、110℃以下であることがさらに好ましい。
【0022】
[A2]としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0023】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”152、154(以上、三菱ケミカル(株)製)、EPPN-201(日本化薬(株)製)、“EPICLON(登録商標)”N-740、N-770(軟化点:70℃)、N-775(軟化点:75℃、以上、DIC(株)製)などが挙げられる。
【0024】
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、“EPICLON(登録商標)”N-660(軟化点:66℃)、N-665(軟化点:70℃)、N-670(軟化点:73℃)、N-673(軟化点:78℃)、N―680(軟化点:87℃)、N-690(軟化点:93℃)、N-695(軟化点:95℃、以上、DIC(株)製)などが挙げられる。
【0025】
本発明において条件(3)を満たすためには、構成要素[A]として[A3]グリシジルアミン型エポキシ樹脂を含まないか、含んだとしても全エポキシ樹脂100質量部に対し、10質量部以下であることが必要である。また、[A3]を含んだとしても5質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下であることがさらに好ましい。[A3]の配合量を10質量部以下にすることにより、樹脂硬化物の耐候性が向上し、優れた耐候性を有する繊維強化複合材料が得られる。
【0026】
[A3]としては、芳香環を有するグリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂肪族のグリシジルアミン型エポキシ樹脂があり、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルスルホン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、メタキシレンジアミン型エポキシ樹脂、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0027】
ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂の市販品としては、ELM434(住友化学(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY720、MY721、MY9512、MY9663(以上、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、“エポトート(登録商標)”YH-434(日鉄ケミカル&マテリアル(株)製)、“jER(登録商標)”604(三菱ケミカル(株)製)などが挙げられる。
【0028】
ジアミノジフェニルスルホン型エポキシ樹脂の市販品としては、TG3DAS(三井化学ファイン(株)製)などが挙げられる。
【0029】
アミノフェノール型エポキシ樹脂の市販品としては、ELM120、ELM100(以上、住友化学(株)製)、“jER(登録商標)”630(三菱ケミカル(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY0500、MY0510、MY0600、MY0610(以上、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)などが挙げられる。
【0030】
メタキシレンジアミン型エポキシ樹脂の市販品としては、“TETRAD(登録商標)” -X(三菱ガス化学(株)製)が挙げられる。
【0031】
1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン型エポキシ樹脂の市販品としては、“TETRAD(登録商標)” -C(三菱ガス化学(株)製)が挙げられる。
【0032】
本発明において、構成要素[A]として[A4]分子中にエポキシ基を3個以上有する脂肪族エポキシ樹脂を含むことが好ましい。[A4]を含むと、樹脂硬化物の耐候性を高い水準で保ちながら、樹脂弾性率の向上が可能であるため好ましい。ただし、[A4]としてグリシジルアミン型エポキシ樹脂を用いると、耐候性を高い水準で保つことが困難となるため、[A4]にグリシジルアミン型エポキシ樹脂は含まれず、除かれるものとする。
【0033】
樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂100質量部に対し、[A4]を10~40質量部含むことが好ましい。下限については15質量部以上であることがさらに好ましく、上限については35質量部以下であることがより好ましく、30質量部以下であることがさらに好ましい。[A4]をこの範囲で含むことにより、樹脂硬化物の耐候性と機械特性のバランスが良好となるため好ましい。
[A4]としては、ソルビトール型エポキシ樹脂、グリセロール型エポキシ樹脂、ジグリセロール型エポキシ樹脂、ポリグリセロール型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂、ペンタエリスリトール型エポキシ樹脂などが挙げられる。中でも、耐候性と樹脂弾性率のバランスが良いことから、ソルビトール型エポキシ樹脂やポリグリセロール型エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0034】
ソルビトール型エポキシ樹脂の市販品としては、“デナコール(登録商標)”EX-612、EX-614、EX-614B、EX-622(以上、ナガセケムテックス(株)製)などが挙げられる。
【0035】
グリセロール型エポキシ樹脂の市販品としては、“デナコール(登録商標)”EX-313、EX-314(以上、ナガセケムテックス(株)製)などが挙げられる。ジグリセロール型エポキシ樹脂の市販品としては、“デナコール(登録商標)”EX-421(ナガセケムテックス(株)製)などが挙げられ、ポリグリセロール型エポキシ樹脂の市販品としては、“デナコール(登録商標)”EX-512、EX-521(以上、ナガセケムテックス(株)製)などが挙げられる。
【0036】
トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂の市販品としては、“デナコール(登録商標)”EX-321、EX-321L(以上、ナガセケムテックス(株)製)などが挙げられる。
【0037】
ペンタエリスリトール型エポキシ樹脂の市販品としては、“デナコール(登録商標)”EX-411(ナガセケムテックス(株)製)、“ショウフリー(登録商標)”PETG(昭和電工(株)製)などが挙げられる。
【0038】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、前記以外のエポキシ化合物も適宜配合することができる。
【0039】
本発明の構成要素[B]は、ジシアンジアミドである。ジシアンジアミドは、エポキシ樹脂硬化物に高い機械特性や耐熱性を与える点で優れており、種々のエポキシ樹脂の硬化剤として広く用いられている。また、エポキシ樹脂組成物の耐候性や保存安定性に優れることから、好適に使用できる。かかるジシアンジアミドの市販品としては、DICY7、DICY15(以上、三菱ケミカル(株)製)などが挙げられる。
【0040】
樹脂硬化物の機械特性や耐候性のバランスが優れることから、[B]の含有量が全エポキシ樹脂100質量部に対し、6~11質量部であることが好ましい。下限については7質量部以上であることがさらに好ましく、上限については10質量部以下であることがさらに好ましい。
【0041】
また本発明では、樹脂硬化物の樹脂強度や樹脂弾性率、耐候性のバランスが優れることから、[B]の活性水素のモル数(H)と、エポキシ樹脂組成物全体に含まれるエポキシ基のモル数(E)の比(H/E)が、0.65≦H/E≦0.90であることが必要である。下限については0.70以上であることが好ましく、0.75以上であることがさらに好ましい。上限については0.85以下であることが好ましい。ここでの[B]の活性水素のモル数(H)は、[B]の活性水素数を4として算出している。またこの時の活性水素のモル数(H)の範囲として、0.20≦H≦0.60であることが好ましく、下限については0.30以上であることがさらに好ましく、上限については0.50以下であることがさらに好ましい。エポキシ基のモル数(E)の範囲としては、0.30≦E≦0.70であることが好ましく、下限については0.40以上であることがさらに好ましく、上限については0.60以下であることがさらに好ましい。
【0042】
本発明の構成要素[C]は、沸点が130℃以上、かつ、分子量mが50以上250以下の化合物であって、分子内にエポキシ基を有さず、かつ、エポキシ樹脂の硬化能を有さない化合物である。ここで、エポキシ樹脂と付加反応しうるアミンやフェノール、エポキシ樹脂と共重合しうる酸無水物、エポキシ樹脂の自己重合反応開始剤となり得るイミダゾール、芳香族ウレア化合物、三級アミン化合物などの化合物は、エポキシ樹脂の硬化能を有する化合物であり、構成要素[C]には含まれない。なおここで、「エポキシ樹脂の硬化能を有さない」とは、「実質的にエポキシ樹脂の硬化能を有さない」ことと同義であり、エポキシ樹脂と化学反応せず、かつ、エポキシ樹脂の自己重合に関与しない性質をいう。
【0043】
構成要素[C]は、エポキシ樹脂とジシアンジアミドとが反応して形成される架橋構造において、架橋構造に取り込まれることなく、その空隙部に存在し、エポキシ樹脂の硬化後もその状態が保持されると考えられ、これにより、得られるエポキシ樹脂硬化物の弾性率が高くなると考えられる。また、驚くべきことに、構成要素[C]を配合することで、高弾性率のみならず、高伸度で高強度なエポキシ樹脂硬化物が得られる。
【0044】
また、構成要素[C]の沸点が130℃以上、より好ましくは180℃以上であることで、エポキシ樹脂組成物が硬化する際の構成要素[C]の揮発を抑制でき、機械特性に優れた樹脂硬化物や繊維強化複合材料が得られる。さらに、得られる繊維強化複合材料におけるボイドの発生や機械特性の低下を抑制できる。また、構成要素[C]の沸点の上限は特にはないが、本発明に通常用いられる化合物の沸点は、400℃以下のものが多い。
【0045】
構成要素[C]の分子量mは50以上250以下であり、より好ましくは70以上120以下である。構成要素[C]の分子量をかかる範囲とすることで、構成要素[C]は、エポキシ樹脂とジシアンジアミドとが反応して形成される架橋構造の空隙部に適切に保持され、弾性率や強度、伸度に優れた硬化物が得られる。
【0046】
本発明において、構成要素[C]は、分子内にアミド基、ケトン基、水酸基からなる群から選ばれる少なくとも1つの官能基を有する化合物であることが好ましい。構成要素[C]が分子内に上記のような高極性の官能基を有する場合、構成要素[A]と構成要素[B]から形成される架橋構造中の水酸基と構成要素[C]との間に強い分子間相互作用が働き、構成要素[C]が架橋構造の空隙部に適切に保持されやすくなるため、特に優れた伸度や強度の向上効果が得られる。
【0047】
かかる構成要素[C]としては、N-メチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、2-ピロリドン、N-メチルプロピオンアミド、N-エチルアセトアミド、N-メチルアセトアニリド、N,N’-ジフェニルアセトアミド等のアミド類、およびエタンジオール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール等のジオール類等が挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、適宜配合して用いてもよい。
【0048】
構成要素[C]は、全エポキシ樹脂100質量部に対し、1~15質量部含まれることが好ましく、2~10質量部含まれることが好ましく、3~6質量部含まれることがさらに好ましい。
【0049】
本発明のプリプレグに用いる樹脂組成物には、樹脂組成物の粘度や、プリプレグのタックをコントロールするという観点から、成分[D]フェノキシ樹脂を配合することが好ましい。フェノキシ樹脂は樹脂硬化物の耐候性を損ねることなく、樹脂組成物の粘度や、プリプレグのタックを向上させることができるため、取り扱い性に優れたプリプレグを作製する上で配合することが好ましい。
【0050】
フェノキシ樹脂の市販品としては、“フェノトート(登録商標)”YP-50、YP-50S、YP-70(以上、日鉄ケミカル&マテリアル(株)製)などが挙げられる。
【0051】
本発明のプリプレグに用いる樹脂組成物には、硬化速度をコントロールするという観点から硬化促進剤を配合してもよい。硬化促進剤としては、ウレア化合物、イミダゾール化合物などが挙げられ、エポキシ樹脂組成物の保管安定性の観点から特にウレア化合物を好ましく用いることができる。
【0052】
ウレア化合物としては、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、3-(4-クロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、フェニルジメチルウレア、トルエンビスジメチルウレアなどが挙げられる。また、芳香族ウレア化合物の市販品としては、DCMU99(保土ヶ谷化学工業(株)製)、“Omicure(登録商標)”24(ピィ・ティ・アイ・ジャパン(株)製)などを使用することができる。
【0053】
本発明のプリプレグ及び繊維強化複合材料に用いる強化繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等を好ましく挙げることができるが、炭素繊維が特に好ましい。強化繊維の形態や配列については限定されず、例えば、一方向に引き揃えられた長繊維、単一のトウ、織物、ニット、および組紐などの繊維構造物が用いられる。強化繊維として、2種類以上の炭素繊維や、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、PBO繊維、高強力ポリエチレン繊維、アルミナ繊維および炭化ケイ素繊維などを組み合わせて用いても構わない。
【0054】
炭素繊維としては、具体的にはアクリル系、ピッチ系およびレーヨン系等の炭素繊維が挙げられ、特に引張強度の高いアクリル系の炭素繊維が好ましく用いられる。
【0055】
炭素繊維の形態としては、有撚糸、解撚糸および無撚糸等を使用することができるが、有撚糸の場合は炭素繊維を構成するフィラメントの配向が平行ではないため、得られる炭素繊維強化複合材料の力学特性の低下の原因となることから、炭素繊維強化複合材料の成形性と強度特性のバランスが良い解撚糸または無撚糸が好ましく用いられる。
【0056】
炭素繊維は、引張弾性率が200~440GPaの範囲であることが好ましい。炭素繊維の引張弾性率は、炭素繊維を構成する黒鉛構造の結晶度に影響され、結晶度が高いほど弾性率は向上する。この範囲であると炭素繊維強化複合材料の剛性、強度のすべてが高いレベルでバランスするために好ましい。より好ましい弾性率は、230~400GPaの範囲内であり、さらに好ましくは260~370GPaの範囲内である。ここで、炭素繊維の引張弾性率は、JIS R7601(2006)に従い測定された値である。
【0057】
本発明のプリプレグは、様々な公知の方法で製造することができる。例えば、有機溶媒を用いず、樹脂組成物を加熱により低粘度化し、強化繊維に含浸させるホットメルト法により、プリプレグを製造することができる。
【0058】
ホットメルト法では、加熱により低粘度化した樹脂組成物を、直接、強化繊維に含浸させる方法、あるいは一旦樹脂組成物を離型紙などの上にコーティングした樹脂フィルム付きの離型紙シートをまず作製し、次いで強化繊維の両側あるいは片側から樹脂フィルムを強化繊維側に重ね、加熱加圧することにより強化繊維に樹脂組成物を含浸させる方法などを用いることができる。
【0059】
プリプレグ中の強化繊維の含有率は、好ましくは30~90質量%であり、より好ましくは35~85質量%であり、更に好ましくは65~85質量%である。繊維質量含有率が小さいと、樹脂の量が多すぎて、比強度と比弾性率に優れる繊維強化複合材料の利点が得られにくい。また、繊維強化複合材料の成形の際、硬化時の発熱量が高くなりすぎることがある。一方、繊維質量含有率が大きすぎると、樹脂の含浸不良が生じ、得られる複合材料はボイドの多いものとなる恐れがある。またプリプレグのタック性を損ねる恐れがある。
【0060】
本発明の繊維強化複合材料、または繊維強化複合材料製管状体は、上述した本発明のプリプレグを所定の形態で積層し、加圧・加熱して樹脂を硬化させる方法を一例として、製造することができる。ここで熱及び圧力を付与する方法には、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法等が採用される。
【0061】
繊維強化複合材料製管状体の成形方法には、ラッピングテープ法が特に好ましく用いられる。ラッピングテープ法は、マンドレル等の芯金にプリプレグを巻いて、円筒状成形体を得る方法である。具体的には、マンドレルにプリプレグを巻着し、プリプレグの固定及び圧力付与のため、その外周に熱可塑性樹脂フィルムからなるラッピングテープを巻着し、オーブン中で樹脂を加熱硬化させた後、芯金を抜き去ることにより円筒状成形体を得る方法であり、ゴルフクラブシャフト、釣り竿等の管状体を作製する際に好適である。
【0062】
本発明に係る樹脂組成物を用いると、その硬化物は優れた機械特性や耐候性を有することから、本発明の繊維強化複合材料製管状体は優れた曲げ強度や耐候性を発現する。
【0063】
本発明の繊維強化複合材料、または繊維強化複合材料製管状体は、航空宇宙用途、一般産業用途およびスポーツ用途に広く用いることができる。より具体的には、一般産業用途では、自動車、船舶および鉄道車両などの構造体等に好適に用いられる。スポーツ用途では、ゴルフクラブシャフト、釣り竿、テニスやバドミントンのラケット用途に好適に用いられる。中でも、本発明の繊維強化複合材料製管状体は、ゴルフクラブシャフトや釣り竿に好適に用いることができる。
【0064】
以上に記した数値範囲の上限及び下限は、特に断りのない限り、任意に組み合わせることができる。
【実施例0065】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、組成比の単位「部」は、特に注釈のない限り質量部を意味する。また、各種特性(物性)の測定は、特に注釈のない限り温度23℃、相対湿度50%の環境下で行った。
【0066】
<実施例および比較例で用いられた材料>
(1)強化繊維
“トレカ(登録商標)”T1100G-24K(繊維数24000本、引張弾性率:324GPa、密度:1.8g/cm、東レ(株)製)。
【0067】
(2)構成要素[A]:エポキシ樹脂
・[A1]オキサゾリドン型エポキシ樹脂
[A1]-1 “D.E.R.(登録商標)”858(エポキシ当量:400、ダウ・ケミカル(株)製)
・[A2]ノボラック型エポキシ樹脂
[A2]-1 “EPICLON(登録商標)”N-775(フェノールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量:189、DIC(株)製)
[A2]-2 “EPICLON(登録商標)”N-695(クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量:214、DIC(株)製)
・[A3]グリシジルアミン型エポキシ樹脂
[A3]-1 “アラルダイト(登録商標)”MY0600(アミノフェノール型エポキシ樹脂、エポキシ当量:118、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)
・[A4]分子中にエポキシ基を3個以上有する脂肪族エポキシ樹脂
[A4]-1 “デナコール(登録商標)”EX-614B(ソルビトール型エポキシ樹脂、エポキシ当量:173、ナガセケムテックス(株)製)
[A4]-2 “デナコール(登録商標)”EX-512(ポリグリセロール型エポキシ樹脂、エポキシ当量:168、ナガセケムテックス(株)製)
[A4]-3 “デナコール(登録商標)”EX-321L(トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂、エポキシ当量:130、ナガセケムテックス(株)製)
・[A5]その他のエポキシ樹脂
[A5]-1 “EPICLON(登録商標)”830(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量:172、DIC(株)製)。
【0068】
(3)構成要素[B]:ジシアンジアミド
[B]-1 DICY7(ジシアンジアミド、三菱ケミカル(株)製)。
【0069】
(4)構成要素[C]:沸点が130℃以上、かつ、分子量mが50以上250以下の化合物であって、分子内にエポキシ基を有さず、かつ、エポキシ樹脂の硬化能を有さない化合物
[C]-1 1,2-プロパンジオール(沸点:188℃、分子量m:76g/mol、東京化成工業(株)製)
[C]-2 2-ピロリドン(沸点:245℃、分子量m:85g/mol、東京化成工業(株)製)
(5)成分[D]:フェノキシ樹脂
[D]-1 “フェノトート(登録商標)”YP-70(日鉄ケミカル&マテリアル(株)製)
(6)硬化促進剤
DCMU99(3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、保土ケ谷化学工業(株)製)。
【0070】
<エポキシ樹脂組成物の調製方法>
(1)硬化剤マスターの調製
液状の構成要素[A]:エポキシ樹脂([A4]-1、[A4]-2、[A4]-3、[A5]-1がこれにあたる)を10質量部(全てのエポキシ樹脂100質量部に対して10質量部)用意した。これに構成要素[B]:ジシアンジアミドをそれぞれ添加し、室温で混練した。混合物を三本ロールミルに2回通すことで、硬化剤マスターを調製した。
【0071】
(2)エポキシ樹脂組成物の調製
上記(1)で使用した液状の構成要素[A]:エポキシ樹脂10質量部を除いた、構成要素[A]90質量部をビーカーに投入した。混練しながら、150℃まで昇温した後、[D]:フェノキシ樹脂を投入し、150℃の温度で1時間加熱混練を行い、溶解させた。次いで、混練を続けたまま55~65℃の温度まで降温した後、前記(1)で調製した硬化剤マスターと構成要素[C]、硬化促進剤を投入し、同温度で30分間混練することで、エポキシ樹脂組成物を得た。表1に各実施例および比較例のエポキシ樹脂組成を示した。
【0072】
<エポキシ樹脂硬化物の作製方法>
上記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従い調製したエポキシ樹脂組成物を真空中で脱泡した後、2mm厚の“テフロン(登録商標)”製スペーサーにより厚み2mmになるように設定したモールド中で、30℃から速度1.7℃/分で昇温して、90℃の温度に到達してから1時間保持した後、速度2.0℃/分で昇温して、135℃の温度に到達してから2時間硬化させ、厚さ2mmの板状の樹脂硬化物を得た。
【0073】
また、耐候性評価用には、1mm厚の“テフロン(登録商標)”製スペーサーにより厚み1mmになるように設定したモールド中で、上記硬化反応を行い、厚さ1mmの板状の樹脂硬化物を得た。
【0074】
<プリプレグの作製方法>
上記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従い調製したエポキシ樹脂組成物を、ナイフコーターを用いて離型紙上に塗布して、樹脂目付が31g/mの樹脂フィルムを2枚作製した。次に、繊維目付が125g/mのシート状となるように一方向に配列させた炭素繊維の両面のそれぞれに、上記樹脂フィルムを重ねて、温度110℃、最大圧力2MPaの条件で加熱加圧してエポキシ樹脂組成物を含浸させ、プリプレグを得た。
【0075】
<繊維強化複合材料の90°の定義>
JIS K7017(1999)に記載されているとおり、一方向繊維強化複合材料の繊維方向を軸方向とし、軸方向を0°軸と定義したときの軸直交方向を90°と定義した。
【0076】
<各種評価方法>
(1)エポキシ樹脂硬化物の3点曲げ測定
上記<エポキシ樹脂硬化物の作製方法>に従い作製した厚さ2mmの樹脂硬化物から、幅10mm、長さ60mmの試験片を切り出し、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用い、スパンを32mm、クロスヘッドスピードを2.5mm/分、サンプル数n=6とし、JIS K7171(1994)に従って3点曲げを実施した時の、弾性率および強度の平均値をそれぞれ樹脂硬化物の曲げ強度、曲げ弾性率とした。
【0077】
(2)エポキシ樹脂硬化物の耐候性試験
上記<エポキシ樹脂硬化物の作製方法>に従い作製した厚さ1mmの樹脂硬化物から、幅37mm、長さ68mmの試験片を切り出した。この試験片を対象として、促進耐候性試験機(スーパーキセノンウェザーメーターSX―75、スガ試験機(株)製)を用い、強度180W/m、ブラックパネル温度63℃、湿度50%RHの条件で、水噴射なしの照射102分間と、強度180W/m、槽内温度28℃、湿度99%RHの条件で、水噴射しながらの照射18分間とを1サイクルとし、これを12回(すなわち24時間)繰り返す耐候性試験を行った。
【0078】
耐候性の評価は、耐候性試験前後での硬化物の色差(ΔE)を多光源分光測色計MSC―P(スガ試験機(株)製)を用いて測定することで行った。D65光源、10°視野、正反射光を除くd/8の光学条件による反射法によって三刺激値(L、a、b)を求め、耐候性試験前後での三刺激値の差分(ΔL、Δa、Δb)を用いて、下記の式(I)により色差(ΔE)を算出した。
【0079】
ΔE={(ΔL+(Δa+(Δb1/2 ・・・(I) 。
【0080】
(3)繊維強化複合材料の90°引張強度測定
一方向プリプレグの繊維方向を揃えて20プライ積層し、オートクレーブにて0.7MPaの圧力下、30℃から速度1.7℃/分で90℃まで昇温して、90℃の温度で60分間保持した後、速度2.0℃/分で135℃まで昇温して、135℃の温度で120分間成形して、厚み2mmの一方向材のCFRP板を作製した。90°引張強度は、JIS K7073(1988)に従い測定した。このCFRP板から、長さ150±0.4mm、幅20±0.2mm、厚さ2±0.2mmであって、長さ方向が繊維方向と直交し、幅方向が繊維方向である一方向90°引張試験片(一方向に繊維の向きが揃えられている、90°引張強度測定用の試験片)を作製した。試験片引張試験機のクロスヘッドスピードは1mm/分として測定した。サンプル数n=5として測定し、平均値を90°引張強度とした。
【0081】
(4)繊維強化複合材料の耐候性試験
(3)に記載の方法で作製した厚み2mmの一方向材のCFRP板から、幅37mm、長さ68mmの試験片を切り出した。この試験片を、屋根がなく太陽が出ている間は日陰にならない屋外の場所に設置し、2ヶ月間放置することで耐候性試験を行った。耐候性試験前後の試験片を横に並べ、10人の被験者に色の違いをヒアリングし、10人中8人以上の被験者が「色の変化がない」、または、「色の変化がわからない」と答えた場合を「〇」、3人以上の被験者が「色の変化がある」と答えた場合を「×」とし、表中の「コンポジット特性」の欄に結果を記入した。
【0082】
<実施例1>
構成要素[A]:エポキシ樹脂の内、成分[A1]として“D.E.R.(登録商標)”858を30質量部、成分[A2]として“EPICLON(登録商標)”N-775を35質量部、分子中にエポキシ基を3個以上有する脂肪族エポキシ樹脂[A4]として“デナコール(登録商標)”EX-614Bを15質量部、“その他のエポキシ樹脂[A5]として“EPICLON(登録商標)”830を20質量部、構成要素[B]:ジシアンジアミドとしてDICY7を8.3質量部(H/E=0.85)、構成要素[C]として1,2-プロパンジオールを5質量部、成分[D]:フェノキシ樹脂として“フェノトート(登録商標)”YP-70を6質量部、硬化促進剤としてDCMU99を3質量部用い、上記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従ってエポキシ樹脂組成物を調製した。
【0083】
得られた樹脂組成物から、<エポキシ樹脂硬化物の作製方法>に従って、エポキシ樹脂硬化物を作製した。このエポキシ樹脂硬化物について曲げ強度、曲げ弾性率、耐候性(色差ΔE)を測定したところ、曲げ強度は191MPa、曲げ弾性率は4.5GPa、ΔEは6.9であり、樹脂硬化物の物性と耐熱性は良好であった。
【0084】
また、得られた樹脂組成物から<プリプレグの作製方法>に従ってプリプレグを作製し、<各種評価方法>の(3)、(4)に従い測定したところ、繊維強化複合材料の90°引張強度の値は94MPaで、優れた非繊維方向強度を示し、耐候性についても優れた性能を発現した。
【0085】
<実施例2~14>
樹脂組成を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂硬化物、プリプレグを作製した。各実施例について、エポキシ樹脂硬化物の曲げ強度、曲げ弾性率、耐候性(色差ΔE)、繊維強化複合材料の90°引張強度、耐候性は表1に記載の通りであり、いずれも良好であった。
【0086】
<比較例1>
表2に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂硬化物、プリプレグを作製した。物性評価結果は表2に併せて示した(以降の比較例において同様)。エポキシ樹脂硬化物の曲げ強度、曲げ弾性率、耐候性、繊維強化複合材料の耐候性は良好であった。しかし、全エポキシ樹脂100質量部中[A1]の含有量が10質量部に満たず、条件(1)を満たさないため、繊維強化複合材料の90°引張強度が実施例9に比べて低かった。
【0087】
<比較例2>
表2に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂硬化物、プリプレグを作製した。エポキシ樹脂硬化物の耐候性、繊維強化複合材料の90°引張強度、耐候性は良好であった。しかし、全エポキシ樹脂100質量部中[A1]の含有量が40質量部を超え、条件(1)を満たさないため、エポキシ樹脂硬化物の曲げ強度、曲げ弾性率が実施例11に比べて低かった。
【0088】
<比較例3>
表2に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂硬化物、プリプレグを作製した。エポキシ樹脂硬化物の耐候性、繊維強化複合材料の90°引張強度、耐候性は良好であった。しかし、全エポキシ樹脂100質量部中[A1]の含有量が40質量部を超え、条件(1)を満たさないため、エポキシ樹脂硬化物の曲げ強度、曲げ弾性率が全実施例に比べて低かった。
【0089】
<比較例4>
表2に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂硬化物、プリプレグを作製した。エポキシ樹脂硬化物の耐候性、繊維強化複合材料の耐候性は良好であった。しかし、全エポキシ樹脂100質量部中[A2]の含有量が20質量部に満たず、条件(2)を満たさないため、エポキシ樹脂硬化物の曲げ強度や曲げ弾性率、繊維強化複合材料の90°引張強度が実施例11に比べて低かった。
【0090】
<比較例5>
表2に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂硬化物、プリプレグを作製した。エポキシ樹脂硬化物の曲げ弾性率、耐候性、繊維強化複合材料の耐候性は良好であった。しかし、全エポキシ樹脂100質量部中[A2]の含有量が50質量部を超え、条件(2)を満たさないため、エポキシ樹脂硬化物の曲げ強度や、繊維強化複合材料の90°引張強度が実施例9に比べて低かった。
【0091】
<比較例6>
表3に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂硬化物、プリプレグを作製した。エポキシ樹脂硬化物の耐候性、繊維強化複合材料の耐候性は良好であった。しかし、構成要素[B]の活性水素のモル数(H)と、エポキシ樹脂組成物全体に含まれるエポキシ基のモル数(E)の比(H/E)が0.65に満たず、条件(4)を満たさないため、エポキシ樹脂硬化物の曲げ強度や曲げ弾性率、繊維強化複合材料の90°引張強度が実施例11や実施例12に比べて低かった。
【0092】
<比較例7>
表3に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂硬化物、プリプレグを作製した。エポキシ樹脂硬化物の耐候性、繊維強化複合材料の耐候性は良好であった。しかし、比較例6と同様、H/Eが0.65に満たず、条件(4)を満たさないため、エポキシ樹脂硬化物の曲げ強度や曲げ弾性率、繊維強化複合材料の90°引張強度が全実施例に比べて低かった。
【0093】
<比較例8>
表4に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂硬化物、プリプレグを作製した。エポキシ樹脂硬化物の曲げ弾性率は良好であった。しかし、H/Eが0.90を超え、条件(4)を満たさないため、エポキシ樹脂硬化物の曲げ強度や耐候性、繊維強化複合材料の90°引張強度、耐候性が実施例7に比べて低かった。
【0094】
<比較例9>
表3に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂硬化物、プリプレグを作製した。エポキシ樹脂硬化物の耐候性、繊維強化複合材料の耐候性は良好であった。しかし、構成要素[B]が配合されていないため、エポキシ樹脂硬化物の曲げ強度や曲げ弾性率、繊維強化複合材料の90°引張強度が実施例11や実施例12に比べて低かった。
【0095】
<比較例10>
表4に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂硬化物、プリプレグを作製した。エポキシ樹脂硬化物の曲げ強度や曲げ弾性率、繊維強化複合材料の90°引張強度は良好であった。しかし、全エポキシ樹脂100質量部中[A3]の含有量が10質量部を超え、条件(3)を満たさないため、樹脂硬化物の耐候性、繊維強化複合材料の耐候性が実施例7や実施例13に比べて不良であった。
【0096】
<比較例11>
表3に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂硬化物、プリプレグを作製した。エポキシ樹脂硬化物の耐候性、繊維強化複合材料の耐候性は良好であった。しかし、構成要素[C]が配合されていないため、エポキシ樹脂硬化物の曲げ強度や曲げ弾性率、繊維強化複合材料の90°引張強度が実施例11に比べて低かった。
【0097】
<比較例12>
表4に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂硬化物、プリプレグを作製した。エポキシ樹脂硬化物の曲げ弾性率は良好であった。しかし、H/Eが0.90を超え、条件(4)を満たさないため、エポキシ樹脂硬化物の曲げ強度や耐候性、繊維強化複合材料の90°引張強度、耐候性が実施例7に比べて低かった。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
【表3】
【0101】
【表4】