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特開2024-21046チューブ拡径治具アタッチメントおよびチューブ拡径方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021046
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】チューブ拡径治具アタッチメントおよびチューブ拡径方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 57/04 20060101AFI20240207BHJP
【FI】
B29C57/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023107263
(22)【出願日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2022123175
(32)【優先日】2022-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390012302
【氏名又は名称】株式会社フロウエル
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(72)【発明者】
【氏名】坂本 舞央
【テーマコード(参考)】
4F209
【Fターム(参考)】
4F209AG08
4F209AG24
4F209NA22
4F209NB01
4F209NG03
4F209NH06
4F209NJ22
4F209NM01
4F209NM15
4F209NN02
(57)【要約】
【課題】
チューブの拡径をより高い歩留まりにて実行できるようにする。
【解決手段】
本発明は、チューブ拡径治具の一部に固定され、樹脂製のチューブの一端の内部に挿入して一端を拡径するアタッチメント10であって、当該アタッチメント10は、チューブの一端を徐々に拡径可能な円錐形状または円錐台形状のテーパー部22を備え、テーパー部22は、その外周囲の一部であってチューブの拡径時にチューブの一端が通過する位置に、1つの第1溝部25を備え、テーパー部22の斜面は、その斜面より外方に突出しない表面であって、第1溝部25は、テーパー部22の斜面よりもテーパー部22の内部に窪む溝であって、かつ閉じた連続環状の溝であるチューブ拡径治具アタッチメント10および当該アタッチメント10を用いたチューブ拡径方法に関する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブ拡径治具の一部に固定され、樹脂製のチューブの一端の内部に挿入して前記一端を拡径するアタッチメントであって、
前記アタッチメントは、前記チューブの一端を徐々に拡径可能な円錐形状または円錐台形状のテーパー部を備え、
前記テーパー部は、その外周囲の一部であって前記チューブの拡径時に前記チューブの一端が通過する位置に、1つの第1溝部を備え、
前記テーパー部の斜面は、その斜面より外方に突出しない表面であって、
前記第1溝部は、前記テーパー部の前記斜面よりも前記テーパー部の内部に窪む溝であって、かつ閉じた連続環状の溝であることを特徴とするチューブ拡径治具アタッチメント。
【請求項2】
前記テーパー部の最も大径の部位から連続する円柱部を、さらに備え、
前記円柱部は、その外周囲の一部であって前記チューブの拡径時に前記チューブの一端が通過する位置に、1つまたは2つの第2溝部を備えることを特徴とする請求項1に記載のチューブ拡径治具アタッチメント。
【請求項3】
前記第2溝部は、前記円柱部の表面よりも窪む溝であって、かつ閉じた連続環状の溝であることを特徴とする請求項2に記載のチューブ拡径治具アタッチメント。
【請求項4】
前記第1溝部の幅は、前記チューブの肉厚の2倍未満であることを特徴とする請求項1に記載のチューブ拡径治具アタッチメント。
【請求項5】
前記第1溝部の幅は、前記チューブの肉厚の1.1倍以上1.8倍以下であることを特徴とする請求項4に記載のチューブ拡径治具アタッチメント。
【請求項6】
前記第1溝部において、前記第1溝部の縁に対して直角方向に延ばして前記第1溝部の内底面の最も深い点に達する線と、前記第1溝部の開口面との成す角度Φは、前記テーパー部の先端中央から底面中央を結ぶ中心線に対する前記テーパー部の外側面の傾斜角度θの2分の1以下であることを特徴とする請求項1に記載のチューブ拡径治具アタッチメント。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のチューブ拡径治具アタッチメントを用いて樹脂製のチューブの一端を拡径するチューブ拡径方法であって、
前記チューブの一端を、前記第1溝部を通過させて拡径させることを特徴とするチューブ拡径方法。
【請求項8】
前記チューブの一端を加熱して拡径を行うことを特徴とする請求項7に記載のチューブ拡径方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チューブ拡径治具アタッチメントおよび当該アタッチメントを用いたチューブ拡径方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂製のチューブを継手に取り付ける方法の一つに、チューブの端部を拡径させてフレア形状とし、当該フレア形状(スカート形状ともいう。)の部分に継手本体の端部を挿入させる方法が知られている。かかる方法は、継手本体の他にフェルールなどを用いてチューブと継手とを固定する方法に比べて、部品点数が少なく、かつ液や気体の漏洩を確実に防止できる点で優位である。
【0003】
上述したフレア形状の端部をチューブに形成する際には、ピストル型の装置の先端に拡径治具を固定して、拡径治具の先尖部位をチューブの一端の内部に挿入してから押し込み、チューブの一端をフレア形状に拡径する方法およびその方法を用いる際の拡径治具が従来から知られている(特許文献1参照)。また、チューブの端部を拡径する治具としては、上記以外の形態の治具も知られている(特許文献2,3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-052547号公報
【特許文献2】特開2005-035220号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2021/0023767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、チューブの拡径を行う際に、拡径治具アタッチメントの先端をチューブ内部に挿入していくと、正常な拡径に至る途中でチューブが座屈してしまい、拡径処理が失敗することがある。特許文献1記載の従来のチューブ拡径治具アタッチメントを用いると、チューブがアタッチメントのテーパー部の大径部に向けて進行する際の抵抗が大きすぎて、チューブが座屈しない割合(歩留まり)を低下させる可能性がある。また、特許文献2記載のアタッチメントは、円筒体3と面取り部4との境界円周上に3個の平坦部5を備えている。平坦部5は面取り部4の領域に設けられていない。また、平坦部5は、連続して環状に形成されているものではなく、上記境界円周上に分散して形成されている。このため、チューブの拡径時に過度の圧力を要し、拡径時にチューブが座屈するリスクが高い。さらに、特許文献3記載のアタッチメントは、複数のランド142A、142Bに環状のリブ147を備えている(特許文献3の図7A~7C参照)。しかし、リブ147は、第1坂道146Aおよび第2坂道146Bの全面に、かつ数多く形成されている。しかも、リブ147は、当該坂道の面よりも外方に突出して形成される凹凸の一部となっている。このため、チューブの拡径時に、当該凹凸が抵抗となって、チューブが第1坂道146Aおよび第2坂道146Bをスムーズに通過しにくい。このため、拡径時にチューブが座屈するリスクが高い。このような従来技術に対して、チューブを座屈させるリスクを低減して、チューブの拡径をスムーズに実施できるアタッチメントが望まれている。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、チューブの拡径をより高い歩留まりにて実行できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記目的を達成するための実施形態に係るチューブ拡径治具アタッチメントは、チューブ拡径治具の一部に固定され、樹脂製のチューブの一端の内部に挿入して前記一端を拡径するアタッチメントであって、
前記アタッチメントは、前記チューブの一端を徐々に拡径可能な円錐形状または円錐台形状のテーパー部を備え、
前記テーパー部は、その外周囲の一部であって前記チューブの拡径時に前記チューブの一端が通過する位置に、1つの第1溝部を備え、
前記テーパー部の斜面は、その斜面より外方に突出しない表面であって、
前記第1溝部は、前記テーパー部の前記斜面よりも前記テーパー部の内部に窪む溝であって、かつ閉じた連続環状の溝である。
(2)別の実施形態に係るチューブ拡径治具アタッチメントは、好ましくは、前記テーパー部の最も大径の部位から連続する円柱部を、さらに備え、前記円柱部は、その外周囲の一部であって前記チューブの拡径時に前記チューブの一端が通過する位置に、1つまたは2つの第2溝部を備えることもできる。
(3)別の実施形態に係るチューブ拡径治具アタッチメントにおいて、好ましくは、前記第2溝部は、前記円柱部の表面よりも窪む溝であって、かつ閉じた連続環状の溝とすることもできる。
(4)別の実施形態に係るチューブ拡径治具アタッチメントにおいて、好ましくは、前記第1溝部の幅は、前記チューブの肉厚の2倍未満とすることもできる。
(5)別の実施形態に係るチューブ拡径治具アタッチメントにおいて、好ましくは、前記第1溝部の幅は、前記チューブの肉厚の1.1倍以上1.8倍以下とすることもできる。
(6)別の実施形態に係るチューブ拡径治具アタッチメントにおいて、好ましくは、前記第1溝部の縁に対して直角方向に延ばして前記第1溝部の内底面の最も深い点に達する線と、前記第1溝部の開口面との成す角度Φは、前記テーパー部の先端中央から底面中央を結ぶ中心線に対する前記テーパー部の外側面の傾斜角度θの2分の1以下とすることもできる。
(7)上記目的を達成するための実施形態に係るチューブ拡径方法は、上記いずれかのチューブ拡径治具アタッチメントを用いて樹脂製のチューブの一端を拡径するチューブ拡径方法であって、前記チューブの一端を、前記第1溝部を通過させて拡径させる方法である。
(8)別の実施形態に係るチューブ拡径方法において、好ましくは、前記チューブの一端を加熱して拡径を行うこともできる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、チューブの拡径をより高い歩留まりにて実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、チューブ拡径治具を用いて、樹脂製のチューブの一端を拡径する状況の一部を示す。
図2図2は、図1に引き続き、樹脂製のチューブの一端を拡径する状況の一部を示す。
図3図3は、フレアアタッチメントの側面図および斜視図を示す。
図4図4は、フレアアタッチメントの拡径処理部をチューブの一端から内部へと挿入していき当該一端に拡径部を形成する状況を(a)~(c)の順に示す。
図5図5は、各種フレアアタッチメントの主要部の側面図を示す。
図6図6は、この実施形態に係るフレアアタッチメントの概略側面図およびその第1溝部の部分Pの拡大図を示す。
図7図7は、図3のフレアアタッチメントの第1溝部近傍を拡大して示す。
図8図8は、図3のフレアアタッチメントの側面図、その一部Zの拡大図およびフレアアタッチメントの材料を変えたときの各種特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、以下の実施形態の中で説明されている諸要素およびその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0011】
1.チューブ拡径治具
図1は、チューブ拡径治具を用いて、樹脂製のチューブの一端を拡径する状況の一部を示す。図2は、図1に引き続き、樹脂製のチューブの一端を拡径する状況の一部を示す。
【0012】
チューブ拡径治具1は、ピストル形状を有しており、銃身部位の先端に、チューブ拡径治具アタッチメント(以後、適宜、「フレアアタッチメント」または単に「アタッチメント」と称する。)10を着脱可能に備えている。チューブ拡径治具1は、樹脂製のチューブ40をフレアアタッチメント10の前方にて固定する開閉式の固定具2と、固定具2を開閉可能なロック部3と、グリップ4と、レバー5と、を備える。固定具2は、半割構造を有しており、第1半割部2aと、第2半割部2bと、を備える。フレアアタッチメント10は、その先端に、チューブ40の一端から内部に挿入して当該一端を拡径させる拡径処理部20を備える。
【0013】
チューブ40の一端を拡径する際には、まず、拡径処理部20の先端にチューブ40の一端を挿入し、第1半割部2aと第2半割部2bとでチューブ40を挟み、ロック部3により固定具2を閉じてロックする。固定具2は、チューブ拡径治具1の本体に固定されている。このため、チューブ40は、拡径処理部20の先端を挿入した状態で、チューブ拡径治具1に保持される。
【0014】
続いて、グリップ4を握った状態でレバー5を引く。これによって、フレアアタッチメント10は、チューブ40の方向に進行する。チューブ40は、固定具2によって固定されているので、後方に移動できない。このため、チューブ40の一端は、拡径処理部20によって強制的に拡げられる。その後、レバー5を戻し、固定具2を開くと、一端に拡径部位41を有するチューブ40を得ることができる。
【0015】
2.フレアアタッチメント
図3は、フレアアタッチメントの側面図および斜視図を示す。
【0016】
フレアアタッチメント10は、チューブ拡径治具1の一部に固定され、樹脂製のチューブ40の一端の内部に挿入して、当該一端を拡径する部品である。フレアアタッチメント10は、好ましくは、その最も先端に位置し、チューブ40の一端から内部に挿入する挿入部23を備える。フレアアタッチメント10は、挿入部23に連接し、チューブ40の一端を徐々に拡径可能な円錐形状または円錐台形状のテーパー部22を備える。この実施形態では、テーパー部22は、円錐台形状を有する。ただし、円錐台形状のテーパー部22に代えて、先の尖った円錐形状のテーパー部22を形成することもできる。その場合には、挿入部23を形成しなくとも良い。「テーパー部」を「円錐台形状部」または「円錐形状部」と読み替えることもできる。フレアアタッチメント10は、好ましくは、テーパー部22に連接する円柱部21を、さらに備える。円柱部21は、テーパー部22の最も大径の部位から径を維持したままテーパー部22の後方に連接する。この実施形態では、円柱部21とテーパー部22は、拡径処理部20を構成する。なお、フレアアタッチメント10は、円柱部21を備えていなくとも良い。
【0017】
フレアアタッチメント10は、拡径処理部20の後端、すなわち、拡径処理部20の挿入部23と反対側の端部に、円柱部21より大径のストッパー11を備える。フレアアタッチメント10は、さらに、ストッパー11の後端に、ストッパー11より大径の鍔部12を備える。ストッパー11は、チューブ40の拡径処理時に、円柱部21より後方にチューブ40を進行させないように停止する部分である。鍔部12は、チューブ拡径治具1の銃身部分に当接させる部分であり、この実施形態では、円柱形状の一部をカットした形状を有する。鍔部12は、その後端面の面内略中心に、ネジ部13を備える。ネジ部13は、フレアアタッチメント10をチューブ拡径治具1に固定する部分である。ネジ部13に代えて、嵌め込み式の嵌合部を鍔部12に形成しても良い。
【0018】
テーパー部22の斜面は、その斜面より外方に突出しない表面である。テーパー部22は、その外周囲の一部であってチューブ40の拡径時にチューブ40の一端が通過する位置に、1つの第1溝部25を備える。第1溝部25は、挿入部23をチューブ40の一端から内部に挿入した状態では、チューブ40の外部に位置するように、テーパー部22に形成されている。第1溝部25は、この実施形態では、好ましくは、テーパー部22の外周囲(外側面の周囲を意味する。)において連続環状に形成されている。第1溝部25は、テーパー部22の斜面よりもテーパー部22の内部に窪む溝であって、かつ閉じた連続環状の溝である。このような形態の第1溝部25をテーパー部22の斜面より窪む形態で設けると、チューブ40の端面を当該斜面よりさらに上方に移動させることがないので、過度な拡径を行うことなくスムーズな拡径処理を実行できる。第1溝部25は、閉じた形態で、連続して環状に形成されている。このため、チューブ40の内径の不均一な変形によるリーク経路形成リスクの低減、およびチューブ40の端面全周においてより均一な荷重低減が可能である。このため、チューブ40の座屈リスクをより低減できる。第1溝部25の幅は、好ましくは、チューブ40の肉厚の0倍より大きく2倍未満であり、より好ましくは、チューブ40の肉厚の1.1倍以上1.8倍以下、さらにより好ましくはチューブ40の肉厚の1.13倍以上1.75倍以下である。ここで、チューブ40は、主に樹脂で構成されている筒体である。樹脂の好適な例は、フッ素系樹脂、例えば、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)である。ただし、樹脂は、PFAに限定されない。チューブ40の内径は、第1溝部25を備える位置のテーパー部22における外径より小さい。
【0019】
円柱部21は、その外周囲の一部であってチューブ40の拡径時にチューブ40の一端が通過する位置に、第2溝部26,27を備える。第2溝部26,27は、挿入部23をチューブ40の一端から内部に挿入した状態では、チューブ40の外部に位置するように、円柱部21に形成されている。第2溝部26,27は、この実施形態では、好ましくは、円柱部21の外周囲(外側面の周囲を意味する。)において環状に形成されている。より具体的には、第2溝部26,27は、円柱部21の表面よりも窪む溝であって、かつ閉じた連続環状の溝である。このような形態の第2溝部26,27を円柱部21の表面より窪む形態で設けると、チューブ40の端面を当該円柱部21の表面よりさらに拡げることなくスムーズな拡径処理を実行できる。第2溝部26,27は、閉じた形態で、連続して環状に形成されているので、チューブ40の内径の不均一な変形によるリーク経路形成リスクの低減、およびチューブ40の端面全周においてより均一な荷重低減が可能である。このため、チューブ40の座屈リスクをより低減できる。第2溝部26,27は、この実施形態では、2本の環状溝であるが、1本のみでも良い。
【0020】
図4は、フレアアタッチメントの拡径処理部をチューブの一端から内部へと挿入していき当該一端に拡径部を形成する状況を(a)~(c)の順に示す。なお、フレアアタッチメント10の鍔部12より後方のネジ部13は図4において省略されている。
【0021】
(a)チューブの一端に挿入部を挿入した段階
最初に、チューブ40の一端から、フレアアタッチメント10の挿入部23を挿入する。この段階では、チューブ40は、テーパー部22と挿入部23の境界部分に当接しており、第1溝部25には到達していない。
【0022】
(b)チューブがテーパー部を進行して拡径されていく段階
上記(a)の状態からフレアアタッチメント10をチューブ40の方向に移動させると、チューブ40の一端は、テーパー部22におけるより大径の方向に進行し、第1溝部25を通過していく。第1溝部25は、テーパー部22とチューブ40の穴の内壁との間に空間を形成する機能を有する。このため、チューブ40がテーパー部22を進行する際に、その途中で座屈するのを低減することができる。ここで、「座屈」とは、チューブ40の長さ方向の一部が折れたり、たわんだり、またはひずんだりする現象をいう。
【0023】
(c)チューブが拡径終了後に円柱部を進行していく段階
上記(b)の状態からフレアアタッチメント10をチューブ40の方向にさらに移動させると、チューブ40の一端は、テーパー部22の進行を完了し、続いて、円柱部21を移動し、第2溝部26,27を通過していく。第2溝部26,27は、テーパー部22とチューブ40の穴の内壁との間に空間を形成する機能を有する。このため、チューブ40が円柱部21を進行する際に、その途中で座屈するのを低減することができる。
【0024】
このように、第1溝部25は、チューブ40の拡径を行う際に、途中でチューブ40が座屈して拡径処理が失敗するのを防止する。また、第2溝部26,27は、さらに、チューブ40の拡径時の座屈を防止するのに有効に作用する。
【0025】
図5は、各種フレアアタッチメントの主要部の側面図を示す。
【0026】
図5中の左上のフレアアタッチメント100は、本発明外のフレアアタッチメントであり、テーパー部22および円柱部21のいずれにも溝部を有していない(現行品と称する。)。図5中の右上のフレアアタッチメント10は、テーパー部22に第1溝部25を備える。このフレアアタッチメント10は、第2溝部26,27を有していない。このタイプには、寸法の相違からA~Dの4種類のタイプがある。図5中の左下のフレアアタッチメント10は、図5中の右上のフレアアタッチメント10に類似しており、挿入部23を短くした点でのみ相違する。このタイプをEとする。最後に、図5中の右下のフレアアタッチメント10は、タイプEの円柱部21に第2溝部26,27を形成したものである。このタイプをFとする。タイプA~Fのいずれのフレアアタッチメント10も、同じ肉厚(厚さともいう)で同種類の樹脂製のチューブ40を使用した際に、現行品よりもスムーズな拡径処理を実現できる。
【0027】
図6は、この実施形態に係るフレアアタッチメントの概略側面図およびその第1溝部の部分Pの拡大図を示す。
【0028】
肉厚(厚さ)の異なるチューブ40を用意して、第1溝部25の幅Wを変えたいくつかのフレアアタッチメント10による拡径処理を行い、幅Wの好ましい範囲を調べた。ここで、幅Wとは、テーパー部22の斜面に平行な第1溝部25の幅をいう。チューブ40には、厚さ0.5mm(外径3.2mm×内径2.2mm)および厚さ1.0mm(外径6.3mm×内径4.3mm)の2種類のものを用いた。また、厚さ0.5mmのチューブ40に対しては、0.735mm~1.0mmの範囲で幅Wを変化させた4種類のフレアアタッチメント10を用いた。第1溝部25の深さは0.07mmとした。厚さ1.0mmのチューブ40に対しては、1.13mm~2.0mmの範囲で幅Wを変化させた4種類のフレアアタッチメント10を用いた。第1溝部25の深さは0.11mmとした。比較として、第1溝部25のないフレアアタッチメント10を用いて拡径処理を行った。実験の数は、各サンプル当たり10回とした。
【0029】
評価は、以下の3種類に分類した。「〇」は、チューブ40が座屈せずにチューブ40を拡径できたものである。「△」は、チューブ40が大きな変形を伴う座屈とはならないものの、拡径処理を行ったチューブ40内外に軽度のシワが生じているものである。「×」は、拡径処理の際にチューブ40に座屈が生じ、拡径処理が不可能であったものである。
【0030】
表1は、厚さ0.5mmのチューブ40の拡径処理の際に、第1溝部25の幅Wを0.735mm、0.750mm、0.875mmおよび1.000mmの4種類に変化させたフレアアタッチメント10を用いた評価結果を示す。表中の「溝なし」は、第1溝部25のない比較材としてのフレアアタッチメント100を用いたときの評価結果を示す。表2は、表1の評価に用いられたチューブ40の厚さと第1溝部25の幅Wとの比率を示す。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
表3は、厚さ1.0mmのチューブ40の拡径処理の際に、第1溝部25の幅Wを1.130mm、1.500mm、1.750mmおよび2.000mmの4種類に変化させたフレアアタッチメント10を用いた評価結果を示す。表中の「溝なし」は、第1溝部25のない比較材としてのフレアアタッチメント100を用いたときの評価結果を示す。表4は、表3の評価に用いられたチューブ40の厚さと第1溝部25の幅Wとの比率を示す。
【0034】
【表3】
【0035】
【表4】
【0036】
表1~表4の結果より、以下のことがわかった。厚さ0.5mmのチューブ40を使用した場合には、チューブ40の厚さに対する第1溝部25の幅Wが1.47~1.75のときに良好な拡径処理を実行できた。チューブ40の厚さに対する第1溝部25の幅Wが2.00になると、溝なしの比較材よりはスムーズな拡径処理ができるものの、押し込みの圧力を高める必要があった。また、厚さ1.0mmのチューブ40を使用した場合には、チューブ40の厚さに対する第1溝部25の幅Wが1.13倍~1.75倍のときに良好な拡径処理を実行できた。チューブ40の厚さに対する第1溝部25の幅Wが2.00倍になると、溝なしの比較材よりはスムーズな拡径処理ができるものの、押し込みの圧力を高める必要があった。
【0037】
上記結果から、チューブ40の厚さに対する第1溝部25の幅Wは、1.13倍以上1.75倍以下の範囲で、評価「〇」が多くなることがわかった。また、第1溝部25の幅Wが狭くなるほど、拡径処理時の押し込み圧力が小さくて済むこともわかった。このため、チューブ40の厚さに対する第1溝部25の幅Wは、0倍より大きく2.00倍未満の範囲で良好な拡径処理に寄与すると考えられる。
【0038】
この実施形態に係るフレアアタッチメント10は、肉厚0.5mmの樹脂製のチューブ40の端部を拡径する場合、第1溝部25の幅を、当該肉厚に対して好ましくは1.5倍以上1.8倍以下、より好ましくは1.47倍以上1.75倍以下とする。また、この実施形態に係るフレアアタッチメント10は、肉厚1.0mmの樹脂製のチューブ40の端部を拡径する場合、第1溝部25の幅を、当該肉厚に対して好ましくは1.1倍以上1.8倍以下、より好ましくは1.13倍以上1.75倍以下とする。
【0039】
図7は、図3のフレアアタッチメントの第1溝部近傍を拡大して示す。
【0040】
ここで、フレアアタッチメント10の長さ方向の中心軸に対するテーパー部22の傾斜角度をθとする。また、第1溝部25の縁部と溝の最深部とを結ぶ線と、第1溝部25の開口面との成す角度をΦとする。Φ≦0.5×θが成り立つように、第1溝部25の深さを形成する方が好ましい。また、第1溝部25の縁部の曲率半径は大きい方が好ましい。チューブ40の端部が第1溝部25に潜りこまずにスムーズに第1溝部25を通過できるからである。なお、第2溝部26,27の縁部と溝の最深部とを結ぶ線と、第2溝部26,27の開口面との成す角度Φも、第1溝部25のΦと同様である。
【0041】
この実施形態では、θの範囲は、好ましくは20度≦θ≦35度、より好ましくは25度≦θ≦30度である。Φは、好ましくは0度<Φ≦17.5度、より好ましくは0度<Φ≦15度である。
【0042】
このように、第1溝部25において、第1溝部25の縁に対して直角方向に延ばして第1溝部25の内底面の最も深い点に達する線と、第1溝部25の開口面との成す角度Φは、テーパー部22の先端中央から底面中央を結ぶ中心線に対するテーパー部22の外側面の傾斜角度θの2分の1以下とするのが好ましい。これにより、チューブ40の一端を拡径する際に、当該一端がよりスムーズに第1溝部25を通過しやすくなる。
【0043】
図8は、図3のフレアアタッチメントの側面図、その一部Zの拡大図およびフレアアタッチメントの材料を変えたときの各種特性を示す。
【0044】
フレアアタッチメント10の材料には、高耐熱性および高滑り特性から、一般的にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が用いられている。しかし、PTFEを用いた場合、その機械的強度の低さから変形が生じやすく、これによってチューブ40の拡径部位41の内壁に、リーク経路が形成されることがある。PTFEよりも荷重たわみ温度が高くて機械特性に優れるポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)またはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を用いると、上記のようなリーク経路の形成頻度を著しく減らすことができる。動摩擦係数および最高使用温度の点では、PCTFEおよびPEEKは、PTFEに劣る。しかし、圧縮強度およびロックウエル硬さの点では、PCTFEおよびPEEKは、PTFEに勝る。
【0045】
PCTFEまたはPEEKを用いたフレアアタッチメント10の動摩擦係数がPTFEを用いた場合に比べて大きいことは、チューブ40が拡径時に座屈する確率を高める。このため、現行品のようなテーパー部22(溝無し)のままでは歩留まりを高めることは難しい。そこで、この実施形態のように、第1溝部25をテーパー部22に形成し、さらには、第2溝部26,27を円柱部21に形成することで、チューブ40の内壁とテーパー部22および円柱部21との滑り特性を高め、チューブ40の座屈を生じる確率を、より低減することができた。なお、PCTFEおよびPEEK以外の材料として、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)またはステンレススチール(SUS)を用いることもできる。
【0046】
3.チューブ拡径方法
この実施形態に係るチューブ拡径方法は、上述のいずれかのフレアアタッチメント10を用いて樹脂製のチューブ40の一端を拡径するチューブ拡径方法である。当該拡径方法では、チューブ40の一端は、第1溝部25を通過させて拡径することができる。
【0047】
拡径の際、チューブ40の一端を加熱して拡径を行うこともできる。一方、チューブ40の一端を加熱しないで拡径することもできる。
【0048】
4.他の実施形態
図6および表1~表4を参照して説明した結果は、第1溝部25に加えて、第2溝部26,27をフレアアタッチメント10に備えていても成立する。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、チューブの拡径を行う際に利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
1・・・チューブ拡径治具、10・・・フレアアタッチメント,アタッチメント(チューブ拡径治具アタッチメント)、21・・・円柱部、22・・・テーパー部、25・・・第1溝部、26,27・・・第2溝部、40・・・チューブ、W・・・幅。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8