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特開2024-21055大型エンジンにおける過早着火を検出する方法及び大型エンジン
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  • 特開-大型エンジンにおける過早着火を検出する方法及び大型エンジン 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021055
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】大型エンジンにおける過早着火を検出する方法及び大型エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20240207BHJP
   F02D 19/02 20060101ALI20240207BHJP
   F02D 19/06 20060101ALI20240207BHJP
   F02M 21/02 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
F02D45/00 368
F02D19/02 E
F02D19/06 B
F02M21/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023116413
(22)【出願日】2023-07-18
(31)【優先権主張番号】22188343
(32)【優先日】2022-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】515111358
【氏名又は名称】ヴィンタートゥール ガス アンド ディーゼル アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソティリス トパログロウ
【テーマコード(参考)】
3G092
3G384
【Fターム(参考)】
3G092AA02
3G092AB03
3G092AB06
3G092AB12
3G092EA08
3G092EA11
3G092FA15
3G092HC01Z
3G384AA03
3G384AA14
3G384DA55
3G384EB08
3G384ED07
3G384FA29Z
(57)【要約】      (修正有)
【課題】大型エンジンにおける過早着火を検出する方法を提案すること。
【解決手段】大型エンジンが、少なくともガスモードにおいて作動させられることができ、ガスモードにおいて、所定の量のガスが燃料としてシリンダに導入され、ガスが掃気と混合され、所定の空気-ガス比において燃焼させられ、ガスモードでの作動中、シリンダにおける第1の圧力P1,P1’がピストンの第1の位置KW1において測定され、シリンダにおける第2の圧力P2,P2’がピストンの第2の位置KW2において測定され、第1の位置KW1及び第2の位置KW2が、下死点の後で且つ上死点の前である、方法が提案される。ピーク圧力PC,PC’が第1の圧力P1,P1’及び第2の圧力P2,P2’から計算され、ピーク圧力PC,PC’をしきい値と比較することによって過早着火が検出される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型エンジンにおける過早着火を検出する方法であって、前記大型エンジンが少なくとも1つのシリンダを有し、前記シリンダにおいて、下死点と上死点との間を軸方向に往復して可動なピストンが配置されており、前記大型エンジンが、少なくともガスモードにおいて作動させられることができ、前記ガスモードにおいて、所定の量のガスが燃料として前記シリンダに導入され、前記ガスが掃気と混合され、所定の空気-ガス比において燃焼させられ、前記ガスモードでの作動中、前記シリンダにおける第1の圧力(P1,P1’)が前記ピストンの第1の位置(KW1)において測定され、前記シリンダにおける第2の圧力(P2,P2’)がピストンの第2の位置(KW2)において測定される、方法において、前記第1の位置(KW1)及び前記第2の位置(KW2)が、前記下死点の後で且つ前記上死点の前であり、ピーク圧力(PC,PC’)が前記第1の圧力(P1,P1’)及び前記第2の圧力(P2,P2’)から計算され、前記ピーク圧力(PC,PC’)をしきい値と比較することによって過早着火が検出されることを特徴とする、大型エンジンにおける過早着火を検出する方法。
【請求項2】
前記第2の位置(KW2)が、前記第1の位置(KW1)よりも前記上死点に近い、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ピーク圧力(PC,PC’)が、前記上死点における圧力である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ピーク圧力(PC,PC’)が、前記第2の位置(KW2)と前記第1の位置(KW1)との差によって割った、前記第2の圧力(P2,P2’)と前記第1の圧力(P1,P1’)との差の線形外挿によって計算される、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記しきい値が、前記シリンダの機械的圧縮曲線の最大よりも大きい、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記しきい値が、前記機械的圧縮曲線の最大の少なくとも1.5倍である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記しきい値が、前記機械的圧縮曲線の最大の少なくとも2倍である、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記ピストンが前記第2の位置(KW2)に達したとき、前記ガスが既に前記シリンダに導入されている、請求項1から7までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ピストンが前記第1の位置(KW1)に達したとき、前記ガスが既に前記シリンダに導入されている、請求項1から8までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
過早着火が検出された後、前記大型エンジンがディーゼル作動に切り換えられる、請求項1から9までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記大型エンジンが、請求項1から10までのいずれか一項に記載の方法によって作動させられることを特徴とする、大型エンジン。
【請求項12】
長手方向に掃気される2ストローク大型ディーゼルエンジンとして設計されており、即ち液体燃料が燃焼のためにシリンダに導入される液体モードにおいて作動させられることができ且つさらに所定の量のガスが燃料として前記シリンダに導入されるガスモードにおいて作動させられることができるデュアル燃料大型ディーゼルエンジンとして構成されている、請求項11に記載の大型エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それぞれのカテゴリの独立特許請求項のプリアンブルによる、大型エンジンにおける過早着火を検出する方法及び大型エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
大型エンジンは、通常は燃料の自己点火によって作動させられる大型ディーゼルエンジン又は通常は誘発点火、例えば、火花点火によって作動させられる大型オットーエンジンとして構成される場合がある。さらに、混合モードにおいて、即ち燃料の自己点火及び燃料の誘発点火の両方によって作動させられる大型エンジンが公知である。
【0003】
2ストローク又は4ストロークエンジンとして、例えば、長手方向に掃気される2ストローク大型ディーゼルエンジンとして設計することができる大型エンジンは、しばしば船舶のための駆動ユニットとして又は定置の作動において、例えば、電気エネルギを発生するための大型発電機を駆動するために使用される。エンジンは、通常、連続作動においてかなりの期間にわたり運転され、これは、作動安全性及び利用可能性に高い要求を課す。その結果、特に長いメンテナンスインターバル、低摩耗及び作動材料の経済的な取り扱いが、オペレータにとって中心的な基準である。大型エンジンは、一般的に、その内径(ボア)が少なくとも200mmであるシリンダを有する。最近では、最大960mm又はそれよりも大きなボアを有する大型エンジンが使用される。本願の枠組みの中で、「大型エンジン」という用語は、少なくとも200mm、好ましくは少なくとも300mmのシリンダのボアを有する内燃機関を指す。
【0004】
大型ディーゼルエンジンは、従来は重油によって作動させられる。経済的及び効率的作動、排ガス制限値とのコンプライアンス及び資源の利用可能性の観点から、現在では重油に対する代替物が大型ディーゼルエンジンのために求められている。この観点から、液体燃料、即ち液体状態で燃焼室に導入される燃料及び気体燃料、即ち気体状態で燃焼室に導入される燃料の両方が使用される。
【0005】
重油に対する公知の代替物としての液体燃料の例は、特に石油精製からの残留物として残される他の重質炭化水素、アルコール、特にメタノール又はエタノール、ガソリン、ディーゼル、又はエマルション又は懸濁液である。例えば、燃料としてのMSAR(Multipase Superfine Atomized Residue)として知られるエマルションを使用することが知られている。公知の懸濁液は、大型エンジンのための燃料としても使用される、炭塵及び水のものである。気体燃料として、LNG(液化天然ガス)などの天然ガス、LPG(液化石油ガス)などの液化ガス又はエタンが知られている。
【0006】
特に、少なくとも2つの異なる燃料によって作動させることができる大型ディーゼルエンジンも知られており、この場合、エンジンは、作動状況又は環境に応じて一方の燃料又は他方の燃料のいずれかによって作動させられる。
【0007】
2つの異なる燃料によって作動させることができる大型ディーゼルエンジンの一例は、デュアル燃料大型ディーゼルエンジンとして構成された大型ディーゼルエンジンである。このエンジンは、液体燃料が燃焼のためにシリンダ内へ導入される液体モード及びガスが燃料としてシリンダ内へ導入されるガスモードにおいて作動させることができる。
【0008】
少なくとも2つ又はさらにより多くの異なる液体又は気体燃料によって作動させることができる大型ディーゼルエンジンは、しばしば、現在使用している燃料に応じて異なる作動モードにおいて作動させられる。しばしばディーゼル作動と呼ばれる作動モードでは、燃料の燃焼は、一般的に、燃料の圧縮点火又は自己点火の原理に従って生じる。しばしばオットー作動と呼ばれるモードでは、燃焼は、点火可能な予混合された空気-燃料混合物の誘発された点火によって生じる。この誘発された点火は、例えば、電気火花によって、例えば、スパークプラグを用いて、又は少量の噴射された燃料の自己点火が引き続き別の燃料の誘発された点火を生じることによっても、生じることができる。自己点火のために意図された少量の燃料は、しばしば、燃焼室に接続されたプレチャンバ内へ噴射される。
【0009】
さらに、オットー及びディーゼル作動の両方を使用する混合形態も知られている。
【0010】
本願の枠組みの中で、「大型ディーゼルエンジン」という用語は、少なくともディーゼル作動において作動させることができるこのようなエンジンを指す。特に、「大型ディーゼルエンジン」という用語は、したがって、ディーゼル作動に加えて、別のモード、例えばオットー作動において作動させることができるこのようなデュアル燃料大型エンジンも含む。
【0011】
したがって、「大型エンジン」という用語は、大型ディーゼルエンジン(上記で説明した)、大型オットーエンジン、即ち、オットー作動のみによって作動させることができる大型エンジン、例えば、気体燃料によって作動させられる大型ガスエンジン、及び混合モードにおいて作動させることができる大型エンジンを含む。混合モードは、エンジンがディーゼル及びオットー作動によって同時に作動させられるモードである。
【0012】
本願の枠組みの中で、「ガスモード」又は「ガスモードにおける作動」という用語は、燃料としてトルク発生燃焼のためにガス又は気体燃料のみを使用することを指す。既に言及したように、予混合された空気-燃料混合物の誘発点火のためのガスモードにおいて、少量の自己点火液体燃料、例えば重油が、誘発点火を引き起こすために噴射されるが、しかしながら、それにもかかわらず、トルクを発生する燃焼プロセスは、ガス又は気体燃料によって完全に作動させられることが可能であり、非常に一般的である。
【0013】
少量の液体燃料の自己点火による誘発点火のこのプロセスは、時にはパイロット噴射と呼ばれる。このパイロット噴射は、大型エンジンが液体モードにおいて作動させられる場合の燃焼室への液体燃料の噴射とは無関係である。異なる噴射装置が、液体モードにおける液体燃料の噴射のためではなく、パイロット噴射のために通常は使用されるが、必ずしも使用されるわけではない。加えて、パイロット噴射において、少量の液体燃料はまたしばしば、燃焼室内へ直接噴射されるのではなく、チャネルを介して燃焼室に接続された少なくとも1つのプレチャンバ内へ噴射される。
【0014】
特にガスモードにおいて、経済的、効率的、信頼できる、低汚染作動に関して、特に掃気対ガスの比、即ち空燃比が所定の範囲内にない場合に生じる異常燃焼プロセスを回避することが極めて重要である。
【0015】
ガス含有量が高すぎる場合、空気-燃料混合物はリッチになりすぎる。混合物の燃焼は、例えば自己点火によって急速に生じすぎる又は早期に生じすぎ、これは、エンジンのノッキングにつながる可能性がある。この望ましくない自己点火は、ピストンの作動サイクルにおいて空気-燃料混合物が早く着火しすぎるため、過早着火とも呼ばれる。空気含有量が高すぎると、空気-燃料混合物はリーンになりすぎ、ミスファイアリングが生じる可能性があり、これは、もちろん、エンジンの効率的且つ低汚染作動に対して不利な影響をも及ぼす。特に、高すぎるガス含有量及び高すぎる空気含有量のこれらの2つの状態は、異常燃焼プロセスとして指定される。したがって、ガスモードにおいて、空気-ガス混合物の自己点火又は過早着火なしに燃焼プロセスを行おうとする。燃焼プロセスは、空気-ガス混合物がリッチすぎず且つリーンすぎない範囲で生じる。
【0016】
大型エンジンの任意の負荷について、発生されるトルクが空燃比に対してプロットされると、高品質燃焼と異常燃焼との間の限界は、例えば、2つの限界曲線、即ちノッキング限界及びミスファイアリング限界によって与えられ、ここで、高品質燃焼は、これらの2つの限界曲線の間に存在する。ノッキング限界を超えている作動状態において、空気-ガス混合物はリッチすぎ、即ち、混合物に空気が少なすぎる。リッチすぎる混合物は、様々な問題につながる可能性があり、即ち、燃焼が急速に起こりすぎる(急速燃焼)、又はエンジンがノッキングし始める又はシリンダ内の混合物が次いで、通常は、過剰なガス含有量による自己点火によって早期に(作動サイクルに関連して)燃焼し始めすぎる(過早着火)。ミスファイアリング限界を超えた作動状態において、空気-ガス混合物はリーンすぎ、即ち、最適な燃焼のためには燃焼室において十分なガスがない及び/又は空気が多すぎる。
【0017】
したがって、特に大型エンジン、例えばデュアル燃料エンジンとして構成された大型ディーゼルエンジンをガスモードにおいて作動させるときに、空気-ガス混合物の意図された誘発点火の前に生じる空気-ガス混合物の自己点火によって生じる空気-ガス混合物の過早着火を検出する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって、この技術水準から出発して、本発明の目的は、ガスモードにおいて作動させられる大型エンジンにおける過早着火を検出する方法を提案することである。さらに、本発明の目的は、このような方法によって作動させられる大型エンジンを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
これらの目的を満たす発明の主題は、それぞれのカテゴリの独立特許請求項の特徴によって特徴づけられる。
【0020】
したがって、本発明によれば、大型エンジンにおける過早着火を検出する方法であって、大型エンジンが少なくとも1つのシリンダを有し、シリンダにおいて、下死点と上死点との間を軸方向に往復して可動なピストンが配置されており、大型エンジンが、少なくともガスモードにおいて作動させられることができ、ガスモードにおいて、所定の量のガスが燃料としてシリンダに導入され、ガスが掃気と混合され、所定の空気-ガス比において燃焼させられ、ガスモードでの作動中、シリンダにおける第1の圧力がピストンの第1の位置において測定され、シリンダにおける第2の圧力がピストンの第2の位置において測定され、第1の位置及び第2の位置が、下死点の後で且つ上死点の前である、方法が提案される。ピーク圧力が第1の圧力及び第2の圧力から計算され、ピーク圧力をしきい値と比較することによって過早着火が検出される。
【0021】
オットー作動において作動させられる大型エンジンにおける過早着火を検出することの問題は、一般的にピストンが上死点に達する前に過早着火が開始し、これにより、上死点における単純なシリンダ圧力測定が実際に過早着火を示さないということである。過早着火が生じると、ピストンの上死点位置におけるシリンダ内の圧力は、通常、過早着火を生じない上死点におけるシリンダ圧力よりもかなり高くなることはない。したがって、ピストンの第1の位置におけるシリンダ内の第1の圧力及びピストンの第2の位置におけるシリンダ内の第2の圧力を測定し、第1の位置及び第2の位置の両方が上死点の前で且つ下死点の後であることが提案される。第1の圧力及び第2の圧力は、ピストンの圧縮行程の間にピストンが上死点に達する前に測定される。ピーク圧力が第1の圧力及び第2の圧力から計算され、前記ピーク圧力はしきい値と比較される。計算されたピーク圧力が事前設定可能なしきい値よりも大きい場合、これは過早着火であると考えられる。計算されたピーク圧力が事前設定可能なしきい値よりも小さい場合、これは、過早着火を生じていない通常の燃焼であると考えられる。
【0022】
シリンダの圧縮行程中のピストンの位置に依存したシリンダ内の圧力変化を考慮することによって、シリンダ内の過早着火を確実に検出することが可能である。なぜならば、過早着火によるシリンダ内の圧力増大は、過早着火が生じない場合よりもかなり大きいからである。したがって、ピストンが上死点位置に達する前のシリンダ内の圧力の変化は、シリンダ内の過早着火を検出するために使用される。圧力曲線の傾斜が強すぎる場合、これは過早着火であると考えられる。ピストンの位置の変化に対する第1の圧力と第2の圧力との差が強すぎる場合、これは過早着火であると考えられる。言い換えれば、ピストンが上死点に達する前に、クランク角に関するシリンダ圧力の増大が強すぎる場合、シリンダにおいて過早着火が生じていると考えられる。
【0023】
好ましくは、第2の位置は、第1の位置よりも上死点に近い。したがって、第2の圧力は、第1の圧力よりも高い圧力である。なぜならば、ピストンは、第1の位置におけるよりも第2の位置において上死点により近いからである。
【0024】
好ましくは、ピーク圧力は、上死点における圧力である。したがって、第1の圧力及び第2の圧力は、ピストンの上死点において生じる圧力としてピーク圧力を計算するために使用される。上死点における計算されたピーク圧力がしきい値よりもかなり高い場合、これは過早着火であると考えられる。シリンダ内の空気-ガス混合物の過早着火によりシリンダ内の圧力が急速に上昇しすぎると、計算されたピーク圧力は、上死点におけるシリンダ内の圧力のための合理的な値をはるかに超える。なぜならば、圧力対クランクシャフト曲線が、第1の位置と第2の位置との間で強く増大しすぎているからである。
【0025】
好ましい実施形態によれば、ピーク圧力は、第2の位置と第1の位置との差によって割った、第2の圧力と第1の圧力との差の線形外挿によって計算される。したがって、第1の圧力と第2の圧力との差は直線によって近似され、直線は、ピーク圧力を計算するために上死点に外挿される。
【0026】
ピストンの位置は、好ましくは、クランク角によって測定され、ゼロ度のクランク角は上死点に対応する。2ストロークエンジンにおいて、ピストンの完全作動サイクルは、360°のクランク角範囲を含み、即ち、360°のクランク角において、ピストンは0°のクランク角と同じ位置にある。
【0027】
好ましくは、しきい値は、シリンダの機械的圧縮曲線の最大よりも大きい。機械的圧縮曲線は、シリンダにおいて燃焼が生じていないシリンダ内の圧力である。機械的圧縮曲線は、燃焼室の容積変化によるシリンダ内の圧力変化、即ち、燃焼が生じることなく燃焼室のジオメトリの変化によって生じる圧力変化を示す。
【0028】
好ましい実施例によれば、しきい値は、機械的圧縮曲線の最大の少なくとも1.5倍である。
【0029】
さらにより好ましくは、しきい値は、機械的圧縮曲線の最大の少なくとも2倍である。
【0030】
さらに、ピストンが第2の位置に達したときガスは既にシリンダに導入されている、即ちピストンの第2の位置が、ガスの供給が完了した後のピストンの位置であることが好ましい。
【0031】
さらにより好ましくは、ピストンが第1の位置に達したときガスは既にシリンダに導入されている、即ちピストンの第1の位置が、ガスの供給が完了した後のピストンの位置である。
【0032】
好ましい実施例によれば、大型エンジンは、過早着火が検出された後、ディーゼル作動に切り換えられる。したがって、大型エンジンが過早着火なしにガスモードにおいて作動させられることができない場合、エンジンは、エンジンへのあらゆる損傷を回避するために、ディーゼルモードにおいて、即ち所望の自己点火を用いて作動させられる。
【0033】
さらに、大型エンジンが発明によって提案され、大型エンジンは、発明による方法によって作動させられる。
【0034】
好ましくは、大型エンジンは、デュアル燃料大型ディーゼルエンジンとして構成された、長手方向に掃気される2ストローク大型ディーゼルエンジンとして設計されており、大型エンジンは、燃焼のために液体燃料がシリンダに導入される液体モードにおいて作動させられることができ、さらに、所定の量のガスが燃料としてシリンダに導入されるガスモードにおいて作動させられることができる。
【0035】
発明のさらなる有利な手段及び実施例は、従属請求項から生じる。
【0036】
以下に、図面を参照しながら、実施例に基づいて発明がより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】クランク角度に依存するシリンダ内の圧力の図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
「大型エンジン」という用語は、船舶のための駆動ユニットとして又はさらには定置の作動において、例えば、電気エネルギを発生するための大型発電機を駆動するために通常使用されるこのような内燃機関を指す。典型的に、大型エンジンのシリンダはそれぞれ、少なくとも約200mmの内径(ボア)を有する。「長手方向に掃気される」という用語は、掃気又はチャージング空気が下端部の領域においてシリンダに導入され、排気弁が、シリンダヘッドの中に又はシリンダの上端部に配置されたシリンダヘッドに配置されていることを意味する。
【0039】
発明の以下の説明では、大型エンジンの実例として大型ディーゼルエンジンが参照される。発明は、大型ディーゼルエンジンに制限されるのではなく、他のタイプの大型内燃機械、例えば、例えばLNGによって作動させられる大型ガスエンジンなどのオットー作動のみによって作動させることができるオットーエンジンも含むことに留意すべきである。
【0040】
大型ディーゼルエンジンは、デュアル燃料大型ディーゼルエンジン、即ち、2つの異なる燃料によって作動させることができるエンジンとして設計されている。特に、デュアル燃料大型ディーゼルエンジンは、液体燃料のみがシリンダの燃焼室内へ噴射される液体モードにおいて作動させることができる。通常、液体燃料、例えば、重油又はディーゼル油が、適切な時点に燃焼室内へ直接噴射され、そこで、自己点火のディーゼル原理に従って点火する(ディーゼル作動)。大型ディーゼルエンジンは、ガスモードにおいて作動させられることもでき、ガスモードにおいて、燃料として働くガス、例えば、LNG(液化天然ガス)又はLPG(液化石油ガス)又はエタンなどの天然ガスが、予混合された空気-燃料混合物の形態で燃焼室において点火される。特に、大型ディーゼルエンジンは、ガスモードにおいて低圧プロセスに従って作動し、即ち、ガスは気体状態でシリンダに導入され、その場合、ガスの噴射圧力は、最大で50bar、好ましくは最大で20bar、さらにより好ましくは最大で16bar、特に好ましくは最大で約10barである。空気-ガス混合物は、オットー原理に従って燃焼室において誘発点火される。この誘発点火は、通常、適切な瞬間に燃焼室又はプレチャンバ内へ少量の自己点火液体燃料(例えば、ディーゼル又は重油)を導入することによって通常は生じ、この燃料は、次いで、自己点火し、燃焼室において空気-燃料混合物の誘発点火を生じる。その他の実施例において、誘発点火は、火花点火によって行われる。
【0041】
本願の枠組みの中で、既に上記で説明したように、「ガスモード」又は「ガスモードにおける作動」という用語は、大型ディーゼルエンジンがこのガスモードにおいてガス又は気体燃料のみによって作動させられ、選択的に少量の自己点火燃料、例えば、重油又はディーゼル油が、空気-ガス混合物の誘発点火のためだけに燃焼室内又は1つ又は複数のプレチャンバ内へ導入される(パイロット噴射)ように理解されるべきである。
【0042】
さらに、デュアル燃料大型ディーゼルエンジンは、混合モードにおいて作動させることができ、混合モードにおいて、液体燃料及び気体燃料の両方がシリンダ内へ噴射される。混合モードにおいて、自己点火液体燃料の燃焼及び誘発点火される気体燃料の燃焼は、トルクの発生に寄与する。例えば、デュアル-燃料大型ディーゼルエンジンがガスモードにおいて作動させられ、所要のトルクを、気体燃料の高品質燃焼のみによって発生することができない場合、追加の量の液体燃料がシリンダ内へ噴射され、所要のトルクに達するようにトルクを追加的に発生するために燃焼させられる。このような混合モードは、例えば、EP-A-3 267 017に記載されている。
【0043】
ここで説明された実施例において、長手方向に掃気されるデュアル-燃料2ストローク大型ディーゼルエンジンとして設計された大型ディーゼルエンジンが参照される。
【0044】
大型ディーゼルエンジンは、少なくとも1つの、ただし通常は複数のシリンダを有する。各シリンダ内には、上死点と下死点との間でシリンダ軸線に沿って自体公知の形式で往復運動可能なピストンが配置されている。ピストンは、自体公知の形式でピストンロッドを介してクロスヘッドに接続されており、このクロスロッドは、プッシュロッド又はコネクティングロッドを介してクランクシャフトに接続されており、これにより、ピストンの移動がピストンロッド、クロスロッド及びコネクティングロッドを介してクランクシャフトに伝達され、クランクシャフトを回転させる。ピストンの上側は、シリンダカバーと共に、燃焼室を画定しており、この燃焼室内に燃焼のための燃料が導入される。
【0045】
ガスモードにおいて、この燃料はガスである。低圧プロセスにおいて、例えば、ガスはシリンダ壁、即ちそれぞれのシリンダの横方向領域を通って又は好ましくはピストン移動の上死点と下死点との間のほぼ中間部にあるシリンダライナを通ってシリンダへ導入される。シリンダにおいて、ガスは、ピストンの圧縮移動の間に掃気と混合され、これにより、点火可能な空気-燃料混合物を形成し、空気-燃料混合物は、ピストンがほぼ上死点にあるときに誘発点火される。誘発点火は、好ましくは、自己点火燃料、例えば重油又はディーゼル燃料をそれぞれのシリンダのプレチャンバ又は複数のプレチャンバ内へ噴射することによって達成される。パイロット噴射、即ち、燃焼室における空気-ガス混合物の誘発点火のみのために働くガスモードにおける液体燃料の噴射は、好ましくは、必ずというわけではないが、液体燃料が液体モードにおいて燃焼室内へ噴射されるときに用いる1つ又は複数の主噴射ノズルとは異なる1つ又は複数のパイロット噴射ノズルによって行われる。
【0046】
その他の実施例において、誘発点火は、例えば、空気-燃料混合物の点火のための火花を電気的に発生させることによって、火花点火によって生じてもよい。
【0047】
パイロット噴射ノズルが設けられている好ましい実施例において、液体燃料のための主噴射ノズルは、ガスモードにおいて作動停止させられ、即ち、主噴射ノズルを通じた噴射が行われない。別個のパイロット噴射ノズルが設けられていない場合、空気-ガス混合物の誘発点火のためのパイロット噴射も、主噴射ノズルによって行うことができる。いずれの場合にも、パイロット噴射のために導入される液体燃料の量は小さいので、実質的にトルク発生燃焼に寄与しない。典型的には、パイロット噴射は、液体燃料の燃焼が、燃焼プロセスにおいて放出されるエネルギ量又はエネルギ含有量に最大で5%だけ寄与するように寸法決めされている。
【0048】
液体モード(ディーゼル作動)において、液体燃料のみがシリンダの燃焼室内へ噴射される。通常、液体燃料、例えば、重油又はディーゼル油は、適切な時点で燃焼室内へ直接噴射され、自己点火のディーゼル原理に従ってそこで点火する。
【0049】
液体モードにおいて、したがって、液体燃料のみが主噴射ノズルによって燃焼室へ供給される。パイロット噴射ノズルが設けられている場合、液体モードにおいてパイロット噴射ノズルを通じて液体燃料を追加的に導入することが可能である。しかしながら、この選択的手段は、主に、パイロット噴射ノズルが詰まる又はブロックされることを防止するために働く。なぜならば、パイロット噴射ノズルを通る最大燃料流は、液体モードにおいてそれのみによって大型ディーゼルエンジンを作動させるためには著しく低すぎるからである。
【0050】
大型ディーゼルエンジンの構造及び個々の構成要素、例えば、液体モードのための噴射システム、ガスモードのためのガス供給システム、ガス交換システム、掃気又はチャージング空気の供給のための排気システム又はターボチャージャシステム、及び大型ディーゼルエンジンのためのモニタリング及び制御システムは、2ストロークエンジンとしての設計の場合及び4ストロークエンジンとしての設計の場合両方に当業者に十分に知られているので、ここではさらに説明する必要はない。
【0051】
ここで記載された長手方向に掃気される2ストローク大型ディーゼルエンジンの実施例において、掃気スロットが、通常、各シリンダ又はシリンダライナの下側領域に設けられており、掃気スロットは、シリンダにおけるピストンの移動によって周期的に閉鎖及び開放され、これにより、チャージング圧力下でターボチャージャによって提供される掃気が、開放されている限り掃気スロットを通ってシリンダ内へ流入することができる。シリンダヘッド又はシリンダカバーにおいて、通常は中央に配置された出口弁が設けられており、排気弁を通じて、燃焼プロセスの後、排ガスをシリンダから排気システム内へ排出することができる。排気システムは、排ガスの少なくとも一部をターボチャージャのタービンへ案内し、その圧縮機は、チャージング空気とも呼ばれる掃気を掃気圧力下で吸気レシーバに提供する。吸気レシーバは、シリンダの掃気スロットと流体連通している。掃気圧力は、通常、いわゆるウェイストゲートを介して調節され、ウェイストゲートによってターボチャージャに供給される排ガスの量が調節される。排気バイパス、即ち、ターボチャージャのタービンをバイパスする排ガスの質量流は、通常、例えば類似の弁として設計することができるウェイストゲートによって調節又は調整される。
【0052】
液体燃料の導入のために、1つ又は複数の主噴射ノズルが設けられており、主噴射ノズルは、例えば、出口弁の近くでシリンダヘッドに配置されている。ガス供給のために、ガス入口ノズルを備える少なくとも1つのガス入口弁を有するガス供給システムが設けられている。典型的には、ガス入口ノズルは、例えばほぼピストンの上死点と下死点との間の中間の高さにおいて、シリンダの壁部に設けられている。
【0053】
作動パラメータを測定するための様々なセンサを含む、現代の大型ディーゼルエンジンにおける監視及び制御システムは、通常、全てのエンジン又はシリンダ機能、特に噴射(噴射の開始及び終了)及び出口弁の作動を設定、制御又は調整することができる電子システムである。
【0054】
大型ディーゼルエンジンにおいてエネルギ効率をさらに高めるために、燃焼プロセスから生じる排ガスからできるだけ多くのエネルギを抽出し、これにより、このエネルギが、例えば熱の形式で未使用のまま環境中へ放出されないようにすることが目的である。大型ディーゼルエンジンにおいて、例えば、選択肢として、いわゆる「intelligent control by exhaust recycling(iCER)」を実行することが知られている。ここでは、現在使用されている燃料及びエンジンが作動させられている現在の負荷に応じて、ターボチャージャのタービンから来る排気ガスの一部が、排気ガスに依然として含まれる熱エネルギを利用するためにエネルギ回収ユニット、例えば熱交換器に供給され、そこから、掃気をシリンダへ供給する吸気レシーバへ供給する。
【0055】
これに関して、例えば、熱交換器において排ガスからエネルギを抽出し、このエネルギを次いで使用することができるために、ターボチャージャから大型ディーゼルエンジンのエキゾースト又はチムニーへ通じた排気管から排ガスの一部を再循環させることが知られている。背圧弁が、通常、排気管に設けられており、背圧弁は、ターボチャージャから来る排気管における圧力を増大させることができ、排ガスの一部を再循環流として再循環管内へ逸らせ、再循環管は、次いで、排ガスをエネルギ回収ユニット、例えば熱交換器に供給する。この目的のために、2つの弁、即ち、通常は遮断弁として設計され、即ち、開放位置と閉鎖位置との間で切り換えることができる再循環管における第1の弁と、排気管に設けられ且つ通常は背圧弁(BPV)と呼ばれる第2の弁とが設けられてもよい。再循環流として排気管から再循環管内へ逸らされる排ガスの部分は、この弁によって調節することができる。
【0056】
特に、ガスモードにおいて低圧ガス噴射を有するデュアル燃料エンジンとして構成された大型ディーゼルエンジンは、ラムダ(λ)値とも呼ばれる空燃比に対して極めて敏感である。空燃比は、空気-ガス比が低くなりすぎる(混合物がリッチになりすぎる)ことがなく且つ高くなりすぎる(混合物がリーンになりすぎる)ことがないような範囲に維持されるべきである。さらに、このような大型ディーゼルエンジンは、周囲温度又は周囲空気の湿度の変化などの変化する周囲条件に対して極めて敏感である。
【0057】
ガスモードにおいて大型ディーゼルエンジンを作動させるときの問題の1つは、シリンダにおける空気-ガス混合物の望ましくない自己点火とも呼ばれる過早着火の発生である。過早着火は、例えば、燃焼室における空気-ガス混合物がリッチすぎるときに生じる場合があり、これは、空気の量に対してガスの量が大きすぎることを意味する。空気-ガス混合物は、空気-ガス混合物の誘発点火のためのパイロット噴射が生じる前に望ましくない自己着火によって着火する。燃焼プロセスが早く始まりすぎる。これは、エンジンの効率、エミッション及び信頼性にとって有害である。さらに、過早着火は、エンジンの複数の構成要素の非常に高められた摩耗を生じ、構成要素の故障さえ生じる可能性がある。したがって、過早着火の発生を確実に検出することが重要である。発明は、大型エンジンにおけるシリンダ内の過早着火の発生を検出するための確実な方法を提案する。
【0058】
本発明による方法は、ピストンの第1の位置におけるシリンダ内の第1の圧力及びピストンの第2の位置におけるシリンダ内の第2の圧力を測定することに基づく。第1の位置及び第2の位置は好ましくは固定された位置であり、これらの両位置は、ピストンの圧縮行程中の下死点と上死点との間にある。即ち、第1の位置は、ピストンが下死点を既に通過しているが、まだ上死点に達していない位置であり、第2の位置も、ピストンが下死点を既に通過しているが、まだ上死点に達していない位置である。
【0059】
技術分野において一般的であるように、ピストンの位置は、好ましくはクランク角によって測定される。
【0060】
図1は、ガスモードにおける作動のためのクランク角KWに依存したシリンダの燃焼室における圧力Pを示す。2ストローク大型ディーゼルエンジンの場合、シリンダの1つの作動サイクルは、360°のクランク角範囲を含む。0°及び360°のクランク角において、ピストンは上死点にあり、この上死点において、燃焼室は最小容積を有し、上死点の近くで燃焼室における燃料の点火が生じる。180°のクランク角においてピストンは下死点にあり、この下死点において燃焼室は最大容積を有する。
【0061】
クランク角をカウントするための1つの標準的な慣行は、ピストンが上死点にあるときに0°で開始し、次いで、ピストンが再び上死点にあるときに360°まで正の値でクランク角をカウントすることである。したがって、ピストンの膨張行程は0°~180°のクランク角範囲に対応し、圧縮行程は180°~360°のクランク角範囲に対応し、360°の位置は0°の位置と同じである。
【0062】
クランク角をカウントするための別の標準的な慣行は、クランク角のために正及び負の値を使用する。この場合も、上死点は0°のクランク角に対応する。ピストンの膨張行程は正のクランク角でカウントされ、圧縮行程は負のクランク角でカウントされる。この慣行では、下死点は、180°及び-180°のクランク角に等しい。膨張行程の間、クランク角は、上死点における0°から下死点における+180°まで変化し、圧縮行程の間、クランク角は、下死点における-180°から上死点における0°まで変化する。
【0063】
以下の説明では、クランク角のために正及び負の値を用いる慣行が使用され、即ち、負のクランク角はピストンが圧縮行程にあることを示し、正のクランク角はピストンが膨張行程にあることを示す。したがって、図1において、縦軸Pの左側におけるクランク角は負の値を有し、縦軸Pの右側におけるクランク角は正の値を有する。クランク角の絶対値が小さいほど、ピストンの位置は上死点に近い。
【0064】
「上死点の前」という言い方は、ピストンが圧縮行程にあり、即ち下死点から上死点まで上向きに移動していることを意味する。対応するクランク角は負である。
【0065】
「上死点の後」という言い方は、ピストンが膨張行程にあり、即ち上死点から下死点まで下向きに移動していることを意味する。対応するクランク角は正である。
【0066】
図1は、異なる圧力曲線31,32,33を示す。全ての圧力曲線は、クランク角KWに依存したシリンダ内の圧力を示す。
【0067】
既に述べたように、図1における圧力曲線31,32,33は、オットー作動によるガスモードを指す。圧力曲線31及び32は、空気-ガス混合物の過早着火が生じない場合のシリンダの燃焼室内の圧力の例を示す。これらの圧力曲線31,32はほとんど同じであり、過早着火が生じなければシリンダ内の圧力経過は各作動サイクルの場合にほぼ同じである。圧力曲線33は、空気-ガス混合物の過早着火が生じた場合のシリンダの燃焼室内の圧力の例を示す。圧力曲線33は、圧力曲線31,32とは著しく異なる。望ましくない過早着火は通常、ピストンが上死点に達する前に開始するので、圧力曲線33は、圧力曲線31及び32よりも小さい(より負の)クランク角において強く増大し始める。したがって、圧力曲線33の急激な増大は、圧力曲線31及び32と比較して、より小さなクランク角にシフトされる。圧力曲線33による強い圧力増大は、圧力曲線31及び32と比較してピストンがまだ上死点からより遠いところにあるときの位置において生じる。この効果は、過早着火を検出するために使用される。
【0068】
既に述べたように、ガスモードにおける大型エンジンの作動中、シリンダ内、より正確にはシリンダの燃焼室内の圧力は、ピストンの2つの固定された位置、即ちクランク角KW1に対応する第1の位置及びクランク角KW2に対応する第2の位置において測定される。第1の位置KW1及び第2の位置KW2は両方とも負のクランク角にあり、両KW1及びKW2は-180°よりも大きく且つ0°よりも小さく、即ち第1の位置KW1及び第2の位置KW2の両方において、ピストンは、下死点を既に通過しているが、まだ上死点に達していない。好ましくは、KW2はKW1よりも大きく、これにより、第2の位置KW2は第1の位置KW1よりも上死点に近く、したがって、
-180°<KW1<KW2<0°
である。
【0069】
好ましくは、第2の位置KW2は、それぞれの作動サイクルのためにシリンダへのガス供給が既に完了している値に固定されている。さらに、第1の位置KW1が、それぞれの作動サイクルのためにシリンダへのガス供給が既に完了している値に固定されていることが好ましい。
【0070】
最も好ましくは、第1の位置及び第2の位置は両方とも、それぞれの作動サイクルのためにガスが既にシリンダに導入されている値に固定されている。
【0071】
したがって、第1の位置KW1及び第2の位置KW2は両方とも、それぞれの作動サイクルのためのガス供給が既に完了しており、ピストンがまだ上死点に達していないピストンの位置である。
【0072】
加えて、第2の位置が、空気-ガス混合物の誘発点火のためのパイロット噴射が生じるクランク角よりも小さい(より負である)クランク角KW2であることが好ましい。したがって、両圧力測定、即ち第1の位置における測定及び第2の位置における測定は、パイロット噴射の前に行われ、これにより、両圧力測定は、空気-ガス混合物がパイロット噴射によって点火される前に完了する。
【0073】
例えば、第1の位置KW1は、-80°~-40°、好ましくは-60°~-40°、例えばKW1=-50°であり、第2の位置KW2は、-40°~-10°、好ましくは-25°~-15°、例えばKW2=-19°である。
【0074】
圧力曲線31及び32はほとんど同じであるので、第1の位置KW1において測定される第1の圧力P1は、圧力曲線31及び32の場合にほぼ同じであり、第2の位置KW2において測定される第2の圧力P2は、圧力曲線31及び32の場合にほぼ同じである。圧力曲線33に関して、第1の位置KW1において測定される第1の圧力P1’は、圧力曲線31及び32における第1の圧力P1とほぼ同じである。しかしながら、第2の位置KW2において第2の曲線33において測定された第2の圧力P2’は、圧力曲線31,32における圧力P2よりもかなり大きい。これは、空気-ガス混合物の過早着火によるものである。
【0075】
過早着火を検出するために、第1の位置KW1及び第2の位置KW2において測定される圧力は、好ましくは、第2の位置と第1の位置との差によって割った、第2の圧力と第1の圧力との差の線形外挿によって、ピーク圧力PC,PC’を計算するために使用される。
【0076】
したがって、それぞれ、クランク角KW1及びKW2において圧力曲線31,32と交差する又はクランク角KW1及びKW2において圧力曲線33と交差する直線S,S’が計算される。圧力曲線31及び32に属する直線は参照符号Sによって示されており、
【数1】

の傾斜を有する。
【0077】
圧力曲線33に属する直線は、参照符号S’によって示されており、
【数2】

の傾斜を有する。
【0078】
直線S,S’は、それぞれピーク圧力PC又はPC’を計算するために使用される。好ましくは、ピーク圧力は、上死点、即ち直線S,S’が縦軸Pと交差する0°のクランク角における計算された圧力である。
【0079】
圧力曲線31,32の場合、即ち過早着火が生じない場合、ピーク圧力PCは、機械的圧縮圧力よりも僅かに大きいだけである。機械的圧縮圧力は、機械的圧縮曲線の最大である。機械的圧縮曲線は、燃焼プロセスが生じないとき又は燃料が燃焼室に導入されないときの、クランク角に依存した燃焼室内の圧力を示す。機械的燃焼圧力は、燃焼室の容積変化によって生じた圧力の最大である。したがって、機械的圧縮圧力は、シリンダにおいて燃焼が生じないとき又は燃料が燃焼室に導入されないときの、ゼロのクランク角における圧力である。
【0080】
ガスモードにおける作動(オットー作動)の間、シリンダにおいて過早着火が生じない場合、計算されたピーク圧力PCは、通常、機械的圧縮圧力よりも僅かに大きいだけである。しかしながら、過早着火が生じると(圧力曲線33)、上死点、即ち0°のクランク角における計算されたピーク圧力PC’は、機械的圧縮圧力よりもかなり大きい。ほとんどの場合、過早着火が生じると、計算されたピーク圧力PC’は、圧力のそれぞれの合理的な値を超え、シリンダが設計された最大圧力よりもかなり大きくなる可能性さえある。
【0081】
したがって、計算されたピーク圧力PC又はPC’はそれぞれ、シリンダにおける過早着火の発生に関して極めて敏感であり且つ信頼できる指標である。したがって、ガスモードにおける大型エンジンの作動中、ピーク圧力PC,PC’が計算され、しきい値と比較される。ピーク圧力PC’がしきい値よりも大きい場合、シリンダ内で過早着火が存在する。ピーク圧力PCがしきい値よりも小さいか又は最大でもしきい値と等しい場合、空気-ガス混合物の過早着火が生じないシリンダ内の通常のオットー作動が存在する。
【0082】
しきい値を規定するための適切なパラメータは、例えば、機械的圧縮圧力、即ち機械的圧縮曲線の最大である。好ましくは、計算されたピーク圧力PC,PC’のためのしきい値は、機械的圧縮圧力よりも大きな値に設定される。例えば、しきい値は、機械的圧縮圧力の少なくとも1.2倍、好ましくは少なくとも1.5倍であるか、又は機械的圧縮圧力の少なくとも2倍である。選択的に、しきい値は、エンジン負荷又は速度に依存することができ、即ち異なるエンジン負荷に対して異なるしきい値が使用されてよい。
【0083】
もちろん、しきい値の適切な値を決定するために機械的圧縮圧力以外の大型エンジンのその他のパラメータを使用することも可能である。
【0084】
ガスモードにおけるオットー作動中にシリンダにおいて過早着火が検出される場合、シリンダにおけるさらなる過早着火を回避するための対抗手段が講じられる。1つの適切な対抗手段は、例えばガスモードから液体モードに変更することによって、大型エンジンをディーゼル作動に切り換えることである。
図1
【外国語明細書】