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特開2024-21067振動子、MEMS発振器、及び振動子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021067
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】振動子、MEMS発振器、及び振動子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/24 20060101AFI20240207BHJP
   H03H 3/013 20060101ALI20240207BHJP
   H01L 29/84 20060101ALI20240207BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20240207BHJP
   B81C 1/00 20060101ALI20240207BHJP
   H03H 9/02 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
H03H9/24 Z
H03H3/013
H01L29/84 A
B81B3/00
B81C1/00
H03H9/02 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124982
(22)【出願日】2023-07-31
(31)【優先権主張番号】P 2022123218
(32)【優先日】2022-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「IoT社会実現のための革新的センシング技術開発/革新的センシング技術開発、高真空ウェハレベルパッケージングを適用したMEMSセンサーの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】山田 駿介
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀治
【テーマコード(参考)】
3C081
4M112
5J108
【Fターム(参考)】
3C081AA01
3C081AA13
3C081BA22
3C081BA29
3C081BA43
3C081BA44
3C081BA47
3C081BA48
3C081CA02
3C081DA03
3C081DA04
3C081DA30
3C081EA02
3C081EA12
3C081EA22
3C081EA39
4M112AA06
4M112BA08
4M112CA23
4M112CA31
4M112EA02
4M112EA10
4M112FA05
5J108AA04
5J108AA09
5J108BB01
5J108CC04
5J108CC06
5J108CC08
5J108CC11
5J108DD05
5J108DD09
5J108EE03
5J108EE07
5J108EE13
5J108JJ01
5J108KK01
5J108MM11
(57)【要約】
【課題】シリコンの様々な特性を最適に組み合わせることで、温度変化による共振特性の変化が少ない、シリコン振動子、およびこれを備えたMEMS発振器を提供する。
【解決手段】シリコンの不純物の濃度、不純物の種類、シリコンの寸法、形状、シリコンの結晶面方位に対する向き、および振動子の振動モードのうち、少なくともいずれか1つの要素を含む第1の周波数温度特性の第1領域と第2の周波数温度特性の第2領域とを有し、第1の周波数温度特性と第2の周波数温度特性とは、任意の温度に対して+50℃~-50℃の温度範囲で互いに打ち消される温度特性を有し、第1の周波数温度特性の第1領域と第2の周波数温度特性の第2領域とを組み合わせることで、前記温度範囲で振動子の周波数温度特性の変化が250ppm以下となるようにした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンを用いた振動子であって、
前記シリコンの不純物の濃度、前記不純物の種類、前記シリコンの寸法、前記シリコンの形状、前記シリコンの結晶面方位に対する向き、および前記振動子の振動モードのうち、少なくともいずれか1つの要素を含む第1の周波数温度特性の第1領域と、
前記シリコンの前記不純物の濃度、前記不純物の種類、前記シリコンの寸法、前記シリコンの形状、前記シリコンの結晶面方位に対する向き、および前記振動子の振動モードのうち、少なくともいずれか1つの要素を含み、前記第1の周波数温度特性とは異なる第2の周波数温度特性の第2領域と、少なくとも有し、
前記第1の周波数温度特性と前記第2の周波数温度特性とは、任意の温度に対して+50℃~-50℃の温度範囲で互いに打ち消される温度特性を有し、
前記第1の周波数温度特性の前記第1領域と前記第2の周波数温度特性の前記第2領域とを組み合わせ、前記温度範囲で前記振動子の周波数温度特性の変化が250ppm以下となることを特徴とする振動子。
【請求項2】
少なくとも第1変形モードの前記第1領域と第2変形モードの前記第2領域とが組み合わされた前記振動モードで振動することを特徴とする請求項1に記載の振動子。
【請求項3】
前記第1変形モードは、ひねり変形であり、前記第2変形モードは、しなり変形であることを特徴とする請求項2に記載の振動子。
【請求項4】
前記振動子は、片持ち梁構造であることを特徴とする請求項2または3に記載の振動子。
【請求項5】
前記第1領域と、前記第2領域とは、前記不純物の種類、前記不純物の濃度のうち、少なくとも一方が互いに異なることを特徴とする請求項1に記載の振動子。
【請求項6】
前記第1領域と前記第2領域とは、互いに重なり合うように形成されていることを特徴とする請求項5に記載の振動子。
【請求項7】
前記第1の周波数温度特性はひねり変形であり、前記第2の周波数温度特性は、前記ひねり変形を生じる前記シリコンに前記不純物がドーピングされていることを特徴とする請求項1に記載の振動子。
【請求項8】
前記ひねり変形は、矩形板状材に回転中心軸となる梁を有する構造によって実現され、
前記不純物はホウ素であり、ドーピングされる前記ホウ素の濃度が1.6×1020cm-3以上、1.8×1020cm-3以下の範囲であることを特徴とする請求項7に記載の振動子。
【請求項9】
請求項1に記載の振動子と、前記振動子に接続される電極と、発信回路と、を有することを特徴とするMEMS発振器。
【請求項10】
シリコンを用いた振動子の製造方法であって、
前記シリコンの不純物の濃度、前記不純物の種類、前記シリコンの寸法、前記シリコンの形状、前記シリコンの結晶面方位に対する向き、および前記振動子の振動モードのうち、少なくともいずれか1つの要素を含む第1領域の第1の周波数温度特性を求める第1ステップと、
前記シリコンの前記不純物の濃度、前記不純物の種類、前記シリコンの寸法、前記シリコンの形状、前記シリコンの結晶面方位に対する向き、および前記振動子の振動モードのうち、少なくともいずれか1つの要素を含み、前記第1の周波数温度特性とは異なる第2領域の第2の周波数温度特性を求める第2ステップと、
前記第1ステップで求めた前記第1の周波数温度特性と、前記第2ステップで求めた前記第2の周波数温度特性とを、任意の温度に対して+50℃~-50℃の温度範囲で組み合わせることで、前記温度範囲で前記振動子の周波数温度特性の変化が250ppm以下となるように設計する第3ステップと、を有することを特徴とする振動子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンを用いた振動子、およびこれを備えたMEMS発振器、及び振動子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器は、内部回路を駆動し、回路間の同期を取るためにクロック源を必要としている。こうしたクロック源として、振動子や、これに発信回路等を組み込んだ発信器が広く用いられている。従来、振動子としては、単結晶水晶の薄板を用いた水晶振動子を用いることが一般的であった。水晶振動子は水晶基板上に製造され、個片化された後、パッケージに収められる。
【0003】
一方、近年の5G通信などに代表されるブロードバンド・インターネットやIoTの増強、自動運転や機器の遠隔操作といった、従来とは異なる設置環境(例えば、車のような振動や衝撃が伝わりやすい環境、温度変動が大きい環境)に適用可能な電子機器に搭載される電子部品は、より高い信頼性が求められている。このような環境変化の中でより安定したタイミングデバイスとして、シリコンウェハーから製造したシリコン振動子を用いたシリコンMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)発振器の利用が広がっている。
【0004】
シリコンMEMS振動子は、シリコンウェハー上に一括して製造かつパッケージングされる。そのため、シリコンMEMS発振器は、水晶振動子を用いた水晶発振器と比較して、小型化が可能で、耐振動性、耐衝撃性に優れ、更に耐久性、信頼性、低コスト性にも優れているという、従来の水晶発振器には無い特徴を備えている。
【0005】
また、シリコン振動子を備えたMEMSとしては、上述したタイミングデバイス以外にも、ジャイロセンサ、マイクロミラーなどが開発され、スマートフォンや車両などに使用されている。例えば、特許文献1には、シリコンウェハーを用いて形成した共振子を有するMEMSが開示されている。
【0006】
しかしながら、シリコンは弾性率が温度依存性を有するため、シリコン振動子を温度が変化する環境下で用いた場合、振動周波数の変化が大きくなるという課題があった。
【0007】
これに対して、シリコンにドーピングを施し、シリコンの弾性率の一次温度係数と二次温度係数を変化させ、MEMSの周波数温度特性を変化させる技術が開示されている。前述した特許文献2には、ドーピングする不純物の濃度や種類を変えることで、温度特性を向上させた振動子が開示されている。
【0008】
上述したドーピングによる温度特性の補正技術は、振動モード毎にドーパントの種類や濃度、およびデバイス構造を最適化しなくてはならない。
また、非特許文献1には、Lameモードの振動子が開示されている。また、非特許文献2には、Lameモード、面内伸縮モード、Shearモード、Ringモード、Double Tuning Forkモードの振動子に、上述した技術を適用した例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2019/155663号
【特許文献2】米国特許第8558643号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】A. Jaakkola, M. Prunnila, T. Pensala, J. Dekker, and P. Pekko, "Determination of Doping and Temperature-Dependent Elastic Constants of Degenerately Doped Silicon From MEMS Resonators,", IEEE T Ultrason Ferr, vol. 61, no. 7, pp. 1063-1074, Jul 2014.
【非特許文献2】E. J. Ng, V. A. Hong, Y. S. Yang, C. H. Ahn, C. L. M. Everhart, and T. W. Kenny, "Temperature Dependence of the Elastic Constants of Doped Silicon,", J Microelectromech S, vol. 24, no. 3, pp. 730-741, Jun 2015.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した非特許文献2や非特許文献2に開示された技術が効果的に適用可能な振動モード、温度範囲が限定的であるという課題があった。具体的には、温度補償特性の改善策がドーピング濃度、ドーピングの種類、デバイスのシリコン単結晶の面方向に対する向きという限られた自由度しかない。このため、最も代表的な振動モードである片持ち梁の一次曲げ変形による振動モードの温度特性は、上述したような限られた自由度の最適化手法を採用して最小化しても、制御できず、温度による、振動周波数の変化を抑えることできないという課題があった。
【0012】
この発明は上記課題に鑑みて提案されたものであり、シリコンデバイスに用いることのできる様々な温度特性、例えば、シリコンのドーピング濃度、ドーピング種類、デバイスに用いられるシリコンの厚み、寸法、形状、デバイスのシリコン単結晶の面方向に対する向き、および振動モードを最適に組み合わせることで、温度変化による共振特性の変化が少ない、シリコン振動子、およびこれを備えたMEMS発振器、及び振動子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本出願の発明者は、MEMS振動子を構成する材質、特に、一般的に用いられているシリコンは、ドーピング濃度、ドーピングの種類、厚みを含む寸法、形状、シリコン単結晶の面方向に対する向き、振動モードによって、様々な温度特性を有するが、想定した使用環境での温度範囲において、温度における周波数特性が打ち消しあう構成を模索し、これらを組み合わせることによって、温度が変化しても、振動周波数の変化を抑えることが可能な高性能なMEMS振動子が設計できることを見出した。
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の一実施形態の振動子は、以下の手段を提案している。
(1)本発明の態様1は、シリコンを用いた振動子であって、前記シリコンの不純物の濃度、前記不純物の種類、前記シリコンの寸法、前記シリコンの形状、前記シリコンの結晶面方位に対する向き、および前記振動子の振動モードのうち、少なくともいずれか1つの要素を含む第1の周波数温度特性の第1領域と、前記シリコンの前記不純物の濃度、前記不純物の種類、前記シリコンの寸法、前記シリコンの形状、前記シリコンの結晶面方位に対する向き、および前記振動子の振動モードのうち、少なくともいずれか1つの要素を含み、前記第1の周波数温度特性とは異なる第2の周波数温度特性の第2領域と、少なくともを有し、前記第1の周波数温度特性と前記第2の周波数温度特性とは、任意の温度に対して+50℃~-50℃の温度範囲で互いに打ち消される温度特性を有し、前記第1の周波数温度特性の前記第1領域と前記第2の周波数温度特性の前記第2領域とを組み合わせ、前記温度範囲で前記振動子の周波数温度特性の変化が250ppm以下となることを特徴とする。
【0015】
(2)本発明の態様2は、態様1の振動子において、少なくとも第1変形モードの前記第1領域と第2変形モードの前記第2領域が組み合わされた前記振動モードで振動することを特徴とする。
【0016】
(3)本発明の態様3は、態様2の振動子において、前記第1変形モードは、ひねり変形であり、前記第2変形モードは、しなり変形であることを特徴とする。
【0017】
(4)本発明の態様4は、態様2または3の振動子において、前記振動子は、片持ち梁構造であることを特徴とする。
【0018】
(5)本発明の態様5は、態様1の振動子において、前記第1領域と、前記第2領域とは、前記不純物の種類、前記不純物の濃度のうち、少なくとも一方が互いに異なることを特徴とする。
【0019】
(6)本発明の態様6は、態様5の振動子において、前記第1領域と前記第2領域とは、互いに重なり合うように形成されていることを特徴とする。
【0020】
(7)本発明の態様7は、態様1の振動子において、前記第1の周波数温度特性はひねり変形であり、前記第2の周波数温度特性は、前記ひねり変形を生じる前記シリコンに前記不純物がドーピングされていることを特徴とする。
【0021】
(8)本発明の態様8は、態様7の振動子において、前記ひねり変形は、矩形板状材に回転中心軸となる梁を有する構造によって実現され、前記不純物はホウ素であり、ドーピングされる前記ホウ素の濃度が1.6×1020cm-3以上、1.8×1020cm-3以下の範囲であることを特徴とする。
【0022】
本発明の一実施形態のMEMS発振器は、以下の手段を提案している。
(9)本発明の態様9は、態様1から8のいずれか1つの振動子と、前記振動子に接続される電極と、発信回路と、を有することを特徴とする。
【0023】
本発明の一実施形態の振動子の製造方法は、以下の手段を提案している。
(10)本発明の態様10は、シリコンを用いた振動子の製造方法であって、
前記シリコンの不純物の濃度、前記不純物の種類、前記シリコンの寸法、前記シリコンの形状、前記シリコンの結晶面方位に対する向き、および前記振動子の振動モードのうち、少なくともいずれか1つの要素を含む第1領域の第1の周波数温度特性を求める第1ステップと、前記シリコンの前記不純物の濃度、前記不純物の種類、前記シリコンの寸法、前記シリコンの形状、前記シリコンの結晶面方位に対する向き、および前記振動子の振動モードのうち、少なくともいずれか1つの要素を含み、前記第1の周波数温度特性とは異なる第2領域の第2の周波数温度特性を求める第2ステップと、前記第1ステップで求めた前記第1の周波数温度特性と、前記第2ステップで求めた前記第2の周波数温度特性とを、任意の温度に対して+50℃~-50℃の温度範囲で組み合わせることで、前記温度範囲で前記振動子の周波数温度特性の変化が250ppm以下となるように設計する第3ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、様々な温度特性、例えば、ドーピング濃度、ドーピング種類、シリコンの厚み、寸法、形状、デバイスのシリコン単結晶の面方向に対する向き、振動モードを最適に組み合わせることで、温度変化による共振特性の変化が少ない、シリコン振動子、およびこれを備えたMEMS発振器、及び振動子の製造方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の第1実施形態の振動子を示す斜視図である。
図2】第1実施形態の振動子の温度特性を示すグラフである。
図3】本発明の第2実施形態の振動子を示す斜視図である。
図4】第2実施形態の振動子の温度特性を示すグラフである。
図5】本発明の第3実施形態の振動子を示す斜視図である。
図6】第3実施形態の振動子の温度特性を示すグラフである。
図7】第1実施形態の振動子において、寸法を規定する各部の位置を示す説明図である。
図8】検証例2の結果を示すグラフ(a)本発明例、(b)比較例である。
図9】第4実施形態の振動子を示す平面図である。
図10】第4実施形態の振動子の温度特性を示すグラフである。
図11】第4実施形態の振動子の各部の面方位を示す説明図である。
図12】振動子の梁部分にドーピングを行う手順を段階的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態の振動子、およびこれを用いたMEMS発振器、及び振動子の製造方法について説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0027】
以下の実施形態において、周波数特性が打ち消しあうとは、温度特性を組み合わせた際に、使用温度範囲で実用上問題ない範囲の周波数変化になることを意味する。一般的なデバイスであれば、常温(例えば20℃)から50~60℃前後の範囲であるのが好ましいがそれに限られない。デバイスの使用温度(100℃以上の高温、0℃以下の低温等)の前後、少なくとも50~60℃の範囲で周波数変化が所定の範囲内であるのが好ましい。所定の範囲の周波数変化は小さければ小さいほどよいが、250ppm以下であれば、実用上有用である。
【0028】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態の振動子の構成例を説明する。
図1は、本発明の第1実施形態の振動子を示す斜視図である。
本実施形態の振動子10は、厚みは同じにするものの、ドーピング濃度、ドーピングの種類、デバイスのシリコン単結晶の面方向に対する向き、振動モードの異なる構成を組み合わせた振動子を構成することで、それぞれの持つ温度特性を打ち消すことで、温度特性に優れた振動子を形成したものである。
本実施形態の振動子10は、全体が単結晶シリコンウェハーを図1に示す片持ち梁の形状に加工することによって形成されている。振動子10は、第1領域E1と、第2領域E2と、固定領域E3との3つの1領域から構成されている。
図1において、X軸方向は固定領域E3から、第2領域E2が伸びる方向、Y軸は、X軸に垂直な軸方向、Z軸は、片持ち梁の形状の先端の固定領域E3が振動する方向である。X軸方向は、単結晶シリコンウェハーの(100)面と、Y軸方向は(010)面と一致している。
【0029】
第1領域E1は、2つの第2領域E2を繋ぐ位置に形成され、これらを互いに接続するような位置にある2か所の領域とされ、第1動作モードで動作する領域である。本実施形態では、第1動作モードは、ひねり変形とされている。
【0030】
第1領域E1は、シリコンウェハーに不純物(ドーパント)としてホウ素がドーピングされている。ドーピングされるホウ素の濃度は、2.0×1019cm-3以上、4.0×1019cm-3以下の範囲、例えば、3.0×1019cm-3程度であればよい。
【0031】
なお、ドーパントはホウ素に限らず、半導体型をP型にできるものであれば、どのようなものであってもよいが、ドーパントの種類に応じて他の要素による温度特性を打ち消す、或いは、別の要素と組み合わせて、打ち消すように調整することが可能なように適宜濃度を変更するのが望ましい。
【0032】
第2領域E2は、第1領域E1に接続された略矩形状の領域、および第1領域E1に対して所定の間隙を有する形で配置され、固定領域E3との間の略矩形状の領域の2箇所からなる領域とされ、共に、第2動作モード(Z方向に振動)で動作する領域である。本実施形態では、第2動作モードは、しなり変形とされている。
【0033】
第2領域E2は、シリコンウェハーに不純物(ドーパント)としてリンがドーピングされている。ドーピングされるリンの濃度は、6.5×1019cm-3以上、8.5×1019cm-3以下の範囲、例えば、7.5×1019cm-3程度であればよい。
【0034】
なお、ドーパントはリンに限らず、N型にできるものであれば、どのようなものであってもよいが、ドーパントの種類に応じて他の要素による温度特性を打ち消すことが可能なように適宜濃度を変更するのが望ましい。
【0035】
固定領域E3は、アンカー領域であり、例えば、MEMS発振器として用いた際に、筐体など振動子10を支持する支持体に接続される。なお、こうした固定領域E3は、MEMS発振器などとして用いる際には、電極が形成されていればよい。こうした固定領域E3は、不純物が任意の濃度でドーピングされた領域であればよい。
【0036】
以上のような構成の第1実施形態の振動子10の共振周波数16kHzにおける温度特性の例を図2に示す。なお、周波数変化Δfは、以下の式1で表される。
Δf(ppm)=[(ft-f25)/f25]×10・・・(1)
但し、ft=温度tにおける共振周波数、f25=温度25℃における共振周波数である。
【0037】
通常、第2領域E2のしなり変形の温度に対する周波数依存は温度変化(-40~80度)に対して、単調にプラスある。一方、第1領域E1のひねり変形の温度変化に対する周波数依存は温度変化に対して、相反する変化曲線となる単調にマイナスである。温度範囲が-40~80℃の範囲で、しなり変形の振動周波数は1000ppm、ひねり変形の振動周波数は4500ppm変化する。
【0038】
また、第1領域E1にホウ素等をドーピングすることで、温度に対する周波数依存は、温度変化に対してマイナスとなる。また、第2領域E2にリン等をドーピングすることで、温度に対する周波数依存は、温度変化に対してプラスとなる。このドーパントのドーピング量を変えることで、しなり変形、ひねり変形の単調変化の変化曲線の傾きを反対称に同じ程度に調整することができる。
【0039】
これらの各モードは前述のように単体では、大きな温度依存性を有するが、これらの温度に対する周波数依存性を、温度特性が互いに打ち消される特性で組み合わせ構成することによって、温度変化によって周波数が大きく変化することのない振動子を形成することができる。
【0040】
図2では、温度-40~80℃において、周波数変化Δfの変化が小さい、即ちグラフの線が平坦になる程、温度特性である温度による周波数の変動幅が小さいことを示している。上述した第1実施形態の振動子10では、周波数変化Δfが200ppm程度の範囲に収まっており、元のしなり振動、ひねり振動の周波数変化に対して、80%以上周波数変化を低減できている。通常、振動子が用いられる環境は、常温である20℃の前後50~60℃の範囲、すなわち、温度-40~80℃度の範囲であることが多く、その温度範囲で、周波数変化Δfが250ppm以下であれば、実用上有用である。
【0041】
このように、第1実施形態の振動子10は、第1領域E1と第2領域E2とを、互いに異なる不純物を用いて、互いに異なる濃度でドーピングを行って第1領域E1と第2領域E2とを形成し、第1領域E1をひねり変形、第2領域E2をしなり変形といった、互いに使用予定温度の中心温度付近で線対称になる異なる2つの変形モードによって、それぞれ振動させることにより、温度変化に対して周波数の変動幅が小さい、温度特性に優れた振動子を実現することができる。
【0042】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態の振動子の構成例を説明する。
図3は、本発明の第2実施形態の振動子を示す斜視図である。
本発明の第2実施形態の振動子は、動作モード、シリコンの厚み、シリコン単結晶の面方向は同じものの、ドーパントのドーピング濃度、ドーパントの種類が異なものを合わせて用いることで、温度特性を打ち消した振動子である。
本実施形態の振動子20は、全体が単結晶シリコンウェハーを図2に示す形状、即ち矩形板状に加工することによって形成されている。振動子20は、第1領域E21と、第2領域E22とから構成されている。
なお、図3においては、X軸方向は振動子20の短手方向、Y軸方向はX軸に垂直な長手方向、Z軸は、振動子20が振動する方向である。
【0043】
第1領域E21は、シリコンウェハーを成形した矩形板状の振動子20の一方の主面21aから所定の厚み範囲とした領域であり、第1動作モードで動作する領域である。第1領域E21の厚みは、5μm以上15μm以下であり、好ましくは、10μmである。第1領域E21のX軸方向の単結晶シリコンウェハーの面は(100)面であり、Y軸方向は(010)面と一致している。
【0044】
第1領域E21は、シリコンウェハーに不純物(ドーパント)としてホウ素がドーピングされている。ドーピングされるホウ素の濃度は、1.6×1019cm-3以上、1.8×1019cm-3以下の範囲、例えば、1.7×1019cm-3程度であればよい。なお、ドーパントはホウ素に限らず、P型にできるものであれば、どのようなものであってもよいが、ドーパントの種類に応じて他の要素による温度特性を打ち消す、或いは、別の要素と組み合わせて打ち消すように調整することが可能なように適宜濃度を変更するのが望ましい。
【0045】
第2領域E22は、シリコンウェハーを成形した矩形板状の振動子20の他方の主面21bから所定の厚み範囲で領域であり、第2動作モードで動作する領域である。第2領域E22の厚みは、5μm以上15μm以下であり、好ましくは、10μmである。第2領域E22のX軸方向の単結晶シリコンウェハーの面は(100)面であり、Y軸方向は(010)面と一致している。
【0046】
第2領域E22は、シリコンウェハーに不純物としてリンがドーピングされている。ドーピングされるリンの濃度は、6.5×1019cm-3以上、8.5×1019cm-3以下の範囲、例えば、7.5×1019cm-3程度であればよい。なお、ドーパントはリンに限らず、N型にできるものであれば、どのようなものであってもよいが、ドーパントの種類に応じて他の要素による温度特性を打ち消す、或いは、別の要素と組み合わせて打ち消すように調整することが可能なように適宜濃度を変更するのが望ましい。
【0047】
なお、本実施形態の振動子20は、振動子20の厚み方向の中間部分を境界として、第1領域E21と第2領域E22とが重なるような形態にされているが、第1領域E21と第2領域E22のそれぞれの厚みは、互いに均等でなくてもよい。こうした第1領域E21と第2領域E22は、シリコンウェハーに不純物を打ち込む際に、打ち込みエネルギーを調節することによって、それぞれの領域のドーピング厚み(厚み方向におけるドーパントの拡散範囲)を任意に調整することができ、それらの条件によっても温度特性を制御できる。
【0048】
以上のように構成した、第1領域E21、第2領域E22、及び、第1領域E21と第2領域E22とを積層して一体化させた第2実施形態の振動子20の温度特性の例を図4に示す。図4の(a)は、第1領域E21の温度特性(第1の温度特性)を示すグラフである。また、図4の(b)は、第2領域E22の温度特性(第2の温度特性)を示すグラフである。そして、図4の(c)は、第1領域E21と第2領域E22とを積層させて形成した、本実施形態の振動子20の温度特性を示している。
【0049】
こうした図4(a)、(b)に示すグラフから明らかなように、第1領域E21では、温度特性は単調に右肩下がり(温度の上昇と共にマイナス)の特性を示し、第2領域E22では、温度特性は単調に右肩上がり(温度の上昇と共にプラス)の特性を示している。
また、変化率は、共に、温度-40~80℃度の間で、約1100ppmの周波数変化になる。一方で、第1領域E21と第2領域E22とは、温度範囲の中心温度である、25℃前後で線対称となる互いに打ち消し合うような温度特性を有している。
【0050】
そして、図4の(c)に示すように互いに異なる不純物(ドーパント)を所定の濃度でドーピングして、互いに打ち消し合うような温度特性を有する第1領域E21と第2領域E22とを重ね合わせて振動子20を形成すると、変化率は、温度-40~80℃の間で、約250ppmと、元のそれぞれの周波数変化に対して、25%以下の変化とすることができる。以上から、それぞれの温度特性が互いに打ち消し合うことで温度特性に優れた振動子を実現することが可能になる。
【0051】
つまり、第1領域E21、第2領域E22の、ドーパントのドーピング濃度、ドーパントの種類、デバイスの厚み、デバイスのシリコン単結晶の面方向に対する向きを適宜変更することで、それぞれを互いの温度特性が打ち消しあう構成とし、それを組み合わせることで、容易に温度特性に優れた振動子を実現することができる。
【0052】
なお、第2実施形態の振動子では、2枚の第1領域E21、第2領域E22で構成したが、3枚以上の領域を用いて、全てにおいて温度特性が打ち消しあうようにして、全体として温度特性の優れた振動子を形成してもよい。
【0053】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態の振動子の構成例を説明する。
図5は、本発明の第3実施形態の振動子を示す斜視図である。
第3実施形態の振動子30は、振動モードによる温度特性を、ドーピング濃度、ドーピングの種類を用いることで、振動モードによる温度特性を打ち消し、温度安定性の優れた振動子を構成したものである。実施形態の振動子30は、全体が単結晶シリコンウェハーを図5に示す形状、即ち矩形板状に回転中心軸となる梁を有する形で加工することによって形成されている。梁は、単結晶シリコンウェハーの面方位(100)に沿って延びている。こうした振動子30は、ひねり変形によって振動する。
【0054】
振動子30は、シリコンウェハーに不純物(ドーパント)としてホウ素がドーピングされている。ドーピングされるホウ素の濃度は、1.6×1020cm-3以上、1.8×1020cm-3以下の範囲、例えば、1.7×1020cm-3程度であればよい。
【0055】
なお、ドーパントはホウ素に限らず、P型にできるものであれば、どのようなものであってもよいが、ドーパントの種類に応じて他の要素による温度特性を打ち消す、或いは、別の要素と組み合わせて打ち消すように調整することが可能なように適宜濃度を変更するのが望ましい。
【0056】
また、本実施形態では、振動子30のうち、中央部分を矩形板状に、また中央部分から延びる梁部分を四角柱状に加工しているが、形状はこれに限定されるものではない。例えば、振動子30のうち、中央部分を、例えば、円形や楕円形にしたり、梁部分を円柱や三角柱にしたりすることもできる。
【0057】
以上のような構成の第3実施形態の振動子30の温度特性の例を図6に示す。
図5の形状の振動子30は、リン、ヒ素、アンチモンなどの、N型のドーパントを1018cm-3~1019cm-3ドーピングした場合、-40~100℃の間では、周波数変化は、約20℃付近で0となるが、温度上昇とともに周波数が2000ppm~-3000ppmの範囲(変動幅、約5000ppm)で低下する(マイナス)挙動を示す。通常、リン、ヒ素、アンチモンなどの、N型のドーパントを第1実施形態、第2実施形態の振動子にドーピングすると、温度変化に伴い温度特性はプラスになるが、この形状の振動子は通常と異なり、逆の挙動を示した。
【0058】
そこで、この形状の振動子は、通常のドーピングとは逆の温度特性を与えるものと仮定して、打ち消す逆の温度特性である、P型のドーパントをドーピングしたところ、仮定した通り、ホウ素のドープ濃度の上昇に伴い、変化量が減少していった。
【0059】
図6では、上記の知見に基づいて図5の形状の振動子構成した第3実施形態の振動子30では、Δfが100ppm程度の範囲に収まっており、温度変化に対して周波数の変動幅が小さい、周波数温度特性に優れた振動子であることを示している。このように、振動子の形状によって生じる温度特性の挙動に基づいて、それを打ち消す温度特性を有するドープ種を選択して設計することによって、温度変化の少ない振動子を設計、製造することができる。
【0060】
このように、第3実施形態の振動子30は、全体を均一に1.7×1020cm-3程度の濃度でシリコンウェハーに不純物としてホウ素がドーピングしていくことによって、温度変化に対して周波数の変動幅が小さい、周波数温度特性に優れた振動子を実現することができる。
【0061】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態の振動子の構成例を説明する。
図9は、本発明の第4実施形態の振動子を示す平面図である。
本実施形態の振動子40は、全体が単結晶シリコンウェハーを、図9に示す固定領域E32と、固定領域E32に接続されるコ字状の片持ち梁(バネ部E11,E11)と、コ字状の片持ち梁に接続されるカンチレバー部E12,E12と、それに接続された格子状領域E41,E41、および固定領域E31,E31とを有する形状に加工することによって形成されている。加工する単結晶シリコンウェハーの結晶面(100),(010)は、それぞれ図9に示されている方向となっている。振動子40は、互いに異なる振動モードを組み合わせて共振子とした例であり、第1振動子40Aと、第2振動子40Bとを備えている。
【0062】
第1振動子40A、および第2振動子40Bは、それぞれ第1領域E1,E1(バネ部E11,E11及びカンチレバー部E12,E12)、第2領域E2,E2(格子状領域E41,E41および櫛歯状領域E42,E42)と、を有し、また、第1振動子40Aと第2振動子40Bに共通の1つの固定領域E32とを有している。
【0063】
第1振動子40Aと第2振動子40Bのそれぞれの第1領域E1,E1の一端は、共通の固定領域E32に接続されている。これにより、第1振動子40Aと、第2振動子40Bとは、1つの固定領域E32を中心として、面内で対称に形成されている。
【0064】
第1領域E1,E1のバネ部E11,E11は、固定領域E32に接続されるL1、L1の梁、L1、L1の梁に90°の角度で接続されるL2,L2の梁、L2,L2の梁と90°で接続され、カンチレバー部E12,E12と接続されるL3、L3の梁からなるコ字状である。また、図9に示すように、バネ部E11,E11のL3、L3の梁と、面方位(100),(010)が形成する角度は、75°になっている。
また、カンチレバー部E12,E12と、面方位(100),(010)が形成する角度は、45°を成すように形成されている。
本実施形態では、コ字状のバネ部E11,E11がしなり変形を行う部位、カンチレバー部E12,E12が面内振動を行う部位とされている。
【0065】
第2領域E2,E2の櫛歯状領域E42,E42は、それぞれ、固定領域E31,E31に噛合するように組み合わされる。この時、櫛歯状領域E42,E42のそれぞれの櫛歯部分と、固定領域E31,E31のそれぞれの櫛歯部分とは、所定の隙間を保つように形成される。格子状領域E41,E41の一端には、第1領域E1,E1を構成するカンチレバー部E12,E12の他端が接続される。
【0066】
第1領域E1,E1及び第2領域E2,E2は、シリコンウェハーに不純物(ドーパント)としてリンがドーピングされている。ドーピングされるリンの濃度は、6.5×1019cm-3以上、8.5×1019cm-3以下の範囲、例えば、7.5×1019cm-3程度であればよい。
【0067】
なお、ドーパントはリンに限らず、N型にできるものであれば、どのようなものであってもよいが、ドーパントの種類に応じて他の要素による温度特性を打ち消す、或いは、別の要素と組み合わせて打ち消すように調整することが可能なように適宜濃度を変更するのが望ましい。
【0068】
固定領域E31,E31は、櫛歯状領域E42,E42のそれぞれの櫛歯部分と噛合するように形成された櫛歯状の固定領域であり、電圧を印加する一方の電極を構成している。こうした固定領域E31,E31は、不純物が任意の濃度でドーピングされた領域であればよい。
【0069】
固定領域E32はアンカー領域であり、第1振動子40Aと第2振動子40Bのそれぞれの第1領域E1,E1を構成するバネ部E11,E11の一端が固定される。こうした固定領域32は、第1振動子40Aと第2振動子40Bの共通の、電圧を印加する他方の電極を構成している。こうした固定領域E32は、不純物が任意の濃度でドーピングされた領域であればよい。
【0070】
以上のような構成の振動子(共振子)40の温度と周波数との関係(温度特性)の例を図10に示す。図10の(a)は、図9に示す単結晶シリコンウェハー結晶面において、形成した第1領域E1,E1の一部であるコ字状に形成されたバネ部E11,E11の温度特性(第1の温度特性)を示すグラフである。また、図10の(b)は、図9に示す単結晶シリコンウェハー結晶面において、形成した第1領域E1,E1の残りの部位であるカンチレバー部E12,E12の温度特性(第2の温度特性)を示すグラフである。そして、図10の(c)は、バネ部E11,E11とカンチレバー部E12,E12とを組み合わせた、振動子(共振子)40の温度特性を示すグラフである。
【0071】
こうした図10(a)、(b)に示すグラフから明らかなように、バネ部E11,E11では、温度特性は放物線状に右肩上がり(温度の上昇と共にプラス)の特性を示し、カンチレバー部E12,E12では、温度特性は単調に右肩下がり(温度の上昇と共にマイナス)の特性を示している。
【0072】
そして、図10の(c)に示すように、バネ部E11,E11とカンチレバー部E12,E12とが互いに打ち消し合うように振動子(共振子)40を構成することによって、変化率は、温度-40~80℃の間で、約200ppmと、元のそれぞれの周波数変化に対して、25%以下の変化とすることができる。
【0073】
図9に示すように、本実施形態では、第1領域E1,E1のバネ部E11,E11及びカンチレバー部E12,E12の形状、シリコン単結晶の面方位(100),(010)に対しての角度、それぞれの振動モード、ドーパントを、周波数温度特性が、それぞれ最大限打ち消しあうように設計、形成する。
【0074】
これにより、バネ部E11,E11とカンチレバー部E12,E12との互いの温度特性の打ち消し度合いを最大にして、温度変化に対して周波数の変動幅が小さい、周波数温度特性に優れた振動子(共振子)40を実現することができる。
【0075】
なお、図9では、シリコン単結晶の面方位(100),(010)に対し、図9に示す角度で、第1領域E1,E1のバネ部E11,E11及びカンチレバー部E12,E12を形成したが、これに限定されるものではない。例えば、図11に示すように、単結晶シリコンウェハー結晶の結晶面(100)面に対する角度±45°、135°回転させたラインに対して、等角度、線対称のときのバネ部E11,E11及びカンチレバー部E12,E12を形成し、それぞれを第1振動子40A、および第2振動子40Bとして形成することでも、結晶面の温度依存性を打ち消すように形成することができる。
【0076】
以上のように、シリコンの結晶面に対する角度、形状、振動モード、及び、ドーパントをそれぞれ考慮し、振動子を設計することで、周波数温度特性に優れた振動子を設計、製造することができる。
【0077】
第4実施形態で示すような振動子40は、バネ部E11,E11とカンチレバー部E12,E12の梁部分の高さが高い(10~20μm)ため、シリコンウェハーの表面からのドーピングによって、高さ方向に均一な濃度で不純物(ドーパント)をドーピングすることができない。そのため、以下のような方法でドーピングを行うことができる。
【0078】
図12は、振動子の梁部分にドーピングを行う手順を段階的に示した説明図である。
まず表面に酸化膜を形成したSOIウェーハを用意して、図12(a)のように、半導体プロセスによって、目的の梁形状部を形成する。こうした梁形状部は、高さ方向よりも幅方向が狭い形状を成している。
【0079】
次に、梁形状部の高さ方向に対して直角な幅方向に沿って、目的のドーパントを注入する。梁形状部は、高さ方向よりも幅方向が狭いため、容易に、梁形状部全体に均一な濃度で不純物(ドーパント)をドーピングすることが可能になる。
【0080】
(振動子の製造方法)
上述したような各実施形態の振動子の製造方法は、以下の2つのステップによって製造される。まず、第1ステップとして、シリコンの不純物の濃度、不純物の種類、シリコンの寸法、シリコンの形状、シリコンの結晶面方位に対する向き、および振動子の振動モードのうち、少なくともいずれか1つの要素を含む第1の周波数温度特性を求める。
【0081】
次に、第2ステップとして、シリコンの不純物の濃度、不純物の種類、シリコンの寸法、シリコンの形状、シリコンの結晶面方位に対する向き、および振動子の振動モードのうち、少なくともいずれか1つの要素を含み、前記第1の周波数温度特性とは異なる第2の周波数温度特性を求める。
【0082】
そして、第3ステップとして、第1ステップで求めた第1の周波数温度特性と、第2ステップで求めた第2の周波数温度特性とを、任意の温度に対して+50℃~-50℃の温度範囲で組み合わせることで、上記の温度範囲で振動子の周波数温度特性の変化が250ppm以下となるように設計する。
【0083】
以上のように、シリコンの結晶面に対する角度、形状、振動モード、及び、ドーパントをそれぞれ考慮し、振動子を設計することで、周波数温度特性に優れた振動子を設計、製造することができる。
【0084】
(MEMS発振器)
MEMS発振器は、上述したような各実施形態の振動子になるように、ドーピング濃度、ドーピングの種類、シリコンの厚み、シリコン単結晶の面方向に対する向き、振動モードを検討し、打ち消し合わせることで形成した温度特性が優れた振動子をパッケージに収容し、発振回路に接続することにより、実現することができる。こうしたMEMS発振器は、従来の水晶発振器と比較して、小型化が可能で、耐振動性、耐衝撃性に優れ、更に温度特性、耐久性、信頼性、低コスト性、及び設計性の自由度にも優れている。
【0085】
以上、本発明の実施形態を説明したが、こうした実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。こうした実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例0086】
(検証例1)
振動子の形成寸法は、ひねり変形及びしなり変形に影響を与えるため、周波数温度特性を相殺可能な寸法例を、第1実施形態の振動子10を挙げて調べた。図7に、振動子10において寸法を規定する各部の位置を示す。
こうした振動子10の互いに異なる周波数温度特性を相殺して、温度特性を向上させる寸法の組み合わせ例を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
表1に示すような寸法例によれば、複数の変形モードの互いに異なる周波数温度特性を相殺して、周波数温度特性を向上させた振動子10を実現することができる。
【0089】
(検証例2)
第1実施形態の振動子10(本発明例)と、シリコンウェハーを長方形板状に成形したカンチレバータイプの振動子(比較例)とをそれぞれ作製し、周波数温度特性を調べた。比較例の振動子は、全体を均一な濃度で不純物をドーピングすることで形成した。比較例の振動子の不純物の種類、および濃度は以下の通りである。
比較例1:不純物P、濃度7.5×1019cm-3
比較例2:不純物P、濃度4.7×1019cm-3
比較例3:不純物P、濃度4.1×1019cm-3
比較例4:不純物As、濃度2.5×1019cm-3
比較例5:不純物As、濃度1.7×1019cm-3
比較例6:不純物B、濃度1.7×1020cm-3
比較例7:不純物B、濃度3.0×1019cm-3
比較例8:不純物B、濃度6.0×1018cm-3
比較例9:不純物Sb、濃度1.3×1018cm-3
【0090】
本発明例の周波数温度特性グラフを図8(a)に、各比較例の周波数温度特性グラフを図8(b)に、それぞれ示す。
図8に示す結果によれば、本発明例の振動子10では、周波数変化Δfは100ppm以内に収まっている。一方、従来の振動子を示す比較例では、最も周波数温度特性が良い比較例5であっても、周波数変化Δfは500ppm程度に留まった。
よって、本発明の振動子による周波数温度特性の改善効果が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の振動子、およびこれを用いたMEMS発振器、及び振動子の製造方法は、シリコンの不純物の濃度、不純物の種類、シリコンの寸法、シリコンの形状、シリコンの結晶面方位に対する向き、および振動子の振動モードなど多くの自由度を考慮して、振動子を周波数温度特性が打ち消しあうように設計し、形成することで、設計の自由度が高まり、自動運転車、製造機器、医療機器といった耐衝撃性や堅牢性が必要な機器、あるいはウェアラブル機器や医療デバイスといった小型化が求められる機器に有意に用いることができる。従って、優れた産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0092】
10、20、30…振動子
E1…第1領域
E2…第2領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12