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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002107
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】玉軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/41 20060101AFI20231228BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
F16C33/41
F16C19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101103
(22)【出願日】2022-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 侑馬
(72)【発明者】
【氏名】山本 健
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA24
3J701BA44
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA56
3J701CA08
3J701CA12
3J701CA13
3J701FA32
3J701GA01
3J701GA11
(57)【要約】
【課題】外輪が回転して潤滑油で潤滑される玉軸受において内輪軌道面のスミアリングの発生を防止する。
【解決手段】玉軸受10は、外周に内輪軌道面28を有し回転不能の内輪12と、内周に外輪軌道面18を有し回転自在の外輪11と、複数の玉13と、保持器14と、を備える。内輪12は、外周に、第1の円筒面33aと、段面33bと、第2の円筒面31と、を備える。保持器14は、玉13に沿って配置される環状体37と、玉13の間を通って軸方向に延在する複数のつの38を備える。環状体37は、内周に、つの38と周方向に重なる位置で径方向外方に窪んで軸方向に延在する油溝45と、前記第2の円筒面31より軸方向の第1の側に配置され軸方向の第2の側に向かうほど拡径する拡径部43と、を備え、油溝45の少なくとも一部が、第2の円筒面31より軸方向の第2の側に開口する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に内輪軌道面を有し回転不能に固定された内輪と、
内周に外輪軌道面を有し前記内輪に対して回転自在の外輪と、
前記内輪軌道面と前記外輪軌道面の間で転動自在の複数の玉と、
前記玉を保持する保持器と、を備えた玉軸受であって、
前記内輪は、外周に、軸方向の第1の側の内輪側面から軸方向の第2の側に延在する第1の円筒面と、前記第1の円筒面から径方向外方に延在する段面と、前記段面から軸方向の第2の側に延在して前記内輪軌道面の軸方向の第1の側の端部とつながる第2の円筒面と、を備え、
前記保持器は、複数の前記玉に沿って軸方向の第1の側の側に配置される環状体と、前記環状体から前記玉と前記玉との間を通って軸方向の第2の側に延在する複数のつのを備え、
前記環状体は、内周に、前記つのと周方向に重なる位置で径方向外方に窪んで軸方向に延在する油溝と、前記第2の円筒面より軸方向の第1の側に配置され軸方向の第2の側に向かうほど拡径する拡径部と、を備え、
前記油溝の少なくとも一部が、前記第2の円筒面より軸方向の第2の側に開口することを特徴とする玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉軸受、特に、外輪回転で使用し、潤滑油を供給して軌道面を潤滑する形式の玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、図7に矢印Cで示すように、自動車のトランスアクスル81に組み込まれて、外輪回転で使用される玉軸受83を開示する。
玉軸受83bは、内輪85がケース(軸)88bに固定されており、外輪84がカウンタドライブギア(ハウジング)82とともに回転する。遊星機構92が、カウンタドライブギア82の内側に組み込まれている。遊星機構92は、トランスアクスル81の動力を伝達する組み込まれている。潤滑油が、遊星機構92の各ギアに供給されている。玉軸受83bは、この潤滑油によって軌道面が潤滑されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-061046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図7のトランスアクスル81において、潤滑油は、玉軸受83bの外輪84と内輪85との間の環状の空間を通って流出する。このとき外輪84が回転しているので、潤滑油は、遠心力が作用することによって外輪84の内周に沿って流動する。このため、内輪85の軌道面は、潤滑油の供給が少なくなって潤滑性能が低下するおそれがある。潤滑性能が低下すると、内輪85の軌道面は、スミアリングを発生する場合がある。スミアリングは、玉軸受の損傷の一形態である。スミアリングは、転動体86と軌道面との間で滑り接触が生じたときに潤滑油膜が切れて、軌道面の表面が荒れた状態になることをいう。
【0005】
そこで、本発明は、外輪が回転する用途で使用される玉軸受に潤滑油を供給する場合に、玉と内輪の軌道面との接触領域に潤滑油を確実に供給して、内輪軌道面のスミアリングの発生を防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態は、外周に内輪軌道面を有し回転不能に固定された内輪と、内周に外輪軌道面を有し前記内輪に対して回転自在の外輪と、前記内輪軌道面と前記外輪軌道面の間で転動自在の複数の玉と、前記玉を保持する保持器と、を備えた玉軸受であって、前記内輪は、外周に、軸方向の第1の側の内輪側面から軸方向の第2の側に延在する第1の円筒面と、前記第1の円筒面から径方向外方に延在する段面と、前記段面から軸方向の第2の側に延在して前記内輪軌道面の軸方向の第1の側の端部とつながる第2の円筒面と、を備え、前記保持器は、複数の前記玉に沿って軸方向の第1の側の側に配置される環状体と、前記環状体から前記玉と前記玉との間を通って軸方向の第2の側に延在する複数のつのを備え、前記環状体は、内周に、前記つのと周方向に重なる位置で径方向外方に窪んで軸方向に延在する油溝と、前記第2の円筒面より軸方向の第1の側に配置され軸方向の第2の側に向かうほど拡径する拡径部と、を備え、前記油溝の少なくとも一部が、前記第2の円筒面より軸方向の第2の側に開口することを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、外輪が回転する用途で使用される玉軸受に潤滑油を供給する場合に、潤滑油を玉と内輪の軌道面との接触領域に確実に供給することができるので、内輪軌道面のスミアリングの発生を防止して、玉軸受を長期にわたって使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態である玉軸受の軸方向断面図である。
図2】玉軸受を図1の矢印Xの向きに見た断面図である。
図3】つのの位置で径方向内方からみた保持器単体の形態を示す模式図である。
図4】保持器単体のつのの周方向の中央を通る断面図である。
図5】本発明の一形態としての玉軸受の潤滑油の流れを説明する説明図である。
図6】従来の玉軸受における潤滑油の流れを説明する説明図である。
図7】公知のトランスアクスルの軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図を用いて本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態である玉軸受10の軸方向断面図である。図2は、玉軸受10を軸方向の中央において図1の矢印Xの向きに見た断面図である。なお、図1は、図2のY1-Y1の位置で矢印の向きに見たときの径方向の一方の断面を示している。
玉軸受10は深溝玉軸受であり、例えば、図7の矢印Cに示すように、自動車用トランスアクスル81に組み込まれて、カウンタドライブギア82を回転支持する用途で使用される。図7は、公知のトランスアクスルの軸方向断面図である。
以下の説明において、玉軸受10の回転中心である中心軸mと平行となる方向は、軸方向であり、中心軸mと直交する方向は、径方向であり、中心軸mの周りは、周回する方向を周方向である。
【0010】
図1を参照する。玉軸受10は、外輪11、内輪12、複数の転動体としての玉13及び保持器14を備えている。
【0011】
外輪11は、環状で、軸受鋼などの鋼材で製造されている。外輪11は、軸受外径面16と、一組の外輪側面17、17と、外輪軌道面18を備えている。なお、説明の便宜のため、図1の右方を軸方向の第1の側といい、左方を軸方向の第2の側という。
【0012】
軸受外径面16は、中心軸mを中心とする円筒面である。軸方向の第1の側の外輪側面17(第1の外輪側面)は、軸受外径面16の軸方向の第1の側の端部から径方向内方に延在しており、軸方向の第2の側の外輪側面17(第2の外輪側面)は、軸受外径面16の軸方向の第2の側の端部から径方向内方に延在している。一組の外輪側面17、17は、それぞれ中心軸mと直交する向きに延在しており、互いに平行である。
【0013】
外輪軌道面18は、外輪11の内周において軸方向の中央に全周にわたって形成されており、玉軸受10が回転するときに玉13が転動する。外輪軌道面18の軸方向断面は、中央が径方向外方に向けて凹んだ円弧形状である。円弧の曲率半径は、玉13の外周面の曲率半径よりわずかに大きい。
外輪11は、さらに、第3の凹部23、第3の肩19、第4の肩20、第4の凹部24を備える。
第3の肩19は、外輪軌道面18の軸方向の第1の側に設けられている。第4の肩20は、軸方向の第2の側に設けられている。第3の肩19の内周面21と第4の肩20の内周面22は、いずれも中心軸mを中心とする円筒面で、それぞれの内径は同じである。
第3の凹部23は、第3の肩19の軸方向の第1の側であって第1の外輪側面17の軸方向の第2の側に設けられている。第3の凹部23は、全周にわたって第3の肩19の内周面21より径方向外方に窪んで設けられている。凹部内周面23aは、中心軸mを中心とする円筒面である。また第4の凹部24は、第4の肩20の軸方向の第2の側であって第2の外輪側面17の軸方向の第1の側に設けられている。第4の凹部24は、第3の凹部23と同様の形態である。
【0014】
内輪12は、環状で、軸受鋼などの鋼材で製造されている。内輪12は、軸受内径面26と、一組の内輪側面27、27と、内輪軌道面28を備えている。
【0015】
軸受内径面26は、中心軸mを中心とする円筒面である。軸方向の第1の側の内輪側面27は、軸受内径面26の軸方向の第1の側の端部から径方向外方に延在しており、軸方向の第2の側の内輪側面27は、軸受内径面26の軸方向の第2の側の端部から径方向外方に延在している。一組の内輪側面27、27は、それぞれ中心軸mと直交する向きに延在しており、互いに平行である。
【0016】
内輪軌道面28は、内輪12の外周の軸方向の中央に全周にわたって形成されており、玉軸受10が回転するときに玉13が転動する。内輪軌道面28の軸方向断面は、中央が径方向内方に向けて凹んだ円弧形状である。円弧の曲率半径は、玉13の外周面の曲率半径よりわずかに大きい。
内輪12は、さらに、第1の凹部33、29、第2の肩30、第2の凹部34を備える。
29は、内輪軌道面28の軸方向の第1の側に設けられている。第2の肩30は、軸方向の第2の側に設けられている。29の外周面31(第2の円筒面)と第2の肩30の外周面32は、いずれも中心軸mを中心とする円筒面で、それぞれの外径は同じである。
【0017】
第1の凹部33は、29の軸方向の第1の側に設けられている。第1の凹部33は、全周にわたって29の外周面31より径方向内方に窪んで設けられている。第1の凹部33は、凹部外周面33a(第1の円筒面)と凹部側面33b(段面)を備えている。凹部外周面33aは、中心軸mを中心とする円筒面で軸方向の第1の側の内輪側面27とつながって軸方向の第2の側に延在している。凹部側面33bは、凹部外周面33aの軸方向の第2の側の端部から中心軸mと直交する向きで径方向外方に延在している。凹部側面33bは、径方向外方で29の外周面31とつながっている。
第2の凹部34は、第2の肩30の軸方向の第2の側に設けられている。第2の凹部34は、全周にわたって第2の肩30の外周面32より径方向内方に窪んで設けられている。第2の凹部34の形態は、第1の凹部33の形態と同様であるため説明を省略する。
【0018】
玉13は、球形で、軸受鋼などの鋼材で製造されている。本実施形態の玉軸受10は、8個の玉13が、周方向に等しい間隔で組み込まれている。
【0019】
図1から図4を参照して、保持器14について説明する。図3は、任意の一のつのの位置において、保持器14単体を径方向内方から外方に向けてみたときの形態を平面上に展開して模式的に示している。図4は、図2の玉軸受10を、中心軸mを含んでつの38の周方向の中央を通る平面qで切断して、矢印Y2で示す向きに見た断面の部分拡大図である。
【0020】
保持器14は、冠型保持器14であって、ガラス繊維やアラミド繊維等で強化されたポリアミド樹脂などの合成樹脂を射出成形して製造される。保持器14は、全体として環状であり、玉軸受10に組み込まれたときには保持器14の中心軸は玉軸受10の中心軸mと一致する(図2参照)。
【0021】
図3に示すように、保持器14は、複数の玉13の軸方向の第1の側に沿って環状に配置される環状体37と、環状体37から軸方向の第2の側に向けて延在する複数のつの38を備えている。つの38は、玉13と玉13との間を通って、環状体37の軸方向の第2の側から突出して軸方向の第2の側に向けて延在している。本実施形態では、つの38の数は玉13の数と等しく8個である。環状体37と各つの38は、射出成形等によって一体に形成されている。
【0022】
各つの38の外周面39(図4参照)は、中心軸mを中心とする単一の円筒面で形成されている。また、各つの38の内周面40は、中心軸mを中心とする単一の円筒面で形成されている。周方向に隣り合う任意の二つのつの38、38は、互いに周方向に向き合う面が単一の球面で形成されており、当該二つのつの38、38の間に玉13を保持することができる。周方向に隣り合う二つのつの38、38で画定される空間は、ポケット41である(図3参照)。ポケット41の内周の球面の曲率半径は、玉13の外周面の曲率半径よりわずかに大きいので、玉13はポケット41の内側で自在に回転できる。
【0023】
つの38の軸方向の第2の側の端部は、球面の中心oの位置を越えて軸方向の第2の側に位置している。つの38の軸方向の第2の側の端部において、ポケット41を挟んで周方向に向き合うつの38とつの38との接線方向の距離は、玉13の直径より小さい。これにより、玉13がポケット41から脱落するのを防止している。各つの38は、軸方向の第2の側の端部から軸方向の第1の側に向けて窪む凹部42を備えている。このため、つの38の先端部分は、撓みやすくなっており、ポケット41に玉13を組み込むとき、つの38の先端部分は、撓んでつの38とつの38との接線方向の距離が拡大して玉13の直径より大きくなり、玉13をポケット41に受け入れる。
【0024】
図4を参照して、環状体37について説明する。図4において、環状体37とつの38との境界は、2点鎖線で示されている。環状体37は、環状外周面47、保持器側面48、内周傾斜面49、内周円筒面50及び段側面51を備える。
【0025】
環状外周面47は、中心軸mを中心とする円筒面である。環状外周面47の外径は、つの38の外周面39の外径と同等である。環状外周面47は、つの38の外周面39と連続して単一の円筒面となっている。環状外周面47の外径は、外輪11の第3の肩19の内径より小さい。環状外周面47は、外輪11の第3の肩19の内周面21とすきまをもって径方向に対向している。
【0026】
保持器側面48は、中心軸mと直交しており、環状外周面47の軸方向の第1の側の端部から径方向内方に延在している。環状体は、凹部外周面33a及び29の外周面31と径方向に重なるように配置される。保持器側面48は、保持器14を玉軸受10に組み込んだときに、軸方向の第1の側の外輪側面17及び軸方向の第1の側の内輪側面27から軸方向の第1の側に突出しない位置に設置される。
【0027】
内周傾斜面49は、軸方向の第2の側に向かうほど拡径する円錐面である。保持器側面48の径方向内方の端部と内周傾斜面49の径方向内方の端部とがつながって、拡径部43を構成する。拡径部43は、環状体37の内周の軸方向の第1の側の端部であり、全周にわたってつのの内周面40よりも径方向内方に突出している。
【0028】
内周円筒面50は、中心軸mを中心とする円筒面であり、軸方向の第1の側の端部が内周傾斜面49の軸方向の第2の側の端部とつながっている。内周円筒面50と内周傾斜面49は、内輪12の29の外周面31より軸方向の第1の側でつながっている。内周円筒面50の軸方向の第2の側の端部は、段側面51を介してつの38の内周面40とつながっている。段側面51は、軸方向の第2の側ほど拡径する円錐面である。
内周円筒面50の内径は、内輪12の29の外径より大きい。内周円筒面50は、内輪12の29の外周面31とすきまをもって径方向に対向している。また、内周円筒面50の内径は、拡径部43の最小内径(保持器側面48と内周傾斜面49とがつながる稜線部の内径)より大きく、つの38の内周面40の内径より小さい。こうして、環状体37の内周面は、軸方向の第1の側の端部に形成された内周傾斜面49からつの38の内周面40まで縮径することなく、軸方向に延在している。内周円筒面50及び段側面51は、後述する油溝45によって周方向に複数に分断されている。
【0029】
内周円筒面50と段側面51とは縮径部44を構成する。
縮径部44は、拡径部43から、内輪12の29の外周面31を越えて軸方向の第2の側に向けて延在している。「内輪12の29の外周面31を越える」とは、縮径部44の軸方向断面の少なくとも一部が、内輪軌道面28と内輪12の29の外周面31とがつながる軌道端A(図4参照)の軸方向の位置より軸方向の第2の側に位置することをいう。
隣接する縮径部44の間は、油溝45である。油溝は、軸方向に延在する。
【0030】
油溝45について説明する。
図3に示すように、油溝45は、各つの38の内周側の周方向の中央の位置で縮径部44に隣接して形成されている。すなわち、油溝45は、各つの38と周方向に重なる位置で内周円筒面50から径方向外方に向けて窪んだ溝であり、内周円筒面50に沿って軸方向に延在している。
【0031】
図2を参照する。油溝45は、周方向に対向する一組の溝側面45a、45aと、溝底面45bと、溝端面45cとで画定される。一組の溝側面45a、45aは、中心軸mを含みつの38の周方向中央を通る平面qを挟んで平面qに垂直な接線方向に対向しており、互いに平行である。溝底面45bは、中心軸mと平行で平面qと直交しており、一組の溝側面45a、45aの径方向外方の端部を周方向につないでいる。本実施形態では、溝底面45bと中心軸mとの径方向の距離は、つの38の内周面40と中心軸mとの径方向の距離と同等、もしくはつの38の内周面40と中心軸mとの径方向の距離よりわずかに短い距離の位置に配置される。
溝側面45a、45aは、径方向内方の端部が内周円筒面50とつながっている。
また、溝端面45cは、溝底面45bの軸方向の第1の側の端部から径方向内方に向けて延在しており(図4参照)、内周円筒面50と内周傾斜面49とがつながるつなぎ部とつながっている。
【0032】
こうして、油溝45は、内周傾斜面49と内周円筒面50とがつながる位置から軸方向の第2の側に向けて延在しており、油溝45の少なくとも一部が、内輪12の29の外周面31を越えて軸方向の第2の側で径方向内方に向けて開口するとともに、段側面51で軸方向の第2の側に開口している。
【0033】
玉軸受10において、保持器14は、環状体37が、内輪12の29及び内輪12の第1の凹部33と径方向に対向する位置に組付けられる。拡径部43は、内輪12の第1の凹部33を構成する凹部外周面33aと径方向に対向している。縮径部44は、内輪12の29の外周面31と径方向に対向している。
縮径部44の軸方向の第2の側の端部は、内輪12の29の外周面31を越えて軸方向の第2の側に配置されている。これにより、油溝45は、内輪12の29の外周面31を越えて軸方向の第2の側に開口する。
【0034】
図1に示すように、玉軸受10は、外輪軌道面18と内輪軌道面28の間に複数の玉13が組み込まれる。玉13は、保持器14のポケット41に収容されて、周方向に等しい間隔で保持されている。玉軸受10は、外輪11が回転すると、玉13が公転運動をして、これに伴って保持器14が中心軸mを中心に回転する。
【0035】
本発明の作用効果について説明する。玉軸受10は、例えば、図7に示す自動車用トランスアクスル81に組み込まれて使用される。
【0036】
トランスアクスル81は、エンジンからの動力を入力する第1入力軸90と、モーターからの動力を入力する第2入力軸91と、これらの動力をデファレンシャルギア89に伝達する遊星機構92が、それぞれ第1回転軸nに沿って直線状に配置されている。
第1入力軸90は、第1ケース88aに回転自在に組付けられている。第2入力軸91は第2ケース88bに回転自在に組付けられている。遊星機構92は、内歯のカウンタドライブギア82(リングギア)と、外歯のサンギア93と、複数の遊星ギア94と、各遊星ギア94の軸を保持するキャリア95と、を備えている。
サンギア93は、第2入力軸91の外周に固定されている。複数の遊星ギア94は、周方向に等しい間隔で配置され、サンギア93及びカウンタドライブギア82とかみ合っている。キャリア95は、第1入力軸90の外周に固定されている。
【0037】
カウンタドライブギア82の軸方向の第1の側の端部の内周に第1玉軸受83aが組み込まれており、第1ケース88aに対して回転自在に支持されている。また、軸方向の第2の側の端部の内周に第2玉軸受83bが組み込まれており、第2ケース88bに対して回転自在に支持されている。こうして、第1入力軸90と第2入力軸91との回転速度に応じてカウンタドライブギア82が回転する。各玉軸受83a、83bは、内輪85がケース88a、88bに固定されており、外輪84がカウンタドライブギア82とともに回転する。つまり、第1玉軸受83aに関して、第1ケース88aは軸であり、内輪は固定輪である。また、第1玉軸受83aに関して、カウンタドライブギア82はハウジングであり、外輪は回転輪である。さらに、第2玉軸受83bに関して、第2ケース88bは軸であり、内輪は固定輪である。また、第2玉軸受83bに関して、カウンタドライブギア82はハウジングであり、外輪は回転輪である。
【0038】
油路96が、第2入力軸91内に形成されている。油路96は、遊星機構92や玉軸受83に潤滑油を供給する。第2入力軸91内の油路96は、第1入力軸90内の油路96に連通しており、第1入力軸90の軸方向中央部から径方向外方に延びて外周面で開口している。潤滑油は、ATF(Automatic Transmission Fluid)が使用される。
供給された潤滑油は、遊星機構92によって撹拌され、軸方向両側の玉軸受83a、83bを通り抜けて下方の潤滑油槽(図示を省略)に還流する。
【0039】
図7に矢印Cで示した個所の第2玉軸受83bに、本発明にかかる玉軸受10を使用した場合を例にして、玉軸受10の内部における潤滑油の流れを説明する。図5は、図7の矢印Cで示した個所に組み込まれた玉軸受10の要部拡大図である。玉軸受10の向きは図7と同様であり、上下方向は、径方向で上側が径方向外方である。左右方向は、軸方向であり、図1等と合わせて、図の右方は、軸方向の第1の側で、左方は、軸方向の第2の側である。
【0040】
玉軸受10は、保持器14の拡径部43を軸方向の第1の側に向けて、遊星機構92と軸方向に向き合うように組み込まれる。すなわち、遊星機構92によって撹拌された潤滑油は、玉軸受10の拡径部43が設けられた側に跳ねかけられる。跳ねかけられた潤滑油は、拡径部43と、内輪12の第1の凹部外周面33aとで径方向に挟まれたすきまから内輪12の第1の凹部33に流入する。
【0041】
外輪11が回転すると、保持器14が中心軸mを中心として回転する。自動車のトランスアクスル81では、外輪11は、5000min-1程度の回転速度で回転する。
内輪12の第1の凹部33に流入した潤滑油は、保持器14の回転に伴って周方向に流動するので、遠心力によって径方向外方の内周傾斜面49に向けて移動する。内周傾斜面49は、軸方向の第2の側に向けて拡径しているので、径方向外方に移動した潤滑油は、内周傾斜面49に沿って、軸方向の第2の側の縮径部44に向けて流動する。縮径部44に向けて流動した潤滑油の一部は油溝45に流入する(矢印G1)。
【0042】
油溝45は、拡径部43から内輪12の29の外周面31を越えて軸方向の第2の側に延在している。このため、矢印G1で油溝45に流入した潤滑油は、矢印G2で示すように、玉13と内輪軌道面28との接触部に強制的に供給される。特に油溝45は、周方向につの38の位置にあるため、油溝45を通ってきた潤滑油は、玉13により攪拌されることが抑制され、内輪軌道面28に供給されやすい。
【0043】
この作用効果を明確にするために、従来の冠型保持器87を組み込んだ玉軸受83を使用したときの潤滑油の流れと対比して説明する。図6は、図7の矢印Cの位置に、従来の玉軸受83を組み込んだと仮定したときの図5と同様の要部拡大図である。従来の保持器87は、本発明の実施形態の保持器14と比較して、環状体37の内周の形態が異なるに過ぎない。このため、その他の共通する構成については、本実施形態にかかる符号と同じ符号を使用する。
【0044】
従来の保持器87は、環状体37の内周面である環状内周面87aが中心軸mを中心とする円筒面である。環状内周面87aは、つの38の内周面40と連続して単一の円筒面となっている。環状内周面87aの内径は内輪12の29の外径より大きく、環状内周面87aは、内輪12の29の外周面31とすきまをもって径方向に対向している。
【0045】
内輪12の第1の凹部33に流入した潤滑油(矢印G1)は、保持器87の回転とともに周方向に流動して、遠心力によって径方向外方に移動する。保持器87は、環状体37の内周が中心軸mを中心とする円筒面であり、環状内周面87aが中心軸mと平行に設置されているので、潤滑油の一部は環状内周面87aに沿って玉13に向けて軸方向の第2の側に流動し(矢印G4)、その他の潤滑油は、環状内周面87aに沿って軸方向の第1の側に流動する(矢印G6)。
このとき、玉13は軌道面に沿って周方向(紙面に対して垂直方向である)に高速で転動しており、潤滑油の流れる方向(矢印G4)と直交する向きに転動している。このため、環状内周面87aに沿って玉13に向けて軸方向に流動した潤滑油(矢印G4)は、玉13によって進路が遮断されて跳ね返されたり(矢印G5)、玉13に付着して飛び散ったりするので、軸方向の第2の側に向けて容易に流動することができない。
このため、外輪11に向けて流れる潤滑油(矢印G6)の量が増大し、内輪軌道面28と玉13との接触部、特に内輪軌道面28に十分な量の潤滑油が供給されなくなるおそれがある。
【0046】
これに対し、本実施形態の玉軸受10では、図5に示すように、縮径部44は、内輪12の29の外周面31を越えて軸方向の第2の側に延在している。油溝45も、縮径部44と同様に、内輪12の29の外周面31を越えて軸方向の第2の側に延在している。油溝45は、内周円筒面50より径方向外方に窪んだ状態で設けられているため、油溝45中に存在する潤滑油は、玉13と接触しない。したがって、G1で流入した潤滑油は、進路が遮断されることがなく内輪軌道面28へ流れ易い。このため、油溝45を流動した潤滑油(矢印G1)は、流れを遮られることなく軸方向の第2の側に向けて流動し、矢印G2で示すように内輪軌道面28に吐出される。したがって、本実施形態の玉軸受10は、玉13と内輪軌道面28との接触領域を確実に潤滑することができる。
【0047】
また、拡径部43の稜線部の内径を、内輪12の29の外径より小さくすることは、内輪12の29と保持器14の縮径部44とで径方向に挟まれた空間に、潤滑油を取り込み、保持器の軸方向の第1の側から内輪軌道面28とは反対側に潤滑剤が飛び散ることを抑制できる。
潤滑油が、内輪12の第1の凹部33に容易に流入できるように、内輪12の第1の凹部外周面33aと拡径部43との間は、通常の保持器と内輪の肩とのすきま相当である内周円筒面50と外周面31との間のすきまよりも径方向に大きいすきまとなっている。
【0048】
こうして、本実施形態の玉軸受10は、内輪軌道面28に確実に潤滑油を供給できるので、玉13が内輪軌道面28を転動するときに滑り接触を生じた場合であっても、潤滑油膜を形成して内輪軌道面28のスミアリングを確実に防止することができる。
【0049】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記の実施形態に限定されることなく、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施することができる。
例えば、本実施形態において、油溝45は、内周円筒面50と内周傾斜面49とがつながるつなぎ部から段側面51まで軸方向に延在している。このため、溝端面45cはつなぎ部とつながっているが、油溝45は、内輪12の第1の凹部33にある潤滑油を内輪軌道面28に導くことができればよい。溝端面45cは、つなぎ部より軸方向の第1の側で内周傾斜面49とつながっていてもよく、つなぎ部より軸方向の第2の側で内周円筒面50とつながっていてもよい。
【0050】
また、本実施形態の油溝45は、中心軸と直交する断面の形状が矩形形状となっているが、内周円筒面50から溝底面45bに向けて周方向の幅が狭くなった台形形状であってもよく、円弧形状であってもよい。
また、溝底面45bは、内周傾斜面49の側から軸方向の第2の側に進むほど径方向外方に傾斜していてもよい。溝底面45bが傾斜しているので、油溝45の中の潤滑油は、玉軸受10の回転時に遠心力によって、より速く内輪軌道面28に供給される。
なお、油溝45は、少なくとも一のつの38の位置に設けていれば、内輪軌道面28に潤滑油を供給できるので、すべてのつの38の内周部に設ける必要はない。
【符号の説明】
【0051】
10:玉軸受、11:外輪、12:内輪、13:玉、14:保持器、16:軸受外径面、17:外輪側面、18:外輪軌道面、19:第3の肩、20:第4の肩、21:内周面、22:内周面、23:第1の凹部、23a:凹部内周面、24:第2の凹部、26:軸受内径面、27:内輪側面、28:内輪軌道面、29:、30:第2の肩、31:外周面、32:外周面、33:第1の凹部、33a:凹部外周面、33b:凹部側面、34:第2の凹部、37:環状体、38:つの、39:つのの外周面、40:つのの内周面、41:ポケット、42:つのの先端の凹部、43:拡径部、44:縮径部、45:油溝、45a:溝側面、45b:溝底面、45c:溝端面、47:環状外周面、48:保持器側面、49:内周傾斜面、50:内周円筒面、51:段側面、
(従来技術)81:トランスアクスル、82:カウンタドライブギア、83:玉軸受、83a:第1玉軸受、83b:第2玉軸受、84:外輪、85:内輪、86:転動体、87:保持器、87a:環状内周面、88:ケース、88a:第1ケース、88b:第2ケース、90:第1入力軸、91:第2入力軸、92:遊星機構、93:サンギア、94:遊星ギア、95:キャリア、96:油路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7