(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021076
(43)【公開日】2024-02-15
(54)【発明の名称】MIBTの合成方法
(51)【国際特許分類】
C07C 2/72 20060101AFI20240207BHJP
C07C 15/02 20060101ALI20240207BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240207BHJP
【FI】
C07C2/72
C07C15/02
C07B61/00 300
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023126147
(22)【出願日】2023-08-02
(31)【優先権主張番号】202221044199
(32)【優先日】2022-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(71)【出願人】
【識別番号】514313591
【氏名又は名称】ヴィナティ オーガニクス リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Vinati Organics Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100137095
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】ヴィノド クマール サラフ
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC21
4H006BA02
4H006BA32
4H006BA55
4H006BA82
4H006BD84
4H006BJ50
4H039CA10
(57)【要約】
【課題】本開示は、反応基質としての芳香族炭化水素の優れた転化率により、アルキル置換芳香族炭化水素を高選択性かつ高収率で製造することができるMIBTの合成方法(100)を開示する。
【解決手段】係る方法はさらに、触媒担体、アルカリ金属触媒、および有機溶媒を含む触媒スラリーを使用する。m-キシレンの側鎖アルキル化は、触媒スラリーの存在下でプロピレンを使用して実行された。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
m-イソブチルトルエン(MIBT)を合成する方法(100)であって、
所定量の乾燥したm-キシレンおよび炭酸カリウム担体を第1の反応器に添加してスラリー混合物を形成するステップ(101)と、
所定の溶融したナトリウム金属触媒および懸濁剤を一定時間内に前記スラリー混合物に添加するステップ(102)と、
前記ナトリウム金属触媒を含む前記スラリー混合物を第2の反応器に移送するステップ(103)と、
所定量のプロピレンおよび過剰の乾燥したm-キシレンを前記第2の反応器に添加するステップ(104)と、
前記第2の反応器を所定の温度範囲に加熱し、前記スラリー混合物、前記プロピレンおよび前記m-キシレンを反応させて粗製MIBT生成物を得るステップ(105)と、
中和装置での水洗を可能にすることによって、前記粗製MIBTから前記ナトリウム金属触媒を除去し、さらにプロパンガスを回収するステップ(106)と、
分離装置内で水層と、前記粗製MIBTおよび炭化水素副生成物を含む有機層とを分離するステップ(107)と、
蒸留機構によって純度99.9%および最大40%の収率を有する精製形態のMIBTを回収するステップ(108)と、を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記m-キシレンおよび前記プロピレンの量の比が0.2~1.2である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ナトリウム金属触媒、前記炭酸カリウムおよび前記懸濁剤の量の比が7:50:1~9:60:1である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ナトリウム金属触媒を20分~1時間の範囲内で添加する請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の反応器が180~220℃の温度範囲に加熱される請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記プロパンガスが前記中和装置からガスホルダーを通して公共設備に回収される請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記炭化水素副生成物が前記有機層中に存在する請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記懸濁剤が、オレイン酸、トール油、ステアリン酸等の脂肪酸から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記m-キシレンの初期含水量が100~125PPMの範囲内である請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記m-キシレンに含まれる水分が、制御された流量を有する分子ふるい吸着器を備えた真空乾燥機によって除去され、前記乾燥したm-キシレンが得られる請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記炭酸カリウムの大きさが0.8~0.9mmの範囲である請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記炭酸カリウムが粉砕された粉末の形態である請求項1記載の方法。
【請求項13】
触媒調製時間の周期が、5分間のm-キシレンの供給、25分間の炭酸カリウムおよびナトリウム(Na)の充填、30分間の加熱、15分間の蒸解、および15分間の反応器への充填を含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願および優先権の相互参照】
【0001】
本出願は、2022年8月2日に出願されたインド特許出願第202221044199号の優先権を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明の開示は、芳香族化合物のアルキル化方法に関する。より具体的には、本開示は、m-イソブチルトルエン(MIBT)の合成方法に関する。
【背景技術】
【0003】
m-イソブチルトルエン(MIBT)などのアルキル置換芳香族炭化水素は、医薬品や香料などの有機化合物の中間原料として有用であり、芳香族炭化水素にアルキル基を導入してアルキル置換芳香族炭化水素を製造する方法が研究されている。アルキル化方法では一連の反応が起こり、それにより、アルキル化生成物は、環上の置換可能な範囲の水素原子が置換された、モノ、ジ、トリアルキル化化合物の混合物を含有する。元のアルキル基の導入により環が活性化されてさらなる置換が行われるため、モノアルキルベンゼンは触媒、オレフィン系アルキル化剤、および反応条件に応じてある程度までさらにアルキル化される。
【0004】
MIBTなどのアルキル置換芳香族炭化水素を製造する公知の方法は、固体触媒上でプロピレンを用いたm-キシレンの側鎖アルキル化を選択的に含む。当該技術分野の公知の知識において、公知の方法はまた、望ましくない炭化水素副生成物および触媒残留物の形成に悩まされ、したがってm-キシレンのアルキル化の反応時間を実質的に増加させ、収率をさらに低下させる。
【0005】
m-キシレン流中のフリーラジカル反応阻害剤の存在による下流プロセスへの悪影響は、触媒を不活性雰囲気および還元雰囲気で処理することによって軽減し、それにより、フリーラジカル反応阻害剤を生成すると考えられる望ましくない触媒不純物を低減できることが判明している。
【0006】
しかしながら、利用可能な方法にはさまざまな欠点がある。利用可能な方法では、MIBTの生成を促進するための特定の触媒、コーティングを改善するための担体の乾燥プロセス、出発原料の比率の最適化、生成物の回収に影響を与える微量の触媒の除去プロセス、およびMIBTの精製プロセスを使用しない。プロセス中に得られる重要な副産物の回収も、あらゆる生化学工業プロセスにおいて非常に重要であることが判明している。
【0007】
したがって、反応基質である芳香族炭化水素の優れた転化率を達成し、m-イソブチルトルエンを高選択収率で得ることができるアルキル置換芳香族炭化水素の製造方法が長年の要望となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、良好な収率を有するm-イソブチルトルエン(MIBT)組成物の合成方法を提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、反応時間を短縮する適切な比率で反応物を組み込み、それによって芳香族化合物の側鎖アルキル化において最適化されたMIBT収率を得るプロセスの全体の反応時間を短縮することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ここでの記載は、請求された主題の本質的な特徴を特定することを意図したものではなく、また、請求された主題の範囲を決定または制限するために使用することを意図したものでもない。ここでの記載は、芳香族炭化水素のアルキル化のための触媒の組成に関連する概念を紹介するために提供されており、その概念は以下の詳細な説明でさらに説明される。
【0011】
本開示は、様々な工程を含むm-イソブチルトルエン(MIBT)の合成方法に関する。この方法は、第1の量の乾燥したm-キシレンおよびK2CO3担体を第1の反応器に添加してスラリー混合物を形成するステップを含んでもよい。この方法は、所定の溶融ナトリウム金属触媒および懸濁剤をスラリー混合物に一定時間内に添加するステップを含んでもよい。この方法は、ナトリウム金属触媒を含むスラリー混合物を第2の反応器に移送し、その後、所定の温度範囲に加熱された第2の反応器に所定量のプロピレンおよび過剰の乾燥したm-キシレンを添加するステップを含んでもよい。この方法は、スラリー混合物、プロピレン、およびm-キシレンを反応させて粗製MIBT生成物を得るステップを含んでもよい。この方法は、中和装置での水洗を可能にすることによって粗製MIBTからナトリウム触媒を除去し、さらにプロパンガスを回収するステップを含んでもよい。この方法は、分離装置内で水層と、粗製MIBTおよび炭化水素副生成物を含む有機層とを分離するステップを含んでもよい。この方法は、蒸留機構によって純度99.9%および最大40%の収率を有する精製形態のMIBTを回収するステップをさらに含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図面の詳細な説明は、添付の図面を参照して説明される。図において、参照番号の左端の数字は、その参照番号が最初に現れる図を識別する。図面全体を通じて、同様の特徴および構成要素を指すために同じ番号が使用される。
【0013】
【
図1】
図1は、本主題の一実施形態による、m-イソブチルトルエン(MIBT)の合成方法のフローチャート(100)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書全体を通じて「様々な実施形態」、「いくつかの実施形態」、「一実施形態」、または「ある実施形態」への言及は、その実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、または特性が少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、明細書全体を通じて所々に現れる「様々な実施形態において」、「いくつかの実施形態において」、「一実施形態において」、または「ある実施形態において」という語句は、必ずしもすべて同じ実施形態を指すわけではない。さらに、特定の特徴、構造、または特性は、1つまたは複数の実施形態において任意の適切な方法で組み合わせることができる。
【0015】
「含む(comprising, containing, including)」および「有する(having)」という単語、およびその他の形式は、意味が同等であり、これらの単語のいずれかに続く項目は、そのような項目の完全なリストであることを意味するものではなく、リストされた項目のみに限定されることを意味するものでもないという点で、制限のないものであることを意図している。
【0016】
本明細書中で別段の指示がない限り、単数形(a, an, the)には複数形の言及が含まれることにも留意されたい。本明細書に記載されるものと同様または同等の任意の方法を本明細書の実施形態の実行または試行に使用することができるが、例示的な方法が記載される。開示された実施形態は、本開示の単なる例示であり、様々な形態で具体化することができる。この実施形態に対するさまざまな修正は当業者には容易に明らかであり、本明細書の一般原理は他の実施形態に適用することができる。しかしながら、当業者であれば、本開示は図示の実施形態に限定されるものではなく、本明細書に記載の原理および特徴と一致する最も広い範囲が与えられることを容易に認識するであろう。以下、添付図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明は、担体材料上にコーティングされた触媒を用いて芳香族炭化水素のメタ位をアルキル化してアルキル置換芳香族炭化水素を製造するアルキル化方法に関する。特定の固体塩基、アルカリ土類金属化合物およびアルカリ金属水素化物は、極めて高いアルキル化活性を示し、少量の触媒で効率よく目的のアルキル置換芳香族炭化水素を利用できる。触媒は反応生成物から分離しやすく、さらに水に溶解すると破壊されることが分かった。
【0018】
一実施形態において、
図1を参照すると、本開示は、m-イソブチルトルエン(MIBT)を合成する方法(100)に関する。示されるように、この方法は、第1の量の乾燥したm-キシレンおよびK
2CO
3担体を第1の反応器に添加してスラリー混合物を形成するステップ(101)を含む。
【0019】
方法(100)は、所定の溶融ナトリウム金属触媒および懸濁剤を一定時間内にスラリー混合物に添加するステップ(102)をさらに含んでもよい。方法(100)は、ナトリウム金属触媒を含むスラリー混合物を第2の反応器に移送するステップ(103)をさらに含んでもよい。移送するステップ(103)の後に、所定量のプロピレンおよび過剰の乾燥したm-キシレンを第2の反応器に添加するステップ(104)が続く。さらに、方法(100)は、第2の反応器を所定の温度範囲に加熱し、スラリー混合物、プロピレンおよびm-キシレンを反応させて粗製MIBT生成物を得るステップ(105)を含んでもよい。この方法は、中和装置での水洗を可能にすることによって粗製MIBTからナトリウム触媒を除去し、さらにプロパンガスを回収するステップ(106)をさらに含んでもよい。この方法は、分離装置内で水層と有機層を分離するステップ(107)を含んでもよく、係る有機層は粗製MIBTおよび炭化水素副生成物を含む。この方法は、蒸留機構によって純度99.9%および最大40%の収率を有する精製形態のMIBTを回収するステップ(108)をさらに含んでもよい。
【0020】
さらに、本開示は、脂肪族モノオレインによるアルキル置換芳香族炭化水素の側鎖アルキル化のための新規な方法に関する。特に、プロピレンによるm-キシレンの側鎖アルキル化の高い転化率が得られる。本開示は、m-イソブチルトルエンを効率的に合成するための新規な方法を提供することを目的とする。
【0021】
一実施形態では、方法(100)は、真空乾燥機内でm-キシレンを乾燥するステップを含んでもよく、m-キシレンの初期含水量は、70~140PPMの範囲であり、好ましくは90~120PPMの範囲であり、より好ましくは100~125PPMの範囲である。ある実施形態において、水分を乾燥するステップにおいて、m-キシレンに含まれる水分は、制御された流量を有する分子ふるい吸着器(molecular sieve adsorber)を備えた真空乾燥機によって除去され、乾燥したm-キシレンが得られた。
【0022】
一実施形態において、本開示は、第1の量の前記乾燥したm-キシレンおよび炭酸カリウム(K2CO3)担体を第1の反応器に添加して、スラリー混合物を形成する第1のステップ(101)を含む、m-イソブチルトルエン(MIBT)の合成方法(100)に関する。
【0023】
本開示の一実施形態において、触媒担体、アルカリ金属触媒および有機溶媒を含むスラリー混合物が提案され、溶融形態のアルカリ金属触媒が触媒担体上にコーティングされ、有機溶媒中に懸濁される。触媒組成物は芳香族炭化水素をアルキル化するために使用することができ、前記触媒組成物は担体材料およびアルカリ金属触媒から構成することができる。
【0024】
本開示の一実施形態では、前記有機溶媒は、m-キシレン、p-キシレン、n-プロピレン、および液化イソブテンから選択される少なくとも1つの芳香族炭化水素を含むことができるが、これらに限定されない。前記有機溶媒は、触媒と触媒担体の均一な混合物を形成するために触媒スラリーに使用される。この溶媒は通常不活性であり、触媒反応には寄与しない。しかしながら、溶媒は芳香族化合物のアルキル化反応における出発物質であってもよく、触媒組成物の懸濁溶媒としても使用される。一実施形態では、前記有機溶媒としては、m-キシレンが選択されるが、これに限定されない。
【0025】
別の実施形態では、方法(100)で使用される固体塩基は、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、および炭酸カルシウムのうちの1つまたは複数から選択されるアルカリ土類金属化合物、水酸化カリウムおよび炭酸カリウムの少なくとも1つを含むカリウム化合物、ならびに金属ナトリウムを含む組成物である。具体的には、固体塩基は、不活性ガス雰囲気中の金属ナトリウムである。
【0026】
本開示の一実施形態では、アルカリ金属触媒は、ナトリウム、リチウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、NaK、およびNa2Oのうちの少なくとも1つを含む。触媒として使用される前記アルカリ金属は、反応性が高く、電気的に陽性である遷移金属である。これらの金属は、他の分子から電子を容易に借りたり受け取ったりする傾向があり、その結果、反応速度が増加する。アルカリ金属は、有機化合物の還元や多くの市販化合物の製造に使用される。より好ましくは、アルカリ金属触媒としてナトリウムを選択してもよい。
【0027】
本開示の関連する実施形態では、触媒担体は、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、および重炭酸ナトリウムのうちの少なくとも1つを含む。触媒担体は、通常は不活性であるが触媒活性に寄与できる触媒を担持、支持、または装填するために特定の条件下に維持される固体材料である。好ましくは、触媒は炭酸カリウムを担持する。
【0028】
方法(100)の一実施形態では、炭酸カリウムの大きさは、0.6~1.1mmの範囲であり、好ましくは0.7~1.0mmの範囲であり、より好ましくは0.8~0.9mmの範囲である。
【0029】
一実施形態において、前記触媒担体は、特に限定されないが、粉末、ペレット、または顆粒の任意の形態で存在することができる。より好ましくは、前記触媒担体は、より大きな表面積を提供する粉砕された微粉末の形態である。より大きな表面積は、活性部位を形成するためのより多くの表面積を提供し、したがってより大きな活性につながる。
【0030】
一実施形態では、MIBTの合成方法では、ナトリウム、炭酸カリウム(K2CO3)および懸濁剤の量の比を5:40:1~10:50:1の範囲とすることができ、好ましくは7:50:1~9:60:1の範囲であり、より好ましくは6.2:53:1の比率である。
【0031】
好ましい実施形態では、MIBTの合成方法において、懸濁剤は、オレイン酸、トール油、およびステアリン酸などの脂肪酸から選択され得る。
【0032】
一実施形態では、方法(100)は、7.5~13.6モルの所定範囲の溶融ナトリウム金属触媒を、好ましくは9~13モルの溶融ナトリウム金属触媒および懸濁剤を、5分~1時間30分、好ましくは10分~1時間10分、より好ましくは20分~1時間の範囲内でスラリー混合物に添加してもよい。
【0033】
一実施形態では、方法(100)は、ナトリウム金属触媒を含むスラリー混合物を第2の反応器に移送するステップ(103)を含んでもよい。
【0034】
本実施形態における芳香族炭化水素とは、α位に水素原子を有するアルキル基を有する芳香族炭化水素である。本実施形態におけるα位とは、アルキル基上の炭素位置であり、アルキル基が結合している芳香族炭化水素環上の炭素に隣接する位置である。
【0035】
芳香族炭化水素としては、トルエン、エチルベンゼン、n-プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、o-ジエチルベンゼン、m-ジエチルベンゼン、p-ジエチルベンゼン、メシチレン、プソイドクメン、1,2,3,5-テトラメチルベンゼン、1,2,4,5-テトラメチルベンゼン、ペンタメチルベンゼン、ヘキサメチルベンゼン、1-メチルナフタレン、2-メチルナフタレン、ジメチルナフタレン、テトラヒドロナフタレン、インダン、2-メチルピリジン、4-メチルピリジン等が挙げられる。これらの芳香族炭化水素は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。一実施形態では、好ましくはm-キシレンを出発物質および溶媒として使用することができる。
【0036】
本実施形態におけるアルキル化とは、芳香族炭化水素のアルキル基のメタ位の水素原子がアルケンとの反応によりアルキル基に置換されることをいう。本実施形態におけるアルケンとしては、炭素数2~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルケンが挙げられる。具体的には、エチレン、プロピレン、1-ブテン、2-ブテン、イソブチレン、1-ペンテン、2-ペンテン、1-ヘキセン、2-ヘキセン、3-ヘキセン、1-ヘプテン、2-ヘプテン、3-ヘプテン、オクテン、ノネン、3-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-メチル-2-ペンテン等が挙げられる。これらのアルケンは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのアルケンの中でも、プロピレンが好ましい。
【0037】
一実施形態では、このプロセスは、所定量のプロピレンおよび過剰の乾燥したm-キシレンを第2の反応器に添加するステップ(104)を含んでもよい。
【0038】
これらのカップリング反応におけるアルケンと芳香族炭化水素とのモル比は、特に芳香族炭化水素が1つ以上の活性水素を有する可能性があるため、使用する特定の反応物質および所望の生成物によって異なり、アルケンを芳香族炭化水素中の1つだけの活性水素または2つ以上の活性水素と反応させることが望ましい場合がある。所望の生成物の調製に適切な化学量論量で反応物を使用することがしばしば好ましい。 しかしながら、どちらの反応物も過剰に使用することができる。
【0039】
一実施形態では、m-キシレンおよびプロピレンの量の比は1:1~15:1である。好ましい実施形態では、m-キシレンおよびプロピレンの量の比は2:1~10:1である。より好ましい実施形態では、m-キシレンおよびプロピレンの量の比は0.2~1.2であり、好ましくは0.4~0.9である。
【0040】
一実施形態では、方法(100)はさらに、第2の反応器を180~220℃の温度範囲に加熱し、スラリー混合物、プロピレンおよびm-キシレンを反応させて、粗製MIBT流中に粗製MIBT生成物を得るステップ(105)を含む。
【0041】
一実施形態では、前記反応器の粗製MIBT流は、反応系内で形成された未反応m-キシレン、プロパン、粗製MIBT、低級炭化水素(LHC)および高級炭化水素(HHC)の混合物を含む。
【0042】
別の実施形態では、方法(100)は、中和装置での水洗浄を可能にすることによって粗製MIBTからナトリウム触媒を除去し、さらにガスホルダーを通じてプロパンガスを公共設備に回収するステップ(106)を含む。
【0043】
一実施形態では、MIBTを合成する方法(100)は、分離装置内で水層と有機層を分離するステップ(107)をさらに含み、有機層は、オーバーフロー機構による粗製MIBTおよび炭化水素副生成物を含む。
【0044】
本実施形態の一態様では、触媒を含まないか、または触媒不純物が少ない、少なくとも1つのMIBTが豊富な有機流は、分離装置で分離してもよい。
【0045】
一実施形態では、前記分離された水層は分離装置から廃水タンクに送られ、分離された有機層はLHCカラムに移送される。
【0046】
一実施形態では、方法(100)は、蒸留機構によって純度99.9%および最大40%の収率を有する精製形態のMIBTを回収するステップ(108)を含む。
【0047】
別の実施形態では、MIBTは、MIBT貯蔵タンクに貯蔵される前に、内部検査タンクで検査される。
【0048】
MIBTを合成する方法(100)に係る本開示において、芳香族炭化水素は好ましくはm-キシレンであり、アルケンは好ましくはプロピレンである。また、本実施形態の製造方法において、アルキル置換芳香族炭化水素はm-イソブチルトルエンであることが好ましく、アルケンはプロピレンであることが好ましい。
【0049】
一実施形態において、本開示は、反応基質である芳香族炭化水素の転化率を向上させ、目的とするアルキル置換芳香族炭化水素を高選択率かつ高収率で得ることができ、工業的に有利に製造することができる。また、本開示の製造方法により、医薬品や香料等の中間原料として有用なアルキル置換芳香族炭化水素を得ることができる。
【実施例0050】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
実験例1:触媒スラリーとともに異なる比率のプロピレンおよびm-キシレンを使用したm-イソブチルトルエン(MIBT)の収率
【0052】
【0053】
表1を参照すると、有機溶媒(m-キシレン)、触媒担体(K2CO3)およびアルカリ金属触媒が、本開示のさまざまな実施形態で議論されるように、規定された形態を取ることが明らかである。MIBT生成物の回収率は、m-キシレンとプロピレンとの比率を触媒スラリーとともに変化させると改善される。特に、m-キシレンのモル数:プロピレンのモル数の比が0.4~0.9の範囲であることが観察された。MIBTの収率に明らかな違いが認められた。実施例1を参照すると、m-キシレンのモル数:プロピレンのモル数の比が0.4~0.9の範囲内で、m-キシレンに対するMIBTの全収率が40%まで達成された。
【0054】
実験例2:異なる触媒懸濁液および添加剤を使用したm-イソブチルトルエン(MIBT)の収率
【0055】
【0056】
本開示の一実施形態では、芳香族炭化水素のアルキル化生成物の収率を向上させる所定の比率のm-キシレンおよびプロピレンを前記触媒スラリーに添加する。
【0057】
本開示の別の実施形態では、本開示に係る方法(100)は、以下の利点を有し得るが、これに限定されない。
・ MIBT合成方法の改善。
・ 得られるMIBTの質および量の向上。
・ 最大40%の収率でMIBTが回収されるなど、製品収率の向上。
【0058】
アルキル化芳香族炭化水素の合成に使用される実施形態は、構造的特徴および/またはプロセスに特有の文言で説明されているが、添付の特許請求の範囲は、記載された特定の特徴またはプロセスに必ずしも限定されないことが理解されるべきである。むしろ、特定の特徴およびプロセスは、アルキル化芳香族炭化水素の合成のために実施される触媒の組成物の実施例として開示される。