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特開2024-21087赤外線吸収剤を含む難燃性布帛及びその繊維製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021087
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】赤外線吸収剤を含む難燃性布帛及びその繊維製品
(51)【国際特許分類】
   D03D 15/20 20210101AFI20240208BHJP
   D01F 6/54 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
D03D15/00 E
D01F6/54 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021000393
(22)【出願日】2021-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】内堀 恵太
(72)【発明者】
【氏名】大野 重樹
【テーマコード(参考)】
4L035
4L048
【Fターム(参考)】
4L035AA04
4L035BB03
4L035BB17
4L035BB66
4L035BB69
4L035BB91
4L035CC20
4L035EE01
4L035EE14
4L035FF07
4L035JJ05
4L048AA16
4L048AA46
4L048AA53
4L048AB01
4L048AC14
4L048CA06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】近赤外線性の透過性に優れた難燃性布帛及びそれを用いた繊維製品を提供する。
【解決手段】少なくとも難燃剤としてアンチモン系化合物を含む難燃性布帛であって、布帛全重量に対してカーボンブラックを含まず赤外線吸収剤を1重量%以上20重量%以下含み、近赤外線の透過率が11%未満であり布帛の遮熱率が40%以上であることを特徴とする、難燃剤及び赤外線吸収剤を含むアクリル系繊維、セルロース系繊維、およびポリエステル系繊維の少なくともいずれか一つからなる難燃性布帛とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の繊維から構成される難燃性布帛であって、布帛全重量に対して赤外線吸収剤を1重量%以上20重量%以下含み、近赤外線の透過率が11%未満であることを特徴とする、赤外線吸収剤を含む難燃性布帛。
【請求項2】
難燃性布帛は、アクリル系繊維、セルロース系繊維、およびポリエステル系繊維を少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする、請求項1に記載の赤外線吸収剤を含む難燃性布帛。
【請求項3】
繊維の内部に、赤外線吸収剤が均一に分散されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の難燃性布帛。
【請求項4】
アクリル系繊維は、少なくとも難燃剤としてアンチモン系化合物を含むことを特徴とする、請求項2~3のいずれかに記載の繊維を含む難燃性布帛。
【請求項5】
赤外線吸収剤は、カーボンブラックを含まないことを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の赤外線吸収剤を含む難燃性布帛。
【請求項6】
赤外線吸収剤を含む布帛の遮熱率が40%以上であることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の赤外線吸収剤を含む難燃性布帛。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の難燃性布帛を含むことを特徴とする繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線吸収剤を含む難燃性布帛及びその繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光による外気温が高い(特に真夏)ことから、人体への影響を低減するため、日傘やカーテン等、温度上昇を抑制することを目的に様々な布帛が開発されている。例えば、特許文献1では、導電性を有する金属酸化物を有する樹脂層を布帛表面に塗布した熱線遮断性繊維布帛が開発されている。導電性を有する金属酸化物を赤外線吸収剤として用いることで、赤外線の透過を遮断し、布帛自体の温度は上昇するものの、樹脂層を有する布帛の裏面側の温度上昇を抑制でき、夏場の日中の太陽からの熱線を遮断することを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-370319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の熱線遮断性繊維布帛は、遮熱性は得られるものの、屋内のインテリアやテント等の人体に近い距離で使用する点を考慮すると、安全性の観点から難燃性については検討されておらず、課題が残っていた。さらに、金属酸化物を含有した樹脂層を布帛に塗布して用いているため、樹脂層を有する布帛は、白度が低下してしまうため、当該布帛を染色した際の発色に課題があり、改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
所定の繊維から構成される難燃性布帛であって、布帛全重量に対して赤外線吸収剤を1重量%以上20重量%以下含み、近赤外線の透過率が11%未満であることを特徴とする、赤外線吸収剤を含む難燃性布帛に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、遮熱性及び発色性に優れた難燃性布帛、及びそれを用いた繊維製品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、赤外線吸収剤を布帛全体に対して特定量含有し、近赤外線の透過率を11%未満とすることで上記課題が解決されることを見出し、本発明に到った。上記課題が解決される理由としては、推測の域をでないが、当該布帛に含まれる赤外線吸収剤が、近赤外線を吸収して熱に変換することで、赤外線入射方向の面の裏面から離れた位置では温度を低く保てるためと考えられる。更に、当該布帛はカーボンブラックといった濃色赤外線吸収剤や濃色難燃剤を使用しないことから、布帛の白度を低下することなく、染色時の発色性が良好となる。また、難燃性が高いことから安全性の観点からも繊維製品として展開できる幅を広げることが可能である。
【0008】
<透過率>
透過率とは、分光光度計による布帛の波長250~2500nmの分光透過率(%)の平均値を意味し、透過率が低いほど遮熱率が高く、透過率が高いほど遮熱率が低くなる。難燃性布帛は、近赤外線の透過率が11%未満であり、11%以上の場合、遮熱性の観点から好ましくなく、布帛の近赤外線が照射している面の裏面側の温度上昇を十分に抑えることが難しくなるおそれがある。
【0009】
<遮熱率>
本発明の布帛より10cm離れた位置の黒体について、布帛の有無それぞれの場合の黒体の温度を測定し、式(1)により求めた。
(A―B)/A×100 (%) 式(1)
A:布帛が無い場合の黒体温度(℃)、B:布帛が有る場合の黒体温度(℃)
【0010】
遮熱率は40%以上が好ましく、より好ましくは45%以上である。遮熱率が40%未満の場合、遮熱が不十分となり、熱による布帛の温度が高くなることに伴い、布帛から離れた位置でも温度上昇が大きくなることから好ましくない。
【0011】
<赤外線吸収剤>
赤外線吸収剤は、布帛に対して1重量%以上20重量%以下含まれる。これにより、繊維は高い赤外吸収能を有し、平均透過率が低く遮熱性能を有した布帛を得ることができる。赤外線吸収能を向上させる観点から、赤外線吸収剤を布帛中の1.5重量%以上19重量%以下含むことがより好ましい。染色性の観点から、赤外線吸収剤は布帛に対して1.8重量%以下18重量%以下含むことが好ましく、より好ましくは2重量%以下17重量%以下、更に好ましくは3重量%以下16重量%以下含む。赤外線吸収剤が繊維内部に均一に分散して存在することにより、繊維表面に赤外線吸収剤を付着させた場合と比べると、風合いが良好であるとともに、洗濯耐久性も高い。
【0012】
赤外線吸収剤は、近赤外線を吸収効果を有するものであればよく、特に限定されない。例えば、750~2500nmの波長領域において、吸収ピークを有することが好ましい。具体的には、アンチモンドープ酸化スズ、インジウムスズ酸化物、ニオブドープ酸化スズ、リンドープ酸化スズ、フッ素ドープ酸化スズ、酸化チタン基材に担持したアンチモンドープ酸化スズ、鉄ドープ酸化チタン、炭素ドープ酸化チタン、フッ素ドープ酸化チタン、窒素ドープ酸化チタン、アルミニウムドープ酸化亜鉛、アンチモンドープ酸化亜鉛などが挙げられる。インジウムスズ酸化物は、インジウムドープ酸化スズとスズドープ酸化インジウムを含む。赤外線吸収能を向上させる観点から、上記赤外線吸収剤は、酸化スズ系化合物であることが好ましく、アンチモンドープ酸化スズ、インジウムスズ酸化物、ニオブドープ酸化スズ、リンドープ酸化スズ、フッ素ドープ酸化スズ及び酸化チタン基材に担持したアンチモンドープ酸化スズからなる群から選ばれる一種以上であることがより好ましく、アンチモンドープ酸化スズ及び酸化チタン基材に担持したアンチモンドープ酸化スズからなる群から選ばれる一種以上であることがさらに好ましく、酸化チタン基材に担持したアンチモンドープ酸化スズであることがさらにより好ましい。上記赤外線吸収剤は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の赤外線吸収剤はカーボンブラックを含まない。カーボンブラックを含まないことで、布帛を淡色にすることができ染色の観点から好ましい。なお、染色性の観点から、布帛の白度を用いて評価することも可能である。
【0013】
赤外線吸収剤の粒径は、繊維内部に均一に分散しやすい観点から、粒子径が2μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、0.5μm以下であることがさらに好ましい。また、赤外線吸収剤の粒子径が上述した範囲内であると、繊維表面に付着する場合でも、分散性が良好になる。本発明において、赤外線吸収剤の粒子径は、粉体の場合は、レーザー回析法で測定することができ、水や有機溶媒に分散した分散体(分散液)の場合は、レーザー回折法又は動的光散乱法で測定することができる。
【0014】
<繊維>
本発明にかかる難燃性布帛は、所定の繊維から構成される。なお、赤外線吸収剤の分散性の観点から、繊維としては少なくともアクリル系繊維、セルロース系繊維、ポリエステル系繊維のいずれかを用いることが好ましい。
<アクリル系繊維>
アクリル系繊維は、アクリル系重合体の全体重量に対して、アクリロニトリルを40~70重量%、他の成分を30~60重量%含むアクリル系重合体で構成されていることが好ましい。上記アクリル系重合体中のアクリロニトリルの含有量が40~70重量%であれば、アクリル系繊維の耐熱性及び難燃性が良好になる。
【0015】
上記他の成分としては、アクリロニトリルと共重合可能なものであればよく特に限定されない。例えば、ハロゲン含有ビニル系単量体、スルホン酸基含有単量体などが挙げられる。
【0016】
上記ハロゲン含有ビニル系単量体としては、例えば、ハロゲン含有ビニル、ハロゲン含有ビニリデンなどが挙げられる。ハロゲン含有ビニルとしては、例えば、塩化ビニル、臭化ビニルなどが挙げられ、ハロゲン含有ビニリデンとしては、塩化ビニリデン、臭化ビニリデンなどが挙げられる。これらのハロゲン含有ビニル系単量体は、1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。耐熱性及び難燃性の観点から、上記耐アーク性アクリル系繊維は、アクリル系重合体の全体重量に対して、他の成分としてハロゲン含有ビニル系単量体を30~60重量%含むことが好ましい。
【0017】
上記スルホン酸基を含有する単量体としては、例えば、メタクリルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、及びそれらの塩などが挙げられる。上記において、塩としては、例えば、p-スチレンスルホン酸ソーダなどのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらのルホン酸基を含有する単量体は、1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。スルホン酸基を含有する単量体は必要に応じて使用されるが、上記アクリル系重合体中のスルホン酸基を含有する単量体の含有量が3重量%以下であれば紡糸工程の生産安定性に優れる。
【0018】
上記アクリル系重合体は、40~70重量%のアクリロニトリルと、30~57重量%のハロゲン含有ビニル系単量体、0~3重量%のスルホン酸基を含有する単量体を共重合した共重合体であることが好ましい。より好ましくは、上記アクリル系重合体は、45~65重量%のアクリロニトリルと、35~52重量%のハロゲン含有ビニル系単量体、0~3重量%のスルホン酸基を含有する単量体を共重合した共重合体である。
アクリル系繊維は、少なくとも難燃剤を含み、難燃剤としてには、アンチモン系化合物が挙げられる。アクリル系繊維におけるアンチモン系化合物の含有量は、繊維全体重量に対して2~30重量%であることが好ましく、より好ましくは3~20重量%である。アクリル系繊維におけるアンチモン化合物の含有量が上記範囲内であれば、紡糸工程の生産安定性に優れるとともに難燃性が良好になる。
【0019】
上記アンチモン化合物としては、例えば、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸、アンチモン酸ナトリウムなどのアンチモン酸の塩類、オキシ塩化アンチモンなどが挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。紡糸工程の生産安定性の面から、上記アンチモン化合物は、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン及び五酸化アンチモンからなる群から選ばれる1以上の化合物であることが好ましい。また、必要に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲内で、難燃助剤、艶消し剤、結晶核剤、分散剤、滑剤、安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、静電防止剤、顔料などの各種添加剤を含有してもよい。
アクリル系繊維の繊度は、特に限定されないが、紡績性や加工性、織物及び/又は編物とした際の風合いや強度の観点から、好ましくは1~20dtexであり、より好ましくは1.5~15dtexである。また、上記アクリル系繊維の繊維長は、特に限定されないが、紡績性や加工性の観点から、好ましくは38~127mmであり、より好ましくは38~76mmである。本発明において、繊維の繊度は、JIS L 1015に基づいて測定したものである。
【0020】
アクリル系繊維の強度は、特に限定されないが、紡績性や加工性の観点から、1.0~4.0cN/dtexであることが好ましく、1.5~3.0cN/dtexであることがより好ましい。また、アクリル系繊維の伸度は、特に限定されないが、紡績性や加工性の観点から、20~35%であることが好ましく、より好ましくは20~25%である。本発明において、繊維の強度及び伸度は、JIS L 1015に基づいて測定したものである。
【0021】
アクリル系重合体を溶解した紡糸原液に難燃剤などを添加する以外は、一般的なアクリル系繊維の場合と同様に紡糸原液を湿式紡糸することで製造することができる。
【0022】
<セルロース系繊維>
セルロース系繊維は、セルロースから誘導された繊維に対する総称であり、特に限定されず、市販されているセルロース系繊維を用いても良い。例えば、木綿、麻(亜麻、ラミー、ジュート、ケナフ、大麻、マニラ麻、サイザル麻、ニュージーランド麻を含む)、カポック、バナナ、ヤシなどの天然繊維のほか、アセテート、トリアセテートなどの半合成繊維、レーヨン、キュプラ、リヨセルなどの再生繊維も含む。再生繊維であるレーヨンの製造方法は、従来公知のビスコースレーヨン繊維の製造方法で良い。具体的にはセルロース含有量が7~10%程度で、苛性ソーダ等のアルカリがセルロースに対して50~80%程度含有するビスコースを用いれば良い。これを紡糸ノズルから硫酸などを含む酸性溶液中に押し出し、繊維を形成させながら化学反応させてセルロースを再生して製造する。また、セルロース系繊維は前記の赤外線吸収剤を含有した機能性セルロース系繊維でも良く、特に限定はされない。機能性セルロース系繊維として、例えばオーミケンシ社製「Solar Touch(商標登録)」を用いることができる。
【0023】
<ポリエステル系繊維>
ポリエステルとしては、テレフタル酸を主たる酸成分とし、炭素数2~6のアルキレングリコール、すなわちエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールからなる群より選ばれた少なくとも1種のグリコール、特に好ましくはエチレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルが例示され、前記の赤外線吸収剤を含有した機能性ポリエステルでも良く、特に限定されない。
本発明におけるポリエステル系繊維は、ポリエステル系樹脂組成物を主成分とする。ポリエステル系樹脂組成物とは、ポリエステル系樹脂組成物の全体重量を100重量%とした場合、ポリエステル系樹脂を50重量%より多く含むことを意味し、ポリエステル系樹脂を70重量%以上含むことが好ましく、80重量%以上含むことがより好ましく、90重量%以上含むことがさらに好ましく、95重量%以上含むことがさらにより好ましい。
【0024】
前記ポリエステル系樹脂としては、ポリアルキレンテレフタレート及びポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルからなる群から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。本発明の一実施形態において、「ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステル」は、ポリアルキレンテレフタレートを80モル%以上含有する共重合ポリエステルをいう。
【0025】
前記ポリアルキレンテレフタレートとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどが挙げられる。
【0026】
前記ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートを主体とし、他の共重合成分を含有する共重合ポリエステルなどが挙げられる。
【0027】
前記他の共重合成分としては、例えば、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、パラフェニレンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの多価カルボン酸及びそれらの誘導体;5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルなどのスルホン酸塩を含むジカルボン酸及びそれらの誘導体;1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、4-ヒドロキシ安息香酸、ε-カプロラクトン、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテルなどが挙げられる。
【0028】
前記共重合ポリエステルは、安定性及び操作の簡便性の点から、主体となるポリアルキレンテレフタレートに少量の他の共重合成分を含有させて反応させることにより製造するのが好ましい。ポリアルキレンテレフタレートとしては、テレフタル酸及び/又はその誘導体(例えば、テレフタル酸メチル)と、アルキレングリコールとの重合体を用いることができる。前記共重合ポリエステルは、主体となるポリアルキレンテレフタレートの重合に用いるテレフタル酸及び/又はその誘導体(例えば、テレフタル酸メチル)と、アルキレングリコールとの混合物に、少量の他の共重合成分であるモノマーあるいはオリゴマー成分を含有させたものを重合させることにより製造してもよい。
【0029】
前記共重合ポリエステルは、主体となるポリアルキレンテレフタレートの主鎖及び/又は側鎖に上記他の共重合成分が重縮合していればよく、共重合の方法などには特別な限定はない。
【0030】
前記ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルの具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートを主体とし、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテル、1,4-シクロヘキサジメタノール、イソフタル酸及び5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルからなる群から選ばれる一種の化合物を共重合したポリエステルなどが挙げられる。
【0031】
前記ポリアルキレンテレフタレート及び前記ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、ポリエチレンテレフタレート;ポリプロピレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリエチレンテレフタレートを主体とし、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテルを共重合したポリエステル;ポリエチレンテレフタレートを主体とし、1,4-シクロヘキサンジメタノールを共重合したポリエステル;ポリエチレンテレフタレートを主体とし、イソフタル酸を共重合したポリエステル;及びポリエチレンテレフタレートを主体とし、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルを共重合したポリエステルなどを単独又は2種以上組み合わせて用いることが好ましい。
【0032】
前記ポリエステル樹脂の固有粘度(IV値と称す場合がある)は、特に限定されないが、0.3以上1.2以下であることが好ましく、0.4以上1.0以下であることがより好ましい。固有粘度が0.3以上であると、得られる繊維の機械的強度が低下せず、燃焼試験時にドリップする恐れもない。また、固有粘度が1.2以下であると、分子量が増大しすぎず、溶融粘度が高くなり過ぎることがなく、溶融紡糸が容易となるうえ、繊度も均一になりやすい。
【0033】
前記ポリエステル系樹脂組成物は、ポリエステル系樹脂に加えて他の樹脂を含んでも良い。他の樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、モダアクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ポリエステル系樹脂を溶解した紡糸原液に難燃剤や赤外線吸収剤などを添加する以外は、一般的なポリエステル系繊維の場合と同様に紡糸原液を溶融紡糸することで製造することができる。
【0034】
<難燃性>
本発明の難燃性布帛は、難燃性能の指標として限界酸素指数(LOI)で示すことができる。LOIが大きいほど、布帛の難燃性が高いことを示す。布帛が優れた難燃性を有するためには、少なくともLOIは26以上が好ましく、28以上が更に好ましく、30以上が最も好ましい。限界酸素指数が25未満では、繊維の難燃化において十分とは言えず、燃焼挙動において安全に自己消火するレベルではないためである。
【0035】
<難燃性布帛>
難燃性布帛は、繊維の全体重量に対してアンチモン化合物を3.0~20重量%含有するアクリル系繊維を、布帛の全体重量に対して35~65重量%と、セルロース系繊維を25~45重量%、ポリエステル系繊維を0~45%を含むことが好ましい。赤外線吸収剤は、アクリル系繊維、セルロース系繊維及びポリエステル系繊維の少なくともいずれか一つに含まれていればよく、更には、例えばアクリル系繊維およびセルロース系繊維に赤外線吸収剤を含むといった、2つ以上の繊維に含んでいてもよい。
また、本発明の布帛の強度を向上させる観点から、性能を阻害しない範囲で、その他の繊維を含んでいてもよい。例えば、導電性繊維、アラミド系繊維またはポリイミド繊維が挙げられ、パラ又はメタ系アラミド繊維の場合、布帛全重量に対し、当該繊維を5~20%重量%を含んでいても良い。
【0036】
<赤外線発生源>
赤外線発生源として、特に制限されず、多量の赤外線を照射する太陽光、ストーブ、焚火等の暖房器具から、微量の赤外線を発生する人体を含む全ての物のいずれでもよい。
【0037】
<繊維製品>
繊維製品は、上記の布帛を用いればよく、特に限定されないが、遮熱性の観点から、例えば毛布、カーテン、カーテンの裏張り、壁紙、カーペット、タオル、作業服、消防服、天井材、天幕、布団カバー、マフラー、日傘、帽子、耐炎詰め物、断熱材、フィルター、繊維状の中綿および包装材、ライニング材、テント、タープ、などが挙げられる。また、他の布帛や繊維を含んでいてもよい。
【実施例0038】
<アクリル系繊維の製造例i>
アクリロニトリル51重量%、塩化ビニリデン48重量%及びp-スチレンスルホン酸ソーダ1重量%からなるアクリル系共重合体をジメチルホルムアミドに樹脂濃度が30重量%になるように溶解させた。得られた樹脂溶液に、樹脂重量100重量部に対して5重量部の酸化チタン基材に担持したアンチモンドープ酸化スズ(Ti-ATOと称す場合がある)(石原産業社製、品名「ET521W」)と10重量部の三酸化アンチモン(Sb、日本精鉱社製、品名「Patox-M」)と5重量部の酸化チタン(堺化学工業社製、品名「R-22L」)を添加し、紡糸原液とした。得られた紡糸原液をノズル孔径0.08mm及び孔数300ホールのノズルを用い、50重量%のジメチルホルムアミド水溶液中へ押し出して凝固させ、次いで水洗した後120℃で乾燥し、乾燥後に3倍に延伸してから、さらに145℃で5分間熱処理を行うことにより、アクリル系繊維を得た。得られた製造例1のアクリル系繊維は、繊度1.7dtex、強度2.4cN/dtex、伸度25%、カット長51mmであった。実施例及び比較例において、アクリル系繊維の繊度、強度及び伸度は、JIS L 1015に基づいて測定した。製造例1のアクリル系繊維内部にATOを含み、アクリル系繊維重量に対するTi-ATOの含有量は4.2重量%であった。
【0039】
<アクリル系繊維の製造例ii>
得られた樹脂溶液に、樹脂重量100重量部に対して10重量部の三酸化アンチモン(Sb、日本精鉱社製、品名「Pat ox-M」)を添加し、紡糸原液とした以外は、製造例1と同様にして、アクリル系繊維を得た。得られた製造例2のアクリル系繊維は、繊度1.7dtex、強度2.6cN/dtex、伸度27%、カット長51mmであった。
【0040】
<アクリル系繊維の製造例iii>
得られた樹脂溶液に、樹脂重量100重量部に対して2.6重量部のカーボンブラック(CB、CABOT製、品名「BLACK PEARLS」)と10重量部の三酸化アンチモン(Sb、日本精鉱社製、品名「Patox-M」)を添加し、紡糸原液とした以外は、製造例1と同様にして、アクリル系繊維を得た。得られた製造例2のアクリル系繊維は、繊度1.7dtex、強度2.2cN/dtex、伸度24%、カット長51mmであった。
【0041】
<紡績糸の製造例1~7>
上記製造例i~iiiで得られたアクリル系繊維、セルロース系繊維(レンチング社製の「Tencel(商標登録)」、繊度1.4dtex、カット長38mm、以下において「Lyocell」と記す)、赤外線吸収剤を含有するセルロース系繊維(オーミケンシ社製の「Solar Touch(商標登録)」、繊度1.4dtex、カット長38mm)、ポリエステル系繊維(帝人フロンティア社製の「テトロン(商標登録)」、繊度1.7dtex、カット長38mm以下において「Solar touch」と記す)、パラアラミド繊維(Yantai Tayho Advanced Materials Co.,LTD製、品名「Taparan(商標登録)」、繊度1.7dtex、カット長51mm、以下において「p-Aramid」と記す)、及びメタアラミド繊維(帝人社製、品名「コーネックス(商標登録)」、繊度1.7dtex、カット長51mm、以下において「m-Aramid」と記す)を下記表1に示す割合で混合し、リング紡績により紡績し、全て英式綿番手20番の混紡糸を製造した。
【0042】
【表1】

【0043】
(透過率)
布帛の透過率は、日本分光株式会社製のV-770型分光光度計により波長250~2500nmの透過率(%)を測定し、その平均値を求めた。バンド幅は5nm(250~850nm)、20nm(850~2500nm)であった。
【0044】
(遮熱率)
布帛が赤外線を照射された際の遮熱率を評価する方法は以下に基づき求め、遮熱性試験は以下の条件で実施した。
測定環境 :20℃×65%RH
光源の種類:人工太陽照明灯 SERIC社製 XC-500EFSS
照度:10万lux
布帛裏面から10cm離れた場所に温度センサーを取り付けた黒体を設置し、光源を20分間照射した後の温度変化を測定した。さらに、式(2)を用いて遮熱率を算出した。
(A―B)/A×100 (%) 式(2)
A:布帛が無い場合の黒体温度(℃)、B:布帛が有る場合の黒体温度(℃)
【0045】
(難燃性)
限界酸素指数(LOI値)をJIS-L 1091 酸素指数による燃焼性の試験方法に準拠した形で測定した。
【0046】
(実施例1)
製造例1の紡績糸を用いて2/1綾組織の織物を作製した。打ち込み本数は、たて糸は76本/1インチとし、よこ糸は54本/1インチとし、目付が5.5oz/ydであった。実施例1で得られた織物の平均透過率は10.9%、遮熱率は45%であった。得られた結果等は表2に示す。
【0047】
(実施例2)
製造例2の紡績糸を用いて2/1綾組織の織物を作製した。打ち込み本数は、たて糸は80本/1インチとし、よこ糸は60本/1インチとし、得られた織物の目付は5.0oz/ydであった。
【0048】
(実施例3)
製造例3の紡績糸を用いたこと以外は実施例1と同様にして織物を作製した。得られた織物の目付は5.5oz/ydであった。
【0049】
(実施例4)
製造例4の紡績糸を用いたこと以外は実施例1と同様にして織物を作製した。得られた織物の目付は5.8oz/ydであった。
【0050】
(比較例1)
製造例5の紡績糸を用いたこと以外は実施例1と同様にして織物を作製した。得られた織物の目付は5.8oz/ydであった。
【0051】
(比較例2)
製造例6の紡績糸を用いたこと以外は実施例2と同様にして織物を作製した。得られた織物の目付は5.9oz/ydであった。
【0052】
(比較例3)
製造例7の紡績糸を用いたこと以外は実施例2と同様にして織物を作製した。得られた織物の目付は5.0oz/ydであった。
【0053】
【表2】
【0054】
表2から分かるように、本発明の赤外線吸収剤を含む難燃性布帛は、近赤外線の透過率が低く、当該布帛の温度上昇が抑制され、遮熱率も高くなった。