(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021094
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】草刈機
(51)【国際特許分類】
A01D 34/64 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
A01D34/64 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123664
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000223698
【氏名又は名称】フジイコーポレーション株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤井 大介
(72)【発明者】
【氏名】山崎 敏栄
(72)【発明者】
【氏名】塚田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】栗原 信
(72)【発明者】
【氏名】中川 勝己
【テーマコード(参考)】
2B083
【Fターム(参考)】
2B083AA02
2B083BA12
2B083BA15
2B083BA18
2B083DA02
2B083DA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】小型乗用草刈り機の降坂速度制御で、技術指向型から一線を画し、作業者の運動感覚、体調、性格、好み、癖、などそれぞれ固有の能力に応じたHSTレバーのアシストを行い、登坂走行に絡む下り速度制御を実現し、初心者から熟練者まで使いやすく、安定性、安全性に優れた草刈り機を提供する。
【解決手段】電子制御HSTに構成した小型乗用草刈機で、傾斜センサ角度と、HSTレバー回動位置とを制御ユニットに機械学習させ、作業者の下り走行速度を調整するように電子制御HSTをAI制御するようにし、作業者に応じた下り走行アシストが出来るようにAI制御するようにした。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン又はモータを搭載し、左右一対の操舵前輪と駆動後輪または駆動前輪または駆動前後輪または駆動履帯と、機体中央部または機体前部に刈取部とを配設した小型乗用草刈機で、走行駆動用変速機構にHST(Hydoro Static Transmission)を使用し、HSTの油圧ポンプ側の斜板調整軸(トラニオン軸)にアクチュエータを連結し、該アクチュエータの回転変速またはストローク変速により回動調整させるように電子制御HSTに構成した小型乗用草刈機において、機体の略中心位置に走行方向に対し上下方向の傾斜角検知手段(即、傾斜センサ)を設け、下り走行の時の、該傾斜センサ角度と、HSTレバー回動位置とを制御ユニットに読み取り、下り走行速度を調整するように電子制御HSTを制御するようにし、傾斜地の安定した安全な下り走行が出来るように構成した小型乗用草刈機。
【請求項2】
前記下り走行速度調整が出来るようにした小型乗用草刈機において、前記傾斜センサ角度が設定値を超え下り走行に入った時のHSTレバー操作回動角度と、前記傾斜センサ角度が設定値内に戻り略水平走行に入った時のHSTレバー操作回動角度とを、制御ユニットに読み取り、操縦者の下り走行におけるHSTレバー操縦操作を制御ユニットに機械学習させ、制御ユニットに予め入力されている下り走行におけるHSTレバー操縦操作の全教師データと照合し、該操縦者の下り走行時の制御パラメータを決め、該操縦者の下り走行速度を調整するように電子制御HSTをAI制御するようにし、操縦者に応じた下り走行アシストが出来るようにした請求項1に記載する小型乗用草刈機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は草刈機または類機の芝刈機の中で主に小形乗用タイプのもので、その走行安全性と作業性の向上に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
小型乗用草刈機は国内では従来ほとんどが4輪の後輪駆動-前輪操舵型で普及している。駆動操縦系としてはこれが一般的であるが、不整地を考慮した4輪駆動型、また車輪駆動型よりは少ないが履帯駆動型もある。また更に草刈機はほとんどの場合、他の農業機械もそうであるが、走行速度制御にHST(Hydoro Static Transmission)が使用される。従来はこのHSTの調整軸を一本のレバー操作で回動させ走行速度や前後進のコントロールを行っていた。制御技術が年々高度化していく現在、HSTの電子制御化により、より高い安全性と作業性の向上が求められる時代になっている。
【特許文献1】特開2008-290512
【特許文献2】特願2022-009789
【特許文献3】特開2006-111034
【特許文献4】特開2018-135042
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
乗用の草刈機は他の農業機械のようにほとんどが整備された平坦な圃場を作業走行するのに比べ、圃場とその周辺域も含め場所を選ばず草刈作業走行する場合が多い。特に低床の小型乗用草刈機の場合は、よほどのことでない限り地形にかまわず走行することが出来る。そのため熟練者に至っては、圃場の法面乗り越しなど、急勾配の上り下りも当たり前のように操縦してしまう為、従来から傾斜地走行時の危険性が言われていた。小型乗用草刈機の基本操縦姿勢は、左手でハンドルを握り走行方向を、右手でHSTレバーを握り、発進、停止、前後進、走行速度、等を操縦するのが基本である。ブレーキは駐車用で走行制動用ではない。自動車のアクセル減加速やブレーキ減速、エンジンブレーキ減速などに相当する操作はHSTレバー操作しかなく、四輪のハンドル操作の自動車に構造は似ているが操縦方法は異なる。この点が初心者には面食らうところであり、ある程度の習熟者でも操縦操作に慣れない内は危険性を伴う。上り下りにおいてもそうである。本出願人は先に小型乗用草刈機用の電子制御HSTを開発した(特許文献2)。本願はその優れた性能を充分に生かし、走行速度制御でこのHSTレバーの操作をアシストし、特に傾斜地での危険の伴う下り走行時の走行安定制御技術を実現する。いわゆる草刈機の降坂速度制御であるが、通常の自動車や移動機械における降坂速度制御(例えば特許文献3又は4)にみられる高性能を追い求める従来の技術指向型から一線を画し、使用者それぞれに適したアシストを行うことを開発の基本とした。出願人も電子制御技術がまだ脆弱だった15年前、機構的にHSTを制御し、作業性と安全性の向上を試みたことがあったが(特許文献1)、画一的技術者本意のものだった。時を経て意識が大きく変わってきている今日、使用者の性格、好み、癖、などそれぞれ固有の能力に応じたHSTレバーのアシストを行い、登坂走行に絡む走行速度制御を実現し、初心者から熟練者まで使いやすく、安定性、安全性に優れた草刈機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために本発明において講じた手段は、エンジン又はモータを搭載し、左右一対の操舵前輪と駆動後輪または駆動前輪または駆動前後輪または駆動履帯と、機体中央部または機体前部に刈取部とを配設した小型乗用草刈機で、走行駆動用変速機構にHST(Hydoro Static Transmission)を使用し、HSTの油圧ポンプ側の斜板調整軸(トラニオン軸)にアクチュエータを連結し、そのアクチュエータの回転変速またはストローク変速により回動調整させるようにし、HSTレバー機構部に回転センサによる、レバー回動位置検知手段を設け、さらにアクチュエータによる斜板調整軸の回動駆動機構部に回転センサによる斜板調整軸回動位置検知手段を設け、HSTレバーの回動位置に相当した速度の斜板調整軸位置になるよう制御ユニットによりアクチュエータの回転またはストロークを制御するようにシフト・バイ・ワイヤ制御構成の電子制御HSTに構成した小型乗用草刈機において、機体のほぼ中心位置に走行方向に対し上下方向の傾斜角検知手段(即、傾斜センサ)を設け、下り走行の時の、その傾斜センサ角度と、HSTレバー回動位置とを制御ユニットに読み取り、下り走行速度を調整するように電子制御HSTを制御するようにした。
【0005】
そして傾斜センサ角度が設定値を超え下り走行に入った時のHSTレバー操作回動角度と、前記傾斜センサ角度が設定値内に戻り略水平走行に入った時のHSTレバー操作回動角度とを、制御ユニットに読み取り、操縦者の下り走行におけるHSTレバー操縦操作を制御ユニットに機械学習させ、制御ユニットに予め入力されている下り走行におけるHSTレバー操縦操作の全教師データと照合し、その操縦者の下り走行時の制御パラメータを決め、その操縦者の下り走行速度を調整するように電子制御HSTをAI制御するようにし、操縦者に応じた下り走行アシストが出来るようにした。
【発明の効果】
【0006】
本発明は上記手段を施したことにより以下の効果を有する。
【0007】
傾斜地での下り走行が安定し安全性が高まる。
【0008】
作業者それぞれに応じた学習制御するので、使用時間と共に作業者に馴染んだ草刈機になっていくため、より作業能率と作業走行安全性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
開発初期、速度センサも搭載し制御パラメータにしていたが、狙いとするところは理想的な速度制御をすることではなく、操縦者の操縦操作をアシストすることで、操縦者に応じた安定した走行が出来るようにすることであり、実際に操作するHSTレバーに絞った結果、最もシンプルなハード構成になった。
【実施例0010】
本発明の第一実施例を添付図面に基づいて説明する。
図1は本発明車輪型草刈機の実施例で左斜視図、
図2はその左側面図と平面図、
図3に走行駆動機構の平面透視図を示し、
図4にHST調整軸のモータ駆動機構の詳細を示す、
図5にHSTレバー機構の詳細を示す。走行駆動用変速機4は本出願人の車輪型草刈機の中での最上位機種で4輪駆動のものを示している(
図3)。速度調整のHST5はこれに直結され、その調整軸52を回動駆動する調整軸モータ53も走行駆動用変速機4に、剛性の高いブラケット(図省略)で固定している。HST調整軸52側に回動用の調整軸アーム521を、調整軸モータ53側にモータアーム531を固定し、それらアーム間を緩衝バネを含む調整軸リンク522で回動自在に連結し3節リンク構成にし、調整軸の回動をモータで制御している(
図4)。
【0011】
調整軸アーム521には別にセンサアームb523に回動自在に連結するアームが出ており、調整軸の回動変位をセンサアームb523に固定した、HST調整軸回動センサS2の回動軸に伝導し、センサは回動変位信号を制御ユニット9(
図1、
図3)へ送出する。制御動作は制御ユニット9の設定した調整軸回動センサS2の値になるよう調整軸モータ53が動作する。
【0012】
HSTを操作するHSTレバー51は操作回動軸に、プリー&プーリーブレーキ514とHSTレバーアーム511を固定し回動自在に軸支している(
図5)。HSTレバー51は運転中はプーリーブレーキが働き回動操作位置で止まっていて(即ち操作速度維持)、ブレーキペダル54が操作された場合、また本願実施例には無いが走行クラッチが断操作された場合に、プーリーブレーキが解除されニュートラル位置にスプリングリターンしリセットされる機構で、電磁ブレーキやモータなどを使用するジョイステックに比べシンプルな機構で、HSTを使用する農機、建機などで広く一般的に使用されているものである。
【0013】
HSTレバーアーム511にはリンクロッド512の一端が回動自在に連結され、もう一端がセンサーアームa513に回動自在に連結しており、センサアームa513に軸固定したHSTレバー回動センサS1を回動させ、HSTレバー51の回動操作が回動センサS1に伝導される。回動センサS1は制御ユニット9にHSTレバー51操作位置、即ち操縦者の速度設定値を送信し、その設定速度になるようHST調整軸回動センサS2の値を設定し、その値になるよう調整軸モータ53を駆動する(
図4)。
【0014】
HST調整軸52を調整軸モータ53で回動駆動するのに、ギヤトレーン駆動にせず、1節に緩衝バネを含む3節リンクを使用したのは、開発中の全くの偶然だったが、草刈走行負荷変動から来る調整軸からのトルク反力の変動に対し、ギヤ駆動機構にはない優れた緩衝効果(結果、ソフトスタート、ソフトストップ、ソフト加速、ソフト減速などの効果)がある。
以上、このシフト・バイ・ワイヤ制御構成にした電子制御HSTは出願人が構想から約20年を経て、先に開発した(特許文献2)ものである。
【0015】
図6に傾斜センサ機構の詳細を示す。シート下、シートスプリングの手前で、ちょうど尻の真下位置に装着している。操縦者の傾斜体感位置として最適な場所である。センサは2軸出力で機体進行方向上下傾斜角と機体左右傾き角を検知出来、進行方向水平0度に対し+5度(上り)-25度(下り)を計測するように前下がりに傾けて装着している。左右傾き出力は本願では使用していない。この傾斜センサは出願人が既存のセンサ素子を利用して開発し、ダイナミックレンジを広げたものである。
【0016】
以上の構成で本願発明の「AIスロープ制御」(=降板速度制御)第1実施例について説明する。小型乗用草刈機の基本操縦姿勢は、左手でハンドルを握り走行方向を、右手でHSTレバーを握り、始動、停止、前後進、走行速度、等を操縦するのが基本である。ブレーキは駐車用で走行制動用ではない。自動車のアクセル減加速やブレーキ減速、エンジンブレーキ減速などに相当する操作はHSTレバー操作しかなく、四輪のハンドル操作の自動車に構造は似ているが操縦方法は異なる。この点が初心者にはやや面食らうところであるが、現在では製造メーカー皆同様の構造で淘汰している。公道走行の出来ない低速(最高速約10~12km/h)の作業機故、シンプルな構造になっている。とはいえ草刈機は他の農業機械に比べ比較的スピードの出せる設定になっている。移動時の効率性からであるが高速走行した場合、傾斜地の勾配によっては操縦姿勢が不安定になり転倒や最悪機体から放り出される危険性がある。
【0017】
制御パラメータは操縦者のHSTレバー51操作、即ちHSTレバー回動センサS1の値に、傾斜センサS3の検知角度を、制御速度に応じて数段階に分け、それぞれの下り走行状況に減速速度制御の緩急レベルを制御出力であるHST調整軸モータ53の駆動量、即ちHST調整軸回動センサS2の目標値に対応する全ての制御パターンの模範データ(教師データ)を作成した。これに当初、車速センサ信号も制御パラメータに入れていたが、試験走行評価していくにつれ、開発の狙いが曖昧になってしまうことがわかり途中から削除した。本出願人の意図したところは、機能性能優先の従来の技術指向型とは一線を画し、作業者それぞれに適したアシストを行い、作業者の運動感覚、体調、性格、好み、癖、などそれぞれ固有の能力に応じた操縦アシストを実現し、理想的な安全性、安定性を実現することにある。
【0018】
制御の目的は技術者指向の理想的な絶対安全下り走行を行う(行わせる)ことではなく、あくまでも操縦者の操縦好み、操縦癖に沿うように制御する。熟練者には平気(安全)な下り速度であったとしても、初心者にとっては怖い(危険を感ずる)下り速度かもしれない。それ故に、操縦者それぞれに合った制御を行うことを目指した。このことを突き詰めていき、操縦者が下りでHSTレバー51をどのように操作しているかが問題であり、車速そのものはあまりアシスト制御に関係なく、むしろ邪魔になるくらいだということに突き当たった。これは車速センサの無い速度制御になり、実に画期的なことである。
【0019】
始動走行し下り傾斜地に入ると、即ち傾斜センサS3が設定値を超えると、制御ユニット9は操縦者の下り走行操縦の仕方を読み始める。傾斜角度は下り数段階に分けたいずれか、その時の操縦者の操作速度(HSTレバー回動センサS1値)は、下り走行中のHSTレバー操作はそのままか、加速か、減速か。下り走行域を脱し水平走行に戻ったときのHSTレバー操作はそのままか、加速か、減速か。これを何回か読み取り学習し、入力してある下り走行制御全パターンの教師データと照合し、数段階の各下り傾斜角度におけるその操縦者の基準下り走行操縦パターンを決める。その後、その操縦者の下り速度制御に入るが、制御は減速のみで加速はしないようにしている。安全性、安定性がねらいであり、機械性能(走行性能)追求ではない所以である。仮に加速した場合熟練者は違和感を持ち、初心者はパニックになってしまう。
【0020】
操縦者の基準下り走行操縦パターンを決定後の制御開始後は、下り走行に入った時、操縦者の基準パターンよりHSTレバー51の位置がオーバースピード側になっていた場合、一端、基準パターンのHSTレバー51の位置に相当する速度に制御ユニット9はHST5を減速する、下り傾斜域脱出手前で操縦者の設定したHSTレバー51位置に相当する速度に戻す。また下り走行中、HSTレバー51が操作され、操縦者の基準パターンである、その時の傾斜角度におけるHSTレバー51位置を超え更に加速側に操作した場合も同様に、一端、基準パターンのHSTレバー51の位置に相当する速度に減速し、下り傾斜域脱出手前で操縦者の設定したHSTレバー51位置に相当する速度に戻す。下り傾斜域脱出手前から水平走行(即ち、傾斜角0度)になるまで約1秒で速度回復するようにしている。一方、下り傾斜侵入時のHSTレバー51の位置が基準パターンよりアンダースピード側になっていた場合、及び下り走行中、HSTレバー51がアンダースピード側に操作された場合は何もせず、操縦意志のままにしている。
【0021】
この下り走行中の減速制御はもちろん安全性の為であるが、操縦者の普段の下り速度に戻すことであり、さほど違和感は与えない。また下り傾斜域脱出時の速度制御も、操縦者の操作したHSTレバー51の位置に相当する速度に戻すことであり、一見加速制御のようだが、危険回避のための減速から、もともと操縦者が設定した速度に戻すことであり、加速制御には当たらず、さほど違和感は与えない。
【0022】
この最初の始動走行し始めから下り走行操縦の仕方を読みとり学習し、その操縦者の基準旋回走行操縦パターンを決めるまで、初心者から熟練者5人で試験評価したところ、約10回ほどのの読み取り学習で充分であることが解り、操縦者の途中の入れ替わりにも充分対応出来ることも解った。
【0023】
以上、出願人が先に開発した(特許文献2)電子制御HSTの優れた性能を充分に生かし、走行速度制御で特に傾斜地での下り走行安定性を理想的に実現する、降板速度制御技術を開発した。この制御は決して設計者の意図する画一的なものではなく、作業者それぞれの下り走行操縦の仕方を読みとり学習するAI制御により、作業者の運動感覚、体調、性格、好み、癖、などそれぞれ固有の能力に応じた操縦アシスト(下り速度制御)を行う為、それぞれの作業者に応じた安全性、安定性に優れたものになっただけではなく、熟練者にはより熟練度のアップに、初心者、未熟練者には習熟度のアップにもなり、初心者から熟練者まで、誰でも操作しやすいものになった。