IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 神鋼鋼線工業株式会社の特許一覧

特開2024-21095防食工法およびその防食工法が施された構造用ケーブル
<>
  • 特開-防食工法およびその防食工法が施された構造用ケーブル 図1
  • 特開-防食工法およびその防食工法が施された構造用ケーブル 図2
  • 特開-防食工法およびその防食工法が施された構造用ケーブル 図3
  • 特開-防食工法およびその防食工法が施された構造用ケーブル 図4
  • 特開-防食工法およびその防食工法が施された構造用ケーブル 図5
  • 特開-防食工法およびその防食工法が施された構造用ケーブル 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021095
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】防食工法およびその防食工法が施された構造用ケーブル
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/16 20060101AFI20240208BHJP
   G01N 17/00 20060101ALI20240208BHJP
   G01N 19/10 20060101ALI20240208BHJP
   G01N 31/00 20060101ALI20240208BHJP
   E01D 11/02 20060101ALI20240208BHJP
   E01D 11/04 20060101ALI20240208BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
E01D19/16
G01N17/00
G01N19/10 A
G01N31/00 B
E01D11/02
E01D11/04
E01D22/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123670
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000192626
【氏名又は名称】神鋼鋼線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】久保 隆史
(72)【発明者】
【氏名】岡田(成子) 実花
(72)【発明者】
【氏名】堀井 智紀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 実
【テーマコード(参考)】
2D059
2G042
2G050
【Fターム(参考)】
2D059AA42
2D059BB06
2D059BB08
2D059GG02
2D059GG23
2D059GG39
2G042BB01
2G042CA10
2G042DA08
2G042FA11
2G042FB05
2G050AA01
2G050EB07
(57)【要約】
【課題】構造用ケーブルの防食工法の施工後において定期的または不定期的に構造用ケーブルの構成部品についての劣化等の状況を容易に視認して確認できるようにする。
【解決手段】構造用ケーブルの防食工法は、吊橋および斜張橋を含む吊構造物に使用されている屋外露出された構造用ケーブルの防食工法であって、構造用ケーブルを、互いに接着可能で防水機能を備える樹脂薄膜であって剥離可能な樹脂薄膜の一例である防食テープ150により、水分検出素材122とともに包み込んで覆い、経年劣化確認として(定期的にまたは非定期的に防食テープ150を取り換える等の際に)構造用ケーブルに覆われた防食テープ150を剥離して、構造用ケーブルの防食度合いを水分検出素材122の変色や変質(形状変化)等の変性を視認等することにより確認する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋外露出された既設の防食対策が必要な対象物または屋外露出される新設の防食対策が必要な対象物の防食工法であって、前記対象物は一方向である長手方向が他の方向に比べて長い形状を備え、
前記対象物を、互いに接着可能で防水機能を備える樹脂薄膜であって剥離可能な樹脂薄膜により、水分検出素材とともに包み込んで覆い、
経年劣化確認として前記対象物に覆われた樹脂薄膜を剥離して、前記対象物の防食度合いを確認することを特徴とする、防食対策が必要な対象物の防食工法。
【請求項2】
吊橋および斜張橋を含む吊構造物に使用され、屋外露出された既設の構造用ケーブルまたは屋外露出される新設の構造用ケーブルの防食工法であって、
前記構造用ケーブルを、互いに接着可能で防水機能を備える樹脂薄膜であって剥離可能な樹脂薄膜により、水分検出素材とともに包み込んで覆い、
経年劣化確認として前記構造用ケーブルに覆われた樹脂薄膜を剥離して、前記構造用ケーブルの防食度合いを確認することを特徴とする、防食工法。
【請求項3】
前記水分検出素材は、前記対象物または前記構造用ケーブルと前記樹脂薄膜との間に充填される充填剤とともに設けられることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の防食工法。
【請求項4】
前記水分検出素材は、前記対象物または前記構造用ケーブルの長手方向に沿って前記樹脂薄膜に覆われる部分に設けられることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の防食工法。
【請求項5】
前記水分検出素材は、前記対象物または前記構造用ケーブルの長手方向に沿って前記樹脂薄膜に覆われる部分の一部に設けられ、
前記対象物または前記構造用ケーブルの長手方向に沿って前記樹脂薄膜に覆われる部分に、前記水分検出素材に接触するように、導水性部材がさらに設けられることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の防食工法。
【請求項6】
前記樹脂薄膜はテープ状であって、前記テープ状の樹脂薄膜をテープ幅の少なくとも一部を重ね合わせて前記対象物または前記構造用ケーブルに螺旋状に巻き付けることにより、前記対象物または前記構造用ケーブルを前記テープ状の樹脂薄膜により包み込んで覆うことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の防食工法。
【請求項7】
吊橋および斜張橋を含む吊構造物に使用され、屋外露出された既設の構造用ケーブルまたは屋外露出される新設の構造用ケーブルの防食工法であって、
前記構造用ケーブルを、互いに接着可能で防水機能を備える樹脂薄膜により、水分検出素材および前記水分検出素材の変性を検出するセンサとともに包み込んで覆い、
経年劣化確認として前記センサにより前記構造用ケーブルの防食度合いを確認することを特徴とする、防食工法。
【請求項8】
吊橋および斜張橋を含む吊構造物に使用され、屋外露出された既設の構造用ケーブルまたは屋外露出される新設の構造用ケーブルの防食工法であって、
前記構造用ケーブルを、互いに接着可能で防水機能を備える樹脂薄膜により、水分を検出するセンサとともに包み込んで覆い、
前記センサは、前記樹脂薄膜を剥離して、または、前記樹脂薄膜を剥離することなく、計測機器に接続可能であって、
経年劣化確認として前記センサおよび前記計測機器により前記構造用ケーブルの防食度
合いを確認することを特徴とする、防食工法。
【請求項9】
請求項2、請求項7、請求項8のいずれかに記載の防食工法が施された、吊橋および斜張橋を含む吊構造物に使用されている屋外露出された構造用ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋外露出された既設の防食対策が必要な対象物または屋外露出される新設の防食対策が必要な対象物(特にその対象物が吊橋や斜張橋などの吊構造物に使用され、屋外露出された既設の構造用ケーブルまたは屋外露出される新設の構造用ケーブル)の防食技術に関し、特に、対象物の一例であるこのような構造用ケーブルの腐食を予防する場合に、または、構造用ケーブルが腐食した場合に(腐食が軽度で取替えが困難なときには特にその構造用ケーブルを取り替えるのではなく)、対象物の一例である構造用ケーブルの延命策を図る防食工法およびその防食工法が施された構造用ケーブルに関する。なお、本発明に係る防食工法が好適に適用される対象物は、このような構造用ケーブルに限定されるものではなく、屋外露出された既設の防食対策が必要な物または屋外露出される新設の防食対策が必要な物であれば、たとえば、金属製パイプ等であっても構わない。
【背景技術】
【0002】
防食工法が好適に適用される対象物の一例である、吊橋や斜張橋に使用される構造用ケーブルは、屋外の厳しい気候条件にさらされるため、錆びなどの劣化を防ぐために塗装などが必要となる。従来、構造用ケーブルは耐候性のある塗料で塗装されていたが、塗装された構造用ケーブルがさらされる厳しい気候条件のために定期的な再塗装が必要な場合があり得た。しかしながら、このような構造用ケーブルは吊橋や斜張橋などの高い位置の主塔に設けられている等に起因する構造用ケーブルへのアクセス性の悪さのために、この再塗装には相当に高額の費用が必要であった。また、適切に再塗装するためには、再塗装前に既存の塗料を除去する必要があり、さらに費用が上昇することになっていた。
【0003】
このような再塗装による補修に対して、最近では、ネオプレンなどのポリクロロプレン製の被覆材(この被覆材の形状としてはたとえば螺旋状に巻き付けやすいテープ状)を、1の吊構造物であっても箇所により長さが異なる構造用ケーブルに螺旋状に巻き付けることで、このような構造用ケーブルをより永続的に屋外露出から守ることができることがわかってきた。しかしながら、この種のネオプレン製の被覆材は、それが使用される吊構造物(吊橋や斜張橋等)における構造用ケーブル以外の他の要素(桁、主塔、ハンガー等)と外観を一致させたり調和させたりする必要があるが、通常は適切に施工前に着色することができない。そのため、橋梁構造用ケーブルをネオプレン製の被覆材で螺旋状に巻いた後、被覆材の外面を塗装することで、構造用ケーブルと他の橋梁要素との間で適切な色合わせを行うことになるが、このような塗装工程は非常に手間がかかるため、非常に高価である。
【0004】
さらに、吊橋の構造用ケーブルをネオプレン製の被覆材(テープ)で螺旋状に巻く際には、被覆材(テープ)の各ターンを先行するターンにしっかりと接着して、その間の継ぎ目を適切にシールし、それによってカバーと構造用ケーブルの間の界面に湿気やほこりが侵入するのを防ぐことが重要である。このタイプのネオプレン製の被覆材を(テープ状の被覆材を構造用ケーブルに螺旋状に巻き付けて)使用する場合、被覆材(テープ)の連続したターンの間にかなりのオーバーラップを設け、溶剤を使用してオーバーラップした層を互いに接着することで、確実に、かつ、十分にシールできることが知られていた。しかしながら、溶剤の塗布は手間がかかるため高価であり、また、多くの溶剤は環境面、健康面および安全面で問題があるために、その取り扱いや廃棄には細心の注意が必要である。
【0005】
このような種々の問題点に鑑みて、米国特許第5390386号明細書(特許文献1)は、吊橋や斜張橋に用いられる屋外露出された構造用ケーブルに対して、柔軟でかつ適切な合成ゴムのクロロスルホン化ポリエスチレン材料により構造用ケーブルを螺旋状に巻き付けて包むことにより、厳しい気候条件への曝露から有利に保護することができる防食工法を開示する。この特許文献1に開示された防食工法は、吊橋または斜張橋などで用いられる構造用ケーブルに対して、柔軟な合成ゴムのテープ(クロロスルホン化ポリエチレン)を螺旋状に巻き付けて防食する工法であって、その巻き付け方は、テープを半分ずつ重ねてラップ(ハーフラップ)するように巻くことにより均一な厚さの二重層を形成した後にテープを加熱して重ね合わせた層を互いにヒートシールすることで継ぎ目をシールして、かつ、テープも収縮させることにより、構造用ケーブルに確実に、かつ、十分に柔軟な合成ゴムのテープ(クロロスルホン化ポリエチレン)をフィット(一体化)させる。このような防食工法によると、腐食した構造用ケーブルに合成ゴムのテープ(クロロスルホン化ポリエチレン)を巻き付けることによって空気および水分の浸入を抑制し、腐食の進行を遅らせることが可能となる。さらに、このような柔軟な合成ゴムのテープは防食工法を実行する前に着色することができるために、構造用ケーブルに元々着色されていた色と同じ色に柔軟な合成ゴムのテープを着色することにより、構造用ケーブルと他の要素との間で適切に色合わせすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5390386号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された防食工法において、防食に用いるテープ(またはシート)が被覆材として巻き付けられた構造用ケーブルは、被覆材によりケーブル自体が視認することができなくなるために、施工後においては、構造用ケーブルの構成部品についての劣化等の状況(構造用ケーブル(鋼材)自体の発錆有無および進展状況、亜鉛めっきやワックスや防錆塗料などの構造用ケーブル(鋼材)における防錆層の発錆有無および進展状況、PE管(ポリエチレン管)などの外套管の劣化状況等)を視認することができない。そのため、現状では構造用ケーブルの構成部品についての劣化等の状況を確認するために、防食に用いるテープ(またはシート)により形成された被覆材を取り外す必要があり、極めて作業性が悪いという問題点がある。
【0008】
さらに、このように防食に用いるテープ(またはシート)により形成された被覆材を取り外して構造用ケーブルの構成部品についての劣化等の状況を確認する場合において、確実な防食を実現するためには構造用ケーブルに対する水分の遮断の確認が非常に重要となる。しかしながら、特許文献1に開示された防食工法においては、被覆材を取り外して確認したところで、構造用ケーブルに対する水分の遮断が確実であるか否かを容易に確認することができない。
【0009】
本発明は、従来技術の上述の問題点に鑑みて開発されたものであり、その目的とするところは、吊橋や斜張橋などの吊構造物に使用され、屋外露出された既設の構造用ケーブルまたは屋外露出される新設の構造用ケーブル等の防食対策が必要な対象物の防食工法であって、このような構造用ケーブル等の腐食を予防する場合に、または、構造用ケーブル等が腐食した場合に(腐食が軽度で取替えが困難なときには特にその構造用ケーブル等を取り替えるのではなく)、構造用ケーブル等の延命策を図る防食工法の施工後において定期的または不定期的に構造用ケーブル等の構成部品についての劣化等の状況を容易に視認して確認することができるとともに、その防食工法が施された構造用ケーブルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る防食工法およびその防食工法が施された構造用ケーブルは、以下の技術的手段を備える。
【0011】
すなわち、本発明のある局面に係る防食工法は、屋外露出された既設の防食対策が必要な対象物または屋外露出される新設の防食対策が必要な対象物の防食工法であって、前記対象物は一方向である長手方向が他の方向に比べて長い形状を備え、前記対象物を、互いに接着可能で防水機能を備える樹脂薄膜であって剥離可能な樹脂薄膜により、水分検出素材とともに包み込んで覆い、経年劣化確認として前記対象物に覆われた樹脂薄膜を剥離して、前記対象物の防食度合いを確認することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の別の局面に係る防食工法は、吊橋および斜張橋を含む吊構造物に使用され、屋外露出された既設の構造用ケーブルまたは屋外露出される新設の構造用ケーブルの防食工法であって、前記構造用ケーブルを、互いに接着可能で防水機能を備える樹脂薄膜
であって剥離可能な樹脂薄膜により、水分検出素材とともに包み込んで覆い、経年劣化確認として前記構造用ケーブルに覆われた樹脂薄膜を剥離して、前記構造用ケーブルの防食度合いを確認することを特徴とする。
【0013】
好ましくは、前記水分検出素材は、前記対象物または前記構造用ケーブルと前記樹脂薄膜との間に充填される充填剤とともに設けられるように構成することができる。
【0014】
さらに好ましくは、前記水分検出素材は、前記対象物または前記構造用ケーブルの長手方向に沿って前記樹脂薄膜に覆われる部分に設けられるように構成することができる。
【0015】
さらに好ましくは、前記水分検出素材は、前記対象物または前記構造用ケーブルの長手方向に沿って前記樹脂薄膜に覆われる部分の一部に設けられ、前記対象物または前記構造用ケーブルの長手方向に沿って前記樹脂薄膜に覆われる部分に、前記水分検出素材に接触するように、導水性部材がさらに設けられるように構成することができる。
【0016】
さらに好ましくは、前記樹脂薄膜はテープ状であって、前記テープ状の樹脂薄膜をテープ幅の少なくとも一部を重ね合わせて前記対象物または前記構造用ケーブルに螺旋状に巻き付けることにより、前記対象物または前記構造用ケーブルを前記テープ状の樹脂薄膜により包み込んで覆うように構成することができる。
【0017】
また、本発明の別の局面に係る防食工法は、吊橋および斜張橋を含む吊構造物に使用され、屋外露出された既設の構造用ケーブルまたは屋外露出される新設の構造用ケーブルの防食工法であって、前記構造用ケーブルを、互いに接着可能で防水機能を備える樹脂薄膜により、水分検出素材および前記水分検出素材の変性を検出するセンサとともに包み込んで覆い、経年劣化確認として前記センサにより前記構造用ケーブルの防食度合いを確認することを特徴とする。
【0018】
また、本発明の別の局面に係る防食工法は、吊橋および斜張橋を含む吊構造物に使用され、屋外露出された既設の構造用ケーブルまたは屋外露出される新設の構造用ケーブルの防食工法であって、前記構造用ケーブルを、互いに接着可能で防水機能を備える樹脂薄膜により、水分を検出するセンサとともに包み込んで覆い、前記センサは、前記樹脂薄膜を剥離して、または、前記樹脂薄膜を剥離することなく、計測機器に接続可能であって、経年劣化確認として前記センサおよび前記計測機器により前記構造用ケーブルの防食度合いを確認することを特徴とする。
【0019】
また、本発明の別の局面に係る防食工法が施された構造用ケーブルは、上述したいずれかに記載の防食工法が施された、吊橋および斜張橋を含む吊構造物に使用されている屋外露出された構造用ケーブルであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る防食工法およびその防食工法が施された構造用ケーブルによると、吊橋や斜張橋などの吊構造物に使用され、屋外露出された既設の構造用ケーブルまたは屋外露出される新設の構造用ケーブル等の防食対策が必要な対象物の防食工法であって、このような構造用ケーブル等の腐食を予防する場合に、または、構造用ケーブル等が腐食した場合に(腐食が軽度で取替えが困難なときには特にその構造用ケーブル等を取り替えるのではなく)、構造用ケーブル等の延命策を図る防食工法の施工後において定期的または不定期的に構造用ケーブル等の構成部品についての劣化等の状況を容易に視認して確認することができるとともに、その防食工法が施された構造用ケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法において、防食テープにより構造用ケーブルを包み込んで覆う態様であって(A)ハーフラップ未満で螺旋状に巻き付けている状態、(B)ハーフラップで螺旋状に巻き付けている状態を説明するための図である。
図2】本発明の実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法において、防食テープにより構造用ケーブルを包み込んで覆う状態を説明するための図(その1)である。
図3】本発明の実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法において、防食テープにより構造用ケーブルを包み込んで覆う状態を説明するための図(その2)である。
図4】本発明の実施の形態の第2の変形例に係る構造用ケーブルの防食工法において、防食テープにより構造用ケーブルを包み込んで覆う状態を説明するための図である。
図5図4に示す構造用ケーブルの防食工法において、水分浸漬が確認される状態を説明するための図(その1)である。
図6図4に示す構造用ケーブルの防食工法において、水分浸漬が確認される状態を説明するための図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下において、本発明の実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法およびその防食工法が施された構造用ケーブルについて図面を参照して詳しく説明する。なお、本実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法(防食施工方法)が以下に説明する通りに施工された構造用ケーブルが、本発明の実施の形態に係る(防食工法が施された)構造用ケーブルである。なお、以下の説明においては、吊橋や斜張橋などの吊構造物に使用され、屋外露出された既設の構造用ケーブルの防食工法であって、構造用ケーブルが腐食した場合に(腐食が軽度で取替えが困難なときには特にその構造用ケーブルを取り替えるのではなく)、構造用ケーブルの延命策を図る防食工法について説明するが、本発明に係る防食工法が屋外露出された既設の構造用ケーブルに限定して施工されるものではなく、屋外露出される新設の構造用ケーブルの腐食の予防策を図る防食工法として施工されるものであっても構わない。また、防食対象の構造用ケーブルは、ケーブル素線とそのケーブル素線の外周側を覆う外套管(防食目的のためのFRP(強化プラスチック)管やPE(ポリエチレン)管等)を備えるものであっても、このような防食目的のための外套管を備えないでケーブル素線に防食塗料が直接塗布されているものであっても、その他の構造であっても、いずれであっても構わない。
【0023】
ここで、本発明に係る防食工法が好適に適用される対象物は、このような構造用ケーブルに限定されるものではなく、屋外露出された既設の防食対策が必要な物または屋外露出される新設の防食対策が必要な物であれば、たとえば、防食対策が必要な、屋外露出された既設または屋外露出される新設の金属製パイプ等であっても構わない。以下においては、本発明に係る防食工法が好適に適用される対象物は、屋外露出された既設の構造用ケーブル、または、屋外露出される新設の構造用ケーブルであるとして説明する。さらに、防食工法を施工する場合に、互いに接着可能で防水機能を備える樹脂薄膜であって剥離可能な樹脂薄膜により構造用ケーブルを包み込んで覆う際に構造用ケーブルに段差等がある場合にはその段差等を緩和するために充填剤が構造用ケーブルと樹脂薄膜との間に充填されることがある。
【0024】
ここで、以下の説明において参照する図については、本発明の容易な理解のために、基本的には詳細な構造を省略した模式図であって、内部ではなく外形で表現すべき部分であっても内部を透視するように表現している場合があったり、外形ではなく断面で表現すべき部分を外形で表現している場合があったり、断面ではなく外形で表現すべき部分を断面で表現している場合があったりする。
【0025】
本発明の実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法について、図1図3を参照して詳しく説明する。なお、図1は、本実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法において溶着可能な樹脂薄膜として防食テープを採用したものであって、図2および図3は、本実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法において防食テープにより構造用ケーブルを包み込んで覆う状態を説明するための図である。なお、いずれの図に示す場合においても、構造用ケーブルの防食工法において互いに接着可能で防水機能を備える樹脂薄膜であって剥離可能な樹脂薄膜テープ(上述した説明において防食テープと記載した場合があったり、以下の説明において防食テープと記載する場合があったりする)を採用したものであるが、樹脂薄膜がシート状であって、シート状の樹脂薄膜により構造用ケーブルの周囲を覆って構造用ケーブルの長手方向に垂直な方向の両端部を互いに接着することにより構造用ケーブルを包み込んで覆うものであっても構わない。
【0026】
これらの図1図3に示すように、本実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法は、以下の特徴を備える。
【0027】
本実施の形態に係る防食工法は、屋外露出された既設の防食対策が必要な対象物または
屋外露出される新設の防食対策が必要な対象物の防食工法であって、対象物は一方向である長手方向が他の方向に比べて長い形状を備える。上述したように、限定されるものではないが、本発明に係る防食工法の対象物は、吊橋および斜張橋を含む吊構造物に使用され、屋外露出された既設の防食対策が必要な構造用ケーブルまたは屋外露出される新設の防食対策が必要な構造用ケーブルであるとして説明する。本実施の形態に係る防食工法は、このような構造用ケーブルを、互いに接着可能で防水機能を備える樹脂薄膜であって剥離可能な樹脂薄膜により、水分検出素材とともに包み込んで覆うことを前提としている。そして、経年劣化確認として(定期的にまたは非定期的に樹脂薄膜を取り換える等の際に)構造用ケーブルに覆われた樹脂薄膜を剥離して、構造用ケーブルの防食度合いを水分検出素材の変色や変質(変質の一例として形状変化が挙げられる)等の変性を視認等することにより確認することを特徴とする。
【0028】
ここで、互いに接着可能で防水機能を備える樹脂薄膜であって剥離可能な樹脂薄膜の一例として、本願出願人により製造販売されているアンチメック(登録商標)工法に用いられる防食テープを採用することができる。この防食テープは、特殊配合乾性油を主成分としたコンパウンドをプラスチック系の布(この布が樹脂薄膜そのものに相当するといえる場合がある)に含浸させた、構造用ケーブルの防食に適した防食テープである。この防食テープは、太陽の光、熱および酸素を吸収して酸化重合により表面を硬化させ硬化膜を形成する酸化重合硬化型のテープで、防食性、耐候性、耐熱性、柔軟性、変位追従性に優れている。この防食テープは、熱により防食テープの一部を溶かして互いに接着する溶着のような施工後に剥離できなくまたは剥離が困難になるものではなく、樹脂薄膜自体(ここでは防食テープ)が互いに接合すると一体化する粘着性等を備えたり、樹脂薄膜(ここでは防食テープ)に粘着性等がある接着剤を塗布したりすることにより、樹脂薄膜どうしを接着するものであって、施工後において剥離することが可能である。
【0029】
このような防食テープを用いて構造用ケーブルを螺旋状に巻き付けて覆うことになるが、防食テープの接着性を向上させるために防錆効果のある下塗り材を構造用ケーブルに塗布して、ケーブルバンドやケーブル束等による段差部を成形して防食テープの巻き付けを滑らかにするための充填剤を用いたり、短時間で塗膜を形成してほこりなどの付着を防止して防食テープの防食性・耐候性を高めるために防食テープの表面に上塗り材を塗布したりすることがある。このように防食テープの施工は、(1)素地調整、(2)下塗り材塗布、(3)充填剤充填(段差部の成形)、(4)防食テープ巻き付け、(5)上塗り材塗布、の各工程が主たる工程である。
【0030】
ここで、図1を参照して、互いに接着可能で防水機能を備える樹脂薄膜であって剥離可能なテープ状の樹脂薄膜(防食テープ)を構造用ケーブルに螺旋状に巻き付けることにより、構造用ケーブルをこのようなテープ状の樹脂薄膜(防食テープ)により包み込んで覆う態様について説明する。
【0031】
図1(A)は防食テープ150をハーフラップ未満(おおよそテープ幅の1/4程度)を重ね合わせ)で螺旋状に巻き付けている状態、図1(B)はハーフラップで螺旋状に巻き付けている状態を、それぞれ示す。なお、ここでは、防食目的のための外套管を備えないで、ケーブル素線110に防食塗料が直接塗布されている場合を想定している。
【0032】
図1(A)に示す状態は、防食工法を施工途中の構造用ケーブル100を示しており、ケーブル素線110が、充填剤120によりそのケーブル素線110における段差部(図示しないケーブルバンドやケーブル束等による段差部)が成形されて、さらに防食テープ150がハーフラップ未満で螺旋状に巻き付けられて、構造用ケーブルが防食テープ150により包み込まれている状態である。
【0033】
図1(B)に示す状態は、防食工法を施工途中の構造用ケーブル102を示しており、ケーブル素線110が、充填剤120によりそのケーブル素線110における段差部(図示しないケーブルバンドやケーブル束等による段差部)が成形されて、さらに防食テープ150がハーフラップで螺旋状に巻き付けられて、構造用ケーブルが防食テープ150により包み込まれている状態である。
【0034】
図1(A)および図1(B)のいずれの場合であっても、ケーブル素線110および充
填剤120に螺旋状に巻き付けた防食テープ150どうしの重なり部分(テープ幅の約1/4)、または、防食テープ152どうしの重なり部分(テープ幅の約1/2)においては、(たとえば加熱して熱溶着することなく)防食テープ150(防食テープ152)は互いに接合すると(接触し合うと)一体化する粘着性等を備えたり、防食テープ150(防食テープ152)に粘着性等がある接着剤を塗布したりすることにより、防食テープ150(防食テープ152)どうしを接着するものであって、施工後において剥離することが可能である。そして、このように互いに接着された防食テープ150(防食テープ152)により重なり部分から空気および水分の浸入を抑制して腐食の進行を遅らせることができる。なお、剥離可能とすることにより、構造用ケーブルに防食テープ150(防食テープ152)で覆った施工後における経年劣化確認として(定期的にまたは非定期的に防食テープ150(防食テープ152)を取り換える等の際に)構造用ケーブルに覆われた防食テープ150(防食テープ152)を剥離して、水分検出素材の変性を視認等することにより、構造用ケーブルの防食度合いを容易に確認することができる点で好ましい。なお、ここから以降において、防食テープ150および防食テープ152は防食テープ150を代表させて説明する。
【0035】
ここで、図1図3に示すように、水分検出素材122は、構造用ケーブル(より具体的にはケーブル素線110)と防食テープ150との間に充填される充填剤120とともに設けられる。ここで、充填剤120とともに設けられる水分検出素材122について具体的に説明する。
【0036】
本発明に係る防食工法が対象とする吊橋または斜張橋等の構造用ケーブルが腐食する要因として、水分または湿気の存在の有無が大きく関係する。そのため、腐食進展の判断として水分または湿気の浸入の可視化が重要である。そのため、本実施の形態においては、水分または湿気の浸入を、水分または湿気で変色または変質する物質(水分検出素材122)を配置することが挙げられる。具体例としては、以下の物質が挙げられる。
(1)色素を内包した水溶性のマイクロカプセル(色素内包マイクロカプセル)
水分の浸入に対してマイクロカプセルが破壊して色素の溶出することで検知するものである。
(2)除湿等に用いられるシリカゲル
水分または湿気によりシリカゲルが変色することで検知するものである。なお、この方法はシリカゲルが水分または湿気を吸収する期間内においては構造用ケーブル(鋼材)の防食効果を期待することができる。
(3)塩化コバルト六水和物の粉末や溶液
水分または湿気により変色することで検知するものである。
(4)吸水シート
水分を吸収することによりその体積が膨張するため、その体積変化を視認して検知するものである。
(5)水溶性シート
水分を吸収することにより溶出するため、たとえばそのシートにインクで文字等を印字しておいて、この文字のインクが溶けたことを視認して検知するものである。
【0037】
なお、このような水分検出素材は、粉末等の(1)~(3)については充填剤120に練り込んで混合して充填剤120とともに防食テープ150とケーブル素線110との間に設けること、シート状の(4)~(5)については、充填剤120と防食テープ150との間に挟み込むようにして設けること、が一例として挙げられる。
【0038】
次に、下のようにして、このような水分検出素材122の作用効果(水分または湿気で変色または変質)を確認した。
(A)構造用ケーブルを模擬した鉄板上に充填剤および色素内包マイクロカプセルを配置し、さらに防食テープを巻いた簡易試験体を作製した。簡易試験体の防食テープの上から充填剤に達するように切り欠きを入れて、数日間水に浸漬した後に取り出した。取り出した簡易試験体を解体すると、水が浸入した部分のみマイクロカプセルおよび充填剤が変色しており、水が浸入していたことを目視で判定可能であることを確認できた。
(B)塩化コバルト六水和物を練り込んだ充填剤を簡易試験体として作製した。この簡易試験体に水が浸入した状態を模擬するために意図的に水を付与すると赤色の溶液状になり水が浸入したことを目視で判定可能であることを確認できた。
(C)構造用ケーブルを模した鉄板に充填剤を配置して、さらにその充填剤の上に黒インクで印字したポリビニルアルコールシート(水溶性シート)で包んで簡易試験体を作製した。簡易試験体に、水の浸入を模擬して水を吹き付けると、ポリビニルアルコールシートが溶出しインクが溶けたようになり、水が浸入したことを目視で判定可能であることを確認できた。
【0039】
次に、このような水分検出素材122の配置について図2および図3を参照して説明する。
【0040】
ここで、このような水分検出素材は、図2に示すように構造用ケーブル100(この図2においてはケーブル素線110を図示)の長手方向に沿って樹脂薄膜である防食テープ150に覆われる部分に設けられることが好ましい。また、このような水分検出素材は、図3に示すように構造用ケーブル100(この図3においてはケーブル素線110を図示)の長手方向に沿って樹脂薄膜である防食テープ150に覆われる部分の一部に設けられ、かつ、構造用ケーブル(この図3においてはケーブル素線110を図示)の長手方向に沿って樹脂薄膜である防食テープ150に覆われる部分に、水分検出素材122に接触するように、導水性部材130がさらに設けられることも好ましい。ここで、この導水性部材130とは、水分を伝達しやすいシートが一例として挙げられる。
【0041】
これらの図2および図3においては、水分検出素材は、粉末等の(1)~(3)については充填剤120に練り込んで混合して充填剤120とともに防食テープ150とケーブル素線110との間に設けるようにしている。このため、充填剤120に、水分検出素材122をかっこ書きの符号を付して図示している。
【0042】
このように、本実施の形態に係る防食工法にいては、複数のケーブル素線110を含んで構成される構造用ケーブル100または構造用ケーブル102と樹脂薄膜(防食テープ150)との間に、水分または湿気で変色または変質する粉末、塗料、シート等の水分検出素材122を設置している。これにより、腐食要因である水分の浸入を視認可能にして、鋼材腐食進展の判断を補助することができる。このように、水分検出素材122に好適に採用される水分または湿気により変性する材料としては、上述した通り、マイクロカプセル、シリカゲル、塩化コバルト六水和物等の水分または湿気により変色する材料、吸水シート、水溶性シート等の水分または湿気により変質する(形状が変化する)が考えられる。このように、本発明における変性(性質が変化)とは、一例ではあるが、色が変化する変色、形状が変化する変質を含むものであることを確認的に記載しておく。
【0043】
そして、経年劣化確認として(定期的にまたは非定期的に樹脂薄膜である防食テープ150を取り換える等の際に)構造用ケーブルに覆われた樹脂薄膜である防食テープ150を剥離して、構造用ケーブルの防食度合いを水分検出素材の変性等を視認等することにより容易に確認することができる点で好ましい。特に、樹脂薄膜である防食テープ150は施工後のメンテナンスとして、定期的にまたは非定期的に樹脂薄膜である防食テープ150を取り換える必要がある場合が多い。このため、防食テープおよび充填剤を透明にする必要なく、このメンテナンスとして防食テープの取り換え時に、水分検出素材の変性(変色、変質(形状変化)等)を視認等することにより水分侵入を容易に確認することができる。
<第1の変形例>
ところで、このような水分検出素材の変色または変質を視認等は作業者の主観に影響されることも考えられ、また、メンテナンス時以外には水分検出素材の変色または変質を視認等できないということが問題点となる可能性がある。このような問題点に対しては以下のような対応も可能である。
【0044】
本変形例に係る防食工法は、構造用ケーブルを、互いに接着可能で防水機能を備える樹脂薄膜(防食テープ150)により、水分検出素材122とともに包み込んで覆うという前提に、水分検出素材122に加えて水分検出素材122の変性を検出するセンサととも
に包み込んで覆うことを特徴とする。そして、経年劣化確認としてそのセンサにより構造用ケーブルの防食度合いを確認することを特徴とする。
【0045】
より具体的には、たとえば、センサとして光ファイバーを構造用ケーブルの長手方向に沿って水分検出素材122の変色または変質(ここでは変色が好ましい)を検出できるように設ける。すなわち、構造用ケーブルを、水分検出素材122およびセンサとともに防食テープ150により包み込んで覆うようにして設ける。そして、経年劣化確認としてその光ファイバーを用いて構造用ケーブルの防食度合い(水分侵入度合い)を確認する。この場合において、水分検出素材122の色をデータ化しておいて、前回検出時とその色データを比較することにより、水分検出素材122の変色または変質(ここでは変色)を的確に検出することができる。これにより、視認等による作業者の主観に影響されることもなく、かつ、メンテナンス時以外であっても、水分検出素材の変色または変質(ここでは変色)を、的確にかつ容易に、確認することができる。
<第2の変形例>
上述した第1の変形例における問題点に対しては、第2の変形例として以下に示す対応も可能である。なお、以下において図4図6を参照して本変形例について詳しく説明するが、図1図3と同じ構造については同じ参照符号を付しており、これらについてのここでの説明は繰り返さない。
【0046】
図4図2および図3に対応する図であって、本変形例に係る構造用ケーブルの防食工法において、防食テープにより構造用ケーブルを包み込んで覆う状態を説明するための図である。図4においては、水分検出素材122を用いることはなく(充填剤120に水分検出素材122を練り込んで混合することもなく)、上述した水分検出素材122に代えて、充填剤120と防食テープ150との間に、水分を検知(本明細書においては検出と同じ意味)するセンサとしての導線230を1本以上設けている(この導線230は一対で1本という場合を含む)。図4においては、2本の導線230を充填剤120と防食テープ150との間に設けている。すなわち、本変形例に係る構造用ケーブルにおいては、互いに接着可能で防水機能を備える樹脂薄膜である防食テープ150により、ケーブル素線110および充填剤120を、水分を検出するセンサである導線230とともに包み込んで覆っている。すなわち、図4に示すように、充填剤120でケーブル素線110の凸凹を埋めた後に、充填剤120の表面に導線230を1本以上配置して(ここでは2本)、その上層に防食テープ150を巻き付けている。
【0047】
なお、導線230を2本以上設けることは信頼性向上のためであって、1本であると、重力が作用する構造用ケーブルの下方向において防食テープ150が破損等して下方にのみ水分が浸漬した場合に上方にしか導線が存在しないとこの水分浸漬を検知することができないことを回避することが理由である。また、水分を検知するセンサは、電気的に水分を検出するセンサであれば特に限定されるものではない。ここでは、導線230を用いた時間領域反射率測定法 (Time Domain Reflectometry:TDR)を採用しているが、このような電気的方式ではなく(導線でなくても構わない)、水分を検知するセンサとして光ファイバーを用いた光時間領域反射率測定法 (Optical Time Domain Reflectometry:OTDR)を採用しても構わない(光ファイバーでなくても構わない)。
【0048】
そして、この導線230は、樹脂薄膜である防食テープ150を剥離して、または、防食テープ150を剥離することなく、構造用ケーブルの外部に設けられた計測機器240に接続可能な構成を備える。すなわち、構造用ケーブルへの水分浸入(本明細書においては水分浸漬と同じ意味)を確認する際には、水分を検知するセンサである導線230の端部と計測機器240とを電気的に接続して、水分の有無(水分浸漬の発生有無)を電気的な信号(TDRにおいては特性インピーダンスと呼ばれるもの)の変化により確認する。なお、導線230の端部を防食テープ150の隙間から予め出しておくと水分浸入を確認する際に防食テープ150を剥離する必要がない点で有利であるが(水分侵入の原因になりかねないために)、導線230の端部を防食テープ150に巻き込んでおいて水分浸入を確認する際に導線230の端部に巻かれている防食テープ150を剥離するようにして
も構わない。
【0049】
そして、この図4のように構成された本変形例において、実際に水分侵入の検知が可能であることを、図5および図6に示すように、確認した。
【0050】
図5(A)は構造用ケーブルの長手方向に沿った断面図であって、図5(B)は図5(A)に示す5B-5B断面図である。
【0051】
ここでは、図5に示すように、防食テープ150に対して人為的に損傷部を設けて、その部分に水を浸漬させて信号変化を確認することとした。なお、図5(A)に三角マークは(白抜きも黒塗りも)、図6の三角マークと対応させている。
【0052】
図6に示すように、損傷部に水分を浸漬させる前は、構造用ケーブルの外部(すなわち、導線230が大気解放されている部分)において山型のピークを備える波形であったが、損傷部の導線230、および、比較のための構造用ケーブルの外部の導線230自体の2箇所に水分を浸漬させた後は、そのような山型のピークを2箇所に備える波形に加えて、水分浸漬させた構造用ケーブルの外部の導線230自体における波形と同様の谷型のピークを備える波形を、水分浸漬させた防食テープ150の損傷部において、計測機器240により確認することができた。これにより、構造用ケーブルの内部における防食テープ150の損傷部において、構造用ケーブルの外部の導線230自体と同様に、水分浸漬を確認できることにより、視認等による作業者の主観に影響されることもなく、かつ、メンテナンス時以外であっても、水分を検出するセンサ(ここではTDR法を用いたために導線230)を計測機器240に電気的に接続して波形(特性インピーダンスの変化)を確認することにより、防食テープ150の損傷等による構造用ケーブル内部への水分侵入を、的確にかつ容易に、確認することができる。
【0053】
以上のようにして、本実施の形態に係る防食工法およびその防食工法が施された構造用ケーブル等によると、吊橋や斜張橋などの吊構造物に使用されている屋外露出された構造用ケーブル等の防食工法であって、このような構造用ケーブル等が腐食した場合に(腐食が軽度で取替えが困難なときには特に)その構造用ケーブル等を取り替えるのではなく構造用ケーブル等の延命策を図る防食工法の施工後において定期的または不定期的に構造用ケーブル等の構成部品についての劣化等の状況を容易に視認して確認することができるとともに、その防食工法が施された構造用ケーブル等を提供することができる。
【0054】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、吊橋や斜張橋などの吊構造物に使用されている屋外露出された構造用ケーブル等の防食技術に関し、このような構造用ケーブル等が腐食した場合に(腐食が軽度で取替えが困難なときには特に)その構造用ケーブル等を取り替えるのではなく構造用ケーブル等の延命策を図る防食工法に特に好ましい。
【符号の説明】
【0056】
100、102 防食工法を施工途中の構造用ケーブル
110 ケーブル素線
120 充填剤
122 水分検出素材
130 導水性部材
230 (水分を検知するセンサとしての)導線
240 計測機器
図1
図2
図3
図4
図5
図6