(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021118
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】垂直離着陸飛行体
(51)【国際特許分類】
B64C 29/02 20060101AFI20240208BHJP
B64C 3/40 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
B64C29/02
B64C3/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123716
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】301039066
【氏名又は名称】株式会社アイティーコスモス
(74)【代理人】
【識別番号】100181250
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 信介
(72)【発明者】
【氏名】中西 輝夫
(57)【要約】
【課題】垂直離陸から水平飛行への移行時及び水平飛行から垂直着陸への移行時に推進力の向きを変化させる必要がなく移行可能であり、主翼取付角度を変更することができる垂直離着陸飛行体を提供する。
【解決手段】胴体10と、胴体10軸に対して左右に取り付けられた水平飛行用の主翼20と、推進力を個別に制御することができる3以上の推進部40と、3以上の推進部40のうち、任意の2つの推進部40を含む胴体10軸と平行な平面内に、残りの1以上の推進部40が含まれないような位置関係で、胴体10を地面に対してほぼ垂直にした際に、胴体10の軸方向上方に推進力を与える向きになるように推進部40を胴体10に取り付けるアーム50と、を備えることを特徴とする垂直離着陸飛行体1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴体と、
前記胴体軸に対して左右に取り付けられた主翼と、
推進力を個別に制御することができる3以上の推進部と、
3以上の前記推進部のうち、任意の2つの推進部を含む前記胴体軸と平行な平面内に、残りの1以上の推進部が含まれないような位置関係で、前記胴体を地面に対してほぼ垂直にした際に、前記胴体の軸方向上方に推進力を与える向きになるように前記推進部を前記胴体に取り付けるアームと、
を備えることを特徴とする垂直離着陸飛行体。
【請求項2】
請求項1に記載の垂直離着陸飛行体において、
前記胴体の軸に対する主翼の取付角度を変化させることができる主翼取付角駆動部を備えることを特徴とする垂直離着陸飛行体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直離着陸ができ、かつ、高速に水平飛行ができる垂直離着陸飛行体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の水平飛行用主翼と、垂直尾翼を有し、上昇前進兼用プロペラを、複数の水平飛行用主翼に固定し、この水平飛行用主翼を、上昇下降時はほぼ垂直に向くよう回転させて上昇下降し、水平飛行時は、迎え角で固定し水平飛行することを特徴とする飛行体があった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、このような飛行体では、垂直離陸から水平飛行への移行時及び水平飛行から垂直着陸への移行時に、推進力を発生するプロペラが固定された主翼の向きを変化させなければならない。
【0005】
このため、主翼を動かすための複雑な機構が必要となり、メンテナンスに手間がかかり、故障の可能性も増加し、コストも増加するという課題があった。
さらに、このような飛行体では、推進力を発生するプロペラが主翼に固定されているので、主翼を後退させたり、展開させたりさせることができず、離着陸時には主翼が干渉しないような広い空間が必要となる課題があった。
【0006】
本発明は、こうした課題に鑑みなされたもので、垂直離陸から水平飛行への移行時及び水平飛行から垂直着陸への移行時に推進力の向きを変化させる必要がなく、主翼取付角度を変更することができる垂直離着陸飛行体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することが可能である。なお、本欄における括弧内の参照符号や補足説明等は、本発明の理解を助けるために、後述する実施形態との対応関係を示したものであって、本発明を何ら限定するものではない。
【0008】
[適用例1]
適用例1に記載の発明は、
胴体(10)と、
前記胴体(10)軸に対して左右に取り付けられた主翼(20)と、
推進力を個別に制御することができる3以上の推進部(40)と、
3以上の前記推進部(40)のうち、任意の2つの推進部(40)を含む前記胴体(10)軸と平行な平面内に、残りの1以上の推進部(40)が含まれないような位置関係で、前記胴体(10)を地面に対してほぼ垂直にした際に、前記胴体(10)の軸方向上方に推進力を与える向きになるように前記推進部(40)を前記胴体(10)に取り付けるアーム(50)と、
を備えることを要旨とする垂直離着陸飛行体(1)である。
【0009】
このような垂直離着陸飛行体(1)では、胴体(10)を地面に対してほぼ垂直にした状態から垂直に離陸することができる。垂直離陸時には、主翼(20)は垂直揚力には寄与せず、推進力が垂直上方となるように、アーム(50)を介して胴体(10)に取り付けられた複数の推進部(40)により上方に離陸する。
【0010】
さらに、複数の推進部(40)の推進力を個別に制御することにより、推進部(40)の推進力だけにより垂直離着陸飛行体(1)の姿勢を概ね垂直方向から、概ね水平方向に変化させ、水平飛行を行うことができる。
水平飛行においては、主翼(20)が揚力を発生させ、複数の推進部(40)が垂直離着陸飛行体(1)を前方に推進させるように推進力を発生する。
【0011】
同様にして、水平飛行中に、複数の推進部(40)の推進力を個別に制御することにより、水平飛行から胴体(10)を地面に対してほぼ垂直にした状態へと垂直離着陸飛行体(1)の姿勢を変化させ、垂直状態のまま徐々に高度を下げ、着陸を行うことができる。
【0012】
このようにして、垂直離着陸飛行体(1)の姿勢を変化させるのに、推進力の向きを変化させるための機構を備えることなく、垂直離陸飛行から水平飛行への移行及び水平飛行から垂直着陸飛行への移行が可能となる。
【0013】
これにより、推進力の向きを変化させるために、主翼(20)を動かすための複雑な機構を必要とせず、メンテナンスの簡易化、故障個所の低減、低コストを実現することができる。
【0014】
また、飛行時の飛行方向制御、機体安定化については、補助翼や昇降舵などを使用せずに、複数の推進部(40)の個別制御により実施することで、メンテナンスの簡易化、故障個所の低減、低コストを実現することができる。
【0015】
[適用例2]
適用例2に記載の垂直離着陸飛行体(1)は、適用例1に記載の垂直離着陸飛行体(1)において、
前記胴体(10)の軸に対する主翼(20)の取付角度を変化させることができる主翼取付角駆動部(23)を備えることを要旨とする。
【0016】
このような垂直離着陸飛行体1では、主翼取付角駆動部(23)により、胴体(10)軸に対する主翼(20)の角度を変更することができる。
これにより、離着陸時には、主翼(20)の取付角度を狭くする、すなわち主翼(20)を後退させることで、離着陸場所が狭い空間であったとしても、主翼(20)が邪魔になることなく、離着陸することができる。
【0017】
また、水平飛行時には、主翼(20)の胴体(10)への取付角度を変化させ、主翼(20)を前方に展開させることで、主翼(20)のアスペクト比の値を大きくし、水平飛行時の巡行飛行性能が改善される。
【0018】
さらに、高速飛行時には、主翼(20)の胴体(10)への取付角度を変化させ、主翼(20)が胴体に近づくように移動させることで、主翼(20)のアスペクト比の値を小さくし、高速飛行性能が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態における垂直離着陸飛行体の概略の形状を示す外観図である。
【
図2】第1実施形態における垂直離着陸飛行体の概略の構成を示すブロック図である。
【
図3】第1実施形態における垂直離着陸飛行体において、可動主翼部22を前方に展開した状態と胴体10の近くに移動させた状態を示す概略図である
【
図4】第1実施形態における垂直離着陸飛行体の3軸制御の方法を示す概略図である。
【
図5】第1実施形態における垂直離着陸飛行体の概略の飛行状態を示す図である。
【
図6】第2実施形態における垂直離着陸飛行体の概略の形状を示す外観図である。
【
図7】第3実施形態における垂直離着陸飛行体の概略の形状を示す外観図である。
【
図8】第3実施形態における垂直離着陸飛行体の3軸制御の方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明が適用された実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明の実施の形態は、下記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
【0021】
[第1実施形態]
図1及び
図2に基づき、第1実施形態における垂直離着陸飛行体1の構成について説明する。
図1は、第1実施形態における垂直離着陸飛行体1の概略の形状を示す外観図(
図1(A)が正面図、
図1(B)が右側側面図、
図1(C)が平面図)である。
図2は、第1実施形態における垂直離着陸飛行体1の概略の構成を示すブロック図である。
【0022】
(垂直離着陸飛行体1の構成)
図1及び
図2に示すように、垂直離着陸飛行体1は、胴体10、主翼20、垂直安定板30、降着部31、推進部40、アーム50、制御部60、センサ部70及び電源80を備えている。
【0023】
胴体10は、断面が四角形の筒形に形成されており、その筒形状の両端は密封されており、筒形状の軸方向中間付近から、一方の端部(後端)に向かって断面積が徐々に小さくなるように形成されている。
【0024】
主翼20は、水平飛行時に必要な揚力を得るためのものであり、全体としてデルタ翼形状に形成されており、固定主翼部21、可動主翼部22及び主翼取付角駆動部23を備えている。
【0025】
固定主翼部21は、胴体10に取り付けられており、後退した前縁を有している。
可動主翼部22は、後述する主翼取付角駆動部23を介して固定主翼部21に取り付けられており、固定主翼部21と同様に後退した前縁を有しているが、その前縁後退角度は、固定主翼部21の前縁後退角度よりも小さくなるように形成されている。
【0026】
主翼取付角駆動部23は、固定主翼部21に備わっており、主翼取付角センサ24及び主翼駆動用電動モータ25を備えている。
主翼取付角センサ24は、可動主翼部22の固定主翼部21に対する取付角度を計測するセンサであり、ポテンショメーターを用いている。
【0027】
主翼駆動用電動モータ25は、後述する制御部60からの指令に従い駆動され、複数のギアを介することにより、可動主翼部22を胴体10軸に対して任意の角度に変更する。
【0028】
次に
図3に基づき、可動主翼部22の胴体10軸に対する移動機能について説明する。
図3は、第1実施形態における垂直離着陸飛行体において、可動主翼部22を前方に展開した状態と胴体10の近くに移動させた状態を示す概略図である。
図3(A)は、可動主翼部22を機体前方に展開させた状態を示す図であり、
図3(B)は、可動主翼部22を胴体10近くに移動させた状態を示す図である。
【0029】
図3に示すように、可動主翼部22は、その前縁線Lが、胴体10軸に直行する線に対し角度θ1の位置(展開位置)から、可動主翼部22の前縁線Lが、胴体10軸に直行する線に対し角度θ2(略直角)の位置(後退位置)まで移動させることができる。
【0030】
垂直安定板30は、翼形状に形成されており、固定主翼部21に対する可動主翼部22の取付部付近に、垂直離着陸飛行体1が水平飛行時において、固定主翼部21の上側及び下側に略垂直となるように取り付けられている。
垂直安定板30は、水平飛行中、突風などの外乱による機体ヨー方向の機体姿勢角を安定化させる働きをする。
【0031】
降着部31は、棒状に形成されており、各垂直安定板30の翼端に1本ずつ計4本、機体軸に沿った方向に取り付けられており、垂直離着陸飛行体1が水平飛行中に空気抵抗とならないようにしている。
この4本の降着部31により、垂直離着陸飛行体1を地面に設置する際に、垂直離着陸飛行体1の機首を上に向けた略垂直状態を保持することができる。
【0032】
推進部40は、第1プロペラ部41、第2プロペラ部42、第3プロペラ部43及び第4プロペラ部44の4つのプロペラ部を備えている。
そして、第1プロペラ部41~第4プロペラ部44は、それぞれ、ダクトカバー45、プロペラ46、プロペラ駆動用電動モータ47及びESC(Electric Speed Controllerの略)48を備える。
【0033】
ダクトカバー45は、プロペラ46を囲むように取り付けられており、その断面形状は、翼形状に形成されている。
プロペラ46は、ブレードを2枚有し、そのブレード角度は一定の角度に固定されている固定ピッチプロペラである。
【0034】
プロペラ駆動用電動モータ47は、プロペラ46に直結され、モータの回転によりプロペラ46を回転させる。
ESC48は、プロペラ駆動用電動モータ47のモータの回転を任意の回転速度に制御するもので、後述する制御部60からの指令を受け、プロペラ駆動用電動モータ47を制御する。
【0035】
なお、第1プロペラ部41~第4プロペラ部44は、プロペラ46の回転による推力方向が、胴体10軸方向で、機体の進行方向になるように、後述するアーム50により胴体10に取り付けられている。
【0036】
アーム50は、第1プロペラ部41~第4プロペラ部44を別々に支持している部材であり、胴体10に取り付けられる。
その断面形状は、翼形状に形成されている。
【0037】
アーム50は、垂直離着陸飛行体1が水平飛行している状態のときに、主翼20を境にして、胴体10上部に2本、胴体10下部に2本のアーム50が機体正面視で、X字となるように胴体10に取り付けられている。
【0038】
制御部60は、垂直離着陸飛行体1の飛行制御を行う部分であり、CPU61、ROM62、RAM63、I/O64、外部記憶媒体65を備えている。
センサ部70は、垂直離着陸飛行体1の姿勢角や位置などを計測する部分であり、3軸加速度センサ71、3軸ジャイロセンサ72、GNSS受信機73及び対気速度計74を備えている。
【0039】
3軸加速度センサ71は、垂直離着陸飛行体1の3軸(X軸、Y軸、Z軸)の加速度を計測する。
3軸ジャイロセンサ72は、垂直離着陸飛行体1の3軸(X軸、Y軸、Z軸)周りの角速度を計測するもので、振動式ジャイロセンサを使用する。
【0040】
GNSS受信機73は、衛星測位システムからの信号を受信し、垂直離着陸飛行体1の位置を計測するものであり、GPS受信機を使用する。
対気速度計74は、空気に対しての垂直離着陸飛行体1の相対速度を計測するものであり、ピトー管を使用する。
【0041】
電源80は、主翼取付角センサ24、主翼駆動用電動モータ25、プロペラ駆動用電動モータ47、ESC48、制御部60及びセンサ部70に電源を供給する部分であり、リチウムイオン二次電池を用いている。
【0042】
(第1実施形態における垂直離着陸飛行体1の3軸制御の方法)
次に、
図4に基づいて、第1実施形態における垂直離着陸飛行体1の3軸制御の方法について説明する。
図4(A)はピッチ制御の方法、
図4(B)はヨー制御の方法、
図4(C)はロール制御の方法を示す図である。
【0043】
垂直離着陸飛行体1では、第1プロペラ部41~第4プロペラ部44のプロペラ46の推進力により機体の3軸制御を行う。
ここで、プロペラ46による推進力は、プロペラ46の回転速度によって決定され、プロペラ46の回転速度は、プロペラ46に直結されたプロペラ駆動用電動モータ47の回転速度をESC48により制御することで行われる。
また、機体の3軸制御とは、X軸をピッチ軸としたピッチ制御、Z軸をヨー軸としたヨー制御及びY軸をロール軸としたロール制御である。
【0044】
なお、第1プロペラ部41のプロペラ46及び第3プロペラ部43のプロペラ46の回転方向は、機体前面視で反時計回りに、第2プロペラ部42のプロペラ46及び第4プロペラ部44のプロペラ46の回転方向は、時計回りに回転するように制御される。
【0045】
図5(A)に基づいて、ピッチ制御の方法について説明する。
ピッチ軸(X軸)を中心としたピッチ制御においては、第1プロペラ部41のプロペラ46及び第2プロペラ部42のプロペラ46の回転速度が、第3プロペラ部43のプロペラ46及び第4プロペラ部44のプロペラ46の回転速度S2とは異なる値(S1)となるように制御される。
【0046】
これにより、第1プロペラ部41と第2プロペラ部42による推力と、第3プロペラ部43と第4プロペラ部44による推力との間で推力の差を生み出し、ピッチ方向に機体を回転させることができる。
【0047】
次に
図4(B)に基づいて、ヨー制御の方法について説明する。
ヨー軸(Z軸)を中心としたヨー制御においては、第1プロペラ部41のプロペラ46及び第4プロペラ部44プロペラ46の回転速度が、第2プロペラ部42のプロペラ及び第3プロペラ部のプロペラ46の回転速度S4とは異なる値(S3)となるように制御される。
【0048】
これにより、第1プロペラ部41と第4プロペラ部44による推力と、第2プロペラ部42と第3プロペラ部43による推力との間で推力の差を生み出し、ヨー方向に機体を回転させることができる。
【0049】
次に、
図5(C)に基づいて、ロール制御の方法について説明する。
ロール軸(Y軸)を中心としたロール制御においては、第1プロペラ部41のプロペラ46及び第3プロペラ部43のプロペラ46の回転速度が、第2プロペラ部42のプロペラ46及び第4プロペラ部44のプロペラ46の回転速度S6とは異なる値(S5)となるように制御される。
【0050】
これにより、第1プロペラ部41と第3プロペラ部43の回転に伴う反トルクと、第2プロペラ部42と第4プロペラ部44の回転に伴う反トルクとの間でトルクの差を生み出し、ロール方向に機体を回転させることができる。
【0051】
このようなピッチ制御、ヨー制御及びロール制御を組み合わせることにより、補助翼、エレボン、方向舵などの可動翼を備えていなくても、制御部60により第1プロペラ部41~第4プロペラ部44の各プロペラ46の回転速度を制御するだけで、垂直離着陸飛行体1の飛行姿勢角の変更、それによる飛行進路の変更、飛行中の機体安定を行うことが可能となる。
【0052】
(垂直離着陸飛行体1の飛行状態)
次に、
図5に基づいて、先ほど説明した第1実施形態における垂直離着陸飛行体1の3軸制御を利用した垂直離着陸飛行体1の飛行状態について説明する。
図5は、第1実施形態における垂直離着陸飛行体1の概略の飛行状態を示す図である。
【0053】
(ア)垂直離陸飛行状態
図5(A)は、垂直離着陸飛行体1の垂直離陸飛行状態を示す図である。
垂直離着陸飛行体1は、機首を略垂直上向きにした姿勢で地上に設置されている状態から、第1プロペラ部41~第4プロペラ部44の各プロペラ46の回転速度が同じになるように制御することにより、略垂直上向きの推力を得て、浮上し上昇する。
【0054】
垂直離陸飛行状態においては、第1プロペラ部41~第4プロペラ部44の各プロペラ46の推進力は、垂直離着陸飛行体1にかかる重力に対抗し、地面からの垂直離陸を可能にする。
【0055】
(イ)第1遷移飛行状態
図5(B)は、垂直離着陸飛行体1の第1遷移飛行状態を示す図である。
垂直離着陸飛行体1は、垂直離陸飛行状態において所定の高度に達すると、制御部60は、第1プロペラ部41のプロペラ46及び第2プロペラ部42のプロペラ46の回転速度S1を、第3プロペラ部43のプロペラ46及び第4プロペラ部44のプロペラ46の回転速度S2より大きくなるように制御する。
【0056】
これにより、垂直離着陸飛行体1をピッチ軸方向に回転させ、垂直離着陸飛行体1が地面に対し略水平方向になるように姿勢変化させる。
さらに、主翼駆動用電動モータ25を制御し、可動主翼部22の取付角度を大きくすることで、可動主翼部22を前方に展開させる。
【0057】
(ウ)水平飛行状態
図5(C)は、垂直離着陸飛行体1の水平飛行状態を示す図である。
水平飛行状態において、制御部60は、第1プロペラ部41~第4プロペラ部44の各プロペラ46の回転速度が同じになるように制御する。
【0058】
第1プロペラ部41~第4プロペラ部44のプロペラ46の推進力は、垂直離着陸飛行体1にかかる空気抵抗に対抗するとともに、主翼20は、垂直離着陸飛行体1を飛行状態に維持するのに必要な揚力を発生させる。
【0059】
(エ)高速飛行状態
図5(D)は、垂直離着陸飛行体1の高速飛行状態を示す図である。
垂直離着陸飛行体1が水平飛行状態中に高速飛行させたい場合、制御部60は、主翼駆動用電動モータ25を制御し、可動主翼部22の取付角度を変化させることで、可動主翼部22を後退位置まで移動させる。
【0060】
これにより、主翼20のアスペクト比を減少させ、高速飛行時の飛行効率を改善する。
なお、可動主翼部22の取付角度については、制御部60により、対気速度計74により計測された対気速度に応じて取付角度が変更される。
【0061】
(オ)旋回飛行状態
図5(E)は、垂直離着陸飛行体1の旋回飛行状態を示す図である。
垂直離着陸飛行体が、水平飛行中又は高速飛行中に、ある空域で、旋回飛行させたい場合、第1プロペラ部41~第4プロペラ部44のプロペラ46の回転速度を個別に制御することで、垂直離着陸飛行体1の姿勢角を変化させ、旋回飛行を維持する。
【0062】
なお、高速飛行後に旋回飛行させたい場合には、主翼駆動用電動モータ25を制御し、可動主翼部22の取付角度を変化させ、可動主翼部22を展開位置まで移動させて揚力を増加させることで、旋回飛行を維持する。
旋回半径、旋回速度については、第1プロペラ部41~第4プロペラ部44の各プロペラ46の回転速度を制御することで、任意の旋回半径、旋回速度に調整することができる。
【0063】
(カ)第2遷移飛行状態
図5(F)は、垂直離着陸飛行体1の第2遷移飛行状態を示す図である。
第2遷移飛行状態では、第1遷移飛行状態とは逆に、垂直離着陸飛行体1の機体を地面に対し略水平方向から、機首を上向きとして、地面に対して略垂直状態に機体の姿勢角を変化させる。
【0064】
具体的には、第1プロペラ部41のプロペラ46及び第2プロペラ部42のプロペラ46の回転速度S1を、第3プロペラ部43のプロペラ46及び第4プロペラ部44のプロペラ46の回転速度S2より小さくなるように制御することにより、機首が上に向くように機体をピッチ軸方向に回転させる。
【0065】
(キ)垂直着陸飛行状態
図5(G)は、垂直離着陸飛行体1の垂直着陸飛行状態を示す図である。
垂直着陸飛行状態では、第1プロペラ部41~第4プロペラ部44の各プロペラ46の回転速度を同じにし、かつ、徐々に回転速度を小さくするように制御することにより、機体が、略垂直上向き状態を保ったまま着陸することができる。
【0066】
また、垂直着陸飛行状態及び垂直離陸飛行状態においては、横風等の外力により機体が不安定とならないように、主翼取付角駆動部23を制御し、可動主翼部22の取付角度を変更することで可動主翼部22を後退位置まで移動させることで、横風等の外乱の影響を極小化する。
【0067】
垂直着陸飛行状態においては、第1プロペラ部41~第4プロペラ部44のプロペラ46の推進力は、垂直離着陸飛行体1にかかる重力に対抗し、地面に向けて徐々に高度を下げていくことを可能にする。
【0068】
(垂直離着陸飛行体1の特徴)
このような垂直離着陸飛行体1では、第1プロペラ部41~第4プロペラ部44のプロペラ46の回転速度を個別に制御することにより、推力方向の機械的制御や動翼による空力的制御を行うことなく、ピッチ制御、ヨー制御及びロール制御による機体の3軸制御を行うことができる。
【0069】
このように、垂直離着陸飛行体1では、機体の3軸制御を行うために、推力方向を変えるための推力変更機構や動翼を設けるための複雑な機構を必要としないので、構造簡易化による信頼性の向上、低コスト化が図ることができる。
【0070】
さらに、可動主翼部22を展開させたままだと、可動主翼部22が干渉してしまうような狭い空間であっても、可動主翼部22を後退位置まで移動させることで、主翼20の翼幅を小さくして離着陸を行うことができる。
これにより、例えば、コンテナやトラックの荷台などからでも離着陸させることができ、使用範囲を大幅に広げることができる。
【0071】
また、垂直離着時に可動主翼部22を後退位置まで移動させることにより、垂直離着時に主翼20に風があたることによる機体姿勢の安定化への影響を減少させることができ、安定した垂直離着陸が可能となる。
【0072】
さらに、第1プロペラ部41~第4プロペラ部44のプロペラ46にダクトカバー45を備えているので、プロペラ46の回転による推進効率が向上する。
また、ダクトカバー45がプロペラ46の回転により発生する騒音を吸音、遮蔽することで騒音レベルを低減させることができる。
これにより、騒音低減が大きな課題である居住地近傍や人口密集地での飛行にも問題なく使用できる。
【0073】
また、ダクトカバー45は、その断面形状が翼形状となるように形成されている。
これにより、垂直離着陸飛行体1の水平飛行中、ダクトカバー45が翼の役割を果たし、水平飛行に必要な揚力を発生するので、飛行効率を向上させることができる。
加えて、ダクトカバー45により、回転するプロペラ46が危険な状態で露出しないようにすることで、利用者や周囲の人間や物に対する安全性を確保することができる。
【0074】
さらに、第1プロペラ部41~第4プロペラ部44のプロペラ46は、その推進力が機体軸機首方向となるような向きとなるように、アーム50を介して、4本のアーム50が機体正面視で、X字となるように胴体10に取り付けられている。
つまり、4つのプロペラ46がどれも、主翼20と同一平面上に位置していない。
【0075】
すなわち、4つのプロペラ46の後ろに主翼20が位置していないことになるので、プロペラ46後流が主翼20に影響を及ぼすこともなく、安定した飛行性能を得ることができる。
また、各プロペラ46が主翼空力中心より前に配置されていることから、機体の空力的安定性を向上させることができる。
【0076】
[第2実施形態]
図6に基づき、第2実施形態における垂直離着陸飛行体1の構成について説明する。
図6は、第2実施形態における垂直離着陸飛行体1の概略の形状を示す外観図(
図6(A)が正面図、
図6(B)が右側側面図、
図6(C)が平面図)である。
【0077】
なお、第2実施形態及び後述する第3実施形態における垂直離着陸飛行体1は、第1実施形態における垂直離着陸飛行体1と類似の構造であるため、同じ構成要素には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0078】
図6に示すように、第2実施形態における垂直離着陸飛行体1は、第1プロペラ部41~第4プロペラ部44を取り付けたアーム50が、機体前面視でH字となるように胴体10に取り付けられている。
【0079】
これにより、垂直離着陸飛行体1の水平飛行時に、4本のアーム50は、機体水平面に対して略垂直方向になるように取り付けられることになるので、アーム50が垂直安定板30と同様に水平飛行中、突風などの外乱による機体ヨー方向の機体姿勢角を安定化させる効果も得られる。
【0080】
なお、第2実施形態における垂直離着陸飛行体1においては、第1プロペラ部41~第4プロペラ部44を取り付けたアーム50の胴体10に対する取付角が、第1実施形態における垂直離着陸飛行体1におけるアーム50の胴体10に対する取付角と異なっているものの、第1プロペラ部41~第4プロペラ部44の各プロペラ46の胴体10に対する位置関係は、ほぼ同じである。
【0081】
したがって、第1プロペラ部41~第4プロペラ部44のプロペラ46の回転速度の制御による機体の3軸制御の方法に関しては、第1実施形態における垂直離着陸飛行体1での方法と同じ方法となるので説明を省略する。
【0082】
[第3実施形態]
図7に基づき、第3実施形態における垂直離着陸飛行体1の構成について説明する。
図7は、第3実施形態における垂直離着陸飛行体1の概略の形状を示す外観図(
図7(A)が正面図、
図7(B)が右側側面図、
図7(C)が平面図)である。
【0083】
図7に示すように、第3実施形態における垂直離着陸飛行体1は、プロペラ部を取り付けたアーム50が、機体前面視で十字となるように胴体10に取り付けられている。
このように4本のアーム50を取り付けることにより、2つのアーム50は、主翼20と同一平面上となり、残り2つのアーム50は、主翼20に対し略垂直となるような位置関係となる。
【0084】
これにより、主翼20と同一平面上となる2つのアーム50は、主翼20と同様に、水平飛行中に揚力を発生させ、主翼20に対し略垂直となる残り2つのアーム50は、垂直安定板30と同様に、ヨー方向の外乱に対して機体を安定化させる働きをする効果が得られる。
【0085】
第3実施形態における垂直離着陸飛行体1では、第1プロペラ部41~第4プロペラ部44の各プロペラ46の胴体10に対する位置関係が、第1実施形態及び第2実施形態における垂直離着陸飛行体1における各プロペラ46の胴体10に対する位置関係とは異なる。
【0086】
したがって、第1実施形態及び第2実施形態における垂直離着陸飛行体1における各プロペラ46の回転速度の制御による機体の3軸制御の方法とは異なる方法が必要となるので、その方法について説明する。
【0087】
(第3実施形態における垂直離着陸飛行体1の3軸制御)
図8に基づいて、第3実施形態における垂直離着陸飛行体1の3軸制御の方法について説明する。
図8(A)はピッチ制御の方法、
図8(B)はヨー制御の方法、
図8(C)はロール制御の方法を示す図である。
【0088】
各プロペラの回転方向は、第1実施形態における垂直離着陸飛行体1と同様に、第1プロペラ部41のプロペラ46及び第3プロペラ部43のプロペラ46の回転方向は、機体前面視で反時計回りに、第2プロペラ部42のプロペラ46及び第4プロペラ部44のプロペラ46の回転方向は、時計回りに回転するように制御される。
【0089】
図8(A)に基づいて、ピッチ制御の方法について説明する。
ピッチ軸(X軸)を中心としたピッチ制御は、第2プロペラ部42のプロペラ46の回転速度と第4プロペラ部44のプロペラ46の回転速度を同一(S3)にし、第3プロペラ部43のプロペラ46の回転速度をS3とは異なる値(S2)とする。
【0090】
そして、第1プロペラ部41のプロペラ46の回転速度を、S3及びS2とは異なる値(S1)となるように制御する。
これにより、第1プロペラ部41による推力と、第3プロペラ部43による推力との間で推力の差を生み出し、ピッチ方向に機体を回転させることができる。
【0091】
図8(B)に基づいて、ヨー制御の方法について説明する。
ヨー軸(Z軸)を中心としたヨー制御は、第1プロペラ部41のプロペラ46の回転速度と第3プロペラ部43のプロペラ46の回転速度を同一(S6)とする。
【0092】
そして、第4プロペラ部44のプロペラ46の回転速度をS6とは異なる値(S5)とし、第2プロペラ部42のプロペラ46の回転速度を、S6及びS5とは異なる値(S4)となるように制御する。
これにより、第4プロペラ部44による推力と、第2プロペラ部42による推力との間で推力の差を生み出し、ヨー方向に機体を回転させることができる。
【0093】
図8(C)に基づいて、ロール制御の方法について説明する。
ロール軸(Y軸)を中心としたロール制御は、第1プロペラ部41のプロペラ46の回転速度と第3プロペラ部43のプロペラ46の回転速度を同一(S7)とする。
【0094】
そして、第2プロペラ部42のプロペラ46の回転速度と第4プロペラ部44のプロペラ46の回転速度を同一にし、S7とは異なる値(S8)となるように制御する。
これにより、第1プロペラ部41と第3プロペラ部43の回転に伴う反トルクと、第2プロペラ部42と第4プロペラ部44の回転に伴う反トルクとの間でトルクの差を生み出し、ロール方向に機体を回転させることができる。
【0095】
このようなピッチ制御、ヨー制御及びロール制御を組み合わせることにより、制御部60による第1プロペラ部41~第4プロペラ部44の各プロペラ46の回転速度を制御するだけで、第3実施形態における垂直離着陸飛行体1の飛行進路の変更、飛行中の機体安定を行うことが可能となる。
【0096】
[その他の実施形態]
(1)上記実施形態では、垂直離着陸飛行体1は、垂直安定板30を備えているが、垂直安定板30を備えなくてもよい。なお、垂直安定板30は、地上設置時の脚部を兼ねていたので、垂直安定板30を備えない場合、地面において機首を上に向けた略垂直状態を維持させるために、別途脚部を備える必要がある。
【0097】
(2)上記実施形態では、第1プロペラ部41~第4プロペラ部44の各プロペラ46に対してダクトカバー45を備えているが、ダクトカバー45を備えなくてもよい。この場合、プロペラの騒音が吸収、遮断されなくなる。
【0098】
(3)上記実施形態では、固定主翼部21、可動主翼部22や垂直安定板30には、可動主翼部22以外に動翼を備えておらず、補助翼、方向舵、昇降舵などの動翼を用いずに、プロペラ46の回転速度制御による機体の3軸制御により、垂直離着陸飛行体1の姿勢角制御を行っている。
【0099】
しかし、固定主翼部21、可動主翼部22や垂直安定板30に、補助翼、方向舵、昇降舵などの動翼を備え、プロペラ46の回転速度の制御に動翼による制御も加え、垂直離着陸飛行体1の姿勢角制御を行ってもよい。
【0100】
(4)上記実施形態では、垂直離着陸飛行体1は、無人飛行体(とローン)を想定しているが、人間の居住空間及び制御部60からの各種センサ情報を表示し、人間の意志を制御部60に対する指令に変換する操縦装置を備えた有人の飛行体であってもよい。
【0101】
(5)上記実施形態では、推進部40として第1プロペラ部41~第4プロペラ部44の4つのプロペラ部を備えているが、プロペラ部の数としては、3個でも5個以上でもよい。
ただし、3個又は5個以上のプロペラ部を用いる場合は、胴体10軸を含む一つの平面上に全てのプロペラ部が位置するようにならないようにしなければならない。
【0102】
(6)上記実施形態では、主翼先端側の可動主翼部22のみ、その取付角度を変化させることができたが、固定主翼部21を含む主翼20全体の胴体10への取付角度を変更できるようにしてもよい。
【0103】
(7)上記実施形態では、GNSS受信機73としてGPS受信機を用いているが、GPS受信機に限定されるものではなく、準天頂衛星システム、GLONASS、Galileoなど様々な測位衛星システムに対応した受信機、もしくは、複数の測位衛星システムに対応した受信機を用いてもよい。
【0104】
(8)上記実施形態では、3軸加速度センサ71と3軸ジャイロセンサ72の2つのセンサを用いているが、3軸加速度センサ機能と3軸ジャイロセンサ機能を一つの筐体にまとめた6軸慣性センサを用いてもよい。
【0105】
(9)上記実施形態では、プロペラ46はブレードを2枚備えたものを使用しているが、ブレードの枚数は2枚に限定されるものではなく、3枚以上備えていてもよい。
【0106】
(10)上記実施形態では、垂直離着陸飛行体1を地面に設置する際に、垂直離着陸飛行体1の機首を上に向けた略垂直状態を保持するために、垂直安定板30に取り付けられた降着部31を用いている。
【0107】
これに対し、垂直安定板30の機軸方向の長さを、固定主翼部21の後縁よりも後方に突き出るような長さとすることで、降着部31を備えることなく、4枚の垂直安定板30により、垂直離着陸飛行体1を略垂直方向に保持させてもよい。
【符号の説明】
【0108】
1…垂直離着陸飛行体、10…胴体、20…主翼、21…固定主翼部、22…可動主翼部、23…主翼取付角駆動部、24…主翼取付角センサ、25…主翼駆動用電動モータ、30…垂直安定板、31…降着部、40…推進部、41…第1プロペラ部、42…第2プロペラ部、43…第3プロペラ部、44…第4プロペラ部、45…ダクトカバー、46…プロペラ、47…プロペラ駆動用電動モータ、48…ESC、50…アーム、60…制御部、61…CPU、62…ROM、63…RAM、64…I/O、65…外部記憶媒体、70…センサ部、71…3軸加速度センサ、72…3軸ジャイロセンサ、73…GNSS受信機、74…対気速度計、80…電源