(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021126
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】可変バルブタイミング機構の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 13/02 20060101AFI20240208BHJP
F01L 1/352 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
F02D13/02 H
F01L1/352
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123732
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(72)【発明者】
【氏名】實石 真
(72)【発明者】
【氏名】羽野 誠己
(72)【発明者】
【氏名】小須田 雅貴
【テーマコード(参考)】
3G018
3G092
【Fターム(参考)】
3G018AB07
3G018AB17
3G018CA02
3G018CA13
3G018EA02
3G018EA16
3G018EA17
3G018FA01
3G018FA07
3G018GA03
3G092AA11
3G092DA08
3G092DG08
3G092EA03
3G092EA04
3G092FA06
3G092HA01Z
3G092HD05Z
3G092HE01Z
3G092HE03Z
3G092HE08Z
(57)【要約】
【課題】可変バルブタイミング機構(VVT機構)の目標角度が変化する過渡期において、VVT機構の実角度が目標角度に収束するまでの応答性を向上させる。
【解決手段】電動モータによってクランクシャフトに対するカムシャフトの位相角度を変更するVVT機構38を制御するVVTコントローラ140は、モータ電流及びエンジン運転状態に応じて位相角度を推定する。そして、VVTコントローラ140は、推定された位相角度が目標角度に近づくように電動モータを制御する際、目標角度が変化する過渡期であれば、目標角度が変化する方向に目標角度をオフセットさせる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータによってクランクシャフトに対するカムシャフトの位相角度を変更する可変バルブタイミング機構の制御装置であって、
モータ電流及びエンジン運転状態に応じて前記位相角度を推定し、
前記推定された位相角度が目標角度に近づくように前記電動モータを制御する際、前記目標角度が変化する過渡期であれば、前記目標角度が変化する方向に当該目標角度をオフセットさせる、
可変バルブタイミング機構の制御装置。
【請求項2】
モータ特性を考慮してモータ電流からモータトルクを求め、
モータ回転の運動方程式を考慮して前記モータトルク及び前記エンジン運転状態からモータ回転角度を求め、
前記可変バルブタイミング機構の特性を考慮して前記モータ回転角度から前記位相角度を推定する、
請求項1に記載の可変バルブタイミング機構の制御装置。
【請求項3】
前記目標角度が進角方向に変化する過渡期であれば、カムトルクが前記可変バルブタイミング機構を遅角方向にアシストするときに、前記目標角度がオフセットされ、
前記目標角度が遅角方向に変化する過渡期であれば、カムトルクが前記可変バルブタイミング機構を進角方向にアシストするときに、前記目標角度がオフセットされる、
請求項1に記載の可変バルブタイミング機構の制御装置。
【請求項4】
カム角信号が入力されていない第1の条件、エンジン回転速度が所定回転速度以下である第2の条件、及びエンジン油温が所定温度以上である第3の条件の少なくとも1つが成立したときに、前記目標角度がオフセットされる、
請求項1に記載の可変バルブタイミング機構の制御装置。
【請求項5】
前記目標角度をオフセットさせるオフセット量は固定値である、
請求項1に記載の可変バルブタイミング機構の制御装置。
【請求項6】
前記目標角度の変化量、エンジン油温、及び電源電圧に応じて、前記目標角度をオフセットするオフセット量が設定される、
請求項1に記載の可変バルブタイミング機構の制御装置。
【請求項7】
前記目標角度をオフセットさせたときに、当該目標角度をオフセットさせたオフセット量、及び実際の位相角度と前記目標角度との偏差を記録し、
前記目標角度をオフセットさせるときに、前記偏差に応じて前記オフセット量を補正して更新する、
請求項1~請求項6のいずれか1つに記載の可変バルブタイミング機構の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータによってクランクシャフトに対するカムシャフトの位相角度を変化させることで、吸気弁及び排気弁の少なくとも一方のバルブタイミング(開閉タイミング)を変更する、可変バルブタイミング(VVT:Variable Valve Timing)機構の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン運転状態に応じてバルブタイミングを変更することを目的として、電動モータによってクランクシャフトに対するカムシャフトの位相角度を変化させるVVT機構が知られている。VVT機構を搭載したエンジンでは、特開2020-79581号公報(特許文献1)に記載されるように、推定モデルを考慮してモータ電流及びエンジン運転状態からVVT機構の位相角度を推定し、これが目標角度に近づくようにフィードバック制御が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、実際のVVT機構と推定モデルとの間には乖離があるため、モータ電流及びエンジン運転状態から推定されたVVT機構の位相角度にはある程度の誤差がある。このため、フィードバック制御における予期せぬ不具合を回避すべく、VVT機構の推定角度が実際の位相角度(実角度)よりも早く応答するように推定モデルが設定されている。この場合、特に、VVT機構の目標角度が変化する過渡期において、カム角信号によって推定角度が校正されるものの、その時点から上記のフィードバック制御が再開されるため、VVT機構の実角度が目標角度に収束するまでの応答性が低下するおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は、VVT機構の目標角度が変化する過渡期において、VVT機構の実角度が目標角度に収束するまでの応答性を向上させた、VVT機構の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
電動モータによってクランクシャフトに対するカムシャフトの位相角度を変更するVVT機構の制御装置は、モータ電流及びエンジン運転状態に応じて位相角度を推定する。そして、VVT機構の制御装置は、推定された位相角度が目標角度に近づくように電動モータを制御する際、目標角度が変化する過渡期であれば、目標角度が変化する方向に目標角度をオフセットさせる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、VVT機構の目標角度が変化する過渡状態において、VVT機構の実角度が目標角度に収束するまでの応答性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】車両に搭載されたエンジンシステムの一例を示す概要図である。
【
図3】VVT機構の位相角度を推定する機能ブロック図である。
【
図5】第1実施形態に係るVVT機構の制御処理のフローチャートである。
【
図6】第1実施形態による制御処理の作用及び効果の説明図である。
【
図7】第2実施形態に係るVVT機構の制御処理のフローチャートである。
【
図8】第2実施形態による制御処理の作用及び効果の説明図である。
【
図9】第3実施形態に係るVVT機構の制御処理のフローチャートである。
【
図10】第3実施形態による制御処理の作用及び効果の説明図である。
【
図11】第3実施形態による制御処理の作用及び効果の説明図である。
【
図12】第4実施形態に係るVVT機構の制御処理のフローチャートである。
【
図13】第4実施形態による制御処理の作用及び効果の説明図である。
【
図14】第4実施形態による制御処理の作用及び効果の説明図である。
【
図15】第5実施形態に係るVVT機構の制御処理のフローチャートである。
【
図16】第5実施形態に係るVVT機構の制御処理のフローチャートである。
【
図17】第5実施形態による制御処理の作用及び効果の説明図である。
【
図18】第5実施形態による制御処理の作用及び効果の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付された図面を参照し、本発明を実施するための実施形態について詳述する。
図1は、本実施形態に係るVVT機構の制御装置が適用され得る、車両に搭載されたエンジンシステムの一例を示している。
【0010】
自動車などの車両に搭載されたエンジン10は、例えば、直列3気筒、直列4気筒、V型6気筒などのガソリンエンジンである。各気筒に吸気(吸入空気)を導入する吸気管12の所定箇所には、エンジン10の負荷の一例として挙げられる吸気流量Qを検出する吸気流量センサ14が取り付けられている。吸気流量センサ14としては、例えば、エアフローメータなどの熱線式流量計を使用することができる。なお、エンジン10の負荷としては、吸気流量Qに限らず、例えば、吸気負圧、過給圧力、スロットル開度、アクセル開度など、トルクと密接に関連する状態量を使用することができる。
【0011】
各気筒の燃焼室16に吸気を導入する吸気ポート18には、燃焼室16を臨む端部開口を開閉する吸気弁20が配置されている。吸気弁20の吸気上流に位置する吸気管12の所定箇所には、吸気弁20の傘部背面に向けて燃料を噴射する電磁式の燃料噴射弁22が取り付けられている。燃料噴射弁22は、電磁コイルの通電によって磁気吸引力が発生すると、スプリングによって閉弁方向に付勢されている弁体がリフトし、先端の噴孔が開弁して燃料を噴射する。燃料噴射弁22には、噴孔の開弁時間に略比例した燃料が噴射されるように、所定圧力に調圧された燃料が供給されている。なお、燃料噴射弁22は、吸気弁20の傘部背面に向けて燃料を噴射する構成に限らず、燃焼室16に燃料を直接噴射する構成、又はこれらの両方を備えた構成であってもよい。
【0012】
燃料噴射弁22の噴孔から噴射された燃料は、吸気ポート18の端部開口と吸気弁20との間の隙間を通って燃焼室16に吸気と共に導入され、点火プラグ24の火花点火によって着火燃焼する。この結果、燃焼圧力が、ピストン26をクランクシャフト(図示せず)に向けて押し下げることで、クランクシャフトを回転駆動させる。
【0013】
また、燃焼室16から排気を導出する排気ポート28には、燃焼室16を臨む端部開口を開閉する排気弁30が配置されている。そして、排気弁30によって排気ポート28の端部開口が開弁すると、排気ポート28の端部開口と排気弁30との間の隙間を通って、排気が排気管32へと排出される。排気管32の所定箇所には、触媒コンバータ34が取り付けられている。排気に含まれる有害物質は、触媒コンバータ34によって無害成分に浄化された後、排気管32の終端開口から大気中に放出される。ここで、触媒コンバータ34としては、例えば、排気に含まれるCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、及びNOx(窒素酸化物)を同時に浄化する三元触媒を使用することができる。
【0014】
吸気弁20を開閉駆動する吸気カムシャフト36の端部には、クランクシャフトに対する吸気カムシャフト36の位相角度を変化させることで、吸気弁20のバルブタイミングを変更する電動式のVVT機構38が取り付けられている。VVT機構38は、
図2に示すように、クランクシャフトの回転駆動力を伝達するカムチェーンが巻き回されたカムスプロケット38Aと一体化され、減速機が内蔵された電動モータ38Bにより、吸気カムシャフト36に対してカムスプロケット38Aを相対回転させることで、バルブタイミングを進角又は遅角させる。ここで、
図2において符号38Cで示す部材は、電動モータ38Bへと駆動電流を供給するハーネスを接続するためのコネクタである。なお、VVT機構38は、吸気弁20に限らず、吸気弁20及び排気弁30の少なくとも一方に備えられていればよい。
【0015】
エンジンシステムの所定箇所には、上述した吸気流量センサ14に加えて、エンジン回転速度センサ40、クランク角センサ42、カム角センサ44、水温センサ46、空燃比センサ48、及び油温センサ50などが夫々取り付けられている。エンジン回転速度センサ40は、エンジン10の回転速度Neを検出する。クランク角センサ42は、クランクシャフトの基準位置からの回転角度θCRKを検出する。カム角センサ44は、吸気カムシャフト36の基準位置からの回転角度θCAMを検出する。水温センサ46は、エンジン10の冷却水温度(水温)Twを検出する。空燃比センサ48は、排気中の空燃比A/Fを検出する。油温センサ50は、エンジン10の潤滑油温度(油温)Toを検出する。
【0016】
吸気流量センサ14、エンジン回転速度センサ40、クランク角センサ42、カム角センサ44、水温センサ46、及び空燃比センサ48の各出力信号は、マイクロコンピュータ(図示せず)を内蔵したエンジン制御モジュール(ECM)100に入力されている。エンジン制御モジュール100は、吸気流量センサ14及びエンジン回転速度センサ40から吸気流量Q及び回転速度Neを夫々読み込み、これらに基づいてエンジン運転状態に応じた基本燃料噴射量を求める。また、エンジン制御モジュール100は、水温センサ46から水温Twを読み込み、基本燃料噴射量を水温Twなどで補正した燃料噴射量を求める。そして、エンジン制御モジュール100は、クランク角センサ42及びカム角センサ44から回転角度θCRK及び回転角度θCAMを読み込み、これらから求められるエンジン運転状態に応じたタイミングになったときに燃料噴射弁22及び点火プラグ24に作動信号を夫々出力する。これによって、燃料噴射量に応じた燃料が燃料噴射弁22から噴射されるとともに、点火プラグ24によって燃料と空気との混合気が着火燃焼される。このとき、エンジン制御モジュール100は、空燃比センサ48から空燃比A/Fを読み込み、排気中の空燃比A/Fが目標空燃比に近づくように、燃料噴射弁22をフィードバック制御する。
【0017】
エンジン制御モジュール100は、燃料噴射弁22及び点火プラグ24の制御に加えて、吸気流量センサ14及びエンジン回転速度センサ40から吸気流量Q及び回転速度Neを夫々読み込み、エンジン運転状態に応じたVVT機構38の目標角度を求める。そして、エンジン制御モジュール100は、CAN(Controller Area Network)などの車載ネットワーク120を介して、マイクロコンピュータ(図示せず)を内蔵したVVTコントローラ140にVVT機構38の目標角度を送信する。ここで、図示の例では、VVTコントローラ140に油温センサ50の出力信号が入力されているが、油温センサ50の出力信号がエンジン制御モジュール100に入力され、VVTコントローラ140が車載ネットワーク120を介してエンジン制御モジュール100から油温Toを読み込むようにしてもよい。なお、VVTコントローラ140が、VVT機構38の制御装置の一例として挙げられる。
【0018】
VVT機構38の目標角度を受信したVVTコントローラ140は、油温センサ50から油温Toを読み込むとともに、車載ネットワーク120を介してエンジン制御モジュール100からエンジン運転状態を表す各種のパラメータを読み込む。また、VVTコントローラ140は、詳細については後述するように、油温及びエンジン運転状態を表す各種のパラメータに応じてVVT機構38の位相角度を推定し(以下、推定した位相角度を「推定角度」という。)、この推定角度が目標角度に近づくようにVVT機構38の電動モータ38Bに出力するモータ電流を増減制御する。
【0019】
ここで、
図3の機能ブロック図を参照して、VVTコントローラ140がVVT機構38の位相角度を推定する方法の概要について説明する。なお、VVT機構38の位相角度を推定する方法の詳細については、特開2020-79581号公報を参照されたい。本明細書では、特開2020-79581号公報を参照することで、その内容が本明細書に組み込まれるものとする。
【0020】
VVTコントローラ140は、不揮発性メモリに格納されたアプリケーションプログラムを実行することで、モータトルク推定部140A、回転角度推定部140B、角度変換部140C、及びフィードバック制御部140Dを夫々実装する。そして、VVTコントローラ140は、モータ特性を考慮してモータ電流からモータトルクを求め、モータ回転の運動方程式を考慮してモータトルク及びエンジン運転状態からモータ回転角度を求め、VVT機構38の特性を考慮してモータ回転角度から位相角度を推定する。
【0021】
具体的には、モータトルク推定部140Aにモータ電流[A]が入力されると、モータトルク推定部140Aは、図示のようなモータのT-I特性が設定されたマップを参照して、モータ電流に応じたモータトルク[N・m]を求め、これを回転角度推定部140Bへと出力する。回転角度推定部140Bは、モータトルク推定部140Aから入力されたモータトルク及び影響因子をモータ回転の運動方程式に入力してモータ回転角度[deg.CA]を求め、これを角度変換部140Cへと出力する。モータトルクは、VVT機構38の慣性、VVT機構38の影響因子、及び吸気カムシャフト36の影響因子の和で表され、次式のようになる。
【数1】
ここで、T
motはモータトルク[N・m]、Jは慣性モーメント[kg・m
2]、Dは摩擦係数[N・m・sec/deg]、θはモータ回転角度[deg.CA]、D・dθ/dtはVVT機構38の影響因子、T
camは吸気カムシャフト36の影響因子である。
【0022】
角度変換部140Cは、電動モータ38Bの減速機の減速比などの特性を考慮して、回転角度推定部140Bから入力されたモータ回転角度をVVT機構38の角度[deg.CA]に変換し、これをフィードバック制御部140Dへと出力する。フィードバック制御部140Dは、カム角センサ44からカム角が入力されないとき、フィードバック制御によってVVT機構38の角度から位相角度を推定する。また、フィードバック制御部140Dは、カム角センサ44からカム角が入力されると、この検出値をVVT機構38の位相角度として出力する。
【0023】
本実施形態の技術的な意義の理解を容易ならしめるため、ここで、従来技術の課題を説明する。
VVT機構38の位相角度を推定するための推定モデルは、上述したように、VVT機構38の実角度よりも早く応答するように設定されている。このため、エンジン10の始動時などの目標角度が変化する過渡期では、
図4に示すように、目標角度の変化に追従してある程度の時間差をもってVVT機構38の推定角度が変化する。一方、目標角度が変化する過渡期では、目標角度の変化に追従してさらなる時間差をもってVVT機構38の実角度が変化する。このとき、VVT機構38の推定角度が目標角度に到達すると、VVT機構38の電動モータ38Bにブレーキをかけるべく極性が逆のモータ電圧が印加され、実角度の変化が抑制されてしまう。その後、カム角センサ44から吸気カムシャフト36の回転角度θ
CAMが入力されると、クランク角センサ42からのクランクシャフトの回転角度θ
CRKによってVVT機構38の実角度が確定されるので、この角度に推定角度が校正される。すると、推定角度が目標角度に近づくようにVVT機構38の電動モータ38Bに印加するモータ電圧が増加され、これによって目標角度に近づくように実角度が変化する。そして、VVT機構38の推定角度が目標角度に到達すると、上述したような過程を経て実角度の変化が抑制されてしまう。このようにして、従来技術では、VVT機構38の実角度が目標角度に収束するまでに時間がかかり、VVT機構38の応答性が低下してしまう可能性があった。
【0024】
そこで、本実施形態で提案する技術では、推定角度が目標角度に近づくように電動モータ38Bを制御する際、目標角度が変化する過渡期であれば、目標角度が変化する方向に目標角度を一時的にオフセットすることで、実角度が目標角度に収束するまでの時間を短縮してVVT機構38の応答性を向上させるようにする。以下、この提案技術について、いくつかの例示的な実施形態を詳細に説明する。
【0025】
<<第1実施形態>>
図5は、VVTコントローラ140が起動されたことを契機として、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが所定時間ごとに繰り返し実行する、第1実施形態に係るVVT機構38の制御処理のフローチャートを示している。なお、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、不揮発性メモリに格納されたアプリケーションプログラムに従ってVVT機構38の制御処理を実行する(以下同様)。また、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、VVT機構38の目標角度を任意の時点で参照可能にすべく、図示しない別の処理によって、エンジン制御モジュール100から受信した目標角度を揮発性メモリに逐次記憶させるものとする(以下同様)。
【0026】
ステップ10(
図5では「S10」と略記する。以下同様。)では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、上述したような推定方法によって、モータ電流及びエンジン運転状態からVVT機構38の推定角度を求める。
【0027】
ステップ11では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、揮発性メモリに記憶されている目標角度を参照し、時間的に連続する2つの制御サイクル間で目標角度が変化したか否か、要するに、VVT機構38の目標角度が変化する過渡期にあるか否かを判定する。ここで、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、過度な応答を排除すべく、時間的に連続する2つの制御サイクル間で変化した目標角度が所定値以上である場合に、目標角度が変化する過渡期にあると判定するようにしてもよい。そして、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、目標角度が変化する過渡期にあると判定すれば(Yes)、処理をステップ12へと進める。一方、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、目標角度が変化する過渡期にないと判定すれば(No)、処理をステップ13へと進める。
【0028】
ステップ12では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、VVT機構38の目標角度が変化する方向にその目標角度をオフセットさせる。具体的には、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、目標角度が増加するのであれば、例えば、実験やシミュレーションなどを通して得られた固定の所定値を目標角度に加算することで、目標角度を所定値だけ大きくしてオフセットさせる(目標角度=目標角度+所定値)。また、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、目標角度が減少するのであれば、固定の所定値を目標角度から減算することで、目標角度を所定値だけ小さくしてオフセットさせる(目標角度=目標角度-所定値)。
【0029】
ステップ13では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、例えば、VVT機構38の目標角度(オフセット済みの場合もあり得る)から推定角度を減算することで、VVT機構38の目標角度偏差を求める。
【0030】
ステップ14では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、ステップ13で求めたVVT機構38の目標角度偏差から、例えば、PID制御によってVVT機構38の電動モータ38Bに印加するモータ駆動電圧を求める。なお、PID制御は当業者にとって周知であるため、その詳細な説明は省略する。
【0031】
ステップ15では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、VVT機構38の電動モータ38Bに対して、ステップ14で求めたモータ駆動電圧を印加させる。従って、VVT機構38は、目標角度に近づくように動作することとなる。
【0032】
かかる第1実施形態に係るVVT機構38の制御処理によれば、VVT機構38の目標角度が変化する過渡期には、
図6に示すように、目標角度が変化する方向に目標角度が一時的に所定値だけオフセットされる。このため、目標角度が変化する過渡期には、VVT機構38の目標角度と推定角度との偏差が大きくなることから、例えば、電動モータ38Bをフィードバック制御するPID制御における比例項が大きくなって、より短い時間で実角度が目標角度に収束するようになる。従って、このようなことから、VVT機構38の位相角度を推定しても、VVT機構38の応答性を向上させることができる。また、目標角度のオフセットは、固定の所定値によって行われるため、制御が複雑化することを抑制することもできる。なお、VVT機構38の目標角度をオフセットさせる時間を適切に設定することで、目標角度のオフセットによる不具合(例えば、オーバーシュートが起こり易くなるなどの不具合)を回避できることはいうまでもない。
【0033】
<<第2実施形態>>
図7は、VVTコントローラ140が起動されたことを契機として、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが所定時間ごとに繰り返し実行する、第2実施形態に係るVVT機構38の制御処理のフローチャートを示している。なお、以下の実施形態においては、第1実施形態に係るVVT機構38の制御処理と同様な処理については、重複説明を避けるべく簡潔に説明することとする(以下同様)。必要であれば、第1実施形態の説明を参照されたい(以下同様)。
【0034】
ステップ20では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、モータ電流及びエンジン運転状態からVVT機構38の推定角度を求める。
ステップ21では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、VVT機構38の目標角度が変化する過渡期にあるか否かを判定する。そして、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、目標角度が変化する過渡期にあると判定すれば(Yes)、処理をステップ22へと進める。一方、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、目標角度が変化する過渡期にないと判定すれば(No)、処理をステップ24へと進める。
【0035】
ステップ22では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、例えば、クランク角センサ42の出力信号の変化パターン、及びVVT機構38の目標角度などからカムトルクを推定し、目標角度の変化方向に応じてカムトルクによるVVT機構38のアシストが阻害されるか否かを判定する。具体的には、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、目標角度が進角方向に変化する過渡期であって、カムトルクがVVT機構38を遅角方向にアシストするとき、又は目標角度が遅角方向に変化する過渡期であって、カムトルクがVVT機構38を進角方向にアシストするとき、カムトルクによるVVT機構38のアシストが阻害されると判定する。そして、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、カムトルクによるVVT機構38のアシストが阻害されると判定すれば(Yes)、処理をステップ23へと進める。一方、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、カムトルクによるVVT機構38のアシストが阻害されない、即ち、カムトルクによってVVT機構38がアシストされると判定すれば(No)、処理をステップ24へと進める。
【0036】
ステップ23では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、VVT機構38の目標角度をオフセットさせる。
ステップ24では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、VVT機構38の目標角度偏差を求める。
【0037】
ステップ25では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、VVT機構38の目標角度偏差から電動モータ38Bに印加するモータ駆動電圧を求める。
ステップ26では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、VVT機構38の電動モータ38Bに対してモータ駆動電圧を印加させる。
【0038】
かかる第2実施形態に係るVVT機構38の制御処理によれば、第1実施形態のオフセット条件に加えて、目標角度が変化する過渡期において、カムトルクによるVVT機構38のアシストが阻害されるとき、目標角度が変化する方向に目標角度が一時的に所定値だけオフセットされる。VVT機構38の推定角度が目標角度に到達すると、
図8において破線で囲ったように、逆極性のモータ電圧が電動モータ38Bに印加されるため、電動モータ38BによるVVT機構38の位相角度の変更ができなくなってしまう。このとき、カムトルクによるVVT機構38のアシストが阻害されないと、カムトルクのアシストによってVVT機構38の位相角度が変化するので、目標角度への収束性への影響が少ない。一方、カムトルクによるVVT機構38のアシストが阻害されると、カムトルクのアシストにより電動モータ38BがVVT機構38の位相角度を変更できないため、カムトルクによってVVT機構38が押し返されて遅角方向又は進角方向に動き、目標角度に到達できなくなってしまう。
【0039】
そこで、第2実施形態では、VVT機構38の目標角度が変化する過渡期であって、かつカムトルクによるVVT機構38のアシストが阻害されるとき、目標角度を一時的に所定値だけオフセットし、VVT機構38の推定角度と目標角度との偏差を大きくする。そして、例えば、電動モータ38Bをフィードバック制御するPID制御における比例項が大きくなって、より短い時間で実角度が目標角度に収束し、VVT機構38の応答性を向上させることができる。このようにすることで、VVT機構38の目標角度を一時的にオフセットするシーンが限定され、例えば、VVT機構38の制御への影響を抑制することができる。なお、他の作用及び効果については、先の第1実施形態と同様であるので、その説明は省略することとする(以下同様)。必要であれば、先の第1実施形態の説明を参照されたい(以下同様)。
【0040】
<<第3実施形態>>
図9は、VVTコントローラ140が起動されたことを契機として、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが所定時間ごとに繰り返し実行する、第3実施形態に係るVVT機構38の制御処理のフローチャートを示している。
【0041】
ステップ30では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、モータ電流及びエンジン運転状態からVVT機構38の推定角度を求める。
ステップ31では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、VVT機構38の目標角度が変化する過渡期にあるか否かを判定する。そして、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、目標角度が変化する過渡期にあると判定すれば(Yes)、処理をステップ32へと進める。一方、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、目標角度が変化する過渡期にないと判定すれば(No)、処理をステップ35へと進める。
【0042】
ステップ32では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、目標角度の変化方向に応じてカムトルクによるVVT機構38のアシストが阻害されるか否かを判定する。そして、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、カムトルクによるVVT機構38のアシストが阻害されると判定すれば(Yes)、処理をステップ33へと進める。一方、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、カムトルクによるVVT機構38のアシストが阻害されない、即ち、カムトルクによりVVT機構38がアシストされると判定すれば(No)、処理をステップ35へと進める。
【0043】
ステップ33では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、カム角センサ44から吸気カムシャフト36の回転角度θCAM(カム角信号)が入力されていない第1の条件、エンジン回転速度センサ40によって検出された回転速度Neが所定回転速度以下である第2の条件、及び油温センサ50によって検出された油温Toが所定温度以上である第3の条件の少なくとも1つが成立しているか否かを判定する。そして、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、第1の条件~第3の条件の少なくとも1つが成立していると判定すれば(Yes)、処理をステップ34へと進める。一方、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、第1の条件~第3の条件のすべてが成立していないと判定すれば(No)、処理をステップ35へと進める。
【0044】
ステップ34では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、VVT機構38の目標角度をオフセットさせる。
ステップ35では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、VVT機構38の目標角度偏差を求める。
【0045】
ステップ36では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、VVT機構38の目標角度偏差から電動モータ38Bに印加するモータ駆動電圧を求める。
ステップ37では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、VVT機構38の電動モータ38Bに対してモータ駆動電圧を印加させる。
【0046】
かかる第3実施形態に係るVVT機構38の制御処理によれば、第2実施形態のオフセット条件に加えて、カム角センサ44から吸気カムシャフト36の回転角度θCAMが入力されていない第1の条件、エンジン回転速度センサ40によって検出された回転速度Neが所定回転速度以下である第2の条件、及び油温センサ50によって検出された油温Toが所定温度以上である第3の条件の少なくとも1つが成立しているときに、VVT機構38の目標角度が一時的に所定値だけオフセットされる。ここで、所定回転速度及び所定温度としては、エンジン10のクランキングが完了した回転速度、及び暖機が完了した油温とすることができる。第1の条件が成立すれば、吸気カムシャフト36の回転角度θCAMが分かるので、これとクランク角センサ42の出力信号からVVT機構38の実角度が確定できる。また、第2の条件が成立すれば、エンジン10のクランキングが完了したので、当然ながらVVT機構38の実角度が確定できる。さらに、第3の条件が成立すれば、エンジン10の暖機が完了しているので、当然ながらVVT機構38の実角度が確定できる。
【0047】
そして、このような第1の条件~第3の条件のすべてが成立しなくなったときに、目標角度のオフセットを中止することができる。このため、第2実施形態と同様に、VVT機構38の目標角度を一時的にオフセットするシーンが限定され、例えば、VVT機構38の制御への影響をより抑制することができる。具体例を挙げてこれを説明すると、第1の条件が成立したとき、即ち、
図10に示すように、VVT機構38の実角度が確定したタイミングで目標角度のオフセットを中止する。要するに、目標角度が変更する過渡期において、図中の白抜き矢印で示す期間、即ち、VVT機構38の実角度が確定されるまで目標角度をオフセットさせる。また、第2の条件が成立したとき、即ち、
図11に示すように、エンジン10の回転速度Neが所定回転速度に到達したタイミングで目標角度のオフセットを中止する。要するに、目標角度が変更する過渡期において、図中の白抜き矢印で示す期間、即ち、エンジン10の回転速度Neが所定回転速度に到達してクランキングが完了するまで目標角度をオフセットさせる。
【0048】
<<第4実施形態>>
図12は、VVTコントローラ140が起動されたことを契機として、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが所定時間ごとに繰り返し実行する、第4実施形態に係るVVT機構38の制御処理のフローチャートを示している。
【0049】
ステップ40では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、モータ電流及びエンジン運転状態からVVT機構38の推定角度を求める。
ステップ41では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、VVT機構38の目標角度が変化する過渡期にあるか否かを判定する。そして、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、目標角度が変化する過渡期にあると判定すれば(Yes)、処理をステップ42へと進める。一方、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、目標角度が変化する過渡期にないと判定すれば(No)、処理をステップ46へと進める。
【0050】
ステップ42では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、目標角度の変化方向に応じてカムトルクによるVVT機構38のアシストが阻害されるか否かを判定する。そして、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、カムトルクによるVVT機構38のアシストが阻害されると判定すれば(Yes)、処理をステップ43へと進める。一方、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、カムトルクによるVVT機構38のアシストが阻害されない、即ち、カムトルクによりVVT機構38がアシストされると判定すれば(No)、処理をステップ46へと進める。
【0051】
ステップ43では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、上述した第1の条件~第3の条件の少なくとも1つが成立しているか否かを判定する。そして、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、第1の条件~第3の条件の少なくとも1つが成立していると判定すれば(Yes)、処理をステップ44へと進める。一方、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、第1の条件~第3の条件のすべてが成立していないと判定すれば(No)、処理をステップ46へと進める。
【0052】
ステップ44では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、油温センサ50から油温Toを読み込み、VVT機構38の目標角度の変化量、油温To及び電源電圧から、目標角度を一時的にオフセットするオフセット量を求める。具体的には、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータの不揮発性メモリには、実験やシミュレーションなどによって求められた、目標角度の変化量、油温及び電源電圧に対応するオフセット量が設定されたマップが格納されている。そして、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、不揮発性メモリに格納されたマップを参照して、目標角度の変化量、油温To及び電源電圧に対応するオフセット量を求める。
【0053】
ステップ45では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、VVT機構38の目標角度が変化する方向に、ステップ44で求めたオフセット量を目標角度に加算又は目標角度から減算して目標角度をオフセットさせる。
ステップ46では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、VVT機構38の目標角度偏差を求める。
【0054】
ステップ47では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、VVT機構38の目標角度偏差から電動モータ38Bに印加するモータ駆動電圧を求める。
ステップ48では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、VVT機構38の電動モータ38Bに対してモータ駆動電圧を印加させる。
【0055】
かかる第4実施形態に係るVVT機構38の制御処理によれば、第1実施形態~第3実施形態とは異なり、VVT機構38の目標角度を一時的にオフセットさせるオフセット量が動的に変更される。このため、VVT機構38の目標角度を固定の所定値だけオフセットさせる構成と比較して、オフセットされた目標角度の適正化が図られ、例えば、VVT機構38の制御精度を向上させることができる。
【0056】
電源電圧の高低は、VVT機構38の電動モータ38Bの駆動に直接影響するため、電源電圧の高低に応じてオフセット量を変化させることで、VVT機構38の応答性を改善することができる。即ち、電源電圧が低いときには、
図13に示すように、オフセット量を大きくすることで、VVT機構38の推定角度と目標角度との偏差を大きくし、電源電圧の影響を低減することができる。また、電源電圧が高いときには、
図14に示すように、電源電圧が低い場合と比較してオフセット量を小さくすることで、VVT機構38の推定角度と目標角度との偏差を小さくし、過剰な応答がなされることを抑制しつつ、電源電圧の影響を低減することができる。
【0057】
<<第5実施形態>>
図15及び
図16は、VVTコントローラ140が起動されたことを契機として、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが所定時間ごとに繰り返し実行する、第5実施形態に係るVVT機構38の制御処理のフローチャートを示している。なお、第5実施形態では、マイクロコンピュータの不揮発性メモリに、前回のドライビングサイクルにおけるVVT機構38の目標角度をオフセットさせたオフセット量、及び実角度と目標角度との偏差(初期値=デフォルト値)が記録されている。
【0058】
ステップ50では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、不揮発性メモリからオフセット量及び偏差を読み込む。
ステップ51では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、偏差に応じてオフセット量を補正して更新する。ここで、オフセット量の補正は、例えば、偏差に所定比率を乗算した値をオフセット量に加算したり、所定規則に従って偏差から求めた値をオフセット量に加算したりすることで行うことができる。
【0059】
ステップ52では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、モータ電流及びエンジン運転状態からVVT機構38の推定角度を求める。
ステップ53では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、VVT機構38の目標角度が変化する過渡期にあるか否かを判定する。そして、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、目標角度が変化する過渡期にあると判定すれば(Yes)、処理をステップ54へと進める。一方、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、目標角度が変化する過渡期にないと判定すれば(No)、処理をステップ58へと進める。
【0060】
ステップ54では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、目標角度の変化方向に応じてカムトルクによるVVT機構38のアシストが阻害されるか否かを判定する。そして、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、カムトルクによるVVT機構38のアシストが阻害されると判定すれば(Yes)、処理をステップ55へと進める。一方、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、カムトルクによるVVT機構38のアシストが阻害されない、即ち、カムトルクによりVVT機構38がアシストされると判定すれば(No)、処理をステップ58へと進める。
【0061】
ステップ55では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、上述した第1の条件~第3の条件の少なくとも1つが成立しているか否かを判定する。そして、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、第1の条件~第3の条件の少なくとも1つが成立していると判定すれば(Yes)、処理をステップ56へと進める。一方、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、第1の条件~第3の条件のすべてが成立していないと判定すれば(No)、処理をステップ58へと進める。
【0062】
ステップ56では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、VVT機構38の目標角度の変化量、油温To及び電源電圧から、目標角度を一時的にオフセットするオフセット量を求める。
ステップ57では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、VVT機構38の目標角度が変化する方向に、ステップ56で求めたオフセット量を目標角度に加算又は目標角度から減算して目標角度をオフセットさせる。
【0063】
ステップ58では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、VVT機構38の目標角度偏差を求める。
ステップ59では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、VVT機構38の目標角度偏差から電動モータ38Bに印加するモータ駆動電圧を求める。
【0064】
ステップ60では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、VVT機構38の電動モータ38Bに対してモータ駆動電圧を印加させる。
ステップ61では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、VVT機構38の目標角度と実角度との偏差を求める。
【0065】
ステップ62では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、例えば、イグニッションスイッチの出力信号を読み込み、エンジン10の停止指示があったか否かを判定する。そして、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、エンジン10の停止指示があったと判定すれば(Yes)、処理をステップ63へと進める。一方、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、エンジン10の停止指示がないと判定すれば(No)、VVT機構38の制御処理を終了させる。
【0066】
ステップ63では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータが、ステップ61で求めたVVT機構38の目標角度と実角度との偏差、及び目標角度をオフセットさせたオフセット量を不揮発性メモリに記録する。従って、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、不揮発性メモリに記録されているオフセット量及び偏差を任意の時点で参照することで、前回のドライビングサイクルにおけるVVT機構38のオフセット量及び偏差を取得することができる。
【0067】
かかる第5実施形態に係るVVT機構38の制御処理によれば、第4実施形態に係るVVT機構38の制御処理に加えて、VVT機構38の電動モータ38Bにモータ駆動電圧を印加させた後、VVT機構38の実角度と目標角度との偏差が求められる。そして、エンジン停止指示があると、目標角度をオフセットさせたオフセット量及び偏差が不揮発性メモリに記録される。また、VVTコントローラ140の次回の起動時には、不揮発性メモリから前回のドライビングサイクルにおけるVVT機構38のオフセット量及び偏差が読み込まれ、偏差に応じてオフセット量が補正されて更新される。要するに、第5実施形態では、VVTコントローラ140のマイクロコンピュータは、目標角度をオフセットさせたときに、目標角度をオフセットさせたオフセット量、及び実角度と目標角度との偏差を記録し、目標角度をオフセットさせるときに、偏差に応じてオフセット量を補正して更新する。
【0068】
従って、あるドライビングサイクルにおいて、
図17に示すように、VVT機構38をオフセットさせたオフセット量、及び実角度と目標角度との偏差が不揮発性メモリに記憶されると、VVTコントローラ140の次回起動時に、不揮発性メモリからオフセット量及び偏差が読み込まれる。そして、
図18に示すように、偏差に応じてオフセット量が補正され、この補正されたオフセット量によりVVT機構38が制御される。このため、オフセット量の適正化を通して、
図17及び
図18の比較から把握できるように、実角度が目標角度を超える偏差が小さくなり、VVT機構38の応答性をより向上させることができる。
【0069】
なお、当業者であれば、上記実施形態の技術的思想について、その一部を省略したり、その一部を適宜組み合わせたり、その一部を周知技術に置換したりすることで、新たな実施形態を生み出せることを容易に理解できるであろう。
【0070】
その一例を挙げると、VVT機構38の目標角度は、エンジン制御モジュール100において算出される構成に限らず、VVTコントローラ140において算出される構成としてもよい。また、車両に搭載されたエンジン10は、ガソリンエンジンに限らず、ディーゼルエンジンであってもよい。
【符号の説明】
【0071】
10…エンジン 36…吸気カムシャフト(カムシャフト) 38…VVT機構(可変バルブタイミング機構) 38B…電動モータ 140…VVTコントローラ(制御装置) 140A…モータトルク推定部 140B…回転角度推定部 140C…角度変換部 140D…フィードバック制御部