(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021130
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】車両用灯具のランプボディ
(51)【国際特許分類】
F21S 45/00 20180101AFI20240208BHJP
【FI】
F21S45/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123741
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110004060
【氏名又は名称】弁理士法人あお葉国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077986
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100139745
【弁理士】
【氏名又は名称】丹波 真也
(74)【代理人】
【識別番号】100187182
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 由希
(74)【代理人】
【識別番号】100207642
【弁理士】
【氏名又は名称】簾内 里子
(72)【発明者】
【氏名】多々良 柊汰
(57)【要約】
【課題】成形性が良く、ランプボディ本体がシール溝よりも薄肉に構成されるランプボディを提供する。
【解決手段】前面開口部を有する容器状のランプボディ本体と、前記前面開口部に周設されたシール溝とを備え、前記ランプボディ本体は前記シール溝よりも薄肉に構成され、前記ランプボディ本体の前記前面開口部を構成するいずれかの一辺に設けられる前記シール溝の略中央に、ただ一つのゲート痕を有するランプボディを提供する。ランプボディ金型において、シール溝の略中央に対応する位置にゲートを設けることで、肉厚なシール溝を成形するキャビティを湯道として働かせて、キャビティ全体に均等に溶解樹脂を行きわたらせることで、末端部に発生するガス焼けなどの成形不具合を抑制した。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面開口部を有する容器状のランプボディ本体と、
前記前面開口部に周設されたシール溝と、
を備え、
前記ランプボディ本体は前記シール溝よりも薄肉に構成され、
前記ランプボディ本体の前記前面開口部を構成するいずれかの一辺に設けられる前記シール溝の略中央に、ゲート痕を有する、
ことを特徴とする車両用灯具のランプボディ。
【請求項2】
前記ランプボディ本体の背面壁は、前記背面壁の外縁から前方へ延在して設けられる周側面のうちの少なくとも一面と、稜線を介して接続され、前記ランプボディ本体の前記背面壁には、前記背面壁の一部を構成する横断面略円弧状の複数の梁が、前記背面壁の上縁部から下縁部に亘り、トラス状に延在している、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用灯具のランプボディ。
【請求項3】
前記ゲート痕は、前記ランプボディ本体を構成する構成面のうち、最も面積が広い一面に設けられた前記シール溝の略中央に設けられている、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用灯具のランプボディ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、車両用灯具のランプボディに関し、特に開口部にシール溝が設けられ、ランプボディ本体がシール溝よりも薄肉に構成されるランプボディに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、ランプボディの樹脂成形においては、ランプボディの背面の中央となる位置にゲートを設ける(例えば特許文献1)。これは、溶解樹脂が均等に金型のキャビティに広がり、ヒケなどの不良成形を抑制できるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、近年は軽量化の要求からランプボディが薄肉化する傾向があるが、薄肉のランプボディの背面中央となる位置にゲートを設けると、ランプボディ末端部でウェルドが頻発するという問題がある。これに対して、ガス抜き入れ子を設けて対応すると、コストアップとなってしまう。このため、成形性がよく、薄肉に構成されるランプボディが望まれる。
【0005】
本件は、このような問題に鑑みてなされたものであり、成形性のよい、薄肉に構成されるランプボディを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記問題を解決するため、本開示のある態様における車両用灯具のランプボディは、前面開口部を有する容器状のランプボディ本体と、前記前面開口部に周設されたシール溝とを備え、前記ランプボディ本体は前記シール溝よりも薄肉に構成され、前記ランプボディ本体の前記前面開口部を構成するいずれかの一辺に設けられる前記シール溝の略中央に、ゲート痕を有するように構成した。
【0007】
この態様においては、ランプボディ金型において、シール溝の略中央となる位置にゲートが設けられるため、シール溝を形成するキャビティを湯道として、溶解樹脂が広がり、末端部まで均等に充填することから、先走りによる、ガス焼けなどの成形不具合の発生が抑制される。
【0008】
また、ある態様においては、前記ランプボディ本体の背面壁は、前記背面壁の外縁から前方へ延在して設けられる周側面のうちの少なくとも一面と、稜線を介して接続され、前記ランプボディ本体の前記背面壁には、前記背面壁の一部を構成する横断面略円弧状の複数の梁が、前記背面壁の上縁部から下縁部に亘り、トラス状に延在しているものとした。
【0009】
この態様によれば、トラス構造によりランプボディ本体の剛性が高く、ランプボディ本体を薄肉にしても十分に剛性を持つことから、ランプボディ本体を薄肉化することができ、相対的にシール溝は厚肉となる。
【0010】
また、ある態様においては、前記ゲート痕は、前記ランプボディ本体を構成する構成面のうち、最も面積が広い一面に設けられた前記シール溝の略中央に設けられているものとした。この態様によれば、溶解樹脂がランプボディ金型のキャビティをバランスよく広がり、成形不具合の発生を抑制できる。
【発明の効果】
【0011】
以上の説明から明らかなように、成形性のよい、薄肉に構成されるランプボディを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】好適な実施形態に係る車両用灯具の概略構成を示す正面図である。
【
図4】ランプボディの端面図である。
図2に示す各指示線(切断面)に沿っている。
【
図5】梁によるトラス構造を説明する説明図である。
図2に対応する。
【
図6】ランプボディ形状の説明図である。
図6(A)が比較のための従来構成を有するランプボディ102の鉛直端面図である。
図6(B)がランプボディ2の鉛直端面図である。
【
図7】
図2のF-F線に沿った端面図である。主としてゲート痕Gを示す。
【
図8】ランプボディの金型である。
図7に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の具体的な実施形態を、図面を参照しながら説明する。実施形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施形態に記述されるすべての特徴やその組合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。また、以下の実施形態および変形例の説明において、同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0014】
(車両用灯具1)
図1は、本発明の好適な実施形態に係る車両用灯具1の正面図である。車両用灯具1は車両の前方の左右の角部に装着される前照灯である。
【0015】
図1に示すように、車両用灯具1は、前面が開口した容器状のランプボディ2と、ランプボディ2の前面開口部に組付けられる前面カバー4とを備える。前面カバー4は例えばポリカーボネイトなどの透光性を有する樹脂やガラスなどで構成され、前面カバー4がランプボディ2の開口部に取付けられることで、内側に灯室Sが画成される。
【0016】
画成された灯室S内には、ハイビーム用のランプユニットHiおよびロービーム用のランプユニットLoが収容されている。
【0017】
ハイビーム用のランプユニットHiおよびロービーム用のランプユニットLoは、光源からの出射光を車両前方に照射して、ハイビーム配光/ロービーム配光を形成するよう構成された光学ユニットである。各ランプユニット(Hi,Lo)には、従来周知の構成、例えば反射型、プロジェクタ型などのランプユニットが用いられており、その種類は問わない。
【0018】
(ランプボディ2)
ランプボディ2の形状について詳しく説明する。
図2は、ランプボディ2の正面図である。
図3は、ランプボディ2の正面斜視図である。
【0019】
ランプボディ2は、硬質の合成樹脂材料を用いて射出成形により成形される。ランプボディ2は、前面が開口した容器状のランプボディ本体20、前面カバー4の周縁に設けられたシール脚と係合するためにランプボディ本体20の前方開口部の周縁に周設されるシール溝3、および車体に取付けるための車体取付部5から主として成る。
【0020】
車体取付部5は、シール溝3とランプボディ本体20との境界部で、基端部の一部がシール溝3につながりつつ、ランプボディ本体20の外表面に設けられ、車体側の取付部分の形状に対応させて突設されている。車体取付部5は、ランプボディ本体20の外表面に、上方に3か所、左方に2か所、合計5か所に設けられている。
【0021】
ランプボディ2は、構成面として、背面壁6、天井面7、底面8、左右の側面9,9を有し、背面壁6が背面側に膨らみ、隣接する天井面7、底面8、および側面9,9と稜線を介して接続されている。また、天井面7、底面8、および側面9,9は基本としてランプボディ2の外側に向かって緩やかに膨らむ凸状の湾曲形状となっており、互いの縁部で緩やかに湾曲して、屈曲部や段差なく連続して連結されている。このため、ランプボディ2は全体として丸みを帯びた容器状に形成されている。本実施形態においては、天井面7は、ランプボディ2の開口部から背面にむかって延出して形成されるが、その延出量も小さく、開口部の縁部から緩やかに背面下方に向かって湾曲しながら延在して背面壁6と接続しており、背面壁6と一体的に構成されている。このように、ランプボディ2の構成面は主として平面ではなく曲率半径の大きな湾曲面で構成される。
【0022】
シール溝3は、開口部の一部を構成するランプボディ本体20の構成面に設けられており、天井面7の開口部には天井面シール溝31、底面8の開口部には底面シール溝32、左の側面9の開口部には左側面シール溝33、および右の側面9の開口部には右側面シール溝34が、それぞれ設けられている。天井面シール溝31、底面シール溝32、左側面シール溝33、および右側面シール溝34は、隣接するシール溝と、段差なく連続して設けられている。以下、天井面シール溝31、底面シール溝32、左側面シール溝33、右側面シール溝34の内、いずれかを特定する場合を除き、これらをまとめてシール溝3と称する。
【0023】
ランプボディ2には、ロービーム用のランプユニットLoを装着するための第1ユニット取付用孔11が、背面壁6の中央の上方に形成されている。また、ハイビーム用のランプユニットHiを取付けるための第2ユニット取付用孔12が、背面壁6の左方の上方に形成されている。
【0024】
加えて、ランプボディ2には、第1エイミング部材取付用孔41、第2エイミング部材取付用孔42、および第3エイミング部材取付用孔43が、第1ユニット取付用孔11の回りに形成されている。各エイミング部材取付用孔41,42,43には、不図示のエイミング部材が取付けられる。
【0025】
第1エイミング部材取付用孔41は、左右方向には、第1ユニット取付用孔11および第2ユニット取付用孔12の間に配置され、上下方向には背面壁6の下縁部に設けられている。第2エイミング部材取付用孔42は、第1ユニット取付用孔11を基準として、第1エイミング部材取付用孔41に対しておおむね左右対称の位置に設けられている。このため、第2エイミング部材取付用孔42は、第1ユニット取付用孔11から第1エイミング部材取付用孔41までの距離と略等距離だけ、第1ユニット取付用孔11から第1エイミング部材取付用孔41の設けられた左方とは逆方向の右方向にオフセットされた、背面壁6の下縁部に設けられている。第3エイミング部材取付用孔43は、第2エイミング部材取付用孔42の上方で、背面壁6の上端部に形成されている。
【0026】
さらに、ランプボディ2には、第3エイミング部材取付用孔43の右方の、背面壁6の最も右方寄りの領域に呼吸孔50が形成されている。この呼吸孔50により、ランプユニットHi,Loの光源の点灯による発熱や気温の変化などに伴う灯室S内の空気の膨張・収縮が許容されるとともに、灯室S内の湿気が外部へと逃がされ、灯室S内に湿気が溜まることが防止される。これにより、灯室S内の水分が灯室Sの内側から前面カバー4に付着することで生じる灯室S内の曇りが防止される。
【0027】
(背面壁と梁)
背面壁6には、該背面壁6の一部を構成する、第1梁61、第2梁62、第3梁63、第4梁64、および第5梁65が、背面壁6の上端部から下端部に亘り延在している。ここで、背面壁6の梁61~65の構成部分以外の部分を背面壁本体69と称する。
【0028】
第1梁61は、背面壁6の下端部に設けられた第1エイミング部材取付用孔41から、正面視しておおむね上方に向かって、まっすぐに背面壁6の上端部まで延在している。
【0029】
第2梁62は、下方の第1エイミング部材取付用孔41と、上方の第2ユニット取付用孔12を端点として、両者を結ぶようにして延在している。このため、第2梁62は、正面視して、右方に傾いて形成されている。
【0030】
第3梁63は、下方の第2エイミング部材取付用孔42と、上方の第1ユニット取付用孔11を端点として、両者を結ぶようにして延在している。このため、第3梁63は、正面視して、第2梁62とは逆方向の左方に傾いて形成されている。
【0031】
第4梁64は、下方の第2エイミング部材取付用孔42と、上方の第3エイミング部材取付用孔43を端点として、両者を結ぶようにして延在している。このため、第4梁64は、正面視して、ほぼ鉛直に形成されている。
【0032】
第5梁65は、下方の第2エイミング部材取付用孔42と、上方の呼吸孔50を起点として、両者を結ぶように延在している。このため、第5梁は、正面視して、右方に傾いて形成されている。
【0033】
図4は、
図2に示す切断線に沿った端面図である。
図4(A)は
図2のA-A線に沿った端面図であり、主として第1梁61の断面形状を示す。
図4(B)は、
図2のB-B線に沿った端面図であり、主として第2梁62の断面形状を示す。
図4(C)は、
図2のC-C線に沿った端面図であり、主として第3梁63の断面形状を示す。
図4(D)は、
図2のD-D線に沿った端面図であり、主として第4梁64の断面形状を示す。
図4(E)は、
図2のE-E線に沿った端面図であり、主として第5梁65の断面形状を示す。
【0034】
図5(A)~
図5(E)に示すように、各梁61~65は、その延在方向に直行した横断面形状が、それぞれの曲率半径や幅、および突出量は異なるものの、全て略円弧状に構成される。梁61,62,63,65は、その湾曲面の突出方向が、灯室S方向(前方)となるように形成されている。梁64は、その湾曲面と突出方向が、灯室S外方向(背面方向)となるように形成されている。
【0035】
各梁は61~65は、突出方向に関わらず、背面壁本体69とは稜線を介して滑らかに接続されており、ランプボディ2の該当断面形状は、一定の肉厚を保ったまま、屈曲部なく連続して構成されている。
【0036】
例えば、第2梁62を含む背面壁6の縦断面形状について、
図4(B)を詳しく説明する。
図4(B)に示すように、ランプボディ2の開口部上方の縁部には天井面シール溝31が設けられており(
図2も参照のこと)、ここから天井面7と一体化した背面壁本体69が背面の下方に向かって延在し、第2梁62との境界部では、前方に向かって湾曲して、滑らかに第2梁62と接続される。第2梁62は下方へ延在しつつ前方に湾曲してのちに背面へ再び湾曲することで、前方に向かって膨らむ略円弧状に形成される。第2梁62は下縁部で、前方下方に湾曲して、背面壁本体69と再び滑らかに接続される。背面壁本体69は前方下方に延在して、灯室S内側に湾曲して、同曲率で湾曲した底面8の縁部と接続される。底面8はそのまま前方に向かって延在して、ランプボディ2の開口部下方の縁部に設けられた底面シール溝32に接続される。このように、天井面7と背面壁本体69、背面壁本体69と第2梁62、背面壁本体69と底面8が、それぞれその接続部において、屈曲部や段差を形成しないように、同曲率で湾曲して滑らかに接続されている。
【0037】
図5(A)(C)(D)(E)に示すように、第1梁61、第3梁63、第4梁64(梁部分の凸方向は逆方向)、および第5梁65も、同様にして背面壁本体69と稜線を介して接続される。このように、各梁61~65は、それぞれ延在方向の断面形状を略円弧状に保ちつつ、背面壁6の上端部から下端部まで延在し、かつ背面壁本体69とは、隣接する面同士として端部で、段差や角部を形成せずに、連続して滑らかに接続される。
【0038】
上記のように構成されるランプボディ2の断面形状は、複雑なカーブが連続とした波状に構成される。さらに、背面壁6と天井面7、底面8、側面9,9も同様に稜線を介して接続されており、境界部分で両者は同曲率に湾曲してなめらかに連続して接続される。背面壁6と天井面7、底面8、側面9,9自体も概ね曲率半径の大きな、緩やかに外側に膨らんだ曲面であり、隣接する曲面同士が滑らかに連続している。このため、ランプボディ2自体が、主として湾曲面で構成されて、角部の形成が削減され、肉厚はおおむね一定に保たれる。
【0039】
上記のように構成される背面壁6およびランプボディ2は、従来のランプボディよりも剛性が高く構成されるため、従来のランプボディよりも薄肉化することができる。これを
図5および
図6を用いて説明する。
図5はランプボディ2の正面図であり、ランプボディ2の各梁61~65を薄墨で示した。
【0040】
図5に示すように、各梁61~65は、背面壁6の上端部から下端部まで延在し、かつある梁の端部から他の梁が斜めに延出するなど、三角形を単位としたトラス構造となっている。このため、背面壁6を含むランプボディ2は、荷重に対して変形しにくい構造となっている。また、梁61~65自体が応力を分散させる横断面略円弧状の湾曲面であることから、より変形に強い剛性の高い構造となっている。これによりランプボディ2の剛性が向上し、剛性の向上により薄肉化が可能である。
【0041】
ランプボディ2の形状について、従来の構成と比較して説明する。
図6(A)は比較用の従来構成のランプボディ102の概略図を示す鉛直断面図である。
図6(B)は、ランプボディ2の鉛直断面図である。
【0042】
図6(A)に示すように、従来構成のランプボディ102は、おおむね平面状の背面壁106、天井面107、底面108を有し、鉛直配置される背面壁106の上下の端部に、水平面である天井面107,底面108が、接続される。このため、接続部には90度に曲がった角部が形成される。このように平面と平面とがぶつかり形成される角部は、応力集中が発生しやすい。応力集中による変形を抑制して剛性を確保するために、角部にはリブ110が設けられる。
【0043】
これに対し、
図6(B)に示すように、ランプボディ2においては、背面壁6、天井面7、底面8は、互いに稜線を介して接続されている。このように、ランプボディ2は主として湾曲面で構成されており、隣接する面同士が、境界で同曲率に湾曲して接続する。構成面同士が滑らかに連続しており、接続部に屈曲部を形成せず、応力集中による角部が形成されていない。応力が集中する角部の形成を抑制することにより、応力が分散され、変形に強い、剛性の高い構造となっている。本実施形態においては、構成面全てが稜線で接続されたが、少なくとも背面壁6が、天井面7、底面8、側面9,9のいずれかの一面と稜線を介して接続していればよい。
【0044】
同様に、梁61~65は、背面壁本体69とは稜線を介して接続されており、接続部でも滑らかに連続している。このため、背面壁6の断面形状は、屈曲部を持たない波型に構成され、角部への応力集中が抑制され、剛性が向上する。この場合、平面でなければ、各梁61~65が延在方向に対して湾曲する方向(略円弧状断面の突出方向)は、前方/後方(背面方向)のどちらであっても構わない。
【0045】
ランプボディ2では、梁を背面壁に設けたが、天井面や底面、側面にも同様に梁を設けてもよい。また、各梁の延在方向や形態は一例にすぎず、三角形を基本としたトラス構造が形成されれば、他の種類のトラス形態を用いてもよい。
【0046】
ランプボディ2において、各梁61~65の端部には、背面壁6に設けられた第1ユニット取付用孔11およびエイミング部材取付用孔41,42,43が形成されている。これは、取付用孔は、他部品を取付ける性質上、背面壁6の他箇所よりも肉厚で剛性が高い構成となっていることから、これら構造上必要な構成要素を梁の一部、とくに重要な梁の接合点となる箇所に利用することで、背面壁6ひいてはランプボディ2の剛性を向上させている。なお、呼吸孔50には、呼吸孔50を囲うように防水壁が周設されているため、取付用孔と同様に剛性の高い箇所となっている。
【0047】
上記のように構成されるランプボディ2は、剛性が高いため、従来よりも薄肉化できる。ここで、開口部のシール溝3については、前面カバー4が取付けられる性質上、従来品から薄肉化せずに、従来品の板厚そのままで構成されている。
【0048】
即ち、ランプボディ2においては、ランプボディ本体20のみが薄肉に構成され、シール溝3は薄肉化せず、シール溝3はランプボディ本体20よりも厚肉に構成される。
【0049】
このため、シール溝3の一部も、トラス構造の一部を構成している。シール溝3の少なくとも一部を用いて、梁61~65と共にトラス構造に構成させることで、ランプボディ2の剛性を向上させている。
【0050】
(ランプボディ2の樹脂成形)
上記のように構成されるランプボディ2の射出成形の工程および金型のゲート位置について説明する。
【0051】
図2および
図3の白色矢印は、ゲート痕Gを示している。
図7は、
図2のF-F線に沿った断面図であり、主としてゲート痕Gを示す。
図8は、ランプボディ2を成形する金型80を示す。
図8は
図7に対応する。
【0052】
前述の通り、シール溝3は、ランプボディ2、詳しくはランプボディ本体20の開口部の一部を構成する構成面に設けられており、天井面7の開口部には天井面シール溝31、底面8の開口部には底面シール溝32、左の側面9の開口部には左側面シール溝33、および右の側面9の開口部には右側面シール溝34が、それぞれ設けられている。
【0053】
ここで、ランプボディ本体20の開口部に周設されたシール溝3のうち、底面8に設けられた底面シール溝32の略中央には、ゲート痕Gが形成されている。本実施形態においては、ランプボディ2は、このゲート痕G以外のゲート痕を持たず、ゲート痕Gがランプボディ2の唯一のゲート痕となっている。
【0054】
ゲート痕Gの形成について、ランプボディ2の成形方法から説明する。
図8に示すように、ランプボディ2を成形する金型80は、固定型83と可動型84を有し、固定型83と可動型84との間にランプボディ2の形状に対応するキャビティCを形成するように構成されている。キャビティCは、主としてランプボディ本体20の形状に対応する第1キャビティC1と、シール溝3の形状に対応する第2キャビティC2から構成されている。第2キャビティC2においては、固定型83のキャビティ構成面と可動型84のキャビティ構成面との距離が比較的遠く、空間が比較的広く構成されているが、第1キャビティC1においては、固定型83のキャビティ構成面と可動型84のキャビティ構成面との距離が、第2キャビティのそれよりも近く、空間も狭く構成されている。
【0055】
金型80には、底面シール溝32の略中央に対応する位置に唯一のゲート85が設けられている。溶解温度まで熱せられた溶解樹脂がゲート85からキャビティCに射出されてキャビティCを満たし、冷やされることで固まり、金型80から取外されることで、ランプボディ2は成形される。
【0056】
従来のランプボディを成形する金型においては、ランプボディの背面中央にあたる箇所にダイレクトゲートが設けられる。ゲートは概ねキャビティ空間の中央に配置されることになるため、溶解樹脂がゲートからキャビティ内に流し込まれると、放射状に広がり、キャビティの末端部まで行き届く。従来のランプボディでは、ランプボディ本体もシール溝も、概ね同じ肉厚に構成されており、シール溝も含めて、溶解樹脂が概ね均等にキャビティ内に広がる。
【0057】
これに対し、
図7に示すように、ランプボディ2においては、ランプボディ本体とシール溝の肉厚が等しい従来のランプボディと異なり、ランプボディ本体20の肉厚T2は、シール溝3の肉厚T1よりも薄肉に構成されている。ランプボディ本体20はトラス構造により剛性が高く、従来のランプボディの肉厚よりも薄肉化しても従来と同程度の剛性を確保できることから、軽量化のために薄肉化されている。これに対し、シール溝3は、他部品の前面カバー4と係合することから、薄肉化されずに従来の肉厚のままとなっている。このため、ランプボディ本体20はシール溝3よりも相対的に薄肉となっている。
【0058】
ランプボディ本体20がシール溝3よりも薄肉に構成されるランプボディ2においては、仮にランプボディ2を成形する金型に、ダイレクトゲートをランプボディ本体20の背面中央に対応する位置に設けると、成形不具合が頻発するという問題が生じる。これは、シール溝3がランプボディ本体20よりも肉厚であることから、第2キャビティC2が広く太いため、これが意図せず湯道として働いてしまい、先走りが生じ、結果として末端部にガス焼け(ウェルドライン)が発生するからである。加えて、ランプボディ本体20は薄肉であるため、第1キャビティC1にダイレクトゲートを設けると、狭い空間で溶解樹脂が上手く均等に広がらず、ゲート位置に成形不具合が生じやすい。この現象は、ランプボディ2に限られず、ランプボディ本体の板厚よりも肉厚なシール溝が開口部に周設されているランプボディを成形する際に生じる。成形不具合の発生を抑制するためにガス抜き入れ子を設けると、金型費用が増加してしまう。
【0059】
このため本実施形態においては、ランプボディ2を成形する金型80に、シール溝3を構成する一辺である底面シール溝32の略中央となる位置にゲート85を設けることで、成形不具合の問題を回避した。即ち、第1キャビティC1にゲートを設けてしまうと第2キャビティC2が意図せぬ湯道となることから、逆に、第2キャビティC2にゲート85を設けて、第2キャビティC2を湯道として働かせて、先走りを回避した。ゲート85の痕跡は、成形されたランプボディ2にゲート痕Gとして残る。上記成形方法により成形不具合が抑制されて、ランプボディ2の成形性が向上する。
【0060】
金型80のゲート85から溶解樹脂をキャビティCに流し込むと、溶解樹脂は広く通りやすい第2キャビティC2を湯道として流動し、第2キャビティC2から第1キャビティC1に流れ込んで、キャビティCを満たしていく。キャビティCの外周部から内側に向かって溶解樹脂が充填されるため、末端部でガス焼けが生じにくい。また、ゲートは、ゲート85ただ一つだけ設けて、溶解樹脂の流動を制御し、意図せぬ回り込みによる成形不具合を回避した。第2キャビティC2は比較的広く構成されていることから、ゲート位置に成形不具合も生じにくい。
【0061】
前述の通り、シール溝3は、天井面シール溝31、底面シール溝32、左側面シール溝33、および右側面シール溝34から構成される。金型80のゲート85は、底面シール溝32の略中央に対応する位置に限られず、いずれかのシール溝の略中央に対応する位置に設けられればよい。
【0062】
ここで、車両用灯具1は左右方向に長い直方体形状であることから、長辺の天井面シール溝31、または底面シール溝32に対応する位置にゲート85が設けられると流路の長さのバランスが良く好ましい。
【0063】
ランプボディ本体20の構成面は、背面壁6、天井面7、底面8、左右の側面9,9であり、シール溝3が設けられた面のうち、天井面7の面積が小さく、最も底面8の面積が大きい。金型80においては、最も面積が広い底面8に設けられた底面シール溝32の略中央に対応する位置にゲート85が設けられている。金型80のキャビティCにおいては、各構成面を構成するキャビティの中で底面8を成形するキャビティが最も体積が大きいため、底面シール溝32に対応した位置にゲート85が設けられると、キャビティCに流入した溶解樹脂は、底面8を成形するキャビティを満たしつつ、第2キャビティC2を流動して、左右の側面9,9、天井面7、を成形するキャビティを順に満たしていく。溶解樹脂はキャビティC全体をバランスよく広がり、末端部で不具合が生じにくい。このように、ランプボディ2を成形する金型では、ランプボディ本体20を構成する構成面のうち、最も面積が広い一面に設けられたシール溝の略中央にゲートが設けられると好ましい。
【0064】
また、
図7に示すように、シール溝3は、内周壁3a、外周壁3c、および内周壁3aと外周壁3cを接続する側壁3bから構成される。底面シール溝32の略中央の外周壁3cには、突出するベース部3dがさらに設けられており、ゲート痕Gは、ベース部3dの外周面に形成されている。射出成形品ではベース部3dを切除することもあり、そのような痕跡もゲート痕Gに含まれる。
【0065】
金型80においては、ベース部3dの前面(
図7のゲート痕G´参照)に対応する位置にゲートを設けてもよい。この場合、ゲートから射出される溶解樹脂の流動方向が、前後方向となり、底面8を成形するキャビティの延在方向と合致するため、キャビティCでの溶解樹脂の流動性が良く、好ましい。
【0066】
ベース部3dを設けず、外周壁3cに対応する位置にゲート85を設けてもよい。ゲート痕Gはランプボディ2の底面という視認されない箇所に残るため、車両用灯具1の意匠に影響を与えない。
【0067】
以上、本発明の好ましい実施形態について述べたが、上記の実施形態は本発明の一例であり、これらを当業者の知識に基づいて組合わせることが可能であり、そのような形態も本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0068】
1 :車両用灯具
2 :ランプボディ
3 :シール溝
4 :前面カバー
6 :背面壁
7 :天井面
8 :底面
9 :側面
11~12 :ユニット取付用孔
20 :ランプボディ本体
32 :底面シール溝
41~43 :エイミング部材取付用孔
61~65 :梁
S :灯室
G :ゲート痕