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特開2024-21160水質管理方法及び水質管理支援システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021160
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】水質管理方法及び水質管理支援システム
(51)【国際特許分類】
   E02D 1/06 20060101AFI20240208BHJP
   C02F 1/00 20230101ALI20240208BHJP
【FI】
E02D1/06
C02F1/00 V
C02F1/00 S
C02F1/00 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123803
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】諸冨 鉄之助
(72)【発明者】
【氏名】森下 智貴
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 和明
(72)【発明者】
【氏名】三浦 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐樹
【テーマコード(参考)】
2D043
【Fターム(参考)】
2D043BA09
2D043BA10
(57)【要約】
【課題】汚染土壌を利用して構築した土構造物周辺から生じる流出水について、汚染濃度を合理的な評価指標で常時監視し、流出水の水質管理を支援する。
【解決手段】汚染土壌を利用して構築した土構造物と地山との間に設けた排水層から流出する流出水の、水質を管理する水質管理方法であって、前記土構造物に埋設した土中センサにより、前記土構造物の水分状態に係る計測値を連続的に取得する工程と、取得した該計測値に基づいて、前記流出水の汚染濃度を評価する評価指標を連続的に算定する工程と、連続的に算定される前記評価指標と、あらかじめ設定した判定閾値とを比較することで、流出水を常時監視する工程と、前記評価指標が前記判定閾値を上回った場合に、前記流出水の汚染濃度が管理基準値を超過する可能性ありと判定する工程と、を備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染土壌を利用して構築した土構造物と地山との間に設けた排水層から流出する流出水の、水質を管理する水質管理方法であって、
前記土構造物に埋設した土中センサにより、前記土構造物の水分状態に係る計測値を連続的に取得する工程と、
取得した該計測値に基づいて、前記流出水の汚染濃度を評価する評価指標を連続的に算定する工程と、
連続的に算定される前記評価指標と、あらかじめ設定した判定閾値とを比較することで、流出水を常時監視する工程と、
前記評価指標が前記判定閾値を上回った場合に、前記流出水の汚染濃度が管理基準値を超過する可能性ありと判定する工程と、
を備えることを特徴とする水質管理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の水質管理方法において、
前記評価指標に、前記汚染土壌の飽和度を採用することを特徴とする水質管理方法。
【請求項3】
請求項2に記載の水質管理方法において、
前記汚染土壌に対応して相対透水係数と飽和度の関係を取得しておき、
取得した相対透水係数と飽和度の関係に基づいて、前記判定閾値に採用する飽和度を設定することを特徴とする水質管理方法。
【請求項4】
請求項1に記載の水質管理方法において、
前記評価指標に、前記流出水の汚染濃度推定値を採用し、
該流出水の汚染濃度推定値を、
前記汚染土壌の間隙水圧に基づいて仮定した前記土構造物からの浸出水と、前記流出水の流量と、前記汚染土壌から溶出する可能性のある土壌汚染物質の汚染濃度と、に基づいて算定することを特徴とする水質管理方法。
【請求項5】
請求項1に記載の水質管理方法に用いる水質管理支援システムであって、
前記土構造物に埋設した土中センサと、
前記流出水の水質を監視する監視装置と、を備え、
前記監視装置は、
前記土中センサで取得した前記計測値に基づいて、前記評価指標を算定する評価指標算定部と、
該評価指標算定部で算定した前記評価指標と前記判定閾値とを比較し、前記評価指標が前記判定閾値を上回った場合に、これを検知する土壌汚染判定部と、
を備えることを特徴とする水質管理支援システム。
【請求項6】
請求項5に記載の水質管理支援システムにおいて、
前記土中センサが、水分率センサであることを特徴とする水質管理支援システム。
【請求項7】
請求項5に記載の水質管理支援システムにおいて、
前記土中センサが、間隙水圧計であるとともに、
前記流出水の流量を計測する流量計を備えることを特徴とする水質管理支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染土壌を利用して構築した土構造物周辺の水質管理方法、及び水質管理方法に用いる水質管理支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
汚染土壌の処理対策は、特定有害物質等の性質に応じた様々な対策技術が実施されている。例えば、重金属等により汚染した汚染土壌の処理対策方法として、特許文献1の背景技術に開示されているような、遮水工封じ込め工法が広く知られている。具体的には、重金属等の汚染物質を含む建設残土を遮水シートで覆い、さらにその周縁を覆土する。
【0003】
このような遮水工封じ込め工法によれば、汚染物質が外部に流出することを効果的に阻止できることから、実用に耐えうる盛土などの土構造物を構築できる。ところが、長期にわたって汚染物質の外部流出を阻止する構造とするには、コスト面で課題が生じる。
【0004】
このため、近年遮水構造の合理化を図った汚染土壌の処理対策技術が、検討・実施されている。例えば、汚染土壌を盛土材料に採用し、谷埋め盛土を構築する一方で、この盛土と地山との間に、排水層を設けておく。こうすると、地山からの湧水を排水層を介して排水ピットに流出させることができるため、湧水が盛土内に流入して汚染土壌と接触するといった事象を防止できる。
【0005】
上記のような構造を構築した場合には、排水ピットの貯留水の水質をモニタリングし、周辺環境への影響を把握する水質管理が定期的に実施されている。水質モニタリングは一般に、簡易分析による日常モニタリングと、公定法に基づく定期モニタリングに分けて実施されている。
【0006】
簡易分析による日常モニタリングは、日に1回から月に1回程度の頻度で実施され、一方、定期モニタリングは、日常モニタリングのクロスチェックの役割を担っていることから、数か月に1回程度もしくは日常モニタリングで測定値に大きな変化があった場合に実施される。それぞれのモニタリングの実施頻度は、一定期間問題がなければ徐々に減らしていく。これらの実施の頻度は、事前計画に基づいて設定されている。実施のタイミングについては、管理者の判断に委ねられることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-212771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、短時間の降水量が過去最大を記録する豪雨がしばしば見られる。このような場合に地山の湧水は、排水層を超えて盛土に流入し重金属等の汚染物質に接触したのち、排水層に戻る、といった現象を生じる可能性がある。すると、排水層から排水ピットに向けて流下する流出水は、重金属による汚染濃度が管理基準を超過する状態で、公共水域へ流入するおそれがある。
【0009】
しかし、日常モニタリングは上記のとおり、断続的な実施に留まっている。このため、排水層から排水ピットに向けて流下する流出水の汚染濃度が管理基準を超過する事態が生じていたとしても、これを捉えることができない。
【0010】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、汚染土壌を利用して構築した土構造物周辺から生じる流出水について、汚染濃度を合理的な評価指標で常時監視し、流出水の水質管理を支援することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するため本発明の水質管理方法は、汚染土壌を利用して構築した土構造物と地山との間に設けた排水層から流出する流出水の、水質を管理する水質管理方法であって、前記土構造物に埋設した土中センサにより、前記土構造物の水分状態に係る計測値を連続的に取得する工程と、取得した該計測値に基づいて、前記流出水の汚染濃度を評価する評価指標を連続的に算定する工程と、連続的に算定される前記評価指標と、あらかじめ設定した判定閾値とを比較することで、流出水を常時監視する工程と、前記評価指標が前記判定閾値を上回った場合に、前記流出水の汚染濃度が管理基準値を超過する可能性ありと判定する工程と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の水質管理方法は、前記評価指標に、前記汚染土壌の飽和度を採用することを特徴とする。
【0013】
本発明の水質管理方法は、前記汚染土壌に対応して相対透水係数と飽和度の関係を取得しておき、取得した相対透水係数と飽和度の関係に基づいて、前記判定閾値に採用する飽和度を設定することを特徴とする。
【0014】
本発明の水質管理方法は、前記評価指標に、前記流出水の汚染濃度推定値を採用し、該流出水の汚染濃度推定値を、前記汚染土壌の間隙水圧から仮定した前記盛土の浸出水と、前記流出水の流量と、前記汚染土壌から溶出する可能性のある土壌汚染物質の汚染濃度と、に基づいて算定することを特徴とする。
【0015】
本発明の水質管理方法は、本発明の水質管理方法に用いる水質管理支援システムであって、前記土構造物に埋設した土中センサと、前記流出水の水質を監視する監視装置と、を備え、前記監視装置は、前記土中センサで取得した前記計測値に基づいて、前記評価指標を算定する評価指標算定部と、該評価指標算定部で算定した前記評価指標と前記判定閾値とを比較し、前記評価指標が前記判定閾値を上回った場合に、これを検知する土壌汚染判定部と、を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の水質管理方法は、前記土中センサが、水分率センサであることを特徴とする。
【0017】
本発明の水質管理方法は、前記土中センサが、間隙水圧計であるとともに、前記流出水の流量を計測する流量計を備えることを特徴とする。
【0018】
本発明の水質管理方法及び水質管理支援システムによれば、汚染土壌を利用して構築した土構造物内に土中センサを設ける。これにより、土中センサの計測値に基づく評価指標を利用して、土構造物と地山との間に設けた排水層から流出する流出水の汚染濃度が、管理基準値を超過する可能性を常時監視し、合理的に評価することが可能となる。
【0019】
また、流出水の汚染濃度が管理基準値を超過する可能性は、評価指標とあらかじめ設定した判定閾値に基づいて判定する。これにより、流出水の汚染濃度が管理基準値を超過する前に、その可能性を客観的な判定結果に基づいて報知でき、管理基準値を超過した流出水が、公共水域等へ流入するリスクを低減できる。
【0020】
さらに、土中センサに水分率センサを採用すれば、評価指標に飽和度を設定し、汚染土壌と地山からの湧水の接触の有無で、流出水の汚染濃度が管理基準値を超過する可能性を判定できる。また、土中センサに間隙水圧計を採用すれば、流出水の汚染濃度推定値を算定でき、これを評価指標に設定できる。
【0021】
このように、土構造物に水分状態を把握可能な土中センサを埋設し、計測値を連続的に取得することで、高度な評価指標を設定し、高精度な信頼性の高い判定結果を得ることができる。これにより、管理者は、判定結果を有効な支援情報として活用し、日常モニタリングを追加実施するタイミングを効果的に設定することができる。また、事前計画に基づいて設定されている日常モニタリングの実施頻度を見直しを図るなどして、省力化に寄与することも可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、汚染土壌を利用して構築した土構造物内に土中センサを設けるとともに、土壌センサの計測値に基づき評価指標を設定することで、この評価指標を利用し、土構造物周辺から生じる流出水について汚染濃度を常時監視及び合理的に評価でき、流出水の水質管理を支援することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施の形態における汚染土壌で構築した盛土周辺の排水構造と水の流れを示す図である。
図2】本発明の実施の形態における水質管理方法の手順を示す図である。
図3】本発明の実施の形態における水質管理支援システムを示す図である。
図4】本発明の実施の形態における土中センサ(水分率センサ)の配置例を示す図である(第1の実施の形態に対応)。
図5】本発明の実施の形態における相対透水係数と飽和度の関係を示す図である。
図6】本発明の実施の形態における土中センサ(間隙水圧計)の配置例を示す図である(第2の実施の形態に対応)。
図7】本発明の実施の形態における湧水の流量が排水層の限界を超えた場合の盛土周辺の水分の流れを示す図である。
図8】本発明の実施の形態における流出水の汚染濃度推定値を算定する手順を示す図である。
図9】本発明の実施の形態における流出水の汚染濃度推定値の算定例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、地山との間に排水層を挟んで、汚染土壌を材料として盛土もしく埋戻し地盤などの土構造物を構築した場合に実施する、土構造物周辺の水質管理方法及び水質管理方法で用いる水質管理支援システムである。上記の土構造物に併設した排水ピットに流出する流出水の汚染濃度が、管理基準値を超過する可能性の有無を常時観測し、管理基準値を超過する「可能性あり」と判定した場合に、この情報を水質管理の支援情報として提供するものである。
【0025】
以下に、汚染土壌を利用して構築した土構造物として盛土を事例に挙げ、図1図9を参照しつつ、本発明の水質管理方法及び水質管理支援システムについて、その詳細を以下に説明する。
【0026】
図1(a)で示すように、汚染土壌を盛って構築した盛土10は、地山Gとの間に排水層31が介装されている。また、盛土10の天端及びのり面は、難透水層20によって被覆され、その上面にはさらに、表層部排水層32及び覆土40が積層されている。
【0027】
そして、覆土40には、表層部排水層32に連通する集水設備33が埋設され、法尻には排水ピット34が敷設されている。これにより、覆土40に浸透した雨水等の水分は、表層部排水層32及び集水設備33に集水されて表面水W0となり、別途排水処理される。したがって、雨水などの水分が、天端及びのり面から盛土10内に大量流入することは、ほぼない。
【0028】
また、地山Gから生じる湧水W1は、排水層31から排水ピット34に直接排水される、もしくは、図4(b)で示すような、盛土10中に埋設された集水管35に集水されるなどして、排水ピット34に向けて流出する。このため、通常時に排水層31及び集水管35を流下したのち、排水ピット34に向けて流出する流出水W2は、その多くが地山Gからの湧水W1で占められている。
【0029】
ところが、図1(b)で示すように、豪雨などの悪天候時に排水層31で処理できない程度に地山Gからの湧水W1が大量発生すると、この湧水W1が排水層31から盛土10へ流入する。また、降雨が小康状態となっても、地山Gが降水などを含んだ状態にあると、時間差で地山Gからの湧水W1が極大となり、排水層31から盛土10へ流入する。すると、盛土10内の水位が上昇し、盛土10内の汚染土壌に接触したのち、浸出水W3となって排水層31に浸出する。
【0030】
これにより、排水層31を流下して排水ピット34に向かう流出水W2は、地山Gからの湧水W1と盛土10からの浸出水W3とが混合した状態となる。そして、この状態が継続すると、流出水W2の汚染濃度が、土壌の汚染に係る環境基準(環境庁告示46号)に基づく管理基準値Vを超過するおそれが生じる。
【0031】
また、豪雨時に地山Gからの湧水W1が大量に盛土10へ流入すると、盛土10の水位が高い状態が維持される可能性がある。すると、天候が回復して地山Gからの湧水W1が減少する一方で、時間差で盛土10からの浸出水W3が増大するおそれが生じる。このように、豪雨などの悪天候時だけでなく天候が回復したのちであっても、地山G及び盛土10の状態によっては、排水ピット34に向かう流出水W2に占める浸出水W3の割合が上昇し、流出水W2の汚染濃度が上記の管理基準値Vを超過するおそれが生じる。
【0032】
そこで、図2のフローに示す手順で、排水層31から排水ピット34に流出する流出水W2の水質管理を実施する。
【0033】
≪≪≪水質管理方法の概要≫≫≫
≪≪常時監視:STEP1≫≫
まず、排水層31を流下して排水ピット34に向かう流出水W2について、汚染濃度が上記の管理基準値Vを超過する可能性の有無を、評価指標を利用して常時監視する。
【0034】
常時監視の手順として、まず、盛土10内の水分状態を連続的に計測し、計測値を取得する(STEP1-1)。次に、取得した計測値に基づいて評価指標を算定する(STEP1-2)。評価指標は上記のとおり、流出水W2の汚染濃度が、管理基準値Vを超過する可能性を評価することのできる指標である。このような評価指標を、計測値が取得されるごとに設定する。
【0035】
その一方で、管理基準値Vを超過する可能性の有無を判定するための判定閾値をあらかじめ設定しておく(STEP1-3)。評価指標が連続的に算定されるごとに、STEP1-3で設定した判定閾値と比較し、判定閾値を上回るか否かを常時監視する(STEP1-4)。
【0036】
≪≪判定:STEP2≫≫
上記の手順で、評価指標を用いて流出水W2を常時監視し、評価指標が判定閾値を上回る場合に、汚染濃度が管理基準値Vを超過する「可能性あり」と判定し、警告を報知する。
【0037】
管理者は、こうした警告を水質管理に係る支援情報として利用し、流出水W2について、簡易分析による日常モニタリングを追加実施するか否かを判断する。また、簡易分析による日常モニタリングは、事前計画に基づいて設定された期間(例えば、月に1回など)が到来した場合にも、従来通り実施する。
【0038】
≪≪水質モニタリング:STEP3≫≫
簡易分析による日常モニタリングでは一般に、流出水W2からサンプルを採取し、pH、電気伝導率(EC)を測定する。pHは、pHメータを用いて測定し、電気伝導率(EC)は、電気伝導率計を用いて測定する。
【0039】
この日常モニタリングにより、流出水W2の水質に異常が発見された場合、公定法に基づく定期モニタリングを実施する。異常が発見されない場合でも、事前計画に基づいて設定された期間(例えば、数か月に一度など)が経過したのち、同じく公定法に基づく定期モニタリングを実施する(STEP6)。公定法による定期モニタリングでは、上記のpH、電気伝導率(EC)に加えて、溶出した重金属等の濃度を公定法に準じた溶出試験(いわゆる環告46号試験)で測定する。
【0040】
≪≪対策工:STEP4≫≫
定期モニタリングで異常が発見されない場合は、上述した流出水W2の常時監視を継続し、STEP1からSTEP3の水質管理に係る作業を繰り返す。一方、定期モニタリングで異常が発見された場合には、流出水W2に含まれる土壌汚染物質による汚染濃度を低減させるための対策工を検討する。
【0041】
上記の図2のフローを参照して説明した水質管理方法は、流出水W2について常時監視し(STEP1)、汚染濃度が管理基準値Vを超過する可能性を判定(STEP2)する点が大きな特徴であり、これらの工程は、図3で示すような水質管理支援システム90を採用して実施することができる。
【0042】
≪≪≪水質管理支援システム≫≫≫
水質管理支援システム90は、図3で示すように、監視装置50と、土中センサ60と、端末装置70、及び流量計80と、により構成されている。
【0043】
≪≪土中センサ≫≫
土中センサ60は、盛土10内の水分状態を把握可能な計測値を出力できるセンサであればいずれも採用可能であり、盛土10中の所定位置に複数埋設されている。その埋設位置は、土中センサ60として採用する計測機器の種類に応じて、適切な位置に配置する。
【0044】
例えば、図4(a)及び(b)では、土中センサ60に水分率センサ61を採用した場合を例示している。水分率センサ61は、盛土10内に地山からの湧水W1が流入したことを検知できる位置に配置している。その位置は、例えば、盛土10の縦断方向及び横断方向に離間間隔を設けて、底部(谷部の中心近傍)の排水層31に沿う位置に複数を配置している。
【0045】
また、図6(a)及び(b)では、土中センサ60に間隙水圧計62を採用した場合を例示している。間隙水圧計62は、図7で示すような盛土10内の浸潤線Lを仮定できる位置に配置している。その配置位置は、例えば、盛土10の縦断方向及び横断方向に離間間隔を設けて、底部から側部の上方にわたって排水層31に沿って複数を配置する。さらに、図6(b)で示すように、盛土10の厚さ方向中間部にも配置する。
【0046】
≪≪流量計≫≫
流量計80は、図6(a)で示すように、排水層31及び集水管35を介して排水ピット34に流出する流出水W2の流量を計測する計測機器である。その配置位置は、排水ピット34に向けて流下する排水層31の表層部排水層32と合流する直前地点である。なお、流量計80は、土中センサ60に間隙水圧計62を採用した場合に設置する。
【0047】
≪≪監視装置≫≫
監視装置50は、土中センサ60や流量計80で取得した計測値に基づいて、前述した評価指標を算定する。また、算定した評価指標とあらかじめ設定した判定閾値とを比較し、評価指標が判定閾値を上回るか否かを常時監視する。そして、評価指標が判定閾値を上回った場合に、流出水W2の汚染濃度が管理基準値Vを超過する「可能性あり」と判定する。さらに、「可能性あり」と判定した場合に、警報を報知する。
【0048】
このような機能を有する監視装置50は、図3で示すように、入力部51、演算処理部52、及び出力部53を備える装置であればいずれでもよく、パソコンやノートPC、タブレット端末などを採用することができる。
【0049】
入力部51は、土中センサ60や流量計80と無線または有線で接続され、土中センサ60や流量計80で計測した計測値などの情報を受信する。また、図示を省略するが、キーボードやマウス、スキャナなどの入力装置と接続し、これらに入力された情報を受信する構成としてもよい。
【0050】
出力部53は、データ出力部531と警報出力部532とを備える。データ出力部531は、入力部51を介して取得した情報や、演算処理部52で処理した処理データなどの情報を、表示装置54に出力する。また、警報出力部532は、後述する演算処理部52の土壌汚染判定部522で、流出水W2の汚染濃度が管理基準値Vを超過する「可能性あり」と判定した場合に、警告情報を表示装置54に出力する。
【0051】
表示装置54は、出力部53と無線または有線で接続されたディスプレイやプリンタなど、いずれでもよい。また、警報出力部532から出力する警告情報は、表示装置54に出力するだけでなく、スピーカーなど音声で報知可能な出力装置に出力する構成としてもよい。
【0052】
さらに、作業員が携帯する携帯端末や工事事務所に設置されている管理用パソコンなどの端末装置70と監視装置50とを、通信ネットワークを介して相互にデータ送信可能としてもよい。こうすると、この端末装置70から入力部51を介して監視装置50に情報を入力する、もしくは監視装置50から出力部53を介して情報を端末装置70に出力できる。なお。通信ネットワークとしては、インターネット、専用通信回線等いずれにより構築されるものであってもよい。
【0053】
演算処理部52は、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などの記憶部を備え、監視装置50の動作を制御する。このような演算処理部52は、少なくとも評価指標算定部521と、土壌汚染判定部522とを備える。
【0054】
評価指標算定部521は、土中センサ60や流量計80で計測した計測値を演算処理して評価指標を算定する。土壌汚染判定部522は、評価指標算定部521で算定した評価指標が、あらかじめ設定した判定閾値を上回るか否かを、常時監視する。判定閾値の決定方法は、後述する水質管理方法で説明する。
【0055】
≪≪≪水質管理方法の事例≫≫≫
上記の水質管理支援システム90を用いて、盛土に併設した排水ピット34に流出する流出水W2の水質を管理する手順を、図2で示すフロー及び図3で示す水質管理支援システム90の構成を算用しつつ、以下に説明する。以降の説明で、排水層1から排水ピット34に流下する流出水W2は、集水管35から排水ピット34に向かう水分も含むものとする。
【0056】
≪≪≪第1の実施の形態:水分率センサ≫≫≫
第1の実施の形態では、水質管理支援システム90を、監視装置50と土中センサ60と端末装置70とにより構成する。また、図4で示すように、土中センサ60に水分率センサ61を採用する場合を事例に挙げる。
【0057】
≪≪常時監視(STEP1)≫≫
≪盛土内の水分状態の計測(STEP1-1)≫
図4(a)及び(b)で示すように、盛土10中に埋設した複数の水分率センサ61各々で、連続的に水分率を計測してキャリブレーションにより、計測値として飽和度を取得する。
【0058】
飽和度は、土の間隙を水が占めている体積の比率であり、飽和度1.0(100%)で、間隙水の流速は最大値となる。図4(a)及び(b)で示すような、通常の安全な状態(盛土10内に自由水面がない状態)において、汚染土壌は不飽和状態(飽和度<1.0)であり、水分の移動は、飽和状態(飽和度=1.0)に比べて抑制された状態にある。
【0059】
このため、盛土10から排水層31に浸出する浸出水W3の流量も、限定的である。これにより、排水層31を流下し排水ピット34に流下する流出水W2は、地山Gからの湧水W1が卓越する。したがって、流出水W2の汚染濃度は極めて小さく、環境基準(環境庁告示46号)に基づく管理基準値Vを超過するリスクが小さくなる。
【0060】
その一方で、図1(b)で示すように、降雨などにより地山Gからの湧水W1が増加し、排水層31が許容する流量を超える状態になると、湧水W1の一部は盛土10内に流入する。これにより、盛土10内の水位が上昇して自由水面が形成され、自由水面以下の汚染土壌は飽和状態(飽和度=1.0)となって透水性が上昇する。
【0061】
すると、土壌汚染物質を含んだ間隙水が、盛土10内を透過して排水層31に浸出水W3として混入する。これにより、排水ピット34に流下する流出水W2に占める浸出水W3の割合が増加していく。このような飽和状態が継続すると、流出水W2の汚染濃度が高くなり、前出の管理基準値Vを超過するおそれが生じる。
【0062】
このように、飽和度を常時監視することで、流出水W2の汚染濃度を監視できることから、土中センサ60に水分率センサを採用する場合は、飽和度を評価指標として採用することとした。
【0063】
≪評価指標の算定(STEP1-2)≫
複数の水分率センサ61各々から取得した飽和度を監視装置50に送信すると、入力部51を介して飽和度が監視装置50に入力される。すると、演算処理部52は評価指標算定部521の指令を受けて、この複数の飽和度に統計処理を行い、評価指標を算定する。
【0064】
例えば、すべての水分率センサ61各々から取得した飽和度の、平均値や中央値などの代表値を算定し、これを評価指標として設定してもよい。または、盛土10の縦断方向に直交する断面を複数地点に設定するとともに、この断面ごとで飽和度の代表値を算定し、これらを評価指標として設定してもよい。断面ごとに評価指標を算定する場合は、常時観測も断面ごとに行う。
【0065】
連続して算定される評価指標(飽和度)は、演算処理部52の記憶領域に格納してもよいし、表示装置54や端末装置70に出力してもよい。表示装置54などにこれら評価指標を出力する方法はいずれでもよく、例えば、算定した評価指標を蓄積して時系列データを作成し、これを出力するなどしてもよい。
【0066】
≪判定閾値の設定(STEP1-3)≫
連続的に計測される飽和度に基づいて評価指標を算定する一方で、流出水W2の汚染濃度が管理基準値Vを超過する可能性の有無を判定するための判定閾値を、あらかじめ設定しておく。判定閾値は、盛土10内の汚染土壌において飽和度=1.0になる前のいずれかの段階に設定する。
【0067】
判定閾値をこのように設定することで、飽和状態が継続して流出水W2の汚染濃度が高くなり、前出の管理基準値Vを超過するといった事態が発生する前に、水質管理の支援情報となる、超過する「可能性あり」の警告情報を発することができる。判定閾値の設定方法は、いずれでもよいが、相対透水係数を採用する場合を事例に挙げ、以下に説明する。
【0068】
相対透水係数は、飽和度の関数で次の(1)式で表すことができる。その関数形は、土壌の種類や密度によって変化するが、測定によって対象とする盛土10の相対透水係数の関数形を測定することができる。
【0069】
図5に、通常の地盤の密度を想定した4種類の異なる土質について、横軸に飽和度を取り、縦軸に相対透水係数をとったグラフを示す。図5のグラフは、社団法人地盤工学会の「土壌・地下水汚染の調査・予測・対策」のデータに基づいてプロットしたものである。これを見ると、飽和度が1.0に近づくにつれて、飽和度の変化に対する相対透水係数の変化が増大する様子がわかる。
【0070】
したがって、判定閾値の設定にあたってはまず、盛土10の材料である汚染土壌に対応する土質について、図5で示すような飽和度と相対透水係数の関係を、予め把握しておく。次に、飽和状態(飽和度=1.0)となる前に警告情報を発するべく、相対透水係数の逆数を飽和状態に対する安全率とみなして、安全率を設定する。そのうえで、設定した安全率に対応する飽和度の数値を、判定閾値に設定する。
【0071】
例えば、盛土10の材料である汚染土壌が沖積土を多く含み、安全率を2に設定した場合には、逆数が2となる相対透水係数0.5に対応する飽和度が0.9である。したがって、この0.9を判定閾値に設定する。このように、汚染土壌の土質に対応する飽和度と相対透水係数の関係を取得し、また任意に安全率を設定することで、汚染土壌の特性や降水の状況など環境条件に見合った判定閾値を設定できる。上記の判定閾値は、例えば入力部51を介して、演算処理部52の記憶領域に格納しておく。
【0072】
≪評価指標と判定閾値を利用した流出水の常時監視(STEP1-4)≫
評価指標算定部521において評価指標(飽和度)が算定されると、演算処理部52は土壌汚染判定部522の指令を受けて、評価指標が判定閾値を上回るか否かを、常時監視する。つまり、流出水W2の汚染濃度が管理基準値Vを超過する可能性の有無を常時監視する。
【0073】
≪≪判定(STEP2)≫≫
常時監視する過程で、評価指標が判定閾値を上回った場合に、流出水W2の汚染濃度は管理基準値Vを超過する「可能性あり」と判定し、演算処理部52は警報出力部532を介して表示装置54に、警告情報を発報する。
【0074】
例えば、図5を参照して説明したように、盛土10の材料である汚染土壌が沖積土を多く含み、安全率を2に設定した場合、判定閾値は0.9となる。したがって、評価指標である飽和度が0.9を超えた場合に、流出水W2の汚染濃度が管理基準値Vを超過する「可能性あり」と判定する。
【0075】
なお、盛土10の縦断方向に直交する複数の断面ごとに評価指標を設定している場合、設定した断面の評価指標ごとに上記の判定を行う。そして、設定した複数の断面のうち1つでも超過する「可能性あり」の判定が出た場合には、演算処理部52が警報出力部532を介して表示装置54に、警告情報を発報する。
【0076】
≪≪水質モニタリング(STEP3)≫≫
管理者は、表示装置54に出力された警告情報を管理支援情報として利用し、上述した簡易分析による日常モニタリングを実施するか否かを適宜判断し、実施する場合には、従来より実施されている手順で、日常モニタリングを実施する。
【0077】
≪≪≪第2の実施の形態:間隙水圧計≫≫≫
第2の実施の形態では、水質管理支援システム90を、監視装置50と土中センサ60と端末装置70と流量計80とにより構成する。また、土中センサ60に間隙水圧計62を採用する場合を事例に挙げる。
【0078】
≪≪常時監視(STEP1)≫≫
≪盛土内の水分状態の計測(STEP1-1)≫
図6(a)及び(b)で示すように、盛土10中に埋設した複数の間隙水圧計62各々で、連続的に間隙水圧を計測する。同様に、排水ピット34に流出する流出水W2の流量を、流量計80で連続的に計測する。
【0079】
≪評価指標の算定(STEP1-2)≫
上記の計測により計測値として間隙水圧を取得するとともに、図7で示すように、流量計80で計測した流出水W2の流量計測値Qtotalを取得し、監視装置50に送信する。入力部51を介して、これら間隙水圧と流量計測値Qtotalが監視装置50に入力されると、演算処理部52は評価指標算定部521の指令を受けて、評価指標を算定する。
【0080】
評価指標には、排水ピット34に流出する流出水W2の汚染濃度推定値Ctotalを採用する。汚染濃度推定値Ctotalは、盛土10の材料である汚染土壌に複数の土壌汚染物質が含まれている場合、土壌汚染物質ごとに算定する。その算定方法は、いずれでもよいが、間隙水圧計62の計測値である間隙水圧により、盛土10内の浸潤線Lを仮定し、仮定した浸潤線Lから推定した盛土10の浸出水W3の流量推定値Qoutと、流量計測値Qtotalとに基づいて算定する事例を、図8のフローを参照しつつ以下に説明する。
【0081】
(盛土10の浸出水W3と浸潤線との関係(データセット)を取得)
あらかじめ、次の手順で盛土10内の浸潤線Lと盛土10の底部から排水層31に浸出する浸出水W3との関係を取得しておく。
【0082】
まず、盛土10内に任意に設定した浸潤線Lで盛土10から排水層34に浸出する浸出水W3の流量(定常状態の最大値)を、浸透流解析により算定する。浸透流解析は、例えば、図9(a)で示すような解析モデルを使用し、任意の解析条件を与えて実施する。例えば、図9(a)では、地山Gと盛土10の両者に、飽和透水係数が同値の粘土層を設定し、排水層31に砂層を設定した場合を事例に挙げている。
【0083】
このような解析モデルを用いて解析条件を適宜変更し、浸潤線の位置を変化させるごとに、浸出水W3の流量(定常状態の最大値)を算定する手順を繰り返す。こうして、盛土10内の浸潤線Lと、これに対応する浸出水W3の流量との関係を、複数のデータセットとして取得しておく。
【0084】
(汚染土壌から溶出する有害物質濃度Cbatchを取得)
また、盛土10の材料である汚染土壌から溶出する可能性のある土壌汚染物質の汚染濃度を、公定法に準じた溶出試験(環境庁告示46号に基づく溶出試験)により溶出濃度Cbatchとして測定しておく。
【0085】
(計測値から浸出水W3の流量を推定)
こののち、複数の間隙水圧計62各々から取得した間隙水圧を盛土10内の水位に換算する。次に、この水位から浸潤線Lを仮定する。そして、上述した複数のデータセットの中から、仮定した浸潤線Lと類似する浸潤線を有するデータセットを選択し、選択した浸出水3の流量を、仮定した浸潤線Lの流量推定値Qoutに設定する。
【0086】
(評価指標(流出水W2の汚染濃度推定値)を算定)
上記の手順で設定した浸出水3の流量推定値Qoutと、汚染土壌から溶出する可能性のある溶出濃度Cbatch(46号溶出濃度)と、流量計80で計測した流出水W2の流量計測値Qtotalに基づいて、次の(2)により、流出水W2の汚染濃度推定値Ctotalを算定する。
【0087】
【0088】
例えば、図9(b)に、盛土10の材料である汚染土壌がヒ素を多く含む場合の事例を示す。これを見ると、汚染土壌から溶出する可能性のあるヒ素の溶出濃度Cbatchが、0.02mg/Lであり、盛土10に仮定した浸潤線Lに対応する浸出水3の流量推定値Qoutが、1.9×10-5/secである。
【0089】
そして、流量計80で計測した流出水W2の流量計測値Qtotalが、5.1×10-5/secであるから、これらを上記の(2)式に代入すると、流出水W2の汚染濃度推定値Ctotalは、0.007mg/Lと算定できる。
【0090】
このような流出水W2の汚染濃度推定値Ctotalは、汚染土壌に含まれている可能性のある土壌汚染物質ごとに算出する。こうして算出した評価指標は、演算処理部52の記憶領域に格納してもよいし、表示装置54や端末装置70に出力してもよい。表示装置54などに評価指標を出力する方法はいずれでもよく、例えば、算定した評価指標を蓄積して時系列データを作成し、これを出力するなどしてもよい。
【0091】
≪判定閾値の設定(STEP1-3)≫
上記の手順で、連続的に評価指標(汚染濃度推定値Ctotal)を算定する一方で、図2で示すように、判定閾値をあらかじめ設定しておく。
【0092】
判定閾値は、汚染土壌に含まれている可能性のある土壌汚染物質ごとに設定し、土壌の汚染に係る環境基準(環境庁告示46号)に基づく管理基準値Vを利用する。例えば、管理基準値Vに対して、安全率をかけるなどして、判定閾値を設定するとよい。このように、管理基準値Vと任意に設定する安全率により、汚染土壌の特性や降水の状況など環境条件に見合った判定閾値を設定できる。上記の判定閾値は、例えば入力部51を介して、演算処理部52の記憶領域に格納しておく。
【0093】
≪評価指標と判定閾値を利用した流出水の常時監視(STEP1-4)≫
STEP1-2の手順で、評価指標(流出水W2の汚染濃度推定値Ctotal)が算定されると、演算処理部52は土壌汚染判定部522の指令を受けて、評価指標が判定閾値を上回るか否かを、常時監視する。つまり、流出水W2の汚染濃度が管理基準値Vを超過する可能性の有無を常時監視する。
【0094】
≪≪判定(STEP2)≫≫
第1の実施の形態と同様に、常時監視する過程で、評価指標が判定閾値を上回った場合に、流出水W2の汚染濃度は管理基準値Vを超過する「可能性あり」と判定し、演算処理部52は警報出力部532を介して表示装置54に、警告情報を発報する。
【0095】
≪≪水質モニタリング(STEP3)≫≫
管理者は、表示装置54に出力された警告情報を管理支援情報として利用し、上述した簡易分析による日常モニタリングを実施するか否かを適宜判断し、実施する場合には、従来より実施され散る手順で、日常モニタリングを実施する。
【0096】
上述した水質管理方法及び水質管理支援システムによれば、土中センサ60の計測値に基づく評価指標を利用して、盛土10と地山Gとの間に設けた排水層31から流出する流出水W2の汚染濃度が、管理基準値Vを超過する可能性を常時監視し、合理的に評価することが可能となる。
【0097】
また、流出水W2の汚染濃度が管理基準値Vを超過する可能性は、評価指標とあらかじめ設定した判定閾値に基づいて判定する。これにより、流出水W2の汚染濃度が管理基準値Vを超過する前に、その可能性を客観的な判定結果に基づいて報知でき、管理基準値Vを超過した流出水W2が、公共水域等へ流入するリスクを低減できる。
【0098】
さらに、土中センサ60に水分率センサ61を採用し評価指標に飽和度を設定すれば、汚染土壌と地山Gからの湧水W1の接触の有無で、流出水W2の汚染濃度が管理基準値Vを超過する可能性を判定できる。また、土中センサ60に間隙水圧計62を採用すれば、流出水W2の汚染濃度推定値Ctotalを算定し、これを評価指標に設定することもできる。
【0099】
このように、盛土10に水分状態を把握可能な土中センサ60を埋設し、計測値を連続的に取得することで、高度な評価指標を設定し、高精度な信頼性の高い判定結果を得ることができる。これにより、管理者は、判定結果を有効な支援情報として活用し、日常モニタリングを追加実施するタイミングを効果的に設定することができる。また、事前計画に基づいて設定されている日常モニタリングの実施頻度の見直しを図るなど、省力化に寄与することも可能となる。
【0100】
本発明の水質管理方法及び水質管理支援システムは、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【0101】
本実施の形態では、土構造物として盛土10を事例に挙げたが、これに限定するものではない。汚染土壌を材料として構築した土構造物あれば、いずれも採用可能である。例えば、地山Gに設けた地中孔の孔壁を排水層で被覆したうえで、汚染土壌で埋戻した埋戻し地盤に採用してもよい。この場合は、集水井戸に流出する流出水を常時監視するとよい。
【符号の説明】
【0102】
10 盛土(土構造物)
11 埋戻し地盤(土構造物)
20 難透水層
30 排水構造
31 排水層
32 表層部排水層
33 集水設備
34 排水ピット
35 集水管
40 覆土
50 監視装置
51 入力部
52 演算処理部
53 出力部
54 表示装置
60 土中センサ
61 水分率センサ
62 間隙水圧計
70 端末装置
80 流量計
90 水質管理支援システム
G 地山
L 浸潤線
W0 表面水
W1 湧水
W2 流出水
W3 浸出水
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9